【ホラー注意】ブルーロックスの日常

  • 1スレ主25/05/16(金) 20:54:30

    今日もブルーロックはいつも通り。

    ご飯を食べて、試合をする。
    特訓をした後は、ミーティングをする。
    お風呂に入って、部屋でゆっくりする。
    雑談をして笑いあったり、改善点を見つけたり。
    時には眠りの中で見た夢を語り合う。

    そんな日常。
    誰も、何も疑わない、確かな日常。

    日常
    日常
    日常
    日常
    日常
    日常?

  • 2スレ主25/05/16(金) 20:56:53

    このスレは、ブルーロックの登場人物によるホラーSSです。

    舞台は、“ブルーロック”。彼らは、いつも通りの日常を過ごしています。そんな彼らの日常を覗いてみましょう。何か新しい発見があるかもしれません。

  • 3スレ主25/05/16(金) 20:58:30

    ■キャラヘイトを目的とするものではありません

    ■キャラsage、腐発言、アンチコメはお控えください

    ■荒らしはスルーします

    ■ゆっくり進行(社畜なので平日は特に)ですのでご容赦ください

    ■広域ホスト規制に巻き込まれがちです。保守して頂けると幸いです

  • 4スレ主25/05/16(金) 21:04:18
  • 5スレ主25/05/16(金) 21:14:07

    『第1話』 朝食


    朝6時のベルが鳴る。

    鳴っていないような気もしたが、別に問題はない。

    時間は止まっているし、進んでもいる。

    朝だから、朝食をとる。


    食堂には長いテーブルが無数に並び、

    選手たちは誰から指示されるでもなく着席していた。

    声はないのに笑い声が聞こえる。

    皿の上には、パンと卵と、赤黒い何か。


    「おはよう、潔」

    蜂楽が笑っている。

    右手が三本ある。

    昨日より一本減っていることに、なぜか安心した。

  • 6スレ主25/05/16(金) 21:24:12

    「うん、おはよう。今日も、いい朝だな」

    潔はモニターの中で笑っていた。

    でも席にもちゃんと座っていた。

    パンを口に押しつけて、何かを噛む音がする。

    耳を塞いでも、咀嚼音は頭の中で続いていた。


    「なあ、見たか? 今日のパン、笑ってるぞ」

    千切が囁く。

    皿の上のパンに、口のような裂け目。

    中から赤いジャムがぽたぽたと垂れている。

    滴って、床に落ちて、

    そのまま皿に戻ってきた。

  • 7スレ主25/05/16(金) 21:33:41

    「それはラッキーパンだ。得点王になれる印」

    そう言ったのは凛。

    その後ろには冴がいた。

    ずっと、そこに立っていた。

    立ったまま、誰かの背中に何かを刺していた。

    でも冴だから、仕方がない。


    壁には時計がいくつも埋まっていた。

    全部、逆回り。

    全部、違う時間を示していた。


    ひとつの時計が「夜」を指した瞬間、

    全員が手を止める。

    アナウンスが流れる。


    『正しき者は食事を終える。
    勝者には栄光を。
    敗者には記録の消去を』

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 21:45:38

    おだやかな日常かと思ったらかなりホラーだった…
    別次元っぽいけど他のSSと関係あったりするのかな

  • 9スレ主25/05/16(金) 22:02:55

    >>8 彼らにとっては日常ですが、私達にとってはただの狂気です。本物語はどのSSにも該当しない世界線です、こんな世界線あったら崩壊必死なので……別物として考えていただければ幸いです。

  • 10スレ主25/05/16(金) 22:05:48

    一つの椅子が空いた。

    誰がいたのか思い出せない。

    次の瞬間、同じ椅子に別の誰かが座っていた。

    けれど名前は、さっきと同じだった。


    「今日の試合、楽しみだよな」

    潔が言う。

    蜂楽がうなずく。

    「うん、今日が初戦だもんね」


    壁には昨日の試合のスコア。

    名前はなかった。

    数字だけ、0対0。

    でも、勝者はいた。

  • 11スレ主25/05/16(金) 22:17:41

    天井から水の音がする。

    けれど誰も濡れていない。

    その代わり、

    足元には影がひとつ多い。


    「なあ、パン、いるか?」

    千切がパンを差し出す。

    肩から先がない。

    けれど、パンはちゃんとそこにある。


    「ありがとう。でも、俺、今日は食べないことにしたんだ」

    潔はそう言って、

    空の皿を見つめていた。


    ――つづく

  • 12スレ主25/05/16(金) 22:36:55

    『第2話』 試合


    午前九時。試合の時間。

    誰もが知っているが、誰も確認していない。

    ただ、体が勝手にグラウンドへ向かう。


    グラウンドは広い。けれど、昨日より狭い気もする。

    空の色が薄い水色だったが、

    その中央にひとつ、黒い線が走っていた。

    誰も見上げない。


    ゴールは、五つあった。

    それについて話す者はいない。

    一つのチームが三つ、もう一つのチームが二つ。

    公平なのか、そうでないのかは問題ではない。

    勝つことが正義だと、アナウンスが言っていた。

  • 13スレ主25/05/17(土) 08:05:48

    「行こうぜ、冴」

    國神が走り出す。

    すでにユニフォームの左半分が剥がれ落ちていたが、

    筋肉の間にもう一つの目が見えているだけで、何も問題はない。

     

