(SS注意)クッキー

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:51:32

     気が付いたら、何やら高い場所にいた。
     
     目の前に広がっているのは見覚えのない部屋。
     ベッドが二つに机が二つ、上手く言えないが真ん中でスペースを二つに割ったような印象を受けた。
     恐らくは、この部屋は二人部屋なのだろう。
     そして、その内の片方の家具や小物のセンスには、なんとなく馴染みがあるような気がした。
     それにしても、ここは何処なのだろう。
     俺は確か、トレーナー室で仕事をしていたはずなのだけれど。
     そう考えながら、少しでも情報を集めるためにきょろきょろと周囲を見回して。

    「…………!?」

     ────自分が思ってた以上に高い場所に、そして危険な場所にいたことに気づく。
     振り向けば星々が煌めく夜空、下を向けば遥か彼方に見える大地。
     思わず、背筋がぞわりと走る。
     建物の二階か三階くらいの高さだろうか、少なくとも落ちたらただでは済まないのは一目瞭然。
     困惑と恐怖が思考を埋め尽くしていく中、ふと、妙に危機感のない疑問が浮かんできた。
     そもそも、俺はどこに立っているのだろうか。
     自分の足元へと視線を向けようとした刹那、がちゃりと、無機質な音が響き渡った。

  • 2二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:53:00

    「あら…………珍しいお客さん、ですね」

     少しだけ低めの、それでいて優しげな声。
     それは毎日のように聞いている、慣れ親しんだ彼女のものであった。
     美しい漆黒のロングヘア、長い前髪の隙間から覗く金色の双眸、右耳にはスティック状に耳飾り。
     担当ウマ娘のマンハッタンカフェは、柔らかな微笑みを浮かべたまま部屋の入口に立っていた。

    「ふふ……迷い込んでしまった、のでしょうか……でも、そこは危険だから…………良い子にしてて、ね?」

     小さな子を相手にしているような仕草で、カフェはゆっくりと近づいて来る。
     彼女の姿を見て、わかったことがある。
     まずここが、美浦寮の彼女の自室であるということ。
     今思えば、部屋の片側に置かれている私物などには何となく見覚えがある。
     それに置かれている物のセンスがどう見ても旧理科準備室のものと同一人物のものだった。
     制服姿から察するに、学園から帰って来たところで俺と鉢合わせをした、というところだろう。
     ウマ娘達の寮には、トレーナーは立ち入り厳禁。
     すなわちこの状況はかなり不味いはずなのだが、何故か、カフェはそんな雰囲気を微塵も出していない。
     そして気づいたら目の前にいたカフェの両手が────俺の『身体』を、そっと包み込んだ。
     ……えっ?

    「もう……そんなところに立ってたら…………めっ、ですよ」

     カフェはほっと安堵の表情を浮かべながら、こちらに対して視線を合わせる。
     その状態で俺は、地面に足を付けることが出来なかった。
     腋の下に両手を添えられて、身体を持ち上げられて、なんとなくお腹の辺りが伸びている感覚。
     やがて、彼女は俺に対して顔を近づける。
     どちらかといえば小顔であるはずの彼女の顔は────妙に、大きく見えた。

    「やんちゃな『黒猫』さん……アナタは、どこから来たんですか?」

  • 3二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:54:10

     どうして、こうなった。
     もはや、そうとしか言えない状況である。
     ちらりと後ろの、自分が先ほどまで立っていた場所へと視線を向けた。
     今はカーテンで覆われている、身を乗り出せそうな大きさの窓
     閉め忘れなのか換気の為なのか、何故か開いていた窓の枠の上に、俺は立っていたようである。
     そのこと自体を危ないと思わなかったのは────今の俺が、猫だからなのだろう。
     勿論、カフェに対して現状を説明しようとしてはいるのだが。

    「うーん……アナタが何かを…………伝えようとしているのはわかるのですが」

     困ったように眉を垂らすカフェ。
     必死の言葉は、にゃあにゃあとした鳴き声にしかならない。
     ジェスチャーで伝えようにも、慣れない小さな体躯では色々と限界があった。
     
    「困ってしまいました……ワンワンワワーン…………なんて、こっちも伝わりませんよね」

     カフェはそう言ってから、照れたようにはにかんだ。
     可愛い、とか考えている場合ではない。
     前に似たようなことがあった時は、もう少し意思疎通が出来ていた気がするのだけれど。
     ……似たようなことってなんだ?

