- 1二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 14:59:50
- 2二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:01:31
ところがあさり先生は早くもそれを見つけたのでした。
「葛城さん、わかりますか?」
リーリヤは勢いよく立ち上がりましたが、立ってみるとうまく声を出すことができないのでした。手毬ちゃんが前の席から振り返って、リーリヤをじっと睨みました。リーリヤはもうどぎまぎして真っ赤になってしまいました。先生がまた言いました。
「原理としては、蛍光灯と似ているんですよ」
やっぱりプラズマだとリーリヤは思いましたが今度も答えることができませんでした。
先生はしばらく困った様子でしたが、眼を居眠りしている清夏ちゃんのほうへむけて、
「では、紫雲さん」と名指しました。
するとあんなにぐっすり眠っていた清夏ちゃんが、ぴーんと立ち上がりましたが、何が何だかわからないというように答えができませんでした。
先生は呆れたようにしばらくやれやれと清夏ちゃんを見ていましたが、急いで、「では」と言いながら、自分で写真を指しました。
「このオーロラや蛍光灯などは、一般にプラズマと呼ばれるものなんです。リーリヤさんそうでしょう」
リーリヤは真っ赤になって頷きました。いつしかリーリヤの眼の中には涙が浮かんでいました。そうだ私は知っていたんだ、勿論清夏ちゃんも知っている。それはいつか寮の部屋で清夏ちゃんと一緒に見たアニメの中にあったんだ。それを清夏ちゃんが忘れる筈もなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、きっと居眠りをしていたからだけど、この頃私が、朝にも午後にもレッスンが辛く、放課後にも清夏ちゃんと遊ばず、清夏ちゃんとあんまり話す時間が取れないので、清夏ちゃんが最近憂鬱そうにしている理由がわからないのでした。そう考えるとたまらないほど、自分も清夏ちゃんもあわれなような気がするのでした。 - 3二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:05:09
先生はまた言いました。
「地球のまわりをふくめて宇宙には、太陽をはじめとした自分で光を出す恒星から出た電気を帯びたつぶが飛びかっています。恒星はたいへん温度が高いので、星を作っている物質の一部が熱によって分解し、電気を帯びたつぶになるためです。このような電気を帯びたつぶをプラズマといい、ガスのように薄く広がって宇宙の中を動いています。
わたしたちの太陽も光や熱だけでなく、毎秒100トンというたくさんのプラズマなどを宇宙空間にはき出し、その一部は地球にもとどきます。地球にちょうど風のように吹きつけるため、これを太陽風と呼んでいます。
太陽風が地球にとどくと、その一部のプラズマが地球の大気に飛び込みます。プラズマと大気を作っている酸素や窒素とがぶつかると光が出ます。それがオーロラの正体です。それではオーロラが見える地域の分布についてなどは、次の授業ターンのときにお話しします。今日は日本でもオーロラが見える日だそうですから、よければ空を見上げて見てくださいね。ではここまでです。教科書やノートをしまってください」
そして教室中はしばらく教科書を重ねたりする音でいっぱいでしたがまもなくみんなはきちんと立って礼をすると教室を出ました。 - 4二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:07:09
リーリヤがレッスン室を出る時、同じ組の何人かと清夏ちゃんが廊下の隅に集まっていました。寮に帰る前にどこかに寄って行こうかと相談しているらしかったのです。
けれどもリーリヤはすぐにレッスン室に戻りました。さっき習ったところをもう少し復習しておきたかったのです。
レッスン室ではダンストレーナーが後片付けをしていたようでしたが、リーリヤの姿を見ると「まだやるのか。精が出るな」と少し驚いたように言い、部屋を出て行きました。リーリヤは荷物を部屋の隅に下ろすと、軽く体を動かし始めました。まだ部屋でおしゃべりをしていた人たちの1人ががリーリヤの後ろを通りながら、「がんばるねー、留学生」と言うと、残りの人たちが声をあげて笑いました。 - 5二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:08:03
- 6二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:15:54
リーリヤが勢いよく帰ってきたのは、学園にある寮の一室でした。
「清夏ちゃん。今帰ったよ。具合はどう?」
「あ〜リーリヤお帰り〜。レッスンおつかれ。あたしはいつも通りかな」
リーリヤが部屋に入ると清夏ちゃんがベッドに寝転がって休んでいたのでした。リーリヤは冷蔵庫を開けました。
「清夏ちゃん。今日は食パンと卵を買ってきたよ。フレンチトーストを作ってあげようと思って」
「最高じゃん!明日の朝が楽しみ〜」
「あれ、清夏ちゃん、誰か来てたの?」
「あ〜さっき咲季っちがね」
「牛乳ってもうなかったかな?」
「なかったっけ?」
「私買ってくるよ」
「また後でいいじゃん。咲季っちがね、何か作って置いてってくれたよ」
「それじゃあ、いただこうかな」
リーリヤは冷蔵庫からパサチキパサチキペーストペーストブロッコリーサプリメント謎の汁を取り出してしばらく食べました。 - 7二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:21:27
「ねえ清夏ちゃん。私センパイはきっとまもなく帰ってくると思うよ」
「あ〜あたしもそう思う。でもリーリヤはなんでそう思うの?」
「だって今朝のニュースで今年はベーリング海の漁は大変良かったって言ってたよ」
「あ〜、でもねえ、Pっちは漁へ出てないかもよ」
「きっと出てるよ。センパイが学園を追い出されるようなそんな悪いことをしたはずがないもん。すぐたくさんのカニをとって戻ってきてくれるよ」
「Pっちはこの前はリーリヤにタラバガニをとってくるって言ってたねえ」
「みんなが私に会うとそれを言うよ。揶揄うように言うの」
「……リーリヤに悪口を言うの?」
「うん、でもことねちゃんなんかは絶対言わないよ。ことねちゃんはみんながそんなことを言うときは気の毒そうにしているよ」
「ことねっちは優しいからなぁ」
「アルバイトもすっごく頑張ってるみたいだよね。私がレッスンを終わって帰る時、よくアルバイト帰りのことねちゃんと会うんだ。夜遅いから星とかがよく見えてね」
「そういえば今日は日本でもオーロラが見えるらしいじゃん」
「うん、私牛乳を買いにいきながら見てくるよ」
「いってら〜。気をつけてね」
「大丈夫。十五分で行ってくる」
「ちょっと遊んできてもいいんじゃない」
「そ、そんなことしないよう。清夏ちゃん、エアコンつける?」
「おねがーい、もう寒いよね」
リーリヤは立ってエアコンをつけ、タッパーを片付けると勢いよく靴を履いて「じゃあ10分で行ってくるよ」と言いながら暗い戸口を出ました。 - 8二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:24:20
リーリヤは、口笛を吹いているような寂しい口つきでまばらな街灯のある道を歩いて行こうとしましたが、そもそも口笛が吹けないので鼻歌でWhite Night!White Wish!を奏でながら歩きました。
(吐く息全部白くなって、駆け出した街一面、雪の結晶まとったTrue Heart)
とリーリヤが歌いながら、気持ち大股に街灯の下を通り過ぎたとき、いきなりクラスメイトの1人が、コートを着て電燈の向こう側の暗い路地から出てきて、ひらっとリーリヤとすれ違いました。
「こ、こんばんは」リーリヤがそう言ってしまわないうちに、
「留学生、プロデューサーさんからカニが届くよ」その子が投げつけるように後ろから叫びました。
リーリヤは、ぱっと胸が冷たくなり、そこらじゅうきぃんと鳴るように思いました。
「みんなはどうして私が何もしないのにあんなことを言うんだろう。センパイのことを何も知らないのに。私が何もしないのにあんなことを言うのは私が未熟だからだ」
リーリヤはせわしく色々のことを考えながら、そろそろポツポツとイルミネーションが飾られ出した街を通って行きました。アニメイトの看板は明るく光り、ゲームセンターのごちゃごちゃと騒がしい光と音が漏れ出てきます。そのガラス扉にいつか見たアニメのポスターが飾ってありました。リーリヤは我を忘れてそれに描かれているオーロラに見入りました。
それは昼学校で見た写真に負けず劣らず鮮やかな絵で、黄緑のカーテンの下には真っ白な雪原が続いていて、ああ私はその中をどこまでも歩いてみたいと思ってたりしてしばらくぼんやり立っていました。 - 9二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:26:54
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- 10二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:28:14
それから俄かに牛乳のことを思い出してリーリヤはその店を離れました。街は迫りくる冬の行事やその先の年末にむけて少しづつ活気が増しているようで、街路樹などはすでにLEDライトがついてキラキラと光っていますし、ケーキ屋などはケーキの予約を開始したと高らかに謳っています。けれどもリーリヤは、いつかまた深く首を垂れて、そこらの賑やかさとはまるで違ったことを考えながら、コンビニの方へ急ぐのでした。
コンビニに入店すると牛乳を探しましたが見つからず、店員に聞こうにもレジに誰もいません。
「こ、こんばんは、ごめんなさい」リーリヤは遠慮がちに叫びました。するとしばらく経ってから、金髪の女の子が、目を擦りながらよろよろと出てきてお待たせ致しましたと言いました。
「こ、ことねちゃん?ここでもバイトしてたんだね……」
「あれ、よくみたらリーリヤじゃーん……こんな時間になんかあったの?」
「あの、私、牛乳を買いに来たんだけど見当たらなくて、どこにあるのかなって……」
「あー、多分ちょうど売り切れてるんだよねぇ……明日じゃダメなの?」
ことねちゃんはまだ眠そうに目を擦りながら、リーリヤを見て言いました。
「明日の朝に飲みたいから今晩じゃないと」
「んー、あとちょっとしたら補充の商品がくるから、もうちょっと経ってから来たら?」」
「そっか、ありがとうことねちゃん」
リーリヤはお辞儀をしてコンビニから出ました。 - 11二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:29:19
