(SS注意)H×H

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:30:51

    「ほっと」

     トレセン学園近くの小さな公園。
     その一角で、軽快な掛け声とともに一人のウマ娘が木の上から飛び降りた。
     お団子で纏められた栗毛の長い髪、色違いの耳カバー、唇から覗く小さな八重歯。
     担当ウマ娘のコパノリッキーは、にこっと微笑みを浮かべながらこちらへと歩み寄る。
     そして、俺────の隣にいる少年の前で屈み込んでみせた。

    「はい、今度は離さないであげてね?」

     その言葉とともに、リッキーは手に持っていた青色の風船を差し出す。
     風船は元々この少年のものであり、不意に手放してしまい、公園の木に引っかけてしまったのだ。
     本当は俺が木に登ろうとしたのが、話をする前に彼女があっという間に気に取り着いてしまい、今に至る。
     みんなにハッピーを呼び込みたい、そんな彼女らしい行動力。
     ……まあ、スカートで木に登るのは年頃の女の子としてどうかとは思うけれど。

    「ん? どうかしたの?」

     風船を受け取ろうとしない少年に対して、リッキーは不思議そうに首を傾げる。
     見れば、彼は申し訳なさそうな表情で俯いてしまっていた。
     恐らくは迷惑をかけてしまったという気持ちが強く、素直に受け取れないのだろう。
     そんな少年に対して、リッキーはくすりと柔らかな笑みを浮かべた。

    「……青色はね、人との繋がりを良好にする色なんだ。キミは今日どっちから来たのかな?」

     リッキーの話に、少年は顔を上げてきょとんとした表情を浮かべる。
     やがて、彼がちらりと横を向くと、その視線に合わせて彼女もそちらを向いた。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:31:07

    「東! そっちはお日様が昇る方位で、成長のパワーがあって青と相性がばっちり!」

     リッキーは少年の手を取り、ゆっくりと開かせる。
     そして、風船の紐を握らせてあげて、ぎゅっと両手で包み込んだ。

    「……だから、こうして出会えて、私も貴方もみんなラッキー☆ ハッピー☆ 大吉祥☆ なんだよ?」

     そう言って、リッキーはぱちりとウインクをした。
     少年はぼうっとした表情のまま、彼女に目を奪われたかのように立ち尽くしてしまう。
     どことなく彼から感じる、甘酸っぱくて懐かしい雰囲気。
     またやったな、と俺は心の中で苦笑をするのであった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:31:22

    「バイバーイ! ……何だかあの子熱っぽかったね、風邪とかじゃないと良いんだけど」
    「まあ、なんだ、大丈夫だと思うよ、うん」

     何度も頭を下げながら去っていく少年を見送って、リッキーは心配そうな表情を浮かべた。
     ある意味病気ではあるのだが、薬で治癒する類のものではないだろう。
     少年の姿が見えなくなると、リッキーは振っていた手を下ろして、こちらへと顔を向ける。

    「それじゃ行こっか、柏餅の食べ放題! うーん、楽しみすぎてコパコパして来たぁ!」
    「今日は好きなだけ食べな……あっ、ちょっとリッキー、ごめんね」
    「えっ?」

     俺は声をかけてから、リッキーの頭へと手を伸ばした。
     すると、何故か彼女は大きく目を見開いて、ぴしりと固まってしまう。
     どうしたのだろうか、まあ、この方が都合は良いのだけれど。
     そうして俺は彼女の頭へと手を乗せて────ぽんぽんと、乗っていた葉っぱを落とした。

    「葉っぱ付いていたよ、服の方も見といた方が良いかも」
    「……トレーナー、わざとやってる?」
    「……何か?」
    「…………だよね、うん、知ってた」

     リッキーは頬を微かに赤らめながら、ワンピースをぱたぱたと叩く。
     そして、くるりとその場でターンを踏んでみせた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:31:37