  • 4二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:55:23

    「…………もう夜は遅く……『良くないもの』も…………活発になる時間です」

     俺を抱きかかえながら、カフェは窓際へと近づいて少しだけカーテンを開ける。
     遠くに見えるのは、真っ暗な闇。
     雲が厚くなったのだろうか、先ほどまで見えてた星々も、月の光もまるで感じられない。
     ただただ深い暗闇が、何処までもずっと広がっていた。
     今あそこに飛び込めば、何処にも辿りつけずに、此処へも帰って来られない、そう確信出来るほどに。

    「どうでしょうか……幸い、今日は……ユキノさんも帰省で不在なので…………」

     そう言いながら、カフェはちょこんと俺を自身のベッドの上に置く。
     そしてどこか楽しげな表情を浮かべて、彼女は問いかけた。

    「今夜は……こちらに…………泊って、いきませんか?」

     担当の部屋に泊まるだなんて、言語道断。
     けれど今の状況では、カフェの提案に、俺は頷く他なかった。

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:56:34

    「どうぞ……手皿で申し訳ありませんが…………安心してください、猫用ですから」

     そう言ってカフェは、手のひらに小さなクッキーを乗せた
     学園のウマ娘には猫好きが結構多い、誰かしらがこういうのを持っていて不思議ではないだろう。
     とはいえ、これを口にしたら人としての大切な何かが失われてしまう気がする。
     せっかく用意してくれた彼女には悪いが、一日くらい食べなくとも────と、思ったのだが。

    「お腹が空いていたんですかね…………急がなくても、大丈夫だよ……ゆっくりと召し上がってください」

     衝撃。
     それは舌からだった。
     カフェによって差し出されたクッキー達が、ムエタイの如く味蕾に肘打ちをお見舞いしてきた。
     感涙にむせぶ舌先、お代わりを探す口、溢れんばかりのドーパミン。
     俺はただ、目の前に広がるクッキーと形容しがたい『何か』へ夢中になる他なかった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:58:12

    「ひゃっ……んん…………そんなにぺろぺろしちゃ……ダメ…………っ」

     ────くすぐったそうなカフェの言葉に、ハッと我に返る。

     気が付けばクッキーは全て胃の中に収まっていた。
     にもかかわらず、俺は残り香を追い求めるよう、一心不乱にカフェの白い手のひらを舐め回していたのである。
     一体、俺は、何をしていたのか。
     恐るべきは猫の本能、否、製造メーカーの努力を称賛するべきなのだろうか。
     何はともあれ、あまりにも無体なことをしてしまった。
     しかし、今の俺には彼女へ謝罪をすることも出来ず、ただただしゅんと顔を俯かせるだけ。
     そんな中、すりすりと細い指先が顎の下をくすぐった。
     ぴくんと身体が、反応してしまう。

    「ふふっ……怒ってないですよ…………ほら、お水もありますよ……どうぞ」

     カフェはどこからともなく、ペットボトルのミネラルウォーターを取り出す。
     そしてキャップを外して、少しだけ自らの手のひらへと注いだ。
     急に、喉が渇いて来る。
     俺は吸い寄せられるように、ふらふらと彼女の手のひらへと近づいてしまうのであった。

