マチュの苦学生センパイを妄想する

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:43:22

    特別な人で、特異だった。
    塾帰りに何となしに寄ったカフェで、センパイは働いていた。勉強を教えてもらうことがあった。自習室のサービスの一環で、上級生が応答役を務めていた。センパイのかみ砕き方は塾の先生よりも理解を容易にしてくれて、だからこそ彼女を覚えていた。
    「親がいないから、自分でなんとかしないとね」
    センパイは苦笑交じりでそう答える。己のデリカシーのなさを謝罪する。いいのよと言ってくれた。ハイバリーに通いながら苦学の道を歩むセンパイ。落ち着いた物腰と、忙しい中でも丁寧に生きる姿勢。自立した生き方や、過酷な状況でも前向きな姿勢。心酔とまではいかなくとも、素直に憧れた。頭脳明晰だったし、よく見ると整った目鼻立ちだった。
    センパイの働くカフェに通ったり、放課後に話しかけたりしたが、どこか距離を保たれていた。今考えれば、単に生活や卒業後に向けた就職活動からくる忙しさによるものだったろうが、当時の私はそれすら「先輩の大人っぽさ」と解釈していた。
    ある日、センパイのアパートに忘れ物の参考書を届けに行った。質素な部屋。洗濯物の山。冷蔵庫に貼られたシフト表。「普通の苦労」を垣間見て、それすら「かっこいい」と感じた。「そんな大したことじゃないよ」と、寂しそうな表情がある。
    刻は巡り、廻り続ける。1年後、センパイは高校を卒業し、希望通りコロニー内の行政機関に就職した。公務員として"安定した"生活を始めていた。私は2年生になった。
    街のショッピング・モールで、偶然再会した。スーツ姿。声を掛けて、笑顔を返してくれた。変わらずたおやかだったけど、奥底に澱が溜まっているようだった。
    私は戸惑う。「安定って大事だよ。派手じゃないけど、悪くない」空虚に響いた。「センパイはもっとすごい人になると思ってた」口にせずとも心の中で感じ、胸に苦いものが広がる。
    お母さんみたいだったな。ふと思う。この先、センパイと何度会うのかな。偶然の再会? それとも、誰かの結婚式や同窓会で、気まずい笑顔を交わすだけ? もしかしたら、これが最後かもしれない。
    窓の外、通り過ぎる人々の影が彼の顔に重なった。カップを置き、そっと息をついた。私もセンパイのも、もうとっくに別々の道を進み、交わらないかもしれなかった。ガラスに映る自分の顔が、どこか冷たく突き放すように微笑んでいた。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/19(月) 22:53:42

    期待

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