[ss]周波数70.0hz

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:47:30

    柔らかい綿に包まれたような温もりと
    心地のよい気だるさが覚醒しそうな意識をゆらゆら揺らす・・・のもつかの間
    耳を突き刺す高音が三回目の目覚めを促そうとしている。

    んぅぅ~・・・・・・わかったよぉ

    誰に言うわけでもないのに辟易とした言い訳が口から漏れる
    鬱陶しいアラームを鳴らすスマホを掴めば液晶には

    [07:44]

    液晶の表示を見て、朝露に晒されるカタツムリのように
    のそのそとベッドから這い出て洗面台に向かう・・・前に
    サイドテーブルに置いてある電気ケトルをキッチンまで
    持っていって水を補給してからスイッチをポチり・・・・・・

    うぁ・・・つめたい・・・
    手と顔を刺激する水道水がぼんやりしていた意識を
    無理矢理引き上げる

    今日も仕事だぁ・・・

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:49:24

    だらんと肩を落としたまま、のそのそとキッチンへ戻って
    冷凍庫から4個入329円の冷凍ドーナッツをひとつ取り出して
    電子レンジに放ってツマミを1分に回す。

    マグカップにインスタントコーヒーの粉をスプーン1杯入れて
    ケトルからお湯を注ぐと焦げのような苦い香りが薫ってきた。

    ふぅ~ん、世界が変わったような違う1日ねぇ・・・・・・て、あっつ!!

    スマホから流していたラジオのパーソナリティが
    今日の運勢を述べていくのを流し聞きしながら
    火傷しそうな熱さのドーナッツをなんとかお皿に移す。

    モソっとした食べごたえのあるドーナッツを一口
    ほのかな小麦と砂糖の甘さをコーヒーの苦味で中和する。

    世界が変わったような1日ってなに?

    いつもどうりの味をだらだらと咀嚼しながら
    ラジオから流れてきた運勢結果に疑問を思う。

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 08:50:19

    まぁ、占いなんてそんなものだよねぇ・・・…着替えよ。

    パジャマを脱いでクローゼットから制服を出して袖を通す
    ガンロッカーの鍵を開けて中から支給品の、
    ヴァルキューレ制式採用ライフルを取り出して、
    目視チェック、面倒だから今日はいいや・・・・・・

    玄関前に吊るしていた帽子を被って
    お気に入りのスニーカーの靴ひもを絞める。
    玄関を開けると、昨日と同じ青い空と日差しが差し込んできた。

    「今日もいつもどうり業務かぁ・・・面倒くさぁ」

    口をむにゃむにゃさせながら、扉を閉めた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:02:58

    有線イヤホンを伝って耳元で展開するラジオドラマが
    私の意識を埋め尽くすほど
    今日は特段と静か・・・・・・
    キヴォトスじゃ、銃撃、爆発が
    日常茶飯事といっても過言ではないけど

    ま、たまにはこんな日があってもねぇー

    そもそもヴァルキューレのみんなは働きすぎだよ
    生活安全局なんて市民の悩みを聞いて
    突発的な軽犯罪を追っかけてる最たる部署なんだから

    心のなかで、普段と今日を比べて
    だらだらと労りを垂れ流していると
    いつもの忙しないと思ってしまうほどの
    生真面目な声が聞こえないことに気づいた。

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:04:43

    「パトロールぅ・・・・・・?」

    マグカップに手をかけると
    拍子抜けするほど軽く
    底の方で水が揺れる感覚がした。

    もう飲んじゃったかぁ。

    マグカップをふらふら揺らしながら
    おかわりを持ってこようか…けどめんどくさいなぁと
    考えもゆらゆら振れる。

    時折電話が鳴ったり同僚が出入りしている署内は
    それでも、いつもより比較的静かで・・・
    私だけが"いつも"に取り残されてるみたい

    変わったような1日ってこういうことぉ・・・?

    『知ってるはずなのに知らない……全部が目新しく感じる
    私はここにいるのに、いない……?』

    耳元で展開されるSFドラマは、
    何処までも近くて限りなく遠い世界に迷い込んだ主人公が
    自分自身を見失いそうになっていた。

    チクタクチクタクと面倒なことも無く
    時間の針は静かに廻っていった。
    コーヒーに入れた砂糖をマドラーで溶かすように……

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:28:54

    気持ちの良い浮遊感と温かさを邪魔するように
    頭の傍でムッー!ムッー!と嫌な気持ちになってくる何かが震えてる
    震えてるそれを掴んで、当たり前のように電源に指を這わせて明かりを点ける。

    スマホの画面には[05:31]といつもよりは早めな時刻が表示されている。
    もう一度眠りに落ちる瞼はそのままに、体をノロノロと起動して
    布団に負けそうになりながらも跳ね除ける。

    ひんやりとしたフローリングの感触を足の裏に感じながら
    水中の中みたいなぼんやりした視界で洗面台までふらふら歩く。
    蛇口を上げて冷たい水道水で顔をパシャパシャ拭う

