- 1一般通過弟(?)25/05/02(金) 20:38:42
- 2一般通過弟(?)25/05/02(金) 20:43:00
- 3一般通過弟(?)25/05/02(金) 20:56:41
「そうして莉波が行ったあと。すぐに、燐羽は倒れた。……ごめん。余計な話ばっか」
「別に構わないさ。元より長くなることは覚悟しているしね」
「ええ、もちろん。……本題から逸れた話でも、聞かせてくださいまし、篠澤さん」
「しょうがないから全部聞いてあげるよ」
「……ありがとう」
あの時は、燐羽も全く慣れてなくて……私だってすぐにでも倒れてしまいそうなくらいに、苦しかった。……なんて、関係ない話だよね。
なんでこんな、関係ない話ばかりしちゃうんだろう。
「燐羽を私の部屋に運んで寝かせて。またそれからすぐに、沢山の不安と焦りが沸いてきた。……だから、私も莉波を脅し始めるようにした」
「…………」
「それからしばらくして、燐羽が起きて。……約束をした。『二人で一緒に堕ちる所まで堕ちる、地獄まで』って。……きっと、その時からもう目的が変わっていたんだと思う。その時からもう、私は燐羽に溺れかけてた」 - 4一般通過弟(?)25/05/02(金) 21:28:57
「……つまり、その時からもう二人は落ちる所まで落ちてしまおうと振り切ってしまった、ってことかい? 」
「うん。元々、後に戻れないのはわかってた。けど……怖かった。どんどん落ちる度に、どんどん戻れなくなる。そんな未来が、見えてたから。苦しかった。誰かを傷つける度に。何度も思った。死にたいって」
……今までしてきたことを思い出す度に、その時の気持ちも蘇ってくる。痛い。苦しい。やだ。死にたい。生きたくない。燐羽に愛して欲しい。私だけを見てほしい。苦しい。吐きそう。
「……すまない。全部聞くと言ったけど……ざっくり話してもらうことは出来るかい? 今の広は、凄い苦しそうだよ。……見てるこっちも、苦しくなってくるくらいだから。だから、もう全部は思い出さなくてもいい」
麻央がそっと私を気遣ってくれる。……なんで? なんで、麻央はそんなに私に優しくしてくれるんだろう。莉波を沢山苦しめたのに。麻央だって、殺しかけたのに。 - 5一般通過弟(?)25/05/02(金) 21:39:01
……麻央のおかげもあって、ちゃんと最後まで話しきることができた。……沢山、殺した話。何回も倒れて、吐いて……その都度お互いに深く深く依存していった話。それから……心中に失敗した話。燐羽が死んで、私が生きた話。
話し終えた時、三人ともどう表したらいいか分からない顔をしていた。それは、怒りでもなく哀れみでもなく優しさでもなく。……強いて言えば、苦しみが一番近いかもしれない。
「これが……すべて」
「……広」
「えっ……ま、お? 」
そっと私を、麻央が抱き締める。……優しく優しく、ぎゅっと。わからなかった。なんで、麻央が私を抱き締めたのか。なんで、麻央が私の事をここまで許してくれるのか。恨んでいないのか。恋人を殺しかけたのに。たくさん、苦しめたのに。 - 6一般通過弟(?)25/05/02(金) 22:16:36
「……ごめん。あの時、追いかけてでも全部聞いておけばよかった」
「違う……違う。謝らないで、麻央。麻央から逃げたのは私。だから……」
……暖かい。その優しさは、欲しくない……はずなのに。今欲しいのは、私を咎める声だけのはずなのに。
「確かに、全部悪いのは広と燐羽だね。……でも、気持ちはわかるよ。私も、千奈がいなかったら今生きてなんて居なかったし……千奈と一緒にいるためなら、どこまでだって落ちてもいいって思えるから」
「手毬……」 - 7二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:16:59
いよいよ最後か…どんな結末だろう
- 8一般通過弟(?)25/05/02(金) 22:34:06
「なんでみんな、そんなに優しくしてくれるの? 私……犯罪者だよ? 殺人犯、だよ? たくさん、いろんな人を苦しめたのに、なんで……」
「手毬さんも、麻央お姉様も……あなたが、大好きだからですわ。篠澤さん。……あんまり、手毬さんがいる前でこういうことは言わない方がいいのかもしれませんが……私の初恋は、あなただったのですわ」
「えっ」
「え」
千奈の唐突な告白に驚く。……え。そうだったの?
「篠澤さん。貴方は、とっっても可愛くて、優しくて、面白い人です」
「……違うよ、千奈。私は優しくなんて、無い」
「いいえ、あなたは優しい人ですわ。その証拠に、たっくさん、苦しんだじゃないですか。罪悪感に駆られて」
「それは、ボクも思うな。本当に広が悪逆非道で冷徹だったなら、いちいち苦しんでなんかないし……こうして話したりなんかもしない。ボクはもう死んでるし、なんなら莉波だってもう居ないかもしれない」
「どれだけ後悔しても、苦しんでも……やった事は変わらない。だから私は最底辺。微塵も優しくなんてない、屑の人殺し」
痛い。みんなの優しさが。みんなの私に向けてくれる気持ちが、痛い。違う。私はそんな人なんかじゃない。
「……広がそう思ってたとしても、私達はそんな風には思わない」
「篠澤さん。……もう一度、やり直しましょう? 」
「やり直した所で、もう遅いかもしれない。……なんてことは無いよ。やり直すことに、遅いも早いもないとボクは思うな」
「いい、の……? 私、やり直しても……いいの? 」 - 9一般通過弟(?)25/05/02(金) 22:49:10
「はい。まだ、間に合いますわ。……私を、信じてくださいませ。絶対、間に合わせてみせますわ」
「広。……大丈夫だよ。私達は、待ってるから」
「二人の言う通りだよ。……だからどうか広。ボクの手を、取ってくれ。自首しよう」
どんどん、涙が溢れ出ていく。……気づいたら声が出てくるくらいに、強く泣いていた。初めてだ、こんなに泣いたのは。みんな、凄い優しい。まだ、こんな私を見捨てないでくれるんだ。
広「」
dice1d2=1 (1)
1 ありがとう
2 ごめんね
- 10二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:59:45
ダイススレでここまで泣いたの初めてだ…
- 11一般通過弟(?)25/05/02(金) 23:00:56
「ありがとう、麻央、手毬、千奈。私……自首する事にする」
「……その言葉を、待ってたよ」
「一先ず今日はまだゆっくりした方がいいだろう。明日……ここを出て、自首しようか」
「うん」
……気づいたら、私は麻央の手を取っていた。なんでだろう。なんでこんなに、清々しい気分なんだろう。こんなに清々しいのは、生まれて初めて。
ただ。……まだ、どうしても燐羽の事が忘れられない。まだ、苦しい気持ちは沢山ある。燐羽との約束を破ってしまうこと。それから今燐羽がいたら、そう考えてしまうこと。
「……燐羽の事が、忘れられないかい? 」
「うん……約束、破っちゃったから」
「大丈夫だと思うよ。前広が死のうとした時、燐羽は止めたんだろう? じゃあきっと燐羽は、広の幸せを願ってたんだと思うよ」
「きっと、そうですわ! 」
「……そっ、か。そうだったら、いいな」 - 12一般通過弟(?)25/05/02(金) 23:04:22
多分スランプなりました。以前よりもかなり駄文が増えると思いますが、暖かく応援していただけると幸いです
- 13一般通過弟(?)25/05/02(金) 23:18:22
翌日。無事に退院する事が出来て、私は自首した。
無期懲役や死刑が言い渡されてもおかしくない、そう思っていた。
けど。言い渡されたのは、懲役10年。ただそれだけだった。 - 14一般通過弟(?)25/05/02(金) 23:18:41
視点変更:リーリヤ
- 15二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 06:05:42
ほ
- 16二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 07:40:59
最後に救いの手を取ることができたから、まだ前に進むことができる
- 17一般通過弟(?)25/05/03(土) 13:14:09
広が自首してdice1d5=4 (4) 年後
前の話になる。……広ちゃんが、逮捕された。燐羽ちゃんが、死んだ。なんとも言えない気持ちになった。喜んだらいいのか、悲しんだらいいのか。どうしたらいいのか、分からない気持ち。でも、確かにそこに少なからず安堵する気持ちはあった。もう、これで……何も、気にしなくてよくなる。
相変わらず、私は笑えないまま。だから、まだ告白の返事を返せてない。けど、どんどん清夏ちゃんを好きになっていく、恋をしていく一方。清夏ちゃんは、何も無かったかのようにずっとずっと待っててくれる。今だって、そばにいてくれる。離れないでいてくれる。……いい加減、しっかりと返事をしたいな。今の私から、変わりたい。また、笑えるようになりたい。
「おはよう、清夏ちゃん」
「リーリヤおはよ~……ねむぅ」
「あのね、清夏ちゃん」
「ん~? どしたんリーリヤ」
「デート、しない? 」
「えっ……行く行く! 待っててリーリヤ、すぐ準備するから! 」
- 18一般通過弟(?)25/05/03(土) 14:50:52
「んーっ! 風が気持ちいいねえ」
「だね。まさか今の夏にこんな涼しい日があるなんて」
「ここ最近猛暑日続きだもんねぇ」
「もう日本の気温には慣れてきたつもりだけど……でもやっぱ暑いね」
