- 1二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 19:57:33
- 2二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 19:59:36
「なーなー、今向かってるキャンプ地にあるらしい人魚伝説って知ってる?」
掛けてもいないメガネをクイッと持ち上げる仕草と共に、助手席の乙夜影汰が後部座席の三人に振り返りそう切り出した。
コンパクトミニバンの窓の外からは夕焼けの眩しい橙色が差し込み、彼の髪の銀色の部分と、左端に座る凪誠士郎の真っ白な頭髪をギラギラと彩っている。
右端に位置取る烏旅人が口を開こうとするよりも早く、真ん中に挟まれた御影玲王が「人魚伝説?」と小首を傾げた。
「そう。人魚伝説。なんかね、最近再開したキャンプ地がそもそも何十年も閉鎖することになった理由ってのがそれらしーよ。俺もさっきの道の駅でユリちゃんに軽く聞いただけで、詳しいことはよくわかんないけど」
「ユリちゃん誰やねん」
「レジにいたじゃんカワイイ子」
「お前、あのどう見ても80超えとる婆さんから短時間で名前と噂話聞き出した挙句にちゃん付けで呼んどるんか……」
会話の合いの手を引き継いだ烏が「ようやるわ」と呆れた表情を浮かべた。
女好きの乙夜はコロコロと女の趣味も変わるから、今日はきっとかなりの歳上を口説きたい気分だったのだろう。
水分補給のためにと謎の銘柄の瓶飲料を買った烏には無愛想な接客だった割に、あの仏頂面の老婆ことユリちゃんも『女』だったということか。 - 3二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:01:18
「……で、人魚伝説は?」
逸れかけた話を凪が連れ戻す。
ずっとスマホゲームに集中しているように見えて、意外と周りの話は聞いている男だ。
玲王が興味を示したから、というのもあるだろうが。
「そうだった。えっとね、俺らが今向かってる旧『霧摘(きりつみ)村』にある人魚伝説ってのが──」
──滔々と語られた伝説の内容をまとめるとこうだ。
昔昔のそのまた昔。霧摘村がまだ頭に旧と付く廃村になっていなかった頃、ひどい飢饉に見舞われた。
原因は虫害だったり悪天候だったり現代に伝わるまでの間にレパートリーが増えてしまい、どれが真実なのかとんとわからないとか。
とはいえ重要なのは田畑が荒れ果て村人たちにその日食べるものさえ無くなってしまったということ。
農業で暮らしてきた村だ。売るものが無ければ金は手に入れられない。食料を買うこともできない。まして自分たちで食べる分の農作物さえ災害によって奪われてしまった。
助け合って生きていこうと麗しいことを口にできたのは最初の数日だけだ。
沈んだ太陽が新しく登るごと、村人たちは次第に窶れ、痩せ衰え、瞳ばかりが妖しく剣呑な光を灯すようになった。
このままでは誰か一人が火蓋を切って落とした瞬間に互いに殺し合うことになるだろう。
僅かばかりの金品を、あるいは肉そのものを求めて。
そんな予感が殺気めいて村民らの間に張り詰めていった。 - 4二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:03:18
だが。天は村人に味方をした。
あくる日の晩、一人の旅の女が宿を求めて霧摘村にやって来たのだ。
霧深く、空には煌々と満月の輝く、美しい夜だった。
そんな夜に相応しい綺麗な娘が、ぴかぴかの着物を纏って大きな籠を背負い、その中からたくさんの金銀財宝を差し出しこう言った。
「私はこの霧摘村の外れにある月華(げっか)湖に住む人魚です。あなた達が大変な目に遭っているのを見ていてもたってもいられず、こうして恵みを差し上げに参りました」。
人ならざる女の善意と恵みによって村人達は飢えて死ぬ前に離れた場所にある他の村から食料を買うことができ、以後、村人たちは人魚の女に感謝を込めて、毎年女が恵みをもたらした日と同じ霧深い満月の夜に月華湖へと供物を捧げるようになったという。 - 5二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:06:58
「……なんや、いきなり出て来た人魚があっさり全部解決していったな」
「嘘くさーい」
「まあ、地方にある伝説なんて大体こんなもんだろ!」
乙夜がユリちゃんから聞いたという人魚伝説のあらましを聞き、三者三様にあまり響いていないリアクションをとった。
乙夜も自分で話していてご都合主義がすぎると思ったのか、唇を3の形に尖らせて「だよなー」と同意する。
ツッコミどころを挙げればキリは無い。さりとて伝説にリアリティがあるほうが珍しいのだ。
「っていうかさー、何でそんなハッピーエンドの伝説でキャンプ地ずっと閉鎖してたの?」
「確かに。霧摘村近くのキャンプ地がずっと閉鎖してたのって、確か怪事件が長年起こり続けたからだろ?」 - 6スレ主25/06/15(日) 20:10:25
すまん投下ついでに書いてある分の続き読み返してたら矛盾点を見つけたからちょっと修正に入るわ
10まで適当にレスして埋めておいてくれ - 7二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:13:12
がっつり地の文のある小説だ!
