【閲覧注意】ここだけ、ナギサ様がひっそりと入水する時の話 D4C

  • 1125/06/18(水) 18:41:09

    お久しぶりです、いかがお過ごしでしょうか。
    ハーメルンで改訂版を書いていたのですが、変更に伴い終結が大分変化してしまい書きたいシーンが書けなくなってしまいました。
    それは些か、勿体ない……と言うか書きたい。でもブルーアーカイブらしさを考えると捨て去る以外の選択肢を取れません。

    ならば新たにスレ立てをして、そっちはそっちで書けば良いのだと、厚顔無恥ながら思い至った所存です。
    需要が無ければ落としてください。

    要約致しますと。
    いともたやすく行われるえげつない行為、です。

  • 2二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:42:47

    待ってました!!

  • 3二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:43:26

    楽しみ

  • 4二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:43:36

    お、久し振りですね
    楽しみ

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:48:27

    ミカ嫌いの奴じゃん

  • 6125/06/18(水) 19:22:26

    一先ず、以前別スレで上げた続きを投稿しておきます。
    少なからずとも待ってる方がいるみたいですしね……。

  • 7125/06/18(水) 19:24:02

     何故あの敵がトリニティを攻撃しているのかは、未だ不明だった。
     そもそも、一番初めに攻撃された私でさえもよく分からないまま迎撃しているに過ぎない。
     万が一でも私を狙って来ているのであれば、トリニティ市街地で固まる判断は出来なかった。

     少しばかりの遠回りの後、正義実現委員会の部屋に辿り着き、応急処置を受けながら目の前に居るツルギと睨み合う。
     ……その視線は私の頭の上と若干往復されているのだが。

     部屋に入った時に気づいたのだが、今の私のヘイローは誰の目にも見えているらしい。
     部屋に居た正実の子達に「なにあのヘイロー……」と口々に言われれば嫌でも気が付くものだ。

    「……味方を犠牲に救出した事は承服しがたいとは思うが、ティーパーティの人間を守ることも我々の役目だ。ましてや、そこまでの負傷をしていてはな」
    「だからここに一旦幽閉されてろとでもいうつもり? あははっ! 貴方たちだけでアレをこ――倒すことは出来ないと思うんだけどなぁ?」

     突っ込まないんだ……なんて周囲からの軽口が押し黙る程の圧が自然と漏れ出てしまう。

     確かに不服だ。
     あのまま戦っていたら負けるのは私だったのは確かだろう。
     けれどもそれで他を犠牲にするのは見当違いだ。

     言葉の圧と、有無を言わさぬ視線。
     ツルギは少しばかり渋い顔を作って、赤裸々に答えた。

    「正直な所……我々のみでアレを止めるのは無理だ。攻撃を当てることや火力の面でアレの能力を越える者が一部に限られるせいでな」
    「……なるほど、それが本音って訳。なら、こっちも答えるけどさ。私はもうあんまりアレに有効打は与えられそうに無いかな……左手こんなんなちゃってるし」
    「いえ、本命はそちらではありませんよ?」

  • 8125/06/18(水) 19:25:06

     急に畏まった言い方に直し、ツルギは私の端末を渡してくる。
     拾っといてくれたんだ、何て。頓珍漢な思考をしながら受け取る。

    「今現在拘留中のフィリウス派の方々に命じて頂きます」
    「……そう言う事ね」

     手が足りない、火力が足りない。
     ならば増やせばいいのだ。手数も、火力も。

     その為にはパテル派元代表の力が必要になってくる。
     ……と言うよりも、連絡可能なトップが私くらいしか今は居ないのだ。

     近くに控えていた正実の子が持っていた地図が広げられる。
     既に崩落した建物であるパテル、フィリウス派の寮などにはバツ印が付けられており、トリニティ本校のグラウンドからの距離などが追記されていた。
     事前に決めていた作戦の青写真だろうか。
     これ以上被害を広げない為にも、既に倒壊した建物の上で奴を仕留める算段のようだ。

    「勿論、前線にも出て貰います。こちらも、既に戦力がカツカツでして」
    「あははっ☆ 中々に人使い荒いじゃんね? ……いいよ、上等。それぐらいはしないと、折角助けて貰ったんだからね」

     作戦での犠牲。勝利を目指す為の糧。
     ならば納得しよう。
     上辺のみの建前を通す為だけにやった行いでは無くて、やらざるを得なかった事ならば、否定する道理が無いのだから。

     端末に電源を入れて、私の知りうるフィリウス派の子に連絡を取る。
     ここからが、反撃だ。

  • 9125/06/18(水) 19:26:15

     既に話自体は通っていたのか、後はフィリウス派の子達の判断のみが重要だった。
     私が話をするとあっさりと了承して、現場の正実の子たちと一緒に榴弾砲の準備に取り掛かっているらしい。
     彼女たちも熟練の付き人だ。そう時間はかからないだろう。

     問題は、奴を抑える現場の方だった。

    「――それで、向こうは誰が指揮してるの?」
    「イチカ……二年の隊長だ。部隊を分隊に分解して一撃離脱の作戦で時間を稼いでいるみたいだが……」
    「それは……突破されるのは時間の問題、かな?」

     アレは被弾を抑えるように動くし、一塊にならなければ一掃されることも無い。
     四方八方から撃てばその都度足を止めるし、一撃のみに専念すれば分隊が削られるリスクもかなり低くなる。
     合理的に考えられた良い作戦ではあるのだが……殴り合ったり撃ち合った私達なら分かる。

     奴が理性無きバケモノでは無いことに。

    【――ちょっ! 銃撃止め!! 撤退! 撤退するっすよ!!】
    「……始まったか」
    「急がないとね……って、ツルギ。プロテクターとかつけなくていいの?」
    「いらん。動きの邪魔になる」
    「……こっちも大概じゃんね」

     通信機から流れる叫びに耳を傾けながら、手早く装備を身につけていく。
     左手の指はまだ万全とは程遠い。
     代わりにメリケンサックを付け、殴り合いに備える。

    「……治りが遅くなるぞ」
    「そんな先の事どうでもいいかな? 今できる事全部やっておきたいからさ」
    「人の事言えないだろ」

  • 10125/06/18(水) 19:27:16

     溜息と共に零れる苦言を聞き流しながら、漸く準備が完了する。
     全力で駆け出すが、ちょっと過積載になり過ぎたせいかツルギに置いて行かれる。
     横目で遅れていることを確認したツルギが少し速度を落とし、現場について話し始めた。

     ……少しムカつくじゃんね。

    「恐らくだが、アレは銃弾を喰らって各分隊が何処に潜んでいるのか探り始めたんだろう。凡その位置を知れたから行動に移した」
    「もう悲鳴しか聞こえないもんねえ。立ち止まって、一つの分隊に気持ちよく銃を撃たせたんじゃないかな?」

     奴は狡猾だ。
     一度は効果があると相手に見せかけてから、全てを踏み潰す。
     相手が見せたほんの僅かな油断に噛みつき、最大限の成果を出す。

     ……やけに組織相手の立ち回りに長けている。
     本当に、何者なんだろうか。

    「だが、最低限の被害で済んだようだ」
    「フィリウスの寮全壊しちゃったみたいだけど……まあ、人命には代えられないか」
    【負傷者は引きずってでも撤退! 残った分隊は小隊に再編成して同作戦を続行! 撃破されたら連絡を寄こすこと! 付近の小隊と一緒に離脱するっす! ツルギ委員長がもうすぐで到着するんで、それまでの辛抱っすよ! ――ここが最後の防波堤っす。みんな、気合入れて踏ん張るっすよ!!】

     崩壊した作戦を建て直し、けれども限界は弁えた指揮だった。
     内心で舌を巻きながら、自身の失態を故に痛感する。

    「……ごめんね、無駄に突っ走っちゃって」
    「構わない、けれども」

    「自身の限界を超えて戦うのは止めろ」

  • 11125/06/18(水) 19:28:32

    「……あはは、そうだね」

     強く強く、釘を刺す様に彼女は睨んだ。
     自覚はあった。けど、次も同じことをしない確証は何処にもなかった。

     だから曖昧に笑って、私達は並んで走った。
     目的は、もうすぐそこで。

  • 12125/06/18(水) 19:29:45

    取り敢えず、ここまでです。
    お疲れ様でした。

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 00:43:19

    保守

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 02:18:32

    待ってました!!!!!!

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:25:36

    最後まで保守

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:35:14

    ひっそりと入水って、てっきり露出+外での水浴びに目覚めてハナコと深夜のトリニティで噴水で2人きりで全裸になって水浴びする話だと思ってたんだ…

    ワクワクしながら1スレを見たらめっちゃ真面目な雰囲気で原作後じゃなくてif展開物だと知って、これは盛大な前戯なんだろうなと股ぐらをいきり勃たせながら読んでたんだ…
    クッキーを作るアリウスとかうまくいかないETOに悩む団長とか見ててムラムラが止まらなかった。
    正直コーヒーのくだりで我慢汁が垂れていたよ。何て素晴らしい作品なんだ!ってね…

    それがまさか、入水ってそういう意味だなんて…

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 18:12:52

    おかえりなさい、待ってました

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:53:28

    保守

  • 19125/06/19(木) 23:34:42

    >>11

     通信機越しではなく、前方から悲鳴と銃声が響き渡る。

     崩壊したフィリウス寮が影となりまだ姿は見えないが、この先に戦場が広がっているのだろう。


    「先に行く」

    「あっ、ちょっとぉ!?」


     元々私に合わせていた速度から切り替え、平野でも走る様に瓦礫を駆け上っていきその姿を消した。

     直後、奇声が瓦礫越しに聞こえた事から、ターゲットと会敵したことを悟る。


    「それじゃあ……私はどうしよっか」


     ただ突っ込むだけでは余りにも芸が無いし、かと言って策を弄している時間も無い。

     左手で手榴弾を遊ばせながら最善を探る。


    「まっ……やるだけやってみよっか」


     無難だが、物陰に隠れて様子を見ることにした。

     ツルギとあのバケモノが戦っている隙を突いて……なんて、あのバケモノが易々と隙を晒す筈が無い事を頭の片隅で理解しているのに。

     しかし戦線にはまだ正実の子達が戦っている。もし仮に、私の強襲を正実の子の破れかぶれの攻撃だと誤解したのなら……。

     そう考えると、少しだけ可能性がある様に思えてきた。


    「とはいえ……まずは戦況を見ないとね」


     そうと決まればすぐ行動。倒壊したフィリウス寮の影に隠れながら銃声と奇声が入り混じる戦場へと急ぐ。

     直後にツルギが会敵したこともあり、時間もかからず目的地へと辿り着くことが出来た。


    「――……剣先ツルギ、何してるの」


     だがそこにはバケモノに翻弄されるツルギの姿があった。

  • 20125/06/19(木) 23:35:57

    「……」
    「キィヒャアハハハハハハハッ!!」

     威勢よくバケモノに詰め寄るツルギだが、明らかに精彩を欠いた動きをしていた。
     それもその筈、バケモノはツルギではなく、周囲に倒れ伏す正義実現委員会の部員を狙って攻撃していた。
     敢えて緩慢に、さりとてバケモノを攻撃しては守れない速度で、只管に周囲の戦闘不能者に追撃していたのだ。

