- 1逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:39:03
襲来した異星人!
侵略されるエネルギー資源!
存亡の危機に晒されてなお人類は……
未だ一つになり切れず、壮大な内ゲバを繰り広げ続けていた!!
【出来れば読んでいただきたい世界観および初期設定集(テレグラフ)(各種ページへのリンクあり)】
ここだけ3勢力入り乱れ惑星外性生物と戦うリアルロボットSFな世界あらすじ(とりあえずこれだけ読んでくれたなら最低限大丈夫な筈の簡潔にまとめた世界観)その1:どういう世界なの?
特殊なエネルギー鉱石「コア鉱石」を動力源とする人型歩行兵器「バディフレーム(通称:BF)」が兵器として一般化した高度な機械文明が築かれている、地球に酷似した惑星が舞台だよ!
元々は人類同士で細かい諍いとかはありつつもそれなりに穏やかな世界だったんだけど、本編から20年くらい前に惑星外性生物「インベイド」が隕石に乗って地表に飛来、どうやら上述のエネルギー塊「コア鉱石」がインベイドにとっては食糧として美味しくてたまらないらしくて、人類に敵対行動を取り始めたんだ!
必死に抵抗したんだけど、現在では地表のおよそ3~4割程が完全にインベイドがうようよ闊歩している危険地帯になっちゃって、そこから時々インベイドが攻め寄せて来る油断できない状況なんだよ……。
その2:で、今どうなってるの?
インベイドとの緒戦により人命を多く失いながらも、結果として「クロノス・インダストリー(通称:K.I社)」が世界を主導、地表や地下に「コロニー」と呼ばれるいくつかの居住拠点を制定してそこを中心にインベイドに対抗する様になったんだ!…00m.in次スレは>>190踏んだ方が
- 2逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:39:41
【前スレ】
【R-18】ここだけ3勢力入り乱れ惑星外性生物と戦うリアルロボットSFな世界part17【のんびり進行】|あにまん掲示板襲来した異星人!侵略されるエネルギー資源!存亡の危機に晒されてなお人類は……未だ一つになり切れず、壮大な内ゲバを繰り広げ続けていた!!【出来れば読んでいただきたい世界観および初期設定集(テレグラフ)(…bbs.animanch.com【禁止事項】
・無敵ムーブ(戦闘でダメージを受けない、回避し続ける、など)
・必要性の認められない確定ロール
・相手PLが嫌がっていることを強要する行為(特にR-18関連はデリケートなところなので扱いには気を付けて、事前相談忘れずに)
【世界観やパワーバランスを保つ上での禁止事項】
・版権設定の利用
・「地形を変えられる火力」を個人で設定し所有すること
・3勢力(K.I社、人自連、デスペラード)+インベイドよりも立場や規模が大きい勢力を設定すること
・なんでも高い水準で出来るキャラ、なんでも高い水準で出来る機体禁止(他の人の活躍機会を奪いかねないため)
・メタネタ禁止(「この世界は作り物だ~」や背後さんへの言及をキャラの目線で発言させるなど)
- 3逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:40:08
Q1:参加してぇ!けど事前のキャラ登録って必須なの?テンプレはある?
A1:キャラシはあった方が色々スムーズだとは思うけど、無くても規約的なNGムーブさえしなけりゃ参加はOKだぜ!
テンプレらしいテンプレは特に無い(めんどうくさかった)からテレグラフなりで各自好きな様に書きたいこと書いてくれ!
↑の初期設定集から飛んだ先にあるスレ主のキャラシからテンプレとして項目を引用しても大丈夫だぜ!
Q2:キャラは1参加者につき何人まで?
A2:何人でもOKだぜ!複数陣営あるし下手に制限設けたらスカスカになるのが目に見えてるから……好きな様に作ってくれ!
Q3:コテハン(トリップ)は必須なの?
A3:必須じゃないぜ!でもトリップが無いってことはなりすましや乗っ取りが出ても判別方法が無いってことでもあるから、自衛手段としてコテハンを持っておくのは無難だぜ!
Q4:スレタイにR-18表記があるけどエロスレなの?
A4:一般誌のエロ描写とか元ネタ一般作品のエロ同人好き? 俺は好きなの……
エロメインじゃないけど「エロいことも割と自由に描写して良い」スレだから苦手な人がミスッて踏まない様に一応表記しているぜ!
「猥談耐性はあるけど自キャラにエロルさすのはなぁ……」って人でもOK、「自分は露骨なエロやりたくないです」って言っておけば良いぜ!
Q5:設定集に目通したけどなんか既視感ある設定ばっかりだな?
A5:へへっ - 4逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:40:25
【テレグラフ(設定やキャラシート、R-18な文章を書いたりにどうぞ)(※URLのhとttpsの間のスペースを消して検索してください)】
h ttps://x.gd/Z5SAZ
【URL短縮用サイト(テレグラフのデフォルトURLだとあにまんのNGワードに引っ掛かってしまうのでこちらでURL短縮してから投稿してください)】
- 5逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:43:25
「さて、と。保守作業だが……すまないね。この緊急事態だ。余裕がない。手短にしよう」
- 6逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:45:40
「私達がマスドライバーを利用し、桜空プラットフォームへ打ち上げた実働部隊。合計6名、そして龍影と台さんを加えた8名が今回の私達が持つ切り札だ」
「特に逆巻重工から選出したメンバーは、青天市街に駐屯する教導部隊へ配属することも惜しい精鋭中の精鋭……ということだ」 - 7逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:48:35
「とはいえゴエティア戦団ほど優れに優れた……とまではいかないと判断しているのが我々の認識だ。 逆巻のトップだからどんな状況でも、最低2機で3倍の敵BFを相手に、常に無傷で勝つ。というところに達していると言ってしまうのは、誇大広告だからね」
- 8逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:49:54
「だから、今回のトップ層に関しては……『何をやってもおかしくない』という評価が一番それらしいだろうね」
- 9逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:52:13
「繰り返すが、手持ちの戦力としてみれば彼ら彼女らは……私が最も信じている最精鋭だ。特にハザマ・キヤマ君にはとても期待している。いつか彼専用のBFを作ってあげたいものだ」
- 10逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 00:55:43
「もちろん、彼ら以外にも実働部隊はいるし、守備隊もたくさんいる」
「だがもしA-1コロニーに数機で突っ込み、時間を稼いで可能な限りの損害を与えろ。なんて任務になるとしたら……」
「彼ら以外は足手まとい、というのが適切かな」
「さ、保守は終わりだ。この世界がどう転ぶか……わからないからこそ、私達は最善を尽くすしかないね」 - 11賢人会議◆YMCgTirJag25/05/07(水) 08:43:52
前スレ141
〈逆巻の面々はサヤギリ操縦士がいる簡易裁判所の拘置所を知らない可能性がある。〉
〔ならば恩をここでも売るべきだ。〕
《勘繰られる可能性もすてきれないが。》
【どんどんと協力していけば嫌でも脅威度を下げるはず。】
〈老害と違うということを見せなければならない。〉
《これ以上は我々の立場も》
【老害へ牙を向けるのです。今更それが怖くて止まるものですか。】
〈座標を逆巻へ送信。老害も察知するだろうが構うものか。あそこ(逆巻)の早さなら省略して銃殺を決定しても既に突入している。〉 - 12アントニオ◆5Q4kt6Q.kc25/05/07(水) 08:47:25
『全く。動ける熱量があるのは良いが
人間同士で戦ってどうするのやら...ふあぁ
とはいえ大勢の目を逸らすには都合が良い
こちらも、それなりに動きやすくなった』
深く広すぎる夢から醒めた人物は、
ため息を吐きながら歩みを進める
『......さて、そろそろ仕上げに入るかな』
誰も知らない何処かの辻に、
ふらりとその影は消えていった - 13エイプリル◆.4YTxDiDm.25/05/07(水) 11:50:27
「主の導きありて我ら星を想う」
優しく包み込むような可愛い声で話した新しい代行は
軍団を連れて動き出した。
カルトの拠点は点在しているがひとまとまりとなり、ウネるように蠢く。例え代行が死んだとしても。 - 14エイプリル◆.4YTxDiDm.25/05/07(水) 12:02:53
- 15ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/07(水) 12:05:52
前200
ふふん♪
髪型や髪色を変えることもオシャレの一つですもの!
お化粧を変える、お洋服を変える、それらと同義なのですわー!
なんなら機体のペイントもしましょうかしら……次の休暇が楽しみですわね♪
【ラバーはうら若き少女のような声色で楽しげに微笑んだ】 - 16エイダン◆Fd5AlHEdkk25/05/07(水) 12:39:21
【分厚くなってきた雲の合間から靴の爪先を照らす、か細い日差しを受けながらデスクへ戻る】
【閉じておいたパソコンを開き、これからに必要な兵装や武器弾薬のリストを素知らぬ顔で送っていく】
【受け取る側の製造部長には総務部から連絡が入っているはずなので問題はない。あったとしても彼は心身ともにポーカーフェイスのプロなので、気取られることはないはずだ】
(Ms.アマギリにも連絡しておくか。…… 『任務後、送付したナビデータに従うこと。詳細は下記を参照』)
【最悪の場合は刑務所へ突撃することを考えると、戦力は多い方がいい】
【今では頼れる部下の一人となった私兵へ、今回の詳細と一緒に.0工場までのルートを入れたナビデータを送る】
【このナビは毎日変わるので、彼女が契約後に所属を変えたとしても工場の所在が外部へ漏れることはない。……一応、記憶処理処置を取ることになるかもしれないが】
「事業部長」
「なんだい?」
【そうしていつも通りの仕事に取り組む振りを続けていると、前髪を几帳面に七三分けにした青年が声をかけてきた】
【確か、メイソンが重用していると言っていた部下がこんな容姿だった気がする】
「シェセプ・アンクのパイロットがお呼びです。何やら深刻なご様子でしたので、特別応接室へご案内しました」
「……わかった、すぐに行く。ありがとう」
【そば立てた耳に囁かれた内容に嫌な予感を覚えながらも、エイダンは席を立った】
【ケイ・サヤギリの件に関わることか、はたまた別の案件か】
【どちらにしろ頭の痛くなる話には違いないと思いつつ、特別応接室に通じる扉を開く】
「お待たせして申し訳ない、Ms.アル=アサド。緊急の要件と聞いているよ、伺おう」
【上等な革張りの椅子に座り、向かい合う。そうして彼女の顔を見た時。嫌な予感は確信に変わった】
【かつて握手を交わした時の尻尾を垂らしたような姿とはまるで違う、剣呑な雰囲気】
【酸化した鉄の臭いが漂う路地裏で、虎視眈々と機を伺う野良猫 (デスペラード) が、そこにはいた】 - 17旧愛卿◆OXAm1h6odk25/05/07(水) 12:55:17
- 18ハニヤ◆KPwoT407kA25/05/07(水) 13:11:43
- 19逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 13:23:43
「さて……」
アポイントメントの場所として選ばれた廃墟都市に、逆巻カンナは足を踏み入れた。
装いは周りに溶け込むことができるようにシンプルなズボンと長袖のボタン付きシャツ。一般もの。彼女を守るような護衛も、見える範囲にはいない。なぜならば。
『CEO、配置につきました』
「エイダン・リーとユスラ大佐が来たら、すぐに両手をあげて姿を見せろ。人を守ることだけ考えるんだ」
『了解。CEOの護衛は彼女に任せます』
逆巻重工が用意した盾と目は、全て二人のクロノス重役を守るためのもの。カンナを守る役目を持つのは、銀髪の女性ただ一人……腰には日本刀、銃器も最小限のスタイルだった。
『こちらユズハです、聞こえますか』
「風の音でちょっとうるさいかもだけど聞こえてるよ」
カンナがそう答えたと同時、ヒュウと吹き荒れる風が激しくなった。砂埃が舞い上がる中にカンナと護衛の女性はいた。
『賢人会議からの情報です。サヤギリ操縦士を拘留していると思われる留置所の座標を送ってきました』
・
「わかった。裏どりはしつつ上にいるみんなにも伝えてくれ……サヤギリの所在が判明。作戦は対クロノスから対老醜に移ったと」
応答したユズハの声が耳元の通信機から響いた。そしてこの言葉で、実働部隊たちの意識も切り替わるはずと、カンナは知っている。
(ここからは、最悪を刻む戦いじゃない。最善の掴むための戦いだ)
ケイが生きている以上、最悪はもはや許されない……それが彼女の脚本だ。
『それと、エイダン・リーから謝罪の連絡が一つ……内部の案件で数時間ほど遅れるようです』
「構わないと伝えてくれ。むしろ彼の地位を考えれば、私のことはもっと待たせるべきだ」
(ケイは……壊れているように見えても、何かを託されたと思えば戻ってくる)
(この数時間の遅れでも、きっと意味がある)
「なに、良い女は待つものさ。私はいくらでも待てる」
最善の未来があるのだから、待つことなど……苦にもならない。カンナは唇に指を当ててそう答えた。 - 20二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 13:50:08
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- 21東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/07(水) 13:53:27
- 22エイダン◆Fd5AlHEdkk25/05/07(水) 14:03:52
「……なるほど、了解した」
(……壮絶だな。いったい何をやらかしたんだか、彼は)
【脳内で豪快に全てを笑い飛ばしていた好男子のイメージにヒビが入る】
【危ういところもあれど、人に慕われる才は持っていると思っていたが……。否、今はそんなことを考えている場合ではないか】
「ちょうど最近、製造部でメカニックを募集しようと決まったところでね。ありがたいよ。戸籍を初めとした身分証の類はこちらから融通しよう。住居は社員寮で良いかな?」
【必ず二週間以内に全員分を用意すると約束し、次の要件に入る】
【シェセプ・アンクの外装交換と下げ渡し。部下の説得を頑張る必要がありそうだ】
【ちなみに拒否するという選択肢ははなから無い。穏便な方法で目的が達成できなければ、実力行使に出るのが今の彼女だ】
「それと、シェセプだが……少し特殊な工場で扱うことになる。普通の工場を動かすのが難しい状況になってきているからね」
【今、私的な理由で表の工場を動かせるようにするにはリスクが高すぎる。ただでさえ危ない橋を渡っている最中なのだ、自分から端に寄るような真似はできない】
【それに、元から.0では突撃に向けてConquerorの外装交換もする予定だった。それが一機増えるだけなら、問題は無い】
「他に頼みたいことはあるかい?君が望むなら、これまでの働きの礼に逃走経路の確保を手伝おうかと思うんだが……。幸い、頼れる伝手もあることだしね」
【上層部にすら悟られない完璧な情報隠蔽技術を持つハッカー (情報部エース) に、根回しの上手い大佐】
【後者は説得が必要だが、おそらくは同僚の過失が原因だということと、今の彼女の様子から想定される断った場合のリスクを伝えれば、引き受けてくれるだろう】
- 23ハニヤ◆KPwoT407kA25/05/07(水) 14:10:24
- 24龍影◆9BZ6kXGcio25/05/07(水) 14:30:17
宇宙(そら)の軽さを感じながらブリーフィングルームへ向かう。
「降下速度は初期加速分も足されるためマッハ13に到達する。機体軸がズレた途端、機体は圧縮熱と加速度により星屑(流れ星)と変わるだろう。熟練の君らなら問題は無いだろうが、0G環境では地上と違う挙動が起きやすい。少しのミスで死に直結するから気を付ける…既に楽しんでいるようで何よりだ。」
身体の固定に失敗してフワフワと浮き始める逆巻のパイロットに皮肉を言う。
《す、すいません!すぐにバランスをぉ?!》
ジタバタと手足を動かすが、それによって発生した慣性で身体は更に支えを失う。
「加圧服は吸着ブーツもあるんだ。それに頼れ。」
龍影はそう言って、浮いている操縦士の手を掴み、床に立たせる。
「姿勢制御は弄るなよ。降下中にシールドと一緒にキリモミ回転するようになりたくなければな。」
桜空時代に上がったことを思い出すがプラットフォーム構想は資金が降りなかった為、この一基しかない。そんなことを思い出しながら時を待った。
- 25ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/07(水) 14:34:38
- 26東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/07(水) 14:41:29
- 27逆巻重工・実働部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 14:57:47
「ツルカミ!貴様また吸着靴を使わず遊泳してたな!!」
「げぇっ、ユエギ!?」
「ふふ、あいつらも緊張がほぐれたようで何よりだ」
ユエギが操縦士服でツルカミにしっかりしろ!と言いにきているのを見ながら、セイドウが苦笑いをしてやってきた。
「すまんな、初めての宇宙で皆浮かれていたらしいが……無理もない。我々の母星をみれば、勢力の違いなどちっぽけなものとわかるからな」
そう言い切るセイドウも、かつてはどこかで宇宙開発事業に携わっていたのかもしれないことがわかる。
「それと、君たちも作戦要綱に一部変更があったのは知っているな? 我々の動くタイミングは、報復ではなく拘束されているケイ・サヤギリ奪還のために切り替わった」
表情を引き締めながらセイドウが伝えてくれた。
「サヤギリの肉体、精神的な回復と情報の裏どりを取るために、我々が降下するのは早くてあと数時間から1日だ。準備は十分だな?」
それは暗に、蒼風改はスイに動かさせ、無人のままケイが捕らわれている場所に降ろし、彼を乗せるといっているようなものだ。
- 28旧愛卿◆OXAm1h6odk25/05/07(水) 15:47:05
「髪色を…………………」
常は余裕綽々の微笑みを浮かべている旧愛卿の美貌に、僅かな当惑の色が浮かんだ。
太陽を封じ込めたような黄金色の髪は、代々グランセン王家に受け継がれる象徴だ。当然、側近からも大いに大事にされている。
だから、旧愛卿は少しの間を置いて、それから答えを返した。
「──────良いですわね、それ!やってみたいです!」
一度も学校に通わないままに育った旧愛卿は、好奇心に瞳を輝かせて頷いた。
この決断が“独立闘士”達に「まさか…………総帥が不良になってしまったというのか!?」と、大きな混乱を巻き起こす事を旧愛卿はまだ知らない。
お友達と遊びたいだけだよ、コイツ。
しかも趣味がバディフレームの設計とかだから全然バディフレームのパーツや武装のショッピングとかナチュラルにするつもりだよ。頭キルマシーンか?
