【SS】マンハッタンカフェと朝【再上げ】

  • 1寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:08:48

    初めてのSSです。
    拙い箇所も多々ありますが、よければ最後までお付き合いください。
    (昨夜上げさせてもらったもののカテゴリが違っていたので上げなおしたものです)

  • 2寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:09:10

    朝か。
    目覚ましのけたたましい音に若干の不快感を覚える。
    いつになってもこの感覚には慣れない。
    どうにかこの音から逃げながらしっかり起きられる手段はないものかと寝起きの頭でいくつか講じつつ、先程から叫び声をあげる携帯を開き、時間を確認する。
    時刻は六時を少し過ぎた頃だ。学生時代は昼前に起きることもざらにあったが、今はそんなことは言っていられない。呑気だった学生時代の自分に恨み節の一つでも唱えたいところだ。ただそんなことを言っても今更どうしようもないので諦めて布団から出る。すると鋭い寒気が身体中を刺しにかかってきた。
    晩秋とはいえこの寒さは冬将軍が先行策を取ったに違いないと思っていたところで、ふと気づく。

  • 3寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:09:30

    居間の方から僅かながら生活音が聞こえて来るのだ。温かな伴侶が朝の準備をしてくれているのかと思ったが、どうやらまだ夢と現実の区別がついていないらしい。そんな朧げな意識のまま居間へ向かう。
    そこには腰から艶のある黒い尻尾を揺らし、その腰近くまで伸びた漆黒の長い髪を上の方でまとめ、その黒い頭部に同じく漆黒の突起物を二つ乗せた少女がいた。
    「…おはようございます」
    「カフェか。」

  • 4寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:09:59


    目が覚めた。
    どうやら目覚ましの代替案は見つかったようだ。
    「何故ここに居るんだ」
    と問う。
    「何かあった時にとこの部屋の鍵を渡してくれたのはあなただったと思いますが」
    まあ、それはそうなんだが。
    「何かあったのか?」
    若干の緊張が寝起きの体に走る。
    が、
    「今日はかなり早く起きてしまいまして。一人でコーヒーを飲む気分でもなかったので、こうしてここへ。」
    それはすぐに消え去った。
    「……そうか。」
    心臓に悪い。
    「お互いそこそこの間柄だ。別に来るのは構わないが、次回以降は報せの一つくらいは寄越してくれよ。」
    流石にいきなりこれでは驚きもする。
    「それはすみません。次は気をつけます。」
    「まあ、わかってくれればそれでいいんだ。」

  • 5寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:10:22

    と、そこまで話したところで鼻腔を掠める香りに気がつく。毎朝淹れているコーヒーの香りだ。
    「コーヒー、淹れてくれたのか?」
    「ええ。」
    「そうか、ありがとう。」
    「いえ、こちらこそ勝手に使ってしまいました。」
    「いや、むしろありがたい。頂こうか。」
    「それと」
    「?」
    「簡単ですが朝食も」
    彼女が髪を纏めていたのはそういうことだったのか。
    「何もそこまでしてくれなくともよかったんだが」
    もちろんありがたいことではあるが。
    「言ったでしょう、一人でコーヒーを飲む気分ではなかったと。」
    「それに、コーヒーだけでは今日のトレーニングには物足りませんしね」
    今日は午前からきっちり追い込むメニューだった事を思い出す。
    「でも、早起きしたならわざわざこんなところで寝起きの野郎と朝食を食べなくてもよかったんじゃないか?」
    「だからですよ。」
    「え?」
    「たまに手に入った早起きの三文ですから、ここで使いたかったんです。」

  • 6寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:11:06


    「そうか。それは光栄な事だな。」
    その刹那の沈黙を彼女は見逃さなかった。
    「照れましたか?」
    「まさかな。」
    「そうですか。体温が高そうなのは寝起きだったからでしたか。せっかく来たのに少し悲しいです。」
    と彼女は表情筋をピクリとも動かさずにそう溢す。
    このまま意地を張っても無為な時間を浪費するだけだ。なにより、彼女相手に本心を隠す必要はない。
    「…わかった。完敗だよ、俺の負けだ。」
    「ありがとう、カフェ。」
    彼女は、
    「なら良かったです。」
    これもまた表情一つ動かない。
    彼女のポーカーフェイスなところは嫌いではない。以前は何を考えているか理解するのに時間を要したが、今ならわかる。

  • 7寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:11:39

    何故なら。

    「さあ、せっかく作ったんですから冷めないうちに食べてしまいましょう。」

    と、簡素ながら可愛らしい朝食を運ぶ彼女の尻尾は。

    いつもより大きく揺れているからだ。

    「そうだな。」
    彼女との緩やかな一日の始まり。
    短くとも濃密であろう朝に少し心を躍らせる俺に、彼女の淹れたコーヒーの香りが潜っていった。

  • 8寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:22:05



    ハードボイルドに影響を受けてちょっとスカしたトレーナーのある朝の話でした。

    昨夜深夜テンションで初めてのSSを書いたわけですが、これがなかなか難しい。

    特に、かなりの量を書いたつもりが掲示板に載せてみて思ったより少なかった時の驚きはありました

    やはり経験してみて初めてその道の人の苦労や凄さを思い知るというのは正しいようです。

    皆さんに良い朝が訪れることを祈っています。それでは。

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 06:28:52

    >>8

    おはよう、朝からいいもの読ませてもらいました

    これから仕事って時でもこういう目覚めなら頑張ろうってなるな

    また書けたら投稿してほしい

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 06:45:52

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  • 11寝起きのトレーナー21/09/17(金) 06:46:28

    >>9

    おはようございます。

    ありがとうございます。誰かと特別な朝を過ごしてみたいというのは誰しも持ちうるのかもしれませんね。

    また機会があれば書こうかと思いますので、その時はまたお付き合い頂ければと。

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 07:05:37

    寝起きの俺にこのサイズの文章がスッと効く
    このくらいのボリュームがちょうどいいのかもな

  • 13寝起きのトレーナー21/09/17(金) 07:39:15

    >>12

    ありがとうございます。

    結果的にこの量になっただけではありますが、それでもそう言っていただけると嬉しいです。

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 08:00:44

    君、素質あるよ

  • 15寝起きのトレーナー21/09/17(金) 10:02:53

    >>14

    ありがとうございます。

    これからその素質を磨けるかはわかりませんが、気ままに書ければなと思います。

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 10:06:33

    うーん、朝のちょっと緩い空気感が素敵

  • 17寝起きのトレーナー21/09/17(金) 10:47:02

    >>16

    ありがとうございます。

    いつもの少し憂鬱な朝を誰かと過ごす事で緩やかながら少し一日が楽しみになればなと思い書いたのでとても嬉しいです。

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