【閲注_SS】KIVOTOS OF THE DEAD!

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:17:42

    キヴォトスにある日、ヘイローが腐る病が蔓延したとして。

    ヘイローが腐った生徒は、健全なヘイローを探し求める亡者になるとして。
    腐った生徒にヘイローを触られると同じように腐ってしまって、そうやって健全なヘイローを探し求める亡者がわらわら増えていく世界になったとして。

    そんなゾンビ・アポカリプスな世界になっちゃったら的なSSないですか? って教えていただこうと思ったので書きます。
    閲覧注意です。

    言ったからな! 閲覧注意だからな!

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:24:26

     私が嫌いだった世界が失くなったのは、穏やかな春の日だった。

    「委員長っ! 引っ張りますから手を!」

     差し出された手を握ると、手のひらが潰れるほど強く握り返されて――腕がびぃんと伸び切った。

     トリニティスクエアの噴水。私が嫌いな世界の景色。フチに寝っ転がりながら春の陽気の中で本を読めたら健全だろうな、とは。何度も思ったけれど。とはいえ日中には決して訪れられない場所だ。人、多いし。

     そう。ここには人がたくさんいた。

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:26:19

     悲鳴。怒声。罵声。叫声。絶叫。

     おおよそポジティブな声も言葉も。何一つない。あるのは文明人であることを捨てた鳴き声ばかり。

     一人。人に群がられて見えなくなった。私は目を逸らす。目を逸らした先で正義実現委員会の制服を着た生徒が痙攣している。そのそばでゆっくり立ち上がるシスターフッド。ちぎれた腕。ちぎれた胴。こぼれる中身をそのままに。その姿はまるで。まるで。

     地上の赤を見たくないから空の青に縋った。春鳥の小さいのがたわむれるみたいに空を飛んでいる。

     ああ。穏やかな春の日だ。私が嫌いだった世界が失くなったのは。
     

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:30:59

    このレスは削除されています

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:31:39

     
     ――……。

     空腹に集中力を削がれ、何か夜食を持ってきてもらおうとスマホを開いて出たのは乾いた笑い。すでに夜食を通り越し、朝食すらも危うい、昼食に近い時間だと知る。ああ、結局今日もまた昼夜逆転のサイクルは戻らなかった。あとはこのままサイクルが一周するのを待つばかり。くしくしとノーメイクの目をこすり、グイっと腰を伸ばして、席を立つ。パキパキと節々が鳴った。

     外と私の世界を隔てる扉は大きく重く。差し込む陽の光が眼球から脳みそに突き刺さり、思わず「ぐへっ」と言葉が衝いて出る。

     廊下の窓から吹き込む春の風は伸ばしっぱなしの髪を遊ばせる。鳥のさえずりが聞こえる。部屋履きの音がぱたぱた。ああ、なんて静かで素晴らしい日なのだろうと、数十時間ぶりの新鮮な空気を胸いっぱいに吸いこんだところで、銃声と爆発音。台無しだ。

     用を足し、食堂――に向かう前に、お手洗いの洗面台にお尻を乗せて。シミコにメッセージを打った。

     うーん……。

     ぽちぽち。

    〈昨夜はすみませんでした。お腹が空いたので〉

     うーーん……。

     ぽちぽち。

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:33:27

    何れくらい救いがないか見物ですね
    すごく最低な発言だけどティーパーティーは一瞬で壊滅しそう、特にトップ()

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:36:23

     
    〈昨夜はすみませんでした。今仕事がひと段落したところなのですが、シミコの方はお手すきですか〉

     送信。
     返事はすぐに来た。

    ≪ご飯食べたいなら一回図書館まで来て下さい。一緒に食堂に行ってあげますから≫
     
     ぐうの音も出ない。子供か私は。

     昨夜は、ちょっと言い争いをした。

     頼んでいたものとは違う香りのハンドクリームを買ってきたから。ちょっとからかうつもりの一言を投げてみただけ。虫の居所が悪かったのか、溜まっていたものが爆発したか。とはいえ、さほど気にするようなことでもなく。たまにあること。