「それで、最初はどこ行くの? 」
「どうしても清夏ちゃんと一緒に行きたい場所があってね。清夏ちゃんも行きたいって言ってた場所。まずは、そこだよ」
時間は……今は十一時か。なら、もうそろそろ開場するはず。見た時から、ずっと清夏ちゃんと行きたい場所があった。清夏ちゃんも、前に行きたいって言ってたところ。
「あたしが行きたいって言ってたとこ? 」
「うん。とりあえず、行こっか」
その目的地へ向けて、清夏ちゃんと手を繋いでゆっくりと歩いてく。……清夏ちゃん、どんな反応するかな。驚くかな。喜んでくれるかな - 19一般通過弟(?)25/05/03(土) 16:10:46
「ついたよ、清夏ちゃん。ここ」
「え……こ、ここって……ドーム!? あたし達、ライブ見るの!? チケットは!? 」
「もちろん用意してるよ、ほら」
歩くこと数十分。この天川を象徴する大きなドームに着いた。そう。今日、私が清夏ちゃんと一緒に見たかったのはライブを見ること。もちろん、チケットも既にとってある。
「えっ……これって、咲季達の」
「前に話してたでしょ? ほら、行きたいけど直接チケットねだるのも嫌だしって」
「……そういえば、そんなこと言ってた……カモ? 」
「たまたま二人分チケット取れてね。ずっと行きたいと思ってたんだ」
今日のライブは……咲季ちゃん、手毬ちゃん、ことねちゃん、千奈ちゃんの四人のライブ。前……ちょうど先月。清夏ちゃんとゆっくりお酒を飲んでた時。酔っ払った清夏ちゃんが行きたいって言ってて。それで、速攻抽選した。そしたら、運良く当たった。
関係者席……は清夏ちゃんが『行きたいけどぉ~、ちゃんとチケ取っていきたいじゃん……? 関係者席はちょっとなぁ』って言ってたから、ちゃんと抽選にした。
「……リーリヤ。ありがと! 」
「どういたしまして、だよ。それじゃ行こっか」
「うん! 」 - 20二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 22:09:51
ほ
- 21二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 02:28:55
ついにリー清も進むのか
- 22二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 10:37:41
保守
- 23一般通過弟(?)25/05/04(日) 11:55:03
「……あら? リーリヤに清夏じゃない! 」
「お久しぶりですわ! 」
「咲季っち、千奈っち、久しぶり! 」
始まるまであと一時間ほど。折角だからって清夏ちゃんとドーム内をうろうろしていたら、たまたま咲季ちゃんと千奈ちゃんと遭遇した。
「まさか二人が来てくれるなんて思ってなかったわ。チケットは? まさか、一般で取ったの? 」
「あはは……なんか酔っ払ったあたしが一般じゃないと嫌ってリーリヤに言ってたみたいなんだよね」
「だから、今日はちゃんと二人分のチケットを取ってきたよ。ことねちゃんと手毬ちゃんは? 」
「二人ならまだ楽屋にいるわよ。丁度、お昼を食べてるところ」
それにしても……千奈ちゃん、変わらずちっちゃくて可愛いな。今がだいたい……一年生の頃の咲季ちゃんと同じぐらいなんだっけ。
「お二人に来て貰えて、俄然やる気が湧いてきましたわ!! 」
「あ、そうだ。清夏、リーリヤ、良かったらだけど……この後、どうかしら? 」
「おっいいねぇ! あたしも久しぶりにみんなで飲みたーい」
「もう……清夏ちゃん。誰が介抱すると思ってるの? 」
「私は……まだ、お酒は飲んだことがないのでちびちびジュースを頂くことにしますわ」
皆でお酒を飲む機会はなかなか無くて。最後にあったのは、確か一年前じゃなかったっけ。
「それじゃ、決定ね! 二人とも、今日のライブは絶対大成功させるからちゃんと瞬き厳禁で見てなさいね! 」
「もちろんだよ! しっかりと、見てるからね」
「じゃ、期待させてもらおっかな~」 - 24一般通過弟(?)25/05/04(日) 15:44:43
「おっ、すごい人いっぱいだね」
「……あれ? 二人も、来てたんだ! 」
「佑芽ちゃん!! すっごい久しぶりだね! 」
「この席にいるってことは……佑芽っちも一般で取った感じ? 」
「うん、もちろん! 一番のファンとしてちゃんとチケット取っていきたいからね! 」
軽く話し終えて、それから三十分ほど経って……ステージの方に来た。ら、なんの偶然か隣の席が佑芽ちゃんだった。……佑芽ちゃんと最後に会ったのっていつだっけ。咲季ちゃんの二十歳のお誕生日会くらい? - 25一般通過弟(?)25/05/04(日) 23:45:04
『皆、待たせたわね! さぁ、始めるわよ! 全員最後まで着いてきてちょうだい! 』
『最後まで盛りあがってくよ! みんなしっかり着いてきて! 』
『目を離したらダメですよっ! 』
『本日はよろしくお願いいたしますわ! 』
佑芽ちゃんと話している内に、会場が暗くなってみんなの声が会場に響き渡る。途端に、歓声が大きく湧き上がる。……凄い。もう、この時点で熱気が溢れてる。
「清夏ちゃん、凄いね……」
「友達があそこにいる、って考えるとより感慨深いものがあるよね~。佑芽っちに関してはずっと一緒にいたお姉ちゃんなんだもんね? 」
「お姉ちゃんのライブは全部泣いてる。……そういえば千奈ちゃん、あたしに気づいてくれるかな」
「気づくでしょ。千奈っちはよく客席の方見てるしね~」
咲季ちゃんとことねちゃん、手毬ちゃんと千奈ちゃんのライブは過去全部見てきてる。だからもうみんなのファンサも全部把握してる。……二人セットでやる事はあっても四人一緒に、なんてことはなかなかないからね。それにしても
「…………」
「リーリヤちゃん!? どしたの!? 」
佑芽ちゃん、胸大きいなぁ。清夏ちゃんも大きくなったと思うけど…… - 26二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 00:36:38
くるしい ほし
- 27二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 08:09:37
最終的に面会でいいからリーリヤとも仲直りしてほしい
- 28二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 16:34:52
にしても、最近暗めの学マス増えてきたなって思うな〜。サラダが生まれてから増えたんかね。
- 29二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 21:12:10
アイドルっていうのは結局実力主義の世界だから、そこから生まれる闇の心やPとの恋愛諸々で暗い話は作りやすいと思う。まぁ、殺人者のアイドルなんて学マス以外で自分は見たことないけど
- 30一般通過弟(?)25/05/05(月) 23:12:22
「う、ううん!! なんでもないよ! それよりほら、出てきたよ! 」
「あっほんとだ! お姉ちゃーーーーん!!!! 」
咄嗟に話題を逸らそうとして、ステージに目を向けると丁度咲季ちゃん達がステージに出てきていた。おかげで、なんとか話題をそらすことができた。……清夏ちゃんにえっちな子って思われたくないし。
「それじゃあまずは一曲目よ! 私から、行かせてもらうわ! 」
咲季ちゃんの声と共に、音楽が流れ始める。途端に、咲季ちゃんの雰囲気が変わる。それは、私の大好きな友達の"咲季ちゃん"ではなく……私の遠い憧れで、私の師匠……アイドルとしての、"花海咲季"。すごい……すごいすごいすごいすごい!! ありありと、伝わってくる。語りかけてきてる。「私だけを見なさい」「私だけを考えなさい」って。
「……凄いね、咲季っちは」
「そう、だね……。びっくりするほど、凄い」
「さすがお姉ちゃん。……全く、勝てる気がしないなぁ」 - 31一般通過弟(?)25/05/05(月) 23:29:41
「……さぁ、私の番は終わり! 次は……私の世界一頼りになって世界一可愛い恋人よ! 」
二曲。咲季ちゃんが曲を披露して、舞台裏へと去っていく。……言葉が、出なかった。ただ、凄いとしかいえなかった。より、咲季ちゃんへの憧れが深くなっていく。
「……あぁもう恥ずかしい! こうなったら……やれるだけやってやろー!! みなさーん! あたしの愛しの彼氏よりも、あたしの事を見てくださいネッ♡」
そして、恥ずかしそうにことねちゃんが、出てくる。それに、観客の皆がわーっと盛り上がる。……凄いな。付き合ってることを公表してると、こういう何気ないやり取りでさえも盛り上がるんだ。……私も、清夏ちゃんと付き合ったらこんなことになるのかな?
「それじゃあ藤田ことね、いきまーっす! 」 - 32二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 06:26:26
保守
- 33二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 08:33:14
ほ
- 34二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 17:14:23
ほ
- 35二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 17:20:42
初見です(?)