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:59:23

    「さて……そろそろ…………お休みに、しましょうか」

     食事を終えて、少しの間だけ遊んでもらって。
     ふと、カフェは時計を見つめながらそんなことを言った。
     気が付けば後数時間で日付が変わる頃合い、身体にも眠気と少しばかりの疲れが回っている。
     猫だし、このまま丸くなって寝てもいいのかな、そう思った矢先。

    「…………それじゃあ、着替えちゃいますね」

     カフェはすっと立ち上がり、さも当然のように自らの服に手をかけた。
     それはそうだろう、猫の目の前で着替えを躊躇うわけがない────が、当然、俺がそれを見て良いはずもない。
     悲鳴のような鳴き声を捻り出しながら、俺は跳ね返るようにベッドの布団の中へと飛び込んだ。
     微かに感じる、甘い匂い。
     どきりとしながらも、今、ここから顔を出すわけにもいかなかった。

    「意外と、恥ずかしがり屋さんなんですね…………別に……覗いても良いですよ?」

     悪戯っぽい声色。
     そして続けて、小さな衣擦れの音が聞こえてくる。
     想像力を刺激されながらも、俺は無心になって布団の中で丸くなり続けるのであった。
     そして数分後、ぱさりと布団を捲りあげられる。

    「お待たせしました……今日はアナタとお揃いの色に…………してみました」

     俺が恐る恐る顔を向けると、そこには見せびらかすようにくるりとターンをするカフェの姿。
     黒色の、薄手で丈の長いワンピースのようなナイトドレス。
     可愛らしさと上品さ、そして大人っぽさを兼ね備えた、彼女にぴったりな服であった。
     思わず、見惚れてしまうほどには。

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 02:00:41

    「お気に召したようで、何よりです…………では、電気を消しますよ」

     俺の様子を見て、カフェは満足気に頷くとぱちりと電気のスイッチを押した。
     一瞬で暗闇に埋め尽くされる視界、すぐにうっすらと周囲の光景が開けていく、猫だからだろうか。
     ゆっくりと近づいてくる足音、そんなはずはないのに彼女の金色の瞳は爛々としているように見えた。

    「失礼、しますね」

     そしてカフェは俺を避けながら、ごそごそと布団の中へと入り込んでいく。
     そういえば、俺はどこで寝れば良いのだろうか。
     ……まさかと思いながら、横になった彼女へと視線を向ける。
     彼女は子を見守る母親のように目を細めながら、両手を広げていた。

    「…………おいで」

     俺は即座に布団から飛び出そうとする────のだが、カフェの両手によってあっさりと阻止されてしまう。

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 02:02:01

    「ダメですよー……♪」

     囁くように聞こえてくる甘い声。
     カフェはくるりと俺の身体を反転させて、正面から向かい合う。
     その顔には、どこか悪戯っぽい微笑みが浮かび上がっていた。

    「誰かに見つかったら……大変ですから…………今夜はこうして……ぎゅーっ、と」

     俺の身体は、カフェの胸元へと引き寄せられ、そのままむぎゅっと抱き締められてしまった。
     ささやかでありながらも、確かに存在する彼女の双丘に、全身を包み込まれる。
     さらさらした肌触りの良い布地。
     奥からは確かな膨らみと、ぷにぷにとした弾力性のある柔らかさ。
     湯たんぽのように暖かい温もり、静かで穏やかな心臓の音色、ミルキーな甘い匂いと微かな珈琲の香り。

     こんな状況だと言うのに────何故か妙に、安心してしまう。

     慌てていたはずなのに、徐々に落ち着いていき、眠気が襲い掛かって来る。
     そこに追い打ちをかけるように、カフェの柔らかな手のひらが、ゆっくりと背中を撫でてくれた。
     彼女の中へと沈み込むように、意識は少しずつ、落ちていく。

    「どうぞ…………今日はこのまま……ゆっくりと、お休みくださいね」

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 02:03:09

     ────香ばしい匂いが、鼻先をくすぐる。

     ぱちりと目を開けると、そこは見慣れたトレーナー室。
     俺はソファーをベッド代わりにして、横になっていた。
     どうやら仕事中に寝落ちをしてしまっていたようである。

