【クロス・オリウマSS】餓狼と黒狼

  • 1◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:15:17

    「ここは…どこだ……?」

    気が付くとナリタブライアンは謎の世界にいた。
    一面が大自然に囲まれ、近くを見渡すと所々遺跡らしき残骸が鎮座している不思議な場所。どうやらここは日本ではないようだ。
    どうしてこの場所にいるのか思案するブライアン。昼寝をしようと目を瞑った事は覚えている、それに今の格好は制服でなくレースで身に纏う勝負服の姿。
    ならば夢だろうと判断はしたがそれにしても妙な夢である。夢を見ているというよりは夢…もしくは別の世界に迷い込んだような雰囲気である。

    「とにかく進むしかないな……」

    だが夢だとしても、ここで待っていて助けが来るわけがない。そう理解したブライアンは道らしき道を一人進んでいく。

    そんなブライアンの背後で何か物音が……生物が唸る様な声がした。
    しかし未知の世界に内心心躍っていた彼女はそんな事知る由もなかったのである……

  • 2◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:15:41

    暫くブライアンが道を進んでいると、開けた空間が広がっていた。こんな場所で走り、レースするのも悪くはない……そう思っていると風を切る音と何かが羽ばたく音が遠方から聞こえてきたのである。
    鳥にしてはあまりにも大きいその音に一先ず近くにある物陰に隠れるブライアン。

    「大きな…鳥————ッ!?」

    次第に近づいてくるその音の主の姿…大きな鳥だと思っていたブライアンは驚愕の表情を隠せなかった。
    紫色の体と大きな耳、銀色の鬣、そしていかつい嘴と刺々しい甲殻、さらに尻尾がありその先には棘も生えているその生物は鳥と呼ぶにはあまりにも大きく、禍々しかったのである。
    そして怪物の身体に所々刻まれている古傷がその怪物の凶暴さを嫌でも物語っていた。

    咄嗟に近くの物陰に隠れ様子を伺うブライアン。よく見ればあの生物…紫の怪物がいる場所のさらに奥に岩や遺跡で囲まれた細い入り口がある。なんとかそこまで逃げ込めば……と思ったその時、偶然紫の怪物と目が合ってしまった。

  • 3◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:16:01

    「クワァァァッ!!!」

    獲物を見つけたと言わんばかりに飛び跳ねる怪物。直後、その翼を用いて一気に滑空しブライアンの方へと突進する。物凄い風圧が身体に襲いかかったものの何とかそれを躱し、全速力で走り出すブライアン。

    (走れ……!急げ……!速く……!)

    しかしそんな獲物を逃す怪物ではなく、彼女に向かってこちらも全速力で走り出す。走る時に漏らす甲高い唸り声が背後から迫る恐怖をより倍増させる。

    「はぁっ…はあっ……はぁ……っ……!」

    恐怖を押し殺し、休む事なく走り続けるブライアン。彼女の学園には様々な怪物とも言える様な強者達が集い、レースでは彼女を追いかけ迫っていく。だがまさか本物の怪物に追われる事になるとは彼女も微塵に思ってもいなかった。
    しかし走りながら違和感を感じるブライアン。

    (私を仕留めるのなら何故飛んでこない?)

    そう考えた直後、後方の怪物が一瞬動きを止めたかと思えば物凄いスパートでブライアンの方に迫り出した。みるみるその距離は迫ってくる。

    (やられる……!)

  • 4◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:16:20

    しかしその怪物は後ろからブライアンを仕留める事なく、彼女のほぼ横に並んでいた。時折彼女を睨みつけるその眼光は闘志すら感じさせる。

    (私を抜き去らないと気が済まない訳か……)
    (ならば……そのまま走り抜いてやる!)

    怪物がすぐそばにいる絶体絶命の状況だというのにブライアンの内に秘めた闘志が一気に燃え盛り、レースの時の様にその勢いを加速させまたもや怪物と距離を離すと怪物も負けじと追いかける。
    向こう側の入り口まであと少し。

    「はっ…あぁぁぁぁぁっ!!!」
    「クオォォォォォッ!!!」

    ぶつかり合う二つの声、それを制したのはナリタブライアンであった。間一髪細い道へ入り込みそのまま距離を取る。反対に紫の怪物は細い入り口を構成している壁や岩場にぶつかり崩れてきた瓦礫に埋まってしまったのである。

  • 5◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:16:37

    「はぁっ…はぁっ……なんとかな———」

    しかし一難去ってまた一難。息を整えているブライアンの前に今度は先程の怪物より更に巨大な緑色の肉食恐竜の様な怪物がゆっくりと歩いてきたのだ。
    悍ましいほど強靭で顎から飛び出てる様にも見える牙と歩きながらも口から地面に垂れ落ちる涎……これから何が彼女の身に起こるのかは明白であった。
    とうとう恐怖を押し殺しきれなくなったブライアンの全身が震え出し、目には大粒の涙がこぼれ落ちていた。

    (だれか…たすけ……)

    その時である———

    「クオォォォォォッ!!!」
    「!?」

    後方の瓦礫から勢いよく紫の怪物が緑の怪物に飛びかかったのだ。
    それは自分の獲物に手を出すなと言う事なのか、それとも彼女より挑みがいがある相手が現れたのか、翼や嘴を使い執拗に攻撃を加え続ける紫の怪物。

    (今だ………!!!!)

