- 1カルビ22/03/29(火) 18:48:44
「トレーナーさん。私の"デート"になってくれないかな?」
彼女と駆け抜けた3年間を終え、ドリームトロフィーリーグで活躍する彼女から耳が溶けるような甘い囁き。
「何が目的かな? フジキセキ」
自分がポニーちゃんであったら、間違いなく腰砕けになっていたであろう甘言に食いしばって耐え、1つ咳払い。彼女の真意を問いただす。
「在学中にも言われたけど、私ってそんなに何かを企んでるように見えるかな? まあ確かにちょっとあるんだけどね」
彼女はいつも通りの凛々しい顔つきで自分を見つめてくる。それだけで彼女の周りに星が瞬いてるようで思わず目を擦って疑う。
「トレーナーさん、あまり目を擦ってはいけないよ?」
「あ、ああ。それより理由を聞いていいか?」
「そうだね。理由としては簡単なんだ。リーニュ・ドロワットって覚えているかな? 花咲く季節に新年度を祝したダンスパーティー」
覚えている。生徒会長が主催になり、フジキセキがエキシビジョンを担当としたあの華やかな祭典。
自分もフジキセキがセイウンスカイと踊る姿を見ていたのだが、その踊りが未だに脳に焼き付いて離れない。
「今年も開かれるらしいんだけど、そこにOBとして招待されてしまってね。可愛い後輩のポニーちゃん達からのお願いにNoとは言えなかったんだ」
「なるほど………ん? 確か"デート"って相手の意味の筈だ。今回の場合、セイウンスカイじゃないのか?」 - 2カルビ22/03/29(火) 18:49:01
かつてのデート相手の名前にフジキセキは苦笑。何となく察した気はするが、敢えて聞けば彼女は頬に手を当て笑いながら、
「セイウンスカイには断られてしまったんだ。"今回は遠慮しまーす。フジさんにはもっと相応しい相手がいると思うので"ってね」
「………だから、自分に?」
「そうさ。私にとって、最も大事でかけがえのない………私の唯一無二のパートナーは貴方さ、トレーナーさん。だから──」
フジキセキはしなやかな指をこちらに向けて、反対の手を胸に添える。それだけで彼女は童話の世界から飛び出してきた王子様のように、
「私の親愛なトレーナーさん。私の、フジキセキの"デート"になってくれませんか?」
差し出した手を、前に自分は僅かに違和感を覚えたが、気のせいだと首を振り、彼女の手を握り返したのだった。 - 3カルビ22/03/29(火) 18:49:17
「お待たせ、トレーナーさん。久しぶりに着てみたけど………まだまだ大丈夫そうだ。トレーナーさんはどうかな?」
スケジュールを調整して、生み出したダンスレッスン初日。フジキセキが待つ場所へ向かえば、そこには薄月夜の月明かりに照らされたような紫に耀くドレスの彼女がいて。
息をするのも忘れて、その美しさに見惚れていた。
「………燕尾服か、またスーツとはちょっと違うんだな」
誤魔化すように自分の襟元を整えて、ネクタイを締め直す………自分の手にフジキセキの柔らかな手が添えられて、彼女がネクタイを結び直す。
顔が良い。
それ自体はあの3年間で何度も通ったし、今でも一緒の部屋で寝起きしているのだ。彼女の凛々しくも可愛らしい端正な顔立ちなんてずっとみてきた。
水を弾くような長い睫毛も、雪かと間違うような肌も、触ると柔らかい唇も全部知っているのに。
君の顔を見る度にまた新しく君に惚れなおしている気がするのだ。 - 4カルビ22/03/29(火) 18:49:42
「はい。できたよ、トレーナーさん。それでトレーナーさんから見て。私のドレスはどうかな? 間近で見させた事はなかったからね」
「夜空の女神みたいだ」
「………んっ」
「君の新しい姿を見る度に惚れ直すよ。走る姿も、笑う姿も、頼りになる姿も………今回の綺麗な君も」
「待って、待って、トレーナーさん?? もういいからさ………」
「君のような彼女が側にいてくれる。そんな"奇跡"に感謝したくなった」
「───っ!」
最後の言葉を彼女を抱きしめて、耳元で囁くようにすればじわじわと彼女の体から熱を感じ、ぽかぽかと軽い感じで叩かれる。
「トレーナーさんには敵わないや………は、始めようか」
彼女は名残惜しそうに自分の腕から擦り抜けると頬の火照りを残したまま、自分の手を取った。
社交ダンスなんて生まれてこの方踊ったことなどない。絡まりそうなステップを繰り返し、体に覚えさせていく。 - 5カルビ22/03/29(火) 18:49:59
「いい調子だよ、トレーナーさん………呼吸を合わせて、もう少し、体を預けて………」
最初は彼女がリードしてくれていたが、慣れてくるとそれもなく。むしろこちらがリードする側に回り、彼女の足を踏みそうになってしまう。
