【SS】にせティーパーティーの逆襲 Part3

  • 1スレ主25/05/21(水) 21:19:06

    これまでのあらすじ

    ある日突然セイアの前に現れた自分自身のミメシス、模倣セイア。
    ミメシスではあるものの、本物のセイアとまるで本物の姉妹のように互いの心を通わせていく。

    しかし仲間であるはずの模倣ミカと模倣ナギサは裏でトリニティを奪い取る計画を立てており、ナギサたちと対立することになってしまう。
    戦いの末、トリニティは一時ミメシスたちを取り押さえることができたものの、ミメシスたちの首領メフィストフェレスの策略により逆転を許してしまった。

    なんとメフィストは一般市民へ先生から強奪したシッテムの箱および大人のカードの模倣データを支給し、ユスティナ信徒のミメシスを指揮させることで街全体を覆い尽くすほどの数の兵士を用意していたのだ。

    市民たちは虚実を織り混ぜた悪意ある情報、あるいは元から抱いていた不信感によってトリニティへの悪意を持った者ばかりで、不正を正そうとする心を利用され、トリニティを奪い取るゲームへと加担させられてゆく。

    ゲームの名は『ブルーアークカタストロフ』。
    それは何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。

  • 2スレ主25/05/21(水) 21:19:36

    そんな中、友人であったはずの模倣ミカや模倣ナギサとのすれ違いによって模倣セイアは命を落としてしまう。
    そしてこれに怒り狂ったセイアは神秘を恐怖へと反転させてしまい、トリニティとミメシス双方甚大な被害を受けることとなった。

    最後の力を振り絞った模倣セイアやミカ率いるボランティア部などの救援によりどうにか全滅は免れ脱出することはできたものの、トリニティはテロリストたちの手に堕ちる結果となってしまう。

    敗走を余儀なくされるトリニティ。
    だが生徒たちの心は折れておらず、一人、また一人と立ち上がっていく。

    しかし、妹のように大切に思っていた存在を失ったセイアは、未だ暗い闇の底で座り込んだままで……。

    そう、これは本物と偽物の物語。
    どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの物語である。

  • 3スレ主25/05/21(水) 21:21:27
  • 4スレ主25/05/21(水) 21:23:33

    注意
    前スレではネタバレの都合上書かなかったけれども、名有り名無し含め数名オリキャラが出るよ。
    あと設定については捏造多めだけれど、そこは大目に見てくれたまえ。

    また、本スレは一日4000字程度、夕方頃からゆっくりめに更新していく予定だよ。
    感想でも考察でも、コメントを書いてもらえるとすごく嬉しい。
    これまで読んでくれた人、♡とレスをくれた人、みんなありがとう。

    では、続きを語っていこう。

  • 5スレ主25/05/21(水) 21:26:07

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    私たちはトリニティ地下から通じる地下墓、カタコンベの中で生まれた。
    正確に言うなら、ある時突然気が付いたらそこに立っていた、と表現すべきだろうね。

    殺風景な洞窟の中に不自然に置かれた洋風のテーブルと椅子、周りにはミカとナギサが居た。

    『何だここは……?』
    『セイアちゃん、ナギちゃん?』
    『ここはトリニティではないのですか?』

    そしてそこに、あの悪魔が現れた。

    『おお〜!申し訳程度の茶会要素としてテーブルとか置いてみたけど、本当にティーパーティーのミメシスが作れるなんて!やっぱり思念って自分に馴染みのある物の側に集まるんだね!』

    『あなたは、ヒフミさん……?これは一体……』

    『あ、そっか!違う違う!私はメフィストフェレス、メフィストって呼んでね!えっと、私はあなたたちを生み出した研究者で、この姿は借り物なの。だから私はヒフミちゃんではないんだ!』

    この軽薄そうな女はメフィストと言うらしい。
    とてつもない怪しさを感じるが、まずはその目的を聞かなくては。

    『なるほど。時にメフィスト、君の狙いは何なのかな?トリニティのティーパーティーを集結させるなんて』

    『いいや、今は特に無いよ?ただティーパーティーのミメシスを作れるかなーって!だから君たちは自由に行動していいんだよ』

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 21:27:28

    待っていましたよ~!

  • 7スレ主25/05/21(水) 21:28:55

    『勝手に生み出しておいて、何て身勝手だと思うだろうね。けど、せっかくならこの人生をエンジョイして欲しいかな?』

    『何であれ、君たちはこの世界に生まれてきてしまったのだから』

    そう言ってメフィストは去っていった。

    『好きなようにと言われましても、何をしましょう?』
    『う〜ん、私はナギちゃんとセイアちゃんと一緒に居られるなら何でもいいかな?』
    『とりあえず、外に出ていろいろ見てみようか』

    そうして私たちは外の世界を見にいった。
    綺麗な街、活気のある通行人たち、たくさんの目を惹く売り物が置いてあるショッピングモール、記憶にはあるのにどれも新鮮に見えた。

    けど、二人はあまり目を輝かせてはいなかった。

    『いいなーとは思うけど、どうせ買えないもんね?』
    『まあ私たちは食べなくても生きてはいけますし、眺めるだけで十分ですね』
    『だよね。それよりさ、私帰ったらトランプやりたい!三人で遊んでる方が楽しいし!』

    二人とも少し出歩いただけで飽きてしまったようだった。
    手に入らないからと諦めて現状に満足する。
    私はそんな二人が、向上心の無い怠け者に見えていた。

  • 8スレ主25/05/21(水) 21:31:01

    この時の私は、自分は二人とは違うと強く思い込んでいた。
    百合園セイアの記憶にあるのはミカやナギサと違ってベッドで寝ている記憶か、読んだ本に関する知識ばかり。
    だからこそ、より強く外の世界に惹かれたんだと思う。

    そして今日外の世界に出て、改めてその素晴らしさを認識した。
    こうしてその煌めきに取り憑かれた私は、いつしか暗い地下で燻っているだけの愚かな人生なんて到底受け入れられなくなっていた。

    その後、一番愚かなのは私だったと気付くことになるんだけどね。

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    『えーっ!?セイアちゃんバイト始めるの!?しかも接客業!?向いてないよ!』
    『だ、大丈夫なんですか!?お客さんと喧嘩してすぐクビになる未来しか見えないのですが!?』

    『二人とも私を何だと思ってる!シフトは日中だから夕方までには戻る。じゃあ、行ってくるよ』

    そうして私のアルバイト生活が始まった。
    人間というのは、自分の記憶の中では争いごとの絶えない醜い生き物という印象だった。
    けど、アルバイトを通して実際に見てきた人たちは想像していたよりもずっと温かく、思いやりのある人たちばかりだった。
    もちろん陰湿な者も中にはいたが、悪目立ちしているだけで実際はごく少数だった。

  • 9スレ主25/05/21(水) 21:33:23

    『ただいま、ミカ、ナギサ。今日も廃棄のサンドイッチとケーキを貰ってきたよ』
    『わーい☆待ってたよセイアちゃん!』
    『毎回毎回、本当に良いのですか?私たちは何もしていないのに』

    『いいんだよ、店長さんからのご厚意だから。生きるのに食事がなくても、君たちにもこの味を知って欲しいんだ』

    『それから、これを君たちに』
    『ありがとうございます……って、これは!』
    『なになに?』

    私はミカとナギサにスマートフォンをプレゼントした。
    もちろんおしゃれな最新機種など買えないから、中古の安いものではあるけれど。

    『これで離れていても連絡が取り合える。まだ携帯会社との契約はしていないから、公共の電波を拾って使うしかないけど……ってうわっ!』
    『ありがとうセイアちゃん!だ〜いすき!』
    『セイアさん、ありがとうございます』

    喜びのあまり、ミカだけでなく普段はお淑やかなナギサまでもが抱きついてきた。
    思えばこの時が私にとって一番幸せな時間だったんだろうね。

    でも、私はここで選択を間違えた。
    もっと二人に喜んでほしかったし、もっと女の子らしい、華やかな日々を形だけでも送ってほしかった。
    いつかは本物にも負けないいい生活を手にするんだと、私はより一層仕事に力を入れていった。
    二人が本当に欲していたものにも気付かず。

  • 10スレ主25/05/21(水) 21:35:27

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    『あの、セイアさん。今日お時間空いてますか?よろしければミカさんと三人で久しぶりにお出かけでもしようかと……』

    『ああすまない、今日もバイトなんだ。ええと、次予定が空くのは五日後くらいになりそうかな?』

    『そう、ですか……。どうかご無理はなさらないでくださいね?』

    『わかっているよ。じゃあ、行ってくる』

    私はこの日、何が何でも二人のそばにいてあげるべきだったんだ。
    その先に待っているのは華やかな日々などではなく、友を蔑ろにした愚か者への懲役刑だったのだから。

    『最近セイアちゃんバイトしてばっかりだね〜?』
    『ええ、ですがそのおかげで私たちも少しずつ生活の質が上がってきてはいますが……』

    『でもセイアちゃんがいないの、やっぱり寂しいよね』
    『そうですね……。やはり私たちもアルバイトを始めた方が良いのでしょうか?外に出て、そこで新しい人と出会って、関係を築いて、セイアさんだけに依存しないようにしたほうが……』



    『やっほ、久しぶり!最近どう?君たちの近況聞かせてよ!』

    そこへ現れたのがメフィストだった。

  • 11スレ主25/05/21(水) 21:38:00

    『……なるほど、仕事にかまけてばかりのセイアちゃんに、蔑ろにされるナギサちゃんとミカちゃん……。いやそれなんて昼ドラ?その後どっちか浮気して拗れるパターンじゃん』

    『そこまで大袈裟な話ではないのですが、夢を持って邁進するセイアさんに、このままでは置いていかれてしまうような感じがするんです』
    『私もセイアちゃんに追いつきたい!なんか、目標がある人ってかっこいいもん。私もあんな風になりたい!』

    『うんうん、これだけ想ってもらえてセイアちゃんは果報者だね。じゃあさ、まずは二人も目標を持ってみるのはどう?』

    『目標ですか?』

    『そ!例えばセイアちゃん。君たちが使っているそのティーセット、お洋服に化粧品、全部セイアちゃんの稼いだお金で買ったものだよね?』

    『私が思うに、セイアちゃんは二人にもっと女の子らしい華やかな日々を送ってほしいって思ってるんじゃないかな?目標の一つはおそらくそれ。』

    『それともう一つ、彼女自身そんな生活に強い憧れを抱いている。他人のためと自分のため、二つの原動力があるから彼女はここまで頑張れるってことだね』

    『なるほど。でしたら私の目標はずっとこの三人でいること、それと、胸を張って生きられるよう他者の役に立つ行いをすることです』

    『じゃあ私は……うん!やっぱり三人一緒がいい!それと、先生に会ってみたいかも……。記憶の中に強く残ってる、私に優しくしてくれた人』

  • 12スレ主25/05/21(水) 21:43:01

    『いいじゃんいいじゃん!じゃあ次は、その目標を実現するために具体的に何をすべきかを考えないとね』

    『具体的に……』
    『う〜ん難しくなってきた……』

    『ふふ、実は私にいい考えがあってね?それは……』



    『君たちのオリジナルが通うトリニティ総合学園を乗っ取ること!』

    『ええ!?は、犯罪行為じゃないですか!!』
    『テロリスト!テロリストだよナギちゃん!もしもしヴァルキューレ!?』
    『駄目ですミカさん!電話会社と契約していないので通報できません!』
    『ああっ!盲点!!』

    『さすがに冗談。でもね、実は君たちに見てほしいものがあって。ほら、この記事見て?』

    "トリニティ総合学園はエデン条約調印式襲撃事件の際に被害に遭った一般市民への対応が不十分であるとして、インターネット上で非難が集中している"

    『これは……』

    『記憶にはあると思うけど、君たちが生まれる少し前に大きな事件があってね、おそらく上層部は自分たちの学園と生徒だけをケアした後、周辺住民への対応については揉み消す算段なんだと思う』

    『その上層部が……』

    『そう、君たちのオリジナルが取り仕切るティーパーティーさ。他にも表に出ていないような悪どいこと、いっぱいやってるみたいだよ?テザリングでネット使えるようにしてあげるから、調べてみるといいよ』

  • 13スレ主25/05/21(水) 21:44:37

    『とまあこんな感じで、今のティーパーティーは腐敗した政治家の集まりとも言える。だからこそトリニティには腐った部分を切り落とし、皆をまとめ上げる優秀なリーダーが必要なのさ。たとえば、オリジナルと同じだけの力を持つ君たちとか、ね』

    『どうかな?もし君たちがトリニティを解放できれば、バイトなんかせずとも華やかな生活を送り、ティーパーティーとして人の役に立ち、ついでに業務を通してシャーレの先生とも会うことができて、三人ずっと一緒にいられる。いい案だと思わない?』

    『で、ですが、いくらなんでも無関係の人々まで巻き込んでテロ紛いな行為を働くなど……』

    『うん、そう思うのは君が真っ当な感性を持っている証拠だよ。世の中君みたいな子ばかりなら、きっと虐げられる人なんて生まれないんだろうね。この件については一度、セイアちゃんとも相談してみるといい』

    『あ、そうだ、最後に君たちにおまじないをかけてあげよう!どっちにしてもセイアちゃんばりの行動力は必要でしょ?だから、君たちに『勇気』をあげる。二人ともおいで?』

    『えっ。は、はぁ、おまじないですか?ではお願いします……』
    『意味あるの?まあとりあえずかけてもらおっかな……』



    『よし、できた!二人とも私の話に付き合ってくれてありがとう!お礼に最近のトリニティや先生に関する情報を送るね!じゃ、またね!』

  • 14スレ主25/05/21(水) 22:49:32

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    『ただいま、ミカ、ナギサ。実は今日シフトの相談をして、予定を一日空けてもらえることになった。君たちの都合のつく日、一緒にどこかへ出かけないかい?』

    『その、今朝せっかく誘ってくれたのに、無愛想な断り方をしてしまったと思ってね。お詫びと言っては何だが、トリニティで人気の店のケーキを買ってきたんだ。一緒にどうだい?』

    『あら、お帰りなさいセイアさん。別に気にすることなどありませんのに』
    『あ、セイアちゃんおかえり!私たちもセイアちゃんに話したいことがあるんだ!』

    いつも通りの声にいつも通りの反応。
    そのはずなのに、何故か私は違和感を感じていた。
    何か大事なものが抜け落ちてしまっているような、そんな違和感。

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 05:10:18

    メフィストの能力の底が見えない……。

  • 16スレ主25/05/22(木) 07:28:31

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    魔女狩り狩りゲーム
    これはリストに掲載されたトリニティ生を戦闘不能にすることで、経験値や藍輝石がもらえる正義執行ゲーム。
    リストに掲載されているのはティーパーティーの生徒Mへいじめを働き、退任にまで追い込んだ者たちである。
    このような行いをするのは他人の痛みがわからないからこそ。
    正義の名の下に、生徒Mの受けた苦痛を彼女たちにも味わわせ、相互理解を促そう。

    さらに今なら新規ユーザー応援キャンペーン実施中!
    招待コードを入力すると紹介した側とされた側、双方に藍輝石600個をプレゼント!

