- 1◆YAChL6C6So25/05/29(木) 18:57:52
- 2◆YAChL6C6So25/05/29(木) 18:59:00
【キャラクターの基本情報】
◇オペラ座の怪人:
オペラ座のどこかに住み、暗躍する謎の人物。クリスティーヌに恋をしていて、姿を隠しながら彼女と交流をとっている。
◇クリスティーヌ・ダーエ:
オペラ座の若く美しいソプラノ歌手。怪人からの指導で頭角を現している。彼から想いを寄せられていることに気づいている。
◇ラウル・シャニュイ子爵:
クリスティーヌの幼馴染で情熱的な青年。彼女と再会して互いに恋するが… - 3◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:13:10
時は1880年。パリ・ガルニエ宮――壮麗なるオペラ座。
大理石の階段、赤と金の豪奢な緞帳、気品と欲望の入り混じるその空間では、芸術の名のもとに栄光と嫉妬が日々交錯している。観客たちは、華やかな舞台の裏で繰り広げられる愛憎劇に気づかぬまま、ただ陶酔する。
しかし、その絢爛たる劇場の奥底には、誰にも姿を見せぬ“ある存在”が棲んでいた。
それは、誰もが噂には聞くが、誰も見たことのない――「オペラ座の怪人」。 - 4◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:13:54
夜明けを告げる鐘が鳴り響いたパリの朝。
石畳の街路に霧が立ちこめる中、オペラ座の正面入口に一台の馬車が到着する。
扉が開き、オペラ座の新たな支配人となったファーミン・リチャードと、新しいパトロンであるラウル・シャニュイ子爵、そしてその兄であるフィリップ・シャニュイ伯爵が姿を現す。
黄金の内装がまばゆく輝く大階段のホールを、案内するように現れたのは、黒衣の婦人――マダム・ジリーであった。
「ようこそいらっしゃいました、新支配人様。お二人のシャニュイ様も……。ですが、まずはこれを。」
そう言って彼女が差し出したのは、漆黒の封筒に赤い蝋が押された手紙。
受け取ったリチャードがその封を切ると、中から流れるような筆致の書かれた紙が現れる。 - 5◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:14:38
- 6◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:15:38
- 7二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:16:40
3
- 8二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:19:25
原作のここの選択の結果がシャンデリアだっけ
2 - 9二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:19:58
1
- 10二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:20:09
3
- 11◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:21:05
1.無視
2.ジリーに問う
3.シャニュイ兄弟と相談
dice1d3=1 (1)
- 12◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:24:29
リチャードは手紙を読み終えると、深いため息をつき、唇をすぼめて肩をすくめた。彼の赤ら顔は、怒りによるものか、嘲りによるものかは見分けがつかなかった。
「……まったく、冗談じゃない。この私が、得体の知れない幽霊の機嫌を取らねばならんと?」
リチャードは手紙を丸めてくしゃくしゃにし、無造作に金箔の植木鉢へと投げ入れた。
「こういう馬鹿げた迷信が、劇場を不安定にするのです!――マダム・ジリー、次にこんな紙切れを持ってきたら、あなたを休職処分にしますよ。よろしいですか?」
その言葉に、マダム・ジリーは目を伏せ、静かにうなずいた。 - 13◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:25:05
リチャードは胸元の金懐中時計を取り出し、針を見つめた。几帳面な彼は時間通りに進まぬ物事を極端に嫌う男だった。芸術などという感情の産物にも、経営者としての規律と計算を持ち込もうとする人物。
先代の支配人たちが“怪人”の要求を黙認していたという話も、彼にとっては怠惰と愚行の象徴に過ぎなかった。
「プリマドンナ? クリスティーヌ……? 名前も知らん。カルロッタ嬢がいるではないか。役割は決まっている。芸術に“抜擢”などという不確定要素は不要です。」
言い捨てると、彼は足早に書類室へと去っていった。 - 14◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:25:54
廊下に取り残されたラウルは、リチャードの後ろ姿を眺めつつ、あの手紙の中にあった名前を反芻した。
「クリスティーヌ・ダーエ」
ああ、まさか。あのクリスティーヌ……?
記憶の奥から、ノルウェーの海辺の、あの夏が浮かび上がる。
幼いラウルが避暑に訪れたとき、よく一緒に砂浜を走った、麦色の髪の少女。
あの時の少女が、いまやオペラ座の舞台に……。
ラウルは無意識に、胸ポケットに忍ばせた銀のペンダントをそっと指でなぞった。
それは、別れの日、彼女から手渡されたもの――「またきっと会える」と言って。
「……クリスティーヌ。君がここにいるのなら……」
彼の心に、今まで感じたことのない熱が灯り始めていた。
それは、恋というにはまだ純粋すぎて、想い出というには熱を帯びすぎていた。 - 15◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:27:18
【次に操作するキャラクター】
クリスティーヌ
1.舞台裏の鏡の前で、見えない“師”と声で会話する
2.歌の稽古をしているとき、ラウルが訪れて戸惑う
3.カルロッタに厳しい嫌味を言われ、気持ちが沈む
4.安価 - 16二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:28:13
1
- 17◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:28:16
- 18二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:29:37
2
- 19二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:30:48
- 20◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:34:39
- 21◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:36:23
天井の高い練習室。窓から差し込む午前の光が、舞い落ちる埃に金色の光輪を描く。
中央には、グランドピアノとその脇に立つ指導役の老音楽家。そして、その傍らで伸びやかに歌う一人の少女――クリスティーヌ・ダーエ。
透き通るような声が響いた瞬間、部屋全体がしんと静まり返った。
彼女の歌声は、まるで空気そのものに命を与えるようだった。技術に頼らず、魂から湧き出すような響き。
その声は、彼女の背後――鏡の奥からも、ひそやかな称賛を受けていた。
音楽家が譜面に目を落とした隙に、クリスティーヌは鏡へと視線を送り、小さく口を動かした。
(聞こえていましたか……? 先生……)
そのときだった。
部屋の扉が、控えめなノック音とともに開いた。 - 22◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:36:55
現れたのは、華やかな礼服に身を包んだ若き紳士――ラウル・シャニュイ子爵。
彼の目がクリスティーヌに触れた瞬間、表情が一変する。
「……やはり、君だったのか。クリスティーヌ……!」
その声に、クリスティーヌの胸ははじけるように跳ねた。
彼女は思わず一歩後ずさる。
見間違いではない。あの、海辺で別れた少年が――ここに立っている。
「ラ、ラウル……!でも、どうして……?」
ラウルは数歩近づき、しかし敬意を込めて距離を保ったまま、微笑んだ。
「偶然だ。兄と共にこの劇場に出資することになって……まさか、あの時の君にここで再会できるとは。
君の歌声を聞いた瞬間、子どもの頃のあの日々が蘇った。君は……ずっと夢を追い続けていたんだね。」
クリスティーヌは頬を染め、胸元を押さえた。
しかしその胸の奥には、もう一つの気配が微かに揺れていた。
“彼”が見ているかもしれない。あの鏡の奥から――。 - 23◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:37:33
ほの暗い通路。そこに、仮面の男が立っていた。
白い仮面の下、その目は冷ややかに細められ、まるで魂を読むように、クリスティーヌとラウルを見つめていた。
「……彼か。君の“過去”が、今になって現れるとはな。」
彼の口元が、わずかに歪んだ。 - 24◆YAChL6C6So25/05/29(木) 19:38:28
- 25二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:47:39
- 26二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:49:26
3
- 27二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 19:52:38
- 28◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:08:27
- 29◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:10:17
ラウルは一瞬、誘いたいという衝動を感じた――このまま彼女の手を取り、もう一度あの海辺の続きを語り合いたいと。
だが彼はそれを押しとどめた。目の前にいる彼女は、もはや“かつての少女”ではない。
舞台に立ち、自らの夢に向かって歩む立派な一人の歌姫だった。
彼は深く息を吸い込み、優しく微笑んだ。
「……君の歌には、魔法のような力があるね。再会できただけで、今日は十分だよ。」
クリスティーヌはその言葉に、ゆっくりとうなずいた。
彼女の瞳が微かに揺れる。ラウルの言葉は、どこか懐かしい海の風のように、心の奥深くを撫でた。
「……ありがとう、ラウル。あなたが……そう言ってくれるなんて……。」
それは奇跡のようなひとときだった。
けれど、彼女の心には微かに影が差していた。
ラウルの再会の言葉の裏に、どこか見透かされるような怖さを感じた。
“あの人”が黙って見過ごすとは思えない――。 - 30◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:10:36
仮面の男――オペラ座の怪人は、ただ黙ってその会話を見つめていた。
彼の右手は、黒いコートの内側にある何かをぎゅっと握り締めていた。
だが次の瞬間、彼は冷静さを取り戻し、静かに後ろへ身を引いた。
足音は一切響かない。
