- 1二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:24:20
目を開けたら、木陰にいた。
涼やかな風、ざわざわと擦れる草木の音、遠くから聞こえてくる喧騒。
ぼーっとしている頭はどうにも鈍く、しばらくして横になっていることに気づいた。
はて、トレーニングを見ていたはずなのだけれど────。
「……“AWAK”? トレーナー、体調は“ART”?」
ひょこっと眼前に現れる、一人の少女の顔。
金髪の長い髪、透き通るような青い瞳、どこか浮世離れした雰囲気。
心配そうな表情を浮かべる彼女に対して、俺はその名前を読んだ。
「……ネオ?」
担当ウマ娘のネオユニヴァースは、その言葉を聞いてほっとため息をついた。
「『よかった』……何があったか、“記録”は出来ている?」
「いや、キミのトレーニングを見ていたことは覚えてるんだけど、えっと」
話しながら、何とか記憶を呼び起こす。
この時期にしては珍しい暑さの中、ユニヴァースの走る姿を見ていた。
彼女は比較的暑さに強いタイプとはいえ、水分補給や休憩時間には気を遣わなくてはいけない。
そう思っていると、急に頭がふらついて来て、立っていることもおぼつかなくなって。
「もしかして、俺、倒れたのか」
「…………アファーマティブ」 - 2二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:25:24
その時のことを思い出したのか、ユニヴァースは苦しそうな表情でこくりと頷いた。
ああ、なんということだ。
担当に気を遣う、なんて考えておきながら、自分が倒れてしまうだなんて。
時計は見ていないが、本来ならば、まだトレーニングをしていなければいけない時間だろう。
つまるところ、俺はトレーナーでありながら、彼女に心配をかけるだけでなくトレーニングの邪魔をしてしまったのだ。
「申し訳ない、すぐに……ってうわ!?」
謝罪をしなくては、と思った刹那、額にひんやりとした冷たい感触が襲った。
微かに滴る水滴、そこにあったのはウォーターボトル、そして真剣な表情のユニヴァース。
「まずは『水分補給』、“NaCl”も忘れずに」
「あ、ああ、ありがとう」
ユニヴァースに言われてから、喉がカラカラなことに気づいた。
そんなことよりトレーニング、と言いたいところだがまた倒れてしまったら元も子もない。
ストローから喉に流し込まれる水分、そして微かに感じる塩味。
飲んでいく毎に身体に潤いが満ちていき、ぼーっとしていた思考がクリアになっていく。
…………あれ、そういえばこのボトルって誰のなんだろ。 - 3二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:26:36
「……『間接ちゅー』」
「ぶっ!? ごほ、ごほ!?」
「“JOKE”……ふふ、ネオユニヴァースの分はちゃんとここに“存在”しているよ」
「そ、そっか、それは良かった」
ユニヴァースは口元を押さえて、クスクスと笑みを浮かべる。
心配そうでも、悲しそうでもない、彼女の笑顔。
それを見ていると、なんとなく俺も釣られて口元が緩んでしまった。
まずは彼女の言う通り、しっかりと水分補給をしてからトレーニングを再開するとしよう。
そしてボトルの中の水を飲み干して、今更ながら、ふと思う。
後頭部の、柔らかくて妙に弾力性のある感触。
少なくとも地面のそれではない、とすれば、俺は何を枕にしているのだろうか。
そう思いながら、今の状況から俺と彼女の位置関係を想像して────血の気が引く。
俺が、彼女の太腿と枕にしているのだと、気づいてしまったから。
「ごっ、ごめん、すぐに起きるから……! って、あ、あれ?」
慌てて身を起こそうとするも、起こせない。
それもそのはず、ユニヴァースの両手が、起きようとする俺の身体を押さえているからだ。
「……ネガティブ」
ユニヴァースは首を左右にすると、静かに顔を近づけてきた。
彼女の少し幼さを残す綺麗な顔立ちが、息がかかりそうなほどの距離まで迫る。
思わず頬が熱くなってしまうそうだが、何故か、目を逸らすことが出来なかった。 - 4二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:27:44
「目の下に隈を“発見”、“LSLE”かな? 疲労が“チャンドラセカール限界”に達していたのかも」
「いやでも、キミのトレーニングの方が」
「…………メニューの“REVS”は常時“可能”、でもトレーナーが“NIZR”したら“不可能”になる」
「それは」
「だから、ネオユニヴァースは『お休み』を“推奨”するよ…………ダメ、かな?」
「……」
「……ダメなら、保健室まで“運搬”する、“ビギーバック”か『お姫様抱っこ』で」
「……それは、困るなあ」
俺は小さく息を吐きながら、苦笑いを浮かべた。
今回の件は全面的にこちらが悪い。