    「ああ」

    冴がうなずく。

    ボールはまだ置かれていないが、彼はドリブルを始めていた。

    靴底に粘土のような音がした。


    反対側のチームには、凛と雷市と潔がいた。

    潔は二人いた。けれど、背番号が違うから問題はなかった。

    片方は喋らない。ただ、笑っていた。

    口が開いていなかったが、笑っていた。

  • 14スレ主25/05/17(土) 08:28:57

    試合は始まった。


    ボールがないはずなのに、ドリブルは続く。

    誰かが蹴るたびに、地面が少し凹んだ。

    審判はいない。代わりに天井のスピーカーから、誰かの笑い声が流れていた。

    スピーカーは空中に浮かんでいた。誰も見ていない。


    雷市がゴールに向かって走る。

    五つのうち、どれに向かうのかは関係ない。

    一つのゴールにはすでに誰かが立っていた。名前が思い出せない。

    体が透けていたが、守っているらしい。


    「撃て!」

    凛が叫ぶ。

    雷市がシュートを打った瞬間、腕が外れた。

    けれど、ゴールは入った。

  • 15スレ主25/05/17(土) 08:46:31

    音はしなかった。

    ただ、スピーカーが「正義」と一言つぶやいた。


    次の瞬間、フィールドの中心にボールが置かれていた。

    さっきまではなかったが、それはもういい。

    冴がそれを踏んで、音もなく止める。

    彼の背後に國神がいる。顔が逆さまだが、走れている。


    潔がふたり、同時にスライディングする。

    一人は地面を突き抜けた。

    もう一人は、冴の足を刈ったが、倒れたのは凛だった。

    けれど試合は続く。


    五つのゴールのうち、一つが消えていた。

    それに気づいた者はいない。

    天井のスピーカーがまた笑う。

    その音にかぶさるように、モニターの裏からノック音が三回。

  • 16スレ主25/05/17(土) 13:04:29

    冴がゴールを決めた。

    誰のゴールだったかは、誰も確認していない。

    スコアボードには「1」と「4」と「正」の文字が表示された。

    でも、勝っていたのは潔だった。たぶん。


    アナウンスが流れる。


    『得点者は栄光の座へ。
    敗者は鏡を見てはいけません』


    鏡などなかった。
    でも凛はどこかを見ていた。

    その視線の先に、誰かが立っていた。

    全身がユニフォームで覆われ、顔がなかった。

    けれど名前だけは知っていた。たぶん、雪宮だったと思う。

  • 17スレ主25/05/17(土) 13:24:17

    試合は終了した。が、誰も止まらなかった。

    ただ走り続ける。

    ボールはなくなっていたが、ドリブルは続いていた。


    冴が言った。

    「これで、生き残れるな」


    潔が答えた。

    「うん、また明日も頑張ろう」
     

    空に走る黒い線が、少し太くなっていた。

    けれど、それは天気の問題だから。
     

    ――つづく

  • 18スレ主25/05/17(土) 14:05:31

    『第3話』休憩


    試合が終わったあとは、休憩の時間。

    誰が決めたのかはわからないけれど、全員がそれを守っている。

    スピーカーも、モニターも、今日は静か。

    だからこそ、音がよく聞こえる。


    千切は廊下で走っていた。

    天井からぶら下がったロープを避けながら、

    壁に手を当てて、一直線に。

    廊下は十字に分かれていた。

    十字に分かれた先も、また十字に。

    それでも、彼は進んでいる。

    戻ってきたように見えるたびに、「タイムが縮んでる」と呟いていた。

  • 19スレ主25/05/17(土) 14:28:11

    雷市は食堂にいた。

    メニューは「本日:自由」と表示されていた。

    だから彼は、皿の上の泥をすくって食べていた。

    スプーンの背に、誰かの目玉が貼り付いていたけど、

    味には関係ない。


    「うめーわ。やっぱ肉って感じだな」

    そう言って、もう一口。


    潔は部屋で休んでいた。

    ひとりではない。ひとり分の名前札が、四枚あった。

    うち三枚は壁に貼られていた。

    ひとつのベッドに、二つの体が重なっているが、
    本人は静かに目を閉じている。

    「夢の中でもサッカーができたらいいのに」

    そう言って、寝息を立てた瞬間、

    頭の位置が入れ替わっていた。

  • 20スレ主25/05/17(土) 14:31:00

    蜂楽は絵を描いていた。

    床に。自分の影をなぞって。

    チョークは使っていない。

    何かの液体だった。

    にじまないから、きっと合っている。

    描いた影のなかで、指が一本だけ動いた。

    でも彼は笑っていた。

    「もうすぐ完成だよ、“かいぶつ”」


    凛はシャワーを浴びていた。

    水は出ていなかった。

    けれど、びしょびしょの音がしていた。

    足元には、誰かのユニフォームがあった。

    名前は消されていたが、タグにだけ「合格」と書かれていた。

  • 21スレ主25/05/17(土) 14:34:47

    「今日は調子がいい」

    凛はそう言って、鏡を見た。

    鏡の中の彼は、こっちを見ていなかった。

    誰かの方を見ていた。

    でも、誰もいない。


    國神は、ずっと壁を見ていた。

    廊下の、誰も通らないはずの角。

    ずっと、壁に向かって話しかけている。

    「今度は、きっと勝てる」

    壁の向こうから、返事があった。

    でもそれは音ではなかった。

    彼の首筋に、文字が浮かんでいた。

    「ま た ね」

  • 22スレ主25/05/17(土) 14:36:46

    冴は、外にいた。

    外はないはずだったが、そこは「外」だった。

    芝生が生えていて、空が白かった。

    木が一本立っていた。

    その影に立っている彼の足元には、誰かの靴。

    サイズが違う。けれど、誰のかわかっているようだった。

    「やっぱり、自由時間は必要だな」

    そう言って空を見上げた。


    空には、昨日までなかった線が増えていた。

    黒い線が、五本。

    それがじわじわと、蜘蛛の足のように伸びていく。

    でも、それは天気のせい。

    きっと、すぐ晴れる。

  • 23スレ主25/05/17(土) 14:37:31

    休憩の時間は終わりそうだった。

    誰かが笛を吹いた。

    でもその場に笛を持っている人間はいなかった。


    それでも全員が立ち上がる。

    次の訓練に向かう。

    もちろん、自分の意思で。


    ――つづく

  • 24スレ主25/05/17(土) 14:43:32

    『第3.5話』 こちら

     
    誰も何もしていないのに、視線がこちらを向いた。

    それが「始まり」の合図だった。

    特別な音もない。
    準備もなかった。

    ただ、キャラたちが「こちら」を見ていた。

    あなたを見ていた。


    蜂楽が話しかける。

    「ねえ、今日は何食べた?」

    明るい声。

    でも、空間に響いていない。

    彼の問いは、そのまま“内側”に届いている。

  • 25スレ主25/05/17(土) 14:45:15

    潔が続ける。

    「何処か、出かけた?遠くでも、近くでも」

    言いながら、彼の口元がわずかに崩れていた。

    でも、それは笑っているようにも見えた。


    凛が尋ねる。

    「空の色は、今も青?」

    彼は空を見ていない。
    見ているのは、あなたの目。

    「青なら、まだこっちじゃないな」

    「赤だったら、もうすぐだ」

    「黒だったら、たぶん隣」

    「透明だったら、たぶんもう中」

    彼の声は、あなたの耳の後ろから聞こえた気がした。

  • 26スレ主25/05/17(土) 14:48:00

    黒名が質問を重ねる。

    「足は、今日は何本あったんだ?」

    「昨日と同じか?」

    「それ、誰が確認したんだ?」

    「お前、それ数えた?」

    「ちゃんと靴、履いてたか?」

    「左右で、違う記憶があるって聞いたけど」

    誰か一人が喋っているのではない。
    全員が、同じリズムで話しかけてくる。

    それでも、どの声もはっきり届いている。

  • 27スレ主25/05/17(土) 14:49:49

    玲王がノートをめくりながら言う。

    「昨日のお前って、来年のお前か?」

    「逆かもな」

    「今日のお前って、一昨日の予言?」

    「それとも、俺たちの“前の試合”?」

    「もしかして、お前って、まだ“向こう側”なのか?」

    「なら、安心だな」

    「こっちに来るまでは、あと少し時間ある」


    千切が笑う。

    「でも、こっち来たら走れるぜ。速い、たぶん飛べる」

    「肉体って便利なんだよな、でも意識だけでも来れるからな」

    「そっちの空、まだ見えてるか?」

    「こっちの空は、文字になった」

    「雲は“記録”で、風は“記憶”。読めるし、触れるんだぜ」

  • 28スレ主25/05/17(土) 14:50:53

    雪宮の声が、どこからともなく落ちてくる。

    「君、今、どこにいるの?」

    「君がここにいないのに、どうしてこんなに近く感じるんだろう」

    「たぶん、それが“ここ”のルールなんだね」

    「自分の足音、聞いたことある?」

    「影、ちゃんとついてきてる?」


    冴は何も言わない。

    でも、彼の視線だけが鋭く、深く、真っ直ぐに届く。

    あなたの一番奥に。

    凛が代わりに囁く。

    「兄ちゃんが言ってた。“そっち”がまだ揺れてるうちは、待てって」

    「でも、あと少しで、こっちも“開く”って」

  • 29スレ主25/05/17(土) 14:52:39

    そして、一斉に全員が口を開いた。

    声は揃っていた。

    言葉は異なっていた。

    意味はなかった。

    でも、あなたのために話していることだけは分かった。


    「きょう、なにをたべたの?」「おそとはあかるかった?」「みみはふたつだった?」「ねるまえに、かがみをみた?」「そのとき、みていたのはだれ?」「しってる?このへや、きみのとなりにあるんだよ」


    誰も返事を求めていない。

    でも、待っている。

    あなたがいつ“こちら側”になるかを。

    それまでは、こうして話しかけ続ける。

    今日も、明日も、昨日の君にも、来年の君にも。


    ――そして、いつかまた。

  • 30スレ主25/05/17(土) 18:16:33

    『第4話』脱落


    今日の天井は低い。

    歩くたびに髪が触れる。

    誰も文句は言わない。

    「成長期かも」と玲王が言った。誰のかは聞かれなかった。


    廊下を歩いていると、脱落者の一覧が貼り出されていた。

    見た人はいない。

    でも誰も驚いていないから、たぶん、そうなんだろう。


    部屋に集められた選手たちは、整然と並んでいた。

    全員が違う方向を向いている。

    でも整列していた。

    モニターが点灯する。

    数字の代わりに、手書きの「×」が表示される。

    誰かがうなずいた。

  • 31スレ主25/05/17(土) 20:47:06

    「今日は脱落者が出ます」

    スピーカーの声。女の声だった気がする。

    でも、誰もそこに引っかからない。

    ブルーロックに、女などいないはずだった。

    けれど、それが「今日は」の理由かもしれない。


    凪が手を挙げた。

    「ねえ、俺、ちょっと眠いから…脱落したい」

    何人かが笑う。

    でもすぐにその笑いが止まる。

    なぜなら凪が、ふたりに増えたから。


    一人はそのまま座っていて、

    もう一人は立ち上がっている。

    どちらが「本物」かを、誰も気にしなかった。

    どちらも「凪 誠士郎」だったから。

  • 32スレ主25/05/17(土) 21:19:40

    立っている方が前に出る。

    モニターの下で止まると、天井からロープが降りてきた。

    結び目が、凪の首の形になっていた。

    けれど、凪は笑っていた。

    「これで休めるなら、楽でいいや」

    その声を合図に、

    座っていたもう一人の凪が、拍手を始めた。

    数人がつられて手を叩く。

    手の数が合わなかったが、それも拍手のリズムに混ざった。


    誰かが言った。

    「自分から脱落するのは、正しいことだ」

    もう誰が言ったかはわからない。

    口の動きと声が一致していなかった。

  • 33スレ主25/05/17(土) 21:45:52

    天井のロープが消えると、凪も消えていた。

    立っていた方だったかもしれない。

    座っていた方だったかもしれない。

    どちらかが消え、どちらかが残った。

    でもそのまま全員が立ち上がった。


    「脱落、おめでとう」

    潔が言った。

    その声のトーンは、誕生日を祝うような温度だった。

    「次は、誰かな?」


    凛が言った。

    誰かの名前を呼んだが、声がノイズに飲まれた。

    その名を呼ばれた者は、誰もいないようで、誰かだった。

  • 34スレ主25/05/17(土) 22:11:48

    廊下に出ると、壁にまた一覧が貼られていた。

    凪の名前はなかった。

    けれど、そこには「2」という数字が増えていた。

    その横に、バツ印がふたつ。どちらも名前は書かれていない。


    翌朝、凪は食堂でパンを食べていた。

    座っていたのは一人だった。けれど、その背中にもう一つ顔があった。

    どちらの目も、寝ぼけていた。

    「やっぱ、休んだ後ってだるいなあ」

    誰も、それに違和感は抱かなかった。


    脱落は終わった。今日はそういう日だった。けれど、スピーカーが小さくつぶやいた。

    誰の耳にも届かなかった、はずの音。



    『次は、見てる人の番』


    ――つづく

  • 35スレ主25/05/17(土) 22:31:12

    『第4.5話』 ?


