「鬱・R15描写」P咲季短編 秋雨前線

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:42:46

    初めて小説書きました。そして初スレです。pixivにも投稿しています。

    #学園アイドルマスター #花海咲季 秋雨前線 - 一本松の小説 - pixiv真夏、クーラーが肌寒いほど効いている。外の空気はからっとしているはずが、楽屋の中はまるで豪雨の直前のように、人にイラつかせるぐらいしっとりしている。 モニターが「花海佑芽:新たな一番星、輝く!」というテロップの上に、赤髪で活気が溢れる少女が大変嬉しく飛び跳ねる様子が映っている。そwww.pixiv.net

    うつ展開とR15描写あります。苦手な方はブラウザバックお願いします。

    設定はプロデュースコミュ・初星コミュベースです。

    イベント・サポカはすべて閲覧済みではないのでご了承ください。



     真夏、クーラーが肌寒いほど効いている。外の空気はからっとしているはずが、楽屋の中はまるで豪雨の直前のように、人にイラつかせるぐらいしっとりしている。

     モニターが「花海佑芽:新たな一番星、輝く!」というテロップの上に、赤髪で活気が溢れる少女が大変嬉しく飛び跳ねる様子が映っている。その姿を見て心が躍って応援したくない人がいないだろう。テーブルの横に座っている同じ赤髪の少女は微笑んでモニターを眺めているが、目の隅にかすかな光が見える。

     「ガラッ」

     ドアが開き、子供の気質が残っているスーツの男が入ってくる。「咲季さん、この後佑芽さんのライブがあります。特等席の手配はしております、行きましょう。」少女の背後を見て、男は優しく声をかける。

     「さすが私のプロデューサー、気が利くじゃない?早くいこう、佑芽の輝く姿を、このお姉ちゃんがすべて見届けないと!」いつものように元気そうな声とともに素早く目のあたりをこすった後、咲季と呼ばわれた少女が立ってプロデューサーと一緒に楽屋を後にした。

     初星アイドルフェスティバル、通称HIFという初星学園一大イベントの裏側に、ライブの準備で大忙しい舞台裏に、行ったり来たりするスタッフと何度もすれ違いながら咲季とプロデューサーが観客席へ歩く。

     「ごめんなさい。私、佑芽に負けたわ。」小声で呟き、咲季が前に歩いて道を開くプロデューサーの袖を軽く引っ張る。

     プロデューサーは歩きを止めて、咲季に振り向く。「咲季さんのパフォーマンスは今まで一番魅力的でした。ずっと見ていたあなたのプロデューサーとして私は保証します。今回は残念でしたが次回こそ勝ちましょう。」

     「うん、そうね。今度こそ勝ってもらうわ!そう、だってもう逃げ道はないもの!うん、そうよ!」しばらく俯いて、咲季が自分を説得するように言葉を繰り返し、プロデューサーを先越して早歩きで進んだ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:44:25

     HIFの翌日、咲季は何もなかったようにトレーニングをしていた。元アスリートの彼女は自身の体調を完璧に把握している、そのためイベント後にリカバリーデイを設けずにトレーニングを続行することはよくある。周りのひともこのことに理解があるため、止める人はいない。しかしHIF最終オーディションの翌日から咲季のトレーニングは少し周りの目を引き付く。
     「はぁ…はぁ…」咲季が手を膝に支え、激しく呼吸を繰り返す。それもそうだ、咲季のトレーニングが徐々に過激となり、あの体力至上主義のトレーナーですら止めるかどうかを悩み、複雑な表情で咲季を見守っている。
     「咲季ちゃん、そろそろ休んだほうが…いいと思う。」「そうそう、咲季っち頑張りすぎ!」2人のクラスメイトが寄ってくる。
     銀髪で顔たちが欧米人のクラスメイト、葛城リーリヤはこの姿の咲季に見覚えがある。何せ咲季にトレーニングプランを見直してもらう前の自分もこうなるまで練習する日々を送っていた。
     背が高く活発的なクラスメイト、紫雲清夏も咲季の助けを受けた一人である。昔のように思うままダンスができるのは咲季がリハビリの手助けしてもらったおかげだ。
     「咲季ちゃん、どうしてここ最近ずっと激しいトレーニングしているの?」「頑張るのはいいけど節度を持たないと大怪我しちゃうよ。」暗闇にいた2人に手を差し伸べる人は今になって自壊するまで加速し続ける蒸気機関車のように振舞って、2人として見てはいられない。
     「ふぅ…大丈夫よ、この花海咲季、自分の体調くらいちゃんと管理しているわ。ただ、自分の限界を超えられないとあの子には勝てないと思うの。」大きく息を吐き、立ち上がってトレーニングを再開しようとしている咲季の目に、見たことない光が揺らいでいる。
     「まぁ…分かるから何も言わないが、ほどほどにしてね…」咲季の言葉に何も返せない清夏とリーリヤは心配しながらも自分のトレーニングに戻った。