     鏡を見て、ぐしゃぐしゃだった髪を手櫛で整えた。相変わらず陰気な顔だ。陰気な場所に籠っているんだから当たり前。それでも一応、人前に出る時ぐらいは……見苦しくない程度には……。ポケットから新品のハンドクリームを取り出して手もみする。ふわりと香るローズの香料。頼んだのはハニー&バニラの香りだった。私はあまり、フローラル系の香りは好きではないのに。

     何日かぶりに外に出て図書館へ向かうのに、トリニティスクエアを通過するメインの道路は使わずに。芝生を突っ切り、人のいない道なき道を選ぶあたり、顔に負けず性格も陰気だという事実を世界に突きつけられた気分。ほんとクソですね。世界ってやつは。いっつもいっつも正論しか叩きつけて来ない。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:41:08

     爆発音と銃声を遠くに聞きながらしゃくしゃくと芝生を踏みしめた。今日はにぎやかだ。

     ほかほかした陽気にあくびをしながら図書館に着くと、入口からは見えない、日陰になっている場所からスマホを打った。

    〈着きました。外で待ってます〉
     
    ≪入ってきてください≫
      
     ああ、はい……わかりました。

     一応、中を覗き見ると勉強スペースに数人が居るだけ。テスト期間になればそれなりに人が増えるのだけど、見ればこの通りの人気がない建物だ。二重扉の入口にはシミコが書いたであろう【今年のおすすめ】【今月のおすすめ】【今週のおすすめ】【今日のおすすめ】と、挙句には【午前/午後のおすすめ】がずらりと張り紙されている。いやいや、どれを読めばいいか全然わかんないですって、これは。時間帯でおすすめが変わるって、まあ、気持ちはわかりますけど。

     扉を一枚くぐれば銃火器を置くロッカー類。ガンラックは手作り。汚れの取れないタイルは、私が入学したころと寸分違いのない汚れを残している。

     私は委員長権限でライフルを肩に担いだまま、ちょっと肩で風を切るように館内へ入った。古いドアがガラスをびりびり震わせながら開く。何人かがこちらを見る。背中にじっとり汗をかく。

     あ……すみませんでした……。

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:42:03

    まぁスクデッドのオマージュよね

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:44:32

     なるべく小さくなって人目を避けつつ、貸し出しカウンターの中にサッと隠れた。「今の誰?」「え……わかんない」ささやき声が聞こえる。委員長ですが。図書委員の!

     ごぉん。爆発音で建物が少し震えた。窓ガラスがビリビリと震える。

     ――ほんとに今日は、ずいぶん騒々しい。

     〈カウンターにいます〉

     私がメッセージを送ると、コツコツと足音が近づいて来て、頭上で大きなため息が聞こえた。

     見返れば、シミコ。

    「あ、ぇ、えへへ。お、お疲れさまです……」

    「お疲れさまですウイ委員長」カウンターに頬杖をつきながらじっとりとした目と顔で、シミコは私を見ている。

     最悪だ。先輩として最悪の威厳のなさだ。昨夜の言い争いなど気にしていませんよ、という度量の大きさとフレンドリーさを出そうとしたら、絶望的に気持ち悪い笑い声が口からまろび出てしまった。十何時間ぶりの発声に喉がびっくりしている。私もびっくりだ。

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:49:15

    >>9

    そうだよ!

    タイトルとテーマ的なものはオマージュしてるけど、あんま要素はないからクロスタグは付けなかったよ!

