【閲覧注意・クロス】凛の唄-2

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:29:39

    『凛の唄』


     最初から


     ▼続きから


     終了



    …………セーブデータ「1周目」を起動します



    ※ここだけ沙耶の唄に近い状態になってしまった潔と実は人に化けた人外な凛と一部ブルーロックスの世界線

    ※元ネタグロ表現あり注意


  • 2二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:31:07
  • 3二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:31:57

    たて乙
    最初のエンディングどうなるか楽しみ

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:35:46

    スレ立て乙
    エンディング回収楽しみ

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:41:31

    スレ立てありがとう!
    エンディング回収楽しく見守ってるよ

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:45:22

    (ここで誰に会いに行くかの選択次第では、行きつくENDが確定する場合があります)


     夜が明けた。

     俺はまだ、悩んでいるけれど。

     真剣に選択しよう、と思った。


     考えながらトレーニングをしている内に、昼は過ぎていた。

     気が付いたら周りでトレーニングしていた筈の氷織たちはいなくて、俺一人になっていた。

     もしかしたら考え事をしているということで、気を使ってくれたのかもしれない。

     ……どこに向かおう。


     1. 食堂(蜂楽がいる)

     2. 人気のない休憩室(凪がいる)

     3. ドイツ棟奥のシャワー室(士道がいる)


    >>12までのレスで一番多いものが選択されます

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:46:47

    2. 人気のない休憩室(凪がいる)

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:46:59

    3

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:47:23

    3 士道

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:48:38

    2

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:49:38

    3

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:49:56
  • 13二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:54:21

    士道か

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 08:06:39

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 09:07:28

    士道がガチ悪魔なことを考えると
    悪魔の囁き的な感じで危ういルートに進む可能性もある……

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 09:23:48

    個人的に蜂楽がtrueっぽいけど士道も忠告してくれたし大丈夫か…?

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 14:43:22

    このレスは削除されています

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 16:49:33

    凪も一応警告はしてくれてたんだけどな
    だけど潔が最期まで凛と一緒ルートを選んだと思ったら(勘違いも含め)全力で後押ししてきそうなのは確か

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 22:23:24

    即バッドエンドにはならないと思いたい

  • 20二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 22:46:02

    >>6の続き


     とりあえず、汗を流すのと頭を冷やす為にシャワー室に向かうことにした。

     考え事に集中したいから、トレーニングルームからは遠い奥のシャワー室に行った。

     使用者が少ない方のシャワー室は、たまたま俺一人しかいなかった。

     シャワーの冷水で頭を冷やして、素早く汗を流した。烏の行水だったかもしれない。

     スムーズに身体に残った水分を拭き取って、着替えて水分補給をしていた。

     後ろから気配がしたのは、その時だった。


     「よぉー。潔ちゃん。考え事でちゅか?」


     「うわっ!士道!?」

     背後から聞こえてくるものだから、その異名と合わせて悪魔の囁きのようだった。

     「いつの間に……てか、なんでまたドイツ棟にいるんだよ。マジで流行ってんの?」

     こうもフランス棟にいるはずの士道が、特別交流があったメンバーがいる訳でもないだろうドイツ棟に来ているのは不自然に感じた。

     以前深夜に会ったことといい、もしかすると意図的に訪れているのだろうか。……一体、何のために?

     

     「んー……確かに流行ってるかもなァ。”俺たち”の間で話題だぜ。お前とリンリンのこと」


     ”俺たち”?

     そういえば、秘密にしている筈なのに凪も蜂楽も深夜の俺と凛のことを知っている様子だった。

     何かしらのコミュニティがあるのだろうか。蜂楽が本当にかいぶつだったように、士道もまた人間とは少し離れた”ナニカ”なのだろうか?

     非現実的な思考に寄っているような気がするが、俺の視界ですら非現実的に変化している。凛が俺の視界を一時的に良くしたことだって、非現実的で詳しいことは知らない。

     おかしくなった日々を過ごす内に。そういったものが、思考の選択肢に入るようになったのかもしれなかった。

  • 21二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 02:07:34

    誰と話してるんだろ

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 11:29:11

    >>20の続き(※人外である彼らの設定は全て元ネタゲームにはない捏造です)


     「なんで知ってるんだよ。本当に」

     「ここには意外とあの怪物クンみたいなやつが複数いるってコト」


     もしかすると、俺の偏った仮説はあながち間違いでもなかったのかもしれない。

     「……士道、聞いても良いか」

     「いいよん♪」

     俺の考えていることが手に取るように分かっているのか、士道は少し不気味に笑ってから了承する。

     

     「士道。お前は、何者なんだ」


     「……お前らが言うところの悪魔?そう、お前らが書いた俺の名前は……」


     「アスタロト、だったかなァ。ニンゲン」


     海外の映画やドラマで見るような、貴族がするような正式な礼をしながら。

     士道龍聖───悪魔は名乗った。


     士道が名乗った瞬間、場の雰囲気が一変したような気がした。

     そう、一瞬で空気が澱んだような。このまま場に留まり続ければ、死は免れないような。

     恐ろしい瘴気に、思わず鳥肌が立つ。


     「爆発するようなモンを気まぐれに地上に探しに来たらさァ。サッカーにハマっちゃったんだよん。ニンゲンってヤツも、偶にはおもしれーモン作るジャン」

     「ああでも、ホントにお忍びで来ただけだから。心配しなくていいよん」

     士道の言葉に、俺は何も返すことができない。ただ、シャワーを浴びたばかりなのに厭な汗がダラダラと身体を伝っている。

     「じゃあ、見通す悪魔から最後のアドバイスだ♪あまり長々と話すと、先に潔ちゃんが死ぬからなァ」

  • 23二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 12:12:24

    アスタロトって過去と未来を見通す力があるらしいからもう色々と見えてんだろうな…

  • 24二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 14:11:55

    >>22の続き


     「今お前はリンリンの正体を聞くか迷っている。聞くか聞かないか、どっちでもお前の生死には関わらない。だが、ネタバレすると」

     「リンリンの正体を聞かないまま明日に進むと、お前は”あの”リンリンとはバイバイになるぜ。一生、な」

     「それに、今まで見えていたワンダーランドでの記憶も消される。もう二度と、鮮明には思い出せない」

     「どうするかはじっくり考えるんだよん。じゃね~」


     士道が去った途端、場を支配していた死のにおいが消えた。

     緊張の糸が切れたように膝をついて、深呼吸をした。

     「……はあ、何なんだよ。アイツ……」

     

     もしかすると、今夜の凛からの質問の返答次第では。

     「”あの”凛とはもう、会えなくなる……のか?」

     とりあえず、もう一度シャワーを浴び直す必要がありそうだ。

  • 25二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 14:53:10

    >>24の裏側 悪魔と死神の井戸端会議


     「足を踏み入れていたとはいえ、一般人に未来を教えちゃダメでしょ。悪魔」

     「覗き見とは趣味が悪いんじゃねぇの?死神。まー、未来とはいえ確定していないモノだ。どうするかはアイツ次第だろ」


     「選択を偏らせたことには変わりないよ。でもまあ、潔が一線を越えてなくてよかったかも」

     「少なくとも、”アレ”を見つけたにしても食べなかったもんなァ」

     「そこまであのモンスターか、もしくはそっちの世界に入れ込んでたら、めんどくさかったからね。一般人の魂に影響が出たってことでお上から休日出勤させられるのは御免だし」

     「凪ちゃんって潜入捜査じゃないのん?」

     「違う。俺は長期休暇取ったから地上でのんびり過ごそうと思って、人間として転生してただけ。力は使おうと思えば使えるけど」

     「フーン。俺もお前もバカンスだったのねん」

     「地上での今生はバカンスのままで終われるといいんだけど。世界中に散らばる凛の同族と全面戦争とかしたくないし」

     「しかし”偶々”俺たちみたいなのとリンリンみたいな地球外生命体がここに集まるなんてな」

     「あのモンスターが生まれたのって地球じゃないの?」

     「アイツらの創造主は異星人だろ。まァ、リンリン達が知性をゲットした結果反乱されて滅んだらしいけどな」

     「っていうか、一般家庭に潜り込んでいる時点でアイツは高い知性を持つ方の粘液状生物か。うわぁ。余計関わりたくない」

     「まー、俺たちに今できることは見守ってやることだけだろ」

     「そうだね。アンタとも、あのモンスターとも殺し合うことにはならなさそうで良かったよ」

  • 26二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 16:18:17

    みんな潔にかなり友好的?に見えてるから逆に不安なって来た

  • 27二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 19:25:20

    >>24の続き


     いつものように、人気のない廊下を歩く。

     その部屋の奥に、凛はいる。

     大丈夫、もう決めた。

     いつも迷わず入っている扉の前で立ち止まる。

     深呼吸をしてから、意を決して部屋に入った。


     「……来たぜ。凛」

     凛は、いつも通りベッドに腰掛けて俺を待っていた。

     ただ、そのターコイズブルーの瞳が俺を突き刺している。

     緊張と、疑念の意を滲ませながら。


     凛の向かい側のベッドに腰掛けて、凛を見た。

     少しの間を置いて、凛が口を開く。

     「……解析が終わった」

     「解析……」

     それは、もしかすると。俺の───

     「実験も成功した。今なら、お前の見えている世界……お前の脳の異常を、治せる」

     治せる。

     ここ数週間以上悩まされてきたものが、治る。

     俺はこの瞬間、目を見開いていたのだと思う。

     「ただ、もしかすると……治したら、おかしくなってからのこれまでのお前の記憶が消えるかもしれない。脳を弄るからな」

     ”記憶が消える”。

     士道の言葉を思い出した。

  • 28二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 19:26:47

    >>27の続き(END分岐があります)


     そこまで告げて、凛は一度目を閉じて、開いて……真っ直ぐ俺の目を見て問いかける。

     「潔。お前は……」


     「記憶が消えるかもしれないリスクを犯してでも、治りたいか?」


     俺は──────


     1. ×××「治したいよ」×××”選択できません”

     2. ×××「■■■■■■■」×××”選択できません”

     3. 「一つ、聞いてもいい?」


     ”…………選択肢『3』が自動的に選択されます”


     「凛、ごめん。一つ、聞いてもいい?」

     「あ?なんだよ……」

     話の腰を折られたみたいに、少しだけ凛は不貞腐れた。

     「前みたいに、完全じゃなくて。マシになる程度に治してもらったら。記憶はそのままか?」


     今度は凛の目が見開かれた。

     一瞬だけ、言い淀んだ凛は俺の質問に正直に答える。

     「……脳の負担が少ないから。そのまま、だろうな。今なら、時間制限もねぇよ」

     聞きたかった答えが返ってきた。帰ってきたから、俺も凛の質問に対して第三の答えを返す。

     

     「そっか。じゃあ、そっちで治してもらいたい……かな。俺は」

     そういう返答をされるとは思っていなかったのか、凛は俺の出した答えに言葉を失くした後。

     わしゃわしゃと自分の髪を掻き毟った。

  • 29二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 20:22:10

    >>28の続き


     「…………正気かよ。遂に頭がイかれたか?」

     「正気だよ!だってお前……記憶が消えるかもしれないなんて嘘だろ。本当はお前が消したいから消すんだろ」

     俺がそう言い返すと、凛はバツが悪そうにプイっと顔を逸らした。図星かよ。てか、本当に消すつもりだったのかよ。怖えよ。

     「俺の記憶も消して、何事もなかったかのように。今までのことも、なかったことにするつもりだっただろ」

     「……フン。そうしちゃ悪いかよ」

     開き直られてしまっては、こちらも更に言及する意味がなかった。

     ”あの”凛と会えなくなるとは、つまりこういうことだったのかもしれない。

     凛自身が、俺に見せてくれていたのかもしれない、”人ならざるものとしての姿”を消してしまうこと。

     「そうなるぐらいだったら、これでいいよ。いつでも治せるんだろ。なら、いい」

     「…………莫迦なやつ。全部忘れちまった方が、清々するのによ」

  • 30二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 20:56:06

    わりとトゥルーっぽい選択肢だけどどうなるかな

  • 31二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 21:52:03

    >>29の続き


     「なあ、凛」

     「なんだよ」

     「凛は、何者なんだ?」


     迷いに迷って、ようやく選択できた。

     でも、聞いてしまって後悔はない。知らなくてはいけないこともある、だろうから。

     一晩寝かせた俺の問いに、凛は逸らしていた顔をこちらに向き直した。

     そして、俺の目を迷いなく見つめて……己の正体を告げる。

     

