何かあった未来のイブキ(17)がやってきたが Part6

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 08:35:39
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 08:42:12

    保守して離脱

  • 3二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 09:30:50

    待機

  • 4二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 09:43:36

    楽しみ

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 11:35:34

    保守

  • 6二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 13:20:03

    埋め埋め

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 13:50:26

    埋め

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 15:14:56

    保守

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 16:39:02

    状況は開始された。

    モエがいざという時のために用意した大量の爆発物、ヘリに搭載されていた兵器類。
    小隊は手分けをしてそれらをシロコとミカが暴れていた階に持ち込み、既に安定を失って久しい柱や壁に設置した。
    火薬量と設置場所には細心の注意を払うべきだが、今の彼女達にそんな事をする精神的・時間的余裕はない。
    とにかく早く、そしてとにかく大量に。

    シロコを加えたRABBIT小隊が作業を終え駆け降り一階に辿り着くのと、イオリ率いる軍勢がビルの直下に辿り着いたのは同時だった。
    四方八方からの攻撃に対応する手は足りないが、シロコとミカの活躍で敵の侵入を完全に防ぐ事ができていた。

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 16:46:51

    「犠牲は出したくありません。先生の提示した作戦通りに行動します。」
    「なんか先生らしくないんだよなこれ」
    「大丈夫なのかな…もし何かあったら…」
    「でもこういうの好きだよ、ゾクゾクするじゃん」
    小隊の面々の反応は疑問はあるが作戦である以上概ね同意だった。
    一方のミカは──「……」
    無言。しかしその顔は酷い顰めっ面を湛えており、言外に『こんなの先生らしくない』とでも思っているのかもしれない。
    エデン条約の時は色々あったと聞いている。最後まで生徒を救いたいと願う彼がこのような生徒を巻き込む可能性のある危険な手を手段として持ち合わせることに違和感を感じているのかもしれない。
    ちなみにシロコはこの作戦が自身を基軸としている事に些かも興奮を隠せていない。名前の通りオオカミのような野生味でも持っているのだろうか。

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 16:50:24

    そんな面々はひたすらに自称AIドローンが調整する時間まで時を稼ぐ。
    上階からありったけかき集めた弾も次第に切れ始め、とうとうゲヘナが残り数メートルまで接近を掛けて来た所でサキは思わず叫んでいた。
    「もうやばいぞ!!おいドローン!あとどれぐらいだ!!」
    [もうすぐよ!備えて!!]

    言って僅か1分。

    遂に破壊が始まった。

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 01:00:29

    ほす

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 08:28:34

    ほっしゅ

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 09:26:23

    かつて天を目指し塔を建てようとした人々は神の怒りによって言葉を乱され、塔そのものの崩壊をもってその傲慢を戒められたという。
    ──それとこれは明らかに異なる。
    人が人の手で引き起こそうとする人災。
    神も何も関係なく、ただただ愚かな人間同士の争いの副産物だ。

    イオリが天を仰いだ時、ビルは崩壊を始めた。
    上階部に設置された爆発物が計算によって時間差で炸裂。辺り一面に暴力的な爆炎と破壊を巻き散らし、階層構造を支える支柱を数階分ぶち抜いて完全に寸断した。
    もともと二匹の獣の激突によって崩壊間近だった三階分の構造はあっさりと吹き飛び、そのさらに上階部分が重量をもって下階を押し潰す。
    それだけには留まらない。
    一階層分を押し潰す重量があるという事はそのさらに下の階層も同じく潰れて行くという事だ。

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 09:29:22

    一階、二階、三階、四階… あまりにも恐ろしく悍ましい光景が瓦礫と共に生徒達の頭上に迫って来る。
    そんな現実は本来、絶対にあってはならないものだ。

    「全員退避!!退避しろおおおおお!!!」

    当然ながら既に殆どの生徒が脱兎の勢いでビルから離れ始めていた。巨大な瓦礫が天上から降って来たらどうなるか分からないほど愚かな生徒は居ない。

    ヘイローがあるとはいえただでは済まない。

    一体誰がなぜこんな事を考えた?一体そいつは何を考えているんだ?
    そんなイオリの思考は、落着した瓦礫の粉塵と後方から銃弾のように飛んで来る細かい石礫による衝撃によって暗転した。

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 09:55:29

    >>15

    イオリはホンマに搦手に対して脆弱だな…

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 15:26:07

    もしアコだったら対応できてたかもね

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 21:21:17

    保守

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 07:13:02

    保守

  • 20二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 11:27:03

    ─────────────
    残ったのは静寂と瓦礫の山。
    遠巻きに見ていたゲヘナ本隊は驚愕のあまり動けなくなっていたし、ビルの直下にいたイオリ達は奇跡的に死者も重傷者も居なかったものの、負傷者多数のうえ完全に行動不能に陥っていた。

    「し、死ぬかと思った…」
    「だからなんでお前の声にはいつも何処か恍惚感が入ってるんだ」

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 11:49:26

    モエの声に応えたサキは、自身の目の前に立つ二人の人物に向き直り声を掛ける。
    「ありがとう二人とも、助かった」
    「ふふ〜ん、そうでしょそうでしょ」
    「ん、お安いご用意」
    応えたのはミカとシロコだ。
    ドスン!と大きな音を立てて二人は協力して持っていた黒く分厚くとても重い物体を地面に下ろした。
    「私の相棒ってばこんなになっちゃってまあ…」
    「この件が終わったら先生に頼んでどうにかしてもらいましょう。」
    崩壊直前にビルから飛び出し距離を取った後、飛んでくる小破片を防いだ今では穴だらけの鋼鉄製の重い板──屋上に残したまま葬る事となってしまったモエの駆るヘリの装甲の残骸だった。

  • 22二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 20:49:48

    なんと無惨な…

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 23:34:33

    流石の先生でもヘリの補填は厳しくないかな?

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 01:12:41

    しかしまあ、どうも作戦内容が未来イブキみたいというか、こちらのキヴォトスじゃなきゃ普通に死人が出てそうじゃない?

  • 25二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 04:31:41

    ……まさか先生未来組の誰かとコンタクト取れた?

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 06:24:39

    砂漠の砂に埋もれた装甲を見やりながらサキは思う。
    下手をすればゲヘナもRABBIT小隊も何もかもを消してしまうような危険な作戦だった。そこに「やはりおかしい」という感情が強く残る。
    この点においての意見はミカと完全に同意だった。
    底抜けが付くほどお人好しで自分達のために奔走してくれたあの大人の事を「見誤っていた」とサキは思いたくはない。
    助言を貰ったとして意思決定の段階で何かがあったのではないだろうか。

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 06:26:37

    それは何か?

    サキ達が生還すること。
    ゲヘナの生徒たちも含めて犠牲者はいない…と思うがそのようになること。
    そんな風に確信を持てない状況を前提として物事が進んでいる事。
    決まる前の事を決まっている事としてレールの上を走らされるような、見えざる手が先生という『道具』を通じて全てを操作しているような、言いようのない不気味さがあった。

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 15:58:44

    保守

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 16:16:17

    おいおいマジで誰だよ黒幕は
    ジークアクスみたいな展開になってきたな?

