(SS注意)椅子

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:16:30
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:03

    「────では、失礼しました」

     頭を下げながら理事長室から出ていき、ほっと一息。
     報告を終えたことにより、今回の出張業務の全てが終了したこととなる。
     地方トレセン学園における指導の協力、そして視察兼調査。
     ある程度の実績を持つトレーナーが持ち回りで行う業務であり、今回は俺の順番であった。
     こちらではなかなか得られない経験や見識を得ることが出来て、なかなか有益な時間だったとは思う。
     ……その期間中、自身の担当を直接指導出来なくなるのは、悩ましいところではあるのだが。

    「……大丈夫かな」

     一人そう呟きながら、俺はスマホを取り出してある人物とのトーク画面を開いた。
     その相手は、同僚のトレーナーである。俺の担当ウマ娘の同期を担当しており、その縁もあって彼とは個人的に親しくさせてもらっていた。
     能力、人格ともに優れたトレーナーであり、不在中に彼女の面倒を任せられるくらいには信頼における人物。
     そんな彼が少し前に送って来たメッセージがずっと、引っかかっていた。

    『彼女、何かを言いたそうな雰囲気を出しているよ』

     出張中、ずっと詳細なトレーニング記録を送ってくれた人物にしては、妙にあやふやな内容。
     それだけ直接言いづらい、あるいは言語化しづらい内容なのだろうがその正体は皆目見当がつかなかった。
     怪我などの大きなアクシデントではないのだろうが、微かな心配はどうしても湧き出て来てしまう。
     それもあり、本来は休日へ当てる予定だった日程を前倒しにして、本日学園へと戻ったのであった。

    「とりあえず、彼から話を聞いてみないとな」

     担当ウマ娘本人にまず会うべきかもしれないが、今日は休養日。
     せっかくの休みを邪魔したくはなかったため、戻って来たことを彼女にはまだ伝えていなかった。
     だからまずは、メッセージを送った本人に話を聞いて、事の次第を確認するとしよう。
     一旦トレーナー室に戻り、荷物を置いてからアポを取り、お土産を持って彼の下へ。
     頭の中でスケジュールを組み立てながら、俺は少し早歩きでトレーナー室へと向かうのであった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:16

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  • 4二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:19

     しばらくして、トレーナー室へと辿り着く。
     第二の家、といえるほどに長い時間を過ごしている場所。
     ここにいなかったのは半月にも満たない期間のはずなのに、とても久しぶりに感じた。
     それと同時に、帰って来たなという確かな安堵。
     とはいえ、安心してばかりもいられない。
     このトレーナー室と同じくらいの時間、ともに過ごしている相手の不安を解消出来ていないのだから。
     小さく息をついて、背筋を伸ばす。
     そして、鍵を外して部屋の扉を開けた。
     
    「……えっ?」

     部屋の中には、一つの誤算があった。
     鍵がかかっているから中には誰もいないだろう、という思い込み。
     それを覆された時、俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。

    「すぅ……すぅ……」

     仕事用のデスクの椅子、そこには一人の少女がいる。
     さらりとした鹿毛のロングヘア、前髪には特徴的な形の流星、大きな白いリボンのついたカチューシャ。
     担当ウマ娘のアーモンドアイは、あどけない寝顔を晒しながら愛らしい寝息を立てていた。
     ────何故か、俺のジャケットに包まりながら。

    「…………ええ?」

     状況が掴めず、俺は再び困惑の声を漏らしてしまった。
     ……オーライ、まずは一つ一つ状況を確認していこう。

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:26

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  • 6二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:34

     まずは、何でアイがここにいるのか。

     まあ、俺のトレーナー室は担当である彼女にだって当然使う権利がある。
     だから居ること自体はおかしくないのだが、ここで何をしていたのか、という点が疑問に残った。
     大の負けず嫌いで、時間さえあればあらゆる分野の技術や知識を学ぼうとする子だ、暇つぶしということはないだろう。
     しかし、勉強などをしている痕跡はなく、ただ寝るだけならば自室で寝た方がよっぽど効率的だ。
     ……考えてもさっぱりわからないので、とりあえず次の疑問に移る。

