- 1二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:08:34
- 2二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:13:21
- 3二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 01:14:15
前スレ171及び172の続き
ミサキ「⋯リーダー⋯?」
ヒヨリ「ね、姉さん⋯って⋯?」
サオリは何も言わない。ロケットペンダントを握りしめたまま、動かないままでいる。
そんな中、とある声が響く。
アズサ「⋯サオリ⋯!」
怒りの表情を浮かべたアズサが現れた。自分を呼ぶその声を聞いて、サオリは顔を伏せたまま、答える。
サオリ「⋯⋯⋯ここで⋯お前が出てくるのか」
サオリはロケットペンダントを地面に置いて立ち上がった。 - 4二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 01:15:34
サオリ「⋯どうだ、アズサ。私の言った通りだっただろう。トリニティにも、シャーレにも、お前の居場所はない」
─あぁ、そうだ。
サオリ「私たちみたいな『人殺し』を受け入れてくれる場所なんて、この世界にはないんだよ」
─姉さんは死んだ。私が殺した。
アズサ「どうして、先生を⋯それに⋯姉さんって⋯」
─生きていたのに、また会えたのに。
サオリ「そんな場所があるように見えても、全ては儚く消える。⋯さっきの『先生』とやらのようにな」
─私は、私の手で⋯私の希望を消したんだ。
サオリ「⋯全ては、無駄だ。それなのにどうして足掻くんだ」
─どうせ全てが、儚く消える夢ならば。
アズサ「サオリいぃぃぃぃっ!!!!」
サオリ「⋯まだ甘い夢に酔っているのか⋯仕方ない、手伝ってやろう。⋯何度でも、その夢から目を覚まさせてやる。⋯来い」
─最初から、見なければよかったのに。 - 5二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 01:38:56
続いてくれて嬉しい
10まで伸ばせるか... - 6二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 03:54:10
この状況ミカと似てるね
- 7二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 05:35:04
7ほ
- 8二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 07:32:32
8
続きに期待しかない - 9二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 08:21:35
9 保守
- 10二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 08:28:42
- 11二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 12:28:07
- 12二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 20:29:40
保守
- 13二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 03:32:47
─気づいたのは、薄れゆく意識の中だった。
セナの声が聞こえる中、先生は撃たれる瞬間に見た、サオリの顔を思い浮かべていた。
⋯見覚えのある顔、彼女と何処かで会ったことがあっただろうかと、過去の記憶を振り返っていく。そして、その記憶に辿り着いた。
幼い頃、両親⋯そして、姉である自分と違い、ヘイローを持って生まれてきた妹。幸せに暮らしていた私たちの時間は、突然に壊された。両親の死、そして⋯妹の失踪。絶望の中に落とされた私は、妹はきっと生きているはずという、薄氷のような希望に縋り付いて、生きていくしかなかった。
そんないなくなってしまった妹の面影と、私を撃ったあの生徒の面影が重なる。
“(⋯あの子⋯間違いない)”
「(⋯サオリだ⋯!)」
そう確信をして、私は静かに意識を手放した。
─目を覚ますと、そこには見覚えのある空間が広がっていた。
“⋯ここは⋯”
セイア「⋯初めましてかな、先生。私の名前は『百合園セイア』⋯そして、ここは君の夢の中だ⋯或いは、私の夢の中かもしれないがね」 - 14二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 07:15:24
夢の中で、先生はセイアとこの『エデン条約』という物語、その結末について語らっていた。
混乱に陥る両学園。解決策が存在しない現状。友達からもらったプレゼントを犠牲にヘイローの破壊を行おうとしたアズサ。そして─
セイア「⋯だから言っただろう?これが物語の結末。何もかもが虚しく、全てが破局へと至るエンディング。ここから先を見たところで、無意味な苦痛が連なっていくだけだ」
─確かに、そうかもしれない。この先に待ち受けているのは⋯今以上に救いのない展開かもしれない。私が立ち上がったところで、エンディングは変えられないのかもしれない。それでも─
セイア「まさに、楽園から追放された私たちにふさわしい結末かもしれないね」
“⋯分かったよ、セイア。⋯君も、その後はどうなったのか見ていないんだね?”
セイア「⋯見る必要が、あるのかい?悲しいエンディングの後、そこに続くエピローグを見たところで悲哀が増すだけ。苦しみが連なるだけだ」
─この先が、辛く苦しいエピローグだったとしても─
“⋯私にはやらなきゃいけないことがある。だから、戻らないと” - 15二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 07:16:37
セイア「⋯戻る?⋯待ちたまえ、私と違って、君の身体はまだ治ってすらいない。そして何より、君が起きたからといって何も変わるわけではない。これは私の未来予知で判明している。いや、『七つの古則』から既に導かれていた、この世界の真実だ⋯!」
“⋯『七つの古則』みたいな言葉遊びは、優先事項じゃないんだ”
『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』⋯。その答えは、ないのかもしれない。
それでも、私の優先事項は─
“⋯私は生徒たちを助けに行かなきゃ⋯それに⋯”
セイア「⋯それに?」
「⋯妹に、会いに行かなきゃ」
─先生ではなく、姉としての言葉。
確かな決意を、セイアに示す。
“⋯待っててね”
たとえこの先に待ち受けるものが辛く苦しいエピローグだったとしても⋯私は、私のやるべきことをやるだけだ。 - 16二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 14:06:33
念の為保守
- 17二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 19:11:50
- 18二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:11:00
この概念大好き
- 19二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 03:04:59
─アリウスの生徒たちが潜伏する廃墟。サオリは未だ自分の中の感情を落ち着かせられずにいた。
逃げられこそしたが、アズサの襲撃は退けた。それでも、サオリの心を支配していたのは、怒り、憎しみ、恨みといったどの負の感情よりも強い、悲しみだった。
全ては虚しい。そう思っていながらも、心の奥底では『姉さん』という存在が、サオリの希望となっていた。安否のわからない彼女が生きているかもしれない。その希望こそが、サオリにとっての僅かながらに残った光だった。
だが、その光は⋯もうない。
自分の手で、消してしまった。
サオリ「(⋯そうか⋯私は、今までわかったフリをしていただけだったんだな)」
これが、本当の虚しさか。
サオリの心は、緩やかに絶望の底へと沈んでいく─ - 20二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 05:04:46
晴らせぇぇぇぇ!
- 21二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 11:32:30
曇りのターンまだ続く感じっすかねぇ...