「こうかな、フジキセキ」
「うん。いいよ、トレーナーさん」
漸く曲を使って通しで踊れるようになったところで、初日の練習は終了。
この後、ドロワに向けて1ヶ月間煮詰めていくのだ。
大変だが、フジキセキの足を引っ張りたくない。
そして、フジキセキをリードできる1人の男として頼って欲しいために。 - 6カルビ22/03/29(火) 18:50:18
「………何か足りない」
「トレーナーさん? どうかしたのかな?」
フジキセキとのダンスレッスンも残り2週間を切り、彼女をリードして踊れるようになった頃。
何となく。そう、なんとなくだが違和感を感じた。
何もおかしなところはない。忘れているステップや足の怪我とか、そんなことではない。
もっと大事な根幹の………これが相応しいのか?という疑問がずっと胸でざわついているのだ。
「フジキセキ。ドロワのダンスでは自分達には何を求められてるんだ?」
「皆を楽しませる、魅力することかな? とはいえ、セイウンスカイほどではないけどトレーナーさんとのダンスでも充分場は盛り上がって──」
「………そっか、そういうことか」
胸にストンと落ちた。ドロワに誘いをかけたのはきっとあの日のフジキセキとセイウンスカイを見たい後輩達からだろう。
サプライズに割り切ったフジキセキとセイウンスカイらしいダンス、それを期待していた筈だ。自分が主役ではない、フジキセキのダンスを。 - 7カルビ22/03/29(火) 18:50:33
ただのトレーナーとウマ娘のダンスではない。
皆が期待してるのは、きっと──
「フジキセキ。今からちょっとした提案がある。ドロワに来てくれた皆を──楽しませたくないか?」
──フジキセキらしいダンス。
──エンターテイナーとしての彼女を。
ドロワで見たいのだ。
なら、自分がやるべきことは、決まっている。
自分の提案にフジキセキは目を見開いた後、少し考えて、
「いいね、やろう! トレーナーさん! 私達であの場を盛り上げよう!」
- 8カルビ22/03/29(火) 18:50:52
「皆様! 長らくお待たせいたしました! 本日のリーニュ・ドロワットに、な、な何と! あの麗しのクラシック三冠馬のフジキセキさんが来てくれています! それではご登場お願いします!」
ガチャっと扉が開けられた先には、スポットライトが当てられている、足元まである黒の長い髪をポニーテールに纏めた………女性とフジキセキが立っていた。
「あれ? フジキセキ先輩………現役の勝負服?」
「ええ〜フジキセキ先輩のドレス見たかった〜」
「というかあの女性は誰?」
彼女はビシッ!とキレのある動きでポーズをとると、コートをはためかせて清々しい顔をしながら言い放った。
「さあ! 夢の舞台の開幕さ!」
彼女の言葉と同時に流れ出したライブミュージックがあらゆる疑念の言葉を遮って、場の熱を最高潮にまで持っていく。
皆が熱に浮かれ、フジキセキが女性の手を引き皆の中心でステップを踏む。正統派のワルツだ。
皆が感嘆のため息を漏らすほどに美しかった。 - 9カルビ22/03/29(火) 18:51:13
「やっぱり、フジキセキ先輩かっこいい!!」
「勝負服似合うよね! 男性役やってほしい!!」
特に皆の目を奪うのはフジキセキが男役としてリードするそのかっこよさと美しさ。
場の全てを支配し、主役は自分だとばかりに輝くエンターテイナーの踊りを皆が楽しんでいれば、
──ライトの光が消え、暗転。
「え、何何? 停電?」
「もういいとこなのに………」
「早く復旧………え?」
──そして、明転。
「うっそ………マジで!?」
誰かが悲鳴を上げたのも無理はない。
10秒にも満たない暗闇の世界、それが明けた時にはフジキセキの姿は鮮やかな紫のドレスに身を包み、女性は燕尾服のトレーナーに代わっていたからだ。
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
周りに散らばっている服を見て、勘のいいウマ娘達は気づく。あの女性は最初からトレーナーさんで、暗闇のうちに着替えたのだと。
これがフジキセキから自分達に送るサプライズなんだと。 - 10カルビ22/03/29(火) 18:51:37
理解した瞬間に、曲調が変わる。
見惚れた刹那に、リードが変わる。
男役のフジキセキが女役に。
女役のトレーナーが男役に。
朝焼けのような紫のドレスを身に着けた美少女は、濃紺の燕尾服をまとったトレーナーにリードされながら、指の先まで繊細にワルツを踊る。
絡み合う視線、ときどき寄せられる頬、切なげに腕を滑る指先に交差する脚。
