【学マスSS】平行世界のわたし

  • 1スレ主25/06/11(水) 18:45:52

    ナムクレ待機中に考えたSSを書いてみました。担当である咲季は残念ながら入手出来ませんでした。


    今回も咲季の曇らせSSです。今のところ想定ではハッピーエンドではないので注意してください。

    このSSは咲季佑芽親愛度20、一部イベコミュのネタバレ、改変があります。


    前作

    【閲覧注意】【SS】夢の続き|あにまん掲示板咲季と学Pのお話です。学Pの病気の描写があります。花海姉妹の親愛度コミュのネタバレ、改変があります。fighting my wayのコミュも一部ネタバレあります。初SSで拙い文章ですがどうかよろしくお…bbs.animanch.com
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 18:47:00

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  • 3二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 18:48:09

    >>2

  • 4スレ主25/06/11(水) 18:48:20

    「プロデューサー・・・・・・ただいま。」
    「おかえりなさい、咲季さん。」

    「見た?いままでで一番・・・・・・たくさんの人たちが、わたしを応援してくれていたわ。いつの間にこんな・・・・・・じゃ、ないのよね。ファンが増えてるって・・・・・・わかってはいた、つもりだった。ぜんぜんわかってなかったわ・・・・・・」

    「こんなにも増えた花海咲季ファンたちの前で歌って、どうでしたか?」

    「・・・・・・泣きそうだった。ライブ中、ずーっと。・・・・・・いまも。ファンは外付けの筋肉で、勇気の源で・・・・・・実力を示す指標で。トップアイドルってなんなのか、少しだけ・・・・・・わかった気がする。」

    「わたしが格上のライバルたちに勝てたのは・・・・・・ファンのおかげ。たくさんのファンと出逢わせてくれた、プロデューサーのおかげ。」

    「花海咲季のファンたちが聞いたら、皆、違うと言うでしょう。ファンの応援も、プロデューサーの手腕も。すべて咲季さんの、実力のうちです。」

    「・・・・・・お礼くらい言わせなさい。ありがとう、プロデューサー。ありがとう、わたしのファンたち!!見てなさい!何倍にもして、お返ししてやるんだから!次のライブで!次の次のライブで!その次だって・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

    「ねぇ・・・・・・プロデューサー。わたし・・・・・・この大会を通して、大切なものをつかんだと思う。格上のライバルたちと、劣ったままで闘える武器を見つけたと思う。」

  • 5スレ主25/06/11(水) 18:49:46

    「『N.I.A』への参加が、大きな糧となったようですね。多くのファンを得、莫大な経験を得、アイドルとしての武器も得た。今回のプロデュースは大成功です。なのに、なにか不安なことでも?」

    「お見通しなのね。いつまでファンにライブを届けられるのか・・・・・・って、考えちゃって。わたし・・・・・・佑芽に負けたら、もう、二度と立ち直れないのに。確信があるの。一度でも負けたら、ずっと張り詰めていた糸が切れるって。せっかく見つけたわたしの武器も、砕けて折れて、直らないって。」

    「自分で言ってましたよ。一度も負けなければいいと。」
    「もちろんそのつもりよ!絶対に勝ってやるわ!だけど・・・・・・ずっと、最後まで・・・・・・続くと思う?」
    「いつかは負けます。必ず。」
    「はっきり言うわね!」

    「以前からそう言っています。我々の認識は同じでも、思惑はズレていると。何度負けようと、最終的に・・・・・・すべてのアイドルに勝てば、それでいい。」

    「そーだったわね。そんなふざけたこと、言ってたっけ。けど、実際どうするのかしら・・・・・・プロデューサー?このわたしは、妹に負けたら、そ〜れはもう無残な有様になるわよ!何度も言うけど・・・・・・絶ッ〜対!立ち直れないわよ!糸が切れて心が砕けて、目から光が消えちゃうんだから!」

    「自信満々に言う台詞ですか。」
    「いいから聞かせて。絶対に負けられない勝負に負けて・・・・・・倒れて起き上がれなくなった花海咲季を。・・・・・・あなたは、助けてくれる?」

    「勝手に復活するでしょう?」
    「は、はあ〜?」
    「不屈のアイドル・花海咲季は、そこからが強く恐ろしい。」
    「・・・・・・二度と立ち上がれないって・・・・・・言ってるでしょ・・・・・・」
    「立てないのなら這ってでも進むのが花海咲季です。武器が折れようと、魂が砕けようと、そのまま闘うのが花海咲季です。」

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

  • 6スレ主25/06/11(水) 18:50:49

            ・・・・・・
    「そしてきっと、その方が強い。なんの心配もしていません。万が一、億が一、花海咲季がそこで終わるなら。一緒に終わりましょう。」
    「・・・・・・本気で言ってる?」
    「花海咲季以上のアイドルはいない。夢を続ける意味がない。」
    「・・・・・・っとに。信頼が重いったら。自分でも知らなかったわ・・・・・・わたしって、そんなやつなのね。」
    「ええ、そんなやつなんです。敵じゃなくて本当によかった。」
    「・・・・・・わたしもよ。あなたが敵じゃなくて、本当によかった。」
    「あなたと最初に出逢ったアイドルが、わたしでよかった。プロデューサー。あなたは、わたしのベストパートナーよ。覚悟しなさい!もう・・・・・・逃さないんだからねっ!」
    「今回のプロデュースを振り返ろう。咲季さんは花海佑芽を倒し『N.I.A』で優勝を果たした。だが、姉妹の勝負は終わらない。次の舞台は夏の『H.I.F』──」