    仲間を増やし、堕天使たちからこの聖なる地を共に取り戻そう。

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 09:34:00

    やっぱり人為的じゃないか。作り出しておいて放置は策なんだろうな。『私の命令に従って☆』なんて言いだそうものなら最悪、模倣ミカに『折るね』されかねないし。

    それで…わんぱくFOXの性質が悪い方向に作用したか…。3人一緒に仲良く暮らせてたらそれで満足だったのにね。

    そこにメフィストがさぁ!テザリングで繋げたネットの先、絶対細工してるだろ…


    >『あ、そうだ、最後に君たちにおまじないをかけてあげよう!』

    おまじないとか言いつつ、さり気なく等価交換の条件満たしてんじゃん。その『勇気』の内容物言ってみろや

    代価に取られたのは…他者への思いやり、隣人愛かその辺りか?

    留守をいいことにあることないこと吹き込むとか、陰湿極まるねぇ

    やっぱり全ての元凶じゃん

  • 18スレ主25/05/22(木) 13:20:38

    『美味しいね★』
    『だろう?ここはトリニティ自治区内でも特に人気の店でね、運良く買えたんだ。他にも美味しそうなものがあったから、次はそっちを……』

    『外の世界の人たちは、毎日こんなものを食べているのですか?』
    『毎日?いや、健康のこともあるし毎日ではないだろうが、食うに困らないのは間違いないね』

    違和感はさらに強くなる。
    怖くなった私は話題を逸らすことにした。

    『そうだ、二人とも見てくれ!今日出勤前にトリニティ総合学園の校舎近くまで行ってきたのだけどね、すごく大きくて綺麗な校舎だったよ!他にも街並みとか、こっちはバイト先でみんなで撮った写真さ!』

    私はナギサの機嫌を伺うように、これまで撮ってきた外の世界の写真を見せる。
    しかしナギサの機嫌はみるみる悪くなり、写真に写る人々を恨めしそうに見ている。

    『この写真も、こっちも、皆さん楽しそうですね』
    『そ、そうさ!私たちもうまく社会に溶け込むことができればいつか……』
    『反吐が出る……!』

  • 19スレ主25/05/22(木) 18:32:51

    『ナギサ……?』
    『おろしたての良い服を着て、ヘラヘラ笑って、そんなに私たちの境遇が無様で滑稽に見えますか?』

    『な、何を言っているんだ?彼女たちはそんな人たちじゃない!』
    『そうでしょうか?私には彼女達の笑顔は、私たちに対する侮蔑と嘲笑にしか見えませんがね』

    『侮蔑?嘲笑?馬鹿を言うな!彼女らが私たちの境遇を知っているはずがないだろう!一体どうしたんだ!?君たちを蔑ろにしたことを怒っているのか!?』

    『何故私たちと彼女たちでこんな格差が生まれるのですか?能力だって、容姿だって劣っていないのに!私たちの方が必死で頑張っているのに!!』

    『苦境を味わったこともない、大した努力もせず!それなのに良い思いをしている。そんな資格もないくせに!』

    『違う!彼女たちは自分の青春を謳歌しているだけだ!それは万人に平等に与えられる権利で、資格を手に入れる必要なんかない!』

    『平等?』
    『っ……』

  • 20スレ主25/05/22(木) 18:33:52

    『平等、確かに仰る通りですね。彼女たちからすれば、私たちのような道端の石ころなんて目にも入らないでしょう。仲間内だけで富を独占し、それを平等と言い張る。何て卑しい!!』

    (ダメだ、話にならない。私がいない間に一体何があった!?)

    ナギサは私が見せた写真の一つを指差す。
    校舎の写真の一枚で、ティーパーティーのテラスが写っていた。

    『……時にセイアさん、ミカさん、提案があります。この写真に写っている、無能な政治しかできない呆けた女共を引きずり下ろせば、私たちがその椅子に座ることもできるようになる。そう思いませんか?』

    ナギサのあまりの変貌ぶりに私は何て言い聞かせればいいのかわからず、ずっと黙っていたミカが先に口を開いた。

    『私も許せないよ。先生はみんなのものなのに、一部の人たちが独占してる。私は会ったことすら無いのに。ねぇナギちゃん、私も先生とお話ししたいし、お姫様になりたいよ!』

  • 21スレ主25/05/22(木) 18:34:53

    『なれますよ!ミカさんだってたくさんの苦労をしてきたでしょう!物語のヒロインになるのは得てしてそういった女性たちなのですから!シンデレラのように!』

    『先生もきっとあなたを愛してくれるはずです!』
    『ほんと!?じゃあ私もナギちゃんと一緒に行く!』
    『セイアさんも、ね?』

    そう言ってナギサは私に手を差し出す。

    私にはナギサやミカが愛に飢えている子どもに見えた。
    欲しているのは物や肩書きであっても、その根底にあるのは他者からの愛を求める心。

    そして、仮に肩書きや持っている物を奪えても、その人たちが受けていた愛までは奪えない。
    そんな簡単な理屈を言い聞かせることすら不可能なほど、手遅れになっていることを私は悟った。

    私は間違えた。
    私は彼女たちに物を与えるのではなく、一緒の時間を過ごして愛を与えなければならなかったんだ。
    けど、今の私では二人の心に空いた穴を埋めてあげられない。

    そして私は二人を止めるため、その手を取るふりをした。

  • 22スレ主25/05/22(木) 20:21:57

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    私はこのことをメフィストに問いただした。
    すると奴は自分のしたことを、まるで研究成果を自慢するかのように嬉々として語ってきた。

    奴の話によると、ミカとナギサはトリニティや先生の情報を得る代わりに、感情を抑制するブレーキを失う取引をしたらしい。
    それによってミカは先生への好意とそれを邪魔する者への怒りを、ナギサはトリニティへの怒りを抑えられなくなっていた。

    それを聞いて怒り狂った私は、それらを取り戻すためにメフィストに戦いを挑んだ。
    だが奴には勝てなかった。

    『はあ、はあ…………ぐっ!』
    『無理だよ、セイアちゃんじゃ私には勝てない。それにこの取引は二人の同意の上で成立してるんだよ?君が保護者面して横からどうこうしようだなんて、おかしいと思わない?』

    『よくもぬけぬけと……!何が取引だ!一方的に騙したようなものじゃないか!!』

    『そもそも生まれた時からおかしかったんだ!私もミカもナギサも、記憶の中にある本物の私たちと行動が明らかに違う!私たちはミメシス、複製であるはずなのに!私たちに一体何をした!!』

  • 23スレ主25/05/22(木) 20:24:17

    『何をしたっていうか、最初から違うというか……。ああ、マエストロくんが複製って言い始めたのが浸透しちゃったのかな?あれ、厳密に言えば間違いだからね』

    『例えばユスティナ信徒なんかもそう。彼女たちだって業務以外では普通の女の子だったはずだよ。でもミメシスって、その人の感情以外にも周りの人からのイメージだとか、関係ない他人の感情だとか不純物も入り込むわけ』

    『特に現代なんて、当時の彼女たちを知る人はもういない。あるのはこわ〜い拷問をするシスターさんってイメージだけ。そんな人々の念が集まって形を成したのが現代のユスティナ聖徒会、そのミメシスなんだよ』

    『つまり、君たちミメシスは模倣であって複製ではないのさ。君の場合、他人からのイメージを含む、百合園セイアの記憶と能力を持って生まれた別の存在って言えばいいのかな?』

    『それと、記憶があるとはいえ生まれたばかりの君たちでは本物とは精神年齢の差もあるからね。今の君たちはだいたい八歳くらいかな?』

    『そりゃあ本物とちょいちょい違う性格にはなるよね〜。まあ、きちんと言うこと聞いてくれるなら私はどっちでもいいけどね』

  • 24スレ主25/05/22(木) 22:03:44

    『人の命をおもちゃみたいに……!!』

    『まあ、君たちからしたらたまったもんじゃないよね。今私が何を言っても煽りになりそうだし、これ以上はやめておくよ。それよりさ、君は二人を止めたいわけだよね?』

    戦闘では止められそうもない私に、別の方法として奴は取引を持ちかけてきた。
    一つ得る代わりに一つ失う、シンプルな話だった。

    『等価交換だよ。あ、そうそうこないだそれがテーマの漫画読んだんだけどね?あれめっちゃ面白いよ!?今度貸してあげるね!バイト先の人との共通の話題にもなると思うよ!』

    『ああ、話が逸れたね。それじゃあ前置きはこのくらいにして、君に力を授けよう。代償は私が指定するね?大丈夫、思考に関する部分や生命活動に必要なものは奪わないよ』

    『それと、この間君が並んで買ってきたケーキ、私も並んだことあるけど目の前で売り切れちゃってさ。明日再トライしてみるよ。きっと、何倍も美味しく感じると思うから♪』

    こうして私は以前百合園セイアに備わっていた、未来予知の力を手に入れた。

  • 25スレ主25/05/22(木) 22:05:49

    取引は二回行った。
    一回目は予知能力を手に入れるため、二回目はその精度と利便性を向上させる改造を受けるために。



    そして取引が終わったその瞬間、私はこの結末に至るまでの全てを目の当たりにした。

    『……は?え、あ、死?あ、あああ…………んぐっ、お"え"え"ぇ"っ!!』

    そのあまりの恐ろしさに、私は胃の中のものを全てぶちまけてしまった。
    そして、何を失ったのかを身をもって知ることになる。

    『はあ、はあ……吐瀉物の味がしない?匂いも、全く感じない……!』

    そう、私は味覚と嗅覚を失った。

    『あらら、何か悪い未来でも視ちゃった?でももう立ち止まることなんてできないよね。ミカちゃんとナギサちゃんを止めたいんだったら、立ち止まってなんかいられない』



    『友達のことを想うなら、自由も青春も惜しくなんかないよね?だから進み続けるんだよ。その命が燃え尽きるまで』

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 26二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:36:32

    マエストロの知り合い…ゲマトリアの関係者なのは確定か
    何が等価交換だよ、選択肢狭めてそれしかないように誘導してるじゃんね
    感情のブレーキの取っ払い…地下ちゃんを思い出す

    「お前がはじめた物語だろ」じゃないんだよ
    「お前がはじめさせた物語」なんだよ

  • 27スレ主25/05/23(金) 07:17:46

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    トリニティ生のミメシスについて
    ナギサ、ミカ、サクラコ、ミネ、ツルギ、ハナコのミメシスはそれぞれ強力な力を持った味方NPCである。

    しかしNPCといってもAIなどではなく感情を持っている特別なミメシスであり、彼女たちはトリニティの現状を憂いて『自らの意思』で力を貸してくれている。

    彼女たちの幸せのためにも、一日も早くキヴォトスから悪人が淘汰されるよう力を尽くそう。

  • 28二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 10:48:10

    『自らの意思』ねぇ…

  • 29スレ主25/05/23(金) 14:13:14

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    『私の過去はこれで終わり。あとは姉さんも見た通りさ』

    映像が終わり、シアター内に明かりが灯る。
    セイアは言葉が出なかった。
    そして妹にこんな惨たらしい仕打ちをした悪魔に対し、再びどす黒い殺意が湧き上がる。

    『戻ろうか、あの公園に』

    そして気がつくと二人は再び公演のベンチに座っていた。

    『それからというもの、何を食べても味がしなかった。ロールケーキはスポンジに、ガトーショコラは粘土に、紅茶はお湯に変わった。そして賄いを楽しめなくなったのとナギサたちを止める準備に忙しくなったのもあって、バイトも辞めてしまった』