交差点を渡ろうとしましたら、向こうの駅に行く方の雑貨店の前で、6、7人の生徒らが、おしゃべりしたり笑ったりして、めいめいスマホの光を照らしてやってくるのを見ました。その笑い声もおしゃべりも、みんな聞き覚えのあるものでした。リーリヤの同級生の子たちだったのです。リーリヤは思わずどきっとして戻ろうとしましたが、思い直して、そちらの方に歩いて行きました。
「こ、こんばんは」リーリヤが言おうとして、少しのどがつまったように思ったとき、
「留学生、カニが届くよ」1人が言いました。
「留学生、カニが届くよ」すぐみんなが続いて言いました。リーリヤは真っ赤になって、もう歩いているのもわからず、急いで通り過ぎるようにしました。交差点を渡り切って、振り返ってみると、彼女らがやはり振り返ってみていました。なんとも言えない気持ちになって、いきなり走り出しました。 - 12二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 16:04:59
タイトルが上手すぎるしカニ漁に送られる系の世界線とコラボしてるし
- 13二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:41:40
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- 14二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:51:40
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- 15二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:53:36
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- 16二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:57:52
一つ道を逸れれば、ピカピカした光は少なくなり、建物の間から夜空が見えるようになりました。リーリヤは、薄暗く浮かび上がる住宅街への道をどんどん歩いて行きました。大通りの明るい光が差し込んで、一筋の道のように照らし出されてあったのです。
箱のような家が並ぶ住宅地を抜けると、俄かにがらんと空が開けて、天の川がしらしらと南東から北西へ渡っているのが見えました。そして先生の言っていたように、真っ赤なオーロラが空に揺らめいていたのです。
リーリヤは近くにあったベンチに腰を下ろしました。街の灯は遠くで煌めき、人の声などはかすかに響いてくるばかりで、リーリヤの少し火照った体も冷たく冷やされました。
駅に近づく電車の音が聞こえてきました。その中にはたくさんの人が、吊り革に捕まりながらため息をついているのだと考えると、リーリヤは、もうなんとも言えず悲しくなって、また目を空に挙げました。
あああの赤い帯がオーロラだって言う。
ところがいくら見ていても、その空は昼の写真で見たような、昔故郷で見たような、綺麗なオーロラだとは思えませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、それは空が燃えているように考えられて仕方なかったのです。そしてリーリヤはすぐそこにある街の喧騒や明かりがぼんやりして遠ざかっていくような気がしました。 - 17二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:58:48
そしてリーリヤはすぐ真上の真っ赤なオーロラがいつか黄緑に変わり、幻想的にゆらゆらと揺らめいているのを見ました。それはどんどん広がって、やがて玉虫のような燐光が空を覆い尽くしてしまいました。
するとどこかで、不思議な声が、極光ステーション、極光ステーションという声がしたと思うといきなりぱっと目の前が明るくなって、リーリヤは思わず目を擦ってしまいました。
気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、リーリヤの乗っている小さな列車が走り続けていたのでした。ほんとうにリーリヤは、夜のレトロな鉄道の、オレンジがかった電灯の並んだ車室に、窓の外を見ながら座っていたのです。車室の壁や床は黒や紺に塗られていますが、座席だけは明るい緑の皮が張られています。
すぐ前の席に、鮮やかな橙の髪をした、背の高い女の子が、窓から外を見ているのに気がつきました。それは清夏ちゃんだったのです。 - 18二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:59:52
リーリヤが、清夏ちゃん、どうしてここに、と言おうと思ったとき、清夏ちゃんが、「みんなはめっちゃ頑張ったけど乗れなかったみたい。手毬っちもね、めちゃ走ったけど追いつかなかったよ」と言いました。
リーリヤは、(そうだ、私たちは今、一緒に誘って出かけたんだ、っけ?)と思いながら、
「どこかで待ってようか……」と言いました。すると清夏ちゃんは、
「手毬っちならもう帰ったよ。咲季っちが迎えに来てたし」
清夏ちゃんは何故かそう言いながら、目を伏せて、どこか悲しそうでした。リーリヤも、何かを忘れているような気がして、すっかり黙ってしまいました。
ところが清夏ちゃんは、窓から外を覗きながら、もうすっかり元気になった風で、勢いよく言いました。
「楽しみだねリーリヤ。もうすぐスウェーデンに着くよ。あたし、スウェーデンがほんとに好き。なんたってリーリヤの生まれ故郷だもんね」
列車の窓からはなおも黄緑色のオーロラが見えているのですが、視界を落とせば真っ黒な海が広がっています。そして水平線の近くに、ぼやりと陸地があるような気がするのです。
「なんだろあれ。グリーンランド?」
「うーん、グリーンランドは通り過ぎちゃったんじゃないかな。多分アイスランドだと思う」
「あたしたち、すっかり遠いとこまで来ちゃったねぇ」
「そうだね。ところで、この列車、どうやって動いてるのかな?」
「んー、電気、はないだろうし、なんだろ、でぃーぜる?とかじゃない」
たわいもない話をしながら、しばらく光の踊る窓の外を清夏ちゃんと眺めていました。 - 19二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:52:15
「Pっちはさ、あたしを許してくれるかな」
いきなり、清夏ちゃんが、思い切ったというように、少しどもりながら、急きこんで言いました。
リーリヤは、
(ああ、そうだ、センパイは、この海のずっとずっと向こうのどこかの海峡にいて、今も私たちのことを考えているんだった)と思いながら、ぼんやりして黙っていました。
「あたしはPっちが、ほんとうに幸せになるなら、どんなことでもする。だけど、一体どんなことが、Pっちの一番の幸せなんだろ」
清夏ちゃんは、なんだか、泣き出したいのを一生懸命こらえているようでした。
「センパイは、なんにもひどいことないよ」
リーリヤはびっくりして叫びました。
「あたしわかんない。でもさ、どんなプロデューサーだって、担当アイドルの成功が、一番の幸せだよね。だから、Pっちはあたしを許してくれると思う」
清夏ちゃんは、何かほんとうに決心しているように見えました。 - 20二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:53:39
俄かに、車の中が、ぱっと白く明るくなりました。見ると、いつしか列車は陸地に乗り上げ、煌びやかな港町の夜景が見えるのでした。
「メリクリ、メリクリ」前からも後ろからも声が上がりました。振り返ってみると、車室の中の旅人たちは、みな頬を紅潮させ、クリスマス前の港町に見入っているのでした。思わず2人も立ち上がりました。清夏ちゃんの頬は、まるで熟した林檎のように美しく輝いて見えました。
そして港町の明かりは、だんだん後ろの方へうつって行きました。リーリヤの後ろには、いつから乗っていたのか、紫の髪の少女と、何か見覚えのある藍色の髪の少女が並んで座っていて、何か物思いに耽っているようでした。「もうじきスウェーデンに着くわね」「すー、すー、むにゃ」いえ、1人は寝ているようでした。
列車はだんだんゆるやかになって、間もなくプラットフォームの一列の電燈が、うつくしく規則正しく現れ、それがだんだん大きくなって広がって、2人は丁度停車場の、大きな時計の前に止まりました。
しんとした冬の時計のしたには、[♡5消費]と書いてありました。
「あたしたちも降りてみよっか」清夏ちゃんが言いました。
「降りよう」
2人が誰もいない改札口を抜けると、そこは真っ白に雪を被った山森の丁度中腹でした。先に降りた人たちは、もうどこに行ったか見えませんでした。2人が雪を踏み分けながら、肩を並べて行きますと、雪あかりに照らされた2人の影は4つに8つに分かれてまわりました。そしてまもなく、森が開けて夜空が上いっぱいに広がりました。頭上には幾万もの星が瞬き、しかしそれを隠すように緑色のオーロラが揺らめいていました。 - 21二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:15:28
読んでて気持ちいい😊
- 22二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 07:37:35
- 23二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 12:10:37
- 24二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 12:11:45
莉波先輩が、少しおずおずしながら、2人に聞きました。
「リーリヤちゃんたちは、どこまで行くの?」
「えぇっと、わかりません……」リーリヤは、少しきまり悪そうに答えました。
「それはいいことだよ。きっとどこまでも行ける」
「りなみん先輩は、どこに行くんですか」清夏ちゃんが突然聞いたので、リーリヤは驚きました。すると向こうの席に座っていた十王会長がちらっとこっちを見て笑いましたので、清夏ちゃんも少し恐縮していました。しかし莉波先輩は怒った風でもなく、にこやかに笑いながら返事しました。
「私は暗黒星まで。清夏ちゃんも、もしかすると、同じかな?」
リーリヤは思わず清夏ちゃんの方を見ましたが、清夏ちゃんは静かに俯いていました。
「なんで行くんですか」
「うーん、私ももう3年生だしね、そろそろ潮時かなって」
清夏ちゃんは何も答えず、莉波先輩もそれ以上何も言いません。リーリヤは何かとてつもなく不安な気持ちになりましたが、何も言えず黙っていました。 - 25二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 12:24:03
こいつもしや大文豪?