    今回のライブはわたしの全てを出し切った。

    追いつかれて、追い越された佑芽に・・・・・・初めて勝てた。これからあの子は、目にも留まらない早さで成長していく。

    もう、追いつくことはない。それでも、わたしは──

  • 7スレ主25/06/11(水) 18:52:40

    早朝、目が覚めると太陽はまだ昇っておらず、窓から見えるのは小さな星々だった。時計を見ると朝の4時、日課であるランニングの支度を始める。

    「今日はなんだか冷えるわね。」

    この時期は梅雨も相まって蒸し暑いのだが、今日は肌寒く感じる。ウォーミングアップを済ませた後、いつものコースを周る。今日はなんだか身体が軽く感じる。昨日のライブの高揚感が抜けていないのか、思わず笑みが溢れる。

    「佑芽に・・・・・・勝ったのよね、わたし。」

    どこか落ち着かない気持ちを胸に走り続けた。

    ランニングを終えた後、朝食を摂り自室へと戻る。

    「ったく、ことねも手毬も一体どうしたのかしら。食堂に来ないなんて。」

    朝から用意した料理は冷蔵庫行きになってしまった。食材を買い忘れていた分、工夫して作ったというのに。ギリギリまで待っていたため登校時間に余裕はない。

    「・・・・・・おっかしいわね。教科書の場所が変わってる・・・・・・イタズラかしら。」

    部屋に出入りするのは佑芽や1組のみんな、だが、こんなイタズラをする様には思えない。他にも物の場所が少しずつ変わったりしているが、荒らされているわけでもない。納得はいかないが時間がないため、この問題はひとまず置いておく。手早く支度し、寮を出る。

    少し歩いて思う。今日はなんだかおかしい。
    登下校で見慣れたはずの風景が、見慣れない。そんな違和感を感じながら歩いていると、綺麗な桜の花びらが目の前に落ちる。

    「きれいな桜・・・・・・ん?桜?」

    今は夏の中旬。桜が咲いているわけがない。異常気象だろうか?あとでことねや手毬に、朝食の件も含めて聞こう。色々と思うところはあるが、ここで立ち止まっても遅刻するだけなので再び歩き始める。

    そうして、花海咲季は『初星学園』の門をくぐった。

  • 8スレ主25/06/11(水) 18:53:49

    廊下の空気感がいつもと違い、不審に思いつつも教室へ向かう。すると見覚えのある後ろ姿を見つけて声をかける。

    「おはよう手毬!朝の約束はどうしたのよ!せめて連絡くらい入れなさいよ。ずっと待ってたんだから。」

    「は?あんた誰。話しかけないでくれる?」

    「は、はあ〜?あんた喧嘩売ってんの!?」

    「それはこっちの台詞。意味わからないし。もういい?私急いでるから。」

    「待ちなさい!話はまだ・・・・・・って、もう・・・・・・!」

    呼び止める咲季を無視して手毬は教室へ戻る。話しかけなるなオーラを出す手毬と朝から突っ伏して寝てることねを横目に自分の席に着く。

    「おはよう、清夏、リーリヤ。」

    「え?あ、おはよー。」
    「お、おはようございます・・・・・・」

    「手毬が機嫌悪いんだけど何か知らない?」

    二人は困惑した表情を浮かべる。

  • 9スレ主25/06/11(水) 18:54:54

    「えーっと、私たちは知らないかなー。」
    「そう。あとでもう一度話しなくちゃ。納得いかないもの。」
    「よく分からないけど・・・・・・頑張ってください。」

    当たり障りのない返事に肩透かしをくらうもチャイムが鳴り先生が来たため、会話が終了してしまった。

    「それでは入学式が始まるので移動します。」

    「え?」

    素っ頓狂な声を出してしまい、教室のみんながわたしの方を見る。

    「花海咲季さん?ああ・・・・・・あなたは新入生代表としての挨拶がありますものね。頑張ってくださいね。」

    意味がわからない。理解しようとしても脳がそれを阻む。初星学園によるドッキリと言われた方が納得できる。意味がわからないまま、立ち上がり質問する。

    「あの!え、っと・・・・・・これは一体どういうことですか?わたしたちは入学してからもう・・・・・・」

    思えば色々と不可解な点はあった。部屋や桜、手毬やみんなの態度。頭の中で一つの可能性が思い浮かぶが、信じられない。理解したく、ない。

    「ちょっと、大丈夫?顔色悪いよ?」

    言葉が出ない、とはまさにこのことだろう。口を開こうにも言うべき言葉などなく、荒い呼吸をするばかり。膝から力が抜け、崩れ落ちる。

    周りの声は消え、視界がぼやける。



    どうやらわたしは初星学園入学式の日まで戻ってしまったらしい。

  • 10スレ主25/06/11(水) 18:56:06

    その後、わたしは病院に連れていかれ、白いベッドの上で横たわっていた。精密検査を受けたが異常は見当たらず、駆けつけた両親は安心した様子だった。佑芽も電話越しに耳が痛くなるほどの声量で心配してくれた。

