- 1二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:38:14
- 2二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:38:36
- 3二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:41:55
『魔』の者であるのぞめとニエノは、人間の『失望』を集めています。
そのやり方は、不思議な商品を売りつけること。
一見便利ではあるものの、どの商品にも罠があります。
2人はどこからかキヴォトスの情報を聞きつけたようで、行商に来たようですね。 - 4二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:44:17
このスレでは2人がキヴォトスで商品を売った結果どんな事が起きるのか等を話し合いたいな……と思っております。
- 5二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:46:18
おお
- 6二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:47:45
小学校の図書室にある系のやつ?
- 7二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:48:13
- 8二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:48:26
何がおおだよ
- 9二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 17:54:28
要は笑ゥせぇるすまん系の話
ちなみにこいつら人間の失望がエネルギー源だから喪黒よりたち悪いかもしれん - 10二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:07:53
キヴォトスは悪い子沢山いるから失望集め捗りそうだね
- 11二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:09:48
ウソが嫌いな日記帳だけはあかん
あれが誰かの手に渡ろうもんならキヴォトス滅ぶ - 12二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:12:08
ここに疑似科学部をひとつまみ。
- 13二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:17:32
何かのエサのターゲットは美食研の誰がいいだろう
やっぱジュンコかな - 14二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:26:11
小学生のころ読んでたなこれ
- 15二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:29:01
つばさ文庫ってこういう微ホラー系の本よく出してたよね
恐怖コレクターとか - 16二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:32:02
- 17二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:34:10
銃耐性とか大丈夫なんです?
- 18二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:37:55
モブちゃんとか題材にしやすそう
- 19二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:38:58
- 20二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:40:33
処刑セットあるらしいよコハル
- 21二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:41:10
- 22二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:42:08
- 23二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:49:00
このレスは削除されています
- 24二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 19:20:56
上手く使わせるだけじゃ駄目なんだよな
罠で失望させないといけない
3分間必ず目覚めさせないとか戦闘において強すぎるわけだが - 25二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 20:14:54
【インスタント死神 ターゲット:トリモブ(仮名:エリナ)】
「もうっ!不平等です!」
その日、ティーパーティー:パテル派所属のエリナは酷く憤慨していた。
「なんであの魔女ばかり先生に構ってもらえるの!?ムカつく!」
「魔女」とは、ティーパーティー:パテル派のリーダー、聖園ミカの事である。
と言っても、彼女にリーダーの権限はもうほとんどない。
ミカは以前、とある大犯罪を犯した為、パテル派リーダーとしての立場を追われている。
本来は退学になるレベルの行為だったのだが、超法規的権限を持つ「シャーレの先生」や、ティーパーティー:フィリウス派リーダーの桐藤ナギサにより、権限を奪われるだけで済んだ。
ミカと先生は仲がよく、何回も一緒に出かけている。
今日も2人は一緒におり、エリナはその場面を見てしまった。
「私だって先生とお出かけしたいのに……!」 - 26二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 20:40:19
先生はどの生徒にも分け隔てなく優しい。
当然、エリナにも優しい。
だから生徒は基本的に先生が好きだし、エリナもその例に漏れずだ。
だが、分け隔てなくといっても、やはり優劣はあるのだ。
生徒は多いので、1人1人が先生と時間を過ごせる機会は少ない。
だがその中でも、ミカは何回も先生と共に時間を過ごしている。
あまりにも不平等だ。
「あいつが消えてくれればいいのに……」
そんなことを悩みながら歩いていると、エリナの目の前を一匹の蝶が横切った。
黒地にショッキング・ピンクの羽を持つ、珍しい蝶。
その蝶に誘われるように、エリナは蝶の後を追いかける。
蝶が建物の隙間に入っていったので、それをつけてしばらく歩いていると、そこには自動販売機があった。
いかにも路地裏にありそうな、ボロい自販機だ。
気がつくと蝶は消えていたが、エリナの興味は既に自販機の方に向けられていた。
何故なら、その自販機に陳列されている商品が普通のジュースではなく……【インスタント死神】と書かれた、カップ麺の容器のようなものだったからだ。 - 27二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 20:56:53
「インスタント死神……なんでしょう、これ?」
近づいて見てみると、黒いカップに白いポップな字で、次のように書かれていた。
『お湯を注いで3分待つだけ!だれでもお望みの相手を呪い殺してくれる、あなただけの死神のできあがり!』
「殺すだなんて……ジョークグッズにしても、悪趣味ですね……」
そう思いながら、エリナは頭の中に、あの憎きミカの顔を思い浮かべていた。
「(本当に聖園ミカを呪い殺せたなら、もうこんな思いしなくてすむのでしょうけど)」
つまり、この【インスタント死神】は、おまじないの道具なのだろう。
呪いの藁人形のような。
「気晴らしに買ってみましょうか。いくらでしょう……おや。」
エリナが目を凝らして見てみると、自販機に置いてある2つの容器の値段が違うことに気づいた。
右のカップの値段は、一万円。
そして左のカップの値段は、百万円だ。
「効果が違うのでしょうか?流石に百万円はお財布に入っていませんね……今回は一万円の方を買いましょう。」
エリナは自販機のお札投入口に一万円を入れ、ボタンを押す。
ゴトンと音がして、黒いカップが1つ落ちてきた。
こうして、エリナは手に入れたのであった。
【インスタント死神】を。 - 28二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 20:57:35
※トリニティの生徒相手なので値段を100倍にしています
- 29二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 20:59:43
【ショッキング・ピンク】の文字列だけで突発性イイカゲン病患者の大人気格闘漫画がチラついてしまったのは…俺なんだ!
それはさておき、もうつばさ文庫で学生時代を過ごした連中がスレ立てまでするような時代になっていることに愕然としちゃったんだよね。設定的には食い合わせの悪そうな作品同士のクロスだが、描写が丁寧だったり細かい設定を擦り合わせてたり現状存外悪くなさそうだから期待せず待ってるよ… - 30二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 21:46:36
『お湯を注いで3分待つだけ!だれでも思い通りの相手を呪い殺してくれる、あなただけの死神のできあがり!』
黒いカップのフタに、ポップな字で書かれたうたい文句。
コンビニに入ったエリナは改めて、その白抜きの文字を読んだ。
コンビニに入った理由は、お湯をゲットするためだ。
カップの中には、白くて小さな塊がごろんと転がっていた。
顔の部分は、デフォルメされたドクロのようになっている。
触った印象は、バスボムみたいな、ザラザラした感じ。
「(これにお湯を入れたら、中から死神が出てくるというわけですね。)」
他に何か入っているのか確認するため、エリナはカップの横にある説明書きを見てみる。
そこには、次のように書かれていた。
『インスタント死神の作り方
①フタを開けて、ドクロが1つ入っていることを確認します。
②いったんドクロをカップから取り出し、呪い殺したい相手の写真を、表が上になるようにカップの底に置き、その上にドクロを乗せます。
③ドクロと写真の上から、カップの内側の線までお湯を注ぎます。
④フタをして、3分間待ってから、フタを開けます。
★これで、写真の相手を呪い殺してくれる、あなただけの死神のできあがりです★』
「写真かぁ……何かあったっけ……あ、あれは!」
エリナの視線の先には、あの憎き聖園ミカと、敬愛する先生。
コンビニの向かいの喫茶店で、お茶しているようだ。
「またも一緒に!私が一度当番するより、あなたが四度当番する方が早いじゃない!」
目に若干の涙を浮かべながらも、エリナはこのチャンスを見逃さず、スマホでミカの写真を撮る。 - 31二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 21:46:50
そしてそれをコンビニのプリンターでプリントし、カップの底に貼り付ける。
それから、写真の上にドクロを乗せ、その上から熱湯を注いで、フタをした。
そうして、待つこと3分。
ピピピピー。
セットしてあったタイマーが鳴る。
「さて……どうなっているのでしょう?」
おそるおそる、エリナはゆっくりとフタを持ち上げる。
その途端、もわわわぁんと勢いよく、白い湯気が柱のように立ちのぼる。
その湯気の中に、1人の……いや、1体の?