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:45:09

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  • 4二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:47:09

     花海咲季は花海佑芽の姉である。佑芽にとって「理想のお姉ちゃん」になるため学業だけでなく、親から学んだスポーツも勝ち続けると決めた。しかし咲季と佑芽の間に絶望的な体格差がある。咲季が優れた学習能力で一時的に優位に立つも佑芽が体格差による圧倒的な優位性であっという間に追いつく。これまでの咲季は、負ける直前で次のスポーツに乗り換え、時間差で佑芽を勝ち続けた。しかし咲季の中にこれは勝ち続けたというより逃げ続けていたと考える。咲季が最後に見つけた体力がすべてではない「スポーツ」、それはアイドルである。
     しかしアイドルに乗り換えても佑芽は狙いを定めたライフル弾並みのスピードでライバルを追い抜き、あっという間に補欠合格から首席の咲季と同等程度の評価となった。それても2人ども参加したイベントにおいて、咲季は僅差で勝ち続けた、少なくとも夏のHIFまではそうであった。
     咲季とプロデューサーは佑芽のライブが終わって様子を見に行った時、秋の定期公演でもう一度勝負すると約束した。そして今、咲季は公演の出場権にかけた試験に向けてトレーニングを励んでいるところである。
    翌日、いつものようにプロデューサーは寮から咲季を迎えて登校する。「咲季さん、葛城さんと紫雲さんからあなたのオーバーワークについて聞きました。最近完全休養日も設けていないので、そろそろ休んでください。」プロデューサーは珍しく咲季に休みを勧めた。
     「だめよ、佑芽に負けると今度こそ本当に立ち直れないわ。自分の調子ならわかっているから、今回だけさせて。」珍しくプロデューサーから休みの勧告を受け、少し訝しくても咲季は答えた。揺るぎない文字の隙間から懇願の成分がにじみ出る。
     「わかりました。代わりにトレーニングは俺の立ち合いで行ってください。いつもより激しいトレーニングであればいつもより手厚いサポートも必要でしょう。ほかにできることがあれば遠慮せず言ってください。」体調管理は咲季自身で行っているため、プロデューサーは基本それを尊重してスケジューリングしている。
     「分かってるじゃない、さすが私のベストパートナー!ありがとう、プロデューサー!」咲季は笑ってプロデューサーに振り向きながら、手は無意識に拳を握りしめる。

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:48:22

     試験のステージに、佑芽はいつものように圧巻のパフォーマンスを見せる。出場が控える咲季はいつもステージ上の佑芽を見て笑いながら武者震いする。佑芽は最強のライバルだがその前に妹である。咲季は妹の成長に嬉しく思いながらライバルの強さで興奮する、プロデューサーとして何度も見ていたこの光景が、今日だけ少し違和感を覚える。笑っている咲季の瞳孔が縮み気味であり、いつもの武者震いも若干前傾姿勢に固まっている。
     「珍しく緊張していますか?」プロデューサーは咲季にぬるま湯を渡し、優しく声をかける。
     「当然じゃない。あの子、HIFよりも上手くなっているわ、HIFよりも輝いているだもの。すでに一度負けたから、今度負けたら完全にダメになるわ。」盛大な歓声に送られステージを降りる佑芽を目送し、咲季は渡されたボトルを握る、「ガシッ」という音が立つほどに。
     言葉に今までない重みを感じたプロデューサーは何を言おうかためらった。結局話す機会を逃し、「いってらっしゃい」の一言で咲季がステージに上がるところを見送った。

