【SS】にせティーパーティーの逆襲 Part3

  • 1スレ主25/05/21(水) 21:19:06

    これまでのあらすじ

    ある日突然セイアの前に現れた自分自身のミメシス、模倣セイア。
    ミメシスではあるものの、本物のセイアとまるで本物の姉妹のように互いの心を通わせていく。

    しかし仲間であるはずの模倣ミカと模倣ナギサは裏でトリニティを奪い取る計画を立てており、ナギサたちと対立することになってしまう。
    戦いの末、トリニティは一時ミメシスたちを取り押さえることができたものの、ミメシスたちの首領メフィストフェレスの策略により逆転を許してしまった。

    なんとメフィストは一般市民へ先生から強奪したシッテムの箱および大人のカードの模倣データを支給し、ユスティナ信徒のミメシスを指揮させることで街全体を覆い尽くすほどの数の兵士を用意していたのだ。

    市民たちは虚実を織り混ぜた悪意ある情報、あるいは元から抱いていた不信感によってトリニティへの悪意を持った者ばかりで、不正を正そうとする心を利用され、トリニティを奪い取るゲームへと加担させられてゆく。

    ゲームの名は『ブルーアークカタストロフ』。
    それは何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。

  • 2スレ主25/05/21(水) 21:19:36

    そんな中、友人であったはずの模倣ミカや模倣ナギサとのすれ違いによって模倣セイアは命を落としてしまう。
    そしてこれに怒り狂ったセイアは神秘を恐怖へと反転させてしまい、トリニティとミメシス双方甚大な被害を受けることとなった。

    最後の力を振り絞った模倣セイアやミカ率いるボランティア部などの救援によりどうにか全滅は免れ脱出することはできたものの、トリニティはテロリストたちの手に堕ちる結果となってしまう。

    敗走を余儀なくされるトリニティ。
    だが生徒たちの心は折れておらず、一人、また一人と立ち上がっていく。

    しかし、妹のように大切に思っていた存在を失ったセイアは、未だ暗い闇の底で座り込んだままで……。

    そう、これは本物と偽物の物語。
    どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの物語である。

  • 3スレ主25/05/21(水) 21:21:27
  • 4スレ主25/05/21(水) 21:23:33

    注意
    前スレではネタバレの都合上書かなかったけれども、名有り名無し含め数名オリキャラが出るよ。
    あと設定については捏造多めだけれど、そこは大目に見てくれたまえ。

    また、本スレは一日4000字程度、夕方頃からゆっくりめに更新していく予定だよ。
    感想でも考察でも、コメントを書いてもらえるとすごく嬉しい。
    これまで読んでくれた人、♡とレスをくれた人、みんなありがとう。

    では、続きを語っていこう。

  • 5スレ主25/05/21(水) 21:26:07

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    私たちはトリニティ地下から通じる地下墓、カタコンベの中で生まれた。
    正確に言うなら、ある時突然気が付いたらそこに立っていた、と表現すべきだろうね。

    殺風景な洞窟の中に不自然に置かれた洋風のテーブルと椅子、周りにはミカとナギサが居た。

    『何だここは……?』
    『セイアちゃん、ナギちゃん?』
    『ここはトリニティではないのですか?』

    そしてそこに、あの悪魔が現れた。

    『おお〜!申し訳程度の茶会要素としてテーブルとか置いてみたけど、本当にティーパーティーのミメシスが作れるなんて!やっぱり思念って自分に馴染みのある物の側に集まるんだね!』

    『あなたは、ヒフミさん……?これは一体……』

    『あ、そっか!違う違う!私はメフィストフェレス、メフィストって呼んでね!えっと、私はあなたたちを生み出した研究者で、この姿は借り物なの。だから私はヒフミちゃんではないんだ!』

    この軽薄そうな女はメフィストと言うらしい。
    とてつもない怪しさを感じるが、まずはその目的を聞かなくては。

    『なるほど。時にメフィスト、君の狙いは何なのかな?トリニティのティーパーティーを集結させるなんて』

    『いいや、今は特に無いよ?ただティーパーティーのミメシスを作れるかなーって!だから君たちは自由に行動していいんだよ』

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/21(水) 21:27:28

    待っていましたよ~!

  • 7スレ主25/05/21(水) 21:28:55

    『勝手に生み出しておいて、何て身勝手だと思うだろうね。けど、せっかくならこの人生をエンジョイして欲しいかな?』

    『何であれ、君たちはこの世界に生まれてきてしまったのだから』

    そう言ってメフィストは去っていった。

    『好きなようにと言われましても、何をしましょう?』
    『う〜ん、私はナギちゃんとセイアちゃんと一緒に居られるなら何でもいいかな?』
    『とりあえず、外に出ていろいろ見てみようか』

    そうして私たちは外の世界を見にいった。
    綺麗な街、活気のある通行人たち、たくさんの目を惹く売り物が置いてあるショッピングモール、記憶にはあるのにどれも新鮮に見えた。

    けど、二人はあまり目を輝かせてはいなかった。

    『いいなーとは思うけど、どうせ買えないもんね?』
    『まあ私たちは食べなくても生きてはいけますし、眺めるだけで十分ですね』
    『だよね。それよりさ、私帰ったらトランプやりたい!三人で遊んでる方が楽しいし!』

    二人とも少し出歩いただけで飽きてしまったようだった。
    手に入らないからと諦めて現状に満足する。
    私はそんな二人が、向上心の無い怠け者に見えていた。

  • 8スレ主25/05/21(水) 21:31:01

    この時の私は、自分は二人とは違うと強く思い込んでいた。
    百合園セイアの記憶にあるのはミカやナギサと違ってベッドで寝ている記憶か、読んだ本に関する知識ばかり。
    だからこそ、より強く外の世界に惹かれたんだと思う。

    そして今日外の世界に出て、改めてその素晴らしさを認識した。
    こうしてその煌めきに取り憑かれた私は、いつしか暗い地下で燻っているだけの愚かな人生なんて到底受け入れられなくなっていた。

    その後、一番愚かなのは私だったと気付くことになるんだけどね。

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    『えーっ!?セイアちゃんバイト始めるの!?しかも接客業!?向いてないよ!』
    『だ、大丈夫なんですか!?お客さんと喧嘩してすぐクビになる未来しか見えないのですが!?』

    『二人とも私を何だと思ってる!シフトは日中だから夕方までには戻る。じゃあ、行ってくるよ』

    そうして私のアルバイト生活が始まった。
    人間というのは、自分の記憶の中では争いごとの絶えない醜い生き物という印象だった。
    けど、アルバイトを通して実際に見てきた人たちは想像していたよりもずっと温かく、思いやりのある人たちばかりだった。
    もちろん陰湿な者も中にはいたが、悪目立ちしているだけで実際はごく少数だった。

  • 9スレ主25/05/21(水) 21:33:23

    『ただいま、ミカ、ナギサ。今日も廃棄のサンドイッチとケーキを貰ってきたよ』
    『わーい☆待ってたよセイアちゃん!』
    『毎回毎回、本当に良いのですか?私たちは何もしていないのに』

    『いいんだよ、店長さんからのご厚意だから。生きるのに食事がなくても、君たちにもこの味を知って欲しいんだ』

    『それから、これを君たちに』
    『ありがとうございます……って、これは!』
    『なになに?』

    私はミカとナギサにスマートフォンをプレゼントした。
    もちろんおしゃれな最新機種など買えないから、中古の安いものではあるけれど。

    『これで離れていても連絡が取り合える。まだ携帯会社との契約はしていないから、公共の電波を拾って使うしかないけど……ってうわっ!』
    『ありがとうセイアちゃん!だ〜いすき!』
    『セイアさん、ありがとうございます』

    喜びのあまり、ミカだけでなく普段はお淑やかなナギサまでもが抱きついてきた。
    思えばこの時が私にとって一番幸せな時間だったんだろうね。

    でも、私はここで選択を間違えた。
    もっと二人に喜んでほしかったし、もっと女の子らしい、華やかな日々を形だけでも送ってほしかった。
    いつかは本物にも負けないいい生活を手にするんだと、私はより一層仕事に力を入れていった。
    二人が本当に欲していたものにも気付かず。

  • 10スレ主25/05/21(水) 21:35:27

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    『あの、セイアさん。今日お時間空いてますか?よろしければミカさんと三人で久しぶりにお出かけでもしようかと……』

    『ああすまない、今日もバイトなんだ。ええと、次予定が空くのは五日後くらいになりそうかな?』

    『そう、ですか……。どうかご無理はなさらないでくださいね?』

    『わかっているよ。じゃあ、行ってくる』

    私はこの日、何が何でも二人のそばにいてあげるべきだったんだ。
    その先に待っているのは華やかな日々などではなく、友を蔑ろにした愚か者への懲役刑だったのだから。

    『最近セイアちゃんバイトしてばっかりだね〜?』
    『ええ、ですがそのおかげで私たちも少しずつ生活の質が上がってきてはいますが……』

    『でもセイアちゃんがいないの、やっぱり寂しいよね』
    『そうですね……。やはり私たちもアルバイトを始めた方が良いのでしょうか?外に出て、そこで新しい人と出会って、関係を築いて、セイアさんだけに依存しないようにしたほうが……』



    『やっほ、久しぶり!最近どう?君たちの近況聞かせてよ!』

    そこへ現れたのがメフィストだった。

  • 11スレ主25/05/21(水) 21:38:00

    『……なるほど、仕事にかまけてばかりのセイアちゃんに、蔑ろにされるナギサちゃんとミカちゃん……。いやそれなんて昼ドラ?その後どっちか浮気して拗れるパターンじゃん』

    『そこまで大袈裟な話ではないのですが、夢を持って邁進するセイアさんに、このままでは置いていかれてしまうような感じがするんです』
    『私もセイアちゃんに追いつきたい!なんか、目標がある人ってかっこいいもん。私もあんな風になりたい!』

    『うんうん、これだけ想ってもらえてセイアちゃんは果報者だね。じゃあさ、まずは二人も目標を持ってみるのはどう?』

    『目標ですか?』

    『そ!例えばセイアちゃん。君たちが使っているそのティーセット、お洋服に化粧品、全部セイアちゃんの稼いだお金で買ったものだよね?』

    『私が思うに、セイアちゃんは二人にもっと女の子らしい華やかな日々を送ってほしいって思ってるんじゃないかな?目標の一つはおそらくそれ。』

    『それともう一つ、彼女自身そんな生活に強い憧れを抱いている。他人のためと自分のため、二つの原動力があるから彼女はここまで頑張れるってことだね』

    『なるほど。でしたら私の目標はずっとこの三人でいること、それと、胸を張って生きられるよう他者の役に立つ行いをすることです』

    『じゃあ私は……うん!やっぱり三人一緒がいい!それと、先生に会ってみたいかも……。記憶の中に強く残ってる、私に優しくしてくれた人』

  • 12スレ主25/05/21(水) 21:43:01

    『いいじゃんいいじゃん!じゃあ次は、その目標を実現するために具体的に何をすべきかを考えないとね』

    『具体的に……』
    『う〜ん難しくなってきた……』

    『ふふ、実は私にいい考えがあってね?それは……』



    『君たちのオリジナルが通うトリニティ総合学園を乗っ取ること!』

    『ええ!?は、犯罪行為じゃないですか!!』
    『テロリスト!テロリストだよナギちゃん!もしもしヴァルキューレ!?』
    『駄目ですミカさん!電話会社と契約していないので通報できません!』
    『ああっ!盲点!!』

    『さすがに冗談。でもね、実は君たちに見てほしいものがあって。ほら、この記事見て?』

    "トリニティ総合学園はエデン条約調印式襲撃事件の際に被害に遭った一般市民への対応が不十分であるとして、インターネット上で非難が集中している"

    『これは……』

    『記憶にはあると思うけど、君たちが生まれる少し前に大きな事件があってね、おそらく上層部は自分たちの学園と生徒だけをケアした後、周辺住民への対応については揉み消す算段なんだと思う』

    『その上層部が……』

    『そう、君たちのオリジナルが取り仕切るティーパーティーさ。他にも表に出ていないような悪どいこと、いっぱいやってるみたいだよ?テザリングでネット使えるようにしてあげるから、調べてみるといいよ』

  • 13スレ主25/05/21(水) 21:44:37

    『とまあこんな感じで、今のティーパーティーは腐敗した政治家の集まりとも言える。だからこそトリニティには腐った部分を切り落とし、皆をまとめ上げる優秀なリーダーが必要なのさ。たとえば、オリジナルと同じだけの力を持つ君たちとか、ね』

    『どうかな?もし君たちがトリニティを解放できれば、バイトなんかせずとも華やかな生活を送り、ティーパーティーとして人の役に立ち、ついでに業務を通してシャーレの先生とも会うことができて、三人ずっと一緒にいられる。いい案だと思わない?』

    『で、ですが、いくらなんでも無関係の人々まで巻き込んでテロ紛いな行為を働くなど……』

    『うん、そう思うのは君が真っ当な感性を持っている証拠だよ。世の中君みたいな子ばかりなら、きっと虐げられる人なんて生まれないんだろうね。この件については一度、セイアちゃんとも相談してみるといい』

    『あ、そうだ、最後に君たちにおまじないをかけてあげよう!どっちにしてもセイアちゃんばりの行動力は必要でしょ?だから、君たちに『勇気』をあげる。二人ともおいで?』

    『えっ。は、はぁ、おまじないですか?ではお願いします……』
    『意味あるの?まあとりあえずかけてもらおっかな……』



    『よし、できた!二人とも私の話に付き合ってくれてありがとう!お礼に最近のトリニティや先生に関する情報を送るね!じゃ、またね!』

  • 14スレ主25/05/21(水) 22:49:32

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    『ただいま、ミカ、ナギサ。実は今日シフトの相談をして、予定を一日空けてもらえることになった。君たちの都合のつく日、一緒にどこかへ出かけないかい?』

    『その、今朝せっかく誘ってくれたのに、無愛想な断り方をしてしまったと思ってね。お詫びと言っては何だが、トリニティで人気の店のケーキを買ってきたんだ。一緒にどうだい?』

    『あら、お帰りなさいセイアさん。別に気にすることなどありませんのに』
    『あ、セイアちゃんおかえり!私たちもセイアちゃんに話したいことがあるんだ!』

    いつも通りの声にいつも通りの反応。
    そのはずなのに、何故か私は違和感を感じていた。
    何か大事なものが抜け落ちてしまっているような、そんな違和感。

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 05:10:18

    メフィストの能力の底が見えない……。

  • 16スレ主25/05/22(木) 07:28:31

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    魔女狩り狩りゲーム
    これはリストに掲載されたトリニティ生を戦闘不能にすることで、経験値や藍輝石がもらえる正義執行ゲーム。
    リストに掲載されているのはティーパーティーの生徒Mへいじめを働き、退任にまで追い込んだ者たちである。
    このような行いをするのは他人の痛みがわからないからこそ。
    正義の名の下に、生徒Mの受けた苦痛を彼女たちにも味わわせ、相互理解を促そう。

    さらに今なら新規ユーザー応援キャンペーン実施中!
    招待コードを入力すると紹介した側とされた側、双方に藍輝石600個をプレゼント!

    仲間を増やし、堕天使たちからこの聖なる地を共に取り戻そう。

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 09:34:00

    やっぱり人為的じゃないか。作り出しておいて放置は策なんだろうな。『私の命令に従って☆』なんて言いだそうものなら最悪、模倣ミカに『折るね』されかねないし。

    それで…わんぱくFOXの性質が悪い方向に作用したか…。3人一緒に仲良く暮らせてたらそれで満足だったのにね。

    そこにメフィストがさぁ!テザリングで繋げたネットの先、絶対細工してるだろ…


    >『あ、そうだ、最後に君たちにおまじないをかけてあげよう!』

    おまじないとか言いつつ、さり気なく等価交換の条件満たしてんじゃん。その『勇気』の内容物言ってみろや

    代価に取られたのは…他者への思いやり、隣人愛かその辺りか?

    留守をいいことにあることないこと吹き込むとか、陰湿極まるねぇ

    やっぱり全ての元凶じゃん

  • 18スレ主25/05/22(木) 13:20:38

    『美味しいね★』
    『だろう?ここはトリニティ自治区内でも特に人気の店でね、運良く買えたんだ。他にも美味しそうなものがあったから、次はそっちを……』

    『外の世界の人たちは、毎日こんなものを食べているのですか?』
    『毎日?いや、健康のこともあるし毎日ではないだろうが、食うに困らないのは間違いないね』

    違和感はさらに強くなる。
    怖くなった私は話題を逸らすことにした。

    『そうだ、二人とも見てくれ!今日出勤前にトリニティ総合学園の校舎近くまで行ってきたのだけどね、すごく大きくて綺麗な校舎だったよ!他にも街並みとか、こっちはバイト先でみんなで撮った写真さ!』

    私はナギサの機嫌を伺うように、これまで撮ってきた外の世界の写真を見せる。
    しかしナギサの機嫌はみるみる悪くなり、写真に写る人々を恨めしそうに見ている。

    『この写真も、こっちも、皆さん楽しそうですね』
    『そ、そうさ!私たちもうまく社会に溶け込むことができればいつか……』
    『反吐が出る……!』

  • 19スレ主25/05/22(木) 18:32:51

    『ナギサ……?』
    『おろしたての良い服を着て、ヘラヘラ笑って、そんなに私たちの境遇が無様で滑稽に見えますか?』

    『な、何を言っているんだ?彼女たちはそんな人たちじゃない!』
    『そうでしょうか?私には彼女達の笑顔は、私たちに対する侮蔑と嘲笑にしか見えませんがね』

    『侮蔑?嘲笑?馬鹿を言うな!彼女らが私たちの境遇を知っているはずがないだろう!一体どうしたんだ!?君たちを蔑ろにしたことを怒っているのか!?』

    『何故私たちと彼女たちでこんな格差が生まれるのですか?能力だって、容姿だって劣っていないのに!私たちの方が必死で頑張っているのに!!』

    『苦境を味わったこともない、大した努力もせず!それなのに良い思いをしている。そんな資格もないくせに!』

    『違う!彼女たちは自分の青春を謳歌しているだけだ!それは万人に平等に与えられる権利で、資格を手に入れる必要なんかない!』

    『平等?』
    『っ……』

  • 20スレ主25/05/22(木) 18:33:52

    『平等、確かに仰る通りですね。彼女たちからすれば、私たちのような道端の石ころなんて目にも入らないでしょう。仲間内だけで富を独占し、それを平等と言い張る。何て卑しい!!』

    (ダメだ、話にならない。私がいない間に一体何があった!?)

    ナギサは私が見せた写真の一つを指差す。
    校舎の写真の一枚で、ティーパーティーのテラスが写っていた。

    『……時にセイアさん、ミカさん、提案があります。この写真に写っている、無能な政治しかできない呆けた女共を引きずり下ろせば、私たちがその椅子に座ることもできるようになる。そう思いませんか?』

    ナギサのあまりの変貌ぶりに私は何て言い聞かせればいいのかわからず、ずっと黙っていたミカが先に口を開いた。

    『私も許せないよ。先生はみんなのものなのに、一部の人たちが独占してる。私は会ったことすら無いのに。ねぇナギちゃん、私も先生とお話ししたいし、お姫様になりたいよ!』

  • 21スレ主25/05/22(木) 18:34:53

    『なれますよ!ミカさんだってたくさんの苦労をしてきたでしょう!物語のヒロインになるのは得てしてそういった女性たちなのですから!シンデレラのように!』

    『先生もきっとあなたを愛してくれるはずです!』
    『ほんと!?じゃあ私もナギちゃんと一緒に行く!』
    『セイアさんも、ね?』

    そう言ってナギサは私に手を差し出す。

    私にはナギサやミカが愛に飢えている子どもに見えた。
    欲しているのは物や肩書きであっても、その根底にあるのは他者からの愛を求める心。

    そして、仮に肩書きや持っている物を奪えても、その人たちが受けていた愛までは奪えない。
    そんな簡単な理屈を言い聞かせることすら不可能なほど、手遅れになっていることを私は悟った。

    私は間違えた。
    私は彼女たちに物を与えるのではなく、一緒の時間を過ごして愛を与えなければならなかったんだ。
    けど、今の私では二人の心に空いた穴を埋めてあげられない。

    そして私は二人を止めるため、その手を取るふりをした。

  • 22スレ主25/05/22(木) 20:21:57

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    私はこのことをメフィストに問いただした。
    すると奴は自分のしたことを、まるで研究成果を自慢するかのように嬉々として語ってきた。

    奴の話によると、ミカとナギサはトリニティや先生の情報を得る代わりに、感情を抑制するブレーキを失う取引をしたらしい。
    それによってミカは先生への好意とそれを邪魔する者への怒りを、ナギサはトリニティへの怒りを抑えられなくなっていた。

    それを聞いて怒り狂った私は、それらを取り戻すためにメフィストに戦いを挑んだ。
    だが奴には勝てなかった。

    『はあ、はあ…………ぐっ!』
    『無理だよ、セイアちゃんじゃ私には勝てない。それにこの取引は二人の同意の上で成立してるんだよ?君が保護者面して横からどうこうしようだなんて、おかしいと思わない?』

    『よくもぬけぬけと……!何が取引だ!一方的に騙したようなものじゃないか!!』

    『そもそも生まれた時からおかしかったんだ!私もミカもナギサも、記憶の中にある本物の私たちと行動が明らかに違う!私たちはミメシス、複製であるはずなのに!私たちに一体何をした!!』

  • 23スレ主25/05/22(木) 20:24:17

    『何をしたっていうか、最初から違うというか……。ああ、マエストロくんが複製って言い始めたのが浸透しちゃったのかな?あれ、厳密に言えば間違いだからね』

    『例えばユスティナ信徒なんかもそう。彼女たちだって業務以外では普通の女の子だったはずだよ。でもミメシスって、その人の感情以外にも周りの人からのイメージだとか、関係ない他人の感情だとか不純物も入り込むわけ』

    『特に現代なんて、当時の彼女たちを知る人はもういない。あるのはこわ〜い拷問をするシスターさんってイメージだけ。そんな人々の念が集まって形を成したのが現代のユスティナ聖徒会、そのミメシスなんだよ』

    『つまり、君たちミメシスは模倣であって複製ではないのさ。君の場合、他人からのイメージを含む、百合園セイアの記憶と能力を持って生まれた別の存在って言えばいいのかな?』

    『それと、記憶があるとはいえ生まれたばかりの君たちでは本物とは精神年齢の差もあるからね。今の君たちはだいたい八歳くらいかな?』

    『そりゃあ本物とちょいちょい違う性格にはなるよね〜。まあ、きちんと言うこと聞いてくれるなら私はどっちでもいいけどね』

  • 24スレ主25/05/22(木) 22:03:44

    『人の命をおもちゃみたいに……!!』

    『まあ、君たちからしたらたまったもんじゃないよね。今私が何を言っても煽りになりそうだし、これ以上はやめておくよ。それよりさ、君は二人を止めたいわけだよね?』

    戦闘では止められそうもない私に、別の方法として奴は取引を持ちかけてきた。
    一つ得る代わりに一つ失う、シンプルな話だった。

    『等価交換だよ。あ、そうそうこないだそれがテーマの漫画読んだんだけどね?あれめっちゃ面白いよ!?今度貸してあげるね!バイト先の人との共通の話題にもなると思うよ!』

    『ああ、話が逸れたね。それじゃあ前置きはこのくらいにして、君に力を授けよう。代償は私が指定するね?大丈夫、思考に関する部分や生命活動に必要なものは奪わないよ』

    『それと、この間君が並んで買ってきたケーキ、私も並んだことあるけど目の前で売り切れちゃってさ。明日再トライしてみるよ。きっと、何倍も美味しく感じると思うから♪』

    こうして私は以前百合園セイアに備わっていた、未来予知の力を手に入れた。

  • 25スレ主25/05/22(木) 22:05:49

    取引は二回行った。
    一回目は予知能力を手に入れるため、二回目はその精度と利便性を向上させる改造を受けるために。



    そして取引が終わったその瞬間、私はこの結末に至るまでの全てを目の当たりにした。

    『……は?え、あ、死?あ、あああ…………んぐっ、お"え"え"ぇ"っ!!』

    そのあまりの恐ろしさに、私は胃の中のものを全てぶちまけてしまった。
    そして、何を失ったのかを身をもって知ることになる。

    『はあ、はあ……吐瀉物の味がしない?匂いも、全く感じない……!』

    そう、私は味覚と嗅覚を失った。

    『あらら、何か悪い未来でも視ちゃった?でももう立ち止まることなんてできないよね。ミカちゃんとナギサちゃんを止めたいんだったら、立ち止まってなんかいられない』



    『友達のことを想うなら、自由も青春も惜しくなんかないよね?だから進み続けるんだよ。その命が燃え尽きるまで』

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 26二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:36:32