- 22二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 19:58:42
保守
- 23二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 20:50:49
ミサキ「⋯リーダー」
サオリ「⋯あぁ、すまない⋯」
アツコ「⋯」
サオリ「⋯無理はしないで、か」
─無理をしてでも、やるしかない。
サオリ「⋯わかっているさ。だが、これは私たちがやらなければいけないことだ」
─今の私には、これしかないのだから。
心の中でサオリは自分の中の僅かな迷いをかき消そうとする。自分にはもう復讐しか残されていないと、声には出さず唱え続ける。
そんな中、ふと自分たちの拠点に違和感を感じる。
廃墟を空けていた3時間。その間に何かが仕掛けられている。それができるものは─
サオリ「⋯あいつがいる」
そうして、爆発音が響く。何重にも仕掛けられたトラップ。それに巻き込まれる形で、最終的にヒヨリとミサキが動けない状態となった。
しかし、所詮はそこまでだ。
サオリ「⋯チェックメイトだ、アズサ」
アズサ「⋯くっ」 - 24二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 20:52:12
アズサ「⋯いつからだ?その恨み、私はあの時ただあそこで『習った』だけだ⋯その恨みは、一体誰の⋯」
─この恨みが、誰のものか。そんな禅問答に興味はない。
サオリ「虚しい」
引き金を引いて一発。アズサへと撃ち込む。
そんな中でも、アズサは抱えた『それ』を手放そうとしない。
─そうか、そのぬいぐるみがお前の光なんだな。
サオリ「虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい─」
─私が消してしまった光を、お前はそれでも抱えていようとしているのか。
サオリ「友情か⋯ならばその無駄で虚しいものから壊してやろう」
─そうすれば、お前も思い知るはずだ。
『vanitas vanitatum et omnia vanitas(全ては虚しい。どこまで行こうとも全ては虚しいものだ)』ということを。 - 25二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 22:09:44
サオリが先生の目の前で死んでしまったBADも見てみたい
- 26二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 22:12:42
アズサの爆弾で死んでしまったら芸術点高い
- 27二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 00:43:29
そうこうしていると、トラップに巻き込まれなかったアツコがやってきた。
アツコ「⋯」
サオリ「⋯心配しなくても、手加減はしてる。こいつのことならよく分かって─」
刹那、私がアズサから気を逸らした一瞬を、アズサは見逃さなかった。今までずっと大事そうに抱えていたぬいぐるみ⋯友情の証を手放して、その場から逃げていった。
サオリ「⋯まあ良い、どうせあいつはまたやって来る。あいつは必ず、これを取り戻しに来るだろう」
これがあいつの光なら、あいつはこれを諦められないはずだ。
サオリ「⋯ん?」
ふと、何かの音がサオリの耳に入る。
サオリ「何だ、中に⋯」
ぬいぐるみから発せられているように感じる、何かの音。サオリは、布を断ち切り─
中に仕込まれていた音の発信源を見つけた。
サオリ「これは、セイア襲撃の時に渡した⋯!」
ヘイロー破壊爆弾。
まずい、この距離は間に合わない─
サオリ「逃げろ、姫っ!!」 - 28二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 00:49:34
放り投げられたヘイロー破壊爆弾の爆発からは完全に逃れることはできなかった。しかし、間一髪⋯私たちにとって致命的なダメージにはならなかったようだ。
サオリ「⋯姫、無事か!?」
アツコ「⋯」
アツコはこくりと頷く。怪我こそしているが、命に別状はないようだ。
サオリ「ああ、良かった。姫⋯」
これで姫までいなくなってしまったら、私はきっと壊れてしまっていただろう。
姉という光は既にない。だからこそ、私はこの闇の中を⋯姫に、ミサキに、ヒヨリに、復讐に、縋り付くように生きていく他ない。
─それを奪われかけたという事実が、サオリの中の憎悪を更に膨れ上がらせる。
サオリ「⋯許せない。絶対に許さないぞ、アズサ!!」
姉が生きていることを知る由もないサオリの心は、抑えきれない程の負の感情で満ち溢れていた。 - 29二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 07:19:17
目を開ける。身体を起こす。
セリナ「せ、先生!?目が覚めたんですね⋯!!」
“⋯セリナ、ハナエ⋯二人とも、看病してくれてありがとう。それと、心配かけてごめんね”
後でセナやヒナ、ツルギたちにもお礼を言いにいかないと⋯そう思いながら私はベッドから立ち上がろうとする。
ハナエ「まだ動いちゃダメです!先生、どこに行くつもりなんですか⋯!?」
当然それはハナエに止められそうになるが、夢の中でセイアにも話した通り、私にはやるべきことがある。
セイア「⋯先生、君はあくまで立ち向かうつもりかい?生徒たちが他の何でもなく⋯ただ、生徒たちであるために?」
心の中にセイアの声が響く。私は、その問に心の声で返す。
“そうあるべきだって、私は信じてるから”
セイア「⋯だが先生。君の前に立ちふさがるのは憎悪と不信。長きにわたって久遠に近い集積を経た、それらの具現だ」
“じゃあまずは、それと相対してくるよ”
ハナエの頭を軽く撫で、病室を後にする。 - 30二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 07:21:01
道中、ポケットをまさぐった私はとあることに気づいた。
“⋯ペンダントが、ない⋯!?”
幼い頃の自分とサオリの写った写真の入ったチェーンのないロケットペンダント。それがいつも入れていたポケットからなくなっていた。何処かに落としてしまったか、まさかあの時に⋯!?なら探しに行かないと─
そう逡巡する心に、私は頬を叩いて喝を入れる。
ペンダントの中の写真は唯一残っている妹、サオリとの思い出の記憶。私にとって、とても大きな光。⋯だけど。だけど!
“⋯今は過去より、未来の方が遥かに大事でしょ⋯!!”
ペンダントをサオリが拾って持っていることを知る由もない先生は、姉としての心を底に沈めて、成すべきことを成すために奔走を始めた。
様々な生徒たちに声をかけた私は、アズサを除いた補習授業部の3人とともに、今回の事件の始まりの場所『古聖堂』へと向かうのだった。 - 31二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 14:32:07
保守
- 32二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 16:54:14
この動画の先生♀の画像どこから盗んできたんだろう
- 33二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 17:51:37
AI絵っぽいし自作では?
- 34二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 18:47:16
やっぱ先生とサオリはそっくりなのかな
普段は姉が朗らかで妹がクールな感じだから姉妹と言われても疑問符が浮かぶ人が大半だけど先生がガチギレするとサオリに、サオリが笑うと先生に、それぞれそっくりになるみたいな感じだと好み - 35二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 22:07:38
- 36二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 22:48:43
先生もサオリもダジャレに弱いとかあってほしい
- 37二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 00:26:38
古聖堂。エデン条約の調印式が行われようとしていた、今は廃墟となってしまった場所。
その場所でアズサは、サオリたちと対峙していた。
アズサ「私は、サオリを止めてみせる。刺し違えてでも。⋯私は、人殺しになる」
─人殺しになる、だと?
サオリ「お前にそんなことができるか!!」
できてたまるか。という感情のままに、サオリは叫んだ。
そうして戦いが始まった。しかし連戦の疲れや精神の疲弊もあってか、アズサは追い詰められていく。そして、怒りのままに撃ち込まれた銃弾を受けたアズサはそのまま倒れ─
アズサ「⋯ヒフ、ミ⋯?」
─そうになったところをヒフミに支えられた。
ヒヨリ「増員、ですね⋯数は4、いえ、後ろにそれ以上⋯」
サオリ「⋯!!」
サオリの目に、とある人影が映る。
─姉さん。生きてたのか⋯!
一瞬喜びの表情を出そうとする心を、必死に鎮める。
冷静になって考えてみろ。向こうは私のことなんて覚えていない。その証拠に、私を見かけても殆ど無反応だったじゃないか。ロケットペンダントに写ってる過去の私と、アリウスの復習を果たさんとする今の私とじゃ、何もかもが違いすぎる。それに、私は姉さんの腹を撃ったんだぞ。そんな奴がのうのうと妹面なんて⋯できるわけが無いだろう⋯!!
心の中で、サオリはそう考える。
一方で先生も、サオリと再び出会えたことに喜びを感じつつも、必死にその感情を沈めた。
今は、あくまで「シャーレの先生」としてここにいるのだ。それにサオリが、私のことを覚えてくれているとは限らない。⋯というか、私は妹を助けられなかった上に、そのまま放ったらかしにしていた最低な姉なのだ。サオリが私のことを恨んでいたとしても、何らおかしくはないだろう。
─それでも、私はお姉ちゃんだから。
きっとあなたを、今度こそ助けてみせる。 - 38二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 06:49:04
雨が止みつつある中、ヒフミは叫ぶように言葉を紡ぐ。
それは、どんな状況になってもハッピーエンドを諦めたくない。そんな少女の叫びだった。
ヒフミ「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!私たちの物語⋯」
Blue Archive
私たちの、青春の物語を!!