    「どう? もう葉っぱはついてない?」
    「……」
    「トレーナー?」
    「……あっ、ああ、大丈夫、何もついてないよ」

     ────リッキーから感じる、微かな違和感。
     ただ、それはあまりにも朧気で、言語化することが出来ない。
     結局見たままのことを伝えることしか出来ず、彼女はそれを聞いて満足そうに頷いた。

    「それじゃあ行こ行こ! 今日はお店の位置も、吉方位なんだよ☆」

     歩み出すリッキー。
     彼女の後ろ姿から再び感じる、違和感。
     流石に二度も見れば、流石に見逃すわけがなかった。

    「…………リッキー」
    「ど、どうしたの? なんか怖い顔しちゃって」

     俺の制止に対して、リッキーは足を止めて困惑の表情を浮かべる。
     しかし、その目はどこか気まずそうに泳いでいた。
     ……もっと早く気づいてあげるべきだったな、自分の情けなさから心の中でため息を一つ。
     近くのベンチを指差しながら、俺は彼女へと言った。

    「そこのベンチに座って、右足を見せて」

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:31:53

    「……っ」
    「こうすると痛い?」
    「うっ、ううん、くすぐったいだけで……大袈裟だよトレーナー、ちょっと痛むだけだって」
    「そんなことないよ、キミの身体はもう、キミだけのものじゃないんだから」
    「……ええ!?」
    「ファンからの期待を背負うウマ娘なんだ、気を遣うに越したことはないよ」
    「…………本当に、そういうとこだよ」

     何故か、リッキーは不満そうに唇を尖らせてそっぽを向いてしまった。
     俺はそんな彼女を不思議に思いながらも、脚を診ていく。
     恐らくは木から飛び降りた際に、変な着地をしてしまったのだろう。
     見た限り腫れや熱感などは感じられず、痛みにしてもそこまでではなさそうだった。
     とはいえ念のため、ちゃんとした医者に診てもらった方が良いだろう。
     学園指定の診療所に連絡を取り、予約を取り付ける。
     不幸中の幸いというべきか、今日は空いているらしく、このまま直接向かえばすぐに診てもらえそうだった。

    「今日のお出かけは中止で、このまま診療所に行こう」
    「……うん」
    「食べ放題はまた来週にしよう、今月いっぱいはやってるみたいだからさ」
    「…………あの、ごめんなさい」

     ベンチに腰かけたまま、リッキーはしゅんとした様子で謝罪を口にした。
     謝ることなんてないけれど、と俺は言う前に、彼女は言葉を続ける。

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:32:09

    「本当はトレーナーが風船を取りに行こうとしてたこと、知ってたの」
    「そう、なのか?」
    「キミに、ちょっと格好良いところを見せたくて、先走っちゃったんだ」
    「……そっか」
    「でもそれで迷惑をかけちゃってるんだもん……あはは、格好悪いよね」

     そう言って、リッキーは耳をぺたんと垂らしながら自嘲気味に笑った。
     俺は無言のまま少しだけ腰を浮かせて、彼女へと視線を合わせる。
     まるで、彼女があの少年にしてあげたように。

    「そんなことないよ」
    「で、でも」
    「足、あの子と話している時から痛かったんでしょ?」
    「!」
    「それでもキミはあの子に心配をかけないように、笑顔のまま、隠してみせた」
    「……あっ」
    「そうやって彼を幸せにしたキミのことを、俺はすごく格好良いと思う」

     ぽんぽんと、リッキーの頭を撫でる。
     誰かの幸せのために頑張る彼女を、格好悪いと思ったことなんてない。
     ……まあ、若干怪しいなと思ってしまったことはあるが、今は風水も彼女も信じている。
     だからこそ、彼女の傍にいて、支えていきたいと思ったのだ。
     誰かを幸せにする彼女を、幸せにしたいと思ったのだ。

