- 1◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:42:02
- 2◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:42:32
自由の対価を分かっていたはずだった。
この走り方には限界がある。
これ以上走り続ければ二度と歩けなくなる。
分かっていた。
ただ、それが口にされた瞬間、アタシたちの契約は砂のように崩れた。
乾いた誓いは、湿った現実に耐えられなかった。
自由の価値を知る人だと思っていた。
いつまでもアタシに夢を見る人だと思っていた。
アタシの後ろで、支えてくれる人だと思っていた。
結局キミが一番、残酷だった。
すべてを理解してくれているようで、何も差し出してはくれなかった。 - 3◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:42:57
黙って見送ることが、優しさだと思っていたんでしょ?
違うよ。
あのとき、アタシの走り方を肯定してほしかったんじゃない。
一緒に間違えてほしかっただけなのに。
止まることは、死ぬことだった。
赤黒く錆びついた鋼の脚は、脆く、崩れ去った。
音もしなかった。
乾いた唇から吐息が漏れる。 - 4◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:43:36
「アタシ、走るの好きだったよ」
砂時計の砂のように、言葉が落ちていく。
「苦しいし、しんどいし、足だって痛くなるけど……でも、アタシはちゃんと自分でいられた」
終わるのが怖かった。
「ねえ、トレーナー。キミはアタシを守ろうとしたんだよね」
それは正しかった。
「ずるいよ、キミだけまだ走れるなんて」
分かっていた。
でも。
崖下の波飛沫が無音で立ち昇る。
波打ち際に割れたレンズの欠片が光っているのが見えた。
届きそうで、絶対に届かない距離。
飛べたらいいのに、と思う。
どこまでも、風になって、この曇天を駆けていけたら。
足は動かなかった。 - 5◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:44:10
そんな勇気もなかっただろう。
水平線は霧に煙ってもう見えない。
終わった世界だけが、ひっそりと残されていた。
跳ね上がる青草の匂いも、インクと煙草の滲むシャツの匂いも、ここにありはしなかった。
「キミに、会いたいな……」
頬にぽたり、と冷たい感触。
いつのまにか雪はみぞれに変わっていた。
遠く、灯台の灯りが一瞬だけ点いた気がした。
もう誰もいないはずの塔の上で、誰かがまだ、空を見ているような気がした。 - 6◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:44:43
それでもきっと、それは幻だ。
アタシはそれすらも信じてしまうほど、弱くなっていた。
きっと、希望のふりをした別れが灯した残り火だった。
だからもう、ここでいい。
冷えたハンドリムを握るのにも疲れた。
何も持たずに来たこの場所で、アタシは凍る。
静かに息を閉ざして、アタシはうずくまる。
雪は降り続ける。
輪郭のない時間が、静かにアタシの肩を埋めていく。
鈍色の世界は白に塗りつぶされて。
きっとどこにも辿り着けない。 - 7◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 12:48:56
終わり
スランプ真っ只中に書いてるのであまり好きな展開にはできなかったです
シービーごめんね
前作はこちらからどうぞ
古い話【SS注意】|あにまん掲示板——ああ、悪いね。つい話し込んでしまって。君との話は本当に面白いから時間を忘れてしまうよ。こういうの、久しぶりだったんだ。嬉しいもんだよ、最近は誘われることもめっきり減ったからねぇなに、こんなご時世だ…bbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 13:28:43
悲しいなあ
けれども美しい - 9二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 13:40:55
救いがない…
今からでも夢オチとかならねぇかなぁ - 10二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 14:14:02
救いは無いんですかね
三女神、何とかしろ - 11二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 14:40:09
あったかも知れない結末の一つ
哀しくも目が離せない…… - 12◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 19:32:32
- 13二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 19:41:58
シービーにとっちゃ走ること=生きること=自己の存在確認みたいなもんだしなぁ
それが奪われることは世界が崩壊するのと同じだよな…
きっとトレーナーはシービーのことを一番愛していたんだろうけど - 14◆GfmocIZ7xY25/05/06(火) 21:37:06
- 15二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:01:28
どこかのブログでシビトレはシービーのイエスマンでしかないみたいな記事を見たことがあったけどそれを思い出したわ
引退どころか歩けなくなるという極限の状態まで追い込まれたらシビトレはどんな選択を取ったんだろうな