【プロセカSS】志歩がSTANDOUTに加入した世界線

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:22:23

    初作品です。スレ立ても初なので立てるカテゴリが違ったら教えてください。
    時系列はResonate with youの途中から

    ~ライブハウス~
    「・・・演奏を聞くだけ。それだけ、だから」

    ー数ヶ月後ー
    ~一歌の部屋~
    「・・・よし、課題も終わったかな」
    明日の授業の予習と課題を終わらせて、時計を見ると21時過ぎくらいだった。最近は暇な時間が多いから、やるべきことは早めに終わらせている。ときどき音楽ショップで気に入ったCDを見つけて、部屋で聞いていたら時間が経っていた、なんてことはあるけど。
    「そろそろ行こうかな」
    私はスマホを取り出して、「needle」を再生した。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:25:27

    ~教室のセカイ~

    教室に着くと、ミクが窓際に椅子を置いて外の景色を眺めていた。夜の月の光だけが射した薄暗い教室でミクは一人で座っている。気配に気づいたのか、私の方へ振り向いた。
    「こんばんは、一歌」
    「ミク。今日もよろしくね」
    「まかせといてよ」
    ミクは椅子に座ったまま体をこちらに向けた。表情ははっきりとは見えないが、寂しそうな雰囲気はしない。
    私もこの空間に哀愁を感じることはない。寧ろこの薄暗さが安心感をもたらしているとさえ感じている。咲希だったら「なんか夜の学校ってワクワクするよね~!」とか言いそうだな。
    セカイに来たら必ずすることがある。そのために私は黒板前へと歩く。そこには数日前と変わらないベースがスタンドにかけてあり、ドラムとシンセが置いてある。
    「ミク、最近志歩はセカイに来た?」

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:26:41

    「・・・ううん、来てないよ。けど、咲希がこの前来たんだ。少し話したけど、屋上で星を眺めに来ただけみたいで、すぐに帰っちゃった」
    「咲希が・・・?そっか・・・」
    ミクと少し話したあと、私は楽器を磨き始めた。数日に一度は磨いているため、そんなに汚れてはいないのだけれど、これがセカイに来た時の日課になっている。特に理由があるわけではなく、私の自己満足でやっていることだ。もしかしたら咲希達がセカイに来て、ここで練習するかもしれないから。それに…ホコリのかぶった楽器を、見たくないから。
    一通り磨いてから、自分のギターを持ってミクに話しかける。
    「それじゃあミク、始めよう」
    「うん、やろうか」
    ─────私はよくセカイに来てはミクとこうやってセッションをしている。志歩達がいつ帰ってきても自信をもって迎えられるように。毎日のように練習してる志歩からしたら私の練習量なんて大した事ないだろうけど、それでも何もしないよりはましだ。

    終わった後にミクからアドバイスを受け、指摘された点を修正してからこの日の練習は終わった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:28:58

    ー翌日ー

    ~宮益坂女子学園 1ーC~
    いつものように登校して、教室のドアを開ける。
    「あ、一歌おはよ~」
    「おはよう」
    「最近暑くて登校するだけで汗止まらないよ。はやく夏休みにならないかなあ~」
    同じクラスの友達と軽く会話を交わしながら、自分の席に向かう。隣は咲希の席だけど座っていなくて、どうやら友達と話しているらしい。もうすぐ夏休みだからそのことについて話しているんだろうな。
    ホームルームの予鈴がなり、みんな席に座りはじめた。咲希も隣に座り次第、こちらに体を向けて話しかけてくる。
    「いっちゃんおはよう!もうすぐ夏休みだよね!何する何する!?」
    咲希はあの日以降も、いつもと変わらないテンションで話しかけてくる。いや、夏休みが近づいてきていつもよりは気分があがっているみたい。私としても咲希との仲が変わらなくて嬉しい。
    「ふふ、咲希は相変わらずだね」
    「だってだって、中学生のころはちゃんと夏休みを過ごせなかったんだし、その分高校生活で取り返すんだから!!」
    「そうだね。私もみんなといっぱい思い出作りたいな。またフェニランとか───」
    「はい静かにしろー。ホームルーム始めるぞー」
    会話の途中で先生がきて咲希も体の向きを前に戻す。日直が号令をかけて挨拶をして先生が話し始めた。ふと咲希を見ると、先生の話を聞いているというより、僅かに微笑みながら虚を見つめているような気がした。