    マエストロの知り合い…ゲマトリアの関係者なのは確定か
    何が等価交換だよ、選択肢狭めてそれしかないように誘導してるじゃんね
    感情のブレーキの取っ払い…地下ちゃんを思い出す

    「お前がはじめた物語だろ」じゃないんだよ
    「お前がはじめさせた物語」なんだよ

  • 27スレ主25/05/23(金) 07:17:46

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    トリニティ生のミメシスについて
    ナギサ、ミカ、サクラコ、ミネ、ツルギ、ハナコのミメシスはそれぞれ強力な力を持った味方NPCである。

    しかしNPCといってもAIなどではなく感情を持っている特別なミメシスであり、彼女たちはトリニティの現状を憂いて『自らの意思』で力を貸してくれている。

    彼女たちの幸せのためにも、一日も早くキヴォトスから悪人が淘汰されるよう力を尽くそう。

  • 28二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 10:48:10

    『自らの意思』ねぇ…

  • 29スレ主25/05/23(金) 14:13:14

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    『私の過去はこれで終わり。あとは姉さんも見た通りさ』

    映像が終わり、シアター内に明かりが灯る。
    セイアは言葉が出なかった。
    そして妹にこんな惨たらしい仕打ちをした悪魔に対し、再びどす黒い殺意が湧き上がる。

    『戻ろうか、あの公園に』

    そして気がつくと二人は再び公演のベンチに座っていた。

    『それからというもの、何を食べても味がしなかった。ロールケーキはスポンジに、ガトーショコラは粘土に、紅茶はお湯に変わった。そして賄いを楽しめなくなったのとナギサたちを止める準備に忙しくなったのもあって、バイトも辞めてしまった』

    「炭酸水を好んでいたのって……」

    『ああ、味覚が無くても楽しめて、口の中の不快感も洗い流せる。私なりにもがいた結果見つけた、数少ない娯楽さ』

    『ごめんね?ナギサのケーキに姉さんのホットミルク、私はみんなからの愛をきちんと受け取れなかった』

    『スイーツビュッフェもそう。頑張って口の中に押し込んだけど受け付けなくて、みんなが未来の話をして、私にはそれが無いのもわかってて、気持ち悪くなっちゃって……』

    『本当にごめんね』
    「謝らないでくれ!!君は何も悪くないじゃないか!!友人のために自分を犠牲にして、一人で踏ん張り続けた!!」

  • 30スレ主25/05/23(金) 18:33:41

    『いいや、確かに私は道を間違えた。これまで色々な物を失ったのも、煌びやかな生活という甘い蜜に釣られ、友を地獄に叩き落とした馬鹿で無価値な愚か者への、せめてもの報いだと思っているよ。怖かったけど、死ぬことは受け入れているつもりだ』

    模倣セイアは哀しげに笑っていたが、それから彼女は言葉を発さず、黙り込んでしまった。
    しばらくするとその背が震え始め、鼻をすする音が聞こえた。

    『……けどそれよりも、友人が道を踏み外していくのを見ている方が辛かった。何度も説得した。でも何をしても未来は変わらなかった』

    『そうこうしている間にも期限は近づいてくる。そして私は、取り返しのつかないことになる前に、二人を終わらせることを選んだ』

    『本当はもっと早くに、君たちと会う前に決着をつけるつもりだった。けどできなかった、友達を殺すなんて。直前でいつも躊躇ってしまう』

    『それから彼女たちとは距離を置いて、隠し事をし、いつしか倒すべき敵とまで認識してしまった』

    模倣セイアの声は震え、瞳からは大粒の涙が溢れている。

    『そして最後の最後で、私は青春にしがみついてしまった!!姉さんと一緒に風呂に入って遊びに誘われて、断るつもりだったのに!涙が止まらなくなって、慌ててお湯を被って誤魔化して!』

  • 31スレ主25/05/23(金) 19:03:55

    『あそこでもっと早くみんなに相談していれば!そうすればもっと違う結果になっていたかもしれないのに!!そして私は道連れという短絡的な方法を取って、あろうことか失敗した!!』

    子どものように泣きじゃくる模倣セイアを、セイアは優しく抱きしめる。
    何も言わず、ただそっと。

    『挙げ句の果てに、ミカとナギサに嫌われてしまった!命も失って、もう話し合うこともできない!』

    『友達と喧嘩別れをすることが、こんなに辛いだなんて思わなかった!!』

    『ごめんなさい!ごめんなさい!!もっと、彼女たちに寄り添っていればよかった!』



    『仲直りしたかったよぉ……!!』

    大声を上げて泣きわめく妹を、ただただ抱きしめ続けた。
    普段小難しいことを言っているが、彼女は生まれたばかりの子どもだったのだ。
    地獄のような未来を視て、それなのに投げ出さずにここまで進み続けた。
    きっと想像もつかないほど苦しかっただろう。

    そしてエデン条約を巡る事件の時、もしかしたら自分たちもこうなっていたかもしれないと思うと、セイアには妹の悲しみが他人事のようには思えなかった。

  • 32スレ主25/05/23(金) 19:26:56

    『……取り乱したね。ありがとう姉さん。君と話せて少し楽になった』
    「ああ」

    『それでも、彼女たちのしたことは許されるものではない。見逃してほしいだなんてぬるいことは言わないよ』
    「当然だ。ミカとナギサ、二人とも罪を償わせる。まあ、荒事はそれが得意な友人に任せることになるだろうが……」

    『それから、メフィストフェレスを止めてくれ』
    「勿論だ。地獄の果てまで追い回してでも、奴は必ず仕留める」

    「それと、私は君を誇りに思う。君の望みも私が受け継ぐ。だから安心して、もうこれ以上苦しまないでくれ。失敗しただとか、無価値だなんて私が誰にも言わせない……!」

    セイアは真っ直ぐと強い目で妹の目を見る。
    模倣セイアは少し驚いたように目を見開き、安心したように優しく微笑んだ。

    『ありがとう』

    『姉さんももう大丈夫みたいだね。心配していたんだ、短い間とはいえ友情を育んだ人たちが私の死を引きずっていないか』

    「それは……まあ、しばらく引きずると思う」

    『それともう一つ頼みたい。もし私を救えなくて、などとめそめそしているような者がいたら引っ叩いてやってくれ。これは私が望んだ結末なのだから、いつまでも落ち込んでいるなと』
    「わかった」

  • 33スレ主25/05/23(金) 20:04:05

    『それから最後に、姉さんにこれを託す。戦いが終わるまでの間しか保たないけど、役に立つはずだ』

    模倣セイアはゆっくりとセイアに顔を近づけ、優しく額を合わせる。

    『説明はしないよ。その使い方は君もよく知っている。多少勝手が違うので戸惑うかもしれないが、そこはまあ……愛の力で何とかしたまえ』
    「そんな適当な……」
    『いいだろう?私たち女子高生は全てにおいて『エモさ』が重視される存在なのだから』

    模倣セイアの想いが、暖かさがセイアへと伝わりとろりと溶け込む。

    「これは……」
    『じゃあ、私はそろそろ行くよ』

    模倣セイアはベンチから立って走り出し、セイアの方へ向き直る。
    セイアは思わず引き留めそうになるが、寂しさをぐっと堪えてその目を見た。

    『ありがとう姉さん!愛してる!』

    少し気恥ずかしそうな、暖かくまばゆい笑顔。
    その後辺りは光に包まれ、セイアは夢の世界から帰還した。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 34スレ主25/05/23(金) 20:27:09

    「はっ!?」

    セイアが目を覚ますと、そこは自分以外誰もいない部屋だった。
    ベッドに寝かされ、服も着替えさせられている。

    (そうだ、確かナギサのセーフハウスに運び込まれたのだったな……ん?)

    ふと枕元を見ると自分のものともう一つ、模倣セイアの使っていたスマートフォンが置いてあった。

    それを手に取り側面のボタンを押す。
    表示されたロック画面には模倣ミカ、ナギサ、セイアの三人が笑い合って写っている写真が設定されていた。

    メフィストに心を壊される前は模倣セイアの言っていた通り、穏やかで優しく、仲の良い三人だったのだろう。
    画面を見ていると、持ち主と同じ顔だったせいでロックが開いてしまった。

    そこまでプライベートに踏み込むつもりは無く、申し訳ないと思っているとホーム画面が開かれる。



    そこには、先生と放課後スイーツ部と共に夕暮れの公園で撮った写真が設定されていた。
    あの後すぐに拘束されたことを考えると、カズサから共有されてすぐに設定したのだろう。
    妹は自分たちとの思い出も大切にしてくれていたのだ。

    「…………っ!愛してる。私も、君を愛してる……!」

    妹の前では彼女を慰めるべく気丈に振る舞っていたが、今度は堪えきれそうもない。
    セイアは誰もいない部屋で、一人静かに涙した。

  • 35スレ主25/05/23(金) 20:45:36

    ひとしきり湧き出る感情を洗い流し、ふと近くのテーブルを見るとそこにはいくつかの食料と水筒に入った紅茶が置かれていた。
    そしてその横には数枚の手紙。

    "どうかご無理なさらず、少しずつで良いので栄養を摂ってください。サンドイッチの具材は栄養もあり柔らかく、食べやすい物を選んでいます。 ミネ"

    "私からはクッキーを。優しい甘さで美味しいですよ。辛いことがあればいつでもご相談ください。私たちはあなたの味方です。 サクラコ"

    "美味しい苺が手に入ったので、よろしければ。正義実現委員会として、必ずあなたをお守りします。 ツルギ"

    "セイアさんの好きなロールケーキもご用意しています。飽きているかもしれませんが、このような時にこそいつもの味は心を落ち着かせるものです。どうかご自愛ください。 ナギサ"

    "前にセイアちゃんが食べたそうにしてたマカロン、手に入ったから食べてみて!それから、私たちはみんなセイアちゃんのこと大好きだよ! ミカ"

    "私はみんなのようなセンスは無いから、趣向を変えておにぎりと味噌汁を。そしてどうか、大人を頼って欲しい。必ず君の力になる。 先生"

    「気持ちは嬉しいが、私を大食漢か何かだと思っているのかな?それにしてもまったく、誰も彼も私の感情を揺さぶるのが得意らしい……」

    丸二日ほど何も食べていないことと、皆の愛で心の調子を取り戻したこともあってセイアの腹はとてつもない空腹感に襲われていた。

    彼女は仲間からの思い遣りに肩を震わせながら、差し入れを口へと運んだ。

  • 36スレ主25/05/23(金) 21:15:17

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    一方、先生はセイアの様子を見に行くために廊下を歩いていた。
    しかしその足取りは重かった。
    これまで何度か様子を見に来たが、こちらの声掛けにも反応せず、ただぼーっと天井を眺めているだけだったからだ。
    そして、そうなってしまった責任の一端は自分にある。
    自分がもっと適切な指揮をして、模倣セイアを守れていたら。

    そんなことを考えているうちにセイアの部屋の前にたどり着いた。
    おそらくノックをしても反応はない。
    毎回その度に気分が落ちてしまうが、それでもセイアに寄り添いたい。

    先生は意を決してドアをノックする。



    ……はずが、直前でドアが開き先生の手は空振りとなる。

    「やあ先生、待っていたよ」
    「セイア……!?」

    目は真っ赤に腫れ、髪は乱れ、声は掠れているが確かにセイアが意識を取り戻し、自分の足で立っている。
    その痛々しさと、それでも再び話すことができた喜びと罪悪感で先生は声を震わせる。

  • 37スレ主25/05/23(金) 21:24:39

    「もう歩いて大丈夫なの?痛いところは無い?いや、それよりも……すまない。もう一人のセイアのことも……」

    先生は体勢を屈め、セイアと目線を合わせて会話する。
    その手は触れそうで触れない、まるで繊細な硝子細工を前にしているかのよう。

    しかし当のセイアはそんな先生に喝を入れるように、その頬を優しく二回叩いた。

    「セイア!?」
    「あの子に言われたんだ。自分が死んでめそめそしている者がいれば、引っ叩いてやってほしいって。二回叩いたのは、あの子と私からの分さ」

    「……そっか、会ったんだね。そしてそう言われたなら、私も落ち込んではいられないね」

    先生はしゃきっと立ち上がる。
    一見頼り無さそうだけど、実はとても頼もしい。
    その姿を見てセイアも笑みが溢れる。

    「早速だけど、この後ナギサたちと今後についての打ち合わせがある」
    「ああ、体調は問題ないよ。私も出席する」

    「良かった。ベッドの横に……」
    「差し入れだろう?本当にありがとう。後でみんなにもお礼を言いに行くよ。時間はかかったけど、全部食べきったよ」

  • 38スレ主25/05/23(金) 21:25:07

    「ぜ……!?」
    「ああ、全部さ。君たちからの愛、確かに受け取った。大丈夫、無理はしていないよ。いや、少し吐きそうではあるが……」

    「ん、この後かい?すまないがその、シャワーを浴びさせてほしい。あと今はあまり近づかないでほしくて……。会議には間に合うよ」

    「うん、すまないね。もちろんそれまでにあの子から聞いた情報をまとめておく。ミメシスのこと、メフィストのこと、きっと役に立つはずさ」

    先生は驚愕していた。
    自身が質問する前からセイアは次々とその答えを口にしている。
    直感が鋭いなどというレベルではない。



    まるでどんな会話をするか、その先の『未来が視えている』ようだった。

    「セイア、まさか未来が……」

    セイアは胸に手を当てる。

    「あの子は最後にこの力を私に託してくれた。この場にはいなくても、私の中で一緒に戦ってくれる」

    「行こう先生!あの子の想いを、あの子が愛した人々を、学園を、この街を!これ以上奴らの好きにはさせない!』

    百合園セイアの瞳が、光の輪が、かつてないほどの輝きを放つ。
    予言の大天使が再びこの地に舞い降りた瞬間であった。

  • 39スレ主25/05/24(土) 00:23:39

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「お待たせ!」「待たせたね!」

    会議室の扉を開き、先生とセイアが入室する。
    既に主要なメンバーは揃っており、二人が最後だった。
    部屋に入ってきた時のセイアを見てその復活を察したようで、皆喜びに満ちた表情をしていた。

    中でも、ナギサとミカは特に嬉しかったようだ。

    「セイアさん……!」
    「ナギサ、ミカ、みんなも本当にありがとう。後で個人的に礼を言わせてほしい」

    「おかえりセイアちゃん。その顔、完全復活ってことでいいのかな?」
    「ああ、みんなからの差し入れのおかげで元気いっぱいさ。美味しかったよ。一つ残らず完食さ」
    「えっ、全部食べたの?さすがにみんなの全部は食べきれないかなーって思って、保存の効くマカロン選んだんだけど!?」

    驚くミカをよそにセイアと先生は席につく。
    メンバーが揃ったことで、ナギサが司会となり作戦会議が開始された。

    「ではこれより『トリニティ奪還作戦』についての作戦会議を行います。まずは現状判明している情報の共有から行いましょう」

  • 40二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 00:40:30

    受け継がれる意思…!
    いよいよ反撃秒読みか……どう切り崩していくのか
    しかし、魔女狩り狩りとかいうイベントがどう影響してくるか

  • 41二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 02:18:23

    今日たまたま見つけてやっと最新のとこまで追いつきました。
    なんだこの神スレは?

  • 42スレ主25/05/24(土) 08:39:33

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    藍輝石は大人のカードで購入可能である。
    そして石はミメシスの復活だけでなく、強力な武器が手に入るガチャを回すことにも使える。

    次の戦いに向けて装備を整えよう。

  • 43二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 14:24:22

    いつも楽しみにしてます。
    最後に模倣生徒たちと本物の間で、和解できることを祈って念のため保守。

  • 44スレ主25/05/24(土) 16:35:09

    各出席者たちが各々見聞きしたミメシスたちの情報を説明していく。
    まずはセイアの番だった。

    「私の話は少し長くなる。こんな時に申し訳ないが、あの子が残してくれた数多くの情報と、あの子の想いも話させてほしい。私の戦う理由はトリニティのためだけではなく、そこにもある」

    セイアは夢で模倣セイアから聞いたこと、予知能力を受け継いだことを説明した。
    長くなりすぎないよう、プライバシーに踏み込みすぎないよう細心の注意を払って。

    セイアが話している間は誰も口を挟まなかった。
    聞こえてくるのはセイアの声と、時折誰かが鼻をすする音だけ。

    「……以上が私とあの子の持つ情報だ。役立ててほしい」

    返事は無かったが、明らかにその場の全員が殺気立っている。
    先生でさえも目つきが鋭くなっている様子だった。

    「では次に、メフィストフェレスの作り出したミメシスについて、図書委員会のシミコさんお願いします」

    会議に出席していたのはシミコで、委員長のウイは不在だった。
    もしや学園の図書館に閉じこもっていたせいで逃げ遅れたのではないかと先生は心配になる。

    「シミコ、ウイがいないけど彼女は無事なの?」
    「あ、すみません。委員長は本日オンラインでの参加です……」

    〈ご、ご心配をおかけしました……。襲撃に遭った日も図書館に閉じこもっていたのですが、シミコとヒナタさんに助けられまして……〉

  • 45スレ主25/05/24(土) 18:26:38

    部屋のスピーカーから少し慌てたようなウイの声が聞こえてくる。
    先生の心配は杞憂だったようだ。

    「でも委員長が居てくださって助かりました。おかげでミメシスに関する書籍を探し、持ち出す作業がスムーズに進みましたから!」

    襲撃の日、図書委員とヒナタで役に立ちそうな本をトリニティから持ち出していたのだ。
    ボランティア部に本に詳しいシミコがいてくれて本当に良かったと先生は心の中で感謝を述べる。

    「では続けますね。メフィストの作り出したミメシスも、意思を持つという違いこそあるものの性質は我々の知るミメシスと同質のようです。そして彼女たちの正体については、ハナコさんの方が詳しくご存知のようです」

    シミコから指名を受けたハナコが口を開く。

    「はい。彼女たちはまるで生きている人間のように振る舞っていましたが、それは彼女たちの意思ではなく、遠隔地からドローンのように操作しているオペレーターたちの意思だったのです」

    「そしてそのオペレーターは皆一般市民。彼らの発言から、トリニティへ悪意を持っているようでした」

    「いえ、悪意と言っては語弊がありますね。むしろ正義のため、トリニティの不正を正すべく行動しているような印象でした」

  • 46スレ主25/05/24(土) 18:27:48

    「彼らの意思を決定づけたであろう記事は私も見たよ。具体的な数字を出しつつ虚実を織り混ぜて、トリニティへ不信感を持つように仕向けられている。全く、頭の中に悪魔でも住んでいるような者でないと書けないような巧妙さだったよ」

    八割呆れ、一割感心、一割殺意のような言い方でセイアが付け加える。
    ハナコも内容は確認していたようで、同意するように頷く。

    「セイアちゃんの仰る通り、トリニティの内情を知る私達からすれば出鱈目もいいところという杜撰さですが、外部の方には判別が難しい内容です」

    「そして、それを見た方々含めトリニティへ敵対することを選んだ方がミメシスを操るのに使っていたスマートフォンのゲーム、それが……」

    「ブルーアークカタストロフ」

    ハナコがその名を呟く。
    青春と方舟の惨劇、メフィストフェレスの企画した悪趣味なゲーム。

    「彼らはいわゆるスマートフォンゲームを通してミメシスを操っているようで、言うなれば先生の模倣です。事実、プレイヤーのことを『先生』と言い表していました」

    「また、ゲームを始めるにはクレジットカードの登録も必要で、これによりミメシスが倒されても課金をすることで復活させることができるようです」

    「これによりヘルメット団やオートマタといった傭兵を雇うことなく、質は劣るものの無尽蔵の兵を用意し数の暴力でトリニティを倒し奪い取る。これが敵の作戦と目的だと推測されます」

  • 47スレ主25/05/24(土) 18:29:19

    ハナコは無言でアツコの方を見る。
    トリニティは既に奪われてしまったが、これで終わるとは思えない。
    その先の目的について知るアツコが次の説明を行う。

    「私たちアリウスがどうにか聞き出せた情報だと、敵の目的はこのキヴォトスをミメシスで埋め尽くすことだって言ってた。誰でも手を出せるゲームという特製上、ミメシスはまだ増えると思う」

    「それと私はエデン条約調印式の事件の時、ミメシスを顕現させるための『電池』のようなものとして利用されたことがある」

    「これは通常『ロイヤルブラッド』と呼ばれる一族の血を引く者にしかできないことなんだけど、混血でもその役割は果たせる」

    「今、私たちの元リーダー錠前サオリが敵に捕われている。私ではなく混血である彼女を狙ったのは、大量のミメシスを管理するという特製上おそらく質よりも量を重視するため。体力の無い私よりも彼女の方が長く保つと考えたんだと思う」

    アツコの目つきが悔しさから鋭くなる。

    「私は、スクワッドはサッちゃんを助けたいし、トリニティのみんなに助けられた恩も返したい。だから、私達も一緒に戦う!」

    アツコの強い思いにナギサも同調する。
    かつては敵対しあった者同士でも助け合い、共に戦うことだってできる。

    「トリニティを奪還する前段階として、この悪趣味なゲームを止めるためにサオリさんの救出を優先する必要がありますね」

  • 48スレ主25/05/24(土) 18:30:47

    それを聞いた先生は説明を加える。

    「このゲームだけど、おそらく私から奪ったタブレット『シッテムの箱』とクレジット……大人のカードを解析したんだろう。ネット上に投稿されているゲーム画面やプレイ動画を見てみたんだけど、本当によく出来ているよ」

    「それにしても、私以外起動すらできないシッテムの箱まで解析されるなんて……」

    その時、嘆く先生の言葉を遮るように、先生のプライベート用スマートフォンから通知音が鳴った。

    「失礼、機内モードにしたはずなのに…………!?」

    画面を見て固まる先生。
    そうなるのも無理はない。
    なぜなら……。



    「否定。奪われたシッテムの箱は現時点で起動、解析されていません」

    その端末にはシッテムの箱メインOSの一人、プラナが映っていたからだ。

  • 49スレ主25/05/24(土) 20:30:48

    「プラナ!?なんで!?どうして!?」
    「先生がミメシスに襲撃された際、アロナ先輩が私をプライベート用の端末に逃してくれました。それでも受けたダメージは大きく、再起動に時間はかかってしまいましたが」

    「遅くなりました、先生。私も共に戦います」
    「プラナ……!」

    予想外の味方の登場に心が昂る先生。

    「ど、どうしたのです先生……?」
    「あっ、ええとこれは……」

    心配そうに見るナギサに、先生は何と説明しようか戸惑う。

    「先生、今はオンライン通話にて会議をされているのですよね?その部屋番号を教えていただければ私も参加可能です。トリニティの皆さんへ説明の場を設けさせてください」

    先生はプラナの指示に従う。
    すると各生徒たちのPCの会議画面に一つのアカウントが追加される。

    「トリニティ総合学園の皆さん、初めまして。私は先生の……秘書を務めております、プラナと申します」

    突然先生の秘書を名乗る女児の登場に一時騒然となる会議室。
    しかし急を要する事態なので皆深くは追求せず、先生を暖かく見守り事情を聞くことにした。

    (絶対誤解されてる……!)
    「まず、現在公開されているゲーム『ブルーアークカタストロフ』、略してブルアカの原型にシッテムの箱が使われたことは間違いありません」

