【閲覧注意】ヘルメッポ・スパンダム「「七光りのバカ息子」」【part2】

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:27:28

    昔々。この緑深い島には、教養深い王様と王妃様が収める王国がありました。


    彼らは内政が得意で、周辺国との戦いをあの手この手で避けながら金銭を上手く取り回し、島全体を豊かにしていきました。

    特に島北部にある森の湖周辺の木々から採れる大ぶりのくるみとそれを割るために作られる立派なくるみ割り人形は、王様が島の名産として大々的に祭り上げたこともあり、島外でも大変重宝される品となりました。


    全てが順調でした。






    ──その跡を継ぐ美しい王太子が、あまりにも平凡な才能しか持たぬ者であったこと以外は。


    【前】

    【閲覧注意】ヘルメッポ・スパンダム「「七光りのバカ息子」」|あにまん掲示板ヘルメッポ「被害者の特徴は20代から50代前半くらいまでの男性。あってないようなもんだなァ」コビー「このままじゃ尻尾を掴むどころじゃないね。一旦情報収集に集中しなくちゃ」★☆天竜人「──島のくるみ割り…bbs.animanch.com
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:37:39

    両親は政務に忙しく王太子に関わることができなかったため、王の臣下たちが彼の教育を担当していました。
    王太子が凡人であることを、教育を開始した臣下たちはすぐ理解します。
    しかし、誰もその事実を受け入れることはありませんでした。

    考えてみてくれ。
    優秀な王と王妃の子を平凡に育ててしまっては、まるで自分たちが無能であるようじゃないかね?

    王太子を優秀にしようと、臣下たちは大変厳しく苛烈な教育を施します。
    無理を強いられた王太子は、優秀になるどころか疲弊してますますおちこぼれていきました。
    彼にとっての唯一の救いは、教材の一部として与えられていたメルヘェン。童話やおとぎ話です。
    現実が厳しくなればなるほど、王太子は空想の世界に傾倒していきました。

    そしてとうとうやって来た王位継承の前日、王太子は言いました。

    「ようやく私が何者なのか、理解した」
    「私はあの人たちの息子じゃない。優れた子供を羨んで王子へ成り代わった、くるみを割れない、醜く役立たずのくるみ割り人形なんだ」……と。

    ……王太子はとうとう現実の前に折れ、夢の世界へと逃げてしまったのです。

    困ったのは臣下たちです。
    王たちの引退までは王太子を脅して言いくるめて、なんとか誤魔化すことができましたが、それ以降はどうにもなりません。
    "自分はくるみ割り人形だと主張する王"は、よい意味でも悪い意味でも話題になりました。
    荘厳に建て替えられた王城へ数多くの作家や音楽家を呼び寄せ、そこへ民を招いてもてなす一方、その費用のために税を増やしたり臣下への給金を下げたりとなかなか好き放題に振る舞います。
    しかし僅かな正気の間に無難な政策を立てるため、国内外共に悪い評判ばかりでないのが臣下たちにとっては質が悪い話です。

    疲弊した臣下たちは、前王らに指示を仰ぎました。
    前王らはかなり彼らに都合よく脚色された話を臣下から聞いて、鵜呑みにし、王太子に失望します。
    王太子から直接話を聞こうとはしませんでした。
    自分の子より国を育てることばかりに執心してきたのです。自分たちの種から産まれた以上の情報を持たぬ存在より、共に国を運営して来た部下を信じるのは、彼らにとって至極当たり前だったのです。
    容赦はありませんでした。

  • 3二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:42:42

    まず臣下に最悪な政策を王太子の名で施行して悪評をばら撒くことを指示し、民の不信を煽りました。
    すると身に覚えのないことで責められた王太子は更に自分の世界に逃避し、浮世離れした言動をするようになったため、それを風潮し王太子廃嫡の機運を高めます。
    一部の民は「あの夢見がちな王太子がそんなことをするだろうか」と疑問に思いましたが、多くがあっさりと騙されました。
    そして最後に前王らが颯爽と現れ、国家に反逆する者として"円満に"処分する運びとなったのです。







