【SS】想いを言葉にして【紫雲清夏】

  • 1テルテルボウズ25/06/25(水) 17:26:54

    SSスレです。

    過去に一作だけ書かせていただきましたがまだまだ経験浅いので、拙い文ですがご容赦ください。


    一応こちらが過去作です。これで貼れるんですかね。

    【SS】だからこの場所を【月村手毬】|あにまん掲示板SSスレです。スレ1つ立てるくらいに書くのはこれが初めてのため、不出来なところもあるかと思いますがご容赦ください。稚拙かもしれませんが、どうぞ最後までお付き合いいただければ幸いです。bbs.animanch.com

    どうぞ最後までお付き合いいただければ幸いです。

  • 2二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 17:27:18

    まってた

  • 3テルテルボウズ25/06/25(水) 17:28:44

    「あのさっ、Pっち」

     思えばあの時、あたしは自分で思っていた以上に、追い詰められていたのかもしれない。
     何にだろう。自分自身かな? 立場とか、居場所とか、これはあたしだけのものだっていう独占欲とか、そういう自分の中にある何か。
     そう。少なくともそれは「あの子」じゃないはずだ。それは分かっている。あの時だってちゃんと頭の中ではわかっていたはずなのに。

    「……やっぱりさ、担当アイドル増やすの、やめない? あたしだけに、しない?」

     なんでこんな最低な事言っちゃったんだろう。
     言うだけ言って、頭が真っ白になって、Pっちが何かを言うのを聞きたくなくて、それより早く踵を返して走り出す。
     駆けだしてすぐ、通り抜けていくあたしの横に一瞬だけ、俯いたあの子がいたのが見えて余計に速度をあげた。どうしても途中で後ろが気になって、この程度の距離を走っただけにしては息が苦しくて、だから足を止めて振り返った。
     ――俯いて泣いているあの子の後ろ姿と、その頭をぎこちなく撫でているPっちの姿が見えて、振り返るんじゃなかったと思いながら、今度は動けなくなるまで足を止めなかった。
     なんでこんなことになっちゃったんだっけ、どうしてあたしはこんな気持ちになってるんだっけ。そんなことを、走りながらずっと考えていた。

  • 4テルテルボウズ25/06/25(水) 17:30:17

    ***

    「担当アイドルがもう一人増える、って……Pっちの? あたしの他にってこと?」
    「はい。そうなります。正直気乗りはしなかったのですが、学園長からどうしてもと頼まれてしまいまして」

     事務所でPっちが申し訳なさそうにその話題を出したのは、NIAであたしが優勝して、一週間くらいたったころだった。
     なんでPっちに、と不思議に思ったけど、原因はあたしらしい。高校から編入してきた――つまりアイドルとしての経験は本当に今年が初めての、中学進学組と比べれば三年分経験に劣るはずの新人。しかも前評判としてはダンスの才能を期待されていたくせに肝心のダンスレッスンはサボってばかりの問題児。
     そんなのを担当して一年経たない間にやる気を引き出し、しかもNIA優勝というわかりやすい成果を出したわけだから、どうやらPっちのプロデュース能力に対する学園からの期待はとんでもないことになっているらしい。
     結果、中等部で現在最も期待されているアイドル科の子を一人、今からでもぜひ受け持ってほしいと声がかかっちゃったというわけだ。

    「学園長から名指しというだけでも断りにくいのですが、そのアイドルのほうからも俺を名指しで要求しているとのことで」
    「ふーん。ふぅーん……? へぇー?」
    「清夏さん、あの……目が怖いのですが」
    「Pっちモテモテじゃん。ヨカッタネー」
    「絶対思っていませんよねそれ」

     正直、この時点で面白くないなと思っていたのは事実だった。でも、それと同じくらい嬉しかったのも、決して嘘じゃなかった。
     だってPっちが凄いって一番実感してるのはあたしだから。一番お世話になってて、一番隣にいて、一番信頼しているのはあたしだから。
     誰だって自分が信頼している相手を評価されてるってわかれば、嬉しいでしょ?