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:58:05
  • 31二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 03:13:47

    Part6あるじゃん!楽しませてもらってます

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 08:19:49

    「あっ…ゲ、ゲヘナの部隊が動き出しました!」

    そんな思考は銃のスコープを覗くミユの叫びでかき消された。
    ミヤコの指摘がそこに被る。
    「ミユ、状況の説明は簡潔に詳細かつ正確に。」
    「あっ、う、うん…」

    先行部隊の壊滅と共に一時的な恐慌状態に陥った様子のゲヘナ本隊だったが、しばらくして正気に戻り生存者を探さなければと思ったのか一斉に崩壊したビルに向かい進軍を始めた。
    しかしどこか及び腰というか、危険を感じるようにゆっくりと慎重に歩みを進めている。
    指揮系統が十全に活かされていない。
    もしかすると今なら反撃のチャンスがあるのでは無いかとも思わせる足取りだ。

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 08:31:10

    「…どうでしょう、サキ」
    小声でサキにだけ聞こえるよう語りかけるミヤコの声は少し不安の色を含んでいる。
    おそらくここからの判断一つで小隊が全滅する可能性があるからだ。
    「上で話しただろ。やれるならやる。」
    「しかし…」
    …我らが小隊長は事ここに至っても全員の無事を優先する優しい人間だ。
    もう少し過剰に頼って欲しいものだなとサキは思う。

    だから後ろを振り返り問い掛けた。

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 08:32:53

    「…おいお前ら、全員行けるか?」

    「RABBIT3、武器は無いけどいまちょうど連中の無線を無茶苦茶にしてる。指揮系統も無いし情報も届いてないってわけ。」
    「RABBIT4、指示があれば狙います。」
    「あ、ラビット6?参謀長?まあいいや。オッケー⭐︎」
    「ん、全員泣かせる」
    [ドローンの管理は継続してる。情報収集は任せて。]

    どうなっても今は一緒に走り抜ける

    「だとさ」
    混成部隊になって少ししか時間が経ってないが、連帯感はここに至って確かなものとなった。
    眼前には大部隊。その多くを戦闘不能に陥れたこちらは無傷。士気も高く、相手方はショックと動揺で動きが鈍い。立ち向かえば小隊といえどそれなりの戦果を上げる事が出来るだろう。
    「──了解しました。」
    次に発せられたミヤコの声には迷いはない。
    迷いのないミヤコの判断は、とても聡い。
    「それでは……」


    「ここから逃げます。全力で。」

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 16:51:44

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 00:30:04

    ひとまずアビドスに撤退?

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 01:03:39

    まあ不意を打てていることを加味しても戦力差が大きいし、ただでさえアビドスとゲヘナが衝突寸前の状態でトリニティ生だのSRTだのがいたら話がややこしいことになりすぎるんだ

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 07:09:33

    =================

    「おかしい」

    『彼女』は言った。
    薄汚れ所々が歪みほつれた制服を纏い、整えることなく伸びて乱れた長い髪を地面に着けつつ、酷く栄養状態が悪く見える指を這わせ手元の画面を操作している。

    「どうして予測が外れた?」

    彼女はイブキを追って『こちら』に来た。
    そしてイブキが生きた世界の歴史を目的のためにこの世界になぞらせようとしている。
    しかし安定している『こちら』を『あちら』のようには出来ない。だから代替の事象を起こす事で出来るだけ可能な限りの方法で状況を作り上げてきた。

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 07:11:24

    ここまでは上手く行っていた。
    イブキを結束点として細かな事象を組み上げ縫い合わせ、三大校を巻き込んでついにゲヘナが武力行使に動くところまで漕ぎ着けた。
    頭数は足りないが『むこう』での全面終末戦争のミニチュア再現だ。
    予測では本来ならここでドローンが引き返して来るはずだった。
    それがゲヘナ本隊と交戦し、ウサギ達は事の終わりまで穴蔵に閉じ籠り、ハイランダーの列車が戦闘の余波を受けて脱線する。
    そしてアビドスに到着しない事で発生する事象があり、次の段階に計画が進むはずだった。
    実際彼女にはそれが『見えて』いたし、条件は全て揃っていた。
    しかし突然すべてが書き換わった。
    ドローンは引き返さず、なぜかゲヘナの部隊が分裂しビルが倒壊、いまにも洞窟に巣食っていたウサギ達は逃げ出そうとしている。

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 07:13:59

    「…まさか奴らが何かやったのか?」

    大人。つまりはシャーレの先生、そして側に仕える小綺麗で可愛い子ぶった憎々しい二匹の小娘。
    奴らが手を打ったとしか思えない。
    しかしそれはあり得ない筈だ。そんな芸当が出来るほど優れた存在ならイブキという異分子をこの時代に受け入れなどしない。
    どこから間違っていたのだろう?
    何処から?
    何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?何処から?……

    ─────思考をリセットする

    掻き毟った首筋が傷付き、皮フが破れて体液が流れて落ちた。

  • 41二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 07:15:04

    「……考えても仕方がない。」
    ならば次の手を講じるまでだ。
    協力者にはせいぜいこちらの掌の上で働いてもらうとしよう。

    目を閉じると先程まで世界の音で溢れていた周囲がシンと静まり返る。
    向こうで渦巻く怨嗟と絶望の声は、この世界に殆ど存在しない。
    全ての選択を間違い続けそこに居る彼女にはそれが酷く不快で憂鬱だった。

    そして彼女は指を振る。

    ──キヴォトスの大地に、心も魂も持たない影であり無言の異形達が立ち上がった。

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 16:26:33

    未来世界のネームドかな?
    アロナ達まで認識してるってことが不可解

  • 43二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 20:03:26

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 05:36:35

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 08:30:15

    保守の朝

  • 46二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 15:45:55

    イレギュラーは戦場の常

  • 47二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 16:26:13

    ゲヘナの生徒達は本隊から抽出するように人員を前に進めていた。
    先行した部隊の安否も分からない中ではあるが、集団として目的を果たさなければならない。
    敵の制圧と負傷人員の収容。指揮系統はとっくに崩壊の瀬戸際に立っているが依然として最高指揮官が意識を手放し空の上で遊んでいる現在、目下のところそれを果たすことが彼女達にとって唯一出来る事だった。
    しかし、かろうじて残ったその集団としての理性も遂に破綻の時を迎える。

    砂漠に『異変』が起きる。

    倒壊したビルをぐるりと取り囲むように異質な影が次々と地中から湧き出て形を成す。
    その姿は多種多様。しかしその眼窩は暗く、肌は白く、ただただ底まで無機質で、その身体から放たれる気配から命というものがまるで感じられない。

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 16:32:28

    このイブキはどれが正しいのだろうか?
    歴戦王イブキ
    極み荒れ狂うイブキ
    イブキ辿異種

  • 49二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 16:33:22

    現実を映し取った白黒写真の中の存在が湧き出て来たような光景に彼女達は戦慄する。
    そして当然だが、それを皆が覚えている。
    かつて空が赤く染まった日にキヴォトス全土に現れた異形のクリーチャー達。
    とある傀儡の姿をした男曰く──

    「ミメシス。」

    根源の感情の複製体。
    この世に顕れる隠世の影法師。

    「全て総てを薙ぎ払え。」


    攻撃を始めた影法師の軍団によって混沌の坩堝に落とされた人々は、ひたすら闇雲に火砲を撒き散らし銃火を交錯させる事となる。
    そして其処に彼方からハイランダーの車輛がゆっくりと近付いていた。