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:51:26

    「もしかして眠っていないんですか? 目の下、すんごいクマ出来てますけど」
     
    「気が付いたらこんな時間でして」

    「まーた窓を閉め切ってましたね? たまには換気してくださいよ。紙魚が湧いたらどうするつもりですか」

    「つ、月に一度は燻煙してますし、窓を開けないから虫も入ってきません。空調で湿度は最高の状態ですし……対策はバッチリで……」

    「そういうことじゃないんです! もう。あそこで寝泊まりしているのは本だけじゃないでしょう?」

     カウンターの影に隠れていた私に、シミコは椅子を指差した。そっちに座れ、ということだ。

     いつから備品として存在しているのか。染みがたくさんついたクッションに腰を下ろすと、ギィ、なんて背もたれのところが嫌な音を立てる。

    「で、ごはんですよね」

    「あぅ……はい。お、奢りますので」

    「あとちょっとで私の仕事がひと段落つくのでお待ちください。そうすればちょうどお昼ですし――」

     わりと近いところで爆発が起きた。肩がすくむ。先ほどよりも大きく窓が鳴る。これ以上近づいたらガラスが破れるかもしれない。

     音のした方を見返ったシミコは忌々しげに唸った。

    「ああもう、また。図書館付近での火器の使用は禁じられてるのに!」

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:53:34

    「今日は随分と騒がしいですね。古書館からここに来る間にも音が聞こえていました」
     
    「不良たちが入り込んできたんじゃないですか?」

    「春ですねぇ」

     寒さに身を縮こまらせていた不良たちも、この陽気で久しぶりに羽を伸ばしているのだろう。生物にとって春は祝うべき季節。もはや風物詩だ。風流の類と言っていい。

     たたたたた、と軽い発砲音。悲鳴と叫び声。春だなあ。

     無意識にいつもカップを置く場所に手を伸ばした。当たり前に手は空を切る。シミコが「なにをしてるんですか」と呆れながら言った。まったくだ。現実に脳みそが追い付いてない。

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:59:35

    「ちょ、あんた大丈夫!?」

     奥の方のテーブルに座っていた生徒の一人が、椅子を大きく音立てて立ち上がった。「お静かに! どうされました?」と、シミコがそっちに駆け寄って行く。

     影に隠れててよく見えないけれど、ささやき声はもちろん鼻息一つさえ”音”として認識できる静かな空間だから、何が起きたのかはすぐわかった。

     誰か倒れたらしい。

     流れ弾……ではないだろう。別に窓が開いてるわけでも、破れたわけでもない。

     館内にいた生徒たちは若干の野次馬根性も手伝ってそちらに集まっている。委員長として赴くべきなのだろうが、まあ、シミコが行ってるなら大丈夫でしょうと頬杖を突こうとした。

     と、同時。

     ガタガタと騒々しく。ゆっくり開く自動ドアをこじ開けるように、一人の正義実現委員会所属を示す制服が駆け込んできた。思わず椅子からぬるりとすべり降り、カウンターの中にしゃがみ込む。別に悪いことをしているわけでもないのに、あの制服からはなぜか逃げたくなるのが、トリニティ生の心理というもの。

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:05:44

     入り込んできた正実は、ここがどんな場所かも理解していないかのように、大声で叫んだ。

    「バリケードを作るのを手伝ってください!」

     ガチャガチャドタンバタン。ここが図書館で、静謐が保たれるべき場所だというのを一切無視した暴挙に、ライフルを静かにコッキングする。必要があれば一発ぶち込んでやる。先輩として、いの一番に注意をして。シミコに『やっぱり委員長はすごい!』と褒めそやされてやる。

    「うるさいです!! ここをどこだと思ってるんですか!?」と早くも雷が落ちているので、私のささやかな願いは叶わなかったけれど。

     しかし、シミコの雷になど構っていられないように音は止むことがない。「いいから! 早く!!」という怒号。銃声。

     穏やかじゃないですね。
     
     ゆっくりカウンターから頭を出して状況を伺うと。入口付近にあった新書の棚や検索PCなど、片っ端から入口に積み上げている。シミコがなんとか止めようとしているが、それらをすべて振り切り、振り払い。ついにシミコは小さい悲鳴と共に弾き飛ばされ、尻もちを付いた。