    「炭酸水を好んでいたのって……」

    『ああ、味覚が無くても楽しめて、口の中の不快感も洗い流せる。私なりにもがいた結果見つけた、数少ない娯楽さ』

    『ごめんね?ナギサのケーキに姉さんのホットミルク、私はみんなからの愛をきちんと受け取れなかった』

    『スイーツビュッフェもそう。頑張って口の中に押し込んだけど受け付けなくて、みんなが未来の話をして、私にはそれが無いのもわかってて、気持ち悪くなっちゃって……』

    『本当にごめんね』
    「謝らないでくれ!!君は何も悪くないじゃないか!!友人のために自分を犠牲にして、一人で踏ん張り続けた!!」

  • 30スレ主25/05/23(金) 18:33:41

    『いいや、確かに私は道を間違えた。これまで色々な物を失ったのも、煌びやかな生活という甘い蜜に釣られ、友を地獄に叩き落とした馬鹿で無価値な愚か者への、せめてもの報いだと思っているよ。怖かったけど、死ぬことは受け入れているつもりだ』

    模倣セイアは哀しげに笑っていたが、それから彼女は言葉を発さず、黙り込んでしまった。
    しばらくするとその背が震え始め、鼻をすする音が聞こえた。

    『……けどそれよりも、友人が道を踏み外していくのを見ている方が辛かった。何度も説得した。でも何をしても未来は変わらなかった』

    『そうこうしている間にも期限は近づいてくる。そして私は、取り返しのつかないことになる前に、二人を終わらせることを選んだ』

    『本当はもっと早くに、君たちと会う前に決着をつけるつもりだった。けどできなかった、友達を殺すなんて。直前でいつも躊躇ってしまう』

    『それから彼女たちとは距離を置いて、隠し事をし、いつしか倒すべき敵とまで認識してしまった』

    模倣セイアの声は震え、瞳からは大粒の涙が溢れている。

    『そして最後の最後で、私は青春にしがみついてしまった!!姉さんと一緒に風呂に入って遊びに誘われて、断るつもりだったのに!涙が止まらなくなって、慌ててお湯を被って誤魔化して!』

  • 31スレ主25/05/23(金) 19:03:55

    『あそこでもっと早くみんなに相談していれば!そうすればもっと違う結果になっていたかもしれないのに!!そして私は道連れという短絡的な方法を取って、あろうことか失敗した!!』

    子どものように泣きじゃくる模倣セイアを、セイアは優しく抱きしめる。
    何も言わず、ただそっと。

    『挙げ句の果てに、ミカとナギサに嫌われてしまった!命も失って、もう話し合うこともできない!』

    『友達と喧嘩別れをすることが、こんなに辛いだなんて思わなかった!!』

    『ごめんなさい!ごめんなさい!!もっと、彼女たちに寄り添っていればよかった!』



    『仲直りしたかったよぉ……!!』

    大声を上げて泣きわめく妹を、ただただ抱きしめ続けた。
    普段小難しいことを言っているが、彼女は生まれたばかりの子どもだったのだ。
    地獄のような未来を視て、それなのに投げ出さずにここまで進み続けた。
    きっと想像もつかないほど苦しかっただろう。

    そしてエデン条約を巡る事件の時、もしかしたら自分たちもこうなっていたかもしれないと思うと、セイアには妹の悲しみが他人事のようには思えなかった。

  • 32スレ主25/05/23(金) 19:26:56

    『……取り乱したね。ありがとう姉さん。君と話せて少し楽になった』
    「ああ」

    『それでも、彼女たちのしたことは許されるものではない。見逃してほしいだなんてぬるいことは言わないよ』
    「当然だ。ミカとナギサ、二人とも罪を償わせる。まあ、荒事はそれが得意な友人に任せることになるだろうが……」

    『それから、メフィストフェレスを止めてくれ』
    「勿論だ。地獄の果てまで追い回してでも、奴は必ず仕留める」

    「それと、私は君を誇りに思う。君の望みも私が受け継ぐ。だから安心して、もうこれ以上苦しまないでくれ。失敗しただとか、無価値だなんて私が誰にも言わせない……!」

    セイアは真っ直ぐと強い目で妹の目を見る。
    模倣セイアは少し驚いたように目を見開き、安心したように優しく微笑んだ。

    『ありがとう』

    『姉さんももう大丈夫みたいだね。心配していたんだ、短い間とはいえ友情を育んだ人たちが私の死を引きずっていないか』

    「それは……まあ、しばらく引きずると思う」

    『それともう一つ頼みたい。もし私を救えなくて、などとめそめそしているような者がいたら引っ叩いてやってくれ。これは私が望んだ結末なのだから、いつまでも落ち込んでいるなと』
    「わかった」

  • 33スレ主25/05/23(金) 20:04:05

    『それから最後に、姉さんにこれを託す。戦いが終わるまでの間しか保たないけど、役に立つはずだ』

    模倣セイアはゆっくりとセイアに顔を近づけ、優しく額を合わせる。

    『説明はしないよ。その使い方は君もよく知っている。多少勝手が違うので戸惑うかもしれないが、そこはまあ……愛の力で何とかしたまえ』
    「そんな適当な……」
    『いいだろう?私たち女子高生は全てにおいて『エモさ』が重視される存在なのだから』

    模倣セイアの想いが、暖かさがセイアへと伝わりとろりと溶け込む。

    「これは……」
    『じゃあ、私はそろそろ行くよ』

    模倣セイアはベンチから立って走り出し、セイアの方へ向き直る。
    セイアは思わず引き留めそうになるが、寂しさをぐっと堪えてその目を見た。

    『ありがとう姉さん!愛してる!』

    少し気恥ずかしそうな、暖かくまばゆい笑顔。
    その後辺りは光に包まれ、セイアは夢の世界から帰還した。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 34スレ主25/05/23(金) 20:27:09

    「はっ!?」

    セイアが目を覚ますと、そこは自分以外誰もいない部屋だった。
    ベッドに寝かされ、服も着替えさせられている。

    (そうだ、確かナギサのセーフハウスに運び込まれたのだったな……ん?)

    ふと枕元を見ると自分のものともう一つ、模倣セイアの使っていたスマートフォンが置いてあった。

    それを手に取り側面のボタンを押す。
    表示されたロック画面には模倣ミカ、ナギサ、セイアの三人が笑い合って写っている写真が設定されていた。

    メフィストに心を壊される前は模倣セイアの言っていた通り、穏やかで優しく、仲の良い三人だったのだろう。
    画面を見ていると、持ち主と同じ顔だったせいでロックが開いてしまった。

    そこまでプライベートに踏み込むつもりは無く、申し訳ないと思っているとホーム画面が開かれる。



    そこには、先生と放課後スイーツ部と共に夕暮れの公園で撮った写真が設定されていた。
    あの後すぐに拘束されたことを考えると、カズサから共有されてすぐに設定したのだろう。
    妹は自分たちとの思い出も大切にしてくれていたのだ。

    「…………っ!愛してる。私も、君を愛してる……!」

    妹の前では彼女を慰めるべく気丈に振る舞っていたが、今度は堪えきれそうもない。
    セイアは誰もいない部屋で、一人静かに涙した。

  • 35スレ主25/05/23(金) 20:45:36

    ひとしきり湧き出る感情を洗い流し、ふと近くのテーブルを見るとそこにはいくつかの食料と水筒に入った紅茶が置かれていた。
    そしてその横には数枚の手紙。

    "どうかご無理なさらず、少しずつで良いので栄養を摂ってください。サンドイッチの具材は栄養もあり柔らかく、食べやすい物を選んでいます。 ミネ"

    "私からはクッキーを。優しい甘さで美味しいですよ。辛いことがあればいつでもご相談ください。私たちはあなたの味方です。 サクラコ"

    "美味しい苺が手に入ったので、よろしければ。正義実現委員会として、必ずあなたをお守りします。 ツルギ"

    "セイアさんの好きなロールケーキもご用意しています。飽きているかもしれませんが、このような時にこそいつもの味は心を落ち着かせるものです。どうかご自愛ください。 ナギサ"

    "前にセイアちゃんが食べたそうにしてたマカロン、手に入ったから食べてみて!それから、私たちはみんなセイアちゃんのこと大好きだよ! ミカ"

    "私はみんなのようなセンスは無いから、趣向を変えておにぎりと味噌汁を。そしてどうか、大人を頼って欲しい。必ず君の力になる。 先生"

    「気持ちは嬉しいが、私を大食漢か何かだと思っているのかな?それにしてもまったく、誰も彼も私の感情を揺さぶるのが得意らしい……」

    丸二日ほど何も食べていないことと、皆の愛で心の調子を取り戻したこともあってセイアの腹はとてつもない空腹感に襲われていた。

    彼女は仲間からの思い遣りに肩を震わせながら、差し入れを口へと運んだ。

  • 36スレ主25/05/23(金) 21:15:17

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    一方、先生はセイアの様子を見に行くために廊下を歩いていた。
    しかしその足取りは重かった。
    これまで何度か様子を見に来たが、こちらの声掛けにも反応せず、ただぼーっと天井を眺めているだけだったからだ。
    そして、そうなってしまった責任の一端は自分にある。
    自分がもっと適切な指揮をして、模倣セイアを守れていたら。

    そんなことを考えているうちにセイアの部屋の前にたどり着いた。
    おそらくノックをしても反応はない。
    毎回その度に気分が落ちてしまうが、それでもセイアに寄り添いたい。

    先生は意を決してドアをノックする。



    ……はずが、直前でドアが開き先生の手は空振りとなる。

    「やあ先生、待っていたよ」
    「セイア……!?」

    目は真っ赤に腫れ、髪は乱れ、声は掠れているが確かにセイアが意識を取り戻し、自分の足で立っている。
    その痛々しさと、それでも再び話すことができた喜びと罪悪感で先生は声を震わせる。

  • 37スレ主25/05/23(金) 21:24:39

    「もう歩いて大丈夫なの?痛いところは無い?いや、それよりも……すまない。もう一人のセイアのことも……」

    先生は体勢を屈め、セイアと目線を合わせて会話する。
    その手は触れそうで触れない、まるで繊細な硝子細工を前にしているかのよう。

    しかし当のセイアはそんな先生に喝を入れるように、その頬を優しく二回叩いた。

    「セイア!?」
    「あの子に言われたんだ。自分が死んでめそめそしている者がいれば、引っ叩いてやってほしいって。二回叩いたのは、あの子と私からの分さ」

    「……そっか、会ったんだね。そしてそう言われたなら、私も落ち込んではいられないね」

    先生はしゃきっと立ち上がる。
    一見頼り無さそうだけど、実はとても頼もしい。
    その姿を見てセイアも笑みが溢れる。

    「早速だけど、この後ナギサたちと今後についての打ち合わせがある」
    「ああ、体調は問題ないよ。私も出席する」

    「良かった。ベッドの横に……」
    「差し入れだろう?本当にありがとう。後でみんなにもお礼を言いに行くよ。時間はかかったけど、全部食べきったよ」

  • 38スレ主25/05/23(金) 21:25:07

    「ぜ……!?」
    「ああ、全部さ。君たちからの愛、確かに受け取った。大丈夫、無理はしていないよ。いや、少し吐きそうではあるが……」

    「ん、この後かい?すまないがその、シャワーを浴びさせてほしい。あと今はあまり近づかないでほしくて……。会議には間に合うよ」

    「うん、すまないね。もちろんそれまでにあの子から聞いた情報をまとめておく。ミメシスのこと、メフィストのこと、きっと役に立つはずさ」

    先生は驚愕していた。
    自身が質問する前からセイアは次々とその答えを口にしている。
    直感が鋭いなどというレベルではない。



    まるでどんな会話をするか、その先の『未来が視えている』ようだった。

    「セイア、まさか未来が……」

    セイアは胸に手を当てる。

    「あの子は最後にこの力を私に託してくれた。この場にはいなくても、私の中で一緒に戦ってくれる」

    「行こう先生!あの子の想いを、あの子が愛した人々を、学園を、この街を!これ以上奴らの好きにはさせない!』

    百合園セイアの瞳が、光の輪が、かつてないほどの輝きを放つ。
    予言の大天使が再びこの地に舞い降りた瞬間であった。

  • 39スレ主25/05/24(土) 00:23:39

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「お待たせ!」「待たせたね!」

    会議室の扉を開き、先生とセイアが入室する。
    既に主要なメンバーは揃っており、二人が最後だった。
    部屋に入ってきた時のセイアを見てその復活を察したようで、皆喜びに満ちた表情をしていた。

    中でも、ナギサとミカは特に嬉しかったようだ。

    「セイアさん……!」
    「ナギサ、ミカ、みんなも本当にありがとう。後で個人的に礼を言わせてほしい」

    「おかえりセイアちゃん。その顔、完全復活ってことでいいのかな?」
    「ああ、みんなからの差し入れのおかげで元気いっぱいさ。美味しかったよ。一つ残らず完食さ」
    「えっ、全部食べたの?さすがにみんなの全部は食べきれないかなーって思って、保存の効くマカロン選んだんだけど!?」

    驚くミカをよそにセイアと先生は席につく。
    メンバーが揃ったことで、ナギサが司会となり作戦会議が開始された。

    「ではこれより『トリニティ奪還作戦』についての作戦会議を行います。まずは現状判明している情報の共有から行いましょう」

  • 40二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 00:40:30

    受け継がれる意思…!
    いよいよ反撃秒読みか……どう切り崩していくのか
    しかし、魔女狩り狩りとかいうイベントがどう影響してくるか

  • 41二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 02:18:23

    今日たまたま見つけてやっと最新のとこまで追いつきました。
    なんだこの神スレは?

