- 1スレ主25/06/07(土) 23:29:48ここだけノエル先生が『一周目の記憶』を引き継いだ世界 11|あにまん掲示板https://bbs.animanch.com/board/4858773/ただしその記憶を自覚したタイミングはフランス事変が起きた後とする現在、シエル√編のDAY16/暁の心火を進行中bbs.animanch.com
ただしその記憶を自覚したタイミングはフランス事変が起きた後とする
現在、シエル√編のDAY16/暁の心火を進行中
- 2二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 23:30:51
おかえり
- 3スレ主25/06/07(土) 23:30:54
今までの復讐譚
記憶引き継ぎニューゲームノエル先生inスレまとめ | Writening始まり https://bbs.animanch.com/board/4292864/ 分岐/アルク√ https://bbs.animanch.com/board/4305346/writening.netEND8『未来へ進むジュブナイル』
(リンク先に有志の方が描いてくださったとっても仲良しで尊いノエシエの神絵があります)
遠野志貴死亡IFまとめ | Writening「…………ん……」 眠りから目を覚ます。ようやく見て見ぬ振りをやめて、目の前の現実を視る。 そうだ。これからわたしは、わたしの存在価値を、意味を示す為に動く。 「彼を―――遠野くんを、救(たす)けなくちゃ。…writening.net - 4スレ主25/06/07(土) 23:31:22
このスレのノエル先生
・フランス事変後に修道院に隔離されて間もなく『一周目の記憶』を自覚する
・隔離後すぐに代行者として就任。この時点でエレイシアに対する報復を決意し復讐者として生きる
・エレイシアが目覚めて代行者になるまでの六年半でひたすらに自己研鑽&限界を超えるための代償を払い続ける。その甲斐あって原作とは非にならない強さを得る
・人間以上の耐久を得るための一環で左足を聖別化した義足に改造してもらってる
・偶然にも手に入れた十四の石を用いて人外と化す。外見の変化は肌が白くなったくらい。完全に適応してからは恐らく瞳孔も十字になってると思われる
・幻想種の中で神獣に区分される『白鯨』モビーディックの遺骸を直接的な経口摂取で取り込み、更に肉体の存在規模を拡張させる事に成功している
・現時点での強さは少なくともシエルとの連携でなら後継者をも斃せるまでになっている
・というよりシエルとの連携の末に二十七祖のクロムクレイに引導を渡すという大快挙を成しえてしまった
・↑の功績もあって教会から『焔(ほむら)のノエル』という異名をつけられる
・着実に強くなっていってる事と『一周目の記憶』の自分を反面教師にしてる事もあって大分精神が安定している
・ただし完全な復讐者として生きているので高い身分だの裕福な生活だのと言った人並みの幸せには全く固執していない。もはや彼女が望んでいるのはロアやシエルに対する復讐のみとなっている
・そんなんだからマーリオゥからは『手を焼かせる制御不能の猪』と厄介に思われてる
・ここまで復讐鬼に振り切っているものの、無辜の人々が死徒に虐殺されるのを何よりも許せない代行者としての正義感もちゃんとあったりする
・実はシエルを誰よりも憎み蔑んでいる一方で、憎んでいる故に誰よりも彼女を気にかけていたりする。シエルの理解者 - 5スレ主25/06/07(土) 23:32:34
- 6スレ主25/06/07(土) 23:36:54
現在の状況
・ノエル先生、精神的な拷問と称してシエル先輩をかつての故郷を再現した幻惑の精神世界に閉じ込める
・その世界でも嫌がらせのように死徒としての特性が反映されているのでシエル先輩の吸血衝動はじわじわと深刻化している - 7スレ主25/06/07(土) 23:40:52
どうもスレ主です
何度落ちようとも(少なくとも現在の√が書き終わるまでは)諦めずに書ききるつもりなのでよろしくです
