- 1二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 12:25:22
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの22スレ目です。
アプリリウス中央病院で昏睡状態から目を覚ましたアグネスは、エルスマン博士の手並みと負傷時、現地にいたデモ隊の有志のおかげで両足の喪失を免れたことを知りました。
しかし最新医療を受けることが出来たとは言え、彼女が重傷者であることに変わりはありません。アグネスは自身の心身に累積したダメージの深刻さをひしひしと感じています。
『焦らず、負傷から回復することを優先して』、戦友も医療スタッフも上位命令権者も、彼女に励ましと労りの言葉を掛けます。さはさりながら、歴史の大河がうねりを増す中、実際は公務や準公務がポンポン彼女に下りてきます。
結局、リハビリに励みながら、プラントと戦友の為、働き続けることになる、そんな予感を彼女は感じていることでしょう。
プラントは一応、落ち着きを取り戻したように見えて、その実前途多難です。国家同士の戦争は継続し、ロゴス・ブルーコスモスとの戦闘はこれからが本番、『友好国』はさらなる支援を求めてきます。
このゴルディアスの結び目に、アグネスと彼女の同胞たちはどう向き合うのでしょうか。そしてアプリリウス宇宙港で翼を休めるミネルバの次なる目的地は―。
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:21:28
たておつです
- 3二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:22:12
立て乙
- 4二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:45:54
サーバーエラーで見失って焦った
- 5二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:46:10
建て乙です
- 6二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:46:15
サーバー不安定なので保守
- 7二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:46:34
保守
- 8二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:48:11
立て乙です!
- 9二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:50:10
前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com - 10二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:52:28
4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com - 11二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:54:48
再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com9スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com10スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com - 12二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 13:57:33
11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com13スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com14スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com15スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com - 13二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 14:02:17
16スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com17スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com18スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com19スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com落としてしまった20スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com再建てした20スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20(再建て)|あにまん掲示板※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、…bbs.animanch.com - 14二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 16:39:39
グラディス提督と私は軽く睨めっこになる。むーう。私が『オーブ行き、アカツキ島が第一候補の中の第一候補』、そう主張したことに彼女は否定的なようだわ。第二がそちらでは無いかと。
確かに私自身がもし艦長だったとして、中破した艦で、敵勢力下かつ厳冬期の北極海・ベーリング海峡、ベーリング海を抜けて、更にその先、遥かソロモン諸島を決断できるかと言えば否だろう。『あまりに大胆・物語的すぎる』そう思われても仕方がない。
そう。まるで『海底二万海里(ジュール・ヴェルヌ)』の世界だ。
大英帝国が7つの海を制した時代、インドの王子たるネモ艦長は彼らの目を盗み、海底深く沈む難破船の財宝や大粒の真珠を探り当て、現地の無辜の民や世界各地で圧政と闘う同志の為に尽くす。そして止むを得ないとなれば、英国軍艦さえ体当たりで沈めるのだ。
大いに冒険心が掻き立てられる話では無いか!何だか、これまでのアークエンジェルやアスハ代表の軌道と重なる気さえする。重大な相違点を挙げるなら、ノーチラス号は損傷していなかった事。
アグネス「(でも、アークエンジェルは前大戦時、オペレーション・スピットブレイクにて中破しながらも、オーブまで航海をやり遂げた実績がある。加えて潜水能力も付与されて『パワーアップ』しているなら…)」
必ずしも不可能とまでは言えない、のでは無いかな。
タリア「なるほど、良く分かったわ。第二候補も第一候補ともにしっかり記憶に留めておきます」
アグネス「愚見を入れていただきありがとうございます」
結局、彼女にとっての『本命』は変わらず、と。まあ、彼方の可能性もかなり高い。どちらもあり得ると考え備えるのがベストだろう。
タリア「それで、試みに質問するけれど、『もし彼らがオーブ行きを選択した』なら現在位置はどの辺りかしら?」
グラディス提督の表情からは、少しだけ緊張感が緩んでいる。あくまで真面目な協議であることは大前提に、少しだけ『冒険物語』も聞いてみたいと。
良し、それなら私も想像力を働かせて予想を述べてみよう。『空想力』でないことに注意ね。
アグネス「もし天運が彼女達に味方しているなら、そろそろチュクチ海(北極海の一部、南にベーリング海峡)に差し掛かる頃合いではないでしょうか」
タリア「その根拠は?」 - 15二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 18:05:52
アグネス「単純計算として、もしアークエンジェルが13470㎞を水中で平均30ノット(54㎞)の速力で駆け抜けたとします。その場合、マーゲロイ島からソロモン諸島まで10日と9時間少しで到着する。計算になります。ただし、これは机上の空論です」
私はアークエンジェルの潜航時速力を把握しているわけでは無い。
しかし、あの複雑かつ巨大な船体形状で水中40ノットも50ノットも出るとは俄かに想像しがたい。おまけに中破している。30ノットですら大負けしすぎかもしれない。
更に重要なことは―。
アグネス「敵の哨戒網の存在。連合は潜水艦、哨戒機、必要とあらば氷の上に兵士が直接昇って、北極海の制空・制海そして氷上の支配権を握っています。アークエンジェルを直接、追尾もしていることでしょう。その中を突破するなら無音潜航は絶対条件となります」
もしゴウン、ゴウンと水中をかき回して進めばどうなるか…。30ノット程度の速力が仮に出せたとしても、それを発揮できるかは別の事なのだ。
アグネス「北極海の島々には、軍事基地も存在します。無暗に速度を上げれば、攻撃を受け、高い確率で撃沈されるのは火を見るより明らか。これは程度の差はあれ、広い太平洋を行く際も同様の注意が必要なはずです」
此方をじっと見つめるグラディス提督は、まるで生徒の答案を採点する先生のようにも見える。
タリア「『アークエンジェルは自艦の損傷と敵対勢力への対処の必要から、潜航時の最大船速を発揮できない』。私も同意見よ」
良かった。赤点は回避できたみたいね。
タリア「そこまでは良いとしましょう。では、その程度は?」
アグネス「読めません。今回、私は最初の数字の2倍と予想しました。彼女らの旅路に幸多ければ、オーブ到着はマーゲロイ島沖海戦の20日と20時間後。即ち今日から15~16日程度の後、現在地はチュクチ海。ある意味機械的に割り出しました」
何れにせよ、彼女達にとって本当の正念場はここから。チュクチ海は大陸棚、故に水深が浅い。当然、敵対勢力に発見されるリスクは跳ね上がる。ベーリング海峡突破の難易度は言うに及ばず。
もし彼女達がこの偉業を成し遂げ、平和な時代が来て―そして、私も彼女達も願わくば生き残れたなら―その航海の記録を是非、お聞かせいただきたいものだ。 - 16二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 18:39:10
タリア「それでも、貴女は第一候補と第二候補の順番を入れ替えるつもりはない?」
そこまで、興味深そうに話をお聞きくださっていた提督は、ここで再度、本筋の疑問を投げかける。
答えは―YES、ただし断言はできない、それが現状だ。そのままお伝えする。
アグネス「はい。彼女達はアラスカを生き延び、ヤキン・ドゥーエを戦い抜いた精鋭達です。不可能を可能とすることには慣れているでしょう。
それにノルウェー海岸に残る選択も危険なことに変わりはありません。恩義があるスカンジナビア王国と国民を戦禍に巻き込む恐れも。アスハ代表達がその可能性を考慮しないとは思えません」
タリア「確かにそうね。でもアグネス、人間は何時も最善を選べるとは限らないわ。次善、と言えば聞こえが良いけれど、妥協やよりマシな方を取らないといけない事もある。その点はどうなの?」
大いにあり得ることだと思う。だからこそ、私はオーブ行きを絶対とは言い切れない。ノルウェー海岸潜水艦基地説とオーブ行きの間を取って、例えば旧ノルウェー王国との所縁が深いスヴァールバル諸島付近で一息つく、と言う選択もあり得る。だから―。
アグネス「提督の仰る通り。しかし、それ故にこそ、アスハ代表やラミアス艦長が、どちらも危険な事に変わりは無く、その程度の差さえも流動的である、『それなら、先のことは分からない。私達は、今思って信じたことをするのみ』と言った心理状態にも十分なり得る、と予測します。
艦の損傷から物理的に遠距離航海が出来ない場合は除くとして。もし彼女達が悩む点があるとすれば、自分たちがオーブに寄港することで祖国と国民の安全がより脅かされるのではないか、あるいは半島近海に留まることで、スカンジナビア王国と国民に回復不能な不利益を与えてしまうのではないか、この二つのはず。この両者のリスクの大小を比較、推量して次の行動を決定する、本官はそのように推測します」
グラディス提督は、最初は少し困ったような顔で私の話を聞いていたが、途中から何かを思い出したかのように表情を引き締められる。戦闘モードだ。パズルのピースが嵌った、そんなお顔だ。
タリア「…!そうね、確かに…。私の方が順位を入れ替えなければいけないわね」
アグネス「ありがとうございます」
君子豹変す、とは言うが目前でそれをされるとびっくりする。 - 17二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 00:46:01
☆
- 18二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 05:47:17
ほっしゅ
- 19二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 07:02:38
グラディス提督の真剣な眼差しを私の両眼に注いでいたが、少し後にそれを打ち切り、制服からメモ帳とペンを取り出されると、今二人で話した事項を細かくご記入なされる。
それを見ると、胸中にヒヤリとした感覚が走る。もしお答えしたことに間違いがあれば、大変なことになるわ!
アグネス「(私は政変時、国防委員長のみならず他の最高評議会議員相手に随分な物言いをしていたと思う。でも、それらは云わば『戦闘』、伸るか反るかの大勝負の最中の事においての事)」
今日のように、落ち着いた雰囲気のもと上官(特務隊としては首席)と二人きりでお話しする場合はまた別のプレッシャーを感じる。
まだ何だか慣れない…。
アグネス「(ただ、それはそれとして、お話をしっかり聞いて下さり本当に嬉しい。こう言う感情は理屈じゃない)」
そのついでに人事評価が爆上がりするならパーフェクトね。FAITH同士の協議と位置付けられているのなら、特務隊長である彼女が直接評価するものでは無いけれど。
さて、私が顔を青くしたり赤くしたりしている内に、グラディス提督はメモを終え、『さてさて』と言った表情で私に視線をお戻しになる。
タリア「では最後に貴女が言う大穴、『ブーべ島説』について聞かせてもらおうかしら。確かあの島は西暦時代、スカンジナビア王国の前身の一つであるノルウェー王国の属領であったわね」
アグネス「はい。当時のノルウェー王国から遥か南大西洋の亜南極に存在する絶海の孤島。南アフリカ共和国から南南西約2500㎞、サウスサンドウィッチ諸島の東約1900㎞、最も近い陸地は約1700km先の南極大陸のドロンニング・モード・ランド(西暦時代ノルウェーが領有を主張していた南極大陸の扇状の地域)、最も近い定住集落は約22600km離れたトリスタンダクーニャ島です」
ちなみにブーべ島はペンギンの楽園でもある。王国がかつて誇った名高き名誉連隊長、その身はペンギンでありながら陸軍少将の任を帯びしニルス・オーラブ『ブーべ男爵』、彼の保有した爵位名の由来でもある。
タリア「なるほど、秘密基地にはピッタリね。スカンジナビア王国所縁の地であり、連合勢力圏からは物理的距離がある。同じく旧ノルウェーと縁が深い南極のドロンニング・モード・ランドからある程度の相互支援も可能であると」 - 20二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 07:13:39
グラディス提督は先程までの怖い表情は一変させている。ちょっとした雑談タイムを楽しむ気になったみたいね。
タリア「ブーべ島、楽しい想像ね。でも、たしか、あの島に港は無かったわね」
先程までとは違い随分、積極的にご発言される。
思えば彼女は私が寝ている間もずっと重要会議、会議、会議。最高評議会にも参考人として出席を求められただろう。国防委員会は言うに及ばず、私達にとって直属の上官だ。
アグネス「(彼女には傍に上官も先輩も同輩も―FAITHとしてはともかく―いない。我が身に置き換えれば頭がおかしくなっていただろう)」
指揮官は本当に孤独なのだ、上に行けば行くほど。当然と言われれば当然だが、実際に自分が隊を率いて見ると身につまされる思いがする。
彼女がラミアス艦長に親近感を覚えているようであるのも、今日、『FAITHとしては同格』の私に難しい話を持ってきた事も―その気持ちも、やっと理解できたわ。
それなら私も心機一転、珍説を思いっきりぶち上げてみよう。
アグネス「確かに島に港は有りませんが、投錨ポイントはあります。絶海の孤島、自然環境が過酷な地ではありますが、西暦末期に自動天体観測所も建設され、研究員の一時滞在施設やヘリポートも整えられました。C.E.においてその拠点がどうなっているかは不明ですが、西暦時代より拡充することは有ったとしても退化していることは無いでしょう。提督の仰る通り南極大陸にも基地は存在するでしょう。
『ブーべ島説』では、アークエンジェルは北極海-ベーリング海峡-オーブ行きのルートを、連合とザフトの双方に想起させたうえで、その実は沖合で艦を反転。深く潜って連合の潜水艦を避けながら大西洋を大縦断するのです。そうして―」
その続きは何やら得心顔となったグラディス提督が引き継ぐ。
タリア「『南極の学術調査』を隠れ蓑にスカンジナビア王国から物資を仕送りしてもらい、あるいは黙認の下、ターミナルなる友好勢力からも島に物資を搔き集める。
そうして投錨ポイントで艦を修復、聞くところによれば彼の艦の技術班の腕は驚嘆に値する、と。そうして完全とは行かないまでも艦の応急修理に成功したならば、そこからケープ周りでインド洋を抜けオーブを目指す―」 - 21二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 07:33:01
この航路には実はアークエンジェル側に大きなメリットがある。
アグネス「このルートは道中の安全と言う意味では、彼女達にとって利があります。ザフトの友邦、南アフリカ共和国は独立したばかり。海上を気にする余裕はありません。南アフリカ統一機構は南アフリカ共和国独立で弱体化、赤道連合は半ば無理やり同盟条約を締結させられた経緯がある上に、元から国力が低く、ブレイク・ザ・ワールドの被害から回復していません。
また、インド洋に臨むもう一つの親プラント国家、汎ムスリム会議もオーブやアークエンジェルに対しては、殊更恨みが有るわけでも交戦意欲が旺盛な訳でもない。触らぬ神に祟りなしが本音でしょう。
故にこの航路は距離こそ長くはなってしまうものの、大西洋連邦の猛攻をも覚悟しなければいけない北極海ルートよりずっと安全な旅と言える。艦の応急修理に成功すればですが」
潜航しての大西洋横断、なにより過酷な環境課、ブーべ島で本当に艦の修理が可能か、という疑問は残る。それに世界情勢の変化はダイナミックだ。
のんびりオーブに向かっている内に帰る家が無くなる、そんな事態も普通に起こり得るのが大戦の恐ろし所である。話している自分もお聞きくださっているグラディス提督もその点はちゃんと弁えられている。
タリア「なるほど。物は良いようね」
グラディス提督は、少し笑みを含んだ声で私の『答案』に及第点を付けて下さるが…。
タリア「『ブーべ島行き』、これは候補としては足りないわ。いろいろとね。思考実験としては面白いと思うけれど」
アグネス「はい。故に大穴です。ただ、ケープ回り、インド洋横断もあり得ることだけはご記憶にお止め下さい。前大戦で彼女達はあの大海を打通しました。弱っている時こそ、人間は以前の体験を活かそうとするもの」
タリア「そうね。それは一理あると思うわ」
少し真面目ぶって応えると、彼女は目を細める。優しい母性を感じさせるお顔だ。いろいろ言われることも多い人だけれど、やはり直に付き合ってみるとを嫌いにはなれないな。 - 22二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 14:36:50
これどうなるんだろうな…
- 23二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 15:04:41
これで
カガリ「ペンギン可愛い」
だったら笑う - 24地球某基地の食堂勤め25/05/19(月) 22:27:31
プラント騒乱が単独で完結したから、ラクスもカガリもメッセージ発信せず、所在がつかめないのかな?
- 25二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:28:36
ただ今後オーブへの軍事行動やめませんとかレクイエムとメサイアが出て来たら流石に
- 26二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 00:49:33
タリア「ありがとう。参考にさせてもらうわ。貴女が…いえ、私が言えたことじゃないけれど、ゆっくり休みなさい。お見舞いは係りの人に渡したわ」
グラディス提督は、その言葉を挨拶として椅子からお立になる。でも、ちょっと待って!もう一言だけ、言わせて。
アグネス「ありがとうございます。ただもう一つだけ、『ラクス・クラインの不在』について愚見を述べさせてください」
面会時間の残りを気にして、扉に向かい掛けた彼女は、再び私に視線を戻す。ご表情には困惑と興味が混じっていらっしゃる。
タリア「ラスク。クラインの行方、では無く不在について?」
アグネス「はい。今回のプラント政変で、彼女はプラント国民の前に姿を現すことも、何らかの政治的メッセージを発することもありませんでした。今振り返れば、妙な話ではありませんか?」
あの政変時、ころころ変化する状況の中で『キーマン』の役割を果たした、若しくは期待された人間は何人かいる。
デュランダル議長、現職の最高評議会議員、カナーバ前議長、前最高評議会議員ジュール夫人、それにグラディス提督や―己惚れかも知れないが―末席には自分も座っていただろう。ミーアもキーマンの一人、最後には議長と袂を分かってくれた。
問題は―その中に居て然るべき人間が最後まで姿を現さなかった事-。ラクス・クライン、彼女はある意味、ミーアの件では当事者だ。国を一時去ったとはいえ、国父の娘でもある。
直接、民衆の前に姿を現す、とは行かないまでも、放送等を通じて何らかのシグナルを発してくる可能性も十分あり得た。人を介した間接的なものも含めてね。
彼女がそうしなかった理由は、物理的にアークエンジェルに乗船しているからなのか。あるいは既に宙に上がっているとして、ターミナルなる組織の存在が現時点で、公になり得る事態を恐れてのものなのか。
タリア「そうね。その他の理由として考えられるとすれば、彼女には自ら積極的にプラントの政治に干渉する意思が無かったとか。彼女は…その…不信感を抱いていたのは『彼』のみでは無かったはず。
誰が何処まで信頼できるかも分からない。また、この政変はあくまでプラントの内輪もめ、どちらが勝っても、それを以て前大戦のような絶滅戦争のリスクが極端に上昇するものでもない、そう考えたのではないかしら」 - 27二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 02:53:25
私も大枠ではそれで正しいとは思う。まあ、父親の子分であったカナーバには、ある意味信頼を寄せているのかもしれないけれど。
アグネス「(アスランから聞いた限りでは本気で隠遁を望んでいた風でも有るし(実際はどうだか!)、戦争は当に開戦済み。自分の干渉で止められるなら未だしも…手遅れ、愚図愚図しているからよ!)」
一方、この大戦が前大戦末期のような絶滅戦争に移行する恐れは、現状高くない。レクイエムも(あの女の助力もあって)破壊したし、プラントがジェネシスを新造して地球に向けている訳でもない。
だからラクスが『わざわざ顔を出すまでもない』、と判断したのだとしても、それはそれでもっともなことだと思う。
アグネス「しかし、目覚めてから改めて思うのですが…。彼女が、何処まで意図しているかは置いて置くとして。その姿を見せない事はある種の戦略に適っているようにも思うのです」
タリア「戦略?彼女のオーブ出港は貰い事故のようなものと聞いているけれど?」
言うまでも無く、それは大前提。議長が自らの短慮で自爆した、と推測される。彼の関与の証拠は未だ、限りなく黒に近いグレーだ。ともあれ、ここは刑事裁判の場ではない。
アグネス「当初はそうであったとしても。今回の政変に限らずではありますが―本人の自覚の有無にかかわらず―ミーアが表舞台に立った後も、彼女は『見の立場』をキープ、情報を集め、機を窺っていたとも取れますが…」
結果として彼女は『清廉潔白なラクス・クライン』のブランド保持に成功した。もし彼に協力していたら、あらぬ疑いも掛けられた。そうかと言って、デュランダル政権に早めに反抗してはロゴスの一味認定を受けかねなかった。
だからある意味、彼女はベストの選択をしたと言える。自分達が襲撃を受けた時点で『こいつは怪しい』と敵判定自体は下していたはずなのだから。
あの夜、最高評議員の方々は、彼女が何処に居るか気に掛って仕方が無いご様子だった。彼ら・彼女らが本心から彼女を気遣っていたことには疑いの余地は無い。けれども…、為政者としての心配事は別腹。ラクスが直接、民衆や軍に語り掛ければ、インパクトは『替え玉』のミーアの比ではない。
彼女には出来れば味方して欲しいが、それ以上に、変なタイミングで現れて、場を乱し、結果的に議長の利になる事態は勘弁して欲しい。これが本音だったはず。 - 28二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 03:09:09
一方、デュランダル議長は気が気でなかっただろう。もし本物のラクスが現れて彼を糾弾し始めたら、と。
アグネス「(しかしそれで『勝負あった』とはならなかったはず。議長には議長で、マッチポンプの疑いもあるにしろ、多くの実績があり、彼本人にもある種のカリスマは有る)」
下手をすれば議長を信じたい人間が暴発、そのまま内戦コースもあり得た。逆に、私達が議長側に立った人達にあまりに酷薄な対応をしようとすれば、そのルートでも大規模な流血は免れない。
ラクスはその両方の事態を止められるものなら止めたかっただろう。しかし潮目を少しでも見誤れば、議長が巻き返しプラントを制してしまう。彼女はその危険性を世界で最も理解している者の中の一人だった、と思う。
アグネス「その線で考察すれば、ラクス・クラインは、あの夜、その存在感を以て自身が全政変当事者への重石となってくれた。議長と私達双方の暴発を抑え、政変のエスカレーションを抑止していたとも言えるのではないか、と」
グラディス提督は私の言葉の真意をゆっくり咀嚼し、次の言葉を慎重にお紡ぎになる。
タリア「確かに。彼女の不在が果たした役割は決して少ないものでは無かったでしょうね」
アグネス「今回の件から―政治的・外交的文脈で―ラクス・クラインは『潜水艦』のような存在となっている、と私は考察します。ご存知の通りこの艦種の本分は、実際の戦闘能力以上に、敵対勢力に対し、水面下の『何処か』に強力な攻撃手段を持った艦が潜んでいる(あるいは潜んでいるかもしれない)事実を以て心理的圧力を掛け、戦略的・戦術的抑止の『戦果』を得ること。オーブ出港後から政変終了までの彼女の軌跡は正にそれを地で行くもの、少なくともデュランダル議長にとっては、そのように思案します。」
無論、果たして本人ないし周囲が意識的にそう振舞っているのか、計りかねる所がある。
しかし、彼女は聡明な人間、自らの行動が世界にどう受け取られるか、鈍感ではいられなかったはず。その内心がどうであれ、強いられたものであれ、オーブ出国を以て彼女のポイント・オブ・ノーリターンは通過済みと私は読む。 - 29二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 03:20:10
アグネス「故にラスク・クラインが何処に居るか、考え右往左往するのは得策ではないかも知れません。それこそが彼女のパワーの源泉の一つ。『不在故にこそ』、高まる力です。ミーアがあれほどの熱量で短期間に民衆に迎えられたのは、本人の歌声と同等以上にこの背景の後押しがあったのでしょう。議長はそのことをきちんと計算していたのだと思います」
それが為にこそ、彼女の存在は空恐ろしくもある。
民衆や一般兵はそれでも良い。良くはないかも知れないが、別に何でもかんでも斜に構えるだけが人間の能ではない。しかし、政府高官や上級指揮官には別の心構えと備えが必要となる。
アグネス「そこを踏まえ、かつ前大戦時の彼女の言動を参照するなら、確かなことは一つ。次に彼女が公に姿を見せるとすれば、それは戦争のエスカレーションが一線を越えたと、一見して明らかになる事態が生じるか。あるいは彼女にとって恩義があり、人生において関わりも深い、オーブ連合首長国もしくはスカンジナビア王国の本土に直接、戦火が及んだ時、私はそのように予測します」
だから彼女の心情と政治的立場としては、先日の旧ノルウェー進駐はレッドラインぎりぎりであったように思う。あそこで大規模な地上戦が生じていれば、何かしらのシグナルを表の世界に発したかも知れない。
タリア「…」
私が話し終わると、部屋に少し気まずい空気が流れる。一方的に伝えすぎたかな。
タリア「ええ、確かに。分かったわ。ラクス・クラインの居場所以上に、その身を世界に示すであろうタイミングとポイントを念頭に置き、対策も立てておきましょう。彼女と協力する為にも―避けざる時は敵対し、戦い、その影響力を排除するためにも―そう言う事を貴女は言いたいのね」
アグネス「はい。言い出し辛いことではありました」
タリア「でしょうね…」
プラントとザフト軍、及び一部のナチュラルにとって彼女は錦の御旗になり得る。国父の娘に産まれ、歌手として慰問活動にも励み、大戦末期には人類全体に対して巨大な勲功を打ち立てた。
それは良いが―結構なことだが―彼女の言動が、常にプラントの自存自衛と長期的な国益に叶うとは限らない。そのことも留意しておくべきだろう。 - 30二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 03:31:17
あの女、割と世界の平和の為なら、プラントを後回しにしかねない所があるから。いざラクスが何か宣言や演説をぶち上げ、それに一々、此方の兵士が大混乱するようでは困る。憤懣遣る方無いわ!
他の部隊ならともかく、月軌道艦隊、ミネルバは、『その時』がもし来たら、彼女に協力するのなら全面的にする、敵対するなら全力で打ち負かす、中途半端な対応を取って艦隊が空中分解することが一番怖い。
何れにせよ、我等は最高評議会と国防委員会の命令のもと、万一、その意図が不明確な事態が生じた場合はグラディス提督のご判断により―それが広義・狭義の戦争犯罪や憲法を頂点とする我が国の国体そのものを破壊するものでない限り―命令一下、火にも水にも飛び込めるようでなければいけない。
タリア「我々の上官はラクス・クラインじゃない。プラントで新たな役職に就いた訳でないなら、彼女から命令が来る訳じゃない、と。確かに。よく覚えておくわ。それにしても、貴女、彼女には辛辣ね」
アグネス「そうでしょうか…」
少しギクリとしてしまう。語調が強すぎたかな。彼女を無暗に警戒し過ぎなのか…。協力関係を結べれば、それに越したことは無い。別に私は…。
タリア「別に責めている訳じゃないわ。誤解しないように。組織にはカサンドラが必要だと言うし、貴女は口だけの人間ではない。ただ、『Let bygones be bygones.(過去をして過去足らしめよ)【過ぎたことは水に流せ】』。これもまた真実よ。自分が先入観に囚われていないかにも、常に気を配るように。貴女は、もうそう言う立場に立っているのよ」
アグネス「肝に銘じます…」
何やらお小言モードに…。彼女の言う事がもっともな分、耳が痛いわ。
タリア「よろしい。忠告、感謝するわ。艦隊に配属された新旧の戦友を隔てることなく、常日頃から求心力を高めましょう。貴女にも大いに期待するわ」
アグネス「ありがとうございます」
タリア「よろしい」
そう口にすると、提督は今度こそドアまで進み、私に敬礼する。私も姿勢をベッドの上で正して返礼、音も無く開閉するドアの先に彼女を見送り、はたと気が付く。
アグネス「(提督の目の下の隈、ちゃんと消えているわ。良かった…)」
上官が見るからに死にそうな顔をしていると、部下の士気に関わるわ。無論、私も、ね。
グラディス提督がご無事で本当に良かった。 - 31二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 03:44:09
グラディス提督の退出と入れ替わり―待ってました、とばかりに―看護師さんが昼食を病室に運びこんで下さる。
看護師「はい。アグネスさん、この一見普通のお粥には、人間の生存に必要な40種類の栄養素がふんだんに含まれています。カロリーの爆弾、タンパク質とカルシウムの塊ですよ」
見た感じ、お粥の量そのものが飛びぬけて多いと言う印象は受けないが、看護師さんが言うならそうなのだろう。モリモリ食べるのが回復の近道か―。
アグネス「はい、ありがとうございます。いただきます。何か申し訳ないな…」
食べられなくなった人達を大勢見て、私は無数の人を食べられなくしたのに―。いけない!考えるな。
お匙で、一口、二口と食べ進める私を、目の前の彼女は心配そうに見つめている。あの無理な『リハビリ』の後だからかな?別に食欲はある。いっぱいある。凄くお腹が空いていたわ。食べ始めて分かった。栄養失調、直前なほどに。
食べ始めれば、あっという間、ペロッと平らげ、一安心。ああ、野菜ジュースを飲まなくては…。野菜の味しかしない!当然か。
アグネス「(ああ、脳が活性化してピンときた。おやつの時間までに、遣りたいことを片付けておかなくては)」
まあ、この用件は一回終わったら済みと言うものでは無く、これからも続くのだが。
アグネス「ごちそうさまでした。あの…、食べて直ぐで申し訳ありませんが…。この部屋から外出してもよろしいでしょうか?」
看護師「もしかしてレイ・ザ・バレルさんにお会いしたいので?」
この人、読心術の使い手かな?