    寮に戻っても、いまだに悪夢のような異変と現実としか思えない実感があまりにも乖離していて、気持ちが悪い。

    気分転換に窓の外を見ても咲くはずのない桜があり、こんなにも綺麗なのに、わたしの目には異物にしか見えなかった。

    ────────────────────────

    数日後、当初の混乱も落ち着いて登校することとなった。

    「お姉ちゃん!おはよっ!」
    「おはよう、佑芽。」

    寮の前で待ち合わせをし、一緒に学校へ向かう。

    「それでね?あたしに──」

    ボーっと歩きながら考える。どうやって元に戻るか。それ以前にどうしてこうなったのか。

    「・・・・・・お姉ちゃん、本当に大丈夫?まだどこか悪いの?」

    「・・・・・・心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。ほら、早く行きましょ。」

    心配してくれる妹に悪いと思いながらも、わたしの身に起こったことを話すことはできなかった。

  • 11スレ主25/06/11(水) 18:57:29

    佑芽と別れて自分の教室へと向かう。ドアを開けたわたしに注目が集まる。それもそうだろう。入学式の朝から変なことを口にしたかと思えば、倒れて数日欠席。

    なにより辛いのは、決して長い時間ではないが同じアイドルとして苦楽を共にしたみんなから、他人扱いされることだった。

    自己紹介を済ませて授業が始まり、ゆっくりと時間が過ぎていく。時折、というか頻繁に佑芽が顔を見せてくれたので、それほど寂しい思いをせずに済んだ。

    「花海っちー、ちょっといいかなー?」

    清夏とリーリヤがいた。話しかけられたことが嬉しくもあり、少し気まずさもあった。

    「なにかしら。」

    「1年1組のみんなで懇親会やりたいんだけど花海ちゃん休んでたでしょ?今日の放課後空いてる?」

    「空いてるわ・・・・・・親睦を深めるのは大事だものね。」
    「良かったー!これで全員参加だよ!」
    「なんとかなったね。清夏ちゃん。」

    クラスの懇親会。すでに遠い記憶のように思える。しかし、今まであった関係も全てなくなり、一からとなってしまった。

  • 12スレ主25/06/11(水) 18:58:43

    「ん?花海ちゃんどうかした?あ、月村さんも来るけどまだ仲直りできてないカンジ?」
    「いえ・・・・・・もう大丈夫よ。放課後楽しみにしているわ。それと・・・・・・」

    「それと・・・・・・?」

    急に黙ったわたしを二人が怪訝そうな顔で見つめる。

    「咲季って呼んで、欲しい。」
    「「・・・・・・・・・・・・」」

    「これは・・・・・・その、違うのっ!これから同じクラスでしょ?だから、いずれ名前で呼び合うんだし──」

    「ふふっ、咲季っち慌てちゃってかわいい〜!」
    「さ、咲季ちゃん。これからよろしくね。」

    心が少し軽くなった気がした。分からないことばかりで、何一つ問題が解決したわけじゃない。でも、取り戻せないものではないと。

    その時のわたしは、そう思えていた。

  • 13スレ主25/06/11(水) 18:59:53

    「ではではっ、1年1組の親睦を深め、結束を強めるためにぃ〜!第1回教室パーティーを開催しまーっす!」

    清夏の音頭にクラスのみんなが一斉に声を上げる。各自でお菓子や飲み物を持ち寄り、懇親会が和やかに始まった。

    「さっそくだけど咲季ちゃんも学校に来たし、あたし、自己紹介のやり直ししまぁす!藤田ことね!将来の夢は、ガンガンおカネを稼げるアイドルに成り上がることっ♪改めてよっろしくぅ〜!」

    「低俗だね。」
    「あ〜?だからなにぃ?」

    ことねと手毬の言い合いが始まる。わたしにとって見慣れた光景だけど、周りのみんなは大分怯えた様子だ。

    「ほら、そこまでにしなさい。今日の目的は親睦を深めることでしょう。」

    「・・・・・・そういえば、入学式の日私に話しかけてきたけどなんだったの。」
    「それは・・・・・・人違いだったわ。気にしないでちょうだい。」

    「は?なにその下手な嘘。あんた、名前呼んでたよね?大体、初日から倒れるなんて、自己管理もできないのにこの先アイドルできるの?」
    「なっ!?そこまで言うことないじゃないっ!」
    「はいはい、そこまでそこまで〜!」

  • 14スレ主25/06/11(水) 19:00:53

    「上からでうざー。んじゃ、次はそっちね。」
    「は?」
    「ちょーカンジ悪かったし、自己紹介のやり直しだよ。──ほら。」
    「な、なんでそんなこと・・・・・・」

    手毬はリーリヤの方にチラッと目線を向けると何故か少し青ざめた顔色になり、自己紹介を始めた。

    「ごほん、じゃあ、ええと・・・・・・自己紹介のやり直し、というか。ごめん。言い方、刺々しかった、と・・・・・・思う。葛城にも言われて・・・・・・色々考えたんだけど。私たちが、トップアイドルになるために。夢を叶えるために。私たち1年1組は、ちゃんとまとまってた方がいい。だから・・・・・・提案。」

    この流れには身に覚えがある。

    「これからは、クラス全員ニックネームで呼び合おう。」
    「距離の詰め方やーばいでしょ。」

    そんな他愛もない会話を楽しみながら、わたしは新たなこの世界で前向きに歩こうとしていた。

  • 15スレ主25/06/11(水) 19:03:19

    「そう言えば、咲季っちって新入生主席でしょ?もうスカウトとか来てるの?」
    「プロデューサーかぁ、あたしにもスカウトこないかナ〜。」

    「それよっ!!!」

    身の回りに色々な事が起こったせいで失念していた。プロデューサーがスカウトに来ていない。入学式の日にスカウトに来るはずだったが、おそらくわたしが休んだことで前の世界と変わってしまったのだろう。

    「わたし、用事できたから先に失礼するわ!それじゃ!」
    「ちょ、咲季っち!?急にどしたの!?」

    急いでカバンを持ち、教室を飛び出る。1組のみんなとの繋がりは消えても、決してやり直せない訳じゃない。だから、プロデューサーともう一度・・・・・・一緒に!

