- 1二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 11:55:43
「ああ、ちゃんとありました……!」
私は安堵のため息をつきながら、棚の端の方に置かれている一冊の本を手に取った。
数日前に発売されていた、レース関連のムック本。
ある時代にフィーチャーした内容で、当時のウマ娘やトレーナーの貴重なインタビューも収録されている。
そんな、決して見逃せない一冊だったのだけれど、マイナーな出版社故に発売前の情報が少なかった。
それ故に予約することが出来なくて、発売したことを新聞の広告でたまたま知ったほど。
この手の本は刷られた量そのものが少なく、増刷もあまり期待できないので、見つけられて本当に良かったと思う。
軽やかな足取りでレジへと向かおうとする途中、私は、とある雑誌に目を奪われた。
「……これ、ラヴちゃんがたまに読んでいる雑誌、ですね」
平積みで置かれているのは、きらきらで華やかで可愛らしい表紙の女の子向け雑誌。
……なんだか、この表紙そのものがラヴちゃんみたい、なんて思いながら何となく手に取った。
ラヴちゃんは配信で色んな人を楽しませるため、トレンドなどの情報収集を欠かさない。
ネットで流行りのゲームから、最先端のコーデ、時にはレース場の限定スイーツまで。
彼女は良く私のジェネシスメソッドを凄いと言ってくれるが、私からしてみれば、彼女の方が凄いなと思う。
そんなことを考えながら、ぱらぱらとページを捲っていった。
そして、私はふと、気になる記事を見つける。
「気になる彼に、手料理で、女子力アピール……?」
その瞬間────何故か、トレーナーさんの顔が脳裏に浮かぶ。
私を見出し、導き、支えて、ともに歴史を刻んでくれている、とても大切な人。
気になる人、というのはニュアンスが違う気がするけれど、何故か結びつけてしまう。
そして気が付いたら、記事の中身を読み進めていた。 - 2二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 11:56:50
「家庭的で……女の子らしい……男性ウケ……お嫁さん……」
要約すると、料理上手な女性は男性からの人気が高い、という内容。
料理、というのならそれなりに自信はある。
それに、トレーナーさんにだって、今まで何度か料理を作ってあげたこともあった。
どて煮、マグロ串カツ、あんかけ焼きそば、たれかつ丼……。
彼は満面の笑みを浮かべながら、どれも美味しい美味しいと言って平らげてくれた。
また、作ってあげようかな。
口元を緩ませながら、ページを捲り、そしてぴしりと固まってしまう。
「…………えっ?」
次のページには、煌びやかな料理写真の数々。
彩り豊かなパスタ、様々な野菜をふんだんに使ったサラダ、宝石のようなデザート。
お洒落というか、綺麗というか、まさしく女の子らしい素敵なメニューだった。
私は頭の中で、それらの料理と今まで私がトレーナーさんに作って来た料理を並べてる。
そして、一つの結論を導き出しまった。
────うわっ……私の女子力低すぎ……?
女子力が低い、というよりはメニューが悪い意味で男性好み過ぎて、相対的に下がっているというか。
とにもかくにも、女の子らしい料理、とはほど遠いものであることが発覚した。
……トレーナーさんもやっぱり、こういう料理が、食べたいのだろうか。
「……」
私は、ムック本の上に女の子向けの雑誌を重ねる。
そしてちょっと気恥ずかしいので、その上に更にレース雑誌を重ねて、レジを持っていくのだった。 - 3二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 11:58:04
「あれ、クロノ?」
本屋さんを出た直後、私は思わぬ相手と顔を合わせることとなった。
頭一つ分高い身長、引き締まった身体つき、穏やかで柔らかな雰囲気。
意外そうなものを見るような表情を浮かべた男性に対し、私は尻尾や耳を逆立てながら反応してしまう。
「トッ、トレーナーさん!?」
その相手は、私のトレーナーさんだった。
いつもよりもラフめの格好をした彼は、ちらりと私が出て来た本屋を見やる。
そして申し訳なさそうな顔で、口を開いた。
「……ごめんね、買い物中に声をかけちゃって」
