- 1二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:26:36
「ハァイ、トレーナーくん、ちょっとお茶にしない?」
赤い日差しが窓から差し込むトレーナー室。
仕事が煮詰まって来た頃に訪ねて来た、一人のウマ娘。
くるりとした毛先のロングヘア、左目のハートのラメ、左耳には髪飾り。
担当ウマ娘のラヴズオンリーユーは、小さな箱を片手に、俺をティータイムへと誘ってくれていた。
時計をちらりと見れば、仕事を始めてからそれなりの時間が経過している。
息抜きをするには丁度良いタイミング、ともいえた。
……まあ、彼女もそれを見越してこの時間に来たのだろうけども。
また気を遣わせてしまったな、と嬉しい気持ちと悔しい気持ちを秘めながら、言葉を返す。
「わかった、少し片づけるから待ってて」
「うん、それじゃあ私の方でお茶の準備をしておくね」
そう言いながら、ラヴズはいそいそと食器などを準備し始める。
尻尾をふりふりと揺らしながら、なんだか楽しそうに。
その様子を不思議に思いながらも、俺はさっとデスクの上を片付けて、彼女の手伝いに入るのだった。 - 2二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:26:48
「コミュメンから熱烈にオススメされててね? ついつい、買ってきちゃったんだ~♪」
「ああ、一昨日の配信の時で話してたやつか、俺も気になってたんだよね」
ラヴズが持って来てくれたのは、最近SNS上でも話題沸騰のお菓子である。
それは海外で生まれて、瞬く間に世界中へ話題が広がり、最近日本にも上陸したばかりの商品だった。
「でも、これで人気過ぎて売り切れ続出って話じゃなかったっけ?」
「『桃色しっぽ』さんがね、学園近くにある穴場のお店を教えてくれたのよ」
「……なるほど」
桃色しっぽさん、については俺も良く知っていた。
ラヴズの配信を欠かさず見ているファンの一人。
さらっと深い知識を出して来たり、突然反応が一切消滅したりするので、妙に印象に残っていた。
……とはいえ、ファンから聞いたお店にそのまま行くのはいかがなものか。
しかし、長く配信を続けている彼女には、このような注意など釈迦に説法かもしれない。
口に出すか出すまいかを悩んでいると、ラヴズは何かを察したようにくすりと微笑んだ。
「ふふ、大丈夫よ? 『彼女』はとーっても信用できる、素敵な人なんだから♡」
「へえ……?」
何かを思い出すように話をするラヴズ。
まあ、彼女がここまで言うのなら心配ないのだろう、と俺は気にすることを止めた。
そもそも『桃色しっぽ』さんは礼儀正しく、マナーも良い人だ、根拠もなく疑うのも良くないだろう。
……とはいえ、トレセン学園周辺のお店に詳しいということは、この辺りに住んでいる人なのかもしれないな。 - 3二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:27:01
「この紅茶も良い香りだね……なんか花の匂いがするというか」
「こっちはブーケちゃんにもらったの、華やかでラヴい香りよね」
「そうなんだ」
もしかして自家製だったりするのかな、と思いつつもまずは一口。
鼻腔に入り込んでくる豊かな甘い香り、それでいて酸味を抑えた優しい飲み口。
暖かな温もりが喉元を通り過ぎると、思わず、ほっと一息ついてしまう。
「……ようやくいつものトレーナーくんの顔に戻ったね?」
「えっ」
「入った時から、ずーっと怖い顔していたわよ? ちょっと根を詰め過ぎじゃない?」
ラヴズは困ったように眉をハの字に歪めながら、そう告げる。
一度落ち着いたせいなのか、身体はずっしりとした倦怠感を帯びていた。
……彼女の言う通り、少し気を張り過ぎていたようである。
「少しゆっくりしたら、今日はもう帰ろうかな、キミの配信もゆっくり楽しみたいしね」
「ええ、今日はとびっきりの愛を贈るから、しっかりと受け止めてね♡」
「……お手柔らかに」
手でハートマークを作って微笑むラヴズ。
俺はそんな彼女に釣られるように、口元を緩めてしまうのだった。 - 4二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:27:13
「さてと、それじゃあお菓子も頂こうかな」
ティーカップを置いて、箱の中に並んでいる個包装のお菓子に視線を向ける。
なんやかんやで、俺も食べてみたかった一本なのだ。
年甲斐もなくワクワクとした気持ちになりながらも、俺はお菓子へと手を伸ばす。
そして手に取ろうとした瞬間────箱が、するりと遠ざかって行った。
「……ラヴズ?」
「ふふ♪」
顔を上げると、箱を引き寄せたラヴズが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
