[SS・エ駄死]正直に言うんだがミサキと 2.5

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 11:57:14
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 11:58:11

    日の落ちた室内で、先生は募る心配を隠せずにいた。いつも出かけても夕飯時には帰ってくるミサキが、今日に限ってやけに遅い。
    連絡を入れても既読すらつかない。もしもミサキの身に何か起きていたら、と嫌な想像が脳裏をよぎった。
    先生と暮らして世間の目にはあまり触れないようにしているとはいえ、アリウススクワッドのメンバーはゲヘナ・トリニティ・アリウス全てから因縁浅からぬ存在。そしてトリニティとゲヘナを足せば、それはあまりにも珍しくない頻度で街にいる。
    彼女自身かなり強い。それゆえたいていの心配はいらないが、彼女が対処しきれない事態に陥っていたら。根拠のない想像だと否定しようとしても、ない可能性ではないと思えば否定しきれない。
    やはり心配だ。探しに行こう。あてもないのにそう思って玄関へ向かおうとしたとき、扉に重たいものが当たる音がした。

    どすん、あるいは、どさっ、そんな音が。

    先生の足がすくむ。これがもし、想像した悪い結果だったら。扉を開けて、ミサキが倒れていたら。見たくない、そう思ってしまうのは責められないことだった。
    だが先生は一歩踏み出す。ミサキがもし倒れていたとしたら、手当てが必要なはずだ。悪い結果だったとしても、帰ってきてくれたのなら。
    そして手の震えを抑えながら、扉を開けた。

    「あ……」

    果たして、ミサキはそこにいた。出かける前に比べて少し疲れて、よれっとした雰囲気になっていたが、しっかりと立っていた。
    すぐ後に目を引いたのは大きな荷物。両手で抱えるほどの大きさの荷物を扉のすぐ横に置いている。

    「……お、おかえり」
    「ただいま」

    呆然としつつも部屋に上がるミサキを見送る。荷物を置き、手を洗ったミサキはコンロに置かれた夕食の準備を目にして固まり、おずおずと先生へ振り向く。

    「……遅くなって、ごめんなさい」
    「うん……うん。心配してたよ、ミサキ」

    とはいえ、数時間の外出。抱きしめたくなったが、抱きついても変だと思われてしまいそうでためらう。
    すると、ミサキは荷物のほうへ歩き手招きをする。改めてじっくり見ると、それは段ボールに入った何かであるようだった。

    「これは……?」

  • 3二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 11:58:28

    ミサキが抱えていたのは緩衝材で包装された寸胴鍋だった。金属光沢をかえすそれを矯めつ眇めつする先生を見ながら、ミサキは恥ずかしそうに言い訳をする。

    「……この前、私も料理頑張るって、言ったでしょ。それで買いに行ったら、思ってたより重かった」
    「えっと、返信がなかったのは……」
    「両手がふさがってたし、夕方から雲が出てて急ぎたくて……」
    「なんで今日……?」
    「……昼間言ってたでしょ。料理を食べてもらうのが嬉しいって。だから……ああ、もう」

    恥ずかしそうに言うミサキはだんだん顔を赤くし、しまいにうつむいてしまった。

    「……よかった、ただの買い物で」
    「そんなに心配してたの?」
    「するよ!珍しく帰りが遅くて、返信もなければ心配するよ……」

    そこまで言われると自分の想像以上に先生が案じていたことがわかったのか、ミサキはもう一度ごめんなさい、と口にする。

    「次からはお店を出る前とかに教えてね。迎えに行くから」

    それで、この話は終わりになった。

    懸案が片付けば、さて夕食である。もう宵を過ぎてはいるがあとは火を入れるだけだったためすぐにできあがり、食べ始めて少し経った頃にミサキが難しい顔をし始めた。

    「先生、調べたときは大きい鍋一つあればいろいろできるって書いてあったんだけど」
    「うん?」
    「もしかして、あれ……大きすぎたかな」


    目を丸くした後、先生が笑い出した。よく考えてみれば当然だ。二人で暮らしているのに、何をどうしたら一抱えの寸胴鍋がいるのだろう?

    「あはははっ、はぁ……大丈夫。少なめに練習して、上手くいくようになったらスクワッドのみんなを呼んであれを使おう」

  • 4二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 11:58:43

    シャワーを浴びて眠ろうというときになって、紙袋に包まれたものに目が留まる。今日買ったクラフト石鹸だった。
    見えるようにしておけば先生も使うだろうと袋の口を開けておく。ハニーフレーバーの石鹸はほんのりと甘い香りがして、柔らかい泡立ちは滑らかで、おろしたてのタオルもほどよい刺激で気持ちがいい。
    肌を泡とともに熱いお湯が流れると乱れていた気分が落ち着く。今日の失敗は先生を心配させたが、彼はミサキに愛想を尽かしたりはしていない。あまり後に引きずっても落ち込むだけだ、と思うと、諦観とは違う思い切りが生まれた。

    先生と入れ替わりでシャワーを出ると、ぴかぴかの寸胴鍋が目に入った。ミサキの頭がすっぽり収まって、それでも直径に余裕がありそうな大鍋。
    スクワッドの皆を呼べばいいよ、と笑う先生を思い出す。アツコやヒヨリは、もしかしたらサオリと、アズサも。来てくれるだろうか。それ以前に、あれを使おうと思えるほど上達する日が、来るのだろうか?
    答えの出ない問いをこねていると、後ろに大きな何かが立つ。

    「大丈夫。できるよ、ミサキなら」
    「……何も言ってないけど」
    「料理できるようになるのかな、って思ってたでしょ」
    「……べつに」
    「嘘が下手になったね。いいことだ。それでだけど、大丈夫。ミサキはおいしいもの、作れるようになるよ」
    「なんで?」
    「そうなりたいって思うなら応援するよ。それに、一緒にしててもミサキは料理が上手だなって思うし」
    「……あり、がとう」