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 19:46:29

    保守

  • 51二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 21:36:51

    …でも確かにいくら先生が未来を守る為とはいえ生徒を一瞬でも危険な目に遭わせる作戦を取る訳がないと思うし
    そしてリ…AIも先生からの作戦とはいえ生徒達に敢えてそうさせるとも思いにくいんだよね

  • 52二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 05:00:45

    小鳥遊保守ノ

  • 53二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 08:35:48

    保守う授業部

  • 54二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:39:08

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 20:14:18

    ───────────

    暗く深い地下道を歩く。
    手に持ったライトが無ければ一寸先も見えない暗闇が彼女達を包んで決して離さないだろう。
    「ここっていつ頃の地下鉄なんですか?」
    響くのは身体の調子を取り戻したイブキの声。
    こんな状況だが、つい知的好奇心を刺激されたとでも言う声は少し弾んでいるように聞こえる。
    「さあ〜いつだろうね。鉄拳政治の頃だと思うけど…」
    続くのはイブキの前を歩くホシノの声だ。
    二人とも地上への脱出後に移動することを見据え荷物が満載されたバックパックを背負っているが、その声にはいずれも疲労の色は無い。

    二人の眼前にギラリと光る一閃が迸る。
    半ば道を塞いでいた瓦礫が綺麗な切断面を晒しつつ音を立てて地面に落ちた。
    「助かるよ〜イブキちゃん。やっぱり凄いねそのサーベル。」
    「気を付けて下さいね。これ、ヘイローありでも真っ二つですから。」
    「うへぇ…」

  • 56二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 20:16:34

    ヘイロー破壊兵器。
    イブキの時代で猛威を振るった最悪の兵器の一つである。
    いつ何処で手に入れたのかはもう覚えていない。気付けば銃と共にいつも傍にあったし、このサーベルのおかげで今まで生き抜く事が出来たのだ。

    「あれだけの物が崩れた影響はやっぱり大きいや。地下もこんな広範囲がぐちゃぐちゃとはね。おじさん一人だったら抜け出せなくなってたよ…」
    ホシノの言には本気の寒気が見て取れる。
    イブキはこの時代の彼女から一本取ったようで少し嬉しい気持ちになる。
    「小鳥遊さんの情けない姿、覚えました。」
    「ず、ずるいよ〜!」

    未来の話をしてすでに丸一日。
    身体にはまだ気怠さが残るが、それ以上に心と足取りが軽い。
    吐き出せなかった物を吐き出す事がイブキの精神に明らかな好調をもたらしていた。
    谷底で全てを拒絶していたのが嘘のように、イブキとホシノは道すがら色んな事を話した。

  • 57二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 20:17:43

    キヴォトスやアビドスの今。
    ここに至るまで何が彼女の身の回りで起こりどう解決してきたか。
    ホシノの知る生徒達の話、先生の話、これからどうしたいかという『未来』の話。

    「過去に干渉して私の居た未来を変えたいっていう考えは無いです。」
    「ありゃ?そりゃまたなんで?」

    過去改編によって悲惨な未来を変えて新しい平和で豊かな世界を築き上げる。SFものの定番でお約束の展開だ。
    しかしイブキの世界に関しては事情が異なる。
    歴史の転換点であるエデン条約はとっくの昔に潰え去り、このキヴォトスにはエデンなどという仮初の楽園は築かれなかった。
    神は天に居まし、全て世は事もなし。
    とっくに道から外れた世界を変えようとしても何も変わらない。
    「だけどこの世界をもっと知って、それを向こうで役立てるのは有りなんじゃないかなって。」
    「へえ?」
    ニコニコと微笑むホシノの顔と声。
    教官や参謀長が『こいついつの間にか一丁前の事を言うようになったな』という風に見つめる時の顔に近い。何か物凄くむず痒いのでやめてほしい。
    「こっちが平和にやれてる秘訣みたいな事を学んで、向こうを復興させて平和になったら…」

  • 58二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 20:19:24

    言うと同時に最後の瓦礫を切り倒す。
    暗闇の向こう。階段が見え、そのさらに上から光が差し込んでいるのが見えた。
    暗く長いトンネルの終着点。
    イブキは思う。いつか自分の旅路も光の差す地上へ抜け出せるだろうか?
    そんな思いを言外に理解してか、ホシノはイブキの進む先を催促する。
    「で?平和になったら?」

    カツン、と一歩踏み出した階段の音は硬い。一歩一歩踏み締め地上に向かう。
    青い空が見え、地上から砂漠の熱波が流れ込む。
    しかし何故かとても心地よい。それはきっと心のありようのせいだろう。

    「いつか平和になったら…」

    外の世界、1日ぶりに見た砂漠の風景。




    そして、ここからイブキの記憶は暗闇に塗りつぶされている。

  • 59二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 21:44:38

    敵襲か!? いいところでホントさぁ…

  • 60二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 02:02:04

    >>52

    保守ノ*テラー

  • 61二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 08:05:28

    ほしゅ

  • 62二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 14:39:44

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 19:24:22

    「あれ…?なんで?」

    イブキが言葉を発する前に階段を登り切ったホシノの目に飛び込んだのは、黒く大きな鋼鉄の鳥。
    正確に言えば鳥とは似ても似つかない形をしているが、そう現すのが礼儀と言える空を飛ぶ兵器。

    「小鳥遊さん、たしかアレって…」
    「うん、ウチのヘリだ。」
    それはホシノが常日頃アビドス高校で見ているアヤネの戦闘ヘリだった。
    いつもは校庭の隅で待機しているそれは、アヤネによるこまめな清掃で野晒しにも関わらず常に優美で美しい姿を全ての人間に見せ付けていたはずだ。

    しかし今目の前にあるヘリは砂に汚れ、あまつさえローターが大きく破損し数箇所から煙と火花を上げている。

    イブキが何か言葉を継ぐのを待たずにホシノは外へ飛び出した。
    状況があまりにも異常に過ぎる。
    アビドスの皆には連絡を取っていない。何があったかも、これからどうするかも一切の事を彼女達は知らない筈だ。
    しかしまるでホシノがここへ到着する事を知っていたかのようにヘリが鎮座し、しかもまるで不時着したかのような状態でそこにある。

  • 64二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 19:25:47

    確認しなければ────

    みんなは?
    誰が乗ってるの?
    なんで?なんでなんでなんでなんで!?!