     銃声はどうやら自動ドアのセンサーを壊したらしい。沈黙したドアの前に、手近な備品を投げ捨てるように、積み上げていく。

     ……。

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:15:18

     姿勢を安定させて狙いを定める。いくら正義実現委員会とはいえ、勝手に暴れてこちらに暴力を振るうというのなら、遠慮することなんて一切ない。後ほど抗議文も送り付けてやる。ヒナタさんあたりに頼んでシスターフッドの連名をお願いしてやろうか。

     その正義実現委員会の方の顔は蒼白で、控えめに見ても恐慌状態。目を見開き、怯えるように正面玄関のその先をちらちらと見ている。何があったか知らないが、それはこちらとは関係ないこと。

     視線の先。フロントサイトから視線をずらして、まだ積み上げきれていない隙間から外を見る。

     一人の生徒が、ゆっくり。ゆらゆらと揺れながら。春の陽差しの中を、おぼつかない足取りで、こちらに向かって歩いてきていた。

     なんだ。別にゲヘナの風紀委員長が来ているとか、そういうわけでは――。

    「ちょ、ちょっと誰か来て! 図書委員さん! ねえ!」

     先程倒れた方を介抱していた人が叫ぶ。こちらも切羽詰まった声で。私は一度大きく息を吸い。吐く。

     よし。少し落ち着いた。

    「シミコ」どちらを優先すべきかと右に左に体を躍らせていた後輩に声を掛ける。

    「あちらをお願いします。正実の対応は私がしますので」

     ホントにできるんですか、とでも言いたげなじっとりとした目線を一度見せてから「よろしくお願いしますからね、委員長」と、駆けていった。ははは……まあ、確かに頼りない先輩ではありますが。

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:31:44

     
     手当たり次第に備品を積んでいる正実の子の肩に手を置く。いつでも発砲できるよう引き金に指は掛けたまま。
     
     図書館ではお静かに。

     そう言おうとしたところで、尋常じゃないほどの力で手を跳ねのけられ、銃を突きつけられた。

    「――あっ、す、すみません」

     血走った目。知ったことか。一晩中細かいものを見ていた目でじっとりと睨み返してやると、正実は慌てて銃を下ろす。

    「あの、ここ図書館なので。正義実現委員会と言えど、これ以上好き勝手されるようなら、しかるべき対応を取りますよ」

    「すみませっ、あの! 手伝ってください! 早くしないと、早くしないとっ!」

     バン。

     がちゃん。

     バン。

     音がする。

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:42:58

     「き、来た……」
     
     わなわなと入口を見返った正実は、胸の高さまで積み上げられたバリケードの向こうの女生徒を見て、ぶるぶると震え出した。「来ちゃった」。一歩一歩、後ずさり。ひっしと私のセーターを、震える手で強く強く、握りしめる。
      
     春の陽差しが差し込むドアの向こう。逆光になった女生徒の制服はあちこち破れて血に染まっていた。それ自体はいい。流血沙汰などもはや日常なのだから。下着が見えていようがどうでもいい。尋常ではないのはその行為。

     私は見た目の違和感より、理解できない動きにこそ恐怖を抱くのかもしれない。

     女生徒はガラスを鳴らす。手で叩いているなら分かる。でもその人は、目の前にガラスがあるなど気付かないみたいに進み続けようとして、体全体を使って。ガラスを鳴らしていた。

     首筋が粟立つ。
     なんか、変だ。

    「い、委員長!」

     シミコが声を上げる。図書委員の矜持など忘れ、静寂を壊す声量で。

     首筋の粟立ちが背筋を伝い、腰の辺りに悪寒が溜まっていく。シミコはもはや金切り声に近い、自分では制御しきれていないような、そうしなくては居られないような、パニックめいた声。