そんなヒフミの言葉に反応するかのように、それまで灰色だった空に光が差す。
“⋯ここに宣言する”
トリニティ、ゲヘナ、アリウス⋯そして、連邦生徒会長が設立した、超法規的機関「シャーレ」⋯
それらが、この古聖堂に集った。それは言ってしまえば、再現。
“私たちが、新しいエデン条約機構”
エデン条約の調印式⋯不完全な形ではあるが、あの時と同じ状況。その上で、連邦生徒会長の代理として先生である私がエデン条約を締結させる。
『大人』のやり方には『大人』のやり方でやり合う。
それが、『先生』としての私のやり方。
エデン条約が2つ存在するイレギュラーな状況。それは、戒律の守護者であるユスティナ聖徒会の動きを鈍くするのには十分だった。
生徒たちの活躍により、複製は次々と倒されていく。アリウス側の残っている戦力は、なんとか数えられるほどにまで減っていった。 - 39二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 06:51:40
サオリ「ハッピーエンドだと!?ふざけるな!そんな言葉で、世界が変わるとでも!?それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも言うつもりか!?夢のような話を⋯!」
“⋯生徒たちの夢を⋯その実現を助けるのは、大人の義務だから。私は生徒たちが願う夢を信じて、それを支える。生徒たち自身が心から願う夢を”
一拍置いて、先生はサオリに問いかける。
「⋯ねぇサオリ。それはサオリが本当にやりたいことなの?」
サオリ「⋯っ!!」
「⋯アリウスの恨みや憎しみを受けて、すべては虚しいって感じて、復讐を為そうとして⋯でもそれは、あなたが望んだことじゃないよね?」
サオリ「黙れ!先生⋯お前に私の何がわかる!!」
「⋯わからないよ。でも、わからなくてもいいんだ」
サオリ「⋯なんだと⋯?」
「それでいいんだよ。他人の心やその闇なんて、わからないのが当たり前なんだから。だけどね、わからないなりにそれを一緒に抱えようとする人たちがいるってことは、忘れちゃダメなんだ」
サオリ「⋯⋯⋯」
サオリは押し黙った。こんな私を、姉は許してくれるのだろうか。⋯それでも、私は─
サオリ「⋯知ったことか⋯!まだ古聖堂の地下に、あれが⋯!」
そう吐き捨てるように呟いて、サオリは古聖堂の地下へと向かう。先生はそれをアズサとともに追いかけるのだった。 - 40二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 13:15:55
保守
- 41二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 22:17:09
保守よ
- 42二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 04:24:37
アズサ「…サオリ、もう終わりにしよう」
サオリ「…まだ私と1対1で、正面から勝てると思っているのか?」
アズサ「いや、私は1人じゃない」
サオリ「………先生」
姉さん、と思わず出かけたその言葉を飲み込み、別の言葉を発する。
私には、彼女をそう呼ぶ資格なんて…きっともう、ないのだから。
そうして始まった戦闘は、激しい撃ち合いの末アズサが勝利を収めた。
その後出現したヒエロニムスを撃破した後、先生はサオリたちアリウススクワッドと話をしようと探し回った。しかし、見つけることはできなかった。
ヒエロニムスとの戦いの前、サオリたちはアリウスから逃げると話し合っていた。であるならば、彼女たちはアリウスに戻ったわけではないのだろう。
ひとまず、サオリが自身の感じた恨み、憎しみが必ずしも自分のものではないとわかってくれていればいいのだが…。
今となってはサオリの無事を、ただ願うことしかできない。
先生は、そんな自分に歯痒さを感じるのだった。 - 43二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 10:24:20
ひとまず3章はここまでですね
- 44二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 19:29:19
保守
- 45二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 23:49:24
まってるぜ
- 46二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:06:04
─雨が降り頻る路地裏で、サオリは1人座り込んでいた。
アリウスからの追手に捕まり、アツコは連れ去られてしまった。
その後、自分たちを始末しようとしたマダム…ベアトリーチェからの指示により、始末されかけた私たちはここまで必死に逃げて、その途中でミサキやヒヨリとは散り散りになってしまった。
私は、もう何もわからなくなっていた。
生きていく上で最大の光だった姉には銃弾を浴びせてしまい、闇の中で共に生きようとしたアツコは遠く離れていってしまった。
この恨みが私たちのものじゃないことなんて、わかりきってる。姉さんの言っていた通り、この復讐は私が本当にやりたかったことじゃない。
でも、そうするしかなかった。そうしないと、生きていけなかった。だからここまで戦ってきた。なのに、なのに…。私は…。
緊迫した状況の中、疲弊に抗うことは出来ず、私は意識を混濁の中に投げ出した─ - 47二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 13:01:38
先生ー!先生ー!!
- 48二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 21:56:06
……オ……………
……………サ…リ……
(………?…誰、だ…?)
“サオリッ!!”
サオリ「っ!?」
必死に叫ぶその声が私を暗闇から引き戻した。目の前にいたのは、見るからに焦った表情をした姉さんだった。
“…気がついた?…良かったぁ…”
焦った表情から一転、安堵した表情になった姉さんはほっと一息をつく。どうやら雨宿りができる場所に移されていたようだ。
“サオリ、ここで何してたの?”
サオリ「………」
サオリは押し黙っている。私には言いにくいのだろうか。…もしかすると、このお腹の傷を気にしているのだろうか?
“…この傷…”
サオリ「…!!」
気にしてないよ、と続けて言おうとしたがその言葉を聞く前に、サオリは少し縮こまった。それを見て私は、この話はしない方がいいと判断し、それ以上は何も言えなくなってしまった。
─あぁ、もう。なんなの。私はお姉ちゃんでしょ。妹が悩んでるのに、なんで何も出来ないの。妹がこんな状態なのに、何も言ってあげられないの─ - 49二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 07:12:46
保守
- 50二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 07:26:37
姉として、何も出来ない自分を不甲斐なく思う。しかしそれは妹も同じこと。
正直に言えば、助けを求めたい。
自分たちの役割は果たせず、トリニティとゲヘナは勿論、アリウスにも追われる立場。
連れ去られたアツコを助けたい。頼れるのはもう先生しかいない。でも。
先生は、私の姉なのだ。そして私は、彼女を撃ち抜いてしまった。…きっと姉さんは私を恨んでいる。さっきだって、この傷のことを話そうとしていたし…姉さんは、私を許す気はないのだろう。
永遠のようにも感じる沈黙の時が流れる。
その静寂を破ったのは、先生だった。
「………私ね、妹がいたんだ」
サオリ「…!!」
「少し不器用で、真面目なんだけどそれが原因で空回っちゃったりして…でも、優しい子だった。…でも、ある日会えなくなっちゃった。探し回っても見つからなくて…ホントに、悲しかった」
サオリ「…先生?」
「…今でも、後悔してるの。なんであの時近くにいれなかったんだろ、守れなかったんだろって。…だから、先生になった今は…」
そう言うと、先生は私の目をじっと見つめる。
“…先生として、生徒の力になりたいんだ。お願いサオリ。何があったか…聞かせて?” - 51二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 15:30:00
保守
- 52二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 23:43:44
もっとしっかり話し合うんだよ!
- 53二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 06:51:38
サオリ「…」
先生の、姉のその言葉を受けて…サオリは考えを巡らせる。
今の言葉の感じからして私が妹であるということに、先生は恐らく気づいていない。であるならば、自分が妹であるということを言うべきなのだろうか。…いや、今言ったところでどうなる?今、重要なのは…そうだ。私は、私にできることをしなくてはならない。私は…。
少しの沈黙の後、サオリは先生に向き直る。武器を地面に置き、跪いて手を地面につける。そして、頭を深々と下げた。
“………!?”
サオリ「…先生。…アツコが、連れていかれた。他の仲間もアリウスの襲撃に遭って、散り散りに…生死も不明だ…。このままでは…アツコは…姫は、死んでしまう…」
雨とはまた違う雫がぽたりぽたりと落ちて地面を濡らす。先生は、サオリの話を何も言わずに聞いていた。
自分のせいで、大切な友人が死ぬ。それがどれほど辛いことか、そんなものを…この子は抱えていたのか。妹がそんな重いものを抱えていたことを知った先生は、それを押し付けた存在と今まで何も知らなかった自分に怒りを覚え、拳を強く握りしめた。 - 54二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 06:53:15
“…わかった。アツコを助けに行こう”
サオリ「…え…」
細かな情報や現在の状況をサオリが言い切る前に、私はそう言った。
サオリ「手を、貸してくれるのか…?本当に?」
“…生徒の願いは、無碍にはできないからね”
サオリ「わ、忘れたのか?私は、お前を撃ったんだぞ!お前の命を奪おうとしたのに、どうしてそんな簡単に…理解できない…どうして…」
“…今はまだ、理解できなくていいよ”
たとえば私が先生でなかったとしても、私はあなたの姉だから。妹の願いなら、私は受け入れる。 - 55二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 06:55:44
“…そういえば、爆弾持ってるんだっけ?”