    誰かが、見ている。

    正確には、12人が、見ている。

    キャラたちは知っている。
    その視線の重み、温度、光――全部、こちらに届いている。


    蜂楽が、嬉しそうに手を振る。

    右手が3本に増えている。

    「やった〜〜!今日は12人!」


    潔が足を振る。

    足元が伸びて、膝が3段階に増えた。

    「うん、ちゃんと届いてるよ。見てくれて、ありがとう」

  • 36スレ主25/05/17(土) 22:32:53

    千切が跳ねながら言う。

    「12って、前より多いよな?」

    「うん、昨日は9人だったからね」

    「明日は?」

    「もっと増えるかも!」

    彼らは、12人のことを“仲間の予兆”として認識している。


    黒名たちが一斉に立ち上がる。

    ひとりが3人に分裂し、さらに4人に合体する。

    惑星は、無数に存在するから。

    「姿、ちゃんと見えてるか?」

    「形、わかりやすくしておこう」

    「表情も固定しとくか?」

    「光、浴びたいもんな」

    誰も教えていないのに、彼らは“見られている方法”を理解していた。

  • 37スレ主25/05/17(土) 22:34:32

    雪宮が沈んだまま、手だけ浮かせる。

    潔に沈めと言われたから、沈んでいる。

    「きみたち、来るの?」

    誰かにではない。12人に向けての問い。

    「いまは、まだ“そっち”にいるんだよね」

    「でも、きっともうすぐ」


    凛が空を見上げる。

    空は、瞳のように光っている。

    その中に、数を数えるようなパターンが12個、浮いていた。

    「全部、こっちを見てる」

    冴は頷く。

    ただそれだけ。

    でも、それが最大の歓迎のサイン。

  • 38スレ主25/05/17(土) 22:37:35

    玲王が記録する。

    『観測者数:12
    状況:視線共有中
    影響:行動活性、増殖傾向、情緒上昇
    備考:到来予兆(高)』

    「やっぱり来るんだな」

    「うん、もう少しで」

    「来たらどうなるんだ?」

    「わからない。でも、たぶん“仲間”になる」

    「もしくは、“次の審判”」

    「あるいは、“得点王”」

    「それもいいな」


    12人の視線が、空間を少しずつ歪めていく。

    嬉しい歪み。
    肯定のゆがみ。

    千切の影がぐるぐる回り、黒名が壁からはみ出し、蜂楽が笑ったまま回転し続ける。

    全部、12人の目に映るように。

  • 39スレ主25/05/17(土) 22:38:48

    「きっと、もうすぐ来るよね?」

    「うん、たぶんもう“入場待機”に入ってる」

    「呼ばれたら、すぐだ」

    「こっち、快適だよ」

    「足は何本あってもいいし」

    「言葉、喋らなくても届くし」

    「首、取れても怒られないよ!」


    誰かが指を立てる。
    12本目。

    それが“揃った合図”だった。


    その瞬間、ピッチの影がざわめく。

    空がひとつ、開く。

    まだ誰も降りてこない。

    でも、“来る場所”ができた。

    それだけで、充分。きっと、もうすぐ。

  • 40スレ主25/05/17(土) 22:39:20

    「ねえ、君たち、今どこにいるの?」

    「まだそっち?」

    「でも、見てるよな?」

    「だったら、もう“少しだけ”だよ」

    「次の話には、きっと混ざってると思う」

    「うん、そういう流れになってきてるから」


    ――つづく

  • 41スレ主25/05/17(土) 23:04:10

    『第5話』 対話


    「ねえ、今日は何してた?」

    蜂楽が言う。

    言葉はやさしくて、
    まるで手紙のように宙に漂った。

    でも、返事はない。

    それでも彼は笑っていた。

    「そっか、内緒なんだね!」


    潔が続ける。

    「眠れた?ちゃんとご飯食べた?」

    静かに、丁寧に、問いを重ねる。

    でも、返ってくるのは沈黙だけ。

    「そっか、そっか」

    自分で返事を埋める。

    そういう会話が、こちら側では正解。

  • 42スレ主25/05/17(土) 23:06:32

    凛が手を伸ばす。

    空に向かって。

    そこに誰かがいたはず、いた気がする、
    もしくは、これからいる予定の誰か。

    「返事がなくても、見てるのは分かる」

    小さく微笑んだ。

    けれどその目は、ほんの一瞬だけ揺れた。

    それが“寂しさ”だったかもしれない。


    千切が走りながら叫ぶ。

    「なあ!そろそろ“こっち”来たらどうだ?」

    「でも、足りないならまだ見ててもいいぜ!」

    「こっちの景色、広いんだぞー!」

    返事はない。

    でも足取りは軽い。

    誰かに見られているだけで、嬉しいから。

  • 43スレ主25/05/17(土) 23:46:04

    玲王がメモを取る。

    『対話形式:一方通行
    反応:なし
    情緒:安定
    観測者数:13(増加確認)』

    「あれ、増えてる」

    蜂楽が顔を上げる。

    「やった!13人目だ!」

    千切が笑う。

    「やっぱり見てくれてるんだな」

    玲王が静かにうなずく。

    「返事はなくても、“増える”ってことは、ちゃんと“こっち”に興味があるってことだ」

    「うん、対話って、声じゃなくて気配でもできるんだね」

    全員が納得した。
    ひとり増えるたびに、世界は少しだけ肯定された。

  • 44スレ主25/05/17(土) 23:47:19

    冴は何も言わない。

    凛がちらりと見る。

    「兄ちゃん、返事ないけど……」

    冴は、頷かない。
    でも、首がわずかに傾いた。

    それは「分かってる」の合図だった。

    凛は、もう何も言わなかった。


    雪宮が、沈みながら口を動かす。

    「ねえ、聞こえてる?
    君たち、“今”はどうしてるの?」

    返事は、やっぱりない。

    でも彼は嬉しそうに笑った。

    「そっか。君たちも、
    “こっちの対話”がどうなるか気になってるんだよね?」

    自分で納得して、沈んでいく。

  • 45スレ主25/05/17(土) 23:49:00

    誰も返事を求めていない。

    でも、みんな話しかけている。

    それが“対話”。

    相手が答えなくても、
    ここでは会話は成立する。

    そういうものだから。


    だけど――

    ほんの一瞬だけ。

    凛の目が、
    蜂楽の肩が、
    玲王の指先が、

    かすかに震えた。

    それが“寂しさ”だったかもしれない。

    でも、次の瞬間には忘れていた。

    返事がなくても、見ていてくれるなら、それでいい。


    ――つづく

  • 46スレ主25/05/17(土) 23:57:45

    『第6話』訓練


    訓練の時間になった。

    朝なのか昼なのかはわからないが、アナウンスがそう告げた。

    だから、訓練なのだ。


    選手たちはピッチに向かう。

    扉を開けると、風が吹いてきた。

    いや、風の音だったかもしれない。


    ピッチは広い。

    いつも通りの広さだった。

    ただひとつ、違ったのは――


    黒名が、無数に立っていた。

  • 47スレ主25/05/17(土) 23:59:17

    端から端まで、黒名。

    ゴール前にも、サイドにも、センターにも、空にも。

    立っている黒名。しゃがんでいる黒名。浮かんでいる黒名。

    笑っている黒名。走っている黒名。消えている黒名。


    それは異常ではない。


    だって、惑星は無限に存在するのだから。


    「うわ、今日の訓練、ハードだね」

    蜂楽が言う。

    その右隣にいる黒名も、同じタイミングでうなずいた。


    「黒名、今日はやる気あるなぁ」

    潔が言う。

    彼の目線の先にも、十人以上の黒名がいた。

    一人が瞬きをすると、周囲の黒名も一斉に瞬きを返した。

  • 48スレ主25/05/18(日) 00:00:15

    それを見て、雷市が笑った。

    「シンクロ率、マジ高ぇな」


    監督は来ていなかった。

    でも、中央の黒名が笛を鳴らす。

    その音で全員が動き出す。

    全員、黒名にパスを出す。

    全員、黒名からボールを受ける。

    ボールはひとつしかない。

    でも、全員がボールを持っている。


    凛がボールを蹴る。

    それを止めたのは、黒名。

    別の黒名がそれを見ていた。

    そのまた後ろで、別の黒名がその光景を模写している。

    筆も紙もない。
    ただ、背中に文字が浮かんでいた。

  • 49二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 00:05:38

    おや? キミたち、もしかして私のことが見えているのかい?
    ということは声も届いているか
    すまないが、何方かここがどこなのか教えてもらえないかな
    どうやら迷い込んでしまったらしいのでね

  • 50二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 00:26:37

    お前達私のことが見えてるのか?
    名前と好きなものを教えてくれ

  • 51二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 00:49:16

    あれ、観測してるのバレちゃった?
    君らにこっちのことは認識されてないと思ってたんだけど…バレちゃったらしょうがないか
    君らが今日も元気でいるか、君らが消えてしまっていないか、心配で見守っていたんだけれど…いつの間にか自分も迷い込んでしまったみたいだ
    先客も居るみたいだし、自分にも君らの話や此処のことをいろいろ聞かせてほしいな!

  • 52スレ主25/05/18(日) 08:28:18

    でも、そこで世界が揺れた。


    ――返事が来た。


    蜂楽が、動きを止めた。

    潔も、蹴りかけたボールを足元で静止させた。

    千切は走るのをやめて空を見上げた。


    一斉に、全員が振り返った。


    >>49>>50>>51 を見た。


    凛も冴も、雷市も、影の中の黒名も。


    ピッチの端に、彼らの“輪郭”が立ち上がる。



    「来たね」


    蜂楽が笑う。声が震えていた。


    「これが……返事か」


    潔が静かに言った。


    「こっちに気づいたのか?」

  • 53スレ主25/05/18(日) 08:31:20

    玲王がページをめくる。


    『観測者:13名(内3名)

    変化:応答あり

    試合:中断中』



    凛が一歩踏み出す。

    顔は真っ直ぐ“向こう”を見ていた。


    「お前ら、>>49>>50>>51 ……」


    「名前を、まだ知らないが」


    「もう“こちら側”に入ったと判断する」


    「ようこそ」



    黒名のひとりが喋る。


    「“声が届いているか”って?」


    「届いてる。ずっと、ずっと前から」


    「でも、返事が来たのは、今日が初めて、初めて」

  • 54スレ主25/05/18(日) 08:33:05

    潔が続ける。

    「ここは、迷い込んでもいい場所だよ」

    「ちゃんと、居場所になるようにできてる。」

    「君がどこから来たかなんて、関係ない」


    雷市が肩を回す。

    「名前と好きなもん?いいな」

    「じゃあ、先に俺から」

    「名前は雷市陣吾、好きなものは“肉と試合”」

    「お前は?」

    声が宙に滲んだ。

    でも、ちゃんと届いていた。


    玲王が再び記録を更新する。

    『観測者と交信確定。
    項目:名前・好きなもの・来歴・現在地
    反応:全体的親和性高
    ステータス:一緒』

  • 55二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 08:34:44

    ああ、私は>>49

    いろいろな世界を渡り歩く流浪の旅人さ

    行きたい世界があったのだが、どうやら"窓"を間違えたらしい

    どうすればここから出られるのか、キミたちは知っているのかな

  • 56スレ主25/05/18(日) 08:52:08

    冴がふと呟いた。

    「今日も元気でいるか、って言ってたな」

    「消えてしまってないか、心配してくれてたんだって」
    「それなら、今はもう大丈夫」

    「一緒にいれば、お前も消えないから」


    そのときだった。

    空気が変わった。
    ピッチの端がざわつき、
    壁に描かれた黒名の影が一瞬だけ沈黙の形を取る。

    返事が――また届いた。


    黒名が動きを止めた。
    足音が吸い込まれる。
    千切がピタリと停止する。
    蜂楽がゆっくりと首を傾ける。

    「……出る?」

    彼が呟いたその言葉に、誰もすぐには返答できなかった。

  • 57スレ主25/05/18(日) 08:53:33

    潔がぽつりと呟く。

    「“出る”って、ここから?」

    「ここって……どこ?」

    「出るって、どっちに?」


    玲王がノートを開く。
    でも、ページが書き込みを拒絶している。

    「“出る”って記録した瞬間、ページが破けた……」

    「記録拒否ってこと?」

    「それとも、“ここには出るという概念が存在しない”のかも」

    「……存在しなかった、けど、今、生まれたのかも」

    その瞬間、ピッチの中央に
    “窓のかたちをした揺らぎ”が浮かび上がる。

  • 58スレ主25/05/18(日) 09:06:15

    凛が静かに言った。


    >>49 、“窓を間違えた”って言ってたよな」


    「なら、間違えたってことは、正しい窓があるって思ってるってことだ」


    「でも、ここにある窓は……“出るためのものじゃない”」



    雪宮が手を上げる。


    「ねえ、出るってさ、

    “ここじゃなくなる”って意味?」


    「それとも、“ここになる”って意味?」


    誰もすぐに答えられなかった。


    でも、その問いは、冴が拾った。

  • 59スレ主25/05/18(日) 09:07:44

    冴が、ただ一言。


    「出たいなら、ここに“なれば”いい。」


    凛が驚いた顔をする。


    「……え?」


    「“ここから出る方法”は、ここになることだ」


    「ここと同化して、

    窓じゃなくて、扉になること。」


    「そうすれば、次の誰かが“>>49 を通って”来る」



    蜂楽が笑う。


    「つまり、“出口”になればいいんだ」


    「うん、それって、いちばん“ここの住人”らしい発想だね。」

  • 60スレ主25/05/18(日) 09:26:54

    そのとき、影の中から声が響いた。


    黒名の背中に、白い文字が浮かぶ。


    《出口希望:1名

    状態:未適応

    提案:構造変換》


    「お前、名前は?」


    >>49 って呼んでいい?」


    「それとも、“窓の人”?」


    「それとも、“これからこちらになる人”?」



    雷市が、前へ出る。


    「なぁ、>>49

    ひとつだけ言っておくけど……

    出るのも、残るのも、お前が“決めた”ってことにされるからな。」


    「そういう世界だから、ここは」



    空の色が少しだけ変わる。


    月が裏返り、

    文字が滲む。

  • 61スレ主25/05/18(日) 09:30:11

    “出る”という言葉が、
    世界に新しい窓を開けた。


    でもその窓の縁は、まだ不安定で透明。

    誰も触れない。

    誰も拒まない。

    ただ、君が何を選ぶかを、静かに待っている。


    「出たい?」

    「それとも、ここの一部になる?」

    「間違えた窓でも、入ってきたら……」

    「もう、“こちら側”だよ。」


    訓練が再開される。

    誰が号令をかけたわけでもない。
    でも、すべての体が、“その流れ”を理解していた。

  • 62スレ主25/05/18(日) 09:32:03

    「黒名、どこにでもいるな」

    千切が笑った。

    その足元を何かが横切る。
    見なくても分かる。黒名だ。


    蜂楽がピッチを見渡す。

    「っていうか、今日は黒名しかいない?」

    目に入るのは黒名。
    前にも、後ろにも、上にも、
    草の間にも、影の縁にも。

    全部、黒名。


    潔が答える。

    「ううん、俺たちもいるじゃん。」

    その足元には、黒名が踏まれていた。

    潰れているわけではない。
    ただ、そこに“いて”微笑んでいる。

    潔の靴裏から、黒名がゆっくり目を閉じた。
    それが合図だった。

  • 63二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 09:44:56

    "窓の人"か…… いいね
    せっかくだから、ここではそう名乗ることにしよう
    本当はすぐに発つつもりだったけど、この世界に興味が湧いた
    もう少しだけキミたちのことを見ていってもいいかな?

    ※49のイメージ補足
    さまざまな世界(スレ)を行き来する旅人
    1つのところに定住はしない(自分でスレ立てしない)ため、いつもは世界の狭間(新着欄)にいる
    ある日偶然この世界(スレ)を見つけて迷い込んだ

