- 1二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 01:35:50
”あはは、勘弁してほしいなぁ”
シャーレに響くユウカの声に苦笑いしつつ、先生は謝った。
「もう……どうして新しいものが出るたびに買うんですか?」
"好きだから、かな"
「先生も大人なんですから、もう少し計画的に支出をですね……」
恒例になりつつある苦情を述べながら、このときふとユウカの胸に疑問が訪れた。
「……そういえば、先生。先生は、こういうものをどこに置いているんですか?シャーレには一週間くらい置いて、その後どこかに移してますよね」
”ああ、レンタル倉庫を契約して、そこに保管してるよ。休みの日に自分でやるようにしてるんだ”
「倉庫!?そ、そんなに買ってるんですか!?」
"いやいや、昔からずっと集めてたから量が多いんだよ。借り住まいだと部屋の改装もできないからね……"
「昔から、ですか。いつからです?」
"買ってたのは小学生とかから。本格的に集めだしたのは……仕事を始めた後だったかな"
まだ箱から取り出されていない合体変形ロボの包装ビニールを撫でて、先生は懐かしむような顔をした。
”ちょっとした昔話だよ。聞く?”
「なら、せっかくなので」
日が西に傾きつつある外を見やって、それは始まった。 - 2二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 01:49:44
”ユウカは何かに憧れたことってある?”
「憧れ、ですか?それは……もちろん、ありますけど」
”うん、とってもいいことだ。私もいろんなものに憧れたよ。夢見がちといってもよかった”
幼き先生が熱中したのは、特撮番組だった。特に日曜朝に放送されるものにテレビにかじりつきで見ていたものだ。
それは誰しも通る道。胸の内に憧れを抱いて、人はそれが破れるまで夢を見続ける。
先生もまた、その一人だった。成長して、やがて忙しい日々にゆっくりテレビを見る時間を忘れて、情報化社会に暮らすうちに世界は平坦になっていく。
不満を抱いて家出するようなきっかけも、闘志に満ち溢れて追うほどの夢ももたずに、いつしか大人の仲間入りをして社会の一つの歯車として生きるようになる。
そしてある日とうとう、自分の生きる意味を見失った。
部屋の隅で丸くなっていたとき、たまたまつけっぱなしだったテレビが賑やかな音をたてる。外はすでに明るく、そしてその日は日曜日だった。
幼いころに熱中した特撮の系譜の作品が、まだ続いていた。何の気なしにその話を眺めていると、先生の心にきしむような痛みが走る。
昔に戻りたい。毎日外を走り回っていた、今は何が楽しかったのかわからない、あの童心に戻りたい。
微かな願望から、先生はあの日見た作品を見直すことにした。それは叶わぬ願いの、せめてもの発露だった。 - 3二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 02:01:34
拙い合成映像に所々違和感のあるセリフ。しかし、それを見ているうちに、その作品は何かを強く訴えていることに気がついた。
『自分に素直になっていい』『悩むことは悪いことじゃない』『辛いことも嫌なこともあれど、そればっかりが人生じゃない』
それは話の裏など気にもしなかったあの頃は見出せなかった、作品を作った人々からのメッセージ。子供向けで、けれども大人にも強く響く、励ましのような言葉。
翌朝、凪いだ心で目覚めたとき、先生はひとつの決意に満ちていた。
"皆には、生きるって悪いことじゃないよ、って、早めに知ってほしかった。私がそう言い続けることで、子供たちのうち一人でも、夢とか希望とかを忘れずにいられたら、それで私が先生になった価値はきっとある、ってね"
「……先生は、今でもそう思うんですか?」
”思うよ。生きるのって、言うだけなら簡単だけど実際はすごく大変だから。漠然として、でも確かにそこにある、明るい感情が何か必要なんだ。それを見つけるのって難しいけど、見つけたら手放さないでほしい。もちろんユウカにも”
わかったような、わからないような、という顔のユウカに軽く笑いかけて、先生はコーヒーを啜った。
”仕事に戻るよ。ユウカは終わったら帰っていいからね”
「先生一人じゃ終わらないじゃないですか。私も手伝います」
あきれたような吐息とともに、シャーレは日常へ戻っていった。 - 4二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 02:02:23
……っていう、先生の特撮・ロボ好きがパッションの一因だったらいいなっていう妄想でした
- 5二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 02:04:33
なんだろう…共感できる部分がある…
特撮はいいよね、ロボいいよね - 6二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 02:40:02
スレタイを見てユウカが幼児化しておもちゃをねだったのかと誤解してすまない