    「いつもならこの時間なら事務所に・・・・・・あっ!」

    そこには事務所に入るプロデューサーの背中があった。胸の高鳴りに身を任せて走り出す。プロデューサーをスカウトするなんて、これじゃあ立場が逆になってしまう。そんな浮かれた気持ちを胸に事務所の扉に手をかける。

    「プロデューサー!」

    「あなたは・・・・・・」

    驚いた表情を見るのは初めてかもしれない、なんて思ったのも束の間。プロデューサーの背後にいた、ある人物に目が移る。よく見覚えのある、どころの話じゃない。だって、生まれてからずっと一緒に過ごしてきたのだから。

    「お姉ちゃん?」

    そこにはわたしの妹、花海佑芽がいた。

  • 16スレ主25/06/11(水) 19:05:14

    ひとまずここまでです。ぼちぼち上げていきますが、もしスレが落ちそうになったら保守してもらえると助かります。

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 19:09:42

    非常に期待

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 19:14:39

    あのSSの主だったか...
    前作もとても楽しませて貰ったから今回も期待してます

  • 19スレ主25/06/11(水) 21:42:53

    「お姉ちゃん?」
    「どうして・・・・・・あなたがいるの、佑芽。」

    「それはこっちのセリフだよ?あ、もしかしてあたしのプロデューサーが気になって来たの?」
    「佑芽の、プロデューサー?」

    言っていることは分かる。なのに、分かりたくなど、ない。

    「そんなの・・・・・・聞いてないわ。冗談でしょう?だって、プロデューサーは・・・・・・」

    わたしのプロデューサーになるはずなのに。

    「冗談じゃないよっ!今朝も言ったでしょ?プロデューサーに入学式の日にスカウトされたって。」

    入学式の日・・・・・・その日にスカウトされるのはわたしで、佑芽にプロデューサーはいなかった。なのに・・・・・・

    「はじめまして、花海さん。あなたの妹、花海佑芽さんを担当することになりました。」

    そこからはよく覚えていない。

    わたしはかろうじて残っていた理性を保ち、心ない言葉を並べてその場から去った。まともに取り繕うことができず、妹の顔も見れないまま。

    その日、一晩もの間、空を眺めて泣いた。

  • 20スレ主25/06/11(水) 21:43:54

    それ以来、学校では窓の外を眺めて一日が過ぎるのを待つ。そんな怠惰な日々を送っていた。

    レッスンは、生まれて初めてのサボりをした。

    学園の外を出て街を歩き、今まで我慢していたことをやり始めた。ゲームセンターでかわいいぬいぐるみを取ったり、ホームランを狙ったり、レースゲームをした。

    普段は食べないスイーツやご飯も食べた。糖分やカロリーを考えずに食事するのはいつぶりだろうか。ジャンクフードはあまり口に合わなかったが、セットについていたシェイクはとても美味しかった。

    自室に帰ると、食べた物を戻すようになった。胃が受け付けないのもあっただろう。だが、それ以上に、自分の心がゆっくりと蝕まれるように腐っていくのが、耐えられなかった。

    0時。寮も静かになり、普段ならとっくに寝ている時間だけど、眠れない。1人でいる時間が長く感じる。ふと思う。あれはわたしが見た幻想だっただろうか。
    プロデューサーと共にトップアイドルを目指したあの世界は幻に過ぎないのではないか、と。

    目を瞑る。目が覚めたら悪夢から覚めていますように。そんな願いを込めて。

  • 21スレ主25/06/12(木) 04:43:09

    「ちょっといい?」

    教室でうたた寝をしていると声をかけられた。その声の主は、月村手毬だった。

    「なんの用かしら。」
    「・・・・・・あのさぁ、レッスンも出ずに授業も寝てばかり、全部あんたの勝手だけど、やる気ないなら学園を辞めれば?」
    「それも・・・・・・そうね。」

    返す言葉もない。この学園にわざわざいる必要もないのかもしれない。

    「毎年いるんだよね。軽い気持ちで入って、練習がキツいから辞める奴。私の足を引っ張らないでくれる?」
    「ちょ、ちょっと!2人とも何してんのさ!」

    騒ぎを聞きつけたのか、清夏やリーリヤ、ことねなど数人が仲裁に入る。

    「手毬、言って良いことと悪いことあるでしょ。いくらなんでも言い過ぎ。」
    「だってこいつは・・・・・・!」

    「全部、手毬の言うとおりよ。」
    「さ、咲季ちゃん・・・・・・?」
    「・・・・・・ごめんなさい。」

    みんなの間を通り、呼び止める声から逃げるように教室を出る。みんなの顔が忘れられない。わたししか知らない思い出に、重なることのないものだった。

  • 22スレ主25/06/12(木) 04:44:09

    休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。とうとう授業もサボってしまった。流石のわたしも良心の呵責を感じるが、今更教室に戻る気にもなれず静かな廊下を歩く。