  • 42スレ主25/05/24(土) 08:39:33

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    藍輝石は大人のカードで購入可能である。
    そして石はミメシスの復活だけでなく、強力な武器が手に入るガチャを回すことにも使える。

    次の戦いに向けて装備を整えよう。

  • 43二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 14:24:22

    いつも楽しみにしてます。
    最後に模倣生徒たちと本物の間で、和解できることを祈って念のため保守。

  • 44スレ主25/05/24(土) 16:35:09

    各出席者たちが各々見聞きしたミメシスたちの情報を説明していく。
    まずはセイアの番だった。

    「私の話は少し長くなる。こんな時に申し訳ないが、あの子が残してくれた数多くの情報と、あの子の想いも話させてほしい。私の戦う理由はトリニティのためだけではなく、そこにもある」

    セイアは夢で模倣セイアから聞いたこと、予知能力を受け継いだことを説明した。
    長くなりすぎないよう、プライバシーに踏み込みすぎないよう細心の注意を払って。

    セイアが話している間は誰も口を挟まなかった。
    聞こえてくるのはセイアの声と、時折誰かが鼻をすする音だけ。

    「……以上が私とあの子の持つ情報だ。役立ててほしい」

    返事は無かったが、明らかにその場の全員が殺気立っている。
    先生でさえも目つきが鋭くなっている様子だった。

    「では次に、メフィストフェレスの作り出したミメシスについて、図書委員会のシミコさんお願いします」

    会議に出席していたのはシミコで、委員長のウイは不在だった。
    もしや学園の図書館に閉じこもっていたせいで逃げ遅れたのではないかと先生は心配になる。

    「シミコ、ウイがいないけど彼女は無事なの?」
    「あ、すみません。委員長は本日オンラインでの参加です……」

    〈ご、ご心配をおかけしました……。襲撃に遭った日も図書館に閉じこもっていたのですが、シミコとヒナタさんに助けられまして……〉

  • 45スレ主25/05/24(土) 18:26:38

    部屋のスピーカーから少し慌てたようなウイの声が聞こえてくる。
    先生の心配は杞憂だったようだ。

    「でも委員長が居てくださって助かりました。おかげでミメシスに関する書籍を探し、持ち出す作業がスムーズに進みましたから!」

    襲撃の日、図書委員とヒナタで役に立ちそうな本をトリニティから持ち出していたのだ。
    ボランティア部に本に詳しいシミコがいてくれて本当に良かったと先生は心の中で感謝を述べる。

    「では続けますね。メフィストの作り出したミメシスも、意思を持つという違いこそあるものの性質は我々の知るミメシスと同質のようです。そして彼女たちの正体については、ハナコさんの方が詳しくご存知のようです」

    シミコから指名を受けたハナコが口を開く。

    「はい。彼女たちはまるで生きている人間のように振る舞っていましたが、それは彼女たちの意思ではなく、遠隔地からドローンのように操作しているオペレーターたちの意思だったのです」

    「そしてそのオペレーターは皆一般市民。彼らの発言から、トリニティへ悪意を持っているようでした」

    「いえ、悪意と言っては語弊がありますね。むしろ正義のため、トリニティの不正を正すべく行動しているような印象でした」

  • 46スレ主25/05/24(土) 18:27:48

    「彼らの意思を決定づけたであろう記事は私も見たよ。具体的な数字を出しつつ虚実を織り混ぜて、トリニティへ不信感を持つように仕向けられている。全く、頭の中に悪魔でも住んでいるような者でないと書けないような巧妙さだったよ」

    八割呆れ、一割感心、一割殺意のような言い方でセイアが付け加える。
    ハナコも内容は確認していたようで、同意するように頷く。

    「セイアちゃんの仰る通り、トリニティの内情を知る私達からすれば出鱈目もいいところという杜撰さですが、外部の方には判別が難しい内容です」

    「そして、それを見た方々含めトリニティへ敵対することを選んだ方がミメシスを操るのに使っていたスマートフォンのゲーム、それが……」

    「ブルーアークカタストロフ」

    ハナコがその名を呟く。
    青春と方舟の惨劇、メフィストフェレスの企画した悪趣味なゲーム。

    「彼らはいわゆるスマートフォンゲームを通してミメシスを操っているようで、言うなれば先生の模倣です。事実、プレイヤーのことを『先生』と言い表していました」

    「また、ゲームを始めるにはクレジットカードの登録も必要で、これによりミメシスが倒されても課金をすることで復活させることができるようです」

    「これによりヘルメット団やオートマタといった傭兵を雇うことなく、質は劣るものの無尽蔵の兵を用意し数の暴力でトリニティを倒し奪い取る。これが敵の作戦と目的だと推測されます」

  • 47スレ主25/05/24(土) 18:29:19

    ハナコは無言でアツコの方を見る。
    トリニティは既に奪われてしまったが、これで終わるとは思えない。
    その先の目的について知るアツコが次の説明を行う。

    「私たちアリウスがどうにか聞き出せた情報だと、敵の目的はこのキヴォトスをミメシスで埋め尽くすことだって言ってた。誰でも手を出せるゲームという特製上、ミメシスはまだ増えると思う」

    「それと私はエデン条約調印式の事件の時、ミメシスを顕現させるための『電池』のようなものとして利用されたことがある」

    「これは通常『ロイヤルブラッド』と呼ばれる一族の血を引く者にしかできないことなんだけど、混血でもその役割は果たせる」

    「今、私たちの元リーダー錠前サオリが敵に捕われている。私ではなく混血である彼女を狙ったのは、大量のミメシスを管理するという特製上おそらく質よりも量を重視するため。体力の無い私よりも彼女の方が長く保つと考えたんだと思う」

    アツコの目つきが悔しさから鋭くなる。

    「私は、スクワッドはサッちゃんを助けたいし、トリニティのみんなに助けられた恩も返したい。だから、私達も一緒に戦う!」

    アツコの強い思いにナギサも同調する。
    かつては敵対しあった者同士でも助け合い、共に戦うことだってできる。

    「トリニティを奪還する前段階として、この悪趣味なゲームを止めるためにサオリさんの救出を優先する必要がありますね」

  • 48スレ主25/05/24(土) 18:30:47

    それを聞いた先生は説明を加える。

    「このゲームだけど、おそらく私から奪ったタブレット『シッテムの箱』とクレジット……大人のカードを解析したんだろう。ネット上に投稿されているゲーム画面やプレイ動画を見てみたんだけど、本当によく出来ているよ」

    「それにしても、私以外起動すらできないシッテムの箱まで解析されるなんて……」

    その時、嘆く先生の言葉を遮るように、先生のプライベート用スマートフォンから通知音が鳴った。

    「失礼、機内モードにしたはずなのに…………!?」

    画面を見て固まる先生。
    そうなるのも無理はない。
    なぜなら……。



    「否定。奪われたシッテムの箱は現時点で起動、解析されていません」

    その端末にはシッテムの箱メインOSの一人、プラナが映っていたからだ。

  • 49スレ主25/05/24(土) 20:30:48

    「プラナ!?なんで!?どうして!?」
    「先生がミメシスに襲撃された際、アロナ先輩が私をプライベート用の端末に逃してくれました。それでも受けたダメージは大きく、再起動に時間はかかってしまいましたが」

    「遅くなりました、先生。私も共に戦います」
    「プラナ……!」

    予想外の味方の登場に心が昂る先生。

    「ど、どうしたのです先生……?」
    「あっ、ええとこれは……」

    心配そうに見るナギサに、先生は何と説明しようか戸惑う。

    「先生、今はオンライン通話にて会議をされているのですよね?その部屋番号を教えていただければ私も参加可能です。トリニティの皆さんへ説明の場を設けさせてください」

    先生はプラナの指示に従う。
    すると各生徒たちのPCの会議画面に一つのアカウントが追加される。

    「トリニティ総合学園の皆さん、初めまして。私は先生の……秘書を務めております、プラナと申します」

    突然先生の秘書を名乗る女児の登場に一時騒然となる会議室。
    しかし急を要する事態なので皆深くは追求せず、先生を暖かく見守り事情を聞くことにした。

    (絶対誤解されてる……!)
    「まず、現在公開されているゲーム『ブルーアークカタストロフ』、略してブルアカの原型にシッテムの箱が使われたことは間違いありません」

  • 50スレ主25/05/24(土) 20:31:55

    「ですがおそらく箱を直接操作したのではなく、これまでの先生の戦いの記録などからその特性を調べたのでしょう。箱を起動した時に発せられるアロナ先輩が起きた信号が確認できていません」

    「それにもし箱を完全に掌握されているのであれば、サンクトゥムタワーは既に敵の手に堕ちているはずですから」

    「ですので市民の方々が使っているものは、ミメシスを生徒のように指揮する機能に特化した簡易版と表現するのが妥当でしょう」

    「そしてこのゲームは民間のゲーム開発企業、Meister(マイスター)社によって運営されています。一見普通の会社ですが、関係者は全員メフィストの息がかかっていると見て間違い無いでしょう」

    プラナの説明にセイアは納得した様子を見せる。

    「先生の戦いの記録、ね。メフィストは捕食したミメシスの記憶を継承できると聞いている。おそらく情報源はそこだろう。そのシッテムの箱について知っている生徒は多くないだろうに、それを引き当てるのにどれだけ食ったのか……」

    「ありがとうございます、プラナさん。そのアロナさんはおそらくあなたと、先生にとっても大切な人なのですよね?我々も協力します。必ず取り戻しましょう!」

  • 51スレ主25/05/24(土) 20:33:24

    「ありがとうございます、ナギサさん。ですが問題はミカさん、ツルギさんを始め強力な力を持つミメシスが敵にいる上に、そもそも敵の数が多いという問題があります。アロナ先輩を取り戻す前にそれらを何とかしなくてはいけません」

    プラナの心配はもっともで、ナギサは既に対抗策の準備を進めていた。
    ナギサは近くに座るサクラコへ目配せする。

    「前線へ出る方にはこちらを支給します」

    合図を受けたサクラコはカメラに映るように一つの銃弾を見せる。
    それは銀色に光り輝いており、一目で特別製だというのがわかった。

    「ミカさんがご自身のミメシスから押収した銃に込められていた弾丸を解析したところ、通常のものとは異なる成分が混ぜ込まれていることがわかりました」

    「こちらはそれをベースに開発した対ミメシス特効弾『銀の弾丸』です」

    強力な怪物を一発で仕留めたとされる伝説になぞらえたネーミング。
    セイアは妹がそれに撃ち抜かれた瞬間を思い出していた。

    「そうか、ミメシスのサクラコが言っていた『特製』とはそういうことだったのか……」

    模倣セイアの命を奪った凶器をこちらも使うことになりセイアは少し複雑だった。
    しかしもはや手段を選んでいられる状況ではない。
    妹との約束のため、セイアは覚悟を決める。

    「いや、よくやってくれたサクラコ。少しでも多く製造できるようこちらも人員配備などで協力するよ。また後で相談しよう」

  • 52スレ主25/05/24(土) 21:16:22

    「ありがとうございます」

    セイアからの提案にサクラコは頷きつつ続ける。

    「まずは古書の解読にご協力いただいた図書委員会の皆さん、アツコさんの血液の成分の解析、培養をサポートしてくださった救護騎士団の皆さんにアツコさん、本当にありがとうございます」

    「銀の弾丸の開発は難航しましたがどうにか完成し、皆さんの手元へ行き渡らせることができそうです」

    サクラコは深々と頭を下げる。
    そして頭を上げ、ミネと目を合わせ互いに微笑む。
    内輪争いの多いトリニティに、確かに団結が生まれつつあった。

    「特に図書委員のウイさん、シスターフッド秘蔵の古書の解読はあなたにしか頼めず、『ご無理』をさせてしまい本当に申し訳ございませんでした」
    〈ヒッ……!?〉

    一部を除いて。

    「……では続けますね?次にこちら側の戦力をどのように分配するかです」

    ナギサが手元のタブレットを操作し会議の画面にトリニティの校舎を表示させる。
    その後、セイアが視た未来の内容を踏まえてナギサは作戦を立て、各組織へ指示をしていった。

  • 53スレ主25/05/24(土) 21:17:59

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「……以上が、トリニティ総合学園へ攻め込む際の戦力配分になります。細かい指示は都度各班リーダーを通して伝達する形としましょう」

    言いながら内心ナギサは不思議な感覚だった。
    まさかトリニティの生徒会長である自分が、トリニティへ攻め込む作戦を指揮する日が来るとは。

    「そして別動隊として、サオリさん救出班とブルアカの停止班を少数精鋭で編成します」

    それを聞いて手を挙げたのはアツコだった。

    「サッちゃんの救出は私とミサキとヒヨリに任せてほしい。カタコンベについても前に利用していた分迷いにくいだろうし」

    次に発言したのはミネだ。

    「ではサオリさん救出後、速やかに治療に入れるようハナエにも同行してもらいましょう。彼女の専門は治療ですが、多少の戦闘も問題ありません。足を引っ張ることはないでしょう」
    「任せてください!」