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:31:29

    ー放課後ー
    「うう~、宿題いっぱいでちゃったよ~」
    「テストも近いからね。咲希はこの後部活だっけ?」
    「うん!夏休みには試合もあるからね!最近調子が出てきていい感じなんだ~」
    そういって咲希は右肩をぐるぐると回す。
    「ふふ、そうなんだ。無理はしないようにね」
    「うん!ありがとう!いっちゃんは今日バイトあるの?」
    「今日はバイトは休みかな。けど委員会の打ち合わせがあるから、少し学校に残るよ」
    「そっか!じゃあアタシそろそろ行くね。また明日~!」
    咲希は前に比べて部活に行く日が多くなった。部活もだけど、私や穂波以外の人と関わることが増えた気がする。咲希は人懐っこいから、学校に復帰してから数か月しかたってないのに友達は多くいる。特に友人関係で困っていることは無さそうだ。かといって別に私たちのことを避けてる感じはしないし、前と変わらず話しかけたりしてくれる。あの日以来から、特に咲希の様子が心配だったけど、今は元気そうで少し安心している。
    朝比奈先輩と待ち合わせをしている教室へ向かうために廊下へ出た。
    「あ、一歌ちゃん」
    「穂波。今から帰り?」
    「うん。今日はバイトがあるからね。一歌ちゃんは?」
    「今から委員会の打ち合わせがあるんだ」
    「そうなんだ。────ねえ、最近咲希ちゃんはどう?」
    穂波はバッグの取っ手を持ち直した。やっぱり穂波も気になるみたい。けど────
    「いつもと変わらないよ。今日も張り切って部活にいってたし。朝から夏休みに何をしようかなって元気に話してたよ」
    「咲希ちゃんらしいなあ。・・・また、みんなでフェニランで遊びたいね」
    そう言う穂波の表情は楽しみというよりは、少し寂しそうでどこか他人事のような、優しい微笑みを浮かべていた。
    ふと、今朝の咲希のことを思い出した。
    「それじゃあ、私は帰るね。またね」
    「あ…うん。また明日」
    そう言って帰る穂波の背中を見ながら、私は呟いた。
    「…やっぱり、気のせいじゃないのかも」

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:33:14

    ハッピーエンドではないから閲覧注意ってつけた方がよかったのかな

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:34:11

    ~宮益坂女子学園 教室~
    「それじゃあ、これで全部かな。お疲れ様」
    「お疲れ様です、朝比奈先輩」
    学級委員の仕事として、朝比奈先輩と夏休み前に配るプリントの整理をしていた。外を見ると空には雲が薄く広がり、低くなった太陽の光を受け止めて優しく光っていた。ただ、綺麗な夕焼けとは言い難く、夏の夕方にしては少し暗いような気がする。
    「今日の夜は雨が降るんでしょうか?いつもより外が暗いような気がするんですけど」
    「少し降るみたいだよ。大雨にはならないらしいけど、一応早めに帰った方がいいと思う。ささっと片付け終わらしちゃおうか」
    そう言って動かした机などを戻し始めた。雨が降ると聞いて、外で部活をしている咲希のことが脳裏によぎる。
    「そういえば、朝比奈先輩は夏休みの予定とかってありますか?」
    「私?私は塾があるからね。あんまり遊ぶことは考えてなかったな」
    「あ・・・そうなんですね」
    「星乃さんは何をする予定なの?」
    「私は・・・」
    話を振っておいて、いざ聞かれると何も答えられなかった。まだ予定がしっかり決まってないというのもあるけど、それならやりたいことを言えばいいのにそれが出来ない。今朝の寂しそうな咲希の表情がチラついて頭から離れない。運んでいた机を下ろし、次に運ぶ机に手をかける。
    「…夏休みの前にテストがあるので、私もあまり考えてませんでした。でも高校生活初めての夏休みなのでとても楽しみにしてます」
    「そうなんだ。お互い、テスト勉強頑張ろうね」
    「はい」
    朝比奈先輩は先ほど私が置いた机の微調整を行っていた。
    「もう大丈夫だよ。先生に持っていくものは私が出しに行くから、先に帰っていいよ」
    「ありがとうございます。それでは失礼します、朝比奈先輩」
    「うん。お疲れ様」
    片付けが終わり、挨拶をして教室を出た。スマホで時間を確認すると部活がもうすぐで片付けを始めそうな時間だ。
    「…雨が降る前に帰らないと」
    そのまま下駄箱へ向かい、薄暗く湿った帰路を1人で歩く。今日は部活の片付けの音がやけに五月蠅かった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:37:17

    ー夜ー
    ~教室のセカイ~
    「それじゃあ、今日はここまでにしようか」
    「うん、ありがとうミク」
    「しばらくは来れなくなるんだよね。勉強、頑張ってね」
    「そこまで追い込まれてるわけじゃないし、普通に来るかもしれないけどね」
    「私はいつでも歓迎するよ。でも、サボりすぎないようにね」
    昨日来たばっかりだけど、今日もセカイに来ていた。テスト勉強で来れなくなるだろうし、気持ちを切り替える為でもある。それに────
    「ミク、咲希のことなんだけど…」
    「…うん」
    ミクがまっすぐと私を見て返事をした。
    「この前咲希がセカイに来たって、昨日言ってたよね。その時どんなこと話したの?」
    少し考え込んでミクは話し始めた。
    「うーん…話したとは言っても、ほんとにちょっと挨拶したくらいだよ。咲希がセカイに来たから、私から様子を伺いに行ったら気づかれたんだよね。屋上にお邪魔しに来ましたって言われて、そこからはもう話してないんだ」
    「そうだったんだ…」
    「何かあったの?」