    「どうせなら、最後に色々見て回ろうかしら。」

    そんなことを思いながら歩いていると、いつの間にか事務所の前に着いてしまった。無意識でここまで来てしまったのだろうか。そんな自分に呆れながら中に入る。

    事務所の中は記憶にある景色とさほど変わりなかった。プロデューサーの机には書類があって、その横にお気に入りのマグカップが置いてある。きっと、佑芽の為の書類だろう。

    「プロデューサーになら、佑芽を任せられるわね。」

    わたしが知っているプロデューサーは、この上なく頼りになる。最愛の妹を任せるなら誰よりも相応しいと、心から思える。

    物思いにふけっていると、突然事務所の扉が開かれる。

  • 23スレ主25/06/12(木) 06:51:22

    「おや、こんなところで何をしているんですか?」
    「プロデューサー?どうしてここに・・・・・・」
    「ええと、恥ずかしながら授業に使う教科書をこちらに忘れてしまい、取りに来たんです。」

    プロデューサーが忘れ物する姿は見たことがなかったので意外だった。

    「それで、花海さんはどうしてここに?今は授業の時間ですが。」
    「それは・・・・・・」

    適当な言い訳も言えず、かといってサボりと打ち明ける気にもならなかった。

    「・・・・・・俺でよければ、話聞きましょうか?」
    「え?」
    「花海さん、いえ、佑芽さんに最近あなたの様子がおかしいと相談されて、心配していたんです。もしよければ、俺が力になりますよ。」

    「でもあなた、授業は・・・・・・」
    「お互い様でしょう。どのみち叱られますし、それならあなたと話したい。」

    久々にプロデューサーと2人きりで会話できるなんて思ってもみなかった展開に驚きつつも、心の中は喜びで溢れていた。

  • 24スレ主25/06/12(木) 06:54:21

    今日の夜くらいに更新する予定です。
    あと反応もらえるとスレ主が喜びます。

  • 25二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 07:27:49

    敵でいて欲しくない人が敵になって、1年A組の子たちとの関係もリセットされ、アイドルのレッスンすらサボる…。咲季の居場所は一体どこにあるんだ〜!?
    アイドルになる前から破滅しかけてるよぉ

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 12:34:34

    ほしゅ
    今日はこれ楽しみに生きてます

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 18:51:57

    ほしゅ

  • 28スレ主25/06/12(木) 20:25:08

    プロデューサーは嫌な顔一つせず、他愛もないわたしの話を聞いてくれた。最近食べたスイーツが美味しかったこと。寝れない夜が続き、睡眠不足なこと。友達と、喧嘩してしまったことを。

    「そう言えば、佑芽とは上手くいってるかしら。」
    「佑芽さんですか?」
    「あの子はドジでおっちょこちょいだけど、あなたの夢を叶える、そんなアイドルになるわ。1番近くで見てきたわたしが保証する。だから、あの子を・・・・・・支えてあげてほしい。」

    この気持ちは嘘じゃない。だけど、本音でもない。本当は恥も尊厳も放り捨てて、プロデューサーに泣きつきたい。わたしを1人にしないで、と。

    「・・・・・・佑芽さんの、いや、俺たちの目標はあなたです。だから『定期公演』、この舞台で俺たちと勝負してください。」

    もしかしたら、この時のためにわたしは戻ったのだろうか。佑芽と戦い、敗れ、背中を押すために。

  • 29スレ主25/06/12(木) 20:27:35

    「そう、ね。その勝負受けて立つわ。」
    「ありがとうございます。それと、いつでもこの事務所にきてください。俺が相談に乗りますから。」

    「どうして、わたしに優しくするの?」
    「佑芽さんとの対決に、万全な状態でいて欲しいからです。あなたが超える壁として強ければ強いほどいい。」

    「ふふっ、そこは嘘でもわたしの為って言いなさいよ。」
    「すみません。ですが、これが俺の本心です。それに、今のあなたは、あなたらしくないように思います。完璧な花海咲季を倒してこそ、佑芽さんの為になると信じていますから。」

    担当アイドルのために全てを尽くすプロデューサーらしい答えだ。

    「さて、俺はそろそろ戻りますが・・・・・・花海さんは?」
    「わたしもそうするわ。話を聞いてくれてありがと。おかげですっきりしたわ。」

    嘘だ。久々に2人きりで話ができたのだ。もっと話したい。笑い合いたい。一緒に・・・・・・いたい。でも、それは叶わない。

    「それは良かった。では、これで──」
    「・・・・・・プロデューサー。お願いが一つあるの。」
    「なんでしょうか?」
    「わたしのことは、咲季って呼んで。名字だとややこしいでしょう。」
    「そうですね。では、咲季さん。次は『定期公演』で。」

    プロデューサーはそう言い、事務所を去った。

    「我ながら、ちょろいわね。」

    久々にプロデューサーと話すことができて、咲季さん、と呼んでもらえた。それだけで随分と気が楽になった。

    わたしに出来るのは、『定期公演』で佑芽に負けて、この学園を去る。それだけだ。

  • 30スレ主25/06/12(木) 21:36:20

    その後教室に戻り、先生にはこっぴどく叱られた。清夏たちはわたしのことを心配してくれて、お昼を一緒に食べた。それからは、定期公演に向けて少しずつレッスンに出るようになったが、手毬とは一言も交わさないまま、数日が過ぎていった。

    「咲季っちってダンスも歌もめっちゃ上手くない?高校から始めたとは思えないんだけど!」
    「え?」
    「それナー。レッスン休んでたのにそんだけ踊れるの反則でしょ。」