    ミネからの指名にハナエは元気よく返事をする。

    「あ、あの……カタコンベって毎回道が変わると思うんですがそこはどうしましょう?マダムがいない今、私たちが道を知る術が無くて……」

    ヒヨリの疑問はもっともだった。
    しかし先生は既に対策を調べており、すかさず共有する。

    「サオリを攫った奴らはどうやって正しい道を把握してるのか調べてたんだけど、どうやらブルアカのプレイヤーには正しい道の情報が共有されてるみたい」

  • 54スレ主25/05/24(土) 21:20:03

    「既に有志のプレイヤーが攻略サイトを立ち上げてたから、それを利用させてもらった。これで情報が筒抜けだ。ゲームという特性が仇となったね」

    先生はナギサへ目配せする。

    「ではカタコンベの正解ルート把握のため、まず最初にブルアカを管理しているゲーム会社の制圧から行います。目標はゲームを停止しつつカタコンベの情報を奪取すること」

    「セイアさんが視た予知夢によると、先生のシッテムの箱と大人のカードもMeister社の中にあるそうです」

    「先生とプラナさんにはそれらの奪還のため、こちら側へ同行していただきましょう。そして先生と共に向かうメンバーですが……」

    そこで手を挙げたのはハナコだった。

    「でしたら、そちらは私に任せていただけませんか?以前ウトナピシュティムの本船に乗った際、あまりミレニアムの方々のお力になれず悔しい思いをしたので、あれから少しずつITの勉強を進めているんです」

    以前は自分の持つ能力だけを見られ、頼られるのに嫌気が差していたが今は違う。
    先生のため、友のため、学園のため自らの意思でハナコは立ち上がる。

    「ありがとうハナコ。システムのハッキングはプラナがメインで頑張ってくれるみたいだから、サポートをお願いね」

    先生とプラナは、共に頑張ろうと言わんばかりにサムズアップをしている。

  • 55スレ主25/05/24(土) 22:41:31

    「だがハナコ。どうやらその目的地には君のミメシスが待ち構えているようだ。彼女、戦闘もこなせるそうじゃないか。誰かが彼女を引きつける必要があるわけだが……」

    セイアはそこまで言って指名はしなかった。
    待っているのだ、本人が名乗り出るのを。

    「ミメシスのハナコは私が倒します!」

    立ち上がったのはコハルだった。

    「コハルちゃん!?大丈夫なの!?」
    「ふっ」

    ミカはとても心配しているようだったが、一方セイアにその様子はなかった。

    「予知夢で既に視ているが、随分と面白い作戦を考えたね。君の望む物品については既に注文を出してあるよ。今日中には届くだろう」
    「っ!?あ、ありがとうございます!」
    「未来予知って便利だな〜」

    先生はスムーズに進む会議を羨ましそうに見ていた。
    そして次に手を挙げたのはアズサだ。

    「だったら私も同行する。道中の敵を片付けるのは任せてほしい。あと、ハナコとコハルの援護もできる」

  • 56スレ主25/05/24(土) 22:43:21

    これで補習授業部の三人が揃った。

    「あ、えっと、わ、私は……」

    それを見ていたヒフミもそこに加わりたいとは考えているものの、自分にできることが何なのか、未だ見つけられていなかった。
    みんなに置いていかれてしまう、そんな不安がヒフミを襲う。

    しかし、ナギサとセイアは彼女に任せる役目を既に考えていた。

    「わかったよ、アズサ。だがたった数名徒歩で敵地へ向かって行くのはあまりに危険だ。それにコハルの秘密兵器は人力で運ぶには少々骨が折れる。さて、どうにか移動手段を確保したいのだが……」

    セイアはハスミの方へ視線を向け、彼女は待ってましたと言わんばかりに応える。

    「使える足には心当たりがあります」

    ハスミは窓を開け、ヒフミの方を向き手招きする。
    ヒフミは不思議に思いながらもそれに従い、窓の外を見る。

    するとそこには一台の戦車が、まるで主の搭乗を待っているかのように鎮座していた。

    「ナギサ様からの指示を受けて、軽量化と操作性の向上のためにメンテナンスに出していたんです。結果的にミメシスたちに奪われずに済んだのは幸運でしたね」

    ヒフミはその戦車に見覚えがあった。
    それは海へ、シャーレへ、敵地へヒフミたちを何度も送り届けてくれた、思い出の詰まった戦車。

  • 57スレ主25/05/24(土) 22:46:44

    ヒフミは友との再会を喜ぶように目を輝かせ、その名を呼ぶ。

    「クルセイダーちゃん……!」

    「過去の運用データから、よりヒフミさんが扱いやすいように改修を施した巡航戦車『クルセイダー SpecⅡ』。ですがヒフミさん、いくらあなた向けに調整してあるとはいえ、危険な任務であることには変わりはありません」

    「ですのでどうか無理はなさらず、操縦は他の方に任せ後方支援に回っていただく事も可能ですが……」

    心配するような口ぶりではあるが、その実ナギサはヒフミが何と答えるか既に分かっているかのようだった。
    そしてヒフミの答えも決まっている。

    「いいえ、私やります!補習授業部のみんながいて、先生もいて、クルセイダーちゃんもいるんです。もう負ける気がしません!」

    不安そうだった顔から一転、ヒフミの表情は自信に満ちたものへと変わっていた。
    その様子を見て、心配だったミカもコハルたちの決断を尊重することにした。

    「補習授業部のみんな。今回私はあなたたちと別の所で戦うから助けには行けない。だから祈ることしかできないけど」

    「必ず無事に帰ってきて」
    「ありがとうございます、ミカ様。必ず戻ります!」

    ミカの想いに応えるべく、コハルも力強く言い切った。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 58二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 00:11:36

    プラナが逃げていた!ふぅん、最初から箱とカードの存在知ってたワケじゃなかったんだ?
    ヒフミのガワも箱ガチャのついでで手に入れたのかな?
    ゲーム故に攻略wiki作られてるのは草

    反撃の刻は来たれり
    メフィスト側も反撃は想定してるだろうから、上手く事が運ぶといいが…

  • 59スレ主25/05/25(日) 06:05:08

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ゲームをプレイしている様子を動画サイト等で配信することは可能だが、公序良俗に反する行為については配信を固く禁止する。

    もしインターネット上でそのような画像、映像が見つかった場合には運営によってすぐに削除対応を行う。
    十分に気をつけよう。

  • 60スレ主25/05/25(日) 14:13:59

    一通り話終えたところでナギサが締めくくりに入る。

    「では、これで作戦会議は終了といたしましょう。皆さん、お疲れ様で……」
    「えーっ!ナギちゃん待って待って!アレやんないの!?」

    会議を終えようとするナギサに口を挟んだのはミカだった。

    「な、なんですかいきなり!?さっきまで先輩風吹かせて格好つけて大人しくしてたくせに!」
    「う、うるさいなぁ!ていうかナギちゃん、こういう時いっつもくどくど演説するじゃん!」

    「なっ、私のことを何だと思っているのですか!」
    「まあ、士気を上げるという意味では今ほど有効なタイミングは無いね」
    「セイアさんまで……」

    「あえて悪い言葉を選ぶが、理屈を並べて民衆を焚き付け、全員まとめて地獄へ引っ張っていくのが私たちの役割だろう?ミカは政治的に少々アレだが……」
    「ああん?」
    「はあ、まったく……」

    「大変だみんな!これを見てくれ!」

    先生は慌てた様子で自分の画面を会議参加者全体に共有し表示する。
    そのタイトルに反応したのはミカだった。

    「『魔女狩り狩りゲーム』……?」
    「ミメシスたちは次の目標を定めたみたいだ。どうやら悪事を働いたた生徒を見つけ出して攻撃して、その生徒の強さや与えたダメージによってレベルアップアイテムや強い武器が手に入るというルールらしい」

  • 61スレ主25/05/25(日) 18:57:32

    そして先生は苦々しげな表情で攻撃対象となっている生徒たちが掲載されているリストを表示する。
    それを見たミカの表情が強張る。

    「っ!この子たちは……!」

    そのリストに掲載されている生徒たちは全員トリニティ生で、かつてミカにいじめを働いていた生徒たちだった。

    「皆さん聞こえますか!?こちらの方々が現在どこにいるか情報提供をお願いします!また、連絡の取れる方は安否確認を!」

    ナギサは急いで会議参加者たちへ指示を出す。
    セイアは何か有益な情報がないか、ネット上で情報集めをしている。

    「先生、どうやらこのゲームの目的はブルアカのプレイヤーを増やすことにあるらしい。連動しているキャンペーンで、今登録するとランダムで強い武器が手に入るガチャが無料で回せると広告が出ている」

    「しかも紹介文には『ターゲットたちはトリニティの生徒会長を追い詰め、退任にまで追いやった極悪人』と書かれている。これを見たプレイヤーは『悪人をこらしめる』という大義名分ができるわけだ」

    セイアはかつて模倣セイアが言っていたことを思い出していた。

    『奴はこれまで見てきた大人の中でも桁違いに危険な、悪魔のような存在だ。謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動し、この街一つくらい簡単に地獄に変えるだろう』

    今一度その言葉の意味を理解し、セイアの中に怒りの炎が燃え上がる。

  • 62スレ主25/05/25(日) 19:37:27

    「確かにリストに載る彼女たちのしたことは褒められたものではない。けどそれを己の利益のために利用するだなんて、どこまで卑劣なんだ……!」

    先生はセイアに同調しつつもミカのことが心配だった。
    いくらトリニティのためとはいえ、自分に危害を加えた人間を助けることに複雑な思いをさせてしまうのではないか。
    そしてミカはそんな先生の気持ちを見透かすように答える。

    「気を使わなくて大丈夫だよ、先生。これはあくまで私たちの問題で、外の人たちが首を突っ込んでいい話じゃない。この子たちのこと、絶対に助けよう!」

    先生の心配は杞憂だったようだ。
    ミカは一切の迷いも無く敵の悪意をばっさりと切り捨てたのだ。

    皆の戦意が高まってきている。
    そんな中ナギサは少し黙っていたが、意を決したように口を開いた。

    「……正直なところ私は今、腑が煮え繰り返りそうな気分です」

    「あるのは大切な場所を、人を、そして、会って間もない私たちを守ってくださった大切な友人を侮辱し、傷つけ、奪っていった者達への怒り……!」

    ここでナギサは一度呼吸を整え、ゆっくりと話し始める。

    「先に一つ言わせてください。この戦いに正義はありません。これはあくまで奪われた学園を、尊厳を取り戻すための戦いです。決して自分たちは正しく、メフィストはいざ知らず、一般市民の方々まで悪者だと決めつけてはいけません」

  • 63スレ主25/05/25(日) 19:38:30

    「一度正義という免罪符を手にしてしまえば、人はどこまでも過剰な暴力を振るえてしまいます。そうなってしまえば私たちもブルアカのプレイヤーと何ら変わりありません。見方が変われば、我々もまた悪になりますから」

    ナギサは立ち上がり、ヘッドセットとマイクを外して声を張り上げる。

    「ですが、だからと言ってこのまま黙っているなど私には到底できません!トリニティの代表として、一人の人間桐藤ナギサとして、私は戦います!」

    「ですが私一人にできることなど知れています!ですからどうか、皆さんのお力を貸していただきたい!」

    「どうか、私と共に戦ってください!!」

    異議を唱える者は誰一人いなかった。
    派閥や所属校など関係無く、全員が戦う意志を強く燃え上がらせる。
    ナギサの言葉が確かに届いたのだ。

    「セイアさんの予知の内容に則り、開戦は明日午前九時。それまでに皆さんは各々戦いの準備を進めてください」

    「必ず無事に、私たちの学園に帰りましょう」

    普段なら学校から早く帰りたいと思うところだが、その学園に帰るために戦う。
    ナギサの言葉を締めくくりに、会議は幕を閉じた。

  • 64スレ主25/05/25(日) 20:32:08

    「お疲れ様、ナギサ。立派だったよ」

    先生がナギサに声をかける。
    ナギサは少し疲れたように椅子に腰掛けていた。

    「ありがとうございます。ですが、これで私は本来であれば戦う義務の無い人々を大勢巻き込んだ罪人です。きっと、死語は地獄へ落ちるのでしょうね」

    「それを言うのなら私だって同じさ。我を忘れ、敵味方問わず大勢の人を傷つけたのだから」
    「私だってそうだよ。外患誘致みたいなことをしたんだから、この中では一番重罪だよ。大丈夫、ナギちゃんを一人になんかさせないから!」

    セイアとミカはすかさずナギサをフォローする。
    ティーパーティーの絆は固かった。
    かつてすれ違った過去があるからこそ、その繋がりはより強くなる。

    「セイアさん、ミカさん、ありがとうございます。今回は三人とも同じ方向を向いて進めそうですね。あの時はできませんでしたが、今度こそ」

    ナギサは右手を前に出した。
    それを見たミカとセイアもナギサに重ねるように手を合わせ、三人は気持ちをひとつにする。

  • 65スレ主25/05/25(日) 20:32:56

    「よし、じゃあ私も二人に負けないように頑張らなくっちゃ!アポはもう取れたから、行ってくるね?」

    そしてナギサが落ち込んでいないことを確認したミカは二人へ背を向け歩き出す。

    「ミカさん、どうかお気をつけて」
    「ミカ、君の無事を祈ってる」

    ミカはどこかへ用事があるようで、会議室の出口へ向かう。
    ミカがドアノブに手をかける直前、先生も彼女に声をかける。

    「ミカ」
    「なに?」

    「君を信じてる」
    「うん、知ってる。『これ』を私に預けてくれたことが、何よりの信頼の証だと思ってるから」

    ミカは顔を振り向かせそう答える。
    その顔つきはかつてのような不安定さの無い、学園の代表に相応しい頼もしさを醸し出していた。

  • 66スレ主25/05/25(日) 22:11:28

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    その頃、ミメシス側も次の侵攻の準備を進めていた。