    捕らえられ処刑台に送られる王太子は言いました。

    「あなた方を騙していました。私は本物の王子ではありません、成り代わったくるみ割り人形なのです。申し訳ありませんでした」

    それを受けて、前王は告げました。

    「ああそうだ、お前は我々の息子ではなかった」

    ……くるみ割り人形の幻想は、苦い現実となってしまったのでした。



    優秀な親の子も優秀とは限らないし、良い統治者が必ずしも良い親とは限らない。
    そんな当たり前の話が産んだ悲劇でした。

    ──それで終わればよかったのですが。

  • 4二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:46:30

    せめて現実ではハッピーエンドになってほしい

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:48:46

    たて乙です
    気付いたら完結せずに前スレ埋まってて続き立つか不安だったから立ってて嬉しい

  • 6二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:54:18

    ある日。王太子の死を疑問に思い、偲んだひとりの職人が、自分が所有していたくるみの木を切り倒しそれをくるみ割り人形にして売り出しました。
    くるみの木がある湖周辺を王太子はよく好み、ボート遊びに読書に、憩いの場としていたからです。
    役に立たないからと前王たちから切り捨てられてしまった王太子の魂を、少しでも慰められればという思いでした。
    他のくるみ割り人形に混じって、それは何事もなく売れます。

    それからしばらくしたある日、民の間で奇妙な噂がされ始めました。
    「森に王太子の幽霊が出る」
    島の木から作られたくるみ割り人形に王太子が乗り移り、王太子の復讐のために動いているのだと噂がたちました。更に奇妙な話は続きます。
    ……行方不明者が出てしまったのです。それも、島でも有名な名士の優秀な息子でした。
    「やはり幽霊は居るんだ!!殺された王太子の恨みだ!!」
    憶測はまたたく間に広がり、噂では済まされない騒ぎになってしまいました。

    前王らは臣下たちから養子を迎えようとしていましたが、もちろん誰もなりたがりません。仕方なく臣下たち全員に仕事を分配し、王が不在でも成り立つ国を作り上げました。
    そうして今度こそと隠居生活を始めた前王らは、徐々に王太子の影に怯えるようになりました。
    特に晩年の狂乱ぶりは酷く「木の関節が軋む音が聞こえる!!」「くるみ割り人形が復讐にやって来た!!」と慄き、森を閉鎖し王城を捨て南側を開墾し移動してしまうほどでした。
    この時に『新しく造る城とその城下町には、くるみ割り人形を作ったり持ち込んだりしてはならない』という有名な命令が出されました。

    名産品を作るため毎日賑わっていた森は、まず一連の出来事を把握している者が近付かなくなり、噂に負けず意地でもくるみ関連の産業を続けようとしていた者も前王らの狂乱を見て次々と離れていきます。
    静かになった森には、噂だけが残りました。
    結局くるみ割り人形のせいなのか、王太子の幽霊のせいなのか、それとも別の何かが悪さをしたのか……。
    真実は分からずじまいですが、噂は隠蔽と紆余曲折を経て伝承となり島に根付きました。
    時は流れて王家の血筋は途絶えて久しく、臣下たちの子孫により無事に政は回され続け、現在の統治に至ってもなお。


    まあ随分と歪んだ形ではあるが、ね。

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:01:29

     


    「と。──島で有名な伝承の裏には、こんな悲劇的な…………な、泣いている!?」

    コビー「なんてこと……」ポロ…
    コビー(努力しても努力してもなんの結果も出ず、最期まで自分を含め誰にも認められないまま死んでいく。どれだけ辛く悲しいことだろう)ポロポロ