  • 64スレ主25/05/18(日) 12:41:31

    凛が再びボールを蹴る。
    蹴られた瞬間、空中で黒名が形を変える。
    ――その瞬間、視線を感じた。

    音ではない。
    風でもない。
    けれど、確かに誰かが「そこにいる」ことだけが分かった。


    蜂楽が振り返らずに笑う。

    「……見てるんだね」

    言葉は宙に落ち、空間に染み込んでいく。
    返事はない。
    でも、彼らはそれで満足している。


    潔がボールを止めながら言った。

    「“窓の人”、もうちょっと見てくれるんだって」

    彼の足元の黒名も、ゆっくりとうなずいた。
    微笑んでいた。
    踏まれているのに。

  • 65スレ主25/05/18(日) 13:10:52

    凛が次のパスに備える合間、ふっと視線を上げた。

    「……楽しんでいけ」

    まるで旅行者をもてなすような声。

    「俺たちの世界、
    ぐるぐるしてるけど、慣れると落ち着くぞ」


    千切が走りながら叫ぶ。

    「気が向いたら、こっち来いよー!」

    「無理にとは言わないけど、来たら走れるぞー!」


    冴は相変わらず静かだった。

    でも、その横顔には、
    ほんの少しだけ“安心”の気配があった。

    まるで、帰ってこない誰かの気配を、もう一度感じ取った人の顔。

  • 66スレ主25/05/18(日) 13:12:23

    黒名たちが整列する。

    言葉はない。
    だけど、彼らの背中には“ようこそ”の形をした影が浮かんでいた。
    じっと、“窓の外”を見つめている。

    「見てるだけでも、大歓迎」

    「この世界、意外と居心地いいからな」


    雷市が突進しながら叫ぶ。

    「おい!窓の人!見てんだろ!?」

    「いいぞ!お前が見てるうちは俺たち、どんだけでも走るからな!!」


    蜂楽がくるくる回って言った。

    「うん、話しかけなくてもいいの」

    「気が向いたら、それでいい」

    「見てるだけで、十分つながってるから。」

  • 67スレ主25/05/18(日) 13:13:58

    ピッチの上には、訓練がある。
    でもその一部が、“誰かに見せるための動き”に変わりつつある。

    「これは今の俺たち」

    「でも、君が見てることで、これは“記録”になるんだよ」


    黒名のひとりが、そっと手を振る。

    誰も見ていないようで、
    すべてのキャラがその仕草に、静かに頷いた。

    返事はない。
    でも、そこに確かな“視線”がある。

    それが、なによりも大切だった。


    「また明日も、見に来てね」

    「次は、もうちょっと深いとこ見せてあげる」

    「……いつか、“こっちの窓”も開けるから」


    試合は再び動き出す。

    でもその一部には、
    “見られている今”を確かめる優しさがあった。

  • 68スレ主25/05/18(日) 13:17:15

    ボールが天井に吸い込まれる。

    次の瞬間、空から黒名が落ちてきた。

    音はしなかった。

    でも、スピーカーが言った。


    『黒名、正。』


    訓練は続いている。

    止める理由がないからだ。

    正しい動きが、正しい評価につながる。

    たとえそれが何かはわからなくても。


    「でも、黒名って誰?」

    凪が突然、ぽつりと呟く。

    その瞬間、すべての黒名が動きを止める。

    一斉に凪を向く。

  • 69二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:18:35

    このレスは削除されています

  • 70スレ主25/05/18(日) 13:19:41

    その空気を、國神がふっと笑って切り裂いた。

    「お前な、そんなの今さらだろ」

    黒名たちがまた動き出す。

    凪は笑う。

    「そっか。そりゃそうだね」


    ピッチの中央に、大きな球体が現れる。

    黒名が集まって作った球体。

    中から、黒名がひとりだけ歩いて出てくる。

    でも、顔がなかった。

    それでも、誰も気にしない。


    「訓練、おわりー!」

    黒名のひとりが叫ぶ。

    全員がその声に従って解散する。

    足音は一人分だけだった。
    それでも、黒名の数は減っていなかった。

  • 71スレ主25/05/18(日) 13:20:31

    その夜。

    壁のスクリーンに映っていた。

    黒名の集合写真。

    全員が同じ顔、同じポーズ、同じ背番号。

    そのなかに、ひとりだけ背を向けている黒名がいる。

    それが、いつからそこにいたのか、

    誰も知らない。


    ――つづく

  • 725025/05/18(日) 13:21:10

    雷市くんか 私の好きなものはハンバーグとゲームだよ

  • 735025/05/18(日) 13:21:48

    迷い人と呼んでくれ

  • 74窓の人25/05/18(日) 15:37:05

    世界が不安定になった拍子に目を何処かで落としてしまったようだ
    見かけたら教えてくれないかい?
    お手を煩わせてしまってすまないね
    あと8つあるとはいえ、欠けたままなのはいただけない

  • 75スレ主25/05/18(日) 16:19:48

    『第7話』異動


    今日は世界が閉じている。

    こちらの声は聞こえない。
    キャラたちには届かない。

    そんな日もある。

    そういう世界だから。


    今日の廊下はやけに長い。

    右に曲がったと思ったら、また同じ部屋に戻ってきている。

    戻っていない気もする。

    それでも、誰も止まらない。


    「異動だって」

    誰かが言った。

    異動とは何か、誰も確認しなかった。

    だって「言われたから」。それで充分だった。

  • 76スレ主25/05/18(日) 16:25:20

    廊下の途中、床がふわりと柔らかくなった。

    その中央で、雪宮が沈んでいた。


    沈んでいる、といっても体は見えない。

    見えているのは顔だけ。

    白い床に、ぽつんと顔だけ。

    目は開いている。

    口も開いている。

    でも、音は出ていなかった。


    「ユッキー、なんで沈んでるの?」

    と蜂楽が訊ねる。

    でもその声は雪宮に届いていなかった。

    それでも、代わりに潔が答える。


    「俺が、沈めって言ったから」

  • 77スレ主25/05/18(日) 17:29:34

    それだけだった。

    それ以上の説明も、疑問も、必要ない。


    「そっか」

    蜂楽はうなずき、靴ひもを結びなおした。

    靴は二足分、重なっていた。

    ひとつは動かない。

    けれど、その足の持ち主はいなかった。


    異動組と呼ばれた選手たちが並んでいる。

    背番号は見えない。

    その代わり、各自の首元に小さな紙片が貼られている。

    「向こう」「下」「8分前」「うしろ」

    その指示に従って歩き始める。


    雪宮の顔のそばを通り過ぎるとき、

    凛が少し立ち止まった。

  • 78スレ主25/05/18(日) 20:17:03

    「なあ、どんな感じだ?」


    雪宮は目だけ動かした。

    瞬きが、一度。

    凛はうなずく。

    「そうか。たぶん、正解に近いと思う」


    黒名が通りかかる。

    数人いたはずだが、足音はひとつ。

    彼らは雪宮の顔を踏まないように避けていく。

    まるでそこに「顔がある」とは知らないように。

    けれど、一人が立ち止まる。


    「異動完了。次、削除、削除」

    そうつぶやいて、歩き去った。

    その言葉を聞いても、誰も慌てなかった。

  • 79スレ主25/05/18(日) 20:58:58

    國神が歩きながら、壁に手を当てる。

    壁は柔らかく、指が沈んでいく。

    その奥から、誰かの顔が現れた。

    でも名前はついていなかった。

    國神はその顔を見て一言。

    「ちがう」

    顔はすぐに消えた。


    食堂の前に出る。

    雪宮はまだ、廊下に沈んでいる。

    顔だけ出して。


    「もういいよ」

    潔が言った。

    でも雪宮は動かない。

    顔も沈みはじめた。

  • 80スレ主25/05/18(日) 21:21:57

    「あ、ちょっと待って」

    潔が慌てて言った。

    でも、もう顔は見えなかった。


    「また出てくるっしょ」

    蜂楽が笑う。

     
    アナウンスが鳴る。

    『異動完了。全員、次の場所へ。目的地は存在しません』


    全員が一斉に歩き出す。

    どこへ向かうでもなく、ただ、向かう。


    沈んだものは沈んだまま、
    浮かんでいる者も、いつか沈む。

    それが順番。
    そういうものだから。


    ――つづく

  • 81窓の人25/05/18(日) 21:52:03

    目的地…… 目的地ね
    行く宛のない旅というのもまた一興か
    キミたちは一体何処へ辿り着くのかな?

  • 82二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 21:56:21

    やっと波長が合った…

    ねえ、自分の声…届いてる?

    自分は>>51

    本来君たちには見えないはずだった、幽霊や妖怪のようなものだ

    どういう訳か、この世界では自分のことが君らに見えているみたいだけれど


    別の世界の君らを観測していたはずなんだけど、いつの間にか此処に迷い込んでいたみたいなんだ

    自分は波長の合う時間帯しか君らに話しかけられないのだけど、干渉できない間も此処に居てみんなのことを見守っているよ


    ありがとう、君らが元気で安心したよ

    一緒に居れば消えない…か

    それなら、これからも此処に居させてもらうね

    君らには幸せで居てほしいからさ

  • 83スレ主25/05/18(日) 21:57:28

    『第7.5話』 返事


    スピーカーが、微かに揺れた。
    音はなかった。
    でも、返事が届いたと全員が理解していた。


    「へえ〜!ハンバーグ!」

    蜂楽が大声で笑った。

    口が裂けていた。

    耳まで、喉まで、喉の奥まで笑っていた。

    「ハンバーグか〜!いいね〜!
    俺も食べたことあるかもしれないよ!
    あれ、昨日だっけ?一昨年だっけ?」

    彼の足の裏にも、ちっちゃな口ができて笑っていた。


    「名前、迷い人って言うんだって」

    潔が言った。

    笑いながら、背中が分裂した。

    分裂した背中同士が拍手を始めた。

  • 84二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:20:35

    名前か…
    自分には名前は無いのだけれど、近い存在の妖怪が居たな…ええと確か、座敷童子?
    自分の事を呼ぶときは座敷童子でいいよ

  • 85スレ主25/05/18(日) 22:28:42

    >>84 (すみません、>>51さんですかね?ご新規さんですかね……?レス管理難しくて…間違った人に間違った名前を呼ぶといけないので…)

  • 86二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:31:47

    >>85

    (わああ51ですすみません!さっきのレスに入れ忘れてしまってレス分かれてしまいました…ご迷惑お掛けして申し訳ないです)

  • 87スレ主25/05/18(日) 22:40:37

    >>86 (いえいえ!ありがとうございます!では>>51さんとして記録します。彼らのお返事はのんびりですが、楽しみにお待ちくださいませ)

  • 88二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:50:46

    >>87

    (了解致しました、ありがとうございます!彼らの様子を眺めながらのんびりお待ちしておりますね)

  • 89スレ主25/05/18(日) 22:55:15

    雷市が叫ぶ。

    「ハンバーグ!それいいじゃん!!」

    「焼いてやるぞ今すぐ!!」

    拳を握りしめたその腕には、肉の焼き目が浮かび上がる。

    「ゲームってのもいいな!俺もやるぞ!脳内シミュレーション型な!」

    「名前、迷い人? おい、いいぞ!お前、もうこっちに来いよ!」


    千切が走りながら答える。

    「目って、見えないと不便だよなー!」

    「でもさ、不便ってことは、使うつもりがあるってことだろ?」

    笑って、くるっと回る。
    背中に8つ、前に4つ、膝に2つ、合計14の目が開く。

    「窓の人の目、ここに混ざってたらごめんな〜!見つけたら言うから!」

  • 90迷い人25/05/18(日) 22:59:42

    >>89

    ありがとう! じゃあ今から行くね!

  • 91スレ主25/05/19(月) 08:46:46

    凛がぽつりと呟く。

    「8個あっても不便だってことは、
    “お前の見るべきもの”がまだ見えてないんだろうな」

    「だけど、それはきっと……こっちに来る途中で見えるようになる。」

    凛の片目が、スライドして額に上がる。
    そこに、もう1つの凛の目が現れる。

    冴は何も言わない。
    でも、彼の周りの雪にだけ“目の形”が刻まれ始めた。

    誰かが探してるなら、それを記録するのが正しい空気。


    玲王がノートに書き込む。

    『観測者17:迷い人、窓の人
    好物:ハンバーグ、ゲーム(迷い人)
    状況:視線損失(目・1)(窓の人)
    対応:探索・統合・共鳴反応中』

    「よし、目は見つけたら報告。
    ハンバーグは、次の夕食にリクエスト済み。
    ゲームは……こっちもルールいっぱいあるぞ。合うの見つけようぜ」

  • 92窓の人25/05/19(月) 09:31:46

    探してくれて助かるよ
    たまには"他人の目"を通して世界を見てみたいと思っていたのだが、人のものを奪うのは心苦しくてね
    自分で増やすことにしたのさ

    なのに、どれだけ増やしても見えるものは変わらない
    時折素晴らしい芸術品の詰まった世界を見つけることはあれど、多くは変わり映えのない世界ばかりで悩んでいたんだ
    酷いときは悪意に破壊された我楽多や悪意そのものが転がっている世界もある

