【クロス】世にもキヴォトスな商品カタログ 1.5

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:08:52
  • 2二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:09:29

    『世にも奇妙な商品カタログ』原作です。


    世にも奇妙な商品カタログ | 本 | 角川つばさ文庫tsubasabunko.jp
  • 3二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:09:57

    とりあえず10まで埋めます

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:10:10

    ホスト規制は許さん

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:10:34

    縦乙

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:10:46

    加速

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:11:05

    やはりマイナーの宿命
    過疎すぎて落ちる

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:11:27

    今度こそみんなが興味持ってくれるといいなぁ

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:11:50

    そんな願いを込めて、続きから綴っていきましょう。

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:12:09

    それから少しして、

    カタッ
    キー、キー、キー

    小窓の板がきしんだ音をたてて、シャッターを開けるようにゆっくり開いた。

    『おまたせしましたあ。チョコミントのシングル、250円です』

    小窓の中には、注文したチョコミントのアイスが、アイススタンドの輪っかにコーンを刺して、立て置かれていた。
    アイリは、アイススタンドの横に置かれたガラスのトレーに、値段ちょうどのお金を乗せて、アイスを受け取った。
    そのとき……
    小窓の中に、何か、動くものが見えた。
    なんだろうか、とアイリは小窓を覗き込む。

    「(えっ……?)」

    アイリは目を見開いた。
    そこにいたのは、白くて、小さくて、丸っこい……一体の雪だるまだったのだ。
    雪だるまがくりんと首を動かして、小窓の中からこちらを見る。
    小さな雪だるまの、点のような目と、アイリの目が合った、次の瞬間。
    小窓の板がカタンと落ちて、窓が閉まった。

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:12:55

    試供品はギウォトスで使う想定をされているのか

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 10:16:56

    >>11

    一応、商品はキヴォトスで使うのに不都合な場合、使えるように設定を少し改変することにしています。

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 12:32:43

    本当に困るよなホスト規制

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 19:02:09

    少しの間、アイリはその場に立ち尽くした。
    ラジカセから流れる音楽と。
    北風の音と。
    そして、チョコミントアイスの甘くて透き通る匂いの中で。

    「……あっ、そうだ、アイスクリーム!」

    アイリはハッと我に返って、チョコミントアイスに目を落とした。
    アイスには、舞い落ちた雪の粒がところどころ、トッピングのようにくっついていて、それがお店の電球に照らされ、キラキラ輝いていた。

    「……とりあえず、食べてみよう。」

    さっき見えたもののことは気になる。すごく、気になるけども。
    でも、このアイスクリームの味だって、同じくらい気になることなのだ。
    ぱくり。
    と、アイリはアイスクリームにかぶりつく。
    程よい柔らかさのアイスが、舌の中で溶けていく。
    甘さと冷たさとチョコミントの味が、口いっぱいに広がる。
    ごくり。と、アイリはそれを飲み込んだ。
    ほんの少し溶け残ったアイスクリームの、冷たい感触が、喉の奥を滑り落ちていった。

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 19:02:19

    「………」

    アイリは、一口かじったアイスクリームをじっと見つめた。
    声にならない美味しさだった。
    二口め、三口め……アイリは夢中でアイスにかぶりつく。
    しゃぐっ。とろり。
    柔らかくて、滑らかで、それでいて何処か氷っぽい、絶妙な食感。
    こんなアイスクリームは、今まで食べたことがない。
    しゃぐっ。しゃぐっ。とろり。
    ぺろ。とろり。ごくん。
    なんとも不思議な口どけだ。もしも、アイスクリームが果物の一種だったら、その果肉をかじった歯ざわりと、口の中いっぱいに溢れ出す果汁は、きっとこんな感じなのだろう……

    そうして、アイリはあっという間に、チョコミントアイスをたいらげた。
    食べ終わる時には、すっかり身体が冷え切っていた。
    帰り道、アイリは震えながら、自販機で温かいコーンスープを買った。

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 21:18:14

    寮に帰っても、アイリはぼんやりと、【冬しか買えないアイスクリーム】のアイス屋さんの事を考えていた。
    あのチョコミント、アイスの味。
    思い出しただけで、涎が出そうになる。
    あんなにおいしいアイスクリームがこの世にあったなんて……

    「また絶対に行かなくちゃ。今度はなんのアイスにしようかなぁ。ミルクもバニラも食べたいし、ラズベリーも……」

    まだ知らないその味を想像して、アイリは顔を綻ばせる。

    「それにしても……」

    アイリは、ふと頬を引き締めた。

    「あれは一体、何だったんだろう?」

    小窓の外にいた、あの小さな雪だるま。
    一瞬ちらりと見えただけだったけど、あの雪だるまは、動いていた。
    生きている雪だるま。
    普通に考えたら、そんなことありえない。
    でも、でも。

    「あんなに美味しいアイスクリームを作れるんだし、もしかして作ってるのは人間じゃなくて、雪の精だったりするんじゃないかな?」

    そう。
    雪の精は小さな雪だるまのような姿をしていて、それで。
    大好きな絵本の中で、とびきり美味しい桜餅を作っていたのが、桜の精だったように。
    雪の精は、アイスクリームみたいな冷たいお菓子を、うんと上手に作ることができるのだ。

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 23:57:18

    アイリは空想する。
    あのお店の中では、小さな雪だるまの形をした雪の精が、甘い匂いに囲まれて、色とりどりのアイスクリームを作っている。そんな光景を。
    牛乳や生クリーム、お砂糖をボウルに入れ、泡だて器でカシャカシャとかき混ぜる雪だるま。
    材料が混ざったら、つぶした果物や、キャラメルソースやチョコチップを加え、隠し味に、キラキラと光る雪の結晶をスプーン1杯。
    仕上げにひゅうっと冷たい息を吹きかけて、雪だるまはアイスクリームを凍らせる。
    そうすることで、他の店では絶対に味わえない、あの、何とも言えない口どけのアイスクリームが出来上がる……!

    なんてことつらつらと考えていたら、またごくり、と喉が鳴った。

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 07:35:45

    それからというもの、アイリは毎日のように、【冬しか買えないアイスクリーム】のお店に通った。
    勿論、放課後スイーツ部の面々を誘って、一緒に行くこともあった。
    けれど、そのお店のアイスは、買える時もあれば買えない時もあった。
    雪の降る日や、雪が降ってもおかしくない日なら、お店は必ず開いている。でも、冬にしては暖かい日だと、それだけで、お店は閉まってしまうのだ。

    「(きっと、雪だるまだから、少しの暖かさにも弱いのかな)」

    アイスを買えなくて帰る日も、アイリはそう考えて、心をときめかせた。

    「(春になったらお店は消えてなくなっちゃうって、ラズベリーアイスを食べていた女の子は言ってたな。あれもきっと、本当の事なんだ)」

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 17:05:02

    保守

  • 20二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 22:39:53

    雪だるまの形をした雪の精は、雪の精なので、暖かさや暑さに弱い。
    だから春が来てしまったら、もうその場所にはいられない。
    春になったら、雪の精は何処に行ってしまうのか。
    ここよりもっと北の方にある国だろうか?それとも、雪の精達が住む常冬の世界だろうか。

    「(ふふっ……)」

    アイリはわくわくしていた。
    考えれば考えるほど、【冬しか買えないアイスクリーム】のお店は、やっぱり雪の精のアイス屋さんなのだと思えて仕方なかった。
    だけれど、何度お店に行っても、それを確かめる事は出来ずにいた。
    あれ以来、小さな雪だるまが、アイリの前に顔をのぞかせることは二度となかった。
    それでも、アイスクリームを受け取る時に、アイリは必ず小窓の中を覗き込んでみるのだが、小さく狭い窓からでは、どうしても、中の様子がわからない。

    「(だけどそれを言い換えれば、あのお店で働く人間の店員さんを、一度も見たことがないって事だし)」

    つまりそれは、あの店の店員が、普段は客に姿を見せないよう、隠れているという事では無いだろうか?
    アイリが最初に店を訪れた時には、たまたま何かの事情で、うっかり窓の外を覗いて、姿を見せてしまったのかもしれない。
    そう考えてみると、自分の想像は、やっぱり当たっているんじゃないかと思えてくる。

