【閲覧注意】このシーンで…なにかの扉が開いた

「ジープくん、だっけ？」
下品で安っぽい色合いのライトが照らす室内に2つの人影があった。
一人はどれだけ低く見積もっても四十は超えているであろう中年男性。頭頂部の灰色が混ざる頭髪は薄く、皮膚が殆ど見えかけている。脂肪を蓄えた顔は丸く、髭剃り程度しか手入れがなされていないであろう皮膚は脂ぎってテカテカと輝く。体は対して珍しくもない、たっぷりと肥えた典型的な中年太り。
対してもう片方。白と黒の非現実的なツートンカラーをした枝毛一つないストレートヘアが目を引く。そしてそれ以上に、長い睫毛を携えた形の良い瞳にスッと通った鼻梁。童女のような幼さを残しながらも中性的な魅力を放つ整った顔立ち。所謂ゴスロリ風の衣装に身を包んだその姿は、月並みだがまさしく人形のよう。
ジープと呼ばれたその"青年"はこくりと頷いた。
「君みたいな"可愛い男の子"は中々お目にかかれなくてね…女の子もいいんだが、やはり、この倒錯的な魅力には及ばない」
男がジープの髪を一房手に取ろうとすると、ジープはスルリとそれを躱してしまう。ふわりと舞うスカート。その動作すらも、つれない態度を取りながらも誘っているようで思わず息が洩れる。口元に幼い笑みを浮かべ、中性的なハスキーボイスが甘く言葉を紡いだ。
「ねえ、おじさま。どうか後ろを向いていて？今から下着を脱ぐから…恥ずかしいから、見ないでほしいの…」
"彼"がきっとそれなりの"場数"を踏んでいるのは雰囲気から察せられるが、わざとらしさのあるウブな演技も悪くない。これも彼と楽しむ為の駆け引きだ。
男は言われた通り、ジープから視線を外して後ろを向いた。
月見をする時、雲に覆われ満月が見えない時、人は団子を月に見立てて雲の向こうに理想の満月を夢想し楽しむ。
同じように男は背後の衣擦れの音からジープのストリップを夢想する。視線がなくとも恥ずかしがる演技をしているのか、それとも妖艶な笑みを浮かべているのか。どちらにせよ、今からあの身体を好きにできるのだ。男の気分は高揚し、口元がニチャりと音を立てて釣り上がっていき──

──直後、男の意識は途切れた。

「……気持ち悪い」
床に落ちたヒトプレスを冷たい目で見下ろしながら、腹部からガヴを露出させたジープは呟いた。