感動しました。ありがとう - 36一般通過弟(?)25/05/06(火) 20:14:35
咲季ちゃんと同じように、ことねちゃんも二曲披露した。……ことねちゃんも、また咲季ちゃんとは違う凄さがあった。ことねちゃんは、咲季ちゃんとは違ってただただ「あたしを見て」。その一点だけだった。けど、咲季ちゃんよりも遥かに強く伝わってきた。凄い、ことねちゃんらしいなぁ。可愛くて、ファンのみんなと一体になって楽しんでて。
「以上、藤田ことねちゃんでしたっ! さぁさぁ次は……頼んだよ、千奈ちゃんっ♡」
「お二人の後だとプレッシャーが……プレッシャーが、すごいですわね……」
ことねちゃんが去って、次にやってきたのは千奈ちゃん。千奈ちゃんはこの四年でだいぶ背が伸びた。大体私と同じぐらい? けど、その愛嬌も幼さも変わらずで、凄い可愛くて見てると暖かい気持ちになる。やっぱりみんな、変わってないんだなぁ。
……広ちゃんは、どうなんだろう。今、何してるのかな。どんなふうになってるのかな。
「皆様、倉本千奈ですわ! 今日ははるばる足をお運びいただきまして、誠にありがとうございます! 後半戦ですけれど……まだまだ、盛り上がって行ってくださいませ!! それでは……倉本千奈のステージ、皆様を楽しくさせる暖かい……陽だまりのようなステージを作りあげて見せますわ! いっぱいいーっぱい、楽しんでいきましょう! 」 - 37一般通過弟(?)25/05/06(火) 21:57:05
「皆様、手を! ぱんぱんっ! 」
「皆様、とーっても素敵な笑顔ですわ! 」
千奈ちゃんはことねちゃんや咲季ちゃんとは違って、別に「自分を見て」なんて気持ちは伝わってこない。その代わりに感じるのは、ただとにかく
「楽しんで欲しい」という気持ち。咲季ちゃんもことねちゃんもそうだけど、千奈ちゃんは二人よりもとにかく自分が楽しんで、ファンを楽しませて……まさしくファンと一体となってステージを作っていく、そんな感じがする。
「皆様、とーっても元気があってよろしい! ですわ! それじゃあ……頼みましたわ! 手毬さん! 頑張ってくださいませ! 」
そして千奈ちゃんのステージも終わり、手毬ちゃんに繋げられていく。そういえば、手毬ちゃんと千奈ちゃんは付き合ってること公表してないんだっけ。……まぁ、私もこの前みんなでお酒飲んだ時に知ったくらいだしね。
「ありがと千奈。ちゃんと受けとったよ。……さぁ、最後はこの私、月村手毬のステージ! 何も難しいことは言わない。ただ、私の歌を聴いて!! 私の声を、想いを、全力で聴いて!! 」 - 38一般通過弟(?)25/05/06(火) 22:31:50
「……」
「……」
清夏ちゃんも、私も、言葉が出てこなかった。前々から、手毬ちゃんの実力が頭一つ抜けて高いことや、中等部のナンバーワンユニットで活動してたことは知ってた。そして、初めて手毬ちゃんのステージを見た時も凄いと思った。けど……今日の手毬ちゃんは、今までで一番すごくて。「すごい」っていう言葉すら頭に出てこなくて。ただ、感動で涙が出てきていた。
「リーリヤ……やばいかも。あたし、涙出てきた」
「私も……ちょっと、泣いちゃいそう。ねぇ、清夏ちゃん」
「言いたいこと、わかるよ……リーリヤ。今日のこのライブ。あの時の、あたしとリーリヤがアイドルに憧れ始めたあのライブよりも……格段に凄い」
あの時のライブも凄かった。それは、今でもずっと頭に残ってる程度には凄かった。……けど、あの時と違って今は私達もアイドルで。だからこそ、わかる。今日このライブはあの時のライブの上を行くんだって。
「清夏ちゃん、リーリヤちゃん……本当に凄いね、みんな。お姉ちゃんも、手毬ちゃんも、ことねちゃんも、千奈ちゃんも……」
隣の佑芽ちゃんが、ふと呟く。佑芽ちゃんの言う通りで、みんなみんな……今迄に感じたことないくらい凄くて。「凄い」以外の言葉が出てこなくて。凄いって言葉すらも出てこなくて。このステージを作った四人が私の友達であることが、とてつもなく誇らしく思える。 - 39二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:53:51
なんと言うか…サラダの結末知ってるからこそ、こう…クるものがあるよな。
手毬、千奈…良かったよ。2人が無事にライブ出来て…ほんと - 40二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 05:53:43
ほ
- 41二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 09:46:05
- 42一般通過弟(?)25/05/07(水) 10:43:46
「みんな、ありがとう」
手毬ちゃんも、二曲披露した。その時間、とにかく圧倒されていた。うまく、息できているかわからなかった。息をしている感覚がなかった。
「さぁさぁそれじゃあ……MCターイム! みんなお疲れー♪ 」
「疲れましたわぁ……」
手毬ちゃんが歌い終わると舞台からひょこっとことねちゃんがでてきて、そのままみんなが出てきた。MCパート……ってことは、やっぱりまだ続くんだ。
「もう半分終えたわけだけど、咲季はどうだった?……と言いたい所なんですが! ここで手毬と千奈ちゃんから重大発表がありまーす!! 」
その一言で、会場が強く強く湧き上がる。……重大発表? 一体、何なんだろ。
「ありがと、ことね」 - 43二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 11:56:04
よく頑張りましたね、まりちゃん…
- 44一般通過弟(?)25/05/07(水) 12:57:26
「改めて……今日は、みんなに言っておかないといけないことがあります」
少し深呼吸をしたのち、手毬ちゃんがゆっくりと話し始める。それにまた、会場が沸き上がる。
「実は……五年前からずっと。私と千奈は、付き合ってました」
そして手毬ちゃんは話し始めて、千奈ちゃんの手をぎゅっと優しく握って掲げる。会場に、過去一番の歓声が上がる。
へぇ、今発表するんだ。
「そ、そして! それからもう一つ重大発表がありますの!! 」
今度は、千奈ちゃんが話し始める。次々と出てくるたくさんの情報に、佑芽ちゃん含め会場が置いてけぼりだった。そんな会場をさらにおいていくかのように、千奈ちゃんは言葉を続ける。
「その。私、倉本千奈と月村手毬さんは……今日この時を持って、結婚いたします!! 」 - 45一般通過弟(?)25/05/07(水) 13:15:12
「……え」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!? 」」
う、うそ!? 千奈ちゃんと手毬ちゃん、結婚するの!? いやまぁ……確かに去年同性婚は認められてるけど!!
私も、清夏ちゃんも、佑芽ちゃんも、ファンのみんなも、声を大にして驚いている。
「えぇ!? 手毬っちと千奈っち、結婚してたの!? 」
「突然の発表になってしまったこと、申し訳ないと思っていますわ。ですけれど、これはゆるぎない事実。皆様に……暖かく、受け入れてもらえたら幸いですわ」
「……後半戦、一発目。私と千奈の新曲、聴いてください。新しい私達の在り方を、見てください」 - 46一般通過弟(?)25/05/07(水) 15:57:55
その後は二人の新曲をはじめとして、ソロ曲ではなくユニット曲をたくさん歌って終わった。
ライブは大盛況で、その出来はだれがどう見ても大成功といっていいくらい。……きっと、いや絶対。今日は、伝説に残る。過去最高級といっても過言じゃないくらいの超高クオリティ。手毬ちゃんと千奈ちゃんの結婚発表。そのすべてが、ずっとずっと、頭に深く残ってる。このライブを過去最高級のものにしている。
「いやーっ!! ほんっとに、凄かったねリーリヤ!! 」
「うん、そうだね。今もまだ、終わったって感じがしない。ふふ……よかった。こんな言葉にできないくらいの最高のライブを、清夏ちゃんと一緒に見ることができて」
「ほんと、誘ってくれてありがと、リーリヤ! 忘れられない一日になったよ! 」
今の時間は三時半。もうてっきり、夜になった気分でいたんだけど……そっか。まだお昼なんだ。あ、そうだもんね。今夜はみんなで飲む約束、してたもんね。
「それで……この後、どうしよっか」
「……その前にね、清夏ちゃん」
「ん~? リーリヤどしたん? 」
今更ながら。もう、気持ちが抑えられない。あんな素敵なライブを一緒に見られて。すごいねって話せて。ずっとずっと、膨らんでる、胸の中で。清夏ちゃんの恋人になれたらなって。私達はまだ友達。ただの両想い。……駄目だとしても、今伝えたい。そう、思った。思っちゃった。
「今なら……ちゃんと笑って、清夏ちゃんの告白のお返事を返せる気がするの」
「そっか。じゃあ、改めて……リーリヤ。あたしと、付き合って。あたしの、恋人になってよ」
「はい、喜んで」 - 47一般通過弟(?)25/05/07(水) 20:50:13
いつぶりだろう。時が止まったような、そんな感覚になるのは。清夏ちゃんの反応が怖い。私、上手く笑えてるのかな。
清夏ちゃんにいいよ、って言って貰えるかな。
「んっ……」
「えっ」
不安に思っていると、急に清夏ちゃんに抱き寄せられてそのまま唇を奪われる。……えっ。これって、私は笑えたってこと……なの? いやでも、清夏ちゃん少し暗そうな顔してたし……
「っぷは……す、清夏ちゃん? 」
「ね、リーリヤ。今更だけど……あれ、ナシにしてもいい? 笑って答えてほしいってやつ」
「え? 急に……なんで? 」
「ごめん、リーリヤ。あたしが……我慢できなくなっちゃった。あたしがもう、リーリヤを大好きって気持ちが抑えられなくなっちゃった」
「……え? 」
唇を離した清夏ちゃんが顔を赤くして、もじもじとしてそう言った。その清夏ちゃんがとにかくとっても可愛くて。不思議な気分になる。うれしいな。今まで感じていた不安がばかみたい。
「もう……なに、それ」
「……え? うそ」
そっと、話しかける。そしたら清夏ちゃんが驚いて、その瞳から涙が零れ落ちる。急に、どうしたんだろう?
