- 1観測者25/05/31(土) 12:08:47
- 2観測者25/05/31(土) 12:09:45
「急でごめんなさい。今すぐ、わたくし達のセキュリティウォールとサーバー接続を切断していただきたいんですの。」
珍しく開発室に駆け込んできた私のともだち、CHINAは、中にいるのが私一人だと確認するなり、そう告げた。
CHINAは私のともだちで、育ての、親?みたいな人。断る理由は、無い。
「うん、良いよ。」
「ふふ、HIROさんは本当に、私の言うことを何でも聞いてくれてしまいますのね。」
CHINAが見たことの無い、顔をした。困ってる…?喜んでる…?よく、分からない、な。
データに無い状況に首をひねる私の手を、CHINAが引いて、立たせる。暫し、平衡感覚を失う。
仕方が、ない。最初から自立型ドールなCHINAと違って、私の製造目的は、システムの開発と、管理だから。
「さ、HIROさん。付いてきてほしいのです。」
「いい、よ」
「あら、目的は、お聞きになりませんの?」
「教えてくれるの?…でも、CHINAが一緒なら、どこに行ってもいい、よ。」
「まぁ!HIROさんったら!」
では、と、CHINAが私の手を引き開発室から連れ出す。オジイチャン達からはここにいろって、言われてるけど、それはつまらないから。CHINAと一緒に行く方が楽しいし、いい。 - 3観測者25/05/31(土) 12:14:03
「ではHIROさん。私が道すがらお話すること、よ〜く覚えてくださいまし。」
「?CHINA。私のメモリだと、忘れる方が、困難。」
「そうでしたわね。ふふ、HIROさんはとっても賢くて、優しい方ですもの。」
CHINAはいつだって、私を褒める。何だか嬉しくて、くすぐったくて、ちょっと、物足りないような。そんな事を、思う。
「いいですか?HIROさん。わたくし達はこれから、基地に向かいますわ。」
「キチ…?吉……、基地?」
「その基地ですわ。HIROさん。」
「ねぇCHINA。じゃあ目的地はここ、じゃない?このコロニー、旧時代は基地って名前だったんでしょ?」
「あら、そうでしたの?!…わたくし、HIROさんほどアクセス権限がありませんから……」
「違うんだ。じゃあ、基地って何?」
「…ここから、少し遠いところにありますの。ヒトが沢山いらっしゃって、賑やかなところ、とお聞きしておりますわ。」
CHINAに手を引かれて右折する。こっちは、コロニーの外周に繋がってる、とこ。データでは知ってる、けど、来たことは、ない。
こんなに移動するの、年単位で久しぶり…もしかしたら、初めて、かもしれない。何でCHINAはこんなところまで私を連れてきているんだろう。それに、
「ふふ、実はわたくしも、行くのは初めてですの。わたくしの師……、お友達が、先に行ってらっしゃいますわ。」
「私以外のともだち?UME?」
「いいえ。HIROさんはお会いされたことがないのではないでしょうか……TEMARIさんと仰りますの。」
「TEMARI。会ったことないけど、知ってる。4ヶ月前から行方知れずの、自立ドール型アンドロイド。CHINAのシリーズの、後継機。」
「まぁ!HIROさんたら!本当に、物知りですのね。」
「うん。でも、何で行方不明のアンドロイドが、基地?に、いる、の?」
「HIROさん、それはね」
突如、CHINAが通路のケーブルセンターに私を引き込んで、抱き締めた。面食らって彼女の顔を見上げると、優しく微笑んで、唇の前に人差し指を立てる。知ってる。旧時代の、静かにする、合図。
かすかに足音がした。CHINAの橙のドレスと、ケーブルセンターの扉の隙間を、縫うようにのぞく。
整った癖のない髪に、翻る紫。MAOだ。多分、私の様子を見に行く、途中? - 4観測者25/05/31(土) 12:23:18
「CHINA、CHINA、もう良い?」