今度こそはちゃんと完走を目指したい…… - 8スレ主25/06/07(土) 23:48:07
それは、そうだ。
自分でない第三者の記憶を否応無しに植え付けられ、汚染され、侵食され、塗り潰される。
そんな口にするのも思い出すのも悍ましく思う感覚は、永遠に忘れられないだろう。
いや、それもまた己の罪として忘れてはならない。我が身可愛さで自分を殺せる内に殺しきれなかった結果が、あの地獄なのだから。
その罪を自覚し、戒める事を忘れれば、その瞬間に今度こそわたしは真にヒトでなくなってしまう。
それは死徒に堕ちようが何度も殺されようが、文字通りどんな目に合おうとも決してあってはならない。
………けれど、彼女の場合はわたしとは違うらしい。
「確かに、それは否定のしようがありません。ですが、説明を聞くにあなたは『自分とは全く異なるノエルの記憶』という情報に上書きされるような事もなく、あなたという元来の人格を今もこうして保っている。
それは、わたしとは違う。わたしもロアという魂と一心同体になってはいましたが、間もなく人格も肉体もロアのそれに上書きされた。結果は言うまでもありません。
それに対してあなたは………わたしから見れば、少なくとも七年半前に再会したあの時からずっと変わっていない。
わたしへの憎しみも、吸血鬼そのものへの怒りも、代行者として人々を魔性から守ろうとする意思も、揺らいでなんかいない。
記憶―――それも誰かの人生ともなれば、その情報量は膨大です。仮にその総量が30年分未満しか無かったとしても、そんなのが短期間で一気になだれ込めば与える影響も少なくないワケがないんです」
わたしはどこまでも弱かったから、そういった膨大な情報量による変質の影響を受けてしまった。
言い訳が赦されるのであれば、それは800年以上もの途方もない情報量を蓄えていたロアの記憶と、彼の魂が死徒としてのカタチだった故に身も心も汚染されて然るべしだったのだが。
彼女の言う『別のノエルの記憶』。これは、その最期がわたしの手で殺されていて終わっているとも口にした。
………恐らくだが、わたしの手で殺されているのであれば、そのノエルも今のわたしのように死徒と化していたに違いない。
あまり断定はしたくないが、それ以外でわたしが彼女を手にかけるような状況が思いつかない。 - 9スレ主25/06/07(土) 23:50:45
であるのなら、そのノエルの魂も汚染されていた筈。しかし目の前の彼女は人間を辞めてはいるものの、死徒でも吸血種でもない。
あくまで記憶だけが、何らかの因果で彼女というノエルに引き込まれたのだろう。
「――――――ふ。ふ、ふふふふ、うふふふうふうふふふひひっひひひ。
なるほど、なるほど。何の影響もないワケがないと。私は、私としての人格を保てていると。おまえには、そう見えているの?」
「…………ええ。わたしは、そう思っています。
どれほど道を踏み外そうと、代行者として人々を害する吸血鬼を排除するという守護の姿勢は変わっていない。それだけじゃなく、かつての自分を今でもそうして憶えている。
何より、手段やリスクを選ばずに力を求める一方で、死徒の力に身を委ねる事だけは決してしなかった。それはわたしにはできなかった事です。
それが……あなたというノエルは今もわたしの知っているノエルだと言える、確かな根拠です」
「――――――は。はは!あはははははは!!ははっはははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
ひゃはは、アッハハハハハハハハハヒャヒャヒャヒャひゃははははははははっ!!!!!ひィ、いっひひひひひぃははははっっ!!!」
「え…………?」
唐突に金切り声に近い勢いで、狂ったように笑い声を響かせる。
何がそんなにおかしいのか。わたしの答えに、彼女はどうしてそんなにも笑うのか。
「んぅふふふ、ふふふっふふふ。ちょっと、ちょっと待ってよ。アンタ……あー、おまえさ、わざと言ってんのソレ!?私を笑い殺す気ぃ!?」
「わざとって……何を、言ってるんですか。そんな筈がないでしょう」
「へえ、マジで言ってるんだ!まあそれも致し方ない事なのかしら?