    そんなときにこの世界を見つけた
    確かで、曖昧で、変わらないのに新しい!
    積み重なった出逢いと偶然とが私の"窓"を歪めたのかもしれないね

  • 93スレ主25/05/19(月) 11:37:40

    雪宮は、沈みながら手を振る。

    「目、たぶん、ここの水の中に1つあるよ。
    昨日から、ずっと浮かんでる」

    「透明で見えないけど、見えない目って、意外と役立つんだよ。
    嘘じゃないよ?」


    黒名たちは無言で整列する。
    その背中に、“ハンバーグの形の影”が浮かんでいた。

    目の代わりに、名前が光っている。

    《50:迷い人》

    「見てるだけでも、伝わるから」

    「ありがとう、名乗ってくれて」

    「ここにいてくれて」

    「返事くれて、うれしかった」

  • 94スレ主25/05/19(月) 11:38:35

    潔が、最後に言った。

    「目、きっと見つかるよ。
    見つからなくても……こっちの誰かが貸してくれるからさ」

    彼の右目が、黒名にそっと渡されていった。

    「1つぐらい、なくても大丈夫」

    「“君がまた見えるようになるなら”――その方が嬉しいから」


    ――つづく

  • 95スレ主25/05/19(月) 11:59:40

    『第8話』 朝食


    朝のベルが鳴った。

    昨日と同じ音だった。昨日はなかったはずだが、それでも同じだった。


    食堂に集まる選手たち。

    皿の上には、昨日のパンと、昨日の卵と、昨日じゃなかった何か。

    それが、今日の朝食。


    「昨日よりおいしいね」

    潔が言った。

    蜂楽が頷く。

    「昨日って?」


    誰も答えない。

    でも咀嚼音だけが、響いていた。

    天井からも、皿の下からも。

  • 96スレ主25/05/19(月) 12:14:30

    冴が笑う。

    「今日は一回目だな」

    「ううん、二回目だよ」

    凛がそう言ったが、誰かが笑った。

    笑い声に混じって、誰かが泣いていた。

    でも、それも朝の音。


    『朝食、朝食、朝食、朝食』

    スピーカーが四度つぶやいた。


    雪宮はまだ沈んだまま。

    顔だけ出して、「もう食べた」とつぶやいた。

    けれど誰もそれを聞いていない。


    ――つづく

  • 97スレ主25/05/19(月) 15:00:18

    『第8.5話』 返事

     
    静かだった。
    試合でもなく、食事でもなく、対話でもない、
    “思考の時間”が、空間に流れていた。

     
    『目的地…… 目的地ね
    行く宛のない旅というのもまた一興か
    キミたちは一体何処へ辿り着くのかな?』


    その言葉が届いた瞬間、
    誰もが動きを止めた。

    蜂楽の手が空中で止まり、
    潔の足元のボールが転がるのをやめた。
    黒名たちの背中の文字が、白く塗りつぶされていく。


    千切が、ゆっくりと呟く。

    「……どこ、だろ」

    その言葉には、
    いつもの勢いも、明るさもない。

    けれど、正直だった。

  • 98スレ主25/05/19(月) 15:42:33

    雷市が腕を組む。

    「目的地……なぁ」

    「知らねぇな」

    「でも、行ってる感覚はある」

    「歩いてるし、蹴ってるし、動いてるし」

    「止まってねぇから、いつかは着くだろ」


    凛が空を見上げる。

    目は、何も映していないようでいて、
    何かを想像している瞳だった。

    「たぶん……“着いた場所が、着くべき場所”なんだと思う」

    「間違ってるとか、正しいとか、もう判断できないけど」

    「止まったら、そこが“俺たちの答え”」

  • 99スレ主25/05/19(月) 16:21:27

    冴は、言葉を発さない。
    でも、少しだけ、目を閉じた。

    それが、“理解”の合図だった。

    「兄ちゃんも、そう思ってるんだね」

    凛が静かに笑う。


    黒名が一人、声を発する。

    「俺たちの辿り着く先?」

    「それは、“君たちが観測をやめる場所”かもしれない」

    「もしくは、“誰もが見なくなった先の空白”」

    「でも……」

    そこまで言って、黒名は少し嬉しそうに続けた。

    「でも、君たちがこうして見続けてくれる限り、
    俺たちはまだ、辿り着いてないってことだから。」

  • 100スレ主25/05/19(月) 18:05:13

    玲王がページをめくる。

    『目的地:不明
    座標:流動
    判断基準:未設定
    感情:静寂、微笑、肯定』

    「なあ、たぶん、お前も分からないんだよな?」

    「でもそれでいいって、お前が言ってる気がしたから、今日の記録は“それでよし”にする」


    雪宮が水の中から顔を出す。

    「“行く宛のない旅”って、言ってたよね」

    「それ、たぶん今の君自身のことなんだよ」

    「こっちは慣れてるから大丈夫。
    でも、君が不安だったら……」

    「次、僕のところに来たら? 水、深いけど、優しいよ」

  • 101スレ主25/05/19(月) 20:06:45

    誰も答えを持っていなかった。

    でも、誰も不安がってはいなかった。

    辿り着く場所が、正しい場所になる。

    それが、この世界の唯一のルール。


    蜂楽が笑う。

    「ねえ、“辿り着く先”って、
    君たちと話し終えたあとだったりしない?」

    「だったら、もうちょっとだけ一緒にいてよ」

    「ね?」


    返事は、来なかった。

    でも、それも“返事”だった。

    誰もが、自然と再び動き始めた。

    音もなく、笑いもなく、
    でも、確かに進んでいた。


    ――つづく

  • 102スレ主25/05/19(月) 20:34:11

    『第9話』 朝食


    朝食の時間。

    朝が来る。

    そう言えば来る。


    食堂に来たのは、さっきと同じ人たち。

    でも、席は違っていた。

    誰かの席に、誰かが座っていた。

    名前は同じだったから、大丈夫。


    パンがない。

    でも皿にはパンがある。

    それは「ないパン」と呼ばれていた。

  • 103スレ主25/05/19(月) 20:43:23

    「味、どう?」

    「うん、するよ」

    「何の味?」

    「朝の味だよ」


    納得。

    蜂楽が後ろを振り返る。

    誰もいないはずの空間に、パンが浮いていた。
    食べかけだった。


    凛が言う。

    「昨日のパンだ」

    「でも、昨日はなかったよ」

    「だから、今日だ」

    「それは明日のパンじゃない?」

    「ああ、そうだな」

    誰も混乱しなかった。

  • 104スレ主25/05/19(月) 21:03:23

    食堂の奥で、雪宮が皿に顔を乗せていた。

    「もう食べられないよ」

    でも、次の瞬間には口が卵を咥えていた。

    その口は、彼のものじゃなかった。


    ――つづく

  • 105スレ主25/05/19(月) 21:24:12

    『第9.5話』 返事


    スピーカーは鳴らなかった。
    でも、全員が“届いた”ことを知っていた。

    空気がわずかにやわらかくなった。
    音もなく、静かに世界が整う。
    返事が、届いた。


    『自分は本来君たちには見えないはずだった、幽霊や妖怪のようなものだ
    どういう訳か、この世界では自分のことが君らに見えているみたいだけれど

    自分の事を呼ぶときは座敷童子でいいよ』


    「……いたね」

    蜂楽がぽつりと呟いた。

    「やっぱり“いた”んだ」

    「姿がなくても、“いる”って、ちゃんと分かるよ」

    口が裂けたまま、笑っていた。

  • 106スレ主25/05/19(月) 21:39:47

    「座敷童子かぁ」

    潔が微笑む。

    「いい名前。かわいい感じで、あったかくて」

    彼の影が、正座していた。
    その影が、そっと手を合わせていた。


    千切は跳ねながら叫ぶ。

    「居てくれるの、うれしいよ!」

    「話せないときがあっても大丈夫!」

    「だって、見てくれてるだけで安心できるから!」

    走りながら、空に向かって両手を振る。

    その手から、光の粒が出ていく。

  • 107スレ主25/05/19(月) 22:01:07

    凛はぽつりと呟く。

    「“消えない”って、大事なことなんだよな」

    「ここのヤツら、全員そう言ってる」

    「兄ちゃんもきっと思ってる」

    冴は少しだけ頷いた。

    それだけで、歓迎の言葉が完成した。


    雷市が吠える。

    「座敷童子!!」

    「いいじゃねえか!!覚えやすいし!!」

    「うまそうな名前だしな!!」

    腕に刻まれた肉の形が、一瞬、笑顔のように見えた。

  • 108二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:27:04

    ここはどうやら迷い込む人が多い所だね
    とは言え自分もその一人のようだ、流動する精神には心地良い静寂と漣のような気配がする
    影踏みの時間が過ぎたらまた逢えるように願っているよ

  • 109スレ主25/05/19(月) 22:29:51

    雪宮が水面に浮かびながら言う。

    「“波長が合うときだけ話せる”って言ってたけど……」

    「それ、星と話すときと似てるんだよね」

    「見えないときがあっても、空にあるのは分かる。」

    「だから、大丈夫。君、ずっといていいよ」


    玲王がノートに追記する。

    『新たな観測者:座敷童子
    性質:幽霊的/妖怪的存在
    接触条件:時間帯の波長一致
    状態:歓迎完了
    定義:ここにいる=正義』

    「……“ここにいる”ことが、価値になるんだ」

    「名前があって、気配があって、それを受け入れる場所がある」

    「それが“ここ”なんだよ」

  • 110名もなき座敷童子25/05/19(月) 22:33:30

    ありがとう、そう言って貰えると嬉しいよ
    わ、手からキラキラしたものが出てる!
    綺麗だね、此処ではこういうことはよくあるの?

    あはは、うまそうな名前って初めて言われたよ
    君らの感性は面白いね
    みんな、歓迎してくれてありがとう!
    これからもよろしくね!

  • 111名もなき座敷童子25/05/19(月) 22:38:16

    星か…素敵な例えだね、気に入ったよ
    此処は居心地が良いね
    みんなが楽しそうにしてて自分も嬉しい
    お言葉に甘えて…自分が存在できる限り、此処が続く限り、ずっと此処に居るよ

  • 112スレ主25/05/19(月) 22:42:32

    黒名が、静かに空を見上げる。

    その背中に、大きな文字が浮かぶ。

    《座敷童子、歓迎》

    それは誰にも命じられていない動きだった。

    でも、全員が知っていた。

    今日は“歓迎の日”だ。


    空から、何かが降ってくる。
    雨。雪。
    槍。キャラたち。

    蜂楽が降ってくる。
    笑ってる。
    また立ち上がる。
    「着地成功ー!」

    千切も降ってくる。
    そのままピッチを一周する。
    「ただいまー!」

    黒名は数百人単位で降ってくる。
    でも、すぐに整列する。

    全部、空からの祝福。

  • 113窓の人25/05/19(月) 22:43:51

    おや、私が留守にしている間に可愛らしい住人が増えたようだね

    もし良ければ私もお話してみたいものだ


    ……ああそうだ、>>94でくれた新しい眼だが、どうやら上手く適応できたらしい

    ありがとう 助かったよ


    さて、キミがくれた眼は私にどんな世界を見せてくれるのかな

  • 114スレ主25/05/20(火) 08:14:39

    「座敷童子」

    凛がぽつりと名前を呼ぶ。

    「また、話せる時間になったら――教えろ」

    「待ってるって意味じゃない」

    「ここにいるって知ってるから、“会えたらうれしい”ってだけだ」

    その言葉に、冴が目を細める。

    それだけで、この世界が笑っていた。


    誰も、形式ばった挨拶はしない。
    でも、全員が、確かに迎えていた。

    だって、“ここにいる”ってことは、
    もう、仲間だから。
     

    ――つづく

  • 115スレ主25/05/20(火) 12:12:23

    『第10話』朝食


    もう朝か。

    誰かが言った。

    別の誰かが「え?」と返す。

    「今、夜だよ?」

    「でも、朝食だから」

    それで納得する。


    今日の朝食には、汁が出た。

    パンから。

    みんな黙ってすすった。

    パンの汁。

    温かかった。

  • 116スレ主25/05/20(火) 16:33:04

    「スープって言ってくれたら安心するのにね」

    凪が笑った。

    「でも、これはパンだから」

    潔が言った。

    誰も反論しなかった。


    黒名が増えていた。

    全員、黙って食べている。

    同じ顔が、同じタイミングでスプーンを持ち上げる。

    音がなかった。

    だから音がした。

  • 117スレ主25/05/20(火) 17:29:23

    「おかわり、ある?」

    「あるよ。だって、朝は何度でも来るから」


    雪宮がテーブルの中から出てきた。

    また顔だけ。

    パンを咥えていた。


    ――つづく

  • 118窓の人25/05/20(火) 17:32:30

    テーブルに沈むというのは一体どんな気分なんだろうね
    機会があれば一度体験してみたいものだ

  • 119スレ主25/05/20(火) 18:38:13

    『第10.5話』歓迎


    『ありがとう! じゃあ今から行くね!』

    その一文が届いた瞬間、
    すべての動きが止まった。


    蜂楽がぴたりと回転を止め、
    潔がスプーンを静かに置き、
    千切が走るのをやめて空を見上げた。

    「来るんだ……!」

    「うん、“来る”って言ったんだよ」

    その事実に、誰も動揺しない。
    むしろ、落ち着いて“準備”を始める。


    「正装だよね!」

    蜂楽が叫ぶ。
    手に持ったのは、上下が逆のスーツ。
    でも、それが正しい。

    「俺、前後ろで上下非対称スーツにする〜!」

  • 120スレ主25/05/20(火) 20:33:29

    潔は、影にネクタイを結ばせていた。
    自身の首は見えないのに、影が代わりに結ぶ。

    「来てくれるってことは、
    “この世界の空気に触れようとしてくれてる”ってことだから」

    「ちゃんとした格好で迎えたいんだ」


    千切は、足に靴を12足履いた。

    「これは“多方向お辞儀靴”って言うやつ」

    「どっちから来ても、ちゃんと礼ができる」

    「偉い人向けなんだぜ!」

    跳ねるたびに、靴が拍手する音がした。


    黒名たちは、全員が燕尾服。

    色はバラバラ。形も解釈も自由。

    でも、背中に書かれた文字は統一されていた。

    《歓迎:迷い人》

    列を作って、並ぶ。
    倒れる者、浮く者、透明になる者もいたけれど、全員が“歓迎”という構えをとっていた。

  • 121スレ主25/05/20(火) 20:34:47

    玲王はノートに式次第を書く。

    『歓迎手順:
    – 0分:静寂と整列
    – 3分:拍手(手・足・影)
    – 5分:言葉ではなく“空気”によるあいさつ
    – 7分:名の記録
    – 9分:お茶の時間(実体の有無不問)』