     何故、アイは俺のジャケットに包まっているのか。

     あれは出張前に、たまたまトレーナー室へ置きっぱなしにしていたもの。
     特に高価なものというわけでもないため、それを彼女がどう使おうが勝手ではある。
     とはいえ最近は暑くなってきており、わざわざ他人のジャケットに包まる必要性など微塵も存在しなかった。
     実際、アイの額は微かに汗ばんでいて、前髪が少しだけ張り付いてしまっているほど。
     そもそも、トレーナー室には仮眠用で薄手のタオルケットなども備えてるのだ。
     どう考えても寝苦しいと思うのだが、アイが妙に安らかな表情を浮かべているのも不思議だった。

     結論、何もわからん。

     とはいえ、寝た子を起こすのも悪い。
     とりあえず、この場は静かに荷物を置いてから出ていき、彼の下へと向かうことにする。
     ……後やっぱり暑そうだからジャケットは回収しておこう。
     そう考えた俺は眠るアイへと近づいて、慎重に自らのジャケットに手を伸ばした────その瞬間。

    「んん……っ」

     突然、アイが身動ぎをしたため、俺は思わず動きを止めてしまう。
     彼女の鼻先がぴくりと動き、やがて閉じていた瞼がうっすらと開かれていく。
     煌めく星のような瞳は虚ろに彷徨った後、目の前の俺を見い出したかのように焦点を合わせる。
     そして、ふにゃりと緩んだ微笑みを浮かべた。 

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:36

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  • 8二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:47

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  • 9二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:53

    「えへへ……トレーナーの匂いが…………いっぱい……す…………る……?」

     ────直後、目をぱちくりさせながら表情を消すアイ。
     お互いが凍り付いてしまったかのように、俺もアイも言葉を発すること出来ない。
     息が詰まる時間をしばらく過ごして、ついに耐えきれなくなった俺は、とりあえずひょいと片手を上げた。

    「えっと、ただいま」
    「…………っっ!?」

     アイは頬を朱色に染めて、目を大きく見開く。
     そして、身を包んでいたジャケットをぎゅっと抱き締めるようにしながら、顔を隠してしまった。
     おかげでジャケットの方はしわくちゃの大惨事である、いやまあ、別に構わないのだけれど。
     やがて、彼女は覗き込むように視線をこちらに向けて、ジトっと眉を歪ませた。

    「……帰ってくるの、もう少し先だったわよね?」
    「少しだけ早く切り上げられたんだ、お休みの邪魔しちゃ悪いと思って連絡しなかったけど」
    「…………女の子の寝顔をそんな風に眺めるのは、マナー違反じゃない?」
    「ごめん、ちょっと気が利いてなかったよ、ただジャケットを回収させてもらおうかと思って」
    「………………暖めて、おいたわよ」
    「………………どうも」

     アイはとても気まずそうな表情で目を逸らしながら、抱き締めていたジャケットを差し出した。
     流石にそれはないだろ、と思わなくもなかったがここで突っ込んでも仕方ないので素直に受け取る。
     軽く広げてみると、芳醇で甘ったるい香りが色濃く鼻腔を刺激していった。
     確かに、ちょっと暖かい。

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:17:58

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  • 11二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:18:09

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  • 12二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:18:17

    「……」
    「……」

     無言のアイは、赤い顔でちらちらとこちらを見つつ、思い悩むような表情を浮かべていた。
     確かに────何か言いたそうにしている雰囲気を出している、という彼の見立ては間違っていなかった。
     心の中で深く感謝をしながらも、俺は自分の仕事に取り掛かることにする。
     彼女の言いたいことややりたいことを受け止めて、その手伝いをすることが俺の仕事なのだから。
     それが、俺のやりたいことなのだから。