    「(確かめたい)」

    想像。空想。それだけで終わるのは嫌だ。
    今回ばかりは、現実であってほしい。
    スイーツ部のみんなに雪だるまの事を話しても、誰も信じてくれないし。
    メルヘンチックでファンタジックな絵本の世界と、この現実の世界とが、ぜんぜんまったく行き来できない別のものじゃないと確かめたい。

    「(……でも。相手が隠してるものを、こっちの勝手で暴くのは、やっぱりいけないことだよね。……でも……)」

    確かめたい。いや、見ちゃいけない。
    2つの気持ちがアイリの中でせめぎ合いながら、どんどん大きく膨らんでいった。

  • 21二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 07:26:42

    あ、新スレ立ってたんだ

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 16:50:41

    そんなある日のことだった。
    その日も、アイリはいつものようにお店に向かった。

    「今日は雪が降ってるから、お店は間違いなく開いてる!」

    とつぶやきながら、白い息を弾ませて、アイスクリームを買いに行く。
    この日、アイリは一つ、あることを決意していた。

    「(今日こそ、二段重ねのアイスクリームに挑戦するんだ……!)」

    その決意を胸に、アイリは雪の中で拳を握る。
    今日はとても寒い日だけれど。でも、天気予報を見てみると、明日から気温が上がって、これから春めいた暖かさが続きそうなのだ。
    そうなると、暫くの間、あのお店は閉まってしまうかも。
    それどころか、もしかしたら、この冬にあのお店でアイスクリームを買えるのは、今日が最後かもしれない。
    そんな事を考えて、今日はどうしても、二段のアイスを食べておきたくなったのだ。
    店に着いたアイリは、小窓の横のインターフォンに、迷うことなく注文をする。

    「チョコミントとラズベリーのダブル、両方チョコチップありでお願いします!」

    『はあい、かしこまりましたぁ。……あっ』

    アイリの注文に、店の人は、何故か言葉を詰まらせた。
    どうしたんだろうと思っていると、

    『ごめんなさあい。ただいま、チョコミントが売り切れでして。でも、ちょうど今、材料が届いたところですので、少しお時間いただければ、すぐにお作りいたしますよぉ。』

    それを聞いたアイリは、なあんだ、と胸を撫で下ろした。

    「はい、大丈夫です。お願いします!」

  • 23二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 20:37:44

    『かしこまりましたあ。それでは、少々お待ちくださいねぇ』

    インターフォンの通話がプツッと切れる。
    アイリは、布張りの屋根の下で、お店の壁に背を向けた。
    そのとき、ふと、店の中に止まっている、一台のバイクに気がついた。
    荷台のある宅配バイクだ。恐らく、材料を届けに来たのだろう。
    そう思っていると、店の裏から、ドアが開く音がした。
    アイリはドキリとする。

    「(だ、だれだろう……もしかして、お店の人?それとも……)」

    アイリはこっそり、店の裏の方を覗き見てみた。
    すると。
    そこにいたのは、作業着を着た男性だった。
    その人はよほど寒いのか、作業着の上から分厚いマフラーを巻いていて、やけに目深なヘルメットとマフラーで、顔がすっかり隠れていた。
    その人は裏口のドアに風をかけて、その鍵をポケットに入れながら、店のそばに止められた宅配バイクに歩み寄る。

    「(あの人が、アイスの材料を届けに来たのかな……)」

    このお店の人と、顔なじみの業者さんなのだろうか。
    だとしたら、あの人に尋ねてみれば、このお店の人のことが聞けるかも……?
    そう考えてもみたが、話しかけようかどうしようか、アイリが迷っているうちに、その男性はエンジンをかけたバイクに跨った。
    その拍子に、ズボンのポケットから鍵が零れ落ちた。

  • 24二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 00:53:01

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 09:59:49

    鍵はチャリンと地面に落っこちた。
    男性はそれに気付かず、バイクに乗って行ってしまった。

    「………」

    バイクが見えなくなったあと、アイリは男性が落としていった鍵に近づいた。
    徐ろに手を伸ばし、その鍵を拾い上げる。
    鍵を持ったまま、アイリはそろり、そろりと店の裏に回り込み、裏口のドアの前で立ち止まった。
    鍵の先をドアへと向けて、それを見つめながら、大きく息を吸い込む。
    わかっている。
    この鍵を勝手に使ってドアを開けるなんて、いけないことだ。
    この鍵は、アイスクリームを受け取るときに、お店の人に渡せばいい。この店のドアの鍵なのだから。
    鍵を落としたのはバイクに乗った配達員さんだが、とりあえずこの人に渡しておけば、いずれまた、鍵はあの人に渡させるだろう。

    「(あ……でもこれって、本当にこのドアの鍵なのかな?)」

    アイリは、はたと思った。
    もしも、配達員さんの持っていた鍵が、一つではなかったら?このドアを開けた鍵と、落とした鍵が別のものだったら?
    そうだ、そういう可能性だって、無くはない……絶対に無いとは、言い切れない。

    「ま、間違った鍵を渡したら、大変だもんね……」

    自分に言い聞かせるように、アイリは声に出した。

  • 26二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 10:24:06

    ここは一応、確かめておく必要がある。
    この鍵で、この裏口のドアが、本当に開けられるのかどうか。
    うん、そうだそうだ。とアイリは一人で頷き、目の前のドアの鍵穴に、ゆっくりと鍵を差し込んだ。
    鍵を回してみる。
    カチリ、と手応えがあった。
    恐る恐るドアノブを回すと、ドアは、かすかなきしみを上げて、内側開いた。
    ……うん。この鍵は、このドアの鍵に間違いないようだ。
    ほんの少し、隙間ができるまで開けたところで、アイリはドアを押す手を止める。
    さて、それじゃあ……どうするか。

    「(考えてみれば、勝手にドアを開けておいて、声もかけずにまた買ったにドアを閉めるなんて、それはそれで失礼だよね)」

    そうだ。それならいっそ、このまま中に入って、店の人に声をかけて、勝手にドアを開けてごめんなさいと頭を下げて、鍵を返したほうがいいかもしれない。
    自分のその考えに、アイリはまた一人で納得した。
    軋むドアを開いて、アイリはそっと中に入る。
    店の中は、入り口近くは薄暗く、奥の方には明かりはあった。
    灰色の天井に取り付けられた、殺風景な蛍光灯の明かり。
    その明かりの下には。

    「………え?」

  • 27二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 17:25:31

    アイリは、小さく声を漏らした。
    明かりの下に、人の姿はなかった。
    雪だるまもいなかった。
    蛍光灯の明かりに照らされていたのは、天井まで届くほど大きな、一台の機械だった。
    見たこともないその機械は、真ん中あたりが一部分、ぽっかりと空洞になっていた。
    これは……いったい、なんなのだろう。
    わけもわからず、アイリはただ立ちすくむ。
    その時、機械から駆動音が鳴って、機械の側面から、ワイヤーのようなものが出てきた。
    ワイヤーのようなものの先端は、クレーンゲームのアームのような形になっていた。
    そのアームが、そばに置かれたクーラーボックスのフタを開けて、中身を取り出す。
    アイリは、思わず息を呑んだ。

  • 28二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 22:51:11

    一応保守

  • 29二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 23:02:05

    保守

  • 30二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 08:44:16

    アイリは、思わず息を飲んだ。
    クーラーボックスから取り出されたもの。
    それは、雪だるまだった。
    片手に乗るくらいの、小さな雪だるま。
    その雪だるまは、動いていた。
    見間違いではない。アーム付きのワイヤーに掴まれて、そこから逃れようと、もぞもぞともがいていた。
    大きな機械のてっぺんの部分がパカリと開く。
    アーム付きのワイヤーが、掴んだ雪だるまをそこに放り込む。
    一つ、二つ、三つ………クーラーボックスから、次々と雪だるまが取り出され、機械の中へと放り込まれていく。
    そうして、十体くらいの雪だるまを詰め込んだあと、機械のてっぺん部分は、元通りにパタンと閉じた。
    同時に、ミキサーを回した時のような音が、店の中に響く。
    その中に、いくつもの悲鳴が混じって聞こえた。