- 29ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/07(水) 16:18:10
「遅れて申し訳ない〜、カンナCEO〜」
【数時間後。頭を下げながら、パーカーとズボンというラフな格好をした少女が現れる。迷子と見紛う容姿だが、エイダンを連れている事実がその正体を裏付ける】
【遅れてきたユスラとエイダンは、二人だけだ。この状況でクロノス社の護衛から使うのはリスクが高く、また全身義体のユスラであればエイダンの護衛に不足は無いという判断である】
「クロノス・インダストリーのユスラ・キリサキ大佐だよ。で、こちらはご存知だろうけど〜」
【エイダンに視線を向けて、引き継がせる。この状況だからこそ、こういった様式美は必要だ。お互いの立場を忘れてはならない】
【なお、ユスラは既に彼にも事のあらましを説明してある。彼自身でもいずれは知ることができただろうが、早い方が良いと判断したのだ。…無論、『後から調べて知りました』という体であるが】
- 30龍影◆9BZ6kXGcio25/05/07(水) 16:32:03
- 31エイプリル◆.4YTxDiDm.25/05/07(水) 17:10:50
- 32逆巻重工・実働部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 17:16:16
「メイツーについては相手側の条件でもある。我々も承知しているが……やはり陸上戦艦ならともかく、留置所への降下は君の視点から見てやり過ぎ、と思うか」
龍影の言葉にセイドウが反応した。 ベテランらしく、軌道降下という手札の切り方に視点を向けてくれたことに感心しているのだろう。
「実際、現状では地上部隊による浸透と、内部への傭兵の侵入によってサヤギリを救出する手筈だ。軌道降下はあくまでダメ押しであるし……蒼風改だけを降下、という手もある」
ケイのメンタル状態に不安が残る危険もある……という部分を排除するダメ押しが、CEO補佐官、ユズハ・ミドリマによる軌道降下だ。
「蒼風改だけを落として、我々は救出進路上に陸上戦艦が来たときに備える方向に変えても良いぞ?」
この手の初見殺しは見せてしまうと意味がない。 セイドウは龍影の意見に賛意を示し、決断を待った。
- 33龍影◆9BZ6kXGcio25/05/07(水) 17:31:31
- 34逆巻重工・実働部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 17:45:03
・・・
「そうだな。インベイドも然りだが、人類の学習能力も侮るべきではない。クロノスという仮想敵に対する隠し玉は多ければ多いほど良いというのは、我々も同意だ」
ここでセイドウは、クロノスへの表現に仮想敵という言葉を意図的に使った。敵とする覚悟で宇宙に上がった以上はその表現も事実であり、適切だった。
「スイが入っているとはいえ、確かに今の蒼風改も厳密に言えば無人BF……投下することによる戦力補充という点も含め、良きにしろ悪しきにしろ今の時点で前例は作るべきではないな……良い意見をありがとう、龍影くん」
「アドバイス通り蒼風改はバリュートを利用した低速降下で降ろし、我々は待機としようか」
砕けた口調に、セイドウはどこか安心したような声色だった。地を出してくれてありがたい、という笑みもある。
この現場判断の柔軟性こそが、目の前の男が指揮官となっている理由でもあった。
「ケイには自力で、”こちら”に留まって貰う必要があるな」
だからこそその言葉は、危機に陥っているケイだけでなく龍影も励ますもの。
彼ならば大丈夫、という信頼が入っていた。
- 35二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 17:58:17
このレスは削除されています
- 36アカネ◆fDey8JUvvk25/05/07(水) 17:59:46
「?」
【アカネには政治がわからぬ。アカネは、エイダン部長の私兵である。】
【今日も砲を撃ち、インベイドを穿って任務を終えた。】
【けれども指令に対しては、人一倍に敏感であった。】
【きょう黄昏アカネは基地を出発し、野を越え山越え、幾許はなれた第0工場に辿り着いていた。】
- 37エイプリル◆.4YTxDiDm.25/05/07(水) 18:26:22
- 38エイプリル◆.4YTxDiDm.25/05/07(水) 18:53:13
そこは散々なものとなった。
ファランクスと衝突して轢かれたBFが散乱し、陣を崩したスパルタは繁殖期のクマの如き暴れ方をみせ、ぐちゃぐちゃと引き裂くように迎撃に出たソルジャー達を殴りつける。
「あぁ…私の可愛い我が子達…あんなにも立派に成長して…」
エイプリルは自らの従者が敵を食い荒らす姿を見て感動した。
彼女はコックピットから降りることが出来ないが、「必要な機能」は健在である。
トロトロとした粘液でシートを汚した。
恍惚と快感の混ざった笑みをこぼす。
「そうよ!みんな、もっとよ!」
人と肉とBFとコンクリートと火薬が焼ける中、代行は絶頂した。
チカチカと視界を瞬かせながらレーザーランスを構え、管制塔へ突進をする。
官能的な張り付いた笑みを浮かべている。
- 39エイダン◆Fd5AlHEdkk25/05/07(水) 19:28:14
「ありがとう。では、また」
【挨拶もそこそこに、さっさと出て行ったハニヤを見送ったあと、エイダンも立ち上がった】
【重要な会談が控えているのだ、これ以上待たせては沽券に関わる】
【特別応接室を後にして、携帯越しに他の業務を頼れる部下たちに振り分けながら、急ぎ足で廊下を進む】
【通り過ぎていく窓の向こうでは、分厚い雲が完全に空を覆っており。まだ昼間だというのに、暗い影を落としていた】
「クロノス・インダストリー 工学事業部 事業部長 エイダン・リーです。お待たせして申し訳ない」
【差し出された挨拶を引き継ぎ、頭を下げる】
【いつかのトレンチコートに黒縁の伊達メガネを身につけた姿は、小柄な体躯と合間って今一パッとしない】
【しかし、その瞳孔を縁取る白銀は真剣な光を放っていて、彼がこの事態をどれだけ重く捉えているかを如実に物語っていた】
「詫び……と言っては何ですが、こちらを。僕とユスラ大佐で用意した、Mr.サヤギリの無実の証拠となる品です」
【小脇に抱えていた黒の手提げ鞄から、二枚のディスクを渡す。それらがカンナの手に渡った瞬間、二つのホログラムが虚空へ投影された】
【一つは晴天市街の監視カメラが捉えた、ケイ・サヤギリとある男の死闘。もう一つは勞 金龍がケイと密室で殴り合っている映像】
【どちらも裁判を引き延ばすのに有力な物であることは間違いなかった】
- 40逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 20:07:31
「やぁ、エイダン部長は久しぶり……そしてはじめまして、ユスラ大佐」
二人の会談相手に、カンナは綺麗に一礼を取った。
「逆巻重工・六代目CEOの逆巻カンナだ。むしろ待つ時間で思考が整理できた……こちらこそ、お礼を申し上げたい」
その言葉は真実だ。 会談を設けるまでの間に状況はいくつも転がり変わっている。カンナからすれば何が起きたかわからない状況が、ゆっくりと輪郭を帯びていくようなものだ。
1を知らなければ理解はどこまでも進まない。いくつかの仮説を立てたとしても、認められる根拠がなければ空想だ。
「これは……はぁ……」
そしてカンナの目に映るのは、彼女自身の仮説を裏付けるような証拠であった。
「まじでクロノスの大佐を殴ったのか、ケイは……うちのバカが、本当に申し訳ない」
頭を深く、深く下げる。護衛の女性は何もしない……頭を下げることこそ、最も大事な誠意の一つだと理解しているのだから。
たとえその後に何があろうが、その前に拉致をされていようが……問題には変わりないのだ。
「……この映像の後の動向については、勞(ラオ)大佐から聴取はできたのですか?」
まず映像だけ、ということなのだろう。音声が乗っていないから、どのように言い争っているかはカンナには想像しかできない。 が……。
(ケイが怒り狂うような勢いでひたすらに殴って……ああ、頭突きまでしてやがる!相手が手を出したらケイが死ぬ……あ、平手打ちした……ああもうメチャクチャだよ……)
頭を抱えるしかない。 クロノスへの報復を計画しといて虫がいいのは理解するが……普通ならばこれを口実にクロノスからの攻撃があってもおかしくない案件だ。
「……まさか、この映像ですら序の口なことをやったんですかね……」
仔細はわからないからこそ、カンナは縋るように聞いた。これで終わりだよね?他になにかしてないよね?と。
- 41ユスラ◆xZJxX8ZGsA25/05/07(水) 20:50:54
「ん〜…あ〜〜……勞大佐から聞いた限りだと、その後もちょっと色々…かな…?でもカンナCEOが謝る必要は無いよ〜」
【これ以上について話すと彼女の頭が更に下がりそうなので、程々に誤魔化す事にする。この件に関しては頭を下げたいのはこちらなのだ。確かにこの映像だけが世に出回れば、『ケイ・サヤギリはクロノス・インダストリーの大佐をぶん殴った』という風に認識されかねないのだが、流れを知るものからすれば寧ろ『ケイ・サヤギリは裏切りに加担させられまいと抵抗している』としか捉えられない場面である】
【そして、抵抗も虚しくゴエティア戦団…いや、元・ゴエティア戦団のナンバーによる裏切りに加担させられた、とも】
「その…多分、そっちも知ってると思うんだけど、先にそういう空気作っちゃったのはこっちだからさ…」
「だから、まず…ゴエティア戦団とケイ・サヤギリの件については、謝罪させてほしい。誠に申し訳ない」
【纏う空気を変えて、深く頭を下げる。相手の誠意に応えた…というよりも、最初からそうすると決めていたのだろう。それまでの普段に近い喋り方も、相手に謝られると調子が狂うからだったのかもしれない】
「それで…その上で、聞きたい。貴方方でケイ・サヤギリを…回収できるかどうか」
【確認せずとも、先のやり取りでユスラは既に、カンナのスタンスは理解している。彼女は『うちのバカ』と言ったのだ、その意味を察せないほど疎くはない】
【だから質問は変わった『逆巻重工の持つ力で、彼を回収できるかどうか?』へと】
- 42イフドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/07(水) 20:53:14
*本編とは何の関係もありません
*あくまでもIF世界なので、本作に出てくる登場人物は同一人物とは限りません
悪情・劣情・無情あ〜〜〜クソッ……あのクソガキ……散々っぱら俺を殴りやがって……【イライラが治らない。同じ、いや、それ以上に倍返しにしたはずなのにイライラが治らない】
クソクソクソクソクソ……
【かかとを床に叩き付ける回数が増える】
死ね死ね死ね死ね死ね……
【頭の血が沸騰するを実感する】
死ねよクソがっっっっ!!!!
【苛立ちがこれじゃどうしようも治められないのを確信する】
……はぁ……はぁ……はぁ……
【その時、ふと彼の目にはシャロン・ローズの姿が写る】
【鉄から生まれた薔薇の香りを漂わせ、義体でありながらもその豊満な身体付きが、彼の苛立ちを煽っていた】
【部隊で囲んでいる女を煽るためであった要素全てが、男性恐怖症の彼女にとっては皮肉にも、絶対的な暴力を持つ獣に対して訴え掛けていた】
シャロン!!!! こっち来い!!!!00m.in - 43二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 21:02:45
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- 44逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 21:13:31
「そうか……そう、か。わかった」
それだけでカンナは多くを察した。これはきっと、ゴエティアの……いや元・ゴエティアの彼と二人が出会う前に起きたこと。そして、元ゴエティアが生きたまま処刑され、かつケイと勞 金龍が生きている時点で……そういうことなのだと察した。
無意味に消し去られたはずの男の主張を、活かすことのできる立派な証拠だった。
「わかった。こちらとしても両方の謝罪を受け入れよう。我々自身も、この事態がどう動くかについては注視していたのだから……クロノスの側でもしっかりと彼に注意してくれるというならば問題はない……誘拐の方はね」
カンナはその謝罪をどちらも受け入れた。受け入れなければならない立場である。だから、せめて彼のお仲間として注意、いや、彼を良く見てやってくれというのは純粋な善意でもあった。
ゴエティア戦団とのあれこれについては、終わったことだ。既に人自連としても処理が済んでいる。
そう言い切ったカンナに、ユスラの視線が刺さる。
ケイ・サヤギリを奪還できるのかという問いかけに。
「奪還については、当然と言わせてもらおう」
答えた。
「どう最悪に転んだとしても……意気込みとしては、クロノスのA-1へケイ・サヤギリが連れていかれようと奪還してみせると伝えておくよ」
もし逆巻の動きについてある程度理解があるなら、それこそ恐ろしくも思うかもしれない。介錯人としての……そしてやる、やらねばと決めたことをやりきり続けたからこその信頼が彼らを作っている。
────企業国家という言葉を、彼らは純粋な誇りとして持っているのだから。
「その上で。もしこちらの動き全てが失敗してなおケイ・サヤギリが生存していた場合は……是非、クロノス側で介入、確保して欲しい。彼の名誉は、人類への貢献ででいくらでも取り戻せるのだから」
配当としてはあまりに小さいかもしれないが、という言葉を添えて、カンナは最悪の場合というシナリオに、クロノスの介入による救済を含むことを決意した。
- 45二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 21:22:33
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- 46ユスラ◆xZJxX8ZGsA25/05/07(水) 22:13:15
「寛大な心に感謝を。…うん、注意させて貰うよ」
【言われずとも、そうするつもりだ。勞 金龍…彼はようやく世界を知ろうとしたばかりなのだ。きっとまだ見えていないものの方が多く、また気が付かずに走り出してしまう可能性だってある】
「く、ふふっ……あははは!!」
【そうして最後まで話を聞いたユスラは、耐えきれないと言わんばかりに笑い出す。彼女の意気込みと決意を聞いて決壊した笑いだ。しかし、嗤いではない】
「いや〜、カンナちゃんは『強い』ね〜」
【彼女は身内の為なら、何にでも喰らいつく。そして何にでも頼る。それは彼女の『強さ』であり、ユスラにとって嬉しくてたまらなかったのだ】
「約束するよ。もしもの場合は、おねーさん達でサヤギリくんを助ける。というか、元々カンナちゃんが無理そうだったらそうしよっかな〜って思ってたしね〜」
【もはや隠す意味も無くなったことだ、打ち明けてしまっていいだろう。すっかり上機嫌なユスラは、逆巻カンナという個人をえらく気に入ったらしい】
・・・・・・・
「じゃ、これも渡しとこっか。おねーさんからカンナちゃんにプレゼントってことで〜」
【取り出したのは…幾つかの傭兵の資料だ。それは全て『デスペラード』で『BFを使わない依頼も受けれる』者達。ユスラが『指紋』を残したくない時にだけ使おうと思っていた『手袋』の一部である。当然こんなものはクロノスの大佐という立場で渡すほどの価値は無いが、クロノスの大佐という立場では渡してはいけないものでもあった】
【BFパイロットとしての傭兵は増え続けている。しかしその内、生身での依頼を受けれるものは僅かだ。人類自由連盟の檻を破れという難題を受けれるものなどは更に減る。リストの傭兵は全て、依頼を依頼主の意向に沿って進められる者に限ってあった】
- 47シャロン◆8meUu6AaJY25/05/07(水) 22:15:41
- 48逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 22:45:03
「ふふ……私はある意味ね。父が築いたものを、そして一部崩れたものを……なんとか立て直して、今やっと増築してるだけの女なんですよ。ユスラ・キリサキ大佐」
己を強い、と褒め称えられることは……嬉しくもあり。同時に迷いなく誇れるかといえば中々に難しいものでもあった。
カンナの父が北方戦線の末期で一時狂気に陥り、正気に戻る僅かな間に行った研究。
それらを消し去るために費やした時間と資産は大きい。父が、そして父とともに己が味わった……自分たちの信頼、そして信念を改めて積み上げ直すための期間と経験こそ。カンナにとっては大事なものだった。
それは父との共同作業の結果得られたものと誇りこそすれ、たった一人で成し遂げられたわけでもない。
「私はいろいろな意味で頭しか使えない手弱女なのです。私が強いというならば、それはきっと逆巻重工の強さをいうのでしょう」
自分を守ってくれる人がいる。頼る人、嫌う人。全てが逆巻という存在を見てくれている。だから、我々は独善に陥ることなく……逆巻で在り続けることができる。カンナはそう言外に伝えた。
(エイダン部長と来てくれたのがこの人で良かった。沢山の幸運の上で……逆巻重工は、まだ”お人好し”でいられる)
クロノスも『最悪はそのつもりであった』というスタンスを知り。心からの安堵を抱えたまま。カンナはユスラからのプレゼントを受け取った。
「……助かります。この『手袋』は依頼が達成された段階で逆巻の目の前から破棄することを約束しましょう。その後の記憶からも、なかったことにすると」
余りにも過大な『プレゼント』であると即座に理解し、頭を下げた。
クロノスの大佐が持つには大きすぎる信用と人脈の流れを、逆巻重工の一存で好き勝手に損なうわけにはいかない。
それはカンナの信用だけではない。ユスラの信用をも損なうと同時、人類への損失ともなる。まさに今回限りの鬼札だ。
「ユスラ大佐、そしてエイダン部長……ありがとうございました! どうかお互い、最善を尽くしましょう」
最悪の場合、などと考えるのはその時であると割り切った。
ここまでお膳立てしてもらえた以上……必ず成功させると、彼女とエイダンに誓いを立てる。
カンナは右手を差し出し、証とした。
- 49イフドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/07(水) 22:47:13
- 50ユスラ◆xZJxX8ZGsA25/05/07(水) 23:18:14
(やっぱり、『強い』よ)
【確かに彼女の強さは、逆巻重工だからかもしれない。しかしその逆巻重工という強さは、彼女だから発揮されるものだ。彼女が正しく継いだからこそ、積み上げた信念は崩れることなく『逆巻重工』として残っている】
【それを驕らないのもまた、ユスラにとって好印象なのだが。手弱女などよく言うものだ】
「ありがとね〜」
【頭を下げる彼女は、『手袋』の重さを理解できたのだろう。乱用はできない、鬼札だという事も。ならばこれ以上言うことは無いだろう。上手く使ってくれることを願うばかりだ】
「こららこそだよ、逆巻 カンナCEO。おねーさん達の準備、ぜーんぶ無駄にしちゃってね〜」
【ニッと明るく笑いかけながら、差し出された手を握り、証を受け取ったと伝える。無論ユスラも最善を尽くし備えるが、その上で…彼女の手で全て無駄にされてしまうのだろうと確信できた】
【彼女は、そして逆巻重工は、『強い』のだから】
- 51逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/05/07(水) 23:42:17
「はい。それでは……お互いに幸運があらんことを」
握手をした後。カンナはそう笑顔を見せた。この一連の事変が起きた中で初めての、万の味方を得たごとき笑みだった。だが事態は緩慢なれど、余韻に浸る暇はない
互いの手が離れ、互いに見えない場所で別れ支度を行いがてら……ユスラに誓ったとおりに、カンナは己のすべきことをする。
「ミドリマ補佐官。こちらの収穫は想像以上だったよ……賢人会議から得た刑務所、そちらの裏取りは取れたかい……? よし。それじゃあ作戦実行だ」
廃墟群で幾人かの護衛と銀髪の女性に守られながら、カンナはユズハ補佐官へ連絡を取る。全てが順調に進み、準備が整ったという合図だった。
・・
「デスペラード、及び人自連の傭兵たちに、逆巻重工直々に指名依頼を発行する」
一つは『ケイ・サヤギリ救出依頼』。もう一つは『陸上戦艦侵攻阻止、または撃破』。
どちらにも逆巻として信頼できる傭兵、そしてユスラからの『手袋』を経由した者達へ、ケイを救出するための指名依頼、そして陸上戦艦の阻止に対する依頼が発注された。同時受注も当然許可である。
そして同時。傭兵たちのネットワークの中にも……指名には僅かに劣るが、逆巻重工として。陸上戦艦と、それが保有する戦力を阻止するための依頼が流れていく。
・・・・・
「依頼の達成報酬は十分な金銭と、我々からの敬意。そして――――君たちになら任せられるという信用だ」
前払いなどということはしない。すれば不審がられるというのは経験済みだ。
だからこそ、『命知らずこそ受けに来い』という流れを作る。
「処刑場の惨状を知る者達へ。とうとう逆巻の刃を抜く時だと知らしめるぞ」
逆巻重工が、宝に手を出された竜……人自連の介錯人としての姿を表した瞬間だった。
- 52イフドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/07(水) 23:58:59
- 53逆巻重工・依頼音声◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 00:20:50
(1/2)
依頼内容『ケイ・サヤギリ救出依頼/留置所襲撃』 報酬:――――。
「依頼主は逆巻重工、音声担当はCEO補佐官、ユズハ・ミドリマです。
これは優れた傭兵である貴方がたに向けた指名依頼となります」
凛とした声が、まず響いた。
「内容は、現在とある留置所に監禁されている傭兵、ケイ・サヤギリの奪還任務です。
――――ミッションの概要を説明します」
やるべきことを簡潔に。
「対象となる傭兵『ケイ・サヤギリ』は逆巻重工が強く支援している傭兵であり、ハイエンドBF『蒼風改』の操縦士でもあります。彼の戦果は高く、G-3コロニー防衛線を含め、様々な戦果を挙げ……熱線砲”ソドム”奪還作戦の緊急指揮を取った功績から、『G-3コロニーの英雄』と呼ばれる……我々、逆巻重工の誇りと言えるでしょう。」
彼が、どれだけ代えがたい存在かを伝える。誇張はしないが、失いたくない存在であると、強く伝える。
「現在彼は無実の罪で拘留され、肉体的・精神的にも苦痛を受けている状況です。罪を晴らし、名誉を取り戻すための証拠はこちらにあります。彼は人自連内部で発生したクロノスへの情報流失を防ごうとした結果失敗。同時にその場に居合わせた結果、略式処刑を受けたパイロットごと、存在を消されようとしています」
「それを防ぐために、依頼しています」
次に状況の説明。 できるだけ無感情を装うが……ユズハの声に熱が入るのも仕方のないことだった。
あるパイロットがどのような存在かは言わない。勘の良いものなら気づく。気づかないようなら……それはそれで、彼の名誉を守ることができたということなのだから。
「こちらから伝える作戦要項は二段階です。第一段階は留置所に存在するBF戦力の撃破、または引き離し。
第二段階は生身での戦闘に自信があるもの限定ですが……こちらも指名となりますので伝えますと、留置所へ侵入。
ケイ・サヤギリを救出することです」
「第二段階に入った時点で救出に生身で参加、BFで援護した者には追加報酬を支払います。救出成功時の報酬は後払いの中に含まれていますので、そこは前提と捉えてくだされば幸いです」
単純明快、かつ分かりやすい第一段階。
第二段階は生身となる者もいる以上危険が伴う、当然、生身となったものにはさらなる追加報酬の対象だ。 - 54逆巻重工・依頼音声◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 00:22:05
(2/2)
「次は敵の戦力についての解説です。まず留置所に配備された警備BF……SHINONOMEやARATAME、一部にデスペラード製スパイスが確認されています」
「偽装格納庫も複数確認されており、BFの総数は残念ながら把握不能……数的不利な状況に陥る可能性もあるでしょう。そのうえで、防衛用トーチカなども侮りがたい脅威です。特に対空用のものは救出任務の成功に関わるので、優先して破壊するようお願いします」
当然、分かりやすい脅威も、隠れた脅威も隠さず伝える。 一部私情が混じっているが、そこは良いだろう。
「優れた傭兵である貴方がたならば必ず突破、救出できる布陣であると信じていますが……既にもう一つ発行されている指名依頼をご覧になった方ならばわかるでしょう。この留置所は、人自連の老いた獣たちが移動を始めさせた陸上戦艦のルート上に存在します」
これは最大の懸念点であるが、同時に最大のチャンスでもある、とユズハは強調した。
「ケイ・サヤギリの奪還が成功した時点で、我々はとある手段で蒼風改を輸送。彼を搭乗させ、陸上戦艦の侵攻阻止へ参加させます」
あるいはそれは、『大馬鹿野郎』にふさわしい無謀である。 彼らはケイが回復しきっていることを信じていた。
「留置所への奪還作戦後に備え、小補給用の物資も投下します。これらは救出作戦へ参加した者向けなので、陸上戦艦対処の依頼を受ける予定の人は是非利用してください」
「我々は、三度英雄を失うわけにはいきません。そしてクロノスとの全面戦争を防ぐことも本願です。これに失敗すれば、老いた獣の手により人自連は勝ち目のない戦へ突入し……戦争はインベイドへの対処を怠った結果の共倒れとして終わるでしょう」
虫のいい話であることは百も承知。だからこその報酬とケアだ。名誉も含めて、得るものは多い。
「陸上戦艦の侵攻阻止の受注も含め、どうか貴方の力を……未来の子どもたちのために貸してください」
それが、逆巻重工の偽らざる本音であった。
作戦概要を収めるホログラム映像を含めた音声が、途切れた。 受けるか受けないかは、傭兵次第。 - 55逆巻重工・依頼音声◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 00:46:06
(1/2)
「この依頼は『陸上戦艦の侵攻阻止、撃破』についての説明となります」
別の依頼説明も始まる。声の主、依頼主は変わらない。
「こちらも優れた傭兵たちへ向けた指名依頼となります。ぜひ『ケイ・サヤギリ救出依頼』と合わせてご確認を」
抱き合わせ依頼……とも言えるが、参加については自由意志があるらしい。報酬に関してはこちらも破格だ。
「今回の目標となる陸上戦艦は、『老いた獣』と人自連内部で囁かれる者達が所有する巨大兵器です。多数の巨砲、及びミサイル、数百に及ぶ艦載BF……」
聞けば聞くほど、震えが走るような情報が羅列するだろう。
「ストラクチャーと呼ぶにふさわしい兵器ですが、彼らは条約の抜け穴を突き『対インベイド用ストラクチャーではない』と主張。今回発生した人自連内部の情報漏洩疑惑を利用し、クロノスとの戦争へ向けて本格侵攻を開始しました」
そして、それを人類間の戦争に用いようとする、『老いた獣』の愚かしさも。
「逆巻重工として、同じ人自連としてこの暴挙は止めなくてはなりません。この依頼は指名依頼者となる貴方がた以外の傭兵にも依頼を行っております……大規模な戦闘となるでしょう」
「指名依頼となる方々とは遅れて、この依頼が傭兵たちのネットワークに正規発行された時点で。逆巻重工は人自連内部規程に則り、企業間抗争の宣言を行う予定です……皆様の評価には、決して影響させないことを誓います」
覚悟が滲み出た。ここで止めねばならない、という覚悟だ。
指名依頼者とはいわば『この情報を決して外には漏らさない』という、逆巻重工からの信頼の証であった。
「侵攻阻止の詳細方法は戦闘発生と同時、こちらで再度送信を行います……オペレーターがいない方は戦闘時にこの周波数を利用し、逆巻重工オペレーターと情報交換をできるようお願いします」
行き当たりばったりとも言えるが、しかし切り札はある。 - 56逆巻重工・依頼音声◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 00:49:07
「ですが一点だけ注意を」
声が僅かに固くなった。
「作戦開始、及び救出作戦が成功した時点でこちらから進入禁止エリアを設けます。どのような理由があっても、そこに落下物が飛来するまでは近づかないよう強くおすすめします……端的に言えば、被撃墜の危険がございますので」