    「いない間、何かあった?」
    「……何もないわ、トレーニングも授業も何の滞りもなく進めたもの」

     そう言うアイの耳は、ぴくぴくと反応を示していた。
     彼女は文武両道で完璧な優等生であるが、割とその情緒は素直。
     人前では超然とした立ち振る舞いをするものの、気を許した相手には感情的な部分も出して来る。
     現に今も、言葉こそは落ち着いているものの、表情は拗ねたようにむくれていた。
     やがて、彼女は────訝しむように、眉を顰める。

    「どうしたのよ、急に楽しそうにしちゃって」
    「えっ」

     慌てて、手を口元に持っていく。
     引き締めていたと思っていた自らの唇は、柔らかく緩んでいた。
     ああ、情緒が素直なのは、どうやら俺も同じだったらしい。
     苦笑いを浮かべながら、不思議そうな顔をしているアイに対して、言葉を返す。。

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:18:19

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  • 14二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:18:29

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  • 15二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:18:39

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  • 16二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:18:50

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  • 17二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:01

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  • 18二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:09

    「久しぶりにキミに会えたから、かな」
    「……?」
    「連絡とかは取ってたけど、顔を合わせられなくて寂しかったからさ」
    「……っ!」
    「ずっとキミの走りも見れなかったしね、キミを見てくれていた彼を羨ましいなって思っちゃう時もあったよ」

     恥ずかしながらも、これは紛れもない事実だった。
     地方のトレセンでも、俺は色んなウマ娘達の走りを見ている。
     中にはこちらに来ても通用するのではないかという素質を持ったウマ娘だっていた。

     しかしそれでも────目に焼き付いたアイの走りを、いつでもどこでも幻視してしまう。
     
     彼女の走りが、恋しくて、焦がれて、狂おしいほどに。
     とはいえ、感謝しなければいけない相手に嫉妬するのはダメだな、と自らに自省を促す。
     その時、くすりと小さな笑い声が、鼓膜を揺らした。

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:11

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  • 20二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:21

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  • 21二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:22

    「……ふふ、そっか」

     見れば、アイは頬染めたまま、柔らかな微笑みを浮かべている。
     その笑顔は少し困っているようにも、満更でもなさそうにも、楽しそうにも見えた。
     
    「トレーナーも、そうだったんだ」
    「……アイ?」
    「……トレーナー、貴方に一つ。お願いしたいことがあるのよ」
    「あ……ああ! 何でも言ってくれ、出来る限り協力するから!」

     アイの輝く瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめる。
     自分一人で何でも出来てしまうであろう彼女が、俺を頼ってくれる。
     これ以上、トレーナー冥利に尽きることがあるだろうか。
     心が躍るのを感じた俺は、改めて姿勢を正して、彼女からのお願いを待った。
     そしてアイはいつものよう、自信に満ち溢れた表情を浮かべながら、はっきりと言葉を紡ぐ。

    「わたしの、椅子になって欲しいの」
    「わかった、キミのためなら椅子にでも何でも………………………………えっ、椅子?」

  • 22二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:31

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  • 23二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:36

    「あの子がトレーナーを椅子にしている様子が、とても仲睦まじく見えたわ」
    「そっか」
    「そしてその時、わたしは、ちょっぴり、ほんの僅か、ミリ単位だけれど、敗北感を覚えてしまったのよ」
    「うん」
    「だから、それを払拭して、精神的勝利を収めるために、トレーナーを椅子にしなくちゃいけないの」
    「うん……うん……?」

     胸に手を当てながら堂々と言い放つアイ。
     しかし、その大物オーラだけで誤魔化しきれないほど、言っていることは支離滅裂であった。
     本人にもそれは自覚があるようで、良くみると目がぐるぐると彷徨いまくっている。
     早い話、誰かがトレーナーに座って、それを羨ましくなって、自分もやりたいと思ったということだろう。
     その『誰か』についてはプライバシーを尊重してか、教えてくれなかったが。
     はてさて、どうしたものか。
     彼女のためであれば身を粉にする覚悟は出来ているが、椅子にする覚悟までは出来ていない。
     そもそも、そんなに密着するのはいかがなものか。
     そうは、思うのだけれど。