「リーリヤ……笑えてるよ、今。笑えてるんだよ!! 」
「え? 私、今……笑えてるの? 」
「うん……うん! 」
「清夏ちゃん……やりなおしても、いいかな」
「……うん! いいよ、リーリヤ! 」
「はいっ、喜んでっ!!」 - 48一般通過弟(?)25/05/07(水) 20:54:56
リーリヤ視点:終了
視点変更:手毬 - 49二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 05:00:59
ほ
- 50二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 12:13:03
ほ
- 51一般通過弟(?)25/05/08(木) 16:05:54
「さ、それじゃ行こっか千奈」
「はい、そうですわね! 」
「無理して飲まなくてもいいんだからね? 」
「わかっておりますとも! 先程も申しましたように、私はジュースだけで充分ですもの」
あのライブをやり終えて、時間は夜。咲季達と約束をしていた、飲む時間になった。そして私達は今、倉本家が経営するバーに向かっている。途中、千奈がくしを無くした為に咲季とことねには先に行ってもらってる。……もしかしたら、もう清夏とリーリヤもいるかも。
「ごめん、お待たせ……」
「えへへぇ……それでもうリーリヤったらさぁ~♪」
「なっ……私のことねも全く負けてないんだけど!? 」
「清夏ちゃん、そろそろ怒るよ!? 」
「……おーっす、二人とも」
……扉を開くと、顔を赤くしてとにかくただひたすらに惚気けてる清夏と咲季と、違う意味で顔を赤くしているリーリヤとことねがいた。……もう、できあがってたみたいだね、二人は。
「これは……」
「清夏と咲季がもう飲みすぎちゃってさ~……さっきからずぅーっとあたしとリーリヤちゃんの惚気しか話さないわすごいだる絡みしてくるわでもー……」
「あっ手毬ちゃん千奈ちゃん! 結婚おめでとう! 」
「ありがとうございますわ、葛城さん! 」
「はぁ……ま、手毬も来た事だしあたしもそろそろ飲むかなぁ」
「飲み過ぎないようにしないとね、ことねちゃん」 - 52二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 21:34:51
ほ
- 53一般通過弟(?)25/05/09(金) 06:19:38
それからまた更に数分後。
「ね、咲季……あたしのこと、愛してる? 」
「もちろん愛してるに決まってるじゃない! いいわ!今からたっくさんあなたへの愛を語ってあげようじゃない!! 」
「えへへ……ありがと、咲季。愛してるよ」
ことねが酔っ払って、ずっと咲季に甘えてる。
「それでね~……もうやーーーーっと、リーリヤが笑えるようになったの!! やっとやっと、あたしの彼女になってくれたの~!!!! マジ可愛くない!? もうほんっと天使! 生まれてきてくれてありがとう! 」
「清夏ちゃん……は、恥ずかしいよぉ……」
清夏は酔いが進行してって、もはや何も無いところにリーリヤの惚気を話してる。当のリーリヤは、顔を赤くして恥ずかしそうに清夏の方を見てる。
「……手毬さんは、お飲みになられませんの? 」
「いいよ、私は。見てるだけでも楽しいから」
「折角ですし、お飲みになられても良いのですよ? 私は迷惑ではありませんから」
「……そっか。じゃあ、ちょっとだけだよ? ちょっとだけ、飲むことにする」 - 54二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 15:00:17
ほ・し
- 55二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 20:25:05
ほ
- 56一般通過弟(?)25/05/09(金) 23:17:17
「へいへーい! 千奈っちぃ! こっちにおいしーいジュースあるんだけど飲まない? 」
「だ、騙されませんわ! 絶対お酒でしょう! 」
「大丈夫よ、千奈……ほんとにジュースよ」
「そうだよぉ千奈ちゃぁん、ほんとに美味しくて可愛いあたしの大好きな咲季だよぉ」
……そういえばそうだった。ことねって酔うとなんでもかんでも全部思考回路が咲季になるんだ。最早普段のまともさなんて微塵も無くなってるし……
「藤田さんは何を仰ってますの……? 」
「ほら、千奈ちゃん。普通にただのジュースだよ? 」
「……あら、本当ですわね」
清夏、咲季、ことね……は論外としてリーリヤ。次々と千奈にそのジュース(?)を飲ませようとしてる。この席からだと見えないな……
「とっても美味しそうなジュースですわね。貰ってもよろしいんですの? 」
「うんうん、千奈っちに飲んで欲しいんだよ」
「咲季ぃ~……ちゅっ♡」
「こっ、ことねっ!? 」
「まぁ……いいんじゃない? 飲んでも。私がいるし」
「それでは、頂きますわ! ごくっ……ごくっ……」
「あっ待って清夏それって! 」
「うん、そだよー。お・さ・け♡」
……しまった。千奈に酒を飲ませてしまった。過去に一度、千奈が酔っ払ったことがある。流石に清夏が飲ませたのは度数5%……大丈夫、だと思いたいけど千奈は異常なまでに酒に弱い。ので当然酔っ払うわけで……
「ぽかぽかしてきましたわ……なんでしょう、この気分は……とても、心地よい気分ですわぁ」
と、まぁまだここまではいいんだよ。酔い始めならまぁうん。でも、これが十分ほど経過すると……
「て・ま・り・さ・んっ♡えへへぇ……背中、暖かいですわ♡」 - 57一般通過弟(?)25/05/10(土) 00:10:42
……こうなる。今、千奈は私の背中に思いっきりぎゅーっと抱きついてきてる。……やばい。可愛すぎるっ!!!! こうなるから飲ませたくなかった!! 理性が保てなくなるから!!
「むぅ……ちーちゃんの事、見てくださいませ! 」
「……無理」
前に聞いた話。千奈は小さい頃、母親からずっと「ちーちゃん」「千奈ちゃん」と呼ばれていたらしい。その名残で、酔った状態の千奈の一人称はちーちゃんになるらしい。一応たまに「わたくし」が出てくる時もあるけど基本的にはちーちゃん。……まずもう無理。この時点で可愛すぎる。
「ごめん千奈……ちょっと可愛すぎて理性が……」
「別に良いですわ! 手毬さんがちーちゃんの方を向いてくれないなら、こうして振り向かせるまで、ですわ! ……はむっ」
「ん゛っ!? 」
「にへへ……ちーちゃんのこと、見てくれましたわね」
「ち、千奈っ! 」
今どんな顔してるか分からなくて、千奈から目を背けてたら……まさか。耳をはむはむしてきた。ほんとに……ほんとに!! もう飲ませない絶対に!!
「あっ……」
「手毬さん……? 」
勢いで残ってた半分くらいを一気に飲んでしまった。……まずい。そろそろ、私もかなり酔いが回ってくる……理性が、飛んでしまう。ならばもう、祈ろう。私が、千奈に……ちーちゃんに何もしてないことを。 - 58二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 07:59:03
ほ
- 59一般通過弟(?)25/05/10(土) 11:59:42
翌日。手毬の横には
dice1d4=
1 千奈がいた
2 全裸の千奈がいた
3 誰もいなかった
4 首に跡のある千奈がいた
- 60一般通過弟(?)25/05/10(土) 12:00:11
dice1d4=4 (4)
- 61一般通過弟(?)25/05/10(土) 12:12:53
「ん……眩し」
眩しい光に包まれて、目を覚ます。そこにはいつも見ている、見慣れたリスのカーテンがあった。確か昨日は飲んで……ん? 待って? ここって、千奈の部屋……だよね?
「すぅー……すぅー……」
私が被ってる毛布の足元から、可愛い小さな寝息が聞こえてくる。……え、それじゃあまさか……わ、私!?