何かが落ちてくることだけは備えておけ、という警告であった。とはいえエリア一つ一つの被害範囲はとても狭い。単純な支援砲撃……と思い込むものもいるだろう。
「この戦闘には増援も到着する見込みです。依頼を通して求める最善は撃破ですが……阻止もまた、立派な成果です。できることを、確実にこなしてください」
一人で全てをこなせるものはそうそういない。できることをできるだけ、最善を果たしてほしいという願い。
「どうか無理だけはなさらないで。逆巻重工は、貴方がたの生存を強く望みます」
それは、間違いなく依頼主の望みだった。
受けるか受けないかは、傭兵次第。
- 57ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/08(木) 01:01:02
- 58ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/08(木) 01:58:46
- 59二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 02:10:48
このレスは削除されています
- 60イフドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/08(木) 02:15:09
- 61アルパ◆YMCgTirJag25/05/08(木) 07:22:30
正式にオービタルダイブの依頼が出た。
「逆巻、改めてよろしく頼む。」
その依頼に正式参加をした。
メイツーは本来軌道降下を行える程の対火、耐熱装甲を有していない。だが今回のために装甲を盛り、全身のブレードを潰しながらも軌道降下を行える程の強度確保を施した。格闘戦能力の低下を招いているが、戦術刀がまだある。
「(吉と出るか凶と出るか…まぁ、どうにかなるだろう。)」
アルパは何処か楽しんでいた。
- 62龍影◆9BZ6kXGcio25/05/08(木) 08:16:07
「了解しました。」
セイドウからの正式な作成を伝えられた龍影はそれを承服し、敬礼した。動作一つ一つが染み付いたその姿は狼を背負う英雄と重なる。
「失礼します。」
龍影はそう言うとフワリと自然な体重移動でブリーフィングルームを出ていく。その足で格納庫へ向かう。
「整備長!望月はどんな感じ?!」
格納庫側面のキャットウォークを蹴り、それを推進に宙を舞う龍影は愛機へ向かう。
「王か。お前まだ薙刀は使えるか?」
突然言われた為意図が分からない。
「どういう事?そりゃ使えるけどさ。」
「扇景の予備とビームライフルが出てきたからよ、回収するか?」
18年整備されてなかったが、宇宙線や空気に触れてないため致命的な劣化は一切なかった。
「ビームライフルの方は今のやつと性能が違いすぎるから逆巻に渡して。一応桜空が作ったやつだし。扇景は装備するから右側のハンガーに付けて。」
「これじゃまるで夜桜だな。」
整備長は今の望月を見てそう言った。
「夜桜の散り姿はシトシトと泣く女子のように見える。だっけな。でも今は月見ができるから女らしい桜はもう無いわよ。」
龍影は過去の桜に良く似た月を愛でた。
「今度は逃げないよ。」
そう誓った後、望月のコックピットに入り出撃を待つ。
左肩の装甲には桜空のエンブレムが塗装されていた。
亡霊は月明かりに照らされて妖しく、そして艶のある白でその桜を写す。
- 63ケイ・留置所にて◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 13:40:42
(1/2)
『ケイ・サヤギリ、尋問の時間だ』
四肢を拘束された状態から自由になり、牢獄から出されて歩く先は尋問室。
……ベレトの略式処刑から既に二日が過ぎていた。ケイの顔は俯きがちで、表情は見えない。老害たちの息が入ったものによる尋問の後は顔に残っている。
『もう青アザが消えているか……大した回復力だ。逆巻の強化人間だったりするのか?』
「知らない。俺は普通に生まれて、普通に育ったよ……狂ってはいるが、マトモとも思ってる」
『殊勝なやつだ、自分を狂っていると自称するとはな』
ケイは左右を固める看守によって強引に椅子に座らされた。尋問官は無表情だが、嘲りが見え……そして消えた。
看守達が非協力的な態度をとっていると判断したケイの顔を持ち上げたときに、目を、表情を見た。
『(……おかしい。自死すらも考えていたやつの表情か?これが)』
不敵そのもの。
尋問官が手に入れるべき証言……ケイの有罪、そして証拠の隠滅。それを考えるなら、彼の身体中に残っていた証拠はとても邪魔であった。
それだけならば良い。どのみちあと1日から、数時間で判決も決まる。
……だが、看守が見据えたケイの瞳は。
『(こいつの目は、全く死んでいない)』
折れていると思っていた。自死を望むほどの衝撃と悔しさが、彼を打ちのめしていたと思っていた。 - 64ケイ・留置所にて◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 13:43:43
(2/2)
『(どうやって立ち直りやがった……!)』
だが、何かがケイを立ち直らせていると尋問官は確信した。今の彼は、万が一でもBFに乗り込んだ瞬間に恐ろしいことを起こすという悪寒が走った。
『改めて聞くぞ……情報を漏洩させたのは?』
「元・ゴエティア戦団員……今は名無しの誰かだ」
『貴様は協力していないと?』
「────俺はクロノスのアホ大佐を止めるために取っ組み合った側だぞ?勘違いも甚だしい……元・ゴエティアの関与なんて知らなかった上、そもそも内心クロノスが嫌いなのは俺も同じだよ」
『(こいつ……!!)』
ケイの不敵な笑み。またも悪寒。
心にもないことを、などと尋問官は否定できなかった。“ベレト”の筋書きに、彼は未だ忠実であり。そしてその筋書きに必須の証拠がしっかりと存在している。
その証言を嘘と断言できるものが、ない。内心を除くことなどできない。
『……やれ』
だから、暴力に訴える形にした。看守達が左右からケイの頭を押さえつける。
「……っ!!」
ゴン!という重い音と主に、ケイの顔面は机に叩きつけられた。
……暴力的な尋問は、適度な塩梅で終了する。
指名依頼を受けた傭兵達がレーダー範囲外に自発的に集合……あるいは各々の自由に留置所への突撃を開始する、数時間前のことだった。
- 65ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 13:50:24
※告知 どうやら裏スレが削除されているようなので、自分が改めて立て直します
- 66ニライニスト25/05/08(木) 13:52:05
了解です。
- 67ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 13:58:47
- 68◆KPwoT407kA25/05/08(木) 14:14:08
「奪還任務に戦艦撃破任務…この気に乗じて大きく出たな、逆巻は」
「なんせ直接のご指名だ、一体どこから聞き付けたか心当たりが無いこともない…つまるところ“あっち”も早期の自体解決が望みなんだろうさ。………………が」
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【『ケイ・サヤギリ奪還任務』を受諾した傭兵が見やったのは、僚機とされる3機の重装甲BF。装備構成から1機が近接、他の2機遠方支援を想定しているようだ】
「アレも我々の同類だというのか?」
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
「うおっ!?…予め録音した音声を自動返信しているのか」
「登録名はお仲間共々【NIKKE】…同業者にしては安っぽい名前だ。逆巻の人脈はいったいどうなっているというのだ…」
「…ねぇピラフ?ソフィー中尉が予め組んだこれって本当にインストールして良かったのかな…?」
「当然だよナポリタン、どうせこいつの事だから通信機能フリーにさせちゃうと奇異の目どころじゃなく作戦に師匠が出るでしょ?意思疎通は私達が取ればいい。ソフィー中尉の慧眼だよ」
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【コックピット内スピーカー機能を全てカットされ、回線を開いた相手に自動で録音音声を送るようインプットされた近接型の【NIKKE】は、尚も不気味に佇んでいた】 - 69東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/08(木) 17:04:31
- 70龍影◆9BZ6kXGcio25/05/08(木) 17:20:13
「うてなちゃん?どうしたの?」
葉桜から着た通信を拾う。
『ちょっぴり感傷的になってな、
…お前ン声が聞きたなってもうたわ』
旧友は何か言いたいことが色々とあるようだ。
「…覚えてるかな?月風乗りは決して満月にはなれないって。だから桜空はみんな桜に由来する名前にしたんだよね。」
月風のジンクスである。満月を指す名前を付けたら酷い死に方をするというものだ。
「でも私はもう、逆巻でも桜空でもないアウトサイダー(はぐれ者)なのよ。だから欠けることの無い望月になったの。」
成長なのか分からないが、確かに龍影は前を向いている。
だが望月とは未来に足元が翳り、崩れるものだ。
「…ごめん、今はうてなちゃんが話したかったよね。なんでも話して。」
想い人がいる余裕か、それとも依代に移された命が希薄化しているのか、どうも落ち着いている。
- 71ランセル◆hFOUpFQqt.25/05/08(木) 17:22:35
「わかりました」
【リビングで本を読んでいた顔をあげる。今、彼女のBFはこの家に隣接した個人所有ガレージにある】
「ハッチも全てオートに開くよう設定してあひます。搭乗後、すぐに動けますよ」
【ガレージとの渡り廊下へ向かいながら、端末を取り出しガレージの設定を確認する。いつだろうとウルヴィがBFを動かせるように設定自体は前々からしてあった】
(短かったような長かったような…)
【彼女がここにいた時間はそう長くなく、かといって短い訳でもない。どちらにせよ、引き留めるつもりは毛頭ない】
【"BESTIA"が待機している一番ガレージの前に着く】
【正直な所、懸念点はある。彼女の容態やBFの右腕。「大丈夫なのか」と尋ねたいが返ってくるのは「大丈夫」だろう。だから…今できる事は一つだけ】
「いってらっしゃい」
【この言葉と小さな鍵を手渡した】
- 72ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/08(木) 17:42:12
【刑務所を視界に捉えた小高い丘でウィルヘルミナを止め、稜線に機体を隠し徒歩で偵察に向かう】
【双眼鏡で外周に設置された防衛設備の位置を把握、優先目標である対空砲を探し周辺の地形を頭に叩き込んで行く】 - 73東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/08(木) 17:42:13
『だから"望月"...成程、道理でその機体に
縁起でもない名前を付けたと思っとったわ
......ウチも、お前もある程度覚悟しとるやろ
"ここでアイツを助け出して死ぬ"ってなァ?
そうやとしたら...寂しくなってもうたんよ』
あの日、桜空が壊滅した時から
常に彼岸の影が付いてくる人生だろうと、
旧友に会えれば意外にも失うのが惜しくなる
そんな想いの丈をぽつり、ぽつりと話し出す
『ずーっと死んだように生きとったけど、
お前にまた会えて......うん、嬉しかってんな
不幸の底にいると、嬉しいとか楽しいとか
そういう感情がよく思い出せんくなるから
再確認に手間取ったんやけど...嬉しかってん』
『リン。望月は満ちる事のない終わりの月や
あとは欠けて、翳るのを待つだけの終着点
せやけど、一旦ぜーんぶゼロに戻ってから
また満ちるのも望月やろ?...まぁ要するにやな
"もし死ぬんならウチよりずっと後にしろ"
...そう言いたかってん。
ウチは一人やけど、お前は今二人やろ?
ならせめて、支えてくれる奴のいるお前が
出来る限り人生を楽しく生きて欲しいんよ』
- 74亡霊の調べ◆OXAm1h6odk25/05/08(木) 17:50:53
「──────肩の四連装電磁ガトリングをレールキャノンに換装したい。有効射程が短いからから」
「………おいおい、随分と突然だな」
浅黒い肌の、しかし意志の鋭そうな紅色の瞳をした黒髪の少女の言葉に常連の整備士は驚いた。
何週間か前に突如として転がり込んできた彼女は、口数こそ少ないもののバディフレームを操縦する腕は一流であった。クロノスの“前線帰り”の小隊すらも、大きな損傷も怪我もなく皆殺しにしたのだから相当だ。
かつては国すら滅ぼした独立傭兵“月桂樹”の、行方不明になっていた機体『アウタースカイ』を手繰る手腕は“亡霊”と呼ぶに相応しかった。
だからこそ、疑問がある。
「あの武装構成を気に入ってたんじゃなかったのか?」
「変える必要がなかっただけ」
「そりゃあ、また………………」
つまりは、今までの依頼は武装構成を変える必要もなかったという事だ。
過去の“月桂樹”が作り上げた武装構成が余りに完成していたからなのか、或いは彼女の才能が可笑しいのか。きっと答えは両方なのだろう。
そんな彼女が、武装を変更する必要があると考える程の任務であるという事だ。
「何をするつもりだ?」
「仇を追い詰める。可能な限り、」
“空の変革者”は、凶兆を吐いた。
・・・・
「多く殺す」
独立傭兵。デスペラード。彼らは法ではなく、自らの信念にこそ基づく暴力だ。
“月桂樹”。“スカーフェイス”。“アブソーバー”。多くの無法者と等しく───────────“月桂樹の亡霊”もまた、信念の為に他者を踏み躙る事に躊躇はない。 - 75龍影◆9BZ6kXGcio25/05/08(木) 18:11:45
龍影は遺言にも似た友の言葉を静かに聞く。
「…まだ彼岸の向こうに行きたい?」
葉桜だとしても寄生されて葉は白くなってしまえば花は出ない。
「葉桜はまた花をつける。貴女も何処かで咲きたいのでしょ?咲き誇りたいのでしょ?」
まだうてな(台)に根付く桜は根腐れをしていない。
「花見前の早散りは許さない。立ち枯れなんてもっと許さない。また空に桜を散らして。」
意地汚く桜(命)を咲かせろと龍影は旧友に伝える。
「また桜(故郷)を月(逆巻)は照らす。その月明かり(現在)はまた輝かしてくれる。忘れないでよ。月明かり(私)は桜(うてな)を照らしてること。」
友を繋ぎ止めようと龍影は言葉を紡いだ。
「でも今は、格納庫の外に広がる星をあの頃みたいにみよっか。」
龍影は月明かりのように台の心を柔らかく照らした。
- 76東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/08(木) 18:35:02
- 77ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/08(木) 18:56:13
「…ありがとう」
【要望通り、本当にいつでも機体をガレージから出せるようにしておいてくれたらしい。お陰で仕事に遅れることは無さそうだ】
【変な感覚だ。ここまで時間を共有した相手は、これまでに居なかった。補給でしかなかった食事に、空腹以外にも満たされる感覚があって、肉体を休ませるだけの睡眠にも、それ以上の回復を感じた】
【その時間も終わってしまうのだろう。ああでも、服はどうしようか。貰いに戻っても、良いのだろうか】
【考えている間に、ガレージの前に着く。獣の世界に帰る時間だ、ウルヴィの居なくてはならない場所に──】
「…ん」
【『いってらっしゃい』その言葉を耳にして振り返ると、何かを手渡される。小さな鍵だ。それをウルヴィは知っている、彼が家を出る時には毎回持っていたものだから】
【思えば彼は部屋も作ろうとしていたし、衣服も複数買っていた。そして極めつけに鍵まで渡すのは、好きな時に居ても良いという意味…で、良いのだろう】
「いってくる」
【ランセルの言葉と鍵、両方をウルヴィは受け取った】
【迷いながらも、いずれは帰ってくるだろう。或いは、すぐかもしれないが】
- 78龍影◆9BZ6kXGcio25/05/08(木) 18:58:39
- 79東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/08(木) 19:04:51
『良し。』
一言、返された言葉を反芻する
とりあえず死ぬ気でないのなら、
自分は命を張るに足りる理由が出来た
それだけで、十分だ。
「...遺書はまだまだ書き直せそうやな」
ほんの少しだけ、台は未来に目を向けた
星の煌めきに僅かな希望を託しながら。
- 80ユズハ・ミドリマ◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 19:39:29
「現在集合中の全機へ告げます――――無線の通信周波数はヒト・マル・キュウのイチナナで固定を。
……こちらはCEO補佐官のユズハ・ミドリマです。参加全機に告げます」
通信ディスプレイを通して、ユズハの眉間に眉を寄せた姿が映る。逆巻重工側の作戦の総指揮を取る若い少女だ。
普段通りを維持しているように見えるその顔は、しかし殺意が滾っている。
・・・・・ ・・・・
「現時刻を以て、『賢工グループ』は社内法違反により社内裁判を敢行……人自連内部情報をクロノスへ流出させたとして
ケイ・サヤギリ操縦士に死刑判決を下しました」
老醜は、とうとうその馬脚を現した。人自連全体の法を曲げ、ケイを死に追いやるには時間が掛かる。
・・・・・
自社の情報を漏洩させたとして彼を裁く方針に切り替えたのだ。
当然、情報漏洩を含めた刑法で最優先されるべきは人自連全体に適応される『連盟法』だ。
「彼らは彼らの倫理と自由で、ケイ・サヤギリを身勝手に裁くつもりです」
曲げてはいけない一線を彼らはとうとう曲げた。 ユズハはそう告げた。
「もはや語る余地なし。我らは我らの倫理と自由で以て――――ケイ・サヤギリの救出作戦を実行します」
・・・・・・・・・・
曲げたのは貴様らが先だ。ならばこちらも曲げてやる。
作法を守らぬならば、作法は彼らを守らない。
「依頼を受けた全機は集合地点へ……作戦開始まで、あとロクマルとします」
底冷えする声で、ユズハは宣言した。 - 81ユズハ・ミドリマ◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 22:11:50
(1/2)
「作戦参加全機へ。ロクマル経過。繰り返す。ロクマル経過」
時は来た、集結した味方機達へとユズハは告げる。
「刑務所襲撃部隊は偽装を解き、無線封止を解除。全機突撃せよ」
とぐろを巻き、今か今かと牙を向く時を待つ竜が、ついに翼を広げた。
「無法には無法を以て返すべしと、その流儀を叩きつけてやれ!!!」
檄を飛ばす。時は今ぞと、叫び猛る。我らは無法を扱うにも作法を踏んだぞと叫ぶ。
それこそが大義名分なのだと、ついに爆発させる。
そして器用に、一瞬で。プラットフォームへ展開中の実働部隊に通信チャンネルを変更する。
「降下部隊へ、蒼風改を大気圏へ降下させてください!! 貴方達は救出作戦成功と、陸上戦艦が傭兵たちの攻撃圏内に入るまで待機!!」
切り札は初見にて。論理的に用いる秘剣は、他者の生存を許してはならない。
月風系列の『適切な武装選択による戦術』とは真逆の戦術だが、指揮官はそれにも適応するもの。
・
「上から戦局を見極めることも、貴方達の仕事よ!!」
実働部隊に、ユズハは激励を送った。
- 82情景描写◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 22:18:13
(2/2)
留置所と、その周囲には荒野が広がっている。
かつて起きた度重なる戦闘。多数の攻防によって、嘗てここに生い茂っていた森と都市はなく。
焼け焦げた木々たちと戦場の爆発で起きた天然の塹壕、そして遮蔽となる岩石……一部の残骸として都市の面影を残すのみの、荒涼とした光景が広がっていた。
「聞いたか?『G-3コロニーの英雄』様が死刑だってよ」
「知るか、クロノスに情報を送った報いだろ……むしろ遅いくらいだ」
話し合う二機編成のARATAMEは知らない。
既に怒れる竜に雇われたBF達が大挙してこの留置所に向かっていることなど。
判決は社内法にて行われ、連盟法という最も上位の判断基準に真っ向から唾を吐きかけたことなど。
「どちらにしてももう戦争さ……やっとクロノスの連中に一泡吹かせられる」
「さっさとこんな留置所の警備なんざ終えて、”撃墜王の再来”に会いたいよなぁ!!」
配置転換を間近に控えた彼らにとって大事なのは、死刑に晒された哀れな名誉なき英雄ではなく。
己等に味方してくれる英雄であった。 - 83ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/08(木) 22:39:28
- 84龍影◆9BZ6kXGcio25/05/08(木) 22:40:48
『降下用意!減圧完了!格納庫解放!』
ゆっくりとハッチが開く。
日の光は蒼風改をより蒼く魅せる。
《降下準備よし、シーケンス移行。》
大きなカバンに挟まれたような姿の蒼風改は降下のために準備を進めていた。
「スイ!」
龍影は蒼風改のコックピットに収まる端末の名前を呼ぶ。
《何でしょうか。》
端末は温かみのある無機質な声で答えた。
「ケイに伝言!『43分後にランデブーポイントで』!」
《…了解しました。ケイに伝えておきます。》
『ランチ切り離しを確認。蒼風改、予定降下進路へ移動をお願いします。』
蒼風改は微調整しながら降下進路に乗り、12分の自由落下を始めた。
機体を反転させると、背部からすっぽりと覆うようにクッションが開き、機体への熱を減らす。蒼風改は大気との固有振動数で小刻みに振動している。
『蒼風改の降下速度ははマッハ9.7を維持。減速まで残り4分。』
皆が静かに管制からのレポートを聞く。
『逆噴射を確認。ブースタージェットソン。120m/sまで減速。落下傘展開。』
管制は沸き上がった。人類で始めて実戦での軌道降下に成功させたからだ。
『よーし、スイ。パージ後のランディング、お願いね。』
第一段階はほぼ成功した。 - 85◆KPwoT407kA25/05/08(木) 22:55:28
「いくよピラフ!」
「了解ナポリタン!」
【2機の砲戦型NIKKEのバズーカとスナイパーライフルが一斉に火を噴く。刑務所の防衛機構は次々と狙撃に狙われ、バズーカはBFそのものや荒野に着弾しつつ連携の“本命”の存在を巧妙に隠す】
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!』
【巻き上げられた砂塵に紛れ、とある防衛BFのコックピットが横からの大質量で圧し潰された】
【─────攻撃の主たる近接型NIKKEが自機重量を活かしたハイキックを繰り出したのだ。そのままの姿勢でブースターを利用し方向転換、カメラアイが捉えた新たな標的に散弾を放ち…ほんの一瞬だけ足を止めたそのBFのパイロットは次の瞬間、袖に隠されたビームサーベルでその身を焼かれた】
『世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【張り詰めた空気漂う戦場にまるで不釣合いなその録音音声を響かせながら屠殺場の機械の如く自軍を“処理”していく正体不明の存在に恐怖を掻き立てられない人間が、果たしてどれだけ居るというのだろうか?】
- 86刃狼と覆面◆xZJxX8ZGsA25/05/08(木) 23:17:12
【『手袋』の内、指名に応じたのは二名。その他が応じなかったことに深い理由はなく、タイミングが悪かっただけだろう】
《おや…?その機体は…》
【作戦開始と同時に動き出した幾つかの傭兵のBF、その内の緑色をした機体が、隻腕の黒い機体へと通信を試みる】
《…なに》 ブレードウルフ
《お久しぶりです、刃狼》
フルフェイス
《ん、覆面》
【覆面と呼ばれた男は紳士的に、対して刃狼と呼ばれた女性は無感情に挨拶を交わす】
《旧い友人との再会…共に歩むことができたなら、素敵だ…》
【言うが早いか、覆面の機体が大型の盾を展開し、黒と緑が消失する】
【BF自体の装甲全てに迷彩を施すのは難しい、しかしBFを覆う盾を迷彩として紛れるのであれば話は異なる。更にジャミングも混ぜれば、隣の機体までならギリギリで隠し通せる】
《…第二?》
《刃狼…貴方は鋭いですね。室内に虫が入ったとなれば、慌てるものです。しかし外だけであれば、他人事。もてなして頂けないのは寂しいですが…『英雄』も『彼を待つ者』も啼いている……。濡れた衣を被せられ、冷たい檻の中で震えている…不憫だ……》
【独特な表現と話し方で一方的に捲し立てる覆面だが、その意図は合理的だ。生身でも傭兵を営む者同士で、外の混乱の内にさっさと侵入してしまおうという魂胆だろう】
【当然だが二人に互いが『手袋』だと知る手段などないため、ただ男がこの場で考えた作戦である】
《…分かった》
《では一時のダンスを、楽しみましょう…刃狼》
【混乱に乗じて、見えざる二名は刑務所内を目指す。途中勘付きかける機体があれば、それを静かに沈黙させながら】
(…なにあれ)
【隣の機体に乗る男から意識を反らした狼は、あっちも見てはいけない方向だったようだとカメラアイを逸らしていた】
- 87ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/08(木) 23:34:17
- 88留置所警備部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 23:39:59
「レーダーに反応……? BFです!!」
「んだとぉ……? こんな留置所をなんだって……!? まずい、連中っ砲台を!!」
彼らの空気を真に引き締めさせたのは、爆音だった。
無限軌道で走り抜けるタンク型BFは器用な動きで自動制御の放題の攻撃を抜け、スティッキーボムを撃ち込み、軽装甲BFにとっては脅威となりうる対BF砲台の一つが沈黙する。そして多数のバズーカや狙撃によって次々と長射程を誇る砲台達が破壊された。
「デスペラードだ!!連中、なんでか知らねぇがここを襲いに来やがった!!」
「BFを前に出せ!! 砲台の援護をしろ!!」
なぜこんな場所を襲いにきたか、という疑問など実戦のアドレナリンで容易く消し飛ぶ。ビームカービンの攻撃に盾を構えたり、遮蔽を取ってBF部隊は身を隠す。
やらなければやられる世界において、迷いは贅沢者の特権だ。
「エンブレムを視認……運び屋だ!! 運び屋(ポーター)が戦場に出てやがるぞ!!」
「ポーターだぁ!?! そいつがなんで襲いに来る!!」
「知るかよ!! 蜂の巣にしちまえ!!!」
だから、迷えば。
「どっちみちタンクとしても中途半端なやつだ!やっちま『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!』」
ドゴシャッ、という音とともに、ガトリングを構えたSHINONOMEが重質量によるハイキックで上半身を潰された。
「は???『世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』なんっ」
咄嗟にナイフを取り出そうとした僚機は、袖口から出されたサーベルで焼かれ。もう一機が散弾にて蜂の巣にされる。
- 89留置所警備部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 23:49:05
「……嘘だろ!?!テメェはなんだ!!」
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!』
運よく遮蔽に隠れて生き残っていたARATAMEが、アサルトライフルを構えた。
パイロットの視点では、目の前の機体が一瞬にして数機の機体が破壊されたようにしか映らない。
「まさか、ネームドッ『世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』 そんなことは聞いてねぇんだよォオオオ!!?!」
彼はアサルトライフルを乱射しながら、機動を取った。もはや恐怖だった。
そして一番槍に突撃したミハエルの機体を侮ったものが、スパイクシールドによってコックピットを潰される。
「くそ、下がれ!!こいつにはタンク型のセオリーが通じねぇ!!」
バズーカを構えたSHINONOMEは、目の前の敵手の予想外の行動に動揺していた。タンク型BFは殆どが運動性にかけ、即応力にかける……その常識を覆されていた。
(近接戦もできるやつがいるなんて聞いてねぇぞ!!!)