     「……俺は」

     「俺は、人間じゃない。オールドワン───俺たちを作った奴らに叛逆して、殺して、彷徨った末に……『糸師凛』として人間に擬態して生まれ直した、正真正銘のバケモンだ」


     「潔世一。人間のお前は、化物(おれ)が相手でも。俺の宿敵で在り続ける意思があるか?」

     凛は、少しだけ瞳に陰りを乗せながら、再度問いかける。

     

     俺は、立ち上がって。もう少し、凛に近づいて。不安の色が残る澄んだ青と己の蒼を合わせて、その問いに返す。

     「ああ。言っただろ。凛は、凛だよ。俺の、良く知ってる……糸師凛。俺の、ライバル。お前が人間じゃない化物だって言っても、変わらない」


     「お前は俺のライバルだ。……凛、お前は?」


     「……変わらねぇよ。潔、お前は俺の宿敵だ」


     その時、負の感情で澱んでいた凛の瞳が澄んだのを、確かに覚えている。

     忘れることなんて、ない。

  • 32二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 22:35:44

    凛ちゃん、化物の自分を受け入れてくれた相手を世界に入れてそう(冴、潔)

  • 33二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 22:43:44

    本編でも凛にとってはフランス戦は人生変えるぐらいの試合だったと思うけど、この人外凛にとっては本編より潔に衝撃受ける試合になるかもしれない

  • 34二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 23:12:06

    このやり取りした後にフランス戦で生命賭けてやる宣言するのか
    大丈夫か

  • 35二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 00:45:31

    トゥルーエンドっぽくていいね!
    ただこの後凛ちゃんはフランス戦でお前と死ぬ!するわけで、本編より更に意味が重くなりそうだな

  • 36二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 08:34:01

    今のところ良い感じだけど、元ネタのトゥルーエンドって最後……

  • 37二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 13:30:43

    >>31の続き(同室組と、怪物と悪魔の夜会話)


     「おはよう。潔くん、調子良くなったんやね。すっきりした顔しとる」

     「うん。ありがとう、氷織。相談乗ってくれて」

     「ええんや。明日はとうとうフランスとの試合やね」

     「ああ。張り切っていくぜ。アイツに勝つために」

     「潔、潔。元気出たか?」

     「どうやら悩み事は解決したみたいだね、潔」

     「ああ。二人とも気使ってくれてたみたいで、ありがとな」

     「……よし。今日は久しぶりにみんなで練習しようぜ!」

     

      ─────────


     「潔と凛ちゃん、試合で凄かったねぇ。俺は裏の試合あったから後から見たけど」

     「本当に命懸けて爆発してたよん。血も出てたしなァ」

     「凛ちゃんが凛ちゃんだから、俺ちょっと心配だったよ。でもギリギリ人間のままで試合してた!」

     「本当、偶にニンゲンにはバケモノをものともしない奴いて面白れエ~。冴ちゃんもそうだったしな」

     「冴ちゃんって凛ちゃんのこと知ってるのかな?」

     「知ってるだろうな。じゃないと俺に”どこから来た?”とか言わねェよ」

     「そうなんだ。冴ちゃん、今度話してみたいよね」

     「あァ、今度会えるぜ。そう遠くない未来でな」

  • 38二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 14:57:56

    蜂楽はなんの怪物なんだろう

  • 39二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 16:29:16

    人外の時のが交友関係広そうなのマジ…

  • 40二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 16:45:58

    この世界線でも死ぬまで味方なのかにいちゃ
    良いにいちゃだ

  • 41二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 18:21:45

    >>37の続き(ここから未来時空。あれから10年以上後の話)


     『どこ見てんだ、タコ。顔上げてちゃんと視ろ』

     『世界は俺とお前を宿敵にしたいらしいぜ……』


     『熱ぃな』



     あれから、時は過ぎて。

     俺たちは海外リーグで戦うサッカー選手になった。

     もう数年も前だけれど。悲願の日本W杯優勝を成し遂げたことは、とても良く記憶に焼き付いている。

     俺はというと、いろんなリーグ、クラブを渡り歩いた先に……また、欧州に来て最初に所属していたバスタードミュンヘンに戻ってきていた。

     ライバルの凛はというと、凛もまた様々なクラブに所属した。凛に至っては本当に地域を問わず色々なクラブに所属していた。南米のクラブにいたこともある。

     そんな凛も、俺と同じく最初に所属していたクラブ、レ・アールに戻ってきていた。冴との抜群なコンビネーションをテレビで見たのは記憶に新しい。

     近年はバロンドールを奪い、奪い返されを繰り返していた俺たちだったが。今年のチャンピオンズリーグ決勝で決着をつけることになりそうだった。

     『世界一のストライカーが二人いる世代』と言われていた俺たちの時代は、終わりの音が近づいていた。

  • 42二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 18:25:01

    >>41の続き


     何分、悲しいことだが。俺も、もう夢を掴もうとしていた青年ではない。

     

     全力で戦えるのはもうこの試合が最後のようなものだった。その後は、引退の時を見極めながらプレーしていくことになるだろう。もう既に舞台から降りている、青い監獄のメンバーや旧知の選手もいた。第二の人生を送っている奴もいるし、たんまりある貯金を使いのんびり過ごしている奴もいる。俺は、どうだろう。まだ、幼少期から長年走り続けてきた舞台から降りるということを明確にイメージできていない。したくないのもあるだろうが。

     凛は、どうするのだろう。

     人間ではない俺のライバルからしたら、瞬く間だったのだろうか。

     アイツの外見は、出会った頃とあまり変化がない。前髪が少し短くなった程度だろうか?一応、周囲から怪しまれないように肉体年齢を進めてはいるように見えるが、しかし。

     ”俺、この試合で全力出せるの最後だと思う。だから、今度のCLは死ぬ気で行くぜ”

     そんなメッセージを、送る頻度は少ない凛のアカウントに送った。

     凛と全力で戦えるのは最後の試合になる。後悔なんてないような、プレーをしよう。

  • 43二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 19:11:17

    >>36の懸念がありそうな感じになってきた

  • 44二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 22:07:59

    どんなENDだろ
    いずれにしても楽しみ

  • 45二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 22:11:04

    死ぬ気で行くは果たして大丈夫なんだろうか?

  • 46二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 22:25:32

    >>42の続き


     「凛……!決勝で会えるって信じてたぜ。……決着、つけるぞ」

     「ああ。最後の試合だろ。ぬりぃプレーすんなよ、潔」


     そうして始まった、チャンピオンズリーグ決勝戦。

     こうしてチャンピオンズリーグで戦うのは何回目かだというのに、気分が高揚していた。

     これで最後だという想いが、プレーへの熱を加速させる。

     楽しい、楽しい───ああ、楽しい!

     点を取って、取り返されて、また取り返して。

     気が付けば、口角が上がっている。凛も同じだ。あんなに楽しそうにプレーするアイツは、最初のチャンピオンズリーグ以来だろうか?

     勝負は膠着する。気が付けば同点でホイッスルが鳴り、アディショナルタイムに突入していた。


     これが本当に最後だ。これで決着がつく。

     白熱した攻防戦の末、ボールがレ・アールのゴール方向へ飛んでいく。

     最後にボールを拾った───取ったのは、俺だ。

     迷わずゴールに向かう。

     「潔ッ!」

     「来ると思ってたぜ、凛ッ!」

     ただ一人、凛だけが俺の前に立ちはだかる。

     ゴール前、最後の戦いだった。

     「言っただろッ!俺の生命ぐらい懸けてやるってッ!!」

     「来いよ潔ッ!お前と死ぬッ!!死んでも止めてやるッ!!」


     お互い、心のままに叫んでいた。

     俺は、凛の懐に死ぬ気で飛び込んで───一瞬の隙を見極めて、シュートを撃った。

     紙一重で、俺が撃ったボールは凛の止める脚をすり抜ける。

     ゴールキーパーの手も、それには届かない。

     そのまま、真っ直ぐゴールネットに突き刺さった。

     瞬間。大きな歓声とホイッスルの音が、フィールドに響き渡った。

  • 47二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 22:27:18

    >>46の続き


     『試合終了!紙一重の戦いを制し、11番潔世一が最後の最後にゴールを決めた!今年の優勝クラブはバスタードミュンヘン!!』


     「はは……どーだ凛。やっと、お前に勝ったぜ、俺が」

     激突した衝撃で、俺たちは二人して芝に倒れていた。大丈夫。強くぶつかっただけで怪我はしていない。俺は膝立ちになって、未だ空を見ている凛を覗き込んだ。

     「…………死 ねなかった。お前とここで」

     少しだけ凛を煽るような口調で勝利宣言をしたが、予想に反して凛は憑き物が落ちたかのように穏やかだった。

     「残念、だったな。俺の勝ちだ、凛。生命ぐらい懸けれるけど、死にたくはねーし」

     「そうかよ。…………チッ、認めてやる。俺の負けだ、潔」

     初めて、凛のそんな言葉を聞いた。俺に勝った時もストイックなことを言う奴だったから、ここまでストレートなのは聞いたことがなかった。

     負けを認めたのにふてぶてしい態度なのは、昔から変わらない。どこか可笑しかった。

     「……おい」

     「何?最後だから、優勝記念品でもくれんの?」

     冗談めかしてそんなことを言うと、凛は起き上がって少し考え出した。まさか、本当にくれるのだろうか。

     「欲しいならくれてやる」

     「えっ、ほんとに?冗談のつもりだったんだけど」

     意外過ぎる。本当に何か用意していたのだろうか。あの凛が。確かに数日前にメッセージは送ったけれども。

     「ずっと前から賭けをしてた。お前が勝ったから、やる」

     「なにそれ、知らないんだけど。俺負けたらどうなってたの?」

     「俺と死ぬ」

     「怖えよマジで!冗談に聞こえないのが怖い」

     「明日の夜、バルセロナ国際空港の近くの海に来い」

     「……分かったよ。帰るまでまだ日数あるしな」

     一体、何を渡されてしまうのだろう。

     とりあえず、今夜は勝利の美酒に酔うことにした。

  • 48二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 00:18:30

    俺と死ぬ(文字通り)になりそうだったのか

  • 49二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 00:26:32

    トゥルーエンド進んでるっぽいのに心中ルートが隣り合わせに存在するのこえーよ
    これが原作凛ちゃん×元ネタゲームの化学反応……!