    「は、ハンカチーフは居るかいお客さま!?」アワワ
    コビー「ぐすっ。いえ、ぼくにはこのタオルがありますので。……街で聞いた伝承と全く違いますね」ゴシゴシ
    「いつの間にか本当の話は淘汰されたが、理由は明白だ」
    「今この島を治めている王国の臣下の子孫たちからすれば、自分たちのせいで王太子が病んで親も共倒れした話なんて、都合が悪いだろう?」
    「こう言うと子供や孫たちには偏屈ジジイ呼ばわりされるのだけどね」

    コビー(もしかして、あの噂好きの人……このおじいさんの関係者なのかな……?)
    コビー(島北部への道について詳しかったのも、そういうこと?)

    「偏屈ジジイ呼ばわりされようとも、わたしは正しい歴史はこちらだと信じているよ」
    「誰もが自分可愛さに間違えた結果の悲劇、実に人間らしいと思わないかい?」
    コビー「えっと……」
    「ふふ、冗談だよ。ちゃんと根拠があるのさ」
    コビー(全く冗談だと思ってない目をしていたぞ……)
    コビー「何か、資料などが残って?」
    「ああ。当時記された日誌に、王太子のサインが書かれた発注書なんかはもちろん、例のくるみ割り人形の実物もある。何を隠そう、わたしはくるみの木でくるみ割り人形を作った職人の子孫だからね」
    コビー「……え、ええ〜〜〜ッ!!?」

    「理由は察してもらえると思うが、彫刻家や木工師は王都を移す時、共に移動せず残る者が多かった」
    「幸い特に差別を受けた訳ではないから、ほとんどの人々は利便性目当てで後年南に移住し、元城下町は森に飲まれた。が、私は未だにここで細々と暮らしているんだよ」
    「上層部はここを悪い噂ばかりの価値がない土地として放置しているから、これ幸いと城跡を乗っ取ってね。楽しいよ、お客さまは全然来ないけど」
    コビー(な、なるほど、かなり癖がある人物だなぁ)

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:13:44

    コビー「貴重なお話にステキなお土産まで、ありがとうございます」
    「君は人が良過ぎて心配だ」
    コビー「ありがとうございます!!」
    「褒めては……いるけれど、程々にしておいた方がいいよ」
    コビー「よく言われます!!」
    「ぷっ。そうかいそうかい、若いねェ」

    コビー(そろそろヘルメッポさんのことを聞いても大丈夫かな……?)

    コビー「あのう、そういえばなんですけど」
    コビー「長い金髪で顎が割れていてサングラスをかけている男の人を、この辺りで見かけませんでしたか?一緒に島に来たぼくの友達なんですけど、連絡がつかなくなっちゃって」

    「!!!」
    コビー(あれ、表情が険しく……)

    「──あっちに森の奥に続く道があるだろう?」
    コビー「道?……道…………。え、ええ……」
    コビー(草が踏み倒されているだけにしか見えないぞ……。良く言えば獣道と言えなくもない、かな……?)
    「その先に例の湖とくるみの木々がある」
    コビー「湖?……。……ああっ!!伝承に出て来る……!?」
    「そう」
    「とりあえず今は間違っても踏み入ってはならないよ」
    「少なくともここ数日、長くて数年間。森の奥に入った若い男は、二度と生きて戻って来れないから」
    コビー「……!その話も、真実、なのですか」
    「少なくともわたしが生きて、この目で見てきた間は」
    「それで」

    「わたしがこの話をした意味、君なら理解るだろう?」
    コビー「っ!!!」

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:53:48

    コビー「なっ……」
    コビー「な、なぜ引き止めないのですか!!?奥に行った者は帰って来ないとわかっていながら!!!」
    「……そもそも止めて止まるなら、最初から声をかけているよ」
    コビー「──えっ」

