【平】Over Quartzer怪文書【成】

1二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 11:15:01

王になる理由を思い出した若き日の私と話し終えた後、ふと気がつくと目の前にクジゴジ堂があった。
クォーツァーの罠かと思い暫く中に入るのを躊躇していたが、どうせ罠なら中にいる奴らを殲滅した方が早いと思い中に入る。
中は私が覚えている通りだった。大小様々な時計が並び、心地の良い針の音が静かに部屋を満たしていた。
作業台に目をやるとおじさんがいた。何か作業に熱中しているらしく、私が入ってきた事にすら気がついていないようだ。
声をかけようか迷う。あの日、おじさんを救えなかった私が罠とはいえ話しかけていいのか？なんと声をかけたらいいのか。
そんな不安と後悔を感じ取ったのか、はたまた作業が終わったのかおじさんは顔を上げ、私の方に顔を向けた。
生きている顔だった。記憶にずっと張り付いていた目を閉じた冷たい顔ではなく、優しい瞳で私を見つめている。あぁ、このおじさんは本物だと分かった。
「あ！ちょっと待っててね！今お茶持ってくるから」
おじさんはそういうと奥の台所に姿を消した。私は作業台に置かれたものを見る。私のウォッチだった。
「それね。ここにきてからずっと直してたんだ。ソウゴ君がいつか絶対使うと思って」
そう言いながらお茶を持ってきたおじさんは、嬉しそうだった。しかし、直ぐに悲しそうな顔で目を伏せた。
「ソウゴ君に寂しい思いをさせちゃったからね。僕にできるのはこれくらいしかなかった」
お茶を置きながらおじさんは悲しい笑みを浮かべる。そんな顔をしないでほしい。何を言うかと考える頭より口が動いた。
「いや、違う。私が、いや……俺がここまで来れたのはおじさんのお陰だから。だから、ありがとうおじさん。そして、守れなくてごめんなさい」
最後の方は声が震えてしまった。感謝と後悔、そして懺悔が入り混じった言葉は、驚くほど穏やかな声だった。
おじさんはその言葉に対して、いつもの優しく温かい笑みで答えてくれた。そして、優しく私の仮面を外した。
「おかえり、ソウゴ君」
「ただいま、おじさん」
ウォッチはいつのまにか無くなっていた。あとは任せたぞ、若き日の俺。