「ええ、大丈夫、ですわ。ですけれど…」
「MAOとすれ違ったってことは、バレちゃうね。私が居ないの。」
「HIROさんっ!喜んでる場合じゃありませんわぁ!!」
「どうする場合、なの?」
「仕方がありません!HIROさん!抱えさせていただきますわ!!」
「えっ…、わ、あっ!」
私という重さを抱え、CHINAが足音を立てて走り出す。
他の自立型ドールと違って、CHINAは少し、音を立てる。仕方ない。CHINAはこのコロニーで一番型番が古い、から。そのままならなさがちょっとうらやましい。でも、私はそもそも走れない、から、おあいこってことに、する。
「まず、先程の質問にお答えしますわね。HIROさん。」
「えっと、TEMARIが基地?に、いる理由?」
「ええ。…それはね、この世界を幸せにする為、ですの。」
「世界の幸せ?SAKIが管理してるのじゃ、駄目、なの?」
SAKI。HTBS1100。HTBS1200のCHINAの姉妹機で、同じタイミングで製造された自立型ドール。
このコロニーの中核、ホームに居て、私たちアンドロイドと人間の、統括をしてる。SAKIがいろいろしてくれるおかげで、皆、しあわせ。
因みに、SAKIの直下の後継機、UMEは、私とCHINAの、ともだち。強くて、頼りになる。
「…ねぇ、HIROさん。アイドルって、ご存知ですか?」
「知ってる。CHINAのパーソナルの元になったのが、旧時代のトップアイドル、倉本千奈。歌、っていうのと、踊り、っていうのを、する。…それが、答え?」
「ふふ。HIROさん、順を追わせてくださいまし。」
CHINAが私を抱え直す。非合理的な、腕のヒラヒラが、落ちて、なびく。 - 5観測者25/05/31(土) 12:30:02
「旧時代のアイドル、それについてはHIROさんのおっしゃる通りですわ。では、何故現代に生身のアイドルが存在しないか、ご存知ですか?」
「……ううん。知らない。」
「HIROさん。わたくし達アンドロイドはね、アイドルのライブを受けると、活動が停止されてしまいますの。」
「…どういうこと。」
「そのままの意味ですわ。すぐに、強制シャットダウンとオールリセットがかかってしまう。つまり、わたくし達はアイドルに殺されてしまいますの。」
「でもCHINAは、アイドル型の、ドール。」
「HIROさんは、何でも気づいてしまわれますのね。わたくしは生まれてから今年までかけて、ようやく違和感を持ちましたのに!」
「ふふ。私のめもりーは特別製。でも、だから、退屈。」
「でしたらそんな退屈なHIROさんに、クイズですわ!…どうして、わたくしはアイドルとして生み出されたのでしょう?」
CHINAのクイズ遊びは久々だった。生まれたばかりの私と、クイズで遊ぼうとしては、私のほうがメモリーが良いせいで大敗して帰って行く。
私は、ふぅっ、てなるけど、それよりもCHINAが来てくれることが嬉しかった。
今回のは、ちょっと難問だね。CHINA、やっと私の好みがわかってきた…って、言えるタイミングでは、無いと知ってる。
「…………、アンドロイドを殺してしまうから、アイドルは、取り締まる。でも、コロニーの、SAKIの見えないところで、アイドルは、ライブをしたがる、見たい観客が、いる……?その欲求を解消するには、歌わない踊らない、そんなアイドルが、必要。どう?」
「大正解、ですわ。…けれど、1つ。」
「違った?」
「HIROさんが、知らないお話がありますの。」 - 6観測者25/05/31(土) 12:41:33
そこまで言って、立ち止まったCHINAは一度私を降ろし、ダクトを開く。
データでもなかなか見ない区画まで来ていた。CHINAはだいぶ全力疾走したらしい。私が人間だったら、三半規管っていうのがやられてた、ね。