  • 50二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 06:42:44

    このレスは削除されています

  • 51二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 12:07:44

    何くれるんだろな
    これは一緒に生きるルートなのかな

  • 52二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 12:31:03

    ものすごく平和に進んでるから、他のルートはどうなるのか今からどきどきしてしまう

  • 53二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 16:20:24

    平和なルートだけど、あちこち不穏なのが怖い
    バッドエンド引いたらどうなるのか
    楽しみ

  • 54二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 21:33:22

    他ルートもめちゃくちゃ気になるわ

  • 55二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 22:38:39

    >>47の続き(本編の裏側・冴の話)


     今年のチャンピオンズリーグは、準優勝に終わった。

     自分としてもそろそろ引退が見えてきていた中の試合だったから、気合は入れていた。

     弟はもっと張り切っていた。どうやら、長年戦ってきた宿敵・潔世一が今回で一区切りをつけようとしているらしい。弟と潔の宿敵関係に終止符が打たれるのだろうか。

     結果、俺たちは紙一重でバスタードミュンヘンに負けた。

     『最後なのに優勝できなくてごめんね、兄ちゃん』

     弟はそう言った。大きく気にすることではない。俺たちは今まで十分なほど、このリーグの優勝トロフィーを取ってきたのだから。

     ただ、そう。最後ぐらい有終の美を飾りたかったなという弟の気持ちは、俺の中にも残っていたことを認めようと思う。

     そう、最後。

     兄としての勘だが、弟と試合に出るのはこれで最後な気がしていた。

     凛はここ1ヶ月ほど、急激に身辺整理を進めていた。

     まるで、終活でもしているかのようだ。凛の持っている資産の数々は、俺や両親名義に変えていた。

     もう、凛がいつ失踪しても問題ないかのような整理ぶりだ。

     リーグが始まる前、凛の家に迎えに行った時に確信した。

     物が、ないのだ。以前と比べて私物が整理されている。殺風景な部屋になっていた。

     凛は、このチャンピオンズリーグが終わったらどこかへ行くつもりだ。

     もしくは、何かをするつもりだ。


     俺はそれを分かっていたが、凛の人生だ。兄として、弟に好きにさせることにした。

     チャンピオンズリーグ決勝戦が終わって、その翌日の夜。

     凛は、俺の予想通りどこかへ行こうとしていた。

     「出かけるのか」

     「うん。……兄ちゃん、もう戻らないから」

     少しだけ、幼少期に見せていたような寂しそうな顔をして。凛は別れを告げた。

     「……そうか。どこに行くんだ?」

     「潔のところ。優勝記念品が欲しいとか言いやがったから、渡してくる」

     その言葉だけ切り取れば、プライベートでライバルに会いに行くだけに聞こえるだろう。

     だが、恐らく違う。凛の言うそれは、比喩的なものだ。凛のことだ。もっと壮大な何かを渡すつもりだろう。それこそ、世界を揺るがすような。

  • 56二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 22:40:23

    >>55の続き


     「分かった。気を付けて行けよ。……それと、凛」

     「なに?兄ちゃん」

     きょとん、とあどけなく俺を見つめる凛は。アイスをあげていたあの頃と何も変わらない弟の姿だ。

     

     「俺は。……兄ちゃんは、死ぬまでお前の味方だからな」

     

     幼い頃、人ならざるものの姿を俺に見られて……嫌われるのだと泣いていた凛を抱きしめた時と同じ言葉だった。

     人じゃなかろうが、危険な化物と言おうが関係ない。凛は俺の弟だ。

     それは、俺よりもデカくなった今でも。変わらない。


     「……ありがとう、兄ちゃん」

     凛は俺の言葉に目を大きく見開いた後に、その瞳を潤ませて。それから少し何かを堪えるような声で、笑った。

     泊まっていたホテルの一室の出口のドアに手を掛けた凛は、振り返って───俺を視る。

     

     「兄ちゃん、あのね。俺…………兄ちゃんの弟に生まれて、良かった。あの家に生まれて良かった。化物の俺を、愛してくれて嬉しかった」

     「さよなら、兄ちゃん。もう会えないけど、ずっと。大好きだからね」

     

     「元気で、いてね」


     凛は今まで見てきた中で、一番穏やかな笑みを浮かべて。部屋から出て行った。


     「……ああ。お前こそ、元気でな。色々あったけれど、でも。兄ちゃんは。ずっと」

     お前の幸せを願っているから。


     その言葉の先は、声に出すことができなかった。

     思わず下を向いた。とめどなく自らの下瞼から涙が溢れてきていたから。

     家族との、弟との別離は、それほど俺の精神にダメージを与えた様だった。

     でもまあ。凛にこの情けない泣き顔を晒さずに耐えただけ、よしとするか。

  • 57二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 22:47:59

    にいちゃんはやっぱり死ぬまで味方なんだな

  • 58二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 22:53:05

    冴の一人称が「兄ちゃん」になるのが何かいいな

  • 59二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 22:54:29

    すでに涙腺がやばい

  • 60二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 00:16:37

    死ぬまで味方の兄ちゃんは世界一優しいな
    こっちまでもらい泣きしそう
    ……ところで凛ちゃんは身辺整理済ませてまで一体何を潔に渡しに行くんだ??
    ハッピーな終わりを迎えそうに見えて不穏な影がチラついてドキドキする

  • 61二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 07:01:38

    このレスは削除されています

  • 62二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 12:10:09

    もしかすると凛ちゃんの贈り物って元ネタゲーのあのENDだったり……?

  • 63二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 18:53:18

    贈り物も別ルートも気になる!

  • 64二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 19:00:37

    元ネタTrueのムーブかますと潔も兄ちゃんも死んじゃうだろうから潔が勝って心中ルート回避したり兄ちゃんに元気でねってしてる以上それはやらないんじゃ…と思うんだけどじゃあ何やらかすんだ感

  • 65二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 22:27:19

    >>47の続き


     メッセージアプリで示し合わせた海辺で、凛と落ち合った。

     海辺に立つ凛の周辺には誰もいなくて、どこか不思議な雰囲気が漂っていた。

     

     「来たぜ、凛。ちょうど誰もいないな。……どんな面白い優勝記念品をくれるんだ?」

     俺の言葉に、凛は振り返る。暗くてよく見えないけれど、目元が赤いような気がした。……まさか、泣いていたのだろうか?

     「……賭けをしてた。あの試合、俺が勝ったら───お前もろとも地球を滅ぼそうと思ってた」

     突然とんでもないことを言い出した凛に、思わず俺はツッコんだ。これからどうなるにしろ、俺が勝って心底良かったと思った。

     「いや怖えよ!!!何?地球滅ばすって。お前にならできそうなのが怖いよ……」

     凛は何も答えない。ただ、ニヒルな微笑を浮かべているのが更に怖い。

     そうだ、凛は何も変わらないと評したけれど。少しずつ感情が表情に現れるようにはなった気がする。

     「でも、お前が勝った。だから……最初で最後にくれてやる。今のお前にも綺麗に見える世界を」

     「……凛?」

     凛の言葉で思い出すのは、凛の正体を知った時の事件だった。俺たちがまだ出会った頃の、ブルーロックにいた頃のこと。

     あの時から、俺は視覚がおかしくなったままで。ただ、凛に大分マシにして貰ったから。今更不便はあんまりない。

     「前やろうとしたみたいに、そのまま脳を元通りにしてやろうかと思ったが……それをするには、お前はおかしくなった脳で人生を生き過ぎた。今更弄ろうものなら本当に記憶が飛ぶ」

     「……おい、凛。何を」

     どこか、不穏な気配がした。

     凛をこのまま行かせてはいけない気もするし、同時に何か凄いものが見れそうな高揚感も沸いてきた。


     「昨日からうるせぇんだよ。この俺になる前の俺の記憶が。だから、前の俺の言うことなんて聞いてやらねぇ。地球なんか滅ぼさない。”糸師凛”としての未練が失くなって前の俺に戻されるぐらいだったら、俺の好きなように世界を変えて死んでやる」

  • 66二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 22:29:32

    >>65の続き


     凛の目は本気だった。俺には、凛の言っている意味があまり理解できなかったけれど。今、凛が自分の生命と引き換えに何かをしようとしていることは分かった。

     「何するつもりだよ、凛!死ぬんだろ!?それを実行したら」

     思わず凛の腕を掴んで、引っ張ろうとした。だが、それは敵わない。正体不明の圧倒的な筋力の差が、俺のすることを邪魔している。

     

     「……言っただろ。最初で最後にくれてやるって」

     「潔。今のお前が生きやすい世界をくれてやる。……最後まで、俺の宿敵でいた───お前に」


     「喜べよ。……お前が世界を手にするんだ。世界一は、好きだろ?」

     少しだけ、小馬鹿にするような表情で凛は告げる。誰かから与えられる一番なんて嬉しくないことを、コイツは分かっていながら言っている。

     それでも、最後まで凛の宿敵で在りながら駆け抜けた俺に対する純粋な贈り物でもあることも───分かってしまった。

  • 67二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 00:12:41

    まだ潔には少し狂って見えている世界それ自体を本当に狂わせて、潔が綺麗に見えるよう作り替えようとしてるのか……?

  • 68二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 00:22:23

    この世界から人外を消そうとしてるのか?

  • 69二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 00:58:39

    お前と死ぬ!(地球ごと滅ぼす)とかいう割と大規模でどうしようもない切羽詰まったルートがすぐそこにあった恐怖よ
    このルートの人外勢はバカンスエンジョイ見守り態勢だったけど、潔の選択肢によっては人間そっちのけで人外大戦が起こる可能性があるんかな

  • 70二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 06:04:58

    凛ちゃんが世界を逆に狂わせるつもりなら
    名実ともに魔王になる潔さんになるかもしれんってことなのだろうか

  • 71二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 13:24:33

    この世界線の凛の破壊衝動って糸師凛になる前のショゴスの残滓だったりするのかな

  • 72二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 21:27:17

    世界を狂わせると兄ちゃも巻き込まれるから…と思ったけど勝ってたら世界滅ぼすつもりだったんだよね

  • 73二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 22:23:25

    >>66の続き


     「凛!?なんだよ、それ。本当に消えていなくなるみたいじゃん……」


     気が付けば、凛の身体が変化していた。

     咲いている。そうとしか形容できない。

     凛の背中から、まるで羽化した蝶の羽のように大きくのびやかに広げられた無数の……花弁のようなものが生えてきている。

     自由を求めるように、それは更に大きく伸びていく。散った桜が舞うように、それらの周囲から光の粒子のようなものが出現し───真っ暗な空に、海に、星のように散らばっていく。

     目を疑うような光景だった。

     でも、空を舞う青緑色に輝く星々に目を奪われていた。

     まるで、凛と出会った頃に見た───あの、美しい放物線のように。

     綺麗だった。絶望的なほど、美しかった。

     きっと、目を焼き焦がして。これからの人生もこの光景を忘れることなんて、できないと思うほど。

     

     「クソ……勝ったのは俺なのに。これじゃ、凛に勝ち逃げされてる気分だ」

     心底悔しかった。最初で最後の贈り物をした後に死に逃げとは、凛もえげつないことをする。

     何も、俺に返させてくれないまま。いなくなるなんて。

     

     「せいぜいぬりぃ世界を手にして満足してるんだな。ざまーみろ。……潔、お前は生きろ。生きて、憶えてろ。俺が、”糸師凛”が生きていたことを」

     

     「俺と死ぬとか言ってたくせに、今度は生きろかよ。勝手に置いて逝くなよ。バカ」

     「お前みたいなイカれたライバルなんか、忘れられる訳ないだろ───凛」

  • 74二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 22:28:31

    >>73の続き このルートは残り2話(裏回想、エピローグ)になります


     本当に勝手な奴だ。エゴイストだ。

     そう思ったから、腹いせに悪態を吐いてやった。

     やっぱり、俺たちは行きつくところに行きついても。こんな、歪で健全な関係だ。

     だけど、そんな歪さが。心地良かった。

     

     「潔」

     忘れられる訳がない。最期にそう言った俺を、淡い光に包まれた凛は正面から澄んだ目で視ている。

     俺を、視ている。


     「俺はお前を、宿敵に選んでよかったぜ」

     

     そんな表情、できたのかよ。

     大切な人だけに見せるような凛の貌を、最初で最期に───見た。

  • 75二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 05:39:55

    いとうかなさんの主題歌が脳内に流れてきた

  • 76二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 12:21:32

    ただただ美しい終わりで感動した
    残り2話も静かに見守りたい

  • 77二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 20:07:55

  • 78二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 22:27:54

    >>74の続き(エピソード凛)


     『懸けてやるよ。俺の生命ぐらい……!!』

     

     思えば、あの瞬間から。俺はもう戻れなくなっていたんだと思う。

     昔の───本当にバケモンだった頃の自分に。


     今の人間の姿が仮の姿であることを、分かるようになったのはいつ頃だっただろう。

     少なくとも、兄ちゃんがまだガキの俺の傍にいた頃だった。

     

     自分はどこか他人とずれている。ガキながら、そんなことを考え始めた頃だった気がする。

     今の自分として生まれた時から、何かと破壊衝動に準じて壊してしまうことが多かった。

     自分がいたらみんな迷惑だろうか。自分は───どこかヘンなのではないか。

     そう考えるようになった。

     そんな思いが言葉になってぽろっと出てきてしまう程、兄ちゃんは俺にとって身近な人間だった。

     最初に、俺は兄ちゃんに打ち明けた。

     

     『俺と同じ変なやつじゃ不服か?』

     

     兄ちゃんはそう言った。

     そんな訳がなかった。兄ちゃんと同じならそれでいいと思えるほど……俺は兄ちゃんが好きだった。

     これからどんなことが起きようとも、兄ちゃんは俺の味方でいてくれるのだろうか?