    「…………なんか、とんでもない夢を見てた気がする」

     ぽそりと、独り言ちる。
     ぼんやりとしか覚えていないが、色々と恥ずかしくて衝撃的で、それでいて幸せだった、ような気がした。
     まあ、夢は夢だ、そう思いながら身体を起こすと、するりと身体を覆っていた何かを滑り落ちそうになる
     反射的に手で押さえると、それはトレーナー室に備えてあるタオルケット。
     勿論、寝落ちする前にこんなものを用意した覚えはない。
     すなわち誰かがかけてくれたということであり、そして鼻腔に感じるこの匂いは。

    「おはようございます…………トレーナーさんも……目覚めの一杯はいかがですか?」
    「…………もらおうかな、出来れば、とびきり濃いやつを」

     視界の先には、マグカップ片手で別の椅子に腰かけているカフェの姿。
     彼女はまるで戯れる野良猫を見つめるかの如く、愉しそうな微笑みを浮かべていた。
     
    「はい、どうぞ」

     そしてカフェは尻尾をゆらりと揺らめかせると、すっと俺用のマグカップを手渡してくる。
     カップの中を満たしているのは、見計らったように白い湯気を立てている、淹れたてのコーヒーだった。
     俺は苦笑いを浮かべながら受け取って、まずは一口。
     強い苦みと香ばしさ、そして濃厚な味わい、思わずほっと一息ついてしまう。

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 02:04:14

    「今日は…………深煎りの豆を使ってみたんです……どうでしょうか?」
    「うん、とても美味しい……ありがとう、タオルケットだけじゃなくて、珈琲まで用意してくれて」
    「気にしないでください…………お疲れの様子でしたので……そうだ、こちらもいかかでしょう?」
    「それ、は」

     そう言いながら、カフェが取り出したのは個包装されたお菓子だった。
     何処にでも売っているような、手のひらサイズの定番の焼き菓子。
     いわゆる────クッキーである。
     それは見たところ、何の変哲もないクッキーなのだが、何故かそわそわしてしまう。
     そんな俺を見て、彼女は不思議そうに首を傾げる。

    「…………クッキー、苦手でしたか?」
    「そ、そんなことはないよ、ありがたく頂こうかな、あはは」
    「そうですか、では」

     手を伸ばす俺、の眼前で、カフェは袋を破いてクッキーを取り出してしまう。
     そして、それを手のひらに乗せると、こちらへ向けて差し出すように手を伸ばして来た。
     何故か、反射的に顔を突っ込みそうになって、慌てて抑える。
     そんな俺を姿を見て、彼女はくすりと、妖艶な微笑みを浮かべた。

    「ふふ、安心してください……──これは、猫用ではありませんから」

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 02:05:38

    お わ り
    こちらが小さければ相対的に巨乳
    やっぱ連投制限はなかなかにキツいですねえ・・・

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 02:14:11

    おつ 羨ましいシチュだぜ……制限大変だよなあSS作者

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 03:12:47

    pixivで読んでからこっち来た
    終始手玉に取られちゃってる感じがぞくぞくするね

  • 15125/06/09(月) 06:50:29

    >>13

    こういうシチュには憧れますよね

    >>14

    カフェからは手玉に取られたいと思わせる何かが出てます

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 07:08:04

    倒錯的なプレイ?が似合いすぎる女

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 11:28:16

    カフェの可愛さが身に沁みる…

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 19:14:53

    カフェの特殊能力でたびたび猫の夢を見せられるカフェトレ
    そして飼いならされていくのであった

  • 19125/06/10(火) 03:38:38

    >>16

    何故似合うんですかね・・・

    >>17

    いいよね・・・

    >>18

    躾けられてしまうんですね

オススメ

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