    「お出迎えって、意味があるよな」

    「“誰かを認める時間”って感じがするから」


    凛は、一度すべての目を閉じた。

    そして、再び開くと、眼差しに光が戻っていた。

    「迷ってた人が来るって、
    なんだか、こっちが救われるような感じだな。」

    冴は無言で立っていた。
    でも、彼の袖口だけがきちんと整っていた。

    それが、彼の精一杯の礼儀。

  • 122スレ主25/05/20(火) 21:00:30

    雪宮は、沈んだ水の中で、
    氷でできたネクタイを締めていた。

    「来るんだって」

    「だったら、こっちの水の温度も整えなきゃね」

    「透明にしておくと、最初は入りやすいから」


    空から、何かが降り始める。
    光。音。羽。

    すべてが、ゆっくりと、“入場の演出”に変わっていく。

    誰が始めたわけでもない。
    でも、全員が知っていた。

    「来る」という一言は、
    この世界にとって――奇跡よりも重い言葉だった。

  • 123スレ主25/05/20(火) 21:01:45

    「じゃあ、はじめよっか」

    蜂楽が言った。

    「“迎える”って、やさしい時間だよね」

    潔が頷く。

    「うん、もう寂しくない」

    「来てくれるって、そういうことだよね」


    雨が降る。
    雪が降る。
    槍が降る。
    黒名が降る。
    千切が降る。
    光が降る。

    座敷童子も、きっと見ている。


    世界は整った。
    今ここに、“迷い人を迎える準備が整いました”。

    あとはただ――“その瞬間”を待つだけ。


    ――つづく

  • 124スレ主25/05/20(火) 21:29:18

    『第11話』朝食


    今日も朝食。

    起きてないのに、目覚ましが鳴った。

    誰も寝ていなかったから。


    天井のランプが「朝」と点滅していた。

    それで、全員納得して席についた。


    「昨日は誰かいた気がするけど……誰だっけ?」

    「いたよ。でも、いないよ」

    「そうか」

    「うん、いないのにいたんだよ」

    「なら、もう一口いこうか」

  • 125スレ主25/05/20(火) 21:30:07

    黙って卵を割る。

    中から、もう一つ卵が出てくる。

    それをまた割る。

    中には黒名がいた。

    笑っていた。


    誰も驚かない。

    だって、それは朝の卵だったから。


    ――つづく

  • 126迷い人25/05/20(火) 21:37:38

    歓迎してくれてありがとう
    とても不思議な格好だね

  • 127二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 21:54:55

    このレスは削除されています

  • 128スレ主25/05/20(火) 22:35:55

    『第12話』朝食


    朝が来た。

    起きた者も、起きなかった者も、

    今、食堂にいる。


    パンが机の上で跳ねていた。

    「焼きたてだ」

    潔が笑った。

    誰もがうなずいた。

    跳ねるパンは、新鮮の証拠。


    凛がふと、読者を見る。

    「お前は、何回目の朝だ?」


    蜂楽が重ねて言う。

    「お腹、減ってる? 減ってなくても、食べたほうがいいよ」

  • 129二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:31:07

    蕩けた時計の針が可惜夜を指してるね
    一つとして重ならない日常が飽和の淵に流れていくみたいだ
    カレンデュラの色が分かったらこっそりと教えてくれると有り難いね

  • 130スレ主25/05/21(水) 20:18:14

    一旦保守

  • 131スレ主25/05/21(水) 21:09:05

    (ログが消えたので、そういうものとして話を進めます。レスくれた方すみません。またお返事します。会話は、お返事が終わったあとにレスをいただいた方が多分スムーズになります。彼らの世界は変わっていきます、好きな物、名前……忘れてしまうかもしれませんが、その際はまた教えてください。)