    正気に戻り冷静さを少し取り戻したブライアンはその二頭を避けるように全速力で走り出す。走りながらふとブライアンが後ろを振り返ると組み合っている紫の怪物と目が合った……気がした。

  • 6◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:17:01

    何とかあの場所から逃げてきたブライアン。大きく息を吐き、深呼吸をして生きているという事を確かめる。

    「緑の奴は兎も角、今思えば紫の怪物の奴は中々骨のある相手だった……私はああいう奴を……」

    その瞬間聞こえてくる風を切る音と先程聞いた声。あの紫の怪物が再びブライアンの目の前に降り立ったのだ。今度は隠れる場所などなく思わず立ち竦むブライアンに怪物は向き直り……

    「カァァッ!!!」

    再び紫の怪物があの時の様に飛んでブライアンの背後へと移動し、振り向き彼女の方へと歩いてくる。
    見れば先程の戦いで生じたであろう新たな傷。ズタボロの様な状態でもふらつく事なく、その目には「次ハ負ケナイ」と言わんばかりの闘志に満ち溢れていた。
    ブライアンの横へと立ち、彼女の方を振り向いて唸り声を上げるとそのまま前方を向いて動かない。まるで彼女が走り出すその時を待っているかの様に……

    「そこまで望むなら……お前が負けを認めるまで走ってやる……見せてみろ…お前の走りを!」

    前を向きながらそう語るブライアン。呼吸を整え、再び走り出すと後を追う様に怪物も走り出す。
    そんな彼女の表情は先程までの恐怖に満ちたそれではなく強敵と巡り会えた喜びの笑みであった……

    しかし急に目の前が眩い光に包まれて———

  • 7◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:17:18

    「………ん…………?」

    眩い光が収まり、目を開いたブライアンの眼前には見慣れた空が広がり、彼女が耳をすませば聞き慣れた喧騒が聞こえてくる。
    どうやら夢から覚めて元の世界…トレセン学園の庭に戻ってきた様だ。

    「やはり夢か……クソっ、良いところで……」

    怪物とはいえ好敵手とも言える様な存在に出会えた夢。そんな夢から覚めた事に不満に満ちたため息をつくブライアン。辺りを見回すと学園へ戻る生徒達の姿、どうやら昼休みの終わりが近いらしい。

    「まぁ、夢は夢か……仕方がない」

    残念そうに呟きながら今日の授業や生徒会の仕事、そしてトレーニングやレースの事を考えながら教室に戻っていくブライアン。

    「見つけたぜ……ナリタ…ブライアン……!」

    そんなブライアンをよそにとあるウマ娘が一人、獲物を見つけた獣の様な目をギラつかせながら彼女を凝視していたのであった………

  • 8◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:17:35

    授業が終わり、普段通りの練習をこなしていくブライアン。その練習も終えて一息ついていると、力強い足音が近付いてくる。
    その足音が止まるとブライアンの目の前には短めの銀髪で片方の赤橙色の瞳が前髪に隠れ、右側の耳に紫色の耳カバーをしている小柄のウマ娘が一人、不適な笑みを浮かべていた。

    「アタシと勝負しろ!ナリタブライアン!」

    そうして彼女に人差し指を向けて高らかに勝負しろと宣言したのであった。

    「見知らぬ顔だな……」
    「なら今日!覚えてもらうぞ!」

    彼女が言うには自分は明日からこの学園に転入してくるウマ娘だという。今日は学校の案内を受けていて案内が終わった今、試しにコースを走ってみたらどうかという事でここに来たと語っていた。
    確かにこの学園のものではないジャージを着ており、他の場所から来たというのは本当らしい。

    「フン……別に構わないが、泣きべそかくなよ?」
    「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」

    変な奴に絡まれたなと思いながらも、これ程血気盛んな相手と走る事に満更でもない表情をしながら走る準備をするブライアン。

    (だがあの雰囲気どこかで……)

    しかし初対面だというのにまた会ったような……そんな気がしてならなかったのである。

  • 9◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:17:50

    配置につき、合図とともに走り出す二人。互いに抜かし抜かされ合いながら一進一退の攻防が繰り広げられ
    る。

    (口だけではないか…益々面白い……!)

    初対面だからといって手加減は一切していない自分の走り、その走りに今も尚喰らい付いてくるその勢いにブライアンは手ごたえと充実感を感じていた。
    しかし模擬とはいえどちらかが勝ちどちらかが負ける勝負の世界。レース終盤、勝利をもぎ取るべくブライアンは全力で仕掛けに行った。
    "シャドーロールの怪物"……その所以を惜しみなく走りで見せつけるブライアン。

    (この勝負……私が貰っ———)

    しかし"怪物"は彼女だけではなかった。
    追い抜いた直後、背後から迫る足音。

    「うおぁぁぁぁっ!!!」
    (まさか……あの時の夢と同じ……!?)