頭はドクロで大きな鎌を持ち、黒い装束を身にまとった死神がいた。
死神は、頭からローブの先まで、30cmくらいだった。
ミニサイズの死神が、湯気の中に浮かんでいるのだ。
「おお……本当に死神が出た……」
やがて湯気はなくなり、くっきりと見えた死神の姿。
死神の目の奥には、ミカの顔。
先程撮った、楽しそうに先生と話していたミカの顔そのものである。
これがターゲットということか。
「えーと……あの魔女を殺してくださるのですか?」
その問いに死神は答えなかったが、くるりとエリナに背を向け、コンビニの入り口へ向かった。
「あ、ちょっと……」 - 32二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 21:49:44
こういう児童小説すき
最近絵もほんとかわいくなったよな - 33二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 21:55:33
死神が見つかったらどうしよう。
そんなエリナの考えは杞憂に終わった。
入り口から入ってきた客は、目の前を死神が突っ切ったのに、全く怯む事もなく、死神に目を向ける事もなかったのだ。
どうやら、エリナ以外には死神は見えないらしい。
スゥーっと動く死神から目を離さないように、エリナは後を追う。
死神はテラス席にいるミカのもとへ一直線に進み、ミカの背後で鎌を振り上げたと思うと、一気に振り下ろした。
鎌はミカの背中をスゥーっと通り抜けた。
けれど、その直後。
先生と楽しそうにお喋りしていたミカが、不意に言葉を失い、動きを止め、内から体を支える力がなくなったかのように、ぐらりと傾き、イスから転げ落ちた。
“え、ミカ!?どうしたの!?……息がない!誰か!”
慌てる先生の声や、周囲の悲鳴、周囲でざわつく住人たちの声など、耳にも入らず。
エリナはその光景を、じっと見つめていた。
役目を終えた死神は、次第に色が薄くなっていき、輪郭がぼやけ、やがて、砂細工が崩れるかのように消えた。
「(本当に、死んじゃった……)」
エリナは、(自分でやっておきながら)信じられないと言うかのような顔で、ミカの死に顔を見ていた。 - 34二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:11:58
邪魔者……ミカは、死んだ。
「(……インスタント死神の力は、本当だったのですね。たった一万円で魔女を消せるなんて、中々ラッキー……)」
憎い相手が死んで清々しい気持ちと、とんでもないことをしてしまったという気持ちがせめぎあっている。
だが、インスタント死神は、素晴らしい商品だと感じた。
しばらくそうしていると、やがて救急車が来た。
救急車から降りてきたのは、救護騎士団団長、蒼森ミネだ。
ミカの脈がない事を確認すると、慣れた手つきでミカを担架に乗せる。
その瞬間、
「うぅ……」
“あっ、ミカが目を覚ました!”
なんと、ミカが目を覚ましたのだ。
「えっ!?」
エリナは愕然とした。
そんなバカな。死神は仕事を果たしたのに、一体何故?
ミカの方を見ると、本当に何事も無かったかのようにピンピンしている。 - 35二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:27:41
「えーと、私何してたの?」
死んでいた頃の記憶はないようだ。
なんで生き返った?
まさか、インスタント死神は不良品なのだろうか。
エリナはインスタント死神のカップに書かれた白抜きの文字をもう一度読み直してみる。
そうすると、小さい字でこんなことが書いてあった。
※このインスタント死神は、写真の相手を【3分間】だけ殺すことができるタイプです。
それを読んで、エリナはがっくりと肩を落とした。
3分間だけなんて……いや、その間に出来ることは色々あるだろうけど、今の私には意味がない。
一万円程度の死神なんて、こんなものか……
「(………いや、ちょっと待て。そういえば……)」
エリナは、あることを思い出した。
さっき自販機にあったカップのうち、エリナが買ったのは安い方。
もう1つの高い方は、効果が違うのかもしれない。
でも、もう1つの方ならば、もしかして。
「(百万円の方の死神なら、もっと長い時間、殺すことができるのかもしれませんね。『3分間だけ殺すことができるタイプ』ということは、他のタイプもあるという事ですから。)」 - 36二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:29:20
ちょっと値段は張るが、エリナにとっては大した金額ではない。
こんな消化不良な結末、あってたまるものか。
エリナは近くの銀行で百万円分のお札を引き出し、自販機のもとへ向かった。
右のカップは、一万円。
左のカップは、百万円。
左のカップを凝視すると、鎌で切りつけたかのような銀色の文字が見える。
『もうインスタントとは呼ばせない!本格派の死神を求めるあなたに!』
更にその横には、大きくこう書いてあった。
『※このインスタント死神は、写真の相手を【100年間】殺すことができます!』
エリナは迷わず、左のカップを買うことにした。
ガコン、と音をたてて、カップが落ちてくる。
カップを両手で持ったエリナは、さっきの白抜けとは違う、頼もしい銀色の文字を見つめた。
「そういえば、作り方は前と違ったりするのでしょうか?」
唐突にそんなことが気になったので、作り方欄を見てみると、こんなことが書いてあった。
『インスタント死神の作り方
①フタを開けて、ドクロが1つ入っていることを確認します。
②いったんドクロをカップから取り出し、呪い殺したい相手の写真を、表が上になるようにカップの底に置き、その上にドクロを乗せます。
③ドクロと写真の上から、カップの内側の線までお湯を注ぎます。
④フタをして、【100年間】待ってから、フタを開けます。
★これで、写真の相手を呪い殺してくれる、あなただけの死神のできあがりです★』 - 37二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:30:52
とりあえず1つ書き切りましたが……購入者をモブちゃんにすると、原作の話をそのまま書くことになっちゃうので、今後はできる限りプレイアブルを使おうと思います。
- 38二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:37:48
- 39二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:38:44
- 40二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:43:03
- 41二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:43:49
- 42二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:55:01
- 43二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:55:27
- 44二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 00:33:36
- 45二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 08:09:42
- 46二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 08:19:21
- 47二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 10:20:29
【友達クジ ターゲット:宇沢レイサ】
レイサは、親友が欲しかった。
人見知りなレイサが一対一で話すことができるのは、同じ自警団の先輩であるスズミか、永遠のライバルことカズサくらいしかいない。
それでも、スズミは先輩だから少し他人行儀になってしまうし、カズサは部活が違うので、そちらの部活のメンバーと一緒にいる事が多い。
自警団で同い年の子たちと話すこともあるが、彼女らは基本ツーマンセルで行動しているため、三人組ではなく、『二人組+一人ぼっち』である。
レイサは三人組というのが少し嫌いだ。
友達と仲良くお喋りするなら、二人でいい。
三人目以降は、いてもいなくてもいい。
寧ろ三人目以降が入ると、自分はおいていかれてしまう。
レイサだけが、あまりもの。
勿論、他の自警団の人や、放課後スイーツ部の人たちがそんな意地悪な性格でないことはわかっている。
だからレイサは三人組というのが嫌いだし、何よりこんな事を考えてしまう時の自分が嫌いだった。
「(はぁ〜……自分だけの親友がほしいなぁ……)」
できれば、かわいくて、優しくて、頭が良くて……でも、他に友達がいないような一人ぼっちの子。
「(そんな都合いい存在、いませんよね……)」
そんな事を考えながら歩いていると。
ドンッ。
と、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。 - 48二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 10:24:59
なんかゴルゴンダみたいなだな
- 49二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 11:34:04
ぶつかった相手は、倒れて尻もちをついたようだ。
それと同時に、何かがばらばらと道に散らばった。
「いたた……ご、ごめん。大丈夫?」
地面に座ったままそう言ったのは、ショッキング・ピンクのパーカーを着た銀髪の少女。
右目には、パーカーと同じピンク色にバッテンマーク付きの黒いハートを描いた眼帯を付けている。