  • 5テルテルボウズ25/06/25(水) 17:33:37

    「それで、俺だけの話ではありませんし、清夏さんにもきちんと話を通さないとと思いまして」
    「通すだけでしょー?」

     容赦のない言葉にPっちがぐっ、と言葉に詰まる。
     大丈夫わかってる。今のは確実にあたしのほうが意地悪だった。頼んできている相手的に断れないよね。それに初星学園卒業後のことを考えれば、プロデューサーとして今後もバリバリ頑張っていくであろうPっちの未来を考えれば、ここで依頼を受けない理由はない。
     大手の事務所でも、一人のプロデューサーが何人かのアイドルを担当しているなんてよく聞く話だ。場所によっては一人で二十人近くとか、なんと百人担当しているとか……まあさすがに、相当話盛ってるんだと思うけど。
     後々のキャリアを考えれば、アイドルを二人や三人くらいは同時に担当する経験なんて積んでおくべき。多分Pっちはそう考えていて、だから本音を言えばこの話に興味津々なんだ。
     それでも一応あたしに相談してくれた、ってこと自体、すごく誠実というか不器用というか。
     最近気付いたけど、こうやって申し訳なさそうにしているPっちはちょっと可愛い。あたしより背も高くて年齢も上の男の人が、叱られる子供みたいに背を丸めてこっちを見るのがたまらないって感じるときがある。あたしは変なんだろうか……と思いつつ、いい加減可哀そうになってきたのでこの辺りで意地悪は終わりにしておくことにした。

    「ごめん、ちょっと意地悪しちゃった。大丈夫だよ、別にそんなの嫌だ―とか、言わないってば」
    「しかし……」

  • 6テルテルボウズ25/06/25(水) 17:37:11

    「この話受けたほうが、Pっちとしてもいい経験積めるでしょ? それわかってて邪魔するほど、Pっちから見たあたしってワガママ娘なのかなー?」

     それでもまだ煮え切らない様子のPっちに、その時初めて、なんか変だなと思った。思ったけど別に根拠もないし、気になったのは本当に一瞬だけだったから、その時は特に気にしなかったんだ。
     せいぜい「どんだけあたしに遠慮してんのさ」くらいの気持ちで。

    「それにほら! Pっちに担当アイドルが増えるってことは、あたしにも後輩が一人増えるってことでしょ? 仲良くなれたら最高じゃない?」

     どんな子なの? なんて前のめりになりながらその「あたしの後輩予定」の子についての話を促す。あたしのほうも乗り気だよ、興味津々だよって態度。まあ実際興味はあるし、言ってることも嘘じゃないし。
     ちょっとだけモヤモヤするのがなんでかは、わからないけど。
     そこまでやってようやく、Pっちの表情から申し訳なさが消えていくのをあたしはなんだか不思議な気持ちで見ていた。
     聞けば聞くほどすごい子だった。その後輩ちゃんは現在中学二年生で、既に規模は小さめだけどアイドルとして活動を始めつつあるらしい。
     中等部の伝説といえばうちのクラスの手毬っちが所属していたユニットのことだけど、後輩ちゃんはその頃の手毬っちにも匹敵するくらいの実力と実績を持っているとかなんとか。
     資料として送られてきたものです、といいながらPっちが見せてくれた動画では、その後輩ちゃんが大勢のファンの前で歌って踊っていて、大歓声を浴びていた。

  • 7テルテルボウズ25/06/25(水) 17:39:16

    「……うっわー。凄いね」

     思わずそんな声が出て、自分の出した声に違和感があった。
     凄い? 凄いは凄いけど多分今言おうとしたのは違ってて、なんかもっとしっくりくる言い方があるはずで。

    「この動画は、彼女が一年生の時のライブ映像だそうです。つまり今からちょうど一年前の状態ですね」
    「ほんとに? え、じゃあここからもう一年分経験とか積んでるの? もうそれあたしより大先輩じゃん」
    「経歴としてはそうなります。歌も、ダンスも、高い水準でまとまっている。持って生まれた才能もあるでしょうが、普段からしっかりとレッスンを重ねているのが見ていてよくわかります」
    「……めっちゃ褒めるじゃん」

     さっきまで申し訳なさそうにしていたのが嘘だったみたいに真面目な顔で映像を見て、冷静にその後輩ちゃんを分析しているPっちにあたしはじっとりした視線を向けてやる。
     おーい。あなたの担当アイドルはあたしですよーって。余所見すんなーって。そう思ってふと気が付いた。
     そっか。このままいくと今の台詞はこの後輩ちゃん相手に使えなくなるんだ。そう気付いた瞬間、目の前のライブ映像がとても怖いものみたいに思えてしまった。下手なホラー映画よりも直視していたくない。そんな気持ちのままに、Pっちと一緒に覗き込んでいたタブレットを取り上げて動画の停止ボタンを押す。