  • 50スレ主25/05/24(土) 20:31:55

    「ですがおそらく箱を直接操作したのではなく、これまでの先生の戦いの記録などからその特性を調べたのでしょう。箱を起動した時に発せられるアロナ先輩が起きた信号が確認できていません」

    「それにもし箱を完全に掌握されているのであれば、サンクトゥムタワーは既に敵の手に堕ちているはずですから」

    「ですので市民の方々が使っているものは、ミメシスを生徒のように指揮する機能に特化した簡易版と表現するのが妥当でしょう」

    「そしてこのゲームは民間のゲーム開発企業、Meister(マイスター)社によって運営されています。一見普通の会社ですが、関係者は全員メフィストの息がかかっていると見て間違い無いでしょう」

    プラナの説明にセイアは納得した様子を見せる。

    「先生の戦いの記録、ね。メフィストは捕食したミメシスの記憶を継承できると聞いている。おそらく情報源はそこだろう。そのシッテムの箱について知っている生徒は多くないだろうに、それを引き当てるのにどれだけ食ったのか……」

    「ありがとうございます、プラナさん。そのアロナさんはおそらくあなたと、先生にとっても大切な人なのですよね?我々も協力します。必ず取り戻しましょう!」

  • 51スレ主25/05/24(土) 20:33:24

    「ありがとうございます、ナギサさん。ですが問題はミカさん、ツルギさんを始め強力な力を持つミメシスが敵にいる上に、そもそも敵の数が多いという問題があります。アロナ先輩を取り戻す前にそれらを何とかしなくてはいけません」

    プラナの心配はもっともで、ナギサは既に対抗策の準備を進めていた。
    ナギサは近くに座るサクラコへ目配せする。

    「前線へ出る方にはこちらを支給します」

    合図を受けたサクラコはカメラに映るように一つの銃弾を見せる。
    それは銀色に光り輝いており、一目で特別製だというのがわかった。

    「ミカさんがご自身のミメシスから押収した銃に込められていた弾丸を解析したところ、通常のものとは異なる成分が混ぜ込まれていることがわかりました」

    「こちらはそれをベースに開発した対ミメシス特効弾『銀の弾丸』です」

    強力な怪物を一発で仕留めたとされる伝説になぞらえたネーミング。
    セイアは妹がそれに撃ち抜かれた瞬間を思い出していた。

    「そうか、ミメシスのサクラコが言っていた『特製』とはそういうことだったのか……」

    模倣セイアの命を奪った凶器をこちらも使うことになりセイアは少し複雑だった。
    しかしもはや手段を選んでいられる状況ではない。
    妹との約束のため、セイアは覚悟を決める。

    「いや、よくやってくれたサクラコ。少しでも多く製造できるようこちらも人員配備などで協力するよ。また後で相談しよう」

  • 52スレ主25/05/24(土) 21:16:22

    「ありがとうございます」

    セイアからの提案にサクラコは頷きつつ続ける。

    「まずは古書の解読にご協力いただいた図書委員会の皆さん、アツコさんの血液の成分の解析、培養をサポートしてくださった救護騎士団の皆さんにアツコさん、本当にありがとうございます」

    「銀の弾丸の開発は難航しましたがどうにか完成し、皆さんの手元へ行き渡らせることができそうです」

    サクラコは深々と頭を下げる。
    そして頭を上げ、ミネと目を合わせ互いに微笑む。
    内輪争いの多いトリニティに、確かに団結が生まれつつあった。

    「特に図書委員のウイさん、シスターフッド秘蔵の古書の解読はあなたにしか頼めず、『ご無理』をさせてしまい本当に申し訳ございませんでした」
    〈ヒッ……!?〉

    一部を除いて。

    「……では続けますね?次にこちら側の戦力をどのように分配するかです」

    ナギサが手元のタブレットを操作し会議の画面にトリニティの校舎を表示させる。
    その後、セイアが視た未来の内容を踏まえてナギサは作戦を立て、各組織へ指示をしていった。

  • 53スレ主25/05/24(土) 21:17:59

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「……以上が、トリニティ総合学園へ攻め込む際の戦力配分になります。細かい指示は都度各班リーダーを通して伝達する形としましょう」

    言いながら内心ナギサは不思議な感覚だった。
    まさかトリニティの生徒会長である自分が、トリニティへ攻め込む作戦を指揮する日が来るとは。

    「そして別動隊として、サオリさん救出班とブルアカの停止班を少数精鋭で編成します」

    それを聞いて手を挙げたのはアツコだった。

    「サッちゃんの救出は私とミサキとヒヨリに任せてほしい。カタコンベについても前に利用していた分迷いにくいだろうし」

    次に発言したのはミネだ。

    「ではサオリさん救出後、速やかに治療に入れるようハナエにも同行してもらいましょう。彼女の専門は治療ですが、多少の戦闘も問題ありません。足を引っ張ることはないでしょう」
    「任せてください!」

    ミネからの指名にハナエは元気よく返事をする。

    「あ、あの……カタコンベって毎回道が変わると思うんですがそこはどうしましょう?マダムがいない今、私たちが道を知る術が無くて……」

    ヒヨリの疑問はもっともだった。
    しかし先生は既に対策を調べており、すかさず共有する。

    「サオリを攫った奴らはどうやって正しい道を把握してるのか調べてたんだけど、どうやらブルアカのプレイヤーには正しい道の情報が共有されてるみたい」

  • 54スレ主25/05/24(土) 21:20:03

    「既に有志のプレイヤーが攻略サイトを立ち上げてたから、それを利用させてもらった。これで情報が筒抜けだ。ゲームという特性が仇となったね」

    先生はナギサへ目配せする。

    「ではカタコンベの正解ルート把握のため、まず最初にブルアカを管理しているゲーム会社の制圧から行います。目標はゲームを停止しつつカタコンベの情報を奪取すること」

    「セイアさんが視た予知夢によると、先生のシッテムの箱と大人のカードもMeister社の中にあるそうです」

    「先生とプラナさんにはそれらの奪還のため、こちら側へ同行していただきましょう。そして先生と共に向かうメンバーですが……」

    そこで手を挙げたのはハナコだった。

    「でしたら、そちらは私に任せていただけませんか?以前ウトナピシュティムの本船に乗った際、あまりミレニアムの方々のお力になれず悔しい思いをしたので、あれから少しずつITの勉強を進めているんです」

    以前は自分の持つ能力だけを見られ、頼られるのに嫌気が差していたが今は違う。
    先生のため、友のため、学園のため自らの意思でハナコは立ち上がる。

    「ありがとうハナコ。システムのハッキングはプラナがメインで頑張ってくれるみたいだから、サポートをお願いね」

    先生とプラナは、共に頑張ろうと言わんばかりにサムズアップをしている。

  • 55スレ主25/05/24(土) 22:41:31

    「だがハナコ。どうやらその目的地には君のミメシスが待ち構えているようだ。彼女、戦闘もこなせるそうじゃないか。誰かが彼女を引きつける必要があるわけだが……」

    セイアはそこまで言って指名はしなかった。
    待っているのだ、本人が名乗り出るのを。

    「ミメシスのハナコは私が倒します!」

    立ち上がったのはコハルだった。

    「コハルちゃん!?大丈夫なの!?」
    「ふっ」

    ミカはとても心配しているようだったが、一方セイアにその様子はなかった。

    「予知夢で既に視ているが、随分と面白い作戦を考えたね。君の望む物品については既に注文を出してあるよ。今日中には届くだろう」
    「っ!?あ、ありがとうございます!」
    「未来予知って便利だな〜」

    先生はスムーズに進む会議を羨ましそうに見ていた。
    そして次に手を挙げたのはアズサだ。

    「だったら私も同行する。道中の敵を片付けるのは任せてほしい。あと、ハナコとコハルの援護もできる」

  • 56スレ主25/05/24(土) 22:43:21

    これで補習授業部の三人が揃った。

    「あ、えっと、わ、私は……」

    それを見ていたヒフミもそこに加わりたいとは考えているものの、自分にできることが何なのか、未だ見つけられていなかった。
    みんなに置いていかれてしまう、そんな不安がヒフミを襲う。

    しかし、ナギサとセイアは彼女に任せる役目を既に考えていた。

    「わかったよ、アズサ。だがたった数名徒歩で敵地へ向かって行くのはあまりに危険だ。それにコハルの秘密兵器は人力で運ぶには少々骨が折れる。さて、どうにか移動手段を確保したいのだが……」

    セイアはハスミの方へ視線を向け、彼女は待ってましたと言わんばかりに応える。

    「使える足には心当たりがあります」

    ハスミは窓を開け、ヒフミの方を向き手招きする。
    ヒフミは不思議に思いながらもそれに従い、窓の外を見る。

    するとそこには一台の戦車が、まるで主の搭乗を待っているかのように鎮座していた。

    「ナギサ様からの指示を受けて、軽量化と操作性の向上のためにメンテナンスに出していたんです。結果的にミメシスたちに奪われずに済んだのは幸運でしたね」

    ヒフミはその戦車に見覚えがあった。
    それは海へ、シャーレへ、敵地へヒフミたちを何度も送り届けてくれた、思い出の詰まった戦車。

  • 57スレ主25/05/24(土) 22:46:44

    ヒフミは友との再会を喜ぶように目を輝かせ、その名を呼ぶ。

    「クルセイダーちゃん……!」

    「過去の運用データから、よりヒフミさんが扱いやすいように改修を施した巡航戦車『クルセイダー SpecⅡ』。ですがヒフミさん、いくらあなた向けに調整してあるとはいえ、危険な任務であることには変わりはありません」

    「ですのでどうか無理はなさらず、操縦は他の方に任せ後方支援に回っていただく事も可能ですが……」

    心配するような口ぶりではあるが、その実ナギサはヒフミが何と答えるか既に分かっているかのようだった。
    そしてヒフミの答えも決まっている。

    「いいえ、私やります!補習授業部のみんながいて、先生もいて、クルセイダーちゃんもいるんです。もう負ける気がしません!」

    不安そうだった顔から一転、ヒフミの表情は自信に満ちたものへと変わっていた。
    その様子を見て、心配だったミカもコハルたちの決断を尊重することにした。

    「補習授業部のみんな。今回私はあなたたちと別の所で戦うから助けには行けない。だから祈ることしかできないけど」

    「必ず無事に帰ってきて」
    「ありがとうございます、ミカ様。必ず戻ります!」

    ミカの想いに応えるべく、コハルも力強く言い切った。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 58二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 00:11:36

    プラナが逃げていた!ふぅん、最初から箱とカードの存在知ってたワケじゃなかったんだ?
    ヒフミのガワも箱ガチャのついでで手に入れたのかな?
    ゲーム故に攻略wiki作られてるのは草

    反撃の刻は来たれり
    メフィスト側も反撃は想定してるだろうから、上手く事が運ぶといいが…

  • 59スレ主25/05/25(日) 06:05:08

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ゲームをプレイしている様子を動画サイト等で配信することは可能だが、公序良俗に反する行為については配信を固く禁止する。

    もしインターネット上でそのような画像、映像が見つかった場合には運営によってすぐに削除対応を行う。
    十分に気をつけよう。

  • 60スレ主25/05/25(日) 14:13:59

    一通り話終えたところでナギサが締めくくりに入る。

    「では、これで作戦会議は終了といたしましょう。皆さん、お疲れ様で……」
    「えーっ!ナギちゃん待って待って!アレやんないの!?」

    会議を終えようとするナギサに口を挟んだのはミカだった。

    「な、なんですかいきなり!?さっきまで先輩風吹かせて格好つけて大人しくしてたくせに!」
    「う、うるさいなぁ!ていうかナギちゃん、こういう時いっつもくどくど演説するじゃん!」

    「なっ、私のことを何だと思っているのですか!」
    「まあ、士気を上げるという意味では今ほど有効なタイミングは無いね」
    「セイアさんまで……」

    「あえて悪い言葉を選ぶが、理屈を並べて民衆を焚き付け、全員まとめて地獄へ引っ張っていくのが私たちの役割だろう?ミカは政治的に少々アレだが……」
    「ああん?」
    「はあ、まったく……」

    「大変だみんな!これを見てくれ!」

    先生は慌てた様子で自分の画面を会議参加者全体に共有し表示する。
    そのタイトルに反応したのはミカだった。

    「『魔女狩り狩りゲーム』……?」
    「ミメシスたちは次の目標を定めたみたいだ。どうやら悪事を働いたた生徒を見つけ出して攻撃して、その生徒の強さや与えたダメージによってレベルアップアイテムや強い武器が手に入るというルールらしい」

  • 61スレ主25/05/25(日) 18:57:32

    そして先生は苦々しげな表情で攻撃対象となっている生徒たちが掲載されているリストを表示する。
    それを見たミカの表情が強張る。

    「っ!この子たちは……!」

    そのリストに掲載されている生徒たちは全員トリニティ生で、かつてミカにいじめを働いていた生徒たちだった。

    「皆さん聞こえますか!?こちらの方々が現在どこにいるか情報提供をお願いします!また、連絡の取れる方は安否確認を!」

    ナギサは急いで会議参加者たちへ指示を出す。
    セイアは何か有益な情報がないか、ネット上で情報集めをしている。

    「先生、どうやらこのゲームの目的はブルアカのプレイヤーを増やすことにあるらしい。連動しているキャンペーンで、今登録するとランダムで強い武器が手に入るガチャが無料で回せると広告が出ている」

    「しかも紹介文には『ターゲットたちはトリニティの生徒会長を追い詰め、退任にまで追いやった極悪人』と書かれている。これを見たプレイヤーは『悪人をこらしめる』という大義名分ができるわけだ」

    セイアはかつて模倣セイアが言っていたことを思い出していた。

    『奴はこれまで見てきた大人の中でも桁違いに危険な、悪魔のような存在だ。謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動し、この街一つくらい簡単に地獄に変えるだろう』

    今一度その言葉の意味を理解し、セイアの中に怒りの炎が燃え上がる。

  • 62スレ主25/05/25(日) 19:37:27

    「確かにリストに載る彼女たちのしたことは褒められたものではない。けどそれを己の利益のために利用するだなんて、どこまで卑劣なんだ……!」

    先生はセイアに同調しつつもミカのことが心配だった。
    いくらトリニティのためとはいえ、自分に危害を加えた人間を助けることに複雑な思いをさせてしまうのではないか。
    そしてミカはそんな先生の気持ちを見透かすように答える。

    「気を使わなくて大丈夫だよ、先生。これはあくまで私たちの問題で、外の人たちが首を突っ込んでいい話じゃない。この子たちのこと、絶対に助けよう!」

    先生の心配は杞憂だったようだ。
    ミカは一切の迷いも無く敵の悪意をばっさりと切り捨てたのだ。

    皆の戦意が高まってきている。
    そんな中ナギサは少し黙っていたが、意を決したように口を開いた。

    「……正直なところ私は今、腑が煮え繰り返りそうな気分です」

    「あるのは大切な場所を、人を、そして、会って間もない私たちを守ってくださった大切な友人を侮辱し、傷つけ、奪っていった者達への怒り……!」

    ここでナギサは一度呼吸を整え、ゆっくりと話し始める。

    「先に一つ言わせてください。この戦いに正義はありません。これはあくまで奪われた学園を、尊厳を取り戻すための戦いです。決して自分たちは正しく、メフィストはいざ知らず、一般市民の方々まで悪者だと決めつけてはいけません」

  • 63スレ主25/05/25(日) 19:38:30

    「一度正義という免罪符を手にしてしまえば、人はどこまでも過剰な暴力を振るえてしまいます。そうなってしまえば私たちもブルアカのプレイヤーと何ら変わりありません。見方が変われば、我々もまた悪になりますから」

    ナギサは立ち上がり、ヘッドセットとマイクを外して声を張り上げる。

    「ですが、だからと言ってこのまま黙っているなど私には到底できません!トリニティの代表として、一人の人間桐藤ナギサとして、私は戦います!」

    「ですが私一人にできることなど知れています!ですからどうか、皆さんのお力を貸していただきたい!」

    「どうか、私と共に戦ってください!!」

    異議を唱える者は誰一人いなかった。
    派閥や所属校など関係無く、全員が戦う意志を強く燃え上がらせる。
    ナギサの言葉が確かに届いたのだ。

    「セイアさんの予知の内容に則り、開戦は明日午前九時。それまでに皆さんは各々戦いの準備を進めてください」

    「必ず無事に、私たちの学園に帰りましょう」

    普段なら学校から早く帰りたいと思うところだが、その学園に帰るために戦う。
    ナギサの言葉を締めくくりに、会議は幕を閉じた。

  • 64スレ主25/05/25(日) 20:32:08

    「お疲れ様、ナギサ。立派だったよ」

    先生がナギサに声をかける。
    ナギサは少し疲れたように椅子に腰掛けていた。

    「ありがとうございます。ですが、これで私は本来であれば戦う義務の無い人々を大勢巻き込んだ罪人です。きっと、死語は地獄へ落ちるのでしょうね」

    「それを言うのなら私だって同じさ。我を忘れ、敵味方問わず大勢の人を傷つけたのだから」
    「私だってそうだよ。外患誘致みたいなことをしたんだから、この中では一番重罪だよ。大丈夫、ナギちゃんを一人になんかさせないから!」

    セイアとミカはすかさずナギサをフォローする。
    ティーパーティーの絆は固かった。
    かつてすれ違った過去があるからこそ、その繋がりはより強くなる。

    「セイアさん、ミカさん、ありがとうございます。今回は三人とも同じ方向を向いて進めそうですね。あの時はできませんでしたが、今度こそ」

    ナギサは右手を前に出した。
    それを見たミカとセイアもナギサに重ねるように手を合わせ、三人は気持ちをひとつにする。

  • 65スレ主25/05/25(日) 20:32:56

    「よし、じゃあ私も二人に負けないように頑張らなくっちゃ!アポはもう取れたから、行ってくるね?」

    そしてナギサが落ち込んでいないことを確認したミカは二人へ背を向け歩き出す。

    「ミカさん、どうかお気をつけて」
    「ミカ、君の無事を祈ってる」

    ミカはどこかへ用事があるようで、会議室の出口へ向かう。
    ミカがドアノブに手をかける直前、先生も彼女に声をかける。

    「ミカ」
    「なに?」

    「君を信じてる」
    「うん、知ってる。『これ』を私に預けてくれたことが、何よりの信頼の証だと思ってるから」

    ミカは顔を振り向かせそう答える。
    その顔つきはかつてのような不安定さの無い、学園の代表に相応しい頼もしさを醸し出していた。

  • 66スレ主25/05/25(日) 22:11:28

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    その頃、ミメシス側も次の侵攻の準備を進めていた。

    しかし一人の少女は例外で、学園の保健室にて苦しむようにベッドに横たわっていた。
    模倣ミカである。

    彼女は反転したセイアに千切られた羽根の傷の痛みが定期的に再発するようで、時折こうしてもがき苦しむことがあった。

    『うっ、ううう……痛い、かゆい……!』
    『ミカさん、あまり引っ掻いてはまた血が出てしまいますよ』

    模倣ミカはうずくまりながら羽根の付け根を掻き毟っている。
    その隣では彼女を看病するように模倣ナギサが付き添っていた。

    (ミネさんによると傷は完治しており、痛みが出るのはストレスが原因とのこと。生きたまま羽根を千切られるのは、一体どれほどの苦痛だったのでしょう)

    (一瞬で意識を失った私は、まだ幸運だったのかもしれませんね)



    (いえ、一番苦しかったのはセイアさん……)

    そこまで考えたところで、模倣ナギサは思考を振り払うように首を振る。
    駄目だ、振り返ってはいけない。
    これまでは旧トリニティの不正や模倣セイアの裏切りへの怒りで動いてきた。

    しかしトリニティは既に手に入り、模倣セイアももうこの世にはいない。
    模倣ナギサは進むべき道を見失いつつあった。
    今は目の前の幼馴染の支えになることが唯一の心の支えであった。

  • 67スレ主25/05/25(日) 22:13:15

    『ミカさん、血が出てきました。一度綺麗にしましょうね?』
    『はあ、はあ……っ!あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!痛い!痛い!!』

    模倣ミカは泣きじゃくりながら手足をばたつかせ、近くにあった救急箱を中身ごと床へぶちまける。
    その時振りかざした手が模倣ナギサの顔に当たり、彼女は床に倒れ込んでしまった。

    『あっ、あああっ!ナギちゃん!ナギちゃん!』
    『私は大丈夫ですよ』

    模倣ナギサは優しく微笑む。
    しかし、実のところ二人とも既に限界が近かった。
    友を手にかけ、夜も眠れず、今のようなやり取りをもう何度も繰り返している。
    しかしもう止まれない。

    そんな時、保健室のドアが開きメフィストが入ってくる。

    『やっほ、ナギサちゃん。明日の宣戦布告の原稿、もうできてる?』

    二人の状況など目もくれず、業務の進捗だけを確認する。

    『ええ、言われた通りの内容で、一応原案は完成しています。それから、色彩を呼べるようになったというのは本当なのでしょうか?』

    『うん、これはハッタリじゃなくて本当だよ。なんか、一回ソレに触れると自分の中に色彩との繋がりができるんだよね。目で見えるものじゃないし、感覚的にわかるとしか言えないんだけど……』

    『だから、最終的にはこのキヴォトスから生者は消えて、皆君たちと同じミメシスとして生まれ変わることになる。君たち喧嘩してばっかりだけどさ、もっとたくさん仲間が増えたら中には君たちと気の合う子も出てくると思うよ?』

  • 68スレ主25/05/25(日) 22:17:51

    『あと、セイアちゃんのミメシスならまた作ってあげるよ。ちょっと手間かかるからこのゴタゴタが終わった後でだけど。今度は仲良くしなよ〜?』

    そうして用を済ませたメフィストは模倣ミカに目もくれず部屋を出ていった。

    模倣ナギサは、模倣セイアを作るという話を聞いても気持ち悪さしか感じなかった。
    仮に新しいセイアが来たとして、それを自分たちが殺めた友と同一視することなど到底できない。
    二人は完全に疲弊しきっていた。

    『……ねぇナギちゃん、私もうすぐお姫様になれるんだよね?先生に好きになってもらえるんだよね?』

    痛みから気を逸らすためか、模倣ミカが要領を得ないことを言い始めた。
    彼女の姿はところどころ血に汚れ、とても姫とは言い難い痛々しい姿だった。

    『……ミカさん、このままメフィスト様に従い続けて、私たちは本当に幸せになれるのでしょうか?お姫様になって先生と結ばれるのに、他の道は無かったのでしょうか……』

    今までは慰めるように模倣ミカを肯定し続けてきたが、つい本音を口走ってしまった。



    『は?なに?急に弱気になって。今更後悔してるの?』

    模倣ナギサの後悔を聞き、模倣ミカの怒りのボルテージが上がる。

  • 69スレ主25/05/25(日) 22:19:43

    『いいよねナギちゃんは!!痛い思いしてなくて、気に入らない人がいれば私をポ○モンみたいにけしかけて、それで後悔しそうになったら『他の道が』って言えばいいんだから!!』

    『なんでそんな自分勝手なことしか言えないのさ!!しょうがないじゃんもうセイアちゃん殺しちゃったんだからさ!!これ以上私を怒らせないでよ!!』

    模倣ミカは模倣ナギサを押し倒し、子どものように喚き散らしながら頭を、体を殴りつけている。

    『バカ!バカ!ナギちゃんなんか嫌い!!』

    模倣ナギサは目に涙を浮かべながらどうにか手で頭を守り、団子虫のように丸くなってやり過ごすしかなかった。
    模倣ミカも加減はしたものの、模倣ナギサの体はすっかり痣だらけになってしまった。

    『はあ、はあ……今更止まってもいいことなんか無いよ。だから進もう?ナギちゃん』

    『セイアちゃんが死んだのは仕方なかったって、その意味を見つけないと、私ただの人殺しになっちゃうじゃん……ね?』
    『そう、ですね……』

    理性というブレーキを壊されている二人にとって、もはや『止まる』という選択肢を取ることなど不可能だった。

    しかし最終的な判断をしたのは自分自身。
    誰にも責任を押し付けられないまま、存在するのかもわからない楽園に向かって突き進むしか選択肢は無いのであった。

  • 70二次元好きの匿名さん25/05/25(日) 23:58:57

    本物と偽物の対比が酷いな……他者を傷つけてまで手に入れた乗船権は本当に方舟の物でしたか?
    正気に戻ったら潰れるから、突っ走るしかないんだろうが……まるでセイアが本当に亡くなった世界線の2人みたいだ

    メフィストは色彩呼べるようになったらしいけど…
    短時間の接触で壊れかけたのに?道連れ用かどうにかできる手段を見つけたのか……はたして

  • 71二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 07:28:33

    続き期待してます^_^
    念のため保守!