- 26二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 12:34:54
良い初星文学スレですね
- 27二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 16:57:40
「そうだ、2人とも、お腹空いてない?さっきお寿司を買ったんだけど」
明るく振る舞うように、莉波先輩は言って、荷物から紐で縛られた小包を取り出して広げると、色とりどりの刺身が乗ったお寿司が出てきました。
「さあ、遠慮せずに食べていいんだよ」
リーリヤはきらきらしたオレンジのサーモンを、清夏ちゃんはツヤツヤした白いイカをもらって食べました。
「もう一つどうぞ」と莉波先輩が包みを差し出します。リーリヤはもう少し食べたかったのですけれども、
「いえ、ありがとうございます」と言って遠慮しましたら、今度は向こうの席の、十王会長に出しました。
「お寿司好きの莉波にもらうのは申し訳ないわ」十王会長はそう言って断りました。 - 28二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 17:08:42
ジョバンリーリヤと清夏ムパネルラ好き
- 29二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 19:36:41
宮沢賢治も学マスやるんだな
- 30二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 21:18:44
野生の宮沢賢治P
- 31二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 21:44:15
「さあ、もうこの辺りはアラスカよ。あの氷河が見えるかしら」
窓の外の、依然真っ黒な山々は雄大な氷河に覆われ、空に輝くオーロラを反射して色々に輝いていました。
「切符を拝見するぞい」
3人の席の横に赤い帽子を被った学園長がいつかまっすぐに立っていて言いました。莉波先輩はすぐに荷物から白いチケットを出しました。学園長はちょっと見て、少し頷くと(お主らのは?)というように、指を動かしながら、手をリーリヤたちの方へ出しました。
「えっと……」リーリヤは困って、もじもじしていましたら、清夏ちゃんはわけもないという風で、はつぼしと判の押された切符を出しました。リーリヤはすっかり慌ててしまって、もしか上着のポケットにでも、入っていたかなと思いながら手を入れてみましたら、何かごろごろしたいくつかのものに当たりました。こんなもの入っていたっけと思って、急いで出してみましたら、それはマゼンタ色に輝く3つの宝石でした。学園長が手を出しているもんですから何でもいい、出してみようと思って渡しましたら、学園長はまっすぐに立ち直って丁寧にそれを見ていました。時折光に透かしたりなどしていましたし十王会長も興味深そうにのぞいていましたから、リーリヤはあれは通貨の代わりにでもなるのかなと考えて胸を撫で下ろしました。 - 32二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 22:52:02
- 33二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 02:29:07
- 34二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 09:00:57
「ことね、あなた……」
と十王会長は思わず口を開いて、でもその先を言うべきか迷っているという風に目を伏せていましたが、ようやく決心したようで目を開くと、「ことね、どうしてここに?」と尋ねました。
「いやー、今日、このチビたちが急に会いにきたんですよ。コイツらだけで、お母さんにも言わずに。それだけ、寂しい思いさせちゃったんだナーって。でぇ色々話してるうちに、決心ついたんです。お母さんも、チビどもも、あたしもこのままじゃずっと悲しいままなんで」
「そう……」十王会長はもう言葉もないようでした。
リーリヤも清夏ちゃんも今まで忘れていた色々のことを思い出して目が熱くなりました。
(ああ、ことねちゃんがいろんなものを犠牲にしてアルバイトでお金を稼いでいるように、センパイも今頃どこかで必死に働いているんだ。センパイの幸せのために、私に一体何が出来るだろう)リーリヤはすっかり塞ぎ込んでしまいました。
「ことねが幸せになることが一番だわ。私はことねの選択を応援する」
「会長こそ。選んだ道なんですもんね」
ことねちゃんの下の子たちはいつしかすやすやと寝息を立てていました。 - 35二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 09:29:09
久しぶりに見たな初星文学
- 36二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 09:38:47
宮沢賢治はいいぞ
青空文庫でたくさん読めるぞ - 37二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 12:33:13
- 38二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 20:20:07
全然理由わかんないけどPは今もカニ漁がんばってるんやな…
- 39二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 21:37:24
まもなくオーロラのトンネルを抜け、その先に行くと、星がどんどんまばらになって、代わりに真っ黒い闇が空を制しているのでした。
「もうじき暗黒星ね。準備なさい」
十王会長が言うと、ことねちゃんはまだ眠っている妹を起こし始めました。
「俺もう少し乗っていたい」男の子が言いました。起き抜けの女の子も、口にはしませんが同じ気持ちのようです。
「駄々捏ねんなって。ここで降りなきゃいけないんだよ」
「やだ、やっぱり降りたくない」
リーリヤがこらえかねて言いました。
「私と一緒に乗っていこう?ことねちゃん、ここで降りなくてもいいんじゃないかな」
「ごめんなリーリヤ、もう決めたことだしサー、これ以上お母さんを待たせたくないんだわ」
ことねちゃんや、莉波先輩も優しく微笑んでいました。リーリヤは危なく声をあげて泣き出すところでした。 - 40二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 23:07:03
「さあもう支度はいい?じきに暗黒星よ」
そのときでした。真っ暗な空を進む列車の窓から、真っ黒な何かが見えました。黒い宇宙の中でも一際黒々く、列車が来るのを待ち構えているようでした。いよいよ星は見えず、列車はだんだんゆるやかになりすっかり止まりました。
「さ、降りよ」ことねちゃんは弟と妹の手を引き出口の方へ歩き出しました。
「さよなら」十王会長は振り返って私を見て、寂しく笑って行きました。莉波先輩も続きます。
「清夏ちゃん!」
リーリヤが振り返りながら叫びましたらその今まで清夏ちゃんの座っていた席にもう清夏ちゃんの姿は見えず、緑の皮が張られているばかりでした。リーリヤは叫び出したいのをこらえて、声を出さずに泣きました。もう辺りがいっぺんに真っ暗になったように思いました。 - 41二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 23:08:10
- 42二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 23:08:53
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- 43二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 23:11:29
- 44二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 03:06:34
突然泣き出してしまったリーリヤが泣き止むまで、清夏ちゃんはあわあわとしながらもリーリヤの手を握っていました。
「もう大丈夫。ありがとう」
リーリヤは急に恥ずかしくなって、真っ赤になって清夏ちゃんの手を離しました。
「もういいの〜?もっと握っててもいいんだよ?」清夏ちゃんは揶揄うように言いました。
「もう、清夏ちゃんたら」
言いながら、リーリヤは清夏ちゃんを見つめました。リーリヤの目には、清夏ちゃんはいつものように見え、そしてさっきまで一緒にいた清夏ちゃんとも同じようでした。
「妙ね。私たちはさっき確かに……」
「すー、すー」
列車は真っ黒い海の上を走っているようでした。また空には、緑の見事なオーロラが広がっていました。 - 45二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 08:03:57
列車はだんだんゆるやかになって、2人は停車場にある大きな時計の前に止まりました。しんとした冬の時計の下には、[♡10消費]と書かれていました。
「……」
「清夏ちゃん?」
列車の扉が開き、流れ込んできた冷気が足をくすぐりますが、清夏ちゃんは立ちあがろうとしません。
「清夏ちゃん、降りないの?」
「ん?ん〜いいかな、外は寒そうだし」
「そう……」
清夏ちゃんが誰もいないホームを眺めたまま答えると、リーリヤは静かに立ち上がりました。
「リーリヤ?」
「ごめんね清夏ちゃん、私、1人でも外を見てくるよ」
言いながらも、リーリヤはずんずんと扉に向かって歩いていきます。扉に着き、うっすらと雪の積もったホームへと踏み出そうとしたときでした。後ろからのばされた手がリーリヤの手をはしっと掴み、引き留めたのです。
「ずるいよリーリヤ。あたしがリーリヤを1人で行かせるわけないじゃん」
もちろんリーリヤは分かっていて、1人で外に出る振りをしたのでした。 - 46二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 10:08:40
一面の星空を覆い隠すオーロラの下を、リーリヤと清夏ちゃんは歩いて行きます。お互いに無言で、清夏ちゃんはリーリヤの後ろをただついて歩きました。森の木々は雪に覆われて真っ白になり、夜でも輝いているように見えました。リーリヤは清夏ちゃんが何か話してくれるんじゃないかなと期待していたのですが、一向に話し始めないので、自分から切り出すことにしました。
「清夏ちゃん、私に話したいこと、あるんじゃない?」
「ん〜ん、何もないよ」
全く間を空けずに清夏ちゃんが答えました。
「嘘、だよね」
「……」
その言葉を聞いて、清夏ちゃんが急に立ち止まりました。リーリヤも止まりました。振り返ってリーリヤが見た清夏ちゃんは微笑んでいるようでした。
(清夏ちゃんはいつもそうだ。何か誤魔化したいとき、嘘をつくとき、笑う) - 47二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 12:57:53
リーリヤには、清夏ちゃんがさっきまでの列車の旅を覚えているような気がするのでした。暗黒星に行くことは、何かとても良くないことであるような気がしてならないのでした。
「何でもないよ。さ、そろそろ列車に戻ろ?乗り遅れちゃうからさ」
「じゃあなんで、暗黒星に降りたの」
踵を返して歩き出した清夏ちゃんの足がぴたりと止まりました。空には相も変わらずオーロラが踊っているのに、どこからか雪が舞いはじめました。
少しばかりの沈黙の後、清夏ちゃんが口を開きました。
「もう無理だからだよ。きらきらした、輝くような時間は、もう終わりなんだ。私はこれ以上進めない。これ以上頑張れない。だから終わりにするんだ。そうするしかないんだ」