    ガ、ガ、ガーーー……………

    キャーーアァァーーー……………

    それを聞けば、機械の中で何が起こっているのか、想像するのは容易かった。

    ガ、ガ、ガーーー……………

    キャー……アァァ………

    ミキサーの音が滑らかになっていくにつれて、その中に混じる悲鳴は、だんだんと弱々しく、かすかなものになっていった。
    やがて、悲鳴が全く聞こえなくなると、ミキサーの音も鳴り止んだ。
    数秒間、店の中が静まり返る。
    その直後。
    機械の真ん中の空洞部分に、ポトン、とアイスのコーンが落ちてきた。
    続けて、コーンの上にアイスクリームの玉が二つ、ポン!ポン!と勢いよく落ちてきて、それはそれは見事にバランスがとれた、二段重ねのアイスになった。

  • 31二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 11:02:38

    アーム付きのワイヤーが、またしゅるしゅると伸びて、コーンを掴み、機械の空洞からアイスを取り出す。
    小窓の内側にセットされた、アイススタンドの輪っかの中に、アームがコーンを挿し入れる。
    アームがコーンを離すと同時に、それとはまた別のアームが、カタつく小窓の板をゆっくりと持ち上げた。

    『お待たせしましたあ。チョコミントとラズベリーのダブル、チョコチップありです。四百円です。』

    大きな機械のどこからか、声が流れる。
    聞き慣れたその声は、インターフォンを通さず聞いても、いつもと同じ雑音混じりの音声だった。
    そのとき、小窓の側で何かが動いた。
    アイリがそちらに目を向けると、そこには、必死に窓によじ登ろうとしている、一体の雪だるまの姿があった。
    どうやら、先程いつの間にか、箱から一体だけ逃げ出してきたようだ。
    雪だるまは開いた箱から、外へ逃げ出そうとしていた。
    しかし、それを察知したらしい大きな機械はすかさずしゅるりとアームを伸ばし、雪だるまを捕まえた。
    アームは雪だるまを元通り箱の中にしまって、箱のフタをパタンと閉めた。

    「(ああ………)」

    アイリは、ふらりと一歩よろめいた。
    この店の中でアイスクリームを作っていたもの。
    それは、小さな雪だるまでも、雪の精でも、人間でもなかった。
    この〈アイスクリーム自動製造販売機〉だったのだ。
    そして……そして……いつも夢中で食べていた、あのたまらない口どけの、とびきりおいしいアイスクリームの正体は…………
    アイリは、ふと横を見た。
    そこには、クーラーボックスの空箱が、いくつも積み重ねられていて、箱の全てに、『この商品について』と書かれた、同じ紙が貼られていた。

  • 32二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 11:11:39

    【生きている雪だるま】一箱30体入りセット

    真冬の雪国で捕れた、活きのいい雪だるまは、アイスクリームの材料に最適です。
    旬の季節の雪だるまをふんだんに使うことで、他にはない独特な口どけのアイスクリームが出来上がります。

    ※注意※
    本品を使用して作ったアイスクリームは、少しのあたたかさでも非常に溶けやすいものになりますので、販売時期に充分お気をつけください。
    雪が降るくらい寒い気温の時のみ、それを販売することを強く推奨いたします。




    ふらふらとした足取りで、アイリは店の外に出た。
    見ると、サンプルケースの上に開いた小窓の中に、アイリの注文したアイスクリームが、まだ立て置かれたままになっていた。
    チョコミントとラズベリーの、二段重ね。
    その上の段になっている、ラズベリーアイスに乗っているチョコチップのうち、一際大きな二つが、一瞬、こちらをじろりと睨む、雪だるまの目のように見えた。

  • 33二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 11:25:05

    のぞニエアフタートーク【冬しか買えないアイスクリーム】

    のぞめ「ニエノさーん!」

    ニエノ「はーい」

    のぞめ「何が好きー?」

    ニエノ「……………よく考えたら、ぼく、アイス食べたことないですね……」

    のぞめ「悲しいこと言わないでよ……じゃあ、今日はニエノさんの初アイス記念日ってことで!31行くよ!」

    ニエノ「何にしようかな……」

  • 34二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 16:24:40

    ルビィちゃんがのぞめ、歩夢ちゃんがニエノだとすると、四季ちゃんは……
    コモリさんは多分ダウナーボイスなお姉様、叶はどっちかというと活発系、千影様はダウナーだけどそもそも声がニエノと同じ、光凪は論外か……

  • 35二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:01:10

    中々面白かった

  • 36二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 23:49:55

    アイスクリームは人によってウエッ度合いが異なるから難しそうね

  • 37二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 09:07:21

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 18:57:00

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 23:22:55

    前スレから読ませて貰ってるけど、立て直しなら元のスレタイ混ぜるとかせんと検索し辛いのよな…このカテは比較的回転早い部類だし、掲示板自体も検索し辛いので
    ファンタジー要素をブルアカの世界観で上手い事調理出来てるか否かよね。学園都市だからこそ殺人と身分偽装なんかは怪しいが、狂った金銭感覚や自他問わず直接手を汚さないようなゴア表現は結構あるからそこんとこもっと欲しいわ

  • 40二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 00:12:02

    >>39

    なるほど……参考にします。

    あと、そもそも落とさないように頑張ります。

  • 41二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 09:04:01

    次のターゲットは誰にしようか……
    またモブちゃん使うのもいいけど、できればプレイアブルとかにしたい

  • 42二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 18:37:44

    保守

  • 43二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 18:40:53

    成程ねぇ、こっからか

    紙の方はあんま無さげな感じ?まぁシリーズ完結した児童書なんかそうそう取り扱わんのだろうけど、古本でも中々見かけないから電子版買うしか無いか

    鍋用闇 - 世にも奇妙な商品カタログ【ホラー短編集】(ジュウジロウ) - カクヨム「友達」から「死神」まで。摩訶不思議なアイテム、取り揃えております。kakuyomu.jp
  • 44二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 18:45:04

    >>43

    こんなもんあったんか、読も


    数年前に最終巻が出てるので、今から買うなら電子版のほうがいいですね……

  • 45二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 20:56:15

    なろうの方にも原作者の他作品やsf短編ありますねぇ!正直、ネタ被ってたり要所が雑な〝子供騙し〟感が強い作品も多いけど、致命的な破綻は無いし可愛げのある露悪要素も多くて楽しめたわ










    …でも共食いに関してはもっと耽美的且つ退廃的で葛藤や自己欺瞞なんかを丁寧に描写して欲しかったな、カニバ好きとしてはそこら辺が物足りないというか…

  • 46二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:25:28

    このレスは削除されています

  • 47二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:26:11

    冬アイスアイリが好きで、でもカクヨムやなろうのとはオチに差異があるんだけど、文庫版の方はどっちに近いんすかね?このスレのss通りなら良さそうなんだが

  • 48二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:34:48

    >>47

    文庫版に寄せて書いています!

  • 49二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 22:50:15

    >>48

    買うか…児童書籍……!いや必ずしもweb版が悪いとはお地蔵様も言わなかったけどこの話はね…無情感がキモだから(個人の感想)

  • 50二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:08:34

    【??金魚『赤』 ターゲット:阿慈谷ヒフミ】

    とある秋の休日。
    トリニティ領にある山の中にある名も無い池に、その一団は訪れていた。

    「この池か……」

    「ふうん。見たところ、普通のため池みたいだな。」

    「こんな所に、本当に『アレ』がいるんでしょうか?」

    「さあ、どうだろうね。目撃情報は相次いでるけど。」

    「不思議だよね。海ならまだしも、山で『アレ』を見たなんて……」

    「まあ、じっくり調べてみようじゃないか。ほら君たち、カメラの用意を!」

    「では、私たちはこの網を……」

    「いやあ、楽しみですね。噂が本当なら、捕獲できるかはともかく、一目見てみたいなあ。」

    「ええ、まったく。」

    メンバーの一人が、池にカメラを向けながら言う。

    「我ら『珍種同好会』と言えど、この中でこの中で『アレ』を見たことがある人なんて、流石に誰もいませんものね。」

    キヴォトスの珍しい生き物を追い求める『珍種同好会』。
    彼ら彼女らが、何故この池に来ているのか。
    話は、夏の終わりにさかのぼる。

  • 51二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:26:51

    >>49

    おおー、ありがとうございます!