    照れくさくなって先生の胸に顔を押し付けた。拭いただけで湿り気の残る髪に気づいた先生がミサキを座らせ、ドライヤーを持ち出す。

    「何かあったら言ってね~」

    日常の反復で習慣化したことには抵抗を示さないミサキだが、ドライヤーで髪を乾かすのは時折忘れている。そんなときは先生がドライヤーをかけてやるのだが、今日は少しだけ変化があった。
    首筋や肩口、湯上りで血色の良い肌からうっすらと甘い匂いがする。今日買った石鹸の残り香だと思い至って、先生は首筋に鼻を近づけた。

    「……?終わっ――ひぁっ!?」
    「あの石鹸、ミサキの匂いと一緒だとこんな感じになるんだね」
    「い、いきなり嗅がないで――っ、ちょっ、くすぐった……!」
    「……ごめん、もうちょっとだけ」

    匂いと、腕の中でもぞもぞするミサキの反応を可愛がりながら、先生はしばらく解放を拒んだ。

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 11:59:03

    首筋に唇が触れる。ぞくっ、と身を強張らせ横目で見たミサキと先生の視線が交差する。先生の目の奥で、欲情の熾火が見えた。
    いきなり、いったいなぜ?胸の内の問いの答えを知る暇もなく上体をそっと押されて先生のほうへ顔が向く。唇が触れるとミサキの疑問は棚上げされた。すっかり慣れたというのに、ことを始める前のキスで保てるほどの余裕はいまだにない。軽く唇を吸われるのは、先生からのおねだり。
    少しだけ歯の間に隙間を作ると舌の先が差し込まれる。深いキスに思考も絡めとられ、ミサキもその気になった。

    「っん、ふ……なに、急に」
    「匂い嗅いだら、シたくなっちゃった。嫌、かな?」
    「嫌、じゃ……ない。ていうか、毎回聞かないで」

    そも、何度目かのときに伝えているのだ。一方的に住まう側なのだから、いちいち聞かなくてよい、と。しかし普段はミサキの言動に寛容な彼が、そのときだけははっきりと首を横に振って、何度でも言うのだ。

    「大事なことは、ちゃんと聞かなければならないんだよ」

    大切なことを語るときの言い方で、真摯に教え諭す。だから、ミサキもそれ以上言えずに、素直に了承するしかなくなる。彼はミサキと恋人の仲でありながら、その一方で教え導く生徒であるのだと、二面性を隠さずに見せる。
    だから、ミサキは先生が「大人」の顔をしているのが、あまり好きではなかった。行動に常に責任を負う、その前提で慎重にせねばならない大人という顔をする彼は、時々ひどく疲れたような顔をするから。ミサキに甘えたり、甘えさせたりする彼の気の抜けた優しい笑みのほうが、ずっと好きだった。

    「いいよ。嫌じゃない。きて」

    今夜はソファーの上から始まった。


    先生の休日は、たいてい次の日に仕事があろうとなかろうと、ミサキを抱きしめた状態で目覚める。腕の中のミサキは時々暑いのか眉をひそめたりしているが、おおむね穏やかな寝顔を見ることができる。
    勤め人を幸せとは言い切れないでいる先生だが、ゆくゆくは伴侶にとまで望んでいる少女の無防備な寝顔を見られるという一点においては身に染みた早起きの習慣に感謝するところであった。
    まだ重たい頭で朝食は何にするか考える。考えること自体は苦ではない。ただそれを実行に移すため起き上がるときの気怠さだけは、好きになれる日はきそうになかった。
    うっすら目を開けるミサキに、今日も先生は言う。

    「おはよう」

  • 6二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 12:02:49

    これで書きたかったSS、「ミサキと同棲甘えっち・先生の休日」は終わりです。約4000文字のためだけにスレ立てるのもちょっと悩んだけど、話が終わらずにスレ落ちてエタるのも悲しかったので全部書きました。
    読んでくれた人と前スレにいいねをくれた人、ありがとう。性癖に素直に語るときまた会おう

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 12:03:54

    あとは感想でも書いてくれると嬉しいです。そしてどうせ書いたなら読んでもらいたいので10埋めはします

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 12:05:08

    それはそうと、ミサキは買ったお鍋で何を作るんでしょうね

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 12:06:25

    単純に好みで言うならトマトスープとか作ってほしいですね。麦粒とか具だくさんのやつを

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 12:07:48

    10埋め完了~

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 16:52:31

    スレ立てありがとうございます。続きが読めてとても嬉しいです。
    支部などに投稿される予定はありますか?ぜひまとまった形で読めたらと思ったのですが…

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/01(日) 19:13:33

    >>11

    普段はそっちに投稿しているのでやろうと思えばできます。まとめ読み需要あるならしようかな?

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 00:37:24

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 09:27:52

    しゅ

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 16:54:38

    平日編も書こうかなって言ったら読みたい?

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/02(月) 23:40:38

    そうでもない?そっかぁ……

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/03(火) 02:45:31
スレッドは6/3 12:45頃に落ちます

オススメ

レス投稿

1.アンカーはレス番号をクリックで自動入力できます。
2.誹謗中傷・暴言・煽り・スレッドと無関係な投稿は削除・規制対象です。
 他サイト・特定個人への中傷・暴言は禁止です。
※規約違反は各レスの『報告』からお知らせください。削除依頼は『お問い合わせ』からお願いします。
3.二次創作画像は、作者本人でない場合は必ずURLで貼ってください。サムネとリンク先が表示されます。
4.巻き添え規制を受けている方や荒らしを反省した方はお問い合わせから連絡をください。