いつしか天気は大雪となり、風も出てきて視界が白く塗りつぶされていきます。清夏ちゃんの顔からは笑みが消えていました。 - 48二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 19:58:28
- 49二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:54:45
「ッ!」
息を呑み、ばっと手を振り払おうとした清夏ちゃんでしたが、踏み固められた雪に足を取られ、倒れ込んでしまいました。リーリヤも、手を離そうとしなかったので、被さるように倒れ込みました。
「忘れるわけないじゃん」
清夏ちゃんは泣いていました。
「今もはっきり思い出せる。あの日の光景も、約束したことも。でも、ダメなんだよ。あたしはもう踊れない。なのにリーリヤはずっと頑張っててさ、毎日居残りまでしてさ、どんどん前に進んでく。あたしね、ふとこう思ったんだ。止まってくれればいいのにって。止まって、あたしのこと待ってくれればいいのにって。最低でしょ?だからもうやめにしようと思った。きっとこんなあたし、リーリヤに相応しくないから。リーリヤの足引っ張ることだけは、したくなかったから」 - 50二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 02:54:53
原作知らないのでこれが原作だと思って読みます
- 51二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 08:38:17
- 52二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 10:25:37
おつらい
- 53二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 16:54:32
- 54二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 22:30:23
保守
- 55二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 23:59:39
保守
- 56二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 00:26:13
- 57二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 03:38:29
言えたじゃねえか
- 58二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 08:34:26
2人は迷うこともなく、無事に駅に戻ることができました。しかし、ホームに列車はすでにありませんでした。
「あちゃ〜、わかってはいたけど、どうしよっか?」
「大丈夫だよ、多分」
そう言ってリーリヤは、ポケットに手を入れると、淡く光を発する宝石を取り出して前に掲げました。すると、遠くから警笛が鳴り響き、すぐに闇の中から立派な列車が現れたのです。
列車に乗り込むと、すぐに扉が閉まり、警笛と共に動き出しました。どういうわけか、服や髪に積もった雪は跡形もなく消え去り、コートは全くもって乾いたままでした。そして手にしっかり持っていたはずの宝石も、溶けるように消えてしまいました。車室の中はオレンジがかったいくつもの電燈で照らされ、床や天井は黒で塗られていますが、座席は桃色の革が張ってあるのです。そして、2人以外の乗客の姿は見えませんでした。 - 59二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 12:54:51
まもなく列車は地上を離れ、オーロラの輝く空へと昇り始めました。長い長いオーロラのトンネルを抜けると、星の輝きの見えない黒い宇宙が視界を支配していきます。
「清夏ちゃん……」
ほとんど無意識に、リーリヤは清夏ちゃんの手を握っていました。不安そうなリーリヤに清夏ちゃんは優しく手を握り返しました。
「大丈夫だよ、リーリヤ。あたしはもう大丈夫。もう一人であきらめたりしない。ちゃんとリーリヤの隣で一緒に歩くから」
列車が停車し、やがて動き出すまで、リーリヤの手から力が抜けることはなく、それは清夏ちゃんも同じでした。ふう、と一つため息をこぼして、おもむろにリーリヤは顔を上げました。 - 60二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 18:05:56
保守
- 61二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 22:24:37
保守
- 62二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 00:51:50
- 63二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 07:33:48
- 64二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 07:46:43
銀河鉄道の夜から極光鉄道になってきたな
- 65二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 12:34:04
- 66二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 20:26:40
行けりーぴゃん…!
- 67二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 21:24:12
- 68二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 06:24:25
ほ
- 69二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 09:05:36
- 70二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 09:21:29
めちゃくちゃ素晴らしい文章 銀河鉄道の夜から希望が見え始めてきた、リーリヤと清夏の話してる部分、特にすごく好き
- 71二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 12:12:24
「私、もう3年近くアイドルをしてきたけれど、一度もうまくいかなかった。私、他のみんなみたいに可愛くないし、歌やダンスが特別上手なわけでもない。こんな私がアイドルなんて、きっと最初から無理だったんだよ」
(そんなわけない)とリーリヤは思いました。
「そんなことないですよ!りなみん先輩はほんとうに素敵だって思います!」
やっぱり同じことを考えていたようで、清夏ちゃんが思い切ったようにこう言いました。莉波先輩は何かたいへん慌てた風で、「そうだ、ちょっと降りてくるね」と言いながら、立って荷物をとったと思うと、もう見えなくなっていました。
「どこへ行ったんだろう」
2人は顔を見合わせましたら、十王会長が、少し笑いながら、少し伸び上がるようにして、2人の横の窓の外を覗きました。2人もそっちを見ましたら、たったいまの莉波先輩が、黄色や赤色やの看板を出す売店で、何かしらを買っていたのです。 - 72二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 21:12:06
ほ
- 73二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 21:23:15
「あそこへ行ってる。すごく不思議だね。また何かを買ってるみたい。列車が走っていかないうちに、帰ってこれたらいいけど……」
視線の先で、莉波先輩がいくつかの袋を受け取ったと思ったら、もうそこに莉波先輩の姿はなくなって、かえって
「ふう、ちょっと買いすぎちゃった」
という聞き覚えある声がリーリヤの隣にしました。見ると莉波先輩は、もうそこで買ってきた袋から包みを取り出しているのでした。
「どうやってあそこからここまで来たんですか?」
リーリヤが、なんだか当たり前のような当たり前でないような、おかしな感じがして問いました。
「どうやってって、来ようと思ったから来たんだよ。リーリヤちゃんたちだって、来ようと思ったらここに来れたでしょう?」
リーリヤはなるほどと思いました。清夏ちゃんも同じようで、顔を見合わせました。 - 74二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 22:47:03
- 75二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 03:05:12
保守
- 76二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 08:19:05
- 77二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 14:34:49
さす会長
ジュエルなくなっちゃったね… - 78二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 19:17:29
「あなたたちの言いたいことはわかるわ。でもね、アイドルの世界はシビアよ。誰もが成功できるわけではないし、むしろ夢敗れて諦める人の方が多いの。叶わないかもしれない夢を追いかけ続けるのは、果たして正しいことかしら?」
リーリヤはすぐに何か返事をしようと思ったのですが、何を言っていいか、どうしても思いつかなかったのです。清夏ちゃんも同じようで、少し考えていましたが、
「諦めるのは悪いことじゃない。Pっちが前に言っていた言葉です。諦めるなら早い方がいいって、それなのに夢を追いかけるようにあたしに言いました。あたしが、夢を諦めたくないままに夢を諦めようとしていることを、Pっちは見抜いてました」と言いました。
清夏ちゃんはセンパイにプロデュース契約を申し込まれたとき、リーリヤのプロデュースを引き受けることと引き換えにOKしたらしい。その時点で清夏ちゃんは夢を諦めかけていて、しかし諦めきれず苦しんでいたのだ。 - 79二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 00:09:41
ここまできたら会長がことねを見送ってるのもめちゃめちゃしんどいじゃんね
- 80二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 02:19:20
- 81二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 09:58:00
莉波先輩はまさか自分に話が向くと思っていなかったのか焦った様子で、
「わ、私……なぜですか?」
と困惑しているようでしたが、十王会長は構わず続けました。
「その人自身が諦めたくないと思っていても、どれほど練習を重ねたとしても、見合うだけの才能がなければ夢は掴めない。でもね莉波、あなたは違う。あなたのアイドルパワーは私のそれを遥かに超えているわ」
(アイドルパワーってなんだろう?)と2人は思いましたが、話に割り込むことはできませんでした。
「つまりあなたは、まだ自分の魅力を引き出せていないだけなのよ!」
そう言って立ち上がった十王会長は、まだ困惑したままの莉波先輩の手をとり言いました。
「莉波、あなたをプロデュースさせてちょうだい!必ずや、立派なアイドルに育て上げてみせるわ!!」 - 82二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 12:42:21
