- 1◆nEf9Wudj4y/s25/06/12(木) 23:08:52
枕に染み込んだ寝汗。ふわふわの布団すら煩わしく感じる暑苦しさ。そして冴え切った目。悪夢を見ていたのだろうという状況証拠は十分に集まっていた。
どんな夢かははっきりと覚えていないが、どんな内容かは大体想像がついた。きっと、”誰か”が楽しく走り楽しく生きる私を激しく責め立てていたのだろう。克服したと思っていたが、今でも時々”誰か”が夢に化けて出てくる。普段なら悪夢を見ても朝の目覚めが悪くなるだけで済むが、今日は少し様子が違った。夢の内容を全く思い出せないのだ。
思い出せないことを考えてもしょうがない、さっさと寝ようと思い寝返りをうつと、月明かりが差し込んでいるのに気が付いた。カレンさんがカーテンを閉め忘れたのかと思いベッドから起き上がると、微かに風を感じた。観音開きの窓の、私の側だけが開いていた。
おかしい。彼女が共用の部屋のカーテンを開けたまま寝るなんて迷惑なことをするはずがない。そもそも今日は一緒に寝たので、どちらかがすぐに気が付くはずだ。
泥棒。その線はない。窓の鍵が開いているし、ガラスも綺麗なままだ。ドアも鍵がかかっているから、寮長以外が入ることはない。
心当たりは一つしかなかった。ものを言えずに散っていった、私の双子の妹。昔は山の上で星に祈りを捧げれば彼女の存在を感じることができたが、今は一切通じ合うことができていない。私の誕生日に買ってくるケーキも、食べてはくれない。
そんなあの娘にまた会えるかもしれない。そう思うと居てもたってもいられず、簡易望遠鏡を取り出し、窓の外を覗いた。今は夏真っ盛り、ふたご座など見えるはずもないが、一縷の望みに賭けて望遠鏡を覗き込んだ。 - 2◆nEf9Wudj4y/s25/06/12(木) 23:10:04
シリウス、アルデバラン、ベテルギウス、プロキオン。明るい星々が夜空を彩っていた。冬の空だった。もしかして、と思いシリウス、プロキオンの先を覗いてみた。ふたご座の一等星がはっきりと輝いていた。不気味だった。ポルックスがぽっかりと消え失せていた。
多分、これこそが悪い夢なのだろう。起きたらきっとこのことは全部忘れて、気怠さだけが残される。そう思い窓とカーテンを締め、ベッドに向かった。ふとベッドの上にお菓子のゴミが残されているのを見つけた。カレンさんからお裾分けされたマシュマロ。お腹がすいていないからと明日にとっておいたのだった。食べた覚えはなかったが、不思議と誰が食べたかは何となく想像はついた。
「次からはマシュマロにしなきゃね」
ついひとり言が零れた。ベッドに向かうと、ベッドも枕も、綺麗に整っていた。
次の晩、いつも通り天体観測をすると、予想通り夏の星空に戻っていた。直接は見ずとも、太陽の向こう側のポルックスも元に戻っているだろう。彼女らしくない、根拠の確信がそこにあった。 - 3◆nEf9Wudj4y/s25/06/12(木) 23:11:25
おしまい
最近暑いですね、寝る時もエアコンをかけてしまいます - 4二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:28:16
こういうホラー感のないちょっと不思議なオカルト話好き
- 5二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:32:49
ありがとうございます。イモべちゃんはいい娘ですからね。
- 6二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:35:20
乙
悪夢を食べて、口直しにマシュマロ食べたんかな? - 7◆nEf9Wudj4y/s25/06/12(木) 23:38:46
ありがとうございます。案外つまみ食いしたかっただけなのかもしれません。