    「キィイイィ……ヒャアァ……!!」

     そんな部員を守る為、庇う為に動けば、それだけに生傷が増えていく。
     気力が、体力が、精神力が削られて行く。
     ツルギの再生力も無限ではない。着々と、ツルギの生命力は底へと誘われていた。

    (……不味いな)

     ツルギが軽く周囲に視線を散らせば、もう殆どの部員は戦闘区域外から離脱出来ていた。
     正確に言えば、ツルギが庇うと同時に放り投げたりしたのだが――同じようなものだ。

     だが、全員ではない。意図的に追撃をしていない部員が、後数名居る。
     それもマゼンタ色の化け物の背後にだ。

    (……庇わないと死ぬな、アレ)

     本音を言えば、これ以上余計なダメージを負いたくはない。
     しかし目の前の危機が、命の消失と言う現実がツルギの思考を着実に縛っていった。

    「キィヒヒヒヒヒ……ヌゥハハッハハハハハハハッ!!」

     だから、ツルギは笑った。まるで捨て鉢になったように化け物に猛追する。
     その瞳に倒れ伏す仲間は映っていないのは明らかだった。

  • 21125/06/19(木) 23:37:01

    「……ガァ」

     今ツルギを無視してしまえば、確実に手痛い一撃を喰らう羽目になるだろう。
     銃口を倒れている部員からツルギに向きなおし、迎撃の耐性を取る。

     片や狂気の笑顔と二つの銃口。
     片や異形の相貌と一つの銃口。

     双方の銃弾が回避出来ぬ距離まで後一歩に迫った時、ツルギは地面に向かって発砲した。
     巻き上がる粉塵。一瞬だけ視界から消えるツルギ。

    「……?」

     すわ蹴りの一つでも決めるのかと思えば、碌な衝撃が来ない。
     粉塵に紛れ奇襲を仕掛けようとするつもりかと空気の流れを読み――バケモノはマゼンタ色の輝きを銃口に集め始めた。

    「……チィ」

     視界が晴れると同時にバケモノは背後、否、傷ついた囮の居る方向へと目を向けた。
     そこにはボロボロの翼を広げながら、複数の部員を担いだツルギの姿があった。

     種を明かすと、粉塵撒き散らした後ツルギは勢いそのまま跳び上がりバケモノの背後に回ったに過ぎない。
     ほんの僅かな隙でも生まれたら成功した策だった。
     そんな一分の隙も存在しなかったのだが。

     流石に複数人の生徒を抱えながら、奴の攻撃は捌けない。
     手放すか、一人で受け切るか。
     そんなこと到底出来る訳無い事を知り得ながら、掴んでしまった命の重みがツルギの判断力を完全に奪っていった。

  • 22125/06/19(木) 23:38:07

    「――グレネード、パアーンチ!!」
    「グウガァアアアッ!!」
    「……っ、すまん!」

     ツルギに向かって放たれる筈だったマゼンタ色の光は、背後から叫びながら突撃してきたミカの方へ向けられていた。
     手榴弾と化け物との攻撃の余波で正気を取り戻したツルギはそう一言謝ってその場を離脱した。

    「ごっほ……けほっ……謝るなら最初からやるなって話じゃない? ……貴方もそう思うよね?」
    「……」
    「あははっ! 警戒心マックス、って感じかな? まあ確かに退いたのにすぐ戻ってきて……何がしたいのか分からない~ってこと? ……でもそれさあ」

     未だ血の滲む左手を握り直し、銃口を向けながらミカは笑った。

    「こっちのセリフ、なんだよね?」
    「ガアアアアアッ!!」

     

  • 23125/06/19(木) 23:39:13

    すみません、ライブ感で書いてたら軌道修正が必要になりましたので今回はここまでです
    お疲れ様でした

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 02:43:41

    最後まで楽しみにしてます。
    念のため保守。

  • 25二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 11:24:51

    ⭐︎

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 18:37:05

    このレスは削除されています

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 23:53:21

    待機

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 07:37:31

    待ち

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 14:57:11

    念のため保守

  • 30125/06/21(土) 22:59:02

    >>22

     バケモノは吠えながらミカとの距離を詰める。

     僅かに冷や汗を流しつつも、ミカの銃口はバケモノの額から離れない。

     バケモノは銃身を大振りに構え、ミカの横腹目掛けて薙ぎ払った。


    「ぐうぅっ……!!」

    「――!?」


     意外にも、防がれる事も避けられる事も無くバケモノの振るった銃身はミカに直撃した。


     ほんの微かな硬直を逃さぬよう、ミカの銃撃がバケモノを叩く。

     すぐさま距離を取るバケモノに対し、ミカは不敵な笑みを浮かべていた。


    (……ヤバイかも。しくじったかな、これ)


     否、そうではない。笑うしかない状況なのだ


     慣れない過積載で身体が思うように動かせなかった。

     プロテクターを過信したカウンター戦法を咄嗟に思い付きやってみたが、想像以上にダメージが大きかった。

     とはいえ、着てきた装備を脱ぐ隙など無い。


     既に何度も観察されているのだ。

     目の前のバケモノはとうの昔に様子見をやめている。

     何発か撃っていたであろうショットガンのリロードを許し、闘気のような鮮やかなマゼンタ色の光がバケモノを覆った。


    「あっははは……こっから本番、ってこと?」

    「グァアッ――」

  • 31125/06/21(土) 23:00:05

     迸る気配に気圧されながらも、足は決して引かない。
     力でも技量でも、判断力でも経験値でも負けているんだ。
     コレだけは――精神力だけは、負けられない。

     コレさえ負けたら、私は――

     目すら追いつかない程の速度で、バケモノが跳んでくる。
     必死に残光を追いかけ、襲い来る衝撃を歯を食いしばり耐え、引き金を引いて反撃をする。

    「ぐぅ……!」
    「……」

     ダメージレースは明らかにこっちの負けだ。
     何とかカウンターを当てているだけの状況、相手のバケモノはプロテクターの隙間を狙って打撃を当てていると言うのに。

    (力が……)

     バケモノが憎い。
     だがそれ以上にバケモノに翻弄される、無力な私自身が憎たらしい。

    (力が……欲しい……!!)

     今更願った所でどうしようもない事を理解しつつも、ミカは願わずにはいられなかった。
     ――それが致命的な隙に繋がるとも知らずに。

    「シッ――!」
    「やっ――!?」

  • 32125/06/21(土) 23:01:06

     ミカが目では無く、衝撃でカウンターをし始めた時だった。
     眼の前のバケモノの速度が、上がった。

     明らかに膝を狙っていたローキックが、軸足で跳ねた事によりミカの側頭部を狙う攻撃へと変化した。
     キラキラと輝き始めるその右足を防げそうな左腕は、まだ肩の高さすら届いていない。

    (避けるのは無理、防ぐのも手が間に合わない――!!)

     やけにスローモーションになった世界の中で、強くなっていくマゼンタ色の光だけが網膜を刺激していく。
     襲い来る明確な死の気配を感じながらも、ミカに出来ることは何もなかった。

     ――突如、バケモノに散弾が当たる。

    「グウッ――」
    「っ――!」

     煌々と瞬いていたマゼンタ色の光は失われ、それに伴い遅くなっていた時間も元に戻った。
     想定していたよりは軽い蹴りがミカの側頭部に振り抜かれ、数回バウンドしながら何者かの足元へと転がっていった。

    「意識はあるか?」
    「なっ、なんとかね……カバーありがと、流石に死ぬかと思ったな……」

     痛む頭を押さえながら立ち上がると、バケモノに銃を向けているツルギが居た。
     既にボロボロになったプロテクターを脱ぎ捨てながら吐き捨てていると、ツルギが壊れたプロテクターを拾ってバケモノの方に投げた。

     ……何かがぶつかる音が響き、プロテクターだった物の破片が背中に当たる。

    「ひ~! 怖! 何投げてきたの!?」
    「投石だ。それより悠長にしてるな、守り切れないからな」
    「それはちょっと心外かな……まあ対応できてなかったし文句言うのはお門違いか」

  • 33125/06/21(土) 23:02:10

     幾つかの装備は外せていない状態だが、さっきよりかは動きやすくなった。
     これならと、バケモノの方に向き直ると。

    「……わーお」

     大部屋の天井程の大きさの瓦礫を持ち上げていた。
     ツルギが舌打ち混じりにバケモノへ発砲し続けているが、瓦礫を持ち上げる手は微動だにしていない。

    「避けろっ!!」

     内心で返事を返しながら、投げられた瓦礫を回避する。
     銃弾程ではないにしても、自動車程度の速度であのサイズの瓦礫投げるとかとんだゴリラじゃんね?