ただ、その場の空気だけが、凍てつくように冷たくなるのだった。 - 31◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:11:35
【次に操作するキャラクター】
カルロッタ・ジュディチェルリ(オペラ座のプリマドンナ)
1.支配人室を訪れ、自分の地位を再確認させようとする
2.安価 - 32◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:11:46
- 33二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:17:16
- 34二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:25:16
- 35二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:29:56
- 36二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:30:22
- 37◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:31:22
- 38◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:35:14
深紅のベルベットのローブに身を包み、金のイヤリングを揺らしながら、カルロッタ・ジュディチェルリは鏡の前で唇を噛んでいた。
顔はすでに白粉で完璧に整えられていたが、その表情には明らかな怒りが宿っていた。
「クリスティーヌ・ダーエをプリマドンナに――!?」
その情報を耳にしたのは、舞台装置係の取り止めのない噂話からだった。だが、カルロッタにとっては噂であることすら許せなかった。
「まさか、あの小娘が私の役を? 私の舞台を――? オペラ座はついに狂ったのね!」
バタン、とドアが開き、そこに現れたのは彼女の舞台パートナーであり、長年の盟友でもあるテノール歌手――ウバルド・ピアンジ。 - 39◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:35:52
ピアンジは年齢の割に若作りの衣装を着ていたが、歌声には確かな力があり、カルロッタと最も多くの舞台を共にしていた人物だった。
彼女の苛立ちを見て、彼は慎重に口を開いた。
「……カルロッタ、落ち着いて。まだ支配人が決定したわけでは――」
「いいえ、ウバルド! あの手紙よ! “オペラ座の怪人”とやらが、支配人に圧力をかけたのよ!私を差し置いて、あの小娘をプリマドンナに!? そんな侮辱があるかしら!」
彼女は激昂しながら床を踏み鳴らすと、髪をまとめていた金のかんざしが外れ、巻き毛が一房、頬に垂れた。
その目には、怒りと、なによりも恐れがあった。
「ウバルド……私、信じていたの。あの“怪人”はただの迷信だって。でも、これ以上私の舞台に口出しするというのなら――」
彼女はぎらつく目でピアンジを見つめた。
「探し出してやるのよ。 オペラ座のどこかに潜んでるんでしょう?“怪人”とやら。このオペラ座で、私が“脅される側”になど、なってたまるものですか!」 - 40◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:36:30
カルロッタとピアンジは、使用人から得た情報を頼りに、地下の古い通路へと足を踏み入れていた。
暗がりの中、蝋燭の明かりが石壁に揺れ、彼らの影が歪んで伸びる。
通路には埃が積もり、使われなくなった衣装や小道具が乱雑に置かれていた。
ときおり、どこからともなく音楽の断片が流れてくる。それは、まるで天井や壁の奥から聞こえてくるかのようだった。
「……誰かが、歌っている……?」
カルロッタが囁いたその時――。
パシャッ。
どこからか、何かが落ちる音。
そして、石壁に刻まれた一行の文字が、蝋燭の火に浮かび上がる。
「私の劇場を汚す者には、報いを。」
カルロッタは顔を引きつらせ、しかし唇を震わせながらも叫んだ。
「出てらっしゃい!“怪人”とやら! 貴方に、私の舞台は渡さない!!」
静寂の中――まるで返答するかのように、どこかから不気味な笑い声が響いた。 - 41◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:38:03
- 42二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:39:02
- 43二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:42:37
ここは選択肢でいいかな
2 - 44二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:53:10
- 45◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:53:59
- 46◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:56:59
豪奢なカーテンと厚い絨毯に包まれた支配人室では、新任の支配人ファーミン・リチャードが、朝から続く混乱に、頭を抱えていた。
手紙、噂、「オペラ座の怪人」というあり得ない名前。
「こんな戯言、真に受ける方がどうかしてる。」
その瞬間――扉の向こうから、静かで重いノック音が響いた。
「誰だ……?」
使用人ではない、俳優でもない――まるで風そのものが立ち上がってノックしたかのような静けさ。
「お入りを……」
ゆっくりと扉が開かれ、そこに立っていたのは、異国の黒衣に身を包んだ男――“ペルシャ人”だった。
目は深く落ち着き、黒檀の杖を静かに携え、まるで時間から切り離された存在のように部屋へと入ってきた。
リチャードは、一瞬その気配に飲まれて言葉を失った。
「……失礼します。少々、忠告にまいりました。」 - 47◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:58:15
「……貴方方が今朝受け取った手紙、間違いなく“彼”のものです。」
「“彼”? 誰のことだ?」
「……オペラ座の怪人。だが、我々がそう呼ぶのは“便宜上”にすぎません。
彼の正体を本当に知る者は……ごくわずかです。私も、その一人。」
リチャードは思わず椅子から腰を浮かす。
「じゃあ本当にいるのか?化け物が、我々の劇場の地下に?」
ペルシアン「化け物かどうかは、見る者の判断次第です。ただひとつ確かなのは――彼を怒らせてはなりません。
かつてそれを軽んじた者たちが、どうなったか……私は知っています。」
リチャードが唾を飲み込む音が、部屋に響いた。
「では……我々は、従えというのか?」
ペルシアンは一瞬だけ目を伏せた。
「私は……忠告しかできません。
『5番ボックス席』と、『クリスティーヌ・ダーエ』の名が記されたこと――それは、彼が本気でこの劇場を支配しようとしている証です。
忠告に従えば平穏が、無視すれば破滅が、貴方がたを待つでしょう。」 - 48◆YAChL6C6So25/05/29(木) 20:59:05
- 49二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 20:59:43
- 50二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:10:27
1
- 51二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:13:59
- 52◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:14:49
- 53◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:17:42
その午後、舞台袖近くの一角で、バレリーナたちが衣装の裾をさばきながら談笑していた。
中でも、小柄で快活な少女――メグ・ジリーは、母マダム・ジリー譲りの観察力と好奇心を持ち合わせていた。
彼女はバレエの稽古を終えると、まだリハーサル中だったクリスティーヌ・ダーエの控え室を覗き込み、声をかけた。
「クリスティーヌ!……ねえ、ちょっと、今朝の話、聞いた?」
「え……何のこと、メグ?」
メグは辺りを気にしながら、そっと扉を閉めると、椅子の端に腰掛けた。
「カルロッタとピアンジが……今朝から地下を探してるの。
“あの人”――“怪人”を、見つけ出そうとしてるんだって。」
「……“あの人”?!」
クリスティーヌの顔が、僅かに強ばった。
胸の奥で、遠くのパイプオルガンの音色のような震えが広がっていく。 - 54◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:18:18
メグは言葉を選ぶように続けた。
「ママが言ってたの。あの人は……怒らせちゃいけないって。
オペラ座の仕組みのことも、舞台装置も、地下の迷路も……全部知ってる人なんだって。
でもカルロッタったら、『そんなの迷信だ』って大声で怒鳴って……。」
「それで、地下へ……?」
「うん。さっき、劇場の裏の階段で、ピアンジが手にロウソク持って降りていくのを見たの。
……でも、しばらくして、誰かの叫び声が聞こえてきて――すぐ静かになったの。」
「……!」
クリスティーヌは胸元に手を当てる。
鼓動が早まる。
(もし……彼が、本当に怒ったら……)
「ねえ、クリスティーヌ……もし“怪人”のことで何か知ってるなら……私にも教えてくれない?」
「……いいえ、何も……」
そう答えながらも、彼女の目は控え室の鏡へと自然に向かっていた。
そこに自分の姿――ではなく、
“もう一つの世界”が潜んでいるような気配が、確かに感じられた。 - 55◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:18:48
仮面をつけた男は、蝋燭の灯のもと、ペンを走らせていた。
「メグ・ジリー。観察眼の鋭い娘だ……。
だが、君の目が“我々”にまで届くことは、許されない。」
彼は静かに、もう一通の手紙を封蝋した。
宛名には、こう書かれていた。
《マダム・ジリー 殿》 - 56◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:19:39
- 57二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:20:28
- 58二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:24:59
3
フィリップとリチャードと怪人について話し合う - 59二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:34:58
- 60◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:35:39
- 61◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:40:04
午後も深くなった頃、ラウル・シャニュイ子爵は、白い手袋を外しながら回廊を歩いていた。
彼はどこか落ち着かない様子で、舞台裏をさまよっていた。理由は自分でも分かっていた。
(彼女は、何か隠している……?)