    ホシノの脳裏に一瞬で過去の情景が流れて消える。
    砂漠の中で見つけた大事な人。
    助けられなかった儚い命。
    二度と何も失いたくないと思った時間。
    後輩達との大事な……

    ホシノの顔からは血の気が完全に失われている。
    彼女は雷光のように閃き一瞬でヘリの近くまで歩を進めた。
    全ては大事な人達を守るために────

    『だーーーッ!!もうッ!!!なんでこうなっちゃうかなぁ!?』

  • 65二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 19:26:57

    その歩みはしかし、突然張り上げられた声によって急性動を掛けられた。
    あまりの事にホシノは脚をもつれさせ、頭からヘリの側面に突っ込んだ。
    「アッ」
    轟音。
    次いでカエルが潰れたような短く濁音混じりの悲鳴。というか鳴き声。
    その音で一瞬で空気が静止し、ヘリの向こうから幾人分かの声が事の次第を確かめに近づいて来るのが聞こえる。

    「なに今の?この辺ラクダとか居る?」
    「ううん、ラクダは居ないしあんな声出さないはずだけど…」
    「あれぇ?あの声何処かで〜…」
    「ん、知ってる。あれはホシノ先輩が戦闘中にミスして頭から突っ込んだ時の鳴き声。」

    その声から時間にして数秒。約1名の正解者であるシロコを筆頭にヘリの陰からアビドス高校の面々が顔を覗かせた。
    そしてヘリに顔形を生み出した自分達の先輩を見やり、一様に驚きと困惑とドン引きの声を上げたのだった。

  • 66二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 01:16:14

    保守

  • 67二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 04:15:26

    保守

  • 68二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 07:27:16

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 11:49:19

    昨日遅ればせながらスレの復活に気づき前スレから追いつきました
    滅茶苦茶好きな概念なんで完結まで応援してます!

  • 70二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 18:39:56

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 02:06:36

    うーんやはりおじさんまだまだトラウマが……
    まあ後輩からの扱いをしていい傾向ではあ…る?

  • 72二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 08:17:29

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 11:13:48

    雨雲号も撃墜されてたのか…墜としたのは誰だろう

  • 74二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 15:14:01

    「ほ、ホシノ先輩なにやってんですか!?」
    「それはこっちのセリフだよぉ〜〜」
    叫ぶセリカの声に対して、ホシノの声には安堵とそこから来る感情の結露が見られる。
    大事な人達が元気な姿でそこに居る。これほどホシノにとって幸せな事はない。
    とにかく全員無事で居てくれた事が彼女にとっては何よりも嬉しいのだ。

    「それでみんな、なんでこんな所にいるの?」
    ただ、だからといって不明を糺さないというわけにはいかない。
    全員大禍なく目の前にいるのは良い。しかし問題は心配してしまうような状況にどうして直面しているかだ。
    返答次第では二度と同じ事を繰り返さないようにホシノは全員を厳しく叱りつけるつもりでいた。

  • 75二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 15:15:58

    「えっと、ホシノ先輩……」
    ホシノの問いに対しアヤネは殊のほか言い淀んだ。眉根を寄せ冷や汗を流し、困ったように周囲を見回して全員と顔を見合わせる。
    目の前で煙を上げるヘリの状態から窺えるように何か危急の事態が起こっているというのは想像に難くない。
    果たしてそれは何なのか。アヤネ達の表情から察するに少なくとも朗報ではなく凶報の類であることには違いはないだろう。
    「いいですか?落ち着いて聞いて下さいホシノ先輩。」

    その真剣な声音に、ふと違う可能性に思い至る。

    数日間誰も立ち入れない場所にいた弊害としてホシノとイブキは外界の情報を何も持ち合わせてはいない。
    ホシノに限って言えばゲヘナの捜索部隊がやってくるという事しか聞いていないし、だから何故こんな事態になっているのかは当然分からない。
    しかしこういう事件が起きる時はセオリーがあるものだ。今まで非常時には必ず彼女達の側に心から信出来る一人の大人が居た。
    シャーレの先生。アビドスを救ってくれた人。ホシノが初めて心から信じたいと思った大人。

    しかし今、彼がいない。

  • 76二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 15:19:06

    まさか先生に何かがあった?

    さっきまでの安堵という名の器がひっくり返り、ホシノの胸中に黒い墨のようなものが一息に流し込まれる。
    『不安』というような生易しいものではない。もはやそれは『恐怖』や『絶望』に近い感情だ。
    その感情と共にホシノの脳裏には再びかつてこの地で喪った大事な人の姿が蘇ってくる。
    落ち着けと頭で考えても次から次へと不安が噴き出してくる。区切りをつけたはずだ。絶望も後悔も覚悟と一緒に抱いて進むと決めたはずだ。
    しかしホシノの心は容易に波立つ。
    自身の不甲斐なさに辟易しつつ、ホシノはまだ喪われていない筈の希望のために次の言葉を逃すまいと神経を集中させた。


    この時ホシノは間違っていなかった。
    しかし『間違い』は往々にして急に死角から飛び出してくるものでもある。

  • 77二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 15:27:16

    「アビドスが私達ゲヘナに対して宣戦を布告した……という事になったらしいですよ。」

    振り返ると赤髪の小柄な生徒が目に入る。面識はないが、その特徴的な制服からゲヘナ生だということは伺える。
    もしかしてアビドスに来るという事になっていた捜索部隊だろうか?
    そしてその傍にはもう一人のさらに小柄なゲヘナ生がいる。

    面識は─────ある。

    それどころかついさっきまでホシノはその成長した姿と一緒に居たのではなかったか?
    それを確認しようとして後ろを振り返ったが、そこにもう彼女の姿は無かった。
    彼女はその時───


    その場から跳躍し、件の二人に飛び掛かっていた。

  • 78二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 15:44:39

    このレスは削除されています

  • 79二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 16:09:38

    追いついた
    応援

  • 80二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 16:17:36

    「お前がああああああああアアアアアア!!!」

    誰も間に合わない。
    距離を詰め視認出来ない速さで抜刀。
    未来の時間を生きるイブキの振りかぶったサーベルが、今を生きるイブキに振り下ろされる。
    ────しかし、その刃が届く事は決して無かった。

    「ダメ!!!」

    ギィン!──と重く金属音。

    刃を刃で受ける音。
    「!?」
    しかし、あり得ない。
    ヘイロー破壊兵器は鋼鉄でも容易く切り裂く硬度を持つ。
    銃身であろうと鍛え抜かれた名刀であろうと、特殊加工された鞘以外斬れない物など存在しない筈だ。
    こんな事が出来る人間が居るとは……

    「ずっと前に言ったでしょ、『何があっても絶対に助けに行く』って。」

    その声を聞いた瞬間イブキの記憶の蓋がこじ開けられ、頭の中でスケッチブックがめくられて行く。
    目の前に舞うのは視界いっぱいの美しい風景と、風に舞う桜の花弁。
    「あなた、は…」
    「ごめん!少し眠ってて!!」

    繰り出された掌底によってイブキは気絶し飛び掛かる直前までの記憶を失う。
    しかしその時受けた痛みは叫び出したくなるほど愛おしく、そして泣きたくなるほど懐かしい痛みだった。

  • 81二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 16:21:09

    (誤字多かった申し訳)

  • 82二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 18:41:19

    口調的には未来ミカっぽいけどモノローグ的には未来サキっぽいんよな、誰だろ続きが気になる

  • 83二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 20:27:43

    うわぁ、やっぱり二人のイブキ会わせちゃダメだったか……危うくおじさんとの信頼値もリセットされるとこだったな)汗 

  • 84二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:15:27

    保守

  • 85二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 05:05:25

    やはり未来世界とつながってる?