     頭の中で悪態を吐きながら体制を立て直し、バケモノに銃口を向ける。
     ……今度は同じサイズの瓦礫を二枚持ち上げながら。

    「嘘でしょ……」

     私とツルギに一枚ずつ、正確にコントロールされて瓦礫が投げられる。
     迫りくる面に対しすぐに躱し切れないと判断を下す。

    「――なら」

     銃を手放し、左拳を握り締める。
     高々迫る壁、こんな物は攻撃と足りえないのだと不敵に笑って見せる。

    「こうすればいいで――!?」

     タイミングを合わせ振りかぶった左腕に反し、目の前の壁が砕ける。
     咄嗟に頭だけは守る様に腕を交差させるが、体には勢いよく礫が突き刺さった。

  • 34125/06/21(土) 23:03:11

    「……いててて、そう来る」

     多様な攻撃手段に思わず舌を巻いていると、轟音が少し遠くから聞こえてきた。
     音が響いて来た方向に視線を投げると、ツルギがバケモノに殴り飛ばされていた。

    「……なるほど、そっちの方が厄介だと判断した訳ね」

     こっちに投げ飛ばした瓦礫はショットガンで砕き、本命であるツルギは瓦礫を殴り壊して怯んだ隙に殴った……と言った所だろうか?
     実際、私よりもツルギの方が厄介なのは事実だろう。
     けれど……。

    「っ、待ちなよ……私置いて先にツルギやれると思ってる訳?」

     一瞥もくれる事無くツルギを追撃しに行った。
     まるで私なんて居ても居なくても何も変わらない――変えられないんだと言わんばかりに。

     弱気になりそうな心を圧し潰し、落とした銃を拾いバケモノの後を追う。
     奇しくも、その方角はコロッセオへと続いていた。

  • 35125/06/21(土) 23:04:11

    「……行ったっすね」

     ツルギから戦闘不能となった部員を受け取ったイチカは、その後の戦闘をただ安全区域から見ている事しか出来なかった。
     無論、既に戦闘続行が不可能な部員たちを指揮して、怪我人は救護騎士団の部室へと向かわせているし、残った部員たちも次の戦闘態勢は取れている。

    「我ながらダサいっすね~……」

     空々しく笑いながら、イチカはしゃがみこんだ。
     敵の強大さ、抑え込めていると思っていた存在は此方に対してはただ手を抜いて相手していることがミカと戦っている姿を見て分かってしまった。

     目で追うことすら困難で、イチカが幾ら指揮しようが援護射撃すら真面に出来ないであろうと察することが出来た。
     何よりも、ツルギ委員長が易々殴り飛ばされていた。

     飛んできた瓦礫をツルギ先輩がショットガンで打ち砕き、その先に居た敵に怯む事無く銃撃していた。
     だが、敵は……ツルギ先輩の銃撃を喰らいながらも殴り飛ばしていたのだ。

    「はぁ~……どうしますっかね……」

     火力が必要だ。手数が必要だ。
     とはいえ、私たちが幾ら集まろうが蹂躙される未来だけが頭に浮かぶ。
     折角腕や足が変な方向に曲がらないで今こうして立てているのに、ただ無意味に嬲られろと命ずるようで、少しだけ気がひける。

    (あの方角はコロッセオ……住宅街からは遠いっすね……避難誘導の必要な無しっと……戦える子達を今すぐ向かわせなくても他の組織の戦えそうな人を呼んでくるとか……電話でいいっすよね……)
    「あのっ、イチカ先輩」

  • 36125/06/21(土) 23:05:31

     頭を抱えながら今後の方針を考えていると、一人の部員が此方を見下ろしながら声をかけてきた。
     いや、座ってるからだと頭を振ってから立ち上がる。
     変わらず、真っすぐと此方に視線を向けながら声を上げた。

    「私たちは正義実現委員会です。相手がどれ程強大で、ツルギ委員長でも勝てない位なのは、分かってます……でも!」
    「例えどれだけ無力でも、私たちは正義実現委員会なんです!」
    「トリニティの為に、戦わせて下さい!!」

     自分よりも小さな体躯を曲げて、被った帽子を落としながら懇願する。
     ふと、その背後に居る部員たちにも目を向けて見れば、皆が燃えるような瞳をしていた。
     それがどうにもおかしくて、必要のない配慮をした自分を反省した。

    「顔、上げるっすよ」
    「えっ、あっ……ありがとうございます」

     汚れてしまった帽子の埃を払い、部員に差し渡す。
     薄っすらと浮かべていた微笑みを消し、息を大きく吸ってイチカは宣言する。

    「敵はツルギ先輩でも勝てない相手、だから勝てるように全員でサポートをする! 非情な命を幾つか出すっす! 過去一で危険な任務になるっすよ! それでも来るなら銃を取れ!」

     イチカはグリップを握り、銃口を天高く掲げる。
     部員たちも皆、淀みなく銃口を天へと向ける。
     開いた瞼を僅かに細め、真剣な表情から好戦的な笑みへと変えながら嬉しそうに言った。

    「それじゃあみんなで、地獄にいくっすよ……」

     可愛らしいが、確かな戦意を滾らせた雄たけびが響き、敵が向かった方角へと足早に駆けていった。
     その数分後……とある四人組がこの場に訪れたのだが、それはまた後のお話。

  • 37125/06/21(土) 23:06:42

    こっから書きたい所まで戦闘描写ばっかです、うそやろ?
    本日はここ迄です、お疲れさまでした

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 07:58:44

    お疲れさまです

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 08:13:20

    四人組…誰だ?

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 17:48:58

    アビドス組かな?

  • 41二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 18:01:59

    >>39

    お疲れ様

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 23:38:01

    保守。

  • 43二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 09:27:54

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 17:36:19

    もう二度と落とさせない 保守

  • 45125/06/23(月) 21:58:58

    >>34

     ツルギは飛んでいた。

     否、ただ殴り飛ばされただけだ。


    (まさか怯みもしないとはな……)


     投げ飛ばされた瓦礫を壊した瞬間、マゼンタ色の光が此方に向かって来ていることが分かった。

     スピンコックで可能な限り連射したのだが、化け物はものともしないようにツルギの顔面を殴り飛ばしたのだった。


     正義実現委員会の半壊、砲兵隊への連絡、完全に砕けた当初の作戦。

     ツルギは悠長にも次の手を、空を滑りながら思考していたがそんな余裕はすぐに消え去った。


     翼を広げ空中で軌道を変え、地面に一瞬足を付ける。

     最後の薬莢を排莢し、ブラッド&ガンパウダーを空に投げ、追いかけるようにツルギも空を舞う。

     何時の間にか両手指に挟まれた次弾を装填しつつ、自身を殴り飛ばした存在が走って近づいて来ていることを確認する。


     計八発の弾丸を込め、ツルギは体制を整えながら地面に両足を突き立てた。

     十数メートル、二本の線を未だ描くほどの勢いを漸く殺し切り、眼前迄迫った化け物に銃口を差し向けた。


    「ききききき……ぐあーははははははは!!」

    「ガァアアア――」


     再び笑顔を見せるツルギから、先程喰らったダメージの影響は感じられない。

     化け物もそう感じたのか、既にチャージが完了したショットガンでツルギの顔面目掛けて引き金を引く。


    「きひひひひっ!!」

    「グァッ!?」

  • 46125/06/23(月) 22:00:05

     ツルギは攻撃を真正面から受け止め――吹き飛びながら化け物の顎を蹴り抜いた。
     地面に二丁のショットガンを突き立て勢いを殺し、地面を蹴り飛ばし化け物へ追撃する。

     再びショットガンで吹き飛ばされた距離まで詰めるが、相手も痛覚など無いと言わんばかりに的確にツルギを撃ち抜いていく。
     右脛、左股関節、右肩、左腕。的確に関節を狙いほぼ当てていくが、ツルギは止まらない。

    「待ってろぉぉぉ!!」
    「……っ1」

     ここで正面から撃ち合う――ことは無く。
     ツルギは突如進路を変え、右に逸れながらローキックを叩き込んだ。
     僅かに態勢が崩れたのを確認し、ツルギは化け物に襲い掛かった。

    「うははは、うは、ははっははっはあーっ!!」
    「っ……!!」

     咄嗟に向けられたショットガンを蹴って方向を変え、腹を蹴飛ばし化け物を地面に転がす。
     超至近距離の乱撃。ツルギは確かな手応えを感じつつも、弾切れと同時に化け物を蹴飛ばして距離を取る。

     手早くリロードを済ませ、終わらせる頃には化け物は立ち上がっていた。

    「今度はお前がぁ……血を見せる番だぞぉぉぉっ!!」
    「グガアアアアアアッ!!」

  • 47125/06/23(月) 22:04:22

    ごめんなさい、ツルギちょっと強くし過ぎたせいでプロット壊れました
    確かにトリニティぶっ壊せる説得力増すけどツルギとあんまり戦わないで……ツルギの銃めんどくさいの……
    プロット再建しますのでまたちょっとお時間いただきます
    水曜日には沢山更新出来る予定ですのでお待ちの方は申し訳ありませんが保守してくれるとありがたいです

    本日はここまでです、お疲れ様でした

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:08:42

    乙です
    なんか気がついたらスレが落ちてて不安だったんだよね復活ありがとうございます
    ハーメルンの方も楽しみにしています

  • 49二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:51:59

    ハーメルンにも書いてると見て探してみたが見つけられなったっす...

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 06:56:29

    >>49

    入水しない方の話の前編しか見つからないのでおそらくあにまんで書いた話を改訂して、これから上げるんじゃないでしょうか

  • 51二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 12:46:06

    ⭐︎

  • 52二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 21:38:47

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 00:57:44

    >>50


    >>49はその前編は読まれましたか?

  • 54二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 07:15:30

    ☆ 

  • 55二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 12:34:20

    ⭐︎

  • 56125/06/25(水) 16:50:06

    >>46

     勢いよく迫るツルギ、鏡合わせの様に化け物もツルギに肉迫する。

     惜しむ事無く化け物に引き金を引くツルギに対し、化け物は拳や蹴りで対抗していた。


     片方のショットガンを牽制目的で撃ち込むと、案の定化け物は距離を詰めながら回避する。

     そこにすかさずもう片方のショットガンを撃ち込めば――化け物は銃身を殴って撃つ方向をズラした。


    「きぃひひひひっ~」

    「ッ!!」


     だがボディがガラ空きになった。

     既にリロードを終えたショットガンで腹部を接射し、僅かに固まった化け物に追い打ちをかけるように蹴り飛ばす。

     追撃は銃身で受け止めたが再び接近することは無く、その異形の瞳を細め警戒心を露わにしていた。


    「もうな~んにも気にしなくていいからなぁ……お前と何処までも遊んでいられるぞぉ!!」

    「……」

    「かかかかかか、しゃあ!!」


     今度はツルギだけ接近し、化け物はその姿をじっと見つめていた。

     変わらず乱射されるショットガンだが、今度は最低限の動きのみで回避だけを続けていた。

     傍から見れば防戦一方に思えるが、弾数には限りがある。


     左右の残弾が残り一発となっても、化け物に有効打らしい攻撃は当てられずツルギの動きに迷いが生じる。

     そこで化け物の動きが変わった。


    「……チィッ」


     今まで碌に構えもしなかったショットガンを握り、ツルギを猛追する。

     ショットガンに光は集まっていない。

     つまり一撃喰らっても問題無いはずだが、嫌な予感がツルギの脳裏を走っていた。

  • 57125/06/25(水) 16:51:08

     後退しながら銃で銃身を殴るが、片腕では両腕で握られた銃身の方向を変えることが出来ず。
     蹴り飛ばそうとすると化け物の蹴りとぶつかり合い、止まった隙に撃ち込まれた。
     咄嗟に右手で顔を庇うが、右腕に刺さる弾のダメージで銃を取り落としてしまう。

     今度は利用されまいと、化け物の後方に何とか蹴り飛ばすが状況は悪化したままだ。
     ツルギの生まれた隙を見逃す筈もなく、化け物のショットガンが鳴り響く。

     回避困難な至近距離の銃撃を痺れの残る右腕で殴りつけ、銃の向きを変えながら跳び上がり化け物との距離を取る。
     空中で弾を込めつつ化け物の方を見ると、目が合った。

    「ぐっ!」
    「……」

     ツルギが地面に着地するより速く、化け物が迫る。
     翼を振り回しても十全に空中で動ける訳では無い。
     未だ輝きは見せないが嫌な予感だけは益々増していく。

     着地と同時に眼前に迫った化け物。
     銃口の先で腕を交差させ自身の翼を地面に突き立てる。

     銃撃を受け切って、カウンターで仕留めるっ――!