    「ちょっ、何するんですか」
    「後輩ちゃんに興味深々のPっちに、ここであたしからお知らせがあります。時間見てみ?」
    「時間ですか? ……あっ」

     促されるまま部屋の時計に目をやったPっちが珍しく焦った顔になる。今日はあたしのダンスレッスン予定で、その時間はもうすぐに迫っていた。あたし一人で行っていいなら特に問題ないけど、今日は今後のレッスンの打ち合わせとかでPっちもレッスン室まで一緒に来る予定だった。

  • 8テルテルボウズ25/06/25(水) 17:43:16

     あたしはなんだかんだ言っても既にレッスンの準備はバッチリ。あとはこのままレッスン室へ向かうだけ。対してPっちは。

    「すみません、すぐに準備します」
    「急げPっちー。芸能界は時間に厳しいよー?」

     笑いながら少し急かすようなことを言って、席を立つ。今日帰ったらリーリヤに話して聞かせたいくらいに珍しい、大慌てで支度をするPっちを眺めながら。
     気付かれないように、見られないように、タイミングを見計らってほんの一瞬視線をそらして、あたしは小さくため息をついた。
     凄いね、じゃない。あたしが言おうとしたのは。そんな素直な感動じゃなくて。
     歌もビジュアルも超高水準。あたしが一番得意なダンスも互角か、もしかするとそれ以上。
     ――やばい。勝てないかもしれない。なんでこんな子が来るの。
     ――やめてよ。来ないでよ。ここあたしの場所なの。
     そういう、切羽詰まった、ギスギスして、錆びた刃物みたいなざらついた言葉だった。

    「どうしました、清夏さん」
    「……えっ? 何? なんかあった?」
    「何かあったというか、ほんの少しだけ、浮かない顔をしていたので」

     どきりとする。よく見てくれてるなって気持ちもなくはないけどそれ以上に。
     今の気持ちがどれだけ醜いか、気付かれたくないか。それに完全にじゃなくても気付かれかけたことが、怖かった。

    「別に何もないよ? ダンスレッスン、ちょっと難しいステップ教わっててさ。そのこと考えていただけ」
    「本当ですか?」
    「本当ですー。自分の担当アイドルの事信じてくださーい」

     すねた口調で返してやると、本当に時間がないのもあってそれ以上無理に踏み込んではこなかった。
     そのことが嬉しいような、でも少し物足りないような気持ちをこれ以上自覚したくなくて、あたしは持ったままだったタブレットの電源を切った。

  • 9テルテルボウズ25/06/25(水) 17:48:28

    ***

    「よろしくっす、清夏先輩!」
    「う、うん。よろしく……?」

     結局あたしの後押しもあってPっちが正式に例の依頼を受けると返事してから、話は怖いくらいとんとん拍子で進んだ。
     顔合わせのスケジュール決めから、顔合わせ後のレッスンスケジュール、実際のアイドル活動の方針などなど。ちょっと目を離してまた様子を見ると直前の話はとうの昔にまとまっていて、全然違う内容について話が進んでいる様子はなんだか「だるまさんが転んだ」をしているみたいな気分になった。
     最初は名前とライブ映像だけだったのに、次に振り返るとカレンダーに顔合わせ日程が書かれていて、その次はもう後輩ちゃんに関する細かい資料の束ができていた。
     そうしてその次がもう今日だ。あたしとその後輩ちゃんの顔合わせ。
     ライブ映像で見ていたから驚くほどではなかったけれど、とても可愛らしい子だった。背はあたしよりずっと低い。千奈っちといい勝負かもしれない。揺れるポニーテールが語源の通りしっぽみたいにぴょこぴょこ跳ねていて、ちょこまかした印象の子だった。
     どんどん進んでいくスケジュールとはいえ、一応心の準備をする期間はあたしにもあったわけで、その間に初対面の挨拶はどうしようかって脳内でたくさんシミュレートした。
     そういうの全部済ませて、準備万端、気持ちの上でもいつでも受け入れオッケー、って気持ちで出迎えたわけだけど。