アグネス「どうしてそれを?」
看護師「先生から、エルスマン博士がアグネスさんにバレルさんの事をお話ししていたと教えて下さって。それに『アグネスさんにとって大切な方々の一人』とも」
ああ、そう言えば簡単に察せられてしまうわね。
アグネス「遠慮した方が良いでしょうか?」
少し相手の顔色を窺ってしまう。心配をあまりかけたくない。起きて今日、とは短兵急すぎるか。 - 32二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 11:28:01
保守
- 33二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 17:19:59
レイの見舞いに行く以前に、上体起こしただけで悶絶してなかったっけ…?
むしろレイに来てもらうべきか。 - 34二次元好きの匿名さん25/05/20(火) 23:35:46
うーんボロボロ
- 35二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:38:45
看護師「うーん。そうですね。もう少しお身体が落ち着けば、『良いリハビリや気分転換になる』と太鼓判が押せるんですけれどもね。博士もまさか今日に今日とはお考えでなかったでしょうし」
アグネス「そうですね…」
やはり焦り過ぎたか。
看護師「アグネスさん、実はお見舞いって、必ずしも良いことばかりじゃなくて、相手の心のご負担になってしまう事もあるんです。特に異性間のお見舞いは、どうしても気を使ってしまうものですし」
アグネス「ああ…。それは仰る通り―」
確かに。如何に友人や同僚、親族とて―。例えば、男性が女性患者を、何の事前連絡も無く、突然お見舞いしてきたら。それが仮に真心に発するものであったにしろ、いや、真心に発するものであるからこそ、彼女にとっては有難迷惑千万となってしまう。今の時代、それが女性から男性患者に対しても然り。
アグネス「(一緒の病院に入院している患者同士では、どうだろう?ケースバイケースなのかな。民族や文化圏ごとに人と人の距離感は違うから、何とも云いきれない所があるわ)」
レイはプラント国籍のナチュラル、どうやら戦犯クルーゼとデュランダル議長が手を差し伸べるまで実験施設内で生きざるを得なかったらしい。私とは文字通り文化が違う、困ったわ。
看護師「ご配慮が必要なのは、アグネスさんのご家族に対しても。それも有ってバレルさんからアグネスさんのお見舞いは少しお待ちいただいていました。バレルさん、凄くご心配なされていて…」
アグネス「そうですか。エルスマン博士が、女性の私に『会ってやってくれ』と仰った理由が理解できました。加えて負傷前後の経緯も…」
名誉戦死傷章授与の場にレイが来なかったのは政治的な配慮か、私に合わす顔が無いとでも思ったのか、本人の単なる体調の問題か。
事情は分かったわ。でも何にしろ―。
レイは私に会いたいらしく、私はあいつのお見舞いに行きたい。いろいろ難儀な点はあるにしろ、せっかく意識が戻ってお互い生きているのだ。生者は今日を後悔が無いように過ごすべきだわ。死が近しい時代だからこそ。
アグネス「もう私は大丈夫です。身体的にどうかはともかく、頭はしっかり回っています」 - 36二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:53:27
私の返事を聞き、彼女も頭を捻って考えて下さる。
看護師「ええ、それは…、うーん、テレビ通話でなら今からでもお繋ぎできます。でも、お互いせっかく同じ病院…、看護師長にお話ししてみます。彼からこちらに来られないかどうか。アグネスさんがよろしければですが…」
それなら返事は一択。
アグネス「構いません」
看護師さんは私の返事を聞き、両手を軽くポンと叩いて応じる。
看護師「良かった!バレルさん、相当思い詰めて落ち込んでいらっしゃいました。中々、アグネスさんの意識が戻らなくて、こうなったのは自分のせいだと―」
アグネス「そうですか!うむ、ちゃんと自責の念を抱いていて偉い。プラスとマイナス合計、マイナスですが、しないより良し!」
おかげで要らぬ手間が増えたし、腹の探り合いはこりごりだわ。あいつ自身も弾みで死んでいたかもしれない。無論、それはシンやルナマリア、アスラン、ミネルバの皆にも言えること。
悪気が無かろうが、良かれと思ってだろうが、君子危うきに近寄らず、身の振り方をよく考えて欲しい。
私がうんうんと納得するのを目にし、看護師さんは笑顔で調子を合わせてくれる。
看護師「ハハハ、それでもマイナスなんですね」
アグネス「当然!」
でも何だか安心した。私とレイは必ずしも『仲間!友情!』と言った付き合い方をしてこなかった。それでも彼は、共に戦って来た仲間と敵対して、何ら痛痒を感じない、そんな人間では無かったことだけは確信している。
勝手にデスティニーを持ち出したと聞いた時は、此方も動揺したものだが、今も猶、彼は彼のまま、私達のすぐ傍に居てくれている。それが本当にうれしい。
看護師「では、少しお待ちください。それと、面会前に少しお化粧しますか?」
アグネス「言われてみれば、確かに…。あんまり弱った所は見せたくないです…」
最近、気にする余裕なんてなかったけれど…。でも本当の私は…、完全なスッピンで人に会うのもなぁ…。しかし左肩が覚束無いなか、右手だけで化粧は難しい。そもそも化粧台まで自力で動けない。 - 37二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:13:48
看護師「では訪問美容師さんを。予約が空いて居ましたら、どうか化粧療法の一環として気楽に受けて下さいね」
アグネス「ええぇ…。ありがとうございます。何から何まで済みません。このような世情の中…」
看護師「いえいえ、世界が明日終わるとしても賢者はリンゴの木を植えるもの。植林よりお化粧はお手軽です」
アグネス「…そうありたいものです。心から―」
思えば、私はずっとリンゴの若木を伐採ばかりして来たように思う。それが戦争と言えばそれまで、戦時は仕方ない。でも、私のこの先の人生、ずっと世界に破壊と殺戮だけをもたらす存在で良いのだろうか―。
止せ、今考えることではない。『名誉の講和』と『勝利の平和』を勝ち取ってから考えれば良い。迷いは自分と戦友を危険にさらすだけだ。
看護師「はい。待っていてくださいね」
彼女は明朗に返事をすると、食器を片付け台に乗せ、部屋を退出していく。こういう生き方もあるいはあったのだろうか。
アグネス「(同じ方向性なら私は医師になりたいかな。正直、社会的な地位と名誉と年収は大事だ。別に職業として看護師が劣っている訳など絶対にないけれど…)」
彼女を目礼しながら見送って暫く。病室のインターホンが鳴り、美容師さんが扉の前に、早速入室してもらう。
美容師「こんにちは。アグネスさん、どうか緊張なさらず。気持ちよくいきましょう」
アグネス「はい。こんにちは。お願いします」
快活そうな女性だ。しかし確か医療資格がないと患者に接することが出来ないとも聞く。その辺りどうなっているのだろうか?
美容師「ご心配はごもっとも。でも大丈夫、資格はいろいろ持っています。でも今日は主として美容師を、一肌脱ぎます。アグネスさんはこれから同僚の方とご面会と伺っていますが、どんな感じが良いですか?」
アグネス「濃すぎず、自然な感じが良いです。起きてから鏡を見ていないので、どんな酷い顔になっている事やら」
怪我のせいだけではない。どんどん人相が悪くなって来た。戦火の中を生きて来たのだから、当たり前だが…。
美容師「全然!ただ、どうしても今日起きられたばかり、ちょっといつもよりしっかり目にします。でも皮膚や体に悪いものではありません。ご回復に効能があるものを揃えてきました」
アグネス「ええ、それは存じています。ここはプラントですし」
美容師「では、早速…」 - 38二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:35:09
あまりレイを待たせるわけにもいかない。ポンポン進めよう。ああ、そう言えば美容室、全然行っていなかったな。最後に行ったの何時だっけ?
アグネス「(止そう。嫌な気分になるだけだわ。余裕が無いのは同性の軍人、皆同じ)」
それにしても、彼女の手際は素晴らしい。相手があっての事と知って、丁寧ながら、手早く私の顔を整えて行く。
鏡で出来を二、三度、確認して良し完了!
アグネス「お忙しい中、本当にありがとうございます」
美容師「いえ。お会いできて光栄です。それでは、また、どうか堅固で」
女性が口にするには少しゴツイ挨拶だけれど、別に悪い気はしない。
彼女の唇の動き、最初は『ご武運を』と言おうとしたのだ。私の身を慮って表現を変えてくれた。なら、私も同じくお返ししよう。
アグネス「ええ。また、貴女も、またお会いするまで堅固で」
こんな大業な別れをして、明日また出会い、『こんにちは』と言いあうことになったら。ちょっと気不味いけれど、それもまた素敵ね。
その15分後、病室のインターホンが鳴る。相手は分かり切っているが、一応、モニターを覗く。沈痛な面持ちの金髪の麗人が映り込む。うわ!貧乏神に衝かれているのか、こいつは。病衣のせいでダブルパンチだわ。
レイ「アグネス、俺だ。こんにちは。入って良いか?」
アグネス「こんにちは。どうぞ」
レイ「…失礼する」
音も開閉する自動扉、恐る恐ると言った風に体を滑り込ませる彼は、何だか年下の男の子のように見える。と言うか、もしや、私が年長かも知れない。
実際はどうか、分かりようがないが気を使ってやるか。
アグネス「改めて、こんにちはね、元気そうで何よりだわ!」
レイ「…」ビクッ - 39二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:46:58
棒立ちに成り掛けた彼を右手で、ちょいちょいと手招きする。目線でも促す。するとようやく彼はそろりそろりと枕元に足を進めてくれる。
その間を使って彼をじっくり観察する。顔色良し、いや良くはないが、ミネルバで確保した時よりずっと良い。首と腰のコルセットもとれている。多少ぎこちなくも見えるが、むち打ち症もまあまあ回復しているようだ。
リハビリは気楽に進めれば良い。怪我の治りの速さを思うに、早老症の進行はともあれ、押さえられているようだわ。
アグネス「何?中途半端な所で停まらないでよ。話しにくいじゃない」
レイ「いや…。ああ、うん…」
薬が過ぎたか。さっきと矛盾するが、別にレイは『悪いこと』はしていない。あの出来事は、議長の追認があったことが証明された。つまり、きちんとした命令系統の中の行動、戦争犯罪をしたわけでもない。
更に議長のごね得で、不利益処分も免れたから、FAITH徽章も特権も取り上げられなかった―つまり全て合法と処理されたのだ。
アグネス「(私が同じような立場なら、もっと堂々としていると思う。うーむ、皆、真面目だなぁ。それが世間では正解なのだろうけれど、もっとギリギリを攻めても…。いや、腹立つから、こいつはこれで良し)」
さて、ようやっとレイは私のベッドの傍まで辿り着いた。思えば互いの目を見て話すのも久しぶり、一体こいつは何て言うのだろう?天気の話か―。
レイ「アグネス…ごめんな…さい…。でも彼のプランは…」
アグネス「議長の政治ロードマップなど、私が知った事ではないわ!この期に及んでいい加減にしなさい!」
レイ「ごめん…こんなことに…」
出だしから、レイが半泣きになり、詰まらないことを言い出すものだから、思わず一喝してしまったわ。もっと穏やかに行くつもりだったのに、馬鹿者、早く毒親から離れなさい。
アグネス「(ああ…。そう言えば、あの男は国家元首、極論、国内、特に軍に居る限りは縁を切れないか。そこは我ながら迂闊だった。でも―)」
もうデュランダル議長は失脚したのだ。これからのレイの人生を思うにそれは悪いことではない。もし養父が刑に服さざるを得なくなれば、それはそれでレイは傷つくかもしれないが…。私達の力があれば世間の迫害から彼を守ること自体は、おそらく可能だろう。 - 40二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 20:06:52
保守
- 41二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 22:07:05
失脚…すぐ復活してアグネスがまた頭を抱える未来が
- 42二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 00:43:25
私が考えを巡らす間、レイは私の枕元で立ち尽くしている。彼の潤んだ瞳が、嫌と言う程、私に対する謝罪の念を伝えて来る。これは流石に気の毒ね…。
先程の声掛けをちょっと反省しそうになる。別に間違ったことを言った訳では無いはずだが…。
アグネス「(傷付いた我が身を免罪符に、他人にあれやこれやと言い募るのは少し卑怯かな。それでは説教ならぬ『SEKKYOU』になってしまう。特に女性が男性に対してだと…。しかし、うーむ)」
いや!ここで言わねば何時言うのか!こいつの場合、病身とは言え、特権と能力がある分、なお始末が悪い。次こそは死人が出るかもしれない。レイ本人を含めてね。
アグネス「(殊更に身体の不調を見せつけるのは良くない。でも向こうが勝手に遠慮するぐらいなら、『良し』としても罰は当たらない…。そう判断することにするわ!)」
そう、今からこいつに話すのは説教ではない、説得よ。さて―。
アグネス「そこに立たれても困るわ。まず椅子に座ったら?そこに付添人用の椅子がある」
レイ「…」 コクリ…
彼は私の勧めに頷き、少し躊躇いながら、ちょこんと座る。あんた、こういうキャラだっけ?まあ、人には複雑な内面があるもの。今日はそう言う気分なのだろう。
そうして、少し怯えた色の彼の双眼を見詰める。頃合いか―。
アグネス「押しつけがましく思われるのは承知で話すわ。これは友人としての忠告、勝手に友人とか言ってみたけれど、あんたの方はOKかしら?」
レイ「え…。友人…戦友?」
アグネス「『戦友』であり、中でも『友人』、文句ある?アカデミーの事、まだあれこれ言いたいの?じゃあ、私から言うわ。ごめんなさい。以上!」
私がそう伝えると、揺らぎながらもまだ頑なだった、レイの表情がグシャっと崩れる。うわぁ、気持ち悪、せっかくの綺麗な顔が台無しだわ。
レイ「ぁ…、ぅ…。ごめ…ん」
仕舞いにはめそめそ泣き始めるが、今は放置、むしろここが攻め時だわ! - 43二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 00:54:16
アグネス「レイ、何時だったか言ったわよね。あんたの人生はあんたのもの、『彼ら』のものじゃない。それで…、これも前に言ったと思うけれど、やっぱり、あんたはあの親からは距離を置いた方が良いと思う―」
レイ「…」
こいつの前半生は、それはまあ、特殊なもの。私がここで突然、彼に『この世界で産まれ出でたことを受け入れ、愛せるようになりなさい』等と言い募るのは、きっと傲慢なことなのだろう。
とは言え、私の視界に入る所で、うじうじうじうじされても困る。耳目の届かぬ所であんまり不幸になられても困る。
レイ「あ…、アグネス!?」
おらっ!と、自分の上体を気合で起こし、体中に痛みが電撃のように走るのも構わず、自分の目線を今度こそ彼の高さまで持って行く。
驚き慌てる馬鹿者に息がかかるほど顔を近づけ、残りを全部一気に捲し立ててやる。
アグネス「さはさりながら!せっかくあんたを好きでいてくれる人達が、この世界に居るのだから。その人達があんたを好きになってくれたのは、紛れもなく、あんた自身の立派で真摯な振舞いに起因することなのだから。そろそろ、ね、分かるでしょう?ああ、ほら、『運命の呪縛を解け』とか、『鉄鎖を断ち切れ』とかそう言うの、ね、分かる?!YESかNOで答えて、理解してそのようにするか否か!」
レイ「え…?」
さっきから、ずっと『年下の男の子』モードのレイが目を白黒させる。顔の色も青く成ったり、赤く成ったり、いろいろ変わるから見ている分には面白いわ。
レイ「どうして…?」
アグネス「私はエリートなの!『手の届く範囲の人を守る』だとか、『俺の目の届く範囲では不幸になるな』とかぬかす凡百の輩とは違うわ!あんたがその気になってくれるなら。いろいろ、思いつく限りの事はしてやる。乗り掛かった舟なんだから!」
多分、それが―レイのような境遇の人間が己の人生と幸福追求権を回復出来るよう、私達が力を尽くすことが―、この混みあった動乱の時代を超克する一つの近道と思うから―。と言うか、思った、今!
レイ「Y…」
アグネス「Y?」
動揺しながらも、喉から必死に返事を押し出そうとする彼に、念を押すように問いかけ促してみる。サッサと言わんか!もう電気が走り回って痛みが我慢できない。
レイ「…YES」
アグネス「良く言った!1000000000000000アグネスポイント!」 ドサッ… - 44二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 01:05:46
誉め言葉を彼に向け発するや、私の上半身はベッドに崩れ落ちる。限界だ、今の動作で汗が一気に噴き出している。
レイ「???-おいっ!大丈夫か!」ナースコールは?どこだ?」
レイは私に褒められて一瞬、間抜けな表情を浮かべ、直後にダウンする様を目の当たりにして半ばパニックになる。
アグネス「ああ、男子とは少し部屋の配置が違うのね。平気、平気。でも喉が渇いたわ」
まったく、私が死んだわけでもあるまいに。
アグネス「何か飲みたい。ミネラルウォーターがそこの冷蔵庫に在るから、出して、渡して」
レイ「ああ…。あ、ナースコールは―」
アグネス「それはいいって言っているでしょう!もう直ぐおやつだから、その時、下着を代えてもらうわ」
レイ「え…?え…」
レイは不審者のような反応をしながら―全ての不審者が悪人とは言わないが―、冷蔵庫からミネラルウォーターを引張りだし、キャップを緩めて私に差し出してくる。気が利いてよろしい。
コントローラーで足に負担が掛からない範囲でベッドを起こして受け取る。あれ?最初からこれで良かったのでは?
アグネス「(まあ、インパクトも大事だから、結果、こいつにYESと言わせた私の作戦勝ちよ)」
レイ「!ゆっくり飲め。身体が…」
アグネス「分かっているって!」
キャップを外し、一口ずつ、体の様子を見ながら徐々に水分を補充する。明度が下がった病室の色がまた戻って来た!
汗が気持ち悪いけれど、これはこれで爽快ね。持久走の後みたい。
そうして人心地ついた所、今度は二人で互いに見つめ合う。さっきまでの一方的なものではない。それは良いのだが―。しまったわ…。
さっきまでいろいろ言ったが、病気の件を除けば、基本こいつと私は仕事の話しかしてこなかったのだ。 - 45二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 01:44:24
アグネス「うーん。レイ、私から話して返事を貰わないといけない事は済んだから…。今度はあんたから、何か面白い話をして」
レイ「お…面白-難しいことを平気で言うな…。ああ、そうだ。今日、セラピードックが病室に来た…ぞ。セントバーナード犬!」
ほう!セントバーナード君、大活躍ね。
アグネス「彼、頼りがいがあるわよね。大きいし、強そうだし、優しいし。ファブラリウス市のエルスマン博士の病院にもセラピー犬は居るの?」
レイ「居る!大きな黒いニューファンドランド犬とイエローのラブラドール・レトリーバーが。最初、ニューファンドランドを見た時、一瞬、熊かと―」
もふもふ、いいなあ。両方とも好きな犬種よ。レイは彼ら(彼女ら?)を思い浮かべ目を細める。羨ましい。
アグネス「あんたの所に良く来てくれるの?」
レイ「ああ…。定期的に。ニューファンドランドは…レトリーバーもだが、本当に賢くて良い。俺のことを心配してくれている、ように思う」
犬の話になって、ようやくレイは饒舌に話し始める。この様子から察するに彼の治療・療養生活は決して無機質で効率最優先の冷たいものでは無いようだ。本当に、博士を初め医療スタッフ(セラピー犬含め)に、感謝しなさいよ。
犬の話題で、レイはすっかりリラックスしている。実は私もリラックスモード、話しているだけでこうなるとは、彼らのセラピーパワーは本当に侮れないわ。
アグネス「(そう言えば、こいつは何故、アプリリウスに滞在している?シンとハイネ先輩は短期集中治療の為、プラント間を移動したのに)」
彼の主治医のエルスマン博士が、私に付きっ切りにならざるを得なかったからか。あるいは、レイが『私の意識が戻るまでは』と言った意向を漏らしていたのか?両方かな。さて―もう一点、尋ねておこう。
アグネス「皆にも、ミネルバの人達にも、もう会った?」
レイ「ああ…。提督や副長、パイロット隊にブリッジクルー、ヴィーノ、ヨウラン達も…」
アグネス「それで謝って、許してもらった?」
そう問いかけては見たが、まあ、返事は予想が付く。少し疲れた、瞼を下ろして聞こう。こいつの泣き顔は見飽きた。
レイ「うん…」、アグネス「なにより」
涙声の短い答えが耳朶を叩き、すぐに目を見開く。意識を落とすわけには行かないもの、またこいつが騒ぎかねない。 - 46二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 06:35:23
犬と戯れるレイ
- 47二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 10:29:32
想像したら可愛かった
- 48二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 17:33:09
保
- 49二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 18:23:10
でかい犬に埋もれる美少年は健康にいいからな⋯
- 50二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:22:25
☆
- 51二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 02:47:33
白い天井を見上げ、耳を澄ませてレイの乱れた息遣いが整うのをじっと待つ。思えば彼とて男子、女子に好んで泣き顔を晒したい訳はあるまい。
再開後、必死で思い至れなかったわ。
アグネス「(本来、独りよがりの意見の押しつけは暴力、仮にそれが親切心に基づいたものであっても。まして私もレイもお互い、プラント基準では成人済み(と思う)。お互い同格の同僚同士の間柄、昨今の社会はその辺シビアだわ)」
それでも―、今日、私がゴリゴリと彼に自分の見解への同意を迫ったのは―本件に限り『その事態を漫然と放置しては、目前の人物と彼の行動に巻き込まれる第三者の、身命及び社会的地位に、重大な危険が生じる蓋然性が高い』と判断したから。
あくまで建前としてはね。本心の半分は当然、異なる。このアンポンタンを後ろ暗く冷たい世界から、何とか明るい側の世界に引っ張り戻すため、無我夢中よ。
アグネス「(『明るい世界』も楽園とは余りにほど遠い有様だと理解はしている。でも私達が産まれる前から世界は狂っていた。それなら、しょうもない国内の陰謀の渦中で、燃やし尽くすに命は尊すぎる)」
閑話休題-。お隣さんの息がだんだんと落ち着いてきたみたい。
レイ「…」
アグネス「(はぁー、そろそろ気を利かせて帰ってくれないかな。呼んでおいて勝手な話だけれど、私はもうヘトヘトよ)」
真上を見詰めていた視線を右横にスライドさせる。すると、下りてきた私の視線と、私の顔をじっと見つめ続けていたレイの眼差しが交差する。アイコンタクト、伝わったか。
レイ「…お邪魔したな。では俺はそろそろお暇する」
アグネス「いえ、来てくれてありがとう。何時頃、元の病院に戻るの?」
言外に次は何時、会おうか?そう尋ねる。どうも、今のレイはいけない。儚げと言えば語感は綺麗だけれど、ふわふわとして何処かに流れ、消えてしまいそうで此方が心配になる。
案の定、直ぐに返事を寄こして来ない。まだ何か迷うことがあるのか?あんた、『議長とは距離を取る。己の運命の呪縛を解いて、悪循環の鉄鎖を断ち切る』にYESしたばかりよ! - 52二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 03:00:27
レイ「そうだな…。明日明後日は居ると思う。その、アグネスの治り具合でエルスマン博士の『出張日程』が決まるから…。俺はそれに合わせてもらえるよう頼んで―」
アグネス「ああ!そっちね。なるほど博士は出張扱いなのね」
それで、こいつは私を焦らせることの無いように言葉を選んでいたのか。なぁんだ、心配して損したわ。
レイ「そうだ。事後的に国防委員会の要請でこの病院に、『FAITH及び政変時の負傷者の加療に協力している』と事務的には処理されているらしい」
アグネス「私はバリバリ、リハビリしていくから。まあ、あんたはゆっくりして行ったら。くれぐれも議長官邸とは縁を切って。プラントはまだ政治的に動揺しているから、どの方向からも警戒を怠らずに、ね」
私に念を押され、レイの顔に動揺の影が走る。でもそれは一瞬の事-。
レイ「分かった。約束は必ず守る。ギルとは…議長は議長、俺は俺だ!そこはもう迷わない。では―、明日の昼前にここを訪ねる、で良いか?」
思いのほか力強い口調で返答を返してくれる。まるで一世一代の決意を述べるような勢いね。結構、結構。
アグネス「良いわよ。面白い話題、考えておいてね。ある程度なら政治や宗教についてでも歓迎するわ」
レイ「あ…ああ。いや…、何か…考えて置く」
アグネス「良し!ああ、これ死亡フラグ?折らねば!『明日が無理なら明後日、それも駄目なら明々後日に来て会いましょう、お互いに』ね」
彼への応えと同時に、でサクッと目礼を済ませる。すると、彼は少し名残惜しそうに躊躇った後で目礼を返してくる。お見舞いの態度としてよろしい。
レイ「分かった。必ず。それでは失礼する。お大事に」
アグネス「お見舞いありがとう。あんたこそお大事にね」
音も無く開閉する扉の向こうに彼が去って、私の瞼も下りる。
もう限界だ。毛布の上からは、強烈な倦怠感が私に覆い被さり、魂には鉛の重りが括り付けられたよう。私を深い眠りの中に引きずり込んで行く。15時のおやつ、もう食べるどころじゃないわ…。 - 53二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 06:12:31
容態急変はコーディネイターはなさそうでいいな
- 54二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 12:48:35
アグネスがリハビリ開始できるまでどれぐらいかかるんだろう。起き上がるだけで悶絶だとリハビリどころじゃないが…
- 55二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 20:08:51
☆
- 56二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 05:07:01
看護師「アグネスさん、済みません。起きられますか?」
アグネス「うわぁ!」
看護師さんの声でパチッと目が開く。
深い眠りから覚めたという満足感は感じられない。まるで電池が切れた人形に、新しい電池が挿入され、スイッチが押されたが如し。
看護師「ごめんなさい、無理をさせて。エルスマン博士が『公務の前に一度体調を確認したい』と」
アグネス「あぁぁ、もうそんな時間ですか?」
看護師「大丈夫、まだ18時過ぎなので。アグネスさんの場合は彼方から来るそうなので」
お知らせを伺いながら、眼球をグルっと回して状況把握を済ませる。ちょうど今、点滴が抜かれた所だ。これは食べられなかったおやつの代わりね。
病室内の明かりの光量は目を眩ませない程度に調整されている。ストレスを掛けない配慮、ありがたい。艦内では基本、他の負傷者にも合わせなければいけないから、こうは行かない。
アグネス「(でもおやつは自分の口で食べたかったわ。くよくよしても仕方がないことだけれど、無念、切り替えて行こう)」
アグネス「ありがとうございます。大丈夫です、起きられます」
看護師「良かった。診察が終わった夕食ですよ。楽しみにしてくださいね」
アグネス「はい。分厚くて大きなステーキが食べたいです」
看護師「うーーん。それはもうちょっと…」
気の好い彼女に軽い冗談を言ってみる。半分は本音だけどね。早く、好きなものを食べて思いっきり動けるようになりたい。
胸を駆け抜けた楽しい希望、紛れもない自分の本心を知覚した次の瞬間、今度は深い絶望が私の心臓を鷲掴みにする。
アグネス「(どちらも、今の時代では贅沢品…)」
身体が治って動けるようになろうと同じこと。
次の任務から私が生還できるか、出来たとして五体・五感が無事であるか否か等、神様以外誰が保証できるだろう。 - 57二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 05:37:28
アグネス「(…戦時中で軍を除隊できない。する積もりも無い。それに仮に文民身分に戻っても、停戦するまで究極的には同じことだわ。この世界で人々は身の置き所を失くしている。強国の軍人の私でさえそう思うなら、他の地域の人達はどうか、考えるまでもない)」
何処まで言っても私は―私達は―強者で、この世界の上澄みの人間なのだ。
自分が見知っているこのチェス盤の主要なプレイヤーと駒は、敵味方を含め、自分も含め、なんやかんや全員恵まれた生まれと育ちをしている。無論、その中でも『いろいろある』、嫌なほど、いろいろな苦労や苦しみは有るが…。
それでも、私達が一般の民衆の絶望や切望と、距離のある所で『戦争と平和』に対峙していたことは、もっと自覚した方が良いかも知れない。
議長を盲目的に支持する人達を、内心、衆愚と侮ってさえいたが…。
今日では、誰しもが、世界の『緊急手術』と『痛み止め』を欲している。台風の目の中を走り回っていた私は、ややもすれば、そんな当たり前の事すら分からなくなり掛けていた。
だから、今更、どうだと言う事は無いのだけれど。
アグネス「(私は手柄も欲しい、出世もしたい。それでもやはり限度がある―。でも『それならどうすれば良いのか?』分からない…)」
いや!ようは勝てば良い。揺らぐな、今は!!