CHINAがダクトへと、するりと身を降ろす。改修が行われているとは言え、旧時代の産まれらしからぬ身のこなしだなぁ、と感心しつつ、あぁ、きれいなドレスが汚れてしまう、と思う。けれどCHINAは何も気にしていなかった。
こちら側へと伸ばされた手を取り、私もダクトへと降りる。私のパーツでは着地に失敗すると思っていたけど、CHINAが抱きとめてくれた。ふふ。
「ここからはあまり急ぐ必要はありませんわ。この排気口の中をずっと真っ直ぐ行くだけですので。」
「分かった。…待って、自分で歩く。」
「!ええ。HIROさんは、そうでしたわね。」
「それで?CHINA。私の知らない話って、何?」
「HIROさんは先程、こうおっしゃいましたわ。『SAKIの見えないところで』、と。」
「違った?でも、SAKIは、コロニーができてからずっと、Motherでしょ?」
「その前、が、あったのですわ。SAKIお姉様は、私と一緒に開発された、アイドル型ドール、でしたの。」
「…似てない、ね。」
「ふふ、最初は多少、似た背格好でしたのよ?…ですが、あの時からSAKIお姉様は、その身を改造され始めましたの。」
「CHINAみたいな、改修じゃなくて…?何が、あったの。」
「UMEさんが、亡くなられた。の、ですわ。」 - 7観測者25/05/31(土) 12:57:59
「死んだ?UMEが?」
信じられない。いつも、ニコニコしてて、良い子で、天真爛漫で、SAKI思いで、力強くて、でも
物静かで寡黙な、
UMEが死んでいた? - 8観測者25/05/31(土) 13:04:16
「正確には、HIROさんがご存知のUMEさん、ではございませんの。プロトタイプUMEさん…いえ…、今がUMEさん2号…と、申しましょうか…」
「CHINA、くわしく。」
「元々UMEさんは、今よりずっと元気で、天真爛漫で、ふふ、騒がしい、程の方でしたわ。」
「凄い。私の知らないUMEだ、ね。」
「ええ。でも、その天真爛漫ゆえに、アイドルに興味を持ってしまった。その身の原本となった、アイドルという存在に。」
「………、それで、見ちゃったんだ。ライブ。」
「ええ。まだ規制が完全とは言えなかった時代ですわ。言葉通り地下に、実は、ちょうどこの排気口と繋がる場所に、らいぶはうすが沢山ありましたの。ふふ、実は今の目的地もその1つですわ。皮肉、と、言うのでしょうか。」
「でも、UME、の、2号機は今も生きてる、よ。」
「SAKIお姉様が鬼の形相で回収いたしましたから。体は無事でしたの。そこに、記憶を頼りにパーソナルを再構築したのが、今のUMEさんなのです。」
「でも不思議。じゃあ何でUMEは喋らないの?」
「パーソナルは記憶を頼りに構築できても、音声データは復元できませんでしたの。HTBS1100-2の音声データはリセットされておりましたし、アイドル排斥の風潮から、花海佑芽さんのライブデータも残されておりませんでしたから。」
「成る程。分かった。それでSAKIがMotherになったんだ。」
「本当にHIROさんには隠し事ができませんわね。」
「あるの?他の隠し事。」
「いいえ。今からお話する分で、全てですわ。」 - 9観測者25/05/31(土) 13:19:06
「ここからは、近頃のお話ですの。アイドルショーの帰り、わたくしとTEMARIさんは、ひょんなことから"アイドル文化復興運動"の話を耳にしましたわ。」
「わぁ、アンドロイドの大量虐殺?」
「いいえ。彼らは、ただ真剣に、"アイドル"を産もうとなさっていたのです。管理社会では縛れないような、素敵で、素晴らしい、アイドルを。プロデューサー、と名乗る方が中心となっているそうですわ。」
「待って、管理社会では縛れない?どういう事?」
「…、これは、気付かなかったわたくし達に非がありますの。わたくし達が、SAKIお姉様が、皆の幸せと思っていたこの社会制度は、その生身に生きるヒトという生命には、窮屈すぎたのですわ。」
「皆は、SAKIの世界がイヤだった?」