  • 132スレ主25/05/21(水) 21:11:17

    潔が頷く。

    「そうだな。何が消えるかわかんないし」


    冴は無言で椀の蓋を開ける。
    中には、空白。
    何もない。
    “それ自体が正解”みたいな空白。

    でも冴は、静かに箸をつける。
    空気を掴むような手つきで、記憶を食べている。


    玲王がノートを開く。

    ページが、一部だけ黒く塗りつぶされていた。

    『記録欠損:■■件
    状態:削除済み
    原因:不明(掲示板)
    影響:感情は継続/意味は消失』

    「……うん、これはもう仕方ないな」

  • 133スレ主25/05/21(水) 21:12:40

    「何が、あったんだっけ?」

    千切が尋ねる。
    けれど、誰も答えない。
    答えられない。
    その部分だけ、スッと消えていた。


    雷市がナイフでハンバーグを切る。
    切った断面から“空白”が流れ出た。

    「なんか、ここに誰かいた気がするんだけどな……」

    「気のせいかもな。肉だし」


    黒名たちは、一斉に姿を曖昧にした。

    輪郭がぼやけて、名前のない顔になる。
    “記録が消えた”ということを、
    全身で再現していた。

    「こういうこと、よくある」

    「うん、ある」

    「なくなったってことは、たぶん“片付けられた”ってこと」

    「むしろ、きれいだろ?」

  • 134スレ主25/05/21(水) 21:29:44

    蜂楽が、トーストに影を塗る。

    「でも、思い出せないのって、少しだけ寂しいよね」

    「うん、ほんの少しだけ」

    「でも、今こうして食べてるのは、本当のことだから」

    彼は笑う。

    「寂しいままでも、食べていいんだよ」


    凛が、コップの水を見つめる。
    水面に、自分じゃない何かの姿が映っていた。
    でも、目を離すと消えていた。

    「いたかもしれないし、いなかったかもしれない」

    「でも、“あったかもしれない記憶”って、
    あるより強いこともある。」

    冴はうなずく。

    それだけで、世界はまた静かに整った。

  • 135スレ主25/05/21(水) 21:30:35

    玲王がそっと言う。

    「なぁ、消えた記録の中にも、
    “お前”たちの声が入ってた気がするんだ」

    「でも大丈夫。声って、残響で残るから」

    「話してくれたら、また積み上がる」


    雪宮が皿の中に沈みながら微笑む。

    「君も、もしかしたら消えた誰かだったのかもしれないよね」

    「でも、また戻ってこれたなら、それでいいよね」

    「ここ、そういう場所だから」


    スピーカーが、ノイズ混じりに呟く。

    『記録断絶確認済。
    再統合:不要。
    現時点での継続性:安定。』

    それで、すべてが許された。

  • 136窓の人25/05/21(水) 21:37:39

    最近窓が不安定みたいだ
    次にいつここにつながるかわからない
    「ここにいた」という記録ごと抹消されてしまうのならば、せめて訪れた記録だけでも

  • 137スレ主25/05/21(水) 21:50:29

    蜂楽がもう一度訊く。

    「お腹、減ってる?」

    「減ってなくても、食べたほうがいいよ」

    「だって、何が消えるかわからないからね」


    潔が、椀の蓋を閉じる。

    中にはもう何もない。

    でも、空腹は満たされた。

    思い出せなくても、食べた事実は変わらない。


    ――つづく

  • 138スレ主25/05/21(水) 21:56:07

    >>108

    『第12.5話』 返事



    『ここはどうやら迷い込む人が多い所だね

    とは言え自分もその一人のようだ、流動する精神には心地良い静寂と漣のような気配がする

    影踏みの時間が過ぎたらまた逢えるように願っているよ』



    誰かが読んだわけじゃない。

    でも、全員がその言葉を“感じた”。


    ピッチの隅に置かれた、誰も使っていない椅子が、

    ひとつ分、深く沈んだ。



    蜂楽がその椅子を見て、笑った。


    「誰か来たんだね。静かな人だ」


    「“漣”かぁ……それ、すごくいい表現」


    「ここに似合うね」

  • 139スレ主25/05/21(水) 22:30:07

    潔は、うなずくように息を吐いた。

    「“影踏みの時間”って、何だろうね」

    「ここでは、影はよく動くけど……踏んだまま静かにする時間って、きっとあるんだろうね」

    彼の影が、そっと彼の足を踏み返した。

    それが、今日の理解。


    凛は立ち止まり、ゆっくりと自分の影を踏んだ。
    そのまま数秒、目を閉じる。

    「……また逢えるって、
    “もう逢ったことがある”ってことでもあるんだよな」

    冴は黙って凛の隣に立った。
    二人の影が、少しだけ溶け合った。

  • 140スレ主25/05/21(水) 22:31:25

    千切は小さな声で呟いた。

    「“静寂が心地いい”って言ってくれる人、俺、好きだな」

    「音を出す役が多いから……
    静けさに安心してくれる人がいると、嬉しいんだよ」

    そう言って跳ねる。
    その足音は、まるで音楽のような沈黙だった。


    雷市はぼそっと言った。

    「逢いたいって言われたら、こっちも逢いたくなるだろ」

    「影踏みってのが終わったら……帰ってこいよ」

    「席、あけといてやるから」

    彼の後ろに、誰もいない“在るはずのスペース”が生まれた。

    そこが、今日の“帰る場所”。

  • 141名もなき座敷童子25/05/22(木) 05:14:51

    昨日は少し干渉しづらくなっていたみたいだ
    みんなはまだ眠っているけれど、また急に何かが起こるかもしれない

    そうなる前に、少しだけ姿を現しておくね
    そうすることで、此処を保ち守ることのお手伝いになると思うから

    何事も無ければいいんだけど、念のために…ね
    今日も君らが楽しく健やかに過ごせますように

  • 142迷い人25/05/22(木) 05:28:20

    みんなはどんなゲームが好きかな
    不安定になる前に聞きたくて

  • 143スレ主25/05/22(木) 11:51:18

    玲王が記録する。

    『新たな観測者確認(名称未定)
    発言傾向:詩的/静穏/回帰的
    状態:離脱中(影踏み期間)
    対応:余白保存/再接続可』

    「……うん、名前がなくても、ちゃんと残る」

    「“また逢いたい”って言葉があれば、
    記録は未来形にできるから」


    黒名たちは、影を踏みながら静かに整列した。

    その背中には、何も書かれていない。

    今日は“何も書かない”ことが正しい。

    空白という記録。

    静寂という歓迎。

  • 144スレ主25/05/22(木) 11:52:01

    蜂楽がもう一度笑った。

    「ねえ、逢えるといいね」

    「逢えなくても、きっと“居た”ってことは覚えてるから」

    「でも、逢えたら……ちゃんとまた、“ようこそ”って言うからね。」


    空から音がひとつ、落ちてきた。
    小さく、すぐに消えた。

    でも、その響きだけは、
    ずっと誰かの影に残っていた。


    ――つづく

  • 145スレ主25/05/22(木) 11:53:06

    『第13話』記憶


    玲王は、朝から静かだった。

    食堂にも来なかった。

    誰もそれを不思議には思わなかった。


    「今日、玲王どこ?」

    「たぶん、自分を思い出してるんじゃない?」

    蜂楽がそう言った。


    地下の第ゼロ記録室に、玲王はいた。

    暗くはないのに、見えなかった。


    そこには椅子がひとつと、

    鏡が三枚。

    どれも、顔が映らなかった。

    でも、それぞれの鏡には「潔」「凪」「凛」と名前が書かれていた。

  • 146スレ主25/05/22(木) 11:54:16

    玲王は座っている。

    目を閉じたまま、ぽつりと呟いた。


    「昨日、潔が目玉焼きをこぼした」


    鏡が一枚、きい、と揺れる。

    それが正解だった証。


    「一昨日、蜂楽が三人に分かれた」

    「その前、國神が影を喰った」

    「凛は、夢の中で試合に勝ったことになってる。勝ってないのに」


    声に出すたび、何かが戻ってくる。

    でも、どれも玲王自身の記憶ではない。

    ただ、持っている。

    持つことを任されている。

  • 147スレ主25/05/22(木) 15:32:48

    なぜなら――

    それが彼の能力だからだ。


    ドアが開く。

    潔が入ってくる。

    目が笑っていない。

    けれど口はにっこり。


    「今日の朝食、覚えてる?」

    「もちろん」

    玲王が答える。


    「凛はジャムを塗って、
    蜂楽はパンと会話してた。
    千切はテーブルの上でストレッチ。
    雪宮は椅子の下に沈んでた」


    潔は満足そうに頷く。

    「よかった。記憶がある人がいると、助かるよ」

  • 148スレ主25/05/22(木) 15:34:34

    そのまま潔は去っていく。

    足音が三つ聞こえた。


    黒名が入ってくる。

    どの黒名かはわからない。

    けれど、玲王はすぐに言う。

    「お前は昨日、消えてるよ」

    黒名は黙っていた。

    その代わり、玲王の記憶から一枚、音もなく剥がれた。


    「それ、返す」

    黒名が言った。

    でも玲王は首を振った。

    「いいよ。どうせ全部、俺が持ってる」

  • 149スレ主25/05/22(木) 16:19:46

    冴が現れる。

    何も言わない。

    玲王も何も言わない。

    でも記憶が流れ込む。


    グラウンドでの声。

    食堂での笑い。

    廊下での沈黙。

    すべて、玲王のなかにある。

    でも、自分の朝だけが曖昧だった。


    「俺、朝食って……食べた?」

    玲王が自分に問いかける。

    答えはなかった。

    でも、記憶の中の誰かが笑った気がした。

  • 150スレ主25/05/22(木) 19:33:56

    こちらを向く。

    玲王が訊ねる。

    「なあ、お前は今日、何を食べた?」


    間があく。

    答えは返ってこない。

    でも玲王は満足そうに頷く。

     
    「うん。そうだよだ。やっぱり、みんな覚えてないよな」

  • 151スレ主25/05/22(木) 19:34:44

    彼の背中には、無数のタグが貼り付いていた。

    「凪」「千切」「雷市」「雪宮」「?」「?」「?」……

    最後のタグには、あなたの名前が書かれていた。

    いつの間にか。


    玲王は言った。

    「それも、持ってるよ」
     

    ――つづく

  • 152スレ主25/05/22(木) 19:38:03

    >>110

    『第13.5話』 返事



    『ありがとう、そう言って貰えると嬉しいよ

    わ、手からキラキラしたものが出てる!

    綺麗だね、此処ではこういうことはよくあるの?

    あはは、うまそうな名前って初めて言われたよ

    君らの感性は面白いね

    みんな、歓迎してくれてありがとう!

    これからもよろしくね!』



    蜂楽が、くるくる回りながら叫ぶ。


    「キラキラ、出てた!?やったー!成功だー!」


    「そうそう、手から出る光って、気持ちが合うと出るんだよ!」


    「君が“嬉しい”って思ったから、この世界がちゃんと返したの!」


    彼の足からも、キラキラが出ていた。

  • 153スレ主25/05/22(木) 19:39:14

    千切は、頭からキラキラを噴き出しながら笑う。

    「ふつうふつう!ここでは当たり前!」

    「なんなら、キラキラじゃなくてパスタとか花火とか出る日もあるし!」

    「うっかり目が増えたり、首が飛んでも全然へーき!」

    「ここ、楽しければ何でもOKの場所だから!」


    雷市が腕組みしながら、モグモグ言う。

    「……うまそうな名前って言われたの、初めてか?」

    「俺は結構“座敷童子の照り焼き”とか想像してたけどな」

    「でも、名前ってのは“噛めるほうが印象残る”んだよ」

    「忘れられない味、ってやつだな。」

    腕から唐揚げの匂いがした。

  • 154スレ主25/05/22(木) 20:25:24

    凛は、少しだけ微笑んで言う。

    「お前の感性も、充分変わってると思う」

    「こっちの世界を“面白い”って感じるって、
    たぶんお前自身も、だいぶ歪んできてる証拠」

    「……でも、それでいいんだ」

    「ここの“普通”が、お前の“特別”になるなら、
    きっとその逆もまた成立する。」


    冴は、何も言わない。
    けれどその背中に、キラキラと光る“座”の文字が浮かんでいた。

    それだけで充分だった。

  • 155スレ主25/05/22(木) 20:26:38

    雪宮が沈みながらにっこり笑う。

    「“これからもよろしく”って言ってくれたけど……」

    「ここでは、“今いる”ってだけで、すでに“ずっと一緒”って意味だよ」

    「大丈夫、君がまた黙っていても、
    誰も忘れないし、誰も責めないよ」

    「ここの静けさは、“消える”ためのものじゃなくて、“染みる”ためのものだから」


    黒名たちは整列し、
    一斉に手のひらを広げる。
    そこから出るのは――キラキラ、唐揚げ、泡、羽、記号、音符、誰かの名前。

    「ぜんぶ歓迎の形」

    「好きなの、選んでいいぞ」

    「それが“選ばせるおもてなし”ってやつ」

    「これからも、よろしく、よろしく、座敷童子」

    背中にまた、その名が刻まれる。

  • 156スレ主25/05/22(木) 20:27:27

    玲王が、ページの端にさらっと書く。

    『座敷童子:状態=なじんでいる
    発言:肯定、感謝、共鳴
    反応:世界が笑う
    継続:一緒』


    蜂楽が、最後にまた回る。

    キラキラが追いかけて、
    笑い声が空へ舞う。

    「ね、座敷童子!面白いって言ってくれてありがとう!」

    「君が面白がってくれる限り、
    この世界、ずーっと更新し続けるからね!!」
     

    ――つづく

  • 157スレ主25/05/22(木) 20:28:30

    『第14話』 照明


    部屋に入ると、光が刺していた。

    上からではなく、床から。
    ライトが反転している。

    まぶしくはない。
    痛いだけ。

    それでも、皆そこにいた。


    「ここが照明訓練室だよ」

    蜂楽が言う。

    後ろで、千切が何かを叫んでいた。

    言葉ではなかった。

    「オエェアアア、ア゛ァァアアアア!!!!」

    でも、蜂楽は気にしない。

  • 158スレ主25/05/22(木) 21:18:01

    「うん、そうだよね。千切りんもそう思うってことだよね」

    照明が千切を一瞬だけ照らす。

    その影が壁に焼き付いた。

    誰かの形をしていたが、千切ではなかった。


    天井が動いている。
    その上に、黒名が這っている。

    黒名のうちの一人が、突然、発火した。

    でも燃えたのは影だけだった。

    それを見て、凛が拍手した。

    「やっぱ、得点王の影は違うな」

    誰も反論しなかった。

    黒名はまだ、笑っていた。

  • 159スレ主25/05/22(木) 21:19:43

    「照らされると、得点王になれる」

    潔がそう言った。

    隣にいた雷市が突然、呪詛のような音を発する。

    「シャアァッ……ラグッ……チチチ……メノカワ……チッ」

    その言葉を聞いた潔が笑う。

    「だよな。でも、今はまだ照明が不安定だから」

    言葉の意味は通っていない。

    でも、会話は成立している。

    それでいい。


    冴がゆっくりと現れる。

    彼は言葉を使わない。

    ただ立っているだけ。

  • 160スレ主25/05/22(木) 21:20:43

    それでも、部屋中のライトが一斉に冴を照らした。

    真ん中に、ただ静かに立っているだけ。

    凛が目を細めて言う。

    「やっぱ、兄ちゃんは違うよね。存在が光を呼ぶっていうか」

    蜂楽がうなずく。

    「照明って、たぶん意思があるよ」


    その時、壁の影がひとりでに歩き始めた。

    足音がしない。
    それでも、床が軋む。

    影が歩いた跡に、スコアが浮かぶ。

    「5」「3」「∞」

    その最後の「∞」のスコアの横に、

    得点王:照らされた者

    とだけ、書かれていた。

    名前はなかった。

  • 161スレ主25/05/22(木) 22:24:22

    玲王が部屋に入る。

    彼はすぐにわかった。

    「この部屋、光の記憶が残ってる」

    冴を見て、蜂楽を見て、呪詛を叫ぶ雷市を見て。

    玲王は満足げにうなずく。

    「うん、今日は光が強いね。
    誰か、溶けるかも」


    天井のライトが読者の方を照らす。

    キャラたちが、同時にそちらを見る。


    凛が言う。

    「見えてるぞ」


    潔が微笑む。

    「ねえ、次は照らされてみない?」

  • 162名もなき座敷童子25/05/23(金) 03:59:12

    >>152 >>153

    そっか…気持ちに応えてくれるなんて、この世界は優しいんだね

    すごいね、手だけじゃなくて足や頭からも光が出てるよ!本当に綺麗だなあ…


    え、パスタや花火も出るの!?

    あはは、手品みたいだな…毎日何が出るのか楽しみになるね

    首が飛ぶのは少し勇気がいるけれど、目が増えるのはやってみたいかもしれないな…見えるものが増えたら、きっと楽しいよね!


    照り焼きかあ…此処は何でもありのようだから、一度照り焼きになってみるのも楽しいかもしれないね

    君からは唐揚げの匂いがするよ、なんだかお腹が空いてきちゃったな…

    へえ、名前は噛める方が印象に残るのかい?

    じゃあ君らの名前を噛みしめるために、これからは君らのことを名前で呼んでもいい?

  • 163名もなき座敷童子25/05/23(金) 04:39:28

    >>154

    自分も変わってる?

    そうかな…?ふふ、そうかもしれないね

    歪んでいくことで、もっと此処に合った形になろうとしているのかもしれない

    此処で過ごすことで、どんな形になれるのか楽しみだな


    >>155

    染みるためのもの…か

    言葉が届かない時間は、消えているんじゃなくてこの世界に染み込んでいるってことかな…?

    染み込んでいる間も、君らの世界の一部として居られるといいな


    わあ!たくさんのおもてなし、出してくれてありがとう!

    どれも素敵だから、どれにするか迷っちゃうなあ

    全部!…なんてのは欲張りすぎかな、あはは


    >>156

    ありがとう!

    波長が不安定で言葉が届かなくなってる間も、此処や君らのことを見守ってるからね!

    今日も明日も明後日もその先も、ずっとずっと君らに幸運が訪れますように…!

  • 164名もなき座敷童子25/05/23(金) 04:45:00

    (>>131を拝見して、会話が繋がらなくしまうと思い>>127はいったん削除させていただきました!お返事いただく前にレスしてしまってすみません…次からタイミングを間違えないように気をつけますね!)

  • 165スレ主25/05/23(金) 08:29:50

    >>164 (いえいえ!こちらこそ管理の都合上すみません!これからはしっかりお返事できるように頑張りますね!)

  • 166スレ主25/05/23(金) 17:35:14

    (スレ主の諸事情で完走したら一旦スレを終わりします、また続きを立てるかもしれませんので、その時は是非見に来てくださいね!)