練習室で交わした、ほんの短い会話。
その中で感じ取った、クリスティーヌの瞳の奥にある不安――それが、どうにも心に刺さって離れなかった。
その時、曲がり角の向こうから、足音がひとつだけ、近づいてくるのが聞こえた。
黒いシルクの上着に身を包み、深い瞳をした男が、静かに現れる。
「……子爵殿」
「あなたは……?」
「お初にお目にかかります。私は“ペルシアン”と呼ばれております。」
「……それで、何か用か?」
ペルシアンは一歩近づくと、ラウルの肩にそっと手を置いた。
「一つだけ、忠告を申し上げます。この劇場では、目に見えるものより、目に見えない通路の方がはるかに多い。
そして“彼”は、そこを自在に行き来し、見るべきでないものを見せない力を持っています。」
「彼……?まさか、本当に“オペラ座の怪人”が実在するというのか?」
「実在しないと、言う理由があるのですか?」
その声はまるで、深い井戸の底から響くようだった。 - 62◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:40:48
一方その頃、オペラ座の地下、
舞台下へと続く石造りの階段に、二人の人影がうずくまっていた。
――カルロッタとピアンジ。
煤と埃にまみれ、衣装の裾もボロボロ。ピアンジは鼻にかすり傷を負い、カルロッタは口を真一文字に結んでいた。
「……あんなもの、化け物じゃないの……!あの顔、あの声……!!」
「カルロッタ、静かに!誰かが……まだ近くにいるかもしれない!」
暗闇に灯る蝋燭の灯が、遠ざかる足音の気配を映していた。
「……『二度と、この迷宮に踏み込むな。次は、命を奪う』……!この紙切れを!こんな紙切れをっ!」
カルロッタは、怪人から突きつけられた警告の手紙を振り回していた。
その筆跡は、まるで鋼で刻んだような冷たい文字だった。
「あの怪物……!絶対に許さない……!」
だが、心の奥底では彼女も気づいていた。
――自分が、踏み込んではならない場所に、足を踏み入れてしまったのだと。 - 63◆YAChL6C6So25/05/29(木) 21:41:28
- 64二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:42:46
- 65二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 21:46:00
どれくらい自由に動かしていいか分からん
2 - 66二次元好きの匿名さん25/05/29(木) 22:30:35
- 67◆YAChL6C6So25/05/29(木) 22:33:13
- 68◆YAChL6C6So25/05/29(木) 22:36:41
夕刻、赤絨毯に包まれた支配人室でファーミン・リチャードが背もたれに深く腰を沈め、ため息を漏らしていると、ノックの音が静かに響いた。
「失礼いたします……」
現れたのは、黒のレースをまとった老婦人――マダム・ジリーであった。
「ああ、マダム・ジリー。……何か?」
「……再び、あの方からのお預かりものがございます。」
リチャードの顔色が曇った。
マダム・ジリーは、机の上にそっと封筒を置いた。
淡い灰色の紙に、血のように濃い赤いインクで、筆記体が綴られていた。 - 69◆YAChL6C6So25/05/29(木) 22:37:55
《オペラ座の新支配人 ファーミン・リチャード 殿》
本日、劇場内にて余計な探索の気配を感じた。
わたしは舞台を護る者にして、沈黙を好む者である。
今一度、警告する。
これ以上の詮索、地下への立ち入り、わたしの存在に関する追及は一切禁ずる。
違反すれば、次は“事故”では済まぬ。
――O.G.
「……これは……脅迫ではありませんか!?」
リチャードは目を見開いて手紙を握りしめた。
「カルロッタが行方不明になったと報告を受けたのは、数時間前です。
まさか……“彼”が、それを……?」
「申し訳ありません、支配人様……ですが、“あの方”は、決して手段を選ばぬお方でございます。」
マダム・ジリーは丁寧に言葉を選んでいたが、その口調の裏には、長年この劇場で蓄積された恐れと忠誠がにじんでいた。
「お願い申し上げます……支配人様。
あの方に関しては、何も問わず、何も探らず、ただ従うことが、
オペラ座の平穏を保つ唯一の道でございます。」
リチャードは、掌に握りしめた手紙の紙の角が手のひらを刺すのを感じながら、静かにうなずいた。 - 70◆YAChL6C6So25/05/29(木) 22:39:13
- 71二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 07:26:32
- 72二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 09:46:47
- 73二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 12:46:47
- 74◆YAChL6C6So25/05/30(金) 12:49:59
- 75◆YAChL6C6So25/05/30(金) 12:52:32
宵の帳が落ち始めた頃、クリスティーヌ・ダーエは、控え室の鏡の前に一人立ち、静かに音階の練習を繰り返していた。
「Do–mi–sol……so–fa–mi……」
音は細く澄んでいて、まるで銀の糸のように部屋に漂っていた。
クリスティーヌは、ピアノも伴奏もないまま、ただ自分の耳と、心の中の“彼の声”だけを頼りに、歌を磨いていた。
「——まあ、ずいぶんと熱心なことね」
不意に、高いヒールの音とともに、女の声が背後から響いた。
姿を見ずとも、それが誰かは分かる。
カルロッタ・ジュディチェルリ。
「カルロッタさん……こんばんは」
「“こんばんは”?まるで使用人に挨拶でもするみたいねぇ」
カルロッタは手袋を外し、クリスティーヌをじっと見据えた。 - 76◆YAChL6C6So25/05/30(金) 12:53:33
「近頃のあなたは急に出番が増えて……噂では“誰か”の“推薦”があったとか?」
クリスティーヌは鏡の奥を見つめながら、ゆっくりと答える。
「私には……ただ、歌しかありません。誰の後ろ盾も、望んでいません」
「まあ。つまらない返事。でも、それじゃ足りないのよ?
オペラ座の舞台は、“声”だけでは輝けないの。“自信”、それと“品格”も必要なの。あなたには、まだそのどちらも足りないわ」
そう言ってカルロッタは、わざとらしくドレスの裾を直しながら、鏡越しににじる“もう一つの気配”にはまるで気づいていない様子だった。
クリスティーヌがふと視線を逸らすと、
鏡の奥に、一瞬だけ——仮面をつけた誰かの輪郭が浮かんだように見えた。
だが、瞬きの間に、それは消えていた。
「お気の毒ね、クリスティーヌ。
あなたがどんなに努力したって、私はプリマの座から降りるつもりはないの」
「……分かっています」
カルロッタは冷たい笑みを残し、くるりと踵を返して出て行った。
部屋に残されたのは、静寂と、誰かの視線のような、見えざる重みだけだった。 - 77◆YAChL6C6So25/05/30(金) 12:54:31
- 78二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 14:12:02
- 79二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 16:28:44
2
あんこ形式にしたら?
スレ主が1,2,3からダイス振って3.安価が出た時だけ募るって感じに - 80二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 16:29:37
- 81◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:33:18
- 82◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:34:08
選択肢2です
- 83◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:39:29
深夜のオペラ座は、不自然なほど静まり返っていた。
誰もが帰路につき、蝋燭の火もまばらに揺れるのみ。
だが、地下の迷路を這うように、誰かの足音が上階へと向かっていた。
その者は、どんな音も立てず、影のように壁と同化しながら進む。
やがて、その足は、カルロッタの名が記された扉の前で止まった。
——“彼”は鍵を開ける必要すらなかった。
静かに扉が開き、仮面の男は、香水と化粧品の香り漂う部屋へと足を踏み入れる。 - 84◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:40:08
鏡台の上、白い封筒が一通。
そしてその下には、黒いビロードの布に包まれた、小さな銀の小瓶。
封筒の表には、達筆でこう記されていた。
《カルロッタ・ジュディチェルリへ》
中の手紙には、こう記されている。
⸻
美しき“声”は、傲慢と共には生きられぬ。
汝の咽喉に、我が怒りを通わせたくはない。
わたしは、“正しき調和”を望む者である。
だが、汝が舞台に立つことを続けるのなら——
次の公演で、観客が耳にするのは“音楽”ではない。
O.G.
⸻
そして、小瓶に貼られた紙片には、ただ一言——
「毒」 - 85◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:40:56
カルロッタは、稽古から戻った部屋の中で、その封筒と、小瓶を見つけた。
最初は顔をしかめただけだったが、手紙を読み終えた瞬間、手が震え、瓶が床に落ちて割れた。
「……あの、化け物……! わたくしに、こんな……!」
鏡の中に、自分の青ざめた顔が映る。
だがその鏡の奥——そこに一瞬、“白い仮面”の影が映ったように見えた。
彼女は振り返った。誰もいない。
だが、確かに見られていた。
彼は、どこにでもいて、そしてすでに全てを知っているのだ。
カルロッタの喉が、恐怖で締めつけられた。
それは歌手にとって、最も忌まわしい感覚だった。 - 86◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:44:48
【次に操作するキャラクター】
ラウル・シャニュイ子爵
1.クリスティーヌに「夜に楽屋口で会いたい」と書いた手紙を渡す
2.兄・フィリップ伯爵に相談し、クリスティーヌれの想いを打ち明ける
3.安価
dice1d3=3 (3)
──
安価形式からあんこ形式に変更します。
以降、安価の回数が減るものと思われますが、話の展開に対してコメントや感想いただけますとモチベが上がって嬉しいです。
- 87◆YAChL6C6So25/05/30(金) 16:45:11
- 88二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 16:50:48
- 89二次元好きの匿名さん25/05/30(金) 20:15:59
2
- 90二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 00:49:50
- 91◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:10:16
- 92◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:36:25
午後三時。
陽の光がパリの石畳を眩しく照らす中、オペラ座の支配人室では、重苦しい沈黙が落ちていた。
カーテンの隙間から差す光の筋の中に、三人の男が立っている。
ラウル・シャニュイ子爵、その兄であるフィリップ・シャニュイ伯爵、そしてオペラ座の新支配人、ファーミン・リチャード。
机の上には、一通の脅迫状と、割れた小瓶の破片が収められた銀の皿が置かれていた。
「毒、だと……? そんな馬鹿な話があるものか!」
リチャードは額に汗を浮かべ、懐疑と不安の間を行き来するように声を荒げた。
「見せかけの悪戯に決まってますよ。……ええ、そうに違いありませんとも!」
だがフィリップは冷静だった。
手袋越しに手紙を持ち上げ、怪人の署名「O.G.」を見つめながら口を開く。
「これは……本物だな。手紙の筆跡、紙の質、署名——
どれも“例の男”が以前支配人に送ったものと同じだ」 - 93◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:36:40
ラウルは、窓際に立ったまま、声を押し殺して言った。
「……カルロッタは震えていた。
こんなことがあっても、次の舞台に立たされるのか?」
リチャードは慌てて否定する。
「もちろん、我々としても安全を第一に——ただ……代役となると、ええと……」
「クリスティーヌだ」とラウルが口を挟む。
「怪人が望んでいるのは、明らかに彼女を——」
「ラウル」
フィリップが遮るように言った。
「君が個人的感情で話していないことを願うよ」
ラウルは何も答えなかった。 - 94◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:37:24
支配人は机に肘をつき、顔を両手で覆いながらうめく。
「……いったい、どうすればあの怪物を止められる?