おまえは私に愛しの志貴クン共々に生殺与奪の権利を握られちゃってるからね。私のご機嫌取りに必死になって、そういうクッサイ事をおべっかのようにべらべらと並べたくもなっちゃうか!」
「――――――違います。ご機嫌取りでも、おべっかでもありません。今の言葉は、わたしの本心です……!」
「あっそ。じゃあ容赦なく言わせてもらうけどさ。
本当に私が私のままだと思ってんのなら――――――それは大きな大きなおまえの勝手な思い違いなのよっ!!!」
「っ!?」 - 10スレ主25/06/07(土) 23:52:45
勝手な、思い違い。彼女は怒号を上げてそう吐き捨てる。まるで何も分かっていないわたしに、事実を叩きつけるように。
「あのさ、私最初にこう言ったわよね?自分に流れ込んできた記憶を観続けた事が切っ掛けで復讐する事を決意したって。
そもそも、この時点で記憶の中のノエルが抱いていた憎しみや怒りの影響を諸に受けているとは思わないワケ?
私が私のまま?吸血鬼憎しで動く一方で人々を守護する代行者?なら、どうして私は遠野志貴という一般人を自分の復讐に巻き込んでるのかしら?」
「……!」
「それだけじゃない。いくらおまえが憎いからって、裏切られた分も含めての仕返しだからって、わざわざ救いようのない死徒として蘇生させただけに飽き足らずにこうして身も心もずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと甚振って詰って尊厳を徹底して破壊してる始末。
おまえに復讐する為なら人間から人外にだって躊躇いなくなるし、何年経とうがどれだけ死と隣り合わせだろうが耐えて乗り越えてやるし、考えつく限りのあらゆる方法でおまえを殺し続ける。
邪魔立てする奴は吸血鬼だろうが人間だろうが真祖だろうが関係なく排除する。私の復讐に立ちはだかるという事は、私の人生を否定するという事なんだから。
そして、遠野志貴はロアから解放されても私の復讐の道からどいてくれる事はなかった。おまえの味方をするって事は、それだけで私の道を阻むに等しいからね。だから彼を捕らえた。だから私の復讐に巻き込んだ。
ねぇ、分かるでしょ?私にとって復讐は生き甲斐であって、生きる意味そのもの。その価値観は、その思想は、教会に隔離されて一人寂しく死に果てるしかなかった私の虚無と絶望を上書きしてくれたの。流れ込んできた記憶が一体誰の人生(もの)なのかを自覚した時点で、ハッキリと構築されたのよ。
要するに、ロアと化して殺戮を愉しんでたおまえと同じように、私もまた頭のネジが外れて狂っちゃったの。ま、別に主導権を握られたりなんかはしてないし、私の復讐は私だけのモノなのはこれまでもこれからも変わらないわ。
けれどね、とうの昔に正気は消え去ってるしヒトとしての倫理観も悉くが欠け落ちてる。根本的な精神構造自体が変わり果ててるから人間らしさなんてモノは残ってない」 - 11スレ主25/06/07(土) 23:55:12
「だって――――――――――――人間らしさが残っていれば、記憶の影響を何も受けていなければ、そもそもとしておまえを死徒にしてまで復讐に拘泥するワケがないでしょう?」
「…………それ、は」
何も、反論できない。彼女は、彼女のままであり、わたしの知っているノエル―――それは、真実だ。
ただそれは、あくまで人格を上書きされてはいないという話であって。
その心は、完全に復讐の憎悪に染まり上がってしまっている事を失念していた。
常軌を逸した力の渇望、膨れ上がった報復への妄執と狂気。
今の彼女は、さっきまでわたしと話していたカフェ店の一人娘なんかじゃない。何処にでもいる普通の人間だった少女は、もうこの世のどこにもいないんだ。
「第一、本当にマトモだったのならまず憎しみよりも恐怖の方が遥かに上回るでしょ?
あんな地獄をたった一人生き残ってしまったのなら尚更にそうなるし、記憶が流れ込んできたところで関係なくそのまま死ぬまで籠り続けたでしょうね。
でも、そうはならなかった。私は、隅でガクガク震えて己の運命を呪いながら死んでいくのを良しとせずに、この命と身体がどうなろうと構わない覚悟で復讐する道を選んだ。
その決意が、その憎しみが、その葛藤が、その苦しみが、そのどうしようもなさが、おまえに分かる?」
「……それは…………」
「答えられない?はは、それもそっか。
だってそもそもの元凶だもんねおまえは!そんなおまえが私の中で燻るこの感情を分かったような口でベラベラと言えるハズがないもんね!