私が決意を新たにしたところで、インターホンが鳴る。
タッド・エルスマン「ギーベンラート嬢、診察に来た。入らせてもらえるか?」
アグネス「はい。ご足労いただきありがとうございます」
タッド・エルスマン「では、失礼しよう」
一つ断りを入れ、博士は勿体ぶることなく、自動ドアを潜って入室なされる。褐色の長髪に白衣、鋭い眼光、圧を感じてしまう。
タッド・エルスマン「こんにちは、ギーベンラート嬢。もう直ぐ『今晩は』になるね。レイと会ってくれてありがとう」
アグネス「はい。善は急げと思いまして」 - 58二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 05:47:21
博士ご自身もそれを察してか、努めてフランクに私に話し掛けて下さる。せっかくお気遣い、しっかりお応えしよう。
タッド・エルスマン「だが、何事も程度と言うものがある。無理なリハビリを自己判断で始めないように。一声、医療スタッフに掛けてから」
アグネス「はい…。ご迷惑をお掛けしました」
博士にそうお返事をした所で、初めて我が身の在り様に意識が向く。汗でぬれた下着と病衣が着替えられている。身体も髪も、何だかサッパリしている―。これは…。
アグネス「(私の意識が落ちている間も、手を尽くして下さった方がいらしたと言う事。点滴だけじゃない。『それが仕事だろう』だけでは回らない使命感に自分は助けられている…)」
そのことを博士ご自身も看護師さんも敢えては仰ることは無いが…。
アグネス「本当に…以後、気を付けます」
タッド・エルスマン「よろしい。程度の問題だ。羹に懲りて膾を吹くことの無いよう」
アグネス「はい」
私の返事を聞いた後、エルスマン博士は看護師さんに目で合図する。彼女の操作でベッドは、私の脚部に負担が掛からない限度まで持ち上がる。
タッド・エルスマン「よろしい。さて、君が意識を失っている間の事となるが、午後の検査を済ませて置いた。君にとっては朗報だ。肋骨と鎖骨の骨折は修復期から既にリモデリング期に、足の骨折部位は左足が修復期に入った。右足はもう少し…。君も生物の授業で習ったことと思うが―」
博士は私に検査結果も示しながら、朝と同じように解説をして下さる。
人間には言うまでも無く、自らの体を修復する機能があり、それは一定の段階を重複しながら進んで行く。勿論、一定とは言っても各個人の身体は、云わば、神様の手掛けたオーダーメイド、全く同じと言う事はあり得ない。あくまで目安だ。
アグネス「(骨折について言うのであれば。ナチュラルの場合、年齢にもよるけれど、炎症期が2、3週間、修復期が、骨折の数日後から数週間、最後にリモデリング期(修復期に患部に形成された軟骨が骨に置き換わる期間)が数週間から数か月とされる)」
しかし、これは、繰り返すがナチュラルの話。私達、コーディネイターの場合はもっと早い。 - 59二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 05:52:51
特に私達のような、ナチュラルのお祖父様、お祖母様が惜しみなく大金を投じて産んで下さったお父様、お母様(云わば高級コーディネイター第一世代)と、その間に生まれた子供達(喩えれば高級コーディネイター第二世代)は尋常なものでは無い。
通常の医療と療養(プラント基準)を受ければ、身体は、ナチュラルの数倍以上の速さで、回復していく。おまけに今回、私は万能細胞を大量投入済みなので、それはまあ、スピーディーらしい。
タッド・エルスマン「君が午後、意識を失っていたのも身体が自己の修復に全エネルギーを集中しているからこそ。とは言え、肋骨と鎖骨はあくまで軟骨で繋がっているだけだ。動けるようになり掛けている時こそ注意が必要、良く理解するように」
くれぐれもと強く言い含められる。その一方で、博士は『羹に懲りて云々』ともいうから何とも加減が難しい。加減に困ったら、聞きなさいという趣旨だったわね。
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「よろしい。足はもう少し掛かるとして、検査結果を見るに左肩はだいぶ良くなっている、今朝から半日でも。掌を上にして肩に水平に左腕を持ち上げて見るといい。ゆっくりと」
博士は私のベッドに一歩前に進み、私の手を取るかのような所作をして、エールを送って下さっている
ちょっと怖いけれど、やるっきゃないわね。指示された通り、左手の掌を上にして身体の前側に向け、肩の高さと水平まで上げてみる。
すると―特に痛みも無く、腕が上がるので吃驚する!半日だけで、こうも変わるものなのか!
タッド・エルスマン「細胞分裂の周期からするに―、いや、痛かったり気持ち悪かったりしていないかな?」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「では、そのまま真直ぐ伸ばして、無理をせず。そう、よろしい。ではその高さと向きのまま、腕をゆっくり身体の横に持って行きなさい」
アグネス「はい」
すいーッと左腕を、掌を上にしたまま身体の横に伸ばす。やっぱり痛くないわ。
アグネス「大丈夫です」
タッド・エルスマン「ではそのまま前に戻して。掌の向きはそのまま、75度までは痛み無く上がると思う。ゆっくりと」
アグネス「はい」
腕がみるみる上がっていく。思うに掌を上に、と言うのがポイントで手の甲の向き次第では激痛が走るのだろうけれど、凄く嬉しい。 - 60二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 06:30:58
ブルコス「やはり化け物か」
- 61二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 13:27:15
保守
- 62二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 18:46:25
タッド・エルスマン「良し、そこまで。大分良いな。ゆっくり下げ楽にしなさい」
アグネス「はい」
左手を下げてベッドにつける。ぐっと腕に疲労感を覚える。暫く動かしていなかったのだから当然か。
タッド・エルスマン「なかなか順調、これからリハビリ用ハンドグリップを使ってみよう」
博士は私にそう伝えると、手に持ってきた業務鞄から器具を取り出して私に手渡して下さる。五指の内、四指を入れてぐっと握るタイプだ。手に取るとどうやら掛ける負荷も調整できる仕様との事。
試しに一度ギュッと握る。やや弾力が強い。目の奥で火花が散り左肩を電気が貫く。でもちゃんと握り込める!良し。
タッド・エルスマン「よろしい。負荷はまずまずか。隙間時間にも使用して良い。腕全体もゆっくり角度を変えたり、上げる角度を徐々に増しても良い。ただし、くれぐれも無理をしないよう。痛みや気持ち悪さが増すようなら即、医療スタッフを呼びなさい。リハビリは原則、医療スタッフが居る前ですること、この方針は君自身と医療スッタフ双方を守るためのもの。理解して欲しい」
アグネス「はい」
この分なら、両腕がフルに使えるようになるまで、さほど時は―、ああ、そうなると仕事どうしよう…。
そんな私の内心を見透かすように博士は釘を刺す。
タッド・エルスマン「今朝、君が起きた時、国防委員会には私から伝えて置いた。『当患者の任務復帰は、儀礼的なものを除き、今しばらく猶予を設けられたし。回復スピードに合わせて任務の性質と量を戻して行くべきであり、日ごとに委員会に報告、助言する』と」
お見通しなのね。普段の振舞いのせいか。
アグネス「ご配慮下さりありがとうございます。有給の消化をしていると思う事にします」
タッド・エルスマン「ハハハ…、戦傷に伴う入院だから、有給自体はそのまま残っているそうだ。…余計なことをと思うかもしれないが、君は特務隊、扱う任務が一般将兵とは異なる。ミスが生じれば、自分だけでなく国や軍の為にもならない」
博士は、私が述べた冗談に鷹揚に応じて下さる。考えてみると本当に危うい所だった。現に先ほどまで意識が落ちていたのだから。 - 63二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 23:44:00
保守
- 64二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 23:50:20
相変わらずのワーカーホリックぶり
教官業務とか全部中途で投げ出して出動になってるもんな… - 65二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 00:46:52
診察の最後に、エルスマン博士は少し表情を改めてお言葉を掛けて下さる。
タッド・エルスマン「私としては、君達が休暇を安心して取得できる日が早く来て欲しい。心からそう思うよ。軍艦勤務で元から取得し辛い所、君にも皆にもご苦労を掛けている」
そう言ってもらえると素直に嬉しい。
アグネス「ありがとうございます」
タッド・エルスマン「うん、良し。では夕食を楽しみなさい。式典に関しては、こちらでセーブを掛ける。安心しなさい」
看護師「お夕食は、直ぐに持って来ますね」
会話を終えたお二人を目礼してお見送りする。博士の振舞いから察するに、きっと青服を脱いだ今だからこそ、口に出来る本心もあるのだろう。
さて、それはそれとして―。自動ドアが閉じるや、もう一回、二回とハンドグリップを握りしめる!頭の歯車を回さねば。
アグネス「(!…)」
次の瞬間には案の定、稲妻が左肩から脳天を焼くが、軽い。午前足を動かした際の事を思えば、静電気の火花のようなものだ。無理をすることなく3度目を握り終えた所で、グリップは手放す。良い感じに脳が活性化したわ。
次にテレビのスイッチをオン。戦争と政争のニュースは避けるにせよ、浦島太郎になるわけにもいかない。
アグネス「(午後のニュースの振返り放送でもやっていないか、って!え?)」
画面の先に予想だにしない光景が見えて愕然とする。カナーバがトラドール国務秘書官から勲章を授与されているわ。見たくもない人間と厄介な相手の顔が目に飛び込んでくる。
この二人をセットで見る日が来ようとは…。
ニュースキャスター「プラント首都アプリリウスを勲章使節団長として訪問中のファウンデーション王国国務秘書官イングリット・トラドール氏は本日午後、最高評議会ビルにてカナーバ前議長、現最高評議会議員団、並びに高級武官として公職復帰したエザリア・ジュール夫人と連続して会談しました」
ほう!良いわね。エザリアおば様は公職復帰なされたと。
『高級武官として』なら、制服を青から紫にチェンジなされるのね。 - 66二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 01:06:33
ニュースキャスター「日程終了後、カナーバ前議長にはアウラ女帝の代理であるトラドール勲章使節団長より『勲一等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章』、現最高評議会議員及び代行12名とミセス・ジュールには『勲二等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章』が贈られたとのことです」
これは…、午前にライトナー最高評議会議長代行に勲一等を授けた以上、前議長にも同格の勲章を、その他の者には身分に応じて、と取るのがストレートなのだろうけれど―。
ニュースキャスター「カナーバ前議長は勲章と共にトラドール勲章使節団長からアウラ女帝の『貴女とプラントの、前大戦停戦からユニウス条約締結、そして今日に至るまでの世界平和構築への努力と貢献、なにより圧政に苦しむ諸民族に対する温かい支援に対し感謝の意を表す。ユーラシアひいては宇宙を含む全人類圏に、平和と安寧をもたらすべく、ロゴス・ブルーコスモス並びに非道に手を貸す連合勢力との戦争を共に戦い抜きましょう』とのメッセージを受け取ったとのことです」
やはり、それだけでは無かったわ。ファウンデーション王国は国際社会の前で『プラントのハト派筆頭格と目されるカナーバ前議長を褒め殺しにする戦法を採用した』と見るのが妥当-。
戦線拡大に消極的であろうクライン派筆頭を、全世界の眼前で「ユニウス条約ありがとう」、「平和をありがとう」、「支援ありがとう」、そして『共に戦ってくれてありがとう【裏切るなよ】』と褒めちぎる。
無論、彼女達は受勲を拒否することもできる。しかしプラントは政変直後、その選択肢は実質的にあり得ない。友好国の承認を欲しているのはむしろ現政権の方なのだ。
真っ先に訪問して、表向きデュランダル議長を切り捨て、ライトナー政権の右手を取った国は厚遇せざるを得ない。それも込みで、『プレゼント』を受け取ってしまった以上、『お返し』をするのが世の習い。
アグネス「(問題は何時、何処で、どの程度の『返礼』をする運びになったか。会談の内容の一部が件の大規模軍事援助であったことは明らか。流石にホームでやり込められてはいないと思うけれど…)」
我が国は空気に流されることに、これまた私の中で定評がある。ただカナーバは頑固者、あの女がそう簡単に揺らぐとも思えない。とは言え目下の状況、所詮は前議長と言う身分。果たしてどうなったのやら。 - 67二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 08:08:49
保守
- 68二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 13:57:58
考えてみたらファウンデーション陣営は最初の大戦のときから地上にいた場合滅亡してた可能性がある
- 69二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 20:46:51
SEED界の”鉄の女”筆頭が来たな…
- 70二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 02:22:41
保守
- 71二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 02:35:17
うーん。これは果たしてどうなる?
カナーバのポジションは表向き最高評議会のオブザーバーだろうけれど、元外交委員で前議長、現政権樹立の立役者の一人。ライトナー代行政権も主に外交分野で彼女の経験と人脈を頼みにしているはず。
とは言え、あの女が任期中に相手取って来た勢力の中にファウンデーション王国は当然入っていないから、彼女としてもやり辛い相手であることは間違いないだろう。それがどう作用したのか、あるいは作用していくのか。
アグネス「(でも、考えようによっては、さほど悪い流れでもないのかもしれないわ)」
少なくともファウンデーション王国は、プラントとの外交政策を議長との個人的なコネクション頼りのものから転換したともとれるから。今までのコソコソとした外交交渉より、表のレールに乗せた分、より互恵的な関係が構築できるかもしれない。
ただそれは裏を返せば、彼の国の国家建設がともあれ、軌道に乗り軍事面でもプラントに全面的に依存するフェーズを脱する目途が立ったと言う事も意味しているのかもしれない。
それならそれで、いや、どうかな。
王国の実際の姿を直に見た経験がない以上、ここであれやこれやと言っても仕方ないが―。いや、夜間の衛星写真から分析自体は出来るわね。
西暦末期にその有効性が再確認された手法、単純化して言えば『夜景』、夜空を照らす電光からある国・地域の経済規模を測定するというもの。
アグネス「(所謂、強権的指向が顕著な国家は自国のGDPを実態より過大に発表する傾向があり、またその地方政府や企業も中央政府から課されたノルマの達成を虚偽申告するケースも少なくない。そのせいで中央政府でさえも、自国の実態的な経済規模が判然としなくなってしまう。歴史上繰り返されてきた人類の悪癖の一つ)」
そうしたブレを補正する手法の一つとして、夜間の上空写真を用いる手法の有効性が認められて久しい。
秘密のヴェールで覆われた怪しい同盟国の実態の欠片ぐらい掴んでおかないと、夕食も十分に楽しめないというものでは無いか!
エルスマン博士達から戦争と政治のニュースは控えるように云われているが、これは経済問題だからセーフ―なはずもないので程々に切り上げる積もり―。さて…。 - 72二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 02:46:58
思い立ったが吉日、メイリンが持ってきてくれたデバイスを手繰り寄せスイッチオン。
国防委員会のデータにアクセスして、カスピ海上空、旧カザフスタン西部地域の夜間写真を、ファウンデーション王国独立戦争開始時から直近のものまで順にざっと目を通していく。
アグネス「(思ったより遥かに復興が進んでいる。ミネルバに敗れたユーラシア連邦軍の瓦解が想定より早く、独立戦争が終始優勢に進んだこと。その結果として王国の中核たる首都イシュタリア都市圏-西暦時代のカザフスタン、アティラウ州-の被害が軽く済んだという点が大きいのだろう)」
しかし、それを差し引いても独立から今日まで僅か数か月だ。余程、優秀な国民か指導者か、その両方があの地に存在するのだろう。
アグネス「(デュランダル議長がその才能を高く評価していると言う宰相オルフェ・ラム・タオ氏の采配、侮るべからず。それを補佐してきたトラドール国務秘書官もまた無為無能とは程遠い人物と見なさざるを得ない)」
ただ、国務秘書官の彼女を実質的な全権大使として東奔西走させている当たり、国の上層部の人材の厚みはまだ心許無い、可能性が高い。ただ中より下はそれなりに居るはず。
独立直後の国は何処もそんなものか、そこまで考えた所、病室のインターホンが鳴り、慌ててデバイスを閉じる。
看護師「アグネスさん、夕食ですよ」
アグネス「ありがとうございます。ッ…う…」
叱られる前にデバイスを元の位置に戻そうと、身体を捻った瞬間、両足から脳天に電撃が直撃する。当然のことながら、入室直後の彼女の目に留まり、『めっ!』と目線で注意されてしまう。
アグネス「ああ…え…と為替と株、金融商品の値動きがどうしても気になりまして…」
看護師「取引なされているんですか?」
アグネス「いえ…、少なくとも私名義の財産に関して殆どは、インサイダーになるといけないので、信託してありますが…」
看護師「じゃあ、優先度は低いですね。さあ、ご飯食べましょう。アグネスさんが好きだというオリオスープですよ。ベルリンの先生からお知らせいただきまして」
アグネス「先生から…。ありがたいことです。大好きなスープなので」
きちんとしたお別れ、ご挨拶が出来ずにいる皆さんのお顔が思い出される。直接お会いして、等と考えたら何時になるかも分からない。 - 73二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 02:53:35
夕食を終え次第、せめてメールでもお礼状を送っておこう。
アグネス「いただきます」
看護師「はい。召し上がれ」
もしゃもしゃ、一口目を口に入れると胃袋から驚くべき食欲が湧いてくる。損傷電流に促され、私の身体は1秒ごとに回復の道を突き進んでいるのだと、強く実感する。
嬉しいやら悲しいやら、休暇もいつまでになることやら。『ごちそうさま』の後、ベルリンの医療スタッフの皆さんにお礼状を書き上げ、発信する。顔を見てお礼を言う機会も欲しいけれど、先のことになりそうだわ。
食事を終えて、食器が片付けられると、遂に怒涛の公務ラッシュが始まる。
最初に病室を訪れていらしたのは、プラント最高評議会議員、パーネル・ジェセック司法委員。紫服の副官とカメラマンとアシスタントを一人ずつ。
同席者のエルスマン博士と女性主治医、看護師さんは先に病室内でスタンバイ、ベッドの背を足に負荷が掛からない程度に起こして、出迎えの準備を整える。
ジェセック「今晩は。特務隊アグネス・ギーベンラート嬢。最高評議会司法委員、パーネル・ジェセックだ。入ってもよろしいか?」
アグネス「今晩は。どうぞお入りください。ジェセック最高評議会議員閣下のご来訪、身に余る光栄に存じます」
インターホン越し、ジェセック評議員と久しぶりに言葉を交わす。
もっとも最後にお会いしたのは意識を失う4日前。それを久しぶりと言うかは何とも微妙だが。
カメラは既に撮影を開始、様子から察するに生中継ではないらしい。
ジェセック「では失礼する」
一声、断りを入れてやや強面の感がある偉丈夫が病室内に踏み込む。私は即座に敬礼を済ませ、女性主治医はビシッと姿勢を正し、彼から返礼を受ける。
ジェセック司法委員は中に佇む元同僚の下に歩み寄り、エルスマン博士もそれに応じて二人で握手を交わしている。ジェセック評議員はクライン派寄り中立派、エルスマン博士はザラ派から中立派に立場をお変えになった方、彼らお互いの心中は想像する以外方法がないが見た感じだと特に蟠りはないみたい。 - 74二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 03:00:35
ジェセック「改めて、ギーベンラート嬢。先日の働き、私達は本当に感謝している。君が重傷を負ったと聞いた時は…。本当に最悪の事態だけは何とか免れて欲しい、本心からそう祈った。それで…今日は司法委員としてその働きに報いるべく来院した」
なるほど、私の意識の中では軍務の一環としてのご協力であったのだが、司法委員会としては傘下公安組織の外部協力者とカウントされていたらしい。
あるいは最初のヒアリングに関しては『市民』カウントなのだろうか。その辺り微妙だからこそ、と言う事なのね。
アグネス「ありがとうございます。司法警察業務を司るプラント司法委員会にご協力が叶ったこと、忠心より光栄に存じます」
ジェセック「その言葉、誠に心強く思う」
ジェセック司法委員は私に返事をすると副官に目で合図し、彼から勲記を受け取る。それを差し出し、私に口上を述べ始める。
ジェセック「『アグネス・ギーベンラート女史、プラント最高評議会司法委員会は、貴女のプラント政変における有用かつ確かな情報提供と、争乱勃発後、その沈静化への特に顕著な功労を賞し、ここに【司法協力章(他国の警察協力章などに相当)】を贈ります。どうか以後も善良な市民としてプラント社会の維持発展にご協力して下さることを切に願います』」
アグネス「はい。良き市民、国民として、軍人として、必ずそのようにいたします」
ジェセック司法委員にお応えし、少し角度を調整しながら両手で勲記をお受け取りする。司法委員は勲記を手渡した後、今度は副官から勲章ケースを受け取り開いて私に見せて下さる。
ケースの中には制服の右胸に着ける記章(バッチ式)と、スーツの際に用いる小型のバッチが入っている。ジェセック司法委員は、内、大きい方の記章を取り出すと私の病衣の右胸に取り付けて下さる。
ジェセック「おめでとう」
アグネス「ありがとうございます」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ…!
司法委員会から表彰を受けるとは少し予想外だった。これは司法委員会傘下組織の部外者に対して、授与される最高位の記章、表彰、勿論嬉しいが他の人の事も気掛かりだ。
アグネス「ジェセック司法委員、憚りながら他の方々は…」 - 75二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 03:04:07
ジェセック「ああ。君を最初として順にお贈りしていく。
特務隊長タリア・グラディス提督、特務隊イザーク・ジュール隊長、同アスラン・ザラ、同ディアッカ・エルスマン、同ルナマリア・ホーク、同シン・アスカ、匿名のミネルバクルー。ランチに乗って宇宙港とエレベーターに突入した隊員、中央軍楽隊隊長、儀仗隊隊長、最高評議会ビル警備隊隊長にも『司法協力章』。
他の艦長、各隊の隊長から班長クラス、負傷者救護に協力したデモ隊参加者には、感謝状をお贈りする」
『負傷者救護に協力』というと私の足を拾ってくれたおじさんも含まれるのだろう。善意の人が漏れることが無くて良かった。
アグネス「お知らせ下さりありがとうございます」
ジェセック「いや、君は謙虚な人だな」
アグネス「その様なことは…」
単純に自分だけ手柄を独占すると、後からしっぺ返しが来そうで怖いだけだわ。皆が褒められているなら道連れが多くて安心できると言うもの。
パチパチパチパチ…
そんな私の内心は知らず、ジェセック司法委員は今度はご自身で私に向け拍手を初め、目線で皆にアンコールを促す。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
人間とは案外、単純なもの。これはたまらなく嬉しいわ。アルスマン博士は私には祝意の眼差しを向けつつ、ご自身のご子息、ディアッカ先輩の名前が出たときには面喰った様なお顔をなさっていた。
元同僚の最高評議会議員(他国に喩えるなら閣僚兼上院議員か)から自分の息子に賞が贈られると聞いた父親の気分、というのはなかなか想像の及ばぬところ。ただ、嫌な気分でない事は表情から見て取れる。
アグネス「(ディアッカ先輩は前大戦末期のいざこざでご苦労なさった方だから。議長失脚の不利益を免れて本当に良かったわ。何かあったら間接的に博士に不義理を働いたことになっていたもの)」
さて、簡易的な授与式を終え、ジェセック評議員と副官は私と敬礼を交わしてご退出していく。記章はせっかく貰ったのだから、これからは軍服の右胸に付ければ良いか。部隊表彰のリボンの下の位置で良いかな。
カメラマンとアシスタントはそのまま部屋で待機、さほど間を開けることなくインターホンが鳴る。モニターの向こうには最高評議会議員、エドアルド・リー国防委員とその副官の紫服が2名。 - 76二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 03:11:08
リー「今晩は。特務隊アグネス・ギーベンラート女史。最高評議会司法委員、国防委員エドアルド・リーだ。入っても構わないか?」
リー「今晩は。特務隊アグネス・ギーベンラート女史。最高評議会司法委員、国防委員エドアルド・リーだ。入っても構わないか?」
アグネス「今晩は。どうぞお入りください。リー国防委員閣下のご来訪、身に余る光栄に存じます」
ジェセック「では失礼するよ」
国防委員四人衆が一人、リー最高評議会議員のお出ましだ。私は即、敬礼、医師と看護師も姿勢を正す。リー国防委員も私に敬礼を返して下さるが、エルスマン博士には何とも気まずそうな表情を一瞬浮かべる。
仲が悪いというわけでは無いご様子だが、職場のOBと会うのはやはり気楽なものでは無いのだろう。とは言え、お二人とも責任ある立場の大人同士、互いに歩み寄って握手を交わされている。
リー「改めて今晩は。ギーベンラート嬢、本当に…。先日の戦い、ご苦労だった。シュライバー国防委員長も大変ご心配されていて…。国防委員会は貴女の献身を高く評価し、その働きに報いたいと考えている。身体の調子はどうかな?」
アグネス「身に余るお言葉です。医療スタッフの皆様のおかげで少しずつですが確実に回復しつつあると実感しています。回復次第、任務に復帰し、再び国防の最前線に立つことを願って止みません」
と、云わねばならぬ所。まあ、嘘は言っていないわ。
リー「そうか…。良し。その思いに我等も応えよう。さて、国防委員会は月軌道艦隊初め、先日の騒擾とL1宙域で発生した戦闘で活躍した者達に栄典を以て報いることを決定した。本来、それを授けにシュライバー国防委員長が訪ねるべき所ではあるが、本会場の授与式の為、席を開けることが出来ない。故に代理として私から勲章を授与する。気を悪くしないでくれたまえ」
アグネス「恐れ多いことです」
むしろ負傷中の身としてはその方が気楽でいいわ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか(多分、知らない)、リー国防委員長は居住まいを正し、副官からまず勲章ケースを一つと勲記を一枚受け取る。 - 77二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 03:17:31
リー「『プラント国防委員会は、月軌道艦隊の、プラントにおいて発生した騒擾鎮静化に対する卓越した功績を賞し、当艦隊に『ザフト軍功労部隊表彰』を授与します。貴艦隊の活躍に深い感謝の意を表すると共に以後も倦むことなく祖国への貢献を続けてくれるものと当委員会は確信します』」
アグネス「ありがとうございます」
リー国防委員は勲記を私に手渡すと、手ずから右胸に部隊表彰のリボン(略綬)を着けて下さる。
『ザフト軍功労部隊表彰』はこれまで贈られてきた『最高評議会議長部隊表彰』より少し格下の表彰ね。よりにもよってその議長自身と争ったことが理由か。
一人で勝手に納得しかけていると、リボンを着けながらリー国防委員がそっと耳打ちして下さる。
リー「(実はあの後、今回の政変をどう位置付けるか話し合いがもたれて。この事変を『内戦』としない為の政治的配慮から等級を下げることに。月軌道艦隊のみならずジュール隊、中央軍楽隊、儀仗隊、最高評議会ビル警備隊なども。済まないね)」
アグネス「(いえ、正しいご配慮と存じます)」
それなら特に文句はない。他の部隊も同じものを貰えたみたいだし。
リー「おめでとう!」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ…!