- 83二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 21:16:11
突然のアイドルパワーに突然のセンパイトーク
- 84二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 21:36:11
「――――――――ん」
莉波先輩が小さな声で何か呟きました。けれど、誰かが聞き返す前に、
「わかった、もう一度、頑張ってみるよ」
と応えました。それから十王会長の方に向き直って、
「ありがとうございます、会長。もしかしたら、お願いするかもしれません」
と言いました。十王会長は一つ頷くと、元の席に座りました。それで、莉波先輩は俯いて黙ってしまいました。
「もうじき次の停車場よ」十王会長が言いました。
リーリヤはなんだかわけがわからず俄かに莉波先輩のことが気の毒でたまらなくなりました。自分のことを全く自信がないように言ったり、十王会長や私たちに捲し立てられたり、そんなことを一々考えていると、リーリヤはこの人がアイドルになるために自分のできることをなんでもしてあげたいというような気がして、もう黙っていられなくなりました。 - 85二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 03:16:36
ほんとうにあなたの欲しいものは一体なんですか、と聞こうとして、それではあまりに出し抜けだから、どうしようかと考えて振り返ってみましたら、そこにはもう莉波先輩が居ませんでした。網棚の上には荷物も見えなかったのです。また窓の外で買い物でもしているのかと思って、急いでそっちを見ましたが、外はいちめんの美しいオーロラばかり、莉波先輩の姿は見えませんでした。
「先輩はどこに行ったんだろ」清夏ちゃんもぼんやりそう言っていました。
「どこに行ったのかな。私はどうしてもう少し莉波先輩に言葉をかけなかったのかな」
「うん、あたしもそう思ってる」
「私は莉波先輩が無理をしていたように思えて、だから辛いよ……」リーリヤはなぜこんな気持ちになるのかわからずにまごつきました。 - 86二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 07:44:36
- 87二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 15:55:37
- 88二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 22:51:58
- 89二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 08:01:21
ほ
- 90二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 08:10:59
突如車室の扉が開かれ、赤い車掌帽を被った学園長が入ってきました。まさかの乱入者に誰もが絶句する中、優雅な足取りで向かってきた学園長は、ことねちゃんの前まで来ると足を止め、じっとことねちゃんを見つめました。
「アイドルを夢見て初星学園に入学し、夢破れて初星学園を去る。これまで幾度となく繰り返されてきた光景じゃ。だがのう、できる限りそんな生徒が少なくなるよう、わしらも色々と施策を打ち立てておる。我が校独自の奨学金制度もその内の一つじゃ」
「それなら、もうもらってますケド……その、生活費の足しになってありがたく思ってます、ケド……」
ことねちゃんは、何か言葉を探すように視線を彷徨わせました。学園長は一つ頷いて続けました。
「わかっておる。少額の給付型奨学金はあくまで生活費の補助。学費を払うためのものではない。しかしの、さらに高額の奨学金も我が校にはあるのじゃよ」 - 91二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 16:04:33
- 92二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 17:48:53
- 93二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:20:26
- 94二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:21:42
- 95二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:22:46
「ん、あ〜、バレるよナー、やっぱ」
ことねちゃんは再び向こうを向きました。
「あたしさ、入学してからずっと、バイト続けてた。アイドルになるためにおカネが必要だったから。それで、レッスンも時々休んで、周りに置いてかれるようになった。んで、そろそろ諦めどきかと思ったら続けられるかもしれないって言われて」
リーリヤたち以外の乗客がいない車室は静かで、ただ列車の走る音だけが響きます。窓からは緑の光だけが溢れています。
「急に怖くなったんだよねぇ。万全の状態で臨んで、それでも結果が出なかったらって。ちびどももお母さんもあたしに期待して待っててくれてる。会長も……まあなんか過大評価されてるし。期待に応えられるかどうかわっかんない」 - 96二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:24:19
- 97二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:25:19
- 98二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:26:35
- 99二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:29:08
- 100二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 00:00:09
- 101二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 08:04:16
- 102二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 08:15:09
怒られが発生した
- 103二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:12:27
「ごめんなさい。いけないことをしてるのはわかってます。でも、これしか方法がないんです。センパイともう一度会って、話をしなきゃいけないんです。だからどうか、お願いします!」
そう言って深々と頭を下げたリーリヤを、学園長はじっと見つめていましたが、
「……お主らのプロデューサーのように、有望な若者が夢を諦めることは、確かにわしの本意ではない。じゃがの、奴はとあるタブーを犯し、そしてこの業界に絶望してしまった。会ってもどうにもならんかもしれんのじゃぞ?」と言いました。しかし、リーリヤも折れはしません。
「それでも。私はセンパイに会いたい。ちゃんと会って、話がしたいです。センパイが何を悩んでいたとしても、話もせずにさよならなんて納得できません」
学園長はリーリヤの視線を受け止めて黙っていましたが、やがて静かに頷きました。
「よかろう。好きにやってみるがよい。向こうに行けば運転室じゃ」
そう言いながら、学園長は帽子を取りました。それから、ポケットからきらきら輝く宝石と大きな鉄の鍵を取り出すと、リーリヤの手に握らせました。
「ありがとうございます!行こう、清夏ちゃん!」
「うぇええ!?」
リーリヤは清夏ちゃんの手を取ると、走り出しました。 - 104二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 20:49:00
- 105二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:05:55
車両の端まで来ると、これまでと違った扉が現れました。リーリヤは鍵を取り出すと、鍵穴に差し込み、ガチャリと回しました。
「わ、すごい……」リーリヤが足を踏み入れた途端に、運転室の内装も様変わりし、錆びつきそうだった運転台もピカピカの新品になりました。それからがちゃんがちゃんと音を立てて、いろいろな部品が組み上がっていき、ガラス張りだった運転室は機械で埋め尽くされました。
「で、運転の仕方わかるの?」
「前にゲームでやったことあるよ。確か……」
運転台に立ち、加減弁ハンドルを握って押し下げます。が、何も反応がありません。
「あ、あれ、なんでかな」
リーリヤはブレーキや他のハンドルを触ってみますが、やはり列車は動きません。
「ひゃー、あたしにはさっぱりわかんないや。リーリヤ、これ何かな」
「ええと、それは……圧力計かな。ボイラーとかの圧力がわかるんだけど……あれ?」
清夏ちゃんの指差した圧力計は、どれもゼロを指していました。 - 106二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 00:00:49
「んー、燃料切れってこと?」
「燃料?石炭……あ、あつっ」
不意にリーリヤが飛び上がると、ポケットから何かが零れ落ちました。それは先ほど学園長にもらった宝石ですが、今までと違い、目も眩むような眩い輝きを放っているのです。
「……もしかして」
リーリヤは床に落ちた宝石をスコップで慎重に掬うと、焚口戸からころりと火室に入れました。その瞬間、宝石は激しく燃え始め、閉めた扉の隙間からは緑やピンクの光が溢れ出しました。リーリヤがバルブを捻ると、蒸気が造られ始め音と共に列車が振動を始めます。
「いける。出発進行!センパイのところへ!」
リーリヤがハンドルを力いっぱいさげると、ぎしり、ぎしり、がたん、がたんと音を立てながら列車が走り出しました。列車は地上を離れ、オーロラの輝く空に舞い上がってゆきます。雪で覆われた山脈を越えると、海が近づいてくるのがわかります。 - 107二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 08:33:07
ほ
- 108二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 08:45:00
「清夏ちゃん、センパイを探して!」
黒々と眼下を埋め尽くす冬の海のどこかに、センパイの乗る船があるはずなのでした。リーリヤは左側の窓から、清夏ちゃんは右側の窓から顔を出して下を見下ろし、船を探しました。程なくして、
「あっ!リーリヤあれ!」と清夏ちゃんが指を差しました。そこには暗い海の上に煌々と明かりを灯し、荒波に揉まれながら漁をする船団があったのです。リーリヤは少し列車のスピードを落として、船の方へ降りてゆきました。近づくにつれて、船上の様子がはっきりと見えてきます。何人もの男性たちが幾つもの船にひしめき合っていて、海からカゴを引き上げたり、凍ったカゴにハンマーを振るったりなどしてせかせかと忙しそうに働いております。その中に、周りの男たちよりはいく分小柄な青年が、ふらりと立ち上がったのが見えました。間違いありません。
「センパイ!!」「Pっち!!」
リーリヤと清夏ちゃんがめいっぱい叫びますが、青年に届いたふうもなく、人影はやはりふらふらとしていました。 - 109二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 09:57:29
なんだこれすごいなぁ
- 110二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 12:31:54
- 111二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 12:37:18