    「息……息してないです!! 息!! してないんですこの方! 脈も――!」

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:51:16

    「救護騎士団に連絡してください! 今すぐ!」

     そう指示するとシミコはカウンターの固定電話に飛びついた。銃撃戦でひっくり返った人たちなど、野良犬を見るよりも多いキヴォトスにおいて。しかしそれでも、命の危機があるような状況は、慣れているはずがない。ああ、少し前の、クーデター騒動の時はひどかったものですが。

    「要救護者と伝えれば、団長がすぐに――」

     バン。バン。

     目の前の異常行動をしている女生徒はとりあえず、いい。バリケードはきちんと機能している。私は頭の中で優先順位を組み立てていく。状況を考えるのはあとでいい。

     この怯え切った正実はほっとけばいい。

     目の前の女生徒もとりあえずは、いい。

     倒れた生徒が最優先!

     心肺蘇生は授業でやったことがあるし、AEDだって備えてある。どこまでできるかはわからないけれど、せめて騎士団に引き継ぐまでの応急処置ぐらいは――。

  • 20二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:05:04

     バァン。

     入口ではなく。採光のために大きく作られた窓。陽気のいい日は気持ちよく昼寝が出来ると人気の席には今、誰も座っていない。その窓が大きな音を出した。叩いているのは知らない女生徒。手のひら型に血の跡がべったりと付くほど血まみれで。でも、怪我をしている風ではなくて。どちらかといえば返り血のような。

    『助けて!! 開けて!! お願い!!!』

     友人だろうか。気を失っているみたいにぐったりした子に肩を貸し、涙ながらにガラスを叩いている。そんなに必死にならなくても入口に回ればいい……と思ったところで、なぜか図書館にバリケードが中途半端に積まれているという事実にため息を吐き、いやそもそもそれどころでは、とAEDまで歩を進めようと思って。

     ……目が離せなかった。顔を隠すみたいに私の背中に顔を押し付けしがみ付く正義実現委員会のせいではない。

     私は――窓の向こうを別世界だと認識した。座席に座り、映画のスクリーンをポップコーン片手に見ているような。アメリカーノを飲みながらページを一枚ずつめくり、嵐の中を航海する釣り人の物語を読むような。そんな、現実と非現実の境目を、窓ガラスに見ていた。

    「やめ――やだ――なんでよぉおぉっ!! なんで”なっちゃう”のよぉぉぉおおおお!! 助けてよぉぉぉおおおお!!!」 
     
     意識がないと思っていた方が、ばたばたと手を振り回している。彼女たちは――同じ色のシュシュを手首に付けていて。姉妹か友人か。いずれにせよ、睦まじい戯れにはとても見えない。私は、ばたばたと振り回されていた手がピタリと止まる瞬間。目を見開いた女生徒と目線を合わせていた。
     
     スクリーンの向こうに観客は手を伸ばせない。本の中の物語を書き換えることは出来ない。結果として、私は窓を開けなくて良かったと安堵してしまった。
     

  • 21二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:18:30

    『あ』

     女生徒の体から力が抜け。年頃の女の子が絶対見られたくないような、ガラスに押し付けられた顔は見てられないほど醜く。押し付けられたからこそ、声による振動が、よりはっきりと図書館の中に響く。

     頭の上に回されたその手は、確かに。

     ヘイローを掴んだ。
     
    『あ”ああああああ”あああああああ”ああ”あ”あ”あ”ああ!!』

     スクリーンの中の音はガラスというスピーカーを通して私の耳に入ってくる。耳を塞ぎたくなるようなひどい声だったけど、それでも私は目を離せない。

     ヘイローをわし掴みにされた女生徒はガンガンと頭を窓ガラスに打ち付け、何とか逃れようとしていた。でも掴まれた箇所は決して離されることなく。掴んでいる方は何度も頭突きを食らっているはずなのに、鼻血が出て、歯も折れるほどなのに、気にしていないみたいに動じない。

