(ウマ娘ss)あの日見た月

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:25:30

     なんの取り柄もない子供だった。
    足が速いわけでも、頭がいいわけでもない、泣き虫で親離れができない、そんな平々凡々な子供。
    その日も公園で一人、何をするわけでもなくブランコに座って泣いていた。

    「おいおまえ、なにないてるんだ」

     鈴の鳴るような凛とした声が耳に入る。
    見上げると、強い意思の現れた紫の瞳に圧倒された。
    幼さが残りながらも顔立ちは美しく、頭の上にぴょこんと立った二つの耳を見て、このあたりで見たことの無いウマ娘の子だ、と思った。
    栗毛の髪の中に一筋走る流星。光を受けて輝くそれはまるで──

    「つきみたいだ」
    「む?」

     その子はその言葉に一瞬首をかしげると、すぐに思いいたって自慢げに胸を張った。

    「いいだろー!かっこいいりゅうせいだろ!これをみておかあさまがルナってようみょうをつけてくれたんだぞ!」
    「ようみょう?」
    「こどものあいだのなまえだ」

     いいだろ、いいだろと勝ち気な笑みを浮かべる少女が、あまりにも眩しくて。
    ぽつり、と言葉を漏らした。

    「いいなぁ」
    「それはまぁ、とーぜん」
    「きみはつよいし、じぶんにじしんがあって、みんなにあいされてるんだね」

     弱気を通り越してやっかみのようになってしまった言葉を聞いて、少女がむっと口をへの字にした。
    初めて会った子のことも嫌な気分にさせてしまうなんて。あわてて謝ろうとしたところで、少女は不満げに口を尖らせた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:25:53

    「わたしはたしかにみんなにあいされてるし、つよいし、はじめからさいのうだってあったけど、じぶんにじしんがあるのはべつのりゆうだ!」
    「そのりゆうって?」
    「だれよりもどりょくしてきたからだ」

     少女が紫水晶の瞳をすっと細めると、背中にのし掛かるような重圧を感じた。

    「みんなのきたいにこたえるために、だれよりもどりょくしてきたじじつが、わたしにじしんをあたえるのだ」

     そういって腕を組みこちらを見下ろす少女は、年嵩に見合わない威厳を持っていて、さながら『皇帝』のような──

    「……っておもえるくらいどりょくしろ、っていうのがわたしのししょーのおしえだ!」
    「……ししょーって?」
    「ししょーはスピードシンボリっていうすごいウマむすめ!」
    「そっか」

     少女がニカッと笑うと、先程までの雰囲気が霧散する。
    けれども、その『ししょー』の教えは、卑屈になっていた心にすっと染み込んできた。

    「じしんをもつには、だれよりもどりょくすること……」
    「うむ。もとはししょーのことばだが、ルナさまからのおしえでもある。こころにきざむのだぞよ」
    「……ぞよってなに?」
    「えらいひとのはなしかただ。いげんがあるだろ?」

     上機嫌そうにしっぽをぶんぶん振り回す少女は、公園に設置されてある時計を見て、あ、と声を漏らした。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:26:19

    「しまった! トレーニングのかいしじかんをすぎてる!」
    「あ……ごめん、ボクと話してたせいで」
    「ふむ~、わるいとおもってるならきょうりょくしてもらおうか」
    「きょうりょくって?」

     少女は側につかつかと歩み寄ってくると、その細腕に見合わない力で身体を引き上げ、軽々とその背中に背負った。

    「おくれをとりもどすためにおまえをかついではしる!」
    「ええ! あぶないよ!」
    「むてきのルナさまをなめるなよ! いくぞー! わははは!!」

     ウマ娘専用道路に乗った少女がその足で一度地面を蹴れば、あっという間に周りの景色が後ろに流れていった。
    人間を一人担いで走っているとは思えないくらいに、彼女は美しい姿勢で道路を駆け抜けていく。