    しかし一人の少女は例外で、学園の保健室にて苦しむようにベッドに横たわっていた。
    模倣ミカである。

    彼女は反転したセイアに千切られた羽根の傷の痛みが定期的に再発するようで、時折こうしてもがき苦しむことがあった。

    『うっ、ううう……痛い、かゆい……!』
    『ミカさん、あまり引っ掻いてはまた血が出てしまいますよ』

    模倣ミカはうずくまりながら羽根の付け根を掻き毟っている。
    その隣では彼女を看病するように模倣ナギサが付き添っていた。

    (ミネさんによると傷は完治しており、痛みが出るのはストレスが原因とのこと。生きたまま羽根を千切られるのは、一体どれほどの苦痛だったのでしょう)

    (一瞬で意識を失った私は、まだ幸運だったのかもしれませんね)



    (いえ、一番苦しかったのはセイアさん……)

    そこまで考えたところで、模倣ナギサは思考を振り払うように首を振る。
    駄目だ、振り返ってはいけない。
    これまでは旧トリニティの不正や模倣セイアの裏切りへの怒りで動いてきた。

    しかしトリニティは既に手に入り、模倣セイアももうこの世にはいない。
    模倣ナギサは進むべき道を見失いつつあった。
    今は目の前の幼馴染の支えになることが唯一の心の支えであった。

  • 67スレ主25/05/25(日) 22:13:15

    『ミカさん、血が出てきました。一度綺麗にしましょうね?』
    『はあ、はあ……っ!あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!痛い!痛い!!』

    模倣ミカは泣きじゃくりながら手足をばたつかせ、近くにあった救急箱を中身ごと床へぶちまける。
    その時振りかざした手が模倣ナギサの顔に当たり、彼女は床に倒れ込んでしまった。

    『あっ、あああっ!ナギちゃん!ナギちゃん!』
    『私は大丈夫ですよ』

    模倣ナギサは優しく微笑む。
    しかし、実のところ二人とも既に限界が近かった。
    友を手にかけ、夜も眠れず、今のようなやり取りをもう何度も繰り返している。
    しかしもう止まれない。

    そんな時、保健室のドアが開きメフィストが入ってくる。

    『やっほ、ナギサちゃん。明日の宣戦布告の原稿、もうできてる?』

    二人の状況など目もくれず、業務の進捗だけを確認する。

    『ええ、言われた通りの内容で、一応原案は完成しています。それから、色彩を呼べるようになったというのは本当なのでしょうか?』

    『うん、これはハッタリじゃなくて本当だよ。なんか、一回ソレに触れると自分の中に色彩との繋がりができるんだよね。目で見えるものじゃないし、感覚的にわかるとしか言えないんだけど……』

    『だから、最終的にはこのキヴォトスから生者は消えて、皆君たちと同じミメシスとして生まれ変わることになる。君たち喧嘩してばっかりだけどさ、もっとたくさん仲間が増えたら中には君たちと気の合う子も出てくると思うよ?』

  • 68スレ主25/05/25(日) 22:17:51

    『あと、セイアちゃんのミメシスならまた作ってあげるよ。ちょっと手間かかるからこのゴタゴタが終わった後でだけど。今度は仲良くしなよ〜?』

    そうして用を済ませたメフィストは模倣ミカに目もくれず部屋を出ていった。

    模倣ナギサは、模倣セイアを作るという話を聞いても気持ち悪さしか感じなかった。
    仮に新しいセイアが来たとして、それを自分たちが殺めた友と同一視することなど到底できない。
    二人は完全に疲弊しきっていた。

    『……ねぇナギちゃん、私もうすぐお姫様になれるんだよね?先生に好きになってもらえるんだよね?』

    痛みから気を逸らすためか、模倣ミカが要領を得ないことを言い始めた。
    彼女の姿はところどころ血に汚れ、とても姫とは言い難い痛々しい姿だった。

    『……ミカさん、このままメフィスト様に従い続けて、私たちは本当に幸せになれるのでしょうか?お姫様になって先生と結ばれるのに、他の道は無かったのでしょうか……』

    今までは慰めるように模倣ミカを肯定し続けてきたが、つい本音を口走ってしまった。



    『は?なに?急に弱気になって。今更後悔してるの?』

    模倣ナギサの後悔を聞き、模倣ミカの怒りのボルテージが上がる。

  • 69スレ主25/05/25(日) 22:19:43

    『いいよねナギちゃんは!!痛い思いしてなくて、気に入らない人がいれば私をポ○モンみたいにけしかけて、それで後悔しそうになったら『他の道が』って言えばいいんだから!!』

    『なんでそんな自分勝手なことしか言えないのさ!!しょうがないじゃんもうセイアちゃん殺しちゃったんだからさ!!これ以上私を怒らせないでよ!!』

    模倣ミカは模倣ナギサを押し倒し、子どものように喚き散らしながら頭を、体を殴りつけている。

    『バカ!バカ!ナギちゃんなんか嫌い!!』

    模倣ナギサは目に涙を浮かべながらどうにか手で頭を守り、団子虫のように丸くなってやり過ごすしかなかった。
    模倣ミカも加減はしたものの、模倣ナギサの体はすっかり痣だらけになってしまった。

    『はあ、はあ……今更止まってもいいことなんか無いよ。だから進もう?ナギちゃん』

    『セイアちゃんが死んだのは仕方なかったって、その意味を見つけないと、私ただの人殺しになっちゃうじゃん……ね?』
    『そう、ですね……』

    理性というブレーキを壊されている二人にとって、もはや『止まる』という選択肢を取ることなど不可能だった。

    しかし最終的な判断をしたのは自分自身。
    誰にも責任を押し付けられないまま、存在するのかもわからない楽園に向かって突き進むしか選択肢は無いのであった。

  • 70二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 23:58:57

    本物と偽物の対比が酷いな……他者を傷つけてまで手に入れた乗船権は本当に方舟の物でしたか?
    正気に戻ったら潰れるから、突っ走るしかないんだろうが……まるでセイアが本当に亡くなった世界線の2人みたいだ

    メフィストは色彩呼べるようになったらしいけど…
    短時間の接触で壊れかけたのに?道連れ用かどうにかできる手段を見つけたのか……はたして

  • 71二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 07:28:33

    続き期待してます^_^
    念のため保守!

  • 72スレ主25/05/26(月) 08:35:58

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    本日、ついに新しいメインイベントの情報が公開される。
    前回はトリニティの解放だったので次は……?
    続報を待とう。

    なお、サブイベントである『魔女狩り狩りゲーム』も並行して実施されるので好きな方へ参加しよう。

  • 73スレ主25/05/26(月) 14:21:10

    翌日
    かくして双方の戦いの準備が整った。
    本物と偽物どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの幕が上がる。

  • 74スレ主25/05/26(月) 14:22:42

    トリニティ総合学園、ティーパーティーテラスにトリニティ生のミメシスたちは集合していた。
    彼女たちの前には一台のカメラがあり、メフィストがそれを操作している。

    『はーいみんな整列〜。あ、ツルギちゃんもっと寄って寄って!で、ミネちゃんサクラコちゃんハナコちゃん……おっけ、揃ってるね!』

    『よし、そしたらナギサちゃんとミカちゃんは前に出て真ん中に立って……いいね、じゃあ放送流すよ?三、二、一……どーぞっ!』

    メフィストの合図と共にカメラが撮影を開始した。

    『皆さんご機嫌よう。私はトリニティ総合学園、ティーパーティー現ホスト、桐藤ナギサです。厳密に言えば、その複製であるミメシスですが』

    模倣ナギサは事前に打ち合わせした通り、台本に沿って話し始める。
    言葉だけでなく自分の人生そのものも台本に沿った、もはや役割を果たすだけの人形と成り果てていることを自覚していたが、彼女はそれをおくびにも出さなかった。

    『この放送は本来予定されていたものではありませんが、火急の問題が迫っているということもあり、公共の電波をお借りして放送しています。番組をお楽しみ中の皆様にはお詫び申し上げます』

    このトリニティの放送はメフィストと模倣ハナコの根回しにより、電波をジャックして放送されていた。

  • 75スレ主25/05/26(月) 14:24:19

    『さて、その問題についてまずはお話しさせていただきます。これはトリニティ独自の情報網にて観測したものですが……』

    『来たる七日後、このキヴォトスに『色彩』が顕現します。そして人々を狂気に陥れる光を四十日 四十夜、絶えず降り注がせ続けるということがわかりました』

    『この光を浴びた生物は一部の例外を除き、正気を失い肉体が崩壊してしまいます。つまりは死を意味します』

    模倣ナギサの言葉に、放送を観ていた市民たちが驚きパニックに陥る。

    「色彩って何!?」
    「わかんないけど、私たち死ぬの!?一部の例外ってどんなの!?」
    「流石にデマでしょ……。ネットも大騒ぎだけど、みんなお祭りみたいに騒いでるだけだったよ」

    中には信じていない者もいたが、情報源が歴史ある名門校のトリニティであるため信じる者も少なくなかった。

    『そこで私たちは、市民の皆様への避難所としてトリニティ地下のカタコンベを解放するべく、準備を進めています』

    『しかしカタコンベの収容人数にも限度があり、キヴォトス全土の皆様を収容できるキャパシティはありません』

    『ですが我々は決して皆様を見殺しになどしません。対策として現在、埋設式の簡易地下シェルターの設置を計画しており、色彩の光が降り注ぐ日までには収容人数を五倍にまで増やせる見込みです』

  • 76スレ主25/05/26(月) 14:26:02

    『ですがそれでもまだ土地は足りません。そこで我々はこの度、皆様を救うべく領土拡大のため、ゲヘナ学園へと侵攻を行うことを決定しました!』

    ゲヘナへの宣戦布告。
    色彩のニュースに引けを取らないほどの驚くべきニュースに市民はさらに騒つく。

    「え、トリニティとゲヘナ戦争するの!?」
    「連邦生徒会のコメントは!?」
    「どうしよう、友達がトリニティ自治区に住んでる……」

    『ゲヘナ学園はこれまで自治区内外問わず数多くの悪行を働き、市民の皆様へ恐怖と混沌をもたらしてきました。先のエデン条約調印式へのミサイル爆撃事件も、ゲヘナとテロリストによって仕組まれたものだったのです』

    『我々は彼女たちを許すことなど決してできません!皆様の安全の保障と、ゲヘナという世界の歪みの排除、これらを実現し、このキヴォトスに真の平和と安全をもたらすことをお約束しましょう!』

    『いわばこの戦いは正義のためのもの!そのために皆様にもお願いがあります。ゲヘナ学園への侵攻の際、共に戦っていただきたいのです』

    『戦闘経験の無い方でも問題ありません。現在配信中のアプリ、ブルーアークカタストロフを使えばどなたでも一定以上の戦力となり、戦うことができるのです。ご協力いただければ、学園の生徒でなくとも我らの同胞として迎え入れ、優先的に避難先を手配することも可能です』

  • 77スレ主25/05/26(月) 14:27:40

    『しかし、いきなりのことで皆様を困惑させてしまっていることも重々承知しております。私たちトリニティ総合学園も、決して清廉潔白とは言い難いものでした。醜い派閥争い、内輪揉め、数え上げればキリがありません……』

    『ですがついに、私たちは腐敗した上層部からこのトリニティを取り戻すことに成功したのです!』

    模倣ナギサは後ろに並ぶミメシスたちがカメラに映るよう、画面中央からずれる。

    『後ろの生徒たちが見えますか?彼女たちも私と同じミメシスで、学園に湧いた蛆をこのトリニティから排斥するために力を貸してくださいました!』

    『トリニティはこの勝利によって生まれ変わったのです!よって過去の忌まわしき歴史を捨て、真実の名の下に悪を断罪する者として新たなる一歩を踏み出すことをここに宣言します!』

    『その第一歩として、学園の名をトリニティから真実を意味するアリーティアへと改めます。新しい学園の名は『アリーティア総合学園』!』

    『改めて宣言します。我らアリーティア総合学園はゲヘナ学園に対し、宣戦布告を行います!侵攻はこの放送終了後、即時。戦う意思のない周辺住民の方々は、速やかに避難することを強く推奨します』

    『我々のお伝えする内容はこれにて以上となります。ご清聴ありがとうございました。そして最後はこの言葉で締めくくりましょう』

    『皆様に神のご加護があらんことを』

  • 78スレ主25/05/26(月) 18:40:31

    模倣ナギサの言葉で締めくくられ、放送は終了した。

    『いや〜お疲れお疲れ!良かったよナギサちゃん』

    労われる模倣ナギサの顔は無表情で、何の感情も抱いていない様子だった。

    しかしメフィストは彼女の気持ちなど気にもかけず、室内に置かれた大型ディスプレイでニュース番組を眺めている。
    そこにはパニックを起こす市民たちの様子が映し出されており、それを楽しそうに見ながらこの先の展望について考えていた。

    (まあ、避難所なんて解放しないしシェルターだって作るわけないんだけどね)

    (これでこのキヴォトスから生者は消えて、私が優位に立てるミメシスだけの世界になる!そうすればこの世界は私にとってより住み良いものになるんだから)

    (逆らう者がいるならみんな食べちゃえばいい。これでもう誰も私の人生を妨げない……!)





