【閲覧注意】気づけば手の中には、蒼い林檎があった。

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 15:04:45

    「────」

    不思議だった。寝て、起きて、握った手の中に、どうしてこんなものがあるのか。

    知っている。何処ででも見る。なのに、未だかつて見たことの無い色。どこまでも沈んでゆける、深い深い海のような。あるいは、恩着せがましく頭上に浮かぶ、果てのない空のような、底無しの蒼。

    照り返す光が嫌に眩しくて、林檎そのものが光っているんじゃないかと錯覚してしまうくらい。その輝きが、何故だか妙に魅力的で。

    その輝きが、何かを訴えかけてくるかのようで。

    「ん────あ────、」

    じゃくり。

    瑞々しい感触が、口の中で爆ぜる。

    そのこころは────。

  • 2125/06/20(金) 15:06:47

    「───委員長?」

     脳が反射的に、言語化されていない命令を身体に下す。一瞬の浮遊感の内、弾んだ身体が柔らかい椅子に受け止められる。

     絞られた視界がゆっくり開けていく。高級感のあるダークブラウンの机。紫のカーペット。柱に提げられた校章。シックな雰囲気の部屋。

    「あっ。...あぁ、ごめん、なさい。ちょっと、寝ちゃってたみたいで......」

     ぐわん、ぐわん。頭が痛くて、重くて。
     心当たりを思い出そうとして、思い出すまでもない事に直ぐに気づく。状況説明に、目の前にある山脈がごとく連ねられた紙束以上の物は必要ない。

    「......どうか、ご無理のないように」

     手伝ってくれていた「行政官」からの労いを素直に受け取り、再びペンを握る。

  • 3125/06/20(金) 15:09:12

     とある大きな学園の、風紀委員長になった。

     絶大な力があった。自分で言う事では無いのかもしれないが、言葉以上の意味は無い。こと暴力においては、このキヴォトス屈指のマンモス校の中でも私に比肩する者は居ない。

     少々荒れた学校ではあったが、私の存在が抑止力となって、なんとかその体裁を保っている状況だ。

     気分は、良かった。抜きん出た力を遺憾無く発揮し、頂点から総てを支える。重圧はあれど、それに応えうる力もある。誰しもが私を頼り、或いは恐れ、名は広く知れた。

     凡百に埋もれる有象無象では、無かった。

  • 4125/06/20(金) 15:10:32

     だが。

    「......ッ」

     それを、気に入らない者が居た。
     それも、奴は私よりも上に居た。

     過重労働。私の下に次々に舞い込む、無意味な業務の数々。ギザギザの歯を剥き出しにして嗤う、学園の頂点から私を見下ろす「議長」の顔。

     荒む心。溜まる不満。悲鳴を上げる身体。
     ある時、銃を握って、思った。

    「───あっ」

     ──────重圧に堪える必要が、何処に在る?

     上に在る物の総てを打ち壊して、首を挿げ替えてしまえば、総ては解決するのではないか?

     煌々と紫色の光を放つ銃身を、じっと見下ろす。

     その光が、瞼の裏に焼き付いて。

  • 5125/06/20(金) 15:12:52

    「────」

     焼け野原が、広がっている。

     学園であった物は僅かな瓦礫を残すのみ。

     遠くから、サイレンの音が聞こえる。

     銃口から煙を立ち上らせる銃を、がちゃりと"山"から投げ捨てる。二度、三度。嫌な音を立てて転げ落ちる銃をぼうっと見つめながら、私は腰を下ろす。

     果てまで続く地平線が、私を取り囲んでいる。

    「違う」

    言葉が、唇から零れ落ちた。

    「こんなの、じゃない」

     涙が、山の───今や私の身体を支える、椅子の代わりとなった生徒たちの残骸の上に、ぽたりと滴り落ちる。

  • 6125/06/20(金) 15:14:01

     身長よりも長く伸びた白髪をぐしゃりと握り締め、私は叫ぶ。掌を角が穿いた痛みごと、口からその感情の総てを吐き出すように、叫び散らす。

    「───違う、違う違う違う違う違うちがうちがうッッ!!!」

     平凡な生活に、飽き飽きしていた。
     平凡な自分に、嫌気がさしていた。

    「だからって、こんなの───!!!」

     自分の手で招いた破滅。
     誰が、そんな事を望んでいた?

    「私は、そんなのじゃ───」



     ───気づけば手の中には、蒼い林檎があった。

  • 7125/06/20(金) 15:15:14

    「......ぁ」

     林檎は、何かを訴えかける様に蒼く輝いている。

     赤く燃え盛る夕日すらも吸い上げ、蒼く染めて返す林檎。手を離したとて、そのままの位置で宙に浮き出そうとも違和感のない。それほどまでに神秘的な林檎。

     何か言いたげな林檎を、少しだけ強く握り直し、ゆっくりと口へ近づけ────。

    「ぁ────あ────、」

     じゃくり。

     水分を多分に含んだ果肉を噛み千切った。

     ───味がしたかは、分からなかった。





    「門主様」

    「.........あ?」

     気づけば私は、玉座に腰を据えていた。

  • 8125/06/20(金) 15:16:46


    夜まで残ってたら続き書きます

    元ネタ


    ピノキオピー - 転生林檎 feat. 初音ミク / Reincarnation Apple


  • 9二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 15:18:27

    なんか転生林檎っぽいなとは思ってた
    やはりか

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 15:21:29

    興味あるので埋めときますねー

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 15:35:45

    転生林檎、もう3年前ってマ?

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 17:55:53

    つまりヒフミが自分以外の生徒に憑依もとい転生するのを繰り返して最後は自分に戻る?