     

     ”人間”の形になる前の記憶は、度々鮮明になってきた。

     創造。従属。憤慨。叛乱。殺戮。殲滅。自由───虚無。

     どうやら、自分は同族の中でも恐れられていたらしい。

     創造主を皆殺しにし、生き残りまでもを永い眠りにつかせた後は───ひとり放浪の旅をしていた。

     けれども、己が定住する地を見つけることはなかった。

     ほんの、思いつきで。

     以前の自分は、人間になってみることにしたのだった。

  • 79二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 22:29:05

    >>78の続き


     鮮明になってきたから、自分が他人とずれている理由も分かってきた。

     

     そもそも、己の正体は人ならざる化け物だったのだ。

     そこからずれていた。

     それに気が付いた瞬間から、他人というものが酷く遠いものに感じた。

     こうして人間の姿になったとしても、”彼ら”を理解することはできない。同じように、”彼ら”も自分を理解することはできない。

     寄り添い合うことも、分かり合うこともできない。

     そう、本能的に感じた。


     自分の中で冷たく定義しかけていたそれを、兄ちゃんが甘やかに溶かしたのは少し後の話だった。

     この頃の俺は、少しばかりヒトの味を思い出してしまっていた。

     きっかけは自分を連れ去ろうとした、俗に言う不審者を殺めてしまったことだ。

     見た目が幼いから、連れ去りやすそうに見えたのだろうが。

     生命・魂が失われた肉体は、自分という種族にとって興味深いものだった。

     だがしかし、ニンゲンにとってはそれはタブーなことも。分かっていた。


     だって、食べたニンゲンは、それを見てしまったニンゲンは。

     

     『化け物』

     と、俺のことを恐怖し。嫌悪するのだから。

  • 80二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 07:20:29

    ほえ凛がスライム状態から戻って人間むしゃむしゃしている光景は、めっちゃホラーなんだろうな

  • 81二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 11:44:39

    小分けにして隠しとくのも丸呑みもまだ無理そうだしかじってポイ捨てかな
    近所でよく変死体見つかってそう

  • 82二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 19:26:39

    >>79の続き


     『最近危険な奴がうろついてるってニュースになってる。凛も気を付けろよ』

     そう俺に注意した兄ちゃんが、危険な奴の正体に気が付いてしまったのは数日後のこと。


     丁度つまみ喰いをしていた俺を、偶然か必然か。

     兄ちゃんが見つけてしまったのだ。


     『おーい。凛、どこ行った?…………え?』


     この頃になると、人目を憚らって本来の姿になってつまみ喰いをすることも珍しくはなかった。

     無差別には喰っていない。ひとりでいる幼稚園生の自分に声を掛けてきた怪しいやつとかを、丁度良いのでターゲットにしていた。

     だから。

     兄ちゃんが見つけた時も、本来の姿に戻っていた。


     しまった、と思った。

     同時に。これで終わりだ、と思った。

     『……にィちゃン?』


     思わず出した声は、聞くに堪えないほど醜いものに聞こえているだろう。

     普段は変化の乏しい兄ちゃんの目が、大きく見開かれていた。


     状況を頭で整理しているのか。

     兄ちゃんは、珍しく数秒間静止していた。


     サッカーボールがころころと転がって、血の海に勢いを殺されて止まる。

     兄ちゃんが思わず落としてしまったそれは、真紅で汚れてしまった。

     『ァ……アァ……ゴめンな、さィ……』

  • 83二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 19:28:04

    >>82の続き


     人間である兄ちゃんが、快く自分の本当の姿を受け入れてくれるとは……思っていなかった。

     でも、目を見開いている兄ちゃんの姿を見れば。分かる。

     種族としての好奇心に駆られた今の己の姿は、人間である兄ちゃんにとってもタブーなものであることを。

     結局。俺は化け物だから、受け入れてくれる人間なんていないと。

     いくらヒトに偽装しても、姿が似ていても。思い出した本性は隠せない。

     それが分かっただけだった。

     でも、分かっていたとはいえ。

     兄ちゃんにまで”化け物”と言われるのは、哀しい。

     かなしいから、俺は兄ちゃんの言葉を聞く前に姿を消そうと思った。

     手を離されるくらいだったら、自分から手を離す方がいたくないから。

     

     そう思った時、鉄の海を駆ける音がした。


     『…………ぇ?』


     不意に温かい感触がした。

     まるで、───抱きしめられているかのような。

     そう。俺は、兄ちゃんに抱きしめられていた。


     『大丈夫。……大丈夫だぞ、凛』

     兄ちゃんは、俺に触れて血の付いた顔で、手で、身体で。もう一度、言ってくれた。


     『兄ちゃんは、死ぬまでお前の味方だからな』

     それは、俺だけに見せる兄ちゃんの───世界一優しい微笑み。

     『だから、そんな顔して泣くな。凛』


     兄ちゃんにそう言われて、ようやく気が付いた。

     自分は、ずっと泣いていたんだと。

  • 84二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 19:29:38

    >>83の続き


     早く泣きやめとばかりに、兄ちゃんはあやすように頭の部分を撫でてくれる。

     そうだ。

     ずっと、こうして欲しかった。

     優しくなでてほしかった。

     やさしく、触ってほしかった。


     『俺はおまえがいて迷惑だなんて、思ったことねぇよ。おまえは俺の、かわいい大事な弟だ』

     『なぁ、凛』

     『こんな俺と同じ変なやつじゃ、不服か?』


     兄ちゃんの服は、俺を抱きしめていたせいで血にまみれて汚れている。

     兄ちゃんのサッカーボールだって、紅く汚れてしまった。


     なのに、兄ちゃんの俺を視る目はどこまでもやさしい。


     『……ううん。おれ、兄ちゃんといっしょならいい。ヘンでいい』

     『ありがとう、兄ちゃん。…………だいすき』


     今思えば。

     この瞬間から、俺は───”糸師凛”として生まれたんだと思う。


     たとえ、その先で兄ちゃんと道を違えるとしても。

  • 85二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 19:51:20

    本来の姿を見ても迷わず「弟」と判断できる兄ちゃ、兄力カンストしてるな

  • 86二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:41:42

    >>84の続き


     『消えろ、凛。俺の人生に、お前はもういらない』


     決別の雪の夜。


     お互いがお互いを傷つけ合った。

     初めてのことだった。

     その頃の俺は、世界が一変してしまったかのような衝撃を受けて。

     感情のままに、立ち去ろうとする兄ちゃんに襲い掛かった。

     ふざけんな。全部、ぜんぶ……嘘だったのかよ。

     俺は、兄ちゃんの都合のいい存在だから。優しくされてたのかよ。

     ここまで憎悪の念を燃やしたのは、生きてきて初めてだっただろう。

     化け物としての本性までもをむき出しにして、兄ちゃんを押し倒していた。 

     

     兄ちゃんは、そんな俺に一瞬驚いた後に───一切の抵抗をしなかった。


     『…………凛。俺を殺したいなら、そうすればいい』

     『お前に殺されるなら、俺は受け入れる。俺を殺して、人間としての縛りからすら解放されて。自由に生きるのもいい』

     

     『なんで、そんな顔できるんだよ……このままだと殺されるんだぞ?俺に』

     兄ちゃんの言葉に、一度頭が冷えた俺は。人間の姿に戻って問うた。

     今まで喰ってきたニンゲンは、こういう場面になると哭き喚くからだ。

     なのに、兄ちゃんに恐怖の感情はない。諦めたかのように、天命を受け入れるかのように。

     俺を、疲労が滲みつつも澄んだ目で視ている。

     『どうして、だろうな。…………お前に殺されるなら、妥当に思えちまうから、か?』

     兄ちゃんは困ったように、微笑む。そんな顔は初めて見た。

  • 87二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:42:36

    >>86の続き


     『…………なんだよ、それ。白けた。やっぱりやめる』

     やっぱり。

     やっぱり、これまでの日々を───兄ちゃんに愛された人生を、なかったことにすることなんて。

     

     できない。

     あの幸せだった日々は、嘘なんかじゃない。

     

     俺は立ち上がって、兄ちゃんに背を向けた。

     『……俺は、アンタを許さない』

     『サッカーもやめない。サッカーで、アンタを潰す。ぐちゃぐちゃにしてやる』

     

     振り返って、同じく立ち上がっていた兄ちゃんと目が合う。

     『俺のこと、覚えてろ───自己中クソ兄貴』


     兄ちゃんは、何も言わず。

     ただ、鋭く目を細めた。

  • 88二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 22:32:49

    >>87の続き


     本当の俺を受け入れてくれたのは、ただ一人。兄ちゃんだけだった。

     そうだったけれど。

     もう一人、できた。

     潔世一。生涯において、俺の宿敵で在り続けた男だ。


     『ああ。言っただろ。凛は、凛だよ。俺の、良く知ってる……糸師凛。俺の、ライバル。お前が人間じゃない化物だって言っても、変わらない』

     『お前は俺のライバルだ。……凛、お前は?』


     潔は、頭を打ってから回復して以降、目に見える景色が反転したそうだ。

     だから、本来の俺の姿を見ても人間に見えているらしい。

     あの部屋で、本来の姿で人間と───ましてや潔と過ごす夜は。

     不思議と、気持ちが落ち着いた。

     視界がおかしくなっているとはいえ、見せることはできない本来の姿でも変わらず会話ができるようになったアイツの存在は。俺にとっては珍しいものだった。

     だから、色々協力してやった。勿論、あんなぬりぃ状態の潔が気に食わなかったのもあるが。

     そして、最終的に───莫迦なことに、アイツは視界を完治する道を選ばなかった。

     アイツの言っていたことは、概ね当たっているのが憎たらしい。

     潔の視界を治した後は、視界が変化してからのアイツの記憶を綺麗さっぱり消し去ってやろうと考えていたのは本当の話だった。

     話は逸れるが、過去に俺はヒトを治したことがある。

     種族としての特性で、俺は生き物ならば何にでも成れるし、造り変えられるからだ。

     幼い頃、兄ちゃんが大怪我をして。咄嗟に俺は自らの特性を使って怪我を治したことがある。

     それから、ヒトの身体を弄るのにも慣れていった。

     過去の経験がこんなところで生きてくるとは思わなかったが。

     

