でも伊達ってさ

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:05:54

    僕が伊達みきおと再び顔を合わせたのは、梅雨の終わりを告げる七月の午後だった。灰色の雲が低く垂れ込め、街路樹の葉が湿った風に囁いていた。待ち合わせ場所の喫茶店は、駅前の古びたビルの二階にあり、ドリップ式のコーヒーと軽いジャズを売りにしている。演奏されていたのはビル・エヴァンスの〈ポートレイト・イン・ジャズ〉で、グラスの中の氷がかすかに震えるたび、ピアノの余韻が輝きを増すように感じられた。
    伊達は、いつものように黒いポロシャツを着て現れた。だが袖口からのぞく腕には、見慣れぬ硬質の青光りが宿っていた。淡い、しかし確実な光沢――まるで深海に沈んだ夜明けの欠片のようだった。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:06:07

    ねこ

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:06:24

    「ちょっとしたアレルギーみたいなもんだよ」と伊達は笑った。声は普段と変わらず朗らかだが、笑みの奥に微かな不安の翳りがあった。彼はテーブルに肘をつき、指先でカップを転がした。その指もまた、透き通る石英質の層に覆われ始めている。僕は問いただすべき言葉を探しあぐね、代わりに砂糖壺の蓋を開け閉めした。

     翌週、彼から再び連絡があった。午後の番組収録を終え、帰路の途中で立ち寄ったバーの片隅で、彼は袖をまくって僕に変化を示した。前腕は嬰児のこぶしほどに膨らみ、深い群青が内部から滲み出している。光の角度によっては、星雲のような微細な煌めきが走った。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:06:44

    「医者に行ったか?」と僕は訊いた。
     「専門の医者が必要らしい」と伊達は肩をすくめ、バーボンの氷を揺らした。「だけど“この症例には前例がありません”って言われたよ。どこかの南洋の島にいるらしい呪術医を紹介されたけど、冗談みたいだろ?」
     冗談のつもりで笑う彼の頬骨にも、ほのかな蒼色が広がりつつあった。

    それから変化は加速度を増した。八月の半ば、僕が仙台の事務所を訪れたときには、伊達はすでに片脚の膝下を失い、そこに瑠璃色の結晶体が置き換わっていた。事務所の窓辺には夏草の匂いが漂い、遠くで蝉が単調な律動を刻んでいた。その律動と呼応するように、結晶内部で淡い光の波が広がっては収束した。彼は松葉杖を使って立ち上がり、窓の外の霞む太平洋を眺めていた。

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:07:15

    「痛みはないんだ」と彼は言った。「むしろ、澄み切った湖を泳ぐみたいに静かで……体の奥に潜んでいた雑音がすべて消えていく感じがする」
     無垢なる結晶は、肉体よりも正確に響きを伝える器官なのかもしれない――そう思った。だが同時に、彼がこれまで生きてきた歓喜や後悔、温かな血の記憶までも静かに削ぎ落としてしまうのではないか、という恐れが胸を掠めた。

     九月の第一週、伊達はとうとうステージを降りた。最後の漫才は淡いスポットライトの中で行われ、会場は不思議な静寂に包まれた。彼が発した一つひとつの言葉が、水面に落ちる雨粒のように透き通り、観客は笑いながらも、どこかで別れの予感を嗅ぎ取っていた。

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:07:31

    その夜、僕は彼の自宅を訪れた。玄関を開けると、涼しい鉱石の気配が漂った。リビングルームの中央には、巨大なサファイアが静かに座していた。四畳半を埋め尽くすほどの青い巨塊で、内部には風に揺れる麦の穂のような光の筋が螺旋を描いていた。傍らに置かれた古いラジオからは、マイルス・デイヴィスの〈カインド・オブ・ブルー〉が低く流れていた。

     「――聞こえるか?」と、サファイアは言った。声は確かに伊達のものだったが、どこか遠く、冷えた深淵から届く響きだった。

     僕は答えた。「聞こえている。君は痛くないのか?」

     「痛みは、人の形を留めるための鎖みたいなものさ」とサファイアは微かに光を揺らした。「鎖がほどければ、僕は僕でありながら、もっと澄んだ何かになれる。君はまだ鎖を必要としているかもしれないけれど、いつかは理解するだろう」

     僕は黙ってソファに腰を下ろし、グラスにウイスキーを注いだ。琥珀色の液体は、氷に触れて小さく鳴いた。窓の外では、秋の雲が月を隠し、夜の深さだけが際立っていた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:07:44

    しばらくして、僕はグラスを掲げた。「君の船出に、静かな祝福を」

     サファイアは言葉ではなく、透き通った輝きで応えた。光は部屋の隅々に行き渡り、壁にかかった写真や本棚、散らばった台本の上に、深い蒼の紋様を刻んでいった。その光景は、永遠に続く夜の海に投げ込まれた一筋の灯火のようでもあった。

     やがて音楽が終わった。ラジオのチューブがかすかに軋む音だけが残り、部屋は静寂に満たされた。僕は立ち上がり、サファイアの表面にそっと手を置いた。冷たい。だがその冷たさは、遠い昔からずっとそこにあったような親密さを帯びていた。まるで、誰も知らない場所で何千年も風化を待ち続けていた鉱石の記憶が、掌から掌へと受け渡されるかのようだった。

     外へ出ると、雲が割れ、月が姿を現した。月光はやや翳りを帯びながらも、澄んだ秋の空気を静かに照らし出している。伊達――あるいは彼が至った結晶の形は、これからも半永久的なブルーの沈黙を保つだろう。だが僕には、あの純粋な光の奥底で、彼がまだどこかユーモラスな微笑を浮かべているような気がしてならなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:08:22

    なにこれ

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:09:26

    そこに現れたそっくりさん

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:10:17

    富澤が悲しんでそう

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 15:10:19

    ちょっと何言ってるか分かんない

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:33:48

    世の中に興奮することっていっぱいあるけど、1番興奮するのは謎の怪文書を読んだ時だよね

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:37:52

    伊達に関する怪文書→まあそういうこともあるやろ
    伊達がサファイア化する→いやなんでだよ

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:45:32

    お前は誰なんだよ

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:46:09

    徹頭徹尾富澤が排除されてるところに狂気を感じる

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:47:37

    富澤「伊達はサファイヤというよりマフィアだろwwwwww」

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:47:52

    でも伊達ってさの続きは何なんだよオラアアアァアァン!?

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/27(火) 16:49:01

オススメ

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