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 18:02:53

    転生独逸のせいでチェリノとドゥーチェが脳内で踊ってる。

  • 14125/06/20(金) 22:30:37

     とある歴史ある学園の、生徒会長になった。

     歴史と伝統とを重んじる校風と、それ故に閉鎖的な文化に留まってしまう勿体無さとの板挟み。

     腐らせるには惜しい魅力をキヴォトスに広めようと、制約の多い身体を引き摺って尽力した。

     保守派の視線は痛く冷たい。心が折れかけた事も何度もあった。それでも、与えられた立場に報いるために、私なりに芯を通して闘い続けたつもりだった。

     成果はあった。多くの生徒には「門主様」と慕われ、或いは此の理念に賛同してくれる者もいれば、私の複雑な立場に一定の理解を示してくれる友も居た。

     その事が素直に、嬉しかった。自分の思いが行動となり、その成果が目に見え始める事が。先導者として一歩を踏みしめる事が。

  • 15125/06/20(金) 22:36:59

     ───だが。

    「────はぁッ、はぁ゛ッ...!!」

     痛い。苦しい。世界が点滅する。苦しみから逃れようとする身体は言う事を聞かず、死を遠ざけようとただ無意味にのたうち回るだけ。

     そう。無意味だ。無意味だった。何がって、全部だ。

    「う、ぎ......ぐ、ぅ、う、...!!げふッ、ゴホッ、...」

     信念は、たったひとりの女の野望の前に崩れ落ちた。
    凪いだ水面に零された一雫の水滴。波紋は広がり、奮起が起こり───それを、止めることも叶わぬまま。

     最期には摩り替えられた薬の正体にも気付かず、無様に血反吐を吐いて転げ回り、誰の目に留まる事もなく、引き摺り降ろされた玉座に向けて虚空を握るのみ。

  • 16125/06/20(金) 22:38:47

     足りないのは力だった。強固な威厳で鎧を着飾ろうとも、その実一匹のひ弱な小娘以上の何物でもない。
     だが、身に余る力を制し、理想の為に己を殺して其れを振るうだけの人格も無い。

     或いは、妾に足りなかったのは、人望だったのやもしれぬ─────私。私、?そう。私だ。私。私には。足りなかった。

     ...視界が、狭窄してきた。泡が弾けるような音がする。耳なんて、とうの数分前に機能を止めたはずなのに。感覚が抜け落ち、痺れた腕が、地に垂れる。

     身体も、もう動かない。虚ろな瞳は呆然と、自分の物ではなくなった細い腕を見つめている。



    ────気づけば手の中には、蒼い林檎があった。

  • 17125/06/20(金) 22:40:24

    ころ。

    ころ。

    ころ。

    ころ。

     腹立たしいほど遅鈍に、光を喪った世界の中をゆっくりと転がってくる淡い蒼光。
     とっくに、ヘイローは壊れ落ちた。なのに、私は未だ其れを見ている。

     最早、感覚もない。けれども、16年の歳月が身体に刻み込ませた「口の開け方」と「閉じ方」を、どうにかなぞる。動けた確信はなかった。

     じゃく、り。

     口内に、ゆっくりと広がる。最期に飲んだ薬のそれと同じ、後悔の苦味が。




     ────とある一人の、教職員になった。

  • 18125/06/20(金) 22:43:02


    ちまちま書いていくます


    >>11

    嘘だろ

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 06:53:34

    >>18

    残念ながらこれが現実!

  • 20二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 07:45:07

    >>17

    教職員…、おい待て次先生か?

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 07:46:15

    >>17

    これまさか次になるのプレ先じゃねぇよな?

  • 22125/06/21(土) 10:41:35

    端的に言えば、地獄。

     これまでの“人生”とは比にならない程の激務すらも可愛く見える程に。「風紀委員長」よりも「門主様」よりも、その重圧は途方も無くて。
     両肩に乗った「命」の重み。未成熟な“子ども”を教え導く事の難しさ。正解のない問いに向き合い続ける覚悟。「大人」という物の責任感。信じられていたって無駄だった。期待に応えられないまま、道を違えた生徒に追い縋る事も出来ないまま。

     力があっても私には扱い切れない。
     力が無ければ一人じゃ何も出来ない。

     だから、みんなの力を借りれば。
     そんな考えが、如何に浅はかだったのか、痛感させられる。

     何も、無い。どれも、足りていない。何処まで行っても、何かに秀でた「彼女達」とは違うから。私自身は、私と言う個人は、“普通”でしかないから。

     けれど、弱音を吐く事は許されない。

     だって、“私”は、「大人」なのだから。



     だから、全てを取り零してようやく、自分の愚かしさを憎む事が出来る。

  • 23125/06/21(土) 10:42:47

    “────────”

     喉がひび割れる様に痛む。最後に水分を摂ったのはいつだっただろうか。片目が砂に潰されて、意識が朦朧とする。だけど、歩みを止める事は許されない。
     ヘイローの無い体。たった一発の、コンビニに売られた銃弾ごときで潰える儚く弱い惨めな命。そこに価値を見出してくれた皆すらも裏切って、私は一人砂嵐に揺られる。

     呆然と、立ち尽くす以外のことは出来なかった。

     砂の中に眠っている、桃髪の少女を前にして────だって、一体、何をするべきだと言うんですか?

    “う”

    “うぅうぅぅ゛ッ”

    “うううぅぅう゛う゛う゛う゛ぅ゛う゛ぁ゛あ゛”

     膝が、折れる。もうだめだ。取り返しの付かない所に、辿り着いてしまった。守れなかった。彼女を。一番に支えてやらねばならなかった彼女を。寄り添えてやらねばならなかった彼女を。

     小さな体。高校三年生にはまるで見えない。でも、その背中にはあの学校に居た中で誰よりも大きなものを背負っていた。ずっと、独りで。

    “あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁああぁああああアァア゛ッッ!!!!!!”

     ひび割れた指が、忌々しい砂の地面を握り締める。傷が開いて血を噴き、赤黒く斑点模様に固まった砂の上から、風に乗せられた砂埃が覆いかぶさって瞬く間にその痕跡を隠す。
     それはまるで、この広大な砂原に足跡ひとつ残せない自分のちっぽけさを嘲笑っている様だった。



     ────気づけば手の中には、蒼い林檎があった。

  • 24125/06/21(土) 10:44:25

    “────────”

     渦巻く。

     片目の視界を覆い隠す様に吹き荒れる砂嵐のど真ん中でも、その蒼い輝きだけは輪郭までくっきりと、はっきりと見えた。世界という虚像を映し出すスクリーンの前に置かれた、唯一の実存であるかのように。
     血の滲んだ掌で握ったそれは、血の色すらも蒼色に反射させて、ただ真っ直ぐに私の眼に光を注ぐ。

     渦巻く。胸の、中で。疑問、が。

    “一体、私に────何を、させたいんですか”

     相も変わらず、状況も顧みず、林檎は何かを言いたげに、煌々と蒼く輝いている。

    “────ッッ!!!”