サオリ「あ、あぁ…。…これが起爆装置だ。いつでもこれを…」
“起爆装置だけじゃなくて、爆弾も全部ちょうだい”
サオリ「?…わ、わかった」
その言葉に促され、サオリは起爆装置とヘイロー破壊爆弾を手渡す。
“ありがとう。…ふんっ!”
サオリ「なっ…!?き、起爆装置を…!?」
先生は、壊した起爆装置をその辺にあったゴミ箱へ投げ入れた。
サオリ「な、何を…!?」
“これでよし。さぁ急ごうサオリ。まずは2人と合流するよ!”
いつの間にか雨のあがった道を、先生は困惑するサオリを引き連れて歩き始める。 - 56二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 13:01:35
サオリ…
- 57二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:04:39
これからの二人の道行を暗示してるようでいいな
- 58二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 04:11:21
─散り散りとなった残りのアリウススクワッド…ヒヨリとミサキと合流した先生とサオリは、囚われたアツコを取り戻すため、アリウス自治区へと向かっていた。
サオリ「ここを突破すれば、アリウス自治区に入れる…行くぞ」
アリウスの追手たちを薙ぎ倒しながら、スクワッドは突き進む。相手が相手であるためか、先生は少し離れた後ろから着いていっている。そして、あと少しでアリウス自治区へ…という場面で、招かれざる客と対峙することとなる。
サオリ「…聖園、ミカ…」
ミカ「悪役登場☆ってところかな!」
ミカは朗らかな笑みを浮かべている。しかし、笑顔の裏に何か底知れない闇が渦巻いているようにも感じられた。
ヒヨリ「リ、リーダー…どうしましょう…?」
ミサキ「私たちは手負い…それに、先生の指揮もない状況で…彼女に勝てるとは思えない」
サオリ「…先生は、まだ来ない…来るまで時間を稼ぐしかない…か…!」 - 59二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 09:33:41
先生が来るまでの時間稼ぎ。言ってしまえば、まともに戦う必要なんてなかった。しかし、それでも─
ミカ「…ねえ?ねえねえサオリ?本当にこれで終わりなの?」
サオリ「…く…ッ!」
─体力の限界は、誤魔化せるようなものではなかった。
ヒヨリはやられ、ミサキは捕らえられた。状況を一言で言い表すならば、まさに絶体絶命という他ない状況だった。
ミカ「…ねぇ、サオリ?私の大切なもの…ぜーんぶ、なくなっちゃったんだよ?」
ミカはミサキを強く締め上げる。抵抗できないミサキを前に、立ち上がることも覚束無い私には、それを見ていることしか出来ない。
ミカ「…私が失った分だけ、あなた達も失ってよ。そうじゃないと…不公平でしょう?」
その声が聞こえたのと殆ど同じタイミングで、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
“ちょっと待った!!” - 60二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 09:35:31
ミカ「せ、せ、先生…!?」
サオリ「…ね、先生…!」
サオリは一瞬言いかけた言葉を即座に飲み込んだ。その事実には、誰も気づいていないようだ。
ミカ「ね、ねぇ…先生!?どうして、先生がスクワッドと一緒にいるの…?」
“…それは…”
ミカがここにいる理由は知らないが、少なくとも彼女自身にも何か考えがあってのことだろう。であるならば、こちらの考えを伝えなければいけない。しかし、迫るタイムリミットはそれを許してくれない。
“ごめんミカ!後で説明するからトリニティで待ってて!必ず帰るから!”
力を振り絞るかのように、私たちは必死に通路に駆け込んだ。結果として、通路が閉じる前になんとか入ることができたようだ。この先を進めば、アリウス自治区─。
“(…ミカ…一体どうしてここに…?アリウスに復讐をするため?…それとも、トリニティで何かが起きた…?)”
一人の生徒にろくに説明もできないまま、置いてきてしまったことに後ろ髪を引かれる思いをしながら、先生はミカがここに現れた理由について考えていた。 - 61二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 17:42:51
─その頃、残されたミカは…。
アリウス生A「スクワッドは我々を裏切って逃げた。彼女たちを処分するのが我々の任務だ」
ミカ「ちょっと待って…何を言ってるの?裏切り?逃げた?」
考えを巡らせ、ミカは答えに辿り着く。
ミカ「あはは☆そうなんだ…面白いね、味方に捨てられちゃったんだ?…サオリ、これがあなたの結末なんだ。…先生は、また危機に陥ってる子のために…その身を犠牲にしてるんだね」
アリウス生B「報告です!スクワッドにシャーレの先生が同行しているとのこと!」
アリウス生A「な、何だって!?一体なぜ…!?」
何も知らない者たちからすれば、先生がスクワッドに同行しているのは、シャーレの先生として生徒を守るためだと思うかもしれない。無論、それも勿論ある。
しかし、シャーレの先生…彼女にとってスクワッドを、サオリを助けることは過去に愛する妹を助けられなかった結果、彼女にあまりにも重すぎる運命を背負わせてしまったことに対する姉としてのせめてもの贖罪であるということは、先生がサオリの姉だという事実をまだ知らない彼女たちにとっては、絶対に到ることの出来ない考えであった。
ミカ「…スクワッドは私のものだよ。誰にも渡さない。…だからさ、消えてくれる?」
狂気的な含みを持った声色で、ミカはアリウスの生徒たちに対して、そう言い放つのだった。 - 62二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 01:39:14
“顔を覆う”
- 63二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 07:17:44
追手を振り切った先生とスクワッドは、遺跡のような場所に出てきていた。
“ここがアリウス自治区…?”
ミサキ「…昔はそうだったけど、今はただの跡地だよ。本当の自治区はもう少し先。でも、私たちが向かってる事がバレてるから、そう簡単には近づけないと思う」
ヒヨリ「…ここは訓練場でした。元は遺跡だったんですけど、10年前くらいにアリウス自治区が二つに分かれて…内戦が始まったんです…アズサちゃんと初めて出会ったのも、ここでした。…どの訓練だったかな…大人の『命令』に従わない子が、ひどく殴られていて…でもその子は何度も起き上がって、ずっと大人を睨んでました…そんな時、サオリ姉さん…いえ、リーダーが走ってきて…」
その話を、先生は黙って聞いていた。10年前…サオリが連れ去られてしまったのと殆ど同じ時期だ。サオリが内戦に巻き込まれたかは定かではないものの、少なくとも非常に劣悪な環境で生きてきたのだろう。そう思うと同時に先生はふと一つの、今更のようにも思える疑念が頭を擡げる。
“(なんでサオリは攫われたんだろう?)“
私たちはキヴォトスの外で暮らしていた。いくら人手が足りなかったにしても、わざわざアリウス自治区から攫いにくるわけがない。何かそうしなければならなかった理由があったのか? - 64二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 15:07:43
保守
- 65二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 22:56:34
そういえばなんで攫われたかは明かされてなかったな
- 66二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 02:46:40
─休んでいる間、不思議な夢を見た気がする。しかし、目が覚めた瞬間に、その記憶はまるで泡のように弾けて消える。サオリは…まだ起きてないか。
ミサキ「…ごめん、起こした?」
少し申し訳なさそうにミサキはそう問いかける。
“大丈夫、しっかり休めたよ”
ミサキ「…それなら良かった。…まだ追手は来てないから、あと30分くらいしたら出発しよう」
30分。短いようにも思えるこの時間に、少しでもアリウスについて、サオリがどんな環境にいたかを知っておきたい。そう考えた私は、ミサキとヒヨリに自分たちの知っているアリウス自治区のことを聞かせてほしいと頼んだ。
聞かされた話は、アリウスの内戦を収めたという『マダム』…彼女に教えられたトリニティへの恨み、ゲヘナへの嫌悪、そして全てに対する虚しさ。自分たちは『人殺し』と同じであり、この自治区以外に『人殺し』の居場所はないということ。そして、自分こそが真実を教える存在であり、生徒たちが従い、尊敬すべき大人であると─
それを聞いていた先生の顔は、普段の朗らかな性格とは真逆と言ってもいいほどの怒りが滲み出ていた。
ミサキ「………あぁ、やっと納得できたよ」
“…?…納得?”