派手な格好だが、かわいい子だ。
見たところ、レイサと同い年くらいに見える。
「す、すみません。そちらこそ、大丈夫ですか?(ぶつかったのは私なのに『ごめん、大丈夫?』って言ってくれるなんて、優しい子だなぁ……こんな親友が欲しいな……)」
こんな時でも、親友のことを考えている。
そんな自分に嫌気が差す。
とりあえず、散らばった何かを集めなければ。
少女が落としたのは、どうやらお菓子のようだった。
「これは……キャンディですか?」
拾い集めたお菓子を渡しながら、レイサは言った。
「うん。あっちの駄菓子屋さんで買ってきたキャンディだよ。でもね、ただのキャンディじゃないんだ。これはね、食べると運が良くなる、幸運のキャンディなの!」
少女は人懐っこい笑顔で言った。
それを聞いたレイサは、思わず瞬きした。 - 50二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 11:46:21
「幸運のキャンディ……おまじない的なものですか?」
「ちがうよー。これは本当に、幸運を呼ぶキャンディなの。あの駄菓子屋さんはね、他じゃ買えないような珍しいもの、たくさん売ってるんだから。たとえば………」
キャンディを残らず拾い集めた少女は、片方の目でレイサを見る。
「………当たりを引けば、友達が手に入るクジとかね」
「……えっ」
少女の言葉に、レイサの胸が、ドキリと高鳴った。
「そのクジを引きたかったら、駄菓子屋さんに行ったらいいよ。ほら、そこに見える、建物と建物の隙間にある細い道の奥に、お店があるからさ」
少女が指さした方向には、確かに細い道があった。
レイサがそちらを向いて、少女から目を離した、ほんの一瞬。
次に少女がいた所を見た時、少女は何処かに消えていた。 - 51二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 12:20:48
建物と建物の間にある道を、レイサは通り抜けていく。
しばらく進むと、少女の言う通り、駄菓子屋が見えてきた。
古ぼけた、昔ながらの駄菓子屋って感じだ。
「こんな所に、お店があったんですね」
知らなかった。
今度、杏山カズサに教えてあげよう。
そんな事を考えるレイサは、はたから見ると『友達クジ』なんて要らないように見えるが……本人からしたら、やはり色々あるらしい。
店に入って、レイサは店内を歩き回る。
短い割り箸のついたみずあめ、小袋に入ったスナックラーメン、赤い色のコーラグミに、水色のソーダグミ、舐めていると色が変わるキャンディ、カラフルで細長い棒ゼリー、平べったい木のスプーンがたいたヨーグルト、甘辛いイカの足、小銭の形をしたチョコレート、オレンジ味やブドウ味の粉末ジュース……
棚に並べられ、引き出しに詰め込まれ、壁にかけられ、天井に吊るされた、様々な駄菓子。
その光景に目を引かれながらも、レイサは駄菓子を素通りし、レジの前に行った。
レジ近くには様々なクジが置いてあり、そのクジのうちの一つに、
『友達クジ 一回100円』
と書かれたクジを見つけた。 - 52二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 12:41:38
「これが、友達が当たるクジ……?」
レイサは、ごくりとつばを飲み込んだ。
そこへ、カウンターの中から、店の人が声をかけてきた。
「クジを引きたいの?」
レイサは少し迷いながらも、頷いた。
「(友達が当たるクジなんて、あるわけないけど……安いし、話のネタになったらいいかな……もしかしたら、本当かもしれないし……)」
胸の隅で輝く、好奇心。
それを抑える必要性を、レイサは求めなかった。
「友達クジ一回、お願いします!!」
「おお……元気な声だね。友達クジは一回百円。当たりを引けば、友達をプレゼントだよ。」
店の人は、目深にかぶった帽子とマフラーのせいで顔が見えない。
だが声からして、先生と同年代くらいの男性だろう。
「本当に、クジで友達をもらえるんですか?」
「もちろん。友達クジだからね。かわいくて、やさしくて、頭のいい、とってもすてきな友達が貰えるよ。当たりを引ければ、ね」
それを聞いたレイサは、期待に胸を膨らませ、100円玉を店の人に手渡した。 - 53二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 12:41:57
「はい、どうも。友達クジは、フーセンガムのクジなんだ。この中から一つ選んで、膨らませてごらん」
店の人はクジの入った箱を傾けて、レイサが引きやすいようにした。
レイサは片手を箱に突っ込んで、ガサゴソと箱の中をまさぐる。
しばらくそうした後、レイサは一つのフーセンガムを手に取った。
「これにします!」
ガムは銀紙に包まれており、銀紙の真ん中が円盤状に膨らんでいた。
レイサは銀紙を破り、ガムを口に入れた。
もぐもぐ………
ガムがやわらかくなるまで念入りに噛んだら、そのガムを舌に被せるように薄くのばして、息を吹き込む。
ぷくーっと、ガムが膨らむ。
思い切り息を吹き込んでも、ガムは破れない。
もっと吹き込むが、まだ破れない。
さらに吹き込むが、まだまだ破れない。
ガムは大きく膨らんで、やがてレイサの背丈ほどになった。
その巨大なフーセンガムの中に、人影のようなものが見えた。 - 54二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 15:18:16
ぱちん!
大きな音を立てて、フーセンガムは割れた。
それと同時に、一枚の紙切れが現れた。
ひらひらと床に舞って、やがて落ちた紙には、「ハズレ」と書かれていた。
「そんな〜〜」
「残念だったね。友達クジは一日一回。また明日チャレンジしてね。」
だが、レイサはガムの中に浮かんでいた人影を見て確信した。
「(アタリなら、本当に人が出てくるんだ!)」
確信できるほどに、人影はリアルだったのだ。
次の日も、また次の日も、レイサは駄菓子屋に通い、友達クジを膨らませた。
だが何度膨らませても、出てくるのは「ハズレ」ばかり。
そんな中、レイサは再び、あの派手な格好をした少女に出会った。
彼女は、数人の不良生徒に追われていた。
「うわー!誰か助けてー!」
「その珍しそうなキャリーバッグよこせぇぇ!!」
自警団所属のレイサの中に、正義の心が燃え上がる。
レイサは銃を構え、不良たちに突っ込んでいった。
「トリニティのスーパースター、宇沢レイサ!参上です!」 - 55二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 15:27:35
「いてて……大丈夫ですか?」
多少の怪我はしたが、レイサは不良生徒たちを追っ払うことができた。
「恩人!本当にありがとうー!!」
少女は少々大げさに、レイサを讃える。
「いえいえ、当然の事です。そういえば、この前も会いましたよね?」
「あ、やっぱりそうか!まさかまた会えるとはね!どうしよう、何かできることないかな……」
少女はキャリーケースを開け、中身をまさぐる。
……やがて、緑色の大きなキャンディを取り出す。
「これは、健康運を高めるキャンディ。怪我したあとに舐めても仕方ないかもしれないけど、お守りとしてどうぞ。」
健康運のキャンディはとても美味しそうだ。
レイサはありがたくキャンディをいただいて、口に入れた。
キャンディは甘くて、少しミントの風味がした。
「これで、しばらく怪我しなくなると思うよ!」
少女の言葉を聞いて、レイサは閃いた。
「そうだ!キャンディは沢山の色がありますよね!クジ運が良くなるキャンディはありませんか?」 - 56二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 21:31:30
このレスは削除されています
- 57二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 23:35:00
女の子からそれぞれのキャンディの効果を教えてもらったレイサは、うきうきで駄菓子屋に来ていた。
「いらっしゃい。今日も友達クジ、引くかい?」
すっかり顔なじみとなった店の人に挨拶したあと、レイサはこう続けた。
「いえ!今日はその前に、『白い幸運のキャンディ』をください!」
幸運のキャンディは、色ごとに違う運を高める。
黄色は金運。緑は健康運。青は勉強運(仕事運)。赤は恋愛運。
そして白いキャンディは、クジ運を高めるのだ。
レイサの言葉に、店の人がニヤリと笑う。
顔が見えないので、本当に笑っているかはわからないけども。
「お目が高いね……クジ運を高めるキャンディは2つ。小さいのは1000円、大きいのは10000円だよ。もちろん、大きい方が効果も大きい。どっちを買う?」
そんなもの、迷う必要がない。
レイサは財布から10000円札を取り出して言った。
「大きいキャンディください!」
店の人に10000円札を手渡し、白くて大きいキャンディを受け取り、包み紙を破いて口に入れる。
白いキャンディは、ホワイトサワー味だ。
サイズが大きかったので、全部舐めきるには少し時間がかかった。
10分ほど経ち、やっとこさキャンディを舐めきったレイサは、100円玉を取り出して言った。
「よーし!友達クジ一回!お願いします!」
「がんばってね。」 - 58二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:04:18
店の人がいつものように出してくれた箱に手を突っ込み、レイサは直感で『これだ!』と選んだガムを口に放り込んだ。
もぐもぐ……
レイサはガムをよく噛みながら、どんな子が出てくるかなー、こんな子がいいなー、と妄想をした。
やがて柔らかくなったガムを薄く伸ばし、思い切り膨らませる。
ガムはいつも通り、レイサの背丈ほどまで大きく膨らみ、人影が見えてきた……やがて、
ぱちん!