    「すごい! はやい! すごいよ!」
    「えへへ、そうだろう? まだまだいけるぞ!」

     全てが風と共に流れていく。
    彼女の足が地面を踏みしめる度に、全身が飛んでいるような浮遊感に包まれる。
    ウマ娘の存在は知っていた。テレビ越しでレースを見たこともある。
    だけれど文字通り肌でウマ娘の走りを体験したのは、初めての経験だった。
    それは人生の中で経験したことの無いくらいに刺激的で、既存の世界が破壊されてしまうくらいに革命的な、運命の出会いだった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:26:56

     少女はあっという間にコースを一周して、また公園にまで戻ってきてしまった。
    満足げに額の汗をぬぐう少女に、まだ興奮が収まらないままに言葉を吐き出した。

    「ボク……こんなのはじめてで……とにかくすごかった!」
    「うむうむ、おまえもルナのファンになってしまったか」

     うんうんと頷く少女に、きゅっと唇を引き結んで、にわかに胸のうちに沸き上がってきたひとつの願いを打ち明けた。

    「ファンよりも……ボクは……きみのトレーナーになりたい!」
    「……む? トレーナーに?」

     怪訝そうな表情をしながら、少女はボクの胸にとん、と指を立てると、厳しい口調で言った。

    「トレーナーになるのは、トゥインクルシリーズではしるのとおなじくらいむずかしいんだぞ」
    「し、しらなかった」
    「さっきまでうじうじ、おどおど、びくびくしてたおまえがトレーナーになんかなれるのか?」 
    「が……がんばるよ!」
    「わたしはてんさいだしくどりょくもしてる、わたしのトレーナーになりたいっていうやつはたくさんいるぞ。そんななかでおまえがいちばんになれるのか?」
    「なってみせる! だれよりもどりょくして、べんきょうして、ぜったいに!」

     その言葉を聞き遂げて、少女がふっと口元を緩めた。

    「──なら、やってみせろ」

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:27:36

     少年にはなにもなかった。
    足が速いわけでも、頭がいいわけでもない、泣き虫で親離れができない、そんな平々凡々な子供。

     けれども、その日少年は導を得た。
    月は見上げればいつも遥か高みで輝き続けている。
    それを見るたびに、平凡な少年は決して歩みを止めまいと己を奮い立たせ続けた。

     いつしか隣に並び立ち、彼女の杖となるために。

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:28:33
    わははー!ルナのちからをみよ!|あにまん掲示板なに?わたしのトレーナーしたいって?まずこぶんからスタートな!bbs.animanch.com

    幼少期ルナちゃんに脳を破壊されて書いた

    なんとしても幼少期ルナちゃん概念を流行らせろ

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:28:42

    同い年では……まぁいいかァ!頑張れよ!

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:31:25

    >>7

    まあいいよなぁ!頑張れよ!それこそデビュー前にG1ウマ娘をボコボコにする暴れん坊会長がデビューを発表するとかいうなんぞ?????としか言えない設定もエモさが増す!!!

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:32:50

    皇帝の杖になるためには飛び級で16歳でトレーナーになるくらいの離れ業はできないとな

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 15:47:18

    良かった。
    (ボソッと言うと♀トレも書いて欲しいくらい)可愛いルナでした。
    貼られてるスレの
    ルナ→ライオン丸→カイチョー概念大事にしろ
    レスはそれはそうなので新作アニメウマ娘/zeroでルナ時代とライオン時代を見たい。

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 16:03:11

    ルナ好き。


    >>10

    出来れば新作アニメは各主人公作りオムニバス形式を本気で見たいけど、

    例えば昨日のゴルシスレにも書かれていた

    「次のアニメがあるとしてゴルシ主人公にするにはクソ父と鬼婦人と世界一位が足りない」

    レスとかの通り、未実装の美味しい子達がいすぎて、

    会長周りにもそれがあてはまるのが凄く苦惜しい。

    実装はもう絶望的だし無いだろうけどされないと書けないシーンが多すぎる。。いいコンテンツなのに。。

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