すでに上手くて楽しみだしメンツも好きなコンビ×2でありがたや - 8二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:13:32
とても楽しみ
ミニバンって出てきたから成人設定かと思ったら助手席と後部座席三人だからタクシーとかに乗ってるのか - 9二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:14:58
ユリちゃん(80歳超え)を口説くの流石すぎるわ乙夜
- 10二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:17:05
タイトルと人魚伝説とキャンプ地と湖のワードでもうワクワクしてる日本産ホラー好き
- 11二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:19:00
田畑が荒れた原因さえ複数のパターン分裂している人魚伝説ならこれが正式なやつではなくて他の部分も昔の言い伝えから変わってるのかもな
- 12二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:21:26
人魚といえば八尾比丘尼とか飢饉のイメージあるけどどんな話になるのか楽しみスレ主がんばれー
- 13二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:44:25
暗に「人魚伝説とかキャンプ地の閉鎖理由に関係なくね?」と言ってくる二人に、追加で話を続けようとした乙夜の出番を運転手がいきなり持って行った。
「伝説では無償で恵みをもたらしてくれた心優しい人魚様が、いつしか村に災いをもたらすようになったんだ」
「ほぉ。心変わりの激しいこっちゃ」
「そもそも感謝の供物を捧げるようになったのも、月華湖から夜な夜な聞こえる人魚の歌声に誘われて入水する村人が相次いだからで……最初は何も捧げてなかったらしいよ」
「ずいぶん恩知らずだな。っていうか後藤さん、何でそんなに詳しいの?」
「祖父母が霧摘村の出身なんだ。今はもう二人とも死んでしまったけどね」
そう言って頬を掻くミニバンの運転手である後藤は、齢40から50と思われる白髪混じりで中肉中背の男だ。
顔は人を見惚れさせるほど美しくも人に見下させるほど醜くもない、いわゆるフツメンで、全体的にこれといったチャームポイントも無い。
初対面から歳下の四人にタメ口でいいよと笑いかけてくるなど性格も穏やかで、良くも悪くも個性の塊しかいないブルーロックではなかなかお目にかからない人種だ。 - 14二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 21:46:30
無実だったら申し訳ないけど滅んだ村の生き残りってだけで運転手怪しく感じる
- 15二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 21:49:49
開幕のコンビニのユリちゃんからもう怖い
このまま運転手不明で進んだらどうしようとか思ってたから登場してくれてよかった - 16二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 22:23:31
途中で寄ったのが道の駅で働いてるのがかなりのお婆ちゃんってことは恐らく田舎なんだよな
そこから更にミニバンで田舎のほうに進んでるならこれ運転手が怪しい人物だった場合ヤバそう - 17二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 22:56:42
ホラースレって迂闊に先の展開を予想すると万が一当たっていた時に申し訳ないから何も考えずにただハラハラしておくぜ!
- 18二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 23:23:09
確かに「この考察は当たってる自信あるな」って予想ほどレスせず胸に留めることは多々ある
- 19二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 00:57:23
pixivで⚪︎⚪︎ホラー系漁って生きてきたオタクだからブルロはホラー小説あんまり流行ってなくて寂しかったんだサンキュースレ主
- 20二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 02:53:16
ホラーSSは健康にいいって古事記にも書いてた
完走願う