     決死の表情で銃口を見つめ続けるツルギ。
     視線は自然と下へ下へ――そこで、一手遅れてしまった。

    「なっ――」
    「ガアアアアアアアッ!!」

  • 58125/06/25(水) 16:52:13

     銃を、手放していた。
     極彩色に煌めく光が先んじて瞳を刺激して漸く気が付くことが出来たのだ。
     先程見せた光よりも激しく、飲み込まれそうな暗く眩い光に包まれた握り拳は、ツルギの防御をすり抜けて腹部を叩いた。

    「アアアアッ!!」
    「――う、うあぁ……」

     振り抜かれた拳は自身が翼を地面に突き立てていたこともあり、衝撃を一切逃す事が出来ずに体の中で渦巻いた。
     組んでいた腕は力なく垂れ下がり、吐血しながらツルギは膝を折った。

     気絶したツルギを見下ろし、ショットガンを天高く掲げる。
     先程と比べると薄いマゼンタ色の光だが、着実に銃口に輝きが集まっていく。

     油断ならない相手だった。
     だから今ここで――。

     そんな思考とチャージを中断してバケモノは地を蹴った。
     次の瞬間にはツルギのショットガンが全くの別方向から火を噴いていた。

    「あちゃあ……デートに遅れちゃったかな? でも、だいぶ苦しそうだね?」
    「グルゥァ……」

     そこにはツルギのショットガンを構えたミカが居た。
     ミカは不敵に笑いながらリロードし、次の弾が出ないと知るとその場に銃を放り投げた。

    「さて、と……第五ラウンドかな? まあ何ラウンド目でもいいんだけどね。やろっか☆」
    「グゥウガァアアアアアアッ!!」

     ミカは笑う。何てことない問題だと言わんばかりに虚飾の笑みを浮かべる。
     バケモノは吠える。自身の目的を妨げる存在をまだ蹴散らせれるのだと己を𠮟咤激励するように。

  • 59125/06/25(水) 16:55:28

    あと一回更新予定です
    倒れてくれてありがとうツルギ
    次ミカか……余裕ぶるのやめて……このままホシノ倒しそうなのはマジでやめて……
    今回はここ迄です。お疲れ様でした

  • 60二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 21:58:15

    お疲れ様です
    いやあ、ツルギは強敵でしたねぇ

  • 61二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 22:00:28

    本編みたいにただ暴れ回るんじゃなくて思考してるのがなぁ
    テラー化してしばらく経ったから変化があったんだろうか?

  • 62二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 07:12:42

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 16:15:32

    保守でーす

  • 64125/06/26(木) 21:54:12

    >>58

     一回拳を交えた時点で理解出来た。

     既にバケモノの余裕など無いという事実に。

     ……そして、尚も底が見えてこない現実に。


    「あっははははっ! 随分と必死だね! ホントっ、くっ! ここまで我武者羅なんてさあ!!」

    「ガアアアアッ!!」


     銃弾の雨霰をものともせず――いや違う。

     気にしないで先にこっちを殺す戦闘スタイルに変化しているだけだ。


     大雑把に狙った銃弾は全て命中しているが、発砲して生まれる僅かな隙を突いてバケモノは鉤爪を振るい切り裂こうとする。

     何とか銃身を挟み込み弾くが、その一瞬鉤爪に握られた銃から嫌な音が響いてた。

     ……どうやら本当にバケモノに変貌しているようだ。


    「いい加減にっ……倒れろ!!」

    「ガッ――!?」


     撃ち尽くした銃を両手で握りバケモノに向かって振るう。

     どうせ大した影響も無いかと思えば、まるで壊れたオモチャみたいに不気味な体勢で停止した。

     それに気味悪がる前に、これまでの乱雑な扱いに耐えかねたのか銃身に亀裂が走った。


    「うっそ……ごめんね、でももう少し耐えてくれると嬉しいな?」

    「――カ、カカカカカッ」

    「お願い! 最後にこれだけは――!」


     マガジンを切り替え、嫌な火花を散らしながら銃弾を吐き出す愛銃。

     奇妙な音を吐きながら首だけこっちを向き出したバケモノに怖気を感じながら全ての銃弾を撃ち切る。


     その瞬間だった。

  • 65125/06/26(木) 21:55:13

    「キイィーーッ!!」
    「――はっ?」

     バケモノが握っていたショットガンが、伸びた。
     スナイパーライフル所か、寮に有った物干し竿位に伸びる。
     その伸びた銃身をまるで棒の様に握り込み、私の銃を突いた。

     圧し折れ砕けて、内部で暴発した私の銃を捨て置いて、勢いそのままに顔を突かれそうになったがバク転で後方に離脱する。
     ……銃はもう、使えそうにない。

     だが、そんなことがどうでも良くなるほどの衝撃が私を襲っていた。

    「……貴方、本当に何者?」

     先程まで露わになっていた顔は仮面に覆い隠され、既に表情は見えない。
     明らかに銃としてではなく、長い棒――近接武器の様に銃を構えていた。
     そして放つ光の色合いが、黄色のようなオレンジ色のような物に変化した。

     正直それが一番怖いのだが、今は置いておこう。
     どこかしっくり来ていないのか、不思議そうに銃を見つめていたが、やがて私の方に顔を向けた。

    「キイィーーッ!!」
    「くっ!」

     自身の銃を棒の様に扱い、こっちを殴打し突いて来る。
     武器が無いからこそ、こっちも腕や足で体を守るが……少し痺れるほどに痛い。
     何より長物の長所が遺憾なく発揮していた。

  • 66125/06/26(木) 21:56:14

    (こっちも何か武器があれば……!!)

     腕を伸ばしても拳幾つかの距離が足りない。
     攻めようと近づこうとも、バケモノが退きながら攻撃するから思うように距離は縮めることが出来ない。

    (生中な想いじゃ駄目……ならここは!)
    「……キィ?」

     しゃがみ込み、その場で反転して――一気に距離を取る。
     不思議そうな鳴き声を上げているが、これにどう対応するつもりなのか。

     近づいてくるなら、こっちも再び反転してボディブローでも入れてやればいい。
     追いかけてこないのなら武器を取りに戻ってもいいだろう。
     ツルギの始末を優先するのなら……近くの標識や看板を投げつけるだけだ。

     幾つかの対応策を講じ、そしてバケモノは文字通り私の考えを上回った。
     バケモノは銃を構えたまま走り出し、棒高跳びの要領で空を飛んだ。
     翼も無いのに空中で僅かに軌道を制御するのが見えて、私はすぐさまその場から跳びはねた。

    「……嘘でしょ」

     振り下ろされた銃はコンクリートを割り、砂塵を巻き上げる。
     闇夜に隠れた銃身が振り下ろされた事に気づけたのは、奴自身が光り輝いているからに過ぎない。
     もしも同条件なら――そんな想像をして溜息を吐き出す。

    「仮定の話なんて幾ら積み上げても意味が無いって……貴方も、そう思うよね?」
    「クルルウウゥ……」

     恰好だけの徒手空拳を構えながら、向こうの洗練された棒術? の構えにやや圧倒される。
     握り込んだ左手のメリケンサックの異物感が、まだ私が生きているのだと教えてくれた。

  • 67125/06/26(木) 21:57:14

    「はー……頼むから、もう何回も変身とかしないで欲しいんだけど……駄目かな?」
    「キイイイイィーッ!!」
    「何言ってるかわかんないって!!」

     戻しそうになるほどの圧迫感を軽口で誤魔化しながら、得体の知れないバケモノと衝突する。
     ツルギの忠告が脳裏を過りながら――。



     十数分後、その場に立っているのは一人だけだった。
     己の銃は地面に突き立て、左手のみで気絶しているミカの首を掴み上げていた。
     その仮面からは感情を窺い知ることは出来ず、無感情に右手を貫手の形に変えていた。

    「キッ――!?」

     トドメを刺さんと、ミカの胸元目掛けて突き出された右手は届く前に止められた。
     腕、どころか身体全体を震わせながら両手で頭を――仮面に手をかける。

    「キ――ガアアアアアッ……!」

     自身で剥ぎ取った仮面はマゼンタ色の光に変わると共に虚空へと消え去った。
     肩を激しく揺らしながら、手放したミカを見下ろし踵を返した。

     コイツは駄目だ。あっちならば問題無いが、コイツは手掛かりに近い。
     剥がれたテクスチャーから漏れ出た荒ぶる心を押し込めるように、言い聞かせるようにバケモノは地に突き刺した銃を拾い上げた。

     手掛かりに成ったとて、次ここまで弱らせられる保証など何処にも無いと言うのに――ホルスは無心でツルギの下へ駆けていった。
     確実に、息の根を止める為に。

  • 68125/06/26(木) 21:59:42

    今回はここ迄です
    ナギサ様がエデンシナリオをぶち壊したように、ホシノも第三章のシナリオを大分ぶち壊して進行していますのでこんな変な事が起きてます
    まあプロットにこんな第二変化なかったんやけどな!!
    なのでもう登場しません。ミカをぶっ飛ばす舞台装置だったと思ってください

    お目汚しを失礼いたしました、お疲れ様でした

  • 69二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 22:05:40

    ミカがユメ先輩の手帳の手掛り持ってるって思ってんの?
    何で?