「いっ、いえ、今終わったところですから……トレーナーさんもお買い物ですか?」
「うん、夕飯の買い物をしようかなって」
そう言いながら、トレーナーさんはエコバッグを軽く持ち上げた。
以前レース場で一緒に購入した、限定デザインのエコバッグ。
今は持ち合わせていないけれど、食材などを買いに行く時には私も使っている。
……そのことがちょっと嬉しくて、つい、にやけてしまいそうになった。
それを誤魔化すように、私は話を続ける。 - 4二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 11:59:12
「えっと、お買い物はどちらまで行かれるのですか?」
「ここから少し行ったところのスーパーだよ、良く行くんだ」
「ああ、あそこですか、私も良く使います…………あの、もし宜しければ、なんですけど」
「うん?」
「私も、お買い物に付いて行っても良いでしょうか?」
私は、これを一つの好機と見ていた。
晩御飯の買い物をする、ということはトレーナーさんの食べ物の好みを知ることが出来る。
それはすなわち、次に作る料理のヒントを得ることが出来るということ。
そして次こそは────女の子らしいメニューを。
そんな決意を胸に秘めた私に対して、トレーナーさんは笑顔のまま小さく頷いた。 - 5二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:00:13
行きつけのスーパーは、いつも通りの活気に満ちていた。
雑多な物音、流行りの曲、店員さんの挨拶を耳にしながら、きょろきょろと店内を見回す。
色彩豊かに陳列された青果コーナー、今日は確か、お野菜の特売日。
惹かれてしまうものがあるが、今はトレーナーさんのお買い物、目的地はお惣菜コーナーだろう。
名残惜しく思いながら、別の売り場へと視線を向ける。
……あっ、でも、今日はすごく人参が安いですね。
「────あっ、今日は人参が安いんだね」
トレーナーさんはそう言いながら、ひょいっと袋に入った人参をカゴへと入れた。
その光景を、私はつい、ぽかんと見つめてしまう。
「後は味噌も買っておかないと……クロノ? 2着に二桁人気のウマ娘が来た時みたいな顔してるけど」
「……トレーナーさんって、料理されるんですか?」
ついついに口に出してしまった、ちょっと失礼な問いかけ。
トレーナー学校にも栄養学の課程があり、誰でもある程度の料理技術があることは良く知られていた。
それでもそう思ってしまうのは、きっと、私の料理を美味しく食べている彼の姿が印象に残っていたからだろう。
そんな私の質問にトレーナーさんは怒ることもなく、笑いながら答えてくれた。
「あはは、学園に来てからはあんまりしてなかったんだけど、最近はキミの影響でちょっとだけ」
「私の?」
「キミがたまに料理を作って来てくれるのに触発されて、それと、だな」
少し言い淀むトレーナーさん。
そんな彼の言葉をじっと待っていると、やがて、はにかんだ表情を浮かべた。 - 6二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:01:17
「……ご馳走してもらってばかりだから、たまにはキミに何かをご馳走したいな、って思ってさ」
「……!」
トレーナーさんの、手料理。
私の興味は、一気にそちらへと寄せられる。
一体どんな料理を作ってくれるのか、どんな味付けなのか、どこで食べさせてくれるのか。
期待と好奇心が、頭の中でぐるぐるとパドックのように周回を始めてしまう。
そんな私の様子を見て何かを察したのか、彼は少しだけ慌てた様子で言葉を続けた。
「あっ、まだキミに食べてもらうような腕じゃないから、もう少し待っててもらえると」
「それじゃあ、首を長ーくして待っています…………期待しちゃいますからね?」
「……お手柔らかに」
少し苦笑ながら、トレーナーさんはそう言った。 - 7二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:02:24
「ところで、今日の献立は決まっているんですか?」
「実はまだ決めてなくて……特売品とか見ながら決めようと思っていたんだけど」
そう言いながら、トレーナーさんは困った笑みを浮かべる。
カゴの中には人参、大根、ネギ、蒟蒻、お味噌など。