おもむろに箱から包みを一個取り出して、丁寧な手つきで開ける。
中から出て来たのは、一口サイズのチョコレート。
彼女はそれを指先で摘まみ上げると、俺の方へとゆっくりと差し向けて、言った。
「はい、あーん♡」
────ああ、そういうことか。
俺は妙な納得をしながらも、ラヴズの指先に向けて顔を寄せる。
そして彼女の指を巻き込まないようにチョコを咥えて、そのままゆっくりと顔を離してから味わう。
「ん、面白い食感だね、チョコの滑らかさと濃厚なピスタチオが良く合うというか」
「…………」
「どうしたのラヴズ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して……あっ、そうか」
きょとんとした顔を浮かべているラヴズを見て、ようやく気付いた。
俺は再び箱へと手を伸ばし、チョコを一つ手に取る。
先ほどの彼女と同じように包みを剥いて、指先で摘まみ上げると、それを差し出した。 - 5二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:27:32
「はい、あーん」
「………………あーん」
何故か、ちょっと不満そうな顔をしながら口を開けるラヴズ。
てらてらと照り返す、真っ赤な咥内。
俺はその中へと向けて、ゆっくりと慎重にチョコを運び入れる。
「あむ……ちゅ……」
ぱくりと、俺の指ごと咥えるラヴズの唇。
指先はふわふわとした感触と熱のこもった湿り気に包まれてしまう。
やがてざらついた舌先が絡みつくようにチョコを浚い、ちゅ、と小さな音を立てて唇は離れた。
彼女は、やはり拗ねた顔でゆっくりと咀嚼をして、こくりと飲み込んでから口を開く。
「……何かトレーナーくん、手慣れて来てない?」
「まあ、そりゃあ毎回のようにやってればねえ」
以前のバレンタインでの話。
俺とラヴズはお互いに用意していたチョコレートを、手ずからに食べさせ合った。
そして、それ以降、どうにも彼女はその行為を気に入ったらしく、事ある毎にこうして『食べさせ愛』をしている。
最初の頃は翻弄されっぱなしであったものの、気づいたら俺自身結構受け入れてしまっていた。
いや、慣れって怖いな、と改めて思ってしまう。
「…………………………私はまだなのに、ズルくない?」
目を逸らして、何かをぽそりと呟くラヴズ。
このチョコはあまり口に合わなかったのかと思いつつ、紅茶を一口啜る。 - 6二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:27:52
「あー、確かにこの紅茶とはあんまり合わないかもね、それぞれは美味しいんだけど」
「────トレーナーくーん、ちょっと試してみたいことがあるんだー♡」
甘えた声を出しながら、うるうると上目遣いをするラヴズ。
ああ、この目はいけない。
甘え上手な彼女の、本気のお願い。
つまるところ、これを出された時点で俺に断わる術など存在していない、ということだった。
「……俺に出来ることなら、何でも」
「ありがと♪ それじゃあ座ったまま、目を閉じていてくれる? あっ、膝は閉じててね?」
「了解」
言われるがままに、目と閉じて姿勢を整える。
この状態で何をするのだろう、と疑問に思いながらもじっと待ち続けた。
やがて近づいて来る静かな足音、そして小さなため息とともに、囁くような声が聞こえてくる。
「…………君のそういう、素直すぎるところは相変わらずね」
瞬間────脚の上に何かが乗っかって来た。
包み込まれるしまうような柔らかな肉感、じんわりと伝わってくる湯たんぽのような熱。
紅茶なんて比べ物にならないほどの甘い香りが鼻先をくすぐり、頭がくらりとするほどだった。
「なっ、あっ、えっ」
慌てて目を開けると、眼前には挑むような表情をしているラヴズの顔。
彼女は逃がさないと言わんばかりに、俺の脚をむっちりとした太腿で挟み込み、ずっしりと尻で敷いた。
お互いの息がかかりそうなほどの距離で、彼女はチョコを包みから取り出しながら言葉を伝える。 - 7二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:28:15
「トレーナーくん、あーん、して?」
微かに頬を染めながら、熱っぽい瞳を向けるラヴズ。
何かを言おうと思うのだが、あまりの状況に口が開くだけで言葉を出すことが出来ない。
それを同意と見なしたのか、彼女は妖艶に目を細めるとチョコを自らの唇に挟み込んだ。
「んー♡」
そして、ラヴズそっと目を閉じて、ゆっくりと顔を近づけて来た。
ここに至って、真っ白になった頭がようやく再起動する。
迫り来る微かな息遣いと魅惑的な色香。
あまりの情報量に混線する思考を何とか巡らせて、気づいたら俺は反射的な行動を起こしていた。