ミサキ「…お姉さん、なんでしょ?リーダー…いや、サオリの」
“え…ど、どうしてそれを…?”
ヒヨリ「えっと…リーダーが言ってました。先生を、撃った直後に…」
腹に残った銃創が疼くような感覚。あの時点で、サオリは気づいてたのか…。
ミサキ「…今の先生の怒った顔、すごいそっくりだった」
ヒヨリ「そ、そうですねぇ…普段の様子だと全くそんな感じしないのに…」 - 67二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 08:35:55
保守
- 68二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 16:07:39
やっぱり姉妹なんだなぁ(しみじみ
- 69二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 00:06:31
父親概念は過去に見たけど、姉は新鮮だなぁ。
- 70二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 07:03:09
ミサキ「…それで?なんでサオリが妹だって気づいてること、隠そうとしてるの?さっきの反応からして、既に気づいてたよね?」
“隠そうとなんて…”
ミサキ「じゃあなんでまだ伝えてないの?それとも、もう伝えてるけどサオリが表に出してないだけ?」
“………”
ミサキに詰められて、押し黙ってしまう。
確かに、サオリには自分に妹がいることは伝えてある。でも、サオリこそがその妹だとは伝えていない。
ミサキ「…伝えてもいいなら、私から伝えるけど─」
「待って!!」
先生は思わず、ミサキの声を遮るように声を出す。
「…サオリには、私から伝えるから」
ミサキ「………わかった」
やや納得していない様子を見せつつも、ミサキはそう答えた。 - 71二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 13:16:24
保守
- 72二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 18:58:53
その後も、話自体は続けられた。
アツコがかつてのアリウス生徒会長の血を引く存在であること。ミサキとヒヨリとは、異なる世界の住人であるように感じられたこと。そんな立場を気にしていないかのように、ミサキとヒヨリに手を差し伸べてくれたこと。…昔は、よく笑っていたこと。
そして、内線が終わったあとに…生贄として捧げられることになったこと。それをサオリが待ったをかけて、ミサキたちのところに連れてきたこと─
ミサキ「…彼女が素直に姫を解放するとは思えないから…リーダーと彼女の間で何か、約束でもしたんだと思う」
…先生は、あの雨の降る路地でサオリと話した内容を思い返していた。マダムと呼ばれる存在との約束…。それの詳しいところはわからないが、少なくともサオリは約束を守れなかったということなのだろう。
「…サオリ…」
サオリ「…どうした、先生」
“…!”
ミサキ「…起きてたんだ。体調は?」
サオリ「…動けないほどじゃない。助かった」
サオリは目を閉じ、深く息を吸って吐く。
サオリ「…私たちの目標はただ一つ。アリウスのバシリカに向かい、姫を救出する。そのためにまずは…アリウス分校の旧校舎へ向かう」
ヒヨリ「きゅ、旧校舎ですか!?あ、あそこはかなり長い間放置されていた廃墟ですよ…!?」
サオリ「…姫から聞いた話だが、かつて聖徒会がアリウス分校を建設する時、バシリカと分校をつなぐ地下回廊を作ったそうだ。…回廊はかなり昔に作られたものだから、彼女も見落としている可能性が高い。遠回りにはなるが、安全にバシリカまで進入できるはずだ」
“…うん、とりあえず行ってみよう”
具体的な場所こそわからないが、立ち止まっていても始まらない。私たちは手当り次第、その回廊を探すことにした。 - 73二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:38:10
保守
- 74二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 02:14:46
次あたりでベアトリーチェと初邂逅かな
- 75二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 11:35:06
アリウスの街は、サオリたちが知るそれとは一変していた。具体的に言うと、見たこともない兵器や武器が並んでいるのだ。更に、ユスティナ聖徒会やアンブロジウスの『複製』までいる。エデン条約が無効になった今、何故使役できているのか…。
ミサキ「…推測だけど、複製は一度出来ればいいわけで…アリウスは既にその能力を確保できている…?もしそうだとしたら、本来の私たちの任務は…『姫を古聖堂に連れて行って複製を発動させる事』だけだった?」
「…鋭いですね」
サオリ「…!!」
その声が聞こえた瞬間、周りを囲まれてしまった。どうやら罠だったらしい。
「ここは私の支配下にある領地。皆さんの位置や目的地、その経路に至るまで全て把握しております。…あなた達任務は最初から『ロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させる事』…それだけです。トリニティやゲヘナを占領するかどうかなんて、私にとっては些末なこと。この自治区が長年抱いていた憎悪を統制するための方便ですから。私自身は、あの学園に何の遺恨もありません。あなたは私に複製の能力を提供しましたし、ロイヤルブラッドも素直に生贄として捧げてくれました。あなたは言い付けをよく聞くいい子ですね、サオリ」
サオリ「…やはり、最初から約束を守るつもりなんてなかったのか…」
「…不毛な話はここまでとしましょう」
彼女がそう言うと、サオリに攻撃が浴びせられる。それを受け、サオリは膝をついた。
「サオリ…ッ!」
ベアトリーチェ「…初めまして、先生。私はベアトリーチェと申します。既にご存知かもしれませんが、『ゲマトリア』の一員です。通信越しでの挨拶となる事をお許しください」 - 76二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 20:30:35
これは、先生、ありったけの憎悪を込めて「黙れ」しそう
- 77二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 21:03:10
“…あなたが、アリウスを…?”
ベアトリーチェ「ふふっ…私のことが気になりますか?どうやってアリウスを手中に入れたのか…必要ならば、あなたが知っている情報と交換する事もできますよ」
“必要ない。あなたの手口は知っている”
努めて冷静にそう話す先生だが、言葉の端々には怒気を孕んでいるようにも感じられる。
ベアトリーチェ「…楽園は永遠に届かないからこそ、楽園たり得る。その地獄の中で『大人』は『子供』を支配し搾取し、捕食します。これこそが『大人』のやり方、『大人』の楽園です。…ですから私のこれも、理解していただけますよね?先生?」
“…そこまでにして”
ベアトリーチェ「ほぉ?いいのですか?私のやろうとしていることは、このキヴォトスの真実へと至る為には必要なことなのですよ」
“その為に、生徒を………犠牲にしようとしているのなら…私はそれを絶対に許さない”
ベアトリーチェ「…ふふ、そういった声色も出せるのですね。少しあなたに対する認識を改めなければならないかもしれません。…いいでしょう。あなたのその憎悪に免じて、面と向かって話し合いが出来る場は設けて差しあげましょう。…尤も、このバシリカに到達できるのなら、ですが」
通信を切ったベアトリーチェは聖徒会の複製をけしかけてくる。しかし、既にこちらは迎撃の為の準備を終えている。
“…行こう、みんな” - 78二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 03:17:40
複製を倒し進んでいたその時、一つの足音が聞こえた。
“…ミカ…!?”