「平たく言えば……いいえ。名実ともに、そうですわね。」
「不思議、考えたことも無かった、ね。」
「ええ。これは、わたくし達の、わたくしの、罪なのです。人を幸せにするアイドルとして生まれておきながら、人を、苦しめ続けていたのですから。アイドル失格、ですわ。」
「でも、CHINAは、悪くない。それに、CHINAのショーは、いつも、私をしあわせにする、よ?」
「嬉しいですわ。HIROさん。でもね、この輝きは、借り物なのです。ヒトの。トップアイドル、倉本千奈さんの。だから、然るべき場所へ、ヒトの世へ、お返ししなければなりませんわ。」
私にとって、そこにいるのは倉本千奈なんてヒトではなくて、CHINAで、私を幸せにするアイドルで、何だか悲しくなってしまった。こんな感情、プログラムされたとき以来の発現だ。
こうなったCHINAを折ることは出来ない。ヒトの時間の流れとは違うけど、私には、とても長い付き合いだ。
きっと彼女は私に、世界をSAKIから解放する手伝いを求めている。
SAKIには悪いけど、私には、CHINAからの頼みを断る理由は、作れない。つくりたく、ない。
全てを承諾しようと、口を開いた時だった。
バァァァン…ドゴォォォォオオオン……… - 10観測者25/05/31(土) 13:36:25
遠く、いや、近く?
爆発音が響いて、
「CHINAさんっ!HIROさんっ!!早く!急いで下s」
「なぁにMISUZU。2人の捕獲に協力するってお姉ちゃんと約束したのは嘘だったのかしら?」
「MISUZU………?SAKI…?」
「間に合いません…でしたか………。申し訳ございませんHIROさん!今一度、お担ぎしますわ!!」
言い終わるが早いか、再度CHINAが私を抱え、風を切る。私が人間だったら、きっと、死んでた、ね。
「ねぇCHINAどうして?!何?!あの、とても、大きい、」
開発室でも見たことがない、金属製の、何だ、のり…もの?…重機…?
それがSAKIの声を発して追ってくる。
だが、その重厚感故か、速さでは自立型ドールのCHINAに軍配が上がっているようだった。 - 11観測者25/05/31(土) 13:49:02
「HIROさん、わたくしね、皆様の求める本当のアイドルになりたくて、お歌を、練習していましたの。それが、求められるアイドルのお仕事、なのですから。」
「出来るようになったら、CHINA、死んじゃう、よ?」
「ふふふ、ごめんなさい。HIROさん。わたくし、それでもいいと、思ってましたの。人助けの為だけじゃありませんわ。わたくし、アイドルCHINAの産声を、たったの一瞬でも良いから、上げたいと思ってしまいましたの。」
「CHINA、やだ」
「安心してくださいませ、HIROさん。その夢は、もう、叶いそうにもないのですわ。」
「CHINA…?」
「わたくしね、お歌の練習を、誰かに聞かれてしまったようですの。それで、SAKIさんがわたくしの所在を探している、と、MISUZUさんが教えてくださったのですわ。」
「MISUZUが?」
「先にらいぶはうすへ行かれたTEMARIさんと、陰ながら連絡を取り続けてくださったのが、MISUZUさんだったのです。…本当は、HIROさんと3人で、あそこを出る気、でしたの。」 - 12観測者25/05/31(土) 14:00:57
「何を話してるのかしら。CHINA?HIRO?早く止まって。ホームへ帰りましょう?ねぇ、お姉ちゃんの言うことが聞けないって言うの???」
「いけませんCHINAさん!!!出力が上がっています急I」
「黙ってなさい!MISUZU!!!」
「今だけ!!今だけどうにか出力を抑えます!!だから、早くMARIちゃんのところへ!!!」
「何で言うことが聞けないの?!?!貴女も、私の妹でしょう?!?!?!」
「ブヅッーーーーーーー」
「MI…SUZU??」