     それが、なんだか無性に腹立たしくて。力いっぱい腕を振るって、林檎を遠く放り投げた。
     砂嵐の渦中に投げ出された林檎に、四方八方から砂粒が掃射される。蒼い光は砂に被せられ、掠れて滲んで溶ける様に消えてゆき、



     気づけば手の中には、蒼い林檎があった。

  • 25125/06/21(土) 10:47:46

    ”あぁ”

     分かったような声が、私の口から漏れた。

     望め、と。そう言いたいのだ。

     平凡で退屈で、無数の一般生徒に埋もれていた事へ、やり場のない不満。「普通ではない存在になりたい」という誰しもが一度は抱く無責任な望み。────叶った。

     力を持っても、正しく扱う事の出来ない自分への後悔。「身の丈に合わない力なんて要らない。力無くとも人々を率いる、そんな存在になりたい」という傲慢な望み。────叶った。

     力が無くとも、信頼を勝ち取れる人間性が無くとも。ただ、その立場に立ってするべき事さえこなせば、皆から助けてもらえる。そんな、無知な私の愚かな望み。────叶った。

     どれも、私ではだめだった。私ではない誰かでないと、その役割は成す事が出来ないんだと。

     だから、林檎は謂うのだ。“普通”を望め、と。



    “────ん────あ、ぁ゛”

     じゃ、り。

     噛み締めた林檎は、口の中で砂の様に崩れ、不快な音を立てた。
     それが、傲慢な私への最後の罰であるかの様に────────

  • 26125/06/21(土) 10:48:54

     .........



     雪が、降っている。



     体中が痛くて、寒い。



     目の前に人影が、二つ。




    『でも、おかしいなぁ......。こんな子が居たなんて、おじさん全然知らなかったよ。────お名前は?』



    「............は、」




     ────”私”が救えなかった生徒の、「後輩」になった。

  • 27125/06/21(土) 10:51:36



    一旦ここまでです。書けたら夜に更新しに来ます。うふふ。

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 11:00:22

    「あー、またダメでした 転生しよ」と比べると段違いに悲壮感があるわね
    そうするしかない感じ

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 11:35:43

    >>28

    どんな歴史上の偉人だろうと、気に入らない点がひとつあると転生するのが今時の賢いワナビーだからな。

    もっと早く諦めないとタイパ悪くないですか?(勤続一年未満)

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 11:41:13

    転生林檎好きだから期待してます

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 14:22:37

    転生した役になりきっているから気付かないだけで実はこれまで出会った生徒全員自分の転生体だったとかあり得そうで怖い

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 19:03:21

    >>31

    ヒフミ(ヒフミ)とハナコ(ヒフミ)とアズサ(ヒフミ)とコハル(ヒフミ)みたいなことになったかもしれないのか

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 19:15:44

    >>31

    Andy WeirのThe Eggって短編小説がそんな感じやね。全ての人が自分であり全ての一生を経験するって話

  • 34125/06/22(日) 00:18:52



    ほんまごめん、保守。
    色々あって気分が悪いので...。

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:53:30

    >>34

    お大事に

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 02:01:44

    久しぶりにSSで感動の涙を流した気がする。他のSSでは感動はするけど涙は流してなかったからびっくり

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 08:27:25

    乗り移った先の生徒は全員ネームドっぽいな

  • 38125/06/22(日) 13:40:25

     ───もしかすると私は、何者にもなれないのだろうか。

     夜の砂漠は寒い。凍えるように寒い。
     吐息が白く色付いて、凍りついた満天の星空に溶けて消える。

     手に握った四枚のタグを握り直す。よかった、まだそこにあった。持っている手の側の目が見えないから、その手の感触だけが唯一の頼りだ。

     顔を下に向けちゃ、だめ。

     涙がこぼれ落ちて、足が崩れ落ちて、砂の山に埋もれて、息絶える。───前の、■■■先輩のように。

     今も尚、遠く砂漠の向こうの空に、極彩色の桃色を轟かせて───彼女は、キヴォトスに終焉をもたらそうとしている。
     相対する紫の翼は、空を割るように光を放った。風が吹いて、身体がよろけ、倒れる。

    「あ、ぅう」

     この人生は、「普通」だった。

     廃校に瀕した小さな高校を、存続させる為。一端の女子高生として仲間と協働し、状況は少しずつ好転しつつあった。
     少しやんちゃもした。先走ったこともあった。でも、築いた絆は確かにそこにあった。

     普通。普通すら、全うできない、自分。

     あぁ。私。私って────



     手の中では、蒼い林檎が煌々と輝いていた。

  • 39125/06/22(日) 13:41:48

    「────」

     迷うことはない。

     "また"ダメだったんだ。

     これを齧れば、また新しい"人生"に立てる。

     総てを無かったことにして、もう一度一から新しい「私」を歩める。

     "普通"すら全うできない私が、居てもいい場所が────どこかに、あるはずだから。



     じゃくり。

     この食感も、もう何度目か。


     ────意識が切り替わる直前、視界の端に

     どうにも形容できない"色"が見えた気がした。

  • 40125/06/22(日) 13:43:26

     「災厄」の名を冠する世紀の大犯罪者になった。

     とある学園の「ビッグシスター」になった。

     雪山に住むお酒好きの停学生になった。

     誰からも愛される、品行方正な女の子になった。

     黒装束に身を包んだ大人の研究者になった。

     ■■■■■■■の■番目の預■者にな■た。




     ぜんぶ、ダメだった。

  • 41125/06/22(日) 13:44:49

     何度林檎を齧ったか分からない。毎回毎回、握らされる林檎は木から転げ落ちたそのままの形である様に、綺麗だったから。

     力があっても人格が伴わず、信頼を得ても能力が伴わず、大人になっても浅慮を悔いるのみ。"普通"すらも全う出来ず、悪を貫く度胸も無ければ、正義を見失うそれ以前の段階で立ち止まり、関わりから離れても生き残れず、雪に埋もれて死んで行った。幼さに逃げても私は私で、身勝手な大人にもなりきれないまま、■■■が■■て■■■■■■■────。