    「…………ダメ?」

     俺の心中を察したのか、アイはしゅんとした様子で呟いた。
     内心ダメなのだろうと思いながらも、縋りつくような寂しげな目。
     その瞳を見て、俺は先の言葉の意味に、ようやく気が付いた。

     ────トレーナーも、そうだったんだ。

     アイも、寂しくて、羨ましかったのだ。
     そんなことを思わせてしまったという罪悪感。
     そして、同じことを思っていてくれていたという、歪んだ幸福感。
     そんな奇妙な感情が胸の奥から染み渡り、自然に表情筋を弛緩させてしまう。
     それと同時に心の線引きもまた、緩んでしまっていた。

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:42

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  • 25二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:52

    「まあ、それくらいなら、いいよ」

     そんな風に、答えてしまうくらいには。
     俺の言葉を聞いたアイはピンと両耳を立てて、驚きに目を瞬かせた。
     
    「……ホント?」
    「えっと、一回だけ、だからね?」
    「…………ええ、一回で十分だわ」

     そう言って、アイはにやりと勝気な笑みを浮かべる。
     尻尾をぱたぱたと揺らしながら、座っていた椅子からぴょんと立ち上がった。
     そしてどこか優雅な動作で、俺に座るように促す。
     椅子になるために椅子に座るというのも変な話だな、と思いながらも椅子へと腰掛けた。
     ────伝わってくる温もりと、甘い残り香。
     それは妙に生々しく、心臓の動きを早くするには十分過ぎる情報だった。
     
    「それじゃあ早速、座らせてもらうわね?」
    「ああ、存分にどうぞ」
    「ええ、遠慮なく……アイ、座ります」

     アイはその言葉とともに、正面から俺の両肩に両手をぽんと置く。
     目の前には、少し潤んだ熱っぽい瞳でじっと見つめて来る、整った彼女の顔。
     そしてそのまま、手に力を加えて────俺の脚の上へと、向かい合う形で跨った。

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:19:53

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  • 27二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:03

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  • 28二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:08

    「んん……っ」

     まず感じたのはずっしりとした重み、そして火傷しそうなほどの熱い体温。
     アイはくすぐったそうに声を漏らしながら、よじ登るようにもぞもぞと身体を動かしていく。
     ぎゅっと挟み込んでくるハリのある太腿、ゆっくりと伝ってくる引き締まった尻の感触。
     視線を上にあげると、息がかかりそうな距離で彼女の双眸が俺を見下ろしている。
     ……あれ、なんか思ってたのと違うぞ。

    「……アイ」
    「なにかしら?」
    「これ、逆じゃないのか?」
    「…………貴方、わたしに座りたいの?」
    「いやいやいやそうじゃなくて、向きとか、そういうのが違うんじゃないかなって」
    「これで合ってるわよ………………同じじゃ、勝ったことにならないもの」

     最後にぽそりと呟いた言葉は、良く聞こえなかった。
     とはいえ、これで正解らしい。
     トレーナーとしてはどう考えても不正解だが、一度受け入れた以上は仕方がなかった。
     アイは、じっと俺のことを興味深そうに見つめる。

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:13

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  • 30二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:21

    「あまり近くで見たことなかったけど、トレーナーって結構まつ毛が長いのね」
    「そ、そう?」
    「彫りが深くて、鼻がちょっと高めで、何だか海外の人みたいね……もっと、良く見せて欲しいわ」
    「いや、いいけど、その、さ」
    「……ふふ、こうして少しのスキンシップで顔が赤くなるのは、日本的ね」
    「……そう言うキミの顔も赤いけど」
    「…………わたしも、日本のウマ娘、だもの」