用途の幅が広い食材ばかりであり、それだけに何を作るか、という判断には悩むところだった。
「クロノだったら、何を作るかな?」
「……私だったら、ですか」
トレーナーさんの質問に対して、ふと、脳裏に件の雑誌の文言が過ぎる。
────女の子らしい料理で、気になるあの人の胃袋を掴んじゃおう♪
料理を作るわけではないが、今こそ、女子力アピールの機会なのではないか。
そう考えた私は顎に手を当てて、思考を巡らせる。
今の状況でも野菜は十分に揃っているため、必要なのはたんぱく源。
ご飯のおかず、と考えればここで必要なのは肉類や魚介類に当たるだろう。
適切な栄養バランスはレースを走るウマ娘にも必要不可欠、食を制するものがレースを制するという言葉もあるほど。
しっかりとした食事で作られた筋力は力強いトモを生み出し、そして、綺麗な歩様となって現れる。パドックにおいてもここで大きな差が出ることは大きい、レース観戦は歩様に始まり歩様に終わると言っても過言ではない、脚運びや軽やかさ、蹴り上げる力などもきちんと見ておかなければいけない。特に直線の長い東京レース場においては────。
「…………おーい、クロノ?」
「はっ!? す、すいません、つい、えっと今日の献立ですよね……!?」
トレーナーさんから声をかけられて、私は我に返る。
ついつい、あまり関係のない思考に耽ってしまった。
改めて今日の献立について考えようとしても、一度浮かんでしまったレースのことが離れない。
人参、東京レース場、大根、パドック、たんぱく源、女子力、お味噌。
雑多なファクターが入り乱れて、私の料理経験がメソッドとなって、一つの結論を作り出していく。
そして、私はそれを彼に向かって伝えた。 - 8二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:03:28
「…………もつ煮ですっ!」
────女子力の欠片もない答えを、妙に大きな声で。
きょとんとした顔のトレーナーさんと周囲からの視線に、私は自分がやらかしたことに気づく。
かあっと熱を帯びていく頬、それを手のひらで冷ましながら、弁明をする。
「あっ、これは、その、違くて、ですね!?」
「……いいね、もつ煮」
私がわたわたとしていると、トレーナーさんは納得するようにぽそりと呟く。
そして近くの精肉売り場に目を向けると、お誂え向きに、豚もつがタイムセールで並んでいた。
彼はそれを一つ手に取ってカゴに入れると、どこか懐かしそうに目を細める。
「キミに初めてご馳走してもらったのも、もつ煮だったよね」
「……はっ、はい、あの時はこんなにも長いお付き合いになるとは、思いもしませんでしたけど」
「そうだね、本当に懐かしいな、あの時のクロノは食べるのも忘れてレースを見てたっけか」
「もっ、もう、昔の話じゃないですか…………今は、たまにしかやりませんから」
私達の出会いは、レース場。
そして繋がりのきっかけは、空腹の私にトレーナーさんが携行食をくれたこと。
そのお礼にもつ煮をご馳走して────今の私達がある。
そう考えれば、もつ煮は私達にとって、人生を変える料理だったといえるかもしれない。
「よし、ちょっとチャレンジしてみようかな」
「それじゃあ、後でLANEでレシピを送りますね?」
「ありがとう……でも、あの日食べた味に近づけるのは、いつの日になるかな」
「でしたら、今度一緒に作ってみませんか? 私も久しぶりに、じっくりと作りたいので」
色々と本音と下心を混ぜ込んだ、私からの提案。
トレーナーさんはそれに全く気付かないまま、嬉しそうに頷いてくれた。 - 9二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:04:31
「お待たせ、クロノ」
お店の外で待っていると、会計を終えたトレーナーさんがやってきた。
荷物の入ったエコバックに、それとは別にレジ袋を添えて。
少し不思議に思いながらも、私は彼を出迎える。
「お帰りなさい、トレーナーさん」
「俺の買い物は終わったけど、そっちはどうかな? 何かあれば付き合うけど」
「いえ、私も買い物は終わっているので、このまま寮へ戻るかと」
「そっか、それじゃあ送っていくよ……後これ、今日のお礼に、もし良かったらどうぞ」