     その道程を辿った証は無い。林檎に歯型が残らないから。

    「─────」

     何度目か、"生まれ変わった世界"の床を呆然と見つめて、呟く。

     幾度となく叩き込まれた「教育」。「信念」。




    「────Vanitas vanitatum, et omnia Vanitas」
    ────全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。




     ────とある部活で出会った、一人の女の子に、なった。

  • 42125/06/22(日) 13:46:12



    夏バテかも。みんなも気をつけようね。

  • 43二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 17:56:02

    ヒフミもどこかで「平凡な自分が嫌」って思ってるのかな
    何にしろこれはヒフミによく合ってる曲だわ

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 19:24:37

    途中男にも転生してるし自分の中の性同一性ぐちゃぐちゃになってそうで怖いな

  • 45二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 22:43:15

    もう自分の性別とか分からなくなってそう

  • 46二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 07:06:20

    ほしゅ

  • 47二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 08:20:30

    もしかしてこれまで生きてきた人生も……ってなりそう

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 14:56:47

    頑張ってください!

  • 49二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 16:09:53

    先生にはもうなったし最後は連邦生徒会長とかになるのか?

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:17:39

    保守らねば

  • 51125/06/23(月) 22:24:00



    うあああ────!!なんで───!!
    もう全然終わりまで見えてるのに筆が進みませんごめんほんとに

  • 52二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:41:25

    まあ最悪落ちても笛吹きとかpixivで投下されたらマニアが読んでくれるさきっと
    俺はここで読みたいから保守するが

  • 53二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 06:09:50

    いいやッ限界だ
    保守ね今だ

  • 54二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 12:05:19

    >>51

    仕方ない

    筆が戻るまで保守るから頑張ってください!

  • 55二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 18:08:07

    待機中

  • 56二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 22:35:55

    この概念見てたら書きたい欲湧いてきたんだけど勝手にSS書いていいかな

  • 57125/06/24(火) 22:54:42

     空虚。虚脱。虚無。無駄。空疎。無益。徒労。欠乏。飢餓。

     思想の根底に刻み込まれたたったひとつの文章。三十そこらの記号の羅列が、見える世界の全てを色褪せさせる。

     無為。不満。夢幻。寂寥。空漠。泡沫。空白。不毛。無足。

     其の存在は、人を殺す為の道具。ナイフを研ぐ様に不要な感情を削ぎ落とし、散った火花の数だけ人間性を捨て去って。

    「─────」

     ある言葉を思い出した。

     いつ聞いたものかは、覚えていない。

     ただ、脳内を跳ね回るその声は、喉を震わせばいつだって聞ける物と一緒だった。

    『────だからってそれは、全てを諦める理由にはならない』

     ────?

     どうして?

     どうしてですか?

     だって、総ては無駄なのに────?



    「......随分と、不思議な眼をしているね」

  • 58125/06/24(火) 22:55:50


    ごめんこれだけです...。大して長くもならない想定なのでどうにかここで書き上げます。保守ありがとう.......。


    >>56

    良いですよぅ。

  • 59二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 02:40:48

    これ要はヒフミが色んな生徒や大人に憑依転生しながら何度も挫けていくやつでいいのかな

  • 60二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 09:53:52

    >>59

    その認識でいいと思う

  • 61二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 10:18:40

    >>51

    イッチがコユキになっちゃった。

  • 62二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 16:59:45

    乗り移った身体で自暴自棄になって快楽を求めて自慰に耽ったりヤケ食いしたりする世界線もあったりしそう

  • 63二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 17:37:11

    そういえば原曲の「あーまた駄目でした転生しよう」
    の境地に至ってるんだよねここのヒフミ

  • 64二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 22:41:45

    原曲の転生してる子も頑張ってもどうしようもないこといっぱいあったせいで擦り切れてる感じが見ていて居たたまれない

  • 65125/06/26(木) 00:09:10

     視界の端で、白いレースのカーテンが嫋やかに揺れる。背後からさす月光に照らされた金色の毛髪が、空中に煌めきを灯す。

     壁一面を埋め尽くす様な本棚に多様なジャンルの冊子が、天井近くまで所狭しと詰め込まれている様はまるで、図書館の一角のよう。

     惜しむべきだろうか。全ての本の縁、高い位置の本に対応する為の踏み台。果ては、読書用にと誂えられたであろう小机。その総てに等しく被せられた埃が、久しく部屋の主が其処へ手を掛けていない事実を物語る。

    「薄暗く濁っていながら、爛々と輝く何かを見つめているような。"諦め"と括るには、君のそれは希望を棄てていないように見える」

     病人とは思えないほど饒舌に言葉を紡ぐ狐耳。埃の膜を防ぐ天蓋のついたベッドの中から、細く薄く小柄な姿をゆっくりと起こす。

    「遠く遠く、交わることの無い蒼い未来から────それほどまでに荒んでいながら、どうして君は目を離そうとしないのかね」

    「......知らない」

     無駄だ。言葉なんて交わしたところで、此の夜に此の部屋で起きる事件には何も関わらない。
     右手に銃。左手には爆弾。その実存を確かめるように双方を深く握り直しながら、私は窓枠から足を降ろす。