映画みたいになってきた
- 112二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 21:17:04
ほ
- 113二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 21:26:41
まるでスローモーションのように、センパイの体が海に落ちていきます。リーリヤは必死に手を伸ばしますが、届くはずもありません、海に小さな水柱が立ちました。リーリヤもその体勢のままで、水柱のそばに落下しました。冷たさがリーリヤを押し潰そうと締めつけてきますが、構っている暇などありません。(センパイ、どこ……?)冷たい水を掻き分けるリーリヤの凍えた手に、何かが触れました。思わずギュッと掴んでみると、数ヶ月前の記憶が脳裏に呼び起こされ、海の中でも暖かさを感じるようです。その温もりを辿るように、リーリヤは頭の中で念じました。
目を開けると、そこは緑とピンクの光が踊る運転室だったのです。体を覆う冷たさをはっきりと思い出すことができますが、服や体は全くもって乾いていて、凍えていた手も普通に動き、握ったままのセンパイの手を握り締めることができるのでした。
「リーリヤ!」
体を起こしたリーリヤの頭が、不意に何かに包まれます。清夏ちゃんがリーリヤの前に跪き、抱きしめているのです。 - 114二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 00:00:43
保守
- 115二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 07:48:35
保守
- 116二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 14:54:34
ほ
- 117二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 15:15:30
- 118二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 20:41:56
こんなに迫力あるPの画像初めて見た
- 119二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 00:04:51
プロデューサーは状況がわからないようでしばらく目を瞬かせていましたが、少し頭を振るとひとりで立ち上がりました。
「あっ、センパイまだ寝てなきゃ」
「……いえ、もう大丈夫です。まだ業務が残っていますから、もう行かなければ」
そう言ってふらふらと扉に向かおうとするプロデューサーをリーリヤと清夏ちゃんが慌てて引き留めました。
「待ってください!センパイに聞きたいことも、聞いてほしいことも、たくさんあるんです!」
「そうだよ!突然居なくなって、あたしとリーリヤがどんだけ心配したと思ってんの?洗いざらい吐いてもらうかんね」
「……任せられた仕事は、やり切らなければなりません。俺は船に戻ります」
そうやって掴まれた手を軽く引っ張って(離してください)と訴えるプロデューサーですが、2人が従うはずもありません。
「行かせません。清夏ちゃん」
「おっけー、出発しんこー!」
清夏ちゃんがハンドルをめいっぱい引き下ろすと、列車がゆっくりと動き出しました。リーリヤが強く念じると、列車は南西へと進路を変え、次第にスピードを上げていきます。 - 120二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 00:46:55
「さーて、もう逃げらんないよ。色々聞かせてもらおっか」
プロデューサーは窓の外をチラリと見て、観念したように息をつきました。
「センパイは、なんで学園を出て行ったんですか」
「特に理由があるわけでは……」
「ダウト。Pっち、そんなバレバレの嘘が通じると思ってんの?」
「嘘、つかないで、ください。言えないなら、ちゃんと言ってください」
「……転属指示のようなものです。学園から依頼された仕事のようなもので」
清夏ちゃんがじっとプロデューサーを見つめますが、嘘をついているようには見えません。
「お仕事……カニ漁が、ですか?」
「ありえないっしょ。Pっち何したの?」
「……言えません。守秘義務がありますから」
リーリヤも清夏ちゃんもそれについてもっと聞きたいのですが、言えないと言っている以上仕方がないのです。 - 121二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 20:24:51
ほ
- 122二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 21:49:59
このレスは削除されています
- 123二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 21:51:57
「じゃあ、そのお仕事はいつ終わるんですか?」
「タラバガニの旬はそろそろ終わりです。漁もじきに終わるでしょう」
「それじゃあ、もうすぐ帰ってくるんですね!」
「……ええ」
仕事がもうすぐ終わると言うのに、帰ってくるのかと言う問いに答えるのに少し間があったことを、2人は聞き逃しませんでした。
「お仕事が終わったら、日本に帰ってくるんですよね……?」
「ええ、もちろん」
「じゃあさ。戻ってきたら、またあたしらのプロデュース、してくれるんだよね?」
「……」
「答えてよ、Pっち」
「……痛いです、紫雲さん」
プロデューサーに掴みかかるように清夏ちゃんは詰め寄っているので、プロデューサーは離れて欲しそうにしていますが、清夏ちゃんは離そうとはしません。
「ねえ。あたしをプロデュースするなら、名前で呼んでって言ったよね。なんで『紫雲さん』なんて呼ぶわけ?」
「……すみません」 - 124二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 00:48:32
薄々と気づいていたことが、決して当たってほしくない予感が、だんだん確信に変わっていきます。
「センパイは、プロデューサーを辞めるつもりなんですか?」
「……」
沈黙は肯定の証、とはよく言ったものでした。清夏ちゃんの手に力がこもって、無抵抗のプロデューサーは尻餅をつきます。
「なんで!なんでよ!なんでPっちがプロデューサー辞めなきゃいけないわけ!?」
「まさか、誰かに言われて……?」
「違います。俺が、自分で決めたことです」
「なら尚更わかんないよ!言ってたじゃん!あたしをプロデュースさせてって!言ったじゃん!途中で投げ出したら許さないって!」
「……すみません」
「謝ってほしいわけじゃない!」
「……すみません」
「ッ!だからぁ!」
「す、清夏ちゃん……!」 - 125二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 08:26:31
ほしゅ
- 126二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 09:01:49
ここまでりーぴゃんが活躍してここにきて裏切ったら恨むしゅみたんが踏み込んでいくのうますぎないか
- 127二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 09:17:26
- 128二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 18:49:32
保守
- 129二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 21:55:52
「お願いです。聞かせてください。センパイが夢を諦めてしまった理由を」
「それは」
「私たちじゃ、センパイの夢を叶えることができないからですか」
プロデューサーの目が見開かれました。
「違う!」
「Pっちお願い……あたしを見捨てないで。ちゃんとレッスンするから……ダメなとこは全部直すから……」
「違うんです!あなた達が悪いわけじゃない。悪いのは俺なんです……」
「どうか教えてください。このままじゃ全然納得できないです」
「お願い、プロデューサー続けてよ!」
「俺だって!!」
突然、プロデューサーが大きな声を出したので、リーリヤはびっくりとして体を跳ねさせ、清夏ちゃんも思わず手を離しました。
「続けられるものなら続けたかったですよ!でも駄目なんです!」 - 130二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 22:04:48
こちらを見上げてくるプロデューサーは目を見開き、息を荒らげていました。リーリヤも、清夏ちゃんも、プロデューサーがそんな顔をしているところを見たことがありませんでした。何も言えないでいる2人に、プロデューサーがなおも続けます。
「俺はプロデューサー失格です。勝手に焦って、先走って!自分本意な行動をした結果、あなた達と学園を危険に晒し!俺は何ヶ月もあなた達のプロデュースに穴を開けた。俺はあなた達に相応しくない」
がたん、と大きな音が鳴り、列車の床が大きく傾きました。
「きゃっ」
「ひゃっ」
立っていたリーリヤと体を起こしていた清夏ちゃんはバランスを崩して倒れ込み、清夏ちゃんが離れたことでプロデューサーはゆっくりと立ち上がりました。何事かと窓の外を見ると、日本に向かって走っていたはずの列車が、オーロラのはためく空へ登っていくのです。壁伝いに扉の方へ向かおうとするプロデューサーを引き留めようと、リーリヤは叫びます。
「帰ってきてください!突然居なくなったことだって、もう気にしませんから!」
「だからですよ。だからこそ、俺は俺自身を許せない」 - 131二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 07:31:16
保守
- 132二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 08:45:21
プロデューサーが振り向きました。その顔は、実に苦しそうに笑っていたのです。
「日本を、天川市を離れる時、別に何も猶予がなかったわけではありません。他のプロデューサーを探し、業務を引き継ぐだけの時間は十分にあった。それがプロデューサーとして当然の義務だった。なのに!俺はそれをしなかったんです……ええ、わかっていましたよ。お2人が何も気にせず俺を受け入れてくれるだろうことは。日本に戻ったら、また元のようにプロデューサーとして働きたいと、そう考えてしまった。こんな打算と、身勝手な欲望で、俺は未来のトップアイドルを潰しかけてしまった」
列車はオーロラのトンネルの中を疾走し、運転室の中は黄緑の光で塗りつぶされています。扉までたどり着いたプロデューサーが取っ手を引っ張ると、わずかに開いた隙間から、紫の煙が車内に流れ込んできます。
「俺はプロデューサー失格です。これ以上プロデューサーを続けることはできません」
うわごとのように呟きながら、プロデューサーは扉を開けようとします。 - 133二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 13:29:19
続きが気になりますねぇ
- 134二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 19:59:39
と、
「Pっち!!」
叫びながら、清夏ちゃんが飛び出しました。橙の髪を靡かせてプロデューサーに飛びつき、扉から引き剥がしたのです。支えを失ったプロデューサーは清夏ちゃんと揉みくちゃになりながら床を転がり、リーリヤのすぐ足元で壁に背中をぶつけて止まりました。再び馬乗りになった清夏ちゃんが、涙声で訴えます。