エルスマン博士達が拍手して下さる中、紫服の副官は次の勲記と勲章ケースをリー国防委員に手渡している。国防委員は拍手が収まるのを待ち、再度、私に勲記を差し出し口上を述べる。
リー「立て続けになって済まない」
アグネス「とんでもないことです」
リー「そう言ってもらえると助かる。『プラント国防委員会は、月軌道艦隊のL1宙域における正体不明武装勢力との交戦とその勲功に『ザフト軍勇敢部隊表彰』を以て報いることを決定しました。戦争法に違反して己の帰属を隠し、デブリ帯に潜み宇宙空間の安全を脅かす武装勢力の脅威を退けたこと。その武装勢力がビーム無効化技術を利用したモビルスーツを組織的に運用している事実と証拠を最高評議会、国防委員会及び軍本部へもたらしたこと― - 78二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 03:38:28
このレスは削除されています
- 79二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 03:44:10
リー「『-何より未知の軍事技術を搭載した敵軍に敢然と立ち向かった勇敢な姿勢は全軍の模範とするに相応しいものです。以後も貴艦隊がその高い士気を落とすことなく未曽有の国難に対峙することを当委員会は確信します』、おめでとう」
アグネス「ありがとうございます」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ…!
それなりに大きな戦果と認めつつも、大戦果とするには一歩足りない。そこを加味した上でこの表彰に落ち着いた、と。
リー国防委員長は、先ほどと同じく勲記を手渡して下さった後、私の右胸にリボンを着けながら耳打ちする。
リー「(ビーム無効化技術の事、我等も深刻に受け止めている。ボスニア湾の事も。後日、直に戦った君の見解も聞くことになるだろう)」
アグネス「(驚くべき技術でした。あの…ところでカメラまだ回っていますが…)」
リー「(問題ない。後で編集させるから)」
流石、戦時の軍はやることが違う。言論の自由など風前の灯がごとく、元々、そう言う取り決めだったのだろうけれど。
さて、国防委員会からの受章も次で最後のようだ。ちょっと疲れてきた来たけれど、頑張って背筋を伸ばす。
リー国防委員は勲記と勲章ケースを受け取り、口上を述べる。
リー「では次に個人の叙勲を。『アグネス・ギーベンラート女史、プラント国防委員会は貴女に『殊勲十字章』を授与します。先のL1宙域の所属不明武装組織との戦闘において、貴女の戦友の盾に成らんとした勇敢さと任務への献身的姿勢、それを以てL1宙域で正体不明の武装勢力の撃退したこと、並びにビーム無効化技術を利用したモビルスーツ部隊の存在情報をより確かなものとして最高評議会、国防委員会及び軍本部にもたらすことに貢献した事を賞しすると共に負傷の順調なご回復と祈念します』。特殊十字章は5回目、柏葉は4つ目だな。いやはや本当におめでとう」
アグネス「ありがとうございます。これまで以上の献身を以て祖国に報いる覚悟です」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
やっと終わったわ。褒められるのも出世も大好き、もう少し身体が楽になった所で喜びを噛締めることにしよう。 - 80二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 05:53:12
うーん、この出世に対する姿勢はもう病気では
- 81二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 11:55:10
保守
- 82二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 19:24:18
また大怪我しそう
- 83二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 21:46:55
- 84二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 23:53:28
身を滅ぼすというか脚が吹っ飛んだというか…
- 85二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 00:07:12
勲記と、追加勲章の柏葉を頂いてふぅ…。これで一安心-。という訳にも行かない!
アグネス「リー国防委員閣下、憚りながら、他の戦友も名誉に預かれたでしょうか?」
さっき司法協力章を授与された時と事情は同じこと。自分だけ突出して恩賞をいただくと後からの掌返しが怖い。他の人はどうなったのか?
リー「勿論!心配は要らないさ。本会場で国防委員長が、L1宙域の戦闘については特務隊アスラン・ザラ、同ルナマリア・ホーク嬢に『功労勲章』を、アプリリウスの騒擾に関しても匿名のミネルバクルーとビル守備部隊に参加した者たちに、それぞれの貢献に応じて『功労勲章』、『ザフト軍表彰勲章』、『感状』等を贈ることになっている。今頃、授与が始まっていることだろう」
そう言えば、彼方が本会場、この病室は出張会場だったわね。匿名のミネルバクルーとはメイリンの事、ともあれ良かったわ。
アグネス「お応え下さりありがとうございます。差し出たことを―」
リー「いや、良い心がけだ。それと君を含むこの『アプリリウス騒擾鎮静化作戦』と『L1宙域ゲリラ討伐作戦』に出動し参戦した者全員に『特別従軍記章』を授与することが決定した。副官から証明書2枚と追加受賞の飾板2枚と小星2個を受け取りなさい」
アグネス「はい!」
リー国防委員から目配せを受け、即時に元気よく返事をする。国防委員会の賞に続きがあったのは予想外ではあったけれど…、それ自体は結構な事。この政変を『内戦』と位置付けないなら、故に非殺傷の試みを伴わずに行われたL1の戦闘は別の作戦と見なすのが妥当、と。
アグネス「(それ自体は正しい政治的配慮と思うけれど、はてさて?)」
『あの不気味な部隊の正体は議長の協力勢力なのではないか?』
政治的方便を差し引いて考えると、リー国防委員の表情から察するに、国防委員会と私達の認識はおそらく同じ。しかし確実にそうであると断ずる証拠は掴めていない。議長を問い詰めて白状する訳もない。
心象的には黒に限りなく近いグレーと思うが…。それでは議長を未だ信じる同胞に納得させるには足りない。今が戦時下でなければ、あのポイントに戻って調査を―。
アグネス「(いや、そんな隙を隠密部隊が見せるはずもない。月軌道艦隊はあのポイントを急ぎ足で立ち去らざるを得なかった。彼らにはその後、戦闘地点に戻って証拠を隠滅する十分な時間があったはず)」 - 86二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 00:22:54
そして『彼らが稼いだ時間をデュランダル議長は最大限活用した』、のではないかと思う。何を何処までやったのか、私が知りようのないことではあるけれど。
取り留めのない思いが脳内を駆け回っている間に紫服の副官は準備を整え、私に直に証明書、飾板、略綬に着ける小星を手渡して下さる。
紫服副官「その働きに敬意と感謝を」
アグネス「ありがとうございます」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ…。
ともあれ、この章を私が授与されているのなら、ヴィーノやヨウラン達、艦隊クルー達も今頃、本会場で受賞通知を受けているだろう。
軍艦乗組員達も私達パイロットとは別に表彰勲章や功績勲章を頂いている、でも、やはり全員という訳にはいかない。これらの章は、きっと彼ら彼女等のキャリアに良い影響をもたらすはず。軍籍に身を置く間は元より、転職する際も履歴書・職務経歴書に書けるわ。
アグネス「(キャリアか…。ヴィーノやヨウラン、アビー達は戦後どうするのかな。せっかくザフトアカデミーを卒業したのだから皆、軍人一本で行くのか…)」
大戦争に直面した世代の人間として、野心や打算の有無はさて置き、誰しもが己と家族と祖国の為、戦火に身を投じる覚悟を求められる。それはそれで止む無し。でも、その後の事は―。
私達は戦い抜くことが最優先で、その辺を語り合う暇が無かった。それに―そんなことを話せば死亡フラグが立ちそうだし、兵士は験を担ぎたがるもの、私も含めてね。でも整備班コンビは同期でもあるのだから、時間を見つけて真面目な事を話す時が有ればと思う。
さて…嬉しいは嬉しいけれど、もう疲れて来たわ。瞼が下りそう。国防委員会の授与も流石に終わりよね…。
目線を上げると、私の疲労を察したエルスマン博士がリー国防委員に目線でストップをかけて下さっている。その意を察したリー国防委員は、少し慌てて先を急がれ、もう一人の紫服から上品な黒色の細長いケースを受け取るや、即、私に差し出し見せて下さる。
リー「負担を掛けてしまい申し訳ない。これは、『特務隊アグネス・ギーベンラート女史、プラント国防委員会は、戦傷により足に大きなダメージを受けたザフト軍人の一人である貴女に―」 - 87二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 01:19:01
リー国防委員の口上と共に、紫服副官が見るからに高級そうな長箱を開くと、その中身は持ち手に銀色の鷲の彫刻が施された高級な杖だった。その鷲は爪で星を掴み虚空を鋭い目付きで睨んでいる。
リー「『『戦傷奉公杖』を証明書と付録の最新式電動車椅子の保険付き無料レンタル券と共に授与します。以後、公私ともに愛用されると共に、女史が健やかに回復し、この杖が単なる記念品と化すことを切に祈念します』」
付録の電動車椅子無料レンタル券が本体ね。一目でこの杖の頑丈さと質の良さは手に取るように分かるが―実用性が無いとは言わないが―象徴的な贈呈品と見るべきだろう。
アグネス「ありがとうございます。これまでに足を負傷した多くの戦友と同じく、私もまたリハビリに励み、仮に我が身が回復前であれ、その瞬間、己の出来る最大の力で国家と軍に尽くしたいと思います」
リー「ありがとう。本当に心強く思っている」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
その場の皆さん、カメラマンやアシスタントさんを含む全員から温かい拍手を頂く。光栄に思うけれど辛い。やがて拍手が止むと、エルスマン博士はお三方を半ば強引に押し出す。私は一応、敬礼して見送り。この様子を捉えたカメラ映像は、後日、大幅な編集不可避だろう。私の意識は既に泥の中に引きずり込まれつつある。
アグネス「今日の公務は…(司法委員会も、国防委員会も、もうこれで良いだろう!)」
叙勲を受けるのも我等の役割の一つ。
勲功を立てた者、社会や他者の為に立派な振舞いをした者、彼ら彼女等に国家は然るべく報いなければならないし、当人たちもそれを喜んで受け取るべきだ。己の為だけではない。それが自分と同様の働きを過去に行い、現に果たしている人々にスポットライトを当て、ひいては後に続かんとする人々を勇気づけることに繋がるから。
そう心得ているが、もう本当に疲れて…限界よ。残りは明日以降では駄目なのか。 - 88二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 06:13:40
辛い
- 89二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 11:55:18
いやー、善意が皮肉になってしまうのは辛い……保守。
- 90二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 19:24:11
保守
- 91二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 22:27:48
アグネスマジでキツそう…ずっとだけど大丈夫なんかなこれ…
- 92二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 00:13:52
タッド・エルスマン「ギーベンラート嬢、申し訳ない。あと、ほんの少し頑張れるか?」
泥の中に沈みゆく意識、エルスマン博士の声が私の頭蓋骨の中を山彦のように反響する。
はて?ずっと私の体調を第一に考えて下さってきた博士にしては珍しい。
タッド・エルスマン「次で最後だそうだ。カナーバ前議長がもう直ぐ到着する。君に『最高評議会議長自由勲章』を持ってくるそうだから…」
アグネス「カナーバー前議長がなぜ!?」
エルスマン博士の発した意外な言葉で、私の意識は急速浮上する。あの女何しに来るのか!
カッと目を見開いた私の視線の先、博士は申し訳なさそうな表情を浮かべ私に事情をお伝え下さる。
タッド・エルスマン「ライトナー最高評議会議長全権代行の代理として。授与の瞬間だけでいいから、リモートで本会議場に顔を出して欲しいと。こればかりは断れなかった。すまない」
アグネス「いえ!畏れ多いことです」
博士に反射的にお返事をする。
アグネス「(そう言えば、今朝、ミーアもそんなことを言っていたわね…。うっかりしていたわ)」
国家機関の内、司法委員と国防委員と来て最後に最高評議会議長(代行)。ライトナー議長代行と現最高評議会の意志は明確だ。
プラント政変の功労者に、議長代行ご自身が、議長の権能を以て栄典を授ける。以て、その権能を完全かつ正当に継承している事を国内外に示し、政権交代の事実を確定的なものにする。
アグネス「(ライトナー議長代行ご自身は本会場でミーア達に授与するから動けない。同格の者に代理を任せようと思えば―必然、あの女になるわけね!)」
そう考えると当然の話の流れか。もう、あーだこーだ言っても仕方ない。
両足を軽く3回揺らして敢えて脳髄に電撃を加え、集中力を強引に取り戻す。 - 93二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 00:27:12
アグネス「『最高評議会議長自由勲章』は議会黄金勲章と並ぶ最高の文民勲章、この上ない名誉と存じます。本会議場の式典に合わせるのみです」
タッド・エルスマン「…そう言ってもらえると助かる。もう少し頑張ってくれ。頼む」
博士の、最後の『頼む』は、私と女性主治医、両方に向けた言葉だ。
主治医「はい。事務員を直ぐに」
博士の指示を受け、彼女は室内電話で既に待機していたであろう病院事務員を室内に呼び入れる。何だろうと一瞬思うが、彼らが持ち込んだ大型プロジェクターとデバイスを目にして納得する。
リモートワークならぬリモート式典参加の準備だ。今までのカメラマンが記録した映像は編集して数時間後に放映するためのもの。それでは向こうにリアルタイムで伝えられない。
その時、はたと思う。
今の私、見苦しい顔をしていないかしら…。
レイと会って寝込んで、その間に看護師さんがお化粧は落として下さっていた。新陳代謝が活性化し、頻繁に意識を失う我が身を思えばありがたいご配慮ではある。ただ、それ故にスッピン…。『清潔感』を考えても、ジェセック司法委員とお会いしてから数えて結構、時間が立っている-。
アグネス「(私の場合、負傷していることが前提の受勲だから、おそらく外見や身だしなみで世間から悪く言われることは無いわ)」
むしろ、授与する側の現政権としては、私が弱弱しい方が世間からの同情とデュランダル派への義憤を買えて好都合ですらあるだろう。
でも今は、流石にそこまで合わせる気は起きない。やはり一人の女性として思う所はある。
アグネス「看護師さん…。もしよろしければ顔を拭いて下さいませんか?」
看護師「はい。髪形も整えますね。元からばっちりですけれど、念のため」
明るい声で彼女が応じてくれて、ぞれだけでも随分心が救われる。
アグネス「お気遣い、ありがとうございます」 - 94二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 02:24:25
身だしなみを看護師さんに軽く整えていただきながら、エルスマン博士に他の人達の状況を教えていただく。
タッド・エルスマン「キャンベル嬢には予定通り『最高評議会議長自由勲章』を贈ると決定した。受賞理由は『ラクスの代役期間』を通して、プラントの安全保障と国益、世界平和に向けた取り組みに大きな功績を上げたこと。そして、この騒擾の最終盤に自らの意志で最高評議会と60人議会の側に立ち返り、両議会の権威を守護して平和裏の事態収束に協力したため」
これは予定通りね。彼女が変な掌返しを喰らっていなくて何よりだわ。
タッド・エルスマン「他の者で言えば―。最高評議会ビル内で活動していた医療班とデモ隊内で活動していた有志の医療ボランティアの代表者、ビル防衛の為に率先して緊急志願した文民公務員の内、特にその働きが目覚ましかった人達に『最高評議会議長市民勲章』を授与する運びになった。特筆すべきは叙勲を受ける者の中にナチュラルの国民がいらっしゃることかな」
ほう?それはまた意外…でもないのか。でもどういう立場の方なのだろう。
アグネス「ナチュラル居住地区からアプリリウス中心部は多少距離がありますが…。その方はどのようなお立場ですか?」
タッド・エルスマン「最高評議会ビルの臨時雇用清掃員の中年ナチュラル女性だそうだ。コーディネイター国民のごきょうだい、ご両親とごきょうだいでプラントに移住して市民権を得、独立と同時に我等と同じく正式なプラント国籍を手に入れた、と知らされた」
なるほど、『掃除のおばちゃん』だったのか。
私の両親と恐らく同世代。ご両親、ごきょうだいとご一緒とは言え独立前の厳しい時代に随分、ご苦労をなされたことだろう。
タッド・エルスマン「彼女は夜勤の最中に事変に直面して他の清掃員と共にザフト・警備隊合同部隊に緊急志願した。即、採用され緑服隊員としてご奮闘なされたと。その為、部隊勲章も受賞されている」
―そうか―
アグネス「私はアーモリーワンを10月2日に出港してから、何度も実感しました。『壮士烈汝は史書の中にのみ存在するわけでは無い』、『戦争が偉大な人間を創る訳では無い。しかしそれは隠れた偉人を際立たせる』と。先人のお言葉は正に正鵠を得たものと言えましょう」 - 95二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 03:00:26
国家、社会、共同体、家族、そして自己が危地に陥った時、その土壇場で人間は、良くも悪くもとんでもない振る舞いをする。今回、その方はその中で最も優れた道を選んだ、と思う。
アグネス「(リモートならその方のお顔を拝見することも叶うかな)」
清掃員が戦士になれない道理があろうか?人間の内心は本人と神様のものだが、外部の環境など幾らでも変わる。嵐の中、最後にそれを打破するのは、結局、人の良心と意思の力なのだろう。
タッド・エルスマン「まさしく…。私も息子が行方不明になるまで頑なだった」
博士は苦みと達観と、微かな満足感が混じった述懐を口ずさむ。私がその域まで達するのはきっとまだ先のことになると思う。
その間にも看護師さんは黙々と手を動かし、気が付けば私の髪を梳かし終わっている。柔らかく温かいタオルで拭いて下さった顔が気持ちいい。
看護師「どうでしょう?」、アグネス「ありがとうございます。本当に、お手間を取らせます」
看護師「いえいえ。退院するまで頑張りましょう」、アグネス「はい」
ちょうど、そのタイミングで室内電話が鳴り、夜間受付職員がカナーバの来院を告げる。いよいよか。
女性主治医と看護師さんには緊張感が稲妻のように走っているが、私がぼんやり考えていることはまた異なる。政敵との久しぶりの対面、一体どう振舞えば良いのか?
アグネス「(あの女と直接会うのは何時以来か。ザラ派とクライン派の亀裂が表面化する以前は、パーティーや交流会で家族と一緒に会う事も有ったのに)」
C.E.71年4月にシーゲル・クライン氏は評議会議員を辞職し党も離党、いよいよプラント上層部の意見対立は深刻化していった。同年5月5日にはあの忌まわしいアラスカ戦―。
アグネス「(つまりC.E.71年4月以来と言ったところ。そうか、まだ3年と経っていないのね)」
パパやママと一緒にお会いした際の彼女は品の好いご婦人と言った風で、売国奴という印象からは程遠いものだった。
それも今は遥か昔のように感じる。10代の時間の流れはゆっくりだと聞くが、それのみが理由のはずはない。
あまりにも多くの出来事が生じ続けている。あれほど憎み、忌み嫌った女性と直接の再開を前に正直、感情の整理が追い付かない。 - 96二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 03:08:21
クルーゼ放置は地球を倒せてもコロニーのインフレを破壊されて皆殺しルートだったんだ
- 97二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 10:03:39
保
- 98二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 13:01:24
確か小説に書かれてた
ジェネシスが地球にブッパされてたらクルーゼがユニウス市のミラーを全部割って食料生産ストップで、中の住民を飢えで皆殺しにするとかだったような?
とはいえ大人しく餓死を待つかと言うと、少しでも資源や食料を求めて無事な中立コロニーや廃棄コロニー相手に宙賊でもやって延命してそうだけど
- 99二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 20:12:41
他スレじゃコンパス次期総裁筆頭候補とも言われるカナーバ女史。
このスレ序盤のアグネスがイメージした”売国奴”とはかけ離れた人物ではあるが、プラントの利益(の最大化)を犠牲にしたのもまた事実。
直接対面したアグネスが何を思い何を語るのか…
オラわくわくしてきたぞ! - 100二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 01:03:43
保守
- 101二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 03:54:38
アグネス「(私の内心の憤りは―ともあれ、何とか、万難を排して―さて置くとしても―)」
私の両親は旧ザラ派の高官、あいつはクライン派でザラ派の同志を国家の中枢から叩きだした元凶だ。私の家は政権に残留できたが、だからと言って恩を感じられるものでは無い
しかし、ここで口論など起こせば、本会場で叙勲を受けている戦友や市民の皆さんにご迷惑が掛かる。常識的に振舞うのが正解だろうか?
アグネス「(あの女と私の距離感も判然としない。以前に会った事が有るとは言え、所詮は前議長と駆け出しの若手軍人。彼女から見れば私は吹けば飛ぶような存在-とまでは言えないか)」
カナーバは国民の人気が無いし、ザフト軍からも相当嫌われている。だから、私が何事か無礼を働いた所で、それが一度や二度なら、どうこうなるものでは無いかも知れない。
FAITHの私をどうこうすれば彼女とて軍内外の反発に堪えられない、とも考えられる。
アグネス「(思い上がりかも知れない事は弁えた上で、私の存在は多分、『吹けば飛ぶ』よりは重い。カナーバ辺りだと『片手を使って叩き落とす』程度のものか)」
そもそも。その者が若年者であろうが高齢者であろうが、軍人であろうが失業中の市民であろうが―。
何か気に喰わない事が有ったとしても、上位の立場の人間が恣意的に権力を行使して、その者に不利益を強いることは違法かつ不法なのだ。あの女とて腐っても元最高評議委員、その程度の道理は分かっているだろう。
アグネス「(だからと言って、敢えて虎の尾を踏むことは無い。相手の出方を伺いながら無難に熟すのが吉、と)」
考えを大体まとめた所で、左手で10回掌屈運動を繰り返す。ぐーぱーぐーぱー。20本の雷が脳幹を直撃するが、おかげで意識はすっかり覚醒する。
そうして10回目に曲げた指が開いたタイミングで遂に病室のブザーが鳴る。
カナーバ「今晩は。特務隊アグネス・ギーベンラート女史、お加減は如何でしょうか。私は前最高評議会議長、アイリーン・カナーバです。本日はルイーズ・ライトナー最高評議会議長代行の正式な代理として貴女に栄典を授与すべく、このお部屋を訪れました。入室してもよろしいですか?」
穏やかで丁寧な口調だ。議会で議論する際の強い話し方ではない。今回の要件と私が怪我人であることを加味すれば当然か。 - 102二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 04:07:24
アグネス「今晩は。カナーバ前最高評議会議長閣下。特務隊アグネス・ギーベンラートです。ご来訪をこの上ない名誉と存じます。身体は皆様のご配慮により着実に。どうかご入室ください」
カナーバ「では、失礼します」
挨拶の後、彼女が楚々とした振舞いで敷居を跨いで来るので、また驚く―病室に敷居は無いが慣用句だ―。ともあれ、先ずは私から敬礼する。
アグネス「(相手の神経を無暗に逆撫でするようでは、外交委員は務まらない。礼儀知らずは社会の上には行けない、その辺、世間が女性を見る目は男性よりシビアだ。脛を蹴り飛ばし合うのは死角でやれば良いこと)」
とか何とか言いながら、私はグラディス提督から直情径行な振舞いを慎むようご注意を受けてしまっているが。
アグネス「(それにしても―3年前の彼女も決して軽率な印象を与えるような人間では無かったが…。今とは比較にならない)」
彼女の意外なほど慎ましい、それでいて威厳を十分感じさせる振舞い、アラスカ戦以後の動乱と就いた役職・地位が彼女の器をより広くしたのだと察さざるを得ない。だから何なんだという話ではあるが―。
さて、彼女に続く同伴者にも目を遣る。スーツ姿の秘書官と黒服が一名ずつ。見知った顔ではないがやはりクライン派なのか、問うまでも無い、そうに決まっているから。
3人はカナーバを真中に並び終わると、私に敬礼を返し、彼らが直ったタイミングで私も手を下ろす。
敬礼が終わると、エルスマン博士はカナーバの下に歩み寄り、彼女が差し出した手を握る。二人の挨拶が済めば、今度は私から彼女に来院の謝辞を述べる。
アグネス「改めまして、今宵、カナーバ前最高評議会議長閣下にご足労を賜り、小官、特務隊アグネス・ギーベンラート、誠に光栄に存じます。閣下の最高評議会オブザーバー就任、並びに勲一等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章受勲の報、ニュースで拝見しました。心よりお慶び申し上げます」
当たり障りのない言葉を彼女は柔らかい微笑で受け止め、返事を寄こす。
カナーバ「ありがとうございます。千里の道が万里でも、お訪ねすることがこうして叶い、当職も光栄に思います。一度は下野した身では有りますが、このような私でもまたプラントと世界の為、為せることがあるのなら力を尽くしたい、そのように一心に願っています」 - 103二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 04:35:53
お互い、腫れ物に触れるかの如く丁寧に言葉を選んで話している。私がこの女に敬意を示すのは当然として、彼女の私への態度は、勲章を授けに来た故のものか。
はたまた私の背後に旧ザラ派の両親やそれに同心する者達、あるいは強硬姿勢のザフト軍人達の姿を透かし見ての事か。
正直、私は任務に忙し過ぎてパパやママと政治的相談をする間などないし、軍内で徒党を組む余力も無かったんだけれど。自分の仕事や任務を遂行しながら、派閥工作や闘争をやってのける人々は相当な傑物か変人なのだと何度も思う。サボってやってる人間は論外だが…。
アグネス「(レイもミネルバ内で議長からあれこれ指示を受けていた風もあったけれど、案の定パンクしたみたいだし。『暗躍キャラ』なんて真面目な人間には無理だわ)」
閑話休題。病院事務員が『リモート開始します』のカンペを掲げている。嫌も応もない。私とカナーバはそれを見て目線で軽く頷く。さて本会場の式次第はどうなっているのだろう?