彼らの練度は低くない……だが、敵対者達は皆、予想以上の手際で敵に襲いかかっていた。
迷彩を利用し身を隠した二機のBFの反応が消えたことなど、混乱で分かるはずがなかった。
- 90翠の妖精◆ECPjTIh3Iw25/05/08(木) 23:56:13
《了解しました。ランディングに向けた最適姿勢を計算……確実に着地します》
スイは龍影の信頼に対して、確実に答えることを優先した。
本来戦況把握に利用するはずのリソースを全て、機体の姿勢制御補助に扱う。
《ケイ、これより機体温度が上昇します。操縦士保護機能の再確認を――――》
万が一に備え、操縦者へ警告……した。今の蒼風改に、操縦者などいないというのに。
なぜ不要なことをしたのか、スイ自身にも理解できなかった。
自分の主は不名誉を背負ったのだ。
友のために、愛する人のために、そして、おそらく主が守りたいと思った何かのために。
《……命令を確認。43分後にランデブーポイントへ》
龍影の言葉を、翠色の妖精は反芻した。意味がないことなのに。
《ケイ》
主の名を、妖精は呼んだ。
《貴方の愛する人は、貴方の生還を信じています》
それは祈りだった。
- 91ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 00:05:28
「なんだ……?」
紳士的な尋問を終えて再度収監されたケイは、四肢を拘束されているにも関わらずぐっすりと眠っていた。傷ついた己の体力を回復させるためだ。
その眠りを妨げたのは警報。
人自連全体で使われる、敵襲を知らせる警告音であった。
「アブソーバー……いや、ないか」
まさかと敵対者の名前を挙げて。ケイは己の思考を鼻で笑った。
もしアブソーバーであれば、この戦場になった留置所は跡形もなく消し飛んでいるだろう。
(俺の死一つでも事態が動くなら、きっと彼らは既に躊躇いなくそうしている……つまり別の誰かか)
それはただの予測。誰かが、この留置所をモノ好きにも襲ってきている。
(なんのため、だろうな)
自分を助けるためだという確証がまだないからこそ。ケイは思考を巡らせていた。
死刑判決はまだ彼に知らされていなかったのだ。
もし逆巻重工の双子姉妹がいれば、その長考に対して『あんたを助けるためだよバカ!!』と殴り飛ばしていただろう。
生きる気力はある。だが、自分を此方に留めようとする誰かの助けに、少しだけケイは無頓着だった。
愛機が空からゆっくりと落ち始めていることも、知るよしがなかった。
- 92警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 00:13:12
「──────襲撃者、だと?」
「ハッ!現在は外縁部隊が応戦中!ですが、損害は拡大中とのこと!」
「目的は何だ………!誰がこんな真似をした!?」
四機のバディフレームを率いる留置所警備部隊小隊長、アイゼン准尉は歯を噛んだ。
純粋な実力では““陸上戦艦””に配置されない二軍か三軍の部隊であり、留置所に配属されたのも投獄者の脱走を防ぐ為に忠誠心を基準に選ばれただけだ。
だからこそ、数多の───度し難い事に、多くの人に慕われるような人物という条件を含めても変わらないだけの数───囚人の中の、誰か標的であるのかは分からない。
しかし奪還、或いは解放が目的であるとは理解している。
この留置所には例えば補給基地のような豊富な物資もなく、また配置されている戦力も多くの腕利きを動員してまで排除しなければならない程ではない。
・・・
そうなると、侵入者側には確実に成し遂げなければならない目標がある。という事になるのだ。
「…………チッ!どちらにせよ、敵の目標は収監棟と見て間違いないだろう!ピルミッツ二等兵!上官に外縁部隊の一時撤退と防衛線の再構築についての提案の伝令を命令するッ!」
「ハッ!了解しました!」
敵の機体の数が分からない。留置所の全ての方角を警戒して防衛線を敷くのは不可能だ。
で、あれば。確実な防衛目標を定めて防衛線を縮小し、戦力を集中させる事こそが重要であるアイゼン准尉は考えた。
誰を奪還するつもりなのかは知らないが、収監棟を背後に配置する陣形であれば大火力のビーム兵器やロケット弾も巻き添えを警戒して使えないだろう。
必然、近距離戦に持ち込むしかない。 - 93◆KPwoT407kA25/05/09(金) 00:18:20
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【敵だろうと味方だろうとその返答が変わることはなく】
《ごめんねー!その機体諸事情があって通信開くと自動的にそう返す仕様になってるの!強さは保証するから後ろから撃つのだけは勘弁!》
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
《もし煩かったらこの回線だけミュートしちゃっていいから!同じ事しか言わないから!》
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【他のNIKKEによる注釈が入る。近接機の回線だけはミュートにしても問題なさそうだ】
- 94警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 00:26:06
「サベール一等兵!ササキ二等兵!誘導ロケット弾とビームライフルを装備して、収監棟を望める廃墟に潜伏しろ!貴官らにはスナイパーとしての役割を任せる!」
そして、近距離戦に持ち込む事が出来れば狙撃への警戒も薄くなるだろう。
人間が割ける思考のリソースには限界があるのだ。アイゼン准尉は、自らの作戦が完璧であると信じていた。
「し、しかし隊長は…………」
「私は収監棟の前で敵機を待ち構える!私の奮戦によって足を止める、貴官らはその隙に火力で一気に制圧するのだ!」
外縁部隊が何とか持ち堪えてくれている間に装備を換装する。タワーシールドの二枚積み。単騎ならば攻め手がない愚かな武装構成だが、しかし独立傭兵とは違い彼らが一人で戦う必要はない。
しかし、それでも本来ならば指揮官機がそのような危険な役割を負う必要などなく。
・・・・・・・・・・・
「我々はクロノスとは違う!卑劣にも危険な役割を部下に押し付けるのではなく、勇猛果敢に自ら危険を背負わなければならないのだ!」
「─────それに、私は貴官らを信頼している!必ずや私の命を救ってくれるだろう、とな!」
半分は本音だが、半分は建前でもある。
──────要は功績が、手柄が欲しいのだ。その理由は問うまでもない。
・・・
(クロノスへの征伐の最先鋒!最も危険な一番槍は、私のような勇敢な兵士にこそ相応しい!)
第一陣、第二陣の選考に漏れて尚もアイゼン准尉は対クロノス戦争の最前線を望んでいた。その忠誠心で選ばれたのだから当然である。
命を散らしたとしても、一人でも。否!一人も殺せなかったとして、しかし仲間がクロノスを討つ為の一助になれるのならそれで良い!
「その為にも、先ずはこの襲撃を退けなければな………………ッ!」
輝かしい未来に想いを馳せて、アイゼンは作戦行動を開始した。 - 95龍影◆9BZ6kXGcio25/05/09(金) 00:34:46
- 96ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/09(金) 00:45:51
「中々良い武器持ってるじゃねーか、貸してもらうぜ」
【SHINONOMEのシールドが届かない足首にカービンを撃ち込み体勢を崩す、背後からの接近警報には超信地旋回で機体を右回転させバヨネットで斬撃を払う】
【左手首からワイヤーを撃ち込む、先端のフックから高圧電流が流れ込み敵機の回路をオーバーヒートさせる、その間にも背部のサブアームはゴソゴソと倒れたSHINONOMEからバズーカを奪い取る】
【通信機から聞こえて来たのは少女らしき声、自分がソロで働き始めた頃に近い年頃だろうか?予想外の相手に面食らう】
「あー、了解だ、その機体が派手に動くときは教えてくれよ? 巻き添えは勘弁だ」
【自然と口調から勢いが失われて行くのを自覚しながら件の機体を回線から排除する、謎の自己主張は回線の彼方に消えて行った】
「……腹減って来たな」
【もう片方のサブアームにBF用の実体剣を装備しつつ腹の虫が鳴るのを感じた】
- 97東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/09(金) 00:52:33
- 98傭兵と変装◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 02:08:42
【囚われの英雄、未来に夢を見る勇敢な兵士、どちらにとっても知る由もないことだが】
【既に侵入を果たした者が二名、収監棟の廊下を歩んでいた】
【戦闘らしい戦闘を行わず、隠蔽によってほぼ直進できたためだろう。例え防衛ラインを下がらせたとしても、入ってしまった二人には関係がない】
「素敵な手際です、灰の静寂」
「よく言う…百面卿」
【巡回していた看守を気絶させた少女と、監視カメラに細工をした男性。互いに呼んだそれは機体に付けられたのとはまた違う、降りた彼らに付けられた名だ】
【企業の台頭、国家という枠組みの形骸化、インベイドの襲来によって今や傭兵と言えばBFパイロットを指すものとなっている。しかしそれ以外が完全に失業したかと言えば、答えは否。良くも悪くもBFでは大味すぎるため、対インベイドを除けば、彼らの仕事は変わらずあるのだ】
「顔芸、する?」
「貴方からプレゼントを下さるとは…感激だ……ならば私も着飾らなくては…」
【気絶した看守を渡された百面卿は、その由来となった変装の準備に取り掛かる。二分ほどの後、そこには看守と双子かと見紛う程にそっくりな百面卿が立っていた】
【ジョン・ドゥ。彼ほど潜入に向いた傭兵も居ないだろう。その性格はどうであれ、少なくとも能力だけは、ウルヴィも信用する男だ】
【友人だとは、決して思っていないが】
- 99アルパ◆YMCgTirJag25/05/09(金) 08:57:24
- 100龍影◆9BZ6kXGcio25/05/09(金) 09:20:51
- 101東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/09(金) 10:16:31
『今聞くか?ソレ......まぁ今やから言うけど
アイツがめっちゃ話し掛けてきた時辺りは
仕事が恋人ってくらいのめり込んでてなァ?
"まーでも、そんなにウチに話に来るんなら"
って考えを方向転換しようとした辺りで、
アイツも諦めたんやと思うわ...知らんけど』
意外な所から飛んで来た話題に狼狽えつつも
言う機会の無かった事実を話すうちに、
固かった口調は徐々に打ち解けていった
『一応、お前とアイツがくっ付く時には
ウチはもうアイツには未練無いなってたし
結婚式でスピーチでも話すつもりやったで』
在りし日の記憶のページをめくる度に、
だんだんと台の声に力が戻ってくる
『今だけやけど、改めて宜しゅうな』
『"バディ、グッドラック"』
優しく、しかし力強さを取り戻した声が
かつてと同じように龍影の心に響いた
- 102龍影◆9BZ6kXGcio25/05/09(金) 11:03:15
「仕事の虫を恋に落とす器は持ってなかったのか…」
アズマが自分に流れてきた理由がストンと落ち、同時に申し訳なくも思った。
「…片想いして、未練もあったのね…」
余計心にくる。未練なんかあるに決まってる。そしてそんな相手を射止めたのが義体である龍影なら尚更だろう。だからこそ今ここで話してくれた。
『一応、お前とアイツがくっ付く時には
ウチはもうアイツには未練無いなってたし
結婚式でスピーチでも話すつもりやったで』
龍影は少し考えた。
「じゃあさ、ワガママを1つ。私とケイの結婚式の時は新婦側の席に座って欲しいな。整備長の所にも女の子はいるけどみんな仲良くムサイからさ。」
台はそれに答えなかった。
『今だけやけど、改めて宜しゅうな』
『バディ、グッドラック。』
その言葉は優しく、力強いものであり、生に満ちた声だった。龍影はその言葉を肯定として受け取る。桜は灰をかぶり、また芽吹いた。
既に台の呼吸は正常な物となり、肩の憑き物も抜けているようだ。
「グッドラック。」
龍影も僚機へ願掛けする。
巡るものは淀みが生まれない。しかしどこかで必ず澱む。その澱みをすくい上げねば廻れない。
龍影と台は互いにその澱みをすくい上げ、ほんの少しだけ廻りを良くした。
- 103◆KPwoT407kA25/05/09(金) 13:13:48
「…………ピラフ、あれ」
「言わんでいい、見えてるから」
【“最新鋭のセンサー系”が、一足早く収監棟を守るように現れたBFを捉える。二重に装備したタワーシールドからは何がなんでもこちらの攻撃を防ぎ切ろうという意思が感じられる反面、攻撃に転じられるような装備は一切見受けられない。つまり───────】
((馬鹿じゃないのこいつ…!?))
【見え透いたおとりだ。とはいえ、まさかその防衛機がまさか隊長格などとまでは考えが行き及んではいなかったが】
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!』
【近接型NIKKEが、先陣を切りアイゼン機目掛けてショットガンを発砲しながら突進する。】
【──────そして、ある程度タワーシールドに“弾かせた”タイミングで、突如砲口が一切ブレることなく“地面目掛けて”散弾が放たれ、土埃を巻き上げる】
『世界中のペペロンチーノを堪能するのが生き甲斐なの!』
【続けて、後方の砲戦型NIKKEの一機が煙幕弾を発射し、アイゼン機と場違いなペペロンチーノ魔をスナイパーの視点から覆い隠す。単なる誤射誘いだが、忠誠心の高い面子にとってはピラフとナポリタンの想像以上に効く手段であることを彼女らはまだ知らない。何より、自分達の手で収監棟を破壊することは本末転倒だろう】
「おとりがおとりとして機能しないとなれば次は私達を狙ってくるよ!」
「あんなわっかりやすいおとりがないと狙撃すらままならない連中の弾、当たるほうが難しそうだけ…どっ!」
【2機の砲戦型NIKKEは足を止めることなく、煙幕状況を維持する為に適宜追加の煙幕弾を発射しつつ、ビームライフルやロケットが発射された場合はその射線目掛け逆狙撃を実行していく】
【彼らが我々に注目している時点で既に作戦は完了しており、こちらは極論彼の敵を撃破する必要すらないのだ。なんならこの先投下された軍勢に背後を取られるのだからそいつらについでに撃破してもらえばそれでいい】
【重要なのは目を惹くことだ。勝利の女神を名乗る謎のBF3機は、統率の取れた動きで完全に“遊んでいた”───────】
《運び屋さん!それじゃあ早速お願い!私達が“おとり”になるから、射線から狙撃手の位置を読んで潰していって!》
《一方向だけでも潰せればそれでいいから!》
- 104情景描写◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 13:49:37
(1/◯)
「これは……」
『外周警備部隊のBF、及び対空砲台が立て続けに撃破されています!ただのデスペラードではありません!』
『アイゼン准尉の部隊が留置所の外門より内部へ敵を引き込んでいます! 三機の所属不明機が交戦中!』
(どうなっている……! デスペラードにここまで連携する頭があったとは……!!)
(おそらくはトライブ……元からグループとして行動することに慣れている集団なのか?!)
留置所の防衛部隊を指揮する立場に立っている所長は混乱の中でも、可能な限りの情報を得ようと心がけていた。
配置されている部隊が次々と襲われ、食い荒らされている状況に心がざわつき始めている。
「全機へ、アイゼン准尉が敵エース隊を引き付けてくれている間に体勢を立て直せ!!後退し、敵の情報を共有せよ!」
所長はこの瞬間、アイゼン准尉の部隊が交戦している敵機をエースと見なした。明らかに動きの次元が通常のBFとは異なるそれを、彼はハイエンドに位置するBFと認識したのだ。
タンク型BFはよくいるタイプとは違うものの、ポーターが使うような機体。乗り手の腕が良いだけだと所長は割り切った。
「格納庫から追加のBFを急ぎ出撃、包囲させろ!!所詮は勢い任せのデスペラード……数と連携で押し切ってしまえ!」
予備戦力の投入を決断する。程なくしてNIKKE達にはこれまで以上の圧力がかかるだろう。
彼らは、目の前の敵にのみ集中して戦況図を睨んでいた。
- 105情景描写◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 13:57:48
(2/◯)
だからこそ、彼らは密かに侵入している二人に気づくことはない。
速やかに気絶させられた看守は警告すら発せられず。そして細工された監視カメラの映像が偽造と気づくには情勢が許さなかった。
『この留置所に襲撃なんてな。大方、BFをぶっ壊して装備やパーツを剥ぐのが目的なのかね?』
『万が一がある、歩兵装備を取りに行くか?』
目を耳を既に塞がれているとも知らず、留置所内部の暴動抑止部隊達は歩兵装備を取りに行くか否かの雑談をウルヴィと百面卿に見られていることにも気付けなかった。
彼らは未だ、襲撃者達がただのデスペラードだとみなしている。だからこそ、自分たちは流れ弾が来なければ安全だと思い込んでいた。
『そういえば、あの英雄様が持ってたトランシーバー……』
『ただの通信用じゃなかったな。どうも通信妨害ができるタイプだ。英雄様の死刑執行後、賢工様方の技術部に持っていかれるそうだぞ……今は押収品を抑えてる部屋にあるらしい』
『英雄様が持ってた刀も業物だったよなぁ。人を斬ったことはねぇだろうけど!』
余りにも迂闊な会話だった。
- 106逆巻重工・実働部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 14:15:06
(3/3)
>>95 >>97 >>99 >>100 >>101 >>102
「――――ねぇ、サミダレ」
「どうしたの、シグレ」
龍影と台の会話を逆巻重工の実働部隊達は倣い、同じように行動していた。
そのうえで……あれ、おかしい。なにか忘れている……と気づいたのが、シグレだった。
「……私達さ、SS-N『サヨナキ』を取り外してないよね?」
「「「「――――――…………」
沈黙。困惑。いやまさかそんなわけ……という現実逃避が数秒入り。
「「「「「…………ぁ」」」」」
やってしまったということに気づいて。セイドウを除く全員の顔が青褪めた。
ハザマ機の正規生産型廉月も含め、全機がSS-Nを搭載している!!!