     背丈の何倍もあろうという窓が割れた。
     
     割れた破片が身体に刺さろうが、割れた部分が顔を裂こうが。ぷつぷつと嫌な音を立て、辺りに血をまき散らしながら。それでも、抵抗するのをやめない。私はその光景から目を離せない。

     パキリ、と。あれだけの轟音のあと、ともすれば聞き逃してしまうような小さい小さい、乾いた木が折れるような音がして。二人は窓の向こう。桟の下に沈んでいった。じゃりじゃりと割れたガラスとコンクリートの擦れる音だけを残して。

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:28:05

    「な……」
     
    「きゃあああっ」

     現実が私の髪の毛を引っ掴む。首根っこを引っ掴む。

     先ほど”息が止まった生徒”とやらに群がっていた生徒たちが、並べられた机をひっくり返し、ガンラックに向かって走って行く。

    「なに、なんなのっ! ちょ、やめぇええあ”あ”あ”あ”あ”ああああああ”あ”ああああっ!! ァガGaッ!」

     一人が床に組み伏せられ暴れていた。ミシミシと何かが軋む音。

     パキリ。

     またあの音。乾いた木が折れたような音。ビクンと体を大きく震わせた生徒は細かく痙攣を始め。動かなくなった。

    「な……な……」

    「ちょっと! なによこれ!! ああもう!」

     ガンラックに銃を取りに行こうとしても、けれどあるのはバリケード。と、なんか変な生徒。苛立ちげに積み上げられたものの一つを蹴っ飛ばすと辺りを見渡し、ずんずんと私に近づいて来た。

  • 23二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:30:16

    (やべぇ、なんかちょっと癖かも……どんどん続けてくれ)

  • 24二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:33:27

    「あんたの銃ちょっと貸してっ」

    「ぐへっ」

     私からライフルを奪い取った生徒は、今まさに動かなくなった生徒に覆いかぶさっていた方に銃口を向ける。

    「だめ……」

     私の背中から正義実現委員会の消え入るような声。多分、私にしか聞こえていない。

    「おい! 動くなよ!! なにしたんだよあんたっ!!」

     ゆぅらり。

     動かなくなった生徒などもう眼中にないように、ゆらりと立ち上がった生徒は。手を前に突き出し、何かを求めるように。私のライフルを構えた生徒に近づいていく。銃口を向けられているのが見えていないのか。声というよりは、空気が抜けるときにたまたま声帯が鳴ってしまっているみたいな音を出しながら、ゆっくりと。
     
     ずっ、た。ずっ、た。

     ゆっくりと、銃口に近づいていく。

    「ふざけやがってっ――」トリガーに指が掛けられた。

    「撃っちゃだめえええぇぇぇぇえええ!!!」

     耳をつんざく絶叫が館内に散らばり、反響し、破れた窓を抜けて外へ拡散した。

     ぽしゅん。

  • 25二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:36:48

     聞き慣れた発砲音も同じように館内を飛び回る。うるさいのが嫌いだからと選んだ、ちょっと高いライフル銃。銃身そのものがサプレッサーだから取り回しがよくて、とても気に入っている私の愛銃。

     吐き出された硝煙の向こう。

    「……え、あ」

     人の銃を使っといて、それでも思わず銃を取り落とした生徒の気持ちはわかる。ライフルで頭を撃たれたって、私たちはせいぜい、気を失うぐらいで済む。弾が体内に入りこむからではなく、衝撃をモロに受けるから脳が揺さぶられるせい。身体ごと吹き飛ばされるせい。弾は滅多に私たちの皮膚より先に入ってこない。そう。そういうもの。私たちにとっての銃弾と言うのは。