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:50:00

     「緩やかですが秋雨前線が北上してきます。皆さん、雨対策はお済ですか?体調管理に気を付けてください。それでは昼休憩の部はここまでです。放課後の部には秋季定期公演のセンターポジションが決まった一番星:花海佑芽さんをインタビューします。ご期待ください。」元気な声が送る校内放送の音が廊下に響く。
     午後のレッスンに向けて教室から出た生徒の中、一人だけ鞄をもって他人と逆の方向へ行く。それを見た生徒たちはひそひそと議論する。「あれ、花海姉じゃない?首席入学なのに連続で補欠合格の妹に負けた。しかも定期公演は出場資格がある3位すら入らなかったって。」「本当に?最近午後に姿見ないし、もうやめようとしてるのかな…心配だね。」
     咲季は俯き、耳を抑えながら早歩きでこの耐え難いノイズまみれの空間を抜け出そうとしている。
     初星寮、花海咲季の自室。
     靴を脱ぎ、灯りも点けず、咲季は制服のままベッドに飛び込む。試験の日以来、五感は脳に入ってもすぐどこかに流される。今目に映る部屋の景色も、彩度とコントラストを失い、脳に送る必要すらなくそのまま消える。
    咲季は天井へ伸ばす人差し指を見つめる。「あの子、私が届かないところへ行けたわ。」指を越えて目の焦点を天井へ移す。「「完璧のお姉ちゃん」じゃなくなったから、少し休むだって困る人がいないわ、きっと…」手を戻して咲季は寝転ぶ。
     ブルブル、携帯の画面が点いた。プロデューサーからのボイスメッセージである。「咲季さん、しばらく会っていませんが、ちゃんと休みとっていますか?俺はこれからしばらく出張します。私がいない間プロデューサーは生徒会長の十王星南さんに引き継がせていただいています。何か困りことありましたら俺に連絡してください。」
     秋雨の先遣隊がやってきて、空に暗雲とにわか雨をもたらした。世界はさらに一層彩度を失う。

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:51:29

     HIFより3か月が経ち、秋雨がだんだん激しくなる。連続の大雨で初星学園も時々休校せざるを得なかった。
    プロデューサーは星南から電話を受ける。「もしもし、十王星南よ。花海咲季さんのことについてだけど、最近よからぬ噂が出回っているわ…」
     「…分かりました。今からそちらに戻ります。詳しい話は着いてから話しましょう。」プロデューサーは淡々と話し、携帯を下す。
     自分に緑茶を入れる、飲もうとする時プロデューサーの舌先に痛みが走る。震える手から湯呑の温度が伝わっていないが、どうやら飲むに熱すぎたようだ。緑茶をテーブルに置き、初星学園に戻る交通手段を調べる。
     …
     昼頃、高等部の学生が教室を出入りする中、スーツの男が廊下を通る。アイドル科の生徒にとってこれはよく見る風景である。しかしその顔に見覚えのある生徒が小声で話す。「あの人、花海姉のプロデューサーだよね。本人も担当もしばらく学園で見ないけど、何があった?」「担当があんなズタボロになってようやく帰ってきたの、いいご身分だわ。」「とうとう潮時が見えたんじゃない?あんな化け物のような妹がいて、お気の毒に…」「花海お姉さま、大丈夫ですの…」
     濁流のように耳へ流し込む声を脳から掻き出し、プロデューサーは生徒会室に入る。
     …
     残暑はとっくに過ぎ去ったが、今日は人に理性を失わせるほど蒸し暑い。目に映る景色は黄昏のよりも暗く、空に闇雲が滾る。
     生徒会室にて、プロデューサーは十王星南とアサリ先生と咲季の近況について情報共有を行った。刻一刻を争う状況である。ただいま、十王星南がかつて代理プロデュースした生徒、藤田ことねから連絡が入った。ことねはバイト中、咲季らしき人物と見知らぬ男の接触を目撃した。
     商店街を駆けて、脳裏に刻まれた姿を捜索するプロデューサーの目に忘れるはずがない赤が入り込んだ。赤髪の少女はスーツ姿の男と何か話しているようだ。
     ポタポタと地面が水ができた円で濡らされる。秋雨の本陣がきたようだ。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:52:24