「ど、どうしようサミダレ!!このままだと私達自爆装備のままだよ!?!」
「落ち着きなさいよシズク!シグレ相手に生きて帰るって約束したでしょ!使わなけりゃ良いのよ!」
「ユエギまずいぞ!!今すぐ時限信管付きで宇宙空間に放り出すか!?戦略級の自爆装置なんて使っちまったら外野がなんていうか!」
「おおお、落ち着け!うろたえたらどうにもならんぞ!!」
「……もはや覚悟を決めるしかないかぁ……」
阿鼻叫喚だった。双子が叫び、熟練二人も慌て、何故か一番経験がないはずの若人が覚悟を決めていた。
セイドウは頭を抱えた。
「……はぁぁぁぁ。もはや仕方あるまいよ。全機、SS-Nの使用にはロックを掛けろ。血迷った時に使わないようにな」
『りょ、了解!!』
一声を与えることで、彼らを静める。宇宙空間に投棄したとしても爆発時の影響で何かが起きる可能性も捨てきれない。全機生還させれば良い、という覚悟をセイドウは決めた。
- 107ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/09(金) 14:17:25
了解了解、それじゃあ前線は頼むぜ」
【通信機からの指示に軽く返答して機体を旋回させる、先程の射撃で大まかな方角は検討がつく】
「それと、だ」
【ウィルヘルミナの車体に設置された幾つもの擲弾発射機からスモーク弾が同時発射され刑務所への狙撃を妨げる煙の壁を形成する】
「囮は要らねぇ、直接こっちを撃ってもらった方が分かりやすいからな」
「さあ撃ってこい、仕留めるチャンスだぜ」
【緩いスラローム機動で狙撃を誘い放たれたビームを正面に捉え、装甲で受け止める】
「あの廃墟か、武器捨てて逃げるんなら今のうちにな!」
【正面に見える廃墟に機体を走らせる、飛来する誘導ロケットはガトリングで迎撃、荒野に転がる障害物でのジャンプ、砲撃によるクレーターを利用したハルダウン】
【前後左右だけでなく上下機動も織り交ぜ射撃チャンスを与えずに狙撃手へと迫る、彼らの位置まではすぐに着くだろう】
- 108龍影◆9BZ6kXGcio25/05/09(金) 14:41:16
「たかが爆装程度でピーピー泣くな!それでも誇り高き月風乗りか!」
緊張感もない狼狽に頭が痛くなる。だが、それと同時に安心した。
ここに居る全員が軌道降下に怯えていないという証明でもあるからだ。
「それに被弾程度で爆発するほど不安定なものでは無い。サヨナキは墓守であって墓に連れ去る死神じゃない。」
龍影は宥めるように伝える。
『……はぁぁぁぁ。もはや仕方あるまいよ。全機、SS-Nの使用にはロックを掛けろ。血迷った時に使わないようにな』
セイドウは万が一の為にセーフティをかけるように全機へ連絡した。当然だろう。
「了解。」
他の操縦士同様、龍影も答えた。だが安全装置は入れない。
コレが逆巻と桜空の違いであった。
- 109警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 15:07:06
(1/2)
「──────チィッ!」
地面を目掛けて放たれた散弾を、瞬時に飛び退いて回避する。人自連製の量産機の運動性能を生かした滑らかな動き。しかし土煙が視界による視界の遮断を認識する
続く煙幕弾の煙。重複する戦術行動に歯噛みする。恐らく視界を遮断する事により、スナイパーの援護を困難にするつもりなのだろう─────砲撃機が自身の視界も遮られるであろうにも関わらず煙幕弾を使った、という事はそれを補うだけの機能を保持するという事だ。
特殊なセンサーか、或いは榴弾のような広範囲攻撃かは分からない。いや、罷り間違って収監棟に誤射して奪還対象を傷付ける可能性もある事を考えればセンサーだろうか?
「タワーシールドが近接戦に対応する為だけの装備だとでも思ったか……………ッ!サベール一等兵!ササキ二等兵!撃てェッ!!」
煙幕の中に正確な照準も行わずに誘導ロケット弾が真正面から突っ込み────────そして爆裂。無数の破片を亜音速で弾けさせ、広域を一気に制圧しに掛かる。
アイゼン准尉は、その金属破片の吹き荒れる嵐の中をタワーシールドを頼りに耐え凌いでいる。
高い実弾防御力によるフレンドリーファイアの防止と、それによって可能となる広範囲攻撃の連携。
致命傷を与えるのが目的ではない。多少なりとも傷を与えるのが目的だ──────そうすれば、例えアイゼン率いる小隊が此処で死ぬとしても。後続の部隊が目の前の敵を討伐する一助になるから。
「サベール一等兵、ポイントCからポイントFに移れッ!ササキ二等兵はポイントDからポイントHに!」
狙撃ポイントの使用回数は一回まで。マニュアルに対して極めて忠実な動きで、廃墟でありながら長い留置所としての役目を果たす中で一種要塞化された都市の中をバディフレームが駆け回った。
- 110逆巻重工・実働部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 15:19:10
(1/1)
「すまないな龍影君。ユエギやツルカミは少し気を抜かせ過ぎた……基本的にみな、指揮官やエースとして他人へ気を配る側にいたからな。周りに迷惑がかかりかねないサヨナキを外し忘れたせいで焦ったみたいだ」
セイドウが苦笑いをしながら謝罪した。
逆巻重工の実働部隊ともなれば、彼らが動く時は基本的に事態を収拾する火消し、または事態に対する先鋒側である。
使うべき時は理解していても、その結果周りが被る迷惑にまで一気に視野が飛んでしまったのだろう。
仮に収拾がつかずとも、収拾がつくように生き残り続け、手を尽くす立場……熟練者がぽんぽんと自爆しては後が立ちいかないというのもある。
「皆も龍影君の言葉は聞いたな?これはあくまで我々の尊厳を守るための装備だ。うっかり降ろし忘れたからと過剰に恐れず、しっかりと意識に入れておくように……なに、爆破工作用の装備としても使える。無駄ではないさ」
『了解!』
彼らは一瞬で持ち直した。普通ならば狼狽えや不信が湧くだろうに、それが全くない。
その上でセイドウは自爆以外の使い道も提示したのは、流石の最古参というところ。
つまりうっかり降ろし忘れたことだけが問題だったのだ。過ぎたことを悔やまずに受け止めた彼らの緊張は、喚く以前よりもよく解けている。
(これで皆、通常以上のパフォーマンスを発揮できるだろう)とセイドウは確信した。
- 111警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 15:19:18
(2/2)
「了解です。アイゼン隊長………!」
サベール一等兵。誘導ロケット弾によって隊長機の火力支援をしていた機体が誘導ロケット弾を撃ったその直後に武装を放棄して身軽になる。
重武装は各廃墟に備蓄されている。巨大質量を持ちながら移動するとなれば著しい機動力の減衰が予想されるからだ。
七階の天井を蹴り破って廃墟となったビルの屋上に出る。既に狙撃ポイントを晒した以上、隠密行動を実行するのは大火力による建物諸共の攻撃の危険性があるからだ。
それならば、姿を晒してでも迅速な退避を行なった方が良い────────尤も、単に姿を晒すだけでは追撃のリスクも存在する。しかし追撃に対する備えは整えられていた。
「───────起爆!」
タンク機が近付いたタイミングで、ビルの支柱へと設置されていた遠隔起動の爆弾を起爆する。
一瞬にして巨大質量を維持する支えが破壊されて、ビルの質量がタンク機を押し潰そうとする形で倒壊する。
サベール一等兵の機体はビルの屋上から大きく跳躍して隣のビルに移っている。躊躇わずにビルの屋上を疾走して狙撃ポイントの変更を試みようとする。
煙幕によって視界が遮られた以上、必要なのは広域への無差別攻撃が可能な兵器である。
そして、そういった武装は細かな照準を必要とせず────────故に、多少距離が離れるとしても僅かな照準もズレを気にする必要はない。
- 112ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/09(金) 15:56:01
- 113警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 16:10:26
「─────ガァッ!!!」
空中で炸裂した爆弾が、瓦礫を散弾の雨へと変えて破片が降り注ぐ。
『ARATAME』の実弾防御力は決して殊更に劣っている訳ではないが、しかしシールドもない状態で真正面から榴弾を喰らって無傷という程高くもない。
破片を受け、更に体勢が崩れて路地へと転落する。
パイロットスーツでも抑え切れなかった榴弾と落下の衝撃がサベール一等兵の身体を強く打ち、しかしバディフレームを直ぐに起き上がらせる。
職務への、そして自らか奉じる主義の為に。高周波ナイフを片手に一機のバディフレームがタンク機に突っ込んだ。
「やっと訪れた好機なのだ………ッ!我らの宿願、邪魔はさせぬ!」
クロノスへの憎悪を激らせ、命の終わりに向かって駆け抜ける。
- 114静寂と百面◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 18:27:01
【気絶させた看守を隠してから、しばらく後】
【通路の奥から歩んでくる歩兵用装備を取りに行きもしない二名による迂闊な雑談。その意味は、まだ侵入者の存在がバレて居ないことを意味する】
【T字路の壁に張り付いたまま一瞬のアイコンタクトをして、看守に変装したジョンは堂々と歩み出す。一方ウルヴィは…そのまま踏み出した】
【当然ながら見えているものを見逃すほど、抑止部隊員はバカではない。しかし見えなければどうだろうか?】
【ゼロコンマ未満の世界の更に先、音すらも置き去りにして天井スレスレの壁を蹴る。瞳で捉えられない場所として特に確実なのは頭上だ。二名の頭上を通り過ぎて数メートルで着地音を殺しながら着地すると、数秒後に怪しまれることなく通り過ぎたジョンが後ろに着く。仮に抑止部隊員が振り向いたとしても、ウルヴィが見えない位置となった】
「美しいですね…灰の静寂……」
【見られても問題の無い百面卿とは異なる、認識されない隠蔽。灰の静寂と呼ばれた所以の一つは、静かな内に依頼が達成されることにあるのだろう】
【恍惚として呟いたジョンは、抑止部隊員が視認範囲から外れたことを確認してもウルヴィの後ろを離れない】
「彼の持ち物が…英雄の刃がきっと寂しがっています…。主から引き離され、涙を湛えていることでしょう……」
「…ん」
【そろそろ背後から退いて欲しいのだが、そう思いつつも押収品のある保管庫を目指す】
- 115ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 18:27:58
「――――戦闘音が近づいてきた」
爆音、爆炎がより早く、そして大きくなってきたことにケイは気づいた。
自分以外の……心も体も消耗し尽くしているはずの囚人たちでさえざわつき始めている。
息を吸って、吐く。数回繰り返しゆっくりと頭を回していく。
「助けが来るかはわからない」
希望を持ちすぎるのもまた毒。ゆえにケイは予測不能として思考を回転させる。
仮に目の前の独房が開いたとしても脱出手段がない。四肢を拘束されているのだ。
手錠、脚の重り。
「……最悪自分の関節引っこ抜いて外そう」
生身の戦闘訓練で祖父に関節を外された経験がこんなことに役立つなんて、ケイは思ってもみなかった。 - 116ルフス◆hFOUpFQqt.25/05/09(金) 18:52:08
【彼女を見送ってからは、変わらない筈の家が広く感じた。1人と2人の差は存外大きかったのだろうか】
【彼女が受けたであろう依頼は粗方察しが付いていた。その後の自人連・デスペラードの動きは憶測を確かなものとした。だが企業のことを考えれば受けられるはずがない】
【対人戦とはつまり過干渉になる。人命の取り合いはいつの時代も群衆の目と気を引く】
【依頼目標は"ケイ・サヤギリ"。2度同じ戦場に立ったあの青年。何をしでかしたは知らないが無実と言えど罪を被せられたらしい。あの性格だ、"正しい"と思うことをやったのだろう】
(ならオレはどうする?)
【1つ。企業の為に不干渉を貫く。何もしなければ何も起きまい】
【2つ。無実の青年を救い出し、無益な人命の損失を防ぐ】
【"正しい"は二つか?どちらかを選べばどちらかは棄てるしかないのか?】
【違う。もう一つある】
「"できることをできるだけ"」
【自ずと口から出た声を、確かなものと耳で聞く】
「エウロラ。テスタロッサを出す。異論はあるか?」
『無いよぉ〜。君の事だから準備は始めてあるからねぇ。道具は東側の第六ゲート〜』
「助かる」
『今回は長丁場になるだろうからねぇ。2本イっちゃう?』
「…あぁ」
『じゃ終わったら顔見せなさいよぉ?"ルフスちゃん"』
「……あぁ」
【今行けば直面するのは陸上戦艦だろうか。良いだろう。データも取れる】
【2番ガレージに佇む暗い外套を被った巨人。それを見上げて"彼"は首筋に注射器を刺し錠剤を飲見込む】
【数刻後、"彼女"を乗せた巨人"テスタロッサ"に光が灯った】 - 117回収、別行動◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 18:55:38
「あった」
【恐らくは表のBF戦に駆り出されているのだろう。手薄となった内部で押収品保管庫を警備していたのは一名しか居らず、既にウルヴィによって沈黙させられている】
「暫しのお別れとしましょう。英雄には試練が付き物…ですが物語が冗長になっては本末転倒…」
「ん」
【ケイの押収品を回収して部屋を出たウルヴィに、ジョンは別行動を提案する。看守の顔を使って、脱獄の発覚を遅れさせる魂胆である。ウルヴィもそれに納得したようで、彼らは二手に分かれた】
【彼らに相手への信頼などない。しかし信用はある。仕事を裏切らないだろうという傭兵としての評判、一人でもどうにかするだろうという実力への評価。それが互いの信用だった】 - 118◆KPwoT407kA25/05/09(金) 19:24:02
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!』
【暗視センサーにて煙幕下で起きた“自機以外の何かによる攻撃への事前防御動作”を、その謎の機体が見逃すはずもなく】
『世界中のペペロンチーノを堪能するのが生き甲斐なの!』
【機体をタワーシールド持ちへ急接近させたかと思えば脚部の質量を用いた強烈な足蹴にて初速、脚部ブースターによるさらなる加速を以て煙幕範囲から離脱する。─────脚部外装に無数の小傷が生じた】
【そして、狙撃手を狙う機体は接近しつつあるタンク機だけではない。サベール機の姿が見えた方向とは別の方角、…移動阻害及び、サベール機のように早急な移動の為に姿を表そうものならその別のスナイパーを狙わんとスナイパーライフル持ちの砲戦型NIKKEによる粒子火砲が周囲のビル屋上目掛け立て続けに放たれる】
「煙幕の中にバズーカ…確かにあのシールドは耐え切れるかもしれないけどどうする?あれ繰り返させて自滅狙う?」
「いや…下手に継戦不能に追い込むと自爆狙いに切り替える可能性もある。それに面制圧と増援来るよ!ほい!これ使って!」
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【砲戦型NIKKEの予備ビームライフルと近接型NIKKEのショットガンを交換し、円陣を組んで増援やロケット弾頭の撃ち落としを実行する3機のBFは、退路だけは確実に確保しつつ決定的な攻勢には出なかった─────逸ってアイゼン機より前に出たBFは容赦なく撃墜されていく為、防衛戦力は確実に損耗されていってはいるが】
【“守備部隊の尽力により、所属不明機の蹂躙が巻き返されつつある”…こういう駆け引きは頑張れば勝てるかもしれないと思わせた方が、人は躍起になって食いついてくれる】
【表面上は3機のデスペラードが圧倒されつつあった】
- 119ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 19:31:48
- 120警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 19:49:15
「─────ササキ二等兵!地下通路を使って狙撃ポイントを変えろ!」
謎の機体による足蹴を食らって、その質量と速度で後退させられながらアイゼン准尉は秘匿通信で支援機に向かって叫んだ。
廃墟でありながらも、長らく留置所としての役目を果たす中で一種要塞化された都市である。
良く練られた塹壕と同様に、移動の為の地下通路もまた整備されている。「ゴエティア戦団」の離反者すら収容した施設だ。奪還部隊への警戒は並大抵の留置所を上回る。
(───────前に出た機体は撃墜されている。決して火力不足ではない筈だ。敵が攻めない理由は何だ?)
ブースターの性能は先程も見た。誘導ロケット弾の散弾さえも小傷に抑える脅威的な速度。アレがあるのならば今この瞬間に目の前まで迫られても不思議ではかい。
で、なりながらも。突出した機体だけを仕留めつつ防戦に回っている理由が分からない。しかし接近を試みた機体が死んでいるのは確かだ。
アイゼン准尉は所長と、それから増援に駆け付けた僚機との通信を繋いだ。
「───────各機、収監棟のギリギリまで後退して射撃に専念しろ!奴らが蹴り込んできたら収監棟と衝突するぐらいにな!その場合は蹴ってきた奴らの責任だ!」
戦術は、専守防衛。時間は常に彼らの味方である。誰を奪還するつもりなのかは知らないが、増援部隊が到着すれば更なる火力密度と練度で攻め切れる。
アイゼン准尉は決して自身の実力に驕っていない。寧ろ低いだろうと自認している。そうでなくては、クロノスへの侵攻部隊の選抜で落ちてなどいない。
「時間稼ぎに徹しろ!所長、敵の雇用主は!?其れが分かれば収監棟で奪還対象を殺して戦略的勝利を得られます!」
- 121二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 20:05:47
このレスは削除されています
- 122留置所・所長◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 20:07:25
「――――おかしい」
違和感を、留置所の所長は声に出した。
タンク型BFに対して、アイゼン准尉と彼の部隊はよく持ちこたえている。正体不明の3機、推定ネームドの動きも緩慢だ。
初動こそ惨憺たる結果であったが、彼らの勇戦で情勢は膠着に変わる……だからこその違和感。
「連中はなにを隠している?」
普通のデスペラード、ではない。トライブでもない。だが……だからこそ読めない。
彼らは基本的に補給線という概念が殆ど存在しないのだ。
故に気まぐれに二大勢力を襲い、気まぐれに触れ合い。機体や肉体的に疲労を回復するべく補給する。
その常識に則れば……彼らは、既に撃破されたBFや砲台の残骸をせっせと回収して逃げ出してもおかしくない。
なのに、逃げない。
時間は既にこちらへ味方を始めているにも関わらず、だ。
『時間稼ぎに徹しろ!所長、敵の雇用主は!?其れが分かれば収監棟で奪還対象を殺して戦略的勝利を得られます!』
「……まさか」
足りない最後の閃きは、アイゼン准尉が提供してくれた。
(彼らの目的は、“人材の略奪”だ!!)
「ここ近日で死刑を執行される予定の囚人リストを今すぐもってこい!!」
留置所の所長は叫んだ。 己の頭脳など彼はそこまで信じていない。だからこその洗いざらいだ。
「アイゼン准尉、敵の雇用主は不明だ!! 時間稼ぎに徹しろ……絞り込む!! 監視カメラの映像を洗え!!」
既にその判断が遅いとも知らずに。
- 123留置所・所長◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 20:16:20
『所長!!広域に切り替えたレーダーでさらに一つ……熱源反応が!!』
「なんだ!ミサイルか!!」
所長は叫んだ。たかがミサイルならば撃ち落とせばいいと思っていた。
『ミサイルではありません!!高度が低すぎます!! ただ通常のBFに比べ、熱量が3分の1で……』
「ならば無視しろ!!その程度の機体、今更奴らの増援に来たところで遅いわ!!」
最後の最後で、彼は侮った。
・・・・・
熱量が低い機体を何故自分たちのレーダーが捉えたのかという点を見誤った。
『格納庫からBF10機、出撃完了です!!』
「よし、押し潰せ!!!」
所長は叫ぶ。
(今度の増援はSHINONOMEとARAMATE、そしてアーヴィングの混成……!ARATAME機は空戦カスタム済み!)
(地を這う無頼者を追い込んでくれる!!)