サオリ「…ここまで追ってきたのか…!」
ミカ「…さっきぶりだね。残念だけど、私は止まるつもりなんてないよ。先生がなんて言ってもね」
どうやら引くつもりはないらしい。なら仕方ない。
「…わかった。なら実力行使だよ」
ヒヨリ「せ、先生…?」
そうして始まったミカとスクワッドの対決。数の優位もものともせずスクワッドを圧倒するミカだったが、やはりそれにも限界はあったようだ。
ミカ「けほっ…けほ…」
ミサキ「…やっと制圧できたかな…?」
サオリ「…ミカ、私からの言葉なんて聞き入れられないかも知れないが…今は邪魔しないでくれ。姫を助け出せれば、罪は償うつもりだ。…だから」
ミカ「…トリニティに戻って…って?…それはできないよ…。私にはもう、帰る場所なんて…ないんだよ…!トリニティにも、どこにも…なのに、どうして?私は大切なものを全部失ったのに!ぜんぶ、奪われたのに!!」
涙を流し、ミカは叫ぶ。それをスクワッドは何も言わずに聞いていた。 - 79二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 03:19:29
ミカ「スクワッドを…サオリを、そのままになんてしておけない。…その女が、何の代償もなく先生の庇護を受けるなんてダメ…。だから先生、私を止めないで─」
「それはできない」
ミカ「…え…?」
自分の言葉に被せられるように発せられた先生のその言葉に、ミカは目を丸くした。言葉だけじゃない。自分に向けられた、初めて見るような鋭い眼差しも、先生のものとは思えなかった。
「…どうなったとしても…ミカは、大切な生徒だよ。だけど、今はやらなくちゃいけないことがある。…だから…トリニティに戻って。セイアだって、きっと無事だから」
ミカ「………」
そう言うとミカはその場から立ち去っていった。納得してくれたのなら、それでいいけれど。
サオリ「…このまま地下回廊を通ってバシリカに進入する。彼女が何を企んでいようが関係ない。…行くぞ」 - 80二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 11:00:58
おー、面白い……
- 81二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:53:03
─旧校舎へと辿り着いた私たちは、お目当ての地下回廊を見つけた。中は一直線にバシリカに繋がっているはずだ。急がなければ─
ミサキ「待って」
その一言が、私たちの足を止めた。
ミサキ「…この地形は危ない。聖園ミカがまだ私たちを諦めてないとなれば、まずやるべきは先生を分断させること。ならきっと…!」
その時、何かが崩れるような音が聞こえてくる。
ヒヨリ「せ、先生!後ろから柱が!」
倒れてくる柱を走って避ける。どうやら他の二人も無事なよう…二人?
「ッ!サオリは!?」
サオリ「ここだ、反対側にいる。…怪我もしてない」
瓦礫の反対側からそう聞こえてくる。ひとまず無事で良かったと胸を撫で下ろした。
しかし安堵するのも束の間、柱はまだまだ倒れ落ちてくる。
ミサキ「…ダメだ。完全に塞がれた」
ヒヨリ「リ、リーダーは無事なんでしょうか…?」
ミサキ「…リーダー、聞こえる?そっちに戻る道が塞がってないなら、合流地点を探すよ」
サオリ「…いや、それは厳しそうだ」
「…サオリ?」 - 82二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 00:31:42
さて、この先生はどちらを選択する?
- 83二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 00:38:01
ミカ「良かった!先生が巻き込まれるかもと思って、威力を下げたんだけどさ。それでも不安だったから。まぁでも、錠前サオリ…こうして、あなたが綺麗に残ってくれて良かった」
その声が聞こえた瞬間、先生は叫んだ。
「ミカ!やめて!!」
ミカ「…ごめんね、先生。それはできないよ」
「待っててサオリ!今そっちに…!」
サオリ「来るな!先生!!」
「!?」
サオリ「時間がない…!そのままアツコの所へ行ってくれ!姫を頼む!」
「でも…!」
その言葉の続きを口に出そうとした瞬間、何かに強く引っ張られた。
「ヒヨリ!?」
ヒヨリは先生を俵担ぎにして、ミサキと共にその場から離れる。
「待って!下ろしてヒヨリ!!」
ヒヨリ「お、落ち着いてください先生!」
ミサキ「先生の気持ちは分かる。リーダーを…妹を置いて行きたくないだろうってことも…。でも、今から向こうに行く道を探してたら、時間がなくなる。…今は、アツコを助けに行かないと…リーダーだって、それを望んでる」 - 84二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 00:42:36
「で、でも…!」
ミサキ「…あの女は、どうしようもない。説得できるならそれがいいけど、今の状況じゃ難しいでしょ?…リーダーなら大丈夫。…今はそう信じるしかない」
「………」
サオリは反対側から聞こえる足音が遠ざかっていくのを聞き、深呼吸をした後マスクで口元を覆った。
ミカ「…結局、先生は行っちゃったね。よかったねサオリ。きっと、あなたのお姫様は助かるよ」
サオリ「…これが、お前の望んでいたことなのか?」
ミカ「え?…私の望んでいたこと?…あぁ、うん…そうだね。目的達成、みたいな?でも、別にあなたを狙ったわけじゃない。むしろ、先生がここに残ってくれたらいいなーとか、思ったりしたくらい」
サオリ「…」
この時、サオリが考えていたことは…目の前のミカのことでも、囚われのアツコのことでもなかった。
サオリ(…やはり、私は姉さんの隣にはいられない。一人の人間を、ここまで狂わせてしまった。…全ては私がしたことだ。言い訳なんてしたところで、何も変わらない。…だが)
ミカ「…ねぇ、黙ってないで何か反応してほしいんだけど?」
サオリ「…姉さん…」
ミカ「ん?聞こえないよ?」
サオリ「…さっき私は罪を償うと、そう言ったな。…それは否定しない。だが…!」
投げられた手榴弾が爆発し、辺り一面を煙が包み込む。 - 85二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 00:45:36
サオリ「…今はまだ、やられるわけには…いかない…!」
ミカ「…ゲリラ戦…。確かに、この地形を考慮したらそれが最善だろうね。でも、これくらいで私を何とかできると思ってるの?」
サオリ「…すべては虚しいもの、だがそれは今を足掻かない理由にはならない。…あいつなら、きっとそう言う」
ミカ「そっか☆じゃあ精一杯足掻いてみせてよね」
爆発音と銃撃音が、閉ざされた地下回廊内に響く。それは戦いが終わりに近づくほどに小さくなっていき、最終的にその場には荒い息遣いのみが残った。
サオリ「…はぁ…はぁ…」
倒れていたのは、サオリだった。
ミカ「…その傷じゃもう無理だよ、サオリ」 - 86二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 08:01:10
保守
- 87二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 17:32:44
保守
- 88二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 23:29:55
先生!早く来てくれ!