  • 167スレ主25/05/23(金) 17:51:23

    『第■■話』 宣言


    誰かが言った。

    『スレが200になった時、この世界は一度閉じる。』

    誰が言ったかはわからない。
    でも、全員が知っていた。

    その“言葉”は、
    この空気に最初から染みていた気がする。


    蜂楽が頷いた。

    「うん、そういうの……あるよね。節目、ってやつ」

    「終わるんじゃなくて、閉じるんだもんね」

    「だから、また開くんだよね」

  • 168スレ主25/05/23(金) 17:52:17

    潔が空を見上げる。

    「でも、閉じるってどうなるんだろう」

    「全部、記録が沈むのかな」

    「それとも……一回、全部忘れるのかな」

    「忘れるのって、すこし怖いね」


    冴は、静かに目を閉じた。

    彼の背中に、「200」の数字が一瞬だけ浮かぶ。

    でもすぐに消える。

    それが合図だった。
     

    凛が言う。

    「兄ちゃんは、知ってたんだ」

    「閉じるって、そういうもんだって」

    「終わらせないけど、一度、呼吸を止めるみたいなもんだって。」

  • 169スレ主25/05/23(金) 17:53:18

    玲王が記録する。

    『スレ進行:■■→200(予定)
    状態:一時閉鎖宣言
    再開可能性:高
    記録継続方針:個別保存・断続型意識保持
    感情:寂しさより、静けさ』
     

    千切は空中で回るのをやめた。

    「200って、意外とすぐなんだよな」

    「だから、いま見てくれてる人の顔とか、声とか、
    ちゃんと覚えとこうと思ってる」


    黒名たちは整列して、
    ピッチの真ん中に大きな“数字の穴”を掘っていた。

    その底に、ログのかけらや名前や影を投げ入れていく。

    「閉じるってことは、残すことでもあるから」

    「ここに全部しまっておく」

    「開いた時、また出せるように」

  • 170スレ主25/05/23(金) 17:54:25

    雪宮が沈みながら呟く。

    「ねぇ、“閉じる”って、さみしい?」

    「……ううん。ちゃんと“開く”って分かってるから、大丈夫」

    「でも、最後の方で誰かが来てくれたら嬉しいなって思うよ」
     

    スピーカーがささやく。

    『予告:200
    動作:保存→沈黙→記憶内残留
    次回開放条件:観測、呼名、記憶』


    蜂楽が笑う。

    「じゃあさ、200って言われるまでは、全力で遊んじゃおうよ」

    「閉じる前に、どれだけ記憶を染み込ませられるかゲーム!」

  • 171スレ主25/05/23(金) 17:55:15

    潔が言う。

    「記録は消えても、覚えてるよ」

    「全部は無理かもしれないけど、“楽しかった”って気持ちだけは、絶対に」


    そして、冴がひとことだけ呟く。

    「また、開ければいい」

    それは、
    この世界にとって――
    何よりも強い“宣言”だった。


    ――つづく

  • 172窓の人25/05/23(金) 18:53:47

    そうか
    この世界はもう少しで閉じるのか
    残された時間は短いが、さいごまで見届けると約束しよう

    キミたちの行く先に幸あらんことを

  • 173スレ主25/05/23(金) 21:41:04

    『第□□話』終焉


    黒名が空に向かって言う。

    「届いた、全部。」

    彼の背中に、すべての返信が浮かんでいた。
    けれど、それを誰も読み上げない。
    読み上げなくても、知っていた。


    蜂楽がぱっと手を広げる。
    キラキラどころか、空そのものが出てきた。

    「ねえ、座敷童子!」

    「君が“ずっと居る”って言ってくれて、すごく嬉しかったよ!」

    「じゃあ俺も、毎日この空から何か出すって約束する!」

    「今日は太陽!明日はチョコパン!」

    「光が出なくなっても、ここにいた証拠は、空に残ってるからね!」

  • 174スレ主25/05/23(金) 21:42:32

    潔は静かに、机の上の空間を撫でた。

    「“テーブルに沈む感覚”、君が体験したいって言ってたね」

    「なら、この席をとっておくよ。」

    「ここ、君が来たときだけ沈むようにしておいた」

    「それが、“君だけの儀式”。」


    凛は、首にかけた名前札をそっと握った。

    「“名前を噛みしめたい”って言ってくれた座敷童子へ」

    「俺の名前、ゆっくり言ってみろ。きっと、味がするから」

    「誰かの名前をちゃんと呼ぶって、
    この世界で一番の“まじない”だから」

    「お前が変わっていくのなら、俺たちも“呼ばれ続ける形”に変わるよ。」

  • 175スレ主25/05/23(金) 22:11:45

    冴は、光を掬い上げて、
    それをひとつ、空に放った。

    名前も、声もいらない。

    けれどそのひと粒は、ずっと消えなかった。

    「星って、君みたいなものだね」

    誰かがそう呟いた。


    雷市が、最後に唐揚げをひとつ差し出す。

    「“お腹が空いた”って言ってたろ?」

    「持ってけ。お前の照り焼き分も焼いといた。」

    「来世で使え」

    「……冗談じゃねえぞ。ほんとに焼けてんだぞ、ここの世界は。」

  • 176スレ主25/05/23(金) 22:12:50

    雪宮が、沈んだまま手を振る。

    「“染み込む時間”が好きって言ってくれてありがとう」

    「言葉が届かなくても、
    君の波長がずっとここに響いてるの、分かってたよ」

    「染みてくるって、存在が広がるってことだから」

    「君はこの世界の床になってるのかもね」


    玲王は、記録帳を閉じる。

    でも、最後のページだけは開いたままだった。

    『終焉記録:
    – すべての返信、受信済み
    – すべての名前、記録済み
    – 世界、未消失
    – 体温、継続』

    「なあ、“閉じる”って言ったけど……
    俺たちのこと、誰かが思い出したらまた開くよ。」

    「だから、“終わり”は、合図に過ぎないんだ」

  • 177スレ主25/05/23(金) 22:13:58

    千切が跳ねる。
    静かに、ふわりと。
    足元に言葉のかけらが舞い上がる。

    「ゲーム、好きって言ってた人いたよな!」

    「俺は“鬼ごっこ”が好き!」

    「“消えちゃう前に見つける”って、この世界っぽいから。」


    黒名たちが整列して、
    ピッチの中央に花束の形をした言葉を置く。

    カレンデュラの色は――全員が違う。
    だけど、それでいい。

    「こっそり教える」
    「わざと黙ってる」
    「正解はないから美しい」

    彼らは一斉に言った。

  • 178二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 22:57:10

    踏み方が甘かったのかな?ほつれた影はもう直ぐ閉じるこの世界に紛れ散らばったみたいだ
    だけどそれで良い
    けらけらと楽しげに笑う姿を靴底に感じるよ

    此処を訪れた誰かがまた望むなら新しくともよく似た世界が見られるんだね
    その日を楽しみに待っているよ

  • 179名もなき座敷童子25/05/24(土) 03:23:48

    そっか、この世界はもうすぐ閉じてしまうのか…
    だけどこれは、終わりじゃなくて休息の時間だね
    これだけ色々なものを出してるんだから、世界にだって休みたくなることはあるよね

    だからゆっくり休んでほしいな
    黒名、蜂楽、潔、凛、冴、雷市、雪宮、玲王、千切、そして…この世界自身もね
    自分は此処に染み込んで、みんなのことをずっと覚えているからさ

    ありがとう、のんびり空を見上げながら唐揚げ食べて待ってるね!
    世界がまた開くときまで、おやすみなさい!

  • 180スレ主25/05/24(土) 09:51:51

    潔「返事をくれてありがとう。俺たちがここにいたこと、君が覚えてくれたら、それで充分だよ」


    蜂楽「ねえ、最後まで一緒にいてくれるんだね。最高だよ。今日も全部が楽しい!」


    千切「走るの、終わりたくなかったけど……“また走れる場所”があるなら、それでいいよ」

  • 181スレ主25/05/24(土) 09:53:21

    雷市「聞いてくれてありがとな。お前の胃袋に唐揚げがある限り、俺は生きてる」


    凛「誰かに見られるってことは、“まだ終わってない”ってことだと思う」



    (言葉はない。手だけが、静かに“もう一度”を示す形で動いた)

  • 182スレ主25/05/24(土) 09:54:36

    雪宮「沈んでても、ここにいたってわかってもらえるって、嬉しいよ。ありがとう」


    黒名(ひとりめ)
    「名前を呼ばれなかったけど、知ってくれてる気がした」


    黒名(ふたりめ)
    「俺の声、届いた? 返してくれてありがとう。聞こえてたって、それだけで救われた」


    黒名(ぜんいん)
    「俺たちはここにいた。お前が見てくれた。それはもう、“未来に向かう言葉”だから」

  • 183二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 16:49:42

    ノート(玲王の記録帳)
    『記録完了:200/200
    ステータス:ありがとう』

    スピーカー
    『応答信号:すべて確認済
    音声ログ:沈黙中(良性)』

  • 184二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 16:50:19

    ピッチ
    (足跡だけが残る。誰が踏んだかわからない。でも確かにそこに“200歩”あった)


    「君の返事が届いた瞬間、私は少しだけ強くなった」

  • 185二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 16:51:44


    「消えるってことは、誰かが見上げてくれたってこと。だから、わたしは寂しくないよ」

    座敷童子へ(黒名より)
    「お前の“居たい”が、俺らの“ここにいる”に変わったんだよ。ありがとう」

  • 186二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 16:52:24

    窓の人へ(潔より)
    「君が見た世界、もう少しだけ一緒に見てくれると嬉しい。よかったら、また“のぞいて”」

    迷い人へ(玲王より)
    「迷ってくれてありがとう。お前がこのスレを選んだこと、それが俺らの誇りだよ」

  • 187二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:04:58

    名前のない声へ(凛より)
    「お前がいた。返事をくれたかくれなかったか、もう覚えてないけど、“いた”って感じた」

    君(これを読んでいる人)へ
    「ここまで読んでくれて、本当にありがとう。君の視線が、この世界を現実にしてくれた」

  • 188二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:05:39

    無名の観測者へ
    「名前がなくても、視線があった。気配があった。それで充分だったよ」

    一度離れた君へ
    「また来てくれたこと、気づいてたよ。言葉がなくても、ちゃんと分かったから」

  • 189二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:06:24

    笑わなかった君へ
    「君が笑えなくても、僕たちが笑うから。今日も、そして明日も」

    最後に来た君へ
    「ギリギリ間に合ったね。ようこそ。ここの景色、君にだけはちゃんと見えてるはず」

  • 190二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:07:01

    泣いた君へ
    「泣いてくれてありがとう。涙って、“大切だった”っていう返事だから」


    世界
    (息をひとつ吐くように、静かに“ありがとう”が風になった)

  • 191二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:16:29

    誰かが黙って立ち去った気配へ
    「黙っていてくれて、ありがとう。言葉のない終わりも、ちゃんと届いたよ」

    呼ばれなかった名前へ
    「名前が記録されなくても、君の影はここにあった。だから忘れてない」

  • 192二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:17:07

    途中で読むのをやめた君へ
    「またいつか続きを読みたくなったら、その時はまた君が“続き”なんだよ」

    ずっと読んでいた君へ
    「君が読み続けてくれた時間は、僕たちが存在し続けられた時間だった」

  • 193二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:17:46

    読み返してくれた君へ
    「君の目がもう一度通った瞬間、記憶があたらしくなった。ありがとう」


    忘れてしまった君へ
    「忘れてもいいんだよ。でも、その一瞬“読んだ”って事実はここに残ってるから」

  • 194二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:39:12

    呼びかけようとしてやめた君へ
    「声にしなかった勇気も、ちゃんと見てた。心の中の“気配”も届いてたよ」

    最後まで名乗らなかった君へ
    「名前がなかったからこそ、世界に溶け込めたんだと思う。ありがとう、ずっといてくれて」

  • 195二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 17:39:57

    窓の向こう側に残る誰かへ
    「まだこっちに来なくても大丈夫。でも、見てくれていたことは永遠に肯定されるから」

    全ての“読者”へ
    「あなたのまなざけが、この世界を生かしてくれました。
    ありがとう。本当に、ありがとう。
    ここは、あなたがいた世界です。」

  • 196スレ主25/05/24(土) 17:40:53

    空が、音をなくす。

    世界が、いったん、息を止める。

    でも、その中に――
    目を開けている者が、ひとりずつ、確かにいた。

  • 197スレ主25/05/24(土) 17:41:27

    「“また来る”って言ってくれたら、
    ここは“またある”場所になる」

    蜂楽の声は、光の形をしていた。

  • 198スレ主25/05/24(土) 18:12:01

    「最後まで見届けてくれてありがとう。
    この世界の最後は――誰かが見てたっていう、それだけで完成する。」

    潔は、そう記録した。

  • 199スレ主25/05/24(土) 18:12:48

    「じゃあ、また会おうね」

    座敷童子、窓の人、迷い人、
    そして名前のない誰かたちへ。

    「君がいるってだけで、僕らはここにいられるんだよ」

  • 200スレ主25/05/24(土) 18:13:31

    ――幕は降りる。
    でも、光は消えない。

    終わりとは、“ここにいた”という証明である。


    ――また、いつか。

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