    楽しんでいただけると幸いです!


    ※私は『世にも奇妙な商品カタログ』の作者ではなく、つばさ文庫の人間でもありません。ただの一ファンです。

    『世にも奇妙な商品カタログ』を読んでくれる人が出てきてくれてとても嬉しいです。

  • 52二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:35:00

    お労しやアイリ上・・・
    とてもかわいそ面白かった

  • 53二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:51:39

    「はあ………」

    阿慈谷ヒフミは悩んでいた。
    悩みの原因は、彼女の部屋である。
    ヒフミの部屋は、大好きなモモフレンズのグッズ、特に『ペロロ』というニワトリのようなキャラクターのグッズでいっぱいだ。
    ヒフミは最近までこの部屋をとても気に入っていたし、この部屋に不満はなかった。
    そう、最近までは。

    「疲れたなぁ……」

    そう……彼女の身に起こっていたのは、オタクの7割が経験する現象……『推し疲れ』である。
    推し疲れとは読んで字のごとし、推し活に疲れてしまうこと。
    『推しの供給に追いつかない』『運営に不満』『ファン同士のマウント合戦』『三年目のジンクス』等、理由は様々。
    今回のヒフミは、『推しの供給に追いつかない』『運営に不満』のパターンだ。
    最近はモモフレンズのイベントやゲリラライブが多く、ヒフミはその度にキヴォトス中を駆け回った。
    先週なんて、一週間のうち6回もイベントがあったのである。
    それだけのイベントとなると、いくらトリニティに通うヒフミでも出費が痛いし、知らない場所を歩くことも多いしで、疲労困憊になってしまう。
    更には、行ったイベントのうち半分くらいは、告知もなく中止していたりする。
    イベント運営会社を変えたようだが、その会社はかなり職務怠慢がひどく、告知せずに中止するし、開催しても会場の飾り付けがお粗末だし、グッズの状態も悪い……
    この前、キレた同志たちと共に運営会社を襲撃したので、その辺はまた変わるかもしれないが。
    兎に角、そのような要因が重なって、ヒフミは推し疲れを起こしてしまったのだ。

  • 54二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 00:13:05

    推し疲れ状態になったヒフミが出した結論……それは推し疲れの一番メジャーな解決方法、『しばらく距離を置いてみよう』だった。
    この方法を初めてネットで見た時は、これまでの情熱的な推し活の日々を思い出し、「ありえない」と考えていたヒフミであったが、過去に推し疲れを患っていた友達に話を聞いてみたところ、「とても効果がある」との回答があった。
    そんな助言もあり、ヒフミは今回、『モモフレンズと距離を置く』ことにしたのであった。
    さて、部屋に話を戻そう。
    さっき言った通り、ヒフミの部屋はモモフレンズのグッズだらけである。
    自分の部屋なので、距離を置こうとしても目に入ってくるのだ。
    そこでヒフミは、部屋中にあるモモフレンズのグッズのうち殆どを、一旦部屋の物置に移すことにした。
    だが何しろ、長い間推し活をしてきたヒフミの部屋だ、グッズの数が多い。
    そして勿論、大事なグッズなので、最大限の除菌をしてから収納する。
    そうして重労働を終えたヒフミが、先程の声を発したのである。

    「グッズはしまったけど……部屋が寂しくなっちゃったなあ……」

    グッズをほぼしまい終えたヒフミの部屋は、必要な家具と最低限のグッズ以外ほぼ無い、ミニマリストもどきのような部屋になっていた。
    え?グッズがあるなら離れられてない?ヒフミからしたら十分離れているんだよ。

    「……せっかくだから、今まで部屋に置かなかったようなものを置いてみよう。」

    ……寂しさに悩んだ末、ヒフミは『新しい家具を一つ買って、模様替えをしよう』という結論に至った。

  • 55二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 20:31:24

    保守しとく

  • 56二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 23:11:37

    そう思って部屋から出た矢先。
    寮の玄関にあるポストを見てみると、ヒフミの部屋宛てのポストに、一枚のチラシが入っていた。
    ショッキング・ピンクに縁取られたチラシで、いったい何の広告かと思ったら、それは近所に新しくオープンした、ペットショップのチラシだった。

    【当店は『珍種』専門のペットショップです。
    見たことも 聞いたこともないような 珍しい生き物を
    多数 取り揃えて お待ちしております。】

    チラシを読んだヒフミは、考えを巡らせる。

    「ペットショップ……ペットかぁ……」

    トリニティ寮では、ペットは禁止されていない。
    勿論、許可は取らなければならないが。

    「(珍種っていうくらいだし、飼育が難しそう。でも、その方が熱中できるかもしれないし…………よし、行くだけ行ってみよう。)」

    どうせ何も決まってないし、とりあえず見に行ってみよう。
    ヒフミはそう心に決め、チラシに書かれた地図を見て、さっそく店のある場所へ向かったのだった。

  • 57二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 07:32:45

    『珍種』専門のペットショップは、街の裏通りにある小さな店だった。
    入口から中を見てみると、生き物の気配は勿論そこここにあるが、ひと気はない。

    「いかにも、マニア向け……入っても大丈夫かなぁ……」

    そんな印象を呟きながら、それでもヒフミは店の中に入った。

    「わぁ……すごい。本当に、見たことも聞いたこともない生き物ばかり……」

    店内を見回すと、所狭しと並べられた商品たち。
    それらはどれも、ヒフミの想像以上に『珍種』だった。
    瞳の色が全て違う、八つ目の黒猫。
    鈴虫の声で鳴くウサギ。
    人間と同じくらい大きなカタツムリ。
    頭だけが鳥そっくりのくちばしがある蛇。

    「こんな生き物が、本当にいるんだ……!」

    店の中を見回すうちに、ヒフミは楽しくなってきた。
    そうするうちにやがて、沢山の水槽が並べられたコーナーに辿りついた。

  • 58二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 15:15:00

    水槽の中の魚たちと、水槽の横に貼られた説明書きを、ヒフミは一つ一つじっくりと眺め、読んでいく。
    虹色のウロコを持つ小魚は、
    【水槽の中に全長20〜25cmの虹を一日一匹につき約10個生み出します。別売りの専用餌を食べさせることによって、金色や銀色の混ざった虹を生ませることもできます。】
    というものらしい。

    一枚の鏡が入った水槽の中にいる、複雑な模様が細かな部分まで全く同じ魚の群れは、
    【水槽の中に、この魚一匹と鏡を入れておくと、翌日には二匹、さらに翌日には四匹……と、一日立つごとに、魚の数が前日の二倍に増えていきます。
    ※二枚以上の鏡を合わせ鏡にして水槽に入れることは、絶対におやめください。】
    というものらしい。

    水の入っていない、フタのついた水槽の中を、羽衣のような長いヒレを揺らしながら泳いでいる魚は、
    【画期的!空中で生きられる『無水魚』。面倒な水質管理も必要なく、水槽のお手入れも簡単。初心者の方におすすめです。】
    というものらしい。

  • 59二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:23:25

    保守

  • 60二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 07:34:14

    ヒフミは目を丸くした。
    これはもはや、珍種というより異常種では……?