    「ねえ後輩ちゃん」
    「はいっ! なんすか清夏先輩!」
    「……………………近くない?」

     Pっちが事務所に連れてくるから待機してて、部屋に入ってきた時点で飛びつくようにあたしの目の前まで駆け寄ってきたのだ、この子。
     紹介します、こちらが今日から担当になる――ってきちんと紹介しようとしてくれたPっちの言葉よりもずっと早く、向かい合うとかじゃなくてもう抱き着くのかってくらいの距離。
     めちゃくちゃびっくりして、さんざんシミュレートしていた挨拶なんか全部吹っ飛んだ。

  • 10テルテルボウズ25/06/25(水) 17:53:56

    「ご、ごめんなさい! 本物の清夏先輩に会えたのがもう嬉しくて、つい」
    「ごめんPっち、説明」
    「……どうやら彼女は、紫雲清夏の大ファンだそうです。もともと応援していたのが、NIAの優勝でファン魂爆発した、とのことで。どうやらプロデューサーに俺を指名したというよりは、言葉通り『紫雲清夏の』プロデューサーがいいという主張だったようです」
    「そうなんすよ! ライブ見たとき本気で衝撃受けました! 可愛いし、格好いいし、綺麗だし! ダンスももうビシーッてしてて、歌も聞いててグワーッて気持ちになって!」

     あ、うん。大体わかった。この子あれだな。
     気持ちの言語化とかほとんどしない子だ。全体的に感覚で生きてるというか。
     それでいて人懐っこさもすさまじい。あとたぶん、パーソナルスペースって言葉とは無縁っぽい。これはつまり。

    「さてはこの子、愛され上手だな?」

     言いながらそのほっぺを痛くない程度につまんでぐにぐにとマッサージしてみる。見た目の可愛さだけじゃない、立ち居振る舞いにそれぐらい可愛がってもいいよねって思える愛嬌があった。
     案の定、ふつうは怒るか反射的に離れるようなその接触にもむしろ嬉しそうに、満面の笑みでされるがままになっている。
     さて、とそんな彼女の頬を解放してから、あらためて。

    「知ってくれてるみたいだけど、ちゃんと自己紹介させてね。紫雲清夏だよ。学年はともかく、アイドルとしての経歴はあたしのほうが後輩みたいなもんなんだけど……とりあえずよろしくね」

     こちらこそ、と嬉しそうに応じてくれるその後輩ちゃんを見ていると、なんだか少し前まで嫌な気持ちになっていたのが馬鹿馬鹿しく思えてきてしまう。
     少なくともこうやって話している分には、嫌な気持ちどころじゃない。庇護欲を刺激されるというか、先輩として可愛がってあげたくなるというか。
     要するにあたしもこの子の可愛さにすっかりやられた、ということだ。
     仲良くやっていけるといいな、そう思ったし、実際この子ならやっていけそう、そう確信できたんだ。
     ――見落としが一つだけあったとしたら、それはこの子のほうじゃない。あたしのほうだった。

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 17:58:17

    なんかもう辛いぞ

  • 12テルテルボウズ25/06/25(水) 18:01:17

    ***

     後輩ちゃんの愛され力というか、後輩力はまあ凄まじいものだった。
     どうやらPっちはあたしとこの子のユニットも視野に入れているようで、なるべくレッスンは一緒に受けるようになったし、後輩ちゃんのほうも暇さえあればあたしの後ろをくっついて回るもんだから、あたしの交友関係に入り込むのもほとんど一瞬だった。
     クラスメイトに紹介すればあっという間に打ち解けて、ことねっちに可愛がられ、咲季っちにお世話され、なんと手毬っちですらいつもより優しいお姉ちゃんモードになっていた。
     うちのクラスが騒がしいって理由で様子を見に来た二組の子たちにもずいぶん気にいられちゃって、気が付いた時には二クラス分の人の輪の中心に、後輩ちゃんとその隣のあたしが立っていた。

     ――やっぱとんでもないなこの子、さすがに中等部でトップのアイドルだわ、なんて。
     そこまでは良かった。純粋にあたしもこの子に慕われている先輩として鼻が高いなんて、無邪気に笑っていられたのはそこまでだった。
     そろそろ自分の教室に戻れ、って声をかけようとしたとき、後輩ちゃんが話していたのはあたしの大親友のリーリヤだった。
     別に他の子たちと変わらない、人懐っこい後輩と、その距離の詰め方が満更でもなくて笑顔になっている相手と。ただそれだけのはずなのに、どうしてだかその様子を見た途端、胸の奥に針が刺さったみたいな気分になった。
     理由はわからない。他の子よりもちょっとだけ距離が近いように見えたから? あたし相手だとどうしたって出てこなくて当然の「ちょっとだけお姉さんぶるリーリヤ」なんてものを引き出していたから?