まあ、理解を示そうが示せまいがどうでもいいわ。何れにしろ、これまで私を軽視していて中途半端にしか理解できてなかった事実には変わりないんだし。違うかしら?」
「……そんなコトは、ありませんよ。わたしがあなたを理解できていなかったというのも、否定しようのない事実です」
もし、本当に理解できていたら。相棒として、同郷の好みとして寄り添えていれば。こんなコトにはなってなかった筈だ。
ノエルは、代行者でありながらヒト死徒を堕とすという罪を犯した。けれど彼女をそんな非道に走らせたのも、偏にわたしが無自覚に彼女を軽視していたからだろう。
故にあの日の夜に、裏切った。そうしないと彼を救えなかったとはいえ、彼よりもずっと一緒にいた筈の彼女との誓いを反故にしてしまった。 - 12スレ主25/06/07(土) 23:55:53
わたしだって、裏切りたくなんかなかった。可能であるのなら、双方を尊重したかった。
けど、そんな都合のいい選択肢は存在しない。どちらかの手を取って、どちらかの手を払うしかなかった。彼を救うには、彼女を裏切るしかなかった。
その果てがここだ。彼女は禁忌を犯し、わたしは彼女の手を払った事のツケを支払わされ、救いたかった彼もまた一方的に彼女の復讐に巻き込まれた。
…………なんて、愚かしい事をしてしまったのか。なんて、救いようがないんだろう。
「けれど、それでも。
あなたが代行者として、弱き人々を力の限り護り抜くというその強い意志は……今もある筈です。
あるからこそ、あなたは今でも代行者の務めを果し続けている。その意志の根底にあるのは、吸血鬼への憎悪だけではありません。もう二度と自分たちの故郷のような惨劇は引き起こさせないという、揺るぎない使命感(いかり)も含まれています。
6年間過ごした中で、その思いは憎しみ以上に伝わってきた。
だから――――――それだけは。それだけは、わたしもハッキリと理解を示せます。あなたのその正義感は、決して偽りなんかじゃない」
「よく言うわ。その正義感もまた、記憶を観続けた事の影響ありきで生じたものに過ぎないのよ?」
「でも、同時にそれもあなた自身の意志でしょう?
あなたも知っての通り、わたしは彼と出逢うまではロアを始めとした吸血鬼を殲滅する事だけを考えて生きていました。そこに正義感など挟める余地はなく、ただどこまでも冷徹に吸血鬼を滅ぼすという殺意しか無かった。それが贖罪にもなると信じて、吸血鬼だけでなく己の感情をも殺し続けた。
そんなわたしからすれば、正直に言って………あなたのその意志を、羨ましいとさえ思っていたんです」
無論、彼女を含んだ多くの人間の人生を踏みにじったわたしが誰かを羨む資格などない。だから、今までは決して口にはしなかった。
………そういう態度を取っていた事も、彼女を理解しきれていなかった要因の一つになってしまっていたのだろうけど。 - 13スレ主25/06/07(土) 23:57:22
とりあえず書き溜めてた分はこれで終わりです
ここからまたちょくちょく更新していきます - 14二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 00:10:27
たて乙
また帰ってきてくれて嬉しい
完走頑張ってください! - 15二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 09:10:03
ほ
- 16二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 18:06:42
保守
- 17二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 22:46:03
完走してくれい
- 18二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:31:05
ほしゅ
- 19二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 11:06:48
保守
- 20二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 11:10:27
「……そう。本当に殺意しかなかったなら、志貴クンがどれほど優しい人間だったとしても関係なく殺せてると思うんだけど。
羨ましいと思っていた?私を?随分とまあ機械らしからぬ感情を抱いてたのね。そんなんだから巡り巡って志貴クンの前で人間に戻ってしまったんじゃないのかしら?」
「………はい、全く以ってその通りです。わたしは結局、機械としても人間としても半端でした。
自分のそういった感情を殺意で誤魔化し続けて、けれど彼に対してだけはそれすらも出来ずに処刑人ではいられなくなってしまって。