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:37:59

    「…私、咲希はもう大丈夫かなって思ってたけど、勘違いしてたのかもしれないんだ。学校ではすごく楽しそうなんだけど、ときどき寂しそうな表情をするんだよね。それが気になって…多分気のせいじゃないと思うんだ」
    それを聞いて、ミクは小さく頷く。そして手を後ろに組んだ。
    「一歌は、どうして咲希が寂しい思いをしてるかもって思うの?」
    え、と一瞬言葉に詰まったが、今なら気づくことがある。
    「やっぱり、志歩のことだと思う。今年から学校にも通えるようになって、やっとまた4人で過ごせるかもって時に…」
    あの日の言葉が繰り返されて、悔しい気持ちが蘇ってくる。けど、今の私があの場に居たとしても自信を持って返事を出来る気が未だにしない。やるせない気持ちになる。思わず大きな願望が小さく口から零れる。
    「また、4人で…」
    「一歌は、また4人で過ごしたいんだね?」
    そう考えるのは私の我儘なんじゃないだろうか。
    「咲希はもちろんだけど、穂波や志歩もその想いを持っていると思うよ。みんな、大切な友達でしょ?」
    そうだ、みんなは大切な…
    「…うん。みんな、大切な友達だよ」
    それを聞くと、ミクは微笑んだ。
    「その想い、大切にしてね」
    「うん!ありがとうミク!」
    1つの我儘を決心して、その日はミクと別れた。

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:39:36

    ー翌日ー
    さっそく咲希と穂波に私の想いを伝えに行った。
    咲希は快く受け入れてくれた。
    穂波は初め戸惑いながらも、すぐに前向きな返事をくれた。
    志歩は…今日は学校には来ていないみたいだった。その日は諦めて、その翌日に教室を覗きに行くと、自分の席で音楽を聴いている志歩を見つけた。
    志歩の教室の扉に手をかけるが、いざとなると一瞬迷いがでる

    ────もし断られたら?

    いつからこんな遠い人になってしまったんだろう。私たちは友達のはずなのに。
    自分の想いに自信を持ち、迷いと現状を壊すように扉を強く開く。ちょっと強く開きすぎたせいか、教室に居た生徒の何人かから注目を集めてしまってしまった。その生徒の中に志歩もいた。
    教室に入ると一直線に志歩の元へ向かって言った。
    「志歩、夏休みにフェニランへ遊びに行こうよ」

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:41:22

    ー番外編・前半ー
    ~教室のセカイ~
    「うん!ありがとうミク!」
    そう言うと一歌はスマホを取り出し、セカイから居なくなった。ちゃんと一歌を後押し出来たかな…と、さっき言った言葉を思い返していると、教室のドアが開いた。
    「やれば出来るじゃない」
    ルカは微かに笑みを浮かべながらこちらへ歩いてきた。
    「ルカ、聞いてたの?盗み聞きは良くないよ!」
    「だって気になるもの。あんな相談されたら」
    私は最近、咲希と一歌の様子を見て心配になっていた。前までは4人でセカイにきて賑やかに練習をしていたのに、今では一歌1人になっちゃって…楽器を磨いている時の一歌の表情はいつも寂しそうだった。でも一歌はそんな話題は今までしなかったから、時間が解決してくれるのだと思っていた。
    「ずっとどうしようって悩んでたんだから…」
    月日が経っても、解決したような様子は見えなかったし、何より咲希がセカイに1人で来て帰っていくところを見ると、このままじゃダメだって強く思うようになった。かと言って私からこの話を一歌に持ちかけても良いのか迷っていた。

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:43:03

    「でも、さっきの会話を聞く限り上手くいったんじゃないかしら?久しぶりに一歌の元気な声聞いたわね」
    「…そうだと良いな」
    「あら?もっと自信を持っていいのに。センパイって感じでカッコよかったわよ」
    「もう、ルカ…」
    そんな迷っていた時にルカに相談をした。ルカは『一歌達の想いをサポートしてあげるのが私達の役目よ』と言ってくれた。それはとても強く、確かなものだから、と。
    「でも本当に相談して良かった。私自身も一歩前進できた気がする」
    「先輩として?」
    「……」
    「ふふふ、冗談よ」
    「…ありがとうね、ルカ」
    「いえいえ」
    ホントに感謝してたのにこの人は…と思っていると、ルカがこちらをみてニヤニヤしていた。ちょっと恥ずかしくなった。

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:43:43

    ー数日後ー
    ~ライブハウス~
    「日野森さん、カウンターの掃除が終わったらあがっていいよ」
    「店長、ありがとうございます」
    「いやいや、最近はライブと掛け持ちしてバイトしてくれてるから大変でしょ。こちらこそ助かってるよ」
    「いえ、これくらい当然です」
    standoutのライブが終わって、バイトとして片付けをしていた。standoutに所属してからはバイトのシフトが減ってしまったから、練習の日でも入れる時はなるべく入るようにしている。
    掃除が済み、店長に一声かけてから舞台裏へと向かうと、イオリさんが片付けをしていた。
    「イオリさん。お疲れ様でした」
    「お疲れ様。今日も良かったよ」
    「ありがとうございます」
    高校生ということもあって、いつもなら挨拶をして先に帰らせて貰っているが、今日は違った。