優勢という美酒に、知らず酔ってしまった。
- 124警備小隊長◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 20:17:40
・・・・・・・・・・・
「──────絞り込む時間が無駄です!」
アイゼン准尉は、極めて忠実な男であった。
同時に生粋の軍人でもある。故に、今もあの敵機が何時コチラに突っ込んで全てを滅茶苦茶にするのか分からない状況で、絞り込むなんて行為は致命的であると言えた。
・・・・・・・
「全て殺せば良い!死刑執行予定の囚人であれば、この場で処刑しても文句を言う筋合いは誰にもない筈です!所長!私に収監棟に侵入する許可を!」
多少早いか遅いかの違いだ。であれば、絞り込む為に時間を無駄にするよりもさっさと皆殺しにした方がずっと効率的だと断言する。
それでも止まらなかった場合でも、最初から死刑囚リストの中には載っていなかったという事でやはり結果は変わらず、時短になる。
- 125留置所・所長◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 20:25:00
『全て殺せば良い!死刑執行予定の囚人であれば、この場で処刑しても文句を言う筋合いは誰にもない筈です!所長!私に収監棟に侵入する許可を!』
「貴様が責任を取るのだな!!?」
それが何を意味するのか、分かっているな?と問いかけた。死刑執行とは、娯楽のひとつなのだ。処刑場に並ぶ肉が減ることは、威圧を減じさせる結果になりこちらの評価に関わる。
しかし止めるには時間が敵であると、所長も判断した。したが……。
・・
「――――許可する。貴様の独断で収容棟に侵入しろ!!」
しかし最後の最後で、所長は己の責任から逃げた。時間を味方につけるための行為をアイゼンだけに押し付けた。
逆巻重工であれば――――彼らはこのような留置所に無実の罪のものを収監しないという前提で――――彼らが最も信ずる指揮官、ユズハ・ミドリマならばこう答えていただろう。
『責任は私が取る。全機、兵装自由で収容棟での交戦を許可する』と。
- 126ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 20:34:56
「――――やぁ。アッチからのお迎えなら、シグネみたいな怒りっぽい子が来てくれると思ったんだけどな」
灰のような髪、そして鴉色のコートを羽織った小さな小さな美女が。檻を挟んでケイと邂逅を遂げていた。
どうやら気を強く持って入るようだが、そこそこ覚悟はしていたらしい。
自分以外に知りようのない『誰か』を例えにしながら、ケイは笑う。
まさか“こちら”の戦友と先に出会えてしまうとは。
「……俺を助けに来たってことであってるかな?ウルヴィ」
もしそうなら、目の前の檻も含めてご自由に。とケイは拘束されているにも関わらず、器用に肩をすくめた。
どうやら、しばらく生きろというアチラからのエールかな。ケイはそう捉えた。
- 127ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/09(金) 20:39:28
- 128ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 20:49:00
- 129ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/09(金) 20:49:35
やってまいりましたわ青空市街!
今日はまずヘアサロンに行って色々おめかししちゃいますわー!
《ご機嫌ですね、お嬢様》
ええセバス、セバスの方は問題なくて?
《はい、現在警備班として巡回しておりますが、インベイドの存在は確認できません》
であれば良しですわ!
【ラバーの相棒的な存在であるUNBF『セバス』はラバーが喉仏を隠している幅の広いチョーカーと電子的に繋がっており、農園にいる『セバス』の機体とラバーとですぐに会話ができるようになっている】
うふふっ、今日の旧愛卿様はどのような衣装なのでしょう……普段の執事服もお素敵ですが、いろんな服を見てみたいですわ……そうだ、ついでにショッピングをしていろんな服をわたくしも含めて着せ替えしてみたいですわ〜
《盛り上がって参りましたね、お嬢様。足元にお気をつけて》
ええ、ヒールを履くのはもう慣れましたもの
ぐでーんとずっこけるのはもう無しですわ!
【ベレー帽を被った金髪縦ロールの、見た目は至って世間から浮いているお嬢様がウキウキ気分で相方を待っていた】 - 130ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 21:11:22
「っ、と……!!」
ふらりと、ケイが拘束から開放された反動で一度地面に倒れた。
どうやら思った以上の疲労で力が入っていない……が。数秒で手を付け。足を自分で動かし、立ち上がる。
ぱしっ、と刀とトランシーバーを受け取った瞬間。ケイの纏う空気がふわりと切り替わった。
普通の少年らしい穏やかな風が、鋭く激しいつむじ風に変わったのだ。
「ありがとう。刀も取り戻してくれるなんて……」
感謝しかないと言いつつ。トランシーバーをどう使うべきか悩み……もう一つの機能に気づいた。
(ダイヤルが2つある……周波数か!!)
「ウルヴィ、今の作戦中に使ってる無線周波数を教えてくれないかな」
自分の耳も塞ぐようなものを旧愛卿が作るはずがない、という信頼だった。
- 131英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 21:23:02
・・・・・・
「有り難き幸せ……………!」
繰り返そう。
アイゼン准尉は、極めて忠実な男であった。
───────保身なぞ頭にない。保身を目論みるのであれば、クロノス侵攻の最先鋒を希望なぞしていない。最も損耗率の高い役割だからだ。
彼にあるのは、クロノスへの飽くなき憎悪と自らが仕える企業への忠誠心であり───────だからこそ、躊躇いなく収監棟の扉を蹴り破れた。
分厚い鋼鉄の扉がズガガガガッッッと収監棟の中を引き摺るように破壊して、鋼鉄の巨人が数多の罪人の最後の地に足を踏み入れる。
「─────死刑囚は、現在時刻を持って全員処刑する!クロノス侵攻に先立ち、不穏分子は全て処分しなければならない!」
警備部隊である事を止め、忠実なる鉄の男がタワーシールドを装備したバディフレームを駆動させた。
- 132ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 21:27:32
「自衛できる方が、動きやすい」
【それだけだと述べる。倒れ込んだ姿は心配だったが、刀を持った時点の彼を見て、戦える方だとウルヴィは認識した。ここの看守程度であればわざわざ守りながら戦うなど意識しなくても良いだろう】
「ヒト・マル・キュウ、イチナナ」
【簡潔に答えながら、ウルヴィは檻の外を警戒する。幸いまだ気づかれていないようだ。ジョンの工作もあれば、行きと同様に認識されないまま出れるだろう】
【そう、考えていた】
【この時までは】
・・・
【収監棟が、揺れる】
「…急ぐ」
【彼の手を取って走り出す。攻撃された、理由までは分からないが、ここを破壊する気の者がいるというのだけは確かだ。生き埋めにならないためには、急がねばならない】
- 133英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 21:34:35
「うっ、ぅぅぅ………………… 仲間の位置と、数はぁっ…………………」
コックピットにカービンを突き付けられている。
必然、ササキ二等兵には抵抗の余地はない。呻く様にして詰問に対して吃りながら、コクピット内にて必死に操縦系を弄る。
「な、仲間の位置と数は………………」
機体が突如としてタンク機に絡み付こうとする動きをした。
・・・・・・・・・・
既に行動を終えている。燃料系統に備え付けられた自爆装置は起動した。数秒もしない内に破片を撒き散らして爆破する。
・・・・・・・・・・・
「私は仲間を裏切らないッ!!!!クロノスに呪いあれッ!!!!!人類自由連盟万歳!」
─────機体の内側から、火球が膨れ上がった。
- 134ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 21:35:53
- 135ジョン・ドゥ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 21:41:20
- 136ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 22:06:57
- 137翠の妖精◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 22:10:50
『ミッションオブジェクティブの確保に成功』
《――――!!》
翠の名を戴く電子の妖精は、一つの周波数以外を尽く妨害するノイズを覚えていた。
サブユニット内部に己をいれていたとはいえ、その処理能力を圧倒する妨害を覚えていた。
だからこそ妨害されていないたった一つの通信を、即座に拾った。
だからこそ理解できた。
《ケイ》
・・
己の主が奪還されたことを、誰よりも何よりも早く理解した。
《ケイ……!!!》
蒼風改のバイザーアイが閃き、機体が動く。
既に大気圏は抜けていた。可能な限り機体速度を下げるための落下傘も展開されているが、それは救出作戦が遅れている時にうっかり敵陣へ落ちて狙い撃ちされないための保険だ。
主が救出された以上、もはや必要がない。
落下傘を、ビームサーベルで焼き切る。
《私は、ここに、います!!!》
無機質な電子音声は、もはや出せるだけの高音とともに。誰もいないはずのコックピットで声を上げて。
コア粒子機関が高音ののち、重低音を響かせる。
・・・・・・
蒼風改が超高高度から地面に向けて、音速を超える速度で加速した。
- 138ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/09(金) 22:19:59
- 139メントーア◆AUy27RMtoo25/05/09(金) 22:24:34
【…有人機であの重力負荷では中の人間の意識を保てる可能性は2%、生存の見込みは0%】
遠く…戦闘に関わらないような位置から、無人偵察機であるソリチュードが高速で下降する機体に対して指揮AIのメントーアは【死】を予見する
しかし、偵察機であるソリチュード『多分死なないと思うなー』と呑気に反論する
『あそこに居るのがその2%だとおもうよ?』
【…………】
- 140蚊帳の外の道化◆fDey8JUvvk25/05/09(金) 22:25:36
(1/2)
【陸上戦艦にて。ノインは少なくとも表向きは英雄であり。士官待遇にて個室が与えられていた】
【それは面子もあっただろうが、直接の指示を受けるのに都合がいい、という理由もある】
「………はい。はい……。存じております。私のやることは変わりません。はい。失礼いたします。」
【構築されていた秘匿回線を再切断する】
「……………投獄……そして処刑。………G-3の英雄、ケイ・サヤギリが……………。」
【伝えられたのは簡潔な情報のみ。ケイ・サヤギリがクロノスと密通したため処刑が決定されたということだけだ】
【ベレトのことすら伝えられていないのは腐れ老人たちの『配慮』による】
【事実、ノインは好くゴエティアに可愛がられていた】
【才と向上心のある新兵と、生の地獄を見てきた熟練兵たち─それも双方理性を兼ね備えた─が同一陣営の同派閥において上手くいかないことなどありえない、ということなのだろう】
「……クロノスと密通、か。」
『貴方は間違っていません』
『俺は皆に守られてるからそう言えるだけの。若造ですから』
『俺は――――『カルカディアの騎士』になります。なれるまで、生き残ります』
「はっ。」
【珍しく、非常に珍しく。感情をあらわにして吐き捨てるように笑う】
「(あんなに滲んだ目をしたやつが、自分の立場を理解できぬものか。)」
「(あんなに澄んだ目をしたやつが、自分から死に向かうものか。)」
「(あんなに心配そうに袖を引かれるやつが、自分の袖を引くものを置いて逝けるものか。)」
【口には出さなかった。だが彼は嵌められたという確信があった】 - 141蚊帳の外の道化◆fDey8JUvvk25/05/09(金) 22:26:57
(2/2)
【自身の携帯端末をトントン、と触り。ピアノソナタを流し始める】
「皆に守られてることのどれだけ幸運か、知っているか?私はもう覚えていない」
「だが、まあ。皆を振り切ったのは私か……。」
【一息吐き、もう一度考えなおす】
【現実は非情である。陸上戦艦に集められた選ばれし兵士たち。皆の期待と狂信は想像以上だった】
「(彼ら、彼女らの行動に一片の曇りもない。行いすべてが『正義』だ)」
「(私一人で、もはやどうにもならない………)」
【あまりにもありきたりな結論】
・・・
【つまるところこの女はまともなのだ】
「選ぶ、しか……いや。行くところまで行くさ。私がそれを選んだんだ。」
【これを見ているかもしれない誰かに宣言する】
・・・・・・
【選択肢の見あたらない状況で。せめて唯一の選択肢を選択したのは自分だと言い張るだけの虚しい抵抗と言い換えてもいい】
【ピアノソナタは、堅牢な構築の上に激情がほとばしり。フォルテッシモの主和音が、全曲に終止符を打った。】 - 142ルフス◆hFOUpFQqt.25/05/09(金) 22:35:06
【格納庫から現れた10機のBF。真正面からやればそれなり、いや、かなりの戦力ではあろう】
【真正面の場合は】
「先ずは一匹かなぁ〜」
【留置所の高台。一番背の高い建造物の上に夜風に紛れたシルエット】
【迷彩仕様の防塵布を被った機体。その眼前に一際明るいスクリーンが展開する】
「いぃや面倒かな?1人を10回。10人を1回…」
【>>137空を見やると流れ星が降ってきた。良い空だ】
【フォロスクリーンに映る10機のBFに赤い円が繋ぎ止められ、拡大される。ロックは終わった】
「砲身展開!MDCフルドライヴ!!電磁レール・バレル延伸!!!」
【連射式拡散榴弾砲を前方に、大口径電磁投射砲を繋ぎ合わせ、腰を落とし両腕で構える】
【200mmもの大口径。そして小型BF一機に匹敵するジェネレータ出力。そこから放たれる砲弾は──】
「気前よくイッちゃうからさァ!!!」
【瞬間、留置所の何処よりも明るい一瞬が煌めき、"コックピットを外した"鉄塊の雨がBF部隊の四肢を千切れ飛ばした】
- 143英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 22:37:33
・・・・・・
「─────────僅かでも動いた者は、脱走を企てたとして即刻殺処分する!牢から一歩たりとも出るな!」
アイゼン准尉は、咄嗟にバディフレーム越しに声を響かせた。
彼らの命を守っているのは、裁判前という立場だ。しかし脱走を試みたのであれば、つまりはその罪を認めて尚且つ逃れようとしているに等しい────そのような理論武装で、デコイを牽制する。
動かないのならば最上。勧告した上で動いたのなら殺す為の大義名分が手に入る。
だが、
「なっ、そんな馬鹿な……………!?」
通信が、妨害される。
言葉にすれば酷く単純だが、しかし恐ろしい事実であった───────連携の要が寸断される。その戦術的効果は計り知れない。
(………………落ち着け。何をするべきか、冷静に考えろ。『亡霊部隊』ならどうするか)
アイゼン准尉が入隊を志願していた部隊だ。今では対クロノス戦争の最先鋒として““陸上戦艦””に搭乗している。
一度息を整えて、アイゼン准尉のバディフレームは一つの場所へと向かい始めた。
・・・
「階段だ。先ずは各階の行き来を途絶させる。そうすれば、必然的に一つの階に留まる必要が生まれるだろう」
一度探索した階に再び潜り込まれるイタチごっこ。それを防ぐ為に、極めて迅速にアイゼン准尉は収監棟の施設破壊を実行に移すべく駆けた。
- 144英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 22:43:24
- 145ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 22:52:29
- 146留置所・警備部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 22:55:07
『敵BFから高熱源反応!!かいザザザザ』
「な――――まずい!?!全機回避しろ!!!」
オペレーターの言葉に反応できた機体は、隊長機を除いてゼロだった。直後に通信妨害が発生し、連携が絶たれる。
電磁加速された砲撃というものに一般的な人自連側のパイロットたちは疎い。
しかもそれが散弾であるならばなおさら。
スレイガンと戦い、生き残ったものがここにいるならば即座に対処できただろうが……現実は無常であった。
「ひっっ――――うわああぁ!?!」
彼らの目の前、コックピットインターフェイスには数十に近い敵からの予測射線ルートが引かれ、その多さで身体が竦む。
隊長機である空戦仕様のARATAME――――彼は咄嗟に飛び上がることで回避した――――以外は、その散弾にて機体を散々に食い荒らされ、鉄くずに変えられてしまった。
コックピットが残っていようが関係がない。もはや戦意すらも喪失したのである。
「――――やりやがったな?!貴様ァ!!!」
たった一機のARATAMEが、下手人へ向けて突撃をかけた。
- 147ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/09(金) 22:58:43
「ぐぅぅ……!」
【自爆によって生まれた爆風と大量の破片がぶつかりコクピットに衝撃が伝わる、最も厚い正面の装甲とシールドで受けた為に機体が行動不能になる事は避けられた、だがシールドは大きく損傷し既に使い物にならないだろう】
【シールドを投げ捨て左手にバズーカを装備、通信機を起動すると前線に向かい呼びかける】
「狙撃していたやつを1機無力化、まだそっちを狙ってるのはいるか?」
- 148旧愛卿◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 23:01:42
「──────あら。少し、お待たせしてしまったかしら?」
ふと、美しいソプラノボイスが言葉を奏でた。
特徴的な太陽を閉じ込めたかのような黄金の髪に、しっとりときめ細やかな白い肌。
長い睫毛に縁取られた瞳は綺麗に調和しており、唇は仄かな艶やかさを帯びた淡い桜色。
細く優美な肩を惜しみなく晒したノーショルダーのワンピースの色は純白。
対比としてか、黒色のフェドーラ帽はその色合いも相まって更に旧愛卿の長く美しい黄金の髪を際立たせていた。
女性としての柔らかさを帯びながらも、しかし少女のようなあどけなさも秘めた肢体は触れれば簡単に手折れてしまいそうな百合を思わせる。
そんな令嬢の休日のような服装をした旧愛卿は、正に仕事を侍従武官に押し付けてきた所であった。
「…………っと、もしかしてヒールの方が良かったのでしょうか?完全に歩き易さ重視でスニーカーを履いてきてしまったのですが……………」
そもそも今の服装も全部が侍女に選んで貰った服装なのでお洒落初級者なんですよね、コイツ。
- 149ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 23:12:08
- 150ルフス◆hFOUpFQqt.25/05/09(金) 23:16:51
- 151ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 23:20:15
・・・・・・
「どっちにしろ、ここしかない」
【ウルヴィはケイの元に着くまでの間に、脱出経路も探っていた。だからこそ分かる、例え封鎖されていたとしても、或いは何者かが来るとしても、これが唯一の経路なのだ】
【だから何が起ころうと、そこを目指すしかない】
【そう、何が起ころうとも、だ】
【息を切らしつつあるも、素晴らしい身のこなしで蹴撃を放った彼でも、危ういかもしれないが…】
「ん」
【命を託す。その言葉に小さく頷くウルヴィは、最初からそのつもりである。クライアントのオーダーは彼なのだから】
「傭兵は、依頼を、守る」
【誓うように呟いた】
- 152英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/09(金) 23:23:38
「邪魔をするな……………ッ!」
アイゼン准尉は歯噛みした。彼はこの喧騒に紛れてケイ・サヤギリが階段に向かっているのも知らなければ、彼の奪還が作戦目標である事も知らない。
知っていれば直ぐにでも加速して、タワーシールドを投擲して大質量での圧殺を実行しただろう。
だが知らないものはどうしようもない。根本的に、アイゼン准尉には情報が不足していた。
先程の言葉だって、牽制の意味合いが強い。
本当に目の前の脱走囚を皆殺しにしたのなら、先ず間違いなく連盟法に則って裁判が行われるだろう。アイゼン准尉からすれば自身の死など恐ろしくないが、しかし上官や引いては企業全体に迷惑を掛けるのは本望ではない。
・・・・
それこそ無駄死に、味方に損害を与えたのであればそれすら下回るに違いない。
「通信が…………!通信が回復さえすれば…………ッ!」
そうすれば、アイゼン准尉は企業への反旗を翻して企業から離脱し、そして裏切り者のデスペラードとして堂々と殺戮に及べただろう。
しかしこの状況では不可能だ。間違いなく記録ログにアイゼン准尉の叛逆意思は残されず、企業の一員が虐殺に手を染めたと見做されてしまう。
「クソッ!何処の誰だ!?こんな通信妨害を行えるのは─────ッッ!!!」
本来は有り得る筈もない現象に歯噛みして、脱走囚を収監棟の内側へと追い込むようにタワーシールドで床を削り取りながらアイゼン准尉は叫んだ。
- 153留置所・警備部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/09(金) 23:29:08
「な――――!!?」
ゴガ、という金属音とともに、ARATAMEの頭部に砲身が叩きつけられた。
メインカメラを叩き潰されて、パイロットは混乱の渦へと落ちる。
(――――どうやって移動した?!!)
(こちらは空、あいては先程までビルの上だぞ?!?)
「クソ、クソ、クソぉ!!!」
モニターの映像をサブカメラに切り替え、ノイズ混じりの映像を頼りに、地面へクラッシュする寸前で機体を立て直す。
・・・・
「あいつは、ダメだ!アレはネームドだ!!勝てるわけがない!」
通信が通じないことも分からぬまま、隊長であった男は叫んでいた。
優れた技量によって、企業や組織の中でも、そしてデスペラードとしても秀でた個人として認識されたBF乗り達に与えられる、名誉の称号。その呼び方の一つを。
自身をネームドであると自称するものはいるが、『本物』の圧力など感じれば分かる。
全てをなぎ倒す、圧倒的な暴力の権化だ。
(アレを仕留められる戦力はここにはない!!どうしてこんなことになった!)
わからないから、地を這うように機体を滑らせ、逃げにかかる。
(陸上戦艦に……この近くを味方に、報告しなくては――――!!)
ここには化け物がいる。その恐怖で、やはり冷静ではなかった。
- 154ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/09(金) 23:59:23
【階段を使って降りていくと、巨大な壁を目にする】
【床を削りながら迫る壁は、これ以上の脱走囚を出さないための檻を形成していた】
【それでもブーストを伴って全員を圧殺しようとしないのは…できないのだろう。だが、だからといって留まるわけにもいかない】
【依頼の目標は、ケイ・サヤギリの奪還であり、護衛ではないのだ】
「…ちょっと、失礼」
【ケイを米俵のように肩に抱えて、何人かの無謀な脱走囚にウルヴィは混じりながら、壁の上部、BFの頭へ向けて何かを投擲する】
【歩兵にBFを傷つけることはできない。それは常識だ。しかしBFは完全無欠ではない。目を潰されれば何も見えないし、顔を覆えば前は見えない】
【投擲された閃光手榴弾を防ごうと防ぐまいと、壁は一時的に視覚を失うはずだ】
- 155ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 00:08:15
- 156ルフス◆hFOUpFQqt.25/05/10(土) 00:12:11
- 157留置所・警備部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 00:23:17
「ひっ」
喉が引きつった音が、彼から漏れた。
またも一瞬。移動の間隙すら彼は観測することもできず、背後に回られた。
テスタロッサ――――男にとって名前も知らないBFの蹴りが襲いかかる。
金属と、有機的な動作によって放たれた蹴撃がARATAMEを捉え、空戦用ブースターを含めひしゃげさせていく。
推進装置を含めたそれが蹴りの威力と衝撃でARATAMEがテスタロッサから離れた瞬間、背部のみが綺麗に爆発。
「うわぁああぁあああ!?!?」
大の男とは思えぬ悲鳴を上げるパイロット。
ARATAMEは乱回転を起こし、制御不能状態で防衛用のビルへ頭から突っ込んだ。
――――もはや動く気配はない。
増援としてNIKKEを含めた機体達へ圧力をかけるはずだった10機のBFは、たった一機によって制圧されたのだ。
- 158ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/10(土) 02:19:05
......あっ、今お腹を蹴りましたね
【同伴の胎で育つ我が子の、広い大地をはしゃいで回る姿を、お腹に当てた耳から見る】
「金龍さんに似てとても元気で、お医者様からも『どれを取っても健康そのもの! ここまで心配する必要が無い胎児は見た事が無い!』って言われるほどなんですよ」
【マタニティウェアを着ていた珠は裾をまくり、力こぶを「えいっ!」と満面の笑みで誇示する】
そいつは思いがけない吉報だ!