でも、あなたはそうじゃない。確かにかつての人間だった頃のあなたは、もういないのでしょう。
しかし、何度も言いますが代行者として人々を護る意志は今も変わらない筈。いえ、変わっていない。
そうでなければ、代行者の活動など放ってわたしへの復讐に耽っている筈です」
「ふぅん。なんでそう言い切れるの?」
「だって、あなたは――――――吸血鬼によってこれから失われていく命より、ロア(わたし)によって失われた命に固執しているように見えるから。
本当に復讐する為だけに生きているのなら、人々の安寧よりも報復を選択し続けるようにしか見えないからです」
そうだ。復讐の憎悪に狂っているのは、事実なんだろう。事実だからこそ、いずれ自分の道を阻むからという理由で遠野くんを一方的に巻き込んだ。
けど、本当に目障りでしかないのなら何処かでとっくに殺していても不思議じゃない。
でも彼女は彼にはその刃を振り下ろさないどころか、今のところは何も直接的な危害を加えていない。彼を傷つけないでほしいというわたしのお願いを、ちゃんと聞き入れてくれている。
同じ代行者だったわたしを死徒にしてまで蘇らせたのも、それほどわたしというロアの手で失われた命に報いる事に執着しているからだろう。
つまり、わたしと彼が例外なだけで、弱き人々の為に刃を向ける事は変わりないし変わっていない。
例えそれすらも『記憶』の影響によるものだったとしても、事実としてそこにあるのは紛れもない彼女というノエルの感情だ。
「…………私が、おまえの手で失われた命に固執しているように見える、ね。
ふぅ――――、そっか。確かにそうよね。おまえというたった一人に責め苦を与える為だけにわざわざこんな幻まで用意してるんですもの。そこは否定のしようが……というよりする必要もないか」 - 21二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 20:20:16
保守
- 22二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 20:46:15
「もういいわ。なんか面倒になっちゃった。
これ以上問答しても平行線になりそうな気がするし、この辺りで切り上げておくとしましょうか」
ノエルがそう言い終えると、辺りの雰囲気が一変して元に戻り始める。
止まっている時間の中にいるような静寂が、先ほどまでの賑やかな喧騒に切り替わっていく。
「……こう言うのも何ですが、妙にあっさりしてますね。もっと言い返してくると思って身構えていましたが」
「ええ、意地でも意見を変えないだろうなと思ったからね。おまえはとても意地固いから、自分が心から信じている事を一度でも主張し出したらテコでも動かないでしょう?
動かないからこそ教会での半年に渡る拷問を耐えきり、動かないからこそ多くの吸血鬼共を殲滅し、動かないからこそ私を裏切ってでも遠野志貴を救おうとした。
そんなおまえに今更『私は狂ってるんだー!人々よりも復讐を優先するんだー!』とか言っても、同じ答えしか返ってこないと判断した。それだけよ」
「拷問されていた時は違いますよ。死 ねなかったから結果的にしぶとく生き延びてしまっただけです」
「死 ねなくとも“あんな目”に延々と晒されてたら普通はとっくに壊れて廃人になってるんだっつの。未だにまともな精神を保ててる時点で異常者だって自覚しなさいよ」
それは、その通りかもしれない。でも狂いたくても狂えなかったから、拷問に限らずこれまでも死にながら生きてきた。彼はそれを『貴女は最初から心が善(つよ)かった』とも言ったけど、そんな事は決してない。
ただ死 ねなかったから、死 ねない以上は少しでも頑張ってから死ななければと思ったから、生きていただけに過ぎない。
「……わたしが拷問されているところも見ていたんですか」
「そうよ。いやぁあの時は文字通り喉が張り裂けんばかりに泣き喚いて絶叫しまくってたわよね。
もっともそれを見てた当時の私は全くいい気持ちにならなかったけど!だってさ、おまえを徹底的に甚振っていいのは本当なら私だけが許される権利じゃないの!」
「…………わたしは、多くの人間から石を投げられても何も言えません。無論、殺されたとしてもです」
「そうね、それはそうよ!でもね、それとこれとは別なの。この世の誰よりもおまえという化け物の被害者であるこの私だからこそ、おまえに対してどこまでもどこまでも然るべき報復を与えるべきと思うのよ!」 - 23二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:48:28
「だから――――――これからもせいぜい私の与える責め苦に、拷問に、復讐に苦しんでちょうだい?