  • 72スレ主25/05/26(月) 08:35:58

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    本日、ついに新しいメインイベントの情報が公開される。
    前回はトリニティの解放だったので次は……?
    続報を待とう。

    なお、サブイベントである『魔女狩り狩りゲーム』も並行して実施されるので好きな方へ参加しよう。

  • 73スレ主25/05/26(月) 14:21:10

    翌日
    かくして双方の戦いの準備が整った。
    本物と偽物どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの幕が上がる。

  • 74スレ主25/05/26(月) 14:22:42

    トリニティ総合学園、ティーパーティーテラスにトリニティ生のミメシスたちは集合していた。
    彼女たちの前には一台のカメラがあり、メフィストがそれを操作している。

    『はーいみんな整列〜。あ、ツルギちゃんもっと寄って寄って!で、ミネちゃんサクラコちゃんハナコちゃん……おっけ、揃ってるね!』

    『よし、そしたらナギサちゃんとミカちゃんは前に出て真ん中に立って……いいね、じゃあ放送流すよ?三、二、一……どーぞっ!』

    メフィストの合図と共にカメラが撮影を開始した。

    『皆さんご機嫌よう。私はトリニティ総合学園、ティーパーティー現ホスト、桐藤ナギサです。厳密に言えば、その複製であるミメシスですが』

    模倣ナギサは事前に打ち合わせした通り、台本に沿って話し始める。
    言葉だけでなく自分の人生そのものも台本に沿った、もはや役割を果たすだけの人形と成り果てていることを自覚していたが、彼女はそれをおくびにも出さなかった。

    『この放送は本来予定されていたものではありませんが、火急の問題が迫っているということもあり、公共の電波をお借りして放送しています。番組をお楽しみ中の皆様にはお詫び申し上げます』

    このトリニティの放送はメフィストと模倣ハナコの根回しにより、電波をジャックして放送されていた。

  • 75スレ主25/05/26(月) 14:24:19

    『さて、その問題についてまずはお話しさせていただきます。これはトリニティ独自の情報網にて観測したものですが……』

    『来たる七日後、このキヴォトスに『色彩』が顕現します。そして人々を狂気に陥れる光を四十日 四十夜、絶えず降り注がせ続けるということがわかりました』

    『この光を浴びた生物は一部の例外を除き、正気を失い肉体が崩壊してしまいます。つまりは死を意味します』

    模倣ナギサの言葉に、放送を観ていた市民たちが驚きパニックに陥る。

    「色彩って何!?」
    「わかんないけど、私たち死ぬの!?一部の例外ってどんなの!?」
    「流石にデマでしょ……。ネットも大騒ぎだけど、みんなお祭りみたいに騒いでるだけだったよ」

    中には信じていない者もいたが、情報源が歴史ある名門校のトリニティであるため信じる者も少なくなかった。

    『そこで私たちは、市民の皆様への避難所としてトリニティ地下のカタコンベを解放するべく、準備を進めています』

    『しかしカタコンベの収容人数にも限度があり、キヴォトス全土の皆様を収容できるキャパシティはありません』

    『ですが我々は決して皆様を見殺しになどしません。対策として現在、埋設式の簡易地下シェルターの設置を計画しており、色彩の光が降り注ぐ日までには収容人数を五倍にまで増やせる見込みです』

  • 76スレ主25/05/26(月) 14:26:02

    『ですがそれでもまだ土地は足りません。そこで我々はこの度、皆様を救うべく領土拡大のため、ゲヘナ学園へと侵攻を行うことを決定しました!』

    ゲヘナへの宣戦布告。
    色彩のニュースに引けを取らないほどの驚くべきニュースに市民はさらに騒つく。

    「え、トリニティとゲヘナ戦争するの!?」
    「連邦生徒会のコメントは!?」
    「どうしよう、友達がトリニティ自治区に住んでる……」

    『ゲヘナ学園はこれまで自治区内外問わず数多くの悪行を働き、市民の皆様へ恐怖と混沌をもたらしてきました。先のエデン条約調印式へのミサイル爆撃事件も、ゲヘナとテロリストによって仕組まれたものだったのです』

    『我々は彼女たちを許すことなど決してできません!皆様の安全の保障と、ゲヘナという世界の歪みの排除、これらを実現し、このキヴォトスに真の平和と安全をもたらすことをお約束しましょう!』

    『いわばこの戦いは正義のためのもの!そのために皆様にもお願いがあります。ゲヘナ学園への侵攻の際、共に戦っていただきたいのです』

    『戦闘経験の無い方でも問題ありません。現在配信中のアプリ、ブルーアークカタストロフを使えばどなたでも一定以上の戦力となり、戦うことができるのです。ご協力いただければ、学園の生徒でなくとも我らの同胞として迎え入れ、優先的に避難先を手配することも可能です』

  • 77スレ主25/05/26(月) 14:27:40

    『しかし、いきなりのことで皆様を困惑させてしまっていることも重々承知しております。私たちトリニティ総合学園も、決して清廉潔白とは言い難いものでした。醜い派閥争い、内輪揉め、数え上げればキリがありません……』

    『ですがついに、私たちは腐敗した上層部からこのトリニティを取り戻すことに成功したのです!』

    模倣ナギサは後ろに並ぶミメシスたちがカメラに映るよう、画面中央からずれる。

    『後ろの生徒たちが見えますか?彼女たちも私と同じミメシスで、学園に湧いた蛆をこのトリニティから排斥するために力を貸してくださいました!』

    『トリニティはこの勝利によって生まれ変わったのです!よって過去の忌まわしき歴史を捨て、真実の名の下に悪を断罪する者として新たなる一歩を踏み出すことをここに宣言します!』

    『その第一歩として、学園の名をトリニティから真実を意味するアリーティアへと改めます。新しい学園の名は『アリーティア総合学園』!』

    『改めて宣言します。我らアリーティア総合学園はゲヘナ学園に対し、宣戦布告を行います!侵攻はこの放送終了後、即時。戦う意思のない周辺住民の方々は、速やかに避難することを強く推奨します』

    『我々のお伝えする内容はこれにて以上となります。ご清聴ありがとうございました。そして最後はこの言葉で締めくくりましょう』

    『皆様に神のご加護があらんことを』

  • 78スレ主25/05/26(月) 18:40:31

    模倣ナギサの言葉で締めくくられ、放送は終了した。

    『いや〜お疲れお疲れ!良かったよナギサちゃん』

    労われる模倣ナギサの顔は無表情で、何の感情も抱いていない様子だった。

    しかしメフィストは彼女の気持ちなど気にもかけず、室内に置かれた大型ディスプレイでニュース番組を眺めている。
    そこにはパニックを起こす市民たちの様子が映し出されており、それを楽しそうに見ながらこの先の展望について考えていた。

    (まあ、避難所なんて解放しないしシェルターだって作るわけないんだけどね)

    (これでこのキヴォトスから生者は消えて、私が優位に立てるミメシスだけの世界になる!そうすればこの世界は私にとってより住み良いものになるんだから)

    (逆らう者がいるならみんな食べちゃえばいい。これでもう誰も私の人生を妨げない……!)





    〈アリーティア総合学園を名乗る諸君、こちらはトリニティ総合学園元ティーパーティー、百合園セイアだ。聞こえるかい?〉

  • 79スレ主25/05/26(月) 19:36:52

    不意に流れた聞き覚えのある声に、メフィストは夢の世界から現実に引き戻される。

    『百合園セイア!?どうして……』

    他のミメシスたちも皆動揺している様子だった。
    画面にはセイアが映っており、カメラに向かって背筋を伸ばして喋っている。
    模倣セイアを失って廃人になりかけていた時とは大違いだ。

    〈君たちの放送は見させてもらったよ。その上でこちらも声明を出すべく、放送枠をクロノスに譲ってもらった〉

    〈君たちの言う通り、トリニティは清廉潔白ではない。そこで、先のミメシス襲撃事件を市民からの声とみなし、これまでの罪を清算するべく、ティーパーティー解散のための不信任投票を実施してもらった〉

    〈投票権を与えられたのは昨日時点でトリニティに在籍する生徒。そしてその結果、全ての生徒が不信任を選んだため、ティーパーティーは無事解散となることが決定した〉

    『ティーパーティーの解散!?』

    セイアの発表を聞きメフィストに動揺が走る。

    (まずい、その場合セイアだけじゃなく、ナギサとミカまで権限を失うことになる……!)

    〈これにより百合園セイア、桐藤ナギサ及び謹慎中の聖園ミカはティーパーティーとしての権限を完全に剥奪。よって、今日から私たちは一般生徒さ〉

    〈ミカ、ナギサ、見ているんだろう?一緒に罪を償おうじゃないか〉

    セイアは画面の向こうの敵に話しかけるように語る。

  • 80スレ主25/05/26(月) 21:03:27

    〈そしてナギサがホストとしての権限を失ったことにより、先ほど宣言した学園の改名は無効となる!よって、アリーティア総合学園はただいまを持って廃校だ。儚い命だったね!〉

    〈何よりトリニティは神聖なる名だ。その重みもわからないような者が土足で踏み荒らすなど言語道断、返してもらおう!〉

    セイアの怒りのこもった挑発にメフィストは苛立つ。
    しかし画面の向こう側のセイアを止める手立ては無い。

    〈そして次のティーパーティー決定までの代理として、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生より指名された以下四名が学園の代表となる。名前を呼ばれた者は前へ〉

    〈栗村アイリ、伊原木ヨシミ、柚鳥ナツ、杏山カズサ〉

    セイアが指名したのは放課後スイーツ部のメンバーたちだった。
    事前に打ち合わせ済みとはいえ、アイリは特に緊張している様子だった。

    〈それではアイリ様、一言お願いします〉

    セイアに様付けされ驚くアイリ。
    しかしすぐに呼吸を整え、手元に紙を用意し読み上げる〉

    〈ご紹介に預かりました、栗村アイリです。これより私たちはティーパーティー代理組織『放課後ティーパーティー』として学園の治安維持に努めます!〉

    〈ど、どうかよろしくお願いします!〉

    アイリは精一杯頭を下げている。

  • 81スレ主25/05/26(月) 21:53:48

    〈ありがとうございます。では次にカズサ様、治安を乱す不穏分子を見付けられたようですが、詳細お伝えいただけますか?〉
    〈うええ、本当にやるんだ……〉

    今度はカズサが指名され、彼女は少々困った様子でポケットから話す内容の書かれた紙を取り出す。

    〈えーと、桐藤ナギサ、聖園ミカ、蒼森ミネ、歌住サクラコ、剣先ツルギ、浦和ハナコの六名はゲヘナ学園への侵攻を宣言したことでエデン条約に抵触、ETOの名の下にこれを実力行使で鎮圧するものとする。うわー物騒……〉

    『エデン条約!?馬鹿な!ゲヘナが締結に応じるはずがない!』

    突然出てきたエデン条約の名にメフィストは驚く。
    セイアはカメラを見ながら、エデン条約締結のために尽力してくれた友の顔を思い浮かべていた。

    (君のおかげだ。これはゲヘナを強く憎んでいた君だからこそできたことだ)

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    時は遡り一日前。

    ゲヘナ学園の生徒会組織、万魔殿の執務室にミカは来ていた。
    部屋ではメンバーの羽沼マコト、京極サツキ、棗イロハ、元宮チアキ、丹花イブキが各々自分の時間を過ごしている。

    そして他にはゲヘナ学園風紀委員会の委員長と行政官、空崎ヒナと天雨アコも同席していた。

  • 82二次元好きの匿名さん25/05/26(月) 23:51:17

    なるほどね、色彩呼ぶのはこのためか。ひでぇマッチポンプだ
    神は7日で世界を作ったって聖書にあるらしいね。そこから取ったのかな?色彩顕現は
    やっとメフィストの目的が見えたな。看守ちゃんの煽りドストライクじゃんね。よく言い当てられたもんだ
    エデン条約がさらっと締結されてる…しかも立役者はミカ……いったい何が

  • 83スレ主25/05/27(火) 07:15:35

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ゲヘナ解放作戦
    来たる七日後、色彩の光が四十日 四十夜降り注ぐとされる。
    そこで、光から逃れるためのシェルターを設置する敷地を増やすため、悪しきゲヘナ学園を魔の手から解放しよう。
    クリア条件は万魔殿の議長羽沼マコトと風紀委員長の空崎ヒナを倒すこと。

    ノアの方舟の逸話のように、狂気の洪水によって生きとし生けるもの全てが滅ぶ前に方舟を完成させ、それに乗船するにふさわしい者になれるよう全力でアリーティア総合学園の勝利に貢献しよう。

    何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。
    ブルーアークカタストロフ、最終決戦の幕開けである。

  • 84二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 12:20:24

    最後に和解できることを祈って、念のため、保守。

  • 85スレ主25/05/27(火) 14:19:35

    彼女たちの目的はトリニティと万魔殿の監視である。
    アコはヒナの隣に背筋を伸ばして立っており、ヒナは特に興味も無さそうな顔で壁にもたれかかっている。

    しかしその隣には愛銃である終幕:デストロイヤーが立てかけられており、少しでも妙な動きがあれば即座に鎮圧するとでも言わんばかりの圧力を放っていた。

    「キキキッ……」

    マコトは机に脚をかけ、不敵な笑みを浮かべてミカを見ている。
    イロハとイブキは二人で玩具で遊んでおり、サツキはソファに座りながらミカとマコトの様子を眺めている。
    そしてチアキはカメラを構えて、二人の様子を撮影していた。

    まるで伏魔殿のような禍々しさと威圧感だが、ミカは気圧されることなく交渉を進める。

    「エデン条約を締結してほしい」
    「断る」

    マコトの返答は早かった。
    自分たちのホームだからか、この場はマコトの方が優位に立っている。

    「まず質問させてもらおう。聖園ミカ、お前は今謹慎中のはずだろう?今のお前にティーパーティーの権限など無いはずだ。この条約の提案は校則違反に当たるんじゃないのか?」

    「そうだね、あなたの言う通り今の私にティーパーティーの権限は無い。けど今日はティーパーティーではなく、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの使者としてこの場に来てるよ」

  • 86スレ主25/05/27(火) 18:35:14

    先生の関係者と聞き、マコトが興味を持ち始める。

    「ほう、先生からの差し金か」
    「差し金というのは少し違うね。先生にはこの場を設けるためのきっかけを用意してもらっただけ。会談の内容については特に干渉しないし、断ってゲヘナに制裁があるわけではないよ」

    「なるほど、では二つ目の質問だ。お前たちの目的は何だ?」

    「知っての通りトリニティは悪の手に落ちた。そして敵の次の狙いはあなたたちゲヘナだっていうこともわかってる」

    「だからあらかじめエデン条約を締結しておくことで条約違反を起こさせる。そうすれば条約に則って、実力行使で学園を取り返しにいくことができるからね」

    「キキキッ、小賢しい上に暴力的な作戦だな」

    「でも目的はそれだけじゃないよ。このまま放っておけばトリニティの名を使ってゲヘナにも、他の学園にも攻撃を加えて被害が出る。けどエデン条約が締結できれば、少なくともゲヘナには手が出せなくなる」

    「ほう、わざわざ守ってくれようというのか」

    一転、にやついていた顔が険しい表情に変わる。

    「ゲヘナを舐めるなよ。貴様らが負けたのは敵を叩きのめす強さ、冷酷さを持ち合わせていなかったからだ。だがゲヘナは違う。あんな賊どもに遅れなど取らない」

    マコトは威圧するも、ミカは表情一つ変えない。

    「相手はトリニティじゃなくて、その裏にいる黒幕だよ。もしゲヘナが勝っても、きっとそのゲヘナを内側から乗っ取りに来る」

  • 87スレ主25/05/27(火) 18:37:11

    「自分や大切な人と同じ顔をした兵を用意して、悪意で心を削りに来る。そしてある日突然、隣にいる人が学校外も含めた大勢の人の悪意に晒されることになる」

    「たとえ退けることができたとしても、傷跡は残るよ」

    マコトはトリニティ生の言葉など問答無用で否定してやろうと思っていたが、ミカの言葉は否定しなかった。
    彼女の目は、語りは、それを体験した者のそれだったからだ。

    「だがわからんな。貴様らは既に学園を奪われた。取り返せるならそれで良し、たとえそれができなくとも、憎きゲヘナを道連れにできるかもしれないんだぞ?」

    「学園を奪い返すにしても、条約なんぞに頼らなくとも力づくで挑めばいいじゃないか。少なくともゲヘナならそうする」

    マコトの言い分はもっともだった。
    かつてのミカならそう判断したかもしれない。
    けど、今は違う。

    「確かにそうだね。でも今の私はそうしようとは思わない」

    ミカの言い分にマコトは嘲笑うように言い返す。

    「勝手だなぁ?ゲヘナ憎しの一心でこれまで散々無茶苦茶をしてきたくせに、今更心変わりか!」

    「あのタヌキは……!」

    近くで見ていたアコは内心マコトに苛立っていた。
    自分のことを棚にあげてよくもまあ偉そうに言えたものだと。
    しかし残念なことに、彼女の言っていること自体は間違っていない。

  • 88スレ主25/05/27(火) 18:39:49

    確かに過去、ミカの裏切りもありエデン条約調印式はテロリストの攻撃を受け中止となり、巡り巡って先生が大怪我を負う結果となった。
    マコトの味方をするわけではないが、思うところはある。

    そしてミカにも、表情にこそ出さないもののマコトの言葉が深く突き刺さっていた。
    部屋の空気が重くなる中、意を決したようにミカが口を開く。

    「……私にはあなたたちゲヘナの生徒が、物語に出てくる悪者に見えた」

    「晄輪大祭の時も、エデン条約の時も、色彩の対策会議の時もそう。テーブルを挟んで向こうに座るあなたたちを、私は同じ人間として見ていなかった」

    「でも、そんな私に考えを変えさせる出来事が起こった」

    「私は事件を起こした罰としてボランティア活動に参加することが多いんだけど、その日も街の花壇の草むしりをしてた」

    「そんな中私は日差しと暑さで体調を崩しちゃって、日陰で項垂れて動けなくなってた。そんな時、一人のゲヘナの子が私に声をかけて助けてくれたの」



    「あの時はありがとうね、イブキちゃん」

  • 89スレ主25/05/27(火) 20:54:18

    ミカはイロハと遊んでいたイブキに向け、声をかける。
    それを聞いたイブキはミカの方へ向き直り、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべた。

    「どういたしまして!ミカ先輩、あの後は大丈夫だった?」
    「うん、お陰様で。ごめんね、挨拶が遅れて。大事な話だったから……」
    「ううん!イブキ、ミカ先輩とまた会えて嬉しい!」

    ミカとイブキが知り合いだったという事実に、マコトの余裕が一気に崩れる。

    「な、なにィー!?!?!?お前たち知り合いだったのか!?なぜ今まで黙ってた!?」

    「あれ?イブキちゃんあの日のこと言ってなかったの?」
    「うん?イブキ言ったよ?ミカ先輩と友達になったって!」
    「…………あ」

    マコトはイブキから聞いた話を思い出した。

    「あの時のか!いや確かに聞いたが!ミカって、まさかトリニティの聖園ミカだとは思わないだろう!くそっ、私が確認を怠ったばかりに……!」

    「もうマコトちゃん。いちいち友達一人一人のこと聞くなんて、そんなの過保護を通り越して過干渉よ?」

    サツキの意見は至極真っ当だ。
    頭を抱えるマコトを尻目に、イロハはイブキの頭を撫でている。

    「イブキは偉いですね。それで、その後はどうしたんです?」
    「うん!その後はエリカ先輩とキララ先輩と会う約束してたから、二人に来てもらって一緒に涼しいところに行ったの!」
    「それでミカ先輩が元気になったから四人で草むしりを終わらせて、一緒にアイスを食べに行ったんだ!」

  • 90スレ主25/05/27(火) 20:55:35

    「キララちゃんの教えてくれたお店、美味しかったね」
    「でしょ!他にもいっぱい美味しいお店があるんだよ!」
    「なっ、なななな……」

    イブキだけでなくキラキラ部とも知り合っていた事実にマコトは唖然としている。
    ミカはマコトの方へ向き直り、話を続ける。

    「話を戻すね?あの日私はイブキちゃんたちと出会って、たくさん話をした。あなたのことも聞いた。隣から見るあなたはとても頼りになって、かっこよく見えるって。イブキちゃんが真っ直ぐに慕ってるのがよく伝わってきた」

    「だから私も、あなたたちをゲヘナで一括りにするんじゃなくて、一人一人をもっと見て知っていきたいと思った」

    「きっかけはこの一件だけじゃない。どこへ行っても同じだった。トリニティも、ボランティアでも、アルバイト先も、ゲヘナも、みんな同じだった」

    「普通に喜んで、怒って、悲しんで、笑って。良い人にも駄目なところがあって、嫌な人にも見習うべきところがあって、そしてみんな、誰かにとっての大切な人だった」

    「だから今の私には、これからゲヘナが狙われると分かっていて放っておくことなんかできない」

    「私がここに来たのはそれが理由だよ」

    少しずつ空気が和らいでいく。
    そして流れがミカに傾き始めたことでマコトに焦りが生まれる。

    (ぐっ、なんだかコイツの方が大人に見えてきた。何か落ち度はないか……)

  • 91スレ主25/05/27(火) 20:56:50

    ということを考えているのは既に見透かされているのか、他のゲヘナ生からマコトは釘を刺すような視線を向けられていた。

    「ぐっ、そもそもだ!我々やお前たち、どちらかがこの条約を反故にする可能性は考えていないのか!?そうなっては元の木阿弥ではないか!」
    「無いとは言えない、悔しいけど。でもそうならないように私たちがいる」

    「私はクーデター派なんかを見かけても、あえてスルーするかもな!?」
    「あなたの大切な人がその選択に巻き込まれ、傷つくかもしれないとしても、あなたはそれを肯定するの?」
    「っ!」

    言い返そうとするも、マコトは言葉に詰まった。
    もしイブキがそれに巻き込まれたら。
    咄嗟にそう考えて、ミカに反論することができなくなっていた。

    「……ゲヘナ学園は生徒の自由を奪わない。民がそれを望むなら、私はそれを尊重するまでだ」
    「……が、それを見ても何とも思わないと言えるほど、私は完璧ではなかったようだな」

    マコトは背もたれに首を預けて天井を見上げ、ため息をついた。

    「憎きトリニティとはいえ、ここまで努力した人間を見てなお嘲笑おうものなら、私は偉大なるマコト様ではなくなってしまうだろうな」

    「元から偉大なんかじゃないでしょ」
    「んふっ、委員長……!」

    自嘲気味に呟くマコトに、ここまで黙っていたヒナが突っ込みを入れる。

    「お前なぁ!?イブキの前で私を貶すのはやめろ!私にもプライドはあるんだぞ!?」

  • 92スレ主25/05/27(火) 20:58:02

    ミカはイブキと目を合わせて微笑む。

    「それから、締結してほしいとは言ったけど期限付きでいいよ」
    「何!?」
    「これはあくまでミメシスの侵攻を食い止めるためのもの。争いを根本から無くすのに、本来はこんなもの必要無いはずだから」

    「大事なのは手を出せないよう壁を作ることじゃなくて、隣に立ってその顔を見て、相手を知ることなんだと思う。その人が何を愛しているのか、何に怒るのか」
    「連邦生徒会長がそこまで見越していたのかはわからないけど」

    「は、お花畑め」

    そう言いつつも、マコトは観念したように姿勢を正す。

    「書類を渡せ。判を押す」

    マコトは渡された書類に判を押し、ミカへと手渡した。

    「うん、確かに。ありがとう」
    「これは互いに同意し合って締結されたものだ。上も下も無い」
    「よかった。実は内心、締結に応じるかわりに無茶な要求とかされたらどうしようかと思ってたんだ」
    「…………」

    「おや、なかなか鋭いですね。今のマコト先輩は『イブキの前でかっこつけたいモード』に入ってるので気前が良いだけですよ。運が良かったですね」
    「イロハ!!」

    茶々を入れるイロハにマコトは憤っている。

  • 93スレ主25/05/27(火) 22:12:17

    「ふふ、それじゃあ私はもう行くね?ゲヘナへは手を出させないつもりだけど、警戒は怠らないで」
    「そこに関しては風紀委員会が指揮を取るつもり。出口まで送るわ」

    ヒナがミカを見送るために出口へと歩き始めた。

    「さっき言った通り、この件に関して上下をつけるつもりはない。ただ、それを承知で一つ見てみたいものがある」
    「何?」



    「我らに無礼を働いたあの阿呆共の泣きっ面だ」
    「!!」

    部屋を出ようと背を向けたミカに、マコトからの遠回しな激励が飛ぶ。

    「任せてよ!」

    ミカは振り返り、とびきりの笑顔で答えてからヒナと共に部屋を出た。

    「とんでもなく悪い顔してましたね、彼女。案外ゲヘナと相性良いかもしれませんよ?」
    「あら、全方位に喧嘩売ってる?」
    「まさか身内からスキャンダルが出るなんて!」

    「馬鹿言うな!過度な馴れ合いを良しとした覚えはないぞ!」
    「イブキも、ミカ先輩ならみんなと仲良くできると思う!」
    「おお〜そうだなイブキ!仲良くできるさきっと!」
    「情緒不安定なタヌキですね……」

    こうして、無事エデン条約は締結された。

  • 94スレ主25/05/28(水) 06:55:33

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ゲヘナ解放作戦の報酬
    トリニティ解放作戦の時と同様、作戦に成功すればプレイヤー全員に藍輝石1200個が配布される。

    皆で協力し、必ず報酬を手に入れよう。

  • 95二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:42:34

    ほう、こういう経緯が…
    憎んでいたからこそ、実際に見て聞いて体験して考えを改めたって言うのは強いな
    最初にイブキやキラキラ部と出会ったっていうのも運がいい
    にやけ面で好き勝手してる相手を横合いからぶん殴れるんだから、そりゃあいい笑顔になるもんだ

  • 96二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 13:18:48

    すみませんここに来れば『にせティーパーティーの逆襲 くたばれ!メフィストフェレス』が見れると聞いたのですが?