「えっ? そ、そんな、ちょっと提案しただけなのに、悪いですよ……!」
「気にしない気にしない」
そう言いながらトレーナーさんは、レジ袋の方を私に手渡して来る。
こういう時の彼は案外頑固で、遠慮したとしても決して譲らないだろう。
それが良く分かっていたから、私は諦めて、素直に受け取ることにした。
あまり重みを感じさせない感触、なんだろうと思いながら、レジ袋の中を覗いてみると。
「……ウマ娘にんじんチップス!」
ウマ娘にんじんチップス。
それは定番の人参チップスに、ウマ娘のブロマイド、いわゆるウマ娘カードが付属している商品。
長年販売されているロングセラー商品で、私も小さな頃から良く食べている。
特にウマ娘カードに関しては根強いコレクターがいて、実のところ、私もその一人だった。
ただ、一つ気になることが。 - 10二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:05:33
「私、トレーナーさんにカードを集めているって、お話していましたっけ?」
ウマ娘カード集めは、趣味としては少し幼いという世間的な印象がある。
私はそんなことは思っていないのだけれど、周りの目もあり、ラヴちゃんや一部の人以外には話していなかった。
トレーナーさんにも、話してはいなかったと思うのだけれど。
「いや、知らないけど……ただ、こういうのクロノは好きそうだなって思ってさ」
予想通り、というしてやったり顔で、トレーナーさんは笑う。
その表情を見ていると、なんだか胸の奥が、じんわりとした温もりで満ちていくのを感じた。
私は宝物を扱うように、にんじんチップスをぎゅっと抱き締める。
「ありがとうございます、本当に、嬉しいです」
「……いや、そこまで喜ばれるほどの物じゃないと思うけど」
困惑の表情を浮かべるトレーナーさん。
当然だろう、にんじんチップス自体は子どものお小遣いでも買える、ありふれた商品なのだ。
でも、違う。
嬉しいのは────私の好きを、彼が理解してくれたこと。
「えへへ」
そんなこと、恥ずかしくて言えないけれど。
私は答えの代わりに、照れ隠しの微笑みを浮かべてみせた。 - 11二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:06:43
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいクロノちゃん♪ お目当ての本は手に入ったかしら?」
「はい、ばっちりです」
寮の自室に戻ると、先に帰宅していた彼女が出迎えてくれた。
赤く華やかな長い髪、左耳にはハートを模した髪飾り、左目の目元にはハートマークのラメ。
同室のラヴズオンリーユー、ラヴちゃんは明るい笑顔を浮かべていた。
「良かった~、あっ、ちょーっとだけ見せてもらってもいい?」
「もちろんです、はい、どうぞ」
「ありがと♡ って、あら、この雑誌……?」
購入した本をラヴちゃんの前に纏めて出す、彼女は不思議そうな表情を浮かべた。
目的のムック本、レース雑誌、そして、それに挟まれた女の子向けの雑誌。
スーパーでの出来事もあって、存在そのものをすっかり忘れてしまっていた。
…………正直に言うと、あの記事に対する興味も、失せてしまったような。
「……間違って買ってしまいまして、もし良ければラヴちゃん、どうでしょうか?」
「…………そう、それなら有難く受け取らせてもらおうかしら♪」
一瞬、怪訝な表情を浮かべたものの、ラヴちゃん雑誌を引き取ってくれた。
間違えて買った、なんて無理のある嘘は、きっと彼女にはお見通しなのだろう。
それを分かっていてなお、気づかない振りをしてくれたのだ。
……本当に私は周囲の人達に恵まれているな、と改めて思ってしまう。
「あっ、にんじんチップスもまた買って来たのね、せっかくだし、お茶菓子にでもする?」
ラヴちゃんは、にんじんチップスの存在に気づく。
これまでも定期的に買って来ていて、チップス自体を食べるのは、他の子にも協力してもらっていた。
全部食べてしまうと体重管理に影響が出るかもしれない、だから今日も────。 - 12二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:07:49
「そ、それはダメですっ!」
…………えっ?