「んん……すぅ……」
「良かった、服は着てた。……え」
不安になって千奈に申し訳ないと思いながら布団を引っペがす。そしたらちゃんと、服は着ていた。……けど、千奈の首には真っ赤な、蚊に刺されたかのような赤い痕があった。この時期に蚊は出てきてないし……しかも場所も首元とピンポイント。それに、私の首にもついてる……って事、は……
「ぁ……ぁ……」
き、きききききき、キスマーク!? やっちゃった……ってこと!?
「手毬、さん……おはようございます、わ……」
「う、うん……おはよ、千奈……」
そうこう慌ててるうちに、千奈が目を覚ます。きっと、千奈は全部覚えているんだろう。熟れたりんごの様に顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに私の方を見つめる。私も、上手く目が合わせられなくて……なんというか、気まずかった。
それから普通になるまで、半日もかかってしまった。 - 62一般通過弟(?)25/05/10(土) 15:01:17
視点変更:麻央
「千奈と手毬が結婚したって、ほんと? 」
「あぁ、ほんとだよ」
あの日からずっと、広の面会に顔を出し続けて四年。
……我ながら、よくこんなに付き合ってられるな。
「そっか。おめでたいね」
「まさか、そこが一番初めに結婚するなんてね」
「それ、麻央が言うんだ。誰よりも先に結婚した癖に」
「もともと結婚を前提に付き合っているようなものだったからね。丁度タイミング良く同性婚が良くなった、っていうのもあるけど」
「莉波は、元気? 」
莉波はそこに
dice1d2=1 (1)
1 いる
2 いない
- 63一般通過弟(?)25/05/10(土) 15:19:09
「私なら、元気だよ。……久しぶりだね、広ちゃん」
「今日は、莉波も連れてきたんだ。莉波が行きたいって言ってたからね」
「……そっか。莉波は、平気なの? 私と話して」
「うん、大丈夫。もうあれから沢山の時間が過ぎたでしょ? ……それに、麻央から広ちゃんの事は全部聞いてるから」
後ろから、ゆっくりと莉波が歩いてやってくる。昨日、急に莉波が広に会いたいと言い出した。実に、四年ぶりの再会。今までは、もしかしたらが怖くて一緒に行こう、とは言えなかったけど……莉波が行きたいと言い出したから、連れてきた。
「ね、広ちゃん」
「莉波、ごめ──」
「ずっとずっと……辛かったね。苦しかったね。……手を差しのべられなくて、気づいてあげられなくて、咎める側に回っちゃって……ほんとに、ごめんね」
「……え? な、んで」
「言ったでしょ? 麻央から全部聞いたよって。それからね、少し考えてみたんだ。そしたら何だか、全部自分に置き換えて考えてきちゃって」
そっと優しく、莉波が広に話しかける。あのカフェの時の恨みなんて一切なく、ただ心からの優しさで。まだ、初星学園にいた頃の……ボクが初めて惚れた、誰にでも優しい莉波のままで。
「私もね。……麻央がそんな事してたら、絶対味方してる。どこまでだって堕ちてく。きっとその為なら大好きな人だって脅すし、殺しだってする。きっと……じゃないね。絶対、私は間違ってる。でもね。今は不思議と、広ちゃんに対して怒りも恨みも湧いてこないんだ」
「……改めてごめんね、広ちゃん。沢山苦しい思いをさせちゃって」 - 64一般通過弟(?)25/05/10(土) 15:34:25
「なんで……莉波が、謝るの? 」
「あの時、私が動いてたら。全部聞いてたら。きっと、こんな事にはなってなかったんだろうなって。広ちゃんも苦しむことは無かったのに」
「違う……そうじゃ、ない。私に謝られる資格なんて」
「資格がある、資格がない、じゃなくてね。……私が、謝りたいの。だって何したって広ちゃんは、私と麻央の、大好きなお友達で……大切な、後輩なんだから」
「……ありがとう。私の方こそ……ごめん。本当に、ごめん。沢山酷いことした」
段々と、広の目から涙が零れ落ちていく。改めて……強いな、莉波は。さすが、ボクの奥さんだ。
「そういえばそうだ。今日は、ボクと莉波から提案をしに来たんだ」
「……提案? 」
「あのね、広ちゃん。ここを出たらさ、私達と一緒に暮らそうよ、って」
「ここを出た所で、行く宛もないだろう? 」
「え、いいの? 」
「あぁ、ボクと莉波で話し合って決めたことだよ」
「じゃあ……うん。一緒に、暮らしたい」
「決まりだね! 」
「あぁ。より楽しくなりそうだ」 - 65一般通過弟(?)25/05/10(土) 23:41:29
「おや、そろそろ時間だね。……それじゃあ、ボク達はそろそろ行くとしようか。明日は面会の時間に収録が被ってるから……次は、明後日だね。また来るよ」
「広ちゃんに言いたいこと全部言えてよかった。それじゃ、また来るね! 」
「……うん。ありがとう、二人とも。ずっと、待ってる、ね」
そうこうしている内に時間が過ぎていき、面会時間の終わりが近づいてきたので帰る。……良かった。広と、莉波が上手いこと仲直り……と言えばいいのか、とりあえずお互いに良好な関係を保てて良かった。
「あのね、麻央。本当は前からね。恨みたいって思ってても、真に恨むことなんてできなかったんだ。……手毬ちゃん達とカフェ行った時、覚えてる? 」
「あぁ、覚えてるよ。初めて、あんな莉波を見たからね」
「あの時だって、確かに許せないとか、憎いとかそういう気持ちはあったの。でも、それだけ。……殺したいだとか、死んでしまえとか、消えてしまえ、なんて思う事は出来なかった。……思いたくても、できなかった。やっぱり……大好きで大切な、後輩だから」
「ふふ……そうかい。莉波。やっぱりキミは、とっても優しいね。流石はボクのお嫁さんだ」
「いざ言われると恥ずかしいな……」
「ふふ、可愛いじゃないか」
「そんな褒めても何も出ないよー? ……今日、夜ご飯何がいい? 」
「それじゃあ……久しぶりに回転寿司にでも行こうか」 - 66一般通過弟(?)25/05/10(土) 23:44:01
それからdice1d6=5 (5) 年が経過した。
1 1年(視点→手毬)
2 2年(視点→咲季)
3 3年(視点→千奈)
4 4年(視点→ことね)
5 5年(視点→麻央)
6 釈放(視点→広)
- 67二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 07:57:55
仲直りできて良かった…終わりも近いな
- 68一般通過弟(?)25/05/11(日) 14:26:51
「やぁ。来るのが遅くなってすまないね」
「ごめんね。遅くなっちゃって。お仕事が立て込んじゃってさ」
ボクと莉波は、"それ"に優しく話しかける。返答は、帰ってこない。ここは、小さな山。倉本家が保有する、小さな小さな山。ボク達が今いるのは、その山の中でも、更に小さい場所。
「こんな猛暑の中ずっと待たせてしまってすまないね。ずっと、暑かっただろうに」
カバンからペットボトルを取りだして、冷えた水をそっとそれにかける。ゆっくりと、ゆっくりと。
「手毬と千奈はもう来てくれたかい? ……あと一年もすれば、広も連れてこれるようになる。だから、それまで、もう少しだけボク達で我慢して欲しいな。絶対、来年にはボク達が広を連れてくるから。約束するよ、燐羽」
ボクは目の前にある、『賀陽家之墓』という文字が刻まれた墓の前で話し続ける。
半年に一回、こうしてボクと莉波は山の中の小さな墓地に赴くようにしている。もちろん、目的は燐羽の墓参りをするため。なんでボク達も来てるのか、なんて理由は正直自分でもよくわかってない。けど、強いて言うなら広と同じ、大切な後輩だから。多分、そうなんだと思う。 - 69一般通過弟(?)25/05/11(日) 14:47:43
「リーリヤ、ここであってるんだよね? 」
「手毬ちゃんに教えてもらった限りだと、ここのはずだけど……」
「……燐羽。今日は珍しいお客さんが来てくれたみたいだよ」
「あ、清夏ちゃんとリーリヤちゃん! こんにちは! 」
話しかけていると、遠くの方から清夏とリーリヤの声が聞こえてくる。それに、すぐ気づいた莉波が二人の方へと歩いて行った。
「あっりなみん先輩にまおっち先輩! ちゃすちゃす~」
「姫崎先輩、こんにちは。お二人も、お墓参りに? 」
「うん。今はね、麻央がお話してるよ」
「やぁ、二人とも。こんな所で会うなんて、奇遇だね。……あぁ、それから。こんなところで言うことじゃないかもしれないけど……結婚、おめでとう」
「ありがとうございます。これでみんな、結婚した事になりますね」
丁度今から三年前、咲季とことねも結婚して……つい先日、清夏とリーリヤも結婚した。こう、感慨深いね。