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:44:00

    「あの、イオリさん」
    「うん?どうしたの?」
    「実は、ちょっと相談があって…」
    「相談?……あー、もしかして一歌ちゃんから何か言われた?」
    全く予想しなかった返答に戸惑った。ズレていた目線が合う。
    「え…どうしてそれを?」
    「この前、一歌ちゃんが私に直接会いに来てね。ライブハウスの前で待っていたからびっくりしたよ。私を見つけては早々に『志歩との時間をください』なんて言ってきたから何事かと思ったよ」
    「一歌が…?」
    なぜそこまでしているのだろうか。
    「それで?一歌ちゃんから何て言われたの?」
    「あ…それが、夏休みにフェニランに遊びに行こうって誘われてて、その、予定とかってどんな感じなのかなって」
    「そっか。日野森さんは夏休み期間をまだ経験してないからイメージつかないよね」
    肯定の沈黙をした後、イオリさんは続けた。
    「練習自体は普段と変わらないんだけど、やっぱりこの期間はお客さんが来やすい期間だから、いつもよりは忙しくなっちゃうかな。かといって休みが1日も無いわけじゃないし、休みの日だったら遊びにいっても全然問題ないよ」
    それを聞いて感じたものは喜びではなく、寧ろ起伏すら無い。
    「まあ、日野森さんなら休みの日でもベース触ってそうだけどね」

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:45:43

    「…そうですね」
    「……行くかどうかは、まだ迷ってるんだ?」
    「あ…はい。そうです」
    「まあ、確かに気まずいよね」
    何かを言葉にしようとするが、俯いたまま黙っていることしか出来なかった。
    しばらくすると、イオリさんが口を開いた。
    「珍しいね。日野森さんがここまで悩んでいるのは。やっぱりあの子達だからなのかな」
    またしても何も返すことが出来なかった。けど知りたかったことは聞けたし、もうこれ以上聞くことは無い。
    「すみません、こんな話してしまって。夏休みのことについては聞けたので、今日はこれで失礼します」
    「…そうだね。お疲れ様」
    その言葉を聞いて、少し逃げるように出口へ向かい、ドアノブに手をかけた時に後ろから言われた。
    「後悔しない選択をするようにね」
    「……」
    そのままドアを開けて、ライブハウスをあとにした。

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:47:41

    ~志歩の部屋~
    家に着いても、ずっと考えていた。みんなと遊びに行きたくないわけじゃない。だけど、私にその資格があるのか、行ってしまったらstandoutに戻れなくなるんじゃないか、とか色々考えてしまう。テスト期間ももうすぐ終わって夏休みになるから、そろそろ返事をしないといけない。でも結局決められないでいた。
    「はぁ…」
    このまま悩んでいても答えは出なさそうだし、少しベース触ろうかな…と思っていると、襖越しに声が聞こえた。
    「しぃちゃん?ちょっといいかしら?」
    「お姉ちゃん。どうしたの?」
    少しだけ開いた襖の隙間からお姉ちゃんが覗くようにこちらを見ていた。部屋に入っても大丈夫だと悟ると、静かに襖を閉め、畳に正座をした。いつもならもっと近くにきてベタベタしてくるのに。
    「最近練習頑張ってるわね。勉強は大丈夫?」
    「まあ、練習を言い訳にする訳にはいかないからね。遅れを取らないようにはやってるつもり」

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:49:09

    「あら、そうなのね。ちゃんと同時にこなせてるなんて、しぃちゃん偉いわ」
    「はいはい。それで?何か用事があるの?」
    お姉ちゃんのお節介を相手にする気分ではない。早めに要件を聞き出す。
    「…私の思い違いならいいんだけど…しぃちゃん、何か悩んでることがあるんじゃない?」
    「え…」
    「最初は気のせいだと思ったんだけれど、ここ最近しぃちゃん元気が無かったから」
    正座した足の上に手を重ね、気持ち前のめりになってお姉ちゃんは言った。
    「別に…そんな急に落ち込んだりなんてしてないけど」
    「ええ。でも何か悩んでるように見えるの。些細なことでもいいから、もしそうなら話してくれない?」
    「……」
    家ではあんまり心配かけないように、いつも通りにしているつもりだったけど、お姉ちゃんはお見通しらしい。これは隠しても余計に心配をかけるだけだろう。
    「……実は、一歌達とフェニランに遊びに行こうって誘われてて、どうしようか迷ってたんだ」
    「一歌ちゃん達と…そうだったのね」
    お姉ちゃんには私達が今どういう状況なのかは話していた。standoutにメンバー入りした時はプロ入りがほぼ確定しているということでとても喜んでくれていたが、同時に一歌達との関係を心配してくれた。
    「せっかくのお誘いなら、行きたいわよね」
    「うん…でも今の私が皆と過ごしても、またみんなを困らせてしまうかもしれない。私自身も、皆に対する想いに迷いが出てしまうかもしれない。それが怖いんだ」
    やはりお姉ちゃんにも難しい問題のようで、しばらく沈黙が続いた。そして先にそれを破ったのはお姉ちゃんだった。
    「…難しいけれど、行ってみてもいいんじゃないかしら」
    多少予想はしていた返答が帰ってきて、特に驚きはしなかった。
    「どうしてそう思うの?」