    つ、つめたぁ……

    ぷかぷか浮かんでいるように微睡んだ意識は
    肌に突き刺さる冷たさに無理矢理押し上げられて
    覚醒した視界は受け止めた情報量の多さに頭が重くなる……

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:29:56

    どこかげんなりしたまま洗面台を後にして
    キッチンで昨日と同じようにスマホのラジオと
    冷凍のドーナッツとインスタントのコーヒーを…と思ったところで
    考えを改める

    折角だし、いつもどうりじゃないのもいいかもね……

    コップに注いだ水道水を飲み干す
    カルキの匂いが薄く漂うそれを胃に収めると
    一直線に動き始めた。

    クローゼットから折り目正しくしておいたヴァルキューレの制服を出す。
    タイツを身に着けてから、シャツに袖を通してタイトスカートのジッパーを上げる。
    ネクタイの左右の長さを合わせてからクルクル折るように首下で結んで
    ベスト、上着の順にさらに袖を通す。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:30:53

    ガンロッカーからヴァルキューレから支給された
    第14号ヴァルキューレ制式ライフルを手に取り
    構えながらスコープのツマミを弄っていつ振りかの
    ゼロイン調整をおこなう

    だいたい、これくらい……?

    必要なものと銃を肩に担いで、玄関に用意もとい
    脱いでそのままにしていたビビッドカラーのスニーカーの
    靴紐を足に合わせながら丁寧に履いた。

    帽子掛けに吊るしておいた制服の帽子を被って玄関の扉に手をかける。
    扉に力をかける前に、つま先をトントンと鳴らして靴の履き心地を整えてから
    いつもよりも早い時間の扉を開けた。

  • 9二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:43:57

    まだ日が昇ってまもないD.U.の朝を歩く。
    上着に手を突っ込んじゃうくらい少しの寒さが漂う
    喧騒とはかけ離れた別世界の様な静かさを
    私と道路を走る少ない車だけが謳歌している。

    不思議なくらい静かだなぁ…
    普段もこれくらい静かだったら
    面倒なことなんて起きないのに。

    スマホを点けると出勤時間までは1時間以上も時間が空いてる
    白けつつある青空を見ながら、いつもは曲がる道を無視してまっすぐ進んでみた。

    都市部の真ん中にあるここでも、少し外れれば古めの意匠や名残の様なものが残っている
    崩れて捲れかけてるアスファルトのぽこぽことした感覚を受け止めながら
    歩道に植えられた街路樹を目で追ううちにいつの間にか
    視線は上がって、並ぶお店に目を奪われている。

    こんなとこに珈琲豆のお店あるんだ
    おっと…ドーナッツ専門店!今日は……定休日かぁ…
    あっ、お肉屋…自家製総菜もあり〼?
    キリノに教えておこう。

  • 10二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:44:46

    朝ごはんを食べていないおかげか妙に食べ物屋ばかりに
    目が行ってしまう。
    どこかで小腹を満たそうと思っても時間的に空いている店を
    ここから見つけるのも難しい……
    眉間に皺を寄せながら歩いていると、エンジェル24の看板が朝日と仲良く並んでいる。



    『いらっしゃいませー』

    お客さんの一人もいないコンビニを我が物顔で物色する
    見慣れたコンビニチェーンの店内も場所と少しの内装が違うだけで
    全く別のお店に感じてしまうのは、今が朝だからかもしれない

    適当な事を感じながら、パンコーナーと睨めっこする

    うーん…ドーナッツ…チョコにふわもち…
    オールドファッションもいいなぁ
    けど、ドーナッツは昨日食べたから総菜パン?

    一度考えを整理しようと別な棚に視線を外すと
    ポップで装飾された一押し商品が目に入ると
    すかさず手に取って、さっきまで悩んでいたドーナッツに目もくれず
    レジに向かう。

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:45:56

    期待

  • 12二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:47:36

    「すいません、これお願いします。」

    『ありがとうございます、ポップターツが1つ…』


    「あと、ホットコーヒーも。」

    『はい、ホットコーヒーが1つですね…

     ポップターツは温めますか?』


    店員さんの発言にレジの奥を覗くと

    電子レンジの他にトースターが置いてあるのが見えた。


    「うん、お願いしまぁす。」

    『かしこまりました……

     2点でお値段、398円になります。

     お支払いは?』


    私は懐から学生証を取り出して

    店員さんに見せると慣れた手つきで

    店員さんはレジを操作する。


    『かしこまりました…では、タッチお願いします。』


    学生証をレジの読み込み部分にタッチすると

    軽快な音が決済の完了を教えてくれた。


    『ありがとうございます、こちらコーヒーのカップです

     少々お待ちください。』

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:48:37

    他のお客さんがいないからか
    どうもこの時間が手持無沙汰で歯がゆいような
    気まずさが漂ってくるのを遮るように
    チーン!と小気味良い音が私と店員さんの間に木霊する。