我々は劇場を任されているだけで、幽霊退治をするつもりじゃなかった……!」
フィリップは静かに言った。
「……まずは、劇場の構造を知ることだ。
あの男は、舞台裏のどこかに“棲んでいる”。それを見つけねばなるまい」
「あなたはそれでも、本当に彼が“実在する”と思っているのですか?」
とリチャードが問うと、フィリップは一瞬目を細めた。
「私は……“実在する影”を信じている。この手紙と脅迫の現実が、その証明だ」 - 95◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:38:19
【次に操作するキャラクター】
マダム・ジリー
1. 怪人から新たな指示の手紙を受け取り、それをリチャードに届ける
2. 娘メグから、クリスティーヌが“鏡に向かって話していた”という話を聞き、不安を覚える
3.>>96 (安価)
dice1d3=2 (2)
- 96◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:41:53
午後の柔らかな光が、レースのカーテン越しに差し込む稽古室。
床は使い込まれて光沢を帯び、少女たちの軽やかなステップが木板に小さく響いていた。
その隅で、マダム・ジリーは、扇子を膝に乗せて座り、娘の踊りを見守っていた。
娘、メグ・ジリーは今日もひときわしなやかに、腕を伸ばし、つま先を合わせ、スピンのたびに金髪がふわりと宙に舞った。
しかし、稽古が終わると、メグは息を弾ませながら近づき、誰にも聞かれぬよう、母の耳元で囁いた。
「ママ……今朝ね、私、クリスティーヌが鏡に向かって話してるのを見たの」
マダム・ジリーの目が、細くなった。
「ひとりで、よ。……でも、まるで返事が返ってくるみたいだったの。
鏡に、誰かがいるみたいに。“先生”と呼んでたわ」
その言葉に、マダム・ジリーの手から扇子が滑り落ちた。 - 97◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:42:36
——また……鏡。
かつて、彼女も目撃したことがあったのだ。
鏡の中に現れた“扉”。
そして、そこから伸びてきた白い手。
ラウル子爵や支配人たちが「怪人」を半信半疑で語る中、
マダム・ジリーには、はっきりとした確信があった。
「彼」は、本当にこのオペラ座に“住んでいる”——
そして今、娘が口にしたその一言が、
その“住人”がクリスティーヌを選び、彼女を連れていこうとしているという事実を、突きつけた。
マダム・ジリーの手は、ひそかに十字を切った。 - 98◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:43:36
- 99◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:45:44
壁一面に飾られた白いレース、香水の香る空気、
机の上に置かれた古いバイブルと、スウェーデンの民謡の楽譜。
だがこの楽屋には、ひとつ異質なものがある——
鏡。
部屋の奥に据えられた大きな三面鏡の中央。
その向こうから、今日もまた、あの声が聞こえてきた。
「クリスティーヌ……静かに、息を吸ってごらん。
今夜の君の声は、銀のように澄んでいる——
私の小夜鳴鳥よ」
その声は甘く、低く、そしてどこか悲しげだった。
クリスティーヌは目を閉じ、鏡の前に立ったまま、歌い始める。
「……夜が静かに 心を包み
夢のなか あなたを想う……」
鏡の向こうの“先生”は、彼女の旋律に寄り添うように、囁く。
「その調べを忘れるな。
君が舞台に立つとき、世界は沈黙し、君の声だけが響くのだ……」 - 100◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:46:15
一方その頃、支配人室では——
カルロッタとピアンジの“安静の必要”が医師から正式に伝えられ、
劇場関係者とシャニュイ兄弟、マダム・ジリーらが再び集まっていた。
「……代役を立てねば、公演は成り立ちません」とリチャード。
「だが、誰に?」とフィリップ。
そのとき、マダム・ジリーが一歩前に出る。
「クリスティーヌ・ダーエがいます」
一瞬、空気が止まったように感じられた。
「彼女には、“特別な才能”があります。
少なくとも、“ある人物”はそう確信している」
誰のことかは、誰も聞かなかった。
だが、その名を耳にしたラウルの顔に、血の気がさっと引く。
やがて、リチャードが言った。
「……よろしい。ダーエ嬢に代役を命じましょう。
今宵、舞台に立ってもらいます」 - 101◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:46:57
レッスンを終えたクリスティーヌの胸に、金文字で封蝋された手紙が届いた。
ラウルの筆跡だった。
「今夜、君の名が世に知れ渡る。どうか、僕の前でその輝きを見せてくれ。
——ラウル」
彼女はそっと手紙を胸に抱き、
鏡越しに、微かに“先生”の影を探した。
だが、鏡はもうただの鏡だった。
“彼”は何も言わなかった。 - 102◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:48:38
【次に操作するキャラクター】
ペルシアン (怪人の秘密を知る人物)
1.誰にも気づかれぬように地下へ降り、怪人の隠れ家を探る
2.客席に座って“ある人物”の様子を観察する
3. >>103 (安価)
dice1d3=1 (1)
- 103◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:51:00
劇場の賑わいが嘘のように、その階段を数段降りた時点で、空気は変わった。
湿気、石の匂い、そして足音が吸い込まれるような沈黙。
ペルシアンは、黒いマントをまとい、音を立てぬよう、足先から滑らせるように歩を進めた。
この迷路のような地下を、彼はかつて、ある“亡霊”と共に歩いたことがある。
「……私は君が現れるのを、待っていた」
その声は、後ろからではなかった。
上でも下でもなく、まるで壁の向こうから響くようだった。
ペルシアンは立ち止まり、目を細める。
「エリック……君は、まだ“彼女”を……?」
「私が望んでいるのは、ただ一人の魂だけだ。
それは、理解されることのない“音楽”が、たったひとりの聴き手を得るようなものだ」
その声には、かつてサハラの地下迷宮で聞いたような、孤独と誇りが混じっていた。 - 104◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:51:11
「君は彼女を“選んだ”のか? 今夜、彼女は舞台に立つ。
だが……彼女にその道を強いたなら、君は……」
沈黙。だがそれは、拒絶ではなかった。
「彼女が歌うなら、私は姿を消そう。
だが誰かが彼女の声を奪うなら、その者には……歌う舌など要らぬ」
ペルシアンは、胸の内に苦いものを感じながら、背後の闇へと目を凝らした。
姿は見えない。だが、気配だけがそこにあった。
そして、闇の奥からわずかに——ヴァイオリンの旋律が聞こえてきた。
悲しげで、気高く、そしてどこか幼子のような孤独をたたえた音。
ペルシアンは、目を閉じてそれを聴いた。 - 105◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:51:58
【次に操作するキャラクター】
ラウル・シャニュイ子爵
1.楽屋に入り、舞台前のクリスティーヌに声をかけ励ます
2.楽屋の扉の前で迷い、扉に手をかけたまま思い出に耽る
3. >>106 (安価)
dice1d3=2 (2)
- 106◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:54:48
舞台の幕が上がる数時間前。
長い廊下の奥、クリスティーヌの楽屋の扉の前に、ひとりの青年が立っていた。
ラウル・シャニュイ子爵。
左手は戸口のノブにかかったまま、動かない。
右手はいつの間にか、胸ポケットの中で何かを握りしめていた。
それは、小さな銀のペンダント。
彼女がかつてノルウェーで彼に託したものだった。
「クリスティーヌ……」
扉の向こうからは、何の音も聞こえなかった。
だが彼の脳裏には、幼き頃の記憶が鮮明に浮かび上がっていた。 - 107◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:55:17
ラウルはそっと息を吐き、ノブから手を離した。
「いや……今はやめておこう。
彼女には、僕の言葉よりも“自分の声”が必要だ」
そのまま、彼は扉の隣にある小さな柱の陰に身を寄せた。
クリスティーヌが出てくるまで、そっと見守るつもりだった。
だがそのとき——床の上に、何かが落ちているのが目に留まった。
一枚の紙片。
震えるような筆跡で、こう書かれていた。
「今宵、彼女が歌うのは私の望みであり、
彼女を見つめる目は私だけであれ。
他の誰かが彼女に触れようとするなら——」
そこで、文字はかすれていた。
血が滲んだような跡さえある。
ラウルは紙を握りしめ、顔を強張らせた。 - 108◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:56:03
【次に操作するキャラクター】
クリスティーヌ・ダーエ
1. 外からラウルの気配を感じて、そっと扉に近づく
2. 手紙を取り出し、ラウルに何か返事を書こうとする
3. >>109 (安価)
dice1d3=2 (2)
- 109◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:58:30
鏡の前のロウソクに火を灯し、楽屋はかすかにバニラと蜜蝋の香りに包まれていた。