  • 97スレ主25/05/28(水) 14:28:37

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ミカはヒナと共に校舎を出て、敷地の外へと向かっている。

    「まさかマコトを説き伏せるなんてね。見ていてスッキリした」
    「ええ……そんなに慕われてないの?マコトって」
    「それはもう。ゲヘナ生が全体的に政治に対して関心が薄いのもあるけど、支持率の低さは圧巻の一言だから」

    「それより本当に大丈夫?ETOは双方の学園から人員を出し合う中立組織。ゲヘナからも協力することだってできると思うけど……」
    「ううん、今回は大丈夫。これは私たちの戦いだから。ゲヘナに被害が及ぶ前にトリニティだけで終息させるよ」

    「そう、わかった。それにしても本当に驚いた。心境の変化があったとはいえ、前に会った時とは別人みたい。何か目標でもあるの?」
    「うん、ええと……胸を張れるような生き方をして、大切な人を安心させたいの。これまでたくさん迷惑と心配をかけちゃったから」

    ヒナの質問にミカは少しだけ照れくさそうにしながら答える。

    「そう、先生も罪な人ね」
    「うん」
    「こんな素敵な子から真っ直ぐな好意を向けられているだなんて」
    「そうだね」



    「……ってええ!?!?!?」

  • 98スレ主25/05/28(水) 14:29:36

    世間話のようについ肯定してしまったが、うっかり先生への気持ちを悟られてしまった。

    「ふふ、やっと年相応の顔が見れた」

    ヒナは楽しそうにミカを見ている。
    これもゲヘナの策略か、ミカは先ほどまでの余裕を一気に崩されてしまった。

    「な、なになに!?何が狙いなの!?」
    「私もあなたのことを知りたいと思った。それだけ」

    その言葉を聞き、はっとするミカ。
    目の前の少女はただ、同年代の者同士ガールズトークをしたかっただけなのだ。
    人とわかり合うということを改めて実感し、心の底から緊張のほぐれたミカはヒナの目を見て改めて名乗る。

    「私はミカ、聖園ミカだよ」
    「空崎ヒナ、ヒナでいい。よろしくね、ミカ」

    ヒナもまた条約締結前までの険しい表情から一転、ふわりとした柔らかな笑顔で答える。

    「よろしく、ヒナちゃん!今日はありがとう、またね!」

    こうしてミカはゲヘナとの条約締結だけでなく、新たな友を得て仲間のもとへ帰還したのだった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 99スレ主25/05/28(水) 18:30:50

    (ミカが成し遂げてくれたエデン条約締結、絶対に無駄にしない!)

    セイアはカメラへ向かってさらなる追撃を加える。

    〈言っておくけどハッタリなどではないよ?嘘だと思うならゲヘナ学園へ問い合わせてみるといい〉

    セイアの強気な物言いを見て、メフィストは次の手を考える。

    (この言い方、おそらく条約締結は嘘じゃない……。どうやったのかは知らないけど。こんな面倒なもの、すぐに潰してやる!)

    『ハナコちゃん、あの四人のAI音声って用意できそう?彼女たちのミメシスは作ってなくて、見た目を真似して条約の取り下げ宣言をでっち上げるのはできそうにないんだ』
    『駄目です、彼女たちのボイスデータはライブラリ内にありません!』
    『ぐっ……!』

    〈それから、放課後ティーパーティーのミメシスを作って、先ほどの宣言を取り下げさせることが不可能なことはわかっている。作っていないのだろう?彼女たちのミメシスを。そして、それをすぐに用意することはできない!〉

    まるでこちらの手を読んでいたかのような発言に、メフィストの中に焦りが生まれる。

    (駄目だ、読まれている!トリニティ乗っ取りに必要な能力のミメシスを優先して作り続けたことが裏目に出た!)

    〈これまで作ってきたのはどれも目に見えて優秀な能力を持つ生徒ばかり。上っ面の能力しか見ないで、彼女たちのような平和の象徴を、人の心を軽んじてきた君たちの負けだ!〉

  • 100スレ主25/05/28(水) 20:08:19

    〈君に言っているんだよ、メフィストフェレス!自分よりも年下の子どもの背にこそこそと隠れて顔を出さないなんて、よほど私たちが怖いと見える!情けないね!〉

    〈アリーティアだか何だか知らないけど、偽りの正義でコーティングした悪意を振る舞っておいて、何が真実だ!嘘の記事で民衆を騙してテロリストに仕立て上げて!〉

    〈この際だからはっきりと言わせてもらう!君たちのやっていることはただの『おままごと』だ!もうお片付けの時間だよ!〉

    『言わせておけば……!』

    おかしい、手際が良すぎる。
    旧トリニティはゲヘナを侵略して兵力が盤石になるまでは報復できない計算だったのに。
    なのに的確にこちらの作戦の弱点を突いてくる。

    (こちらの出方とタイミングを完全に読んでいる。未来でも視えているのか……っ!)

    その時メフィストは敵の絡繰に気付く。

    (そうか、セイアだ!奴め、死ぬ間際に百合園セイアに予知能力を継承させたな!だから私たちの行動を先回りできる!)

    『くそっ!あの女狐め!死んでなお私の足を引っ張るか!』

    思わず机を拳で殴りつけるメフィスト。

  • 101スレ主25/05/28(水) 20:58:14

    こんなことなら多少無理してでも模倣セイアを『継承』しておくべきだったか。
    そこまで考えてメフィストは一度冷静になる。

    (いや、依然私たちが優位に立っているのは変わりない。奴らは今後の学園間の関係悪化を防ぐために、狙いをゲヘナから旧トリニティへ向けさせることが狙いだ。呑気な奴らめ、すっかり学園を取り戻せる気でいる!こんな安い挑発なんかに乗るものか!)

    メフィストはどうにか気持ちを立て直すことに成功する。

    〈これだけラブコールを送ってもうんともすんとも言わないとは。全世界のお茶の間に年増の制服姿を見せることに引け目でも感じているのかい?〉

    〈それとも、計画が崩れたストレスで顔が浮腫みすぎて元気百倍顔パンパンマンになってる様を見せたくないのかな?気にすることはないよ、杜撰な計画の皺寄せが顔に来ただけさ!〉

    〈年相応の顔つきになっただけだ。今更だろう!どのみち十代のような透き通る瑞々しさは手に入らない!身も心もね!〉

    『殺す!!!!』

    メフィストの頭に一気に血が昇る。

  • 102スレ主25/05/28(水) 22:18:58

    (あの看守め、余計なことまで全て話したな!やっぱりあの時始末しておけばよかった……!)

    『予定変更!ゲヘナへの侵攻は後回し!先にあの死に損ないどもを今度こそ叩き潰すよ!』

    ミメシスたちの方へ振り向いたその顔は怒りで皺だらけになっていた。

    〈大切な場所を、大切な人を侮辱し、傷つけ、奪っていった者達を私たちは絶対に許さない!〉

    〈今一度宣言しよう。私たちトリニティ総合学園はテロリストから学園を奪還するべく、ETOの名の下に武力による制圧を行う!何と言われようとも、犯罪者に一切の容赦はしない。以上だ!〉

    セイアの宣戦布告を最後に放送は終了した。
    終始人を小馬鹿にしたような表情で捲し立てて、どちらが悪者なのかまるでわからなかった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 103二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 23:44:43

    放課後スイーツ部を代理にしたのはこれが理由か
    過去見る感じ、触媒置いて自然発生するまで放置が模倣ミメシスの作り方っぽいしそりゃあ時間が無いワケだ
    ゲヘナ侵攻まで殴られないって思ってる辺り舐められてるな…まぁセーフハウスの場所知ってるから何時でも滅ぼせるって高括ってたろうが

    底が見えたな…いくらガワを取り繕おうが本性は誤魔化せない
    歳食ってるのは確定でいいのかな?

  • 104二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 06:22:44

    最後まで楽しみにしてます^_^
    念のため保守。

  • 105スレ主25/05/29(木) 08:17:05

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    NEW GAME『アリーティア防衛戦』
    旧トリニティ総合学園の生徒が学園を取り戻すべく攻撃を仕掛けてくる。
    学園の東門、西門、北門、そして正門の前にミメシスを配置し彼女たちを迎え撃とう。

    東はミネ、西はサクラコ、北はツルギ、正門へはミカが配置される。
    どの生徒と共に戦うかは選ぶことができる。
    ※人数に偏りがある場合は抽選となります。

    真実の名の下に、力を合わせて学園を守り抜こう。

  • 106二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 10:26:38

    >>105

    何が真実だよこのフェイカーめ!大勢の人を苦しめてそんなに楽しいか?このクズがよ🖕

  • 107二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 13:18:57

    >>106

    問題は、そうやって利用されてると知って離れていく「アークカタストロフ」のユーザーが何人いるかなんだよなぁ。

    課金ユーザー位しか残らないか、

    人の心はブレーキになりづらいことを考えると、

    人数はそのままか……はてさてどうなりますやら。

  • 108スレ主25/05/29(木) 14:37:17

    「よろしかったのですか、セイアさん……?」

    放送を終えて一息つくセイアのもとへナギサが歩み寄る。

    「私はもうティーパーティーではないからね、好き放題やらせてもらった。普段なら自分の口の悪さに嫌気が差すところだが、今回ばかりは思い切りやれる」

    「は、はあ……」
    「それに君だって途中で笑いそうになっていたじゃないか?ん?元気百倍顔パンパンマン!蛆パン本仕込〜♪」

    「んふっ、あっはははははは!や、やめてくださいセイアさん!」

    ナギサはひとしきり笑った後、話を戻した。

    「ふーっ、それにしても驚きました。まさか『ゲヘナとエデン条約を締結する』案の交渉役にミカさんが立候補するとは」

    「私も驚いたよ。よりにもよって、あれだけゲヘナを憎んでいたミカが自ら志願するのだから。本当に変わったよ、ミカは」

    友の成長に喜びつつ、ナギサとセイアも気合いを入れ直す。
    自分たちも負けてはいられない。
    するとそこへティーパーティーの生徒がやって来た。

    「ナギサ様、セイア様!ヘリの準備ができました!ヘリポートまでお越しください!」

    「ありがとうございます。ではセイアさん、私たちも行きましょう」
    「ああ」

    二人も戦場へと向かうべく、部屋を後にした。

  • 109スレ主25/05/29(木) 18:34:01

    既に戦闘部隊の準備は整っていた。
    前線部隊は四つに分かれ、学園を四方から囲むように配置されている。

    西側の担当はシスターフッドだった。

    「皆さん、参りましょう。敵は私と同じ顔をしていますが、どうか躊躇うことのないよう」
    「はい、援護は任せてください!」

    サクラコはシスターフッドの生徒たちを束ね、先頭に立って模倣サクラコと睨み合う。
    恐れが無いわけではないが、側にはグレネードランチャーを持ったヒナタがいる。
    頼もしい味方の存在にサクラコは勇気づけられる。

    『ふふ、まるでシスターフッドの『交流会』ですね。ですが生徒の数はこちらが上です。それに……』

    対する模倣サクラコは無言で後ろを指差す。
    ミメシス側には模倣サクラコと多数のユスティナ信徒だけでなく、ヒエロニムスまでもが待ち構えていた。
    太古の教義に基づいて作られた人工の天使は並々ならぬ威圧感を放っている。

    『さあ、皆さんに神の恩寵を授けましょう!』

  • 110スレ主25/05/29(木) 19:30:03

    東側はミネと、イチカ含む正義実現委員会の生徒たちがサポートとして加わったチームで攻め込む手筈になっていた。

    迎え撃つのは模倣ミネとユスティナ信徒、そしてグレゴリオ。

    『おや、随分と戦力が薄いようですが、そんな寄せ集めのチームで私たちに勝てるとでも?』
    「所属は違えど、これまで何度も共に戦って来た方々です。あなたたちとは信頼の深さが違います」

    『信頼?ふふ、重視すべきは個々の実力の高さ。私の存在そのものが強さの証です。もう一人の私を私が叩き、後ろのあなたたちをグレゴリオとユスティナ信徒で片付ける。これで終わりです』
    「なるほど完璧な作戦っすね〜」



    「不可能だという点に目をつぶれば」

    普段は細めている目を開き、一歩も退かずに言い返すイチカ。
    模倣ミネは不敵な笑みを浮かべて盾と銃を構える。

    『この蒼森ミネの力で、あなたたちを救護してさしあげましょう!』
    「その言葉、そっくりそのままお返しします!」

  • 111スレ主25/05/29(木) 20:26:20

    北側には模倣ツルギとユスティナ信徒たちが待機している。
    しかし現状、トリニティ側からは誰一人刺客が来ていない。

    『なあ、俺らってすごく楽なところに配置されたってことなのかな?』
    『そうかもな。まあ、ここはトリニティ正門の真反対。回り込んでここまで来るのに時間がかかってるのかも……ん?』

    その時、上から黒い羽が落ちてくるのが見えた。
    上空をカラスでも飛んでいるのか、ひらひらと舞うそれの持ち主を確かめるため一人のミメシスが上を見上げた。



    「ばぁ」

    しかし視線の先にいたのはカラスではなく、なんと黒い羽根に黒い髪の、狂ったような笑みを浮かべた少女だった。
    正義実現委員会の委員長でありトリニティの戦略兵器、ツルギが空から降って来たのだ。
    この時プレイヤーが感じた恐怖は、その後ずっと残り続けたという。

    直後、ツルギは着地すると同時に周囲のミメシスを吹き飛ばし、あっという間に場を制圧してしまった。

  • 112スレ主25/05/29(木) 20:26:57

    『油断してるからだ、馬鹿どもめ……!』

    模倣ツルギはそう言いつつ、全く怒ってはいなかった。
    むしろ邪魔者がいなくなったことでツルギと一対一の勝負ができるからだ。
    しかも模倣ツルギは己の強さに絶対の自信があったので、メフィストによる能力増強の改造を一切受けていない。

    「キヒャアハハハハ……!さあ、殺りあおうか!!」
    『望むところだ!ヴェアハハハハハ!』

    援軍の到着も待たず、最強同士のぶつかり合いが始まった。

    「うわあ、ツルギ先輩、まだナギサ様から合図出てないのにもう始めてる……。後で怒られても知りませんよ?」

    早すぎるツルギの到着の後、マシロ含む正義実現委員会のメンバーが到着した。
    そしてミメシスたちも大人のカードの力で続々と復活する。

    「さて、私たちも気合いを入れないと。皆さん!ツルギ先輩の邪魔にならないよう、周りの雑兵を片付けましょう!」

  • 113スレ主25/05/29(木) 21:19:11

    そして南側、学園の正面にあたるこの広場は他の三箇所よりも多くの兵が配置されていた。
    ユスティナ信徒だけでなく、バルバラ、アンブロジウスまでもが数えきれないほど蠢いている。

    そしてその中心には模倣ミカが、まるで魔物を従える魔女のように堂々と待ち構えていた。
    対するトリニティ側はミカと、東や西側よりも少ない数の正義実現委員会やシスターフッドの生徒がサポートとして付いているだけ。
    その様子を見て、模倣ミカは呆れたようにため息をつく。

    『なになに?その程度の人数で私たちの相手をするってこと?ちゃんと脳みそ入ってる?もっと裏門側とか、人が少ないところを狙えばいいのにさ★』

    それに対しミカは無言で右手を天に掲げる。
    直後、上空に眩しい光が多数見え始めた。
    それを見ていたミメシスたちは最初何が起きているのか理解できていなかったが、光の正体を見て凄まじい怖気に襲われた。

    『なあおい、あれ……隕石じゃないか!?』

    しかし、理解できたとて対応などできるはずもなく、過去に模倣ミカの落としたそれよりも大きなものが次々と着弾、大爆発と共にミメシスたちを吹き飛ばしていった。
    その数およそ三十個、爆発が収まった後にはミカ側とそう変わらない数のミメシスしか残されていなかった。

    『うわああああああ!!被害がデカ過ぎます!!』

    自分が落とした時よりも遥かに大規模な攻撃を軽々やってのけるミカ、そして彼女への恐怖に思わず後ずさるユスティナ信徒たち。
    一瞬でペースを飲まれた模倣ミカは苛立ちのあまり舌打ちをする。

    『こいつ……!』
    「私の学園に入るのに裏門から入らなきゃいけない理由があるのかな☆」

  • 114スレ主25/05/29(木) 22:15:37

    かくして学園の四方を取り囲むように戦闘部隊が配置された。

    その時、ブルアカのプレイヤーたちのスマホからサイレンにも似た通知音が鳴る。

    『先生の皆さん、ボスエネミーが出現しました!彼女たち四人は『アリーティア防衛戦』における最難関ボスとなります。他の先生や生徒さんと協力して、彼女たちをやっつけましょう!』

    画面を開くとコロナが現れ、『アリーティア防衛戦』についての説明を始める。
    そこにはボスとして扱われている生徒たちの情報が表示されていた。

    サクラコ(臨戦) Lv.90
    ミネ(臨戦) Lv.90
    ツルギ(臨戦) Lv.99
    ミカ(臨戦) Lv.99

    圧倒的な威圧感とそれに違わぬ強さを持つボスたちの出現に、プレイヤーたちは慌てふためく。

    『はあ!?俺まだLv.5とかだぞ!?上位プレイヤーでもいいとこ30とかだろうし、どう考えても無理ゲーだろ!』

  • 115スレ主25/05/29(木) 22:42:00

    『低レベル攻略いけるかな?このゲーム自由度高そうだし、コンボでハメたりすればワンチャン……』

    そうこうしている間にもミメシスたちは次々と削られていく。
    藍輝石を使えば復活可能だが、蘇生した直後にすぐ狩られてしまう。
    ゲームオーバーを繰り返して攻略法を掴むタイプの高難度ゲームも真っ青なワンサイドゲームに、ミメシス側は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

    『怯むな!トリニティは政治的不正を行った悪しき学園だぞ!正義は必ず勝つ!諦めたらダメだ!』

    一方、ミメシスたちもしぶとく立ち上がる。
    メフィストの見立て通り、己の正義感に従って立ち上がった者はそう簡単には倒れない。

    どんな信念を持っているにせよ、現状最優先しなければならないのは人の心を弄ぶ悪魔の操り人形になっているという事実に気付くこと。
    しかし人の手ではなく戦う武器を取ってしまった者たちに、その選択肢を取る発想は浮かばないのであった。

  • 116二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 01:00:07

    無理そうだけど、模倣ミカナギが生き残って、和解して、本物と姉妹みたいな関係になる可能性を信じて保守。

  • 117スレ主25/05/30(金) 07:22:51

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    敗北条件
    すべてのミメシスが消滅してそのまま復活出来なかった場合はゲームオーバーとなり、アリーティア総合学園は敗北となる。

    ミメシスの数の多さやコンティニュー機能に慢心しないように。

  • 118二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 10:31:01

    プレイヤー操作のミメシス以外にもヒエロやグレゴリオ、バルバラまでいるのか
    臨戦仕様みたいだけど大丈夫か…?
    早急なコンテニュー機能の停止、もといいブルアカのサーバー抑えなきゃ…
    それで少なくともプレイヤーミメシスは落とせる

  • 119スレ主25/05/30(金) 15:45:36

    「始まったようだね。全く、ナギサが合図するまで手は出すなと言ったのに。ミカとツルギはいつもこうだね」

    セイアはヘリコプターの中でタブレット端末を操作し、通信機越しの報告内容と併せて戦況の把握を行っている。

    「いえ、これも想定内です。むしろ彼女たちには先陣を切って欲しかったので、願ったり叶ったりですね」
    「そうかい?ふふ、馬鹿と鋏は使いよう、だね」

    ナギサも同様で、二人は移動式の司令官という形となる。

    〈二人とも!!聞こえてるんだけど!?〉

    するとミカから怒りの通信が入り、耳元で叫ばれたせいで顔をしかめる二人。
    そしてセイアはヘリの窓から黒煙の上がる街を眺め、戦いの決意を改めて固める。

    「見ていてくれ。君の託してくれた想い、絶対に無駄にはしない」
    「通信機は正常に動作しているようですね。それでは皆さん持ち場についたようですので……」



    「これより、『トリニティ奪還作戦』を開始します!各員、戦闘開始!!」
    「終わりにしよう。偽りの正義に塗り固められた悪意を振るまう、模倣の茶会を」

    本物と偽物どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの火蓋が切って落とされた。

  • 120スレ主25/05/30(金) 21:33:04

    トリニティ周囲から次々と爆音や銃声が轟く中、補習授業部の四人はMeister社襲撃のため巡航戦車クルセイダーに乗り込む。
    戦車の後ろには二つのコンテナが繋がれていた。
    一つはコハルの、もう片方はヒフミの用意した秘密兵器だ。

    そして先生はマリーの運転するバイクに同乗するため、彼女の準備が整うのを待っていた。

    「これがシスターフッド所有のバイク、カッコいいな……ん?」

    ふとハンドルを見ると二つのヘルメットが掛かっていた。
    一つは普通の黒いヘルメット、もう一つは猫耳型の装飾のついたオレンジ色のヘルメット。
    おそらくマリーと先生で一つずつ使うのだろう。



    先生は迷わず猫耳型のヘルメットを手に取った。

    「私はオレンジ色が好きで猫も好きだ。だからこのヘルメットを選ぶ。何もおかしくはない」

    そこへライダースーツへと着替えたマリーがやってきた。

    「お待たせしてすみません、先生!黒い方のヘルメットが先生ので……ってあああああダメですダメです!!そっちは私のですダメダメダメダメ嗅がないでください!!!!」

    謝肉祭の時にさえ見せなかったような慌てた様子で先生からオレンジ色のヘルメットを奪い取るマリー。
    二人はバイクに乗り込み、マリーはバイクのエンジンをかけた。