     しかし、アイツは結局視界を完治しなかった。

     莫迦なやつだと思った。ただ、アイツがその選択をしたことに───なんでもない。

  • 89二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 22:35:46

    >>88の続き


     それから、俺たちは戦った。奇しくも最終試合だった。

     

     『懸けてやるよ。俺の生命ぐらい……!!』

     

     この先の進化のビジョンが見えなくなっていた俺の前に現れたのは、潔だった。

     結局、この時に思ったことを伝えてはやらなかったけれど。

     

     あの言葉だけで、救われたような気がした。

     

     この先も───俺に立ちはだかる宿敵はアイツなんだと。

     確信した。

     アイツの本気の言葉を聞いて、確かにこう思ったのだ。

     俺を死ぬまで殺しに来る義務。

     最期までアイツは、それを守ったことを。

     今となっては褒めてやらなくもない。


     それから月日は流れた。

     もう、アイツも俺も。世界一ストライカーの座は手にしていた。

     アイツに俺が世界一のストライカーになるところを一番近くで見届けさせたし、逆にやり返されたりもした。

     昔々に掲げたことがあるW杯優勝の夢も、兄ちゃんと共に戦い成し遂げた。

     潔とは、バロンドール───手にした世界一のストライカーの座を毎年奪い奪われ合う関係になっていた。

     

     しかし、人間とは老いるものである。

     今となっては……アイツも例に漏れず、全盛期の終わりが近かった。

     ”俺、この試合で全力出せるの最後だと思う。だから、今度のCLは死ぬ気で行くぜ”

     久しぶりに潔から届いたメッセージを見た時に、最期の時は直ぐそこにあると思った。

     潔だけではない。俺もだ。

     アイツとの宿敵関係に終止符が打たれた時、俺もまた過去の自分に飲み込まれかねないのだ。

  • 90二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 05:15:55

    美しい話

  • 91二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 06:56:12

    凛ちゃんは潔が記憶を失わない道を選んで、本当は何を思ったんだろうか

  • 92二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 08:35:34

    潔の宿敵であることが糸師凛としての理性を保ってたんだな

  • 93二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 14:22:45

    潔と宿敵でいるうちに「糸師凛」のまま終わりたかったのかな

  • 94二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 21:04:48

    >>89の続き


     青い監獄にいた頃から、その声は聞こえていた。

     

     ”ヒトの世を滅ぼせ” ”ぐちゃぐちゃにしろ” ”世界を壊して支配しろ”


     恐らくだが、創造主と叛乱戦争をしていた頃に培われた種としての本能だ。

     地球を同族だけで支配するという、行き過ぎた本能。

     以前の俺はそれに喜びを見出せなくて、放浪の旅に出た。

     それが、ここ数年は増長して俺の思考を乱してくる。

     このままでは、潔との決着をつけて。

     ”糸師凛”としての未練を薄くした時には、以前の自分の本能に乗っ取られ世界を滅ぼしかねない。

     潔が全盛期の姿でいられなくなるように。

     俺もまた、人間としての姿が保てなくなってきていた。

     長すぎたのだ。人間として扮して生きた時間が。

     元々、進化したとはいえ……俺の種族は、ヒトに化け続けることには集中を要するのだ。

     

     いずれ、こうなることは分かっていた。

     だから、俺はアイツが宿敵で在り続けると確信したあの時に。

     一つ、賭けをしていた。


     最後の戦いが来た時。


     俺が勝って世界を滅ばすか。

     潔が勝って世界を手にするかの───二択を。

  • 95二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 21:05:36

    >>94の続き


     結果、最後のチャンピオンズリーグ決勝戦はバスタードミュンヘンの勝利に終わり。

     潔は俺に勝った。

     俺としても最後の試合のつもりだったから、落胆した。

     巡り廻って、一度は道を違えた兄ちゃんとも同じクラブに所属していたというのに。


     昔の種としての本能に乗っ取られて世界を滅ぼすぐらいだったら、俺に勝った潔に世界をくれてやることにした。

     他の同族よりヒトに深く関わった俺は、自分の特性の応用で世界を改変することができるだろう。

     ヒトを、地球上を。潔が綺麗に見える姿に造り変えるのだ。

     運が良いのか悪いのか。

     俺は、種族としても力が強大な方だったから。それを実行することができる。

     

     ただし、今まで蓄えた力を全て使い切るのだから。”糸師凛”、個としての消滅は免れまい。

     俺の意思で世界を好きなように変えて死ぬのだ。それでもいい。

     そう思えるほど、最終試合を終えて俺は満足していた。

     

     俺が造り変えるという形で支配した世界の権限を死に際に潔に渡せば、お手軽な魔王の誕生だ。

     先に逝く腹いせに、アイツが喜ばない形でおまけに世界一を渡してやる。

     最期に潔がどんな顔をするのか───見物だな。

  • 96二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:07:14

    >>95の続き


     分かってはいたけれど、兄ちゃんとの別れは辛かった。

      

     兄ちゃんに、直接俺の計画の全貌は伝えていない。

     けれど、兄ちゃんは送り出してくれた。

     『兄ちゃんは、死ぬまでお前の味方だからな』

     本当に。最期まで兄ちゃんは俺の味方でいてくれた。

     涙が止まらなくなったのを感じて、俺もあの頃から大きく変わったのだと……改めて自覚する。

     大丈夫。新しくなった世界でも、兄ちゃんは生きていけるから。そうなれる様、俺頑張るから。

     化け物の俺を愛してくれた兄ちゃんに、ささやかな贈り物を残してきた。

     今まで本当に、ありがとう。大好きだから、元気でいてね……兄ちゃん。

     世界は大きく変わってしまうけれど。兄ちゃん、これからの人生も幸せに生きれるといいな。

  • 97二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:11:01

    >>96の続き(次回エピローグ。1周目最終話になります)


     『お前みたいなイカれたライバルなんか、忘れられる訳ないだろ───凛』

     潔は恨めしそうな顔で笑った。その目には涙が溜まっている。

     憎たらしいのか、前向きな気持ちなのか、悲しいのか……はっきりしろ。

     そんなぐちゃぐちゃの宿敵の顔は、初めて見た。

     けれど、己の胸の内といえば清々しい気持ちで溢れていた。

     俺は死ぬけれど、少なくともこの目の前の宿敵の記憶を焼き焦がすことができただろう。この、人畜無害そうに見える飄々としたエゴイストの、傷になることができただろう。

     それが、清々した。 

     ざまーみろ。俺がいない世界で、せいぜいぬりぃ世界で満足してろ。

     時々もういない俺を思い出して、歯痒い思いをしてろ。

     潔はせめてもの抵抗と言わんばかりに、消えかけている俺の腕を強く握った。

     仕方ない。最期に、改めて言ってやろう。最期まで俺の宿敵で在り続けた人間に。

     最初で最期の、餞別をくれてやる。

     

     じゃあな宿敵(いさぎ)。俺は───

     

     俺はお前を、宿敵に選んでよかったぜ。

  • 98二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 05:26:47

    切ないなぁ…冴がもらった贈り物はなんだろう?

  • 99二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 07:03:37

    最期の凛ちゃん、原作軸の姿からは想像もつかない穏やかで満足そうな顔してるんだろうな

  • 100二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 12:16:51

    潔と凛の関係性も好きだけど糸師兄弟も良いね

  • 101二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 20:09:24

    ⭐︎

  • 102二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 20:23:07

    魔王だから世界の全部を手に入れてしまうのか

  • 103二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 21:55:47

    >>97の続き エピローグ


     目が覚めると、窓から見下ろした世界が一変していた。

     

     まるで、映画のような光景だった気がする。

     空は紅く染まり、木々は何かの肉片に変化している。

     建物には見覚えのあるナニカが浸蝕していて。

     人の姿は少なかった。

     否、”人だった者”は街のあちこちにへばりついていた。

     もしかすると、姿が変わってしまっただけで。精神は変わっておらず、以前のように会話しているのかもしれない。

     とりあえず、塩昆布茶でも飲もう。話はそれからだ。

     確か冷蔵庫に昨日淹れた残りがあった筈。

     冷蔵庫を開けると、塩昆布茶の傍らに手紙があった。

     取り出してみると、僅かに重みを感じる。

     中には便箋と、鍵が入っていた。


     これは、昨夜今生の別れをした弟が遺したものだ。

     そう、直感的に思った。


     ”兄ちゃんへ”

     ”勝手にこんなことしてごめんなさい。兄ちゃんなら、許してくれるかな?”

     ”大丈夫。変わった世界でも、兄ちゃんは生きていけるから。”

     ”ここに行ってみて。きっと、穏やかに暮らせるよ。”

  • 104二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 21:57:05

    >>103の続き


     弟の書き遺した通り、そこは穏やかに暮らせる場所だった。

     その家には謎の小さな生き物がいて、何故か俺の世話を焼きに来る。

     どこか弟に似ていた。”てけり・り”と鳴いている。

     謎の技術で完備された、自給自足ができるこの家からは海も見える。


     どうやら、弟は俺の好きな海をそのままにしたらしい。

     綺麗な青が、窓から見える。

     こぢんまりとしているけれど、居心地の良い穏やかな家だった。

     ここで隠居生活をするのも悪くないと思う程。


     恐らく、もう生き残っている人類は少ないだろう。

     人類でなくなった”彼ら”は、街で蠢いている。

     街から離れたこの家に住み続けているのは、そういう理由もある。

     あの日から電波が通じない為、知り合いとの安否確認も滞ったままだ。

     街を少しだけ見に行った時に分かったが、普通の人間ならば段々と身体が液状に変化していくようだ。その果てがあの”彼ら”である。

     俺には一切そのような変化がない。なんとなくだけれども、そうなりたいと思えばそうなれる気もする。

     ただまあ、人間として生きている。それでいいと思うから。

     凛は、俺には人間でいてほしいと思ったのだろうか?

     分からない。弟はもう先に逝ってしまったのだから。

     もしかすると、この変化した世界を見守っているのかもしれないが。

  • 105二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 21:58:06

    >>104の続き


     そうだ───アイツは、どうなったのだろう。

     潔世一。凛が最期に会いに行った相手。

     分からない。でも、恐らく。どこかで生きている。

     この世界が終焉を迎えていないということは、そういうことなのかもしれないと思ったから。

     

     この穏やかな日々の中で、一つだけ退屈なものと言えば。

     サッカーができないことだ。まあ、俺も引退が近かったし。リーグでの未練はないに等しいが。

     この謎の生き物は、小さすぎて俺とサッカーはできない。

     一生懸命俺についてこようとする姿は、微笑ましいがな。


     俺は、今日もまた。海を見ていた。

     凛。お前は幸せだったか?ちゃんと満足して逝けたか?

     兄ちゃんは。お前の兄で幸せだったって、今でも言えるからな。

     「てけり!り」

     凛に代わって、そうだ、と言わんばかりに。

     謎の生き物が俺の手をぺちぺちと優しく叩いていた。

  • 106二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 21:59:34

    >>105の続き 1周目最終話


     「てけり!!り!!」

     「うお。なんだ、急にどうした」

     小さな生き物は、俺に来訪者を訴える。

     

     「よう、冴ちゃん。しぶとく生きてんじゃん。サッカー、しようぜ」

     「言っただろ?俺はお前とずっとサッカーするって」


     地獄からの来訪者は、俺をサッカーに誘ってくる。

     悪魔の囁き声などではなく、サッカープレイヤーの、士道龍聖として。


     世界が変わっても、結局やりたいことは変わらないのである。

     もしかしたら潔世一(アイツ)も、そうかもしれないし。

     凛も、そう信じていたのかもしれない。


     一歩を踏み出すと、目の前にいた悪魔くんが笑った。

     

     なあ、凛。俺は、俺たちは生きていくよ。お前が造り変えたこの世界で。

  • 107二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:01:23

    >>106


    END3 宿敵エンド 『In the world』

  • 108二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:11:14

    一周目お疲れ様!楽しかった!

