[SS]意地っ張りのマルクト Produce By !monad

  • 1二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:34:47

    「夜を温めている~♪」

    観客の誰もが予想しなかったであろう新しいソロ曲を、クリスマス特別レース優勝ステージでタイシンが歌う。

    それこそシナモンかよって程ゲロ甘歌詞を、一歩一歩を踏みしめて、ゆったりと、でも踏み込むように強いR&B。
    歌とは裏腹にシンセサイザーのプラックは止まらない。少しでも目を離したらメロディがリリック置いていく、ギリギリのライン。

    オレが提供したこの楽曲の正体を露知らず、タイシンは懸命に歌を吐き、観客もそれを貪欲に味わい食いついていく。
    我ながら、ごった煮の怪しい音にそんなに食らいつくモンなのとは思うが。

    「…ま、結局ジャンルでどうこう語る事自体がイモだ。そう思うだろ?トレーナーさんよ?」

    客席ん横に座るタイシンのトレーナーには、オレの言葉が届いてない。電源オフ。ライブ中は電源をお切りクダサイ。

    デカブツの目には、タイシンしか映っていない。常に騒がしい、動いてなくても煩い筋肉の固まりが、今は不気味に微動だにしない。一枚の神聖な岩になりがった。
    その横顔の熱が、カメラを連写する父性だか教え子を見守る教師だか、それとも別の何かなのかは知らないが。

  • 2二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:35:17

    🎧️

    根本をたどれば、「ワガハイちゃん」か。ちょっとした偶然からゲーセンに二人で行ったのが、ナリタタイシンとの出会いだった。
    チビで華奢な見かけと裏腹に、ギラギラと滾り続ける眼は嫌いではないし、屋上でちょくちょく話をするようになった。

    何より、「向いてない」だの「危険だ」だのの、「ノイズ」を振り払おうと常に煩わしそうにしてるのは…まぁ少し嬉しかった。最大限、お互いのプライドの許す範囲で協力したいと思ったのは事実だ。

    だから、オレにそれまで選ばなかった追い込み戦略を聞いてきた時は死ぬほど驚いたし、頑なだった戦法を曲げた原因が担当トレーナーが付いたからって聞かされて噎せる程吹いた。

  • 3二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:36:21

    🎧️

    「エアシャカールさん!タイシンがお世話になっています!模擬レースなどお世話になると思いますが、宜しくお願いします!」
    「…おぅ。」

    タイシンのトレーナーはよく日焼けしてて、Yシャツが可愛そうな程図体がでかく、如何にもスポーツマンといった、まぁベタなヤツだった。
    間違えなく悪い男ではないが、
    the良い男。顔が煩い。光の体育会系の化身。

    「トレーナーと担当ウマ娘似た者同士が組む」なんてジンクスを軽々ぶち破るキャラクター。

    そのデリカシーの無さで、摩れ切れた野良猫みたいなタイシンと打ち解けたな…いやいっそ真逆過ぎて相性いいのか?とか、オレはやっぱりトレーナー要らねぇなぁ絶対煩わしいだけだろ、とか何やら思っていた。

    ただでさえ諦めの悪いマッドサイエンティストや、笑顔で我が儘を突き通す皇女様の面倒で忙しいんだ。
    つーかタイシンもトレーナーが付いてからはギラギラは絶やさぬままで、微妙に惚気た事言ってくるモンだから、担当トレーナー様やべぇー要らねぇ、と確信させてきた。
    まぁ、シンプルなところ、タイシントレーナーが苦手だったって事だ。

  • 4二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:37:18

    🎧️

    その浅い認識が爆発四散したのは、そう。4月だ。リーニュ・ドロワットが終わって少し経った日。
    屋上に向かう階段に落ちていたゴツくて黒い手帳。タイシンのトレーナーががさつに捲っていたソレだ。少し芝臭いソレを届けてやるか、まぁ御届け代としてスケジュール位見ても悪かねぇだろと、数枚捲った時。

    目に飛び込んだのは、怪文書。

  • 5二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:38:13

    降る石畳を踏んで君はゆく。
    一歩半だけ先を、怒ったように忙しなく。
    もろびとこぞる市場の中を、
    その細い脚で縫うように淀みなく、
    騒ぐ人波をかきわけて。
    店先は光で満ちて、
    きらめく品々は眩しく鮮やかだ。
    甘いホットチョコレートの湯気に、
    シナモンの香りが乗って夜を温めている。

    この冬の日の喧噪の中で
    その小さな肩を見失わずに済んでいるのは、
    間違いなく君自身のおかげだった。

    「何してんの、はぐれないでよ」

    振り向いて、ぶっきらぼうに君は言う。
    頷き返すと、すぐに前を向いてしまう。
    ただ一歩半だけ先を、
    それ以上決して引き離さないように、
    細心の注意を払いながら君はゆく。
    時折、ちらちらと振り返る視線に、
    気づかないふりをして後を追う。
    気づいたことがわかったら、
    そのとたんにこの聖なる1歩半が
    ぐんと伸びて消えてしまうからだ。
    聖夜の月明かりを受けて君はゆく。
    1歩半だけ先を、誰よりも優しく慎重に。

  • 6二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:39:04

    震えが止まらない。
    意味不明の笑いが溢れ出す。
    論理性なんか置き去りにして、衝動とリズムが耳鳴り始める。
    ああ。こりゃ、アレだ。してやられたなぁ。