     「失礼します。わが校の生徒と何をしているのでしょうか。」プロデューサーは咲季と男の間に入る。
     「その顔、あなたが花海咲季さんのプロデューサーですね。私はこんなものです。」
     「961プロダクション、ということは極月学園のプロデューサーですか。私の担当にどうな御用でしょうか。」プロデューサーは渡された名刺を眺め、トーンを低くする。
     「ここ最近花海咲季さんのパフォーマンスが急激に低下したと聞き、初星学園ではその才能を発揮できないと思い、極月学園への移籍を提案したところです。」まだ若いプロデューサーを通り越して、引き続き咲季に声をかける。「わが極月学園に移籍すれば、花海咲季さんの才能を遺憾なく発揮でき、正面から妹さんに復讐できるでしょう。雨が激しくなりそうなので、今日はこれで失礼します。いつでもご連絡お待ちしています。」
     961プロのプロデューサーは会釈し、路地に溶け込んだ。残された咲季とプロデューサーは雨音に包まれる。「学園に戻りましょう、このままだと風を引きます。」沈黙を打破し、プロデューサーは咲季の手を引いてその場から離れた。
     …

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:55:11

     商店街にあるビジネスホテルの一室、プロデューサーはタオルで咲季の髪を乾かす。何度も鮮やかで絹のようによく手入れされた赤髪は少しやつれ、いつもの輝きを失う。「咲季さんはお風呂に入ってください。」「うん。」会話にならないほど必要な会話の後、二人は壁に隔てられる。
     外は大雨と強風のデュエットで天変地異のようになっている。もちろん学園へ戻る公共交通機関はすべて運転見合わせになっている。学園と寮に必要な連絡を入れ、プロデューサーは沈黙に陥る。今日の出来ことがあまりにも多く、プロデューサーは反抗することなく疲労に混沌へ引きずり込まれる。
     「ガタッ」
     ドアの音で意識を取り戻したプロデューサーの視界に、赤と白の影が入り込む。目の焦点が影に合わせた瞬間、それの正体と自分のところへ寄ってくる事実を認識する。
     「咲季さん、なんでタオル――」影の正体を認識し、慌てて止めるところ、プロデューサーの声が遮られ、背後に細い腕が回した。
     唇から柔らかい感触が伝わってくる。シャンプーと太陽のような香りが鼻の奥を通り脳をくすぐり、それとともに顔にかすかな暖流が移る。プロデューサーは咲季を押し出そうとした。背が小さくても成績を多く残した元アスリート、体系維持程度の運動しかしていないプロデューサーは咲季の全力に負け、咲季が離れるまで動かすことができなかった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:55:50

     初めてこんな近距離で咲季の顔を見る。大きな目に小さな真珠が浮く。瞳にいつもの輝きが消え、窓の外と同じ暗雲が滾る。この世に存在したいかなる人よりも美しいと思わせる顔に風呂上りか酸欠故の紅潮が浮かぶ。
     我に返ったプロデューサーは後ろに下げた。「咲季さん、落ち着いてください!」目の前にはだけた咲季がいる。「我々はプロデューサーとアイドルの関係です、こうすると今後のアイドル活動にどれくらい響くのか咲季さんも知っているはずです!」咲季が混乱に陥っていることを理解したプロデューサーはいつもより大声を出して、いつもより硬い言葉遣いで咲季を目覚めさせようとする。
     「私はもう理想のお姉ちゃんじゃなくなった。」咲季らしくない、震えていつでもこぼれそうな声である。「アイドルをやる理由はなくなった。プロデューサーも私から離れそうとしているの。」
     「お願い、私のすべてをあげるから、私から離れないで――」プロデューサーは何かを言おうとするが、咲季は一歩進んで話すことを許さなかった。
     時間さえも忘れさせる長い粘膜接触の後、咲季はプロデューサーを抱きしめ、震えた声でその耳元でささやく:
     「私を独占して…」
     いつも太陽のように周りを照らす彼女は今になって春日にさらされた雪片のように、自分の懐に収まる。息が戻ったプロデューサーの脳に、何かが滲む。
     「パチッ」
     記録的な大雨で送電施設が故障し、商店街は大規模な停電に遭った。

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:58:02

     翌日、雨は止まないがその本陣がすでに通り過ぎて、交通は復旧した。
     完全休養日以上に柔らかくなった、プロデューサーと手をつないでリードされる咲季を見て、玄関で待っていた寮長は驚きを隠しきれなかった。
     特例としてプロデューサーを咲季の部屋に通した。部屋に入って咲季はすぐ眠りについた。連日の不調で体力が持たなかっただろう。咲季をベッドに入れたプロデューサーは咲季の部屋を見回る。
     初めて入るこの部屋はものが少なく、咲季らしい配置になっている。片付けはやや崩れて、しばらく掃除していない痕跡がところどころ見える。床に揉まれた紙が散乱している。広げてみるとメモの1ページのようだ。
     「初て佑芽に負けた。メッキがはがされた感じがする。プロデューサーは今度で勝ちましょうと言った。本当に勝てるの?ううん、必ず勝つ。勝たなきゃいけない。これまでプロデューサーのいう言葉は外れたことないもの。」
     これはあの花海咲季の直筆だとにわかに信じ難い。しかし咲季のすべてを見たプロデューサーはこの事実を信じるしかなかった。
     「プロデューサーは出張に行った。クラスにはプロデューサーが私を見限って極月学園に移籍したという噂が流れている。」揉まれたところをさらに広げると数行開けて少し躍る筆跡で書かれた文字が現れる。「極月に行けばプロデューサーに会えるかも。」
     …
     「うう…プロデューサー…私の…そばに…」見た人の心が痛むような表情で頬を濡らした咲季からうなり声が伝わる。少しためらって、そっとその手を優しく包み、プロデューサーはベッドの横に座り込む。

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:58:55

     …
     「うう…ん」重い沈黙を破り、うなり声とともに、咲季は起き上がる。「??…プロデューサー…?そうか、昨日は寮まで送ってもらったわね。…あっ」自分の部屋に何が変わったかを検視しているような咲季、一周回って視線は重ねる手の上に落ちる。一瞬顔がほころび、そして何か思い出したようにまた凋んでいく。
     「おはようございます、咲季さん。」咲季が起き上がるとともに、プロデューサーは重ねた手を戻す。代わりに体を起き上がり、咲季を腕の中に納まる。「そばにいられなくて申し訳ありませんでした。これからいかなる理由があっても決して離れないと約束します。」丁重に話ながら、腕を無意識に締め付ける。
     「うええっ?」今までなかったプロデューサーの行動に咲季が目を大きく開く。しかしプロデューサーの腕が締め付けるほど、心の奥から安心感が沸き上げて脳に浸透する。「うん、約束ね。」柔らかい声とともに、咲季も自分の腕を締め付ける。
     窓の外、雨は収まる。秋の到来を宣言するように、空気はいつもより冷たい。

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 19:59:47

     ある公演のステージに、咲季はセンターポジションで全身全霊なパフォーマンスを送る。心の奥から湧き出る愛は激流のように観客席を隅々まで席巻し、熱狂的なファンを傾倒させる。
     ステージの終わり際、咲季は呼吸を整え、何かを覚悟したように告白をする。「私はかつてある人を勝つために努力していた。しかし今はある人の一番にい続けるために、このステージに立っている。」歓声に満ちたスタジアムは一瞬で厳冬のような静寂に覆われる。困惑している観客をそっと置き、咲季は振り向かずにステージを降り、楽屋へ駆ける。
     「プロデューサー、今日のステージはどうだった?」咲季は楽屋に待っている男の懐に飛び込む。
     「いつも通り…いいえ、咲季さんはステージに上がるたび、俺を虜にするパフォーマンスを届けています。」飛び込んだ少女を受け止め、プロデューサーは腕を締め付ける。「よく言いました。安心してください、これから何があっても俺が解決します。これはプロデューサー、あなたのパートナーの仕事ですから。」

     季節が流れ、また雨が迫ってくる。雨の後に来るのは兆しか、粛殺か、本人のみぞ知る。


    CC BY-ND

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