【学マス】閉じてなお目を焼く【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:19:15
  • 2二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:20:40

    プロデューサーたるもの、担当アイドルへの評価は贔屓目なしで、客観的なものでなければならない。担当アイドルに惚れ込んでいるのはプロデューサーなら皆同じだが、感情的になりすぎてはいけない。のめり込んではいけない。盲目であってはならない。でも自分ならなんてことはない。そう思っていた。
    太陽だ。と思った。広いステージに一人で立ち、暑いほどのライトを浴びてなお一番輝いているのは彼女だった。完璧なパフォーマンス。目を離すことを許さない、言語化できない魅力。会場中は彼女を中心に回っていた。無駄に回る頭が腹立たしいほど彼女は魅力的だった。
    目が合った。歌詞の力強さにはそぐわない喜色が目に乗っていた、気がする。雷に打たれたような心地だった。その時俺は彼女のプロデューサーではなくただの彼女のファンだった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:21:18

    我に帰った時には彼女はもう俺の前から遠く離れた位置で光を放っていた。もっと、と思ってしまって心臓が跳ねた。どうして。別に単なるファンサービスだ。俺だけが特別なわけじゃない。彼女は誰に対しても平等に接する人だ。
    隣から大きな歓声が上がる。何の気なしに目をやったことに後悔した。そこにいたのは花海さんだった。知り合いなのだから当然だ。咲季さんと関わりが深い俺たちが隣にいるのは当然だ。でも、でもそのせいで気づいてしまった。さっきの胸の高鳴りは単なる自意識過剰だったのだと。彼女は誰に対しても平等だ。ただ一人、彼女の妹を除いて。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:21:44

    俺なんて彼女に比べれば単なる仕事相手だろう。自己管理が万全な彼女にはプロデューサーとしてできることは少ない。それに比べて花海さんは咲季さんの人生の全てと言ってもいい。咲季さんの行動の大抵は花海さんのためで、彼女の悩みは大抵花海さんのことだ。俺なんて咲季さんの中では大したことのない存在だろう。出会ってたかだか数ヶ月で15年一緒にいる相手に勝てるわけがない。
    じゃあ、もし、もしも。花海さんがいなければ。
    不味い。不味い。違う。駄目だ。俺は今、何を考えた?冗談でも考えていいことではない。やめろ。やめろ。やめろやめろやめろやめろ。
    「プロデューサーさん大丈夫ですか? 途中からなんか変でしたけど。体調悪くなっちゃいましたか? もうお姉ちゃんのライブ終わっちゃいましたけど。お姉ちゃんには私が言っておくので休みますか?」

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:22:12

    痛み出した頭を上げると、確かにライブは終わっていた。会場からは興奮の滲んだ話し声がそこかしこから聞こえた。その時になってやっと冷静になれた。すべきことをしなくては。脳裏によぎったことは忘れるべきだ。忘れなくてはならない。
    花海さんには問題ないと断りを入れた。今ほど顔に出にくい自分の表情筋に感謝したことはない。
    咲季さんの楽屋に入ると、いつも通り花海さんが興奮気味に咲季さんを褒めたくる。良かった。いつも通りだ。聞き慣れた会話を聞いていると妙な考えもどこかへ消えていったような気がした。

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:23:07

    俺はいつも楽屋の中で、少し二人から離れた位置で二人が話し終わるまで待っている。必要なことも、必要でないことも、咲季さんが大抵後から自慢げに教えてくれるので特に聞く意味もないのだ。いつもは何かすることがあるので、たいした時間でなくとも作業していたりするのだが、今日はライブ後にありがちな酩酊感がどうにも抜けず、ぼーっとしていた。だからだろうか。聞き慣れているはずのいつものセリフにまた、妙な考えが浮かんでしまったのは。
    「今日のお姉ちゃんのライブは凄かったけど、あたしだってお姉ちゃんに負けないくらい、もっと、もーっとすごいライブしてみせるんだから!」
    「ふふん。楽しみにしてるわ!」