    「ダメなんだ。一度森に呼ばれてしまった人へ、もう言葉は届かない」
    コビー「森に、呼ばれる……ですか」
    「森は一定周期で人を呼ぶ。何人かが帰らぬ者となった後、突然ピタリと誰も森へ寄り付かなくなる。そして何十年後かにまた森へ人が入るようになり、今度もある日突然ピタリと止まる。その繰り返しだ」
    「あれこれ手を尽くして森へ入ろうとする人を止めても、結局は吸い込まれるように行ってしまって、二度と戻らない」
    「まれに身体"だけ"戻って来る者や、消えた者そっくりの木の人形が湖の側に打ち捨てられていたこともある。過去の記録を辿れば更に色々な事例が見れるが、無事に帰って来た者は少なくともわたしが把握しているうちは一人として居ない」
    「なんなら世界政府は……いや、君のような善き若者に世知辛い話はよそう……」
    コビー「──まるで、呪いや祟りみたいだ」
    「そう、真実はともかく、傍から見た実態は完全に呪いだ。幽霊の噂が出るのも必然と言える」
    「孫は定期的に毒ガスが湧くんだとか、どっかのバカが変なものを捨てたんだとか、悪魔の実の能力者かわたしが悪戯してるんだなどと言って信じちゃくれないがね」
    「森に入る者たちのことも『一目見て危ないと分かる森に入る連中なんて、脳にシロアリが湧いたような奴ばかりだし、死んだって気にすることないでしょ〜』と罵る始末。頭が痛いよ」
    「っと、しかし、シロアリは除くとして、他は本当にそうかもしれない。何なら全てはわたしの妄想で、君の友達は何食わぬ顔で無事に戻って来るかもしれない。そうであれば……」
    「……すまない」
    コビー「いいんです。こちらこそ、責めるようなことを言ってしまって、すいません。あなたはあなたのやれることを精一杯頑張っていらっしゃるというのに」
    「本当に優し過ぎて心配だ。君のお友達が戻るように、わたしにできることならなんでもしよう」

    コビー「……では。善意に漬け込むようで申し訳ありませんが、少しの間お土産を預かっていて貰えませんか?」

    「!?」
    「ま、まさか。行く気かいッ!?」
    「せっかく忠告して下さったのに、申し訳ありませんが……」

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 01:03:58

    続きありがとう

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 01:36:31

    コビー「あともう一つだけ。戻ったら、ぼくの友達に『おかえり』とおっしゃって頂けませんか」
    「もちろんだ。気を付けて、絶対に戻るんだ。もしもがあったら、どんなに残酷に思えても、まずは自分の命を優先しなさい。共倒れが一番最悪の事態だよ。……いってらっしゃい」
    コビー「ありがとうございます。いってきます……!!」


    ★☆


    スパンダム「はぁ〜……」
    スパンダム「海兵、ちょっと距離離せ。ちょっとでいい」
    ヘルメッポ「ん?──ああ、わぁーったよ」スタスタ


    ファンク「……」ソッ

    スパンダム「……おい」
    スパンダム「ファンクフリード」
    ファンク「パオッ!」ビクッ

    スパンダム(…………。)
    スパンダム「…………来いよ」

    ファンク「ぱおーん……」フヨヨ

    スパンダム「……。」
    スパンダム「お前、アイツに……あの海兵に情が湧いているな?だろう、ファンクフリード」ボソボソ
    ファンク「パッ」
    ファンク「パォン……」コク
    スパンダム「やっぱりな」
    ファンク「……、……?」

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 06:29:16

    今のところあらすじ?

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 14:26:11

    思ったより真実のお話が胸糞だった
    ヘルメッポもスパンダムもちゃんと戻ってきてほしいしなんなら王太子の魂もちゃんと浮かばれるといいんだが

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 21:13:47

    待ってます!!

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 06:03:28

    ファンクかわいいな

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 06:50:45

    >>4

    ほんそれ

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 15:28:26

    店主めっちゃええ人や
    そしてコビー、君はそういう男だよ
    全員無事に帰ってきてくれ

スレッドは6/22 01:28頃に落ちます

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