- 89二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 03:09:13
そう伝えるミカの声。私は自分が負けたことを何の抵抗もなく受け入れる。これで終わりか…そう思うと昔の記憶が蘇ってくる。
私の誕生日を本当に嬉しそうに祝ってくれた父さんと母さんと…姉さんの声。そして、迷子になって泣いている私を必死に探してくれて、私の手を繋いでくれた姉さんの手の温もり。
アリウスに来る前の、幸せな日々。
あの日拐われてから、奪われてしまったもの。
幼いサオリ「…許してください…申し訳ございません…。二度と…二度とこのようなことは…。二度と、大人の言葉を破りません…反抗しません…将来に希望を抱かないように努めます…。二度と幸福を望みません…祈りません…。だから、どうか…」
あの日々の繰り返しによって、望めなくなってしまったもの。
サオリ「…姉さん…」
ミカ「…姉さん?」
…そうだ。何を勘違いしていたんだろうか。あの日々は、もう帰ってこないのに。祈ったって、もう戻れやしないのに。
サオリ「…もういい。ミカ…私を殺したいのなら…そうしてくれ」 - 90二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 10:35:41
保守
- 91二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:38:43
ミカがそのままサオリを殺してしまったif
ベアトリーチェと先生が相打ちになったif
色々妄想が捗るな - 92二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 14:18:10
後者の場合サオリが反転してしまいそう…いやまだアリスクが残ってるし大丈夫か
- 93二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 21:06:32
ミカ「…ねぇ、サオリ…姉さんって何?」
サオリ「………先生だ」
ミカ「…え?」
サオリ「…シャーレの先生は…私の姉さんなんだ」
驚いた表情を見せるミカに、サオリは淡々と言葉を紡ぐ。
サオリ「…幼い頃、私はアリウス自治区に拐われた。姉さんと…家族と一緒にいる日々は、本当に幸せだった。でも…アリウスに来てたからは、そんな幸せが現実のものじゃない…単なる夢と同じに感じるようになっていった。…それでも、すべては虚しいと教えられて…ただ底に沈んでいくような日々の中で、姉さんの存在だけが…私の光だった。…生きていればきっとまた会える…それ以外の希望なんてなかったし、願えるわけもなかった」
ミカはサオリの言葉を何も言わずに聞いている。
サオリ「…だけど私は、姉さんを撃ってしまった。私は私自身の手で…最後の光を消し去るところだったんだ。…結局、姉さんは生きていたけど…それは何の慰めにもならない。私が先生を撃ったという罪も、撃たれてできた創も消えない。…私は、姉さんの隣にはいられない。…そんなこと、わかっていたんだ。でも、それでも…隣にいられなくたって…ただ、生きていたかった。………そんな望みも、祈りも…もう終わりにしよう」
そう言ってサオリは微笑んだ。それは、ミカもいつか見たことのある…先生の微笑んだ顔によく似ている笑顔だった。
サオリ「…これでお前の憎悪が消えるのなら、それでいい。お前を憎悪の『魔女』にしてしまったのは、他でもない私なのだから。せめて、…償わせてくれ」
目を閉じ、己の運命を受けいれたかのように微笑むサオリ。
サオリ(…みんな…アツコを頼む…。姉さん…どうか、幸せに…) - 94二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 22:43:13
そう考えているとすぐ側で、何かが落ちる音が聞こえた。
ミカ「…わ、私には…できない…。そんなこと、できない…。だって…ここで私があなたを殺したら…。きっと、今度は先生が…あなたのお姉さんが…」
サオリ「…私が死んだところで、姉さんは悲しまないさ」
ミカ「悲しむに決まってるでしょ!!」
ミカは思わず声を荒らげた。それはサオリのその発言が、あまりにも無責任な発言だったからに他ならない。
ミカ「…私も、たくさん奪ってきた…。だから、やり直したいって思ってきた…。けれど、私はそれをダメにしちゃった」
サオリ「…ミカ…?」
ミカ「…私には、何も残ってない…だからきっと、ダメだったんだと思う。でも…あなたにはまだ、残ってるものがある。先生は先生である以上に…あなたのお姉さんだから…。あなたを殺せば、先生からあなたを奪うことになる。そうしたら、先生はきっと…今度こそ本当に私を許せなくなる」
涙を零しながら、ミカはサオリの手を握った。
ミカ「…あなたには、まだ先生が残ってるから…。きっと、やり直せる…」
サオリ「…ミカ…」
ミカ「…だから…私は…」
涙を流すミカを見て、サオリはようやく理解した。
私は恐れていたんだ。姉さんに拒絶されるのを、否定されるのを恐れて…何も言えないままズルズルとここまで来てしまった。
今のミカは、きっと今の私と同じだ。姉さん…先生に嫌われることを恐れて…何も言えないまま、誰にも助けを求められないまま…ここまで落ちてしまった。
自分はもうあの陽だまりに戻れないと、そう結論づけて更なる暗がりへ沈んでいこうとしている。でも…。姉さんなら…。 - 95二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 07:01:53
サオリ「…『ミカだって、やり直せるはずだよ』」
ミカ「…え…?」
サオリ「………姉さんなら、きっとこう言う」
あぁ、そうだ…思い出した。沈んでいく人に迷わず手を伸ばせる…。姉さんは、そういう人だった。
ミカ「…わ、私が…やり直せるって…そんなわけ…」
サオリ「…そんなに信じられないなら…姉さんに直接聞きに行こう。…私も、言わないといけないから」
ミカ「…言わないと…いけないからって?」
サオリ「…実は、まだ姉さんに自分が妹だってことは…言えてないんだ。…だから、今から伝えに行く。拒絶されても、否定されても…私はそれを受け入れる。ミカ、お前はどうする?」
ミカ「…私は…」
地下回廊が静寂に包まれる。暫くするとそれを破る足音が二つ響き渡る。
サオリ(…姉さん…ミサキ…ヒヨリ…アツコ…!無事でいてくれ…!) - 96二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 14:19:37
保守
- 97二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:23:57
一方その頃…。
ヒヨリ「つ、着きました!」
ミサキ「…姫は…!」
ベアトリーチェ「…フフ、やっと来ましたか」
「ベアトリーチェ…!」
ベアトリーチェ「お待ちしておりました。…私の敵対者よ。ロイヤルブラッドは眠っているだけです。しかし、儀式は既に始まっておりますので」
ミサキ「…!?」
ヒヨリ「そ、そんな…!まだ太陽は昇ってないのに…!」
ベアトリーチェ「私が日が昇るまで待つとでも?…ロイヤルブラッドのヘイローは、もう間もなく破壊されることでしょう。そして…その神秘の欠片を通じ、私は高位の存在となるのです。」
「そんなこと…させない…!」
ヒヨリ「そ、そうです…!」
ミサキ「…私も同意見」
ベアトリーチェ「…中々いい目をしますね、先生。…それでは幕引きといたしましょう。…行きなさい、ユスティナの聖女バルバラよ!」 - 98二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:28:03
そのベアトリーチェの言葉と共に、ユスティナ聖徒会が現れる。そしてその中に…一際存在感を放つ存在『聖女バルバラ』の姿があった。
戦闘を開始したミサキとヒヨリだったが、バルバラは他の複製と比べるまでもないほどに強力な存在だった。
「二人とも、大丈夫!?」
ヒヨリ「…とんでもない威力です…!あの戦術兵器すら圧倒する破壊力…意味がわかりません…」
ミサキ「あれが…ユスティナ聖徒会の…聖女…」
攻撃をまともに食らったわけではないものの、如何せん連戦続きだ。ここに来るまでも何体もの複製を相手し続けた二人の体力は限界にも近かった。
「…ベアトリーチェ…一つ、私から聞きたいことがある」
時間を稼ぐ為か、はたまた別の目的か。先生が口を開き、ベアトリーチェに声をかけた。
ベアトリーチェ「おや、最期の質問…というわけですか?…いいでしょう」
「…どうして、サオリを攫って…ここに連れてきたの?」 - 99二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 03:02:58
ベアトリーチェ「…ふむ、なるほど…そんなことでしたか…」
「…そんなこと?」
ベアトリーチェ「…ええ、隠し立てするほどのことでもないですし、教えてあげましょう。キヴォトスの外にいたサオリ…彼女を攫ったのには勿論理由があります。…内戦により、アリウスは様々なものをなくしていました。その中で最も深刻だったのが、人です。アリウス自治区で生きる者が内戦で犠牲となり、一人また一人と死んでいく…。私が内戦を収めた時には既に、住人は相当の数が減っていました。…ですから、補充をしようとしたわけです。万全を期して、キヴォトスの中ではなく…キヴォトスの外から」
「………は?」
ベアトリーチェ「いくらアリウス自治区の場所が連邦生徒会にも把握されていないとしても、キヴォトスに住む者を攫っては、同じキヴォトスに住む者たちに勘づかれてしまうリスクが高くなります。…しかし、ヘイローを持つ人は、キヴォトスの外にも一定数います。そういった人間を見つけるのには手間がかかりますが、キヴォトスに住む者たちに勘づかれるリスクを冒すよりは安心できるでしょう?」
(…人を補充したかった?キヴォトスに住む人を攫ったら勘づかれるから?なんだそれ…)
(それじゃあ、サオリじゃなくても良かったってことじゃないか…!) - 100二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 07:16:39
ミサキ「先生…?」
ヒヨリ「ま、待ってください先生!」
先生の足は独りでに、ベアトリーチェのいる方向へ動き出していた。
その目に映っているのは、ベアトリーチェのみ。バルバラは一顧だにせず、先生はベアトリーチェに自身の感情をそのままぶつける。
「ベアトリーチェ…!!」
ベアトリーチェ「フフ…いい憎悪を持った目ですね、先生。あなたの妹…サオリを攫ったことについては謝っておきます。…しかし、これも全て必要なこと。私が高位の存在へ至るために、必要な犠牲なのですよ」
「ふざけるな…!そんなことの為にあなたは!私の家族を…!私の妹を!!」
バルバラは既に攻撃態勢に入っている。
(ベアトリーチェ…!あなたは、私が…!)