    上手いことタイシンがいないタイミングを見計らい、デカブツを呼び出す。

    「悪い、落ちてたモンでな。見ちまった。」

    「!!!…そうか………。全部俺が勝手にやっただけの事だ。」

    ショボくれた風船みたいになったソイツ。脳裏にはきっと、不適切なトレーナー対応だとか辞職だとか、安直で全うな言葉を考えてるんだろうなぁ。

    「おい、勘違いするな。オレが言いたいことは1つだ…その馬鹿みたいなポエム、オレに寄越せ。」

    「なっ!いや、君はああいうモノ嫌いだろ!?それとも、まさかアレがロジカルなのか!?」

    「ざけんな、埋めるぞ。ロジカルでもなければリリカルでもねぇわ。つーかあんなクソ恥ずかしい甘ったるい言葉なんて大嫌いだよ。」

    「じゃあなんで?」

    「アンタが書いたからだ。」

    魚みたいに眼を丸くするデカブツ。オレはロジカルでもないし、一切得しない話を脅すように続ける。

  • 7二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:40:03

    「オレはアンタの事を、「単純明快でからっとした正しくて好ましい好青年君」だと思っていた。それは嘘でもないし、事実なんだろ。」
    「だけどこのクソみたいなポエムに、アンタの身体中に渦巻く衝動を見た。欠片も正しくなくて似合わない、きっと「あるべき」じゃねぇ衝動を。中指立てるでもウマイネされたいわけでもねぇ、重くてグチャグチャな塊を。」

    少し前まで人前に絶対に出そうとしなかった、オレの別アカウント。それを証明するスマホをつき出す。

    「!monad。知ってるか?」
    「!?ああ!話題の…そうか君が。」

    「バカみたいに言いふらすなよ。このオレがそのポエムに曲つけてやる」
    「はぁ!?」

    「なんなら上手くできたらタイシンに楽曲提供したっていい。いや違うな、それで100%の完成だろこれ。あの依頼の時の同じだ。」
    「いやいやいや!?」

    「ぶっちゃけ。心踊られねぇか?」
    「!」

    「知ってるぜ。アンタ生演奏のR&Bライブにタイシン連れってただってな。しかも急な予定なのにスムーズに。!monad(オレ)の事知ってたし、アンタ本当はそういう音楽やリリックが好きなんだろ?」
    「アンタの吐き出した衝動にメロディがついて、歌になる。ドイツもコイツもそれに群がってよがる。ワクワクしてこないか?なぁ?」
    「もう言い訳は聞かねぇ。アンタの隠し持ったギダギダコッテリの重たい感傷。オレが全部ぶちまけてやる。だからさっさと寄越せ。」

    シリウスの言ってた事が少し理解った。自分の脳ミソを震わしておきながら表に出てこないヤツの罪深さ。そしてそれよりも深い、震わされたヤツの貪欲さを。

    「好青年なスポーツマン」には似合わさな小さな声で「お願いします」と言い、悪魔(オレ)に頭を下げた。

  • 8二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:41:28

    「気づかないふりをして後を追う~♪」

    しかし我ながらよく作ったものだ。それなりに理解してたつもりのヒップホップでもないし。
    そこまで詳しくもねぇジャンルを動画サイトで梯子し、なんとか形に出来た。
    半年以上時間をかけて熟成し、そしらぬ顔でタイシンにプレゼント。

    「この曲調…あの時アンタに連れてってくれたライブの曲ぽっくていいね…」
    「!!!」

    予想より素直に喜ぶアイツとその横で沈黙を貫くデカブツに、笑いを堪えるのを随分頑張った。

    ハッキリ言ってなんもロジカルでもないし、それどころか暇潰しから生まれた音作りが余計な時間を生んでるとさえ言える。
    しかも今回は巻き込まれたならまだしも、もはや自分から突っ込んじまった。本末転倒もいいとこ。

    それでも後悔はなかった。
    つーかこの衝動が生まれた時点で敗けだった。形にしない限り耳鳴りが止まらない、最低な呪いだったのだから。

    それに、この一見(一聞?)ゲロ甘で重たいこの曲が、岩のような男から生まれた事を知るのがオレと本人だけってのが、堪らなかった。
    世間に広まる、オレだけが知る、デカ男の感情氾濫テロ。分かりやすくトラウマ植え付けてやるのも面白かったが、なにも知らない奴等にウイルスをばら蒔くの同じ位悪魔的で面白いのだ。



    相変わらずデカブツはギラギラと熱い眼でタイシンを刺している。
    表面も裏面も同じ位高温なヤツ。違うのは裏面は余裕のない沸騰寸前みたいなグツグツで…

    「…ジンクス、N値多いから生まれるあるあるだったら、案外ロジカルか。」

    しょうもない独り言を呟きながら、邪魔しないためデカブツを置いて席を離れた。
    🎧️

  • 9二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:42:16

    アホな駄文さらしました。
    読んでいただきありがとうございました。

  • 10二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:51:47

    いいね…

  • 11二次元好きの匿名さん22/04/03(日) 23:57:52

    アァン?!これのどこがアホだって?!
    素晴らしいじゃねぇか褒め称えるぞコラ!!

  • 12二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 00:04:14

    あのサポカと今回のイベントをそう絡めるのはアホ(褒め言葉)すぎて好き

  • 13二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 00:09:31

    シャカールとタイシンに接点?と一瞬考えたら

    >>2 で答えが出されて声が出た

  • 14忘れてた1◆vQUJY3VeQY22/04/04(月) 00:10:41

    >>10

    >>11

    >>12

    ありがとうございます。

    同じネタが上がる前に書いたろの精神でしたが、不要だったか。

    また書くことあるかもなので、宜しくお願いいたします

  • 15忘れてた1◆vQUJY3VeQY22/04/04(月) 00:50:52

    >>13

    そういうしょうもない原作回収大好きなので、嬉しい反応して頂き感謝します

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています