パパがためのアンチ・ロマン

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:28:47

     ――この世界は、はじめから間違っていた。


    「……ここが、連邦生徒会長が鹵獲した『名もなき神々の王女』の隠し場所ですか」

     数千の学園で構成される都市、キヴォトス。数多の神秘を孕んだ生徒達――子供が統治するこの世界に似合わぬ、黒いスーツを着込んだ大人。頭頂から爪先まで影のような無機質さを湛えた彼は、顔面の黒を裂く右目らしき白から黒炎を滾らせ、眼前の陽炎を部屋の中心で眠る少女に向ける。

     その部屋にはある生徒から黒服と呼ばれる男と、彼が今しがた通ってきた別の空間に繋がる穴と、点在する壊れた機械類の他には彼女しか居なかった。否、そのすべては彼女を引き立てるために存在しているのだろう。
     剝き出しの姿で石造りの椅子に座り、吹き抜けから射す陽光に照らされる彼女こそが、かつてキヴォトスを支配した無名の司祭達の残した『名もなき神々の王女』。無名の司祭の技術を蒐集し活用している彼が、彼女に興味を示すのは当然のことだった。

    しかし『名もなき神々の王女』が『勇者』にならない世界線は、当然の如く『あまねく奇跡の始発点』に至ることができない。


     ――だからこそ、この世界は、はじめから間違っていた。


    「ミレニアムの『廃墟』は、キヴォトスでも有数の神秘が眠る場所。そんな場所にそれ以上の厄災が秘匿されているとは、まさか誰も思わないでしょうからね」

     黒服は独り言ちながら少女に近づき、彼女の頭にヘッドギアのようなものを被せる。それと一本のケーブルで繋がれたノートパソコンを、彼女を観察しながら操作することを繰り返す。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:29:37

    彼が作業を始めてしばらく経ったころ、突如として警報音とでも言うべき起動音が部屋中に鳴り響いた。

    「状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」

     先程まで電源が切れたように動かなかった少女は椅子から降りると、辺りを見回そうとして――自分の頭に付いた異物に気づく。黒服がヘッドギアを彼女の頭から外してやると、彼女は彼のひび割れた顔を見据え、そのまま質問の言葉を投げかけた。

    「…………状況把握、難航。会話を試みます……説明をお願いできますか」
    「説明ですか。質問に質問を返すようですみませんが、貴女は自分が何者であるかを理解していますか?」
    「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」

     本来の手順をすべて無視し、大人らしく抜け道を通ってここまで漕ぎ着けた黒服は、自分が今いる場所を確認するかのように言葉を重ねていく。子供の質問に答えを返すことはなく、ただ一方的に自分の都合を押し付ける。

    「……まず、はっきりさせておきましょう。私は、貴女と敵対するつもりはありません。貴女も同様だと考えて構いませんか?」
    「肯定。接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意思は発動しません」
    「つまり、私の存在は『接触許可対象』に含まれるということですね?」
    「回答不可、本機の深層意識における第一反応が発生したものと推定されます」

     うまくいった。
     黒服は亀裂を歪めて笑顔のような表情を浮かべると、少女に向かって手を差し伸べる。

    「『名もなき神々の王女』。……いえ、AL-1S。貴女に目的を与えましょう、私と契約してください」
    「……?」

    AL-1Sと呼ばれた少女は首を傾げながら、黒服の大きな手に自分の小さな手を重ねる。

    「AL-1S、貴女には私の研究を手伝ってもらいます」

     そうして本来は頼れる先生と、賑やかな仲間達と、『勇者』となるはずだった彼女の可能性は奪われ。
    悪い大人である黒服のもとで、彼女も悪しき『魔王』への邪道を歩んでいく――

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:29:54

     ――こともなく。

    「ねぇパパ! 早くおままごとの続きしようよ!!」
    「クックックッ……。クックックッ…………! そうですね、アリス。パパと一緒に遊びましょうか」
    「うん!」

     大好きなパパの娘として、充実した生活を送っているのだった。
     どうしてこうなった? そんな黒服の疑問に答えてくれる者は、残念ながら誰も居ない。

     なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?


    「それに今日はゲマトリア会議があるので、マエストロ達やアツコとも会えますよ」
    「え! アツコちゃんと!? やったー!!」


     ――この物語は先生と生徒が織りなす青春の物語ではなく、父と娘が『捻じれて歪んだ先の終着点』へと向かう、死がふたりを分かつまでの物語。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:31:04
  • 5二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:31:55

    逃 げ る な !

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:49:36

    お前の始めた物語を語れるのはお前だけだぞ
    もう一度言う、お前だけだぞ

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 14:56:10

    なんだろう
    この世界だと無名の司祭系の軍勢からパパを守るために全力で戦って相打ちまで持ち込んで黒服が「私にも優しさが残っていたようで」とか言いながら泣いて終わるか、黒服が死にかけの体で全力修理してアリスを別の世界に送り出すかしそう

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 15:11:40

    クックックッ…え、復活するんだ凄いや
    黒服がアーカイブ化させた理由が不明のまま終わった概念戻って来ちゃった

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 15:15:25

    >>4

    書き出しっぺの法則というものがなくてだな…

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 15:29:19

    このアリスはほんまパパ服によじ登ってるのが似合うやつよのぉ

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:25:24

    >>2から>>3までに黒服が色んな意味でやらかしてるやろなぁ…ってなるこれ

    ベアおばもベアおばで友達作りさせてるの草になるしで笑う

    (元スレは見なかったことにする)

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:57:57

    >>7

    (…もしかしたら、アリスがアーカイブ化した神秘たちが体の中に残ってたりして…)

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:10:07

    勇者になるのが決まってるなら逆に無限の可能性なんて欠片もなかったことの証明になってしまうからな…

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:54:10

    子育て奮闘するダースベイダーみたいになってるやんけ

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 05:24:03

    このアリスはケイと合流できないと考えたら
    ただ素体が強いだけの存在で名もなき神々の王の力はないので無害っちゃ無害よな

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:55:35

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 22:58:19

    TSC無しでも随分と感情豊かになって

オススメ

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