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:50:41

    「だって、しぃちゃんがこんなに悩んでるんだもの。一歌ちゃんも、誘うのにとっても勇気を出したんじゃないかしら?」
    「あ…」
    一歌が教室に乗り込んできた時の記憶が蘇る。
    「きっと、一歌ちゃんもいっぱい考えて作ってくれた機会だと思うの。ここはありがたく受け取ってもいいと思わない?」
    お姉ちゃんの言う通りだ。さっきイオリさんは一歌が直接会いに来たと言っていた。ただただ遊びたいだけで誘ってくるのならそこまでしないだろう。もしかしたら、私の事を気にかけて今回誘ってくれているのかもしれない。もしそうだとしたら、今回のことを断るのはすごく酷なことになってしまう。それこそ本当に、皆との距離がさらに離れてしまってもう誘ってもらうことすら無くなってしまうかもしれない。イオリさんからの許可も出ているし、今、決断することを遮っているのは私の気持ちだけだ。行かなかったらきっと、私は後悔してもし切れないだろう。
    「…うん、確かにそうだね。ありがとうお姉ちゃん。だいぶ自分の中で気持ちの整理ができたよ」
    「そう…!よかったわしぃちゃん!」
    「わ、ちょ…いちいちくっつかなくていいって…」
    「しぃちゃんの力になれたのなら嬉しいわ!」
    お姉ちゃんの抱きしめる力がいつもより少し強かった。知らないうちに結構心配をかけてしまっていたのかもしれない。普段なら押しのけているけど、今日くらいは良いか、と放っておくことにした。
    ────心が軽くなったと同時に感じた嫌な予感は、きっと、杞憂で終わってくれることだろう。答えを決めた以上、今はそう信じることしか出来なかった。

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:52:02

    ー番外編・中編ー

    ー夜ー
    ~ライブハウス前~
    「まだかな…」
    志歩のバイト先であり、standoutがよくライブをやっているライブハウスの前に来ていた。今日の昼に志歩の教室へ行ったが居なかったため、多分ライブハウスに居るだろうと思ったのだ。けど、目的は志歩ではなく────
    「あれ?そこに居るのもしかして一歌ちゃん?日野森さんはもう帰っ────」
    「あ、イオリさん!あの、志歩のことなんですけど、もしかしてずっと忙しい日が続くんでしょうか?!」
    「ちょっとちょっと、落ち着いて。話が見えないよ。まだ今日は時間あるから、ゆっくり話してくれる?」
    「す、すみません…」
    私はイオリさんに聞きたいことがあってここに来ていた。志歩の様子、時間にどのくらい余裕があるのか、がメインだった。元々はイオリさんのところへ行くつもりは無かったけど、穂波をフェニランに誘った時に『私は勿論行きたいけれど、志歩ちゃんは簡単に予定は決められないんじゃないかな』と言われて、先に確認を取りに行くべきだと思ったのだ。
    志歩は順調に技術が上達していること、夏休み期間は休みの日がときどきあって、志歩が良いと言うなら一緒に遊びに行っても構わない、ということをイオリさんは教えてくれた。

  • 20二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:53:27

    「まあ好きでやってることだから、楽しいんだけどね」
    「……」
    イオリさんからの話だと、基本的に志歩が暇な時間というのはほとんど無さそうだった。練習に勉強にバイト、自主練もするとなると時間が全然足りる気がしない。私がその生活を続けるとなると…あまり自信が無かった。
    「────一歌ちゃん?聞いてる?」
    「え?!あっ…すみません!ちょっと、考えごとしてました…」
    私からイオリさんに尋ねてきたのに失礼なことしちゃった…
    そう思っていると、イオリさんは優しい声で続けた。
    「…私が言うのもなんだけど、志歩のこと是非誘って欲しいな」
    「え?」
    「日野森さん、実力は申し分ないんだけど、たまに迷ったような、自信が無さそうな音を出す時があるんだよね。メンバーに誘う前はそんなこと無かったんだけど。多分君たちが関係していると思う。だから志歩を元気づける為にも、一緒に遊びに行ってあげてよ」
    志歩が、自信が無いなんて…
    「…分かりました。私たちに任せて下さい!」
    「うん。頼んだよ」

  • 21二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:56:13

    ー数日後ー

    ー夜ー

    ~一歌の部屋~
    「もう11時か…」
    テストももう近いからテスト勉強をしていた。
    「そろそろ寝ないと」
    イヤホンを外し、音楽アプリを閉じると1件通知が入っていることに気づいた。確認してみると志歩からだった。
    『フェニラン、私も行く』
    「…!!」
    『本当?!ありがとう!』
    返事をした数分後、既読がついた。
    『予定表の写真送った。丸が付いてる日は行けるから、決まったら教えて』
    『分かった!』
    今日はまだ寝れないかもしれない。