  • 86二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:11:13

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:49:06

    ─イブキとイブキの遭遇から約35時間前─



    「ああ、それは困ります。」

    イロハ達の乗り込む車両の上から聞こえた声に、護衛とイロハは迷わず銃口を天井に向け引き金を引き絞る。

    「アッ!ちょっ!ちょっと待って下さい!!もうちょっとお話を聞いてはくださいませんかッ!!」
    痛い痛い!という悲鳴が上がる。
    時折命中している痛みからなのか少し水分を含んでいる声に、イロハと護衛は顔を見合わせて訝しんだ。
    敵襲にしてはあまりにも不用心で手際が悪く、イロハ達の銃撃に反撃する姿勢さえ見せない。
    それどころか撃たれてる側は本当に必死らしい。ドアバイザーに力いっぱいしがみつく手が見えるし、次いで今にもずり落ちそうになっている少女の脚がフロントガラスの上から生えて来た。
    見たところ実に派手な服を着ている事が分かり、外から見たらどんなあられもない状態になっているのか想像もつかない。

  • 88二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:50:33

    ただ、なんだかこの脚をどこかで見た事がある気がする。
    イロハの性的嗜好は当然ノーマルである。同性の太ももを見てどんな女性だったか特定するなど当然出来ない。
    いや、そもそも男も出来ない。なんだその特殊能力は。先生じゃあるまいし。

    だからイロハの見覚えは脚そのものではなく、その脚に巻き付けられた物を見て想起されたものだ。
    黒いベルトに武骨な武器が装着されている。
    なんと言ったか、たしか百鬼夜行にあのような武器があったのではなかったか。

    「あっ」
    一つ思い出すと芋蔓式に記憶の根が引き出されてくる。
    いつぞや彼の地でイブキと共に大騒動に巻き込まれた日を思い出す。
    それから何度か接点のあった、何やらおかしな3人組のその一角。
    あれは確か…

  • 89二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:52:14

    「忍者のおねえちゃん!!」
    イロハの思考を遮るように響いたイブキの声が車内に弾ける。
    「その声はイブキ殿!!はい!部長でなくて申し訳ありませんが、久田イズナここに推参致しました!!」

    叫びと同時に車両は急ブレーキを掛け道路を滑り動きを止める。
    ニンニン!と決め台詞らしきものを発したそのままイズナは放り出され、ギャグ漫画もかくやという体で車を滑り落ち地面に転がり強か頭を打ちつけた。

  • 90二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 16:03:27

    保守

  • 91二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 20:50:14

    未来イブキスレ復活に感謝!

  • 92二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 03:00:44

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 08:24:36

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 15:30:30

    ここでイズナ登場か
    まさか今作戦立案したのって……

  • 95二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 19:03:08

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 00:44:08

    保守

  • 97二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 07:41:59

    ─同時刻、アビドス高校─


    「“と、いうわけでちょっと困った事になってるんだ。”」
    「私達が…?」
    「宣戦布告に人質!?知らないわよそんな!!」
    「ん、喧嘩するなら負けない。」
    「シロコちゃんおやつ食べますか?」
    「ん!」

    対策委員会が設置された教室にいるのは、アビドス高校の面々と宣戦布告によるゲヘナ出兵を受け急遽飛んで来たシャーレの先生である。
    先日から発生している通信障害で彼女達は今の今まで自分たちが事件の渦中──どころか渦の中心にいる事を理解していなかった。
    先生の来訪によって事態が知らされ、先程から顔を青くしたり白くしたりと忙しい。

    「“何かのボタンの掛け違いがあったのは分かったよ。でも、この事態を収めるのには普通の方法では難しいかもしれない”」
    ゲヘナはすでにアビドス砂漠まで迫っていて、そしてゲヘナのような巨大学園を統率する万魔殿には面子がある。
    今さら「宣戦布告は間違いでした」という言葉だけで止まれるほど融通が利くものではない。
    人員を動かした手前なんらかの成果が無ければ引くに引けない段階まで事は進んでいる。

  • 98二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 07:45:40

    「ではどうしましょう先生。たとえば私にはネフティスとのパイプがありますし、第三者を介して停戦と誤解の解消は出来ませんか?」
    「“いい手だね。でも…”」
    言い淀むと彼はスマホを取り出して画面を見せる。それだけでその場にいる全員が意図を察する。
    「“ミレニアムでもこの通信障害は解消出来ない。だから…”」
    「今すぐ連絡が取れないなら意味がない…ってことですね。ここからハイランダーと連絡を取ってネフティスと渡りをつけても丸数日は掛かる。」
    結局は人が動き連絡をつけねばならない。
    そしてそれにはどうしても時間が必要だ。
    「アビドスに連絡事務所作ってなかった!?あっちはどう?」
    セリカの希望に溢れた思いつきに、しかしノノミが無慈悲な裁定を下す。
    「いいえ、あそこに詰めているのはあくまでこちらで雇用された市民です。役職付きはいますけど重要な決定を行える人間はいませんし、結局本社と連絡が取れないなら意味がありません。」

  • 99二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 07:48:27

    八方塞がり。
    状況の打開には違う方法を探すしかない。

    「“幸いゲヘナの人質…イロハとイブキは私もよく知っているんだ。今は協力してくれる生徒に頼んで状況説明と説得に行ってもらってるよ。”」
    …そこから何か解決の糸口が見つかるだろうか。
    見つからなくとも状況を良い方向へ動かす契機になるとは思いたい。

    「“とにかくそういう事だから、みんなはここでいつも通り過ごしていて欲しい。私がきっとなんとかする。もしかしたら変な噂が流れるかもしれないけど、心配せずに落ち着いて過ごして。”」

  • 100二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 07:50:50

    「…先生がそう言うなら」

    不承不承といった声はセリカのものだ。
    こういう時に一番大声で騒ぐであろう彼女の言葉に他の全員も首肯で倣う。
    今までキヴォトスの問題を解決して来た先生への信頼はそれだけ深く、彼が必ず事態を収めるだろうという事に誰も疑いを持たない。
    その答えを聞き満足そうに微笑むと、彼は音もなく立ち上がり埃を一つ払った。

    「“ありがとう、じゃあ私はこれで。いいかい?私を信じて。きっと大丈夫だからね。”」
    「はい、先生もお気を付けて。」

    教室外に出て見送る先生の背中は暗く重く見え、いつも以上に忙しなく響く足音は彼女達の心に大きな不安感を与えてやまない。

    一体何が起こっているのか。なぜこんな事になっているのか。
    誰も答えが出せず、ただ彼を見送るしか出来なかった。

  • 101二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 15:07:12

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 15:12:49

    アビドス組に現在の状況は伝わったけどおじさんいないからニアミスったか……ここに未来イブキがいるって分かれば色々状況片付きそうなのに

  • 103二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 17:03:22

    そういえば未来イブキは銃弾10発で死ぬんだよな
    初期で言われてたマコトを庇って重症展開も強力な兵器を使うまでもなく余裕で出来るのか

    攻撃した人物も血塗れの姿を見てショックを受けて欲しい

  • 104二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 00:16:16

    保守

  • 105二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 06:59:52

    保守

  • 106二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 14:45:47

    ほしゅ

  • 107二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 21:13:02

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 21:13:32

    先生が離席してしばらく。

    対策委員会の教室には人数分のティーカップが並び、ノノミ以外には完璧に把握し切れない名称の紅茶達が芳醇な香りを湛えている。
    「…それでどうすんのよこれから」
    「どうします…?」
    「どうしましょうかね〜」
    実際何かが出来るわけではない。事態を良くするために飛び出したとて何をどうするかもまるで分からない。
    動くべきでない時に動いてとんでもない事態になる事を彼女達は短い一年の中で何度も体験し痛感していた。
    先生が言うように大人しくしているのが現状の最善手だろう。
    ──ただしその決定に承服しかねる人物も当然その場には存在する。