  • 70二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 23:51:31
  • 71二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 09:21:58

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 13:11:48

    >>69

    既に手帳は見つけてます

    地下生活者が用意した偽物ですけど

    なんやかんやあってユメ先輩を蘇生する為に今は動いてます

    ホルスの勝利条件はナギサの遺体を無事に持ち帰ることです


    それ以外の情報は本編に絡んできませんので……いやこの情報も別に絡んで来ないか……

    忘れていいよ

    ホルスがヤベエって事だけ分かっていただけたら

  • 73二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 21:26:03

    なんで遺体なんて…

  • 74二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 03:02:15

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 12:48:08

    待機

  • 76二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 13:18:50

    何か知らんけどホシノは完全とまではいかないけど地下ピの制御下にあるってこと?

  • 77二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:38:52

    先生やアビドス後輩もどうなってるか気になるなぁ

  • 78125/06/28(土) 22:09:00

    ごめんね、また今日も更新できそうにない……明日は必ず更新するから待って居て欲しい
    代わりと言ってはあれだけど、この世界の三章の展開を公開するね
    まあ、本編には一切絡んでこないから完全にフレーバーだし、色々ガバいのは許してね

    セリカがお宝が埋まってるだのが書かれた地図のオークションを発見する
    案の定シロコ達に否定されるが、セリカの言っていた宝の地図がバナナとりの手帳だと言う事を知るホシノ
    態度が一変し、手帳を取りに動くホシノ。先生の手も借り、幾つかの妨害を乗り越え、見事バナナとりの手帳を手に入れることに成功する
    だが、そこにカイザープレジデンテが現れ、借金の帳消しを条件に手帳の譲渡を要求される
    普通に考えれば渡すメリットしかないが、一瞬でも中を確認した場合契約は破棄とする条件を加えられたため葛藤するホシノ
    最終的にホシノは折れるが、何処か暗い雰囲気で各々帰るアビドス組
    プレジデンテは手帳を手に入れるが目当ての情報が無い事に呆れ、アビドスからのカイザーの撤退を指示
    ……の前に襲撃に対する厳重な備えを行う。
    想定通りホシノは単独で襲撃を仕掛けてきたが、想定外に突破されホシノに痛手を負わせるもカイザー側も負傷する
    ふらふらと手帳を手にし、中身を確認するが――書かれていたのは出来の悪い後輩に対する恨み節ばかり
    だが最後に、崇高を手にすればユメを蘇らせることが出来ると言う地下生活者の心象操作に嵌り、殺す覚悟が出来たテラー化
    ほんのり香る神秘の気配に釣られるようにホシノはトリニティへ
    アビドス組はホシノがカイザーに突撃したことを知り、現場へ赴くもテラー化した影響で現れたセトの憤怒を抑えることになる

  • 79二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 02:56:42

    待ってる

  • 80二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 12:37:01

    ざっぱーん!!!

  • 81二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 12:41:23

    手帳が偽物でユメ先輩蘇生も大嘘
    哀しいねぇ

  • 82二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 21:37:40

    保守

  • 83125/06/29(日) 22:03:22

    >>67

     幽鬼のように力無く、ツルギの倒れていた場所に足を運ぶ。

     荒れた地面を踏みしめ倒れていた所を見渡すが、居ない。


    「ガァ……」


     だが、完治した訳では無いらしい。

     血が擦れ何かが這ったような跡がコロッセオ内部へと続いていた。


     後を追いコロッセオ内部へと足を踏み入れるが、想定以上に薄暗い。

     差し込む月明りを頼りに、続く血の跡だけは見逃さぬようにと歩を進めると、奴は居た。

     闘技場の中心を肩を庇いながら歩き、銃を杖代わりにして歩いていた。


    「ガアアァアア――」


     獣のような雄叫びを上げ闘技場内へと足を踏み入れた瞬間、足元が爆発した。

     困惑する化け物だが、空中で姿勢を制御し地面に叩き付けられる事だけは何とか回避した。

     巻き上がる砂塵の向こう側で、怪我人のように歩いていた筈のシルエットが両手で銃を構えていた。


     避けなければ――出される脳からの指令に反し、無理矢理な着地をした化け物の体は動かない。

     そこからアサルトライフルの弾丸を諸に喰らい、逃げるように転がり回って追撃を回避した。


    「グルルルッ……」

    「いや~、思ってたより上手く行くもんっすね? ツルギ先輩に見えてたんなら光栄っすよ。それとも……もう判別もつかない位疲れてるっすか?」

    「ッッッ、ガアアアアアッ!!」

    「うわ~おっかないっすね! ……でもまあ私たち、一人で戦ってないっすから」


     冷や汗を流しながら、叫びながら迫りくる化け物に銃撃を続けるイチカ。

     今の所作戦通りには行っている。

     ならば次は私の番だ。

  • 84125/06/29(日) 22:04:24

     銃弾は当てられていない。
     銃弾を使わせることすら出来ていない。
     だからこそ好都合だった。

    「ガアアアアアアアッ!!」
    「があっ――ぐふっ!?」

     至近距離まで近づかれても銃を当てることが出来ないと言うのに、化け物の攻撃を避ける事などイチカには出来るはずもなかった。
     サイドステップで攻撃方向を攪乱し、左拳でイチカの顔面を殴りつける。
     地面に叩きつけらる前にその長髪を掴まれ、鳩尾を蹴飛ばされる。

     だがそれすらも、作戦の中だったのだ。

    「――ガアッ?」
    「ごっほ! いたたたっ……私を気にしなくても良いとは言いましたけど、ここまで思い切りが良いとは正直思わなかったすよ……最高でしょう、みんな」

     朦朧とする意識の中、イチカは叩き込まれた膝を掴んで離さなかった。
     直後、観客席のバラバラの位置から散発的に銃弾が化け物へと刺さった。
     足を掴んでいるイチカの事など見向きもせず、周囲の銃を撃っている部員の位置を探る化け物の意識を奪うように、イチカは腹部に隠していたピンに手をかけた。

    「――ありったけ、かき集めたんすよ。サーモバリック手榴弾と、爆薬」
    「ガッ!?」
    「いい加減、地獄に行くっすよっ!!」

     ピンは抜かれ、化け物はイチカを蹴り飛ばした。
     刹那、イチカを中心に爆炎と衝撃波が広がり、闘技場は煤と煙で覆われた。

  • 85125/06/29(日) 22:05:26

     イチカは飛んでいた、空を。
     何処が上だか下だか分からない程の衝撃に見舞われ、ただ宙を舞っていた。
     だが現実は、早めに襲い掛かって来た。

    「うぐっ……!」

     頭から地面に叩きつけられ、漸く自分が吹き飛ばされたことを理解出来た。
     蹲りながらレッグホルスターにしまっていた通信機に手を伸ばす。
     少しでも状況を理解する為に、少しでもあの化け物を倒す為の指示を下す為に。

     けれども、現実は非情だった。

    『――くっ! ツルギ先輩はまだ起き無いんですか!?』
    『あれ喰らって無事って……アイツ本当に倒せるの……?』
    『HQ! 増援! もう半分も立ってない! ちょっとでもじか――』
    「……まじ、っすか……」

     通信機から響く阿鼻叫喚と破砕音。
     それは化け物が無事であることを示していて、乾坤一擲の大博打が失敗に終わったことを意味していた。

    (やっぱり、私たちじゃ……)

     無力感と共に遠ざかりそうになる意識を前に、自身の銃が目に入った。
     折れそうになった自分を映す様に、赤いフレームが鈍く光った。

     通用しない訳では無かったこと。攻撃を避けていたこと。慌てていたこと。
     一方的な戦いだったが、イチカの存在は化け物から見て脅威に映っていたことが分かった。

  • 86125/06/29(日) 22:06:28

    「……全く、私が真っ先にリタイアとか、笑えないっすね」

     今なお、仲間たちは戦っている。
     その事実だけで、イチカは立ち上がることが出来た。
     銃を支えにして、今にも倒れてしまいそうな程ふらついているが、立ち上がっていた。

    「ちっ……マガジンも吹っ飛んでる……」

     リロードしようと懐を探るが、換えのマガジンも手榴弾も、何も残ってはいなかった。
     残っている残弾を確認しても僅かに数発。
     何だか笑えて来てしまい、空笑いを浮かべながら今尚破砕音が遠くに響くコロッセオの方を向いた。

    「いやー……柄じゃないんすけどね……」

     イチカはHQ――単なる仮拠点だが――を目指し、足を引きずりながら進みだす。
     やれることはまだある筈だと、信じて。

  • 87125/06/29(日) 22:07:29

     闘技場に立っているのはただ一人だけだった。
     己の前に立ち立ち向かう輩も、観客席から銃を撃つ輩も、誰も彼もが地に付した。

    「ガァ……」

     完全に息の根を止める前に逃げられているのは把握していたが、全員を殺すのは切りがない。
     だからこそ本来の目的に標的を切り替えた。
     ほんの僅かに見えた、目を焼き焦がす程の光を発する場所を目指して――。

    「ガッ!?」

     突如として、意識の外から側頭部目掛け銃弾が突き刺さる。
     崩れた体勢をすぐさま立て直し、銃弾の飛んできた方向を確認する前に、第二者が現れる。

    「かぁははははははははっ!!」
    「グゥウガァアアアアアアッ!!」

     響き渡る狂笑と咆哮。
     何度目かの衝突は、奇襲を仕掛けたツルギが先手を取った。

     放たれる散弾を前に、近づくように地を滑る事によって回避する。
     観客席から跳び込みながらショットガンを撃ったツルギの身体は未だ空中にあり、そこを見逃す程化け物も甘くはない。
     クレー射撃のように、無防備な的に向かって引き金を引いた。

    「ぬりぃなああああぁ!!」
    「ガアアァ……」

     だがツルギも勢い任せに跳んだ訳では無い。
     自身の翼を振り回し軌道を変え、放たれた散弾を避け無事闘技場へ着地したのだ。

  • 88125/06/29(日) 22:08:58

    「うふ、きぃへっへっへぇ……」
    「……」

     笑って見せるものの、ツルギの体調は万全からは程遠く。
     何度も倒れ、何度も同じ格上と戦い続ける……ツルギにとって、滅多にない経験だった。
     だから、意識的に笑った。
     ただ暴れるだけでは足りない、ただ意識的に動くだけでは届かない。
     全力で暴れながら、尚且つ意識的に目の前の敵を攻略しなければ勝ちの目が無い事が十二分に分かったから。