と音を鳴らして割れた。
フーセンガムの中から現れたのは、いつもの『ハズレ』の紙切れではなく。
青いワンピースを着た、白髪ストレートの少女だった。
その少女はどうやらレイサと同い年くらいのようで、とてもかわいい顔をしていた。
少女はレイサに対して、優しそうに微笑んだ。
カウンターの中から、店の人がレイサに言った。
「おめでとう。その友達は、幸運な君にプレゼントだ。」
レイサは、心の中でガッツポーズをした。
こんなにすてきな子が、今日から私の友達!
これで話し相手が増える!
レイサは最初人見知りを発揮して、少し顔が引きつってしまっていたが、少女の笑顔を見ると、人見知りを解消できそうな気がして。
少し照れながらも、少女に話しかける。
「ど、どうも、宇沢レイサです……これからよろしく……」
ところが、少女はそれには答えなかった。
その代わりに、ちょっと待ってね、といった感じのジェスチャーをした。
口の中に何かを入れているらしい。
少女は口の中に入れているそれを、ぷくーっと膨らませた。
その大きさから、レイサは少女が膨らませているのが、自分がさっきまで服割らせていたのと同じ種類のフーセンガムである事に気づいた。 - 59二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:04:31
そのガムは大きくなり、やがて人影が見えてくる。そして、
ぱちん!
と音を立てて割れた。
中からは、またもレイサと同い年くらいの少女が現れた。
オレンジ色の服を着ており、髪は赤くてポニーテール。
レイサが膨らませたガムから出てきた少女とは真逆の印象を受けるが、こちらもかわいくて優しそうだ。
二人はとても仲よさげに触れ合っていた。
店の人がレイサに話しかける。
「おや、君は物凄く運がいいね。君が引いたのは、大当たりのガムだよ。大当たりが出たから、特別にもう一人、君に友達をプレゼントだ。」
呆気にとられた表情をしていたレイサに、フーセンガムから出てきた『二人の友達』は話しかけた。
「「これから三人で仲良くしようね、レイサちゃん!」」
と、声を揃えて言った。
三人で……
あぁ、とレイサはうなだれる。
その人数に、レイサはもう、嫌な予感しか感じなかった。 - 60二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:14:39
のぞニエアフタートーク【インスタント死神】
ニエノ「キヴォトスの人は死を忌避すると聞いていましたが、どうやら個人差があるようですね。」
のぞめ「相手を殺すことを視野に入れるほどお熱とは……その『先生』ってのは、よっぽど素晴らしい人か何かなのかな?」
ニエノ「生徒達の事を一番に考える聖人みたいな人らしいですよ。生徒の皆さんにアイテムを売りつけて【失望】させるぼくたちなんかが見つかったら、絶対に敵対されてしまいますね。」
のぞめ「聖人ー?胡散臭いなー。ま、見つけたらすぐに逃げよっか!」 - 61二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:22:39
のぞニエアフタートーク【友達クジ】
ニエノ「今回のお客様も、前にこの商品を売りつけたお客様(原作でのターゲット)とほぼ同じ流れで、同じ末路を辿っていますね。」
のぞめ「でも前回(原作)の子は私から幸運のキャンディを盗んだ結果、この末路になったから結構因果応報だったけど、レイサちゃんは自分でお金出して幸運のキャンディ買ったから、不条理でちょっと可哀想だけどねー。」
ニエノ「あんなにいい子なのに友達がいないなんて、最近の高校生ってのは大変ですね……ぼくにはのぞめさんがいてよかったです。」
のぞめ「え、なに、告白?そういうのはちょっと……」
ニエノ「違いますよ?のぞめさんをそういう目で見たことは一切ないので、ご安心ください!」
のぞめ「……なんかそれはそれでムカつくな。」 - 62二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:31:03
2巻の後書きにあったトークを自分なりに書いてみようとした結果、早くもイチャつきやがったこいつら。
ちなみに前述の通り、『魔』の者は年を取りません。
のぞめは12歳、ニエノは年齢不詳ですが恐らく20代の時に『魔』になった後、何年も一緒に【失望】集めを続けています。
なんならニエノはとある理由で不老になった後、数百年間彷徨った末にのぞめと出会ったという描写があるので、二人はとんでもなく年の差があります。
二人が『そういう雰囲気』にならないのは、必然かもしれません。 - 63二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:33:39
良いssだった
- 64二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:38:31
まだまだ商品(原作のストック)があるので、量産してまいりますよ!
原作は各商品に加え、のぞめやニエノの過去にまつわるエピソードが載っていてとても面白いので、ぜひ買って読んでみてくださいね!
ブックライブなら全11巻の合本版が買えちゃいます!
※私はただの『世にも奇妙な商品カタログ』が大好きな一読者であり、ブックライブの回し者ではございません。
- 65二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 02:17:22
宇沢の方は失望というよりは絶望に近い気はするけど原作もこんなんな訳?アフタートーク見るにオリエピはやらん系?中々楽しめたわ、原作も買えたら買うわ
- 66二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 08:30:06
- 67二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 18:33:21
保守
- 68二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 18:42:13
処刑セット使いそうな奴いないな……またモブちゃん使うか
- 69二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 19:02:12
【処刑セット ターゲット:トリモブ (仮名:キヨカ)】
その日の夜も、いつものように、キヨカはパソコンと睨み合っていた。
ネットニュースで、日々起こる犯罪事件の記事をチェックするのが、キヨカの日課だった。
「(まったく……毎日毎日、嫌な事件が多くてうんざりするな)」
ため息をついて、キヨカは次のニュースの記事をチェックする。
「だいたい、この世界は犯罪者に甘すぎるんだ。犯罪を起こすような奴なんて、みんな死刑でいいじゃないか。」
キヨカは常々、そう思っていた。
悪人は、さっさとこの世から消えてしまえばいい。
世の中のルールを守れない奴なんて、生きてるだけ無駄で、無意味で、迷惑なだけだ。
「(私に力があればなあ。人知れず悪人を始末することのできる、ダークヒーローのような特別な力が……)」
そう妄想して、キヨカはうっとりした。
悪人には裁きがくだるべきだ。
悪人はこの世から排除されるべきだ。
そう思っているのは自分だけではない。
それは、この社会に生きる多くの者の望みなのだ。
多くの人々に死を望まれている悪人。
そいつらに、もし自分が、裁きを下すことができたなら。
「(それができたら、きっと私は、みんなからヒーロー扱いされるだろうな。)」 - 70二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 19:12:51
それができたら……
いや、わかっている。そんな事は不可能なのだと。
漫画に出てくるダークヒーローたちのように、何人もの悪人を次々に裁いていくためには、何かしらの特別な力が必要だ。
知識とか技術とか人脈とか、超能力とか。
自分はその中のどれ一つ持ち合わせていない、ただの平凡な一般人だ。
そんな自分に、悪をさばくことなど、所詮できはしない。
正義実現委員会に入るなんてもってのほかだ。
あそこは治安維持組織の皮をかぶったティーパーティーの犬たち。
正義を実現できるわけがない。
自警団も駄目だ。
あそこのリーダーである守月スズミは、悪人を傷つけないよう、閃光弾を使っている。
そんなのは駄目だ。悪人は、できるだけ苦痛を与えてから捕まえて、処刑するべきだ。そうでないと、被害者が浮かばれない。 - 71二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 19:33:41
今更だけど獣人モブとかでよかったなこれ
まあ一度書いた以上このままいきますが
治安維持組織への不満を思い浮かべ、キヨカはため息をつき、そしてまた、パソコンの画面に目の焦点を合わせた。
そのとき、
ピロリン♪
と、画面上にいきなり出てきた広告をクリックしてしまう。
そこから飛んだサイトはショッキング・ピンクの目が痛い背景に、所々黒い文字が書かれていた。
『悪人を、ご自分の手で裁いてみませんか?