     ふと、肩に置かれていたアイの両手が離れた。
     ゆっくりと滑るようにその手は俺の後頭部と、背中の辺りへ移動する。
     そしてそのまま、彼女はぎゅっと抱き着くように自身の身体を密着させた。
     
    「本物の、トレーナーの匂いが、いっぱいする」

     赤くなった顔を隠すように、アイは俺の首筋の辺りへと顔を埋めて、囁くように言葉を紡ぐ。
     暑い吐息、胸板を押しつぶすマシュマロのような膨らみ、しなやかで柔軟性のある良質な肉感。
     汗ばんだ身体からは酸味を含んだ匂いが微かに立ち昇り、彼女自身の甘い香りをより引き立て、扇情的なものへと変える。

    「はぁ……ふっ……ん……」

     アイの呼吸が乱れて、お互いの身体に熱がこもっていく。
     感触はしっとりと心地良くなって、匂いは更に強く濃厚なものになって、そのせいで更に熱はこもって。
     こうしているだけなのに、神経は甘く痺れていき、頭は幸福感に埋め尽くされていく。
     それは彼女も同じなのか、表情こそ見えないが耳はぴくぴく動き、尻尾はゆらゆら怪しく揺れていた。
     そして、ぴたりとくっ付いているお互いの心臓からは、五月蠅いくらいの鼓動がドクドクと鳴り響いている。

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:23

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  • 32二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:35

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  • 33二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:38

     だからこそ気づかなかったのだろう────近づいて来る足音に。

     こんこん、と控えめに響き渡るノックの音。
     お互いの心臓が、跳ね上がったかと錯覚するほどに大きく動いた。
     心臓が早鐘を鳴らす中、背筋は液体窒素でも流し込んだように凍り付き、頭から血の気が引いていく。
     部屋の鍵は、かけていない。
     こんなことをする予定なんて、全くもって存在していなかったから。
     万が一こんな光景を誰かに見られようものなら、マズイというレベルではない。
     
    「……」
    「……この足音」

     息が詰まる。
     ノックの音が聞こえてしばらく経つが、扉には何の反応もなかった。
     どうやら、中から返事がなくとも入って来るような無遠慮な相手ではないようである。
     同時に、それはそこまでの緊急事態ではないであろうということを示していた。
     となれば、居留守の一択である。
     俺はきゅっと口を噤んで、時を過ぎるのを待つことにしたのだが。

    「………………どうぞ」
    「アイ……!?」

     アイの言葉は、小さくても良く通った。
     予想外の行動を前にして、俺は彼女の名前を困惑混じりに呼ぶだけで、何もすることが出来ない。
     外に聞こえてないことを祈るものの、無情にも、扉は音を立ててゆっくりと開いていった。

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:45

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  • 35二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:56

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  • 36二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:20:59

    「あー、アイさん? この間はけったいなもん見せてきずつないなあ、けど誤解せんで欲しいはうちらかて毎日あーゆーしているわけやないってことなんよ、精々一週間に一回、いや二回……ちゃうなあ、三日に一回くらいや、ほんまに。うちもあかんかなあとは思っとるんやけど、トレーナーさんがぬっくいつぶらな瞳でいいの? って見てくるもんやから、断るのも殺生やなあ、って思ってもうてついつい続けてまうだけなんや、あれはほんますっこいわあ……でも、ああしてもらうと胸がほっこりすんのも事実でな、あはは、こらもう埒があかんわ────お邪魔しましたしょうもないことつらつら話してすいません」

     サイドテールの長い髪、凛とした薄紫の瞳、左耳にはライラックを模した髪飾り。
     トレーナー室に入って来たラッキーライラックは一人捲し立てた後、こちらの姿に気づいて顔を真っ赤にした後、即座に回れ右をした。

    「……………………ああいうのもアリなんか」

     そして、ぽそりと一言言い残して、彼女立ち去って行った。
     部屋の中には再び、静寂が戻る。
     突然過ぎる出来事に呆然としていると、ふと感じる、小さな揺れと小さな声。
     それは、アイが肩を震わせながら笑っている様子であった。