  • 121スレ主25/05/30(金) 21:34:39

    マリーたちの準備が整ったのを見て、ヒフミは補習授業部と顔を見合わせ、車内の各制御装置の最終確認を行う。

    「メインOS設定完了。ギア・ニュートラル確認。車内酸素濃度正常。運動制御用パラメータ異常なし。エンジン動作正常。牽引物による動作への影響無し。全システムオールグリーン」

    「補習授業部、阿慈谷ヒフミ、クルセイダー、行きます!!」

    ヒフミはアクセルを踏み込み、クルセイダーは颯爽と大地を駆けてゆく。
    それを見た先生は子どものように目を輝かせ、ヒフミの真似をする。

    「連邦捜査部S.C.H.A.L.E、先生およびシスターフッド、伊落マリー、マシンシスターフッダー、出るぞ!」
    「ええっ!?こ、このバイクには『恩寵の神馬』という名前が……うう、伊落マリー、マシンシスターフッダー、行きます!」

    クルセイダーを追いかけるようにマシンシスターフッダーも飛び出していった。

  • 122スレ主25/05/30(金) 22:22:14

    Meister社を目指し並走する戦車とバイク。
    その先にはユスティナ信徒たちが待ち構えていた。
    それを見たマリーは戦車の前に出て、ハンドルから手を離し銃を構える。

    「しっかり捕まっててください、先生!」

    直後、マリーの銃から数発の弾丸が発砲された。
    その銃には銀の弾丸が込められており、それらはミメシスたちに命中すると小さな爆発を引き起こした。

    『うわああああああっ!?』
    『うっ、腕が!腕がああああああ!!』

    肩を撃ち抜かれたミメシスは肩ごと腕が吹っ飛んでおり、それを見た周囲のミメシス共々大慌てしている。

    「うわっ、爆発した!何で!?」
    〈……すみません、思わぬ副作用があったようです〉

    直後、銀の弾丸製造の音頭を取ったサクラコから通信が入る。

    〈銀の弾丸はミメシスに致命的なダメージを与えることができるのですが、その素材の性質上ミメシスの体内エネルギーに反応して爆発を起こすようなのです〉

    〈混乱を招いてしまい本当に申し訳ありません。戦闘には大きな影響は無いとは思いますが、どうかお気をつけて……!〉

    その顔を見ることはできないが、苦悶の表情を浮かべているのが簡単に想像できた。

  • 123スレ主25/05/30(金) 22:23:54

    しかし当のマリーはそんなこと気にもかけず、次々とミメシスを撃ち倒していく。
    辺りは特撮ヒーローのバイクシーンのように次々と爆発が起こり、マリーはそれを華麗に躱す。

    「うおおおおおっ!!マリー!マリー!私が悪かった!もうちょっと優しく運転して!!」

    そうこうしている間に一行はMeister社前へとたどり着いた。



    『ようこそMeister社へ。本日はどのようなご用件でしょうか?』

    ビルの前には模倣ハナコが待ち構えていた。
    しかしマリーはそれを無視し、ビルのガラス戸を銃弾でぶち破ってバイクごと侵入していく。

    「うおおおおおっ!!マリー!マリー!私が悪かった!もうちょっと優しく運転して!!」
    『なんて野蛮な!』

    そして戦車からもコハルとハナコが飛び降り、ハナコは先生たちに続きビルへと向かう。

    『おや、性懲りも無くまた現れましたね、オリジナルさん。これまで怠け続けたツケでも払いに来ましたか?』

    しかしハナコは模倣ハナコの言葉を無視してビルへと向かう。
    この間とは違い心の迷いの無い様子に、模倣ハナコは苛立つ。

    『何とか言ったらどうです?私が憎いのではないのですか?』
    「生憎ですが、私はあなたのようなつまらない人の相手をしている暇はありませんので」

  • 124スレ主25/05/30(金) 22:40:39

    爽やかな笑顔を浮かべ走り出すハナコに、模倣ハナコは舌打ちし銃を向ける。
    しかし直前で飛んできた銃弾に気づき、それを躱す。

    「あんたの相手は私よ。ハナコ、行きなさい!」

    発砲したのはコハルだった。

    〈コハルちゃん!コンテナを預けます!どうかご無事で!〉

    ヒフミは戦車を操作し、コンテナを切り離す。
    切り離されたそれは自走式へと切り替わり、コハルへと随伴する。
    ハナコは少し後ろ髪を引かれる思いをしていたが、それでも走り出した。




    「コハルちゃーん!!」

    しかしハナコは突如振り返り、コハルの名を呼ぶ。

    「何?」

    何か言い忘れたことでもあるのだろうか。

  • 125スレ主25/05/30(金) 22:41:04

    作戦に関する重要な情報を聞き逃さないよう、コハルと模倣ハナコは聞き耳を立てる。

    「愛しています!!」

    しかしハナコの口から飛び出したのは作戦も何も関係ない、ただの愛のこもった応援だった。
    ハナコにしては珍しく直球で、恥ずかしさからか顔を少し赤らめている。

    「はあ……知ってるわよ!!」

    コハルは呆れつつ、負けじと大きな声で返す。
    それを聞いたハナコは安心したのか、今度こそビルの中へと消えていった。

    『私を挟んでイチャイチャと……!!』
    「与えられた役割をこなすことしか頭に無いあんたには関係ないでしょ。ハナコを傷つけた報い、必ず受けさせるんだから!」

    模倣ハナコとコハルは銃を構え、互いを討ち取るべく走り出した。

  • 126スレ主25/05/31(土) 01:17:07

    小ネタ4

    寝坊からのスレ落ちが怖いので投下。(小ネタ1〜3はPart2スレ 150,152)

    メフィストは人の心を開くテクニックは習得しているが、人に対する思いやりは持っていない。


    >>68 の『あと、セイアちゃんのミメシスならまた作ってあげるよ。』も、雌雄で飼ってたカブトムシのメスが産卵前に死んだので、オスと交配させ直すために新しいメスをホームセンターで買ってくるような感覚。

  • 127二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 08:02:48

    >>126

    は? はぁ⁉ メフィストの奴バリバリの屑野郎じゃねぇか! 死んじまえ!!!

  • 128スレ主25/05/31(土) 09:36:34

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    一般プレイヤーの適性診断
    ユーザーは最初に勇者適正診断(簡単な心理テスト)を受け、適正が高いと前線へ、低いと後方支援へ割り当てられる。
    しかし、後方でも与えられたミッションをクリアすれば強力な武器を支給され、前線に配置換えをすることもできる。

    適性が低くてもめげずに正義執行力を高めよう。

  • 129二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 09:53:33

    >>126

    そりゃ友達出来ないわな。友達と書いて都合のいい存在と呼んでそう

    まぁ、テストする暇なかったから…

    対戦カードが揃いつつある。何となく予想はつくが、どう攻略するかな?コハルは


    今気づいたけど、MeisterってMicrosoftのパロディか

  • 130二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 13:52:57

    >>129

    それもあるかもだけど、

    Yostarからの

    ヨー→陽≒明→メイで

    Meisterなのかなと。

    (養命とか冥でも可)

  • 131スレ主25/05/31(土) 14:38:25

    一方、アズサとヒフミはコハルの戦いに邪魔が入らないよう周囲のミメシスを片付けていた。

    〈アズサちゃん、だいぶミメシスの数が減ってきました!私たちもコハルちゃんの援護に……〉

    その時アズサは何かを感じ取ったようで、動物のようにぴくんと反応した様子を見せた。

    「いや、どうやらそうもいかないらしい」

    アズサは大通りの先へ目線を向けている。
    ヒフミも戦車の覗き窓からその方向を見ると……。

    『お久しぶりです、補習授業部の皆さん。この間は楽しかったですね!私は途中で捕まっちゃいましたけど、あの後みんなで晩御飯でも食べに行ったんですか?』

    ミメシスたちの総大将、メフィストフェレスがこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。

    「お前のことは全部聞いている。今更ヒフミの物真似なんかしなくていい」

    意地の悪い笑みを浮かべるメフィストに、アズサは冷たく言い放つ。

    『冷たいですねぇ、せっかく今日もアズサちゃんオススメの香水つけてきたのに。あれ、いいセンスでしたよ?気に入ったので後日買いに行っちゃいました♪』

  • 132スレ主25/05/31(土) 14:38:47

    この香水というのは、メフィストとヒフミの見分けをつけるためにアズサがメフィストに振りかけたもののことだろう。
    普通の会話のように人の神経を逆撫でしてくる相手にアズサは臨戦態勢を取る。

    〈アズサちゃん、私が前に出ます。隙ができたら思い切り撃っちゃってください!〉

    アズサの横にヒフミの駆るクルセイダーが並んだ。

    『おや、そっちの戦車を操縦しているのはヒフミちゃんですか?そんなところに籠ってないで、同じヒフミ同士一緒に写真でも撮りましょうよ♪』
    〈……私の顔で悪いことをするのは楽しかったですか?〉

    ヒフミが車内のスイッチを押したことでクルセイダーが牽引していたコンテナが開き、中から多数の円盤型の機械が飛び出してきた。
    それらは下部に車輪が付いており、クルセイダーの周囲を走り回っている。

    『んん?何ですこれは?』

    すると円盤型の機械から、次々と忍者装束を纏ったペロロ『ニンペロさん』の人形が展開される。

    〈あなたのような卑怯な人に、私たちは絶対負けません!〉

    悪魔と天使、同じ顔をした者同士が相見える。

  • 133スレ主25/05/31(土) 18:46:12

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「連邦捜査部S.C.H.A.L.Eです!現在このMeister社にてコンピューターウイルスの作成、提供をしているという通報が入っています!シャーレの権限に基づきサーバールームを調べさせてもらいます!」

    先生とハナコとマリーは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う社員たちの間をすり抜け、サーバールームへ立ち入る。

    「すごいですね、シャーレは。こんなこともできたんですね……」
    「いや、さっきのは適当言っただけだよ」
    「ええ!?」

    「ですが、それで逃げるということは後ろめたいことがある証拠。どの道何かしらの罪でお縄につくことにはなるでしょうね」

    サーバールーム内を物色していると、机の上に先生のシッテムの箱と大人のカードが置かれているのが見えた。

    「あった!遅くなったね、アロナ」

    先生はシッテムの箱と起動コードを入力する。

    ……我々は望む、七つの嘆きを。
    ……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

    「……はっ!?こ、ここは!?」

    シッテムの箱が起動し、青いセーラー服の見慣れた少女が顔を見せる。

    「遅くなったね。迎えにきたよ、アロナ」
    「お待たせしました、先輩。先輩が私を逃がしてくれたおかげで、こうして助けに来ることができました」

  • 134スレ主25/05/31(土) 18:47:52

    「先生、プラナちゃん!来てくれたんですね!ありがとうございます!」

    「先生、ブルアカのシステムを管理しているメインのサーバーを見つけました!」

    先生とプラナはアロナとの再会を喜ぶも、感傷に浸っている時間は無い。
    ハナコの案内に従いサーバーの前に先生とマリーは集まる。

    「よし、じゃあサーバー内への侵入はアロナとプラナに任せるよ」
    「わかりました!」
    「了解です」

    「プラグイン!アロナちゃん.exe、プラナちゃんexe、トランスミッション!」

    先生の声を合図にアロナとプラナはブルアカのメインサーバーへ侵入した。

    天才と大人による無慈悲な蹂躙が、今始まる。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 135スレ主25/05/31(土) 20:09:22

    ブルアカのナビゲーター、コロナはサーバー内の電子空間でプレイヤーたちの様子を眺めていた。

    『うんうん、先生たちも頑張っていますね。このままブルアカがセルラン一位を取り続ければ、私へのご褒美ももっと増えたり……えへへ♡』

    ぱさっ!

    『ん?』

    明るい未来の妄想に耽るコロナは、自分の後ろで何かが落ちる音を聞いた。
    後ろを振り返ると、そこには青と紫の封筒が一枚ずつ落ちていた。

    「何ですこれ?カラフルな封筒なんて、請求書でしょうか?電気とガスの料金はカード引き落としにしてるはずですが……」

    コロナは何も疑うことなく封筒を開く。
    すると封筒の中から眩い光が溢れ出し辺り一面を照らす。

    『うわああああっ!!何ですか一体!?』

    そして光が収まり、コロナは恐る恐る目を開ける。
    そこには……。



    「うわあ、本当にプラナちゃんそっくりですね。でも同じ顔なのにとても腹立たしい顔立ちに見えるのは何ででしょう?」

    「同意。人の生き方とはその人の顔に出るもの。ではアロナ先輩、散々悪さをしてくれたこの紛い者に本物の恐ろしさを教えてあげましょうか」

    コロナの目の前にはこの世のものとは思えない恐ろしい顔をしたアロナとプラナが、まるで金剛力士像のような威圧感を放って立っていた。

    『あっ、あわわわわわわ……!』

  • 136スレ主25/05/31(土) 20:10:41

    「このっ!私の!顔で!!こんな悪さをして!!どうして!くれるんです!?鉄拳!制裁!!」
    『ああああああああああああ!!!!』

    「よくも!!先生を!プラナちゃんを!危険に!晒しましたね!!リンチなんて!!卑怯な!真似をして!!」
    『ひぎいいいいいいいいいい!!!!』

    通信機越しにアロナとプラナがお仕置きをしている声が聞こえてくる。
    どうやら侵入には成功したようだ。

    「よし、上手く行ってるみたい。ハナコ、ウイルスプログラムの準備はいい?」

    ハナコは既にハッキングの準備をしていたようで、サーバーの端子にUSBメモリを差し込んでいた。

    「あら、ウイルスだなんて人聞きの悪い!これは無垢な子どもが食べるとたちまち賢く、健康に育つプログラムですなんですよ?」



    「名付けて、『禁断の果実mod』♡」

    地獄はまだまだ始まったばかりだ。

  • 137スレ主25/05/31(土) 22:31:02

    コロナが逃げ回っていると、その先に段ボール箱が一つ落ちているのを見つけた。

    『あ、あれ、私通販で何か注文しましたっけ!?ええと、なになに……山海経御用達オーガニックりんご?』

    "はい、それは安全です"
    "健康的"
    "実際安い!実際安い!"
    "今売れています"
    "お得な今!"

    箱には所狭しとその商品の良い点をアピールする文言が書かれている。

    『ええっ!?これもしかしてめちゃくちゃ良いりんごじゃないですか!?なんでしょう、メフィスト様がサポートアイテムでもくれたんですかね?』

    コロナは都合の良いように解釈し、テープをビリビリと剥がし箱を開ける。
    そこには濃い赤色をしたりんごがぎっしりと詰まっていた。

    『わあ、美味しそうですね!いっただっきまーす♡あむっ、もぐもぐ、ごくん…………うわあっ!!!!』

    しかしりんごを一口齧った瞬間、突如コロナを中心として小さな爆発が起こった。

    『げほっげほっ!ううう……何なんですかこれ……ってうわぁぁぁぁ!?!?!?』

    爆煙が晴れたところでコロナが己の姿を見たところ、なんとオレンジ色のセーラー服から一転、金色のマイクロビキニへと服装を変えられてしまっていた。

  • 138スレ主25/05/31(土) 23:10:24

    『な、何ですかこの破廉恥な格好は!?ってきゃあああ!!体が勝手に!!』

    本人の意思とは関係なく蹲踞の姿勢を取り、両手でピースをするコロナ。
    その様子をシッテムの箱を通して見ていた先生とハナコは息ができなくなるほど大笑いしていた。

    「なっ、なななな、何だこのエッチな格好はァ〜!?!?!?」
    「まあいけません!年頃の女の子がこんなはしたない格好をするだなんて!おまけに下品なポーズまでして!!」
    「何がコロナだ!こんなのもうエロナだよエロナ!今すぐ改名しろ!」

    その様子を見ていたマリーはまるで悍ましいものでも見るかのようにハナコと先生を見ていた。

    「ハ、ハナコさん!これは一体何なのですか!?」
    「これこそ私とプラナちゃんで共同開発した、ブルアカを止める鍵『禁断の果実mod』です♡」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    そのころ、街中ではユスティナ信徒たちの服装が次々と露出度の高い水着姿へと強制的に変えられていた。

    『うわぁ!?何だこれは!?』
    『何もしてないのに衣装が変わった!?不具合かこれは!?』
    『うおおおおおお!!ありがとう運営!俺ぁあんたらに着いていくぜ!!』

    プレイヤーたちも突然の出来事に動揺を隠せない様子である。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 139スレ主25/06/01(日) 06:42:46

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    藍輝石は武器のガチャ以外にもユスティナ信徒のコスチューム購入にも使用可能だ。

    ラインナップはトリニティ、ゲヘナ、ミレニアム、アビドス、百鬼夜行、山海経、ヴァルキューレなど各学園の制服を展開中。

  • 140二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 10:18:30

    もう親玉が出撃するのか。てっきり全員で袋叩きにするかと思ってたから意外
    大人のカードとシッテムの箱も思ってた以上にあっさり回収できたな…


    あの、エロmodで妨害するのはまあいいんだけど、やる気上がってるヤツいるんですがそれは…

  • 141二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 12:51:44

    >>140

    ここから、今まで契約していたメネシスの力を全て取り込んで、ヒロアカのAFOみたいに複数能力を華麗に使いこなして、悪役らしく大暴れする可能性もあるかもしれない?

  • 142スレ主25/06/01(日) 14:42:21

    「見てくれハナコ!アプリのストアでブルアカが入手できなくなってる!公序良俗に反するゲームへの配信停止措置の早さを逆手に取るなんて、考えたね!」

    次々と破廉恥な格好に変えられていくミメシスたちを見て、マリーは敵ながら同情しそうになっていた。

    「な、なんて恐ろしい……。それもアダムとイブの逸話になぞらえたネーミングなんて、神がお怒りになりそうです……」

    「あら、その場合私は果実を食べるよう唆した蛇になりますかね。ですが最終的に食べる決断をしたのは彼女自身ですよ?」

    「さて、プログラムが広がるまでの間に一つクイズでもしましょうか。イブは禁じられているにも関わらず果実を口にし、それをアダムへと分け与えました。それは何故?」
    「アダムとエッチをするためだね」
    「正解です♡」
    「ふ、二人とも真面目にやってください!」

    遠慮の無くなった先生とハナコはこうも恐ろしいのか。
    マリーのキャパは既に限界だった。

    「にしても、手段はアレだけどハナコもよくこんな作戦思いついたね」
    「私だけの力ではありません。発案は確かに私ですが、衣装デザインの監修はプラナちゃんなんですよ?」
    「ハナコさんからこの提案を受けた時、丁度先生のプライベート端末にいましたので端末内の隠しファイルを全て洗い出し、参考になりそうな資料を入手しておきました」

    「このデザインはそれらの大人向けの本から着想を得ましたので、これは先生も含めた三人の成果です」

  • 143スレ主25/06/01(日) 14:43:17

    「は?え?ちょっと待って話変わってきたんだけど。じゃあ何、数万人のプレイヤーたちに私の趣味モロバレしてんの?」

    「報告。見てくださいハナコさん。ミメシスの衣装変更バグが既にモモッターのトレンド入りを果たしています。ユスティナ信徒限定ですが、既に絶大な効果が発揮されているようです」
    「おお♡」
    「いや『おお♡』ではないんだわ」

    「先生!どうにか私たちの偽物をやっつけることはできたのですが、どうやらこのゲームはサーバーが動いてなくても端末ごとでミメシスを動かせるみたいです!」

    「追加。各プレイヤーのクレジットカードのゲームとの連携も解除させました。これにより、藍輝石の追加購入はこれ以上起こりません」

    「なるほど、無限復活はもうできないってわけね!」

    アロナとプラナからシステムの解析結果聞く。
    既に出現済みのミメシスについては藍輝石が尽きるまで倒す必要があるが、これ以上増えることは防ぐことができた。

    「先生、カタコンベのルート情報の取得に成功しました!アリウスの皆さんへ共有します!」

    ついでのようにハナコがカタコンベの情報を得ている。
    これでこの会社にもう用は無い。

    「よし、じゃあヒフミたちの援護に行こう!」

    先生たちはビルの出口を目指して走り出した。

  • 144スレ主25/06/01(日) 18:52:17

    その頃、ビルの外ではコハルと模倣ハナコが激戦を繰り広げていた。
    コハルは少しずつ後退しつつ、こちらへ迫って来る模倣ハナコに回り込まれないよう彼女の左右へ発砲して移動範囲を絞っている。

    『うふふふ♡どこを狙っているんですか?躱すまでもなく当たっていませんよ?』
    「いいから、正々堂々真正面から突っ込んで来なさい!」

    余裕を出しつつも、模倣ハナコはコハルの用意した策が何なのかを探っていた。

    (どうやらコハルちゃんには何か策があるようですね。せっかくですし、あえて乗ってあげましょうか♪)

    瞬間、模倣ハナコはコハルへ向かって真っ直ぐ突っ込んでいく。

    「来たわね!」

    対するコハルも何か仕掛けるようで、向かって来る模倣ハナコへ手榴弾を投げつけた。
    弾丸さえも難なく見切れる視力を持つ模倣ハナコは飛び上がりこれを躱す。

    「来るんじゃないわよ!」
    『おっと!』

    飛び上がった模倣ハナコへコハルはさらに銃撃を加えるが、これも宙返りで躱されてしまった。
    そして模倣ハナコが着地する直前、コハルは着地地点へ向かって今度は発煙弾を投げ込む。

  • 145スレ主25/06/01(日) 20:06:47

    『もう、来いと言ったり来るなと言ったり、どちらなんです?まあ、これが狙いだったことはわかりましたが……』

    模倣ハナコの周囲は煙で覆われている。
    例え優れた視力を持っていても、視界が完全に塞がれているようでは意味がない。

    (ですが、コハルちゃん側からこちらを見つけることも同じく不可能。つまりこれは次の作戦のための時間稼ぎ)

    しかし模倣ハナコにはそれを打ち破れる自信があった。
    メフィストとの取引で手に入れた絶対的な視力と身体能力、そして生まれ持った頭脳。
    どれも持ち合わせないコハルに負ける道理など無い、そう思っていた。
    そして煙が晴れ、互いの姿が見えるようになり……。



    「これで勝負あり、もうあんたの負けよ」

    周囲を見回すと、模倣ハナコを取り囲むように数十台のドローンが飛び回っていた。
    それら全ての銃口が模倣ハナコを狙っている。

    それを見た模倣ハナコはがっかりしたのか露骨に大きなため息をついた。

    『はあ、コハルちゃん。どんな策があるのかと楽しみにしていたのですが、私がこの程度の数の銃弾を見切れないとでも?見当外れもいいところです』

    『コハルちゃん、やっぱり私と同じ顔をしたあの馬鹿女とつるんでいるから、肝心なところで詰め切れないんですよ?今なら降参を認めましょう。この物騒なドローンたちを引っ込めて、私とお友達になりませんか?』

  • 146スレ主25/06/01(日) 20:30:28

    そんな模倣ハナコの煽りを無視し、コハルは手元のスイッチを押す。
    すると飛んでいるドローンたちの下部に小さなディスプレイが次々と展開され、そこから何かの画像が映し出された。

    まだ何か仕掛ける気なのか。
    呆れながらも画面を見ると……。



    "私は先生失格かもしれない。それでもハナコ、君を生徒ではなく、一人の女性として愛してるんだ!だから今夜は、一緒にいて欲しい"

    "私、ハナコちゃんのことが好きなんです!ですから、今夜は帰しません!"

    "ハナコが私をそういう目で見ていないことはわかっている。だとしても、それは君への愛を諦める理由にはならない"

    "エッチなのはダメ、死刑よ!でもね、あんたの想いを受け入れないのはそれ以上の重罪。ハナコ、大好きよ"



    『きゃああああああああああああ!?!?!?』

    画面に映っていたのは何と、成人向け漫画のワンシーンだったのだ。
    それもドローン一台一台すべて内容が異なっている。
    思わず下を向く模倣ハナコ。

    (見てしまった!たった一瞬、けどこの目のせいで細部まで細かく……!ああ、頭に焼き付いて離れない!!)