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 02:59:46

    ー数週間後ー

    ー朝ー
    ~フェニックスワンダーランド~

    一歌「ちょっと、早く着きすぎたかな…」

    時間を見ると、集合時間よりも30分早かった。
    今日は運がよくすごくいい天気だ。今はまだ朝だからちょっと涼しいけど、昼には結構暑くなりそうな、そのくらいいい天気だった。
    待ち合わせ場所の近くの壁が日陰になっていたので、そこでみんなを待つことにした。
    それにしても、志歩とフェニランで遊べることになって本当に良かった。行けるってメッセージが来た日の夜は結局寝れなくて、授業中に寝ちゃったけど。咲希と穂波に伝えた時も、2人はすごく嬉しがってた。その日から学校でフェニランの話をするようになって、昔に戻れたみたいでとても嬉しかった。
    しばらくすると遠くから声が聞こえた。

  • 23二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:00:42

    穂波「あ、一歌ちゃん!おはよう!」

    一歌「穂波!おはよう!」

    穂波「一歌ちゃん着くの早いね。まだ集合時間まで10分はあるよ?」

    一歌「久しぶりにみんなで遊べると思ったら楽しみで…」

    穂波「ふふ、分かるよ。私もすごく楽しみにしてた。」

    その数分後、遠くに志歩が見えた。

    一歌「あ、志歩だ!」

    穂波「ほんとだ!志歩ちゃーん!」

    手を振ると、志歩がこちらに気づいた。最初は歩いていたけど、ちょっとして小走りにこちらへ向かってきた。

    志歩「2人とも、おはよう…」

    一歌「おはよう!志歩、今日は来てくれてありがとう!」

    穂波「うん!忙しいのにありがとうね!」

  • 24二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:06:26

    志歩「あ…いや、全然大丈夫だよ。それより、咲希はまだ来てないの?」

    一歌「うん。そうなんだよね」

    穂波「咲希ちゃんのことだから、一番最初に来るかもって思ってたんだけど…」

    咲希「ごめーーん!遅れちゃったーー!!」

  • 25二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:06:49

    声がした方を見ると、咲希が走りながら向かってきていた。

    咲希「はぁ…はぁ…ごめんね!服どれにしようって悩んでたら遅れちゃった!」

    穂波「ふふ、まだ時間になってないし大丈夫だよ。」

    一歌「うん。私たちがちょっと早めに来てただけだから」

    咲希「よかったぁ…」

    志歩「咲希、おはよう」

    咲希「志歩ちゃーーーーん!久しぶりーーー!!」

    そう叫びながら咲希は勢いよく志歩に抱きついた。

    志歩「ちょっ…!咲希、暑いからくっつかないで!」

    咲希「だって本当に久しぶり…あ!アタシ汗かいちゃってる?!ごめんね志歩ちゃん!」

    志歩「いやそういう訳じゃないけど…」

    一歌・穂波「ふふっ」

    前にもやっていたようなやり取りをみて、今日は本当に4人で集まれたんだという実感がわいてきた。咲希の気持ちはすごくよく分かる。

    一歌「それじゃあみんな行こうか」

    咲希「おーー!」

  • 26二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:09:09

    ー昼ー
    ~ゴーゴー!フェ二ーくん前~

    一歌・穂波「こ、怖かった…」

    咲希「楽しかった~!志歩ちゃんどうだった?」

    志歩「前に乗ったことあったから、ちょうどいい速さで楽しかったよ。一歌と穂波が叫んでるのも面白かったし」

    一歌「こ、この前1回乗ったからいけると思ってたんだけど…」

    穂波「全然そんなことなかったね…」

    咲希「ねえねえ、そろそろお昼の時間じゃない?」

  • 27二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:09:54

    食い気味に咲希は問いかける。

    志歩「そうだね。ちょうどお腹も空いてきたし、お昼にしよう」

    穂波「うん。そうしようか」

    昼食にするためにみんなでフェニランのレストランに向かう途中、近くで声が聞こえた。

    ミク「みんな、久しぶりだね」

    一歌「ミク!来てたんだ」

    志歩がフェニランに遊びに来れるという連絡が入ってから、私もミクに報告をしに行っていた。それを聞いたミクは自分のことのようにすごく喜んでいた。ミクもみんなと話したいとのことだったので、フェニランについての予定は伝えていた。