〜ご家庭用処刑セット〜』
それを読んで、キヨカはぽかんと呆気にとられた。
「家庭用……?処刑、セット……??」
なんだろう、これは……何かのジョークグッズだろうか?
それとも詐欺広告?
書いてある文字は大変魅力的だが……怪しすぎる。
キヨカはすぐに広告ページを閉じようとした。
「……いや、一応読んでみるか……」
本当なら、すごいことだ。
自分が求めていた力が手に入る。
キヨカはページに書いてある文字に、一通り目を通してみた。
ページには、主にこのような事を書かれていた。 - 72二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 19:55:50
【処刑セット】商品詳細
悪人を、自分自身の手で裁いてみたい!
お客様のそんなニーズにお応えして生まれたのが、この【処刑セット】です。
処刑に必要なあらゆるアイテムをあまさず詰め込んだ、非常に便利な【処刑セット】。
このセット一つで、誰でも簡単、お手軽に、ご家庭で処刑を行えます!
※当セットの処刑器具は、従来にない特殊技術を用いて、処刑対象となる悪人を一塊の黒炭に変えて処刑します。
処刑後に残った黒炭は、べたつかず、散らからず、持ち運びが簡単なので、器具のお手入れも、後片付けも楽チンです♪
商品説明欄に書かれたその文字を見て、キヨカはまたもや呆気にとられた。
「なんだこれ……こんなもの売っていいのか?」
常識的に考えれば、ありえない。
いくら悪人と言えど、人を処刑するための商品なんて、法律で許されるはずがない。
でもひょっとしたら、とキヨカは思う。
ただ、公になっていないというだけで。
私が知らないだけで、案外、こういったものは流通しているのかもしれない。
ヴァルキューレや連邦生徒会も、黙認しているのかもしれない。
だって、悪人が処刑されることは、この世にとって利益だから。
それなら、処刑人の数は多いほうがいいだろう。
たとえば、一人の処刑人につき三人の悪人を処刑できるとして、処刑人が十人いれば三十人、百人いれば三百人の悪人を、この世から消し去ることができる。
悪人がいなくなればいなくなるだけ、世の中が綺麗になる。 - 73二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:39:03
期待
- 74二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 07:28:42
保守
- 75二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 09:09:59
だからこそ、処刑人になる人を増やすために、このような商品が売られているのではないだろうか。
だとしたら。
「(私だって、『処刑セット』を買って、処刑人になりたい……!)」
『誰でも簡単、お手軽に、処刑ができる道具。』
それはキヨカが追い求めていた、ダークヒーローになるための『特別な力』だ。
「(でも……誰でも簡単に使える処刑道具なんて、悪用されたりしないのかな?)」
そのことが、キヨカは気になったものの。
「(……そのくらいは、当然対策されてるよな)」
と、すぐに思い直した。
簡単お手軽な処刑セットと言っても、そこは流石に。
この商品を買っただけで、誰でも好き勝手に処刑ができるわけじゃあるまい。
何かしら、制限や条件があるはずだ。
「(そういえば……これ、値段は幾らなんだろう?)」
キヨカは、もうほとんど、この商品を買う気になっていた。
とはいえ、現実的に購入可能な値段でなければ、どうしようもない。
キヨカはトリニティの生徒であるため、多少のお金は持っている。
だが、上流階級の方々のように、数百万をポンと出せる程ではない。
それに、やはり騙されているのでは?という疑いも捨てきれていない。
迷いながら、キヨカは画面をスクロールして、商品の値段を確認した。
『まずは一万円お支払いいただければ、商品をお届けいたします。その後、もしこの商品がお気に召さなかった場合は、未使用の状態であれば、商品の購入をキャンセルできます。』 - 76二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 09:20:58
キヨカはほっとした。
これなら、商品の現物を確認した上で、正式に購入するかどうかを決められる。
「よし、それなら……」
仮にインチキだったとしても、この程度の値段なら、試してみる価値はあるだろう。
この商品の謳い文句が本当であれば、こんな平凡な自分でも『特別な力』を手に入れられるチャンスなのだから。
キヨカは1人頷いて、[この商品を購入する]と書かれたボタンをクリックした。
「どうもー。ご注文の品、お届けに参りましたー。」
ネットで『処刑セット』を注文した、その翌日。
キヨカが住む学生寮に、さっそくそれが届けられた。
やってきた配達員の男は、まだそこまでじゃないだろ……と言いたくなるような厚着で、帽子とマフラーで顔を隠しているため、顔が全く見えない。
でも『処刑セット』なんてものを扱う組織の人間なのだから、顔を知られるわけには行かないんだな。と、キヨカは一人で納得した。
配達員に代引きで一万円を支払って、キヨカは商品を受け取った。
「この商品、2階までお運びいたしましょうか?」
「ええ、お願いします。」
配達員が運んできたそれは、中々の大荷物だった。
人間に使う処刑器具となると、やはりそれなりのサイズであるようだ。 - 77二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 17:16:13
トリニティの学生寮は2階建ての豪華なものである。
大きなダンボール2つがあっても、窮屈でないくらいには。
セット一式は、2つのダンボールに分けられており、表面にそれぞれ『箱①』『箱②』と印刷されていた。
どちらの箱も、キヨカでは持つことが難しいくらいに重かったが、配達員は、これを難なく運んだ。
配達員が帰ったあと、キヨカは箱をじっくり眺めた。
そこで、箱②の側面に開いている小さな穴に目を留めた。
「なんだ?この穴は。」
一つだけ空いているその穴を覗き込むが、中は暗いので当然何も見えない。
穴が空いているのは箱②だけのようで、箱①は幾ら探しても穴はなかった。
「ま、いいか。運んでるときにどっかにぶつかって空いたのかもだし」
実際そう言えるくらい、穴は小さかったのだ。
「とりあえず、開けてみるか」
つぶやいて、キヨカはまず、順番通りに箱①から開ける事にした。
用意したカッターナイフで、ガムテープの封を解き、箱のフタを起こす。
箱の中には一枚の紙切れと、ペンケースくらいの小箱。
そしてその下に、梱包材でしっかりとくるまれた器具の部品らしきものがあった。
紙切れの方は多分、セット内容とか取扱説明書だろう。 - 78二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 23:50:15
キヨカは紙切れと小箱をダンボール箱の外へ放り出し、その下の器具の部品を、慎重に取り出して床に置いた。
キヨカは普段から、取説は読まないタイプだった。
取説よりもとにかく早く、製品の現物を見たり触ったりしたい性分なのだ。
「(わからないことがあったら、その時読めばいいだけだしな。まあ、取説が紙切れ一枚に収まる程度なら、難しいことは書いてないだろう。)」
そう思いながら、キヨカは部品を包んでいる梱包材を破いた。
「これを組み立てればいいのかな?」
キヨカはとりあえず、勘で部品を組み合わせた。
そうしてみると、組み立て方は実に簡単で、このくらいであれば、やはり説明書が無くても、全く問題なさそうだった。
ほどなくして、処刑器具が完成した。
その見た目は、丁度人間一人が入りそうな、つるつるした金属のカプセルだった。
一歩引いた場所からそのできたての処刑器具を見て、キヨカはうっとりする。
これが、従来にない特別な技術を使った処刑器具か。
「(……使ってみたい)」
現物を見て、キヨカはますますそう思った。
未使用の状態であれば、返品できる。ということで、とりあえず注文した商品だったけれど。
やっぱり、ただ見るだけで使わないなんてことは、出来そうにない。
どうしても、これを使ってみたい。 - 79二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 00:09:48
「(正式に購入するとなると、高く付くかもしれないけど……でも、貯金だってあるし、何とかなるだろう。……それに)」
キヨカは、カプセルの表面に映る自分の姿を見つめて、顔を引き締めた。
「これは、世のため、人のための買い物なんだ……!」
思わず声に出して、キヨカは拳を強く握った。
カプセルに映った自分が、きらめく瞳でこちらを見つめ返していた。
「さて……残りのやつも開けてみよう。処刑器具と一緒に入っていた、この小さな箱はなんなんだろう?」
紙切れとともに床に放り出していた、ペンケース程の大きさのその小箱を、キヨカは手に取る。
テープを剥がして小箱を開けると、その中身は、何か薬品のような液体が入った小瓶。そして注射器と、スタンガンとおぼしき機械。
キヴォトスの市民達には、銃弾はあまり効かないが、実はスタンガンは割と効いたりする。
護身用という事なのだろうか。
「(これらも、処刑に必要な道具?瓶入りの液体は……まさか、毒薬か?)」
瓶にはラベルも貼られていないし、よくわからない。
ひょっとするとこれらは、悪人を捕らえるための武器なのだろうか。
「処刑に必要なあらゆるアイテムを、余さず詰め込んだ」というからには、セット内容にそういうものが含まれていても、おかしくはない。 - 80二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 00:24:37
「ま、いいや。後で取説を読めば。それよりも……」
キヨカは、残ったあと一つの箱……『箱②』へと視線を向け、カッターナイフを持って近づいた。
こっちの箱も、箱①と同じくらい大きくて重い。
この中には、一体何が入っているのだろう。
カプセルを組み立てている途中の段階では、こっちの箱の中にも、処刑器具の半分くらいが入っているものだと思っていた。
けれど、組み立てたカプセルは、これでちゃんと完成しているように思える。
この上にさらに部品を取り付けられる箇所など、あるようには見えないのだ。
と、いうことは?