    兄ちゃは納得してそうだけど少し切ないなと思ってたら士道が来た
    二人でサッカー楽しんでくれ

    二週目も楽しみにしてます

  • 109二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:25:24

    乙でした
    サッカーのない世界は兄ちゃんにはしんどいのでは…と思ったら士道が迎えに来てくれてよかった!
    潔もどこかでサッカーしてるといいな

  • 110二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:26:11

     よう。こんにちは、あるいはこんばんは。

     『凛の唄』1周目・最終話まで見届けた観測者たち。

     この世界を最期まで見届けてくれて、感謝する。

     俺は解説役みたいなものだ。本編の糸師冴とは何の関係もない。

     

     物語を完結させるのに1ヶ月もかかってしまったな。長い間追いかけてくれた奴らには感謝する。

     1周目はEND3 宿敵エンドになった。元々このエンドのフラグが多かった上に、最後の分かれ道で悪魔くんを選んだからな。このエンドに確定した。

     このエンドに行く条件は凛に深入りしつつ、”あの果物”を食べないこと。

     凛の宿敵で在り続ける選択肢を選ぶことだな。

     恐らくエンド分岐してから一番長くなるエンドだ。多分。

     このエンドは元ネタの『沙耶の唄』、侵略END(トゥルーエンド)を参考にしている。

     元ネタでも主人公のその後は書かれていない為、世界が凛によって改変された後の潔世一をあまり描写していないぞ。

     このエンドでは悪魔くんの正体、未来時空と凛視点の回想が見られるぞ。他のエンドでは見られないからな。

     世界は大変なことになったが───なんだかんだあの俺や潔世一は上手くやるだろう。恐らく。


     さて、質問の時間だ。俺に答えられる権限があるものは答えてやる。

     まずは、エンディングに関することか?

     残りのエンディングは、惨劇は何も起こらないエンドと、惨劇が起こるエンドだな。あと、3つ全てのエンドを回収したら───おっと、喋り過ぎたな。

     どちらのエンドのヒントを聞く?


     1. 人が死なないエンド

     2. 人が死ぬエンド

    >>111

  • 111二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:34:26

    2. 人が死ぬエンド

  • 112二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:39:35

    >>111


     そっちのエンドか。惨劇が起こるエンドに行きつくには───まあ、人としての道を踏み外すといい。あの果物とかな。後、死神と関わってやれ。

     

     他に聞きてぇことがあるなら、>>120まで答えてやる。俺が答えられるものしか返答しないけどな。

  • 113二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:50:31

    休暇中の凪に仕事をさせる羽目になるのか…

    凛はどうやって"糸師凛"になったんですか?
    記憶とか弄って家族の一因として紛れ込んだのか何らかの手段で赤子として生まれたのか

  • 114二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 23:13:11

    蜂楽はどんな怪物?
    これはルートによっては出てくるのかな

  • 115二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 23:46:28

    もし潔が「目を完全に元に戻す」選択肢を選んでいたらその後の展開はかなり変わる?

  • 116二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 05:53:32

    登場した以外に人外キャラはいるのかな?

  • 117二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 12:19:44

    ⭐︎

  • 118二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 15:28:45

    このエンド"では"未来時空見れるって他エンドでは一体何が…

    凪と玲央は最後まで一緒にいましたか?

  • 119二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 18:58:38

    蜂楽はこのエンドの未来時空でなにしてますか?

  • 120二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 19:09:55

    >>119

    凪もお願い

    この世界の人外が気になる

  • 121二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 21:51:21

    >>113

    偶然通りかかった幸せそうな家族にこっそりついていって、両親が寝てる間に変質能力で物理的に人間の赤ん坊として生まれ変わった。

    自分自身に記憶消去をかけた上で糸師家の次男として産まれたぞ。だから戸籍もある。

    ただ少しずつ記憶は戻ってきたみたいだがな。


    >>114

    本当の正体は匂わす程度だろうな。……本人を呼んだ方が早いか。出番だぞ。

    『いつもニコニコ、あんたの隣に這い寄る蜂楽廻だよ!』

    『え?なんでここに来られるかって?俺が”そういうもの”だからだよ。かいぶつって、正体不明の方が面白いよね』

    ……だそうだ。コイツが享楽主義タイプの邪神で良かったな。


    >>115

    かなり変わる───というか3つのエンドは全て違う展開になるな。


    >>116

    そういえばこのルートではイタリアの奴らが出てきていなかったな。あっちにも一人や二人いるかもしれないぜ。


    >>118

    >>120

    凛が世界を変えたことに気が付いた死神はヤケクソになって、あのカメレオン御曹司が変異する前に保護する形で冥界に連れて行ったぞ。現世の人間を無断で連れ帰ったから上司にしこたま怒られたらしい。


    >>119

    『この時空の俺はドリブルしながら世界一周してたら、凛ちゃんが世界を変えたから。ひとしきり笑った後に潔を探しに行ったよ。どこかでめぐり合える筈!』

  • 122二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:25:39

     次回からは2週目に入る。基本的にEND分岐まで各選択肢を追っていく形になる。
     話が分岐まで飛び飛びになったりするかもしれない。途中参加の奴は1周目を見てきた方が良いかもな。
     もしかすると選択肢次第では一度見たことがある文章や展開も、あるかもしれないな。
     2周目はどのエンドになるのか。次周もお付き合い頂けると嬉しいそうだ。
     また、終幕を迎えた時に会おう。じゃあな。

  • 123二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:48:11

    ありがとうお兄ちゃん
    蜂楽は自由気ままな邪神でありかいぶつってことね

  • 124二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:50:49

    蜂楽いいなあ邪神なのに眩しい

  • 125二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:25:00

    >>107

    元ネタのこのシーン大好きなんですけど、凛ちゃんverも美しくて好きです!

  • 126二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:27:58

    蜂楽それガチ高位の存在では…
    玲王が無事で良かったよ
    イタリアの人外って誰だろう、ロレンツォがゾンビに例えられてるからその辺りかな?

  • 127二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:30:42

    答えてくれてありがとう兄ちゃん!

    凪のヤケクソには笑ったし蜂楽が思っていたよりもビッグな邪神でびっくり

  • 128二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:09:55

    イタリアの人外は見た目的に上位存在ぽいオシャだけどその横にいる一見平凡そうな二子が実は…とかあるかな

  • 129二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 20:10:29

    解説兄ちゃんありがとう
    凛ちゃんさん大多数の人類サイドにしちゃとんでもないことやらかしてくれたけど規模がデカ過ぎるせいか一種の清涼感さえ感じるエンドだったね
    2周目も楽しみに待ってる

  • 130二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 21:02:40

    元ネタ沙耶の唄のタンポポについて言及した良レスがあったのに消えてしまった……

  • 131二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 22:16:52
  • 132二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 22:19:41

    >>131


     ………………選択肢がある章までスキップしました。


     「……凛?夜食に果物とか、何処で見つけてきたんだよ」

     俺に背を向けて果物らしき何かを食べていた凛は、ばっと振り返って俺を見つけると……目を丸くした。不思議な甘い匂いの正体は、凛が夜食に食べていたんだろう果物だった。

     「……お前にはこれが、果物に見えんのか」

     凛の言葉が意味するところを、この時は分かろうとしなかった。

     ただ、そう。己の目に見えている光景を正直に、言った。

     「……?見えるけど。でも果物とか珍しいよな。リクエストしたのか?」

     「してねぇよ。たまたまあっただけだ」

     そう素っ気なく凛は吐き捨てると、残っていた果物を丸呑みして食べた。凛の両頬がリスみたいに膨らんでいる。仏頂面と合わさってじわじわと面白く見えてきた。


     それから俺は凛が食べ終わるのを待って、いつも通り少し話をして、部屋を後にした。

     黒名や氷織たちが寝ている寝室まで帰る道は、ひとりだったから頭が冷えてくる。

     凛が、珍しく食べていたあの夜食。


     1.「今度俺も食べてみたい、かも」


     2.「あの果物も、今まで見たことない果物だったな」


    >>134

  • 133二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 22:20:50

    ヒントもらったし人が死ぬルート目指すか
    1で

  • 134二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 22:24:55
  • 135二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 22:32:49

    >>132の続き


     「今度俺も食べてみたい、かも」

     

     なんだか、凄く美味しそうなにおいがした。

     だから、少しだけ───あれが食べてみたくなった。

     でも。

     頭のどこかが、警鐘を鳴らしている。

     アレを食べてはいけないと。

     

     食べてしまったら、最後。


     二度とは戻れない。

     

     どうしてかは分からないけれど、俺の直感がそう言っている。


     でも、オイシソウだなあ。

     次に見かけた時は、我慢できるだろうか。

  • 136二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 05:28:07

    ⭐︎

  • 137二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 09:51:34

    惨劇ルートはホラーみが増してそう……

  • 138二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 10:05:41

    サッカーのスキルを食ってた潔さんが人間そのものをモグモグしちゃう感じかな?

  • 139二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 18:14:01

    誰が犠牲になるんだ?

  • 140二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 18:44:25

    >>135の続き


     部屋に戻ると、灯りが消えて静まり返っている筈の部屋の一角にほんの少しの光があった。

     みんな寝ている筈だと思っていたけど、途中で起きたやつがいるらしい。

     帰ってきた俺の物音で、起きていた誰かが振り向く。

     氷織だった。どうやらスマホゲームをしていたらしい。

     「おかえり、潔くん。どこ行ってたん?」

     氷織はそのまま物音を立てないように俺に近づいて、小声で話しかけてくる。

     「えっと……眠れなくてちょっと散歩してた」

     なんとなく、夜な夜な凛に会いに行っていることを知られてはいけないような気がしたから。はぐらかした。凛に会っている理由から、俺の視界についての話もしなければいけないことになりそうだったから。

     「ふぅん。潔くん、やっぱり本調子じゃないんやね?本当に大丈夫なん、明々後日はイングランドとの試合やろ?」

     「う、うん……体の調子は問題ないから、やっぱ気分の方かなぁ。まあ、試合中なら大丈夫だと思う」

     年棒と、U-20代表が掛かっている試合だ。視界がおかしくなった程度で放り出している場合じゃない。最近はみんなの姿や距離も判別がつくようになってきた。ここは試合に出るしかない。

     「年棒掛かっとるから、もちろんそっちも大事やけど。無理はせんでね」

     「うん。ありがと、氷織」

     「そういえばさ、ちょっと聞きたいことあるんだけど」

     「なんや?」

     

     「食堂でさ、果物って見かけたことある?」


     少しばかり引っかかっていた疑問だった。

     珍しい、とは言ったけれど。その実一回も食堂のメニューで見たことはなかったからである。

     氷織は僅かに首を傾げて、質問に答える。


     「そういえば見たことあらへんな。誰か食べてたん?」


     「そう。だから気になってさ」

     「僕と潔くんは元々別の棟だったけど、僕のいた棟でも見たことないで。国ごとに棟分かれてからは、もしかしたら別の国の棟で出たりするんかな」

     なんとなくだけれど。

     あの果物は、別の棟の食堂でも出てこない気がした。

  • 141二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 21:50:26

    >>140の続き


     ………………chapter4の選択肢までスキップしました。


     「…………いつ頃、治せるんだよ」

     これ以上その話題には触れたくなかった。凛の正体に、触れる勇気がまだなかった。

     苦し紛れに、別の話題とすり替えようとした。

     「まだ分からねぇ。俺が完全にお前の脳の異常について理解するまではな。ただ、前に”試した”ことがある。明日は必ずここに来い。一時的にだが、お前に見えているバケモンが元の姿に近いように見えるようにしてやる。2日後は試合だろ、お前」

     「……うん。ありがとう、凛。いや、本当にありがとな。ごめん、お前の時間使わせて」

     あの症状が緩和される。

     本当かどうかは分からないけれど、もしそうなるのであれば凛には感謝しかない。放っておいてもいい筈なのに、俺の症状の回復に手を掛けてくれる。凛の性格から考えると非常に珍しいことのように思えた。


     「ごめん凛、ここまでしてもらって悪いんだけど、一つ聞かせて」

     なんだよ、と言いたげに凛は俺を見る。

     俺は凛に聞いた。それは───


     1.「どうして、凛はここまでしてくれるんだ?」

     

     2.「お前は今でも、俺のこと殺したいって思ってる?」

    >>143

  • 142二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 21:58:59

    2

  • 143二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 22:01:49

    違う選択肢見てみるか

  • 144二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 22:27:58

    >>141の続き


     「どうして、凛はここまでしてくれるんだ?」


     流し目で俺を見ていた瞳が、見開かれる。

     凛は意表を突かれたような顔をした後、下を向いてまたまた少し考えた後に答えた。

     「……前も言っただろ。お前がそんな調子なのがキメェだけだ」


     それっきり、凛はスマホを見ることに集中して。俺を視界から排除した。

     キメェ、か……相変わらず口が悪いけど、試合で凛と戦う前ぐらいには。元に戻らなきゃなと思った。

  • 145二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 07:14:10

    2選択した時は元の凛と話してる感じだけど今回は今の凛と話してる感じする
    これでどう変わるんだろ楽しみ

  • 146二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 12:31:21

    潔が人外よりになる可能性もあるのかな?