そのすべてがどきりとするような色香に溢れていて、かっこいいフジキセキとは違う、女性らしく濃密な色気に満ちたフジキセキに周りは注視せずにはいられないほどだった。
テンポを髪一筋も外さないステップ。
旋律のニュアンスを余すことなく表す表情。
音楽そのものを体現した舞踏。
これこそがフジキセキのエンターテイメントだ。
盛り上がりも終盤戦、音楽が、舞台が、世界が主役の二人を突き動かし、一つの物語へと変えていく。
王子の腕の中に崩れ落ちるようにして、大きく背をしならせたフジキセキに、誰もが星の瞬きを幻視した。
しん、と会場が静まり返る。 - 11カルビ22/03/29(火) 18:51:53
呼吸三つ分ほどの沈黙ののち、誰かが、思い出したように手を打った。
それが引き金となったように、一斉に拍手の波が広まる。舞台であればスタンディングオベーション間違いなしだ。
それほどに素晴らしいものだったと、その日のウマ娘達は皆が語った。 - 12カルビ22/03/29(火) 18:52:11
「お疲れ様、トレーナーさん」
「30代にはきついよ、全く………」
幕を引いて、汗ばむ体を夜風に鎮めていればフジキセキが後ろからペットボトルの水を差し出して。
そこで漸く喉が渇いていたことに気づき、一息で半分ほど飲み干した。
「皆、楽しんでくれたかな?」
「大丈夫さ。皆の笑顔を見ただろ? あの空気と雰囲気も。あれで楽しんでいなかったら彼女達の方がよっぽどエンターテイナーだ」
2人して学園の庭で一息。
何となく気恥ずかしい空気の中、肩に僅かな衝撃と柔らかさ。
隣を見れば自分の肩に頭を乗せた上目遣いのフジキセキと目が合って、彼女が幸せそうに笑う。
「ありがとう、トレーナーさん。おかげで皆を楽しませることが出来た。きっと皆、いい区切り………明日への活力になったと思う」
「お礼なんていいよ。これはフジキセキの力だ。君が皆を楽しませたいと言う気持ちがあのダンスで伝わったから、成功したんだ」
彼女の手が自分の手に重なる。指を撫で、絡み、重なって手の甲の暖かさに互いの存在を感じながら、ただ彼女は最後にこう言って、
「言い忘れていたけど………トレーナーさん。その格好、とても似合ってる。また──惚れ直した」
自分に足りなかったものを最後に補ってくれたのだった。 - 13カルビ22/03/29(火) 18:52:39
以上、二万円の上カルビになります。
お召し上がりください - 14二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 18:54:17
激アマカルビじゃん
少ないけど10万円程置いとくね - 15二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 18:54:50
これは最高級カルビ
- 16二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 18:56:45
二万いったんか………
- 17二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 18:58:29
こんなんなんぼ頼んだって良いですからね
- 18二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 19:02:43
すいません、ご飯ください
- 19カルビ22/03/29(火) 19:15:19
とりあえずフジキセキが可愛いから皆引け。
本当にこの子、顔が良いな - 20二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 19:46:35
この満足感よ...これが2万でいいんですか?
- 21二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 19:56:07
はー?最高すぎてキレそう。
フジキセキが男女どちらでも行けるのは最高なんだよね - 22二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 21:16:05
フジにはメスにされたりオスにされたりで情緒が不安定になってしまう
- 23二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 21:32:53
こんなんが2万円で食えて言い訳無いだろ毎週食いに行くからな。
- 24二次元好きの匿名さん22/03/29(火) 22:50:49
ドリームで四戦したら家庭に入るんですね、わかります