スイッチ一つでスクリーンが灯る。
幕の向こうは最高評議会ビル、エビデンス01レプリカ前ホール。所謂『クジラ石』を背には、11名の最高評議会議員(カザエフスキー評議員はブリュッセル)と高級武官服のエザリアおば様が勢揃いしているなるほど、あそこが本会場だったのか。
対して、月軌道艦隊、ジュール隊、ビル警備隊を初め受勲者の一群は評議員と向かい合い横数列で並んでいる。パッと見るにお疲れ気味の人もいらっしゃるが、皆お元気そうで何より。
その更に後ろは広報と取材陣だ。本会場のリモート画面の位置は、評議員達と受勲者の間、縦に配置されている。
ちょうど今は、ミーアがライトナー議長代行から最高評議会議長自由勲章の授与の最中だ。戦友たちと市民の方向に向いて立った彼女の首に、議長代行が中綬をお掛けになっている。
アグネス「(大衆の前でコチコチに緊張したミーアを目にするのは初めてかも知れない…)」
それでも彼女はリモートのスクリーンが灯ったことに気が付き、視線をこちらに向けてくれる。私もベッドから自室のスクリーンを通して彼女と目線を合わし、唇で『おめでとう』を伝える。
ミーアも潤んだ目でしきりに目線で頷き返してくれる。良かったセーフ、ごちゃごちゃ挨拶合戦をしていたせいで、彼女の勲記の読み上げには間に合わなかったが、ハイライトに立ち会えたなら良し。 - 104二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 05:05:11
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
会場からそれはもう盛大な拍手が沸く。ミーアのこの上ないほど嬉しそうな表情を見て、私もすっかり安心する。でも彼女の人生はまだまだこれから、大いに励んで己の幸福を実現し、国家と社会の為、更なる勲功を上げて欲しい。
アグネス「(ちょっと上から目線過ぎるかな。うん…。共に闘っていくのだから気を付けなくては)」
ここで言う『闘う』とは何も戦争に限定されない。広く社会の課題や各々個人の人生の困難と、と言う意味ね。私達は同じ国の同種族の同世代の同性、共闘できる機会はこれからも多いはず。
さて、私にはミーアの他にも気になる人達がいる。手榴弾を踏んで吹き飛んだ際、お世話になったデモ隊の医師と看護師さん、それに私の足を拾って下さったおじさんは何処?
ああ、居たわ!司法委員会から賞を貰った人達のスペースに。リモートのこちら、私からジェスチャーをすることは躊躇われる。だから何とか視線と表情筋でお礼の意志を伝えようと試行錯誤してみる。
すると、最初に看護師さんが此方に視線で応じて下さり、彼女が他の方々にもお伝え下さったので、皆さん私に軽いジェスチャーも交えて私に何かを伝えて下さる。
アグネス「(『お元気そうで良かった』ぐらいの意味みたい。明日、お礼状を送っておかないと…。ああ、住所が分からないか。式典が終わる前に会場の受付にメールで送らないと)」
諸々、そっちのけであれこれ考えを巡らしていると、ふと自分の横顔に温かな視線が注がれていること気付く。気配の元を探ろうと急いで視線を上げるとカナーバの双眼に視線がぶつかる。
アグネス「(何見ているんだ、この女。別にあんたを無視していた訳じゃない。ほんの数秒、せいぜい十数秒の出来事よ)」
カナーバも少し気まずかったのか私から一度視線を切る。本気で戸惑うわ。今のは何だ?肌感覚では私への好意のようにも感じたが、この頑固者にそんな優し気な気持ちなど残っているものなのだろうか。
私はこの女にとって半敵対勢力の人間だぞ。何かの作戦か。分からない…。 - 105二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 11:41:22
☆
- 106二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 18:34:07
ほ
- 107二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 23:40:17
保守
- 108二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 03:58:57
アグネス「(読めないならそれでも良い。『現時点でカナーバ前議長の自分に対する感情は不明』これが答えだわ)」
目線を再びモニターに向ける。リモートで参加した形の本会場式典ではミーアがエビデンス01のレプリカを背にプラント国民に向け、短くも心のこもったスピーチを読み上げている。
アグネス「(怪しいマネージャーの内、緑服の女は逮捕・拘束され、関西弁の男も重要参考人として拘留中となっている。文章を添削したのは軍楽隊の上官か教官であろうかな)」
内容としては、冒頭はラクスへの謝罪メッセージ、ただ、これはサラッと流して深くは触れない。深く掘るといろいろ面倒なことになる。後半はプラント国民に対して、市民の団結と世界平和実現への努力の継続を訴えかけ、ミーア本人もその先頭に立つと決意表明している。
無難で大変よろしい。彼女の面の皮が厚いと陰口を叩く者もいるかもしれないが…、まあ、異議があるならラクス本人が何か言えば良い。本人も謝りたがっている。
ミーアの刑事・行政責任は両議会が免責し、民事責任はプラントが引き受けている。ラクスが慰謝料と賠償金が欲しいなら訴えれば国が払う。そもそもデュランダル最高評議会議長が公的な立場を濫用したことに起因する事件なのだから仕方のない。
彼女の居所は知りようが無いが、時効はまだまだ先なのだから、何とでもなるだろう。
アグネス「(もっとも『清廉潔白なラクス・クライン』が事情を全く知らなかった国民の税金を欲しがるとも思えないし、あの女がミーア個人に、到底負いきれない責任を追及するとも考え難い)」
故に、私個人としては、これで一旦落着かな。後は、国とラクスで好きにすればいい。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
ミーアのスピーチが観衆の拍手と共に終了する。読み終わった彼女のヘロヘロになった表情を見て安堵する。この分だとスピーチの元の元は彼女自身で書いたものだろうから。
補佐官「では続いて、現在、アプリリウス中央病院に入院中の特務隊アグネス・ギーベンラート女史へ。ルイーズ・ライトナー最高評議会議長代行から、代理として派遣されたアイリーン・カナーバ前最高評議会議長の手により『最高評議会議長自由勲章』を授与します」 - 109二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 04:13:19
スーツ姿の補佐官が式次第を読み上げると、本会場の皆さんの視線がスクリーンを通してこの病室に集中する。
これこれ!この感覚、何度体験しても悪くないわね。脳内麻薬で疲れも吹き飛んだわ!!
もう一度、威儀を正して、カナーバに向き直るとカナーバも目で頷く。それを合図に黒服副官はアタッシュケースから勲記と勲章が収められているケースを取り出し、スーツ姿の補佐官に渡す。
補佐官はそれを開き、勲記をカナーバに引き渡し準備は完了する。カナーバの口上をこうして聞くことになるとは人生分からないものだ。
カナーバ「『ザフト軍戦術統合即応本部特務隊アグネス・ギーベンラート。プラント最高評議会議長はその名において、貴女に『最高評議会議長自由勲章』を授与します。
貴女はプラント騒擾の際、救助モビルスーツ小隊の一員として、最高評議会ビル前大通り付近上空を飛行中に、ヘリコプターからの無謀な降下を強いられているミーア・キャンベル嬢の姿を目撃し、驚くべき使命感と強固な同胞愛に基づき、勇躍彼女の救出の為、モビルスーツ・ガイアのコックピットから飛翔しました。
直後、貴女は己の身にテロリストから多数の徹甲弾を浴びつつも振り落とされた彼女を受け止め、約40m下の道路に着地を遂げました。テロリストの攻撃はなお止むことなく、彼等はその場に居合わせた多数の民間人を何なら慮ることも無く、手榴弾を投擲しました。しかし貴女は臆することなく、驚異的な勇気と冷静さを以て事態に対処し、自身が身に着けていたヘルメットを手榴弾に被せ、その上に乗ることで最悪の惨禍から同胞たる文民を保護しました』」
目前で姿勢を正したカナーバは―腹が立つが―なかなか威厳がある。その上品な面立ちを見るに、若い時分、特に学生時代はさぞ注目されたことだろう。今の時代、それを口に出せば同性と言えどもセクハラになるが…。
カナーバ「『貴女は銃撃と落下、爆発により、両足を初め全身に致命傷となり得るほどの深い傷を負いました。しかし、貴女はその事態を受けてもなお、意識を失うまで、その場の市民に追加の攻撃への注意を呼びかけ続け、軍人としての任務を遂行し続けました」 - 110二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 04:28:06
今思い返しても正気の沙汰では無いわね。あの場の皆はテンションがおかしくなっていた。大馬鹿者どもめ。
カナーバ「その行いは単に軍人としての勇敢さを示すのみに止まらず、一人の国民、人間としての強い友愛精神を社会に訴えかけるに足るものです。それ故にプラント国家と市民社会防衛に対する顕著な貢献と、国民を分断しようとするあらゆる敵意から最高評議会と民主主義を守護せんとした努力に最大限の敬意を表します』ありがとうございます」
『おめでとう』ではなく『ありがとう』と来たか。文脈によるものと判断する。
アグネス「勿体なく、また畏れ多いことです」
表現を調整した上で、カナーバから差し出された勲記を受け取る。互いの視線が交錯するが、意を察するには短すぎる間だ。勲記の後は中綬章、補佐官からを受け取り私の首に掛けてくれる。
間近に彼女の体が接近するとやはりドッキリする。この戦慄きは、畏怖か、敵意か?
カナーバ「おめでとう」
アグネス「ありがとうございます」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
病室内、エルスマン博士と女性主治医、看護師さん、副官たちからの穏やかだが気持ちの籠った拍手を受ける。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチパチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
スクリーンの向こうの拍手は大袈裟なほど、まあ、悪い気はしない。素直に喜ぼう。勲章のセットの内、ミニチュアメダル、略綬、スーツやタイ着用時のアクセサリー、ラペルバッジ等は後で渡すとのこと。
補佐官「特務隊アグネス・ギーベンラート女史、改めて叙勲おめでとうございます。今回の受章を受け、何か我等と国民にお話ししたいことはありますか?」
スクリーンの先の議長代行補佐官から声を掛けていただく。
無いなら無いで『大変な名誉に存じます。以後も国家と社会の為、倦むことなく尽力します』とでも言うべきところだが、私に最高評議会が求めている役割はもう一段上のことだろう。 - 111二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 04:40:46
アグネス「はい。ルイーズ・ライトナー最高評議会議長代行閣下に置かれましては、本日、小官にこのような名誉ある賞をお授け下さり、身に余る光栄と存じます。病室までわざわざご足労いただいたアイリーン・カナーバ前最高評議会議長閣下に置かれましても、言葉を尽くせないほどの感謝をお伝えします。ありがとうございます」
ライトナー議長代行に心を込めて目礼し、次に視線を病室内のカナーバ―前議長-に戻すと心を込めた風に目礼する。
アグネス「(今日に限ってはカナーバの顔を立てることにするわ。中途半端が一番いけない。この女が気に入らないなら、代理とは言え受勲を拒否するべきだし、貰うと決めたなら―)」
お二人も目礼を返して下さり、これで私に課された役割の一つ、ライトナー議長代行政権のプラント国民に対する議長権限、全権能の継承完了通知とカナーバ前議長の最強評議会オブザーバー就任の援護射撃は達成と。
さて次のお役目は―。
アグネス「しかしながら、私の当日の振舞いは、自身のみで完結できたものでは無く、この後に式典で賞を贈られる軍民及びビル内外双方の皆様と受賞に至らずとも正義と友愛の情から当日行動した市民の皆様と共に成し得たものです。
あの日の不幸な衝突と、それに付け込んだ悪意ある者の行いを前に、多くの人が涙と―悲しいことですが―血を流しました。その流れを、我等を別つ河としては彼らの仕掛けた陥穽に陥ることになります。あの夜を越え、朝日を共に見上げた我等は既に橋を架け始めていたのです。それをより堅固なものにするべく、共に力を尽くしましょう」
これで課題その二、国民への団結の呼びかけは達成、デュランダル議長の失脚で動揺中の人心を安んずるのだ。
そして、幕の向こうの会場から少し視線を戻し、私の前で佇むカナーバの双眼に合わせる。この所作の意図を彼女が気付いたかは不明瞭だが、合図をするだけはしたのだ。そのまま、目線を再度、会場に戻す。ここで故事を引こう。
アグネス「西暦末期、1991年3月1日、マリー・テレーズ・ロッシ・ケイトン少佐は湾岸戦争の停戦合意の翌日に殉職なされました。彼女はアメリカ史上、女性パイロットとして初めて戦闘任務に就いた方であり、一つの有名なお言葉を後世に残されています」 - 112二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 04:50:05
アグネス「『私がしていることは、私の隣や後ろを飛んでいる人よりも大きくも小さくもありません』。しかし、その示す所は勿論、字句通りのものだけでは無かったでしょう」
女性の軍隊参加、ひいては社会参画がまだまだだった時代、先人は大変なご苦労をなされた。しかし私はC.E.に生きている。ならば彼女の言葉をもう少し広義に解釈して用いよう。
アグネス「そして、ケントン少佐のずっと後輩である私にも、一緒に翼を組んで飛ぶ戦友たちが居ます。宇宙であれ、大気圏下であれ、一度、戦場で編隊を作り敵前を飛べば、右翼を飛ぶ人がどの様な社会階層の出身か、左翼を飛ぶ者がどの様な政治意見を持っているか、気にする余裕はありませんし、必要もありません。ただ共に戦い抜き、生死を共にするのみです」
これは比喩、危機の時代だからこそ、国家は国民全体を包摂する努力を放棄するべきではない。
『だから旧ザラ派も―カナーバがオブザーバーに加わって腹が立つだろうけれども―ライトナー代行政権に協力しましょう』と。エザリアおば様も政権参加しているのだから。
さてここから、まとめ。『言質を取られない範囲で』これが一番大事だわ。
アグネス「振返るにこの騒擾に立ち会った人々の中にも、様々な政治的お立場、種族と民族がいらっしゃり、各々、真剣にプラントの明日を憂いていらしたことと存じます。それならば、我等は皆、紛れもなく同じ編隊の戦友・同志と言えましょう。
大空を羽ばたく渡り鳥の群れにはリーダーは居てもボスは居ないものと聞きます。まして我等は選ばれし民。同胞同士、足の引っ張り合いや同士討ちに興じることなく、嵐の宙を乗り切りたい、そして、今日の受勲を一つの励みにまた国家と軍に奉仕したい。それが私の切なる願いです」
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチパチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!!
やったわ。本会場の反応は上々ね。列席なされている評議会メンバーのご反応も悪くはなさそう。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ!
一方の病室内の皆様もカナーバを含め、心のこもった拍手をして下さる。ただカナーバの表情、私への好意と感謝の念と共にちょっとした警戒感が見て取れる。 - 113二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 07:43:29
こう言うの見るとアグネスもやっぱりエリートなんだなって
- 114二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 14:12:44
果たしてアグネスは歩けるのだろうか…?
- 115二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 22:07:52
保守
- 116二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 01:25:43
保守
- 117二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 03:54:45
しかし、ここで睨めっこをしても意味は無いし、大人げない。そう判断したのだろう。彼女は私に向け右手を差し出し、私もその手をそっと握る。
カナーバ「貴女の決意に敬意を」
アグネス「光栄です」
カナーバは女性らしい控えめな力加減で丁寧に私の手を握り返してくる。私達二人の握手を見たエルスマン博士がほっと一息ついた事が、空気の振動で伝わる。
アグネス「(博士に大変なご心配をお掛けしてしまったわ。うーん、やっぱり何でもかんでも全ては上手く行かない)」
しかしカナーバのこの反応はある程度、想定内のもの。この女は私が持ち出した『渡り鳥の群れ』の喩えの含意を察したのだ。
【V字型飛行をする渡り鳥は、仲間の鳥の羽搏きにより発生する上昇気流の恩恵を受け飛行する。その際、最も過酷なポジションとなるのは先頭の鳥、故に彼等は交代で先頭に立つことで体力を消耗し尽くす個体が出ないようにしている。よって渡り鳥の群れにはその時々の先導者(リーダー)は居ても、長(ボス)はいないとされる】」
その生態を引き合いに、私は国難の渦中にいる国民に団結と協力を呼び掛けた―のは本心の半分-表面だ。裏側、もう半分の意味は、クライン派の天下を容認しない旧ザラ派と中立派に向けたメッセージ、その意味はこうだ。
『今、クライン派と協力することは、ザラ派所縁の貴方(貴女)の為にもなる。国論の分裂を防ぎ国益を守るのみではない。何れクライン派が疲弊し、襤褸を出す時も来るだろう。我等はその期を逃さず合法的かつ平和裏に政権交代と実権掌握を図れば良い』
『プラントに【王】は必要ない。クライン派+α内の大部分がラクス・クラインに寄せる崇敬の念は既に過度なもの。もしそれ以上となれば当然、強烈な非難を浴びて然るべき。この建前を貫徹することはカリスマ的指導者不在の旧ザラ派の利益でもある』
カナーバの意味ありげな視線は、この二つのシグナルを読み取ってのもの。彼女が先程から私に向ける注意深い眼差し、受け止め続けるのは中々、骨が折れる。その紫色の瞳に私の青い光彩が映り込み、瞬く様子まで観察できる。
気まずい。
アグネス「(でも仕方ない。私とて身内から裏切者扱いされたくはないし、派閥内で両親を孤立させるわけにもいかない)」 - 118二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 04:27:28
ただ、私の『裏の裏』の本心はまた別のもの。まだ、エザリアおば様どころかパパとママにも話していない思いの表明でもある。
そう『先頭を飛ぶ鳥は疲れ果てる』のだ。適切なタイミングで、交代しなければ自身と群れに多大な被害を及ぼす。
人の集団の中とて同じこと、先ほどのメッセージを一歩進めれば当然の道理として。
故に健全な理想を言うのであれば、旧ザラ派が失政・失態を犯せば、今度は選挙を主として党と軍内人事によりクライン派が巻き返す。その後、返り咲いたクライン派にもきっと、また同じことが起きる。その時は旧ザラ派が―と。
アグネス「(そうして、両派閥が『合法的かつ公然と』内政・外交(軍事)両面で切磋琢磨していけば―。今までのようなクーデターの応酬による政争を脱却して、自由条約黄道同盟の【党内二大政党】のような存在に変化していけるのではないか)」
そして、それは単一政党制を採用している我が国の民主主義を充足するに資するはず。
私は両派閥の範囲や顔触れを完全には把握していないが―。
体感的に旧ザラ派の人は愛国心旺盛で家族を大切にする者が多いように思う。実際、陰謀は企めども『私腹を肥やしてやろう』とか『性的に過度にだらしない』者を私は知らない。過激分子をパージするか、どうにか説得出来ればプラント政界において、良き保守勢力に成れると思うのだ。
一方、クライン派はいい加減、国際機関ごっこを辞めて欲しい。それを志すなら国を通してからにするべき。
アグネス「(何より、絶滅戦争と化した前大戦末期は別として、戦時中にこそこそとラブ・&・ピースされると頭が沸騰しそうになるわ!自国を第一に考えられない連中はやはり政権中枢から叩き出しておかなければ!)」
ただ、私の『両派閥を合法的かつ公然とした、党内二大政党に』なんて考えは完全にフライングもの。果たしたら『分党行為』として糾弾されかねない。
今の所、単なる夢想だ。当然、カナーバも知った事では無いだろう。
そもそもザラ派、クライン派、中立派と云うのは便宜上のもので特に組織立っている訳でもなく、誰がそれと確定している訳でもないのだ。ただプラントは若い国、将来の国体の在り方を真剣に考える時が遠からず来るはず。
だがそれも今日の所は『行く行くは』。自分の務めを果たそう。本会場の議長代行補佐官は式を粛々と進めている。 - 119二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 04:37:29
私とミーアに続くのは最高評議会議長市民勲章の受章者の方達だ。
気になっていた期間雇用清掃員の方もご出席されている。真面目そうなナチュラル顔、その表情は半分は喜び、半分は…恐怖で強張っている。それ目にした瞬間、思わず心臓がギュッとする。
アグネス「(おそらくコーディネイター国民とナチュラル国民双方の妬みを買うのを警戒してのものだわ。国内融和の配慮が仇となり、人一人の人生を破壊することになれば…)」
無論、取り越し苦労になることを切に願うけれど!そんな馬鹿げた行いは断固、排撃せねば。あらゆる政治的コストを用いても!私自身の持てる力も必要なら投入して…。
カナーバ「…」
あれ?カナーバ、今まで睨みつけていたくせに、何か微笑みかけられた…。何よ、こいつ?
その意味を理解する暇も無い。張り詰めていた緊張が遂に途切れ、頭蓋骨内での脳内麻薬は効果を失う。視界には早々に霧が立ち込めている。
タッド・エルスマン「カナーバ前議長、そろそろ患者を休ませたいのですが?」
ここが頃合いと見たエルスマン博士が、『最高評議会議長の名における』叙勲が終了した所でカナーバに声を掛けて下さった。
しかし!弱みを見せてたまるか!左手の掌屈運動を10回繰り返し、両足も気合で左右に5回揺らして、脳髄に雷撃を直撃させ、意識をどうにか覚醒させる。
私が踏ん張りを利かせる中、カナーバはリモート先の司会進行に手短に事情を伝えている。元から私の参列は短時間と決まっていたこともあり、話はスムーズに進む。
その間に私はベッドの中で姿勢を正し、表情に力を込める。
議長代行補佐官「承知しました。特務隊アグネス・ギーベンラート女史、お怪我の癒えぬ中、当式典にご参加くださり誠にありがとうございます。ご回復を心より祈念いたします」
アグネス「恐れ多いことです。本来は最後まで参加するべき所、ご無礼致します。僭越ながら皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます」
補佐官殿にお返事をお伝えしながら、会場の皆様に視線を配り、敬礼して見せる。同時に病院事務員さんがリモートを切り、かくして私は気苦労が多い式典からようやく解放されたのだった。
アグネス「(いや、言う程解放されていないかな。病室の中にまだカナーバ一行が居るし)」 - 120二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 07:27:22
先頭を飛ぶ鳥は疲れ果てる…
ザフトで言えばグラディス艦長、パイロット組ではアグネスがそうなってるんだよな…
アスランは交代できるか怪しいし…
ハイネーっ!
早く来てくれーっ! - 121二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 14:23:17
アークエンジェルのようなワンオペはNG
- 122二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 21:27:51
保守
- 123二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 00:31:31
保守
- 124二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 03:31:07
ただ、この流れで長居をするという話にはならない。カナーバの副官たちは中綬章以外の勲章セットを看護師さんに引き渡している。
カナーバ本人はそれを横目に、さりげない仕草で青服のポケットから名刺入れを取り出し、一枚抜き取る。
カナーバ「今日はよく頑張ってくれた。どうぞ」
アグネス「ありがとうございます」
彼女の口調は既に式典モードから中性的な通常モードに移行している。メリハリがあってよろしい。この方が私もやりやすいと言うもの。
彼女が丁寧な所作で差し出した名刺を私も同じ様に丁重に受け取る。左手が何とか動いて良かった。ただ問題もある。
アグネス「誠に申し訳ありませんが、今、名刺の持ち合わせが無く…」
カナーバ「入院中の事、気に病むことは無い。後日、私の事務所を訪ねた時にでも。貴女をお待ちしている。いろいろお話をお聞かせ願いたいこともある。今日は、無理を押しての公務、本当にご苦労であった」
アグネス「恐縮です」
それを最後の挨拶として、彼女は踵を返す―いや、返そうとして、思い直したように振り返る。何かを決心したような表情だ。
カナーバ「特務隊アグネス・ギーベンラート、貴女はコーディネイターとナチュラル、双方の溝と将来についてどのように考えている?公式な質問では無いから、変に気負わなくて良い。今の段階での貴女の考えを。この戦争に向き合う同志として純粋に知りたい」
単刀直入、去り際にとんでもない爆弾を投げつけて来やがったわ!それ今聞く?エルスマン博士も近くにいる中で?
アグネス「(『踏み絵』か『試金石』か、はたまた自派との距離感を測るためのものか?)」
それとも、よくある『其方は天下をどう思うか』的なざっくりとしたものだろうか。
何方にせよ、カナーバは言葉を選びながら慎重に私に問いかける。
カナーバ「故シーゲル・クライン議長は『命は生まれ出るものであり、造り出す物ではない』と仰っていたと伝え聞く。故議長は『あくまで仮の話として』、自然への回帰という【思考実験】も為されたとも、おぼろげに。無論、私はその言葉を無批判に受け入れるとは言っていない」
アグネス「…」
大きく振りかぶられたわね。腹を割ってくれたともいえるのか。 - 125二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 03:46:16
それにしても、あの男、やはり禄でも無かったわね。殉教者に成れた幸運を神に感謝すると良いわ…流石に言い過ぎか、人類全員の恩人でも有る。ごめんなさい。
アグネス「(何にせよ。噓偽りを述べても見抜かれる。どうせなら本心をぶつけて遣ろう)」
相手が本気でボールを投げたなら、キャッチして全力で投げ返すのが礼儀というもの。彼女の言う同志として誠実に。
アグネス「同志アイリーン・カナーバにお答えします。故クライン議長のお言葉を頭ごなしに否定することは私の本意ではありません。しかし彼が『生まれ出る命』と『創り出された命』を峻別した事に関して私は同意できません。まして自然(ナチュラル)への回帰などと!」
私が言葉を発すると、カナーバの両目には早くも失望の影が横切る。危うい、早くも決別か!?『ああ。やはりこいつはこんなものか』みたいな反応、腹が立つわ!
まあ、元より政敵(仮)止む無し。だが、せっかくの縁だ。言葉を尽くして存念を伝えよう。
アグネス「かつて神は天地を六日で『創造』し、七日目にお造りになった全てのものをご覧になり、このように仰いました。『見よ、それは極めて良かった』と。
神様は世界の全存在を揺ぎ無く肯定して下さっているのです。どうして『生まれ出でた』とか『造られた』とか、一個人が自国民の同意さえなく区分けし得るのか?既に『造られ産まれ出でた人』がその言葉を又聞きで知ればどんな気持ちになる事か!」
これは枕詞、カナーバは名前からして私と同じキリスト教文化圏に所縁があるはずだが、もし彼女が他宗教の信徒か無神論者でも喩えとして聞けばいい。
アグネス「さて、『もし創造主の被造物がまた被造物を生みだしたら、それは神がお造りになった自然から遊離した存在になるのか?』とんでもないことです。彼らに知性と理性と自由意思をお授けに成られた父の力があってこそ、巡って回りコーディネイターという新種族が生じたまでのことです。
彼・彼女もまた主がお造りになられた天然自然の一部に他なりません。云わば我等は『最先端の自然(ナチュラル)』なのです。逆戻りする必要も理由も、その場所も存在しないでしょう。我等が弛まず歩む先にこそ、新たなる故郷があります。それ以外、何処に回帰しようというのか!」 - 126二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 03:59:18
そこまで話してみると、カナーバの目に少し光が戻ってくる。『彼・彼女もまた天然自然の一部』、物は言いようだけれど、効果は抜群だったみたい。このまま畳みかける!