    「シロコちゃんどうしました?」

    ノノミに与えられた甘味はとっくに彼女の胃袋へと姿を消している。
    しかしその目はまだなにか狙うべき獲物がいるかのような目で先程先生が退出していった方向に視線を注いでいた。
    「……先生、なんだか変だった。」
    「変?」
    シロコの冷え切った声に違和感を抱いたセリカが真意を聞くと、彼女は教室を指し示す。
    「ん。ホシノ先輩がいないのに何も聞かなかった。」
    「あっ…」

  • 109二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 21:16:48

    現在席を外しているホシノは砂漠にいる。先生は知ってか知らずかそれに一切言及しなかった。
    大人しくしていてほしいと言うなら、一番最初に大人しくしてない可能性のある人間に注意を向ける筈だ。
    かつてシェマタの一件で先走り後輩達に書記まで降格させられるような大事件を引き起こし、結果的に無事解決したものの一同の肝を底まで冷やしたホシノである。当然ながらそれを覚えていない先生ではない。

    「たとえば先生はホシノ先輩と情報を共有しているから何も言わなかったとか…?」
    「分からない。でも、たぶん違う。」
    アヤネの問いにシロコの推測混じりの否定が飛ぶ。
    「先生がそんな大事な事を伝えない理由がない。今この状況なら伝えておく方が何かとお得だと思う。」

    名前に狼の一字を掲げるに相応しくシロコはこういう時の勘が鋭い。先生の行動の端々に他の者達が見落とすような違和感を感じたのだろう。
    疑う余地のない信頼できる大人に疑うべき『理由』が発生した。
    ならばこの際その『理由』を考えねばならない。考え、推測し、なぜそうなるに至ったかを解きほぐさなければならない。
    そうしなければ先生への信頼も自分達の進む先も確証がブレてしまうほどこの事態は特殊であり、そうならざるを得ないほど彼女達はまだまだ子供で幼く脆い。

  • 110二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 21:18:08

    「『協力してくれる生徒』というのがホシノ先輩の可能性は?」
    アヤネの問いにノノミが返す。
    「いいえ、無いですね。それこそ私達に言わない道理がない。ホシノ先輩との融通が効く私達にもこの際協力を仰ぐのが合理的です。」
    「ん。」

    先生は何かを隠しているが話せない理由があると考えるのが妥当だろう。
    しかしそれが何かという解決の糸口はまるで見えてこない。一を聞けば十を答えてくれる先生が、まるで雨霧の中にいるようでまるで実態を掴むことが出来ないのだ。結論としては謎が深まっただけである。
    だが、大人しく待つだけの状況ではないという確証も深まった。

    「……で、結局どうするの?動くってこと?」
    「動くにしても何をどうするのかを決めないと。情報もなく無闇に動けば先日の二の舞です。」
    アヤネは言いながらタブレットにアビドスの地図を表示させる。
    「可能ならまずはゲヘナの皆さんとの接触。今は街にいる筈です。それからホシノ先輩との合流。こちらはあらかじめ向かう地域を聞いてますけど、もしかしたら今はもうこっちに向かって移動してるかも…」
    「合流するとしたら移動はどうしますか?やはり雨雲号で?」
    「それが確実です。ですけど先生が本当に何か策を考えているとしたら私達の行動自体が足枷になってしまいますけど──」

  • 111二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 21:19:10

    「あなた達がアビドスのなんとか委員会の人達だにぇ!」


    次々と策定されていく行動指針がタブレット上に描き出されていた時、その声は急に降って来た。
    舌っ足らずな音程と変わったアクセント。
    周囲を見回すアビドスの一同だが、声の主の姿はない。セリカなどは何を言われたか分からず今一度聴こうと耳をそば立てる。
    「私は──あれ?ふぬっ!……えーっと…」
    そして窓の外から華麗に入ろうとして鍵が開いておらず、顔を真っ赤にして入口を探すその姿を一同は認める。

    グラデーションの掛かった大ぶりな灰黒のツインテール、何処かタヌキを思わせる獣耳と尻尾、幾度か見覚えのある制服の特徴的な地域色の強いアクセント。
    そして彼女達には視認出来ないが、頭上には手裏剣を模したピンクのヘイロー。

    「……こ、ここ開けてもらっていい?」

    百鬼夜行連合学院忍術研究部の開祖にして初代部長、千鳥ミチルがそこには居た。

  • 112二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 03:42:27

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 06:08:36

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 09:03:13

    誰の何を信じたら良いのかが全然分からない…

  • 115二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 12:43:59

    きっと大丈夫、きっと何とかする
    ……他人事というか断言しないのが不安になる言い回しだなぁ。
    原作先生もこんなだっけ?

  • 116二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 20:32:49

    もう一体何が何やら

  • 117二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 21:19:24

    ───────────

    『せ、先生。二人とも接触出来たみたいです。これから合流して…さ、作戦を開始します…』
    “そっか、ありがとうツクヨ。こっちも大詰めに入るから後は前に話した予定通りに。”

    とある部屋の中でPCと向かい合っていた男はスマートフォンを置くと身体を伸ばし、ここ数日の疲れを吐き出した。
    未来から来たというイブキを巡る騒動が起きてからはや1ヶ月。
    キヴォトス各地を飛び回り気が狂ったように働いていたような気がする。
    先程の連絡はあらかじめ頼み事をしていた百鬼夜行忍術研究会の部員であるツクヨのものだ。
    どうやらアビドスで予定通り動くことが出来たらしい。

  • 118二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 21:27:31

    キヴォトス各地で色んな事件が起こっていた事は把握している。
    そんな中、彼は人脈とコネをフル動員して異常事態下でもキヴォトスが上手く回るように手を回し、裏では何人もの生徒達に動き回ってもらっていた。
    そして同時に事態を収めるための可能性を探し、必要な事と不必要な事を選別しひとつひとつ拾い集めて来た。
    それらを盤面に揃え、ついに『相手』と対等な勝負が出来る所まで漕ぎ着けたのだ。
    “……と、思いたいけど。”


    『先生、あの子が話をしたいそうです。』
    『しばらく私達は席を外します。』
    “……そっか、分かったよ”

    通知音と共にタブレット上に現れた少女達──アロナとプラナの取り次ぎに応えると画面から青紫色の光が消え、次いで黄色を基調とした光がタブレットの画面を染め上げる。

  • 119二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 21:29:18

    本来不可侵である筈のシッテムの箱にはアロナと、“彼”から託されたプラナの二人しか居ないはずだった。

    しかし、今ここに『もう一人』が居る。

    あり得ない存在。
    『あり得ないからこそ』そこに居る事を許される第三者。




    “それじゃあ始めようか。 ───イブキ”

    [……うん。よろしくね、先生。]

  • 120二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 22:15:32

    イブキが……3人!?
    どうなってるんだってばよ……

  • 121二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 07:54:29

    わからん

  • 122二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 14:34:14

    先生に入れ知恵してたのはこのイブキなのかな

  • 123二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 21:55:37

    たしかにー

  • 124二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 07:31:44

    まさかの3人目
    なにがあってそこに…?