クリスティーヌ・ダーエは、化粧道具をそっと脇へよけると、ドレッサーの引き出しから一通の封筒を取り出した。
その紙には、ラウルが残していった手紙が綴られている。
読み返すたびに、胸の奥が痛む。
ラウルの声、笑顔、少年時代の思い出……。
だがその優しさの裏で、心の底から追い払えぬ“もうひとつの声”がある。
——先生の声。
冷たいようで、深く情熱的で、夢と呼ぶにはあまりにも現実的な、音楽の声。
鏡の奥に感じる、誰かの視線。
声には出さないが、確かに彼はそこに“いる”——
クリスティーヌはラウルの手紙の裏を返し、そっとペンを取り、わずか三行だけ、返事を綴った。
「私の心は、ひとつではありません。
あなたは私を照らす光であり、
でも、闇に響く音楽にも惹かれてしまうのです」
書き終えると、それを小さな封筒に入れ、そっと扉の下から滑らせた。
そしてもう一度、鏡を見つめた。
そのとき、鏡の中のロウソクの火が、かすかに揺れた。
彼女は身じろぎもせず、ただ目を伏せる。 - 110◆YAChL6C6So25/05/31(土) 03:59:33
【次に操作するキャラクター】
マダム・ジリー
(開演前、舞台裏の通路にて、ある人物から新たな手紙を預かりました)
1.手紙を支配人ファーミン・リチャードに届けに行く
2.手紙の宛先を見て、クリスティーヌに直接届けようとする
3. >>111 (安価)
dice1d3=1 (1)
- 111◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:01:28
開演前の慌ただしい時間。
舞台裏の喧騒を背に、マダム・ジリーは封筒を胸に抱いて支配人室の扉を叩いた。
「失礼します、支配人様。……“あの方”から、またです」
机に積まれた書類の山の奥から、支配人ファーミン・リチャードが顔を上げた。
「また? まだ幕も上がっていないというのに……」
ジリーは無言で封筒を差し出した。
それには朱のインクで「支配人殿へ」と記されている。
リチャードは小さく舌打ちをしながら封を切る。
——中には、ぴったり折り畳まれた一枚の羊皮紙。
筆跡は相変わらず鋭く、細く、どこか血が滲んだような文字で綴られていた。 - 112◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:03:25
《ファーミン・リチャード 殿》
私は観客席からあなた方の振る舞いを見ていた。
あなた方は、私の「忠告」を“意見”として扱い、
私の「命令」を“戯言”として笑っていた。
今宵、5番ボックスに私は座る。
幕が上がったとき、私の命じた通りクリスティーヌ・ダーエが歌っていなければ、
あなた方が築いたこの“芝居小屋”が本当の劇場になるだろう。
——生と死の劇場に。
――O.G. - 113◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:03:52
沈黙。
リチャードは手紙を机に投げ出し、頭を抱えた。
「まったく、なんだこの男は……!
警察に通報すべきだ、いや、兵を……しかし……!」
視線を上げた先には、表情を変えぬマダム・ジリーがいた。
「……お気持ちは分かりますが、リチャード様。
それは、オペラ座全体を危険に晒す選択です」
「では、どうしろと?」
ジリーはただ一言だけ、静かに呟いた。
「“あの方”は、望みを曲げないお方です」 - 114◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:04:43
【次に操作するキャラクター】
ペルシアン
(支配人室の前を通りかかり、今まさに騒ぎの気配を耳にしました)
1.支配人室に入り、怪人について「忠告」を与える
2.誰にも声をかけず、直接5番ボックスへと向かう
3. >>115 (安価)
dice1d3=2 (2)
- 115◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:06:09
ペルシアンは、支配人室の前で立ち止まり、
扉越しに交わされる声の切迫した音調を耳にしたが、何も言わず踵を返した。
彼は静かに、だが迷いなくボックス席の回廊へと足を進める。
重厚な赤い絨毯を踏みしめながら、周囲の目を避けるように。
「……まさか、このタイミングで姿を現すとは……」
彼はそう呟いた。
“あの男”は、決して気まぐれでは動かない。
かつて命を賭して追った存在、
その知性と狂気を、彼は誰よりも知っている。
5番ボックスの扉の前に立つ。
誰もいないはずのそこから、冷たい空気が、かすかに漏れていた。
彼は手袋を外し、ゆっくりと扉に手をかける——
音ひとつ立てずに扉が開いた。 - 116◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:06:22
薄闇の中、舞台を見下ろす特等席。
だがその座席には——誰もいない。
それでも、“そこにいる”という気配は、確かにあった。
座席のひじ掛けに、一枚の紙が残されていた。
ペルシアンはそれを取り、目を細めて読む。 - 117◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:07:19
《ペルシアン 殿》
あなたが来ることは分かっていた。
あなたには、これ以上私の世界に介入しないでほしい。
これは忠告だ。——
クリスティーヌを邪魔する者は、私の敵だ。
あなたはかつて、私を哀れんだ。
だが今、私は自分のオペラを完成させる段階にある。
退場のタイミングを見誤れば、
あなたとて、その幕の内側で死ぬことになる。
――O.G.
文字は、すでに誰かに見せることを前提とした筆跡ではなかった。
ペルシアンは紙を折りたたみ、深く溜息をついた。
「……“完成”とは何を意味する……。」
そのとき、背後で扉がひとりでに閉じた。
しかし、そこに気配はなかった。 - 118◆YAChL6C6So25/05/31(土) 04:08:07
- 119二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 08:18:35
稽古終わりのクリスティーヌに話しかけようとする
- 120◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:21:21
バレエの幕間出演を終え、バレリーナたちのざわめきが舞台袖を満たす中、
メグ・ジリーは、そっと楽屋の扉の前で立ち止まった。
扉の向こうから聞こえるのは、練習の歌声でも、台詞でもなく、
……深く、静かな沈黙。
メグは小さくノックし、扉を少しだけ開けた。
「クリスティーヌ……?」
部屋の中、ドレッサーの前に座る親友は、
すでに白い衣裳に身を包み、鏡の前で静かに目を閉じていた。
「……もうすぐ本番ね」
「うん……でも、本当にあなたが歌うのね? カルロッタは……?」
クリスティーヌはかすかに微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。
その微笑みは、どこか遠い場所を見つめるような、決意の色を帯びていた。
「ええ。……でも、これは私だけの決断じゃないの」
メグは、言葉を呑んだ。
親友の顔に浮かぶ、どこか儚げな気高さに、声をかけることができなかった。
そして—— - 121◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:21:46
開演のベルが、三度、鳴り響いた。
場内のざわめきが静まり、
重たく豪奢な緞帳が、音もなく上がってゆく。
観客の目は一斉に舞台へ。
そして、5番ボックスに目をやる者もいる——だがそこは、ただ暗く、沈黙していた。
ライトが当たり、
舞台中央に、クリスティーヌが現れる。
その姿は、神秘と気品に満ち、
誰もが彼女が「代役」であることを忘れた。
一音目。
彼女の歌声が響いた瞬間、
劇場全体が、時間を止めたように静まり返った。
その旋律は、愛であり、祈りであり、
そして——見えぬ誰かへの、応えだった。 - 122二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 09:22:51
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- 123◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:23:34
【次に操作するキャラクター】
ラウル・シャニュイ子爵
1. 5番ボックスに目を向け、誰かの影を確認する
2. フィリップ兄に「何か起きるかもしれない」と耳打ちする
3. >>124 (安価)
dice1d3=1 (1)
- 124◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:25:49
観客たちは息を呑み、
その目と耳を舞台に立つクリスティーヌの一挙手一投足に奪われていた。
だが——ラウル・シャニュイ子爵は、違った。
彼はクリスティーヌの姿に心を打たれながらも、
どこか、背筋に冷たいものを感じていた。
ふと、彼の視線は劇場右側、2階に位置する5番ボックス席へ向かった。
明かりが差し込まないその一角は、
まるで夜の中にぽっかりと浮かぶ影の箱のようだった。
そして——そこに、“確かに”いた。
姿ははっきり見えない。
だが、座席の深い闇の中に、白く浮かぶ仮面の輪郭が一瞬、光を反射したのだ。
心臓が高鳴る。 - 125◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:26:46
ラウルは思わず身を乗り出しそうになり、兄フィリップに肩を押さえられた。
「どうした、ラウル?」
「……あそこに、誰かがいる。仮面をつけた男が」
フィリップも視線を向けたが、そこにはもう、何も見えなかった。
まるで、ラウルの目にだけ映った幻のように——