まずは、彼女の両肩を抑える。
「……っ」
ラヴズの目が開き、何故か悲しそうに歪む。
しかし、理由を探っている暇などはない、ウマ娘の動きを抑えられる時間などはほんの一瞬。
その刹那の隙に────俺は彼女へと顔を近づけて、チョコへ向けて唇を寄せた。
「……っっっ!?」
大きく目を見開いて固まるラヴズ。
動きが止まったのは幸いだった、唇が触れないようにチョコを咥えて、そのまま抜き去った。
少し迷うものの、俺は意を決してチョコを口の中に入れて、咀嚼する。
……味は殆どわからなかった、心臓の音と顔の熱があまりにも激しすぎて。 - 8二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:28:33
「……揶揄うのもほどほどにしてね、キミは平気でも、俺はドキドキしっぱなしなんだから」
「……っ!」
冗談交じりに、俺はそう零した。
呆然としていたラヴズはその言葉を聞いて、顔を真っ赤にしながら、むっと怒ったように眉尻を上げる。
いつも愛のこもった笑顔をコミュメンへ向け続ける彼女の、あまりにも珍しい表情。
そんな光景に見惚れてしまったが故に、俺は彼女の行動に対して、反応することが出来なかった。
「……えい」
ラヴズは俺の背中へと手を回して、ぎゅっと抱き締めるように身体を寄せて来た。
胸元に押し付けられる、細く小さな体躯と柔らかな膨らみ、火傷しそうなほどの体温。
そしてその奥からは────どくんどくんと、大きな鼓動が伝わって来た。
「……平気じゃ、ないもの」
「ラッ、ラヴズ」
「…………私の方が、もっと、ドキドキしてるもん」
鼓膜を揺らす小さな声。
それは微かに震えていて、ともに聞こえてくる息遣いは少しだけ乱れていた。
どうする、べきなのか。
謝罪をするべきなのか、同意をするべきなのか、離れるように頼むべきなのか、背中に手を回すべきなのか。
相談すべきコミュメンは今はいない、居たとしてもこんなことを相談することは出来ない。
やがて、俺が腕を持ち上げようとした瞬間、ラヴズの身体はそっと離れた。
冷えた空気が隙間へと入り込み、のぼせあがった頭を冷やしていく。
……俺は、何をしようとしていたのだろうか。 - 9二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:28:46
「えへへ」
「あむ……!?」
突然────口の中へと何かが突っ込まれた。
甘く滑らかな舌触り、それは先ほどから口にしているチョコレートの味と食感。
反射的に視線を向けると、そこには頬を朱色に染めながらも、どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべるラヴズ。
そして彼女は耳元に顔を寄せて、そっと囁く。
「…………食べちゃダメよ、今度は私の番なんだから」
その言葉に、俺は全てを止められてしまう。
ラヴズは一度顔を離して、ぺろりと舌先で唇を舐めてから、熱い吐息とともに言葉を紡いだ。
「それじゃあ、いっただきまーす♡」 - 10二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:29:08
お わ り
えっドバイチョコってドバイの名産品じゃないんですか? - 11二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:32:04
ドバイチョコってなんであんなに高いんだ
- 12二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:37:25
なんだい今日は…
ラヴズの素敵で叡智な文章をよく見かけるが… - 13二次元好きの匿名さん25/05/22(木) 23:52:10
ラヴズ引いたから分かるけどめちゃくちゃ書きたくなるキャラしてるよね
自分は書けないけど - 14125/05/23(金) 09:35:43
- 15二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 15:11:43
こんなんうまぴょいやん
- 16二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 15:31:07
こいつらちゅー……なんでしてないんだ!!
- 17二次元好きの匿名さん25/05/23(金) 20:36:36
甘くて仕方がない、とびっきり苦いコーヒーが欲しいね
- 18125/05/24(土) 00:47:51
- 19二次元好きの匿名さん25/05/24(土) 00:51:40
良質なSSが多すぎる!
- 20125/05/24(土) 10:19:02
ラヴズのSSが増えてくれると助かります