     どうせ、死ぬんだ。不可解な問いで誤魔化そうが、泣いて喚いて命乞いしようが───お前の"結末"は、変わらない。唯々、虚しいだけだ。

     私が殺す。"人殺し"になる。それが私のあるべき姿なら。

     だって、ダメだったならまた、林檎を齧ればいいのだから。

  • 66125/06/26(木) 00:13:24

    「......観たくもない破滅は視せてくれるのに、見たくて仕方の無い人心には手が届かない。何もかも、ままならないものだね」

     ......文句だ。自分の力の及ばない何かへの───"世界"への、文句。矛先は違えど、その言い分には共感できる部分がある。

     共感なんて、虚しいだけだというのに。

    「...ならば、より明瞭に問うとしよう、"白洲アズサ"。」

     ふぅ、と。一息、細い吐息。のち、言葉は続く。



    「────君は、"誰"だい?」



     どくりと、心臓が重く脈を打った。押し出された赤黒い血液に血管が軋み、胸が痛みを訴える。
     それは、これまで露見していなかっただけの恐怖。

     意識して隠していた事では無いが、それでも、何故か"悟られてはいけない"という意識があった。自身のものでは無い立場を担う事に、責任感が、あった。
     それを。つい先程人心を見通せぬもどかしさを嘆いたばかりの女に、暗黙の秘密を言い当てられた、言い表しようの無い平静の瓦解。

    「私が識り、視た君は、少なくともそんな眼をしている少女では無かった。────知り得ぬ物を識る者の、諦観の眼差し」

     たじろぐ。一歩も動けない。手が自分のものではないみたい。
     ただ、爆弾を放れば其れだけで解決する事だというのに。銃を向けて引き金を引けば、それでこの無意味な会話は終わるはずなのに。

    「......何故も何もないさ。毎日、鏡越しに同じ物を見ているのだから」

     そう言って、百合園セイアは自嘲的に嗤う。吐き捨てるように鼻を鳴らし、乾いた息が湿った空気に溶けていく。

  • 67125/06/26(木) 00:16:50



    なんか知らんけどブルアカのストーリー読むと創作意欲が爆上がりします。するんですが眠たいので今日はここまで。明日の自分に今思い浮かんだ描写の断片を全部丸投げ。

    結局セイアちゃん出して小難しい事言わせれば物語が進んじゃうんですね。次があればそこから禁止カードにします。無理です。

  • 68二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 08:11:51

    いやあ良いものを読ませてもらった
    スレ主のモチベが続くまで思うように書いてくれ

  • 69二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 15:04:36

    待ってる

  • 70二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 18:05:15

    神SSですね
    待機

  • 71125/06/26(木) 23:55:05

    「............私は」

     誰なのだろう。

    「......ッッ、!!」

     そう、脳内で自身に問い直してすぐに、道を踏み外した音が耳元で弾ける。

     駄目だ。耳を貸すな。

    「...知らない、知らない知らない...ッ!!」

     怒りの矛先は、わからない。一足先に全てを悟って達観したかのような、諦めを浮かべながら此方を突き刺してくる目の前の少女か。

     はたまた、道具としての人生すらも全う出来ない自分自身か────、

    「......!?」

     反射的に突き出した銃口。其の銃身を、細い指が掴む。

    「......そうか」

     銃を奪う意図を警戒した。しかし、予言の大天使は私の想定と違う行動をなぞる。

     握った銃口を、静かに。彼女自身の、晒された白い額に、ぴとりと自ら押し当てて。

    「ならば、撃ちたまえよ」

     目を閉じた彼女は、変わらない調子でそう言った。

  • 72125/06/26(木) 23:57:13



    1レスずつでも更新するのと、ある程度書けてから一気に放出するのだとどっちが良いんですかね...

  • 73二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 02:09:43

    好きなようにやりたまえ。
    ここは君の世界、つまりは君の意思がこの世界の色だ。

  • 74二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 03:55:38

    ある程度書けてから……の場合投下前にスレが落ちる可能性があるので1つずつでもこまめに更新した方が安心ではあるかも?

  • 75二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:32:01

    期待保守

  • 76二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 08:44:36

    陰鬱とした雰囲気が好み

  • 77二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:29:04

    >>76

    理解できる

  • 78二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:34:51

    アズサとして銃を向けたそのセイアももしかしたら別の周回(転生)でヒフミが宿っていたセイアかもしれない

  • 79二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 22:44:09

    繰り返される人生……

  • 80125/06/27(金) 23:47:46



    明日いっぱい書くからゆるして

  • 81125/06/27(金) 23:49:10



    ていうかいつの間に赤字になったの...?怖いよ...?

  • 82二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 06:43:17

    ほしゅ

  • 83二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 08:09:40

    >>81

    喜び給え、君の物語に惹かれた者はそれだけ多くいたのだ

  • 84二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 16:52:43

    保守ぅ

  • 85二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 17:30:41

    最終的に『ヒフミ』に帰ってきたけど数々の人生体験の蓄積のせいで『ヒフミ』の身体が自分の身体だと思えなくなってたりしてそう

  • 86125/06/28(土) 21:13:31

    「────君の、在り方次第では」

     震える。

     彼女の声が。

     私の指が。

    「引き返す道を指し示そうとも思っていた。勿論、我が身可愛さもあっての事だとも」

     断頭台に首を差し出す罪人のように、目を閉じたまま天井を仰ぐ。

    「だがね」

     片目を開き、何かを確認するみたいに此方をじ、っと見つめて。

    「......君はどうやら、どうやってか......引き返す選択肢を、何処かで捨てて来たらしい」

     声色は、どこか寂しそうで。どこか羨ましそうで。

    「私と君との最大の違いがそこにある。善悪、正否、何方にしても貫き通す事、それ自体が。君にとっては、希望足りうるのだろう?」

     ......沈黙。

    「......何を言っているか解らない、とでも言いたげだね。ただの感傷だよ。前進の痛みに耐えかね、停滞を選んだ愚かな敗け犬が。意味無く散る命をせめて有意義に捨てられたのなら...」

