- 1二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:44:18
栄える者は必ず衰えの時を迎える。西楚の覇王項籍もまた同様であった。一度は天下を手中に収めた項王だが、漢中に封じた劉邦が反旗を翻し長きに亘って争いを続けるも紀元前ニ〇ニ年、ついに絶命の窮地を迎えた。
項王の軍は垓下の城に立て籠っていたが、漢の軍勢に幾重にも包囲され兵は少なく食糧も尽きそうな状態であった。
さらに劉邦は戦意を削ぐため、兵士たちに楚の歌を歌わせた。
───四面から楚の歌が聞こえてくる。項王は愕然として呟いた。
「…ああ、我が故国は既に漢の手に落ちてしまったのか。これ程までに楚人が多いとは」
項王は夜起きると寵姫虞美人、愛バ騅と共に残った数少ない酒で酒盛りをした。
きっと、これが最期に飲む酒になるだろうか。
そう思うと、静かに酒を飲んでは居られなくなり、その場で作った詩を詠み始める。
力抜山兮気蓋世
時不利兮騅不逝
騅不逝兮可奈何
虞兮虞兮奈若何
何度も繰り返し唄い、虞姫と騅もまた唱和する。感極まり、涙を流したまま顔を上げることさえ出来ない。 - 2二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:44:27
最期の宴を終え、決意を固めた項王に芦毛の髪を揺らし、騅が付き従う。王の寵姫は足手まといにならぬよう既に自刃した。
残った精鋭の兵たちを引き連れて漢軍の包囲を抉じ開けて突破し、ひたすら南へと進み、本拠の地会稽へと駆けた。
追っ手を倒しながら進んでついに烏江のほとりまで来たが、着いてこられたのはほんの僅かであった。
烏江では亭長が船を出す準備をしており、項王の姿を見ると、
「江東は小さいですが地は方千里、衆は数十万にのぼり、王を名乗るのには充分でしょう。さあ、早くお渡りになってください。船を持っているのは私だけなので、漢軍が来ても河を渡ることはできないでしょう」
と言うがしかし、ハッとして項籍は自嘲するように笑う。
「天が私を滅ぼそうとしているのに、果たして無事に渡れるだろうか。それに私は8000人の子弟と共に西へ渡ったが、今となっては誰一人として帰って来ることはできなかった。例え江東の民たちが私を憐れんで王の座につけようと、一体どのような顔をして彼らに向き合えるだろうか。彼らが言葉に出さずとも、私は恥じずにはいられないだろう」
俯いて口を結ぶ亭長に項籍は続ける。
「私は君が徳ある者だと知っている。5年間ずっと一緒に戦ってきて、一日に千里を駆けたこともあった我が相棒…騅を君に預ける。この先のことに巻き込むのは忍びない」
その言葉に芦毛のウマ娘は振り返り、項籍の袖を掴む。
「項王様…!わたしは、あなたの側で戦えるなら死さえ…!」
だがその手をゆっくり振り払い、振り返らずに項籍は言う。
「河を渡った先で、元気でいてくれ。それが私からの最期の令だ」
「項王、様………承知、しました」
腰に提げた剣に手を掛け、項籍は来た道を返る。騅はただ、それを見送るだけであった。 - 3二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:47:08
史記で草
- 4二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:49:06
ウマ娘……?
- 5二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:50:11
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- 6二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:50:31
- 7二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:51:47
ホントだ、しかも騅ちゃん芦毛じゃん
- 8二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:55:07
これがあにまん教養シリーズですか?
- 9二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:56:39
騅という漢字に芦毛という意味がある
だから固有名詞なのかはちょっと疑わしい気がする。
司馬遷は大真面目に劉邦のことを「姓は劉で字は季」とか書いちゃう人なんだけど季は末っ子って意味だし邦もあんちゃんみたいな感じの一般名詞 - 10二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:57:46
この騅は子供の頃に虞美人に買い上げられて二人の娘のように育てられた騅
- 11二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 19:57:50
まあだから芦毛ちゃんくらいの意味だったんじゃないかなって疑ってる
違ったらごめん - 12二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 20:02:57
時代違うけど赤兎馬も固有名詞ではない説があるし騅に限った話でもないのかもしれんね
- 13二次元好きの匿名さん22/04/05(火) 21:15:01
まさかあにまんに漢文の翻訳載せる奴がいるとは思わなんだ
- 14二次元好きの匿名さん22/04/06(水) 01:06:37
ビックリするわね