    あの世界でわたしは佑芽に勝利し、『N.I.A』で優勝をした。どれだけ最高のレッスンをしても、成長が微々たるものにしか感じられなかったが、確かにわたしは変わっていたようだ。
    なんだか自分だけズルをしているような気がしてきて後ろめたさを感じる。

    「・・・・・・今日は調子が良かっただけよ。」

    そんな出来の悪い言い訳をして、はぐらかしていた。それからはレッスンで意識して手を抜くようになった。周りで真剣にトップアイドルを目指すみんなに悪いと思いつつも、今更頑張れる気にはなれなかった。

    そんな日々も終わりを告げる。
    約束の『定期公演』の日がやってきた。

  • 31スレ主25/06/12(木) 22:32:12

    順番は公演のラストを飾るトリだった。これがわたしの最後のステージとなる。

    「お姉ちゃんっ!とうとうこの日がやってきたね。」
    「佑芽・・・・・・」

    「今日の勝負、あたしが絶対に!勝ってみせる!」
    「そう・・・・・・望むところよ。佑芽、全力でかかってきなさい!」
    「うんっ!」

    佑芽は元気よく頷き、まだ順番は先なのに走っていってしまう。そんな妹の背中を見つめながら、わたしはただ呆然と立ち尽くしていた。こんな時プロデューサーがいれば、心細い思いをしなくて済むのに。すると、突然肩を軽く触られた。

    「咲季さん、大丈夫ですか?」
    「なっ!?びっくりしたじゃない!」
    「すみません。ですが、いくら呼びかけても無反応だったので。」
    「そうだったの・・・・・・ごめんなさい、気が付かなくて。えっと、もしかして・・・・・・」

    わたしに逢いにきてくれた?なんて妄想をしてしまう。そんなこと、あるわけがないのに。きっと、本番前に佑芽に会いにきたのだろう。

  • 32スレ主25/06/12(木) 23:04:45

    「・・・・・・佑芽なら舞台の方へ向かったわ。まだ、出番まで時間はあるし話せると思うわ。」
    「いえ、俺は咲季さんと話がしたくて来ました。」
    「え?」

    「佑芽さんにはすでに、大事なことは伝えているので大丈夫です。咲季さんにも話しておきたいことがありまして、本番前ですがよろしいですか?」
    「え、ええ。それで、話って?」

    「以前、事務所で話した時によく知らないのに、咲季さんのことをあなたらしくない。そう言いましたが、あれは間違いでした。」
    「間違い・・・・・・?」

    「佑芽さんがあなたは努力家で、一度も勝てないほど勝負強く、妹思いで自慢の姉だと話していました。でも、そうじゃない咲季さんもいるのでは、と思いました。妹の前では出せない悩みや苦しみ、弱さを見せてくれた気がして。」

    図星だった。スカウトされたあの日と同じように、わたしのことを理解してくれたプロデューサー。今のわたしに優しく救いの手を差し伸べてくれる。そんな気がしたのも束の間。

    「ですが、その上で改めて言います。咲季さんに諦める姿は似合わない。」

    その瞬間、前のプロデューサーとの会話を思い出す。

  • 33スレ主25/06/12(木) 23:06:59

    『いいから聞かせて。絶対に負けられない勝負に負けて・・・・・・倒れて起き上がれなくなった花海咲季を。・・・・・・あなたは、助けてくれる?』

    『勝手に復活するでしょう?』
    『は、はあ〜?』
    『不屈のアイドル・花海咲季は、そこからが強く恐ろしい。』
    『・・・・・・二度と立ち上がれないって・・・・・・言ってるでしょ・・・・・・』

    『立てないのなら這ってでも進むのが花海咲季です。武器が折れようと、魂が砕けようと、そのまま闘うのが花海咲季です。』

    ────────────────────────

    「・・・・・・あなたの目に、わたしはどう映っているのかしら。」

    この学園を去る覚悟をしたはずなのに。人生をかけた選択が、プロデューサーの一言で揺れ動いてしまう。それでも、答えは変わらない。

    「咲季さん?」
    「ごめんなさい。本番に向けて集中したいから、1人にしてもらえる?」

    取り繕うこともせず、プロデューサーに拒絶の意志をぶつける。

    「・・・・・・分かりました。本番直前にすみませんでした。」

    プロデューサーが去り、再び1人になる。これで良かったのだと、自身の心に言い聞かせる。

  • 34スレ主25/06/12(木) 23:09:23

    続きはまた明日出す予定です。保守してくれたありがとうございます。感想もめっちゃ嬉しいです!今後も楽しみにしてください。

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:29:03

    ハッピーエンドじゃないって言われてるのが怖すぎるな...
    かなり大作っぽいからのんびり待ってます

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:54:52

    まーた安直な曇らせかよって思ったら丁寧で重すぎる
    こんなの日常が曇らせだったろ

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 03:25:20

    咲季の親愛度やった後に、佑芽の親愛度やったときのあの感じがめっちゃいいですね!