アグネス「人は進む、常により良き明日を求めて、神からの賜物たる自由意思に促されて。その先に進歩と幸福が有るからです。自らの意志で進化し続ける我等こそ、人類の新たな導き手に相応しい。その役割を果たすべきなのです。これまでとて決して平坦な道のりではなかった、今度もまた、叡知を結集して乗り越える、ただそれだけです」
以上、コーディネイターの将来についての答え。ただ…、ここで話すつもりはないが―。
アグネス「(絶対口には出さないけれど、もし―万難を排すべく努力してそれでも―『第三世代コーディネイターの出生率問題が解決しない』事態となれば。計算と選別をした上で、『ナチュラルの上澄み』の人達の遺伝子を取り込む(雑婚する)ことも選択肢として挙げなくてはならない、かも知れない…)」
そもそも現生人類にもネアンデルタール人やデニソワ人等、旧人類の遺伝子が1~4%入っている。私やカナーバの虹彩を青みがかったものにしている遺伝子も、血の薄いご先祖様から受け取ったもの。
彼ら彼女らが褥を共にしなければ、私達の目の色は違ったものとなっていただろう。
アグネス「(それを思えば、最悪、それぐらいまでなら是認するべきかも、将来の政策の一つの在り様として。『両性の同意と平等』を大前提とし、政府主導でマッチングと見合いパーティーを主催するとか。もっとも私自身は夫をナチュラルから選ぶのは絶対、嫌だけれど)」
まあ、今の所は、それこそ思考実験の中の仮定に過ぎない。将来の話だ。では、残りのナチュラルの将来と溝とやらについてはどう答えたものか。
アグネス「我らコーディネイターが人類文明を進化させれば、まるで荒野を進む旅人が先人の足跡の恩恵を受けるが如く、続く旧人類すなわちナチュラルの為にもなるでしょう。
そこに本来、溝などあるはずもありません。一部の、見当違いの妬みから思い違いをしている者共を諫め、不正不当不法な企みで私達を背後から刺そうとする連中に天の鉄槌を下す、それが結局、解決の早道でしょう」
自分で話して何だけれど、少し観念的すぎるかな。 - 127二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 04:11:06
案の定、カナーバの瞳には揺らぎが見て取れる。私の人物評に何点着けるか迷っているのね、多分。確かにもう少し、現実的な話をしなければこの女とて困るだろう。
アグネス「現実的には地球の政財界からロゴスの影響を一掃すること、新たな国際機構の創設、効力を失ったユニウス条約に代わる包括的ないし個別の新条約の締結。ブルーコスモスの撲滅、これらを目指すべきではありませんか?」
敢えて末尾は疑問形にして話を終える。私ばかり話して、もうくたくただ。いい加減、前議長殿は帰って欲しい。
カナーバ「…興味深い意見だ。ありがとう。その点に関しては後日にまた話そう。長居して済まない」
アグネス「とんでもない。愚見をお聞きくださり恐縮の極みです」
カナーバ「…どうかお大事に、おやすみなさい。同志」
アグネス「はい」 ビシッ!
威を正し、しっかりした動作で敬礼する。一応、最後まで『同志として意見を知りたい』という建前を守ってくれた彼女への敬意だ。それを合図に周囲の皆も姿勢を一度に正す。
カナーバも私を待たせることなく文民式の敬礼を返して、そのままお着きの者達に目配せしつつ退出していく。
彼女の存在感が消えると病室に不思議な静寂が訪れる。副官たちが出ればまるで伽藍洞だ。
私の手元にはポツンと彼女の名刺、約束した以上、後日、カナーバのオフィスを訪問しなければいけない―。
看護師「はぁ~あ。アグネスさん、お疲れ様です。本当に緊張しましたね」
看護師さんの長閑な声を皮切りに私にやっと現実が戻ってくる。
タッド・エルスマン「良く頑張った。疲れただろう」
女性主治医・事務員「叙勲、おめでとうございます!」
病院スタッフたちが一斉に祝意をお伝え下さる。皆、途中からその場の空気に呑まれていらした。エルスマン博士の場合、ご自身がコーディネイターという種族の根幹を担っていらっしゃる都合上、口を出し辛かったのだろう。
アグネス「(博士の表情をお見受けするに、私の返答を快く思って下さっているみたいだわ)」 - 128二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 04:17:58
我が種族の在り様を擁護して話した以上、当たり前か。あれが私の本心でも有るし。
アグネス「看護師さん。申し訳ありませんが、デバイスを取ってくださいますか。大通りで助けて下さった方達にお礼状を送信しないと…」
看護師「その前に佩用している勲章を外さないと、ああ、泥棒が出ないよう、当院のセキュリティーは万全です」
アグネス「そこは信頼しています」
事務員さん達はリモート機材を纏め、私と挨拶を交わし退出していく。エルスマン博士も明日の午前の回診の時刻を告げてご退出、残りは女性主治医と看護師さんだ。
女性主治医「睡眠薬を処方しました。今、飲んでください」
アグネス「今!?はい」
余計なことをしないか既に警戒されているみたい。起き抜けの無茶が原因か。
幸い、勲章は無事取り外されている。貰ったばかりのそれらを看護師さんはおっかなびっくりしながらケースに収納して下さっている。
ミネラルウォーターで薬をゴブゴブ飲みつつ、脳内でお礼状の文面を添削。コップを置くや看護師さんが寄せてくれたデバイスを起動、カタカタ、キーボードを両手で叩く。
そう、両手、軽いリハビリ代わり。心を込めつつ、礼儀を守ってギュッと文面は凝縮、短すぎても長すぎてもいけないのだから、何度書いても難しいものだ。
看護師「送信、終わりましたか?」
アグネス「はい」
女性主治医「では夜更かしせず、寝ましょう。目を閉じて、そろそろ効いてきたのでは」
言われた通りに瞼を閉じる。カナーバが最後に爆弾を投げつけてきたせいで頭が冴えて…しま…た―。
看護師「おやすみなさい、アグネスさん」
アグネス「おやすみなさい」
メイリンの隣で寝た時を思い起こさせる声、毛布を掛け直される感覚をくすぐったく思いながら、私の意識は薄明りの中に呑まれていった。 - 129二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 08:17:40
レイはあれは完全に弟ですね
- 130二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 14:10:39
カナーバポイント10000000進呈します
- 131二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 14:15:23
前の大戦のように地球を滅ぼそうとか捕虜を取らないで撃つとかをどんどん旧ザラ派がやめていってくれればテーブルには乗れる
- 132二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 18:45:13
アグネスが妥協案として考えてる「ナチュラルの上澄み」との婚姻だけれど
上澄み(アグネス視点だと多分基準が激高)は出生率を維持できるほど数が居るのかという問題と、上澄みが居たとしても嫁ぎに来てくれるのかという問題が… - 133二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 18:48:45
- 134二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 18:50:19
このスレのレイの方はアグネスにクソデカ感情持ってそう
- 135二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 18:51:28
シン(ナチュラルやコーディネの枠を超えた山猿)
- 136二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 23:46:52
保守
- 137二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 02:56:41
看護師「おはようございます、アグネスさん」
深海に沈んでいた私の意識が、看護師さんの呼びかけで急浮上する。
アグネス「おはよう…ございます?」
何故か疑問形、でも仕方ない。昨日いろいろ有り過ぎたせいか、本当に実感が湧かなのだから。
看護師「はい。おはようございます。ご気分はどうですか?」
アグネス「あまり休めた気がしません。でもよく眠れたと思います」
看護師「良かった。じゃあ、朝食前に一通りの検査をしましょうね。洗面器をお持ちすればお顔は洗えそうですか?」
顔洗いか…。どうだろう。左腕次第かな。
アグネス「左腕を試しに動かしてもよろしいですか?その…昨日の可動域限界ギリギリまで」
看護師「チャレンジですね。どうぞ。そう言付かってきました」
話が早くて何より。さて、夜、寝ている間にどこまで回復したのか。万能細胞と電気絆創膏の力、信じるわよ。
まず、左掌を上にして高さは肩と水平に、身体の前方に向け真直ぐ伸ばしてみる。これは普通に出来た。痛みも特にない。そこから更に二の腕の下の筋肉を使ってさらに目一杯伸ばす。
すると、左腕に冬場の静電気を喰らったような痛みが走る。ここまでが限界か。比較の為に右腕も伸ばしてみる。すると伸ばせた長さ事態はほぼ同じ。確実に良くなってきている。
アグネス「手の甲を上に向けてもよろしいでしょうか?」
看護師「うーん、先生には内緒ですよ。ゆっくり労わりながらなら。どうぞ」
アグネス「ありがとうございます」
右手は下げ左腕の力を緩める。そうして腕をその位置でキープしたまま、180度時計回りにゆっくり回転させる。
だいたい120度を過ぎた辺りで冬場の静電気を受けたかのような感覚、激痛と言う程ではないので150度まで進める。そこまでになると電撃のような痛みを覚える。160度ここまでで一旦、終了。 - 138二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 03:05:27
次は別の方にも動かしてみたい。看護師さんに目で合図してOKサインをいただく。
良し。左手を体側に沿って下ろし掌は上に。ゆっくり反時計回りに手を上げて行く。左手が耳の後ろをすんなり通過して更に後ろに倒せるのを見て安堵する。
アグネス「手の甲を上にして試してもよろしいですか?」
看護師「内緒、内緒ですよ。無理しない事」
アグネス「はい」
もう一度、左手を体側に沿って下ろす。手の向きを回転させ甲を上に、そのまま同じく体側に沿ってゆっくり上げる。やがて左耳の直前でビリビリし出すが、もう少し頑張ると腕は遂に耳の後ろ横の位置まで達する。
アグネス「はぁ…」
看護師「凄い!頑張りましたね」
左腕はもうくたくただ。下ろして力をスッと抜く。同時に想像以上の回復への喜びに胸の内が満たされる。
アグネス「ベッドの背を自分で起こしてもよろしいですか?」
看護師「ゆっくり。痛かったり気持ち悪くなったら止めて下さいね」
これもOKと。それではとコントローラーを片手で操作し、ご注意を受けたように背中の角度をゆっくり上げて行く。
アグネス「(昨日の有様ではとても車椅子は無理だったわ。でも今朝は?ある程度まで上げられるならリクライニング車椅子を使用できる)」
角度135度…120度…110度、まだ痛みはない。もう一段、目指せ100度。
アグネス「痛ッ!」
看護師「はい止め。105度、頑張りましたね。直ぐに普通に座れるようになりますよ」
アグネス「リクライニング車椅子に乗れますか?電動の物は…」
意気込んで質問すると、彼女は困ったような顔になる。 - 139二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 03:11:04
看護師「先生に訊いてみましょうね。でも電動は未だ危ないかも。行く先が有ればちゃんと私達が付き合いますから。今日も公務のご連絡が病院に届いていますし」
アグネス「…初耳です。どのような用件かご存知ならお伝えください」
別に任務から逃げようというのではない。ただ傷病休暇と言いながらまったく気が休まらないのも考え物だ。せめて前日には伝えて欲しい。
看護師「実は昨日、アグネスさんがお休みになってから。ファウンデーション王国のトラドール国務秘書官が帰任前にガルナハン戦に参加したミネルバのメンバーに栄典を授けるのだとか。戦死なされた方達も勿論含め。自国を含む西ユーラシア、特に黒海・コーカサス・カスピ海沿岸地方の諸民族解放の功を賞してのものだそうです」
やはりトラドール国務秘書官殿の能力は常人離れしたものと言わざるを得ない。昨日一日中、相手のホームで難しい交渉を果たしたばかりだというのに。
看護師「でもどうして今?ああ…答えられないなら聞き流して下さいね。ガルナハン解放と王国独立から数か月たっているから気になって」
アグネス「…」
あの時のザフトにとってファウンデーション王国の独立は寝耳に水ではあったが、事実として私達はコーカサスと黒海を駆け回りユーラシア連邦(地球連合軍)を駆逐して回った。デュランダル議長は内心で西ユーラシア地帯の撹乱、あわよくば独立ラッシュを企図していた節がありファウンデーション王国とコネクションが存在した可能性も高い。
それをファウンデーション王国民含めた諸民族解放の功労と言えばそうなのだろう。
アグネス「(勿論、これは表向きの理由、裏がある。気の好い看護師さんにどこまで話して良いか迷うわ。大規模軍事援助の事は勿論ダメ。でも彼女も納税者として知る権利はある。)」
良くしてもらっていることだし―。
アグネス「私の話せる範囲でよろしければ。彼女らはプラント国民及びザフト軍内の憤懣が高まることを危惧しているのかと思います。我々に『感謝が無い!』と思われたら彼女達はゲームセットです。故に独立戦争の『間接的援軍』であり戦死者も出したミネルバを叙勲して世間の歓心を得たいのかと」
彼女達がプラントの追加援助を受ける為には、皺寄せが行くプラント国民とザフト軍の支持が欠かせない。 - 140二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 07:12:08
きな臭い
- 141二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 15:12:02
☆
- 142二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 21:19:39
保守
- 143二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 03:44:05
アグネス「故にトラドール国務秘書-より正確には彼女を派遣した―オルフェ宰相の目的は明白です。これは王国が仕掛けた対プラント外交工作の総仕上げなのでしょう。古今東西、『血を流した者たちに報いる』という行為は人の琴線に一番触れるもの。ガルナハン解放戦の戦死者ご遺族には私より先にご連絡が入っていたはず」
看護師「ああ…。なるほど、って!要はもっと支援寄こせってことですか?」
看護師さんは納得すると同時に早速不満を漏らしている。ファウンデーション王国の独立と建国に際しプラントが拠出して来た莫大な援助を思えば当然の反応ではあるが…。
アグネス「(国防委員会直属の身である以上、フォローしないといけないわね)」
アグネス「どうかご容赦を。中央アジアと南ロシアの戦線はファウンデーション王国なくしては立ち行きません。あの一帯はファントムペインとブルーコスモス系武装勢力の巣窟。王国を支援することは我等の安全保障上、欠かせないのです」
私としてもあんな怪しい国から叙勲されても有難味が無い。ジョチ・ウルス以来の伝統を引き継ぐ国と言えば聞こえは良いが…もう言うまい。
看護師「それは…分かっていますが。アグネスさんもバレルさんも万全な体調とは言えないのに」
アグネス「そうか、ガルナハン戦の叙勲だからレイも参加するのですね?」
看護師「はい。もう!」
これは思いもかけない事、昨日の『明日も会おう』の約束が手早く果たせるとすれば悪くはないのかも知れない。
思えばトラドール国務秘書官と私達は何かと縁がある。ファウンデーション王国の実態と現政権の意向を探る良い機会としたいものだわ。
看護師さんのお話しによると式典自体は10時30分から。私とレイは身体への負荷を考えて途中参加が許可されているとのこと。
今日の公務について教えていただいた後は自分で顔を洗う。お湯が入った洗面器を受け取り、バチャバチャ。
ふんわりしたタオルで雫を拭きとるのがこれほど気持ちの良いものだとは!
その後は病室のベッドからストレッチャーに移され、病院の彼方此方をたらい回しにされる。各種バイタルチェック、レントゲン、MRI、超音波検査、血液検査その他、朝食前に疲れ切ってしまいそうだわ。
キュルキュルキュ、キュルキュルキュ。私の頭はグルグル…。 - 144二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 03:52:06
アグネス「(目が回る…。お腹が空いたわ。人間現金なもの。国がどうだとか何だとか言ってもお腹は空く…)」
でもここは辛抱し所だ。検査自体は西暦時代と比べればずっと短時間で済むようになっているのだから。ご先祖様に笑われるわけには行かないわ。
そうして約1時間半の病院大冒険を乗り切り、ヘロヘロになって自室に辿り着く。
看護師「アグネスさん、頑張りましたね。直ぐに朝ごはんをお持ちしますね」
アグネス「…ありがとうございます」
空腹時の検査結果が欲しかったらしく、ミネラルウォーター以外口に出来なかった…。これでやっと解放されるわ。朝食を待つ間、昨日お貸しいただいたリハビリ用グリップで掌屈運動を100回。もう痛みは感じない。
看護師「今日はフランスパンとベーコンエッグと牛乳の形をした特別合成病院食です。味もそっくりですよ。お薬は食後に。毎回、お怪我の治り具合を見ながら成分を微調整していますので安心してください」
アグネス「本当にお世話をお掛けします」
看護師「いえいえ」
食事の後はエルスマン博士と主治医の回診、小さいハンマーで身体のあちこちを軽く叩かれてしまう。原始的方法を用いないと診えない事もあるのだとか。
タッド・エルスマン「ふむ。電動アシスト機能付きリクライニング車椅子を許可しよう。式典の為の外出許可も。ただしこの病院の看護師同伴だ。左肩の裂傷は今日の午後には全快する。しかし『病み上がり』、調子に乗って動かし過ぎないように。骨折に関しては鎖骨、肋骨の大部分と左足の一部がリモデリング期に、右足は修復期に入った。大事にするように」
スムーズな回復に我がことながら吃驚してしまう。筋肉と血管、神経の回復も急速に進んでいるとのこと。
アグネス「ありがとうございます。それと…ガルナハン戦以外の戦場で命を落とした方々のお墓参りもしたいのですが…。それと国防委員会へ大至急上申しなければいけない事も。思い出しまして」
さっきまで傷病休暇を台無しにされたことを迷惑がりながら、今度は自分が仕事に手を着けようとする。我ながら矛盾していると自覚しているが、戦友と自分の命が掛かっている事なので止む無し。
タッド・エルスマン「お墓参りの件に関しては許可しよう。国防委員会については…そうだな。短時間で心身に負荷を掛けないなら。ただし短時間に」 - 145二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 04:01:23
アグネス「承知しました。本当に手短に済むお話しなので」
タッド・エルスマン「よろしい」
博士と私の遣り取りを耳にした女性主治医と看護師さんは気を利かせて退出して下さる。博士も追って退出、去り際に目線でくれぐれもと念を押される。勿論、私も自分を虐めたいわけでは無い。了解のサインを目で発して彼を見送る。
さて病室に一人、業務用デバイスを起動して国防委員会直通の秘匿回線を繋ぐ。誰が出るか。副官でも良いが出来れば4人衆の何方かだと助かるのだけれど…。
ユーリ・アマルフィ「うん?このチャンネルは…」
エザリア「あら…」
アグネス「!」
モニターの向こうにいらしたのは思いも掛けなかった方々。エザリアおば様とアマルフィ元評議員、お二人とも紫服。黒服の副官が各々1名ずつ付いていらっしゃる。旧ザラ派の同窓会会場かな。
ともあれ反射的に敬礼し、お二人の返礼を待ってご挨拶をお伝えする。
アグネス「おはようございます。ジュール元最高評議会議員閣下、アマルフィ元最高評議会議員閣下。国防委員会に取り急ぎ上申したい件がございましてご連絡申し上げました」
私は驚愕ものだけれど。お二人も驚いていらっしゃる。
エザリア「そうか。ご苦労。クラーゼク国防委員も隣室に居られる。お呼びするから待ちなさい」
今日はさほど大掛かりな話をするつもりはなかったのだが…そんなことを口にすれば張り倒されそう。エザリアおば様はお仕事モードの凛としたご口調だ。この方は相手と場によりこ態度が一変するから要注意。
アグネス「ありがとうございます」
一方のアマルフィ元評議員は私の顔を見て労りの念をいっぱいに浮かべて下さっている。
ユーリ・アマルフィ「ギーベンラート嬢、おはよう。何時以来かな。お久しぶり」
アグネス「ご無沙汰しております。閣下。国防委員会にご復帰なされたのですか?」
ユーリ・アマルフィ「ああ、ミセス・ジュールとご一緒に。オブザーバーのようなものだ」 - 146二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 04:28:11
この御仁は故ニコル先輩の父君にして工学エンジニア、ニュートロンジャマ―キャンセラーの開発者。本当にお久しぶりだ。野に埋もれたままにするには惜しいお方。本当に良かったわ。
アグネス「お二人とも国防委員会ご復帰、おめでとうございます」
ユーリ・アマルフィ「ありがとう。君も受勲、おめでとう」、エザリア「その忠勇に感謝を」
アグネス「恐縮です」
しかし意外なようなそうでもないような顔触れ。アマルフィ元評議員は元を正せばクライン派、カナーバとの距離感はどのようなものだろう。あの女はラクスの行方は知らない様子だった。
アグネス「(誰が何処まで繋がっているのか…。迷うわ)」
まあ、彼が善意の人であることだけははっきりしている。エザリアおば様も言うまでもない。プラントに害を為す振舞いを為されるわけも無いのだから、そこは安心して接すれば良い。
クラーゼク「おお…。ギーベンラート嬢、ずいぶんと見違えたな。おはよう」
アグネス「おはようございます」
黒服副官に呼ばれて入室して来たクラーゼク国防委員と敬礼を交わす。お三方が椅子にお座りになるまで待機だ。
クラーゼク「それで朝一番にどうしたね。君はまだ全快という訳にはいかないのだろう?」
アグネス「はい。誠に勝手ながら長時間は…。しかし戦友たちの命にも関わることなので緊急に。『特務隊アグネス・ギーベンラートは進言いたします。ZGMF-X31Sアビスの武装であるMX-RQB51・ビームランスを量産するべきと。無論、量産と言っても限界があることは承知しています。しかし可能な限りは。そして製造できたビームランスは他のセカンドステージシリーズ、サードステージシリーズ及び任務によりニューミレニアムシリーズに配備するべきと思案します』」
『MX-RQB516ビームランス』。デスティニーに乗って来たレイをボコボコにした武装だ。
ビーム刃と実体刃を複合装備させた槍状装備。実体剣部を先端に備え使い勝手が良い装備だが、ここで注目すべきは柄部分に対ビームコーティングがされている事。我が軍の対艦刀の大部分は対ビームコーティングが施されていない。
ユーリ・アマルフィ「なるほど。件の対ビーム無効化装甲装備モビルスーツを相手取るには対艦刀の装備が不可欠となるだろう。グフ・イグナイテッドのテンペスト・ビームソード等でもその任には耐えるが―ただ」 - 147二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 04:51:26
エザリア「問題はもう一つ。『紛失』したデスティニー、より具体的に言えば攻守一体の武装『MX235ソリドゥス・フルゴール ビームシールド発生装置』だな。あの機体がもし敵対勢力の手に渡っていれば此方の攻撃の大部分が無効化されてしまう」
話が早くて助かる。やはり彼女達も対ビーム無効化装甲装備モビルスーツの存在とコンクルーダーズ用デスティニー紛失事件はご存知なのね。
ユーリ・アマルフィ「しかしあの武装は対ビームコーティングされた物体を透過してしまう弱点がある。アビスのビームランスなら質量兵器として機体にダイレクトに打突を加えることが出来る。ニューミレニアムシリーズの対ビームコーティングシールドの打突用スパイクでも同様のことが出来るが…」
理解が早い。既に誰かが上申済みだったのかな。それともお二人ご自身のご見識に基づいたもので対策を練られている最中だったのか。
アグネス「これは一パイロットとしての意見ですが。ビームランスの間合いを取れるという強みは代えがたいもの。ザクやグフの対ビームシールドの突起も有用な武器ですが肉薄しなければ用いることが出来ません」
あれらの機体に挑むに当たり、それはあまりに高いハードルだ。ただ対ビームシールドも重要な武器には違いない。
クラーゼク「ふむ。今回の事変における戦訓を活かしたいと言うのだな。確かに。フェイズシフト装甲は大質量兵器の攻撃を完全には無効化出来ない。機体が攻撃を受けた際の衝撃は通常装甲と同程度しか軽減しないから、攻撃の強度次第で内部のパイロットが死傷する。それは核動力機であるデスティニーも、おそらく正体不明の対ビーム無効化装甲装備モビルスーツとて同じこと。極論、【接近して殴りまくれば装甲を破壊できずとも機体の無力化は可能】。単機で足りなければ複数機で袋叩きにするという手もある…」
アグネス「仰る通りです」
これは野蛮だがシンプル、故に有効だ。
『第三次世界大戦についてはわかりませんが、第四次大戦ならわかります。石と棍棒でしょう』を忠実になぞっている。彼の賢者も未来の世代がまさかロボットに乗って殴り合っているとは想像だにしなかっただろうけれど。
クラーゼク「しかし、そうは言っても『接近して殴る』が難しいのでは?」
もっともなご発言だ。しかし―。 - 148二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 05:36:08
アグネス「現場の兵士にとって、実際に敵うかどうかはさて置き。『きちんと自分達は対策している』、『いざとなっても戦う手段はある』という安心感は何にも代えがたいもの。それに【銃剣で殺される者は少ないが、多くの者がそれを恐れる】とはパットン将軍の教え。我が軍が敵機を文字通り『叩き潰す構え』を取っていること。それ自体が敵勢力に高価な機体の戦力投入を躊躇わせる抑止力になる事でしょう」
クラーゼク国防委員の表情は何とも形容し難い。敢えて言葉にすれば『そうは言ってもなぁ』と言った所かな。
アグネス「無論、実戦では困難を極めるでしょう。デスティニーの装備ヴォワチュール・リュミエールには残像投影能力があり接近戦をより難しくしています。しかし一機につき小隊ないし中隊で連携すれば全く対処不能と言う事はありません。装備のみならず戦闘方法も編み出し全軍に行き渡らせてはいかがでしょうか?」
クラーゼク「うーむ。どうでしょうか?ミセス・ジュール、アマルフィ国防委員?」
クラーゼク国防委員は同意を求めるようにお二人に視線を送っている。どうだ?身体がきつい中、頑張って伝えたのだから無駄にはしないで欲しいが…。
ユーリ・アマルフィ「良い意見だと思う。ただMX-RQB51・ビームランスを量産化出来るようになるまで多少時間がかかるから。当面は予備武装を配備して対応しよう。先ずは精鋭部隊から」
エザリア「よろしいかと。ただし戦力として有効なものになる為にはモビルスーツ格闘術の訓練も必須となる。その点、抜かりはないか?」
話が在らぬ方向に転がりかけ心臓がドキリとする。言い出しっぺの法則か。ここで嘘を言うわけには行かない。
エザリア元評議員の視線を真直ぐ受け止める。
アグネス「今の私の技量ではデスティニーを堕とすことは出来ません。格闘戦の訓練に関しては私自身が生徒となるでしょう。事変時、私達のデスティニー鹵獲は様々な好条件が重なった上でのこと。
私はこれまで戦闘時、ミサイルやビーム砲を用いた奇襲攻撃が多く、対艦刀は本来の目的である宇宙戦闘艦と水上戦闘艦撃破に使用しました。敵モビルスーツとの接近戦も回数は重ねましたが―」
格闘戦の訓練、むしろ私がして欲しいわ。雑魚相手に無双してきた此れまでとは違う。 - 149二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 05:53:02
アグネス「機体の機体性能と味方の援護、戦場の混乱を生かし一撃で仕留めることが多く、『格闘戦』の様相を呈した事はほぼありません。ご期待には沿えないでしょう」
とは言え私もスーパーエースだからそこらのエースパイロットよりは上手くやれるだろうけれど。
エザリア「結構なことだ。その一撃が肝要、そう言う話だったのだろう?」
アグネス「仰る通りではあります。ですので先ほどは『編み出す』と申し上げました」
もし現時点で戦術教官を今選ぶとしたら適任者はアスランか、ハイネ先輩かな。
クラーゼク「まあまあミセス・ジュール。彼女は傷病休暇中です。お手柔らかに。特務隊ギーベンラート、有益な上申に感謝する。他の国防委員とも共有しておこう。教導航空団の主任教官たる君の手腕にも大いに期待しているよ」
私とジュール国防委員の会話を口論と誤解したクラーゼク国防委員が慌てて仲裁に入る。別にそんなことはしていないのだが。派閥の首領と子分の間柄だし。お仕事モードのエザリアおば様は女性にしてはかなり語調が強いから勘違いされてしまうのだろう。カナーバの口調も似た所がある。