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:32:24

    「そんなキミをフォローするのが、俺のやりたいことなんだから」
    「……トレーナー」
    「まあ、それにキミが突っ走るのは今に始まったことじゃないしね、もう慣れっこだよ」
    「なっ!? もおー! そんなに私が暴走ばかりしてるみたいに言わないでよー!」

     リッキーは心外だと言わんばかりに不満を口にする。
     しかし、その表情はいつもの爛漫で幸運を運んでくれそうな笑顔に変わっていた。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:32:45

    「さてと、それじゃあ行こうか」
    「うん」
    「……あっ、リッキー、ちょっと待って」
    「えっ?」

     診療所へと向かうべくリッキーが立ち上がろうとした瞬間、俺は彼女を制止する。
     結果として大事はなかったが、やっぱり危険な行動は控えて欲しい。
     そして彼女の不調に気づいてあげられなかった自分にも、一種の罰を与えたい。
     そんな様々な思惑を、一発で解決できる妙案を思いついたのだった。

    「座ったまま、両脚を伸ばしてくれる? 後少しだけ座り位置を前にして」
    「……こう?」
    「OK、それじゃあちょっと失礼」
    「…………コパァ!?」

     俺は素直に従ってくれたリッキーの脚の裏と背中に手を回して、そのまま持ち上げる。
     いわゆる、お姫様抱っこ。
     腕の中で、リッキーは顔を真っ赤に染めて目を白黒とさせて、手と尻尾をぱたぱたと振り回していた。

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:33:01

    「なっ、あっ、まっ、トッ、トレーナー! 歩けるから! ここまでしなくて良いってば!」
    「念のためだよ、はいはい、大人しくしててね」
    「う、うう~~~~っ!」

     涙目になりながら唸り声を上げるリッキー。
     どうやら効果は覿面のようである。
     両腕に感じる、ほのかな温もりと柔らかな感触、そしてずっしりとした重み。
     それは物理的なものではなく、彼女という一人のウマ娘に対する、責任の重さであった。
     俺は改めてそれを認識しながら、彼女の耳元でそっと囁く。

    「それにさ、俺もたまには、キミに格好つけたいんだ」
    「…………ばか」

     リッキーはそう呟くと、俺の胸元に鼻先を寄せる形で顔を背けてしまうのであった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:33:19

    お わ り
    この光景を少年が見ていたとかいなかったとか

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:43:03

    こんな良SSを夜中(朝方)に投稿するんじゃねぇ!埋もれてもったいねぇぞ!(褒め言葉)
    まさか公式が妄想を現実にするとは思っておりませんでしたあんな風に距離感近いお姉さんと接してハントしてたなんてねと思ったら1年後にめっちゃイチャコラしてたなんてね
    そりゃちびっ子の脳が破壊されますわ

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:44:19

    あーっ!!ばか!おばか!こんな甘々なやり取り目の前で見せつけやがって!脳破壊もたいがいにしろ!!

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 05:07:01

    これじゃハンターハンターじゃなくてえっちえっちだよ

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 05:10:25

    こうしてまたひとつ、少年の初恋が散ってゆくのである…

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 06:39:09

    リッキーのお姉さん的格好良さと綺麗さ、そして思わぬかわいさとどれが遠くにあると知る
    これが脳を砕け散らせる風水か……

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 06:58:17

    朝のちびっ子脳破壊は健康にいいコパ

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 13:10:29

    これは初恋ハンターですわ

  • 18125/05/02(金) 20:09:05

    >>11

    リッキーの罪は重い

    >>12

    少年の明日はどっちだ

    >>13

    つまりトレーナーも叡智・・・?

    >>14

    まあ多分まだ傷は浅いから・・・

    >>15

    複合的な魅力にちびっこは魅了されるんやろなあ・・・

    >>16

    これは悪の風水師

    >>17

    どっちもということで一つ

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:25:41

    コパトレは優れた指導者と女たらし両方の性質を併せ持つ♥

  • 20125/05/03(土) 06:46:48

    >>19

    リッキー限定の誓約かけてるだけだから……

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