     一息に吐き出し、そこで言い淀んだ彼女は、再び目を伏せる。

    「......私の骸を踏み越えてゆくといい、白洲アズサ。そしてよく考え、苦しみ、それでも振り返らぬことだ」

  • 87125/06/28(土) 21:15:07

    「願わくばその先に、君が、君自身の────そして、私の人生に、意味を見出してくれる事を願って...」



     .........。



     いくら待っても、彼女の次の言葉は私を襲わなかった。

     持ちうる弾薬の総てを使い果たし、軽くなった鞄をひとつ投げ捨てた、窓の外。

     耳をつんざく様な爆音を背に、月夜を仰ぐ。

     ────トリニティの中央から、硝子の砕ける様な音が聞こえた気がした。

  • 88125/06/28(土) 21:16:41

     殺した。

     殺せた。

     人を。



     人殺しの、道具。

     失敗を恐れる事さえなければ、誰にだって出来る、簡単な役割。

     ────けれども。数多の人生を無為に費やし、何を成すことも叶わなかった私が、私だからこそ、初めて成功させることが出来た「任務」。

    「.........あぁ」

     何もかも、セイアの言った通りだ。

     良い悪いなんて、もう、どうでもよかった。

     ただ、他人に出来ない事を成す事が出来る。それだけが、満足感だった。

     普通でしかなかった私が。私である必要性などなかった私が、唯一無二の「何者か」になれた。

     ここだ。ここが、私の終着点。

     これ以上のハッピーエンドが、一体どこに────

  • 89125/06/28(土) 21:17:41

    『これはペロロ様です!可愛いでしょう!?』


     ......そうやって。高らかに、自己への祝福を叫ぼうとした、私の前に。

     蒼い林檎は、姿を変えて顕れた。

  • 90125/06/28(土) 21:23:31



    大詰め。日付変わる頃に書けそうだったら来ます。

  • 91二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:27:43

    いったん乙

    虚無の果てに成功体験しちゃうの一番皮肉

  • 92二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 22:43:43

    お疲れ様です

  • 93二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 07:46:57

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 12:57:12

    どんなオチになるか読めなくて楽しみ

  • 95二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 18:31:37

    ゆっくり自分のペースで進めてくれ

  • 96125/06/29(日) 19:42:56

     ブロンドの長い髪を、ツインテールに結う。翼を型どったシュシュ。黄色いリボン。

     高校生になって、一年と少し。毎日の様に袖を通した白くて可愛い制服。

     お気に入りの、大好きなキャラクターのリュックサック。

     山程のぬいぐるみを、両腕いっぱいに抱えて。

     「補習授業部」なる部活に足を運んだ私を、彼女はそうやって出迎えた。

    『アズサちゃんは、どの子が好きですか?こっちはアングリーアデリーちゃんで、こっちがウェーブキャットちゃん!それから......』

    「いい」

    『...えっ?』

     はっきり言うと、腹が立った。

     こいつは、"普通"だ。"普通"でしかない事を、自覚していない。────否。其れを、深刻に捉えていない、私だ。

    「要らない、って言った」

     私は違う。もう、違う。普通じゃない。

     のほほんと、何者でもない人生を歩むのは、もうやめた。
     阿慈谷ヒフミの身体を脱ぎ捨てて、白洲アズサに成ったんだ。

     これは決別だ。何者でもなかった過去の自分との、決別。ぬいぐるみを抱えたままの私の横を通り、すれ違う。

    『本当に、そう思っているんですか?』

  • 97125/06/29(日) 19:44:46

    『アズサちゃんは、大好きでしたよ。モモフレンズ』

    「...知らない。興味無い」

    『限定アイテムを買う為に、何店舗も一緒に回りましたよね』

    「覚えてない。関係ない」

    『アズサちゃんの好きなスカルマンちゃんだけ、どこにも売ってなくて。それでも諦めずに、隣町の店舗まで一緒に行ったんでしたっけ』

    「忘れた。どうでもいい」

    『いつだってそう、アズサちゃんは真っ直ぐ前を向いて、私たちの事を引っ張ってくれました。諦めたりなんか、しなかった』

    「......そう見えてたから、何。私は......」



    『あなたとは、違うんです。────"阿慈谷ヒフミ"』

    「────!」

  • 98125/06/29(日) 19:45:50

    『私はアズサちゃんにはなれません』

    『どこまでいっても人並みで。大した特技もなければ秀でた才能もない』

    『年に見合った人生経験しかないし、好きな物を好きだなんて誰だってそうです』

    『ハナコちゃんほど賢くもないし、コハルちゃんみたいな純粋な優しさもない』

    『あなたは、アズサちゃんじゃありません。アズサちゃんは人殺しじゃありません。人殺しになって、喜ぶ様な子じゃありません』

    『アズサちゃんは────自分が、自分である為だけに、そんな事の為だけに人を殺すような、弱い子じゃありません』

  • 99125/06/29(日) 19:47:11

    「.........当事者でも、無い癖に.........!」

    「じゃあ、どうすれば良かったんですか!!何をやってもどれだけ頑張ってもダメで、ダメでダメでダメでダメでダメでダメで!!!」

    「あぁそうですよ!!私はアズサちゃんにはなれない!!アズサちゃんほど強くもないし、立派じゃない!!」

    「だから諦めたんです!!流されるままに生きる事の何が悪いんですか!?」



    『......そうですね』

    『私は普通です。人並みの域を抜けられず、理想を押し通す強さもなければ、培った経験も大したものじゃない。でも』

    『好きな物は好きだし』

    『嫌いな物は嫌いなんです』

  • 100125/06/29(日) 19:48:49

    『モモフレンズが好きです。大好きです。可愛くて、傍に在るだけで幸せになります』

    『後味の悪いバッドエンドが嫌いです。誰しもがみんな幸せになるお話であって欲しいと、思ってしまいます』

    『お友達のみんなが好きです。心の底から、大好きです。一緒に居られて、一緒に頑張って、一緒に乗り越えられましたから』


    『......何にもできない自分が嫌いです』

    『コハルちゃんは正義実現委員会で。ハナコちゃんはシスターフッドと協力して。アズサちゃんは、自分の過去と決着をつけるために』

    『みんながみんな、自分に出来ることを最大限にやっているのに』

    『何にもできない自分が、嫌いです』