  • 147二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 18:37:22

    >>144の続き


     ………………chapter5までスキップしました。


     「助けてくれるから、救いがあるからといって。深入りしすぎると……飲み込まれちゃうかもよ。まあ、潔がそれでいいなら。最期まで付き合ってやるっていうなら、別にいいけど」

     

     凪の言葉は、珍しく抽象的だった。何のことを言っているのだろう。恐らく、俺と凛の関係だろうが。そう言うと、凪は用は終わったとばかりに歩き出して俺の横を通り過ぎていく。

     「……まあ、あいつとは最後までの付き合いになるんだろうな。なんとなくだけど、凛は最後まで俺に立ちはだかる気がする」

     凪の忠告に返答するように、俺は言葉を紡いだ。

     

     「そう。でもね、潔。そうやって最期まで一緒にいてくれるって言われたら……”俺たちみたいなの”は、凄く嬉しいんだよ。何があっても、その約束を守りたくなるぐらいに」

     

     背を向けたまま、凪はおそらく自分の心情の一部を俺に教えてくれた。


     「あとね、潔。得体の知れないものは食べない方がいいよ。人間のままでいたいならね」


     え。

     偶然かもしれないけれど、以前あったことを見透かすような言葉に思わず振り返った。

     凪は、もういなかった。

     

     あいつ、何を知っているんだろう。何で知ってるんだろう。

     少しだけ、不気味だった。

  • 148二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:36:34

    >>147の続き


    「ありがとう、凛。今日の試合、視界が良くなってたから前と同じように動けたし。さらに進化したプレーができた」

     昨日とは違って、もうスマホを見ていなかった凛は部屋に入って開口一番そう言った俺を見た。

     「何時頃視界が元に戻った」

     久しぶりに心から笑えたような気がするけれど、さして凛はそれを気にせず聞いてくる。

     「ちょっと試合で無理したから、凛が提示した時間よりも早かったかも。寝てたみたいだし、俺」

     「他に、変なところは」

     「なかった気がする。でも、視界がマシになったら本当に前と同じくらい動けたんだ。だから、進化もできた。ありがとな、凛」

     「……フン」

     俺の言葉に凛は何も返さず、ふと目を逸らしたかと思えば緩やかにベッドに寝転んでしまった。

     「大丈夫か?具合悪いのか?」

     急に寝入ってしまった凛に思わず近づくと、凛の気だるげな瞳と目が合った。

     「……ねみぃ。寝る」

     そう一言言ったきり、凛は瞳を閉じて本格的に寝入ってしまった。

     もしかすると、凛は。

     俺の試合に間に合うよう、無理をして調べてくれていたのではないか?

     もしそうなら、たった今俺の目の前ですやすや眠るライバルは。

     本当に、一生に一度見れるかの珍しく気まぐれなまごころを見せてくれたのかもしれなかった。

     布団もかけずに眠っている凛に、毛布をかけ直してやる。

     ごめんな、ありがとな。

     穏やかな寝息を立て始めた凛を横目に、俺は考える。

     俺は───


     1. この部屋を探索する 

     2.何もせず、凛が起きるまでぼーっとする


    >>150

  • 149二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:42:34

    1

  • 150二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:43:06
  • 151二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 06:17:59

    何がでてくるのか…

  • 152二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 12:40:53

    >>148の続き


     俺は、凛が起きるまでこの部屋を探索することにした。

     思えば、凛と話すのに夢中でまじまじとこの部屋を見たことはなかった気がする。

     まあ、どの部屋だろうが肉塊まみれだから……あまり変わらないのだけれども。

     ただ、最近は慣れてきたのか部屋の構造とかは分かるようになった。

     改めて見てみると、この部屋。他の部屋とは雰囲気が違う気がする。

     俺は小一時間程、この暗い部屋を探索した。

     元々もう使われていない部屋だったから、物は少ない。

     「やっぱ、特に何もないか……」

     ただの暇つぶしにかならなかったな、と思った矢先だった。

     最後にベッドの下を見て回っていたら、俺たちがいつも座るのとは遠い位置にあるベッドの下に……何かある。

     「なんだこれ……え、これって」

     

     出てきたのは、もう熟して腐る寸前みたいな状態になった果物だった。

     

     この正体不明の果物、見覚えがある。

     前、夜食に凛が食べてたやつだ。


     以前匂っていた甘い匂いはもうしない。

     でも、なんでだろう。得体の知れないものなのに、すごく。

     オイシソウダ。

  • 153二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 12:41:30

    >>152の続き


     『あとね、潔。得体の知れないものは食べない方がいいよ。人間のままでいたいならね』


     不意に、凪の言葉が頭を過る。

     でも、オイシソウ。

     

     ”───食べてしまったら、最後。

     二度とは戻れない───”


     この一線は、超えてはいけない。


     オイシソウ。

     食べたい。

     タベテシマイタイ。


     その結果、どうなるかなんて───

     縺ゥ縺?縺」縺ヲ繧ゅ>縺。

     

     

     俺はこの果物を。

     菫コ縺ッ縺薙?クダモノヲ───

     

     1. 食べる

     1. 食ベル

     1. 喰ベル

     1. 蝟ー縺ケ繧


     ………………1. 蝟ー縺ケ繧が自動的ニ選択さㇾまス。

    (鬟溘∋繧九%縺ィ縺励°險ア縺励∪縺帙s)

  • 154二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 13:29:14

    うわああ潔ー!!

  • 155二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 16:11:11

    ヒェッ

  • 156二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 21:53:15

    文字化け復元してみた

    上から順に
    ど??ってもい?
    俺はこ?クダモノヲ…
    喰べ?
    (食べることしか許しません)

    最後だけマルっと復元できて怖くて泣いた

  • 157二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 22:33:01

    >>156 (ギミックに気が付いてくれると嬉しいっすね)

    >>153の続き


     オイシソウ。

     その気持ちに、抗うことはできなかった。


     大きく開いた己の口に、クダモノが吸い込まれる。

     咀嚼した瞬間、果汁が溢れて口元を汚した。

     美味い。美味い。美味い。美味い!

     今まで食べたことのない味がする。

     不味いものだったら吐き出そうと思っていたけれど、噛めば噛むほど味が染み出てくる。

     気が付けば、全て一人で食べきっていた。


     でも、口元が酷く汚れてしまった。

     何か拭くもの───が見つからなかったから、とりあえず袖で拭こうとして。できなかった。

     俺の腕を止めた奴がいたからだった。


     「何人のモンつまみ喰いしてんだ、バカ」


     いつの間にか起きていた凛は、口元を服の袖で拭こうとした俺の腕を掴んで止めていた。

     「あ。凛……ごめん、おいしそうだったから食べちゃった」

     

     そうおどけたように誤魔化すと、凛は心底複雑そうに顔を歪めた。

     マズい。めちゃくちゃ怒ってる。

     「…………本当に、馬鹿だ。お前は。───もう、戻れねぇぞ」

  • 158二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 22:33:45

    >>157の続き


     今しがたの自分の行動について、自分でもおかしなことになっていたなとは思っている。

     殺気のようなものを出していた凛は、不意に諦めたのか。何かを俺の顔面に投げつけてきた。

     「うわっ、なんだよ。ごめんって、そんな怒るなよ」

     凛が投げつけてきたのは、ハンカチのような布だった。

     「うるせぇ、黙れカス。もう遅せぇんだよ馬鹿。それで汚ねぇ顔面でも拭いてろ。念入りにな」


     凛から飛んできたのは暴言の数々だった。本当に、かなり怒っているみたいだった。そんなに、凛もあの果物が好きだったのだろうか。

     この部屋で会う凛は穏やかなことが多かったから、毎度の慣れていた暴言にも新鮮味を感じた。

     凛はそれっきりふて寝してしまって、今晩は口をきいてくれなかった。

     


     ────────────

     

     『あーあ。得体の知れないものは食べるなって言ったのに。はー……めんどくさ』

     『俺、まだレオと人間のまま夢追いたいのに。はぁ…………ほんと、嫌だな』

     『…………まだ待ってくだせーよ。まだあの一般人が完全に魂を汚染された訳じゃないって。それいに、あのモンスターは関わらない方が良いタイプのやつっすよ。最悪冥界に魂が溢れて機能がパンクするから、やめた方が良いと思いまーす』

     『…………随分人間らしくなったなって?まあ、今の肉体は人間ですからな。……私利私欲の為?あちゃー、バレてたか。でも冥界の為ってのも本当っすよ。一番は俺とレオの為だけどさ』

  • 159二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 23:02:10

    これ死神に刈り取られちゃうヤツ?

  • 160二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 23:59:13

    凪の敬語?新鮮
    上司がいる?

  • 161二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 07:14:33

    このレスは削除されています

  • 162二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 13:16:14

    前日譚の凪見るに上司もびっくりの変わり様なんだろうな、今の人間凪

  • 163二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 16:29:44

    ちゃんと拭かないと口の周りとんでもないことになってそうだよね
    凛は本体→人間体になると汚れはきれいになるのかな

  • 164二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 22:24:55

    >>158の続き


     「……あ、潔くん。おかえり」

     「また起きてたんだ、氷織」

     「それは潔くんもやで」

     「耳に痛いな……ほんと、眠れなくてさ」

     ベッドに寝転がりながら、横目で俺を見ていた氷織は不意に改めてこちらを視た。

     そして、怪訝な顔をした。

     「潔くん。口元になんかついてるで。夜食してきたん?悪い子やねぇ」

     「あっ、えーっと……みんなには内緒な?」

     「潔くん。よく見たらそれ、血やん。…………ステーキレアにし過ぎたん?お腹壊さんといてな」

     「え、あ……うんうん、気を付ける。てか、夜のステーキってたまらないよな」

     「罪の味やね。食べ過ぎには注意するんやで」

     「うん……ありがと、おやすみ」

     「ええんや。おやすみ」


     氷織には、俺の口元に付いていたのは血だと見えたらしい。

     今日は夜にステーキなんか食べていない。

     食べたものと言えば───

     俺の目にはクダモノに見えていた。じゃあ、正常な目を持つ氷織には。

     

     何に視えるのだろう。


     ”食べてしまったら、もう戻れない”

     その意味が、ずしりと重くのしかかってきた。

     今夜も、眠れそうにはない。

  • 165二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 23:31:07

    潔まだ踏みとどまれるか…?