  • 38スレ主25/06/13(金) 06:27:07

    佑芽の順番になり、ライブが始まる。『N.I.A』決勝の佑芽を見てるわたしには粗さが目につくが、プロデューサーがついたおかげか、記憶よりも成長の段階が早く、すでに今のわたしと大差ないパフォーマンスをしている。それが嬉しくもあり、同時に悲しくもある。

    ライブが終わり、多くはない観客からたくさんの拍手が送られる。きっとこれからも成長し続けて、背中が見えなくなるくらい先へと進んでいく。それを確信するライブだった。

    次はわたしの出番。人生最後のステージ。今のわたしじゃ本気でやっても佑芽に敵わないかもしれない。諦めて終わるつもりなのに、いつまで経っても心が落ち着かない。

    胸がざわつき、叫び出したい気持ちを押し殺してステージに上がる。曲が流れ始め、何百回も練習したこの歌を、ダンスを観客に伝える。

    これで最後だと諦めていた。そのはずだった。

    わたしの身体はわたしの意思に反して、喉を鳴らし、指先にまで神経を注ぎ、ステージを縦横無尽に掛け回り、全身が躍動する。

    上手く呼吸ができず、頭が回らない。それでも一つ、確かなことがある。わたししか知らない存在しない未来も、惰性で過ごした過去も、関係ない。

    今、この瞬間、花海咲季はここにいると証明する為に。



    気づいたら曲は終わっていた。意識がはっきりしないままステージを降りて舞台裏へと戻る。

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:37:39

    このレスは削除されています

  • 40スレ主25/06/13(金) 19:21:31

    審査が終わり、呼ばれたのはわたしの名前だった。
    ライブを終え、全てを出し尽くし、今にも倒れそうなわたしが踏みとどまれたのは、目の前にいた妹の存在だった。

    「・・・・・・やっぱり、お姉ちゃんはすごい。」
    「当然、でしょ?だって・・・・・・」

    妹を前にして何を言うべきか、その答えは一つしかない。どの世界だろうと、たとえわたしの運命が変わろうと、変わらないことがある。それは──

    「わたしは・・・・・・あなたのお姉ちゃんだもの。」
    「うん・・・・・・次こそは負けないからね!今日よりずっとすごいあたしになって、リベンジしてやるぅ!」
    「あらそ。ふふ、期待してるわ。」
    「べーっ!!」

    悔しそうな態度を隠さず佑芽は走り去ってしまった。その背中を見送り楽屋で1人になる。壁にもたれ掛かり、ずるずると腰を下ろす。

    「・・・・・・わたし、なにしてるんだろ。」

    生半可な覚悟ではなかった。これで終わりだと、そう決めていた。なのに、気づけばわたしは全力でステージで踊っていた。頭の中でプロデューサーの言葉が何度も繰り返される。

    「諦める姿は似合わない・・・・・・か。」

    プロデューサーはわたしを決して甘やかしたりしない。いつだって上を目指して、最善を尽くし、勝利へと進む。今のわたしとは正反対だ。

    今も泣き出したくなる。どうして、わたしがこんな目に遭わなくちゃいけないのかと、喚き散らして暴れそうになる。心の中はぐちゃぐちゃで自分でもよくわからない。足元がふらつき、楽屋で1人、わたしを支えてくれる人なんていない。それでも・・・・・・立ち上がる。自分でもこの感情がなんなのか、わからなくても。

    「だって、わたしは・・・・・・不屈のアイドル、花海咲季だから・・・・・・!」

    再び、花海咲季は歩き出した。たった1人で。

  • 41スレ主25/06/13(金) 19:30:42

    定期公演編は終わりです。ここまで読んで頂きありがとうございます。思った以上に綺麗に終わってしまいました。
    N.I.A編も書くつもりですが長くなる気がするので、ご了承ください。返信はできませんが、感想見てます!

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 22:22:49

    咲季は諦めても咲季の中にあるナニカが諦めないで立ちあがるの嬉しいけどどうなるんだ
    咲季には幸せになってほしいのに負けフラグが立ちまくってる

  • 43スレ主25/06/14(土) 04:33:28

    定期公演から数日、わたしは自主レッスンに励んでいた。あの日からレッスンで手を抜くことはなくなり、サボることもなくなった。これで元通りとはならず、睡眠不足もあり体調含め万全とはいかないが、心が腐るのを待つのに比べたら平気だった。

    今日も朝食を摂ったあと、レッスン室へと向かう。普段は授業終わりなどに利用する生徒も多いが、休日、それに朝となるとほとんどいない。前の記憶で既に把握していた。

    いつものように柔軟をしていると、謎の悪寒がした。実はここ数日、人に見られているような感覚があった。扉の方を振り向いても姿はないが、確かにそこにいる。再び柔軟をしながら、レッスン室の鏡張りの一面を見る。すると、青みがかった黒髪がひょこひょこ見え隠れしていた。

    すぐに、扉の方向へ走り出す。奥で驚いたのか物音がしたが、止まらずに扉を開ける。そこには、尻餅をつき、少し涙目の月村手毬がいた。

  • 44スレ主25/06/14(土) 04:34:45

    「あなた、覗きなんてしてなんのつもり。」
    「は?別に覗いてなんかないけど。レッスンしに来ただけだし。」

    尻餅をついたまま、その態度を貫くつもりなのだろうか。流石に可哀想なので涙には触れないでおく。

    「それなら、別の部屋使えばいいでしょう。朝なんて空いてる部屋いくらでもあるでしょう。」
    「そ、それは・・・・・・!ここはいつも使ってるレッスン室だからここが良かったのっ!」
    「嘘をついても無駄よ。あんたがいつも使ってるのは2つ隣のレッスン室でしょ。」
    「・・・・・・っ!?なんで、それを!?じゃなくてっ!あぁ、もうっ!」