    「さあ! 暴れる時間だ!!」
    「ガアアアアッ!!」

     ツルギは吠え、目の前の敵に向かって駆けだす。
     対する化け物は何処か意識を散らしているようで、目の前のツルギに集中していない事が分かる。
     ハスミの不意打ちが効いているのだと自然と笑みが零れてしまうが、持ち直すように作った狂笑を浮かべる。
     自慢のショットガンをぶっ放しながら、地面を蹴飛ばし砂埃を巻き上げる。

    「けっへっへ……」
    「――ガアアアッ!」

     散弾は、当たった。
     だがハスミの援護射撃はしゃがんで躱されてしまう。
     曲げた両足をバネにして砂塵を突っ切り、ツルギへと勢いよく迫る。
     自然と受け止めようとする身体を制御し、暴れ出しそうになる体を抑えてじっと化け物の軌道を見つめる。

    「げへへへへへへへっ!! 死ぃねえ!!」
    「ガゥ!?」

     振り被った拳を紙一重の間合いで後方に避け、無防備になった顎目掛けて膝でかちあげる。
     反応できないまま転がっていく化け物に散弾をありったけ撃ち込むが、まだ倒れない。

  • 89125/06/29(日) 22:09:59

    「――ぎ、ぎひひ、ひっひっひ……」
    「ガッ!」

     先程の一撃が酷く効いたのか、ツルギに対し勢いよく近づくことは無くなった。
     けれども幾ら射撃を重ねようが徐々に間合いを詰められ、一方的に殴られそうになる。
     化け物が懐に入った所を狙って、ハスミが援護射撃を加えているおかげだ。

    (……不味いな)

     ミカに偉そうに言ったが、ツルギ本人もとうの昔に限界を感じていた。
     補給した弾薬も底を尽きかけ、自分の動きも悪くなっているのがありありと理解出来た。

    (倒れれば次は無い、か……)

     自然と険しくなっていく眉間に、重くなる両手。
     僅かに敵から意識を逸らした瞬間を狙い、化け物は次の武器を取り出していた。

    「なっ――」
    「ガアアアアアッ!!」

     それは何処からか取り出した拳銃。
     今の今まで見せなかったサブウェポンが火を噴き、ツルギの握るショットガンが手元から離れた。

     ツルギの視界を攪乱する為、顔目掛けて乱射しながら化け物が距離を詰める。
     すぐさまハスミからの援護射撃が入るが、残弾の無い拳銃が投げられライフル弾が逸れる。

     一丁のショットガンでは、止まらない。
     迫りくるマゼンタ色の光を前に、ツルギは少し前の出来事が走馬灯のように脳裏を駆け巡っていた。

  • 90125/06/29(日) 22:11:08

    「――いひ、いひひひひひひひっ!!」

     ツルギは、笑って見せた。
     ショットガンを手元から飛ばされたのは初めてではない。今回二度目で。
     この迫りくる状況で、先程ぶん殴られた光景がフラッシュバックした。

     ならばと、化け物の握るショットガンを見つめる。
     そこから手が離される瞬間を、待ち望むように。

     そして、ツルギは賭けに勝った。

    「ひひひ……ああぉ!!」
    「グッ……」

     下へ下へと落ちていくショットガンを目で追うことなく、正面で拳を構える化け物を見据える。
     振り抜かれる拳を躱しながらお返しと言わんばかりに化け物の下顎をかちあげた。

     後方へ浮き上がる化け物の体躯を見つめていたツルギは――突如として襲った腹部に対する衝撃に驚く事しか出来なかった。

    「……あぁ?」

     見れば、化け物が落としたショットガンが腹に突き立てられていた。
     浮き上がった衝撃に合わせショットガンを蹴り込んだのかと、読み解くことは出来た。

     だが、次の一手はどうしても遅れてしまったのだった。

    「はっ……ぐおおおおおおっ!!」

  • 91125/06/29(日) 22:12:10

     バク転の要領で地に手を衝いてツルギが殴った勢いを殺し、地を蹴りツルギがショットガンを退ける前に引き金を引いたのだ。
     最後の意地、吹き飛ぶツルギは化け物に一撃加えようと片足を振り上げたが――二度目は、避けられてしまった。

     観客席の壁に叩きつけられ、力なく倒れ込むツルギ。
     トドメを刺そうと僅かに足を動かせば、乱射されたライフル弾が化け物を襲った。

     けれど余程焦っているのか、僅かに照準がズレ化け物に掠りもしていない。
     撃っている人間が何処に居るのか確認するように射撃地点を見つめた後、倒れ伏すツルギへと近づいていった。

    「――皆様、今です!」
    「グアッ!?」

     化け物の足音のみが響いていた闘技場内で、少女の号令が木霊する。
     観客席を覆う――とまではいかないが、相応の人数が化け物に照準を合わせて銃を構えていた。

     遮蔽物も無い四方八方からの銃撃。
     万全であれば問題なく対処出来たかも知れないが、既に幾度の戦闘を重ねた後。
     化け物は確かに被弾を重ねながらも、周囲のシスターたちに反撃を返す。

    「例え貴方が埒外の存在とて……無尽蔵に、永遠に動き回れる訳では無いのでしょう。その傷ついた体で、一体何時まで踊っていられるでしょうかね?」
    「ガアァ……」

     態々銃撃を止め、煽る様に化け物に対し宣誓をする。
     その傲りともとれる態度に、化け物はただ唸ることしか出来なかった。

     ヒシヒシと化け物からの視線に内心怯えながらも、横目でツルギの方に視線を向ける。
     そこにはシスターフッドに助力を申し出て、ここまで案内してくれた仲正イチカがツルギを運んでいた。

  • 92125/06/29(日) 22:13:13

    「――さて」

     今すぐ跳びかからんとする化け物の圧を感じながら、サクラコも銃を構えた。

     思う事など幾らでもある。
     フィリウス派のクーデターはどうなっているのだとか。
     ミネ団長が死亡した噂はどういうことなのか、だとか。
     ミカさん、セイアさんは無事なのか、だとか。

     思うことは幾らでもあった。
     だが、それが些事に思える程の脅威は、確かに目の前に居るのだ。

    「このトリニティに破壊と混乱を巻き起こしたその罪を」

     サクラコは、誤解される事が多い。
     けれども、今回の件に関して一片の誤解も許さないと言わんばかりに、審判を下した。

    「――命を持って、償いなさい」

     再び、引き金に指先が添えられる。
     呼吸すらも許さないと、極限まで張り詰めた空気は化け物のリロードによって、その火蓋が切られた。

  • 93125/06/29(日) 22:16:37

    ツルギさん強すぎるので途中で描写カットしました
    多分もっとねっちょり書いてたら+1500位増えてました

    でもツルギならこれくらい耐えてくれる派の私が囁いて来るのが問題です、すみませんでした

    漸く最後の戦闘シーンです……長い……
    でもホシノならこれくらいしないと殺せないと思う派の私が

    本日はここ迄です、お疲れ様でした

  • 94二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 02:39:46

    更新ありがとうございます。
    テラーという強敵相手に力加減のリミッターが外れたと思えば納得できますし、ツルギ先輩はかっこいいと思いました。

  • 95二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 07:07:00

    朝ほ

  • 96二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 07:11:59

    よく考えたらエデン条約がポシャったのはベアおばのせいだしホシノ*テラーが暴れてるのは地下生活者のせいだしでトリニティ崩壊はゲマトリアが元凶じゃね?

  • 97二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 16:24:19

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 19:07:09

    >>96

    お気づきになられましたか…

  • 99二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:31:01

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:39:34

    ざっぱーん

  • 101二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 19:52:14

    待機

  • 102125/07/01(火) 21:32:08

    残業のクロスカウンターで更新できない……
    既にプロットは書きたいところまで書けてるので後は肉付けするだけなんだけどな……
    明日は確実に更新します、ごめんね

  • 103二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 06:57:38

    ゆっくり自分のペースで書いてください

  • 104二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 07:10:55

    しゃあっ 更新待機

  • 105二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 16:29:03

    ホッシュ

  • 106125/07/02(水) 19:01:06

    >>92

     一斉射による面制圧は機動力が落ちた化け物にとって無視できない攻撃へと変わっていた。

     正確無比とは言い難く、化け物が移動した残像を追って、もしくは移動先を予測してばら撒かれる弾丸を全て避けることは至難の業だった。


     荒れた地面を駆けながら、化け物はシスターを撃ち倒していくが無駄だと言わんばかりに別方向から次々シスターが化け物目掛けて銃弾をばら撒いて来る。


     埒が明かない。

     戦闘の経験がこのまま磨り潰される予感を感知し、化け物は観客席に飛び移ろうとして――観客席の椅子を蹴り飛ばして闘技場の舞台へと戻って行った。


    「……本当に、勘が鋭いんですね」


     再び闘技場内で撃たれ続け駆け回る化け物を見下ろしながら、振り下ろした錫杖をヒナタは構えなおす。

     ヒナタだけではない。

     観客席には等間隔に錫杖や三叉槍を持ったシスターが潜んでいる。


     化け物が観客席に上がってこれば一瞬でも動きを封じ、至近距離の一斉射でトドメを刺せるようにと。

     万全であれば通用しない作戦だが、連戦に次ぐ連戦をした化け物には十分すぎる策だった。


     けれども永遠に化け物が闘技場で踊ることが出来ない事と同じように、シスターたちの弾薬も永久に補給出来る訳では無い。


     だが、サクラコは断罪の宣言をした。

     その意図が示されたのは、現状を打開すべく化け物がマゼンタ色の光を纏い雄叫びを上げた時だった。


    「擲弾、投射!!」


     今まで銃撃を加えていたシスターが隠れ、更に一段上に隠れていたグレネードランチャーを構えたシスターたちが顔を出す。

     放たれる光を爆炎で掻き消すように、雄叫びを炸裂音で打ち消すように、化け物を中心として連続した爆発が続く。

  • 107125/07/02(水) 19:02:07

    「そこっ、E,Fチーム方面!」

     まるでタクトでも振るうように、サクラコが化け物の逃げ先を指し示す。
     爆心地から駆け出す化け物を先回りするようにシスターたちは銃を撃ちこむ。

     自然と制限される逃走経路に嫌な予感を覚えた時には、既に遅く。
     壁際に縫い付けられるかのように、化け物の周囲にグレネードがバラ撒かれていた。

     進まなければ当たらない位置。
     だからこそ、化け物は思わずその場に立ち止まってしまった。
     直後爆炎を上げて炸裂するグレネード。

     その爆音に紛れ、駆け出していた存在に気付くのは頭上に影が生まれてからだった。

    「ガッ!」
    「サクラコ様!!」

     錫杖を槍のように構え、地面と串刺しに勢いで化け物に突き立てたヒナタ。
     直前で錫杖を防ぐことは出来たが、ヒナタの力も有って化け物も易々と弾き返す事は出来なかった。

     これぞシスターフッドに伝わる格上殺しの一つ。
     行動を制限し、仲間の犠牲も厭わぬ、闇に隠されたシスターフッドのもう一つの顔。
     後は自身の弾丸で元凶の息の根を止めれば、それで――。

    【――シスターフッドは変わって行ってるのです、より良い方向に】
    「――」

     引き金を引く直前、何故かナギサの言葉が脳内に響いて来た。
     変革を台無しにするサクラコを責め立てるように。

  • 108125/07/02(水) 19:03:10

    (――違います! ナギサさんは……!)