    「ふふ、ふふふふ、ふふふふふ……っ! 勝った、勝ったわよ、トレーナー!」
    「……え、勝ってるのコレ?」

     コールドゲームレベルのボロ負けだと思っていたのだが、どうやら逆転勝利の模様。
     さっぱりと状況は理解出来ないのだが、アイの確信めいた様子は雄弁に結果を語っていた。

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:07

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  • 38二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:16

    「勝利宣言をしなくてはいけないわね、信頼する人の耳元でぽそりと勝利を囁くのが貴婦人の嗜みらしいわ?」
    「知らないなあ」

     本当に知らないのだが、そんなことは気にもせずアイの唇が耳元へと迫る。
     彼女は細い息で耳をくすぐると、更に顔を近づけて、消え入るような柔らかな声でそっと囁いた。

    「──────お帰りなさい、トレーナー」

     ああ、そうだ。
     俺もアイも、一番大切なことを伝えていなかった。
     ため息一つ。
     彼女の背中へと手を回して支えながら、ぴょこぴょこと動く耳に顔を寄せて、小さな声で言葉を紡ぐ。

    「ただいま、アイ」
    「……えへへ」

     アイの顔が幸せそうに蕩けた、気がした。

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:17

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  • 40二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:27

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  • 41二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:35

    お わ り
    書こうと思って間に合わなかった分です

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:38

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  • 43二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:48

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  • 44二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:21:58

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  • 45二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:22:09

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  • 46二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:22:20

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  • 47二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:22:30

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  • 48二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:22:41

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  • 49二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:22:51

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  • 50二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:23:01

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  • 51二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:23:11

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  • 52二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:23:21

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  • 53二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:23:32

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  • 54二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:23:44

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  • 59二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:24:35

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  • 60二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:24:45

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  • 61二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:24:56

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  • 62二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:25:11

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  • 63二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:25:25

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  • 64二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:25:36

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  • 65二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:25:47

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  • 66二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:26:24

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  • 67二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:26:34

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  • 68二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:30:22

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  • 69二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:30:28

    続編だったか
    前のやつと合わせて読ませてもらったよ
    サンキューな

  • 70二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:30:36

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  • 71二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:30:49

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  • 72二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:31:06

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  • 73二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:31:22

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  • 74二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:31:32

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  • 75二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:31:44

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  • 76二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:31:57

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  • 77二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:32:59

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  • 78二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 18:54:55

    大丈夫?
    トレーナー今晩眠れる?

  • 79二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 19:21:35

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  • 80二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 19:36:22

    こやつの恐ろしいところは吸収して実践するところや…


    >>79

    10秒間隔の連投が多いからまあそういうこと

  • 81二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 19:37:04

    ララちゃん無茶苦茶悔しがってそう

  • 82二次元好きの匿名さん25/06/05(木) 22:05:47

    前作も読みました。ラララもアイも暴走してる…

  • 83二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 07:38:30

    無理やり勝ちにいったか
    アイちゃんはそういうことする

  • 84二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 10:16:31

    ラララの姉ちゃんは何しに来たんや

  • 85二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 18:48:54

    アイが見せつけるために呼んだんでは

  • 86二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 18:56:23

    今日もアイは勝ちかちかっちかち

  • 87二次元好きの匿名さん25/06/06(金) 23:21:12

    ラブだね♡

  • 88125/06/07(土) 07:39:55

    >>69

    前作ともども読んでいただきありがとうございます

    >>78

    今回の出来事もトレーニングに活かしてくれるでしょう

    >>80

    敗北も糧にするんですよね・・・

    >>81

    そして歴史は繰り返す

    >>82

    争いが危険な領域に突入しているだけだから・・・

    >>83

    結果として完全勝利になったんですね

    >>84

    弁明兼惚気ですかね・・・

    >>85

    結果として完全勝利になっただけ来たのは想定外 のはず

    >>86

    固すぎる

    >>87

    ラヴだよ♡

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