    〈アリーティア総合学園を名乗る諸君、こちらはトリニティ総合学園元ティーパーティー、百合園セイアだ。聞こえるかい?〉

  • 79スレ主25/05/26(月) 19:36:52

    不意に流れた聞き覚えのある声に、メフィストは夢の世界から現実に引き戻される。

    『百合園セイア!?どうして……』

    他のミメシスたちも皆動揺している様子だった。
    画面にはセイアが映っており、カメラに向かって背筋を伸ばして喋っている。
    模倣セイアを失って廃人になりかけていた時とは大違いだ。

    〈君たちの放送は見させてもらったよ。その上でこちらも声明を出すべく、放送枠をクロノスに譲ってもらった〉

    〈君たちの言う通り、トリニティは清廉潔白ではない。そこで、先のミメシス襲撃事件を市民からの声とみなし、これまでの罪を清算するべく、ティーパーティー解散のための不信任投票を実施してもらった〉

    〈投票権を与えられたのは昨日時点でトリニティに在籍する生徒。そしてその結果、全ての生徒が不信任を選んだため、ティーパーティーは無事解散となることが決定した〉

    『ティーパーティーの解散!?』

    セイアの発表を聞きメフィストに動揺が走る。

    (まずい、その場合セイアだけじゃなく、ナギサとミカまで権限を失うことになる……!)

    〈これにより百合園セイア、桐藤ナギサ及び謹慎中の聖園ミカはティーパーティーとしての権限を完全に剥奪。よって、今日から私たちは一般生徒さ〉

    〈ミカ、ナギサ、見ているんだろう?一緒に罪を償おうじゃないか〉

    セイアは画面の向こうの敵に話しかけるように語る。

  • 80スレ主25/05/26(月) 21:03:27

    〈そしてナギサがホストとしての権限を失ったことにより、先ほど宣言した学園の改名は無効となる!よって、アリーティア総合学園はただいまを持って廃校だ。儚い命だったね!〉

    〈何よりトリニティは神聖なる名だ。その重みもわからないような者が土足で踏み荒らすなど言語道断、返してもらおう!〉

    セイアの怒りのこもった挑発にメフィストは苛立つ。
    しかし画面の向こう側のセイアを止める手立ては無い。

    〈そして次のティーパーティー決定までの代理として、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生より指名された以下四名が学園の代表となる。名前を呼ばれた者は前へ〉

    〈栗村アイリ、伊原木ヨシミ、柚鳥ナツ、杏山カズサ〉

    セイアが指名したのは放課後スイーツ部のメンバーたちだった。
    事前に打ち合わせ済みとはいえ、アイリは特に緊張している様子だった。

    〈それではアイリ様、一言お願いします〉

    セイアに様付けされ驚くアイリ。
    しかしすぐに呼吸を整え、手元に紙を用意し読み上げる〉

    〈ご紹介に預かりました、栗村アイリです。これより私たちはティーパーティー代理組織『放課後ティーパーティー』として学園の治安維持に努めます!〉

    〈ど、どうかよろしくお願いします!〉

    アイリは精一杯頭を下げている。

  • 81スレ主25/05/26(月) 21:53:48

    〈ありがとうございます。では次にカズサ様、治安を乱す不穏分子を見付けられたようですが、詳細お伝えいただけますか?〉
    〈うええ、本当にやるんだ……〉

    今度はカズサが指名され、彼女は少々困った様子でポケットから話す内容の書かれた紙を取り出す。

    〈えーと、桐藤ナギサ、聖園ミカ、蒼森ミネ、歌住サクラコ、剣先ツルギ、浦和ハナコの六名はゲヘナ学園への侵攻を宣言したことでエデン条約に抵触、ETOの名の下にこれを実力行使で鎮圧するものとする。うわー物騒……〉

    『エデン条約!?馬鹿な!ゲヘナが締結に応じるはずがない!』

    突然出てきたエデン条約の名にメフィストは驚く。
    セイアはカメラを見ながら、エデン条約締結のために尽力してくれた友の顔を思い浮かべていた。

    (君のおかげだ。これはゲヘナを強く憎んでいた君だからこそできたことだ)

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    時は遡り一日前。

    ゲヘナ学園の生徒会組織、万魔殿の執務室にミカは来ていた。
    部屋ではメンバーの羽沼マコト、京極サツキ、棗イロハ、元宮チアキ、丹花イブキが各々自分の時間を過ごしている。

    そして他にはゲヘナ学園風紀委員会の委員長と行政官、空崎ヒナと天雨アコも同席していた。

  • 82二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 23:51:17

    なるほどね、色彩呼ぶのはこのためか。ひでぇマッチポンプだ
    神は7日で世界を作ったって聖書にあるらしいね。そこから取ったのかな?色彩顕現は
    やっとメフィストの目的が見えたな。看守ちゃんの煽りドストライクじゃんね。よく言い当てられたもんだ
    エデン条約がさらっと締結されてる…しかも立役者はミカ……いったい何が

  • 83スレ主25/05/27(火) 07:15:35

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ゲヘナ解放作戦
    来たる七日後、色彩の光が四十日 四十夜降り注ぐとされる。
    そこで、光から逃れるためのシェルターを設置する敷地を増やすため、悪しきゲヘナ学園を魔の手から解放しよう。
    クリア条件は万魔殿の議長羽沼マコトと風紀委員長の空崎ヒナを倒すこと。

    ノアの方舟の逸話のように、狂気の洪水によって生きとし生けるもの全てが滅ぶ前に方舟を完成させ、それに乗船するにふさわしい者になれるよう全力でアリーティア総合学園の勝利に貢献しよう。

    何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。
    ブルーアークカタストロフ、最終決戦の幕開けである。

  • 84二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 12:20:24

    最後に和解できることを祈って、念のため、保守。

  • 85スレ主25/05/27(火) 14:19:35

    彼女たちの目的はトリニティと万魔殿の監視である。
    アコはヒナの隣に背筋を伸ばして立っており、ヒナは特に興味も無さそうな顔で壁にもたれかかっている。

    しかしその隣には愛銃である終幕:デストロイヤーが立てかけられており、少しでも妙な動きがあれば即座に鎮圧するとでも言わんばかりの圧力を放っていた。

    「キキキッ……」

    マコトは机に脚をかけ、不敵な笑みを浮かべてミカを見ている。
    イロハとイブキは二人で玩具で遊んでおり、サツキはソファに座りながらミカとマコトの様子を眺めている。
    そしてチアキはカメラを構えて、二人の様子を撮影していた。

    まるで伏魔殿のような禍々しさと威圧感だが、ミカは気圧されることなく交渉を進める。

    「エデン条約を締結してほしい」
    「断る」

    マコトの返答は早かった。
    自分たちのホームだからか、この場はマコトの方が優位に立っている。

    「まず質問させてもらおう。聖園ミカ、お前は今謹慎中のはずだろう?今のお前にティーパーティーの権限など無いはずだ。この条約の提案は校則違反に当たるんじゃないのか?」

    「そうだね、あなたの言う通り今の私にティーパーティーの権限は無い。けど今日はティーパーティーではなく、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの使者としてこの場に来てるよ」

  • 86スレ主25/05/27(火) 18:35:14

    先生の関係者と聞き、マコトが興味を持ち始める。

    「ほう、先生からの差し金か」
    「差し金というのは少し違うね。先生にはこの場を設けるためのきっかけを用意してもらっただけ。会談の内容については特に干渉しないし、断ってゲヘナに制裁があるわけではないよ」

    「なるほど、では二つ目の質問だ。お前たちの目的は何だ?」

    「知っての通りトリニティは悪の手に落ちた。そして敵の次の狙いはあなたたちゲヘナだっていうこともわかってる」

    「だからあらかじめエデン条約を締結しておくことで条約違反を起こさせる。そうすれば条約に則って、実力行使で学園を取り返しにいくことができるからね」

    「キキキッ、小賢しい上に暴力的な作戦だな」

    「でも目的はそれだけじゃないよ。このまま放っておけばトリニティの名を使ってゲヘナにも、他の学園にも攻撃を加えて被害が出る。けどエデン条約が締結できれば、少なくともゲヘナには手が出せなくなる」

    「ほう、わざわざ守ってくれようというのか」

    一転、にやついていた顔が険しい表情に変わる。

    「ゲヘナを舐めるなよ。貴様らが負けたのは敵を叩きのめす強さ、冷酷さを持ち合わせていなかったからだ。だがゲヘナは違う。あんな賊どもに遅れなど取らない」

    マコトは威圧するも、ミカは表情一つ変えない。

    「相手はトリニティじゃなくて、その裏にいる黒幕だよ。もしゲヘナが勝っても、きっとそのゲヘナを内側から乗っ取りに来る」

  • 87スレ主25/05/27(火) 18:37:11

    「自分や大切な人と同じ顔をした兵を用意して、悪意で心を削りに来る。そしてある日突然、隣にいる人が学校外も含めた大勢の人の悪意に晒されることになる」

    「たとえ退けることができたとしても、傷跡は残るよ」

    マコトはトリニティ生の言葉など問答無用で否定してやろうと思っていたが、ミカの言葉は否定しなかった。
    彼女の目は、語りは、それを体験した者のそれだったからだ。

    「だがわからんな。貴様らは既に学園を奪われた。取り返せるならそれで良し、たとえそれができなくとも、憎きゲヘナを道連れにできるかもしれないんだぞ?」

    「学園を奪い返すにしても、条約なんぞに頼らなくとも力づくで挑めばいいじゃないか。少なくともゲヘナならそうする」

    マコトの言い分はもっともだった。
    かつてのミカならそう判断したかもしれない。
    けど、今は違う。

    「確かにそうだね。でも今の私はそうしようとは思わない」

    ミカの言い分にマコトは嘲笑うように言い返す。

    「勝手だなぁ?ゲヘナ憎しの一心でこれまで散々無茶苦茶をしてきたくせに、今更心変わりか!」

    「あのタヌキは……!」

    近くで見ていたアコは内心マコトに苛立っていた。
    自分のことを棚にあげてよくもまあ偉そうに言えたものだと。
    しかし残念なことに、彼女の言っていること自体は間違っていない。

  • 88スレ主25/05/27(火) 18:39:49

    確かに過去、ミカの裏切りもありエデン条約調印式はテロリストの攻撃を受け中止となり、巡り巡って先生が大怪我を負う結果となった。
    マコトの味方をするわけではないが、思うところはある。

    そしてミカにも、表情にこそ出さないもののマコトの言葉が深く突き刺さっていた。
    部屋の空気が重くなる中、意を決したようにミカが口を開く。

    「……私にはあなたたちゲヘナの生徒が、物語に出てくる悪者に見えた」

    「晄輪大祭の時も、エデン条約の時も、色彩の対策会議の時もそう。テーブルを挟んで向こうに座るあなたたちを、私は同じ人間として見ていなかった」

    「でも、そんな私に考えを変えさせる出来事が起こった」

    「私は事件を起こした罰としてボランティア活動に参加することが多いんだけど、その日も街の花壇の草むしりをしてた」

    「そんな中私は日差しと暑さで体調を崩しちゃって、日陰で項垂れて動けなくなってた。そんな時、一人のゲヘナの子が私に声をかけて助けてくれたの」



    「あの時はありがとうね、イブキちゃん」

  • 89スレ主25/05/27(火) 20:54:18

    ミカはイロハと遊んでいたイブキに向け、声をかける。
    それを聞いたイブキはミカの方へ向き直り、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべた。

    「どういたしまして!ミカ先輩、あの後は大丈夫だった?」
    「うん、お陰様で。ごめんね、挨拶が遅れて。大事な話だったから……」
    「ううん!イブキ、ミカ先輩とまた会えて嬉しい!」

    ミカとイブキが知り合いだったという事実に、マコトの余裕が一気に崩れる。

    「な、なにィー!?!?!?お前たち知り合いだったのか!?なぜ今まで黙ってた!?」

    「あれ?イブキちゃんあの日のこと言ってなかったの?」
    「うん?イブキ言ったよ?ミカ先輩と友達になったって!」
    「…………あ」

    マコトはイブキから聞いた話を思い出した。

    「あの時のか!いや確かに聞いたが!ミカって、まさかトリニティの聖園ミカだとは思わないだろう!くそっ、私が確認を怠ったばかりに……!」

    「もうマコトちゃん。いちいち友達一人一人のこと聞くなんて、そんなの過保護を通り越して過干渉よ?」

    サツキの意見は至極真っ当だ。
    頭を抱えるマコトを尻目に、イロハはイブキの頭を撫でている。

    「イブキは偉いですね。それで、その後はどうしたんです?」
    「うん!その後はエリカ先輩とキララ先輩と会う約束してたから、二人に来てもらって一緒に涼しいところに行ったの!」
    「それでミカ先輩が元気になったから四人で草むしりを終わらせて、一緒にアイスを食べに行ったんだ!」

  • 90スレ主25/05/27(火) 20:55:35

    「キララちゃんの教えてくれたお店、美味しかったね」
    「でしょ!他にもいっぱい美味しいお店があるんだよ!」
    「なっ、なななな……」

    イブキだけでなくキラキラ部とも知り合っていた事実にマコトは唖然としている。
    ミカはマコトの方へ向き直り、話を続ける。

    「話を戻すね?あの日私はイブキちゃんたちと出会って、たくさん話をした。あなたのことも聞いた。隣から見るあなたはとても頼りになって、かっこよく見えるって。イブキちゃんが真っ直ぐに慕ってるのがよく伝わってきた」