そして彼女の気遣いも、無下にしたくはない。
だから、しっかりと反省をしながらも、今日の所は彼女の言う通りにすることとした。
「それじゃあキミの言う通り休ませてもらうことにするよ、ありがとう、ネオ」
「うん、今日はここがトレーナーの“ハピタブルゾーン”……あっ、一つだけ“REQU”をしたい」
「ん? まあこんな状態で出来ることなら、手伝うけど」
「“THNK”、クラスで“受信”した噂があるんだ、こうすると“QOL”が『向上』するとか」
「急に胡散臭くなったね……まあ、キミがやりたいのなら」
「アファーマテゥブ、それじゃあ、“JAM”」
ユニヴァースは腕を背後に回して、何かをごそごそと動かし始めた。
そして俺の視界に戻って来た彼女の手には、金色の尻尾の先がぎゅっと握られている。
「“KICS”、目を閉じて」
少しばかり固い表情をしながら、彼女はそう言葉を紡ぐ。
俺が言われるがままに、ぎゅっと目を閉じた。
一秒、二秒、三秒。
何の変化もないまましばらくの時間が過ぎ、やがて、小さな深呼吸の音が聞こえてくる。 - 5二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:28:56
「すう、はあ……これは意外と“MIP”…………でも、それ以上に“マグネター”だね」
その言葉の直後、ふわりと、柔らかいものが瞼の上に乗った。
そして鼻先をくすぐる、甘く、清潔感のある爽やかな匂い。
柔らかくありながら、さらさらとしていて、ほんのりとした温もりも感じる。
「『尻尾アイマスク』…………その、トレーナーの、“RPRT”を聞きたい、かな」
感想を、聞かれてしまった
彼女としてみれば、色々と細かい意見などを聞きたいのかもしれない。
しかし、今の俺の状態では、言える感想なんて一つくらいしか残っていなかった。
「……気持ち良い、よ」
それが、正直な感想。
ハリのある膝枕、柔らかな尻尾のアイマスク。
その二つが合わさることによって、まるで無重力空間に浮いてるかのような心地になってしまう。
「“COMF”?」
「うん……上手くは言えないけど…………落ち着いて、眠たくなってくるような」
「…………えへへ、それはスフィーラだね」
ユニヴァースはぽそりと呟くと、さらさらと俺の頭を撫でてくる。
小さくて柔い彼女の指先が髪を梳いたり、手のひらが耳を覆ったりしながら。
そしてそうされていく毎に、身体が力が抜けていき、深く細く息を吐いて、思考が沈んでいった。 - 6二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:30:10
「『尻尾アイマスク』は“MYS”」
「……そう?」
「“実行”しているネオユニヴァースも『うれしい』になる、とっても『不思議』」
「…………そっか」
「“INTI”、だからもっともっと、“実験”したい」
瞼の上で、ユニヴァースの尻尾が楽しげに揺れる。
それはさすがに、ちょっとくすぐったかったけれども、幸せな気持ちになれた。
幸福感に包まれたまま、ゆっくりと、眠りに落ちていく。
「…………トレーナー、『おやすみなさい』」
意識が落ちる直前、ネオの声が、優しく鼓膜を揺らした。 - 7二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:31:32
- 8二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:32:54
goodです ネオユニヴァースはかわいい
- 9二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 01:01:43
SISR、良かった。
- 10二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 01:13:52
おつです、会話が難解なだけで行動は割と素直で直球なのがネオユニのよさですねえ
- 11125/06/17(火) 09:46:53
- 12二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 19:05:18
尻尾のこと 調子が悪いと“ダストテイル”になるらしい
とあるが、この状態のユニちゃんのしっぽはコンディションいいんだろうな - 13125/06/18(水) 00:45:56
以前からやりたいと思ってて手入れを怠っていなかったのかもしれませんね
- 14二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 00:47:52
ネオユニ語でここまでのものを書ききった1に感謝を…
外から見たらわかりにくいけどめちゃくちゃ優しい子なのが伝わってきて良かったです - 15125/06/18(水) 07:35:56
本当に良い子なんですよねえ…