「もういいよ!Pっちに何があったのかなんてわからないけど、あたしが許すから!……だから!」
「それでも。俺はもう俺自身を許せない。夢を目指すなんて、とてもできない」
「話を聞いてよ!」
「もう話す資格すらありません。俺はもうプロデューサーではない」
センパイの虚な目を見て、センパイにはもう話が通じないのだとリーリヤは悟ったのです。そして、そんなことで諦めるリーリヤではないのでした。いよいよトンネルは狭く細くなり、宇宙の星々は覆い隠されて見えません。そのうち、前方にぽっかりと真っ暗な空間が見え始めました。 - 135二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 20:38:08
リーリヤはセンパイの上で肩を震わせて俯いている清夏ちゃんを助け起こすと、よろよろと立ち上がったセンパイに語りかけます。
「センパイ。もう私たちと話す気はないんですね」
「……ええ」
「わかりました。なら、もう話そうとしなくていいです。代わりに―――私を見ていてください。今、センパイが何も見えない暗闇の中にいるのなら。たった一人で苦しんでいるのなら。私がセンパイの手を引いて、夜明けまで連れていってあげますから」
その瞬間、まとわりつくように列車を囲っていたオーロラのカーテンが解けていき、暗黒に乗り入れようとしていた列車は更に高い場所へと進路を変えました。破れた垂れ幕の残滓を潜り抜けるうちに、俄かに窓から光が差し込み始めました。思わず細めた目の先で、光る何かが見えました。 - 136二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 20:39:59
「あれは……」
そこでは、何千、何万、何億の星々が、ただ一処に集まろうとしているのでした。3人の見つめる先で、色とりどりの星団は何かを形作ろうと渦を巻いていきます。赤い大きな星たちは混ざり合い、溶けて大きなステージになりました。中くらいの黄色い星たちは、ステージの上を跳ね回り、やがてバックパネルやスクリーンになりました。青白い星たちはふわふわと飛び回り、ステージのあちこちで照明になりました。渦を巻いていた星屑たちはたちまち整列し、白いペンライトの海となってステージを取り囲みました。
きいーっと音を立てて、列車はゆらゆらと揺れるペンライトたちのすぐ手前に停車しました。そっと振り返ると、震える若草色の瞳と、見開かれた真っ黒な瞳がリーリヤを見ていました。誰にも言葉はありません。いくら言葉を重ねても言い表せないなにかを、伝えたくてここまで来たのです。だからリーリヤは微笑んで、たった一言、
「いってきます」
と呟いたのでした。 - 137二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 20:43:06
- 138二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 21:24:33
「はあっ、はあっ」
無我夢中、全身全霊を込めて歌い切ったステージで、車掌帽の少女は必死で息を整えていました。膝は笑ってがくがく震え、肺も心臓もキリキリと痛みます。けれどもリーリヤはできる限り背筋を伸ばして、取り落としそうなマイクをもう一度握りしめると、
「ありがとうございました!」
といっぱいに叫んだのでした。
「リーリヤっ!」
たったったったっと走る誰かの足音が聞こえたかと思うと、突然横側から重たい衝撃が加わって、リーリヤはステージに倒れ込みました。
「わぷっ、清夏ちゃん……!」
リーリヤはちょっと困った顔をして、胸のあたりに押しつけられた橙色の頭を見下ろしました。ぱっとあげられた顔は涙で濡れていて、それでも満面の笑みと冷めやらぬ興奮で彩られているのでした。
「すごいよリーリヤ!すごいライブだった!これまで見た中で、間違いなく一番のステージだったよ!」
「そ、それは流石に言い過ぎじゃない?」 - 139二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:05:52
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- 140二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:15:19
「全然言い過ぎなんかじゃない。めっちゃ感動しちゃった!途中から涙でほとんど前見えなかったし!それにさ、思わず飛び出してきちゃったのは、あたしだけじゃないんだよ」
とん、とん、とん、とゆったりとした足音が近づいてくるのがわかると、ようやく落ち着いてきたリーリヤの心臓がとくんと大きく跳ねました。清夏ちゃんの手を借りて立ち上がると、待ちきれない子供のように走り出しました。しかし、疲れ切った足は思うようには動かず、足がもつれて大きく倒れ込んでしまったのです。思わずぎゅっと目を瞑ったリーリヤでしたが、予想していた硬いステージの感触はいつまで経ってもやってこず、代わりに優しい温もりがぽすりとリーリヤを包み込んだのです。
(……ああ)
それは、ずっと待ち望んでいた温もりでした。
(……ああ)
リーリヤは、自分がこんなにも寂しがっていたのだということに、今初めて気がついたのでした。
(センパイ……せんぱい……!)
「あの、葛城さん……?そろそろ……」
「えっ」
センパイの困惑混じりの声を聞いて、リーリヤは自分がセンパイの鳩尾のあたりに額をぐりぐりすりすり押しつけていることに気がつきました。次の瞬間、リーリヤの顔が真っ赤に染まり、稲妻のような速さで飛び退きました。
「ひゃっ!あっ、あのっ!その、これは違うんです!」
「……よくわかりませんが」 - 141二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:51:50
いつの間にかいつものスーツに着替えたプロデューサーが、手をわたわたと振り続けているリーリヤに言いました。
「一部始終を拝見させて頂きました。ライブを見ている間、ずっと――――ハラハラして胃が爆発しそうでした」
「ええっ!」
何を言われるのかとくとくと胸を高鳴らせていたリーリヤは、予想外の言葉に驚きの声をあげました。
「相当難易度の高い曲です。今の葛城さんがバテずに踊り切るのは不可能であることはわかっていました。しかし、あまりにバテるのが早すぎる。振り付けにしても、歌声にしても、ミスはないが伸びも極端にない。レッスンをサボっていたのならこんなことにはならない」
センパイは人差し指でくいっとメガネを押し上げると、レンズの奥の目を細めて続けました。
「葛城さん。言ったことがありませんでしたか?レッスンのやりすぎは逆効果だ、と。一日に一体どれだけのレッスンをしていたんですか?」
リーリヤは目を泳がせながら、
「ええっと、授業が終わってから、レッスン室が閉まるまで、ずっとです……」
と答えました。これを聞いたプロデューサーは深く深くため息をつくと、
「本当に、自分が嫌になる」
と呟きました。 - 142二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 00:35:54
調子が戻ってきたな!
- 143二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 06:21:28
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- 144二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 15:08:11
ほ
- 145二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 15:19:22
「あなたから一日たりとも目を離すべきではなかった。葛城さん、俺はこうも言ったはずです。オーバーワークはケガの元だと。ステージで踊るあなたを見ていて、倒れやしないか、どこか痛めはしないかと気が気ではありませんでした」
「ご、ごめんなさい」
どうやら本気で怒っているらしいセンパイに、リーリヤはぺこぺこと頭を下げて謝ります。
「……初めて葛城さんを見た時、思ったんです。プロデュースしがいのある人だなと。一生懸命で、応援したくなる人だなと。そして話してみて、強い意志と勇気を持った人だと知りました。あなたをプロデュースしてみたいと、そう思ったきっかけです。先程のあなたの歌も、ダンスも、一流だとは口が裂けても言えません。ですが見ていて自然と思いました。ああ、あの子をプロデュースしたい、と」 - 146二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 23:14:56
ライブで極まりすぎてもう思ったこと全部しゃべってるじゃん
- 147二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 23:15:17
「せ、センパイ……」
怒られていたと思ったら急にほめ殺しを受けて、リーリヤは目を回しながら照れていますが、センパイは気にせず続けます。
「葛城リーリヤさん。あなたにはトップアイドルになり得る素質がある。あなたを支えたいと心の底から思っています。だから――」
センパイは真剣な眼差しを向けてくるので、リーリヤはその目を真正面から見据えることになりました。真っ黒な瞳はもうさっきまでのように虚ろではなく、まるで夜空のようにきらきらと輝いているのです。
「また、あなたをプロデュースさせてください」
空色の瞳から、涙がこぼれました。リーリヤは一刻も早く返事がしたいのですが、あとからあとから涙が溢れて、声を出そうにも口から出るのは嗚咽だけでした。センパイは少し逡巡した様子でしたが、やがて銀色の髪に手を置いて、リーリヤが泣き止むまで優しく撫でてくれたのでした。 - 148二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 00:08:15
「……ねーえ、Pっち?プロデュース再契約が上手くいって嬉しいのはわかるけどさ。誰か忘れてない?」
「……痛いです清夏さん」
「知ってるー」
泣き止んだリーリヤが顔を隠しながらどこかへ走っていってしまったので、プロデューサーとしては追いかけなければならないのですが、不機嫌と顔に書いてある清夏に執拗なつっつき攻撃を受けているためにそれは叶わないのでした。
「リーリヤが可愛いのはあたしも同意するけどーちょいべたべたしすぎじゃねー?」
「あれはただの事故で……」
「頭撫でてたのは?」
「ぐっ……すみません。つい衝動的に」
「はい自白ゲット〜。そーいうのさー、プロデューサーとしてどうなん?」
「……ええ、申し訳ありませんでした。プロデューサーとしての責任感に欠ける行為でした」
「わかったんならよし。それはそうとさ、リーリヤとの再契約は無事に終わったわけだけど、なんか忘れてること、ない?」
清夏はようやくつつくのをやめて、じっとPっちを見つめました。
「忘れていませんよ。紫雲清夏さん。あなたをプロデュースさせてください」 - 149二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 07:16:27
保守
- 150二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 09:23:18
その言葉を聞いて、清夏はぴくりと体を跳ねさせましたが、ふいと顔を逸らしてしまいました。
「どーしよっかなー?リーリヤが契約してくれたんだし、別にあたしなんて必要なくない?」
「何を言ってるんですかあなたは」
顔を背けたまま心にもないことを言う清夏に、Pっちは一歩詰め寄りながら言いました。
「あなたは俺が初めてプロデュースしたいと思った人だ。そう簡単に逃すつもりはありません。一度諦めた俺の言葉に説得力はないかもしれませんが……」