先生は、大人のカードを取り出……そうとしたその手が、誰かの手によって止められる。
「…サオリ…?」 - 101二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 13:01:08
その瞬間、バルバラが何かに殴り飛ばされる。
ミカ「助っ人登場☆…みたいな?」
ミサキ「美園ミカ…」
ミカ「そう心配しないで。もうあなたたちを襲ったりしないよ。…それじゃあサオリ、こっちは任せて」
サオリ「…頼む」
そう言うとミカはバルバラやその他の雑兵たちに向かっていく。
「…サオリ、離して」
サオリ「…ダメだ」
「…離して、あいつは…!」
サオリ「落ち着いてくれ姉さん!」
「!?」
サオリ「…気持ちはわかる、私も同じ気持ちだ」
「…サオリ…あなた、最初からわかってたの?」
サオリ「…今まで言えなくて、ごめん…。怖かったんだ。姉さんに、自分が妹だって告げるのが…」
サオリは一拍置いて、姉の目を見つめる。それを見て、先生はサオリへ向けて謝罪と後悔の言葉を紡ぐ。 - 102二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 13:02:16
「…ごめんなさい。あの日、あなたを助けに行けなくて…あなたを、地獄に置き去りにして…本当にごめんなさい…!恨んでるなら、いくらでも殴っていいから…!」
サオリ「…恨んでるわけない。…むしろ、こっちが謝らないといけない…。姉さんを、撃ってしまったこと…」
「…それは、確かに痛かったけど…。大丈夫だよ。私はこうして生きてるから」
お互いに謝って、お互いに許し合う。それはかつて、喧嘩した時によくやったこと。
「…それじゃあ、これでおあいこ…だね」
幼い頃、何度も見た姉さんの笑顔。それを見てサオリは思わず吹き出してしまった。
サオリ「…うん、おあいこだ」
これにより、ようやく二人はお互いに自分たちが姉妹であること、相手の行いをお互いに許していることを確認できた。二人が、本当の姉妹に戻った瞬間だった。 - 103二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 20:52:04
ベアトリーチェ「…まったく、よくも私のバシリカでそんな茶番ができますね。…ですが、既に機は熟しています。これをもって私は、より高位の存在へ至ることができる…!」
「高位の存在…」
ベアトリーチェ「あなたなら、これがどれほど素晴らしいことか理解できるでしょう?すべての生徒を審判することも、救うこともできる絶対的な力を有するあなたなら…!」
「…どうやら、あなたは私を誤解してるみたいだね。私はそこまで大した存在じゃない。誰かを審判することも、あらゆる苦痛から救うことも、この世界から罪を消し去ることも…私にはできない。…私はただの人間だよ。さっきみたいに、怒りに飲まれてしまうこともあるし、悲しんだり、絶望したりすることもある。…それでも、私は…」
周りに目を見遣ってから、目を瞑る。
今ここに至るまで、どれだけの生徒と関わってきただろうか。どれだけの思いと向き合ってきただろうか。
すべての生徒の味方にはなれなかったし、すべての生徒を助けることもできなかった。それでも、私は─
“生徒たちのための、先生だから”
苦しむ生徒に寄り添い、嘆く生徒に手を差し伸べる。それが、私だから。
ベアトリーチェ「…ならば、それを証明してみせなさい…!」
ロイヤルブラッドの力を得た影響か。ベアトリーチェはその姿を異形の存在へと変えていく。
サオリ「…あれが、マダムの正体か」
ヒヨリ「た、ただの怪物にしか見えませんが…」
ミサキ「…あんなものに、私たちはずっと縛られていたんだね」
とはいえ、それに臆しているものなど誰一人としていない。アリウスを長らく縛ってきた存在との最後の戦いが、始まる。
“…みんな…行こう!” - 104二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 00:00:51
おまけ
先生のセリフのかっこが“”だったり「」だったりしてますが、これについては
“”がシャーレの先生としての言葉
「」がサオリの姉としての言葉
といった感じで変化させています - 105二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 07:05:57
ほえー
- 106二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 14:11:09
保守
- 107二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 20:03:17
保守
- 108二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:59:20
サオリ………………
- 109二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 06:42:55
先生の指示とサオリたちの攻撃により、ベアトリーチェとそれを守るように現れた複製たちは少しずつその力を削られていく。
ベアトリーチェ「ああ…なりません…!!私の権能が…!!なりません…。まだ儀式が完成していなかったのでしょうか…?まだ力が…ああ…」
ベアトリーチェもロイヤルブラッドの力をすべて吸収できたようではないようだ。これなら─
ベアトリーチェ「たかが…たかが貴様ら如きに…!!バルバラ…いえ、バシリカに存在するすべての兵力をここに…!こちらに戻ってきなさい!!」
─まずい。みんなもう限界を超えているこの状況下で、更なる戦力追加は非常にまずい。支援が来る前に早急に攻め落とさないと…!
ベアトリーチェ「─バシリカの兵よ、私を保護なさい!!」
その号令が、バシリカに響く。
響いたその音は、段々と小さくなっていき─
後には、静寂だけが残った。
“………?”
ベアトリーチェ「…何故、来ないのですか…?」
静まり返ったバシリカ、やがてその空間を満たすかのように─
歌が、聞こえた。 - 110二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 15:31:15
保守
- 111二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 22:21:57
ミカ...
- 112二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 06:20:00
ヒヨリ「この歌は…」
ミサキ「これは…Kyrie eleison…?」
ミカ「………サオリ。私は、自分が受けた痛みを…あなたに感じてほしかった。そうじゃないと不公平だと思っていたの。でも、私と同じように、あなたたちも…いや、先生も…救われたかったんだよね」
地獄のような環境で、そうあるように教えられ…虚しさだけを抱えて、多くの人を傷つけてきたサオリたち。
誘拐された妹を見つけたと思ったら、辛く暗い世界で、悪い大人に心を歪まされた妹の姿を見て…自分が助けられなかったせいだって、過剰な程に自分を責めてしまった先生。
みんな、救いを求めていた。赦しを願っていた。その為に、戦ってきた。
ミカ「…ねえ、サオリ。…私は、あなた達を赦すよ。あなた達のその行く末に幸いが…祝福があらんことを。だから私は…」
あなたたちのために、祈るね─ - 113二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 13:42:14
保守
- 114二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 20:39:08
ほー
- 115二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 22:22:58
先生は確信する。これはきっと、ミカの想いなのだと。
“…ミカ…!”
ベアトリーチェ「なりません!!」
キリエを聞いたベアトリーチェは声を荒らげる。
ベアトリーチェ「なりません!私の領地で慈悲を語る歌を響かせるなど!生徒は憎悪を、軽蔑を…呪いを謳わねばなりません!お互いを騙し傷つけあう地獄の中で、私たちに作搾取される存在であるべきなのです!」
その言葉を聞いて、先生は穏やかな心を僅かに波立たせる。
“黙れ。…それ以上、私の大切な生徒に話しかけるな”
敢えて強い言葉を使い、ベアトリーチェに怒りの言葉を投げかける。
“私は、あなたを絶対に許さない。何があろうと、あなたのすべてを否定してあげる” - 116二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 06:23:41
ベアトリーチェ「よ、よくも私にそのような…!そのような言葉をぉぉオオオ!!!」
その言葉が余程気に食わなかったか、ベアトリーチェは更にその姿を変える。
ベアトリーチェ「ああ、そうだサオリ…!貴様を新しい生贄として捧げましょう!貴様が私の計画を台無しにしたのですから、その代償を支払うのです!私を否定する先生…貴様の姉への報復としても丁度いい!!」
サオリ「………代償、か…。むしろ私に支払える代償があるのなら…感謝したいくらいだ」
ヒヨリ「リ、リーダー!?」
「サオリ!?」
サオリ「…だけど、その代償をお前に支払うつもりはない」
ベアトリーチェ「ぐぅう…!?」
サオリ「…答えはノーだ、ベアトリーチェ。姉さんがそうするなら、私もあなたを否定しよう」
ベアトリーチェ「ぐぐぐ…!この…ッ!!この親不孝者があぁぁぁぁぁッッ!!!」 - 117二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 13:05:01
拉致しておいて親不孝者とは、実にお笑いだな