エザリア「ええ。クラーゼク国防委員。特務隊ギーベンラート、病床からの忠言感謝する。貴女は兵士の模範と言える」
実際、周囲の印象はともかく彼女の内心としては好印象だった模様。このお方は率直かつ正論で正面からお話しするのが効くタイプと再確認する。
アグネス「ありがとうございます、ジュール国防委員。クラーゼク国防委員もありがとうございます。ラムシュタイン空軍基地の訓練はハーネンフース副教官が現在取り纏めているのですね」
クラーゼク「彼女は今、副主任教官だ。君が昏睡状態の内に役職呼称の整理があってね。君が主任教官、要は校長先生だ。ハーネンフース副主任教官が教頭先生。補助教官達は今は教官、クラス担任の先生だな。それと訓練生の一部はL5宙域に呼び寄せてある。まあ、そのことは今度話そう。決裁は副主任が代行、一部は国防委員会が引き取っている」
アグネス「了解しました」
クラーゼク「よろしい。ゆっくり休みたまえ」
ユーリ・アマルフィ「お大事に。今日も公務と聞くが無理をし過ぎないように」
アグネス「ありがとうございます」 - 150二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 12:04:31
☆
- 151二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 13:31:46
いずれは議長の仕込みでファウンデーションと過激派のザラ派にひっくり返されるんだろうなぁ…
- 152二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 19:59:07
コーディネーターにとって基本的に連合兵は格下だし、アグネスはファイアフライ誘導弾とかゲロビで薙ぎ払う撃墜が多かったからなあ…
格上との格闘戦経験者ってアスランぐらいしかいないんじゃ? - 153二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 20:10:33
コーディネイターと言ってもモブパイロット達は多数の敵機を相手にサーベルが大量に迫ってくるような状態での格闘戦をしていそうですね
- 154二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 03:14:08
保守
- 155二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 03:56:42
お三方と副官達と敬礼を交わし、モニターを切る。一気に疲れたわ。おまけに、何か聞かなかった方が良いことも聞かされた気もしたが…気にしては負けと思う事にする。
直ぐにナースコールで仕事の用事が済んだことをお伝えする。これでエルスマン博士達もご安心できるだろう。
一度、脱力すると別の考えが頭をもたげる。そう言えば、確かクラーゼク国防委員は―。
アグネス「(ユニウス条約の元となったリンデマン案に、彼は当初、反対の意を表していたと聞く。主に軍備制限条項について。最終的には他の最高評議会議員達共々、カナーバに和平交渉の詰めを一任したわけではあるけれど)」
そこから見るに彼の政治的ポジションはクライン派からは距離がある。私から具申する機会がもしあれば逃すべきではない。
アグネス「(些か気が早いことは分かっているけれど、次の講和条約の審議で最高評議会が弱腰に流れるのを防ぐために)」
前条約の失敗を二度は繰り返さない。私の切なる願いだ。
『Let bygones be bygones.(過去をして過去足らしめよ)【過ぎたことは水に流せ】』、カナーバを売国奴呼ばわりするのはそろそろ止めにしても良いように思う。
再会して見て流石に気づいたわ。私もそこまで鈍くはない。あの和平は彼女なりにプラントと世界の為を思えばこその行動だったのだろう。
それはそれで良い。誤解を解いて―内心でも―彼女の事はカナーバ前議長ないし前議長とお呼びすることにしよう。
アグネス「(とは言え、あの条約は欠陥品。相互軍備制限条項のみに限定しても―)」
ユニウス条約において【ニュートロンジャマー影響下においても核兵器の使用を可能とする『ニュートロンジャマーキャンセラー』の軍事利用を禁止】条項を呑んだことは致命的な失策だった。ここに関して言えばカナーバ前議長は万死に値すると思う。 - 156二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 04:21:35
シンプルに『両勢力の生物・化学兵器の廃絶、核兵器(核爆弾)相互保有禁止。核動力兵器は容認』これで良かった。プラントは宇宙にあるのだから、あの条文では一方的にプラントが不利だわ。案の定、フォックストロット・ノベンバーでは国ごと吹き飛ぶ所だった
次の講和条約ではそんな事態は許されない。
戦争に大勝して地球連合側のみの大量破壊兵器放棄を強制できるならそれがベストだ。しかし必ずしも未来は思った通りには来ないもの。であればプランBとして講和条約に『両勢力の完全な核兵器放棄条項』あるいはプランC『双方の核武装容認条項』を差し込むべき。選択肢は二つに一つだ。
シンプルに『両勢力の生物・化学兵器の廃絶、核兵器(核爆弾)相互保有禁止。核動力兵器は容認』これで良かった。プラントは宇宙にあるのだから、あの条文では一方的にプラントが不利だわ。案の定、フォックストロット・ノベンバーでは国ごと吹き飛ぶ所だった
次の講和条約ではそんな事態は許されない。
戦争に大勝して地球連合側のみの大量破壊兵器放棄を強制できるならそれがベストだ。しかし必ずしも未来は思った通りには来ないもの。であればプランBとして講和条約に『両勢力の完全な核兵器放棄条項』あるいはプランC『双方の核武装容認条項』を差し込むべき。選択肢は二つに一つだ。
だからこそ、万難を排して地球とプラント間に核の相互確証破壊を成立させておくことは夢想的な平和主義より余程、世界平和に資する。もし連合が核兵器放棄に同意しないなら、一旦、そこを着地点にすれば良い。
国民の『血のバレンタインの悲劇』に由来する核兵器アレルギーは最高評議会が説得すれば良い。そこは各議員たちの弁舌の振るい方次第だろう。
ただ、もしプランCのプラントの核武装を軍事政策として公式に選択した場合、カナーバ元議長等クライン派は絶対何か言ってきそうだわ。ノイジ―マイノリティ―を黙らせるためにも―。
アグネス「(ふーむ、ただ、核兵器の話題はデリケート。誰に何時、話すか迷うわ。国防委員の方々は基本、現実主義者が多いけれど。これは中々-)」 - 157二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 04:25:15
ピンポーン―ピンポーン―ピンポーン―
看護師「アグネスさん、おやつの時間ですよ」
アグネス「ありがとうございます。どうぞ」
世間から見て物騒な事を考えていても、病院のスケジュールは定刻通りに回る。何か長閑でありがたいわ。
看護師「今日のおやつは、シロノワールですよ」
アグネス「?」
看護師さんが持ってきて下さったお皿の上には温められた大きな丸いデニッシュパン。その上にソフトクリームが三角形の入道雲がごとくたっぷり乗っていて、たっぷりのシロップが小さなカップに入って付いている。
アグネス「シロノワール?これは何です?」
看護師「西暦時代から伝わる日本の伝統菓子だそうです。合成病院食ですが、味は本物に限りなく近づけているって病院調理師と薬剤師の方が言っていましたよ」
アグネス「へぇー。なるほど」
日系のシンは食べたこと有るのかな。オーブに有るかは分からないけど、有名なものならきっと―。
アグネス「いただきます」
看護師「どうぞ。食べ終わったら、お出かけの準備をしましょう。バレルさんとはロビーで合流です」
アグネス「はい」
返事とほぼ同時にアイス部分を急ぎフォークで掬って口に運ぶ。下のデニッシュが温かいので、急がないと溶けてしまう。3口目を食べた所でシロップをかけ忘れていたことに気が付き、真上から全部垂らす。
看護師「わぁ。豪快ですね」
アグネス「ふぅごふぅご…。それほどでも。そう言えば…私は何を着て式典に行けば良いでしょうか?足がギブスと包帯でグルグル巻きなので制服のズボンに通りません」
看護師「フフフ…。当院に抜かりは有りません。ゆったり目の大きさのスカートをレンタルします。ワインレッド色の物を見繕いますので。トライン副長にも事務局からお伝えして了承を得てあります」
アグネス「お心遣いに感謝します。もしかして先例が?」
ザフトの赤服と白服の制服は本来、ズボン。でも実際の所、私を含む若い女性軍人はミニスカート等の改造制服を着用することもしばしば。これは厳密に言えば軍規違反なのだが、我が軍はこの辺り良くも悪くも緩い。 - 158二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 04:27:34
今回はそれなりに正当な理由がある。突然、今日に今日では病院も動けなかっただろう。
看護師「当たりです!女性の軍人さんの入院も多くて。こういう時に出来るだけご配慮するのが患者さんの尊厳と心身のご回復の為に繋がる、のだそうです」
アグネス「本当に…有難いご配慮です」
看護師「いえいえ」
なおシロノワールは制服問題を話している間にお皿の上から私の胃の中にワープした。このボリューム、癖になりそうだわ。
看護師さんはそれを見届けると配膳台に食器を乗せ一旦下がり、直ぐにリクライニング車椅子を押して再入室する。あれに乗るのか。
看護師「では失礼します」
アグネス「お願いします」
入るや否や、彼女はテキパキ私の衣装をチェンジしていく。病衣を脱がせてコルセット等に制服、それなりに大ごとだが、彼女の手つきは慣れたものだ。
胸に着ける略綬とバッチに昨日の分を加えるのは自分でやる。良し。
看護師「鏡見ます?」
アグネス「見ます」
四角い鏡に映る自分の姿を見て、先程の彼女の言葉が正しいものであったと実感する。何時もの服が着られると言う事がこれほど、人の心を勇気づけるものだとは思わなかった。
アグネス「(少し胸の奥が苦しい。私は数万の人間を戦場に朽ち果てさせたと言うのに。彼らが生きて、せめて病院まで辿り着けていたら…。あの人達にも傷の治りを喜ぶ権利があったはず)」
それを知っていながら、さっきも懲りずに核がどうたら考えていた。戦闘も条約の内容も大事だが…。
この喉の奥に茨ををどう吐き出せばいいのか。吐き出そうとすることが間違いなのか。今は…分からない。 - 159二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 10:15:58
保守
- 160二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 17:24:10
保守。
- 161二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 22:55:45
アグネスは自覚が無いだけで
精神がPTSDかそれに近い状態になりかけてるんじゃ...? - 162二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 23:34:45
さて、気を取り直してデバイスで式次第を再確認と。
アグネス「(…これは―)」
看護師「お身体、持ち上がますよ。1.2.3…ハイ!」
アグネス「うわぁっと」
ゆっくりしている間などない。着替えが終わると直ぐに移動開始だ。大きな病院の中を車椅子に押されて進むのは、何だか幼い頃にゴーカートに乗った時の気分に似ている。
廊下、エレベーター、廊下と進んで1階ロビーに。自分で操作する許可が早く下りて欲しいものだ。
1階には先に到着したレイと彼の担当の看護師が待っていてくれた。こいつの美しい金髪と面立ちのおかげで探す手間が省けるわ。
アグネス「おはようございます。レイ、看護師さん。今日はよろしくお願いします」
先ず挨拶!これ大事だ。
レイ「おはようございます。アグネス、看護師さん。此方こそよろしくお願いします」、レイ付き看護師「おはようございます。頑張りましょうね」
看護師「おはようございます」
私の挨拶を皮切りに皆で声を掛け合う。レイは私と同じく制服姿、顔色は良好と言える。ご挨拶をお返しくださった此奴の看護師さんは見るからに朗らかそう。
看護師「さあ。行きますよ。お昼のお弁当とお薬の準備も良し。貸し切りの病院タクシーへGOGOです」
レイ付き看護師「遅れた時に備えてお二人のおやつも持って行きますね」
体調が未だ優れない私達を励まそうと看護師さん達は頑張って下さっている。それはそうとレイもおやつを食べていたとは。私と同じく食事療法なのだろう。
アグネス「ありがとうございます。それと…。タクシーに乗った際、ほんの短時間で良いのでレイと私、二人きりにしていただけませんか?」
レイ「うん…何だ?」 - 163二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 23:46:52
私の突然の申し出にレイは驚くが、ここはスルー。
アグネス「仕事の話よ。広義のね。看護師さん、駐車場で…」
看護師「良いですよ。元々、途中参加と言うお話しでしたし」
レイ付き看護師「ええ。どうぞどうそ。盗聴器とかの心配は無用ですよ。入院患者さんの職業上、しっかりチェック済みです」
それはありがたい。とは言え、壁に耳あり障子に目あり。調子に乗り過ぎないようにしないと。
アグネス「ありがとうございます。さあ!レイも行くわよ」
レイ「あ…ああ」
レイはさして抵抗するでもなく、一緒にエントランスに停車した病院タクシーに乗り込む。彼の座席は車椅子ごと乗車した私の横だ。
そのまま病院タクシーは病院の敷地を出るのを一度見送り駐車場に逆戻り。看護師さん達と運転手さんは車外に出ていただく。誠に申し訳ないわ。
レイ「それでどうした…。話とは?」
レイは何時もより若干優しめの声で私に問いかける。優しめと言うよりも憑き物が落ちた様と表現するのが正しいだろうか。
まあ、どちらでもいい。
アグネス「あんた、ファウンデーション王国やハイバル王家について何か知っている?と言うか知っているわよね」
レイ「その話か…。単刀直入だな。今から式典だぞ」
アグネス「その式典で栄典を授与されるからよ。従軍記章や記念記章、純粋な軍事勲章までなら良いかとも思っていたんだけれど」
二重にしたひざ掛け間に挟んで来たデバイスを取り出しスリープ画面を解除する。モニターに映るのは式典本部からの通知だ。
それによるとガルナハン解放戦に参加したザフト・現地レジスタンス全員に対しファウンデーション王国は『ファウンデーション王国解放勲章』を授与するとのこと。まあそれは良い。彼らが反射的利益(おこぼれ・派生的利益)を受けたのは確かなのだから。
問題なのはその先だ。 - 164二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 00:06:59
アグネス「従軍記章の他に。グラディス提督と第一次派遣隊ピートリー級艦長には『勲三等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章』を授与するとのこと。同じ勲章の『勲四等』を、特に顕著な功績を挙げたアスランとシンに。それに次ぐ私とあんた、戦死したミネルバクルー、ガルナハン市のレジスタンス代表達-ミセス・コニール含む―には『勲五等』を授ける、と」
その他、パイロットや乗員にも感状を授与する旨、記されている。地上の人達には別に使節が派遣されているらしい。
一通り読み上げレイに視線を投げ掛ける。どう?
レイ「珍しい。お前らしくない。貰えるものは貰っていく主義と思っていたが」
アグネス「…あんたが私をどう見ていたか理解できて何よりだわ。仰る通りよ!でも程度問題ね。騎士団勲章、外国人として名誉ナイト号を受け取れば、私達にはファウンデーション王国―アウラ女帝とオルフェ宰相政権ではなく―国そのものと国民に対して、ある種の道義的な義務が生じる。『プラント・ファウンデーション両国の友好・同盟関係の懸け橋』ってやつ。だからこそ、その前に知る義務がある。」
プラントの最高評議員も叙勲を受け、両国の同盟関係も継続される見込みだ。それを思えば私達に拒否すると言う選択肢はない。でもそれはそれ、これはこれ。
私達の配慮義務が消えるわけでは無い。少なくともこれまで通り冷めた視線で王国を傍観しているわけには行かない。『両国友好の懸け橋の真似事』ぐらいはしないとファウンデーション王国民に義理が立たないだろう。
まさか、今になってアスランの内心の一端を知ることになろうとは思わなかったわ。
レイ「…」
私の返事を聞き、レイは気まずそうに押し黙る。こいつが真直ぐな人間であることはもうとっくに知っている。鉄面皮の下の素顔は真っ当な善人なのだ。故に搦手より正面から正論パンチよ!
アグネス「だから知っている事が有れば教えて欲しい。プラントと私達を薄情者にしない為にも、無論、ファウンデーション王国の民の為にも。デュランダル議長がハイバル王家と何らかの繋がりがある事ぐらいお見通しよ」
とは言えこれは状況証拠しかない。だからこそきちんと理由も伝えて聞いているのだ。これでレイがだんまりを決め込まれたら―。どうしようもないが、その時はその時だ。 - 165二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 00:19:42
レイ「…確かにお前の言うことが正しい。だが、悪いが俺もそこまで深くは…。逆に聞くがアグネスは何処まで知っている?」
アグネス「!?私の知っている範囲か…」
レイからは拍子抜けするほど素直な答えが返ってくる。思わず彼の目を覗くが嘘を言う積もりはなさそうだ。
それなら此方も隠し事をせずに話そう。隠す話題自体が無いのだが。
アグネス「ファウンデーション王国は元々、ユーラシア連邦南部地域に存在する小君侯国。領土は西暦のカザフスタン共和国アティラウ州を中核とした西カザフスタン地域一帯。『国』と言うか勢力(ウルス)としてはジョチ・ウルス(キプチャク・ハン国)に遡る歴史があるとのこと」
所謂、『地域史』扱いなのでプラント生まれの私はそれ以上知らない。地理的に見てハイバル家は黄金氏族(チンギス裔)のうちの長男ジョチの末裔。ファウンデーション王国はジョチの十三男トカ・テムル系の諸ハン国の生き残りなのだろうと類推している。
アグネス「今回の『再独立』に際し、国名を現代風に改めたんじゃないかと思っているわ。女性君主を戴いているのはチンギス統原理に背くから一時的な措置なのかな。若しくは家法を改めたのか」
レイは一通り私の話を聞いて肯き、ここで衝撃的な情報を付け加える。
レイ「そのアウラ女帝とギル…デュランダル議長は旧知の間柄だそうだ。幼い頃のブラックナイツとも会っていると」
アグネス「おおぉぉ…。結構、がっつり関わっているのね。でも旧知?アウラ女帝は10歳ぐらいでしょ。彼女が5、6歳児の頃からの付き合いってこと?」
若しくは『旧知』の定義を『ハイバル王家と旧知』と介せば不自然さは無くなる。議長はどっちの意味でレイに話したのだろう?
レイ「…」
レイの答えは沈黙だった。その表情は能面のようになっている。これ以上問い詰めても、きっと話してはくれない。今、彼に話せる限界はここまでなのだろう。
アグネス「(あるいは本当に知らないのかも知れない。喩えば同族企業の社長とて息子の専務に社内の機密全て知らせるとは限らないわ)」
アグネス「良いわ。話してくれてどうもありがとう」
レイ「…」
少なくとも『デュランダル議長とハイバル王家・アウラ女帝には何かしら友情めいた関係がある』、『王国の近衛師団にして国家の中枢たるブラックナイツとも面識がある』ことまでは分かった。十分な成果だ。 - 166二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 00:33:40
アグネス「(それと、レイの口ぶりから考えて、彼自身はアウラ女帝やブラックナイツと直には繋がっていない。温度感的にね)」
では次。もう一つしなければいけない事が有る。むしろ、ここからが本番だ。両目の視線をレイの双眸に合わせる。
アグネス「そのブラックナイツの一人、イングリット・トラドール氏に私達はお会いする。どうかくれぐれも陰謀には関わらないで。せっかく一度は帳消しになったんだから、クリーンハンズでいなさい。陽の当たる場所を歩かなきゃ人生損よ」
私は味方内の腹の探り合いも友軍への不殺戦法も、もうこりごりなのだ。彼女に何か吹き込まれたら、台無しも良いところよ。
レイ「それは…もう決めている!俺はシンも、アグネスも、ルナマリア達ミネルバの皆も、もう裏切らない。それだけは信じてくれ」
アグネス「『それだけじゃない事も』信じるわ。はい、じゃあ約束ね。する?しない?」
信じることを限定すれば『嘘を付かない範囲』で何事かやらかすかもしれない。だから敢えて全幅の信頼を置いているのだと告げ知らせる。大ボーナスよ。
レイ「だがら…。する。すると言っている!」
アグネス「良し!」
レイが話せない事が有るのはもう仕方ない。毒親とは言え、恩人にして父親を捨てろと強制するのは残酷だ。彼に受け入れてもらえる筈もない。
アグネス「(それ込みで私達の側に立ってくれている事実を今は大事にしよう。いよいよとなればレイも覚悟を決めてくれる…と思うわ)」
はい!用件は終了。式典に急ごう。目線でレイを促しドアを半開きにさせて、外の運転手と看護師さんに呼びかける。
アグネス「お待たせしました。話し合いは終わりです」
看護師「大丈夫ですか?喧嘩になっていませんか?」
レイ「喧嘩していません」、アグネス「ギリギリセーフです」、レイ「おい!」
しょうもない掛け合いを繰り広げる私達を生温かく見つめながら、看護師さんは車に乗り込んでくる。
レイ付き看護師「もう。若い時の友情は大事にしないと駄目ですよ」、レイ「...はい」
私達を窘める彼女らの声-レイがやたらと神妙な顔で答えているのを目の当たりにして何だかホッとする。 - 167二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 07:16:04
アグネスが何かあって
例のアコード家族写真()と特別な額縁に入れられた議長の写真を見てしまう機会があったら「ちょっと無理」となるのかそれとも… - 168二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 12:46:05
病院スタッフがいい空気吸ってる…
- 169二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 21:24:15
保守
- 170二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 04:06:26
病院を発ち式典会場へ、既に勲章授与式は本会場で始まっている。
レイ「どうだ?」
アグネス「今、トラドール国務秘書官のスピーチが終わった所よ。次はお返しにリー国防委員がご挨拶を…」
車内でデバイスを覗きながら情報共有する。当たり障りなく無難なスピーチが始まり、程よく勇ましい音声が車内に流れ始める。当たり障りが無くて結構なこと。
しかし脇から画面を覗いてくるレイが鬱陶しくて仕方ない!
アグネス「あんたも自分の業務用デバイスを持ってくればよかったじゃない!ひょっとして取り上げられているの?もしそうなら…」
レイ「いや。もう返却された。今日使うことは無いと思っただけだ」
アグネス「そう…」
やはり一度は没収されていたか。ミネルバの皆が居てくれたとは言え、私が意識を失っている間、こいつもいろいろあったのだろう。激動の時代には良くあることと割り切るしかないのだが―。
看護師「到着まであと8分。参戦者を代表してグラディス提督のスピーチがあります。その間に定位置に着くようご指示がありました」
その辺りも事務方同士で連絡が付けてあるとは。とは言え、先方も承知のことではあるにしろ場を乱さずに入場したいもの。
アグネス「ご苦労をおかけします」
看護師「いえいえ」、レイ付き看護師「何だか朝礼に遅れた時の学生気分ですね」
アグネス「はい」、レイ「ええ」
朝礼の途中入場…滅茶滅茶気まずいわ。よっぽど気を付けて合流しないといけない。これならいっその事、欠席にすれば良かった―出来ないから来たのだ!しっかりしなくては。
アグネス「(深呼吸を。吐いて吐いて吐いて―。吸って吸って…。緊張しては駄目。国と軍の体面に泥を塗らないように)」
病院タクシーは往来を抜けてセレモニーホールに到着する。規模としては中程度だが上品な造りだ。ロータリーには式典スタッフが3名待っていてくれている。
看護師「到着です。お二人とも降りましょう」 - 171二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 04:10:14
『降りましょう』、彼女のふとした一言が私の脳内の撃鉄を引き起こす。バッと視界が飛び、喧しい音が耳を劈く。
アグネス「了解!」
殆ど反射的に返事を叫ぶと、頭蓋骨の中には何時も通り脳内麻薬が溢れ出す――。もう私にとってここはアプリリウスでは無い別の…。
レイ「おい!しっかりしろ!これは降下作戦じゃない!」
レイの強い呼びかけで我に返る。気が付けば彼が私の左手を握っている。
アグネス「えぇっ…。ああ…うん、そう…」
何が起きたの?
看護師さんは後部座席から身を乗り出して右肩を優しく強く押さえてくれている。
病院タクシーはロータリーに停車し、助手席のレイ付きの看護師さんは車内から式典スタッフに状況説明をしている。患者の容体が一時悪化した、そんな内容の話を―。
アグネス「ああ…」
じわっと目の奥が潤みそうになる。この場から一体何処に飛び出そうとしていたのだろう、私は?
看護師「大丈夫、大丈夫。そう言う日もあります。昨日の朝に意識を取り戻したばかりなんですから。ちょっと休んでからにしましょうね」
アグネス「う…ん…」
グスッと泣きそうになる私の肩を、看護師さんは勇気づけるように撫でてくれる。
おかしいな。ロータリーに入るまでは―。
レイ「提督のスピーチのあと、勲三等、勲四等、勲五等と順に。まだ俺たちは先だ。シンとアスランが勲四等を受けて、それで無理ならその時に考えよう」 - 172二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 04:15:05
シンのスピーチで時間稼ぎとは―何てざまだ!しないかも知れないが。
アグネス「あんたは行けば」
レイ「冗談を言うな!いや…済まない。俺は一緒で良い。そうだっただろう?」
そうだった、とはガルナハン戦でのことか…。
アグネス「うん…。あの時は怖いものなんて無かった」
レイ「そうでもないだろう?俺は怖かったぞ」
私を安心させようと微笑むレイの顔面にグーパンチを叩き込みたくなる。私は優しい嘘をついてあげる側のはず。付いてもらう側の人間ではない。
こんな無様な真似は早く止めにしよう。
もう一度、呼吸を整える。
息を―吐いて吐いて吐いて―吸って吸って―吐いて吐いて吐いて―吸って吸って―良し。
アグネス「回復したと思います。フラッシュバック(?)は収まりました」
看護師「…」
看護師さんは座席を移動して私の隣に、レイと位置を交換する。脈をとっているのは何か意味があるのだろうか。さっきの感覚ではまだ平常値には戻らないはずだ。
看護師「もう少しだけ待ちましょうね」
アグネス「はい」
吐いて吐いて吐いて―吸って吸って―吐いて吐いて吐いて―吸って吸って― - 173二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 08:39:53
看護師さんの何かを察したような無言の間が…
- 174二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 12:21:37
PTSDやんけー!
- 175二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 20:43:11
アグネスの闇も大概深くなってきたなぁ⋯
- 176二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 00:47:53
呼吸法を用いてマインドフルネスを試みる。その効果もあってか早鐘のように木霊していた心臓も少しずつ落ち着きを取り戻していく。
看護師「うん。良いですね。じゃあ、お水も飲みましょうか?」
アグネス「はい…」
ミネラルウォーターが手渡される。彼女が見ていたのは脈だけでは無かったようだわ。喉の動きも見ていらした。
私がキャップを捻って口を付けると彼女は『ゆっくりゆっくり』とジェスチャーで示して下さる。危ない所だった…。ご指示を守ってちょっとずつ水を飲み下す。
水が喉を通ると、ようやく視界の明度が通常に戻っていく。実際に見え方が変わったと言うよりは認識の問題なのだと思うが―。
看護師「良かった。ここは安全な場所ですよ」
レイ付き看護師「式典ばかりで気が休まらないですね。でもどうか安心して。傷つけ合う場ではない、でしょう?」
アグネス「はい…。一義的には―そうです」
ついつい留保を付けてしまう。相手があの国でなければなぁ…。どうしても政治的戦略的な匂いが鼻を衝く。彼女らの友好を馬鹿正直に信じられないせいで、精神は常在戦場モード。治りきっていない身体で昨日からずっと神経戦だ。それはこれまでもだが、今回は大概ひどい。
アグネス「(ぐずぐず弱音を溢しても仕方ない。無理をしているのは皆同じ。為すべき務めを果たさないと。式典は何処まで進んだのだろう?)」
私が頭を切り替える中、レイが体をにゅっと前に出して私の両目を見詰める。
レイ「…何が敵であるかそうでないか等、陣営に寄って違う。人によっても違う。相対的なものだ」
アグネス「はぁー。まあ、そうね」
突然、熱心に話し始めるが要領を得ない。そんな一般論をこの場でしてどうする?