今からでも特注の服を用意した方が良いんじゃないのです!?
「まだ産まれるまで長いのですから、そんなに慌てないでください」
【金龍の鼻に、人差し指をコツンと軽く当てる】 - 159二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 02:19:29
このレスは削除されています
- 160二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 02:20:04
このレスは削除されています
- 161ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/10(土) 02:21:39
ハッハッハ! だとしたら失敬失敬!
なんて言っても初めての子供だし、大事そうにない珠さんの姿を見てすっかり舞い上がっちゃってましたから!
「でしたら......このまま一緒に暮らせば良いのに......」
【珠の笑みに陰が差し込むのを見て、金龍は後髪を掻く仕草を止めて目線を下げる】
......申し訳無いですね、余計な気苦労を掛けさせてしまって......
ほら、なんて言っても最近は忙しくて忙しくて、こうして本家を訪れたのも久しぶりですから......
「知っていますとも。ローズお姉様から色々お話を伺わせていますから」
ちょっと待って? 『伺った』?
【彼の無意識下で、眉が惹かれ合うようにくっ付く】
「はい、しっかりと」
(......あんなに黙っててくれって言ったのに、まさか珠さんに言っちゃうとは思わないぜ姐御ォ〜〜~〜......!!!)
【部屋の赤い天井を仰ぎ見れば、踏ん切りが付いた眼差しに変わっていく】
そうなれば、さぞやがっかりされた事でしょう......こんなのと結婚して、子を成して......
(いや、がっかりなんて言葉じゃ合わないなんて物じゃないはず......) - 162ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/10(土) 02:22:04
「......でも、あそこで助けられた人も居るのだって事実です」
【金龍の鍛錬が積み重ねられた硬い左手を、珠の柔らかい両手が優しく包み込む】
「金龍さんが自分のしでかした事を罪と捉えるのならば、最後まで背負って生きていくべき、いや、生きていかなければなりません。例え、最後には汚泥の上を這いつくばろうとも、皆に許されるまで。それだけの重責をも背負われているのですから」
【金龍の後ろでハンガーに架けられたK.Iのコートを見やる。その首元と胸には、幾つもの輝いている勲章が貼付されていた】
「だから、金龍さんは昔話が大好きなお義父様に会いに来た。私のためだけでなく、己の罪と向き合う足掛かりのためにも」
【彼の腰ポケットを膨らませる"生きていた証"の方へ、目を移す】
「そろそろ行かなければならないはずです。暇ができたら、また会いに来てください。今度は2人で名前を決めたいですから」
【微笑みながら、小指を「約束ですよ」と差し出す】
......約束します。これから先、誰にも偽らないとも - 163英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 07:25:26
「グゥゥゥゥゥゥ………………!おのれェッ、デスペラードめがァッ!!!!!」
視界を閃光によって遮られる。咄嗟に目を覆おうとして、しかし操縦する前に間を置いて思考する。
(焦るな………ッ!閃光手榴弾があったとしても、バディフレームは倒せない筈!奴らの目的は一体何だ!?)
それこそ、バディフレームの装甲は歩兵用アサルトライフルなどでは到底貫通出来ないであろう鋼鉄の盾だ。
だからこそセンサーを潰したのであろうが、しかしそれは脱獄囚とその共犯が対戦車ロケット弾のような重武装を持っていない事を意味する。
・・
(脱出…………!だとすれば閃光手榴弾はあくまで視界を潰して隙を作る為の罠!ならばッ!)
・・・・・・・・・・・・・・・
タワーシールドを床に叩き付ける。深く沈み込んだ鋼鉄の盾は生身の人間の手では到底退かせない質量であろう。
・・・・・・・・
同時に、背後へと飛び退く。バディフレームの巨体による跳躍は、瞬く間に追い詰められた脱走囚から距離を離した。
「う、オォォォォ!!!!!!舐めるなァ!!!!」
・・・・・・・・・・・
通路を瓦礫の山に変える。バディフレームの膂力であれば、それが可能だ。
アイゼン准尉の行動と戦術は階段を目指している時と何も変わらない。つまりは、移動経路を破壊して彼らを閉じ込め、それから確実な状態で探し出す。
「目潰しをされたとてッ!方角まで忘却する訳ではないッ!!!闇雲に暴れて通路を破壊する程度の事は、視界がなくとも可能だッ!!!!」
─────依然、バディフレームとは歩兵にとって絶対的な死の象徴である。
- 164ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 08:42:48
「はっ…!」
【盾が床に埋め込まれて、裂けた地面が瓦礫となって散る中で、宙を舞う】
【最初から壁を越えるつもりだったウルヴィは、閃光手榴弾を投げた直後に地面から跳躍。その次に、壁を蹴ってさらなる跳躍を果たして──】
・・・・
【地面に沈み込んだ盾の上を通過する】
【しかし直後、収監棟が揺れる。飛び退いたBFが周囲を破壊し、瓦礫の山へ変えて、通路そのものを潰そうとしている。道そのものが隙間なく塞がれれば、今度は越えるという手も無くなる】
【幸いBFは特定個人を狙っていない、闇雲な暴力での破壊を優先しているのだろう】
【盾を壁として置いた機体は、圧殺という手も一時的に失った】
【今、崩落しきる前に、出るしかない】
【瓦礫の雨が降る中へ駆ける。それは命を捨てる行為だ】
【しかし命を『捨てる』とは、『諦める』わけではない。命を捨てなければ、超えられない一線。それを人は死線と呼ぶ。恐怖も楽観もそこには必要なく、ただ必死に挑む覚悟のみ】
【死線を超えれば、それで良し。超えられなければ、それまで】
【故に死線へ望むとは、命を捨てると呼ぶのだ】
【巨大な瓦礫が降ってくるルートは避ける。拳程度の瓦礫は、抱えた彼に当たらないものであれば無視も選択肢に入れて、小石程度であれば、彼に当たるのも無視する】
【だが進むということは、飛び退いたBFとの距離を詰めるということでもあり、瓦礫の中を突き進むような者は他に居ない】
【即ちそれは、唯一の先頭を意味する】
- 165ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 08:58:54
「ぅ、!?!」
自分の体が垂直カタパルトで飛び上がったような感覚を感じた。
ケイは壁を蹴るウルヴィに抱えられて、そして同時に彼女のおかげで盾による圧死を逃れた。
瞬間、収監棟の壁やあちこちを破壊しようと激突したBFの衝撃によって瓦礫が降り注ぐ。
見上げたケイの目に、視界に大小様々な瓦礫が降り注いでくる。
1秒を切り分けた。
「左に跳んで!!次に右!あとは真っ直ぐ!!」
役に立つかはわからないが、言わないよりはマシだとケイは瓦礫の危険度が低いルートを叫ぶ。
自分を抱えたウルヴィがバディフレームへと近づく?だから、なんだ!
(今さら止めるものか!!)
命を、託したのだから。
- 166英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 09:31:51
─────収監棟の扉の前で待ち構えるのは悪手であると理解している。あの奇妙な、マルガリータ・ペペロンチーノを自称する機体とその僚機によって撃滅される恐れがあるからだ。
バディフレームで歩兵を相手にしているからこそ、アイゼン准尉は優位を保てている。
アイゼン准尉の視界はまだ回復していない。故に、瓦礫が避けられている事にも気付けずに闇雲に破壊活動を続けるしかなく───────声がした。
・・・・・・・
「ケイ・サヤギリィッ!!!!!!」
・・
裏切り者の英雄。憎きクロノスと内通した背涜者。アイゼン准尉とは違う、選ばれし者。
憎悪に駆られるままに、アイゼン准尉は怒りと殺意に満ちた呪詛を吐いた。
唯一人、“彼”だけに向かってその剥き出しの感情を吼える。
・・
「火種は、消さなければならない…………ッ!」
閃光手榴弾の後遺症で、機体を十全に動かして手脚で瓦礫の中を突き進む小さな的を狙って粉砕するのは不可能に近いだろう。
大規模な面攻撃が可能なタワーシールドも判断ミスによって置き去りにしてしまった。射撃兵装も、囮を務める上でタワーシールドに換装して手持ちにはない。
─────────判断は極めて迅速に行われた。
・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・
(英雄と私の命では価値が違う!差し違えたとしても黒字だ!)
「逃しはしない……………ッ!裏切り者めッ!貴様は私と共に地獄行きだッッ!!!!!!」
一気に広域を破壊し尽くす為の術として、アイゼンは迷いなく其の行動を実行に移せた。
・・
即ち、自爆という行動を。
- 167ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 09:46:30
『ケイ・サヤギリィッ!!!!!!』
(しまった……!!)
パイロットの憎悪の声が、己の人の良さを責め立ててきた。咄嗟に口を塞ぐのは人間としての習性だろう。ウルヴィの肩で抱えられたケイは、アイゼン准尉のなる機体を見た。
バディフレームの目と耳は、人間よりも遥かに良い。
ケイ・サヤギリにとって当たり前すぎる事実と知識が、一瞬の興奮の間にウルヴィへ与えた警告が致命的であったと即座に理解させる。
いや、ケイにはそもそも、生身でここまで長くBFと対峙した経験がない以上……このミスはいつか起き得ることだったのかもしれない。
(まずい、これは)
憎悪を叫ぶ目の前の敵が、何をしでかすかわからない。いや。
・・・・・・・・・・・
(何をしてもおかしくない!!)
ケイは、息を呑む他になかった。
- 168ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 10:29:01
(見えるんだ…)
【声を上げた彼は安全性の高いルートを指示するが、ウルヴィは危険でも速いルートを優先し、指示を無視して直進し、迫る瓦礫を跳び越える。しかし同時に感心していた。彼も降りしきる瓦礫のそれぞれを捉え、道を割り出す程度には目が良いらしい】
【機体が暴れるのを止める。それは此方を狙い澄ましているのでも無ければ、通信を取っているわけでもない】
【機体の周囲の温度が、上がっている】
(自爆───?)
【考えられるのは一つ。この場であのBFは、パイロットは、命を『使った』のだ】
【それは『捨てる』とは違う。命を消費しきるという、必死ではなく『絶死』の行為】
【既に背後へ逃げる道は無い。眼前から迫る熱は、その温度を着実に上げている。ゼロコンマ未満の世界でも、確かに感じられる速度で】
【逃げ切れるか?】
【否】
【いつも通りだ】
- 169ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 10:31:00
・・・・・・・
【逃げるしかない】
【ケイの判断ミス…とは、ウルヴィは思っていない。彼の口を塞いでおかなかった、顔を隠さなかった。それはウルヴィのミスだ】
【命を『使った』アイゼン准尉に対して、傭兵はまたも命を『捨てる』】
【BFの横を通り過ぎる。背後で熱が膨張していくのを感じる。乗り手の狂信、憤怒、忠誠を体現するような暴力が爆ぜている】
【アイゼン准尉が狂っているとすれば、ウルヴィもまた狂っているだろう。背後から迫る死に対して、彼女は希望も絶望も感じていない】
【死なばそれまで、と。命に対する頓着を持たぬまま、依頼の遂行のためだけに駆けている】
(対象の、保護を…)
【爆心地より数百メートルの地点、ついに爆炎が追い付く直前で、ウルヴィはケイを自身のコートの中に抱える】
【相応の距離減衰を受けた爆炎は、戦闘用の特殊繊維と強化人間の身体で阻まれるだろう】
【後は自壊したBFの破片が飛んでこないことを祈るのみだが、こればかりは天運に委ねるしかない】
【しかし不幸にも、或いはアイゼン准尉の遺志が宿ったように───】
【焼け焦げた外装が、二人へと迫っていた】
- 170翠の妖精◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 10:56:56
《それでは、ケイとウルヴィは貴方よりずっと後に向かうことになるでしょう》
電子音が、空から響く。二人の人間が命を使ったなら、彼女が使うべきものは明確であった。
《私が守るので》
ズド!という地鳴りを響かせて。
・・・
蒼風改が、爆炎を遮るように地面に落ちる。
しかしケイとウルヴィを全く余波で傷つけることはない着地。
・・・・・
命なき彼女は、機体を使うことにしたのだ。
そのまま、襲いかかってくるアイゼン准尉の遺志を……シグニット合金と超カーボン複合材で作られた腕盾が、地面ごと抉るように角度を作り受け止め、快音を鳴らして破片が止まった。
ケイと、ケイを守ろうとしたウルヴィへの熱も遮断するそれは、爆炎を防ぎきった後も油断なく守りの姿勢のままで。
《やはりケイが行うような弾きは難しいですね。失敗です……そしてウルヴィ。爆発から2秒遅れての到着、申し訳ありませんでした。ケイに代わって謝罪します》
《ケイ……まだ、生きていますね?》
どこかズレた答えを返すスイが操る蒼風改のバイザーアイは、彼女の名前の如く翠色で。
今の彼女は……主と主人を守る騎士を炎から守って敵を睨む。
10mの巨人であった。
- 171ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 11:10:32
- 172英雄志望の一兵士◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 11:12:50
- 173ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 11:33:42
「ウルヴィ、怪我を……!!」
差し出された手を掴みながら、ケイは自爆から己を庇った彼女の状態を思う。
既にここまでで無茶を通してきただろうウルヴィに、ケイ自身が何かを返してやりたかった。
「待ってて!!」
蒼風改の方向に走り、その手がケイを優しく掴んで操縦席殻に放り込む。
彼は飛び込むようにシートに座る。蒼風改の姿勢を丁寧に丁寧に変える間に、緊急用の医療キットを取り出した。
蓋を開けて、彼女に見えるよう蒼風改の手のひらに置き、ケイ自身も手のひらへ戻った。
「これを使ってくれ……護衛対象からのお願いだ」
そのまま降りながら医療キットごと鎮痛剤、火傷に効く湿布などをウルヴィへ手渡して言う。
使わなければ護衛対象として離れないぞ?という目の色は、青だった。
《BF戦が予想されます。ウルヴィ、使用を推奨》
電子の妖精も、警告した。
- 174ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 11:55:10
「……分かった。天引きは、クライアントに」
【このままでも護衛に問題はない…と言いたいのだが、ケイとスイの圧に負けて、ウルヴィは医療キットを受け取る。物理的な焼ける痛みの酷い箇所へ湿布を貼りながら、鎮痛剤もその場で数錠を飲み込んだ】
【人の純粋な厚意を天引きとしておかないと受け取れないのが、人ではなく傭兵を模しただけの化けの皮の限界点だ】
「これで、大丈夫。私も、BFに戻る」
【医療キットを放るように彼へと返す】
【BFを生身で護衛…なんて自惚れるほどウルヴィは酔っていない。先程も運が良かっただけで、勝率の低い行動だったのは理解している】
【奪還した対象に自身を守らせるという思考は、傭兵には無いようだ】
- 175留置所・所長◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 12:00:09
『あ、アイゼン准尉が、自爆……』
「あ、な……」
その報告に、所長は崩れ落ちそうになっていた。
そこまでやるか、という思いと。そこまでやるからこそだろう、という思いだった。
貴重な戦力が1機、失われたのだ。
その上で。
「ば、爆炎の先にコア粒子反応……バディフレームです!!」
「今すぐ照合しろ!!」
なおも事態は止まらない。
タンク型の常識を超えた機動を行うBF。数機の所属不明BF。
そして一瞬にして10機のBFを無力化した赤い機体。
さらなる乱入者など、所長としても願い下げであった。だが。 - 176留置所・所長◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 12:00:36
「機体シルエット照合……パターン検出!! ぁあっ!?!」
オペレータの声が、悲鳴に変わった。
「型式番号……し、『Cv-K7改/A』!! 『蒼風改』です!!!」
「何だとぉ!?!」
映像が拡大される。
後方へ伸びるセンサーマスト、睨みめ構造の青いバイザーアイ。
細身でありながら甲冑をも思わせる鋭角のシルエットは胴体部分の尖りも相まって、機械の騎士としてのイメージを際立たせる。
背部に背負うコア粒子推進機関と、空力制御を担う横長い長方形状のウイングバインダーは『月風』であり。
そして何よりも……白を基調とした、青いラインの差し色。
『G-3コロニーの英雄』とあちこちで呼ばれる少年の機体そのものが、映像越しに留置所の所長達を睨みつけていた。
「ば、馬鹿な……や、やつの機体は、有人機だったはず……UNBF(アンビフ)が積み込まれているなどという情報はない!!」
ありえないことが起きた時。人はなんとか己のつじつまを合わせるために情報を無理やり接続させる。
己の正気を守るための行為だ。
「どうやって積み込んだ……どうやって、ここまでやってこれたのだ!? 自我が目覚めたとでも!!」
ありえない。ありえないことが、いま目の前に起きている。確かなことは唯一つ。
・・・・
(表返ったか!!逆巻の雌狸が!!)
あまりにも遅すぎる背後関係の把握。妨害されている以上、どこにも伝えることはできない。
「予備のBFを全機出せ!! 奴らの目的はケイ・サヤギリの奪還だ!! 蒼風改ごと、全てご破産にさせてしまえぇ!!」
所長がとうとう、保身をかなぐり捨てた指示を飛ばした。 - 177ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 12:23:56
「よし」
《あくまで応急処置ですので、戦後の医療費は危険手当として支払われます。どうかご心配なく》
自分の痛みを和らげる措置を取ってくれたウルヴィに満足そうなケイと、どこかズレた解答をしたスイ。
自爆から護衛対象を庇うという100点中200点の行為に何も払わず、それどころか自費にするなどという薄情を逆巻重工がするはずはないという信頼であった。
医療キットを放るように返されたケイの顔は、とてもとても満足そうな笑みで。
「また一緒に戦えて嬉しいよ! 戦友!!」
戦友と共に同じ方向を向けられることを喜びながら蒼風改のコックピットの中へ入っていく。
上部ハッチが閉まり、蒼風改のバイザーアイが青く光った。
「スイ、パイロットスーツを着る暇はない。まずは慣らしで抑えて飛ぶ」
《了解しました》
現在の状況で悠長にパイロットスーツを着れないと判断したケイは、自分の技量全てと蒼風改の性能を活かしきることを切り捨てた。
そもそもがこれまでの尋問で痛めつけられたうえ、数日間もBFに乗れていないのだ。
鈍った勘を取り戻さなくてはならない。
《ケイ、託されたメッセージを伝えます》
「何だ?」
スイから伝言がケイに伝えられる。
《43分後にランデブーポイントへ、だそうです》
「――――はっ、はは」
思わずぽかんと口を開け、そして笑った。スイにそんな洒落た伝言を残す人など、ケイは一人しか知らなかったから。
愛する人にそう言われれば、コア粒子推進機関が一気に点火された。心の熱が燃え盛ったのだ。
「……それじゃあ。腕が鈍ったなんて言われないように暴れないとなァ!!!」
モニターに映る数機のBF……緊急出撃したらしい彼らに向けて、ケイは聞こえないはずの声と闘気を叩きつけた。
- 178ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/10(土) 12:51:17
いいえ!今来たところですわ!
それにしても……ほぅ……ため息が出るほどお美しいですわ……っ
【まさにため息を出すほど旧愛卿の見目麗しさに酔いしれている】
まさにお嬢様……わたくしの目指してるお嬢様ですの〜!
【目をキラキラ輝かせながら腕をブンブン振り、まるで子供のように夢中になっている】
オシャレは自由ですもの、衣服から髪に至るまで全て自分の好きな通りにして構いませんのよ!
そう、髪……今から行くヘアサロンはその一つを完璧に仕上げてくださいますの!
それがここ!『familiar』ですわ!
【待ち合わせした場所からちょっとの場所にある、大通りにででんと構えられたヘアサロンである。白い壁と木のネームが自然と清らかさを演出している】
こんにちはですわ〜!
【カランカランと扉を開けば、爽やかな匂い……身体が弛緩してしまうような心地の良い匂いの中には数名の店員がテキパキと各々の仕事をしていた】
「あらラバーちゃん。今日は……お連れさん?もしかして、本物のお嬢様だったり〜?」
【若い女性の店員がラバーの姿を見るなり近づいてくる。ここの店の人たちは全員知り合いなのか、他の店員もラバーがお得意様なのか一瞥するとにこりと笑みを浮かべる】
「本日もカラーとカットですか?」
ふぅむ……旧愛卿様と一緒に決めますわ!
「旧愛卿……?ああ、傭兵の方で」
カラーのテンプレートをくださいましー!