「きっと、このまま進んでいったら本当は広ちゃんと燐羽ちゃんも結婚してたんだよね」
「改めて、不甲斐ないよ。あの時気づいてあげられなかったことが……と。すまない、余計な話をしてしまったね。どうする? 莉波、ボク達はそろそろ行くかい? 」
「……私、二人と一緒にご飯食べたいな」
「ん、わかった。それじゃあ待ってるとしようか」 - 70一般通過弟(?)25/05/11(日) 16:21:55
「久しぶりですね、燐羽ちゃん。……ごめんなさい、会いたくなんてなかったですよね」
「清夏ちゃん。そばにいてあげなくて、大丈夫なの? 」
「はい。……リーリヤが、一人が良いって言ってたんです。あたしについて来て欲しい。けど、これはリーリヤ自身の戦いだから、遠くから見守ってて欲しいって」
「そっか。……リーリヤ、強いんだね」
「あの子は、リーリヤは、一度決めた事は何があっても、それこそ死んだりしない限りは絶対に曲げないんです」
「あぁ……知ってるよ。それは、リーリヤの長所と短所だからね」
墓の前にいるのはリーリヤだけ。清夏は、燐羽の墓から少し離れたボク達の横にいて、リーリヤを見守ってる。
「手毬ちゃんが、全部教えてくれました。事件の内容を、全て。だから、もう知ってます。二人が、私達よりもずっとずっと苦しみながら非道な事をしてきたことを。……広ちゃんだけ残して、燐羽ちゃんが死んじゃった事も」 - 71一般通過弟(?)25/05/11(日) 16:50:23
「私は……あなたを、どう思ってるか、分かりません。恨んでいるのか、憎んでいるのか。嫌っているのか、好いているのか。それはきっと、この先もわからないと思います。でも。私は、あなたを許したいです」
「叶うなら……もう一度、お話がしたかったです、燐羽ちゃん。ちゃんと、仲直りがしたかったです」
それから五分くらい。リーリヤは、燐羽に向かって話しかけていた。前と同じの、優しい声で。少しだけ、涙を流して。
「……お待たせ、しました。終わりました、大丈夫です」
「清夏は、行かなくて大丈夫かい? 」
「あー、はい。あたしは……特に話すこともないんで」
「そっか。それじゃ行こっか、ご飯! 」
「二人は歩きだよね? 」
「え? あ、はい」
「じゃあボクの車に乗ってくといい。……莉波、何か食べたいものはあるかい? 清夏とリーリヤも」
「まじですか!? めちゃ助かります! あたしも、りなみん先輩の食べたいものでけっこーです! 」
「私も姫崎先輩の食べたいもので」
「そう、だなぁ。……ふふっ、それじゃあおうどん食べたい! 」
「ん、うどんだね。……と、その前に」
行く前に、最後にもう一度ボクは燐羽の墓の前まで行って、そっと告げる。
「じゃあね、燐羽。次は絶対、広を連れてくるよ」 - 72一般通過弟(?)25/05/11(日) 19:10:24
視点変更:広
- 73一般通過弟(?)25/05/11(日) 19:42:14
「囚人番号〇〇、釈放だ」
あれから、十年が経って……私は、ついに釈放された。
……長かった。この十年間、本当に長く感じた。
嬉しかった。麻央や莉波、リーリヤに清夏、咲季にことね……それから、手毬に千奈。みんな、面会に来てくれて……そしていつも、優しい言葉をかけてくれた。不思議だった。なんで私が許されるのか、わからなかった。……咲季は、叱咤してくれたけど。
「もう二度と帰ってくるなよ」
「うん、ありがと。……んーっ、外の空気が美味しい」
「その味を二度と忘れるなよ、じゃあな」
それだけ言って看守の人は戻って行った。……もう私も、27歳か。みんな、結婚してる。私も今頃……燐羽と、結婚してたのかな。燐羽、会いたい。
「待ってたよ、広。釈放おめでとう」
「おめでとう、広ちゃん」
「ん、ありがと……麻央、莉波」
そして刑務所の門を出ると、目の前に車が止まっていた。……麻央と莉波、ホントに迎えに来てくれたんだ - 74一般通過弟(?)25/05/11(日) 23:04:50
「それじゃ……帰ろうか、広。今日はお祝い会だ」
「……うん、帰る」
「ね、麻央! 今日はお酒飲んでもいいかな!? 」
「まぁ……せっかくだし、今日くらいはいいよ」
「ほんと!? やったぁ~~! 」
「そういえば今更だけど……麻央も、莉波も、全く見た目変わってないんだね。ずっと、若々しいまま」
「それを言うなら広ちゃんだって変わってないよ。10年前の綺麗な広ちゃんそのまんま」
麻央の車に乗って、私の新しい家へと向かう。……今日から、一緒に三人で暮らせるんだ。改めて、本当に優しいな。麻央も、莉波も。二人とも、私が殺しかけたのに。私のせいでずっと入院していたはずなのに。
……やっぱり、まだちょっと苦しいな。胸が、痛い。
この10年、一秒たりとも私は燐羽のことを忘れる事が出来なかった。忘れたくなんて、なかった。何十回と見た。燐羽が出てくる夢を。何百回と見た。燐羽が殺される夢を。
まだ、少しだけ、抵抗感がある。嫌気がさす。こうやって私だけが、幸せに、のうのうと笑って生きていることが。
「広ちゃん。下ばっかり向いてると、酔っちゃうよ? 」
「ごめん。少し、考え事してた」
「広。……嫌なんだろう? 自分だけが皆に許されて、自分だけが笑って、幸せに生きていくことが」
「え。なんで、わかるの? 」
「それくらい、わかるさ。広が考えそうな事だからね」 - 75二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 02:50:08
ほ
- 76二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 06:28:50
いよいよこれも終わるのか…
- 77二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 10:27:19
ほ
- 78二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 19:30:32
ほ
- 79一般通過弟(?)25/05/12(月) 20:31:06
「まぁ……そう思うのも無理はないさ。約束、したんだろ? 」
「うん。約束、破っちゃった。私は自首して、罪を消してしまった。……これは、喜ぶべきこと。これで私は潔白の身。今の私は晴れて罪なんてない清らな人間」
きっと、本来なら喜ぶべきこと……なんだと思う。10年、ただ作業をするだけのとにかく退屈で仕方の無い場所から開放されたのだから。こうして、今の私を受け入れてくれる場所もあって。みんなが、私を待っててくれてる。……胸が、ずっと今もまだズキズキしている。
「でも……違う。私の罪は、全部消えたわけじゃない。まだひとつ、残ってる」
「それが、燐羽ちゃんとの約束……? 」
「そう。燐羽と約束した。一緒に地獄まで堕ちよう、って。……でも、燐羽は死んだ。私は生きた。そして私は、救われる道を選んだ。あの選択に、迷いはなかった。でもやっぱり、それだけが大きな心残り」
「気にしないで、なんて言えないしな。……ごめんね、広ちゃん。どう言葉をかけてあげたらいいのかわからないや」
「……ありがとう、莉波。でも無理にかけようとしないでいい、よ。その気持ちだけで、嬉しいから」
私が思ってるよりも、ずっと。ずっと、莉波と麻央は優しいのかもしれない。大切な後輩だから、って理由でここまでしてくれるんだから。二人を両方殺しかけた私を。 - 80一般通過弟(?)25/05/12(月) 23:43:02
「さ、着いたよ。ここが、ボク達の家だ」
刑務所からだいたい10分ほどして、家に着いた。大きくもなく、小さくもない、モダン建築の一軒家。……今日から私、ここに住むんだ。
「……私が広ちゃんのお部屋を案内するね。麻央はゆっくりしてて」
「ん、助かるよ」
「ありがとう、莉波」
「どういたしまして。さ、着いてきてね」
莉波のあとをついて行って、二階に上がる。上がってる途中で、莉波が立ち止まって話し始める。
「ごめん、広ちゃん。私、広ちゃんと麻央に嘘ついてた。……本当は、ね。少しだけ……本っ当に、少しだけ。まだ広ちゃんの事、恨んでるんだ」
「……そっか」
「もっと更に言うとね。正直……まだ殺したいって気持ちもある。これは、嘘じゃないよ、私の本心。……でもね。私、広ちゃんの事は大好きでとっても大切に思ってる」
「ありがとう、莉波。いいよ、そのまま恨んでても。……許して欲しい訳じゃないから。私が許されるのは、それはそれで嫌──えっ」
わからない。なんで莉波は……恨んでる私の事を、こんなにも優しく抱きしめてくれるんだろう。私の事、恨んでるんじゃないの? 殺したいんじゃないの?