    穂波「ミクちゃん!久しぶりだね!」

    ミク「ふふっ。志歩も、久しぶりだね」

  • 28二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:10:58

    志歩「…うん。久しぶり」

    咲希「ちょっとミクちゃん!アタシも久しぶりだよー!」

    ミク「咲希はときどきセカイに来てくれるから、久しぶりって感じしなかったな」

    穂波「咲希ちゃん、セカイに行ってたんだね」

    口を軽く開き、少し腕を上げた咲希は穂波と目を合わせ、一瞬動きが止まる。
    しかし咲希はすぐに明るい表情を見せ、続けた。

    咲希「…うん!星空が綺麗だから、ときどき見に行ってるんだ!いっちゃんは久しぶりじゃないの?」

    一歌「私は結構セカイでギター弾いてるからね。今日のフェニランのことをミクに教えたのも、私なんだよ」

  • 29二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:12:43

    穂波「そうだったんだ」

    志歩「…一歌、ギター練習してるんだ」

    うん、そうだよ……と言いかけたが、直ぐに別の言葉で言い換えた。

    一歌「練習ってほどじゃないよ。ミクとセッションするの楽しいから、趣味でやってるよ」

    志歩「…そうなんだ」

    咲希「あ!レストラン見えてきたよ!」

    ミク「それじゃあ、私はここで。またね」

    一歌「またね、ミク」

    咲希「またね~!」

    ミクが居なくなった後、レストランに入った。この時の何気なく見た志歩の表情がとても印象的だった。

  • 30二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:14:28

    ー夕方ー

    咲希「はぁー!やっぱりトランポリンドームは何回入っても面白いな!」

    穂波「咲希ちゃんすごく楽しそうだったね」

    一歌「でも小さい子も何人か居たね…」

    咲希「ちょうど少なくなってたからラッキーだったよ!みんなも入れば良かったのに~」

    志歩「トランポリンはちょっと恥ずかしい」

    咲希「えぇ~、楽しいのになぁ~」

    そんな会話をしていると、もう夕方になっていた。空は綺麗なオレンジ色に染まり、夜の訪れを感じる。
    もう、帰る時間だ。

  • 31二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:17:16

    一歌達も同じことを感じたのか、みんな無言で夕暮れを眺めていた。そんな中、咲希が口を開く。

    咲希「ねえ、みんなで写真撮ろうよ!」

    一歌「あ、そういえば撮ってなかったね」

    咲希「はい!みんな笑って~…おっけー!」

    穂波「うまく撮れた?」

    咲希「バッチリ!みんなに送っておくね~」

    一歌「ありがとう」

    咲希「最後にお土産買いに行かない?」

    一歌「いいね。行こうか」

    穂波「うん。私も行きたいな」

  • 32二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:17:53

    きっと、お土産を買いに行ったらもう帰るだけ。だってフェニランが閉園時間を迎えてしまうから。そんな当たり前のことは分かっている。
    ……こんなことを思うのは、私らしくない。

    一歌「志歩、いこ?」

    志歩「…うん」

    お土産には、みんなでフェニペンくんのヘアピンを買った。

  • 33二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:19:54

    ー番外編・後編ー

    ーテストが始まるよりも前の話ー
    ~教室のセカイ・屋上~
    今日も、セカイの屋上から見える星空を眺めに来ていた。夜になると気が沈む時が多いから、その度にここに来ることが日課になっていた。
    しばらくすると、屋上の扉が開いた。
    「咲希。今日も来ていたのね」
    「ルカさん。お邪魔しています」
    「いいのよ。ここはあなた達のセカイだから。いつでも来て」
    「はい。ありがとうございます」
    ルカさんはこちらにゆっくりと歩いてきて、立ち止まり聞いてきた。

  • 34二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:22:22

    「隣、座っていいかしら?」
    「あ、はい。どうぞ」
    ルカさんは隣に座ると、一緒に星を眺めていた。数分無言だったが、ルカさんがその沈黙を破った。
    「ここの星空は、いつも綺麗ね」
    「そうですよね。アタシ、この星空とても好きなんです」
    「ええ、分かるわ」
    そんな軽い会話を交わした後、またしばらく互いに無言になった。
    「…アタシ、寂しくなったときにここに来るんです。星空を見ていると、不思議と気持ちが落ち着いてくるので」
    ルカさんはアタシが喋り始めるとすぐに体をアタシの方に向け、丁寧な相槌を打つ。
    「やっぱり、志歩のこと?」
    「はい…退院してから、やっと4人でまた一緒に居られるって思ってたんですけど…」
    「ええ」
    「プロになるのは志歩ちゃんの夢だから…アタシ、昔から志歩ちゃんには我儘ばかり言ってきたから、次はアタシが志歩ちゃんを応援する番なんです」
    1度話し出すと止まらなかった。

  • 35二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:24:01

    「志歩ちゃんがstandoutに入って、4人で居られる時間がほとんどなくて、やっぱり寂しかったんです。けど、もう志歩ちゃんを困らせる訳にはいかないから、別の楽しいことを見つけようとしました。学校で友達をいっぱい作ったり、部活を頑張ったり、放課後遊びに行ったり…とにかく、入院の時にずっと憧れていた青春を謳歌しようと頑張ってみました」
    「そうなのね」
    「そのおかげか、学校にいる間は寂しさを紛らわすことが出来るようになったんです。でも、家に1人で居る時間があると、やっぱり4人で過ごしていた時のことを思い出しちゃって…どうしても寂しくなっちゃうんです。そんな時に、ここに来るんです」
    ふと、横に座っているルカさんを見ると、ルカさんはアタシの目を見て真剣に話を聞いてくれていた。それに気づいて少し照れくさくなったものの、先ほどまでの気持ちはもうどこかに消えていた。
    「すみません、こんな話してしまって」
    「いいえ、そんなことないわ。話してくれてありがとう。ミクと私は、あなた達の味方だから。また何かあったら、いつでも話して」
    「はい。こちらこそ、おかげで少し気が楽になりました。ありがとうございます!」
    「ふふっ、よかったわ」
    立ち上がり、再び空を見上げる。
    「では、アタシはこれで…あ、流れ星!」
    「あら、ほんと。すごく綺麗」
    「お願い事しなきゃ!」
    胸の前で手を組み、目を閉じた。
    「また4人で一緒に、キレイな流星群が見られますように────」