そのとき、舞台でクリスティーヌの高音が響いた瞬間、
5番ボックスの中から、かすかに拍手の音が聞こえた気がした。
——ひとつ、ふたつ。
他の誰もが気づかぬ、静かすぎる拍手。
ラウルの背中を、悪寒が這った。 - 126◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:27:36
- 127◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:43:36
ラストの音が、まるで天井の天使に届くように、
ホールの隅々へと広がっていった。
照明がやや暗くなり、オーケストラが最後の和音を奏でる。
——そして、幕が下りるその寸前。
クリスティーヌは、まるで逃げるように、舞台袖へと走り出した
背中を伝う汗と、観客の拍手の余韻が肌にまとわりつく。
クリスティーヌは胸元に手を当てて、必死に呼吸を整えた。
「……終わった……のね……」
彼女の声は震えていた。
歓声の熱にではなく、自分に向けられていた“視線”の記憶に。 - 128◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:44:17
楽屋へ向かおうとした、その瞬間——
舞台袖の奥、暗がりのカーテンの向こうに、白い薔薇がぽつりと落ちていた。
その茎には、細い黒いリボンが巻きつけられており、
そこに、紙片が結びつけられていた。
震える指でそれを拾い、開いた。
───
私の愛しきクリスティーヌへ
今夜、君は天上の声を響かせた。
観客は君を見た。だが、私は君を知っている。
君は、私が導いた音楽の使徒。
君の魂は、まだこの世の舞台に囚われている——
今宵、君を解放しよう。
時が来たら、私の声が再び君を導く。
恐れるな、私がそばにいる。 - 129◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:45:10
文字の最後には“O.G.”の署名。
クリスティーヌは後ずさり、手紙を抱えたまま壁にもたれた。
誰もいないはずの袖幕の奥から——
仮面越しの息づかいが、一瞬だけ聞こえたような気がした。 - 130◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:45:59
【次に操作するキャラクター】
マダム・ジリー
1. 一人になったクリスティーヌを見つけ、そっと声をかける
2. 異様な気配を感じ、舞台袖のカーテンの奥を確認しに行く
3. >>131
dice1d3=1 (1)
- 131◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:49:43
照明の落ちた舞台裏は、まるで劇場全体が息をひそめているかのような静けさだった。
その中で、白い衣装の少女が壁際にうずくまり、片手に白薔薇を握っている。
マダム・ジリーは、その姿を遠くから見つけ、そっと歩み寄った。
「……クリスティーヌ」
クリスティーヌははっと顔を上げた。
目元には涙の跡がうっすらと残り、手紙を持つ手がわずかに震えていた。
「マダム……」
「よく歌ったわね。観客はみな、あなたの声に魅せられていた」
その優しい口調に、クリスティーヌは堰を切ったように小さく声を漏らす。
「……彼が……また私を見ていました。
このバラも、手紙も……今、ここに置かれていたのです」
マダム・ジリーは、手紙とバラをそっと覗き込み、
一瞬だけ、顔に複雑な感情が浮かんだ。
だがそれをすぐに押し隠し、静かに言った。 - 132◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:50:22
「彼はあなたの成功を祝福している。——それだけよ。
あなたを傷つけようとしているのではないわ」
「でも……“解放する”って。私、どうすれば……」
マダムは手を伸ばし、彼女の肩にそっと触れた。
「どんな時でも、選ぶのはあなたよ。
ただし、彼は約束を違えるような男ではない。
喜びも、怒りも、忠実に“音楽”に従うの」
その言葉に、クリスティーヌの胸はさらに波立った。
自分が誰に導かれ、誰を恐れ、そして——
誰の心に触れてしまったのか。 - 133◆YAChL6C6So25/05/31(土) 09:51:10
【次に操作するキャラクター】
ラウル・シャニュイ子爵
1. 楽屋でクリスティーヌに直接会い、祝福と共に告白の言葉を伝える
2. マダム・ジリーに先に会い、クリスティーヌの様子を尋ねる
3. >>134
dice1d3=3 (3)
- 134二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 11:43:11
- 135◆YAChL6C6So25/05/31(土) 11:47:05
ラウル・シャニュイ子爵は、舞台の興奮と歓声をあとにして、
静かに、誰にも見つからぬように5番ボックス席の廊下を歩いていた。
古びたカーペットが靴音を吸い込み、
やがて扉の前に立つと、妙に冷えた空気が肌を刺す。
ドアノブに手をかけると、まるで何者かに先回りされていたかのように、
鍵は——開いていた。
扉を押し開け、中に足を踏み入れた瞬間、
ラウルは思わず息を飲んだ。
そこには誰もいない。
だが、ひとつの座席に置かれた白手袋と、譜面台の上のスコア譜。
そして、そのスコアの一頁に、筆跡の美しい文字が走っていた。 - 136◆YAChL6C6So25/05/31(土) 11:47:32
君は私の楽譜を覗こうとするのか?
ならば、最後のページは血で綴られよう。
——O.G.
その瞬間、ボックス席の背後の壁から、
空気の揺らめきのような気配が走った。
——まるで誰かがこの場を立ち去った直後の、空虚な余熱のように。
ラウルは譜面を握り締めながら、背後の空間に目をやった。
だが、そこには扉も窓もないはずの壁だけが、黙って佇んでいた。 - 137◆YAChL6C6So25/05/31(土) 11:48:18
クリスティーヌ・ダーエは、マダム・ジリーの言葉を胸に、ただ一人、静かな廊下を歩いていた。
白薔薇を胸元に抱えたその足取りは、どこか夢遊のようにゆっくりと、そして導かれるように。
曲がり角をひとつ、ふたつと進むたびに、
空気が重くなってゆく。
やがて、ひとつの鏡の前で足を止めた。
その鏡は……映しているものが、わずかに“遅れて”動いている。
「……あの夜も、あなたはこの鏡の向こうにいた」
呟いた瞬間、鏡面がゆっくりと曇り、そして霧のように揺れた。
——現れた。
黒いマントと、仮面。
闇の中に浮かび上がるようにして、“彼”はそこに立っていた。
「クリスティーヌ……私の天使。
今夜こそ、君にすべてを見せよう。
もう、舞台の光に囚われる必要はない」
クリスティーヌの喉が震えた。
そこに立っていたのは、夢で見た“声”ではない。
現実に存在する、オペラ座の怪人だった。 - 138◆YAChL6C6So25/05/31(土) 11:49:19
- 139二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 12:22:43
まずは感謝の言葉を
その後に自分を選んだ理由を問いかける - 140◆YAChL6C6So25/05/31(土) 12:41:38
クリスティーヌは、恐れよりも先に、
深く胸に染みついた声に導かれた。
その声が、いつも彼女の孤独を包み、
眠れぬ夜に音楽の意味を教えてくれたのだ。
だからこそ、彼女は一歩、前へ進み——
そして静かに、口を開いた。
「……私、ずっと……あなたに感謝しています。父を失ってから、歌うことが怖くなって……
でも、あなたが……“音楽の天使”が導いてくれた」
「私は……私の声を、返してくれたあなたに、ありがとうを伝えたかった」
沈黙の中、仮面の奥の瞳が、わずかに揺れた。
「どうして……どうして私だったのですか?」
男は、少しだけ顔を俯けた。
そして、静かに語りはじめた。 - 141◆YAChL6C6So25/05/31(土) 12:42:33
「……君は、音楽の中に“静けさ”を持っていた。
他の者たちは、技術で歌う。欲望で歌う。
だが君は……魂で歌っていた。
君がまだ幼かった頃……私はすでに、上から見下ろすだけの世界に飽いていた。
君の声を聞いた瞬間——私は生まれ変わったのだよ、クリスティーヌ」
私に、命を与えてくれた君に……今度は私が、すべてを与えよう。」
その言葉と共に、男はゆっくりと手を差し伸べる。
白い手袋に包まれた指が、彼女の指先に触れた瞬間——
鏡の向こうの世界が、音もなく開かれた。 - 142◆YAChL6C6So25/05/31(土) 12:43:05
それはまるで別世界だった。
天井から垂れる古びた燭台の明かりが、
黒い湖のような水面をゆらゆらと照らす。
クリスティーヌは、怪人に導かれ、舟へと乗せられた。
オールの音だけが、静かな空間に響いていた。
彼の手は驚くほど優しく、
視線はただひたすらに、彼女一人だけを見つめていた。
「ここは、誰にも邪魔されぬ世界。君の声だけが、永遠に響く場所だ」
怪人の瞳の奥には、狂気とも情熱ともつかぬ光が宿っていた。
だがクリスティーヌは、まだその意味を、
半分も理解していなかった。 - 143◆YAChL6C6So25/05/31(土) 12:44:22
【次に操作するキャラクター】
ペルシアン
(怪人の暗い過去と才能に深い複雑な感情を抱いている人物)
1. リチャード支配人たちに、怪人の正体と危険性について話す
2. かつての記憶を頼りに、ひとり地下迷宮へと足を踏み入れる
3. >>144
dice1d3=3 (3)
- 144二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 13:02:37
『リチャード支配人たち』にラウル含まれてるよね?