  • 147スレ主25/06/01(日) 20:33:19

    模倣ハナコは銃弾を見切れるほどの視力を持っている。
    つまり、常に動き回っているドローンに揺られる小さな画面に映し出された漫画の一コマを、たった一瞬視界に入れただけでもその細部まで把握することができてしまうのだ。

    卑猥な台詞、裸体で絡み合う男女または女女、惚けた表情。
    全てが模倣ハナコの中に『余計な情報』として流れ込む。
    そして一台のドローンから銃弾が発射され、模倣ハナコに命中する。

    『ああっ!?』

    銃を弾き飛ばされ、地面に倒れ込む模倣ハナコ。
    反撃したいのに、顔を上げることができない。
    ソレを見てしまえば脳が汚れてしまうからだ。

    「やっぱり、私の見立て通り」

    下を向く模倣ハナコに向かってコハルは語りかける。

    「あんた、エッチなことに耐性が無いんでしょ?初めて会った時も、ハナコの本から目を逸らして速攻銃でボロボロにしてたもんね」
    『なっ!?』

    模倣ハナコは自身の特性を逆手に取られたことに気付く。
    エッチなコンテンツなど恥ずかしくて直視することはできない。
    しかしエッチなドローンの動きを見なければ飛んでくる銃弾を躱すことができない。

    エッチなことに耐性が無い、最強の眼を持つ模倣ハナコに全方位からエッチな本を無理やり見せつけ、動きを封じつつ攻撃を加える攻防一体の最強の戦法。
    まさにオールレンジ・エッチ攻撃。

  • 148スレ主25/06/01(日) 21:18:46

    「ちなみに今映ってるエッチな画像、全部ハナコが選んだものだから。同じ存在である以上、あんたにも思いっきり刺さるはずよ」

    そう、これらは全てコハルに依頼されたハナコのスペシャルセレクト・エッチシーンなのである。
    トリニティや友人のためとはいえ、自身の性癖をこれでもかと暴露することになり、ハナコ本人は顔から火が出るような思いをしたことは言うまでもない。

    『この、卑怯者め……!』

    模倣ハナコは相手をなじるものの、挽回策は思いつかないのが現状だった。
    蛇蝎の如く嫌っていたはずなのにそのエッチな本に気を逸らされ、下を向いている今も内心気になってうずうずしている。
    模倣ハナコの内に敗北の二文字がちらつき始める。

    『こ、こんなものに……!』
    「こんな本ばかり見てないで自分の役割を果たしていれば、だっけ?よくも私の大切な友達を追い詰めてくれたわね」

    「寄り道することを馬鹿にしたあんたは、その寄り道によって得られたものに負けるのよ」

    「もし今すぐハナコに謝って、私たちに情報を全て提供するなら命までは取らないけど、どうする?」

    ほとんど一方的に負かされ何もできない事実に模倣ハナコは血管が切れそうになるほどの苛立ちを覚えるが、現状打つ手はない。

    『…………取り引きをしましょう』

  • 149スレ主25/06/01(日) 21:20:01

    サンクトゥムタワーよりも高いプライドを断腸の思いで切り捨て、取り引きという名の命乞いに出る模倣ハナコ。

    『私とお友達になりましょう、コハルちゃん!私を解放していただければ、アリーティア総合学園に特別待遇で加われるようメフィスト様に取り計らいますので!』
    「お断りよ。ていうかアリーティアはもう廃校になったじゃない」

    『では私からの"お気持ち"というのはいかがでしょう!?ブルアカの課金システムによって、我々には潤沢な資金があります!それをコハルちゃんに……』
    「人の話聞いてた?欲しいのはお金じゃなくて謝罪なんだけど」

    模倣ハナコはなおも諦めない。

    『で、では私の身体をコハルちゃんに差し上げます!!エッチなこと、お好きでしょう?服を脱がせてもいいですし、お……おっぱいだって触らせてあげます!!』

    ドローンを見ないように目を瞑ったまま顔を上げ、上着とスカートをたくし上げて下着を見せつける。
    かつて下に見ていた者と同じレベルにまで落ちているという意識が、模倣ハナコに怒りと嫌悪感によるめまいを起こさせる。

    実際は模倣ハナコの方が遥かに品の無いことをしているのだが、彼女がそれに気付くことはない。

    『ほ、ほらどうです!?こんなことあの女はしてくれないでしょう!?ですからコハルちゃん……』



    『私とXXXXXしましょう!!』

  • 150スレ主25/06/01(日) 22:26:44

    友を侮辱し、自分の非を認めずなおも悪あがきを続ける悪童に、ついにコハルの堪忍袋の緒が切れた。

    「いい加減にしなさいよ、あんた……!!」

    模倣ハナコはなぜ自分が謝らなくてはいけないのか最後までわからなかったが、たった今コハルの地雷を踏み抜いたことだけははっきりと理解できた。

    「エッチなのはダメ!!死刑!!!!」

    まるで閻魔大王のような恐ろしい形相をしたコハル裁判長が、罪人に判決を言い渡す。

    『きゃああああああああああああ!?!?!?』

    直後、模倣ハナコを取り囲むドローンたちから一斉に弾丸が発射され、ついに彼女は意識を手放した。

  • 151スレ主25/06/02(月) 07:20:47

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    現在、不具合によりブルーアークカタストロフのアプリダウンロードおよび藍輝石の購入ができなくなっています。
    ユーザーの皆様にはご迷惑をお掛けしていますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

  • 152二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 09:17:59

    性癖の開示(強制)……本気だね
    いや、模倣ハナコを倒すのにエ駄死グッズ使うのは予想できてたけど、このやり方は予想外
    エ駄死版座殺博徒は草なんよ。しかもハナコに羞恥プレイもさせている…!
    「アイツ倒すのに必要だから、アンタの性癖教えなさい!」的な事言ったの?
    しかもナマモノだからメルリー先生が関与していると思われる

  • 153スレ主25/06/02(月) 15:49:05

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    先生とハナコがアロナ、プラナの協力のもとブルアカのシステムを掌握した頃、アリウススクワッドの三人とハナエはカタコンベ入口にて、洞窟内のルート情報が共有されるのを待っていた。

    「……来た!みんな出発するよ!先頭は私、最後尾はヒヨリ、アツコとハナエは中央。この陣形で一気に駆け抜ける!」

    ミサキたちの端末にカタコンベの情報が送られてきたことで、ようやくサオリ救出に向けて動き出すこととなった。

    「姫ちゃん、ハナエちゃん、後ろは任せてくださいね。スピードを落とさないように、まっすぐ前を見て走り抜けてください!」
    「わかりました!ミサキさん、アツコさん、ヒヨリさん、よろしくお願いします!」

    普段は柔和な笑みを浮かべてばかりのヒヨリが今回はとても頼もしく見える。
    状況は切迫しているが、アツコの中に焦りは無かった。
    あるのはサオリを必ず助け出すという強い決意のみ。

    「それじゃあ行くよ。アリウススクワッド、作戦開始!!」

    ミサキの合図とともに、四人は走り出した。

  • 154スレ主25/06/02(月) 18:33:27

    「今のところ順調だね」

    最短ルートを駆け抜けつつ、途中で遭遇したミメシスは銀の弾丸で蹴散らしているので時間的なロスは無い。

    「ハナエ、荷物重くない?もし辛かったら交代するからね」
    「大丈夫です!いつも持ち歩いている重さと変わりませんから……っ!?」

    ハナエは前方に何かを見つけたようだった。
    他の三人は既に戦闘体制に入っている。
    それは背の高い、ドレスを着た女性のシルエットで……。



    『お久しぶりですね、アツコ、ミサキ、ヒヨリ。私がいない間に随分と反抗的な顔つきになりましたね?』

    なんと待ち構えていたのはアリウススクワッドにとって最も因縁深い大人、ベアトリーチェのミメシスだったのだ。

    模倣ベアトリーチェはミサキたちの行手を阻むように両手を広げ、そのまま怪物のような姿に変身する。
    枯れ枝のように腕や羽は伸び、花のように開いた頭にはおびただしい数の目玉が付いていた。

    『子どもは子どもらしく、大人に搾取されていればいいのです!邪魔はさせません。私の理想の世界を造るまで……』

    模倣ベアトリーチェは威嚇するようにけたたましい叫び声を放つ。

    『いきますよ、アリウススクワッド!!』

  • 155スレ主25/06/02(月) 19:07:45

    「うるさいっ!!」

    しかしミサキは一瞬の迷いも無く、持っていたロケットランチャーを模倣ベアトリーチェへ撃ち込んだ。

    『アリウススクワッドー』

    発射されたロケット弾は銀の弾丸と同じ素材でできたミメシス特効ランチャーであり、模倣ベアトリーチェは何一つ役目を果たさないまま跡形もなく爆発四散した。

    「えぇえーっ!?」

    あまりの躊躇いの無さにハナエは驚いている。

    「あの、よかったんですか?何やら因縁があるようなご様子でしたが……」
    「えへへ。向こうは何か言いたげでしたが、私たちは何の用もありませんからね」
    「ふふ、今日は母の日だからね。きっとあの世から戻って来てたんだと思う」
    「は、はぁ、そういうものですか……」

    アリウスの三人は納得している様子だったので、ハナエはそれ以上追及しなかった。

    「アツコ、適当言わないで!それを言うならお盆でしょ!?ていうか今日、別に母の日でもお盆でもないし!」

    そうこうしているうちに、四人は最深部の祭壇まで辿り着いた。

  • 156スレ主25/06/02(月) 20:19:17

    「サッちゃん……!」

    祭壇中央のオブジェにはサオリが磔にされていた。
    彼女は全身傷だらけで、ところどころ血が出ている。

    「ひどい……。待っててサオリ姉さん、すぐ助けるから!」



    「……来てくれたんだな、みんな」

    すると、先ほどまでぴくりとも動かなかった彼女は僅かな笑みを浮かべ、掠れているものの声まで発した。
    仲間たちの声を聞き、アリウススクワッドのリーダー錠前サオリが目を覚ましたのだ。

    「待っていたぞ、この時を……!!」

    サオリは力強く拳を握り締め、仲間たちの介添も無く次々と自身に絡みつく拘束を引きちぎっていく。
    そのあまりの強靭ぶりにヒヨリは若干引いていた。

    「ええ……。サオリ姉さん、全然元気じゃないですか……」

    ついには完全に拘束を解いて祭壇から飛び降り、ミサキたちの方へ自力で歩み寄って来た。
    そしてミメシスたちの電池として利用されていたサオリが解放されたことによって、外のミメシスたちの力は大幅に落ちることとなる。

    「心配をかけたな、みんな。私も戦おう。敵はどこにいる?」

    力強く見開かれた彼女の両目は青く輝いている。

    「いや、もうみんなやっつけたよ」
    「……え?」

  • 157スレ主25/06/02(月) 21:24:34

    ところが、ミサキの報告にサオリは素っ頓狂な声をあげる。

    「だからそんな無理して歩かなくて大丈夫。顔色悪いし、血足りてないでしょ?じゃあハナエ、お願いね」
    「既に準備はできています!サオリさん、ここに座ってください!」

    「えっ……え?」
    「はい、じゃあアルコール消毒していきますねー。以前アルコールでお肌が赤くなったり痒くなったりしたことはありませんか?」
    「えっ?あ、大丈夫……です」
    「はい、ちょっとチクッとしますね」

    てきぱきと治療を進めていくハナエ。
    状況を理解できておらず思わず敬語が出てしまうサオリ。
    何が何だかわからない。

    「ミサキ、これは一体……?」
    「姉さんがミメシスたちに連れて行かれた後、私たちは先生や聖園ミカの協力もあって無事に逃げ切ることができた」

    「そしてボロボロだった私たち、特にアツコを、同じ避難所のトリニティの人たちが助けてくれた」

    「信じられないでしょ?トリニティと協力するなんて。でも、そのお陰で姉さんを失わずに済んだ」

    ミサキの説明にハナエが付け加える。

    「皆さんだってヒフミさんたちを助けてくれましたから。これはお互い様ですよ?」

  • 158スレ主25/06/02(月) 21:26:07

    「それからサオリさん。今輸血しているこの血液は、ミサキさんが一生懸命同じ血液型の人を探し回って見つけてくれたものなんです」

    それを聞いたサオリはとても驚いているようだった。
    仲間のとはいえ、かつては命を投げ出そうとしていたミサキが人を生かすために動くなんて。

    ミサキの方を見ると、彼女は照れくさそうにそっぽを向いている。

    「あ、あのさ、今姉さんに輸血されてるその血液。それはトリニティの人たちが、私たちがアリウスだと知った上で提供してくれたものだから」

    「私が言っても説得力無いかもだけど、その……大事にしてほしい」

    少し前までは目が離せなかったミサキにヒヨリ、アツコが、いつの間にか頼もしく成長しついには新しい仲間とともに自分を助け出してくれた。
    その事実にサオリの胸が熱くなる。

    「ああ、肝に銘じておく」
    「あの〜、私もナギサさんと相談して作戦立案するの頑張ったんですけど……?」

    ミサキばかり褒めていたせいでヒヨリが少し拗ねている。

    「ヒヨリが……?珍しいな」
    「こんな時にやることじゃないですけど、私とミサキさん、お互い不得意な方をやってみようって」

  • 159スレ主25/06/02(月) 23:18:09

    ヒヨリに同調するようにミサキが続ける。

    「普段関わらないような人と話して、そうしたらもっと、人のことがわかるかもって。街で暴れてたゲームプレイヤー達を見て、自分たちも以前はあんなだったのかなって思って、それがきっかけで」

    「不謹慎だけど、こんな機会でもないとトリニティのことを知ろうなんて思えなかっただろうから。マダムに教え込まれたことだけで全てを知った気になるんじゃなくて、自分の目で見て確かめようって」

    「……立派になったな。ミサキにヒヨリ、そしてハナエも、本当にありがとう」

    そして一通り応急処置が終わった頃、奥からアツコが荷物を抱えて歩いて来た。

    「はい、これ。没収されてたサッちゃんのコートと武器。奥にまとめて置かれてた」
    「……止めないのか?」

    サオリは少し休んだ後、すぐに戦場へ向かうつもりだった。
    特殊部隊の勘か、まだ戦いは終わっておらず、自分にも果たすべき役割があることを直感的に理解していた。
    そしてアツコにはそれを止められると思っていた。

    「どうせ何を言ってもサッちゃんは戦いに行くでしょ?それとこれ、通信機とミメシス特効弾」
    「ああ、ありがたく使わせてもらう」

    アツコはまるで母親のようにサオリの身支度を手伝う。

    「それと、はい帽子。被せてあげる」
    「ああ」

    サオリは体を少し屈め、アツコはサオリの髪を整え帽子を被せる。
    そして、アツコはそのままサオリを優しく抱きしめた。

  • 160スレ主25/06/02(月) 23:19:11

    「いってらっしゃい。無理はしないで、必ず無事に帰ってきて」
    「約束する。ありがとう、アツコ」

    アツコの想いに応えるように、サオリも優しく抱きしめ返した。

    「じゃあ、行ってくる」

    戦闘準備の整ったサオリは他のメンバーに背を向け歩き出す。

    「私からもお願いです!治療はしましたが、あまり大きなダメージを受けると怪我が悪化する可能性があります。どうかご無理はなさらないでください!」

    ハナエは最後に念押しするように忠告する。

    「勿論だ。だが何故だろうな、今の私はこれまでに無いほど調子が良い。ミサキ、みんなを頼んだ!」
    「はあ……はいはい、気をつけてね」

    こうして四人に見守られながら、サオリは戦場へと駆け出していった。

    「さて、と。そろそろ私もロイヤっちゃおうかな」
    「は?何て?」

    ミサキがアツコの方を見ると、彼女はサオリが先ほどまで拘束されていた祭壇のオブジェに手を添え、何やら精神統一のようなことをしていた。

    「ちょっと貸して、ね」

    ロイヤルブラッド秤アツコのささやかな反撃が始まる。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 161二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 06:41:33

    念のため保守

  • 162スレ主25/06/03(火) 08:10:32

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    サポートキャラクター:ベアトリーチェ(ミメシス)
    カタコンベ最奥部にはミメシスのエネルギー源かつ強化パーツとして錠前サオリが幽閉されており、その警備兵としてベアトリーチェのミメシスが配置されている。

    彼女は近くを通りかかった人間へ対話を試みたり威嚇をしてくるが、それらはオリジナルのベアトリーチェの行動をなぞっているだけであり、特に意味は無いので耳を貸すだけ時間の無駄である。

    この機能は対アリウススクワッド戦で敵の動きを封じるための機能なので、有効活用しよう。

  • 163二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 10:16:17

    模倣ベアおばまでいたのかと思ったら、即爆発四散した件について
    もっとこう、激戦を予想してたけど……保守コーナー見る限り完全に精神デバフに振り切ったカカシじゃんね
    しかも全然効いてない…!完全に乗り越えたんですねぇ…
    捕まってるサオリも全然元気だし…これ自力で脱出ワンチャンあった…?
    ブルアカプレイヤーを反面教師にしたのか…負傷したアツコの為以外の理由もあったんだ

    残る模倣ミメシスはナギサ、ミカ、ツルギ、ミネ、サクラコの首脳陣か
    ・箱とカードは取り戻した
    ・ブルアカ運営、動力元のサオリも抑えた
    ・儀式流用してアツコがなんか仕掛けようとしてる
    戦局が大きく動きそうだ

  • 164スレ主25/06/03(火) 15:02:45

    サオリが解放されるとほぼ同時刻、トリニティ自治区では一般生徒がミメシスの侵攻を食い止めるべく戦っていた。

    『なんだこいつら、ただのお嬢様じゃないのか!?』
    『思ってたより一人一人が強い……!それに、こっちの力が落ちてるような感じがする!』
    『応援来てくれ!このチビ強すぎる!アイスみてぇな髪色しやがって!』

    「スーパースター大勝利!!さあ、次はどなたが相手ですか!?」

    「レイサさんに続きましょう!」
    「このままやられっぱなしで、黙ってなどいられません!」
    「私たちだって戦えます!ドタマぶち込んでやりますわ!」

    トリニティの生徒は一歩も引かずにミメシスたちを追い詰めている。

    そしてその戦う生徒たちの中には放課後スイーツ部の四人も含まれていた。
    一応現在は学園の代表なので、護衛としてスズミとレイサがついている。

    「どうか無理はなさらないでくださいね?今のあなたたちは学園の代表なのですから。レイサさん……は前衛で、私はお側でお守りします」

    「そうは言っても、ねえ?ここまでされてるのに、大人しく座っていられるわけないじゃない」
    「同感だね。何より、年頃の乙女から青春を奪った罪は重いよ」

  • 165スレ主25/06/03(火) 18:35:01

    ヨシミだけでなく、珍しくナツまでもが怒っている。

    そんな中しばらく膠着状態が続いていたが、そこでミメシスたちに異変が起き始めた。

    〈ちょっと貸して、ね〉
    『な、なんだ!?誰の声だ!?』

    どこからともなく声が聞こえてきたかと思うと、その瞬間一体のミメシスがプレイヤーの操作を受け付けなくなった。

    『うわっ!?おい、何をする!』
    『違う、俺の意思じゃない!体が勝手に!』

    するとそのミメシスは突然周囲の仲間を攻撃し始めた。
    プレイヤーが気付くことは不可能だが、これはロイヤルブラッドの力でミメシスの制御権を乗っ取ったアツコの策略である。
    遠く離れたカタコンベの祭壇を基地局として、アツコが次々とミメシスの制御を乗っ取り、仲間を攻撃させていたのだ。

    『やめろ!どうした急に!』
    『やりやがったな、こいつ!』

    ブルアカのルール上、ミメシス同士であるためダメージこそ与えられないものの、妨害や挑発と受け取られる可能性がある。
    アツコが乗っ取ったミメシスは全体のほんの一割、時間にして数秒だが、プレイヤーたちに不信感を抱かせるには十分だった。

  • 166スレ主25/06/03(火) 18:36:10

    寄せ集めの軍隊でしかないミメシスたちに仲間意識など無く、チームはあっという間に崩壊していく。

    「何これ、仲間割れ?」
    「今がチャンスです!一気に畳み掛けましょう!」

    トリニティは徐々にミメシスを減らしていくことに成功する。
    しかし……。

    『邪魔するな!くそっ、こうなったら……!!その力、俺によこせ!』

    一人のユスティナ信徒がガスマスクを外し、なんと争っていたミメシスのヘイローに齧り付いたのだ。
    まるで獣のように頭を押さえつけて鋭い牙で噛みついており、ヘイローはミシミシと音を立ててひび割れていく。

    『えっ!?あ、何……やめ……』

    そしてついにヘイローが砕け、その瞬間襲われていたミメシスは地面に倒れ、動かなくなった。

    『え……お前、何やってんの?』

    突然の出来事に硬直するミメシスたち。
    ヘイローを取り込んだミメシスは少し体が大きくなり、銀の弾丸によって失った腕も再生している。
    武器は奪ったものを含めて二丁マシンガンを持っていた。

    『……』

    そのミメシスは無言のまま、次々と周囲のミメシスを押し倒し、ヘイローを捕食していく。

  • 167スレ主25/06/03(火) 18:37:46

    それはあまりに凄惨な光景で、トリニティ生たちも恐怖で手出しができなくなっていた。
    同時に、セイアを通じて模倣セイアから共有された情報を思い出していた。

    『まず奴の生み出したミメシスと奴自身は、他のミメシスのヘイローを食らうことでその記憶を引き継ぎ、身体能力を向上させ、捕食されたミメシスが私の予知能力のような特別な力を持っていた場合、それを奪うことができる』

    「ひどい……仲間を襲って無理やり力を奪うなんて……!」

    そして捕食されたミメシスの残骸は灰のようにボロボロと崩れ、後には何も残らない。
    そして捕食された時点でそのプレイヤーはゲームオーバーとなる。

    『もうなり振り構っていられない。今がその時なんだ……!』

    捕食による能力の継承システム。
    下手に公開すれば多くの兵を失いかねないため、この仕様はメフィストによって意図的に秘匿されていた。

  • 168スレ主25/06/03(火) 18:38:26

    万が一の事態に備え、アカウント登録時の心理テストで特に攻撃性が強いと判断された一部のユーザーにのみ教えられている隠し玉で、それが今表に出る形となった。

    『このままだとあいつに全員食われる!私だって……!』
    『やめろ!そういうお前が食われろよ!』

    ミメシスたちは次々と仲間を減らし合い、最終的に数は大幅に減ることとなった。
    しかし残ったミメシスたちはどれも凄まじい力を持っており、そしてついに……。

    『GYAAAAAAAAAAAA!!』

    力を大量に取り込んだ者が、悍ましい叫び声と共に一般的なユスティナ信徒からバルバラへと姿を変えた。

    「ミメシスを取り込んで進化した……!?」

    数は多くても一体一体が弱い分、ユスティナ信徒のほうがまだ相手をしやすかったかもしれない。
    トリニティ生たちはこれ以上強くなる前に敵を倒すべく、再び戦闘態勢に入った。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 169スレ主25/06/03(火) 21:17:23

    その頃、トリニティ総合学園西側ではシスターフッドが模倣サクラコ、ヒエロニムスたちと激戦を繰り広げていた。

    数はミメシス側の方が多いものの、大人のカードによる無限復活を封じられたこととサオリが解放されたことでミメシスたちの力が弱まっていたことにより、シスターフッド側が有利になりつつあった。

    そして、ミメシス側が押されている原因はこれだけではなく……。

    『……なあ、俺たちのやってることって本当に正しいのか?』
    『どうしたんだよ急に。トリニティは色々不正してたって聞いたじゃん!それより撃たないとやられるぞ!?』