  • 36二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:25:58

    ~帰り道~
    帰り道では、フェニランで遊んだアトラクションについて話していた。トランポリンドームでまた遊びたい、コーヒーカップを回しすぎとか言っていた。
    一通り話し終わったところで、一歌が話題を変えてきた。

    一歌「志歩、今日は本当に、来てくれてありがとう。すごく楽しかったよ」

    ズキっと、心が痛くなった。

    咲希「…アタシも、今日はほんっとうに楽しかった!ありがとう志歩ちゃん!」

    やめて。改まって感謝しないで。

    穂波「うん。また4人で遊べて、すごく楽しかったよ」

    そんなこと言われたら、みんなが遠くなっていく気がして……

  • 37二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:29:05

    志歩「…うん。私も、楽しかった」

    そう、今日は本当に、本当に楽しかった。フェニランには何回も行ったことあったけど、今日が1番楽しかった。
    だけど、こんなに寂しくて孤独を感じる帰り道は、今日が初めてだった。

    一歌「志歩の都合が合うのなら、また、一緒に遊んで欲しいな」

    そんな、都合なんて言わずにいくらでも遊びに…

    穂波「でも、忙しかったら無理はしなくていいからね?」

    あぁ、そうか。私、忙しいのか。

    咲希「アタシ、志歩ちゃんのことずっと応援してるからね!何か困ったことがあれば、アタシがいつでも相談に乗ってあげるから!」

    志歩「…うん、うん、ありがとう」

    これ以上、言葉を出すと平然を保っていられる気がしなかった。
    もうすぐでみんなと別れる道につく。
    嫌だ。

  • 38二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:31:34

    一歌「…じゃあ、私はこっちだから…」

    一歌、最近ギター弾いてるって言ってたよね。どのくらい弾けるようになったの?最近はどんな曲弾いてるの?

    咲希「…っ。アタシも、こっち、だから…」

    咲希、部活頑張ってるって言ってたよね。身体の調子は大丈夫?最近はどんな嬉しいことがあったの?

    穂波「またね、みんな…」

    穂波、友達とはうまくやっていけてる?1人で抱え込んでない?そういえば最近穂波の料理食べてないから、また食べたいな。新しく作れるようになったものとかあるの?

    もっと聞きたいことがある。もっと話したいことがある。もっとみんなの事が知りたい。もっと、もっと…
    ────私、最近のみんなのこと、何も知らないな

    志歩「…また、ね」

    頑張って声を出したけど、みんなに聞こえてるか定かでは無いほどのか細い声しか出せなかった。
    感じていた孤独は現実になり、暗い暗い帰路を1人で歩いた。

  • 39二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:33:18

    ~志歩の家~
    「……」
    「あら、しぃちゃん。お帰りなさい」
    返事は返さずに、自分の部屋へ向かった。いや、返事は返せなかった。


    ~志歩の部屋~
    「……」
    明日は、練習の日だ。プロとして過ごしていくために、ちゃんとしなきゃ。
    明日持っていくもの、用意しないと。そういえば、新曲をやるって言ってたっけ。楽譜に目を通してイメトレしておいたほうがいいな。
    今日持っていったバッグを整理していると、みんなで買ったフェニペンのヘアピンが出てきた。

    咲希『これ、みんなでお揃いで買おうよ!』

    そういえば、そんなこと言ってたっけ…

  • 40二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:35:07

    「しぃちゃん…?」
    「…!」
    「開けても、いいかしら?」
    「……いいよ」
    襖が開くと、心配そうな顔をしたお姉ちゃんがいた。お姉ちゃんは静かに襖を閉めたものの、僅かに隙間が開いており、またお姉ちゃんはそれに気づいていないようだった。私の前に近づいては膝立ちになった。
    「…大丈夫だよ。お姉ちゃん」
    「でも…」
    「ホントにっ…大丈夫…だか、ら…」
    下を向きながらそう話していると、お姉ちゃんが優しく包み込んでくれた。もう限界だった。
    「このっヘアピン…っ…みんなで、お揃いで…買ったんだ…」
    「そう」

  • 41二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:38:58

    「みんな、で…写真も…撮った…」
    「うん」
    「今日は…すごく…すっごく…楽し…かった…」
    「ええ、良かったわね」
    「……………寂しいよ……お姉ちゃん……………」

    お姉ちゃんは、私が落ち着くまでそばに居てくれた。ずっと、抱きしめていてくれた。優しい言葉をかけてくれた。

    ────明日の練習は、休むことにした。こんな中途半端な気持ちで、プロなんて名乗っていいわけが無い、そう思ったからだ。

    ~完~

  • 42二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 03:39:46

    最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました

スレッドは5/21 13:39頃に落ちます

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