    「どういうお店なの、ここ……!?」

    呆然として、思わずそう呟いた、その時。

    「如何ですか?うちの商品は」

    いきなり背後から声をかけられ、ヒフミは驚いて振り返った。
    そこにはいつの間にか、店員とおぼしき男が立っていた。

    「(……妙な格好だなあ。『珍種』の中には、あまり顔をさらさないほうがいいものもあるのかな。)」

    と、その姿を見て、ヒフミはそう思った。
    制服らしきエプロンを身に着けたその男は、店の中だというのに、日よけのついた帽子をかぶり、分厚いマフラーを巻いていたのだ。
    薄暗い店内でそんな格好をしているせいか、男の顔は濃い影になっていた。
    いくら目を凝らしても、その顔立ちが全くわからない程に。

    「(もしかしたら、そういう種族なのかな?)」

    とも思ったりする。
    ヒフミに対して、店員の男は再び口を開く。その口元は、やはり見えないが。

  • 61二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 15:23:58

    「うちの『珍種』は、どれもこれも、他の店には決して置いていないような、珍しいものばかりでしょう?」

    「えーと、よくわからりませんけど、そんな感じしますよね……」

    ヒフミは、水槽の横に貼られた説明書きに、ちらと目をやって、

    「この説明書きに書かれていることって、本当なんですか?」

    「おや、信じられませんか?」

    それでは。と、顔の見えない店員は、一つ水槽のフタを外して、中の魚を取り出した。
    説明書きに『無水魚』と書かれた魚。
    それが入れられていた水槽は、外から見ると、確かに水が入っていないように見えていた。だけど、水槽に何か仕掛けがあるだけかもしれない、とヒフミは疑っていたのである。
    はたして、網に捕らえられたその魚は、店員が網の口を開けた途端、ふわりと宙に浮き上がり、長いヒレをひらりひらりと、優雅に揺らして空中を泳ぎ始めた。

    「どうです?正真正銘、本物の『無水魚』でしょう?」

    店員は言ったが、ヒフミはもはやその言葉も耳に入らず、目の前を泳ぐ世にも珍しい魚の姿に、ただただ見入るだけだった。
    しばらくして、店員はさっと網をふるい、『無水魚』を捕まえ、またもとの水槽に戻した。

  • 62二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 15:55:13

    「お気に召しましたか?」

    店員の問いに、ヒフミは深々と頷いた。
    すごい。こんな珍しい生き物が本当に存在していたとは……
    この珍しい生き物を飼って、推し疲れが治っても、新しい趣味が出来るのもいいかもしれない。
    ヒフミはもう殆ど、ここの珍種を飼う気になっていた。
    ……しかし。

    「ちょっと高いかな……」

    そう言って、ヒフミはため息をついた。
    『無水魚』の水槽に書かれた値段は、ゼロが異常な程並んでいた。
    それはヒフミの貯金をはたいても、ギリギリ足りないくらいの金額だった。
    他の魚も、魚以外の生き物も、似たようなものだった。
    こういう店で扱っている品は、思った通り、並外れて高価なものばかりらしい。
    それでもヒフミはあきらめきれず、ダメで元々、という気持ちで店員に尋ねた。

    「もう少しだけ、お安いものはありますか……?」

  • 6325/05/23(金) 22:46:13

    保守

  • 64二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 08:20:24

    朝保守

  • 65二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 18:05:14

    「それでしたら……」

    こちらへどうぞ。と、店員はヒフミを店の奥へと案内した。
    付いていくと、そこには大きな棚があり、棚の中には様々な色の金魚が入った金魚鉢が並んでいた。
    金魚鉢にはそれぞれ、番号が振られている。
    そしてその横に、

    【金魚ガチャ 1回三万円】

    と書かれた板が立て掛けられている、カプセルトイがあった。
    ヒフミは棚に近づいて、金魚たちを覗き込んだ。
    花びらのような大きなウロコをはためかせて泳ぐ、桃色の金魚。
    キラキラと輝く星屑のような模様をまとった、夜色の金魚。
    身体がとろりと骨まで透けた、蜂蜜色の金魚。
    ぬいぐるみのようにふわふわした毛に覆われた、真っ白な金魚。
    そして、見たところ何の変哲もない、赤い金魚。

    「こちらはお一人様一回となっておりますが、比較的安価で、珍しい金魚たちが手に入りますよ。」

    店員の言葉に、ヒフミはなるほどと頷いた。
    三万円くらいならパッと出せる。
    なにより初心者なうえ、先程まで迷いっぱなしだったヒフミには、飼いやすい金魚が、ガチャでランダムに決まるというのがありがたい。
    そう考え、ヒフミは店員に三万円を払い、ガチャを回す事にした。

  • 66二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 18:24:38

    ヒフミは店員から貰った専用のメダルをカプセルトイに入れ、ハンドルを回す。
    最近オープンした店だから当たり前だが、カプセルトイはちゃんと新品のようで、特にガタつく事もなくガコンと回った。
    出てきたカプセルを開けてみると、【13】と書かれた札が入っていた。
    対応する【13】の金魚鉢の中を泳いでいたのは……なんの変哲もない、赤い金魚であった。

    「今のところ、本当に何の変哲もない金魚だなぁ……」

    部屋に帰って金魚鉢を置いたヒフミは、そう呟いた。
    店員は、

    「ご安心ください。その金魚もちゃんと『珍種』ですから。どんな金魚なのかは……お客様自身で確かめてみてください。この金魚は、なんでも食べますよ。例えば、鮭の切り身とかね。」

    と言っていた。
    一応、そのアドバイス?を聞いたヒフミは、帰りに鮭の切り身を買ってきていた。

    「金魚って、多分鮭は食べないよね……大丈夫かな……?」

    そう思いながら、ヒフミは鮭の切り身を小さく切って、金魚鉢の中に入れた。
    すると、赤い金魚がすごい速さで切り身に近づき、口を大きく開けて、
    ぱくん!
    と、切り身を飲み込んだ。
    次の瞬間、思いも寄らない事が起きた。
    金魚鉢の中の金魚が一瞬光ったかと思うと、跡形もなく姿を消したのだ。

    「えっ!?」

    ヒフミは思わず大きな声を上げ、目を大きく見開いた。
    それもそのはず。
    なんと、さっきまで金魚が泳いでいたはずの金魚鉢には、大きな「鮭の切り身」が泳いでいたからだ。

  • 67二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 01:58:20

    保守

  • 68二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 10:04:02

    訂正です。
    大きな鮭の切り身が泳いでいた✕
    鮭が泳いでいた◯

    金魚一匹入れるには大きな金魚鉢だなと思ったが、これを見越していたのか。

    「ということは……」

    ヒフミは部屋の台所へ行き、冷蔵庫からチーズを取り出して、小さくちぎって金魚鉢に入れた。

    「エサですよ〜」

    チーズに、鮭が、ふいよふいよと寄ってきた。
    鮭は、チーズに食いつくように、勢いよくぶつかった。
    その瞬間、体が一瞬光ったかと思うと、みるみるうちに色が黄色になり、小さくなり……四角いチーズになった。

    「わあ〜!そういうことだったんだ!」

    と、ヒフミは頷く。
    鮭の切り身を食べた金魚は鮭に変身し、チーズを食べて、今度はチーズに変身した。

    『珍種』専門のペットショップ。
    そこで手にいれた、一匹の赤い金魚。
    その姿は、食べたものの姿に変身する、世にも珍しい『変身金魚』だったのだ。

  • 69二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 18:57:23

    保守

  • 70二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 21:08:36

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 01:35:38

    「こんなにもすごい生き物だったなんて……!」

    変身金魚の事を知り、ヒフミは先程から興奮が収まらない。
    『あのペットショップに巡り会えてよかった』と、心から思った。
    その姿は、昨日まで推し疲れに悩んでいたとは思えない、生き生きとした姿だった。





    それから約2週間後。
    あれからヒフミは、色んな種類の餌を金魚に与え、実験し、観察した。
    近所のスーパーで買ってきた、サンマ、イワシ、キンメダイ等の魚や、ウニ、イカ、タコ、エビ、サザエ等の魚以外の魚介類、鶏肉、豚肉等の陸生物のお肉、果ては野菜、果物等の植物まで……
    【変身金魚】は、それらを好き嫌いせず、何でも食べた。
    そしてちゃんと、食べたものの姿に変身した。
    最初にチーズになった時点でほぼ確信していたが、どうやら食べ物なら何でも食べ、変身するようだ。
    どんな姿になっても、元は金魚なので、水からは上がれないようだが、例えば『水の中を泳ぐニワトリ』となれば、それはそれで珍しい。
    また、まだ生きている状態の生き物でも変身するのか試してみた。
    『カエル肉が絶品』と聞いてわざわざトリニティ領の池にカエルを獲りに来た美食研究会からカエルを強奪し、「エサですよ!」と言って金魚にあげる。
    すると、生きたままの餌でも、金魚は問題なく食べて、その餌の姿に変身した。

