- 1二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:16:54
- 2二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:18:06
朱に染まる桜並木のトンネルをそよ風のように駆けていく。心地よい排気音が気分を落ち着かせてくれる。
「カレン〜!ヘーキ!?きつかったり寒かったりしない!?」
「うんっ!全然ヘーキだよ!むしろあったかいよ〜!」
「温かい?もう春だけど今日はちょっと寒いと思うんだけどなぁ〜」
本当はちょっぴり寒い。寒いけど大好きなお兄ちゃんの大きな背中が私の心をじんわり暖かくしていた。その暖かさを更に得ようと腰に回す腕の力が強くなる。
「んォっ!ちょっとキッ…カレンやっぱ寒かったか!?」
「ううん!違うの!…でももうちょっとこうさせて…?」
「…?危ないからちょっとは離れてくれよ?」
速度を緩めて寒さを抑えようとするのを引き留める。しかし先程よりは確実に速度を落としていた、がムリに私を離すことはしなかった。
(やっぱり優しいなぁ…けどそこがまた私がお兄ちゃんを好きにさせるんだよね…)
そういえば昔兄さんと自転車で二人乗りしたときもこんなだったかな、なんて思い出しながら体をさらにお兄ちゃんの背に預けた。 - 3二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:19:21
「お兄ちゃん!来たよ〜!」
「おっ!今日も早いな!」
先週でのフィリーズレビューを終え次走の葵ステークスに向けての調整メニューを考えていると、カレンが授業を終えてトレーナー室にやってきた。
「おっそうだ 今日は何の日だか知ってるか!」
「3月31日?ん〜…あっ!カレンの誕生日!」
「お誕生日おめっとさん!今年でもういくつになるんだっけか」
「お兄ちゃん女のコにそういうの聞くのデリカシーないと思うよ?」
「ウッ…ゴメンナサイ……お詫びとしてはナンだけど…」
テーブルに置かれた少し大きめのダンボールと紙袋を指指す。
「なんかスゴイ量だけど…」
「まあものが大きいだけで予算は…ウンゴメン…」
後半は消え入りそうな声で答えた。カレンが開けても?と聞かれオレはどうぞと答える。
「コレは…ヘルメット!とレインウェア?」
「カレンが前にオレのバイクに乗ってみたいって言ってたから…やっぱ違うモンが良かったかな…!」
「わあ…!覚えていてくれてたんだ…!」
「どう?イヤじゃなかったらトレーニング終わったあとでも乗って花見でも行ってみる?」
「うんっ!乗る!乗りたい!」
「よし!今日は手軽なのにするかぁ」
カレンのやつそんな乗りたかったのか。シチーん所のトレーナーに頼み込んでタンデムの特訓組んで正解だった。けどアイツ理由言ったら
「ふぅん〜?オマエも隅に置けないなァ!(バシバシッ)」
なんて言い出しやがって…まあ着れなかったって言ってプロテクタージャケットとヘルメットをくれたから何も文句は言えなかったけど。 - 4二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:20:19
約束通りその日の練習は早めに切り上げ、バイクが置いてある駐車場へと向かう。カレンは着替えてから来るそうで、暫くすると少し恥ずかしそうにやってきた。
「どう…似合ってるかなお兄ちゃん…?」
「おっサイズ的には大丈夫そうだな…良く似合ってるよ」
「ホント!?…エヘヘ…」
薄い桜色のプロテクタージャケットは彼女の芦毛と相まってとても可愛い桜の花びらに見えた。そして流石というかウマスタグラムトップランナー、既に自撮り写真を撮っていた。
「そろそろ行くか?乗り方はさっき教えたけど…大丈夫?」
「うん!」
俺たちを乗せたオートバイは、夕暮れの駐車場の中を緩やかに走り始め
「ウワーッ! Z900RS!カッケー!」
「ちょっとウオッカ!急に叫ばないの!」
横切った生徒たちからそんな声が聞こえた。 - 5二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:21:13
「そういえばお兄ちゃん どうしてあの時遊園地に居たの?誰かと来てたとか?」
「あー…あん時は一人だったよ なんで行ったんだっけかなぁ…なんかすげーしょうもない理由だった気がする」