私が車から出て良いのか否か、式典に参加できるのかどうかが問題なのだ。焦点が外れている―。
レイ「だが、俺は絶対にお前の味方だ。これが個人的な感傷でも構わない。絶対に裏切ったりしない。だから落ち着いて行け。自分を見失ったら勝てるものも勝てなくなる」
アグネス「…ありがとうね」 - 177二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 00:57:38
何時になく真剣な彼の表情が告げている。この言葉に関しては嘘偽りのない本心なのだと。今日の日程をフォローしてくれると言う意味かな。
アグネス「(うん、違う。分かっているわ。もっと広い意味で言ってくれているのね)」
看護師さん二人と運転手さんはじっと黙って私達の遣り取りを待ってくれていた。
看護師「よくぞ!じゃあ、行きましょうか!」
彼女のGoサイン、明るい語調が変に悲壮なその場の空気を消し飛ばす。
レイ「彼女は大丈夫ですか?」
看護師「織り込み済みです。だから私達が付き添っている訳で」
当たり前な事を聞かれたかのように彼女は胸を逸らして応えてくれる。
レイ付き看護師「心と体は繋がっていますから。お二人ともマイペースに行きましょう。兵士に報いるための式典でしょう。お二人は主役なのですから。堂々としていればいいんです」
助手席の彼女は私達に声を掛け、同時に式典スタッフにも連絡を取って下さっている。それを受けた車外のスタッフ達ももう一度スタンバイし、直ぐにドアが開かれる。
アグネス「ああ。それとデバイス持って行くので鞄を取ってください」
看護師「はい。機密が入っていますものね」、レイ「急に通常モードになるな…」
アグネス「当然でしょ」
すっかり調子が戻って来たわ。
タクシーは運転手さんにお任せし、私とレイと看護師さん二人の計四名で気持ちを入れ替えドアを跨ぐ。私の場合は車椅子、跨ぐと言うか微妙だが慣用句だ。
アグネス「(今からじゃグラディス提督の受賞とスピーチには間に合わないわね…)」
この分だとアスランとシンの晴れ舞台に突っ込む形になってしまう。二人にはご容赦してもらうしかない。式典スタッフの案内にそって動線を進む。 - 178二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 01:05:27
この式典には戦死したミネルバクルーのご遺族の皆さんが150人程ご参列されている。
皆さんの視線が忍者のように定位置に向かう私達に集まる。敵意は混じっていない。私が見るからに負傷兵なので事情を察してくれたこともあるのだろうが―。ほっと胸を撫で下ろす。
『どうして貴女が生き残って、私の家族が!』とか言われたり、言われはしないまでも強く思われていたら…。ちょっと今日は立ち直れないかも知れない。
シン「…でありますので…えっと…。私は今日授けられた名誉を重んじ、プラント・ファウンデーション王国間の友好関係のますますの深化と、ファウンデーション王国と国民、ハイバル王家当主にして女帝アウラ陛下の弥栄を祈念して―」
シンのスピーチがクライマックスを迎えた所で参列ポイントに滑り込みセーフを決める。
シン「-以上です」
イングリット「特務隊シン・アスカ。素晴らしいスピーチありがとうございました」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
シンに声を掛けているのはこの式典の主催者たるファウンデーション王国国務秘書官、勲章使節団長のイングリット・トラドール氏。事務的な微笑みを以てシンに接している。
この女、やはり底が知れなくてちょっと不気味だわ。まあ、それはそれとして!
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
周囲の皆さんと共に私達もしっかり拍手を送る。シン!ちゃんと読み上げられて偉いわ。多分、トライン副長に添削してもらったんだろうけれど、まあ良し―。
イングリット「?!!」
拍手でシンを席に送ろうとしたトラドール国務秘書官の表情が一瞬、驚愕で歪む。彼女が思わず視線を飛ばしてきた先には私達4人-違う―彼女が見ているのはレイだ。
レイ「…」
アグネス「(どうした?デュランダル議長の仲間同士では無いのか…。ああ、レイはさっき『私の味方』とか『皆を裏切らない』とか言っていたか)」 - 179二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 01:14:08
しかし、そんな単純な問題なのか。
トラドール秘書官がベルリンにいらした時、レイは会っていなかったか?何にせよタイミング的にも距離感的に今回は格別か…。
一方、自席に戻る途中のシンはそんなこと知る筈もない。此方に気づき能天気に目で挨拶をしてくる。怪我はすっかり治ったみたいね。
レイと国務秘書官の反応も気になる。でも一先ず私はシンに目線で挨拶を返す。
表情を見るにシンは受賞をそれなりに喜んでいるらしい。それはそれで健全なことだろう。元々、私もそういう考えだから。レイも直ぐに彼女との睨めっこを断ち切り『おめでとう』のアイコンタクトを送っている。
ファウンデーション王国軍人「では引き続きまして。我が女帝陛下はミネルバ・パイロット特務隊アグネス・ギーベンラート、特務隊レイ・ザ・バレル、同日の戦闘で名誉の戦死を遂げられたミネルバクルーの戦友諸兄諸姉、貴君たちにその功労に応じた栄典をお授けしたいとお望みになられています。ご両名とご遺族代表は壇上にお進みください」
司会を務める王国女性軍人の声が静かに会場を響く。国務秘書官と共にプラント来訪中の王国軍人らしい。一般のファウンデーション王国将兵の顔を見るのは何気に初めてだ。
彼らは普段どんな生活をしているのだろう。新たに興った自国とその未来をどう思い願っているのか―。
アグネス「はい」
ともあれ返事、彼らの事は彼らの事。私は自分の務めを。
どうやら自分が勲五等の先頭らしい。パイロットの立場と名前がAで始まる(Agnes Giebenrath)都合上、機械的に決めたのだろう。
レイ付き看護師「(勲五等はスピーチ無しで良いそうです)」
アグネス「(そうですか。ありがとうございます)」
レイの看護師さんが小声で事情をお知らせして下さる。それなら気楽でいいか。
気を取り直し、看護師さんにリクライニング車椅子を押してもらって壇上に登る。後ろからはレイとご遺族代表の方が10名。
キリストの高弟と数と合わせるとは中々、象徴的な演出と言えなくも無い。しかし残念ながら看護師さんが二人加わるので壇上に上がるのは14人だ。この演出を考えた御仁はアドリブに弱かったらしい。 - 180二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 01:33:06
先程、気押されたトラドール国務秘書官は表向き平静さを取り戻している。そして先を進む私の車椅子を補助しようとする所作を示す。
勿論、あくまでこの所作は儀礼的なものだ。お互いそこは心得ている。
アグネス「ありがとうございます。トラドール国務秘書官。しかし私達は大丈夫です」
イングリット「お大事に。特務隊アグネス・ギーベンラート。ご快癒前にも関わらず、よくぞお越し下さいました」
儀礼ついでにサラッと挨拶も済ませる。彼女の両目の視線には確かな労りの念がこもっている。この人も木石では無いと再確認できてホッとするわ。
しかし私に目線を合わせてくれているのは、後ろのレイと目を合わせたくないのもあるだろう。
イングリット「…」
アグネス「(レイからも圧を感じる。彼女自身を嫌悪している訳では無いようではあるけれど)」
確信した。やはりブラックナイツとレイは直に繋がってはいない。以前、彼女が派遣された時に病院で顔は見たかもしれないが、今日ほど意識してはいなかったのだろう。あるいはあの頃から彼自身も変わったのか。
イングリット「プラント、ザフト軍特務隊アグネス・ギーベンラート。ファウンデーション王国女帝アウラ・マハ・ハイバルの名において―」
彼女が読み上げる口上を何処か遠く聞く。今日、レイと会ってからの国務秘書官の反応を前にしてふと思う。
この人は―
イングリット「ここに『勲四等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章』を授与します。ガルナハン・ローエングリンゲート攻防戦において貴女が成し遂げた顕著な功績は当作戦成功に不可欠な要素でした。その歴史的意義は―」
一体、何に怯えているのだろう?
イングリット「…!」
彼女の口上に僅かな揺らぎが生じたことを感じ取れた人間がどれだけいるだろう。私もその理由は分からないのだ。 - 181二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 01:50:12
イングリット「-単にガルナハン一市の解放のみに止まるものではありません。ユーラシア連邦及び地球連合の圧政に苦しむ全ての民族と地域、なかんずく我がファウンデーション王国並びに黒海、コーカサス、カスピ海沿岸諸国の人民の解放にプラントとザフト軍が成し遂げ、現に果たし続けている貢献は多大なものであります―」
そして過日に貴女が担った役割は余人に代え難いものでした」
トラドール国務秘書官は、述べ終ると私に勲記を差し出す。途中で僅かに言葉を震えさせたものの、その態度は堂々としたものだ。
アグネス「ありがとうございます。このような名誉を授けられたこと、身に余る光栄と存じます」
私が勲記を受け取ると彼女はケースから勲章を取り出し私の左胸に留めてくれる。危うげない手つき。先程の心の揺らぎは私の思い過ごしだったのか。
ちょっと目線を交わしてみるか。
イングリット「…」
不自然なほど落ち着き払った態度。ケースもお手渡ししていただく。略綬が入っている。
アグネス「(不自然に感じるならそれが正解だ。やはり思い過ごしでは無かった。この方はレイに何かしら恐れを抱くところがあるのだろう)
イングリット「…貴女のご活躍に敬意を」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
私に向けられた拍手が止むと今度はレイの番だ。
レイの前に立ったトラドール国務秘書官とレイ、互いの表情が石像と化している。
私が二人の内心を伺い知ることは困難だ。議長と縁を切れと強く迫ったのは私ではあるのだが、その結果(?)、こうなるとは思いもよらなかった。
イングリット「プラント、ザフト軍特務隊レイ・ザ・バレル。ファウンデーション王国女帝アウラ・マハ・ハイバルの名において、ここに『勲四等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章』を授与します。以下同文です。どうか過日と変わることなく、これからもプラント、ファウンデーション両国の友好と同盟の懸け橋となって下さい」
なるほど、トラドール国務秘書官はレイに自派に止まって欲しいと打診しているのね。 - 182二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 02:02:42
『自派』とはここでは『親ファウンデーション派』、いや『ハイバル=デュランダル同盟』とでも言ったものか。
正直、実際にそんなものが存在したのか。それに近い関係性が有ったとして今も健在なのか、私には知りようがないのだが。政変も起きたばかりだし。
レイ「勿論です。世界の平和とプラントと貴国の未来の為。国境を越えて共闘できればこれに如くは有りません」
アグネス「(おぉぉ。よく言ったわ!)」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
皆と一緒に手を叩く。
この場ではベストなアンサーね。
『世界の平和と我が国と貴国の未来の為になるなら一緒に頑張りましょう』
考えて見れば、レイと養父デュランダル氏の人間関係が如何に強固だとしても、ファウンデーション勢は彼から見てせいぜい二次的な繋がりに過ぎない。レイがこうした態度を取った所で何ら親不孝をするものでもないのだ。
無論、この返事のみでは王国に不義理を働いたものでもない。プラントを裏切ったことにもならない。故にレイ自身、本心を偽ったわけでもないだろう。
イングリット「…」
レイの言葉を受けたトラドール国務秘書官は怪訝な顔つきで勲章を左胸に付けながら何度も彼に探りの目を入れる。そして、その度にまるで暗黒の深淵を覗いたかのような表情を繰り返している。
無論、彼女は訓練を受けた公人。実際の表情変化は微かなものだ。傍で『観察する』準備が出来ていた私と、レイ本人ぐらいしか事の顛末を知らないだろう。
その私も彼女の絶望に近い驚きが何に由来するものなのか、今一理解できてはいない。
アグネス「(まあ、レイの前半生、暗黒と言えば暗黒だけれど。うーん、でも今この方が知りようのないことだと思うけれど)」
何かしら事前情報と雰囲気で察するところがあったのか。人の頭を覗きすぎるのも考え物ね。彼女だけでなく私も疲れ果ててしまうわ。 - 183二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 07:14:32
人の頭の情報がなだれ込んでいるイングリッド
- 184二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 13:55:33
アコードの力とかパンクしそう
- 185二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 19:43:04
効いてる、効いてるよレイ!
アコードって何度も特定の人の思考を読んだりしてたら、その人の考え方に影響されたり、自我境界線があやふやになったりしないのかな。 - 186二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 19:52:54
アグネス・ヤマトみたいにここのアグネスもPIXIVの辞典に乗らないかな
他に乗ってるロボカテ概念あったっけ - 187二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 23:29:06
☆
- 188二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 04:20:08
※>>180と>>181、イングリットのセリフを間違えました。アグネスとレイ、戦死したミネルバクルーが受勲したのは『勲五等』です。
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レイへの受勲で些か動揺したトラドール国務秘書官であるが、彼女もさるもの。直ぐに動揺を飲み込み、残りの受勲を円滑に進めて行く。
彼女が戦死者ご遺族代表一人一人に示して回る労りの情は真に迫っている。それが政略から計算された振舞いであると理解している私にとってさえも、彼女の言葉はそれが本心であるかのように錯覚させられてしまう
イングリット「-故人の諸民族解放と世界平和に対する不滅の功績に心底よりの感謝を捧げます。そして愛する人を失ったご遺族に心からのお悔やみの言葉を、ファウンデーション王国アウラ女帝陛下よりお伝えします。我が国は恩人たる皆様のご健康を祈念してやみません」
遺族代表「ありがとうございます…。本当に…」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
レイ「…」
レイと一緒に手を叩きながら肯き合い密かに感心してしまう。見事な振舞いだわ。この方の感情制御能力は相当高い。
アグネス「(あるいは彼女の本心の一部ではあるのか。人間は自己の感情を0から生みだすのは困難でも、1を100に増幅することは出来るものだ)」
此れぐらいの感情操作、国政に預かる彼女が熟すのは雑作もないことだろう。対外的な場に出るに相応しい高い洞察力も備えているように察せられる。
とは言え間近に見るになかなかどうして。
イングリット「…!」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
遺族代表の最後のお一人に勲章が手渡されると私達はお役御免だ。司会の指示の下、今度は逆順に壇上を降りて行く。最後尾は私達4人だ。
- 189二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 04:35:13
イングリット「武運とご健康を」
アグネス「どうか貴女にも」
擦れ違い様に短く挨拶を小声で交わす。こういうの大事ね。もっとも言葉に反してトラドール国務秘書官の目付きはやや鋭いものだった。
その視線には労りと戸惑いと警戒と…微かに後悔とも懺悔ともとれる思いがカクテルのように混じっている。
アグネス「(最後の思いは誰に対してのものなのだろう。私に対してのものでないことは分かる)」
レイ「アグネスと同じく私からも。ご武運とご健康を」
イングリット「ありがとうございます」
此れも一種の『鞘当て』になるのだろうか。私としては一線を越えない限りファウンデーション王国とも上手くやっていきたいと思っているのだけど。何ともままならないわね。
式典その後は滞りなく進む。感状授与の代表者はバクゥハウンド小隊の3人が務めていたわ。どうしても空戦組が見だってしまう場面も多いから彼らが正当に評価されているのはとても嬉しい。
そして閉会の言葉。ザフト側はマハムール基地のラドル隊長から事前送信されたビデオメッセージがスクリーンで公開された。
アグネス「(懐かしい。お元気そうで何よりだわ。そう言えば―)」
ラドル隊の本拠は西暦時代のイラク南部ペルシャ湾沿岸。彼らの次の戦場は何処になるのだろう?今後の戦局を考えれば中東方面ザフト軍のお役目はより大きなものになるはず。
アグネス「(本来の―というか私達の本来の―目標であるスエズかな。それとも黒海、南ロシアになるのか。ファウンデーション王国は明らかにカスピ海北岸に関心を向けさせたがっている)」
勿論、自国に配慮を求めるのは同盟国の正当な要求だ。こうして勲章をばら撒いているのもそれが為、しかしわが国には我が国の―。
私があれこれ考えつつ主催者席に目線を遣っていると、驚くべきことに同じタイミングでトラドール国務秘書官も振り返り互いの目が合ってドキリとする。どうもこの人は…。
ラドル「-であります。故に我が隊もプラントとファウンデーション王国、駐留先である汎ムスリム会議並びにロゴスの支配から逃れんとする諸民族・諸国家の為、この地域の安定を保障せんが為、その重責に応えたい所存です」 - 190二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 04:46:30
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
ビデオメッセージが終わると同時に会場を拍手が包む。
アグネス「(ラドル隊長が正しい。私達はデュランダル議長を失脚させた。それは良い。でも彼がこれまで展開してきた世界戦略を引っ繰り返すことは友好国や協力勢力への背信に繋がりかねない。それは回避しないと!)」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
気持ちを新たに私も真心を込めて手を打ち鳴らす。リモートでは無いのでラドル隊長の下に聞こえるわけでは無いのだが、しかし、こういうのは気持ちの問題だ。
アグネス「(しかし、うーむ。地域の安定化と言う面で考えると、やはりイスラム教徒多数派地域は汎ムスリム会議にまとめて貰うのが無難。ザフト軍基地ポート・タルキウスも所在する東トラキア、アナトリア。ユーラシア連邦から再独立を図る中央アジア諸国まで)」
特に中央アジアから南ロシアの一帯はこのままではブルーコスモス系テロリストの巣窟になってしまう。というか既に半分なっている。
ヘブンズベースやスエズ、パナマに気を取られがちだが、あの地域を放置するのはプラントにとって自滅行為。テロリストが無限湧きしてしまう。
故に汎ムスリム会議がやる気なら彼らの中央アジア進駐を予定通り後押しするべきだ。
アグネス「(それに汎ムスリム会議には当大戦で一早く領内に軍事基地を置かせてくれた恩もある。地球連合勢力に一度は圧倒されかけただろうに。この友誼に応えないなら二度とプラントに味方する国は現れないわ)」
ただ中央アジアからペルシャ湾は遠い。ラドル隊長たちにはやはりスエズを睨んでいただくのが最適解。中央アジア進駐は汎ムスリム会議軍を主力として順次、現地民主体の軍と合流しつつ進めるしかない。行政機能の統合は現地政府と調整してもらって―。
そうなると…そうか!!!
イングリット「マハムール基地司令官ラドル隊長のお言葉痛み入ります。我が国は当大戦の惨禍の中、犠牲を厭わぬ我が国の勇士達の血潮と、今や分かちがたい同盟国たるザフト軍のご奮戦に寄って奇跡的な独立を勝ち取ることが出来ました」
私との目線の交差は束の間の事。司会に促されトラドール国務秘書官は閉会の挨拶を読み上げ始めている。 - 191二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 05:25:22
イングリット「しかし我がファウンデーション王国の建国はロゴスの悪しき世界支配と地球連合の圧政からの解放の狼煙でなければなりません。我等は自国の安寧のみを乞い求め、人類を分断と混沌の中に置き去りにするようなことは許されないのです。世界は新たなる秩序を必要としています」
そこまで話した後、トラドール国務秘書官は一旦言葉を切り、聴衆の注目を集めると決定的な一言を発する。
イングリット「ファウンデーション王国はプラントの対等なパートナーとして、良き友として。生まれ変わる新たな世界の建設の為、応分の負担を受け入れる用意があります」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
アグネス「(なるほど。これが追加援助、こと軍事援助の見返りー)」
『中央アジア攻勢』へのファウンデーション王国軍の積極投入と策源地として自国領土の提供。特に前が重要だ。
ザフトの弱点は人的資源。戦死者の増加は国力の急速な弱体化に繋がる。極論、高い工業力をフル稼働すれば機体の代わりなど何とでもなる。我等にとって人命が一番大事なのだ。綺麗ごと抜きにして。
流血を他国が肩代わりしてくれるならこれほどありがたいことは無い。
アグネス「(これでマッチングは成立。あくまで推測だけれど、昨日の会議で話し合われた内容は大体以下で間違いないと思う)」
・ファウンデーション王国は旧カザフスタン地域に西から攻勢を仕掛ける。必要とあればアストラハンをカスピ海から襲撃する。南ロシアから受けるであろう逆攻勢にも耐えてもらう。
・それを助攻として本体である汎ムスリム会議軍は中央アジアに進駐を開始、現地独立派部隊と合流。半独立勢力と化している現地政府に正式な独立を宣言させ、自国の構成国として順次編入する。場合によっては住民投票を行う。
・プラントは攻勢前に中央アジア地域の軍事拠点設置を汎ムスリム会議と合意済みにしておく。攻勢開始後は汎ムスリム会議本隊と共に進軍。ザフト軍はブルーコスモス派武装組織と撤退を拒むユーラシア連邦軍を各個撃破、殲滅する。制圧直後から当地に駐留を開始する。 - 192二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 06:21:20
上記の作戦を成り立たせるため、プラントは(やや)旧式化したモビルスーツをファウンデーション王国に数個師団編成可能な規模で引き渡す―これはあくまで私の推測だ。
後で国防委員会にも問い合わせてみよう。国家の最重要機密ゆえFAITHと言えでも開示してくれないかも知れない。だが、それならそれで結構な事だ。オペレーション・スピットブレイクの苦い経験もある。
アグネス「(そして、この作戦は仮に決行せずともザフト軍に多大な利益がある。ユーラシアは東西に長いから、ファウンデーション王国軍がそうした構えを取るだけで地球連合軍は他の戦線から膨大な兵力を引き抜かざるを得ない。プラントは一兵も損なわず数個方面軍規模の敵戦力を遊兵化しうるのだ。まさに願ったり叶ったり)」
と言って、トラドール国務秘書官は国防委員会を説得して回ったのでは無いか。あくまで推し量るに。
アグネス「(少し飛躍が過ぎるか。この狙いに関して言うのであれば、大規模な攻勢作戦を前提とせずとも成り立つ。王国軍を重武装化するだけでも…。いや、駄目だ!)」
それでは南ロシアから中央アジアにかけての一帯が過激派グループの巣窟になる。ロゴスの解体も終わっていない。奴らのスポンサーは半壊しながらも健在なのだ。
そう思ったタイミングで壇上のトラドール国務秘書官の控えめだが意志ある眼差しが私の顔を掠めた―気がする。
これが『正解』なのか。馬鹿な、エスパーでもあるまい。自意識過剰になるようではまだまだ―。と、私が思った次の瞬間、彼女の顔色がサッと青褪めたように見える。何なのか、もう勘弁して欲しい。
アグネス「(何れにせよ。やはり大規模作戦の実施は遠からず。問題は時期だわ。完熟訓練の期間が必要。武器を引き渡して直ぐ攻勢とは行かない。どんなに速く見積もっても三か月以上先のはず)」
いや―落ち着け。今は戦時、動乱の時代の最中だ。常識など皆、とうに捨てている。戦争中はあらゆる無理難題、無茶無謀が押し通るのだ。過去の大戦時もそうであったでは無いか!
ベルリンで伺った話からして、汎ムスリム会議軍はもう出兵スタンバイ済み。即日はないにしろ軍事物資到着から作戦までは相当早いと想定するべきだ。ミネルバも駆り出されると思っておくべきだろうか。 - 193二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 07:12:45
またアグネスが気絶するのか…
- 194二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 10:15:56
これユーラシアとファウンデーションでグダグダやらせてる間はゆかり王国がDPやる暇がなくなるんだよね
- 195二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 17:54:10
流血を肩替わり(MSの頭部すげ替え)ですか…
- 196二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 22:38:41
トラドール国務秘書官のご挨拶が終了すると王国軍の司会が後を引き継ぎ、今回の式典はようやく閉幕の運びとなる。
アグネス「(疲れた、凄く…。なんご遺族が直ぐ傍にいらっしゃる中、口が裂けても言えないわね)」
でも、身体の反応は正直だ。気を抜いた瞬間、ストンと何か落ちる音が頭蓋骨の中に響いた気がする。
レイ「大丈夫か?顔色が…」
アグネス「平気よ」
看護師「少し脈を計りますね」
看護師さんは、私の返事を聞き流し右手首から脈を取り始める。制服を着こんでいる為、持ち運び式の上腕血圧計が使用できないのだ。上着をはだけようにも周囲に人が居る。
ミネルバ戦死者遺族「あの…。大丈夫ですか?」
ミネルバ戦死者遺族「お手伝いできることはありますか?何か周囲から隠す物を…」
同じ列に並んでいたご遺族の方々が心配そうに集まって来て下さる。これは申し訳ないし恥ずかしいわ。
アグネス「(不確かな根拠で勝手にヒートアップした挙句、周囲にご迷惑をお掛けするとは…。情けない!)」
せっかくの故人の顕彰の場の終わりを台無しにしてはいけない。両足先を気合で動かし、電撃を脳髄に叩き込んで意識を覚醒させる。左足の痛みが軽い。治って来ているのだ!
看護師「む!めっ!」
脈拍計測中の看護師さんから短い抗議が届く。目線で謝り心配して傍に集まって下さった4、5人のご遺族にお声を掛ける。
アグネス「どうかお構いなく。お騒がせをして申し訳ありません。大したことはありませんので」
ミネルバ戦死者遺族「…どうかご無理をなさらずに。ご自愛ください」
アグネス「皆様も、どうか健やかに」
私達の遣り取りの間にレイ付きの看護師さんが式典スタッフにご連絡を入れて下さっていた。 - 197二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 22:47:16
式典スタッフ「こちらに。休憩スペースにご案内します」
レイ、アグネス、看護師「ありがとうございます」
私達は来た時と同様、忍者のように皆より一足早くサササッと退場していく。彼らにホールから直ぐの控室にご案内してもらう。
意識は既に朦朧としている。
看護師「大丈夫、大丈夫。身体がエネルギーを傷の修復に総動員している証です。普段よりちょっと疲れやすくなっているだけなので。正常な反応ですよ」
レイ「少し休め。俺も疲れた」
アグネス「…ありがとう」
レイが『疲れた』と口にしてくれたお陰で何だか肩が軽くなる。それは言ってはいけない言葉だと思っていた。
アグネス「うん…」
私の顔を覗く彼の青い瞳を目にした次の瞬間に瞼が閉じ、私の意識は一旦途切れてしまう。
…パチリ!
アーサー「おお。起こしてしまったか。済まない」
アグネス「副長…おはようございます?留守が長引き申し訳ありません」
アーサー「いや、どうかしっかり休んでくれ」
空いたばかりの目で周囲を確認する。傍には看護師二人とトライン副長。控室にはアスランとシンとルナマリアも来ていて、レイはシンと何やら会話中だ。
看護師「今、アグネスさんは『ファウンデーション王国解放勲章』を授与してもらった所です。副長さんが纏めて受け取ってミネルバの皆にお渡ししているのだとか」
看護師さんはそう言って証明書を見せて下さる。勲章ケースは未だトライン副長の手元に。彼はちょっと考えた後、ケースから勲章を取り出し、私の左胸に留めて下さる。彼の左胸に留めてある物と同じメダルを。
アーサー「おめでとう。これは我々ミネルバの皆で受取ったもの。今後も共に頑張ろう。慌ただしくて済まないな」
アグネス「ありがとうございます。厳しいスケジュールの中、わざわざ足をお運びいただき恐縮に思います。以後も一層の力戦奮闘に務めます」 - 198二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:13:41
次スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart23|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの23スレ目です。アグネスは、傷の快癒前から…bbs.animanch.com早く体調が治ってくれないかな。すぐ疲れてしまって困っているわ。でも負けない。頑張るわ。応援してね。
- 199二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:20:57
いいぞアグネス
行け行けアグネス
セイノッ⊂(^・^)⊃
フレー\(~0~)/フレー - 200二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 06:22:23
200ならアグネスはもっと酷使される