    トースターからせり上がったポップターツを
    店員さんがトングを使って元々入っていた包装に入れ直す。

    『お待たせしました。』
    「ありがとう。」

    ポップターツを受け取って自動ドア前の
    コーヒーマシンに向かおうとすると
    再び店員さんに声をかけられた。

    『お巡りさん、いつもありがとうございます。
     頑張ってください。』
    「……うん、店員さんもお互いほどほどにね。」

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:49:58

    コンビニから出ると再びの肌寒さが体を包む
    カップ越しに伝わる熱で手を温めながら
    大回りするように川沿いから生活安全局を目指す。

    まだ時間はあるけどねぇ…

    朝日を反射しながら緩やかに波打つ水面を眺めながら歩いていると
    ちょうどいい具合に古びたベンチが顔を出している。
    変に塗れてたり汚れていないか目で確かめてみてから
    深くそこに腰を降ろした。

    はぁ…休憩時間だぁ……!

    ぼぉーーっと空を眺めながら
    溢さないようにコーヒーを一口…
    苦い…普段飲んでいるインスタントよりもあたたかな苦さが舌に馴染む。

    口を折ってポケットに突っ込んでいたポップターツを
    1枚取り出してこれも一口

    「うぇ、あっまぁ!?」

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:51:08

    思わず声が漏れた。
    これ、こんなに甘かったっけ…?
    コーヒーを流して中和する…き、危機は去った……
    次第に甘さにも慣れてきて、気が付けば齧っては啜ってを繰り返すだけの
    マシーンになっていた。

    お、恐ろしい……

    涼しくけど陽射しは人肌程度に温かい
    ゆったりとした自然が染みる時間なんてキヴォトスであったか分からない。
    風と鳥、そして少し遠くの道路から聞こえるタイヤと排ガスの音
    贅沢な時間というには多少騒がしい普通の時間…だけど

    贅沢なのに普通って変じゃない?
    まぁ、いっかぁ…こんなに静かなんだし堪能しなきゃ悪いよ。

  • 16二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:52:08

    再びコーヒーを啜ろうとカップを傾けると
    スマホではなく無線機から通信音が入る。
    気にせずコーヒーを傾けようとするも
    この場では異質すぎる音に気を取られて、つい無線機を取ってしまった。

    「はい、こちら……」
    『フブキ!今どこですか!?』
    「キリノ、どうしたの。」
    『どうしたもありませんよ、フブキ!
     もう始業時間が来てしまいます!』
    「えっ?」

    スマホを点けてみると液晶には

    [8:22]

    と表示されている。
    の、のんびりしすぎた…!?
    反省文なんて面倒…とぐるぐる思考が回っているのをお構いなく
    無線機越しにキリノが続けた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:53:22

    『そんなことより、現在D.U.にて強盗が逃走中との報告です!
     本官達で捕まえれば、警備局や公安局からお声がかかるかもしれません!』

    それは、キリノが嬉しいだけじゃ…
    適当に相槌を打ちながらキリノの話を右から左へ流す。
    静かで涼し気な朝は何処に…と感じながら遠い青空に目を向ける。
    川向こうの先で爆発が起きた……!?

    ば、爆発…!!??

    気が付くと、発砲音やら車のタイヤが激しく擦る音が聞こえてくる。
    まるで、いつもどうりみたいに……

    『フブキ、聞いてますか?』
    「わかったよ、今から現場に向かうから。」

    無線を切って、息を吐くと同時にベンチに体を預ける。
    騒がしくて仕事が増えそうないつもどうりの日々……
    のろのろとベンチから体を起こして、現場の方に向かって歩き始める。
    気づかないうちに口元に笑みを抱えながら……

    「はぁ、やっぱり…面倒くさぁ……」




    周波数70.0hz fin.

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 09:58:21

    以上となります。
    朝に散歩していたときに思いついたssです。
    劇中に出てくるポップターツはアメリカの実在のお菓子になります。
    タイトルの周波数はフブキの趣味のラジオから
    70.0hzは周波数と平均心拍数の数値から、いつもどうりということです。
    お付き合いいただきありがとうございました。

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 12:11:57

    どうしてこんなドブ底に宝石を捨てるような真似を……?

  • 20二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 13:36:11

    絶対支部とかハーメルンにも上げた方がいいやつ

  • 21二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 13:38:19

    >>19

    そう言ってもらえてありがたいです。


    反応があったか目に見えて分かるのは

    この掲示板のいいとこでもあるので…

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 20:59:04

    まさにコーヒーや甘味を共にしながら読むのに適した良い短編

    思いがけない掘り出し物を見つけた気分だ


    >>21

    それはせやね


    読み返す時とかはハーメルンとかの方が便利なんで、気が向いたら後からでも上げてくれるとありがたい

    あと新作の投下があった時に気付きやすいし

  • 23二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 22:13:22

    良いSSをよませてもらった、感謝

  • 24二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 22:18:46

    渋やってないのん…?
    もっと読みたいんだが

  • 25二次元好きの匿名さん25/05/28(水) 22:20:54

    >>22

    >>24

    渋は持ってるけど一応、動いてるのはここと笛だけ

    申し訳ないけど短編の移植は今のところ予定は無いです

オススメ

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