  • 125二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 15:50:48

    まさかコイツがマジモンのイブキ*テラーだっていうのか……?

  • 126二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 19:09:10

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 00:13:10

    一体いつから接触してた……?

  • 128二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 08:07:17

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 15:32:55

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 17:15:33

    ==================

    火災の燃え滓の匂いが残る廊下を歩く。
    時間は正午。上った太陽が世界を熱し、まるでその廊下が火に包まれていた時の様子を再現しているかのようだった。
    本来は権威に満ち堂々たる作りをした建築物の一端を担っていたであろう廊下は、今では炎と熱による暴威が舐め回った傷痕を深く残し、黒く煤けてその大まかな形だけを残すだけになっていた。

    「足下に気を付けて。もしかしたらブービートラップがあるかもしれない。」
    「う…うん」

    その廊下を進む影が二つある。
    二つとも小柄だが片方はより小さく、歳の頃は10を少し越えたと思しき幼い少女である事が窺える。荒廃した廊下に相応しく服は煤と泥で汚れ、豊穣を約束する小麦畑のような金髪は大いにほつれ、これもまた煤けており童話の中の魔法に掛かる前の灰被りの少女を思わせる。
    しかしそれはとても軽い方で、もう一人はさらに酷い。

    とてもとても、酷い。

  • 131二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 17:16:56

    もう一人も少女だった。それも見る人が見れば『絶世の』という言葉が付くような美少女だ。
    ──しかし今はそれを表面上からは窺い知る事が出来ない。
    かつて美しさを誇ったであろう皎い髪は隣の少女以上に灰と泥で汚れ、そして何より彼女の身体からドロドロと溢れ出る赤黒い血液によって髪の半分に赤黒く不気味な華を咲かせている。顔には幾本もの切り傷がびっしりと付けられ、片眼はすでにその用途を果たしていなかった。
    身体のバランスも酷く悪い。
    右腕には大柄な銃を抱えて重そうに引き摺り、そしてすでに左手は何処にも無い。布をきつく結び止血をしているが、上手くバランスを取れず身体が右側に身体が傾いている。
    そして黒く煤けた廊下ではその色が見えないが、太陽光を反射する血が彼女の足下から建物の入り口まで続いていた。

  • 132二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 17:22:28

    「うぷっ……なにこれ、くさい…」
    小さい方の少女が呟く。
    鼻を摘み今にも吐き出しそうな顔をして目に涙を湛えているが、先導する少女は意に介す事もなく淡々と告げる。
    「議事堂の襲撃からもう3日よ。何人も焼け死んだし、匂いもするわ。」

    腐臭。
    議事堂内に転がる焼け残った遺体が体内のガスで膨らみ、絶え間なく耐え難い悪臭を放っている。
    時期も夏場だし腐敗も早い。屍肉を分解する微生物達も忙しい事だろう。
    かつてここに居た少女達は身嗜みを気にして香水やアロマで居心地のいい空間作りに腐心していた。
    その努力は今や見る影もなく、エデン条約の騒ぎの頃からとうに絶えて久しい。

    結局嘔吐いて胃の中のものをすべて吐き出した少女の傍に立ち、もう一人の少女は窓枠だけになった窓から外を見遣る。
    「マコト先輩たち、何処にいるのかな……ヒナ先輩?」
    「……きっとすぐに会えるわよ、イブキ。」




    ───ゲヘナ万魔殿議事堂
    ゲヘナ生とトリニティ生に対する大弾圧から3日後




    『思い出しちゃった。』
    もうこの先目覚めても二度と忘れる事のない過去の記憶を見つめ、現在の姿をしたイブキは嘆息する。

    あの日の再生が始まった。

  • 133二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 19:03:50

    わぁ……想像以上の地獄だなオイ……
    あのヒナがここまでの欠損ダメとかヤバいよー
    未来イブキの記憶が正しいならこの後生き残ってたイロハにイブキを託してって流れか

  • 134二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 01:39:08

    多分風紀委員はヒナ以外全滅したんだろうな……

  • 135二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 07:28:20

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 15:16:46

    多分この時点でマコトはもう……

  • 137二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 16:53:45

    最初に聞いたのはゲヘナで大変な事件が起こったという話だった。

    大きな約束事が結ばれて平和な時代が来るとマコト先輩達が言っていたのに、なんでそんな悪い事が起きちゃうんだろうと思った記憶がある。

    「お〜よしよし!大丈夫だぞイブキ!たしかに大変な事だが全然怖くない!銃の扱いを気を付ければいいだけだからな!」
    「マコト先輩、あんなこと滅多に起きないんだから気を付ける必要ないですよ。イブキが怖がったらどうするんですか。」
    「ウフフ…じゃあ私の催眠術で安心させてあげましょうか?」
    「あっはは!それマコト先輩にしか効かないってサツキ先輩!」

  • 138二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 16:56:15

    『…………。』


    その翌日。

    イブキが食堂でイロハと食事を摂ってる時だったと思う。
    後ろから賑やかな騒ぎと銃声が聞こえた。
    いつもなら大笑いや囃し立てる輩が出そうなものだったが、その日は違った。
    絶叫、悲鳴、痛みに叫び次第に弱まり消え行く声。
    今までの日常風景の崩壊。

    その日は5人死んだ。

    頭部及び身体に銃弾が命中したことによる、生物学上なんの不思議も神秘も関わりない、ごく当たり前の絶命理由だった。

    ──今のイブキなら分かる。
    その時既にヘイローは彼女達の頭上から失われていた。

  • 139二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 22:04:47

    >>132

    文字通りゲヘナになっちゃったか…

  • 140二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 03:26:43

    この事実がトリニティに漏れ、あっちは気質的により陰惨なものに……ってことか

  • 141二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 06:49:15

    翌日以降、事件の衝撃からしばらく平和だった。
    平和…というより極度の緊張状態に全員が置かれていたと言っていい。
    銃声ひとつしない、キヴォトス──ことゲヘナではあり得ない日々が続いた。
    しかしそんな日々もすぐに終わりを告げる。

    数日後、友人を死なせてしまった一人の少女がビルから飛び降りた。
    彼女があっさり自裁を成功させて公衆の面前に真っ赤な華を咲かせた時、外れるはずのなかった箍が外れてしまったのだ。

    気に入らないあいつを許せない。あいつが撃ったから復讐する。どうでもいいからとにかく撃ちたい。守るために撃つのも已むを得ない───
    撃つ理由は今までと変わらない。
    しかし銃声が鳴り響いた時に起こる結果は、その日以降決定的に異なった。

  • 142二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 06:50:38

    犠牲者数は指数関数的に増加して行った。

    ゲヘナだけではない。キヴォトス全土で似たようなきっかけで人が次々と斃れて地獄絵図が繰り広げられた。
    イブキの身の回りからも櫛の歯が抜けるように人が居なくなる。
    いつも挨拶をしたら笑顔で返してくれた万魔殿の生徒、言葉は粗暴だがイブキと同じ目線で対等に接してくれた少女達。
    ヒナ達風紀委員もいつしか会う機会が減り、時々見る風紀委員の生徒は包帯を巻き血を滲ませている姿の者が多くなる。そしてその目には健康さと光が欠けていた。