1 - 145◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:06:13
夜も更け、興奮の余韻がまだ建物の奥でくすぶっていた頃、
ペルシアンは重い足取りで支配人室の扉を叩いた。
そこには、リチャード支配人、ラウル、そしてラウルの兄フィリップ・シャニュイ伯爵の姿があった。
誰もが沈黙の中にあり、だが、目の奥には同じ疑念が燃えていた。
「あなたが……“何か知っている”と、私はずっと思っていたのです」
ラウルが静かに言うと、ペルシアンはゆっくりと、うなずいた。
「今こそ、語るときでしょうな」
その声は確かな重みを持っていた。 - 146◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:07:23
「あの“怪人”……“オペラ座の幽霊”……あれは、ただの伝説や悪戯ではない。
本名はエリック。かつて私が仕えていた宮廷に、幽閉されていた者です。
彼は……生まれながらにして、人の顔を持たなかった。
骨の形も、皮膚の色も、まるで“仮面をかぶった悪魔”のようだった」
だが、彼には天才的な頭脳と、音楽、建築、そして人心を操る才能があった。
各地の王侯貴族に重用されながらも、彼が残したのは、破滅だけ」
リチャードが青ざめ、ラウルは拳を握る。
「そんな男が……このオペラ座の設計図を手に入れ、いつの間にか、この地に住み着いたのです。
あらゆる抜け道、秘密の扉、隠し部屋——彼には、この建物のすべてが“舞台”にすぎない」 - 147◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:08:00
沈黙が落ちる。
ペルシアンは、苦い記憶に唇を閉じた。
だがその沈黙は、控えの者が駆け込んできたことで破られる。
「支配人……!たいへんです!ダーエ嬢が……消えました!最後に目撃されたのは、舞台裏の鏡の前だと……それ以降、行方が……」
ラウルの瞳が見開かれる。
ペルシアンは眉一つ動かさず、低く言った。
「……やはり、彼は迎えに来た。君たちが彼女を救いたいのなら……今すぐ動くべきだ」 - 148◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:08:54
- 149◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:12:27
ラウルは、躊躇わなかった。
「案内してください。ペルシアン……どうか、彼女を救うために」
「……地下に入れば、もう後戻りはできん。
奴はすべてを知り、我々のすべてを見ている。それでも行くか?」
「ああ。たとえ……地獄でも」
互いに目を合わせると、ペルシアンは静かに頷き、
小さな懐中灯とロウソクを手にした。 - 150◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:13:05
やがて二人は、舞台裏にある古びた鉄の扉の前に立つ。
ペルシアンが小声で言う。
「この先は、普通の人間のために作られてはいない……
通気孔、地下水路、忘れ去られた通路、空調用の縦穴……すべてが彼の“領土”だ」
ギィ……と錆びついた扉が開かれると、そこには石造りの螺旋階段が、まるで迷宮のように下へ下へと続いていた。
やがて、階段の先で二人は足を止める。
遠くから、水の滴る音が、かすかに反響している。
そして……どこかで、オルガンの音色が聞こえはじめた。
それは甘美で、孤独で、しかしどこか哀れみを帯びた旋律だった。
ラウルが振り返る。
「あれは……彼の音楽か?」
「そうだ。彼は音楽で語り、音で心を縛る。
だがそれは、美しさではなく——支配のための調べなのだ」
そして二人は、オルガンの音を辿り、黒い水のほとりへと辿り着いた。
目の前には、朽ちかけたボート。
その先に、仄かな灯りがゆらゆらと揺れていた。 - 151◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:14:35
- 152◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:46:37
ほの暗い燭台の光に照らされた部屋の中で、
クリスティーヌ・ダーエは、目を閉じていた。
仮面の男——エリックが、パイプオルガンの前に座り、長い指を鍵盤にすべらせていた。
重々しくも流麗な旋律が、空気を震わせる。
それは教会音楽でも、民謡でもない。
人の心の奥底に直接届くような、嘆きと憧れの音楽だった。
「……美しい……こんな音楽、聞いたことがない……」
クリスティーヌの声はかすれ、目には涙がにじんだ。
やがて曲は転調し、優雅な旋律が、次第に狂気と執着のリズムに変わってゆく。
だが、そこに突如として——音が止まった。
沈黙。
エリックの指が、空中で凍りついている。
彼の顔が、静かに鋭利な方向へと変わった。
「……誰かが……来たな」 - 153◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:47:16
低く、喉の奥から響くような声。
エリックは立ち上がり、部屋の奥にある細いレバーの前に進む。
「君に……不躾な客人が来ているようだ、クリスティーヌ。……だが、歓迎はせん」
ギィィィッ……!
鉄の軋む音が響き、どこかで水が急に動いた。
エリックが作動させたのは、地下通路に仕掛けられた罠のひとつ——
進入者の足元をすくい、水没させる可動床。
同時に、湖の上にある小さな通路の照明がすべて消えた。
「奴が……来るというのなら、相応の“儀式”をもって迎えよう。
この世界に、光の道など存在しないのだ」
彼の言葉と共に、背後の暗闇がうねるように動き出す。
そしてクリスティーヌは、その異様な光景の中で、かすかに誰かの名を口にした——
「……ラウル……」 - 154◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:48:07
- 155◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:58:25
仄暗い湖の岸辺、ラウルは小舟に片足を乗せたまま、その視線を水の奥へと向けていた。
遠くから、聞こえるかすかな女性の声。
「……ラウル……」
「待ってなどいられない!彼女が……彼女が呼んでいる!」
「子爵、待て!そこは——!」
だが、その声は届かない。
ラウルは、舟を降りて、水路沿いの狭い石道へと足を踏み入れた。
そして——ギンッという微かな音が、足元から響く。
「……え?」
突然、石畳が沈み込んだ。
次の瞬間、ラウルの体が闇の中へと落ちた。 - 156◆YAChL6C6So25/05/31(土) 13:59:11
ラウルは、冷たい水の中でもがいていた。
水は深く、そして異様に冷たい。
しかも、どこからか絡みつくようなロープ状の仕掛けが、水中で彼の脚を捕らえていく。
「……っく! 誰か! ペルシアン!」
水をかき分けようとしても、すぐにまた沈み込む。
水中には、まるで何かの“手”のような動きさえ感じられた。
彼の体力は、徐々に奪われていく。
肺が苦しくなり、視界がぼやけ——
だが。
突如、鋭い金属音が鳴り響いた。
ペルシアンが岸から罠のワイヤーを切ったのだ。
「つかまれッ、ラウル! 掴まるんだ、早く!」
最後の力を振り絞り、ラウルはペルシアンの手にすがる。
そして、ずぶ濡れのまま引き上げられた。
呼吸を整えながら、ラウルは呟いた。
「……僕は……あんな奴に、彼女を渡さない……」
ペルシアンは重く黙し、小舟を再び音楽の聞こえる方向へと漕ぎ出した。 - 157◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:00:05
【次に操作するキャラクター】
エリック(オペラ座の怪人)
1. クリスティーヌを地下に閉じ込め、ラウルとペルシアンを迎え撃つ準備をする
2. 二人の侵入を無視し、音楽と愛の世界に逃避しようとする
3. >>158
dice1d3=1 (1)
- 158◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:12:31
クリスティーヌの瞳に映るのは、仮面をつけた男。
彼はゆっくりと振り返ると、オルガンの側に設けられた鉄格子のレバーに手をかけた。
「……君にはまだ、私の音楽を……私の心を、理解してもらわねばならない」
クリスティーヌが小さく首を振る。
「でも、ラウルが——お願い、彼は——!」
エリックの目が光を失い、かすかに震える声で言った。
「彼は君を“自由”にするだろう。
だが、私は君を“芸術”にする。
……それは、どちらが幸せなのだろうね?」 - 159◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:13:06
カチッという冷たい金属音が響く。
鉄格子の扉が降り、クリスティーヌは小さな寝室のような空間に閉じ込められた。
そこには鏡とベッド、数冊の楽譜、そして薔薇の花だけが置かれている。
エリックは扉の外から、静かに言った。
「少しの間、ここで休んでいてくれ。……扉は開かない。
君が私の音楽を理解してくれるまでは、ね」
彼は踵を返すと、奥にある武器と装置の部屋へ向かった。
そこには——鋼鉄の罠、逆転レバー、崩落機構、そして自らが設計した“選択の装置”がある。
エリックの仮面の下で、口元が微かに動いた。
「ラウル・シャニュイ……。君に選ばせてやる。命か、愛か、芸術か——“すべて失う”かを」 - 160◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:14:04
- 161◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:20:04
クリスティーヌは、静かに鏡の前に座っていた。
オペラ座の楽屋の鏡とは異なり、ここにあるのは古い、曇った鏡。
けれどそこには、確かに彼女自身の姿が映っていた。
髪は乱れ、ドレスも少し破れている。
だがそれ以上に、彼女の瞳には今、何かが映っていた——
「……なぜ、私を選んだの……?」
彼女は声に出さず、鏡に問いかけた。
エリックという存在。
仮面の奥にある魂の叫び。