「(あと、処刑に必要なものと言ったら……あっ、もしかして、悪人かそうでないかを見分けるための道具とか?)」
その考えに、キヨカは自分で頷いた。
簡単、お手軽に使える処刑道具が、もしも間違って悪人の手に渡ってしまったら、悪人ではない人間が、それによって殺されてしまうかもしれない。
そういった事態を防ぐために、悪人と悪人以外を見分けて、悪人だけを処刑可能にする機能が、この【処刑セット】には備わっているのかも。
「(だとしたら……箱②の中身は、人間の脳波か何かを読み取って、その人が悪人かを調べる装置?)」
そんなものが本当にあるのかはわからない。
そもそも、組み立てたカプセルだって、あれで完成かどうかもまだわかっていない。
だが………
キヴォトスは犯罪率が高く、おおっぴらに犯罪する者たちも多いが、やはり大体の悪人は罪を隠して、素知らぬ顔で生きている。
そういう者たちを暴くことが出来れば、心強い。
まあどちらにせよ、箱②を開ければわかる話だ。
キヨカが箱②のフタに貼られたガムテープにカッターナイフの刃を入れて、テープを切り裂き、フタに手をかけた、そのときだった。 - 81二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 09:51:21
「キヨカー!いるー?」
玄関の方から声がする。
声の主は、放課後スイーツ部の伊原木ヨシミだ。
キヨカとヨシミは極めて仲が良い……というわけではないが、同じクラスで席が近いので、話す事が多い。
今は放課後だが、なんの用だろうか。
「(今いいところなのに……)」
ヨシミに悪い点が全くないのは理解しつつ、それでも少し怒りを覚えてしまう。
さっさと応対を終わらせて、処刑セット開封の続きをしよう。
キヨカは、玄関のドアを開けた。
「何?」
「今から落ち葉集めて皆で焼き芋するんだけど、キヨカも来ない?」
なるほど、だから声をかけてきたのか。
今は11月で、落ち葉が多く、掃除係さんが困っているのをよく見かける。
キヨカが住む寮の前は特に落ち葉が多いので、焼き芋には最適というわけだ。
「ごめんね、今ちょっとやらなきゃいけない事があって。今回はパスさせてもらう。」
キヨカは、迷わず断った。
落ち葉で焼き芋を作るのは面白そうだし美味しそうだが、自分にはやるべきことがある。
「そっか、時間とっちゃってごめんね!」
聞き分けがよく、帰っていくヨシミ。
それを見届け、キヨカは部屋に戻る。 - 82二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 17:18:58
インスタント死神といい、殺す道具多いな
児童文庫故の倫理観のなさやね - 83二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 21:54:20
「……あれ?」
部屋の中を見た瞬間、キヨカは違和感を覚えた。
その正体はすぐにわかった。
箱②だ。
箱②が開いている。
さっき封を切りはしたが、フタは開けていないはずだ。
キヨカは箱②に歩み寄り、上から覗き込んだ。
箱②は………空っぽだった。
その時。
物陰から、何者かが飛び出した。
その何者かはキヨカに飛びかかると、スタンガンの引き金を引く。
体が痺れ、動くことができなくなったキヨカは、目を見開く。
だれだ、おまえは。いったいいつ、どうして、この部屋の中に。
そう言うよりも前に、不審者は、薬品が入った注射器をキヨカの首筋に差し、薬を流し込んだ。
キヨカの全身が悲鳴を上げるかのようにこわばり、固まる。
どうやら薬品の正体は、麻痺毒のようだ。
不審者は完全に動けなくなったキヨカを抱えて……先程キヨカが完成させたカプセルの中に放り込んだ。
「(え……待って、これって処刑器具……やばい!)」
どれだけ叫ぼうとも、声は出ない。
不審者はカプセルを色々と弄り始め……やがて、カプセルが起動したのか、キヨカの身体が溶けるように熱くなっていく。
あるいは……実際に溶けているのかもしれない。
「(な……なんで……こんなことに……)」
耐えられぬ熱さの中で、キヨカは意識を手放した。 - 84二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 22:16:58
「……ん……」
「あ、起きた?」
気がつくと、キヨカの身体を包んでいた熱さが消えていた。
「時間にして約5分か……本当にお手軽だねぇ、この【処刑セット】。」
目の前にいるのは、先程キヨカを処刑カプセルに放り込んだ不審者。
よく見ると、ヘイローがある。キヨカとあまり年が離れていない少女だった。
「(あなた誰!?今どうなってるの!?)」
叫ぼうとしても、やはり声は出ない。
「何言ってるかわかんねーよ。とりあえずこれ見な。」
不審者が見せてきた鏡に映っているのはキヨカ……ではなく、一塊の木炭。
「(木炭って、まさか)」
『※当セットの処刑器具は、従来にない特殊技術を用いて、処刑対象となる悪人を一塊の黒炭に変えて処刑します。』
あの広告にあった、処刑セットの紹介文を思い出す。
ということは……自分は、木炭になってしまったのか。
「自分がどうなってるかわかった?じゃ、今度はこれだよー。」
不審者が次に見せてきたのは、一枚の紙。
【処刑セット】の器具を組み立てるとき、キヨカが放り出した、あの取説である。
それには、こう書いてあった。 - 85二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 22:17:09
『【処刑セット】取扱説明書
悪人を、自分の手で裁いてみたい……!
お客様のそんなニーズにお応えして生まれた商品が、この【処刑セット】です。
処刑に必要なあらゆるアイテムをあまさず詰め込んだ、非常に便利な【処刑セット】。このセット一つで、誰でも簡単、お手軽に、ご家庭で処刑が行えます!
