- 1二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:49:46
特別な人で、特異だった。
塾帰りに何となしに寄ったカフェで、センパイは働いていた。勉強を教えてもらうことがあった。自習室のサービスの一環で、上級生が応答役を務めていることがあった。センパイのかみ砕き方は塾の先生よりも理解を容易にしてくれて、だからこそ彼女を覚えていた。
「親がいないから、自分でなんとかしないとね」
翌日、私の質問にセンパイは苦笑交じりで答えた。己のデリカシーのなさを謝罪した。いいのよと言ってくれた。ハイバリーに通いながら苦学の道を歩む彼女は、自分にはないものを確かに持っていた。落ち着いた物腰と、忙しい中でも丁寧に生きる姿勢。自立した生き方や、過酷な状況でも前向きな姿勢。心酔とまではいかなくとも、素直に憧れた。勉強は分かりやすく教えてくれるし、よく見ると整った目鼻立ちだった。
彼女の働くカフェに通ったり、放課後に話しかけたりしたが、どこか距離を保たれていた。今考えれば、単に生活や卒業後に向けた就職活動からくる忙しさによるものだったろうが、当時の私はそれすら「先輩の大人っぽさ」と解釈していた。
ある日、センパイのアパートに忘れ物の参考書を届けに行った。質素な部屋。洗濯物の山。冷蔵庫に貼られたシフト表。「普通の苦労」を垣間見て、それすら「かっこいい」と感じた。「そんな大したことじゃないよ」と、どこか寂しそうな表情があった。
1年後、センパイは高校を卒業し、希望通りコロニー内の行政機関に就職した。公務員として"安定した"生活を始めていた。私は2年生になって、学校生活を続けていた。
街のショッピング・モールで、偶然再会した。スーツ姿のセンパイは、以前のような輝きを失い、どこか疲れた表情でだった。声をかけると、笑顔を見せてくれたけど、話すことは仕事の愚痴や休日の予定など、平凡なものばかりだった。
私は戸惑う。憧れていた先輩は、特別な存在ではなく、ただの社会人として日々をこなしているだけだった。「安定って大事だよ。派手じゃないけど、悪くない」と語ったが、空虚に響いた。「センパイはもっとすごい人になると思ってた」口にせずとも心の中で感じ、失望とまではいかないが、胸に苦いものが広がった。
自分の将来を考える。センパイの「普通さ」は、彼女が戦った結果手に入れた平穏だと当然気づいている。「そんな普通でいいのかな」自問する。葛藤を抱えたまま、夜のコロニーの街を歩き続けた。