音楽を通して彼女に触れてきた「天使」のような声。
しかし今、目の前にいるのは、愛の名のもとに人を閉じ込める男。
彼女は鏡の前で、両手を膝に置いたまま、目を閉じ、そっと息を吐いた。
「……あなたの音楽は美しい。
でも……その美しさの中に、どうして、これほどの孤独があるの?」
扉の外からはもう、何の音もしない。 - 162◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:20:40
その頃、小舟を操るペルシアンとラウルは、
湖の奥、岩壁に隠された小さな入口に近づいていた。
「ここだ……この奥に、エリックはいる」
ラウルはびしょ濡れのまま、片膝を立てて乗り出すように言う。
「彼女は無事か?」
「まだ“音楽”の世界に閉じ込めているだろう。
……だが、長くはもたん。
あの男の“心”が壊れ始めている」
ペルシアンの顔にも、かつての回想の影がよぎった。
彼は知っている。
この先に、選択を迫る装置があることを。
「ラウル。心してかかれ。これはただの救出劇ではない。
……これは“魂の審判”だ」 - 163◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:21:28
- 164◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:56:31
洞窟の空気は、重く、湿っている。
天井の蝋燭に似た灯りが、ぼんやりと薄暗い明かりを放つ中——
「クリスティーヌ!……クリスティーヌ、聞こえるか!」
ラウルの声が、地下の空間にこだまする。
手に持つランタンの灯が、黒い岩壁を照らす。
「おい、静かに——!」
ペルシアンが慌てて制止しようとしたその時、足元で「カチリ」と何かが作動する音が響いた。
石造りの床がわずかに震え、ラウルとペルシアンの前に、大きな格子扉が下りてきた。
同時に、天井の奥からエリックの声が響く。
それは肉声ではなく、音響装置を通した不気味な低音だった。 - 165◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:58:36
「ようこそ、ラウル・シャニュイ。
君の勇気は、称賛に値する……だが」
石壁に埋め込まれた円形の金属板が回転し、
そこに設置された巨大なレバーと、歯車仕掛けの時計が現れた。
「ここに“選択の装置”を用意した。
時間内に選べ——クリスティーヌを救うか、自らの命を守るか。
選択を誤れば……彼女は二度と歌えなくなる」
ペルシアンが顔を強張らせて言う。
「あれは……!エリックが拷問装置を応用して作ったもの……。
一方を選べば、もう一方が犠牲になるようにできている」
ラウルは無言でレバーを見つめる。
自らの命を選べば、クリスティーヌを失う。
クリスティーヌの自由を選べば、自らの命を失う——。 - 166◆YAChL6C6So25/05/31(土) 14:59:13
- 167◆YAChL6C6So25/05/31(土) 15:02:02
ラウルはペルシアンに振り返った。
「この装置、解除できるのか!?」
ペルシアンは即座に膝をつき、歯車の中枢部へ目を凝らす。
その目はただの傍観者のものではなかった。彼もまた、かつて中東の宮廷で拷問装置を管理した男——
この種の機構に精通している。
「……エリックの仕業にしては、手が込んでいないな。
緊急作動用の歯車が隠されていない……!おそらく——ここだ!」
彼の手が時計の下部にある金属製の蓋をこじ開け、
中の二重になった歯車の一つを逆回転させた。
カチッ……
——その瞬間、時計の針が止まった。
そして壁に設置された金属板から、
エリックの怒りに満ちた声が、地下全体に響き渡った。
「……ペルシアン。
よもやこの私の“審判”を破るとは……。
愚か者ども……!クリスティーヌは私のものだ!」
ペルシアンは小さく舌打ちをした。
「奴は本気で怒った。ラウル、急ぐぞ。
この先には、“音楽の間”と呼ばれる広間がある。
その奥が、エリックの私室だ!」 - 168◆YAChL6C6So25/05/31(土) 15:03:31
【次に操作するキャラクター】
クリスティーヌ・ダーエ
1. 自分とともにこの地で生きることを求めるエリックに耳を傾け、彼の孤独に同情する
2. 「闇の中では生きられない」とエリックの願いを拒む
3. >>169
dice1d3=3 (3)
- 169二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 15:43:41
孤独に同情しつつも共に生きられないと拒み 外の世界で歌いたいと願う
- 170◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:01:08
クリスティーヌと、その手をとって離そうとしない、黒衣の男——エリック。
「ここでは、誰も君を傷つけない。
誰も、君の歌声を汚さない……。
私と共にいれば、永遠に“完全”なままでいられるのだ……」
エリックの声は震えていた。
それは狂気でも激情でもなく、深い孤独に蝕まれた声だった。
クリスティーヌは、優しく彼の手を握り返した。
その眼差しは、恐怖ではなく、深い哀しみと理解に満ちていた。
「あなたが、どれほど孤独だったか……少しだけ分かる気がします。
あなたの音楽は、私にとって恩人のようでした
でも……私は、光の中で歌いたい。
あなたに感謝している。でも、私は……共には生きられない」 - 171◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:01:35
沈黙。
エリックの指が、クリスティーヌの手を震えながら離す。
彼の仮面の下で、何かが崩れる音がした。
「……やはり、私は“怪物”なのだな……」
「いいえ。あなたは……人間です。
傷ついて、誰にも愛されなくて、ただ……孤独だった人です」
その言葉に、エリックは背を向けた。
その体からは力が抜けていき、肩が落ちる。
「君が選ぶべきは、私ではない……。
……行くがいい。シャニュイ子爵が来ている」
彼は、壁の鏡の一枚に触れる。
それは静かに横に滑り、通路が現れた。 - 172◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:02:39
- 173二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 16:09:33
クリスティーヌと合流しながら 周囲を警戒
しばらくして何も起きないことに困惑する - 174二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 16:10:06
…ここまで来たら合流させて良かったよね?
- 175◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:14:22
壁の扉が開かれ、白い姿がふわりと現れた。
「——クリスティーヌ!」
ラウルが思わず叫び、駆け寄る。
クリスティーヌはわずかに微笑み、ラウルの胸に飛び込んだ。
その姿を見て、ペルシアンは安堵の息をつく。
「本当に……無事だったのか?」
「ええ。……私のことを、怪人は傷つけなかったわ」
ラウルの腕が、クリスティーヌの肩を強く抱き寄せた。
だが——
ラウルはふと、背後の静けさに気づいた。
周囲を見回しても、怪人の姿はない。
あれほどの執念を見せていた彼が……姿を消している。
「……ペルシアン、あいつは?」
「この奥にいるか、あるいは……」
男の目が一瞬鋭くなる。
「……もう、どこにもいないのかもしれん」
三人の間に沈黙が落ちる。
不穏な罠も動かず、どこにも人の気配はない。
ただ、仄かにオルガンの余韻だけが空気に残っていた。 - 176◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:15:20
- 177二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 16:16:17
シャンデリア未遂 フィリップ(今のところ)生存
ふむ… - 178◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:17:27
もうこれで終わってしまいそうですが……w
- 179◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:17:59
ファーミン・リチャード支配人の命を受け、警備隊がたいまつを掲げて地下へと雪崩れ込む。
彼らは鏡の間、拷問室、湖畔の桟橋、小部屋……
隅々まで捜索したが、怪人エリックの姿はどこにもなかった。
まるで最初から存在していなかったかのように——
痕跡はすべて拭い去られ、わずかな足跡すら残されていない。
湖面には、ただ一輪の白い薔薇が浮かんでいた。
その茎には、黒いリボンと小さな金の指輪が結ばれている。 - 180◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:18:48
クリスティーヌはラウルと共に、パリを離れた。
どこか遠く、音楽が“光”として響く場所を目指して。
彼女はもう舞台には立たないかもしれない。
けれど、彼女の歌声は、
この劇場のどこかに、そっと残り続けるだろう。
その夜、劇場にひとつだけ、開け放たれたままのボックス席があった。
誰もいない、黒い椅子。
そこに座る人影はない。
けれど、誰もが気づいていた。
「そこに誰かがいた」ことを。
——その人物が愛した、たった一つのもの。
それは、ひとりの歌姫の声だった。
【Fin】
🎭 - 181二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 16:23:07
罠にかかったり誘拐は起こってたりしたが 比較的平和に終わったな…
- 182◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:37:16
怪人がすぐコロしにかからないのと、物分かりが良かったからですねw
- 183◆YAChL6C6So25/05/31(土) 16:44:04
このスレはもう落としていただいて大丈夫です!