  • 72二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 09:49:21

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 19:35:47

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 23:26:31

    その他に分かったことは、この金魚はとても人間に慣れているということだった。
    金魚は、なんでも構わず食べる。
    けれど、ヒフミが間違って金魚鉢に入れたものを、勝手に食べたりはしない。
    どうやら金魚は、人の手でやった餌しか食べないようだ。
    ヒフミが「エサですよ〜」と言うと、金魚は声のする方によってきて、ヒフミが放り込んだ餌だけを、いつも間違いなく食べるのである。
    それに、ヒフミが補修やその他の用事で忙しくして、丸一日ほど餌をあげられなかった時も、金魚は弱った様子も見せずに、元気にしていた。
    えり好みせず色々食べて、専用の水槽等もいらず、人に慣れていて、うっかり餌を上げ忘れても死にはしない。

    「珍しいだけじゃなく、なんて飼いやすい生き物なんだろう」

    つくづくいいものを手に入れた。
    そう思いながら、ヒフミは今はネズミの姿になっている金魚に「エサですよ〜」と声をかけた。
    そして、買ってきた新たな餌を、また金魚鉢の中に放り込んだ。

  • 75二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 08:35:30

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 13:50:38

    次の日。
    2週間以上経って、推し疲れもだんだん無くなってきたので、ヒフミは閉まっていたモモフレンズのグッズや家具を出し、ついでに模様替えとして、以前と違う場所に並べた。
    ウェーブキャットのソファに、ビッグブラザーの布団カバー、アングリーアデリーの時計、そしてヒフミのお気に入り、ペロロの抱き枕。
    他にも沢山ある家具を全て配置し直し、ヒフミらしい部屋が戻ってきた。
    そしてその部屋には新しい仲間、今はニワトリの姿をしている『変身金魚』もいる。
    その部屋で、白い鳥であるペロロと、同じく白い鳥であるニワトリを見ていたヒフミは、『あること』を思いついた。
    そしてリュックの中を確認すると、その中からあるものを取り出した。

    「え、エサですよ〜…………」

    ヒフミが取り出したのは、ペロロのステッカー。
    食べ物ではないそれを、金魚鉢の中に入れたのである。
    よく考えたら、食べ物ではないものを金魚に与えた事はない。
    もしこれを金魚が食べて変身すれば、ペロロ様と触れ合えるのでは?
    と、ヒフミは思ったのだ。

    「………」

    放り込まれた餌を見て、金魚は困惑したような感じでうろうろする。

    「……やっぱり、駄目だよね。うん。」

    流石に食べ物ですらないものは食べるわけがない。
    ヒフミがステッカーを取り出そうと、金魚鉢に手を伸ばしたとき。

  • 77二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 13:56:41

    「!」

    金魚がステッカーに、パクっと食いついた。
    そして何度か咀嚼するかのように、頭を動かす。
    そして、金魚の体がパアッと光ったと思った、次の瞬間。

    「……わぁ〜!」

    金魚鉢の中には、べろを出した白い鳥。
    「ペロロ」が、そこにいた。

    「すごい!本当にペロロ様になった!」

    が、流石にペロロは大きかったようで、金魚鉢が圧力に耐えられず、壊れてしまった。
    まずい。
    姿が変わろうと元が金魚なので、水のない環境では生きられない。

    「ふんっ!死なせませんよペロロ様!こんなこともあろうかと、浴槽に水を張っておきましたから!」

    トリニティ寮には、一部屋につき一つ、ユニットバスがある。
    ヒフミはペロロを抱きかかえると、水をためておいた浴槽の中に、ペロロを入れる。
    水のある環境で落ち着いたようで、ペロロの姿をした金魚は、気持ちよさそうにしている。

  • 78二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 21:02:29

    「よーし……」

    ヒフミは服を脱ぐと、浴槽の中に沈むペロロに抱きついた。
    その感触はまさに羽毛といった感じで、ヒフミが思い浮かべているイメージそっくりだった。

    「あはは……天国かも……」

    推し疲れを治してくれるだけでなく、新たな推し方まで教えてくれる。
    本当に、なんていいものを買ったのだろう。
    ヒフミはペットショップに対して、何度目かわからない感謝をした。

  • 79二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 23:54:58

    ほしゅ

  • 80二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:56:34

    ステッカーから羽毛を再現するのは凄い

  • 81二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:12:42

    エッッ

  • 82二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 15:06:07

    ヒフミが反動でイカれておる

  • 83二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 23:17:16

    ある日、モモフレンズ公式が、新たなモモフレンズキャラクターを発表した。
    その名も、マミーホエール。
    その名の通りクジラで、身体はモモフレンズの中でも一番大きい。
    世話焼きで、みんなから頼りにされているお母さんというキャラ設定らしい。
    新キャラの発表ということで、ヒフミはとても喜んだ。
    モモフレンズの公式ショップで3枚1セットのマミーホエールのステッカーを配布しているとの情報が発信されていたので、ヒフミはすぐにそこに向かい、ステッカーをゲットした。
    勿論、複数店舗を回って、沢山手に入れた。
    合計六つだ。

    「自分用と、これはアズサちゃん、これはコハルちゃん、これはハナコちゃん、これは先生の分!」

    そして、残った一つの使い道のため、ヒフミは山奥にあるため池にやって来た。
    ため池とその周りには、ヒフミ以外の人はいなかった。

    「よーし、ここなら……」

    人がいないため池は、今からやる『お楽しみ実験』におあつらえ向きだ。
    ヒフミは、持ってきたバケツを地面に置いた。その中には、手ごろな大きさの魚に変身させた【変身金魚】が入っている。
    そして、ヒフミのトレードマークであるペロロのリュックサックの中から、マミーホエールのステッカーを取り出した。

    「この大きさの池なら、きっと大丈夫ですよね。」

    【変身金魚】は、はたしてクジラのような大きな魚にも変身できるのか?
    それを確かめるため、ヒフミは今日この池にやって来たのだ。
    もし実験が成功して、金魚がクジラに変身したときの事を考えると、まさか部屋の中で試すわけにはいかないし、人目につく場所でもまずいと思ったからである。

  • 84二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 23:19:52

    ヒフミはステッカーをちらつかせて、

    「エサですよ〜」

    とバケツの中の金魚に呼びかける。
    その声を聞いた金魚はたちまち水面に浮き上がり、水の中から顔を出して、口を開ける。
    その口に、ヒフミはマミーホエールのステッカーを近づけた。

    ぱくん!

    と、金魚はステッカーに食いついて、そのままたいらげた。

    ぷくり

    金魚の体が少しずつ膨らむ。
    ヒフミは急いで、バケツの中の水ごと、金魚を池に流し入れた。
    金魚はすぐに、バケツに入り切らないほど大きくなった。
    むくむく、むくむくと、どんどん大きくなりながら、【変身金魚】は、色も形も変えていく。
    程なくして、【変身】が終わったとき。
    ヒフミの目の前に現れたのは、紛れもなく、一頭のクジラだった。

  • 85二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 07:55:39

    (エデン時のマコトにこれが渡ってなくてよかった……)

  • 86二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 16:06:57

    募集

  • 87二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:13:21

    >>85

    マコトに似合う商品か

    例えば「神様の皮」とか?