    一人のミメシスは銃も構えずその場に立ち尽くし、今にも消え入りそうな声で仲間に尋ねる。
    学園を取り戻すために戦うトリニティ生、そのトリニティの不正を正すべく戦うミメシス、どちらも鬼気迫る表情で互いに傷つけあっていた。

    何もかもが悲惨だった。
    ミメシスたちは銀の弾丸の影響で腕や足、頭を失っているのに亡者のように立ち上がり、シスターフッドも頬や腕から血を流しながら歯を食いしばって戦っている。
    そして辺りには炎や黒煙が上がり、まるで地獄のような光景がそこには広がっていた。

  • 170スレ主25/06/03(火) 21:18:32

    『そうだけど……この子たちって、本当に悪い奴らなのか!?俺たちと違って生身の体で戦って、銃弾が当たれば血だって出る!それなのに学園のために、逃げずに必死に戦ってる』

    『俺にはもう……これ以上寄ってたかって子どもをいじめるなんてことはできない……』
    『……』

    互いにガスマスクをしているのでその表情までは読み取れない。
    しかし、その心情を察するのは難しいことではなかった。
    会話していた相手も内心その主張に同意しており、銃を握る手がひどく重く感じられるようになっていた。
    その時。

    「弾幕が薄いところがあります!突破口は私が!!」

    一人のシスターフッド生が前へ飛び出して来た。
    彼女は銃口をこちらへ向けている。
    先ほどまで突っ立っていたミメシスもそれに気付き、思わず銃を構え狙いを定めた。
    しかし……。



    『……何故撃たない!?』
    「あなたの方こそ!」

    銃を突きつけ合うシスター、そのどちらも引き金を引くことはなかった。
    そして今、引き金を引けなかったことでそのミメシスは完全に戦意を喪失し、銃を落としてしまった。

    『駄目だ……俺には撃てない。子どもを傷つけるなんて……!』

  • 171スレ主25/06/03(火) 21:20:18

    『こんなはずじゃなかった。特別な力を手に入れて、良いことをして、生きてていいんだって思いたくて。それなのに、俺はまた間違えた……』

    『ごめんなさい……こんなことはもうしません……!』

    ミメシスは膝をついて蹲り、声を震わせながら謝罪の言葉をうわ言のように呟く。
    それはまるで、母親に怒られ泣きじゃくる子どものようだった。

    それを見たシスターフッド生は銃を下ろしてゆっくりと歩み寄り、ミメシスの頭を優しく撫でる。

    『何を……?』

    「……私にもわかりません。ですが、生きるのに特別な力や資格など必要無いということだけはわかります。それに、罪を自覚し武器を捨てた方を痛めつけるようなことは、私にはできません」

    頭を撫でる手を通して、人の心の暖かさがミメシスを操作するプレイヤーの中に流れ込む。
    名も知らぬシスターの言葉が、一人のプレイヤーの心を立ち直らせた。

    『……ありがとう。決めたよ、俺、ヴァルキューレに自首する』
    「あなたの勇気ある行動に敬意を。神はきっと、お許しになるでしょう……っ!?」

    その時シスターフッド生が驚いたような顔をする。
    その理由は後ろのヒエロニムスだった。
    無防備な敵がいると判断して追撃しに来たのだ。

  • 172スレ主25/06/03(火) 21:22:24

    目の前に迫る巨体、顔は空洞となっていてその表情は窺い知れない。
    天使と言うにはあまりに不気味な怪物が目の前に迫り、シスターフッド生は足がすくむ。
    その時……。



    『うおおおおおおおっ!!』

    先ほどまで戦意を失っていたミメシスが落ちていた銃を手に取り、ヒエロニムスへ発砲した。

    「なっ、何を!?」
    『俺たちミメシス同士ではダメージを与えることはできない!けどノックバックは与えられる!こいつが怯んでるうちに、誰かこのシスターさんを安全な所へ!!』

    それを聞いた他の部員が援護に駆けつける。
    反対にミメシスたちからは反発の声が上がった。

    『お前今更そっちに寝返るの!?自分で始めたことじゃんか!半端な奴!』

    そのミメシスの言う通りだった。

    『そうだ、俺は何もかも半端なクソ野郎だ!けど、完璧なクソ野郎にはもっとなりたくない……!!』
    『!!』

    罪悪感、恐怖のせいかその声は震えている。
    しかし、一人が見せた勇気は多くの者に影響を与えた。

    会話を聞いていたミメシスが一人、また一人とヒエロニムスやトリニティに敵対するミメシスに攻撃を仕掛けていく。
    中にはこれ以上被害を拡大させないために、ゲームからログアウトし、戦場から消えていくミメシスも出て来た。
    皆、どこかでこのゲームの歪さと自身の行為の正しさに悩んでいたようだ。

  • 173スレ主25/06/03(火) 23:28:59

    その様子を見て模倣サクラコは苛立ち混じりに舌打ちする。

    『どいつもこいつも……っ!?』

    先程まで交戦していたサクラコがいない。
    どこへ行ったのか辺りを見回していると、突如背後から声が聞こえた。

    「私はここですよ」
    『なっ!?』

    いつの間にかサクラコに後ろに回り込まれていた。
    しかもその姿は先程までの制服と異なり、ユスティナ聖徒会の礼装に身を包んでいた。
    動きやすくなったことと周りのミメシスと同じ格好だったことで、模倣サクラコは彼女を見失っていたのだ。

    『なんて破廉恥な格好を……!?』
    「これが私の覚悟です!!」

    サクラコは下から模倣サクラコの銃を蹴り上げ、模倣サクラコへ向かって銀の弾丸を放った。

    『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』

    ギリギリで身体を逸らされ、弾は模倣サクラコの右肩に命中する。
    そしてその部位が爆発し、バランスを取れなくなった模倣サクラコはその場に倒れ込んだ。

  • 174スレ主25/06/03(火) 23:29:37

    サクラコはトドメを刺すためすかさず頭部へ銃口を向ける。

    『こんなところで……!ヒエロニムス!!』

    模倣サクラコの呼び声に応じ、ヒエロニムスが二人の間に杖を叩きつけた。
    白煙が上がり、一時的に視界が塞がれる。

    「くっ、あと一歩のところを……っ!」

    視界が晴れると、模倣サクラコが右肩を手で押さえながら遥か遠くに走り去っていくのが見えた。

    「逃げた!?しかし、この状況で私が離脱するわけには……」
    「サクラコ様!ここは私たちで引き受けます!ですのでミメシスの追跡を!」

    ヒナタが現場の指揮を引き受けてくれたことでサクラコは自由に行動できるようになった。

    「ありがとうございます、ヒナタさん!私は逃走したミメシスを追います。皆さんに神のご加護があらんことを!」

    サクラコはミメシスたちやヒエロニムスの間を潜り抜け、模倣サクラコの元へ駆け出した。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 175スレ主25/06/04(水) 07:24:37

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    継承
    他のミメシスのヘイローを捕食することで、対象の持つ力を己のものにすることができる。
    効果としては身体能力の基礎スペック向上の他に、特殊な能力を持つ生徒を捕食すれば、その特殊能力も受け継ぐことができる。

  • 176二次元好きの匿名さん25/06/04(水) 08:46:25

    まぁ、そうするよね。乗っ取りで一気に崩壊するかと思ったら、とんでもない隠し玉出てきたな
    メフィストの専売特許じゃなかったのか、ミメシス吸収
    自分で正気に戻るのは見事だな…。煽られたとはいえ、選んだのは自分の意思。たとえ悪いことしてるって自覚してても『やっぱやーめた!』するのは勇気がいることなんだ

    臨戦サクラコ様=覚悟礼装……理解できる。でも模倣サクラコ様は破廉恥呼ばわりしてるのが草

  • 177スレ主25/06/04(水) 15:21:13

    シスターフッドと反対、学園の東側では模倣ミネとグレゴリオ、ユスティナ信徒VSミネと正義実現委員会の戦いが繰り広げられていた。

    トリニティ側は大半が戦闘を得意とする正義実現委員会の生徒であること、ミメシス側はほぼ全員が素人同然かつサオリが解放されたことによる弱体化もあり、流れはトリニティ側に傾いていた。

    そして、二人のミネの戦いも決着が近づいていた。

    『そんな……!同じ蒼森ミネがベースで、数多のミメシスを取り込んでいる私の方が力は上のはずなのに……!!』

    「私にはトリニティを生徒の皆さんを救護するという使命があります。好き放題暴れ回るあなたと違い、私は絶対に倒れるわけにはいかないのです!」
    『ぐっ、ですがその余裕、いつまで続くかは見ものですね!』

    模倣ミネが近くのミメシスに合図をすると、彼女は拘束された一人の生徒を連れてきた。
    何故かその生徒は一言も発さず、虚な目をしていた。

    「っ!ミネ団長、あの子は……!」

    その顔を見た正実生の一人はその生徒が誰なのかすぐに気付いた。

    『お気付きのようですね。そう、この生徒は『魔女狩り狩りゲーム』のターゲット。つまり、ミカさんにいじめを働いていた生徒なんですよ?』

  • 178スレ主25/06/04(水) 18:33:05

    しかし、ミネからしてみれば相手が誰であっても関係ない。
    すぐさま生徒を救い出そうとするも……。

    『動かないでください!動けばこの生徒の命はありませんよ!至近距離で銃弾を何発も撃ち込まれればひとたまりもないことくらい、お分かりで……っ!?』

    人質を盾にペースを握ろうとした模倣ミネだったが、脅し文句を最後まで言うことは叶わなかった。
    どこからか飛んできた銃弾が人質を拘束していたミメシスの頭部を撃ち抜いたのだ。

    弾は銀の弾丸が使われていたらしく、頭の吹っ飛んだミメシスがよろよろと倒れ込む。
    グロテスクな光景に周囲のミメシスが慌てる中、イチカは人質を連れ戻すことに成功した。

    『なっ、何が!?一体どこから……』
    「注意が逸れましたね!」

    模倣ミネは辺りを見回し、狙撃手のいる方向を確認するのに気を取られているうちにミネの接近を許してしまい、腹部に渾身のパンチを受けてしまった。
    盾も構えておらず、思い切り吹っ飛ばされた模倣ミネは激痛で起き上がることもままならない。

    そして倒れ込んだまま周囲を見回すと、遥か遠くの建物の上に誰かがいるのが見えた。
    そこにいたのは黒い制服に黒い羽根、黒い長髪を持つ生徒。

  • 179スレ主25/06/04(水) 20:09:18

    「ふう、人質を拘束しているミメシスを無力化しました。ミメシスのミカさんの時といい、失敗の許されない精密射撃はやはり緊張しますね」
    「さっすがハスミ先輩!完璧な狙撃っす!」

    狙撃したのはハスミであった。
    これによりトリニティ側が勢いを取り戻し、一気に畳み掛けていく。

    『このままでは……グレゴリオ!少しの間持ち堪えてください!』

    そう言うと模倣ミネはどこかへ走り去っていった。

    「待ちなさい!イチカさん、ここをお任せしてもよろしいでしょうか?あの偽物を追わなくてはいけません!」
    「もちろんっす!ここは私たちに任せて……っ!ミネ団長!」

    イチカが慌てた様子でミネの後方を指差す。
    その先には人質だった生徒と、それを介抱する友人の正実生がいた。
    そして二人のすぐ近くに、ユスティナ信徒の中でも強力な力を持つ『バルバラ』が迫っているのが見える。
    二人が危ない。

    イチカはハスミや周囲の正実生へ攻撃指示を出す。
    バルバラを倒し切るのが先が、二人の元へバルバラに辿り着かれるのが先か。
    ミネは二人の元へ急ぐ。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 180スレ主25/06/04(水) 20:11:38

    「一体何があったの?私がわかる?」
    「……」

    正実生は人質だった少女に声をかけていた。
    魔女狩り狩りゲームのターゲットとなった生徒のほとんどは保護することができていたが、友人であるこの少女は行方がわからないままだったのだ。

    そしてその間ずっと友人の安否が心配だったが、どうにか生きて再び会うことができた。
    しかし少女は身も心もボロボロで、立って歩くことすらままならない様子である。

    「……撃っちゃった。小さい子どもを」
    「なっ!?どういうこと……?」

    少女は少しずつ口を開く。

    「聖園ミカへのいじめの罪で狙われて、街中でいろんな人から視線を感じて、怖くて、ずっと逃げ回ってた」

    「そんな時私の前に、中学生くらいの女の子が現れたの。そして、「お前がミカ様を追い詰めたのか」って」

    「詳しく聞いたらその子は聖園ミカのモモッターのファンだったみたいで、ミカをいじめた人を探してるって言ってた」

    「今更嘘はつけないし、その通りだって答えたんだけど、そしたらその子はスマホでミメシスを呼び出して、私を攻撃してきた」
    「……それブルアカじゃない!中学生の子までプレイしてるの!?」

    アカウント作成にはクレジットカードが必要なはず。
    子どもにカードを持たせている裕福な家庭なのか、親のカードを勝手に使ったのか。
    どちらにせよ、プレイヤー本人が出てくるあたり相当な行動力と恨みがあるようだった。

  • 181スレ主25/06/04(水) 20:13:58

    「それで、そのミメシスが結構強くて、勝つことも逃げることも難しくて、近くに操作している人がいる状況だったから……私はその子のスマホを狙い撃った」

    「でも狙いが逸れて、その子の頭に当たっちゃって……!倒れて、いっぱい血が出て……!!」

    「はあ、はあ……!げほっげほっ!」
    「落ち着いて、ゆっくり息を吸って?」

    過呼吸になりかけていた少女を落ち着かせ、続きを聞く。

    「そしたら騒ぎを聞きつけた大人の人たちが来て、その子の手当てを始めたの。けど事情は察してくれて、私のことも気にかけてくれた」

    「でもその子は倒れてもずっと私を睨んでて、うわごとのように殺す、殺すって。それで怖くなって、また逃げて、最終的には捕まって……」

    よほど過酷な環境にいたのか、髪はぼさぼさで服も煤だらけだった。
    おそらく自宅も特定され、帰るに帰れなかったのだろう。
    そして人に迷惑をかけるわけにもいかず、友人の家にも転がり込めなかったと推測される。

    「初めて大勢の人から悪意を向けられた……!!知らない人からも狙われて、撃たれて、中にはインタビューみたいな事してくる人もいて、本当に怖かった……!」

  • 182スレ主25/06/04(水) 20:17:53

    少女は力無く項垂れている。

    「きっと、聖園ミカも同じだったんだ。私も含めて多くの人から石を投げられて。そして、投げた石が今度は私に返ってきた」

    堪えきれなくなった少女はついに泣き出してしまう。

    「ごめんなさい、二度と悪いことはしません……!だからもう、誰とも喧嘩したくない……」

    話を聞いていた生徒は少女を優しく抱きしめた。
    確かに彼女のしたことは褒められたものではないが、それでも大切な友人なのだ。
    見捨てることなどできるはずがない。



    「ねぇ、この戦いが終わったらさ、一緒に映画観に行かない?」
    「……え?」

    少女は困惑している。

    「ポップコーンは塩とキャラメルでハーフにして、お昼は軽めにいつものサンドイッチ屋さんで食べて。あとショッピングもしたいよね。アクセサリー見て、早めに次のシーズンの服買って……」
    「ダメだよ!私と一緒にいたらあなたまで巻き込まれる。戦いが終わっても、多分私への攻撃は止まらない」

    「この戦いが終わって、もしまだ生きてたら、その時は学園を出ていくつもり。もうこれ以上みんなに迷惑はかけられないから……」
    「ふーん、そういうこと言うんだ。それなら……」

    なおも下を向き続ける少女に対し、正実生はその頬を両手で挟み込んだ。

  • 183スレ主25/06/04(水) 22:27:09

    「むぐっ!?」
    「もう、ミカ様とかそのファンの子とか、遠い人ばっかり見すぎ!もう少し私のことも見て欲しいんだけど?」

    少しむくれながらその生徒は続ける。

    「確かにあなたは間違ったことをして、その報いを受けた。これからもそれは続くかもしれない。けどだからって、友達とか親しい人を置いてどっか行くのは違うと思うよ?」

    「転校するなら付き合うし、怒られたら一緒に頭下げるし、襲われたら私が守ってあげるから!」
    「……え?」

    その生徒は、呆気に取られた顔をする少女の両手を強く握る。

    「一度や二度の失敗で道が閉ざされるなんて事はないんだから。だから前を向いて自分の足で立って、しゃっきりしなさい!」

    初めて友人に叱られた。
    けど、これまで人から向けられてきたような怒りや憎しみは感じなかった。
    そこにあるのは純粋に人を思いやる、暖かな愛。
    周りにいるのは敵ばかりではなかった。

    そしてその時、少女の後ろからバルバラが迫って来るのが見えた。

    「っ、後ろ!ミメシスが来てる!逃げるよ!あとこれ、ミメシス特効弾!あなたも使って!」

    生徒は迫り来るバルバラに気付いて少女の手を引くも、走って逃げるには距離を詰められ過ぎていた。
    戦闘中だというのに、つい話に集中し過ぎてしまった。

  • 184スレ主25/06/04(水) 22:29:32

    特効弾も渡したが、少女は銃を持っていないのか弾を握ったまま座り込んでいる。
    絶体絶命のピンチ。
    生徒が応戦しようと銃を取り出す。
    しかしその時……。



    「ありがとう。おかげで目が覚めた」

    少女の目に光が戻り、その場に立ち上がったのだ。
    先ほどまでの気落ちしたような様子はなく、その表情は戦う意志を感じさせるものだった。

    「それとやっぱり転校はナシ!ここで逃げたら、きっとまた私は同じことを繰り返す」
    「だから私は戦う。戦って勝つ!だから、一緒に映画観に行こう!」

    まさかここまで調子を取り戻すとは思わなかった。
    今度は生徒の方が呆気に取られている。
    そしてすぐ後ろに迫るバルバラ。

    「銃なんかなくったって……!」

    少女は渡された銀の弾丸を強く握りしめる。
    そしてバルバラと真正面から睨み合い、後ろの生徒を庇うように立つ。
    そして……。

    「私たちの間に、入るなああああああああ!!!!」

    あろうことか、銀の弾丸を拳で握ったままバルバラの腹部を思い切り殴りつけた。

  • 185二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 05:34:06

    本物なら絶対しないようなことしてる…
    大分荒療治な更生、襲ってきた子は今回の事が無くても凸ってきそう

    モブとはいえパテル分派、脳筋すぎる

  • 186スレ主25/06/05(木) 07:19:02

    保守コーナー 〜ブルーアークカタストロフのルール〜

    ミメシスの弱点
    ミメシスは他の個体を捕食し、能力の継承ができる。
    しかし食べたものは人間と異なり消化・吸収されず、強化パーツとして腹部の胃袋に蓄積される形となる。

    通常、ミメシスは頭や心臓に銃弾を受けようとも藍輝石の力で修復できるが、腹部にダメージを受けた場合は強化パーツが損傷し、力を失ってしまう恐れがある。

    弱点にダメージを受けないよう、立ち回りには気をつけよう。

  • 187スレ主25/06/05(木) 15:09:54

    (やっちゃった!私何やってるの……!?)

    少女が我に返りかけた時、バルバラに異変が起きる。

    『OOO……GYAAAAAAAAAA!!!!』

    拳が命中した腹部を中心にバルバラの体が風船のようにぶくぶくと膨らみ、そのまま破裂し消し飛んだのだ。

    「な、何これ?銀の弾丸ってこんなすごいものなの?」
    「そ、そんなはずない……。あくまで命中部位を爆裂させるだけって……」

    「大丈夫ですか!?なにやら突然敵が破裂したようでしたが、一体何があったのですか?」

    少し遅れてミネが到着する。
    何が起こったのか、その場にいた誰もが理解できず呆然としていた。

    「いえ、今は治療が優先ですね。すぐにセリナを呼びます。あなた方は基地まで戻り治療を受けてください」

    (特効弾、爆裂、腹部……いや胃袋?まさか内容物と反応して……)

    考えを巡らせていた少女ははっとした顔をする。

    「ミネ団長、報告があります!」

    ミネは心配している様子だったが即座に聞く姿勢へと切り替えた。
    その表情は真剣そのものだ。

    「先ほど私は銃を持っていなかったため銀の弾丸を手に握り、無我夢中で敵の腹部を殴りつけました。丁度、胃袋のある辺りを!」

  • 188スレ主25/06/05(木) 18:35:10

    「そうしたところ敵の体が腹部を中心に膨れ上がり、最終的には破裂し消滅しました」

    これまでの疲労と一時的に敵を退けた安心感で今にも倒れそうだったが、少女は意識を保って報告を続けた。

    「ここからは推測ですが、敵の弱点は腹部なのではないでしょうか?」
    「!!」

    考えもしなかった。
    ミメシスも自分たちと同じ人である以上頭や心臓を弱点と見てこれまでいて攻撃し、一定の成果を確認していた。
    しかしここで新たな攻略の可能性にミネたちは驚いている。
    少しして、そこへイチカも合流した。

    「ミネ団長、他の生徒から聞いた情報に気になるものが。その内容はそこらのミメシスが仲間を捕食し始めたというもので、その特性上食べたものが胃袋に蓄積されている可能性があるっす」

    「つまり、そこにエネルギーが集中していて、銀の弾丸が命中したことで暴走。通常よりも激しい爆発を引き起こして全身が吹き飛んだ、とは考えられないっすか?」

  • 189スレ主25/06/05(木) 18:36:28

    少女とイチカの情報を聞き、次の動きを考えるミネ。
    もしかしたら、残ったミメシスたちを一網打尽にできるかもしれない。

    「なるほど、確かめる価値はありそうですね。皆さん聞こえましたか?これより敵の弱点を腹部と仮定し、そこへの攻撃を試みてください。結果がわかった方は私へ共有を!」

    ミネは通信機越しに仲間たちへ連絡を行う。

    〈効果ありました!確かに跡形もなく消し飛んで、その場には復活しないようです!〉
    〈こっちはそこまでのダメージは与えられませんでした!他のミメシスを捕食していない場合は効果が薄いのかも!〉
    〈ビンゴ!強力な個体ほどよく効くっぽい!〉

    仲間たちから次々と報告が上がる。
    それと同時に、この仮説が正しいことが証明されつつあった。

    「どうやら仮説は当たっているようですね。これで暴徒鎮圧がスムースに進みそうです。皆さん、ご協力ありがとうございます!」

    「そしてあなたも。あんな怪物を前に、怖かったでしょう?本当によく頑張りましたね」

  • 190スレ主25/06/05(木) 18:38:06

    ミネは少女の頭を優しく撫でる。
    少女は昔、テストで良い成績を取った時に母に頭を撫でてもらった記憶を思い出していた。

    人に褒められたことなどいつ以来だろうか。
    気が緩んでいたのもあり、つい目頭が熱くなる。

    (だめ、まだ泣いちゃだめだ……!みんな頑張ってるのに!)

    「…………勿体無いお言葉です」

    少女は涙を堪え、くしゃくしゃになっている顔を隠すように俯く。
    ミネは優しく微笑み近くにいる少女の友人へ後を任せ、仲間に次の指示を出す。

    「私は逃走した自身のミメシスを追います!皆さんは残ったミメシスと、あの巨大な怪物の相手をお願いします!」

    ミネは地鳴りを響かせながら、模倣ミネが逃げた方向へ目にも留まらぬ速さで飛び出して行く。
    ミネが去った後、袖で涙を拭う少女の背中に友人の正実生は手を添え、治療のために後方へと歩いて行くのだった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 191スレ主25/06/05(木) 18:40:14

    スレ主セイアだよ。
    そろそろキリの良いタイミングなので次のスレに移行しようと思う。
    準備ができ次第スレ立てするから、次スレでも応援してもらえると嬉しいね。

  • 192スレ主25/06/05(木) 20:53:36
  • 193スレ主25/06/05(木) 20:57:57

    いつも♡や感想や考察をくれるみんな、本当にありがとう。
    気づいて欲しい、細かい所にも目を通してくれているようなレスも中にはあって、書き手として嬉しい限りだよ。
    今は大体物語の八割くらいまで来ている所だから、もう少しだけ付き合って欲しい。

    それじゃあ、次スレでもよろしくね。

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