     本の知識でしか知らないけれど、競技用自転車のヘルメットというのは、砕けることで衝撃を分散させるらしい。

     いま撃たれた人は立っている。

     立っている。

     立っている。

  • 26二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:38:14

    「ちが、そんなつもりじゃ……」

     立っている。

     立っている。

     歩き出す。

     頭がない状態で。頭の半分がえぐれた状態で。

     噴き出す血をそのままに。ちぎれた肉にぶら下がった頭蓋骨をそのままに。飛び散った脳漿を顧みることもせず。書架にこびりついた肉片に未練など見せず。

     ず、ちゃ。ず、ちゃ。

     撃たれたことにすら気付かないみたいに。

    「ご、ごめんなさ……ごめ……ちが……」

     人殺し。

  • 27二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:40:40

     事実と、凄惨な景色に放心している生徒に、頭の半分が無くなった生徒が近づいていく。両手を突き出し。抱き着くように。

     そのまま。頭の上に手を伸ばして。

    「逃げてぇぇえええええええ!」

     正実が叫ぶ。でも、なにもかもが遅かった。

     遅かったんです。なにもかも。

    「あ”あ”あ”あ”あああああ”あ”あああああッ!!!」

     パキパキと小気味の良い音を立てながら、ヘイローが破壊された。あれはヘイローが壊れる――違う。壊れてはいない。壊れているわけじゃない。なんだあれ。初めて見た。ヘイローのあんな状態……。
     
     溶けてる。溶けて、形が、ぐちゃぐちゃに。

    「な、な、な、なにがっ――」

    「委員長……。で、電話……通じません」

     今はそれどころではないのに。シミコは受話器とスマホ、両方を両手に持って。目の前の状況をしっかりと見た上で、小さく言った。
     

  • 28二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:51:35

    とりあえず今日はこんな感じで……。


    普段ゴリゴリのほのぼのモノしか書いてないから至らなかったらごめんよぅ。

    まだエピローグすら終わってないのにね。うふふ。


    あ、保守はしなくて大丈夫です!

    10時間保守ほんと辛いしご迷惑かけちゃうし、不定期になっちゃうと思うし。全く同じスレタイ_スレ画でまた建てます!

    次スレでWriteningにスレまとめたリンク作りますので、そんな感じでおねがいします!


    >>6

    ゾンビ・アポカリプスって終わり方が難しいよね……一応、決めてはいるけど満足できるものかは神のみそしる。

    >>23

    癖……癖……

    ゾンビものはエロ・グロで出来ている。


    ではではまた次スレで~。

    読んでいただきありがとうございました。

  • 29二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:54:55

    すごく……えっちでしたよ……
    新たな性癖の芽生えを感じました

    もし残ってたらこのスレに書くんですかね?

  • 30二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:04:23

    >>29

    残ってたら……ね。

    でも意識の上では次々新スレ立てる書き方でやってこうと思うから、ぜんぜん気にせず落としちゃってかまいません!

    毎回区切りいいところまで書いて、落として、新スレでまた区切りいいところまで書いて……みたいな感じのほうが楽だったりする。個人的には。

  • 31二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:21:04

    了解です!
    ゆっくりと気長に待ってますね、新たな性癖を開拓してくれた貴方へただひたすらに感謝を

  • 32二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:21:51

    渋なり笛なりで書けばいいのでは……とも思うが
    連載を待つコメントを見るのも億劫になるタイプなのかな
    続きを新スレで書く場合は前スレリンクも貼ってくれな!

  • 33二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:33:29

    >>31

    忘れられないうちに立てるでな。たぶん。

    書き溜めは残ってるけどキリ悪いから投稿はしない、的な感じどす。


    >>32

    書く場所はどこでもいいんだけど、スレ投稿のが慣れてるから……。

    待ってくれるコメント、すっごく嬉しいんだけど、3,4日新しいの投稿できないと、だんだん保守替わりのって感じになっちゃうから……。あれ申し訳ないなっていっつも思ってたんだよね。

    とはいえ1スレで終わらせたいSSはそういう書き方してるから、あくまでこのSSはちょっと試しに、って感じです!

    もちもち。1つ前のスレはちゃんと貼らせていただきます!

  • 34二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:36:52

    すっごい癖を感じれて好き

オススメ

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