- 179龍影◆9BZ6kXGcio25/05/10(土) 13:03:25
「蒼風が動いた。」
登録されているパイロットバイタルが全ての廉月系のサブモニターへ共有された。
龍影が心から愛している男の名前、「ケイ・サヤギリ」と。
「移動開始。」
シールド横に取り付けられた推進器が蒼い炎を吐き出して、降下前の初速を稼ぐ。23分の焦らすような長い軌道巡航を始めた。
バラバラと推進器は笑う。
『突入時に効果的なマッハ15になるまでは23分かかる。良いか?23分だ。』
管制に移動したヤマトは念を押す。
「そのあとの降下軌道の入射角は浅いから突入地点から目標まで20分近くかかるのよね?」
『それがどうかしたのか?』
「いや、オートパイロットの時間がちょっと長いからね…」
『仮眠を取りたい…なんて言うなよ?』
先に言われてしまった
「そ、そんなことないよ、整備長…」
『どうだか。まぁ気を休めておけ。…頑張れよ。あぁ!それと坊主と挙げるんだろ?結婚式。』
「と、突然何言ってるの?!」
『あれは俺たちみたいに機械油で汚れた人間が行くもんじゃないだろ?』
「…私の親族として絶対に出てもらうから。断ったら怒るよ?」
『…わかった、出るよ。じゃあちzy』
ゆりかごの影に入った為通信は途切れた。降下地点まであと3分。
- 180◆KPwoT407kA25/05/10(土) 13:04:54
「隊長機の動きからして完全にバレたよねこれ…」
「“関与をできる限り誤魔化しつつ”となるとここまでの時間稼ぎが限界だよ。それでも私達が無視できなかったから、こんな事になった」
【3機のBFが収監棟の動乱を見遣る。妄執に取り憑かれた指揮官機を失った防衛部隊の行く末は凄惨たるものであり───────外壁を背にした彼らは逃げ場を失い、“もう一機向かわせてしまったのだから外壁が多少損壊したくらい誤差にもならない”3機によって1機残らずペペロンチーノとして堪能されてしまった】
「蒼月がきた。残りの増援は向こうに向かうっぽいけど…どうする?」
『私、マルガリータ・ペペロンチーノ!世界中のペペロンチーノを堪能するのが生きがいなの!』
【近接型NIKKEがハンドサインで“向かうぞ”と指示を下す】
「だね。潜入班にも無理させちゃってるし、私とマルガリータで援護に回ろう。ピラフは他傭兵と合流して」
「了解!」
【2機のNIKKEが、状況的には心許ない救出対象の乗ったBFの下に向かって駆ける。まだ獲物が足りないと言わんばかりに】 - 181龍影◆9BZ6kXGcio25/05/10(土) 13:20:51
- 182旧愛卿◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 13:42:08
「ふふっ、そう見えますかしら?」
お嬢様、というよりもお姫様であるのが本当の境遇だが。口に出さずに微笑みを浮かべる。
所詮は亡国の姫だ。そう胸を張って誇れる身分でもないし、そもそも誇っても利用される恐れが多分に存在する身分である。
だから、そんな風に誤魔化して。しかし“お洒落”という言葉に『旧愛卿』はラバーと同じくらいに瞳を輝かせた。
「なるほど、髪の色を変えるのですね?」
ふむ、と考え込む。
絵画については軽い手解きを受けた事があるから、互いに引き立てる色についても覚えがある。
しかし服装とは変えるものであり、今の服装に合うからと言って他の服装にもピッタリ合う訳ではあるまい──────そうなると、服を基にして髪色を決めるよりも、髪色を基にして服を決める方が楽しそうだ。
「カラーのテンプレート……………どのような色があるのでしょうか?」
- 183煤けた獣◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 14:15:47
【飛び立った蒼の英雄を見届けてから、煤けた獣は地に崩れる】
「ガハッ……ごプッ…ヒューッ………おぇ゛……」
【赤い液体が、どろどろと、口から垂れ流しになる。空気を手繰れなくて、呼吸がままならない】
【急性粒子症、だけではない。爆熱とそれによって生じた空気圧が、小さな身体を破壊したのだ】
【如何に強化細胞で、遺伝子改造で、薬物投与で変質させられた強化人間とて、頑丈ではあれど限度がある。また一人であれば爆炎から逃げ続ける選択肢もあったが、奪還対象の安全…特にコア粒子の被爆を考えると、爆発の際には遮蔽を用意する必要があった】
【ぼた、ぼた。びちゃり。地面を赤く染めながら、重い肉体を引き摺るように立ち上がる】
「い、生きてる!?」「嘘だろ…ってことは、あの機体はやはり…!」「こいつは、逆巻に繋がる証拠が炙り出せるかもしれん…」
【そこに近づくのは、複数の銃口。歩兵装備を揃え、現場を視認するためにやってきた警備員たちだ】
【棺桶に片足を突っ込んだ者であれば、容易く制圧できるだろう。誰もがそう思っていた】
「貴様、死にたくなけぺ…?」
【前に出た大男の首が、跳ね跳ぶ瞬間までは】
「こいつ!?」「まだ動けるのか…!」「とっ!とにかく撃て!!」
【パニックが伝染し、それぞれが闇雲に銃弾を撃ち始める。しかし当たらない。まるで実体のない煙のように、獣は射線から外れ、身を躱し、切り返して、捉えられない】
【跳躍しながらコートの袖に手を潜めた獣から、回転する刃が放たれる。四方に刃が伸びた特殊な投擲武器は、三人の首へと突き刺さり、悲鳴すら許さずに緩慢な死をもたらす】
「来るな来るな来るな来るな!!」
【弾切れのライフルを捨て、即座にハンドガンを抜いた警備員。それは一握りの冷静さか、或いは本能の選択か。何方にせよ、獣に弾丸は届かない。三発の弾丸を黒い直刀で弾いて、四発目が放たれる前に胸を突く】
【そこを狙ってか背後から銃弾を撃つ者。しかしそれを知っていたように、獣は振り向きもせずに引き抜いたブレードを後ろに投げて、半円を描くようなステップを踏む】
【腹に突き刺さったブレードを振り上げると、警備員の上体が二つに割れた】
・・・・
「…バケモノめ」
【残った数人のうち、誰が呟いただろうか】
【戦場の片隅で、灰が舞っていた】
- 184ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/10(土) 14:26:40
「リストはこんな感じですねー」
【店員から渡されたタブレット……その中にはさまざまな色が色順に名前とともに並んでいた】
「このリストから選ぶ形になりますねー。ご自由に、ながーい時間考えてくださーい」
ですって旧愛卿様!あちらの席に座って一緒に考えましょっ!
私は紫……いえ、淡いピンクにしようかと考えてますの旧愛卿様は如何します?
そのままの髪色も惚れ惚れしてしまいますが……まあ変えないという選択肢もございますわ!
わたくしもこの金髪は気に入ってますの!
「あと髪型のバリエーションはこちらのページからご覧くださーい」
【別のページにはこの世に存在するであろうあらゆる髪型が並んでいた(アフロなんかもある)】
思い切って切ってしまうてもありますけれど……せっかく伸ばしたんですし、まだ伸ばしていたいところもございますね……悩みますわ……決めていたとはいえいざこの場になると悩みますわ〜!
- 185旧愛卿◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 14:38:53
「えぇ、是非とも!」
微笑みながら、軽くスカートを調整して席に座る。
ぴんっと伸びた背筋は戦闘者とは違う形で磨き上げられた体幹を思わせる美しい姿勢は、特段の意識をせずとも行える癖のようなものであった。
ふむ、と色と髪型のリストの前に考え込む。殊更に保護者が大事にしている髪を切ってしまうのは流石に憚られたから、旧愛卿はあくまでセットするだけ形になるだろう。
「では、ラバー様と逆の蒼にしてみましょうかしらね?並んだ時の見栄えも良さそうですし……………髪型は、ツインテールが少し気になりますね。一度軽く結んで試してみたいですわ」
微笑みながら、じっくりと考える。
これもまた楽しみの一つであろうと、実に上機嫌に鼻歌まで歌いながら。
「しかし自在に髪の毛を長く伸ばせる薬品などありましたら需要がありそうですね?」
悩んでいる友人に、旧愛卿は少し苦笑した。
- 186ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/10(土) 14:51:43
- 187ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/10(土) 15:14:44
【前線に呼びかけた直後、自爆により崩落した周囲のビルの残骸の中、瓦礫とも違う何かが目に留まる】
「武器コンテナ……?なるほど、だから碌な武装をしてなかったのか」
【先程の機体が接敵時点ではナイフ程度しか持っていなかった事に合点がいく、あらかじめ武器を狙撃ポイントに隠し、それぞれの地点で使い捨てる戦術だろう】
「なら弾は入ってる筈……」
【予想通り、コンテナの中には支援に使う為のビームライフルと誘導ロケットが装填済みあで収められていた】
【サブアームにバズーカとカービンを懸架し手持ち武装を入れ替え刑務所が見える位置へ移動、射撃体勢に移る】
「まだ刑務所そのものを壊すわけにはいかなそうだな、狙いは絞らないと……」
【誘導ロケットが格納庫とその周囲に展開したBFへ、ビームライフルでの狙撃が未だ活動を続ける砲台へと襲いかかる】 - 188ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 15:58:06
《敵正面、空戦型ARATAMRが三機。更に六機の地上機体が接近中》
「速度を上げるぞ……!こちらケイ・サヤギリ!皆さんの好意に感謝を!地上のBFは任せます!!」
身体をBFへ最適化し直すために、ケイは敢えて敵を空戦機のみに絞った。
蒼風改が加速し、コア粒子推進機関の高音が鳴り響き、敵機へ向けて加速する。
「ぐ……っ。パイロットスーツなしの操縦は久しぶりだな!!」
《はい、初めて蒼風に搭乗した頃以来です》
他愛もない昔話。誰も知らないあの頃を思いながら、加速に慣れていく。既に射程内だ。
「来い!」
わざと射線に入り、攻撃を誘発する。右へ跳ねるように蒼風が飛び、数瞬前の位置を標準的なライフル弾が数発通り過ぎる。
「右手装備中はビームライフル……良いね!」
慣らしにはもってこいだと、蒼風改を転回させて、予測射撃で一発放つ。
蒼風改の周りを飛ぼうとした、空戦機動の一番甘いARATEAME機の右腕へビームが突き刺さり、地上へ落ちていく。
『うわっ!?!お、落ちる!!』
『三番機がやられた!』
『嘘だろ、身体も精神も痛めつけられているはずだ!』
「あと二機……次で機動と射撃感覚を合わせる!」
《了解》
残り二機へ警戒を割きつつ、一秒ごとにBF乗りとしてのケイが取り戻されていく。
蒼風改の動きに、縦機動が追加された。
- 189ルフス◆hFOUpFQqt.25/05/10(土) 16:01:48
「こんなもんかな?前菜にもならんなぁ〜」
【殴打により内部機構が完全にイカレタMDCを放り捨てる。これなら例え拾われた所でゴミ収集にしかならないだろう】
「ん〜いい収穫日和だ。命は取んないけどねぇ〜」
【散弾の初撃で動かぬ9機。蹴ったら飛んだ1機。それら全てをワイヤーガンにより拘束し、落ちた武器を収穫する】
「シケてんなぁ…まぁいっか、捨てるし」
【ワイヤーガンは二つ。拾ったアサルトライフルと電磁ナックルを装備し、次の行動を模索する】
【爆炎が上がった。BFのそれではあるが、上がり方が違う】
「……拾うにも拾えないじゃないか」
【名も姿すら知らぬ者の炎。それを見上げ、紅い装甲がより際立って照り返した】
- 190ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/05/10(土) 16:53:56
- 191東雲 台◆5Q4kt6Q.kc25/05/10(土) 17:15:20
『耐熱シールドってすごいんやな』
赤熱し、炭化して剥がれ落ちていくものの
中身は無事な機体たちを横目に見ながら
台はある事をふと思い出した
『...ぁ、そういやここの黒の塗装って
熱に耐えるタイプの奴やったっけ...?』
不安は的中した。勿論、機体そのものには
きっちり耐熱処理が施されているのだが
元々の黒い表面塗装は摩擦熱に耐えられない
『あーあー...恥ずかしいなぁ......コレ』
機体表面の黒がパリパリとひび割れ、炭化し
スクラッチを削るように本来の姿を現し始める
"葉桜"の本来の色に...そしてその一つの部位へ
隠れていた桜空の社紋が浮かび上がった
『......まぁ、背負うモンが増えたって事で
負けられへん理由が出来たな!ヨシ!!!』
操縦席で顔を赤くしながら、台は一人
こっそりと更に気合いを入れたのだった
- 192旧愛卿◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 17:32:10
「えぇ、アカデメイアの発表でもしそのような発明がありましたら、全力で開発者の方とコンタクトを取りたいくらい」
クスクスと上品に小さく笑いながら、旧愛卿は件の賞について思い返した。
程々に“使えそうな”技術を開発していた人間とは既に協力企業を通じてコンタクトを取っている。彼女自身は舞台に上がらないが、しかしその代わりの者が舞台に立つだろう。
「────えぇ、では私は蒼に染めた上でのツインテールをお願いします。人々がインベイドによって奪われた遥かな星の海、誰もが恐怖と一抹の期待と共に見上げる未知のフロンティア、それを思い起こさせるような、とびきりグランセルンな色で!」
宇宙の色は蒼じゃなくて黒じゃないか?
- 193揚陸部隊◆OXAm1h6odk25/05/10(土) 18:05:50
─────“地中海”沿岸。人自連の都市にて。
百機近くのバディフレームが水上スキーにも似た形の高速無装甲艇、『ポロッゾ海賊連合』が生産する特殊小型船舶『フロンティア』に騎乗していた。
壮観な景色である。居並ぶバディフレーム部隊全員がビームライフルを高速艇に備え付けており、戦闘の準備をしている。
・・・・・・・
侵攻部隊である。““陸上戦艦””に意識が向いている間に高速艇を使ってコロニーに揚陸し、制圧すると共に侵攻計画における拠点として、クロノス方面軍に二正面作戦を強制するのが彼らの役目だ。
とは言え、正規艦隊と衝突すれば先ず勝ち目はないであろう。装甲と火力が違い過ぎる。ビームの雨を降らせても直ぐに轟沈させるのは難しく、であるのにも関わらず艦載砲と誘導ミサイルは容易にバディフレームを屠れるだろう。
・・・
だからこその高速艇だ。流石の戦艦であっても都市内部までには侵入不可能だ。走力を生かして迅速に揚陸し展開、“勝てない戦はしない”のが彼らの作戦である。
「───────いや、厳密には違うか。戦術単位ではという枕詞を用意するべきだな」
百機近いバディフレームを率いる連隊長は自嘲気味に笑った。
本当に“勝てない戦はしない”のであれば、クロノスに戦争など挑まない──────そう判断を下せる理性こそが彼をこの地位にまで押し上げ、また一方でこのような部隊に配属させた。
しかし賽は既に投げられてしまった。
““陸上戦艦””の狂った反クロノス至上主義の信奉者とは相容れないながらも優秀な指揮官は、そうして号令を下した。
「───────総員、進軍せよ」
クロノス海軍の正規哨戒部隊と接触しない時間帯と航路を、バディフレーム部隊が突き進み始めた。 - 194ラバー◆m3XwMsEekQ25/05/10(土) 18:10:55
「ではそのようにいたしますね」
ソレカラドシタノ
「ありがとうございましたー!」
【会計を別々に済ませてからんからんと再び扉を開けてから外に出て、ふわりとスカートと真っ直ぐに伸ばしたストレートロングの桃髪を風に靡かせながらその場でコマのように一回転し……カツンと音を立ててヒールを地面に突き立てる】
おーっほっほっほっ!
【手を添えての高笑い……およそルーティンとなったそれを済ませる】
はぁ……美しいですわぁ……惚れ惚れしてしまいます……新しいわたくしとの出会いに乾杯級ですわ……!
【手鏡を取り出して今一度自分の姿を確認する】
旧愛卿様も!ほら!可愛くなってますのよ!
【隣を歩いている彼女へと手鏡を渡してみせた】
- 195逆巻重工・実働部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 18:20:24
同じように耐熱シールドと共に耐熱用の特殊塗料がバリバリと剥がれ、二機のBFへ追従していく機体が六機。
逆巻重工が最も信頼する実働部隊……そのうちの最精鋭達だ。
『全機、聞こえるな……ケイ・サヤギリの奪還任務は成功した。ミドリマ補佐官たちも既に準備を終えた』
セイドウが味方全機に語りかけていた。ケイを奪還した以上、もはや逆巻重工は老いた獣たちへ遠慮する必要など存在しない。
人自連内部規程に則った、内部企業間抗争を宣言する準備が既に始まっているのだ。
『その後の対陸上戦艦において、我々は依頼を受けてやってくる傭兵たちとは別に真上から強襲を仕掛けることになる!ことこの段階にいたり、我々に求められるのは勝利と、そして何より生還である!!』
賢工グループの暴挙を、そして戦争を止めるための戦争。あまりにも矛盾しているからこそ……。
『サヤギリの心を思うならば、全機で帰還するぞ……それが最低条件だ!!』
『『『『『了解!!』』』』』
彼ら、彼女らに死亡の二文字はあってはならない。
『全機、自由落下開始!!……頭上より来る死がどういうものか、見せつけてやるぞ!!』
彼らが戦場へ参入するまで、あと――――。
- 196ケイ◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 18:39:36
三機の機影が、まるで数珠つなぎのように空を駆けていた。
先頭には隊長機たるARATAME。その間に蒼風改。その後方に二番機のARATAMEが着いていた。
そのままライフルを構え、背後を晒す蒼風改を撃ち抜こうとする。
『獲っ……?!!』
並のパイロットならば勝利を確信する光景を前に、しかし襲いかかったのは困惑だった。
『どうした二番機!早く仕留めろ!!』
『だ、ダメです!!撃てない!!!IFFとFCSでロックが――――!!』
射撃が不可能となっていたのだ。
隊長機と蒼風改がぴったり同軸に重なり、しかも蒼風改は時折左右へ揺れて隊長機をロックオンカーソルへと収めさせる。
撃てば隊長機は落ちるぞと、機械とパイロット両方を惑わせていたのだ。数秒間、奇妙な数珠つなぎが続く。
そしてその数秒は、致命傷となる。
「二つ!!」
『えっ!?! うわぁあッ!?!』
蒼風改が直角急上昇で二番機の視界から外れ、一気に減速。ケイの髪が重力で上方向に落ちる。上下反転したままの降下加速をかけて、蒼風改が二番機の背後を取り返していた。
その背中を、電磁弾体加速砲から射出された砲弾が貫通する。コックピットを敢えて外しながらも、爆発で上下が別れて落ちていく。
『ば、化け物……!!』
フラットシザースにて背後を取ったはずの2番機が逆に背後を取り返された瞬間を隊長機は見ることしかできなかった。
「高速機動状態の予測射撃、それと高速マニューバ、良し」
地へ落ちていく二番機が後方へ流れていくのをみながら、隊長機の背後へピッタリと食いついて。ケイは呟く。
「次は格闘機動戦だ……!!」
その錆は確実に、大きく落とされていた。
- 197留置所・警備部隊◆ECPjTIh3Iw25/05/10(土) 18:48:45
「く、そぉ!!好き放題やりやがってェ!!!」
『8,9番機が格納庫内で大破!!行動不能です!!』
「出せるやつだけ出せ!! あのふざけたペペロンチーノ部隊とタンク型を仕留めるぞ!!』
格納庫へ見事に命中した誘導ミサイルは地上戦型BF達の7機以上の展開を不可能にした。
もはや彼らにこれ以上の戦力はない。男は接触回線で叫んだ。
(蒼風改に、タンク型!おまけにふざけた通信しか出さねぇやつとその僚機2!わけのわかんねぇ火力を持った赤い機体……!!)
全機の撃破は無理だ、と痛感した。もはや時間稼ぎしかできることはないだろう。
(だがやってやる!クロノスの連中に一泡吹かせられる、このタイミングで……邪魔立てなど!!)
「7番機は離脱して陸上戦艦に通信しろ! 妨害もそう広くはないはずだ!」
「――――全機続けェ!! 奴らを少しでも消耗させるぞォ!」
その原動力は、間違いなくクロノスへの憎悪だった。
- 198ミハエル◆j28rRKKOSY25/05/10(土) 19:34:52
【残存部隊が突撃を敢行するのと逆に離脱を図る機体が見える、何かしらの策か、或いは脱走か】
「前線部隊へ、1機離脱するのがいる!こちらからも撃つが狙う余裕のある奴は狙ってくれ!」
【前線部隊へ通信を行いビームライフルを構える、弾切れのロケットランチャーを投げ捨て両手での射撃で狙撃を試みる】
- 199旧西方列強連合海軍◆fDey8JUvvk25/05/10(土) 20:02:01
【水面下ならぬ水面上にて。それはあまりにも堂々と行われていた】
【だが、別になんということもない】
【空軍の提案を飲んだ海軍が、1個艦隊を人自連支配地域から3番目に近い、クロノス管轄のコロニーに派遣しているだけのことである】
【もちろん艦隊の最大速力は時速70km弱。特殊小型船舶『フロンティア』には時速100km以上の差を付けられており、それだけでは後手に回ることは必定】
【コロニーから支援要請を受けたところで駆け付けるまで1時間はかかるだろう】
【それを間に合わせるあまりにも力づくで、だからこそあまりにも痛烈な一手】
【『秘密兵器』に頼るということであった】
「流石に揺れませんな」
【旧西方列強連合海軍提督・グリーン少将は艦橋にて言葉をこぼす】
「これで200knotsだというのですから、いやはや」
【『機動打撃航空母艦:ウォースパイト』。艦にしては異様な、白鳥を思わせる姿をした全長299mの最新鋭実験艦が。時速400km近い速度でクロノスの領海、海面を滑るように飛行していた】
【この巨体にステルス性はない】
【BFに積める程度のセンサーだったとしても、準大型の艦船が、時速400kmで巡回していることをそう近くない距離から把握できるだろう】
「人類絶滅を回避するための『牽制』です。確実にね」
【今は1度しか使えない手だが、それをするだけの価値をつけ。それをさせるだけの権力がこの少将にはあった】
- 200刃狼と複面◆xZJxX8ZGsA25/05/10(土) 20:07:52
「お待ちしていましたよ…刃狼」
キャスパリュグ
「それとも、化物 とお呼びしましょうか…」
【エンブレムにも似た血塗れ姿のウルヴィに、ジョンは手を貸そうとする】
「ゔぁ…」
「お手伝いをさせてくれないのですか…」
【露骨に残念そうに肩を落としながらも、手を払う彼女を尊重するように引っ込める】
「化粧とは、女性を美しく引き立てる…素敵だ……」
「ですが…化粧とは相手を喜ばせる為のもの…」
「貴方の化粧は…捨て猫を拾う心優しいお相手に受け入れて貰えるでしょうか…心配だ……」
【精彩を欠いた動きでコックピットへ這い上がる刃狼を見ながら、複面は呟く。それは狂人の戯れ言か、それとも背景を見透かした感想か】
「けれどそれより…ずっと、楽しみです……」
【やはり、狂人の戯れ言だろう。刃狼のカメラアイが灯るのと同時に、複面もBFに乗り込んだ】