商品名【処刑セット】
〈商品内容〉
箱①……組み立て式カプセル型処刑器具(一組)
麻酔薬(一瓶)
注射器(一本)
スタンガン(一台)
箱②……凶悪犯(一人)
〈商品説明〉
組みたてたカプセル型処刑器具を使って、セットに含まれている凶悪犯を処刑できます。
〈仕様上の注意〉
箱②を開封する際には、必ず以下の注意事項をお守りください。
•箱②を解放する前に、中に入っている凶悪犯に、付属の麻酔薬を全て注射してください。(注射用の小さな穴が箱に開いておりますので、それをご利用ください。)
•箱②を開封する際は、用心のため、スイッチを入れたスタンガンを構えた状態で開封してください。
•武器や武器になるようなものを、箱②の側に置かないでください。
※以上の注意事項をお守りいただけない場合、凶悪犯は非常に凶悪ですので、お客様の命の保証はできかねます。ご了承ください。』 - 86二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 00:26:27
なるほど、確かにお手軽だ。
凶悪犯を用意することで、悪人を探す手間まで省くとは。
「いや〜、解放してくれてありがとね、キヨカちゃん♪」
その言葉で、キヨカはやっと自覚した。
自分は凶悪犯を処刑するどころか、取説を読まなかった事で、一人の凶悪犯を世に解き放ってしまったのだ。
悔しくて泣きそうになる。
最も、乾ききった木炭に流す涙などないが。
「そうだ、外でヨシミちゃん達が焼き芋するって言ってたっけ?」
「(!?まさか、こいつヨシミにも何か……!)」
凶悪犯はスタンガンとキヨカがいつも携帯している銃を装備し、キヨカが物置の奥にしまっていた古いリュックサックを背負うと、木炭となったキヨカを手に取る。
その瞬間、キヨカの体には、掴まれるような感覚があった。
目が見えることと言い、木炭になっても五感は働いているらしい。
これが『従来にない特殊技術』なのだろうか。 - 87二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 00:38:00
「よーし、焼き芋大会開始よ!」
外では、ヨシミ達放課後スイーツ部が落ち葉を集め、焼き芋の準備をしていた。
そこに、見慣れない人影が立ち寄る。
キヨカの服に着替えた凶悪犯である。
「こんにちは!焼き芋するんでしょ?私木炭持ってるから、よかったら使ってよ!」
「本当?ありがとう!」
「(え……?)」
その木炭がキヨカである事など知る由もないヨシミは、何の疑いもなく木炭を受け取り、落ち葉の山に穴を作って、そこに入れた。
「よかったら、あなたも一緒に食べる?……あ、みんないい?」
「ヨシミがいいなら、私はいいよ。」
「私も!」
「知らない相手と、焼き芋を分け合う……これもまた、ロマン。」
「いいの?ありがとう、丁度お腹空いてたんだ!」
凶悪犯はあっという間に、ヨシミ達と打ち解けてしまった。 - 88二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 00:42:01
「じゃ、着火するわね。」
ヨシミがライターを手に取り、キヨカに向ける。
「(このまま燃えたらいずれ……それだけは!やめてヨシミ!気づいて!私だよ!お願い気づいて!ヨシミ!)」
木炭が喋ることなどできない。
叫びもむなしく、キヨカの体に火がつけられた。
「(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛熱いあづいあづい熱い熱い熱い熱い!!!いやだ!熱い!痛い!やめて!死んじゃう!)」
焼けていくキヨカの眼に映る、最期の景色は……
笑顔を浮かべる放課後スイーツ部と。
自分を嘲笑う、凶悪犯の顔だった。
しばらくして、火は消えた。
焼き芋に舌鼓をうつヨシミ達の後ろで、燃え尽きた木炭はボロボロと崩れ去った。 - 89二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 00:52:26
のぞニエアフタートーク【処刑セット】
ニエノ「【処刑セット】は魔の者達の中でも人気の商品ですね。簡単に【失望】を集められるので。」
のぞめ「今回の子みたいに凶悪犯を解き放っちゃう子もいれば、用意された悪人を木炭にして『……これだけ?』って感じる人もいる。やりやすいよね。」
ニエノ「しかし、凶悪犯に目をつけられたかもしれない放課後スイーツ部の子達、大丈夫ですかね?」
のぞめ「私らが心配した所で、どうしようもなくない?」
ニエノ「ま、そうですね。ぼくらも焼き芋食べます?」
のぞめ「たべる!」 - 90二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 07:34:36
前2つが「あ〜あ、ガッカリ」って感じだったのにいきなりエグい結末出してくるやん
- 91二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 14:47:48
- 92二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 20:02:16
面白いな
原作ないか明日本屋で探してみよ - 93二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 02:25:58
いいね
原作はキヴォトス耐久じゃないから犯人にキルされて終わってるけど、耐久だけはあるキヴォトス人だからこそ処刑シーンまで書ける良改変 - 94二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 02:28:25
↑でも話してるけど落差凄え…
どうせしょーもないアイテムなんだろなーからのこれは結構クる - 95二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 10:59:18
【冬しか買えないアイスクリーム ターゲット:栗村アイリ】
「あ、雪……」
眼の前をひらりと舞ったその一欠片に、アイリは思わず立ち止まって空を見上げた。
夜空の果てから、一つ、また一つと、月の粒が舞い落ちる。
上を向いてはいた息が、その景色を、一瞬だけ白く霞ませた。
「寒いと思ったら……わあ、この冬初めての雪だあ……」
マフラーをぎゅっと首元に押し付けながら、アイリは微笑んだ。
ふわりと軽く舞う雪は、まるで白い妖精のようだ。あとからあとから降ってくる雪の中には、もしかしたら、空の彼方からこの地上へやってきた妖精が、こっそり紛れているかもしれない。
そんなふうに思ってしまう。
メルヘンチックな空想は、アイリの胸をときめかせる。
何故アイリがメルヘンな空想をしているかと言うと。
「懐かしいなぁ〜……」
自分の部屋の本棚を漁っていたアイリは、一冊の絵本を見つけた。
アイリが小さい頃よく読んでいた絵本で、不思議な和菓子屋さんのお話だ。 - 96二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 11:15:06
街に古くからある、大きな桜。その桜の樹の下には、春になると、一軒の和菓子屋さんが現れる。
そのお店の商品ケースには、桜もちがずらりと並んでいる。そのお店では桜もち以外の和菓子は売っていないが、その代わり、そのお店の桜もちは、まさに絶品。
一度食べたら忘れられないその桜もちを求めて、沢山の街の人達が、そのお店を訪れる。
だけどそのお店は、桜が散るとともに、あとかたもなく消えてしまう。
そして、次の春が来て桜が咲くと、また同じ桜の木の下に、どこからともなくそのお店が現れるのだ。
そんな不思議なお店の店主は、桜色のエプロンをつけたおばあさん。
その店主は実は人間ではない。
たまらなくおいしい桜もちを作る、店主の正体。
それは、街に古くからある大きな桜の木に宿る、桜の精だったのだ。…………というお話。
「はあ……桜の精の、桜もち……」
絵本に描かれていた、ぽてりとやわらかそうな桜もちを思い出し、アイリはうっとりする。
一度でいいから食べてみたいな……
桜の精が作る桜もち。それはきっと、人間には決して作ることができないような、特別な味がするのだろう。
一口頬張れば、きっとほっぺたが落ちそうになるくらい、とびきり美味しいに違いない。
勿論、これは本の中の食べ物。実際には存在しないことは、アイリもわかっている。
けどやっぱり、ロマンは捨てられない。 - 97二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 11:17:31
知らない間に殺人犯になるヨシミに悲しい現在……
- 98二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 18:32:51
知らない間に殺人犯になるヨシミに悲しい現在早めに保守……
- 99二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 01:42:28
ミスってて草
- 100二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 01:45:21