「えー…一人で遊園地来てたの…?」
「…もてない男で悪かったな…一人遊園地も結構面白いんだぞ!」
「うーん……それでカレンと会ったことも覚えてないんだよね?」
「すまねぇな…黒い髪の毛のウマ娘の子は覚えてるんだけどね…あっでも」
「何か思い出した?」
「瞳がすごい綺麗な紫色だったの思い出したわ ちょうどカレンみたいなアメジスト色のね」
「〜〜ッ!(ギューッ)」
「いだだだッ!!!ちょッカレ…カレンさんやめてくだち!」
「お兄ちゃんのバカ!」
「えっ…えぇ…?」
痛みでふらつく車体をなんとか抑え、まっすぐ走らせる。
癇に障ることでも言ってしまったようだ。多感な乙女心は難解過ぎてよくわからんね… - 6二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:22:27
私には本当の兄さんがいた。お兄ちゃんという言葉がピッタリの優しかった兄さんで、どこに行くにも一緒だった。しかし10年前、急に亡くなってしまった。イレウスという病気で、当時の私には亡くなるということが理解できず家の中で兄を探し回っていたらしい。それでも1年も経てば兄が亡くなったことを理解し始めたが、理解すると同時に心に失った兄という、ぽっかりと大きな穴が広がっていき、笑顔を見せることが減っていった。
それを哀れに思ったのだろう、私の6歳の誕生日に両親たちは遊園地へ連れて行ってくれた。キレイなイルミネーション、華やかなアトラクション、大歓声のパレード。そのどれもが空いていた穴を少しずつ埋めていき、自然と笑顔になった。
パレードも終盤にさしかかり、その歓声が一層強まった時
「あっ…」
しっかり握っていた母の手がすっと抜けてしまい、その直後に観客が波のように押し寄せた。私は為すすべもなく押し出され、気づいたときにはもう両親がどこへ向かってしまったのか分からなくなっていた。 - 7二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:23:08
(パパ…!ママ…!)
恐怖で声にならず人の波から逃れようとしたからなのか、私は進行方向とは逆の方へ走ってしまった。
(こわい…コワイ…!)
(たすけて…たすけて…!!)
怖さから逃げるように走ったがウマ娘といえど本格化前、体が悲鳴を上げ物陰に座り込んでしまう。季節はずれの冷たい風とイルミネーションの光が届かぬ暗闇では、孤独と恐怖に蝕まれたこどもの心を壊すことなど造作もなかった。私は目を瞑り蹲ることしかできなかった。私という存在すら消え失せてしまうのだろうと。 - 8二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:24:08
「……」
悲しみに身を任せ、ゼファーのスロットルを捻る。速度は制限速度を超えかけていた。
俺には好きだった人がいた。誰にでも優しい学級委員長だった。しかしその恋は一瞬のうちに破壊された。相手は生徒会長。逆立ちしても敵うはずがなかった。
ヘルメットのスクリーンは涙で汚れ、スクリーンの体を為していなかった。
どれぐらい走っただろうか。辺りは薄暗くなり街灯がチラつき始めた。これだけ走れば頭は嫌というほどに冷され、冷静さを取り戻していた。
ここは何処だとあたりを見回すと
「あっ…」
付き合えたら誘おうとしていた遊園地の近くだった。
「…」
捨てようとして捨てきれなかった入場チケットが脳裏に過った。 - 9二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:24:50
「どこもかしこもカップルばっかりだな…」
恨めしそうにボヤく。やはりこういう場所は一人で来るのは間違いだったか。一緒に来ようとプラン練っていた時はどれもが楽しそうに見えたのに今では何一つ興味をそそられることはなかった。
「帰るか…」
踵を返したその時
「…?」
物陰でうごめく影を見つけた。あれは…ウマ娘の子ども?
暗くてよく見えなかったが、黒い髪の毛の頭頂部には耳らしきものがあり、しっぽは体育座りした足の内側に包まっていた。そして
(綺麗な瞳だな…)
アメジストカラーに映える瞳は涙だろうか光り輝いていた。しかしその目はどこか空虚を見ており今にも消え失せてしまいそうだった。
(…あの子に比べれば俺の悲しみなんて笑えちまうな…!)