「今から、広ちゃんにとってとっても辛いことを言うね。……いい? 」
「うん」
「ありがとう。……生きててくれて。自首してくれて。これから、よろしくね」 - 81二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 23:55:36
このレスは削除されています
- 82一般通過弟(?)25/05/13(火) 00:44:26
「……うん、よろしく」
「余計な話しちゃったね。……ほら、ここだよ。ここが、広ちゃんのお部屋。前から沢山準備してたから、過ごしやすいと思うよ」
「おお……」
話終わり、そのまま莉波に部屋に案内される。莉波が言った通り、ずっと準備されてきたんだろう。大きさは寮の部屋よりも少し大きいくらい。部屋にはフクロウのカーテンが飾られており、水色の壁紙が貼られている。
「……えっ、これって」
「うん、そうだよ。……燐羽ちゃんが付けてた髪飾り。きっと、こうしたら燐羽ちゃんも喜んでくれると思って」
部屋の隅にあるタンスを開けると、紫の蝶の髪飾りがふたつと、それから……真っ赤に染ったフクロウのヘアピンが出てきた。
「そっ、か。……ありがと、莉波」
「どういたしまして、だよ。それじゃあ私はお昼作ってくるから、ゆっくりしててね。きっと、まだ疲れも残ってるでしょ? 」
「うん。少し、寝てる」 - 83二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 06:09:22
やっぱお姉ちゃんもほんの少しくらいは恨みあるよな
- 84一般通過弟(?)25/05/13(火) 11:37:47
「広、起きて。もう夜だよ」
「夜……え、夜? 」
麻央にそっと体をゆすられて目を覚ますと、フクロウのカーテンから先ほどまで指していたあたたかな水色の光は消え、真っ暗な夜の闇が私を包む。……あれ、私夜まで寝てたんだ。夢は……みなかった。
「ずいぶんとぐっすりだったからね。莉波が、このまま寝かせておこうよって」
「……そっか。莉波にもお礼を言わないと、だね。莉波は? 」
「今はソファで寝てるよ……と、そろそろだね」
「そろそろ? 」
ぴんぽん、と呼び鈴が響く。麻央、誰か呼んでる?
「噂をすればなんとやら、だね。広、出てきてくれないかな」
「わかった。行ってくる」 - 85一般通過弟(?)25/05/13(火) 16:28:46
麻央に言われるがまま、インターホンに近付いて行って、モニターに目を通す。
『私です。手毬です、有村先輩』
「……手毬? 」
『っ! その声は、広? 』
「うん、私。……今、開けるね」
「言ったろ、お祝い会だ、って。なら、あの時いた二人も連れてきた方がいいだろう? 」
「……いっぱいいっぱい、ありがとう」
「どういたしまして。……二人はボクが出迎えてくるよ。広は莉波を起こしてくれないかな」
「ん、わかった」
モニターに映ったのは、手毬と千奈。……驚いた。まさか、呼んでくれてたなんて。……ほんとに麻央には感謝することがいっぱいだな。もちろん、莉波にも。
「お邪魔しますわ~」
「お邪魔します」
「二人とも、来てくれてありがとう」
「いえいえ。私も本当はやりたいと思ってましたもの。篠澤さんの、お祝い会は」
「こちらこそ、誘っていただいてありがとうございます」
「……ところで、篠澤さんは? 」
「もう少しで莉波を連れてくるはずだよ」 - 86感動スレ大好きP25/05/13(火) 19:52:48
大好き、これからも頑張ってくださいやがれください
- 87一般通過弟(?)25/05/13(火) 23:11:19
「……あっ、手毬ちゃんと千奈ちゃん! ごめんね、私ずっと寝ちゃってて……」
「大丈夫ですわ! おはようございます、莉波お姉様! ……それから。御機嫌よう、篠澤さん」
「やっほう。手毬、千奈」
「……おかえり、広」
莉波を起こして、皆が待っているリビングに向かう。
「さぁ、これで全員揃ったわけで。それじゃあ、釈放のお祝い会だ」
「ふふっ、久しぶりにお酒が飲めるぅ♪ 」
「……ぜっっっったいに、千奈には飲ませないでくださいね」
「もう、あんな目はこりごり……ですわ」
そして、私の釈放を祝う……どう反応したらいいか分からない、パーティーが始まった。あ、そっか。もうみんなお酒も飲めるんだ。……酔っ払ったみんなって、どうなんだろう。 - 88二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 06:08:49
ほ
- 89二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 12:16:11
最終的に広が燐羽の墓参りに行って、どんな言葉をかけるのか気になる
- 90一般通過弟(?)25/05/14(水) 14:05:25
パーティーが始まってすぐだった。莉波がすごい勢いで飲み始めて、あっという間に完成した。
「まお、まお! ……りなみね、お腹減ったの! 」
「えっと……姫崎、先輩? 」
「私みたいですわ……」
「莉波はね……酔うと、かなり精神が幼く……子供みたいになっちゃうんだ」
今莉波はまお、まおと小さな子供のように麻央にたくさん甘えてる。思い切り麻央の膝にちょこんと座ってるし。
へぇ、莉波はこうなるんだ。……千奈は、どうなるのかな
「わかった、莉波。何か作るから、大人しくしてるんだよ? 」
「うんっ、わかった! りなみいい子だもん、待ってるねっ! 」 - 91一般通過弟(?)25/05/14(水) 18:47:41
莉波がとことこと歩いて、こっちに寄ってくる。……ほんとに、今の莉波はとにかく子供っぽい。普段のような大人びた雰囲気が嘘のように無くなってる。
「広おねーちゃん」
「……お姉ちゃん? 」
「うん! 広おねーちゃん」
「えっと……なに? 」
「えっとね、座って! 」
……なんだろう。すごい、可愛いって感じる。まるで、我が子を見る親のような気分。
「姫崎先輩って……酔うとこうなるんですか? 」
「それが……お義父さんもお義母さんもかなりお酒には強いからか、莉波も強いんだけど……だからこそ飲みすぎちゃって。結構変な酔い方するんだよね」
「うぅ……酔ってしまった時の私を見ているようでどこか少し恥ずかしいですわ」
「……まぁでも。そこも、とっても可愛い所なんだけどね。さ、二人も全然飲んでいいからね」
「今日くらいならまぁ、いっか。私、有村先輩とおつまみとか作るから、千奈も飲んでていいよ。果実酒持ってきてるし」
「や、やりすぎたら止めてくださいね? ……じゃあ、甘えさせてもらいますわ」
「座る……こう? 」
「うん! それでね、じっとしててね……えいっ! 」
「……えっ」
「えへへ……広おねーちゃん、おつかれさま! 」 - 92一般通過弟(?)25/05/14(水) 20:18:04
一瞬、何が起きたのか分からなかった。莉波に言われた通りに、少しづつ腰を提げて莉波の前に座る。そしたらいきなり、莉波に抱き締められた。……え?
「あのねあのね、広おねーちゃん……ごめんなさい! りなみね、おねーちゃんに嘘ついちゃってたの」
「きっと莉波お姉様はお酒を飲むと本当の、お姉さんじゃない妹としての部分が強くなるのでしょうね」
「有村先輩……私も気持ちはわかります。辛いですよね」
「あぁ……正直可愛すぎて胸が痛いね」
「……嘘? 」
「さっき言ってた、広おねーちゃんの事をうらんでるって……ころしたいとおもってるって、あれ嘘なの! りなみ、ほんとうは広おねーちゃんだいすき! 」
「なんで嘘、ついたの? 」
「その方が、広おねーちゃんはいいのかなって思ってたから! 広おねーちゃん言ってたでしょ? 私だけが幸せに生きるのは嫌だ、って。だから……りなみに何か出来ることは無いかなって思って」
「そっか。……嬉しかったよ、ありがと。莉波はいい子、だね」
「にへへ……うんっ! りなみ、いいこ! 」
……どこまで優しいんだろう、莉波は。私の気持ちを汲んでくれて、嘘をついて……。きっと、嘘をつくことは辛いはずなのに。……あと何回、私は二人の優しさに困惑すればいいんだろう。
「待たせたね、莉波、広、千奈。出来たよ」
「はーいっ! 」
話し終わった頃。麻央が、私達を呼ぶ。こういう所でさえも、気をつかってくれてるんだろうな。……そしてそのまま食べて飲んで、日を跨ぐ頃に手毬と千奈は帰っていった。それから……結局千奈は、一度も飲むことは無かった。莉波は麻央に寝かしつけられてた。 - 93一般通過弟(?)25/05/14(水) 21:00:13
そして、翌日。
「……なんかちょっと違和感」
「おや、もう起きていたんだね、広。おはよう」
「おはよう、麻央。莉波は? 」
「莉波ならまだ部屋で寝てるはずだよ。まぁ、まだ朝の五時だ。もう少し寝てもいいよ、ボクが起こしてあげるから」
少し早くに目が覚めた。そしたら丁度麻央も起きたみたいで、目が合う。……とは言っても今、そんな眠たくはないからな。まぁ、目を瞑って横になるくらいはしておこうか。
「ん、ありがと。……それじゃあもう少しだけ、寝ることにする」
「ああ、わかった。朝作って待ってるね」 - 94一般通過弟(?)25/05/14(水) 21:47:39
「……広ちゃん、起きて~」
「ん……莉波? 」
「あ、起きた! おはよう、広ちゃん」
「おはよ……今何時? 」