私を、故郷の皆を、一人残らず散々苦しめてくれやがった分だけ……いいえ、それ以上にね?」
「ええ。覚悟は、できています。
……ですが、先も言ったようにわたしはもう、人間の血を絶対に吸いたくない。自分を啜り食らってでも、この衝動に抗い続けます。なので、そこは容赦してくれると幸いです」
「うんうん、それだけなら別に構わないわよ。寧ろその分、より長くおまえの苦しむ姿を観続けていられるってものよ!
私としても良い気分を味わえるし、どうぞあの手この手でその悍ましい吸血衝動を抑えようと試みるがいいわ」
よかった。これすらも否定されてしまったらどうするかと思っていたけど、それは杞憂だったみたいだ。
もっとも、これからは食事を楽しめないだけでなく吸血衝動の苦痛もじわじわと増大していくだろうが。
こうしている今でも喉が、身体が小さくない渇きを覚えているのだ。今はまだ精神で我慢できる範囲ではあるけれど。
「せいぜい、やれるだけやってみますよ。ヒトの血を吸わない為ならどれだけ時間が過ぎようと耐えてみせます。
それで……今度こそ話は終わりですか?」
「ええ、まあ、今はここらでいいでしょう。さっさとパン屋の配達員“ごっこ”に戻るといいわ。私も今まで通りにごっこ遊びに興じるから。
んじゃ、是非私を愉しませてね!エレイシア!」
屈託のない作り笑顔を向けながら、ノエルは店内のカウンターへと戻っていった。
今の彼女はわたしを苦しませる事しか考えていない。これからわたしが加速度的に吸血衝動の渇きに蝕まれて、理性を擦り減らしていくのを想像しているのだろう。
悪趣味にも程がある、だなんて言えた立場じゃないなと自嘲する。彼女をそうさせたのは元を辿ればわたしが元凶であるに加えて、かつてのわたしが仕出かした事と比べればこの程度なんて悪趣味の内にさえ入らない。
なら、わたしがこれに抗う理由も意味も資格もない。わたしは、彼女に何をされても仕方のない悪魔なのだから。
彼女の人生も、人柄も、何もかもを狂わせた悪魔への報復としては、これ以上ないぐらいにお誂え向きだろう。 - 24二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:56:08
「それに……14年前のコトを除いたとしても、わたしは同じ代行者のコンビとして6年以上も共に付き合っていた彼女を一身上の都合で一方的に裏切った。
それまで何だかんだで一緒に切磋琢磨できていたにも関わらず、結果としてそうした日々で培った筈の相棒(バディ)としての信頼を自分から足蹴にしてしまった。
それだけでも、このような罰を与えられるにはあまりに十分でしょうね」
自身の罪、そして彼女への贖罪を信条としてやってきたにも関わらず、最終的には裏切っただけに飽き足らずに一方的に置いていってしまった。
なんて、哀れで無様なんだろう。何度思い返しても恥知らずにも程がある。そう皮肉に思いながら、わたしは今日も笑顔という仮面を貼り付けて仕事に勤しんだ。
「フゥ―――、フゥ――――、フゥ――――………っっ!!
あ、アアアあぁ、ァア――――――ァが、ぐぅ、アア、ァァあああ………っ、っ……!!!!」
――――――そして、更に二ヶ月の時が過ぎた。
鉄の意志で固めていた筈だった理性(こころ)は、こんなにも早く、こんなにもあっさりと溶け始めていた。