見なよ、俺の脳内にいるモブちゃんの物語を

1二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:06:44

昔から人の役に立つのが好きだった。
始まりはいつだったか覚えてないけど、確か家事を手伝ったとかでお母さんに褒められたときだったと思う。お母さんに「ありがとう」って言われて、頭を撫でてもらって、そのときのむず痒いようなあったかい気持ちが忘れられなかった。
それからは率先していろんなことをするようになった。道ゆくおばあちゃんの荷物を運んであげたり、電車で席を譲ったり、道に迷っている人を案内してあげたり。「ありがとう」って言われる度に、あのむず痒さが私の心を撫でてくれて、私を「いい子」にしてくれた。
だから、連邦生徒会に推薦されたときは本当に嬉しかった。これできっと、もっといろんな人の役に立てる。たくさんの人を笑顔にできて、もっと「いい子」になれる。きっと来る明るい将来に私は胸を弾ませた。

でも、私を待っていたのは。

「はい、ただいま確認いたします！」
「申し訳ありません、交通室では日照権侵害の受付はしておりません。」
「いえ、ですから列車遅延のお問い合わせは交通室ではなく、ハイランダー鉄道学園様に……」

絶望的な業務量とクレームの嵐だった。
こんなはずじゃなかった、なんて言いたいけれど、連邦生徒会の仕事がどんなものか詳しく知らなかったのは私だ。文句こそあれど、それを口に出すことはしない。お門違いだと思ったから。ただ……

(……最近、褒められてないな。)

私は仕事への不満以上に、その点に焦りを感じていた。交通室へ配属されてから数ヶ月、もうずっとクレーム対応ばかりで全く褒められていない。先輩は「あなたは悪くないんだから適度に受け流しなよ」って言っていたけど、それでも電話の向こうの人はきっと笑顔じゃなくて、私はそれを笑顔にできなかった。「いい子」なら、きっとそれが出来たはず。

また褒められたい。「いい子」になりたい。あのあったかいむず痒さが欲しい。でもボランティアとかに参加しようにも、連邦生徒会にろくに休日なんてないし……

2二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:07:59

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3二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 20:09:15

───だから、私は今日も夜の街に繰り出す。

派手な柄のトップスとシースルーのスカートに身を包み、獣人っぽい付け耳と尻尾で変装して、私は夜の間だけ別人になる。制服に身を固めた私じゃない、違う誰かに。

やることは前と変わらない。困っている人を見かけては声をかけて、手伝えることがあれば最後まで全力で手伝う。仕事ばかりの昼間には見れない、私へと向けられる笑顔と感謝の言葉はやっぱりたまらなく嬉しい。
普段より気が大きくなっているからか、少し過激なことをすることもある。例えば、スケバン同士が言い争っているところを喧嘩両成敗とか。戦闘なんて最初はほとんど経験無かったけど、昼間の私と夜の私は別人だと切り離しているから怖くはなかったし、実際上手くやれていると思う。もしかしたら私って強いのかもしれない。
困っている人を助けて、危害を加える人にはお仕置きをする。私は、人の役に立ち、人に求められる、理想の「いい子」になれていた。

……でも、そんな日々は順調にはいかないようで。

「───あの、モモカ室長、これは……」
「最近、近くのスケバンの動きが不審でね〜。どうやらその写真の子が、夜にスケバンを倒して回ってるってウワサなんだよ。」
「な、なるほど。でもそれは良いことなのでは？」
「うーん。ヴァルキューレが逮捕する前にその子が痛めつけるだけ痛めつけて逃しちゃうせいで、スケバンたちが相当鬱憤溜めてるみたいだよ？そのうち大規模抗争とかに発展しちゃうかもだから、その前に原因を押さえとこうってこと。」
「原、因……」
「そっ。その子に悪気があるかは知らないけど、危ない状況を作ってるのは事実だからね。それでこれはその子の指名手配書。先生に対応お願いするから、シャーレ宛に送っといてねー。」

パリポリと明太チップスをほおばるモモカ室長をよそに、私は再び件の"指名手配犯"に目を落とす。ある意味夜の街らしい派手な服装と、大きな耳に尻尾……否、付け耳に付け尻尾。
私が「いい子」───『だと思っていた』姿がそこにあった。

ごめんなさいお母さん。
私、指名手配犯になっちゃいました。