たかが告白する前に玉砕しただけ、何もダメージなんて負ってない。それよりもあの子は親から逸れて自分ではどうしようもできなくなっている。誰かが助けなければと。そう言い聞かせる前に体が勝手に動きはじめていた。 - 10二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:25:50
いつしか眠っていたようで、辺りは静寂に包まれていた。しかし恐怖はまだ消えておらず動くことはできなかった。
(パパとママはどうしてるのかな…)
などと考えていると
「…こ…こんばんわ…!」
再び恐怖が私を支配した。
(た…たすけ…)
声が全くでない。脚も震えて動かない。頼れそうな大人も不幸か居なかった。
「…もしかして…迷子?」
声の主がそう言って近づく。今すぐここから逃げ出したい。それなのに体は言うことを聞かず、ただ固まることしかできなかった。
「あっそうだ…ちょっと待ってて…」
ポケットから何かを取り出そうとしている。何かはわからないけどきっと危ないものだと脳が告げる。なのにまだ体は動かない。
(いや…イヤ…!こないで…)
ただ蹲ることしかできない自分を呪った。この恐怖心さえなければまだ助かったのかななんて思いながら。
大きく黒い影が取り出したものは
「アメちゃんあげよか!…なんて…へへ…」
可愛らしい飴だった。 - 11二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:27:59
(完全に変質者だよ…)
最悪な対応しかできない自分が情けなく思う。これじゃ警戒されても仕方ない。そう思っていた矢先
「あめ…くれるの…?」
予想外の答えが帰ってきた。
(まさか食べ始めたら号泣しだすとは…どうしたものか…)
よほど心細かったのだろうか、しばらく泣き止むことはなく3分ぐらいはずっとポロポロ涙をこぼしていた。泣き止んだところで名前を聞いてみることにした。
「よかったらお名前教えてくれるかな?」
「…カレン…」
「カレンちゃんか…いい名前だね お父さんと一緒に来たのかな?」
「ママもいっしょ…パレードみてたらどこかいっちゃった…」
「うーんなるほどぉ…よし!」
「一緒に探そっか!パパとママ!」
そのとき彼女の目の濁りが少し晴れた気がした。
「パレードっていうと…この辺りか…」
彼女、迷子のカレンちゃんを離さぬようゆっくり歩く。ウマ娘だからなのか成人男性のゆっくりな歩きとはいえちゃんとついてきた。
「うーん結構時間経ってるし手がかりはなさそうだな…」
他の場所に向かおうとしたとき
「…」
カレンちゃんが立ち止まる。目線の先にあったのは観覧車だった。
「…あの観覧車から探そっか!」
「…へ?」
少し小走りで観覧車に駆け込む。これで少しでも笑顔になってくれたらいいのだが…と困惑するカレンちゃんをお姫様だっこしながらゴンドラに乗り込む。 - 12二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:29:28
「見つかるといいんだけど…」
そうは言ったが日はすっかり落ちて何も見えなかった。それより勢いに任せて乗せちゃったけど高いところとか平気だろうか、いやそれよりも未成年連れ回すってヤバいだろとか頭の中でいろいろな考えがグルグルしていると
「わぁ…!」
「ん?」
「おほしさま…!」
外がよく見えるように上がガラス張りになっていて一面に星が広がる。
「キレイだね…」
「うんっ…!」
「カレンちゃんは星が好きなのかな?」
「ううん…ほしだけじゃなくてカワイイものが好き…!」
「可愛いものが好き?どうして?」
「カワイイものはみんなをしあわせにできるからっ!」
やっと笑ってくれたその顔は今まで見てきたものの中で一番輝いて見え
「そうだね…カレンちゃんには夢とかあるのかな?」
「ゆめ…?うん!あるよ!」
星の光にライトアップされたその顔はどんな星より輝きを放ち
「カレンのゆめはね…うちゅういちカワイイわたしになること!」
見るものの心を魅了した。
「宇宙1…!それは…とっても素敵な夢だね!」
「…わらわないの…?」
「笑う?なんで笑うのさ そんな心から願う素敵で綺麗な夢を」
「パパとママとお兄ちゃんじゃない人はわらうのに…」
「いいや…その夢は必ず叶う 約束する」
「…ウソついたら…?」
「…針3000本飲み込んで東京湾で素潜り?」
「そんなことしたらしんじゃうよ!」
「カレンちゃんは優しいね…でも指切りげんまんならいいかな?」
「うん!」
小さなゴンドラの中で交わされた、二人だけの秘密の小さな約束事。 - 13二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:31:11
(あの後すぐ迷子センターに向かってくれたけど、お兄ちゃん入れ違いに出て行っちゃったんだよね…)
私はあの頃を懐かしむように思い出していた。お兄ちゃんは白くなる前の黒髪だった時しか覚えてないみたいだけど。私はあれから8年、一度も忘れることはなかった。