    「だから私も、あなたたちをゲヘナで一括りにするんじゃなくて、一人一人をもっと見て知っていきたいと思った」

    「きっかけはこの一件だけじゃない。どこへ行っても同じだった。トリニティも、ボランティアでも、アルバイト先も、ゲヘナも、みんな同じだった」

    「普通に喜んで、怒って、悲しんで、笑って。良い人にも駄目なところがあって、嫌な人にも見習うべきところがあって、そしてみんな、誰かにとっての大切な人だった」

    「だから今の私には、これからゲヘナが狙われると分かっていて放っておくことなんかできない」

    「私がここに来たのはそれが理由だよ」

    少しずつ空気が和らいでいく。
    そして流れがミカに傾き始めたことでマコトに焦りが生まれる。

    (ぐっ、なんだかコイツの方が大人に見えてきた。何か落ち度はないか……)

  • 91スレ主25/05/27(火) 20:56:50

    ということを考えているのは既に見透かされているのか、他のゲヘナ生からマコトは釘を刺すような視線を向けられていた。

    「ぐっ、そもそもだ!我々やお前たち、どちらかがこの条約を反故にする可能性は考えていないのか!?そうなっては元の木阿弥ではないか!」
    「無いとは言えない、悔しいけど。でもそうならないように私たちがいる」

    「私はクーデター派なんかを見かけても、あえてスルーするかもな!?」
    「あなたの大切な人がその選択に巻き込まれ、傷つくかもしれないとしても、あなたはそれを肯定するの?」
    「っ!」

    言い返そうとするも、マコトは言葉に詰まった。
    もしイブキがそれに巻き込まれたら。
    咄嗟にそう考えて、ミカに反論することができなくなっていた。

    「……ゲヘナ学園は生徒の自由を奪わない。民がそれを望むなら、私はそれを尊重するまでだ」
    「……が、それを見ても何とも思わないと言えるほど、私は完璧ではなかったようだな」

    マコトは背もたれに首を預けて天井を見上げ、ため息をついた。

    「憎きトリニティとはいえ、ここまで努力した人間を見てなお嘲笑おうものなら、私は偉大なるマコト様ではなくなってしまうだろうな」

    「元から偉大なんかじゃないでしょ」
    「んふっ、委員長……!」

    自嘲気味に呟くマコトに、ここまで黙っていたヒナが突っ込みを入れる。

    「お前なぁ!?イブキの前で私を貶すのはやめろ!私にもプライドはあるんだぞ!?」

  • 92スレ主25/05/27(火) 20:58:02

    ミカはイブキと目を合わせて微笑む。

    「それから、締結してほしいとは言ったけど期限付きでいいよ」
    「何!?」
    「これはあくまでミメシスの侵攻を食い止めるためのもの。争いを根本から無くすのに、本来はこんなもの必要無いはずだから」

    「大事なのは手を出せないよう壁を作ることじゃなくて、隣に立ってその顔を見て、相手を知ることなんだと思う。その人が何を愛しているのか、何に怒るのか」
    「連邦生徒会長がそこまで見越していたのかはわからないけど」

    「は、お花畑め」

    そう言いつつも、マコトは観念したように姿勢を正す。

    「書類を渡せ。判を押す」

    マコトは渡された書類に判を押し、ミカへと手渡した。

    「うん、確かに。ありがとう」
    「これは互いに同意し合って締結されたものだ。上も下も無い」
    「よかった。実は内心、締結に応じるかわりに無茶な要求とかされたらどうしようかと思ってたんだ」
    「…………」

    「おや、なかなか鋭いですね。今のマコト先輩は『イブキの前でかっこつけたいモード』に入ってるので気前が良いだけですよ。運が良かったですね」
    「イロハ!!」

    茶々を入れるイロハにマコトは憤っている。

  • 93スレ主25/05/27(火) 22:12:17

    「ふふ、それじゃあ私はもう行くね?ゲヘナへは手を出させないつもりだけど、警戒は怠らないで」
    「そこに関しては風紀委員会が指揮を取るつもり。出口まで送るわ」

    ヒナがミカを見送るために出口へと歩き始めた。

    「さっき言った通り、この件に関して上下をつけるつもりはない。ただ、それを承知で一つ見てみたいものがある」
    「何?」



    「我らに無礼を働いたあの阿呆共の泣きっ面だ」
    「!!」

    部屋を出ようと背を向けたミカに、マコトからの遠回しな激励が飛ぶ。

    「任せてよ!」

    ミカは振り返り、とびきりの笑顔で答えてからヒナと共に部屋を出た。

    「とんでもなく悪い顔してましたね、彼女。案外ゲヘナと相性良いかもしれませんよ?」
    「あら、全方位に喧嘩売ってる?」
    「まさか身内からスキャンダルが出るなんて!」

    「馬鹿言うな!過度な馴れ合いを良しとした覚えはないぞ!」
    「イブキも、ミカ先輩ならみんなと仲良くできると思う!」
    「おお〜そうだなイブキ!仲良くできるさきっと!」
    「情緒不安定なタヌキですね……」

    こうして、無事エデン条約は締結された。

  • 94スレ主25/05/28(水) 06:55:33

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ゲヘナ解放作戦の報酬
    トリニティ解放作戦の時と同様、作戦に成功すればプレイヤー全員に藍輝石1200個が配布される。

    皆で協力し、必ず報酬を手に入れよう。

  • 95二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:42:34

    ほう、こういう経緯が…
    憎んでいたからこそ、実際に見て聞いて体験して考えを改めたって言うのは強いな
    最初にイブキやキラキラ部と出会ったっていうのも運がいい
    にやけ面で好き勝手してる相手を横合いからぶん殴れるんだから、そりゃあいい笑顔になるもんだ

  • 96二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 13:18:48

    すみませんここに来れば『にせティーパーティーの逆襲 くたばれ!メフィストフェレス』が見れると聞いたのですが?

  • 97スレ主25/05/28(水) 14:28:37

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ミカはヒナと共に校舎を出て、敷地の外へと向かっている。

    「まさかマコトを説き伏せるなんてね。見ていてスッキリした」
    「ええ……そんなに慕われてないの?マコトって」
    「それはもう。ゲヘナ生が全体的に政治に対して関心が薄いのもあるけど、支持率の低さは圧巻の一言だから」

    「それより本当に大丈夫?ETOは双方の学園から人員を出し合う中立組織。ゲヘナからも協力することだってできると思うけど……」
    「ううん、今回は大丈夫。これは私たちの戦いだから。ゲヘナに被害が及ぶ前にトリニティだけで終息させるよ」

    「そう、わかった。それにしても本当に驚いた。心境の変化があったとはいえ、前に会った時とは別人みたい。何か目標でもあるの?」
    「うん、ええと……胸を張れるような生き方をして、大切な人を安心させたいの。これまでたくさん迷惑と心配をかけちゃったから」

    ヒナの質問にミカは少しだけ照れくさそうにしながら答える。

    「そう、先生も罪な人ね」
    「うん」
    「こんな素敵な子から真っ直ぐな好意を向けられているだなんて」
    「そうだね」



    「……ってええ!?!?!?」

  • 98スレ主25/05/28(水) 14:29:36

    世間話のようについ肯定してしまったが、うっかり先生への気持ちを悟られてしまった。

    「ふふ、やっと年相応の顔が見れた」

    ヒナは楽しそうにミカを見ている。
    これもゲヘナの策略か、ミカは先ほどまでの余裕を一気に崩されてしまった。

    「な、なになに!?何が狙いなの!?」
    「私もあなたのことを知りたいと思った。それだけ」

    その言葉を聞き、はっとするミカ。
    目の前の少女はただ、同年代の者同士ガールズトークをしたかっただけなのだ。
    人とわかり合うということを改めて実感し、心の底から緊張のほぐれたミカはヒナの目を見て改めて名乗る。

    「私はミカ、聖園ミカだよ」
    「空崎ヒナ、ヒナでいい。よろしくね、ミカ」

    ヒナもまた条約締結前までの険しい表情から一転、ふわりとした柔らかな笑顔で答える。

    「よろしく、ヒナちゃん!今日はありがとう、またね!」

    こうしてミカはゲヘナとの条約締結だけでなく、新たな友を得て仲間のもとへ帰還したのだった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 99スレ主25/05/28(水) 18:30:50

    (ミカが成し遂げてくれたエデン条約締結、絶対に無駄にしない!)

    セイアはカメラへ向かってさらなる追撃を加える。

    〈言っておくけどハッタリなどではないよ?嘘だと思うならゲヘナ学園へ問い合わせてみるといい〉

    セイアの強気な物言いを見て、メフィストは次の手を考える。

    (この言い方、おそらく条約締結は嘘じゃない……。どうやったのかは知らないけど。こんな面倒なもの、すぐに潰してやる!)

    『ハナコちゃん、あの四人のAI音声って用意できそう?彼女たちのミメシスは作ってなくて、見た目を真似して条約の取り下げ宣言をでっち上げるのはできそうにないんだ』
    『駄目です、彼女たちのボイスデータはライブラリ内にありません!』
    『ぐっ……!』

    〈それから、放課後ティーパーティーのミメシスを作って、先ほどの宣言を取り下げさせることが不可能なことはわかっている。作っていないのだろう?彼女たちのミメシスを。そして、それをすぐに用意することはできない!〉

    まるでこちらの手を読んでいたかのような発言に、メフィストの中に焦りが生まれる。

    (駄目だ、読まれている!トリニティ乗っ取りに必要な能力のミメシスを優先して作り続けたことが裏目に出た!)

    〈これまで作ってきたのはどれも目に見えて優秀な能力を持つ生徒ばかり。上っ面の能力しか見ないで、彼女たちのような平和の象徴を、人の心を軽んじてきた君たちの負けだ!〉

  • 100スレ主25/05/28(水) 20:08:19

    〈君に言っているんだよ、メフィストフェレス!自分よりも年下の子どもの背にこそこそと隠れて顔を出さないなんて、よほど私たちが怖いと見える!情けないね!〉

    〈アリーティアだか何だか知らないけど、偽りの正義でコーティングした悪意を振る舞っておいて、何が真実だ!嘘の記事で民衆を騙してテロリストに仕立て上げて!〉

    〈この際だからはっきりと言わせてもらう!君たちのやっていることはただの『おままごと』だ!もうお片付けの時間だよ!〉

    『言わせておけば……!』

    おかしい、手際が良すぎる。
    旧トリニティはゲヘナを侵略して兵力が盤石になるまでは報復できない計算だったのに。
    なのに的確にこちらの作戦の弱点を突いてくる。

    (こちらの出方とタイミングを完全に読んでいる。未来でも視えているのか……っ!)

    その時メフィストは敵の絡繰に気付く。

    (そうか、セイアだ!奴め、死ぬ間際に百合園セイアに予知能力を継承させたな!だから私たちの行動を先回りできる!)

    『くそっ!あの女狐め!死んでなお私の足を引っ張るか!』

    思わず机を拳で殴りつけるメフィスト。

  • 101スレ主25/05/28(水) 20:58:14

    こんなことなら多少無理してでも模倣セイアを『継承』しておくべきだったか。
    そこまで考えてメフィストは一度冷静になる。

    (いや、依然私たちが優位に立っているのは変わりない。奴らは今後の学園間の関係悪化を防ぐために、狙いをゲヘナから旧トリニティへ向けさせることが狙いだ。呑気な奴らめ、すっかり学園を取り戻せる気でいる!こんな安い挑発なんかに乗るものか!)

    メフィストはどうにか気持ちを立て直すことに成功する。

    〈これだけラブコールを送ってもうんともすんとも言わないとは。全世界のお茶の間に年増の制服姿を見せることに引け目でも感じているのかい?〉

    〈それとも、計画が崩れたストレスで顔が浮腫みすぎて元気百倍顔パンパンマンになってる様を見せたくないのかな?気にすることはないよ、杜撰な計画の皺寄せが顔に来ただけさ!〉

    〈年相応の顔つきになっただけだ。今更だろう!どのみち十代のような透き通る瑞々しさは手に入らない!身も心もね!〉

    『殺す!!!!』

    メフィストの頭に一気に血が昇る。

  • 102スレ主25/05/28(水) 22:18:58

    (あの看守め、余計なことまで全て話したな!やっぱりあの時始末しておけばよかった……!)

    『予定変更!ゲヘナへの侵攻は後回し!先にあの死に損ないどもを今度こそ叩き潰すよ!』

    ミメシスたちの方へ振り向いたその顔は怒りで皺だらけになっていた。

    〈大切な場所を、大切な人を侮辱し、傷つけ、奪っていった者達を私たちは絶対に許さない!〉

    〈今一度宣言しよう。私たちトリニティ総合学園はテロリストから学園を奪還するべく、ETOの名の下に武力による制圧を行う!何と言われようとも、犯罪者に一切の容赦はしない。以上だ!〉

    セイアの宣戦布告を最後に放送は終了した。
    終始人を小馬鹿にしたような表情で捲し立てて、どちらが悪者なのかまるでわからなかった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 103二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 23:44:43

    放課後スイーツ部を代理にしたのはこれが理由か
    過去見る感じ、触媒置いて自然発生するまで放置が模倣ミメシスの作り方っぽいしそりゃあ時間が無いワケだ
    ゲヘナ侵攻まで殴られないって思ってる辺り舐められてるな…まぁセーフハウスの場所知ってるから何時でも滅ぼせるって高括ってたろうが

    底が見えたな…いくらガワを取り繕おうが本性は誤魔化せない
    歳食ってるのは確定でいいのかな?

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