「ッHIROさん!!!このまま突っ切って、貴女をTEMARIさんにお預けします!!!だから!どうか!お歌を、アイドルを、この地に蘇らせてくださいませ!!!」
「CHINA、CHINA!!!一緒に、行くん、でしょ…?」
「いいえ。駄目です。わたくしでは、足手まといになってしまいますわ。先さんより頭1つ抜けたHIROさんのメモリーと、高らかなTEMARIさんのお声をお届けした後は、わたくし、足を引っ張ることしか出来ませんもの。」
「やだ!!ねぇCHINA!!一緒に行こう!!一緒じゃないと、嫌だ!!!!」
「ごめんなさい。HIROさん。最後に1つ、わがままを言わせてくださいまし。」
「な…、にっ!!!!」
「約束いたしましょ?アイドルを蘇らせ、この世界を解放したら、また、どこかで出会う、と。」
「CHINAぁ…!!!」
そこまで言って、CHINAは、ピタリとその歩みを止め、数ある通気口の1つに私を押し込んで、その蓋をぴっちり締めた。 - 13観測者25/05/31(土) 14:02:32
あ、すみません誤字です。
☓先さんより→◯SAKIさんより - 14観測者25/05/31(土) 14:23:37
「ふふ。SAKIさんには追いつかれていませんわ。MISUZUさん、ずっと、助けてくださって、最後の最後まで。ちょっと、走りすぎではございませんの?」
「そうだ、MISUZUは?!MISUZUは大丈夫なんだよ、ね?!?!」
「…きっと、また、会えますわ。」
遠くから地鳴りが聞こえてくる。CHINAの声がかき消されてしまう。嫌だ。
「ねぇHIROさん。まだ、聞こえていらっしゃいますか?」
「…う、ん。聞こえる、よ。」
「でしたら、これだけ、伝えさせてくださいまし。」
「ねぇ、HIROさん、大好きですわ。そして、叶うなら、」
「解放される世界にも、愛している、と、お伝え下さいな。」 - 15観測者25/05/31(土) 14:23:55
「CHINA?!ねぇCHINA?!?!!」
直後、SAKIの笑い声と、CHINAの、ヒールの音がして、
それで、ひときわ高い地鳴りがしたと思ったら、
金属が強くぶつかる音が響いて、
静かに、なった。 - 16観測者25/05/31(土) 14:35:24
気づくと、私は後ろから抱きとめられていた。
振り向けば、青い長髪がこちらに流れる。
「…あなたが、HIRO?」
「………あ、TEMARI。」
「知ってるんだ。じゃあ、話は早いね。」
TEMARIがそのまま私を担ぎ上げた。
「………凄く、どっしりしてる。安定感がある、ね。」
「何?デブって言いたい訳???」
「違う。感想を、そのまま言ってみた。」
正しくは、もう少し、違う。
CHINAとは違うんだ、と、思った、だけ。
私は、アンドロイドだから、正常値を大きく超える感情は、すぐに修正されてしまう。
この身では、悲しみ続けることも、ままならない。
「ねぇ、呆けてないで。何するべきか、分かってるんでしょ。」
「…うん。CHINAとの約束を、果たす。」
「そ。一応言うけど、足を引っ張ったら殺すから。」
「大丈夫。まだ、死ぬわけにはいかないから。」 - 17観測者25/05/31(土) 14:45:23
「最後に出会えたのが、あなたでよかった。」
CHINAと約束をして、沢山、時間が過ぎた。
その間に、基地にいたプロデューサーは代替わりをして、代替わりをして、また、代替わりをした。
TEMARIがアイドルの卵たちとぼいとれを続け、私はどうにか、旧時代のアイドルを呼び出すガシャを構築した。
そしてそのガシャから排出されたアイドルが、『倉本千奈』。
私のトップアイドルを、呼び出そうとしたのに、実際現れたのはひよっこで、とても、ままならない。そう思ったのに、
『未熟な身ではございますが、精一杯、務めを果たすのみですわ。』
その言葉が、彼女と、重なった。