未だにそっぽを向いている清夏をPっちは真剣な眼差しで見つめます。
「こんな俺でよければ、あなたをもう一度プロデュースさせてください」
「……」
清夏はゆっくりと向き直り、Pっちと目を合わせます。
「いいよ。受けたげる。……けど、一つだけ、条件をつけよっかなー」 - 151二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 10:48:03
「何なりと」
「じゃあ、さ。あたしを抱きしめて」
「……はい?」
全く想定外の条件に、Pっちは冗談を疑ったのですが、清夏は至って真剣で、頬をほんのりと染めてPっちを見据えているのです。
「いや、プロデューサーとして、そのお願いは」
「リーリヤにはしたくせに」
「ですからあれは事故で……」
「いいから」
有無を言わさぬ様子で強請る清夏に、Pっちは困った顔で佇んでいましたが、やがて覚悟を決めたのか、両手を開き、目の前の少女を抱きしめました。Pっちの胸元に顔を埋めて清夏はじっとしていましたが、そろそろと手を上げて、遠慮がちに抱き返すと、口を開きました。
「……あたし、最近レッスンサボってた」
「想定内の事態です。問題ありません」
「膝も悪化して、全然踊れなくなっちゃったし」
「全て俺の責任です。申し訳ありませんでした」
「Pっちがいなきゃなんにもできない落ちこぼれアイドルだし」
「もう二度と離れる気はありません。その心配は無用です」
「ッ!」 - 152二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 11:47:19
ステージを囲んでいた白い光はだんだんとばらけ始め、持ち場に戻るように次々と彼方に飛んでいきます。徐々に暗くなっていくステージの上で、二人はしばらく無言で抱き合っていましたが、やがてどちらからともなく離れました。
「……満足しましたか?」
「……うん」
2人は俯いたり、意味もなく消灯したステージを眺めたりしました。お互いにちょっと照れ臭くて、目を合わせることができないのです。
「こんなあたしでよければ、またプロデュースしてください」
「もちろんです。あなたを、トップアイドルにしてみせます」
「よかった。けど、次はないから。次裏切ったら―――」
そこで言葉を切り、清夏はPっちを真正面から見据えて、
「―――恨むからね♪」
冗談めかして、けれども真剣に、そう告げたのでした。 - 153二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 12:35:17
明かりが消えて真っ暗な車内で、窓の外を眺めている2人がありました。ライブは終わり、歌っていたアイドルの少女と誰かと誰かが色々しているのを見ながらも、少女たちは先程のライブを思い出していました。
(決して出来のいいライブじゃなかった。歌もダンスも酷いものだわ。でも)
(バテバテになりながら、一生懸命でした。そう、まるで……)
沈黙を破ったのは藍色の髪の少女でした。
「りんちゃん。もう一度頑張ってみませんか」
「……」
紫の髪の少女は答えません。
「もう、夢は叶わないかもしれません。まりちゃんと同じステージに立つことは、もうできないかもしれません。それでも、まりちゃんはまだ頑張っている」
藍色の少女は思い出します。錆浅葱の髪の少女が、レッスン室で黙々と励んでいるのを見かけて、声もかけずに帰ったことを。
「そろそろ私も、前に進もうと思います。不覚にも、目が覚めてしまいましたから」
パッと車内の灯りが戻り、朝日色の光が2人を照らします。その時がらりと扉が開いて、赤い車掌服の老人が入ってきました。胡乱な目で見てくる2人に対して、学園長は全く動じず、
「燐羽くんが望むなら、これはわしの方で取り消しておくこともできるぞ」
と言って、一通の封筒を取り出しました。
「……そうね」
窓に反射した美鈴と、ついでに学園長の顔を見て、燐羽はにまりと笑いました。
「いいわ。相当不本意だけど、退学は保留にしてあげる。……面白そうな子も見つかったことだし」
そう言って、窓に目を近づけると、遠くのステージで、銀髪の少女がサイドパネルの裏から出てくるのが見えました。 - 154二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 14:18:42
「あ、リーリヤおかえりー」
「た、ただいま清夏ちゃん……」
リーリヤの目から見て、今の清夏ちゃんとセンパイは至って普通に見えました。本当はもう少し前に戻ってきてはいたのですが、いざ出て行こうとしたら清夏ちゃんとセンパイが抱き合い始めたので、出るに出られず、パネルの裏で息を潜めていたのでした。
「では、そろそろ帰りましょうか。この時期です、このままでは風邪をひいてしまう」
「だね。あたしはいいとしてリーリヤは外だし」
すっかり光が消えた観客席の間を歩きながら、プロデューサーと2人は別れの挨拶を交わしました。
「では、俺が戻るまでお2人で支え合ってレッスンに励んでください」
「りょーかい。リーリヤがやりすぎてたら部屋まで引きずっていってあげる」
「す、清夏ちゃん、もう大丈夫だよ?多分」
3人で並んで歩いていると、どうしようもなく幸せな気分になるのでした。それでリーリヤは、その気持ちのままに2人に声をかけるのでした。
「清夏ちゃん。センパイ。こんな風に、3人で、どこまでも行きたいです。どんな苦しい時も、辛い時も、みんなで支え合って。私、清夏ちゃんとセンパイと一緒なら、きっと何でもできるから。そうして、いつかきっとーーー」 - 155二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 14:19:34
- 156二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 15:13:57
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- 157二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 17:10:29
リーリヤは目を開きました。元のベンチの上で疲れて眠っていたのでした。胸は暖かく火照り口元は穏やかに緩んでいます。
リーリヤはゆっくりと立ち上がりました。街はすっかりさっきの通りにに向こうでたくさんの灯りを瞬かせていましたがその光はなんだかさっきよりは落ち着いたという風でした。そしてたったいま夢で見たオーロラは影も形もなくなっており、明るい星々が幾つも輝いていました。
リーリヤは一目散に道を走って戻りました。寮の部屋で帰りを待っている清夏ちゃんのことが胸いっぱいに思い出されたのです。先ほどより幾らか電灯の消えた道を走ってそれから信号を渡ってコンビニの前にまた来ました。中に入ると、ゴロゴロと品出し用の車を押しながら、ことねちゃんが裏から出てくるところでした。
「こ、こんばんは……」
「お、リーリヤ。ちょーどよかった。今補充の商品が来たからさ、え〜と」
と台車をゴソゴソ探り、牛乳を一パック取り出しました。リーリヤにそれを渡すと、その足でレジを打ってくれました。
「ごめんナ~、こんな遅くまで」ことねちゃんは笑いました。
「ううん、ありがとう」
リーリヤは冷たい牛乳のパックを袋に入れてコンビニを出ました。 - 158二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 20:54:16
そしてしばらく大通りの脇を進みますと、駅前に高級そうなスーツ姿の男性が立っていて、腕時計をじっと見つめていたのです。そのうちにエンジン音を響かせながら黒塗りの車が一台向かってきて、男性の前に停まりました。男性はふと顔を上げて、リーリヤに気づいたようでした。リーリヤは、その人が十王プロの社長であると気がついたのです。リーリヤが軽く会釈をすると、十王社長は車に向かって一言、二言投げると、リーリヤの方に歩いて来ました。
「あなたは葛城リーリヤさんでしたね。こんばんは」と丁寧に言いました。
リーリヤは何も言えずにただお辞儀をしました。
「ところで、連絡をもらいましたか」社長は時計を気にしたまま聞きました。
「いいえ」リーリヤはなんのことかわからず頭を振りました。
「そうですか。すぐに連絡があるとは思いますが、伝えておきます。あなたと紫雲清夏さんのプロデューサーの出張業務が終了しました。早ければ来週あたりには日本に着くでしょう」
言い終わると十王社長は急かされるように車に乗って行ってしまいました。
リーリヤはもう胸がいっぱいで何にも言えずに駅前を離れて早く清夏ちゃんにセンパイの帰ることを知らせようと思うともう一目散に道を寮の方へ走りました。 - 159二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 20:55:35
というわけで、「極光鉄道を終わらせて」はこれにて完結となります。読んでくれた方、保守してくれた方、どうもありがとうございました。
- 160二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 20:57:24
Youtubeで「つべこべ言わずに走れ千奈」を知り、自分も書いてみたくて見切り発車で始めたためにここまで長引いてしまいました。申し訳ありませんでした。
- 161二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 21:56:14
野生の文豪Pはなんらかの賞を受賞すべき
- 162二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 22:53:47
乙!いいSSスレだった
- 163二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 23:39:27
いやーいいハッピーエンドだった
みんながそれぞれ前を向き始めるところの雰囲気好きです
お疲れ様です、素敵な物語をありがとう - 164二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 23:44:00
咲かせた星たちと暗い空を撫でるんだよね…
- 165二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 00:05:04
挿し絵?がいい味出してた
- 166二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 00:29:56
過去作とかあったりしますか!
- 167二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 00:41:53
良SSスレで感動した…
スレ主さんお疲れ様でした! - 168二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 00:51:17
素晴らしい作品でした
出会えたことに感謝 - 169二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 08:55:12
初投稿です
- 170二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 12:59:46
初投稿なのに凄すぎる🫨
- 171二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 15:17:50
すごく良かった またぜひあなたのssを読みたい
- 172二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 23:00:55
スレ主の気が向いた時とかアイデアが溢れ出てきたときにでもまたスレ立てしてほしいな