    その頃の詳しい情勢をイブキはのちに参謀長から学ぶまで知ることはない。
    忘れるべき記憶すら無い。
    イブキを不安にさせまいとする生徒達の努力もあり、彼女の目から不穏な情報が遮断された結果だろう。

  • 143二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 06:51:44

    “……やあ、久しぶりだねイブキ”
    「先生、なんだかすっごく苦しそう…」

    だから彼がこの頃どう過ごしていたのかもイブキは詳しく分からない。
    目の下に刻まれた深い隈。以前は清潔に保たれていたスーツもよれて皺を作っている。
    何日も身体を洗っていないと分かる体臭が子供の敏感な嗅覚を痛く刺激し、以前は彼に抱かなかった不快感を胸中に生んだ。

    思えばこの頃すでに彼は『死』の匂いを纏っていたのかもしれない。

    だが当然ながらイブキにそんな事は分かる筈もない。
    愚かで、間抜けで、守られた幸せな幻想の中にいて、何も見ようとせず、いずれ来る災禍に何も備えなかった。
    そんな、どうしても許すことの出来ない蒙昧な自分。

    『…本当に、なんでこの時もっと話しておかなかったんだよ、この愚図』

  • 144二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 12:17:14

    保守

  • 145二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 16:49:37

    お、重たい…

  • 146二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 22:02:05

    ヘイローない状態の指揮って生徒に人を殺せって言ってるようなもんだからな
    暴徒を無視も出来ないから指揮を執らざるを得ない場面もあっただろうし…地獄だな

  • 147二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 07:25:48

    これは…

  • 148二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 07:26:00

    “この前、トリニティで色々あってさ…本当に疲れてるし、大変なんだ…”
    「トリニティ?」

    とあるゲヘナ生がトリニティ首脳部…ティーパーティーのホストの一人を射殺した事から学園間の戦闘が発生した。

    この時の出来事を座学で話した時、参謀長はしばらく言葉に詰まり声を震わせながら先を続けていた記憶がある。
    その後勃発した両校の全面戦争は言葉に出来ない酷さだったそうで、その引き金となってしまった友人の死も合わさって思い出すこと自体が嫌悪の対象だったというのもあるだろう。

    そんな時だからこそ、先生は戦闘停止に力を貸してもらうため万魔殿を訪れていた。
    …しかし時は全面戦争一歩手前。
    ターニングポイントはとうに過ぎ去り、万魔殿にはゲヘナ全土の膨れ上がった激発を抑える力は無く、間断なくトリニティから加えられる報復攻撃が止まなければ協力のしようもない。
    エデン条約の立役者であり証人の一人である彼の権限をもってしても、もうどうしようもない段階まで条約の破綻は進んでいた。

    マコト達はどうにかしたいがどうにも出来ないと感じていたのだろう。先生が一縷の望みをかけた紛争調停は失敗に終わった。
    そして危急に際し何も出来ず、子供でさえ分かるような事も判断できなくなった先生への信頼も失われつつあった。
    原因が先生にあったわけではないし、マコト達を責められるものではない。エデン条約下の当事者全てに責任と問題があり、事態に対する誤解とすれ違いがあったのだ。

  • 149二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 07:27:34

    “イブキは…マコト達が、万魔殿のみんなが好きかい?”
    「うん、好きだよ。みーんな大好き。」
    “……そっか”
    その目はただただ昏く、まるで焦点が定まっていない。
    呂律が怪しく口調もおかしく、イブキと相対しているのに何処か遠くの別の場所を見ているようだった。

    “いいかいイブキ、よく聞くんだ”
    「う、うん…先生、こわいよ…?」
    いつも目線を合わせてくれた先生は、その時ずっと立ったままだ。
    日が沈みかけている斜陽差し込む万魔殿の廊下。
    影が落ちて彼の顔がまるで見えない。思い出そうとするとノイズが走ったように真っ暗になる。

    “きっとこれから酷い事になる。マコトやイロハ、万魔殿のみんな、それにきっとイブキ自身。きっと…セイアの言ってた予言通り……酷い事になる。”

    予言。
    その神秘を宿した少女、百合園セイア。命を落としたティーパーティーの一人。
    当然その時のイブキにはそれが誰を指すのかなんて分からない。
    意味が無い筈はないが、意味のない言葉。

    しかしこの時の彼の口から紡がれる言葉の殆どが、意味を為さない言葉だったのもまた事実だ。

  • 150二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 07:31:13

    “私がなんとかしてみせる…絶対になんとかしてみせるから…絶対に……”
    ──イブキが大好きだった先生は、この時とっくに壊れていたのだろう。

    ヘイローの異常にいち早く気付いた彼は、事態の発生から今の今まで被害を最小限に抑えようとヘイロー消失の原因も分からぬまま前線で指揮をとっていた。
    その中で可愛がっていた生徒を自身の指揮で何度も手に掛け、指揮していた生徒を次々と喪っていた。
    親愛を向けられていた幾人もの生徒から向けられる失望、怒り、憎悪、悲哀。
    精神の限界を超えるにはあまりにも容易い。

    “なんとかしてみせる…なんとか…きっと…安心して…私が絶対……”

    ……もうどこに向かっても話していない。
    強いて言うなら彼が話しているのは自分自身と居なくなった生徒達だ。
    まるで壊れたレコーダーのように言葉を紡ぐ機械。とっくに生命活動は止まっているのに使命感だけで動き続ける空っぽの人形。
    その人形はイブキを見て言葉を紡ぐ。
    無感動な声音で、音程のおかしい口調で、永遠に同じ事を、永遠に。

  • 151二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 07:32:24

    “困ったら、またシャーレに来てよ。あそこならきっと安全で、問題ない筈だから。絶対に大丈夫だから。だから困ったら、シャーレに来てよ。あそこなら…”
    「せ、せん…せ…」

    暗い廊下、真っ黒な顔、しかしその中で爛と光り焦点の合わない狂気に染まった瞳、繰り返される意味のない言葉のような何か。

    “…だから忘れないで、イブキ。私は──”

    ───────こわい

    こわい、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
    こんなの先生じゃない!イブキの好きだった先生じゃない!!

    「やだッ!!」

    彼女は涙声で叫ぶと背を向けて走り出した。
    現実に真摯に向き合い続け、事態の解決を心から願い奔走し、愛した生徒達の死を見続け、そしてついには壊れた彼に、否定の言葉を投げ付け振り返りもせず。



    『ほんとに、馬鹿だ私……』



    それがイブキが先生を見た最後だった。

  • 152二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 11:32:49

    保守

スレッドは7/11 21:32頃に落ちます

オススメ

レス投稿

1.アンカーはレス番号をクリックで自動入力できます。
2.誹謗中傷・暴言・煽り・スレッドと無関係な投稿は削除・規制対象です。
 他サイト・特定個人への中傷・暴言は禁止です。
※規約違反は各レスの『報告』からお知らせください。削除依頼は『お問い合わせ』からお願いします。
3.二次創作画像は、作者本人でない場合は必ずURLで貼ってください。サムネとリンク先が表示されます。
4.巻き添え規制を受けている方や荒らしを反省した方はお問い合わせから連絡をください。