(だからあのとき会ったのはキセキだったんだって想えるの)
あのとき交わしたゆびきり。赤い糸なんて信じてなかったけど、もう一人ぼっちじゃないんっだって。
「ねえお兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんがバイク乗り始めてから女の人って乗せたことあるの?」
「…なんかカレン今日すごーーくツンツンしてない?」
「あっ違うの!そうじゃなくて…」
「…女の子を乗せたのは今日が初めてだよ…だから緊張してるし多分ヘッタクソな運転だと思うケド…」
「全然下手だなんて…お兄ちゃんは優しい運転だったよ」
「…ヘヘ ありがと」
「お兄ちゃん…」
「なぁに?」
「カレンのこと…好き?」
「そりゃもちろん カワイイし素直だしレースでは強いし けど」
「けど?」
「ちょっとツンツンするところと割とスパッと言っちゃうとことか意地張っちゃう所とか そういうところも好きだよ」
「…ズルイよそういうの…」
「えっ!?なんだって?! 」
「なんでもないです〜!」
「いいじゃん教えてよ〜パフェ奢るからさ〜」
「えー……じゃあ…約束してほしいの」
「ん?」
「私のこと……ずっと…ずーっと見守っていてほしいな…」
「あぁ…約束だ」
バイクは私の恋を乗せて走る。まるで春のそよ風のように暖かく、どこまでもどこまでも果てしなく届く恋の歌。私の恋唄は今、奏で始める。 - 14二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:31:51
「えーっと…なんていえばいいのかな…?」
「ん?」
「その…えっと…」
「もしかして俺の事かい?」
「うん!」
「そうだな…名乗るもんじゃないが…お兄ちゃんはどうかな」
「お兄ちゃん…?おうちの人いがいでもお兄ちゃんって言っていいの?」
「自分がお兄ちゃん言いたいって思った人には言っていいんだよ」
「わかった! カレンね…お兄ちゃんのゆめもききたいの!」
「俺の?」
「うん!お兄ちゃんのゆめもとってもすてきだと思うの!」
「えー…カレンちゃん以上の素敵さはないと思うんだけどなぁ…そうだね…俺の夢は」
そういってケータイの画面を見せた。
「これなぁに?」
「これはバイクって言ってね 魔法の絨毯なんだ」
「すごい…!まほうがつかえるの!?」
「そうだよ〜これがあればどこへだって行けるし、もちろんカレンちゃんのところにも行けるのさ」
「俺の夢はこの魔法の絨毯で一番大切な人を乗せてどこまでも走ること…かな」
「わぁ…!とってもすてきだね!お兄ちゃん!」
「…へへ…ありがと…」
「もし…もしカレンがおおきくなってお兄ちゃんのたいせつな人になったら…カレンものせてくれる…?」
「ハハッ…それまでお兄ちゃん独身かぁ…イイよ カレンちゃんが大きくなって一番大切な人になったら 必ず」
「じゃあこれもゆびきりだね!」
「そうだね じゃあ」
「指切りげんまん嘘ついたら…どうする…?」
「おこる!」
「怒る!指切った!」
「ぜったい…!ぜったいだよ!」
「あぁ…約束だ」 - 15二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:32:59
コレにて終了です
やべえめちゃくちゃ恥ずかしいぞこれ… - 16二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:34:26
- 17二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:38:15
- 18二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:39:08
おつ
力作をこんなところに投下するなんてもったいない
pixivとかでいいのに - 19二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:44:50
このレスは削除されています
- 20二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:48:24
- 21二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:48:35
このレスは削除されています
- 22二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:49:55
渋だともっと解像度高い人に蹂躙されちゃうのではい…
- 23二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:50:46
- 24二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 02:57:21
- 25二次元好きの匿名さん22/04/01(金) 12:52:52
やはりカレンちゃんは可愛いな…良い匂いもする