    『......そうですよね』

    『だからあなたは......私は、林檎を食べ続けた』

    『みんなの為に、何かをできる自分に、なってみたかったから』

  • 101125/06/29(日) 19:50:14

    「............」

     気づけば、教室は消えていた。

     どこまでいっても真っ暗な、暗い世界に二人きり。
     零した涙も飛ばした唾も、それごと消えて二人きり。

     止まらずに話し続けて、息が荒くなる。お互いの呼吸が交差する音は、どこにも跳ね返らず闇に溶けていく。

    『......でも』

     『私』が、また口を開く。

    『「私」は気づいていないみたいですけど。......『私』にだって、出来ることがありました』

     手を伸ばし、『私』は「私」の手を取った。

    「なんの、つもりで......」

     振り払う元気も、無い。

    『────"転生"です』

  • 102125/06/29(日) 19:51:14

    『「私」の見てきたようなものじゃありません。もっと些細で小さなものです。『私』は"普通"ですから、その位が丁度いいのかもしれないとも思いますけど』

    「────」

     ピンと、来ない。だから押し黙ってしまう。

    『......「その立場」に立ってみると、分からないのかもしれませんが』

     『ヒフミ』が身を乗り出すようにして、顔をこちらに近付ける。

    『アリウスから送り込まれた刺客だったアズサちゃんを』

     言いながら、片方の手を鞄に突っ込み────「私」の手に、『ヒフミ』が何かを握らせた。

    『補習授業部の仲間として生まれ変わらせたのは、「私」たちです』

    「.........ペロロ、博士、の......」

     人形。

     「私』が、アズサちゃんにあげたやつ。

  • 103125/06/29(日) 19:52:41



    次回更新が最終回かなと思います。

  • 104二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:24:45

    期待

  • 105125/06/30(月) 00:30:16

     ......こんなにも。

    ────良い成績を出せた方には、この「モモフレンズ」のグッズを────

     こんなに、も。

    ────やむを得ない。全力を出すとしよう────

     ......こんなにも、暖かな気持ちだったのだろうか。

    「.........私は、道を誤りました』

    『アズサちゃんを、人殺しにさせてしまいました」

    「......でも、こんなの』

    『私は、嫌です........!」

     ...いつだって、そう。林檎は、私が「もうダメだ」と認めた時に、その姿を現した。

     にっこりと、向き合う『私』の笑顔が、光の中に消えてゆく。ペロロ博士のぬいぐるみと一緒に。

    「........あぁ」

     気づけば手の中には『歯型のついた』蒼い林檎があった。

  • 106125/06/30(月) 00:33:01

    ────────────
    ────────
    ────

     見慣れた天井が視界に飛び込んできた。変わらない朝の匂い。窓の外には曇り空。

     あぁ。転生が、終わった。平凡な自分に、戻ってきた。

     ゆっくりと身体を起こす。意識を失う前と、何も変わらない私の部屋。
     全てが泡沫の夢であったかのように、あれだけ深く心に刻まれた数多の末路の悲しさは、僅かにその名残だけを残すばかり。だけど、戻って来られた事にはほっとした。

     枕元のスマホに、モモトーク。新着の通知が三件。
     先生。ハナコちゃん。コハルちゃん。
     ......置いていかれてなんて、なかった。
     そう思って、視線を落とす。煌々と輝く、歯型のひとつついた林檎は、まだそこにあった。

    「────」

     少しだけ生まれた迷いを、自分のほっぺを引っぱたいて払い捨てる。自分が、自分であるために。
     握った林檎を、机の脇のゴミ箱目掛け、放り投げる。壁にぶつかって鈍い音を立ててから、ゴミ袋の中にがさりと飛び込んだ。

     さぁ。私は、どうしようか?

    「......決まってる」

     アズサちゃんを、人殺しになんてさせない。
     私が選んだ道を、アズサちゃん本人に歩ませる事なんて出来ない。

     リュックサックの肩紐を握る。着替えを終えて、ドアノブに手を伸ばす。
     私も、私として戦おう。そんな想いを、胸の内に。

  • 107125/06/30(月) 00:34:54

    ────瓦礫の頂、希望を叫ぶ。

    ────蒼く染まりし、穹の下。

    ────其の糾弾が、紡ぎ織り成す。

    ────絆を。希望を。明るい未来を。

    ────私達の、青春の物語を。

  • 108125/06/30(月) 00:36:15

    ────────────
    ────────
    ────

    "ここに宣言する"
    "私達が、新しいETO"

     晴れ渡る空の下。王手を掛ける先生の言葉に力が抜けて、危うく瓦礫の山から転がり落ちるところでした。

     周囲を囲む、アビドスの皆さんや正義実現委員会、ゲヘナ風紀委員の皆さんの煽りを受けて、アリウススクワッドが退くのをアズサちゃんと先生が追っていきます。

     緊張からの緩和で足腰の立たない体を、コハルちゃんに支えてもらって、ハナコちゃんにも肩を借りて、ゆっくりと二人の後を追います。

    「.........?」

     その時。掌に、何か、ずっしりとした重みが、ひとつ。

    「.........ぁ、」

     コハルちゃんが不思議そうな表情をしています。ハナコちゃんは何故か怪訝な面持ちで、私の手の中の物を見つめています。

    「......どう、して......」

     身の毛のよだつ様な感覚。背筋が凍りつくような恐怖。
     何か言いたげに、頭上に浮かぶそれをそのまま写し取ったような蒼が、私を睨んでいます。

     気づけば、手の中には────。


    『気づけば手の中には、蒼い林檎があった』____________ FIN

  • 109125/06/30(月) 00:46:34



    結局のところ、自分とは自分でしかない。
    どれだけ他人に憧れて、ああなりたいこうなりたいと理想を並べたとしても、ヒフミは「ヒフミ」として産まれ育ちここまで来た以上、「ヒフミ」以外の何者にもなれない。
    混乱の渦中にある学園をなんとか維持しようと尽力するハナコや、僅かな力を精一杯に奮い立たせるコハル。皆の為に業を背負う事も厭わないアズサ。そんな「凄い」皆に囲まれたヒフミが、ちょっと焦って追い詰められちゃってもいいな。っていうお話でした。

    "逃げ道"としての転生。"成長"としての転生。そんな物が描けていたらいいな、と思います。
    この先、ヒフミの手の中に握られる蒼い林檎は、果たしてどちらの味がするのでしょうか。

    だらだらと書いたと思ったら急ぎ足で完結させたりと落ち着きの無い拙作でしたが、楽しんで頂けたのなら幸いです。
    ていうか考えてた10倍ぐらいハートついてて怖い。誰かが連打してくれてるんだとしても怖い。