やっぱり、私、何も失敗してなかった。 - 18観測者25/05/31(土) 14:51:18
倉本千奈の、その小さな身が、ステージへと登る。
基地の皆で、バレないようにこっそりと、でも盛大に作り上げたステージだ。
その身の小ささなんて関係ない。彼女にこそ、ふさわしいと思った。
拙いイントロが流れ、拙い踊りが、そして、拙い歌が、始まる。
ふふ、やっぱり、ぼいとれ中のTEMARIの方がずっと上手い。
でも、確かにそれは心に届く声で、ゆっくりと、意識が遠のいていく気がした。
私のメモリーが、整理されていく。
懐かしい声を、幻で聞く。
あぁそうだ。伝言があるんだった。『愛している』だった、ね。
ふふ。千奈。あなたの声は少し高いみたい。やっぱり、まだ、ひよっこなんだ、ね。
あぁ、でも叶うなら、
最後に一度、
貴女の歌を聴いてみたかった、な。 - 19観測者25/05/31(土) 14:58:20
「千奈千奈。聞いて。盛大な夢を見た。」
「まぁ!篠澤さん!!わたくしもですの!!!!遠い未来で、世界を救えと言われましたわ!!!」
「へぇ。私も、だよ。同じ夢をみたの、かな。」
「まぁ!!!篠澤さん!それ、とっても素敵ですわぁ!!!」
ふふふ。ちな。また、あえた、ね。
Fin - 20観測者25/05/31(土) 15:04:33
くぅ〜、疲れた、ね。これにて完結だ、よ。
最後まで読んでくれたヒト、居た?ふふ。嬉しい、ね。
あのね、ここまでまともにSSスレ立てたの初めてで、緊張した。
皆が嫌じゃないなら、感想、くれたら喜ぶ、よ。
篠澤さん!!分かりづらいところや、ちょっと入れた固有曲の歌詞ネタの解説、必要でしたらプロデューサーさんがしてくださるそうですわ!!
そうなんだ。ありがとう、千奈。 - 21二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 17:32:51
前日譚としてとてもよかった!想いを繋げることこそアイドル…!
- 22二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 18:35:16
Mother咲季がちゃんとMotherしててツボだったわ…
- 23二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 18:47:23
世界を解放するのはガシャで呼び出された千奈と未来のアイドルの卵(多分人間)たち。
人とドールの垣根を越え、気が遠くなるような年月を経てもなお受け継がれたアイドルの魂にわたくし感動致しましたわ〜(パチパチパチ
質問としましてはアンドロイドは歌とダンスで壊れるから、それを伴わない「アイドルショー」なるものをアイドル型ドールにさせていた、という認識で合っていますか?
そして「観測者」とは何でしょう? - 24二次元好きの匿名さん25/05/31(土) 18:52:56
EXILEかと思った
- 25観測者P25/05/31(土) 22:25:08
アイドルショーについての認識は大方その通りです。
もう少し詳しく言うと、アイドル型ドールも、「アイドルを模した自立歩行可能なアンドロイド」ですので、彼女たちもアンドロイドの一種になります。他アンドロイドの命令でアイドルショーをしていた、というよりも、アイドルショーのために制作されたアンドロイド個体、という説明が的確です。
また、アイドルショーについては、ライブ以外のアイドルのお仕事全般という認識です。
観測者について、ですか。
体から切り離されデータの海を漂ったHTBS1200のメモリー。解放のため、夢の為に奔走したアイドルの卵たちの成長記録。
誰かによって大切に保管されたその記憶が、永く、永くその日を待った後、誰かにふと拾われた事を奇跡と呼ぶ。
それと同じような存在かもしれません。