    不貞腐れたように手毬が立ち上がる。前の記憶の知識で手毬の性格や行動はわかっているので、ここに来た理由もある程度察しがついていた。

  • 45スレ主25/06/14(土) 04:35:54

    「手毬。」
    「な、なに。なんか文句でも・・・・・・」
    「ごめんなさい。」
    「え・・・・・・?」

    「あの時のわたしはどうかしていた。誰の目から見ても酷かったと思う。それに、手毬が声をかけてくれた日、わたしが逃げたせいでクラスで少し孤立してしまったでしょう?」

    あの日、わたしに非があったとはいえ、手毬の言葉を聞いた新入生組のクラスメイトは、いい顔をしなかった。

    「本当に、ごめんなさい。」
    「その・・・・・・言ったことは今でも間違ってないと、思ってる。けど、別のことでイライラしてて、あなたに当たった部分もあるから。私も、ごめんなさい。」
    「もう気にしてないわ。だから、仲直りしましょう。」

    手毬に向けて手を差し出す。前と違い、順調とは言えないが、それでも友達に戻れる。そう思っていた。

  • 46スレ主25/06/14(土) 04:37:15

    「いや、仲直りするほど仲良くなかったでしょ。」
    「・・・・・・は?はぁ〜〜〜!?」
    「そもそもあなたと友達どころか、まともに喋ったことないし。」
    「あ、あなた、こーゆー時くらい空気読みなさいよっ!」
    「な、なんで私がそんなこと・・・・・・そもそもあなたが自分が悪いって言ってたでしょ!」

    「それでも普通ここで握手断る!?大体、ここ数日付けてきてたのあなたでしょう?バレバレなのよっ!それに教室でもわたしのこと見過ぎよ!」
    「見てないし!そ、そんなの知らないっ!私じゃないっ!!」

    朝から廊下中に響き渡る勢いで喧嘩する2人。その様子を見ていた3人がいた。

    「あいつら、朝からほんっと元気だよなー。」
    「あれ、止めなくていいんですか?」
    「ま、あれくらいなら大丈夫っしょ・・・・・・多分。」

    その後ことね達が仲裁に入るまで、そう時間はかからなかかった。

  • 47スレ主25/06/14(土) 09:34:44

    「結局、咲季はなんで急にレッスンし始めたの?」
    「さぁ、なんでかしらね。わたしが聞きたいくらい。」
    「そんなこと言って、またサボったりするつもり?」

    「しないわよ!・・・・・・次はもう、そんなことにならないから。」
    「あっそう。クラスに迷惑かけるのだけはやめてね。」
    「それ、手毬が言うの?」
    「は?私が何したって言うの。」
    「今回は清夏たちが誤解解いてくれたからなんとかなったけど、お前ら2人のせいでクラスの雰囲気最悪だったんだからなー。」
    「うっ・・・・・・そのことは悪かったと、思ってる。」
    「同じく、迷惑かけてごめんなさい。」

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 09:36:11

    ほしゅ
    状況としては好転していってるのがここからハッピーエンドじゃない方に転がっていくのか...って気持ちになって見ててドキドキする

  • 49スレ主25/06/14(土) 09:36:20

    あの後、清夏たちが同じ新入生組の子たちに事の経緯と仲直りした事実を伝えたことで、ようやくクラスがまとまりそうにあった。

    「それで、質問変えるけどさぁ。咲季はなんでアイドルになったの?」
    「好きだね、その話。」
    「はいはい。それじゃあ手毬ちゃんはどうしてアイドルになったんデスかー?」

    「言うわけないでしょ。それより歌教えてほしいって言ったのあなたたちでしょう。それに、ことねが1番下手なんだからやることあるよね?」
    「それもそうね。レッスン再開しましょ。ほら、ことね、早く準備しなさい。」
    「なんかあたしが怒られてる!?納得いかねー!!」

    前とは少し違う。でも、変わらないものがある。そんな日々を過ごしていた。

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 12:38:48

    咲季お姉ちゃんが辛いのつれええ、今までの思い出が無かったことになってパートナーすらいねえの地獄だろ

  • 51スレ主25/06/14(土) 19:30:17

    それは昼休みの合間、教室の雑談の話題の一つだった。

    「みんなって『NEXT LDOL AUDITION』に参加すんの?」
    「あの極月学園と共同主催のやつでしょ。私は参加するよ。むしろ出ないつもり?随分余裕だね。」
    「あたしも参加するよ。だって、こんなチャンス中々ないし!つーか、これで一躍トップアイドルになるのだって夢じゃないっ!」
    「わ、わたしも・・・・・・実力不足かもしれないけど・・・・・・やりたい!」
    「それじゃあたしもやるしかないかー。これからみんなとはライバルだね!」

    「咲季はどうすんの?花海妹とかこーゆーの好きそうじゃん。」

    前の世界でわたしと佑芽は『FINALE』まで勝ち抜き、闘い、そしてわたしが勝利した。だが、それはわたししか知らない幻に過ぎず、今の佑芽はプロデューサーがついたおかげか見違えるほど成長していた。

    今もあの時の選択が正しかったのか、わからないままでいる。弱音を隠して、必死に虚勢を張り、妹に怯える日々。こんなボロボロの状態で次は、立ち向かうことができるだろうか。そんなことばかり考えてしまう。

    「・・・・・・もちろん、参加するわ。佑芽を倒してわたしが1番ってことを証明してみせる!」

    わからないまま、先の見えない道を進む。未来なんて誰にもわからない。それが、こんなに恐ろしいことだとは知らなかった。きっと、あなたが隣にいたから、わたしは迷わずに歩くことができた。

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