  • 88二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 01:08:33

    >>87

    合いそう

  • 89二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 01:09:09

    罪滅ぼしの剣なんて使おうものならキヴォトスから人がいなくなってしまう

  • 90二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 07:30:38

    >>89

    キヴォトスには犯罪者しかいないとでも言うのか


    ……そうだな

  • 91二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 12:55:57

    >>87

    背中を見られたら終わりなのが良いな

    宗教が作られそうだしイブキに着せてみようとは考えなさそう

  • 92二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 13:10:20

    マコトはそういう明らかにやべーもんは雷帝の遺産と同じような扱いしそうだなーとも思う

  • 93二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 22:01:28

    イブキに合いそうな商品はなんだろ

  • 94二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 22:09:53

    遅くなってすみません更新します


    クジラを入れた池の水は、池の淵から幾らかあふれて、地面とヒフミの服を濡らしていた。池の向こう岸は、クジラの体に隠れて、全く見えなくなっていた。

    「やった……!リアルマミーホエールさんだ!」

    まるで船のようなクジラを前に、ヒフミは叫んだ。
    【変身金魚】は、巨大なクジラにも、ちゃんと変身できるのだ。
    それを確かめられて、ヒフミは大いに満足した。

    「どんな感じなんだろう……」

    ヒフミは、クジラに触れてみた。
    その感触は……恐らく、クジラのそれなのだろう。
    ヒフミはクジラに触れたことがないので、わからないが。

    「よーし、明日はみんなも連れてこよう!」

    『どうせなら最高のインパクトを与えたい』という考えから、ヒフミは今まで補習授業部の仲間たちに【変身金魚】の事を教えていなかった。
    別に独占したいわけではなく、ただ、こういうものはインパクトが大事というだけである。

    「さて……一旦、帰りましょう!」

    そう言って、ヒフミは持ってきたクーラーボックスを開けた。
    そこには、手頃な大きさの魚のパック。
    クジラのような大きな姿のままでは、【変身金魚】を持ち歩けないので、持ち帰る時のための変身用に、持ってきたのだ。

  • 95二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 22:23:04

    これを食べさせれば、金魚は再び、バケツに入るくらいの大きさの魚に変身する。

    「エサですよ〜!」

    ヒフミは魚を手に持って、クジラの姿をしている金魚に呼びかけた。
    ヒフミの声を聞いて、クジラの金魚は、ゆっくりと振り向いた。
    クジラの金魚は、ざぶんざぶんと、大きな波をたてながら、ヒフミのいる岸へと向かってくる。
    そうして、岸まで辿り着いたクジラの金魚は、餌を持つヒフミに向かって口を開けた。
    大きなその口の中に、ヒフミは餌の魚を放り込もうとした、その時だった。
    ヒフミの目の前を、一匹の蝶が、ひらりと横切った。
    黒い羽に、ショッキング・ピンクの紋様を纏った蝶。
    こんな蝶、見たことも聞いたこともない。

    「わあ、綺麗な蝶!」

    思わず声を上げると同時に、ヒフミはその蝶を捕まえようと、手を伸ばし、身を乗り出した。
    蝶はひらりと、それをかわす。
    そしてヒフミはその拍子に、濡れた地面で、ずるり、と身を滑らせた。

    「あ」

    と、声を漏らした時には、もう遅い。
    魚を手に持ったまま、滑って転んで落ちた先は、ぽっかりと開いた、クジラの口の中だった。

  • 96二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 22:25:18

    それからというもの。
    その山の中のため池では、こんな噂が囁かれるようになった。

    「ねえ、ねえ、知ってる?あの池には、人魚が住んでるんだって」

  • 97二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 22:44:08

    のぞニエアフタートーク【??金魚『赤』】

    ニエノ「この商品を買ったお客さん、何故か必ずクジラを作ろうとするんですよね。」

    のぞめ「大きい生き物はロマンだからね。それに、ため池に行ってくれるから、こっちとしても転ばせやすくて楽でいい。」

    ニエノ「そうですかね?ぼくは怖い印象しかありません……あの影の化け物のせいで……(文庫本四巻参照)」

    のぞめ「あーそっか……それは仕方ない。じゃあ、この話おしまい!あと一つ【失望】を集めれば、願いを一つ叶えられるんだから、気合い入れていくよ!」

    ニエノ「そうですね、頑張りましょう。お客さんの目星はついていますか?」

    のぞめ「うん。トリニティにはお世話になったけど、最後の子は別の学校にいるから、やり残した事があったらやっておいてね!」

    ニエノ「大丈夫ですよ。今すぐにでも行きましょう。」

  • 98二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 00:22:44

    ついにネームドがタヒんだ……

  • 99二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 08:36:30

    地獄行きチケットはゲヘナと相性が良さそう

  • 100二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 10:04:15

    【試供品 記憶消去ボタン ターゲット:黒崎コユキ】

    「ああああ……ヤバい……!」

    コユキは焦っていた。
    と言っても、別に珍しい理由でもない。
    いつものように、横領がバレそうというだけである。
    いつもセミナーの予算を横領しては捕まっているコユキだが、何度やっても、捕まるのはイヤな事だ。

    「ユウカ先輩の小言は長いし……ノア先輩は怖いし……逃げたらネル先輩が飛んでくる……どうしよう……」

    何度目かわからない絶体絶命を前に、コユキはおろおろする事しかできない。
    とりあえずミレニアムサイエンススクールの敷地内に隠れてはいるが、見つかるのも時間の問題だろう……

    「ねえ、そこで何してるの?」

    と、コユキの前に、一人の少女が現れた。
    ショッキング・ピンクのパーカーを着た銀髪の少女で、右目には黒地にショッキング・ピンクの蝶をあしらった眼帯をつけている。
    背丈からして、コユキと同い年くらいだろうか。

    「(ミレニアムにこんな子いたっけ……?)」

    という疑問が出てくるが、まあ、それよりも。

    「ちょっと隠れる必要があって……見つかるとまずいので、どこかに行ってくれませんか?」

    こうやって話している最中にも、ユウカが来るかもしれない。
    コユキは少女を追い払おうと冷たい態度をとるが、少女は退かないどころか、こんなことを言ってきた。

    「ねえ……人の記憶を消す道具、使ってみない?」

  • 101二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 19:51:30

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 23:39:15

    「記憶を消す道具?」

    「そう!ボタン一つで、誰にも気づかれずに記憶を消せるの!しかも、片手で持ち運べるくらい小さいんだよ!」

    いやいや、そんなわけないでしょ……と、コユキは思った。
    ミレニアムには一応、記憶消去の技術があるそうだが、『知ったら絶対にとんでもないことになるから、コユキに教えてはいけない』という掟のせいで、コユキは記憶消去について殆どのことを知らない。
    だがそんなコユキでも、いくらなんでも『誰にも気づかれず』『ボタン一つで記憶を消せて』、『片手で持ち運べるくらい小さい道具』なんてものはないということくらいは分かる。
    人によって脳の作りは違うんだから、対象を安静にして脳波と波長を合わせるくらいのことは必要だろうし、そうなると機器も大きくなるだろう。
    片手で持ち歩けるほどの大きさにするような技術なんてものは、キヴォトスではまだ開発されていない。
    怪しい。怪しすぎる。

    「……詐欺ですか?」

    「そう思うのも無理はないかー……でも、これ本当だから!これ、受け取って!」

    「え、ちょっ!?」

    少女はコユキに、小さな箱を押しつけるように渡した。
    箱には、【記憶消去ボタン】と書かれたラベルが貼られていた。

  • 103二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 08:32:00

    試供品でどうやって失望させるのか、期待

  • 104二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 16:40:45

    「いやあの!……あれ?」

    コユキが少女から一瞬目をそらして、また見たときには、少女はどこかに消えていた。
    コユキは【記憶消去ボタン】と書かれたラベルが貼られてある小箱を、じっと見る。
    小箱に貼られた【記憶消去ボタン】と書かれたラベルは、フタを留めておく封の役割も兼ねていた。

    「本当だとは、思いませんけど……」

    コユキはそっとラベルを剥がし、箱を開けた。
    箱の中には、ラベルに書かれた名前の通り、小さなボタンが一つ入っていた。
    四角く平べったい台のついた、丸い押しボタン式の装置。
    ボタン部分の下には、小さなパネルと、文字と空欄があった。
    パネルに表示されているのは、【1日】という日数で、上下にある文字と空欄は『【過去】の[  ]の記憶を消去』というものだ。