     そんな酷い事は言わない。
     ならば、この声の正体は。

     言わずとも分かる。
     未だに迷っているサクラコ自身の嘆きが思い起こさせてしまったのだ。

     殺す以外の選択肢もあるのではないかと、シスターフッドを再び忌まわしき過去と同じような目に遭わせても良いのだろうか、と。
     冷たくなったナギサの顔、シスターフッドの健やかな繁栄と栄光を願われた最後の言葉、反するように邪道へと落ちていく私たちの姿。

     ……殺したくない。

     そんな一瞬と言うには少しだけ長すぎる葛藤は、絶好の機会を不意にしてしまった。

    「――サクラコ様ぁ!!」
    「っ!?」

     ヒナタの痛烈な叫びによって現実へと引き戻される意識。
     と、同時に。目の前に迫ってきていた物体を回避出来たのは奇跡……否、ヒナタの叫びのおかげだろう。

     地面に押さえつけられていた化け物は、錫杖の先端を砕きながらヒナタを弾き飛ばし、握っていたEye of Horusをサクラコに投擲したのだ。

     サクラコの明確なミスに、周囲のシスターは困惑の瞳をサクラコに集めていた。
     だがその非難の籠った眼差しすら吹き飛ぶほどの衝撃が周囲を襲った。

  • 109125/07/02(水) 19:04:11

    「グルゥ――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

     今まで薄れていた筈のマゼンタ色の光が吹き出し、溢れ、化け物を覆う。
     例え二度と元の居場所に帰れなくとも、例え一言も言葉を交わせない可能性があろうとも。
     例えこの身がどうなろうとも――化け物は奇跡を掴みたかった。

    「な、なんですか……アレは……」

     変貌した化け物を前に、マリーは怖気の混じった言葉を漏らす。
     それは周囲も同じ気持ちだった。
     先程まで人型を維持していた筈の生き物が、今は四つ足の畜生に変わって周囲に鋭い眼光を飛ばしている。

     頭部は人で、体は獣。
     言い表せぬ嫌悪感が湧いてくるのも当然の話だった。
     誰もが静観せざるを得ない現状に、唯一状況を動かせる獣はその足を僅かに曲げた。

    「ぃっああああああああっ!?」
    「「「!?」」」

     突如、獣が消えたかと思えば、観客席の一角から悲鳴が轟いた。
     複数のシスターの両腕がズタズタに裂かれており、夥しい程の出血をしながら銃を手放して痛みに呻いていた。

     ――傷口は浅い、けれど。

     気絶をしていない、痛みに叫ぶ余裕がある、幾らでも再起可能な怪我であるとサクラコは判断が付いた。
     しかし、残光しか目に映らない程の速度で大勢のシスターたちが傷付けられていく。
     今この瞬間だけで言えば、全体の半分を戦闘不能に、もう半分を恐慌状態に陥らせていた。

  • 110125/07/02(水) 19:05:13

     立て直さねばならない。自身の迷いによって生んでしまった失態なのだ。
     だがどう言葉を投げるのが正しいのかが、分からない。

     ――瞼の裏に浮かぶのは、傷だらけになりながらも檄を飛ばし統率を取り戻した苛烈な炎の姿のみで。

    (わたし、には……ナギサさんのようには――)

     今尚行動に移せない自分に絶望する。反して迅速に動いていた光景に目を焦がす。
     今尚悩み続けている自分に失望する。反して苦悩を見せずに事態の対処を熟していた過去に目を焦がす。
     今尚打開策が見当たらない自分に唾棄する。反して――反せず、憎み続けた自身を彼女はどんな対処をした?

    「ひっ……やっ、ぁあああああああああ!!」
    「あ――」

     近くに居たシスターたちが悲鳴を上げて、漸く意識が浮上した。
     顔を上げ、眼の前で輝く光に視線が吸い寄せられる。

     それは確かに死の化身のようで、それを受け入れる事こそが正しい様に思えてしまって。
     耄碌した心はそんな見当違いの答えを出して、サクラコは呆然と突き立てられる爪を眺める事しか出来なかった。

    「――シスターサクラコ!!」
    「……ヒナタ、さん?」

     サクラコの心臓を貫こうとした爪先は、ヒナタの錫杖によって防がれた。
     錫杖が僅かに押し返すと、獣はすぐにその場を飛びのいて闘技場へと離脱した。
     最低限の安全を確認し、横目でサクラコを見て、すぐ視線を戻して続けた。

    「シスターサクラコ、今一度、退いてください……少しばかりなら、足止めだって出来ますから」

  • 111125/07/02(水) 19:06:15

     その表情を、窺い知ることは出来なかった。
     ただ有無を言わせぬヒナタの決断を覆す程の答えも、サクラコは持っていなかった。

    「――シスターマリー!」
    「はっ、はいっ!」

     負傷して、とりわけ一人で動けないシスターたちを戦線から離脱させていたマリーは突如その名を呼ばれ驚きながらサクラコに返事を返す。

    「HQへ、一緒に来て下さい」
    「わ、わかりました!」

     観客席から姿を消そうとする二人を、獣は見ていなかった訳ではない。
     無防備な背中に傷をつけてやろうと、地を駆け一足飛びに接近する。

    「――行かせません!」
    「グルゥァアア!!」

     マリーの背に迫った鋭い爪は、近くの負傷したシスターがその身を呈して妨害する。
     獣の雄叫びが間近に迫り振り返るマリーの足が思わず止まるが、件のシスターは笑ってマリーを見送った。

    「っ……すみません!」

     直後に背後から銃声が鳴り響く。
     マリーが観客席と外を繋ぐ通路を渡り切った後、近くで爆発が起こり天井が崩落した。
     観客席へ続く通路が瓦礫によって塞がり、もう獣が追ってくることは無いと理解する。

     表情を固くしながら、マリーはHQ……正義実現委員会の仮拠点へと向かう。
     心配も感謝も、今は不要な感情で。必死に繋いで貰った今を生かす為に、マリーは駆けて行った。
     ここで立ち止まっている暇など、無いのだから。

  • 112125/07/02(水) 19:08:10

    思い付きで展開考えすぎなんだよね
    でもシスフモブが決死で味方庇ったりするのが唐突に見たくなりました
    大枠に影響はないです
    今回はここ迄です、お疲れ様でした

  • 113二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 20:26:07

    お疲れ様です。ナギサの死の影響が大きい……

  • 114二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 01:31:18

    次も待ってます

  • 115二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 11:15:27

    保守

  • 116二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 20:24:40

    おじさん一人でボロボロになってるのこわ

  • 117二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 01:36:23

    待機

  • 118二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 10:57:02

    ほっしゅ

  • 119二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 20:09:30

    このレスは削除されています

  • 120二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 01:36:23

    そろそろ佳境かね

  • 121二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 09:05:38

    騒動が一段落した辺りで一気に崩壊しそう

  • 122二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 18:41:15

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 22:42:11

    待機

  • 124二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 08:02:24

    ほしゅ

  • 125二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 15:57:55

    ハーバー・保守法

  • 126二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 00:32:22

    ホシュ

  • 127二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 09:40:32

    期待

  • 128二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 18:57:59

    補修

  • 129二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 00:39:04

    スレ主さん音沙汰ないが大丈夫かね
    いきなりのこの暑さでやられてないと良いけど

  • 130125/07/08(火) 08:54:28

    全然ツモらせてくれない麻雀に制作時間の五割くらい奪われてました、ごめんね
    今ツルギの代わりのヒナタの戦闘描写を書いてますので、もうちょっと待ってね

  • 131二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 17:53:04

    ポンにゃ!

  • 132125/07/08(火) 22:24:33

    >>111

     声をかけたマリーが襲われて、周囲がそのフォローをして。

     サクラコの胸中には言い知れないドロドロとしたものが溜まって行っているのが分かった。


    「サクラコ様も、早く」

    「ヒナタさん……ご武運をっ……!」


     獣に撃ち続けていたマガジンを交換しながら、ヒナタはサクラコを急かした。

     全員を安全圏に――なんて、そんな夢物語な欲が漏れ出る前にサクラコも観客席を後にする。


     背後から遠ざかっていく足音に安心しながらも、汗を滲ませながら獣の方を見やる。


    (とは言いましても――)

    「ガアァオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

    (アレ相手に、どれだけ持ちこたえられるでしょうか……)


     マリーが通った連絡通路付近に居るシスターたちは、皆既に気を失っている。

     今遠吠えを上げている獣が、周辺のシスターたちを蹂躙したのだ。

     まるで恐怖を振り撒く叫びだと、思わず震え出しそうになる体を抑えながら銃をホルスターに仕舞い、先端の欠けた錫杖を両手で握りなおす。


    (見てから避けられた……ならば誰かが、あの獣を押さえなければなりません!)

    「参ります!」


     怖気を振り切る様に、ヒナタは駆け出す。

     既に獣は近くに居る別のシスターたちを襲い、悲鳴を轟かせている。

     近くに三叉槍を持つシスターも居るが、何度か空振りした所で武器を持てない程に傷つき、その身を縮こませながら痛みに呻いていた。

  • 133125/07/08(火) 22:25:33

    「失礼!」

     気絶したシスターの近くに転がっている銃を蹴り上げ、残っている残弾を適当に獣に向かってばら撒く。
     殆どのシスターたちが倒れ伏しているおかげか、フレンドリーファイアこそしなかったが、余裕をもって此方を見る獣にも銃弾は当たらない。

    「えいっ!」

     残弾の無くなったアサルトライフルを手放し、獣に向かって蹴りつける。
     が、銃弾よりはるかに遅いその銃に易々当たる獣ではない。

     悠々とその身を翻し、僅かに四つ足全てが地面から離れたのが見えた。

    (――これなら!)