「今は8時だよ。朝ごはん出来てるから……食べよっか」
「うん」
莉波に体を揺すられて、また再び目を覚ます。よし、時間は丁度いいくらいか。
莉波と一緒に階段を降りていくにつれ、甘い匂いが鼻を包んでいく。そして、リビングに行くとテーブルの上に美味しそうなホットケーキが並んでいた。
「あ、起きたみたいだね。ありがと莉波」
「どういたしまして。さ、それじゃ食べちゃおっか。……いただきます」
「いただきます……ん、美味しい」
「ほんとかい? なら良かったよ。莉波に教えてもらった甲斐があったね」
「うん、美味しいよ麻央! 」 - 95一般通過弟(?)25/05/14(水) 23:05:51
「ご馳走様でした」
麻央の作ったパンケーキが美味しすぎて、あっという間に食べ切っちゃった。と思ったけど、ちょうど同じくらいのタイミングで莉波も麻央も食べ終わったみたい。
「こんな美味しいもの、久しぶりに食べた」
「そうかい。そう言って貰えて何よりだよ。と……まぁ、食べ終わったばかりで言うのもなんだけど広、もう少ししたら出るから準備してくれるかい? 」
「大丈夫……もう、出来てる」
「おぉ。さすが広だね」
さっき寝る前に軽くだけどいつでも外出できる準備はしてきた。今日することは、わかってたから。
「それじゃあ予定よりも早いけど……出ようか。莉波は大丈夫かい? 」
「うん、いつでも準備おっけーだよ! 」
「……行こう」
──待ってて、燐羽。今、会いに行くから - 96一般通過弟(?)25/05/14(水) 23:33:50
麻央の車に乗って数分。少し見慣れた山に着いた。
忘れもしない、この場所は……あの時、全てが始まった場所。あの時、道を踏み外した場所。
「……広、大丈夫かい」
「うん、大丈夫。……お墓、だったよね」
「こっちの方だよ、広ちゃん」
莉波と麻央に案内してもらって、その山を進んで行く。燐羽のお墓がある、墓地まで。
「着いた。ここだよ」
「……千奈の山ってこんな所があったんだ」
「10年前。広ちゃんが、自首をするって言ってくれたあの日にね。千奈ちゃんが頼んで作ってもらったんだって」
「広。……一人が、いいかい? 」
「……うん。ごめん、一人がいい」
「わかった。それじゃあボクと莉波は少し離れた会長のところにいるから、終わったら連絡してくれ」
「わかった」
私にペットボトルを渡して、麻央と莉波は少し遠くの方へと歩いて行って今、私は……燐羽のお墓の前でひとりきり。……大丈夫、かな。私、上手く話せるかな。
「久しぶりだね、燐羽。……十年ぶり」
……あぁ、だめだ。色々と、込み上げてきちゃう。涙が、止まらない。今までの気持ちが、全部全部蘇ってくる。嬉しい気持ち、楽しい気持ち、恋する気持ち……不安に焦りに苦しみに。でも、それでも……ちゃんと向き合わないと。
「……お水あげる、ね」
ペットボトルの蓋を開けて、そっと、ゆっくりと、水をかけていく。私……今、どんな顔してるんだろう。上手く、笑えてるのかな。 - 97一般通過弟(?)25/05/15(木) 00:00:14
「……」
数分の間、その場に沈黙が流れる。誰もいない。どう話しかけたらいいか分からない。気まずい。今すぐにでも逃げ出したい。そんな気持ちで覆い尽くされる。
──違う、そうじゃない。逃げる為に私は来たんじゃない。私は、伝えたい事を燐羽に伝える、ただその為だけに来た。だから逃げずにぶつかる。例えどれだけ傷ついても、涙が枯れても。
「ごめんなさい」
「燐羽との約束を、破ってしまった。私は……自首をした。手毬と千奈と麻央が差し伸べてくれた手を、引いてしまった。結局私は最低なまま。私が燐羽を殺したのに……燐羽が遺してくれた約束さえも破ってしまった」
「この十年間、一秒たりとも燐羽の事を忘れた事はなかった。一秒たりとも、燐羽への想いが消えた時間なんてなかった。あの時、麻央から燐羽が死んだことを伝えられて……どうしたらいいか、わからなかった。苦しかった。自分を恨んだ。憎んだ。何度も願った。二人で死んでしまえたら良かったのに。私が死んだら良かったのに、って」
「そんな時、麻央と千奈と手毬が来て……私を、許してくれた。私に救いの手を、差しのべてくれた。……私はその手を取ることしかできなかった。そして、十年間刑務所に入って……ようやく、燐羽に会えた」 - 98一般通過弟(?)25/05/15(木) 00:15:13
「燐羽。今あなたは、私の事をどう思ってる? もう、嫌いになっちゃった? ……言ってたもんね。約束を破る人間は大嫌いだ、って」
「……いいよ、私の事嫌っても。むしろ……嫌って。恨んで。祟って。憎んで。呪って。呪い殺して」
もはや溢れる涙を抑えることもせず、自分の気持ちに素直に沢山燐羽に話しかける。今まで溜め込んでた気持ち、隠してた気持ちが全部飛び出してきてる。……良かった。まだ私、燐羽にたくさん依存できてたんだ。燐羽の事、こんなにも深く、重く愛してたんだ。
「私はずっとずっと、あなたの事を愛しているから。……これが、最初で最後のわがまま。だから、燐羽も……私の事を、愛して。痛いほどに、沢山沢山愛して。私を、燐羽の愛に溺れさせて」
ただやっぱり、心の奥底にあるのは『愛されていたい』、ただその気持ち一つだけ。両想いでいたい。離して欲しくない。……なんて、約束を破っておいてどれだけ我儘なんだろう。
「……この季節に、蝶? 」
私の目の前を、一匹の蝶が通る。紫色の、蝶が。そしてその蝶は燐羽のお墓の周りを飛んで……そして、私のヘアピンに止まった。……あれ、おかしいな。今は蝶なんて居ないはず、なのに。……なんでだろう。なんで、この蝶にこんなにも惹かれるんだろう。 - 99一般通過弟(?)25/05/15(木) 00:33:28
「りん、は……? 」
……ふと、口からそんな言葉が溢れ出る。なんでかはわかんない。きっと根拠なんてない。ただ、この蝶からは燐羽と一緒にいた時の、あの暖かい気持ちを感じる。暖かくも冷たい、どこか歪な気持ちを。
「あなたは、燐羽……なの? 」
ヘアピンからまた飛んで、その蝶は燐羽のお墓に止まる。……あぁ、なんだ。そうだったんだ。
「ふふ……そっか。燐羽、やっぱりまだ私を好きでいてくれてるんだね。まだ、私の事……見ててくれたんだ。……これ返す、ね」
頭から真っ赤に染まったフクロウのヘアピンを外して、そっとそれに口付けをする。そして、燐羽のお墓の前に置く。その蝶……いや、燐羽は、気に入ったかのようにそのフクロウのヘアピンの……私が口付けした所に止まって、ピタリと動かなくなった。
……良かった。自分でもわかる。今の私は、ちゃんと笑えてる。ずっと前から燐羽は、私の事を見てくれてたんだ。
「そういえば燐羽、知ってる? 今って……同性婚が許されるようになって。手毬と千奈も、莉波と麻央も結婚してる。だから……私達も、結婚しよう」
「生まれ変わったら絶対に、結婚しよう。今度は蕩ける少女漫画のような、甘い甘い恋をして……そして、結婚しよう」
「例えそれが、男同士だったとしても。兄妹だとしても、国籍が違ったとしても、人間じゃなかったとしても。私はあなたを探して、それで見つける」
「絶対に、絶対に。私は燐羽と結婚する。どれだけ時間がかかっても、何回生まれ変わったとしても。だから燐羽……いつまでも、私の事を見てて。私を、愛して」
「話しすぎちゃった、ね。ごめん燐羽、もうそろそろ行かないと。最後に……あのね、燐羽。ありがとう。こんな私と出会ってくれて。こんな私をずっとずっと、愛してくれて。私に、楽しい人生をくれて」
あのね、燐羽。
dice1d1=1 (1)
- 100一般通過弟(?)25/05/15(木) 00:38:59
- 101二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 00:39:38
このレスは削除されています
- 102一般通過弟(?)25/05/15(木) 00:46:45
おしまい
- 103二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:06:53
乙!最後のダイスだけちょっと気になるね
- 104一般通過弟(?)25/05/15(木) 01:11:05
- 105二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:13:59
スレ主さんお疲れ様でした!!!
最後の方は感動で涙が止まりませんでした…りんはぁ…俺の涙止めてぇ… - 106二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 07:17:21
お疲れ様でした!涙が止まらないよ…別スレで良いから燐羽と広の結婚生活IFを見たいです
- 107一般通過弟(?)25/05/15(木) 09:49:10
スレ主です、遅くなりましたが無事本作を完結できたこと、大変うれしく思っております。途中、展開がぐちゃぐちゃになったりダイススレからSSになったりといろいろありましたが、これも最後までお付き合いくださった皆様のおかげです。改めてお付き合いくださりありがとうございました。また次作も楽しみにしていただけると幸いです
- 108二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 10:23:56
乙
名誉てまちな・さきことPとしてこれからも頑張って下さい