  • 105二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 21:55:22

    保守

  • 106二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 00:46:37

    試供品は罠の説明がないのがミソよね

  • 107二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 10:21:07

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 12:21:10

    まとめて読むと、

    『過去【1日】の[  ]の記憶を消去』

    となっている。
    四角い台の側面には、小さなレバーが付いていた。
    そのレバーを動かしてみると、カシャンという音とともに、ボタン下にあるパネルの表示が【1日】から【1ヶ月】に切り変わった。
    もう一度動かしてみると、パネルは【1年】に。
    更にもう一度動かしてみると、【10年】に。
    その次には【100年】になって、その後、パネルの表示はまた【1日】に戻った。

    「なるほど、レバーでパネルの表示を操作して、今からどれくらい前までの記憶を消すかを設定できるみたいですね。」

    ただ、パネルに表示される日数、年月は、合わせて5種類しかないので、細かい時間の指定はできない。

    「にしても100年って……そこまで多くの記憶を消去するなら、絶対こんな小さなボタンじゃだめでしょ……」

    ぶつぶつと言いつつ、コユキは装置を裏返してみた。

  • 109二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 18:42:39

    ほしゅ

  • 110二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 00:07:21

    装置の裏側には、ツルツルした紙が貼られていて、隅っこを爪で少し引っ掻くと、紙は簡単に剥がれてめくれた。その紙の剥がれ方は、よく知っている感触だった。

    「装置の裏側は、シールになってるんですね。つまり、これを貼った相手の記憶を消すって事ですかねぇ……?」

    以上の情報と想像から、コユキは【記憶消去ボタン】の使用方法を推理し始めた。
    おそらくは……

    ①パネルの表示を消したい日数、年月に合わせて5種類の中から選び、
    ②ボタンの下の空欄に、消したい記憶に関わるキーワードを書き込んで、
    ③記憶を消したい相手に装置をくっつけて、
    ④この装置は【記憶消去ボタン】であるから、最後はもちろん、ボタンを押す!

    このような手段で、記憶を消去するのだろう。
    この装置の取扱説明書は小箱に入っていないので、この使い方で正解かはわからないが。

    「いやいや……」

    流石に怪しい……とコユキは思った。
    こんな小さな機械で記憶を消せるのかだけでも怪しいのに、消したい年月や記憶の種類まで指定できるなんて……

  • 111二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 09:51:13

    ほす

  • 112二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 17:34:22

    どう失望させるのかねー

  • 113二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 20:06:11

    ちなみに箱のフタの裏には、

    試供品につき1回限り使用可能

    と書いてあった。

    「1度限りかー……もしこれが本当に記憶を消せて、何度も使えれば、ユウカ先輩たちから横領に関する記憶を沢山消せていいんだけどなー……」

    「誰の記憶を消すって?」

    「そりゃユウカ先輩ですよー。怖いんですから……ん?」

    空ボタンの下の空欄に[黒崎コユキによる横領]と書いていたコユキが手を止めて、声が聞こえた方向を見ると……

    ……そこには、笑顔だが青筋を立てている早瀬ユウカの姿があった。

    「ウワアアァァァァ!?!?!?」

    「コ〜ユ〜キ〜!!」

    ユウカは銃を構え、コユキを捕まえようと迫ってくる。

    「こうなったら……!」

    コユキは、【記憶消去ボタン】の裏面のカバーを剥がし取った。
    そしてそれを素早くユウカの太ももに貼り付け、ボタンを押した。

  • 114二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 23:46:31

    ふぉす

  • 115二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 08:26:24

    ほす

  • 116二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 08:57:57

    その瞬間、ユウカの身体が電気ショックを受けたかのように震え、倒れた。
    その拍子に、【記憶消去ボタン】は、ユウカの太ももからはずれて、地面に転がる。

    「ええっ!?ユ、ユウカ先輩、大丈夫で……」

    「う〜ん……あれ、コユキ?あれ、えっと……私、なんでここに来たんだっけ……」

    ユウカのヘイローは点滅しているが、消えては居ないので、どうやら無事らしい。
    どうやらユウカは記憶が混濁しているらしく、コユキを捕まえるためにここに来た事を忘れているらしい。
    そうと決まれば、やることは一つ。
    コユキは冷静ボタンを拾い、言う。

    「ゲーム開発部がまた変なことやってるから調べに来たって、さっき言ってたじゃないですか?」

    丁度近くにゲーム開発部の面々がいたので、彼女らに囮になって貰おう。

    「えぇ……?そうだったかしら?……まぁ、言われるとそんな気もしてきたわね……」

    「でしょ?では私はこれから予定があるので、バイバイです!はっちゃー!!」

    「速っ……行っちゃった……そんなに急ぎの用事があったの……?まあ、いいか。ゲーム開発部ー!」

  • 117二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 08:58:07

    「すごい……!すごい、これ……!」

    ユウカから逃げおおせたコユキは、興奮した顔でミレニアムの路地裏に隠れていた。
    まさか本当に記憶を消せるとは。
    試供品ゆえ、1回しか使えないのが残念だ。しかし、試供品ということは、正式な商品としての【記憶消去ボタン】もあるはず。
    もう一度あの子に会って、商品の注文方法を聞こう。
    そして今度から、横領したお金であれを買おう。
    そうすれば、ユウカに横領の事実がバレることはない。

    「ついに、この黒崎コユキの時代がやってくるぞー!」

    コユキは路地裏で、誰にも見られないガッツポーズをとった。

  • 118二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 15:32:03

    1週間後。
    教室で弁当を食べていたコユキの所に、ユウカがやってきた。

    「コユキ〜?ちょっと聞きたいことがあるんだけど〜?」

    ユウカの顔を見たコユキは、弁当を喉に詰まらせそうになった。
    あの顔は、怒っているのを隠している笑顔だ……
    だがしかし、コユキは確かに、ユウカに対して『過去【1ヶ月】の[コユキによる横領]の記憶を消去』したのだ。
    念の為、最近は大人しくしていたから、大丈夫なはず……

    「(なのに……なんだろう、この違和感は……?)な、なんですか〜?最近は悪いことしてないですけど〜?」

    「……あんた、また横領したでしょ。」

  • 119二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 15:32:17

    「(!?)ゴホッゴホッ……や、やだなぁ……私が横領なんてする人間に見えるんですか?」

    ユウカの迫力にも負けず、コユキはあくまで知らんぷり。
    だが、ユウカはそれも見越していたらしい。

    「しらを切る気?あんたが一ヶ月前に予算に手を付けたこと、覚えてるんだからね?」

    「え!?その記憶は消したはず……あっ」

    「へ〜え?てことはやっぱり何かしたのね?」

    ここまで来たらもう手遅れかもしれないが、一応コユキは抗う。

    「いやその……その時にユウカ先輩、恐ろしいものを見たじゃないですか。だからヴェリタスに頼んで記憶を消したんですよ……?」

    「何バカな言い訳使ってるの……過去1ヶ月、記憶の所々にモヤがあったから、何か忘れているのかもしれないと思って、お金の流れを調べたら、あんたの横領が発覚したのよ!」

    記憶は消せても、記録は残る。
    ユウカが一枚上手だったのと、コユキが杜撰だったせいで、【記憶消去ボタン】は、大した働きをしなかったのである。

    「サヨナラー!!!」

    「逃がすかぁ!」

    「うあぁああああーなんでー!!」

    コユキの絶叫は、ミレニアム中に響いたという……

  • 120二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 15:42:49

    のぞニエアフタートーク【記憶消去ボタン】

    のぞめ「いやー、予想通り♪【記憶消去ボタン】はあくまで人の記憶を消せるだけ。機械の記録は、ちゃんと消さないとねぇ?」

    ニエノ「監視カメラとか、大変ですよね……のぞめさんの『道引手』がなければ、今頃逮捕されてもおかしくないですから。」

    のぞめ「人気ナンバーワンオプションの名は伊達じゃないってことだね。」

    ※道引手の説明
    道引手はのぞめのトランクから出てくる沢山の黒い手であり、これに捕まってトランクに入ることで、『場所』『時間』更には『世界線』問わず、どこにでも移動できる。

  • 121二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 23:20:34

    保守
    そろそろエピローグで終わりかな?

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