    物凄い爆走と共に追い抜かした筈の彼女が再び、ブライアンの隣に並び立つ。放つ威圧感と自身に喰らいつく様に追いつく姿はまるで……

    (間違いない……"ヤツ"だ……!)

    ブライアンが見た夢の中で争った紫の怪物そのものであった———

  • 10◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:18:21

    そんなブライアンを他所に負けるものかと更に力を込めるウマ娘、だが同時にブライアンも不敵な笑みを浮かべ自らの走りに全力を注ぎ込んでいた。
    互いに死力を尽くす走りがぶつかり合い、近くで見ていた者達が皆その光景に見惚れている。ゴールまで後数十メートル、そして———

    「…っく…はぁっ……私の…勝ちだ……!」

    壮絶なレースを制したのはブライアンの方であった。気迫も勢いも互角、最後に決め手となったのは二人の体力の僅かな差。ブライアンよりも先に相手のウマ娘の体力が底をついたのが勝敗の分かれ目であった。
    ゴールを突き抜け、徐々にスピードを落としてクールダウンをするブライアンがふと後ろを振り向くと相手のウマ娘がヘロヘロと少し歩いた後、地面に倒れていたのである。

    「おい…大丈夫か……」

    突然倒れた彼女に向かって慌てて駆け寄るブライアン。すると………

    「ちくしょおぉぉぉっ!!!」

    何度か大きな呼吸をして跳ねるように起きたウマ娘。そして悔しさを隠す事なく飛び跳ねる様に地団駄を繰り返したのである。

  • 11◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:18:38

    「くっそぉ!後もう一歩だったのによぉ!」
    「中々惜しかったな。私はそろそろ帰るぞ」

    悔しそうに地団駄を踏んでいたと思えば落ち込む様に俯くウマ娘。その姿を見たブライアンがこの場を後にしようとすると後ろから呟く声が聞こえてくる。

    「もう一度…勝負だ……次は負けねぇ!」
    「もう一度だと…お前………ッ!?」

    半ば呆れながら振り向いたブライアンは自身を睨みつけている彼女の目つきに驚いた。
    やけっぱちから来た強がりでも、負けても良いから強者の動きを学ぼうとする目的でもなく、"自分に勝つ"……ただそれだけしか感じさせないような燃え盛る闘志に満ち溢れている。

    (やはりそうか…‥お前はあの時の……!)

    そしてその目つきはあの時の夢で見た紫の化物……
    夢が終わる直前に見たあの化物が再びブライアンに挑んできた時の目つきそのものであった。

  • 12◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:18:57

    「決めた…あんたはアタシのライバルだ……あんたがどう思ってようが関係ない……!」
    「…………」

    姿勢を正し、先ほどの様に人差し指をブライアンの方へ向けるウマ娘。しっかりと彼女を見据えたウマ娘は更に続ける。

    「何度でも……勝つまで……勝っても……それに練習だけじゃねぇ……レース本番もだ!芝とかダートとか距離とか関係ない……あんたが走る所に挑み続けてやる!」

    熱意ある宣戦布告、涼しい顔をしながらそれを聞いていたブライアン。しかし表情とは裏腹に内に秘める何かが燃え盛るような感覚に包まれていた。

    「っておい!アタシの話を聞いて———」
    「明日だ」
    「………へ?」
    「明日また同じ時間に来い」
    「それってつまり……」
    「お前の言った通りだ、ライバルならば…その走りで私の飢えを満たしてみせろ」

  • 13◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:19:13

    獲物を見つけた獣の如く不適な笑みを浮かべてそう答えるブライアン。そんな彼女の返答に一瞬呆気に取られていたウマ娘であったが……

    「ああ!また明日挑んでやる!逃げるなよ?」
    「その言葉、そっくりそのまま返してやるぞ」
    「それじゃあ、また———」
    「待て」

    喜びと闘志に満ち溢れ、飛び立つ様に走り去ろうとしたウマ娘をブライアンは呼び止める。

    「何だよ、呼び止めてよ」
    「最後にお前、名前は何と言うんだ?」
    「……ガルルガ。イャンガルルガ、それがアタシの名前だ。覚えとけよ?これからあんたに挑んで勝つウマ娘の名前をな!」
    「ガルルガ…その名前覚えたぞ……またな」

    戻っていく彼女…ガルルガの姿を見て見届けた後、ブライアンも寮へと向かっていく。
    歩いてあると後ろから男女問わず多くのスカウトの声と戸惑うガルルガの声が聞こえてくる。あのブライアンと互角に渡り合ったのだから当然ではあるのだが。
    きっとすぐに彼女も担当トレーナーが見つかるのだろう。

    (またお前と競い合えるとはな怪物…いや、ガルルガ。ふっ…明日からの練習が楽しみだ)

    そんな事を考えながら歩くブライアンの顔は爽やかな笑顔を浮かべていたのであった………

  • 14◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:19:55
  • 15◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 10:25:35
  • 16二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 13:25:49
  • 17◆Z7utuzeXJs25/05/09(金) 13:46:47

    >>16

    そのbgmも相まって良いですよね……

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