     獣に空中機動など出来まい――アサルトライフルを手放した時、ヒナタは自身のマグナムを手早く掴みアサルトライフルを蹴り飛ばした頃には獣の着地点に狙いを定めていた。
     マグナムが火を噴き、致命打には成らずとも確実に負傷させる――筈だった。

    「なっ……」

     地面に着地する直前、獣はモーターのように空中で乱回転した。
     落ちる筈だった肉体は重力に逆らい、僅かに軌道を変えてヒナタの渾身の一撃を紙一重で躱した。

     不味い――。
     そう脳が判断を下すと同時にマグナムを乱射するが、獣はヒナタの撃つ弾丸をすり抜けるようにして躱しながら一気に距離を詰める。

    「ひゃっ!?」

     裂かれるような痛みと共に、ヒナタの手の中が軽くなる。
     高速で走るテールランプの様な残光に誘われるように振り向けば、獣がヒナタのマグナムを咥えながら見下ろしていた。

  • 134125/07/08(火) 22:26:33

    「……っ!」

     見えなかった。獣が手を裂いた瞬間を。
     見えなかった。獣が自身の銃を盗んだ瞬間を。

     すぐさま錫杖を構えるが、動けない。
     此方から追っても、到底追いつけることの出来ないスピードだ。

     生唾を飲み込みながら、獣の一挙手一投足を見逃すまいと睨みを利かせる。
     そんなヒナタを気にも留めずに、獣は咥えたマグナムを地面に落とし前足で傷をつけていく。

     ヒナタは……それを黙って見ていた。
     酷く腹立たしいし、黒い感情が芽生える自身をハッキリと自覚してはいたが気を取られている余裕が無かった。
     何よりその銃を弄ぶ行為が――ウォームアップの様に見えてしまったから。

     そしてヒナタの予想通りに、獣は前足で銃を思い切り踏みつけて――跳んだ。

    (はやっ――!)

     真正面から跳び込んできた獣の姿は確かに捉えていた。
     だが、振り下ろした錫杖には掠りもせずに、残光と共に照らし出される新たな傷だけが獣が通り過ぎた事だけを伝えていた。

    「……うぅ」

     光を追って振り返るが、獣は既に動作を終えて此方を観察し続けている。
     風貌の異形さ、手の届きようもない圧倒的な速度、体の芯まで凍らせるような雄叫び。
     ヒナタは恐怖で動けなくなりそうになる心を奮い立たせ、必死に、そして再び、錫杖を構えなおす。

     獣に敵わないと知りながら。

  • 135125/07/08(火) 22:27:36

    明日は必ず更新するよ、出来なかったら麻雀でボロ負けしてると思って貰って構わないよ
    今回はここ迄です、お疲れ様でした

  • 136二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 07:19:55

    お疲れさまです
    楽しみに待ってます

  • 137二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 17:02:44

    待機

  • 138二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 22:39:53

    麻雀で素寒貧にされてそう

  • 139125/07/09(水) 23:04:26

    >>134

    「くぅ……! いったっ! このぉ!」


     眼の前を過ぎる残像、残光。

     振り下ろす錫杖の先には虚空しか無く、獣に翻弄され続けながらもヒナタは何とかその場に立ち続けることが出来ていた。

     だが、ツルギの様な治安維持部隊でも無いヒナタには逆転の手立てが思い浮かばない。

     ジリ貧だ。荒い息を吐き出しながらも闘志を燃やし、なんとか獣へと錫杖を構える。


    (……援軍は、望めそうにありませんね)


     正義実現委員会は壊滅状態。救護騎士団は後方支援で手一杯。我々はこのざまで――他は?

     一応、頭数と言うのであればサンクトゥス派の人達が無事だった筈だ。

     けれども、戦闘経験は薄いだろう。

     誰かこの獣を押さえられる人が居れば一山幾らの攻撃部隊でも使い物になるだろう。

     だがそんな人材は――。


    (ETO機構なら!)


     そうだ、居た。戦闘経験も問題なく、頼っても問題ない組織が一つだけ。

     ……たった一つの欠点を除けば。


    「グルルルッ」

    「うぅ……!」


     唸り声と共に、獣の姿勢が低くなる。

     先程刻みつけられた全身の傷が痛むような気がしながらも、ヒナタは獣に踊らされるしかない。


     たった一つの欠点。

     それは、呼んでくるまでの間――誰がこの獣を止めるのか。

     そんな至極当然で、仲間たちが周囲で倒れているヒナタにとって文字通りの死活問題が重く圧し掛かった。

  • 140125/07/09(水) 23:05:28

    (わ、私が最後まで……? む、無理です!!)

     歯を食いしばり、錫杖で獣の攻撃を防ぎ続けるが、その全てが防げるわけではない。
     そして、高速で振るわれる爪を予測しながら錫杖で庇う、そんな真似が一切の消耗をせずに行えるわけがなかった。
     精神力が摩耗しながらも、ヒナタは必死に探し続けていた。

     この獣を倒す方法を。
     少しでもダメージを当たる方法を。

     そして、見た。

    「――皆さん! 私ごと、発砲を!!」

     残光の奥で、手出し出来ぬまま此方を見つめる仲間たちの姿を。
     僅かでも弾丸を当てられればどれ程通用するのかが分かる。
     そうでなくとも、乱射されればそれだけ獣の逃げ道を塞ぐことが出来る。

     そう、思っていた。

    「ガァ!」
    「えっ――」

     突如、獣はヒナタから距離を取り、銃を構えだしたシスターたちに視線を向けた。
     まだ、撃ってすらいない。準備する音も碌に此方に響いていなかったと言うのに。
     なのに、何故。

     獣の横顔を呆然と見つめ、マゼンタ色の光を吹き出しながら低くなっていく体制に悪寒が走る。
     そこで靡いた髪の隙間から耳が見えた。

  • 141125/07/09(水) 23:06:29

    「まっ、み、みんな逃げてぇ!!」

     咄嗟に獣に体当りを仕掛けるが、もう遅かった。
     獣は引き絞られた矢のようにヒナタの横を通り過ぎ、一つの光点と成ってシスターたちの間を駆け回り、子供が引いたぐちゃぐちゃの線のような残光だけが瞳に映った。

     シスターたちの絶叫が観客席を包みながら、ヒナタは唇を噛みながら獣を睨みつける。

    (人の頭をしているのならば……私たちの言葉の意味を分かる可能性は、確かにあった……! それを軽んじて――)

     ヒナタの後悔など知ったことでは無いと、返す刀で獣はヒナタに襲い掛かる獣。
     精彩を欠いたヒナタの防御など無いも同然と言わんばかりに、腕に、足に、体に生傷を増やされて行く。
     だが、ヒナタは体以上に、心が痛かった。

    「たあっ!!」

     やけっぱちの様に見える、渾身の振り下ろし。
     事実、ヒナタはこれ以上耐えられる気がしなかった。
     一か八か、破れかぶれの一撃だった。

     獣は――あろうことか、回避ではなく迎撃を選んだ。
     振り下ろされる錫杖に合わせ、自身の前足を突き出す。

     ヒナタに軍配が上がりそうな衝突は、錫杖が折れた事によって決した。

    (……あぁ、そう言う事ですか)

  • 142125/07/09(水) 23:07:30

     不運だの不幸だのと言える決着だったが、ヒナタは見誤らなかった。
     恐らく、獣は錫杖で防がれる度、何度も同じ場所を攻撃していたのだ。
     勝てる見込みがあったからこその衝突。
     自分とは自力、経験、何もかもが足りていなかった。

     やけに緩やかに流れる時の最中、ヒナタは歯噛みし――次の瞬間には空高くかち上げられた。

    「――がっ!!」

     空中で動くことすら出来ず、ヒナタは頂点から地面へと叩きつけられた。
     呻き声一つ漏らし、何とか立ち上がろうとするが……もう腕すら動かなかった。

    (……だ、だれか)

     朦朧と、消え入りそうな意識の中、ヒナタは願った。
     自分の為ではなく、仲間のシスターたちの為に。

     誰かこの獣を止めてくれと。
     既に意識の落ちたシスターたちの命が悪戯に刈り取られぬのように、誰か……と。

     ヒナタの祈りは――誰にも届かなかった。
     一歩一歩、此方に近づく獣に対し力無く睨みつける事しか出来ないヒナタ。
     その前足がヒナタの息の根を止める為に振り下ろされるのだろうと、僅かに潤んだ瞳で見つめて……目を閉じた。

     覚悟があろうとも、痛いのは、怖い。
     そうして一秒、十秒と時間が過ぎ――ヒナタはまだ生きていた。

  • 143125/07/09(水) 23:08:31

    「……ぅぇ」

     手放しかけた意識を何とか手繰り寄せ、瞼を開く。
     眼の前に居た獣は此方ではなく、闘技場の方へ視線を向けていた。

     一体、何が。
     残った力を振り絞り動かした視線の先には、満点の輝きを放つ光輪を携えた人が居た。

     その暖かな光を浴びて、ヒナタの意識は完全に闇に落ちた。

     ヒナタの祈りは誰にも届きはしなかった。
     ただ、バケモノを止める為に動いていた奴は居たのだ。

  • 144125/07/09(水) 23:10:20

    今日はそこまで嵌らなかったよ、助かった……
    これで漸くシスフの戦力削り切った……後戦闘描写は一回で終わりかなあ?
    実質的な奴はそうだけど、作戦会議含めるとまだ結構あるかも……?
    くだくだでごめんね
    今回はここ迄です、お疲れ様でした

  • 145二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 07:17:48

    乙乙

  • 146二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 07:23:12

    もしかしてトリニティを滅ぼそうとしてるのって>>1

  • 147二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 16:12:14

    保守

  • 148二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 22:26:33

    >>146

    おそらくナギちゃんが入水するところを見たいだけで滅ぼしたかったわけじゃないと思う

  • 149二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 07:41:59

    まさかそんな支離滅裂な…

  • 150二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 16:19:50

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 16:20:27

    まあユーゴスラビアを統治してたチトーみたいな規格外の有能独裁者でも無い限りは、トップが急逝しても国が滅びるなんてことは普通はない訳で…

  • 152二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 23:47:49

    お疲れっすー

  • 153二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 08:47:13

    捕手

スレッドは7/12 18:47頃に落ちます

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