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- 101二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 10:50:58
「キヴォトスにも、あの絵本に出てくるような、あんなお店があったらなぁ」
などと、絵本を思い浮かべて春気分に浸っていたら、ぴゅうっと雪混じりの北風が吹いて、アイリは体を震えさせた。
「ううっ、寒い……もう真っ暗だし、風邪でも引かないうちに、早く帰らなきゃ。まったく、冬は日が暮れるのが早いんだから。」
そうつぶやいて、アイリはようやく歩き出そうとした。
と、そのとき。
舞い落ちる雪と闇の向こうに、人影が見えた。
カラコロ、カラコロという音とともに、人影が近づいてくる。
やがて、青白い街灯の光が、その姿を浮かび上がらせた。
それは、大きなトランクを持った少女だった。
アイリと同じ年頃か、あるいは少し年下かもしれない、夜道で目立つ髪色の少女。
片目に眼帯をつけたその子は、片手でカラコロとキャスター付きのトランクを引きずり、もう片方の手は……アイスクリームを持っていた。 - 102二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 19:39:35
雪の夜、少女が一人、大荷物を運びながらアイスクリームを食べている。
色々チグハグなその光景を前に、アイリは歩き出すことも忘れて、ついついその子をじっと見つめた。
すると、相手もその視線に気づいたのか、キャスターを転がす音がぴたりとやんだ。
青白い光の下で立ち止まった少女と目が合う。
少女は片目だけでアイリを見つめ、にこっと人懐こい笑みを浮かべた。
足を止めたまま、アイリと目を合わせたまま、少女はコーンに乗った丸いアイスクリームをぺろりと舐めた。
「ええっと……美味しそうだね!」
何か言わないと、という気がして、アイリは少女に話しかけた。
少女は笑顔で頷いた。
「うん!とっても美味しいよ。チョコチップ入りのラズベリーアイス!」
そうして、少女はまた、ぺろりと、アイスクリームを舐めた。
ごくり。と、アイリは喉を鳴らした。
ラズベリーアイス……あの子が食べているのはてっきり、グレープかと思ってたけど、どうやらそれは、街灯の青白い光が、アイスクリームのピンクと重なって、紫色に見えていたかららしい。
ということは、この少女が着ているパーカーも、ハートにバッテンマークのついたその眼帯も、ラズベリーアイスと同じく、紫色じゃなくて、ピンクだったのか。
そんなどうでもいいことを、ちょっと考えたあと。
アイリは「あれ?」と思って、少女に尋ねた。
「この近くに、アイスクリームのお店なんて、あったっけ……?」
この近くの道は、アイリもよく通る。
でも、少女が食べているようなアイスを売っているアイス屋さんには、心当たりがない。 - 103二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 23:56:46
首を傾げるアイリに対し、少女はアイスを持つ手で道の奥を指さしてみせた。
「お店ならあっちにあるよ。小さなアイス屋さんだけど、いろんな種類のアイスがあって、どれもとびきり美味しいの。」
「へぇ〜、そうなんだ!そんなお店があるなんて、知らなかった。」
アイリがそう言ったとき、再びぴゅうっと、風の音が鳴った。
一つくしゃみをして、アイリは服や髪についた雪を払い落とした。
それから、平気な顔でアイスを食べている少女に話しかけた。
「その……いくらおいしくても、こんな雪の日に外でアイスたべるのは、寒かったりしない?」
すると少女は、「うーん」と少し考えてから言った。
「そりゃ寒いよ。でもこのアイスは、寒い時じゃないと食べられないから。」
「え?どういうこと?」
「うん、あのね。とびきり美味しいアイスクリームを売っているお店は、冬しか買えないアイスクリームのお店なの。春になってあったかくなると、あのお店は、何処かに消えてなくなっちゃうの。春や、夏や、秋の季節に、あのお店は何処を探しても見つからない。でも、雪の降る季節になると、何処からともなく、あのお店は現れるんだ。」 - 104二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 08:55:05
少女の話を聞いて、アイリはドキリ、と胸を高鳴らせた。
冬しか買えないアイスクリームのお店。
季節こそ違っているけれど、それはまさに、あの絵本のような話ではないか。
「(行ってみたい……!)」
アイリは、居ても立ってもいられなくなった。
そのお店を、この目で見てみたい。
そのお店の、とびきり美味しいアイスクリームを食べてみたい!
「えっと……この道の先だよね?」
興奮を抑えきれない上擦った声で、アイリは少女に話しかける。
少女は、こくりと頷いた。
「そうだよ。この道をまっすぐ、ずーっとまっすぐ歩いていけば、そのアイス屋さんに辿り着くから。」
少女の言葉にアイリは「ありがとう!」と頷いて、青い光が連なる道の奥を見つめた。
それからもう一度少女の方を見ると、さっきまてそこにいた少女の姿は、音もなくいつの間にやら何処かに消えていた。 - 105二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 17:07:05
保守
- 106二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 01:40:05
ごめん明日書く
保守 - 107二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 09:56:10
街灯の青白い光を、いくつもいくつもくぐり抜けて進んでいくと、やがて住宅地の家並みが途切れて、木々に囲まれた公園の横に出た。
その道の奥に、ぽつんと明かりが灯っていた。
建物の軒先に何個か並んでぶら下げられた、電球の明かり。
近づくと、音楽が聞こえてきた。
建物の前に置かれた古ぼけたスピーカーが流している、雑音まじりの楽しげな音楽。
その建物の前には、
【冬しか買えないアイスクリーム】
と書かれた看板が建てられていた。
「わあ、かわいいお店!」
アイリは、胸の前で両手の指を組んで、声を上げた。
夜の闇の中に浮かび上がる、白い壁の店。
その建物の大きさは、ちょっとした屋台かワゴン車と同じくらいで、あの眼帯の少女が言っていた通り、小さなお店だった。
店の人が一人か二人入ったら、それだけで建物の中がいっぱいになってしまいそうだ。
「入口もなし……これ、アイスはお店の外から買うのかな?」
店の周りをぐるりと一周したところ、ドアは建物の裏に一つあるだけだった。そっけないその裏口は、どうみても客用のものではない。店の人が使うドアなのだろう。 - 108二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 19:00:41
入り口がない代わりに、建物の正面には小さな窓があった。
窓は板で塞がれていたが、そこには『営業中』と書かれた張り紙がしてあって、そのすぐ横の壁に、インターホンらしきものがある。
窓の下には、色とりどりのアイスクリームの見本を並べたサンプルケース。
窓の上には、白とパステルカラーで彩られた、縦縞模様の布の屋根。
そんなお店構えを見たアイリは、
「アイスを選んでインターホンで注文ってことだよね。」
と呟き、サンプルケースに近づいた。
前かがみになって、ケースの中でライトに照らされた、色鮮やかな作り物のアイスクリームを覗き込む。
ミルク、バニラ、ヨーグルト、チーズ、ラムレーズン。
チョコレート、チョコミント、キャラメル、コーヒー。
ストロベリー、ラズベリー。
小豆、抹茶、黒蜜、みたらし。
レモン、バナナ、グレープ、オレンジ、パイナップル……
「ん〜、迷っちゃう!」
目移りしつつ、アイリは目を輝かせる。
「やはりここは1番好きなチョコミントに……?でも、『アイス屋さんのランクはバニラで決まる』とも聞くからバニラ……あの子が食べてたラズベリーも美味しそうだったなぁ……」
そこでふと、アイリはサンプルケースの中にある、二段重ねのアイスのサンプルに目を留めた。
二段重ねのコーンアイスは、一際心ときめくアイスの形だ。
それに二段にすれば、一度に二種類のアイスが食べられるし。
でも……
「夏ならともかく、こんなに寒いのに、一度に沢山アイスを食べたらお腹壊しちゃうかも……」 - 109二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 19:08:41
残念だけどここはやっぱり、食べ切れそうな一段にしておこう。
そう思い、アイリは一番好きなチョコミントアイスを買うことにした。
「あの〜……」
と、アイリは、窓の横のインターホンに話しかける。
プツッ……ジー……………
スピーカーの向こうから、かすかな雑音が響いた。
その雑音に重なって、
『はあい、いらっしゃいませぇ』
と、店の人らしき声が返ってきた。
『ご注文は、お決まりですかぁ?』
男の人とも女の人ともつかないその明るい声は、歌うような調子で喋る。
その声と喋り方は、店先で流している楽しげな音楽に、なんだかぴったり似合っていた。
「チョコミントをシングルで一つください!」
『はあい、かしこまりましたぁ』
少々おまちくださあいと店の人が言って、スピーカーの雑音がぷつっと消えた。