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:23:36

    もしも。もしも咲季さんが花海さんに負けたら。咲季さんが折れてしまったら。咲季さんはいつも自分が負けたら花海さんに見捨てられる。と言っている。負けたらもう二度と立ち直れない。と言っている。そんなわけがない。そんなはずはない。俺の知っている花海咲季は折れても歯を食いしばって戦うし、立てなければ体を引きずってでも前へ進む人だ。そしていつかは立ち上がる。花海さんが咲季さんを見捨てるというのもありえない。15年負け続けてなお挑める根性の持ち主が一度勝っただけで満足するとは思えない。そして、15年ライバルであり続けたにも関わらずこれだけ仲がいい二人の絆は、この程度のことでは変わらないだろう。ただただ二人の立場が入れ替わるだけだろう。
    なら、それなら。咲季さんは負けたっていいはずだ。咲季さんの呪いに似た何かが解けるならプラスでさえあるかもしれない。そして、もし咲季さんが負けたなら。咲季さんは俺に縋ってくれるはずだ。俺だけを見て、俺だけを頼りにしてくれるはずだ。咲季さんを俺が独り占めできるはずだ。たとえ立ち上がったとしても、俺を特別に思ってくれるようになるはずだ。俺が咲季さんに対して思っているのと同じ気持ちを咲季さんも持ってくれるはずだ。そのはずなんだ。
    俺が咲季さんを好きであるみたいに咲季さんも俺を好きになってくれるはずだ。俺が貴女に恋焦がれ、愛しているのと同じように、

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:24:26

    「ねぇ」
    びくりと肩が震えた。
    「体調悪いんだって? 珍しいわね。大丈夫?」
    気づけば花海さんはいなくなっており部屋には二人きりだった。彼女はいつも通り俺と目を合わせる。じわじわと頬が熱くなっていく。おかしい。いつも通りのはずなのに。
    「顔赤いわね。熱っぽいのかしら? どれどれ? お姉ちゃんに見せてみなさい?」
    彼女は自分の額に手を当て、背伸びしつつ手を伸ばしてくる。行動の意図がわかった俺はさらに顔の温度が上がったことを自覚した。本当なら近い距離感を注意しなければいけないのに。俺は彼女に触れられることの嬉しさに何も言わなかった。彼女はじっとこちらを見つめている。俺は目を不自然に逸らさないようにするのに必死だった。
    しかし、彼女はぴたりと止まった。自分の手の熱さに気づいたらしい。
    「これじゃダメね。でも…」
    自分の額に手のひらを当てた少し間抜けな状態のまま俺の顔を見上げて頬を染める。どうしよう。不味い。かわいい。どうしよう。困った。本当に困った。
    「よし!」
    どうやら覚悟を決めてしまったらしい。嬉しいが、困る。不味い。良くない。普段ならまだしも、熱に浮かされている今そこまで近づかれてしまうのは良くない。

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:25:08

    「咲季さん、ちょっとそれはやりすぎです」
    何とか絞り出した。
    「じょ、冗談に決まってるでしょ!」
    「あと、近いです」
    「ご、ごめんなさい」
    変な空気になってしまった。
    「つい、佑芽にするみたいに対応しちゃって」
    「わかってます」
    「しっかり休みなさいね」
    「はい。ありがとうございます」

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:25:31

    「咲季さん」
    「何?」
    「もし、咲季さんのファンの中に、咲季さんを好きすぎるあまり、盲目になってしまって、花海さんに嫉妬したり、敵視したりする人が出てきたら、どうしますか? どう思いますか?」
    咲季さんはきっと真面目に答えてくれるから。俺の黒い欲望は隠せたはずだ。俺の、不安は隠せたはずだ。
    「随分唐突ね……それって、プロデューサーのこと?」
    心臓が、止まるかと思った。体が、ブワッと熱くなり、頭がまたズキズキと痛む。何と言おうか、誤魔化してしまおうか、冗談みたいに流してしまおうか。回らない頭で考えていた時。
    「だってわたしのファンってきっと佑芽のこと好きだもの。嫉妬はまあ、しちゃうかもだけど。敵視するなんて、きっとプロデューサーくらいしかいないわよ。プロデューサーが佑芽を敵視してるのはわたしのライバルなんだから当然でしょ? 気にしなくていいのよ。盲目になっちゃうのは、まあ良くはないけど。わたしがすっごく可愛いから、しょうがないところもあるし。でもきっといつかは他にも好きになるものを見つけるものよ。佑芽とかね?」
    「でも俺が好きなのは咲季さんだけです。寝ても覚めても咲季さん一筋ですよ」
    「んんんんん……ま、まあわたしのプロデューサーなんだから当然よ! 佑芽にはあげないんだから!」
    「こっちのセリフです」
    「え? ごめん聞こえなかったんだけど」
    「たいしたことではないので気にしないでください」
    「そ、そう?」
    俺はちゃんとファンとして、プロデューサーとして、貴女に好きだと言えたでしょうか。そしていつかは俺が貴女に恋焦がれ、愛しているのと同じように、貴女からも愛してもらえるでしょうか。

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:49:03

    いい・・・
    Pの激重感情が見え隠れするのとてもいい・・・

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 08:20:43

    P咲季のデータがちょうど不足してたから助かる

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 16:36:55

    いいね!

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