  • 166二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 06:46:59

    選択の余地もなく食べちゃったからもしかすると……

  • 167二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 12:48:27

    選択肢の選択が一周目と変わってるから
    その選択肢の中にもぐもぐ選択肢確定フラグとかがあった可能性

  • 168二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 20:19:29

    ⭐︎

  • 169二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 20:36:23

    >>167

    多分あの果実を美味しそうと思う選択肢を選ぶと見つけた時点で自動的に食べるんだと思う

    今回は惨劇ルート狙ってるしこれでいいと思うけども

  • 170二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 22:31:17

    >>164の続き(※もう遅いですが、このルートには元ネタ程度のグロ表現、キャラVSキャラ(ガチ)などが含まれます)


     イタリアとの戦いも、凛が視界をマシにしてくれたからなんとかなった。

     ただ、不思議な点もあった。

     カイザーとネスと、それと二子。

     あの三人は、試合で会った俺に怪訝な目を一瞬向けていた。


     あれだけウザ絡みしてきたカイザーは、それから試合外だと近寄ってさえこなくなった。

     願ったり叶ったりではあるのだけれど、少しおかしい。

     『世一、お前……なんでもない。もう俺に近づくな。もう俺もお前に近づく気はない』

     

     ネスは何も言わなかったけれど、見定めるような鋭い目で俺を見ていた。


     二子は、珍しく前髪をどかして俺を見た。

     「……久しぶりです、潔くん。そっちの道に行くんですね」

     「久しぶり。って、どっちの道だよ?」

     「いずれ分かりますよ。いずれ……」

     そんな、考えさせられるようなことを言った。


     そういえば、不思議なことを言われたのは試合終了してからもそうだった。

     「だぁー、日本人にしちゃスゴイモン喰ってるな。でもグールの類じゃない。OK?」

     「は?グール?」

     「お前は微かに血のにおいがする、OK?」

     「…………まじか」


     思い当たりたくなかったけれど、ここまで言われてしまっては考えに至らざる負えない。

     以前俺が食べた。食べてしまったクダモノは、きっと。

     果物なんかじゃない。

     ……果物じゃないなら?

  • 171二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 22:31:57

    >>170の続き


     血が滴っていたらしいことを考えると、間違いなく何かの肉だ。

     だって、俺には今普通の景色が肉片まみれに見えているんだ。

     なら、異形の姿ではなかったあのクダモノは?


     肉だというなら、凛はどうしてあの場所に隠していた?

     それは、他の奴───人間には、見せられないものだからじゃないのか?


     凛があんなに怒っていたのも、本来俺という人間が食べてはいけないものだったからじゃないのか?


     めくるめく廻る真相考察に、気分が悪くなってきた。


     危険信号を感じながら、それでも食べてしまった自分は…………もう。

     手遅れだ。


     正直、ここまでたどり着いて尚。

     大事にならなければ、凛に会えるなら……それでいいかと感じている自分も、心の片隅にいたのだから。

  • 172二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 22:36:29

    カイザー、ネス、ニ子、ロレンツォは人外ではなくとも人ならぬ存在を知ってる側っぽい?

  • 173二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 22:37:44

    今のところ潔を積極的に排除しようとする人(?)はまだいなさそうだね
    凛についてはどう思ってるんだろう

  • 174二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 06:57:30

    ネスは異名考えるとこの世界線だとガチ魔術師かもしれない

  • 175二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 06:58:46

    う~んゾクゾクする

  • 176二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 07:57:00

    カイザーは天使、ネスは魔術師、ロレンツォはゾンビ?
    二子がわからん遊戯王好きだから召喚士とか?
    ブルロ内外とわず人外に近しい者が結構いるね

  • 177二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 13:38:55

    ロレンツォやカイザー、本国の掃き溜めでグールとか神話生物、怪しげな教団に遭遇したことがある説

  • 178二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 22:27:01

    >>171の続き


     ………………chapter7分岐点までスキップしました。


     「……フン。お前のそれは、まともに見えるモンを見ていないと発狂すんのか?」

     

     どうだろう?ただ、ここ数日間や視界がおかしくなって、初めて凛を見る前の自身の憔悴ぶりを考えると……そうなってもおかしくないのかもしれなかった。

     「考えたくないけど……そうなってもおかしくない状態だったのかも。まあ、目に見える者が化物だらけになってもサッカーは続けるから、発狂まではいかないんじゃね?」

     視界がおかしくなった程度で、俺は止まりたくなかった。折角、世界が夢物語じゃなくて、この目に見えてきたところだったのに。

     視界がおかしくなってもサッカーを続ける。そう宣言した俺に、凛は少し考えた後。

     「お前は……」

     そう言いかけて、やっぱり言葉を引っ込めた。

     「なんだよ?」

     「……なんでもねぇよ。後にする」

     「なんだよ~、気になるじゃん」

     凛にしては歯切れが悪かったそれが、俺は気になったけれど。

     話題をすり替えるように、凛は別の話題を口にした。

     「そういや、お前。アイツには会いに行ったのか」

     「アイツ?」

     「オカッパブンブン丸」

     凛の独特なあだ名から思い浮かんだ顔は、ブルーロックに来てからの相棒だった。

     

     『なんかあったらいつでも言ってね!相棒』


     その以前と変わらない太陽のように明るい声が、脳裏に再生された。

     そういえば、蜂楽と二人きりで話してはいない。

     以前、千切と國神と一緒に練習したきりだった。

     あんなに気さくに言ってくれたのに、未だ俺は視界のことを相棒に相談できずにいる。

     

     「会いに行ってないけど……いいかな。俺、もうあいつに合わせる顔がないよ」

  • 179二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 22:29:01

    >>178の続き


     「……は?」

     困惑しているような、凛の声がぽつりと部屋に響く。

     俺の頭の中は、以前食べてしまったアレのことで満杯だった。

     蜂楽に相談できないまま、ここまで来てしまった。あろうことか、人としての道すら外れた行為をしてしまった。正直、合わせる顔がない。

     それに、怖い。

     恐らく以前食べたアレは、既に死んでいたものだ。誰かによって、殺されたやつを食べた。

     でも、生きているヒトを喰いたくなってしまう可能性だってゼロじゃない。

     おかしいんだ。

     あの日、あのクダモノを食べてしまってから。

     ”もっと喰べたい” ”喰わせろ”

     と、未知なる己の声が聞こえてきていた。

     他人を喰うのはサッカーでの話だった筈だ。それが、いつの間にか物理的な、肉体的な望みに変わっている。

     視界と共に、段々と精神まで蝕まれてしまったのだろうか?

     それとも。あのクダモノを食べてしまったから?


     それとも。


     この”夜”に出会う凛に深入りしてしまったから?


     正直、そんなこと。段々と、どうでもよくなっている自分には気が付いていた。

     かつて言われた『適応能力の天才』が、この状況にも発揮されているとでも言うのだろうか?


     ならば、それに適応しきった時。俺は本当に化け物となるだろう。

  • 180二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 06:43:49

    前ルートでは蜂楽に会えたけど今回のルートはもう戻れないから蜂楽に会えない……?

  • 181二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:22:58

    実際今の状態で蜂楽に会ったらどんな反応されるんだろ
    拒絶はされないだろうけど

  • 182二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:24:36

    蜂楽なら潔が自分で覚悟決めたなら受け入れてくれる気もするんだよな
    蜂楽も人外サイドだし

  • 183二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:00:02

    こっちのルートだとそもそも蜂楽に会えないのか…

  • 184二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 12:37:52

    今の潔は凛に近しい状態?
    クトゥルフ詳しくないんだけど凛と蜂楽って相性どうなのかな

  • 185二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 16:27:27

    凛に投げられたハンカチのような布気になる
    潔にはベッドとかも肉塊に見えてるはずだし

  • 186二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 18:25:38

    蜂楽の正体は這い寄る混沌さんだっけ
    善悪の基準は人間からずれてそうだから潔が道踏み外してもそこまで気にしなさそうではあるが一体どう出るか

  • 187二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 22:29:22

    >>179の続き(※グロ表現注意)


     「なあ、凛。それより一つ……教えてくれないか」

     「……なんだよ」


     「凛が喰ってた。俺も喰っちゃったあの果物って、本当は何?」


     「知りてぇのか。……知っちまって、本当に良いのか?」

     その質問をした瞬間、目を見開いた凛は数秒だけ狼狽えて……俺を睨む。

     「ああ、いいよ。───正直に答えてくれ。……本当は、何だったんだ?」


     微かに揺れる凛の瞳を、見逃さず正面から視る。

     

     「後悔するなよ」

     目が合った後、凛は途端に能面のような……顔があるのに顔を失くしたかのような表情で、告げる。

     

     「ニンゲン」


     「…………凛。それって」


     「ニンゲンだ。俺の喰い残し。殺った後は腐るから、酷ぇことになる前に俺の力で加工した」


     「お前が喰ってたのは、心臓の部分だったか?俺の細胞も混ぜて腐らないようにしてたから、実質ニンゲンの肉じゃなくてクリーチャー肉だな」

    「あの時のお前の顔、ホラー映画と遜色ない有様だったな。血塗れで肉片がこびりついてやがった」


     「言っただろ。”もう戻れねぇ”って。お前自身も分かっている筈だ。人間から遠ざかっていることを」

  • 188二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 22:30:08

    >>187の続き


     凛は、淡々と真実を話す。

     表情が読み取れない顔で。


     「……凛」

     「なんだよ、まだ聞きてぇことがあんのか」

     

     凛の顔には濃い影が差していた。

     薄暗い中でそれを見ていると、飲み込まれてしまいそうなほど真っ黒に見えてくる。


     「凛、お前は……何者なんだ」

  • 189二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 00:55:43

    潔のこのエンドはヤバいルートみたいだけど怖い
    怖いけど見たい
    蜂楽がどう認識してるか気になる

  • 190二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 06:26:54

    ここで凛の正体聞いちゃうのか

  • 191二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 12:51:24

    潔さんは実質「喰ったぞ凛(物理)」をした可能性がある……?

  • 192二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 18:37:52

    凛は今までは潔を治すために動いてたけどどうするのかな?

  • 193二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:50:04

    このままだと見た目も変わっていくのかな

  • 194二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:26:13

    元ゲーでは主人公の見た目は変わってなかったね

    スレ残り少ないから低速でいこう

  • 195二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:29:53

    >>188の続き


     昏いターコイズブルーの双眸が俺を突き刺している。

     それは、今まで深く考えることや、追及することを避けていたことだった。

     明確に。

     それを聞いてしまえば、今までの関係でいられないと感じていたから。

     

     「これ以上は、お前の生命にも関わるぞ。まあ、もう遅せぇんだけどな」

     「それでもいい。……本当の、お前のことを教えろよ。凛」


     俺を突き刺す瞳を、刺し返した。綺麗ないろをしていた凛のそれは、今向かい合ってみると。

     吸い込まれそうな深海のいろだ。どこまでも、ふかいふかい深淵のいろ。溺れてしまいそうだった。

     「…………分かった。後にするのはやめだ。今から俺もお前に聞くことがある。その返答次第じゃ、答えてやる」

  • 196二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:43:59
  • 197二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:49:32

    不穏だ

  • 198二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:50:10

    >>196


    文字化け復元↓

    にセーブ完�


    文字化けしてないところもバグってて怖いよお!

  • 199二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:52:58

    そろそろヤバイ事件起こりそうでドキドキしてきた

  • 200二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:58:59

    うめた

オススメ

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