気が付いたら、私は大きな声を上げていた。
自分の行動に思わず呆然としてしまう私、そしてそれはラヴちゃんも同様。
彼女は耳と尻尾をピンと立ち上がらせて、驚いたように目を丸くしている。
けれどすぐに平静を取り戻し、少しだけぎこちのない笑みを浮かべたまま、言葉を紡いだ。
「そ、そっか、それじゃあ別のお菓子を用意するわね」
「あ……」
やって、しまった。
今のは、きっとラヴちゃんを傷つけてしまった。
なんで私はあんなことをしてしまったのだろうと、後悔に苛まれる。
自己嫌悪に陥る最中、ふと、ラヴちゃんの声が聞こえて来た。
「……そうだクロノちゃん、カードを開封するところだけ見せてくれない?」
「えっ?」
「カードを集めてるクロノちゃんを見ていたら、私も気になっちゃって、ダメかな?」
そう言って、ラヴちゃんは両手を合わせてお願いをする。
今までもカードの開封は見ていてくれたけど、そこまで気にしている様子はなかった。
つまるところ、これはきっと、私に気を遣ってくれているのだろう。
本当に私は、周囲の人達に恵まれている。
それを改めて噛みしめながら、目を細めて頷いた。 - 13二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:08:56
「はい勿論、大歓迎ですよ」
「ふふ、ありがと、クロノちゃん♡」
「……こちらこそ、それじゃあ、ちょっと待っててくださいね」
机から鋏を取り出して、出来る限り丁寧にカード入っている袋を開ける。
緊張と期待の一瞬。
私とラヴちゃんでじっと切り口を見つめながら、ゆっくりとカードを取り出す。
そして現れたのは、私が良く知るウマ娘の走る姿と────流れるように書かれた金箔の文字。
思わず、私達は顔を見合わせてしまう。
「クロノちゃん、これって……!」
「欲しかったシェーンリーリエさんのカード、しかも金箔サイン入り……っ!」
ずっと買っていたのに手に入らなかったリーリエさんのカード。
しかもその中でも激レアと言われて、ネットでも高額で取引されるらしい金箔サイン入り。
望んでいた、いや、望んでいた以上の逸品に持つ手が震えてしまうほどだった。
「良かったじゃない!」
「はっ、はい! 一発で当ててしまうだなんて、さすがはトレーナーさんですっ!」
「……トレーナーさん?」
「……あっ!?」
────そして、嬉しさのあまりに口を滑らせて、余計なことを言ってしまう。
本来であれば大した失言ではないはずだけれど、目の前にいるのは他ならぬラヴちゃん。
私を良く知り、そして聡い彼女は直前の出来事から、あっという間に真実へ辿り着いてしまう。
にんまりとした笑みを浮かべて、彼女は楽しげに尻尾を揺らめかせた。 - 14二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:10:04
「へぇ~、そっかそっか、そうなんだ~♡」
「ラ、ラヴちゃん……?」
「クロノちゃんってば、トレーナーさんから貰ったにんじんチップスだったから、独り占めしたかったのよね♡」
「なっ……!?」
そんなことはない、なんて言うことは出来なかった。
ラヴちゃんの言葉がすとんと落ちて、納得してしまう自分がいたから。
……私って、そんなに独占欲が強かったんだ。
自分自身の知らない一面に呆然としていると、突然ラヴちゃんがぎゅーっと抱き締めて来る。
「ひゃっ!?」
「もぉー! クロノちゃんってば超ラヴいー! こういう時のクロノちゃんは本当に────」
言葉とともに、ラヴちゃんはちらりと視線を逸らす。
その視線の先にあるのは、先ほど彼女に上げた、女の子向けの雑誌。
そして彼女は全てを察したようにこちらへ向き直ると、耳元でそっと囁いた。
「────女の子、って感じよね♡」 - 15二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:11:28
お わ り
下記スレの92のネタで書いたお話です
オチが大分ズレていったので別にスレ立てということで
お礼の手料理で「もつ煮」を作ってくる女|あにまん掲示板センスが競馬場のオッサンすぎる……bbs.animanch.com - 16二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:16:15
お疲れ様です。クロノミウム不足だったので助かります
- 17二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:29:05
贅沢言いますのでラヴちゃんに抱きしめられて「女の子、って感じよね♡」と囁かれたいです
- 18二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 12:59:51
良いね、女の子っぽくない趣味の娘が女の子っぽくあろうとするいじらしさがズルいね
こういう素直な独占力がスーッと心に染み渡りました
>どて煮、マグロ串カツ、あんかけ焼きそば、たれかつ丼
すごい、全部どこのか分かる
- 19二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 13:10:51
うおおお出くわすことに成功したのでお礼が言える
色々追っかけてます
いつも素晴らしいSSをありがとうございます - 20二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 18:47:41
気になる本を買う時にカモフラージュの本を重ねるところ中学生って感じで笑ってしまった
恋心の自覚がまだない女の子は可愛くて良いですね… - 21125/06/24(火) 00:42:09