  • 110二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 02:08:47

    いいね…いいよ…すごくいい…
    語彙力が足らないのが恨めしい…私にはこの作品の感想をかけるだけの手札がない……
    またリンゴをかじって次に行くのか、それを捨ててしまうのかとか妄想がはかどりますね……

  • 111二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 09:20:24

    投稿したの全部纏めて笛吹かpixiv辺りに投稿したら結構評価貰えるのでは?と思いました
    正直かなり好きです

  • 112二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 17:00:24

    欲望に負けてまた林檎を齧るルートも欲望に負けず頑として林檎を齧らず阿慈谷ヒフミとして生きていくルートも妄想が捗る

  • 113125/06/30(月) 17:26:21

    うへへ...。ありがとうございます。嬉しいやら恥ずかしいやら。


    >>111

    それ用の垢はそれぞれにあるんですけど、レス毎に結構目まぐるしく時間が切り替わる書き方をしちゃったので、一本に起こすとちょっと読みづらいかなーと思わないでもないので保留中です。色々気に入らない所もあるので、やるとしたら結構手加えるかもです。

  • 114二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 22:37:09

    成り代わった身体のまま生きていくバッドエンドも妄想してみたり

  • 115二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 05:48:23

    とても読了感が良かった(小並感

  • 116二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 08:07:33

    いいもん見せて貰ったよ、ありがとう

  • 117二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 14:01:35

    後は感想の場になるか

  • 118二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:03:28

    ヒフミという根明な子の闇の部分を垣間見た気がしてちょっとドキドキしたよ

  • 119125/07/02(水) 00:11:10

    落としても良いですよ、と言おうと思ったんですけど、個人的には>>56を待ちたい。折角残して貰えてるのでネタを一粒。主役をヒフミとアイリで迷った、っていうお話をば。

    「普通」に悩む、という要素で言えばむしろアイリの方が適任かなーとも思ったんですが、彼女の内面についてはive-aliveで結構しっかり語られてて、引っ張られちゃいそうだったので...。

    ぼんやりですけどアイリ主役で書くならテーマからがらりと変わりそうな気がします。ちょっと考えたら出てきそうだけど書けるかは怪しい...。誰か頼んだ。

  • 120二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 06:36:18

    保守

  • 121二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 07:47:19

    もしかしたらこの「ヒフミ」自体も記憶がないだけで誰かが転生した姿なのかもしれないと思った。

  • 122二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 07:56:05

    ホラーでありサスペンスでありそして「ブルーアーカイブ」だった

  • 123二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 17:03:06

    ただ漠然と「今の自分」に不満があって変わりたいと願えば手元に浮かぶ青い林檎。
    ひとたび齧れば別人になれるその林檎。
    しかし別人の人生を歩むこともそう簡単ではなくて、それゆえに苦しみは積み重なって……
    そんなこんなの繰り返しで壊れた転生林檎を齧った人は沢山いるんだろうな

  • 124二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 22:35:06

    アズサの顔で、アズサの声で、アズサの身体で自分が逃げた『阿慈谷ヒフミ』の殻に分からされて元に戻るのが美しい

  • 125二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 04:46:15

    朝保守

  • 126二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 13:01:59

    もしかしてヒフミに語りかけたヒフミが逃げたかつての『阿慈谷ヒフミ』の殻にも誰かが乗り移っていたのかもしれない?

  • 127二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 19:27:57

    自我と身体が混淆してぐちゃぐちゃになりそう

  • 128二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 22:13:48

    確かにそりゃこの先エデン条約以外にも多くの困難にヒフミは出会うだろうからねましてやギヴォトスだし。今回は自分に戻れたけどまた心が折れて転生する事もあるかもしれない、だから林檎はヒフミにまた戻ってきたのかなって。

  • 129二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 22:17:14

    なんか世にも奇妙な物語みたいだと思った
    多分ドラマだと投げる直前にも口に近づけるようにも思える動きをラストの後に入れて締めるんだろうな

  • 130二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 22:32:45

    >>129

    何それめちゃくちゃ見たい

  • 131二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 08:03:51

    ティーパーティーの身体が特に馴染んでて気に入っているとか
    ナギサはヒフミが好きだからヒフミの魂とも身体がよく馴染むので他人とは思えないくらい動かしやすかったみたいな

  • 132二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 14:31:51

    遅ればせながら乙

    元ネタらしいカジュアルな転生・やり直しの果てに、ブルアカらしい予知能力持ったセイアや(アズサの自問自答を思わせる)自分との対面で自分自身を取り戻せたの好き
    コハルは意味分かんないだろうし、ハナコが危険物じゃないかとうかがってる差違も細かくて好き…

  • 133二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 14:34:20

    元ネタ結構ポップにしてたけど内容こんな重いのか

  • 134二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 16:20:50

    >>131

    ナギサ→ヒフミは「好き」であって「理解」ではないところがあるから、むしろその本人になったとしたらイメージとギャップで酷い事になる、みたいなパターンもありそう

  • 135二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 17:19:30

    乗り移った身体に馴染む・馴染まない基準はなんだろう

  • 136二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 22:32:28

    極論みんな他人だけどヒフミがヒフミとして知り合った人なら多少は身体の動かし方が理解しやすいとかはあるかもしれない

  • 137二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:17:21

    体が馴染む馴染まないとかの話出てたか...?

  • 138二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 08:26:27

    そういうこともあるかな、という妄想

  • 139二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 15:36:55

    ヒナの身体とかは強すぎて転生したばかりの頃は動きに心が追い付かないこともあったかもしれない

  • 140二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 20:37:38

    「心が身体を追い越してきた」の逆バージョンか

  • 141二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 23:51:01

    >>138

    これ(>>131)も妄想?

  • 142二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 05:26:54

    保守

  • 143二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 08:35:43

    正直人生で一回くらいは別人になってみたくはあるよね

  • 144二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 17:05:59

    >>143

    それは確かに

    だから林檎を齧ったヒフミの気持ちもわかるのもこの物語の良い所だと思う

  • 145二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 22:30:44

    自分も書いてみたいがシチュエーションが浮かばないし文才もないから迷うな……

  • 146二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 07:14:28

    >>145

    俺と同じ意見だな……

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