     とにかく、その痛みを感じたその直後、あたしは後輩ちゃんの肩を後ろから掴んでいた。

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 18:04:09

    大丈夫だ、この人なら最後は幸せにしてくれる……よね?

  • 14テルテルボウズ25/06/25(水) 18:05:35

    「……あれ、清夏先輩?」
    「あー、えっと。そろそろ授業始まるでしょ? 自分の教室戻らないと。それともあたしと一緒に高校生の授業受けるかー?」
    「えええ遠慮しとくっす! 私勉強得意じゃないので!」

     難しいぞー、とあえて怖い顔を作って脅かしてやると、後輩ちゃんは素直に怖がってくれた。素直で可愛いなあこいつは、という気持ちが、たぶん七割くらい。演技でも怖がる様子を見て、胸がすっとしてしまった気持ちがちょっと。
     駆け足で教室を出ていく後輩ちゃんを見送って、自分も席につこうとして、

    「ねえ、清夏ちゃん。……もしかして、調子悪い?」

     そんな風に困り顔のリーリヤに心配されてしまった。
     やばいなー、と笑顔のまま、内心ではちょっと冷や汗をかく。リーリヤにはあの子と初めて会うより少し前に、例のモヤモヤした気持ちについて少しだけ相談してしまっている。その事があるから気にしてくれているんだろうけれど、正直ここは気付いてほしくなかった。
     この小さな針みたいな痛みは、リーリヤ相手でも――いやむしろリーリヤだからこそ打ち明ける気になれない。
     だからあたしは、なんでもないふうを装って、ただ「可愛いでしょ、あたしの後輩」とだけ言った。本心からまだそう思えていることに、自分で言いながら安心もしていた。

  • 15テルテルボウズ25/06/25(水) 18:15:00

    ***

     そんなことがあった、次の日。これがもう決定的だった。
     事務所に向かう途中でたまたまダンストレーナーさんに会って、最近調子はどうだとか前に難しいって言ってたステップについてとか話し込んで、だから思ってたより事務所に着くのが遅かった。
     多分Pっちは後輩ちゃんと打ち合わせ中だろうからこっそり入って後ろから脅かしてやろうか。打ち合わせに使う机は位置的にこっそり扉を開ければすぐには気付かれないはずだし。
     そんなふうに企んで足音を抑えつつ、そっと事務所の扉を開けて、そこであたしは見てしまった。
     あたしとPっちがレッスン予定を立てる時とか、いつも向かい合って座っていた椅子とその間にあるテーブル。二人はそこで、予想してた通り打ち合わせ中だった。それは別にいい。
     Pっちの座る位置はいつも通り、あたしと向かい合って座る時に、必ずあたしの正面になる席で。
     後輩ちゃんは、そのすぐ隣に、肩がくっつくくらい距離を詰めていて。
     机の上に置かれた資料を指さして確認しながら、それに答えるPっちを嬉しそうな顔で見上げて、また資料に目を戻して。その肩の近さもそうだけど、その距離で顔を見上げるようにするともう、いつ唇同士がくっついてもおかしくないような。
     大丈夫落ち着け冷静に考えろ、あの子誰に対してもあんな感じじゃん昨日だってことねっちにも咲季っちにも手毬っちにもリーリヤにも、

     ばぁん、と重たいものが壁にたたきつけられるような音が、大音量で響いて、なんの音かと思ったら二人が顔を上げてこちらを見ていた。
     その目がどちらも驚きで丸くなっていて、ようやく今の音を理解する。扉だ。
     そっと半分だけ開けていた扉の残り半分を、無意識に、あたしの手が力いっぱい、壁に叩きつけるみたいな勢いで開けていたんだ。

  • 16テルテルボウズ25/06/25(水) 18:23:32

    「す……清夏さん?」
    「あ、あれ……あー……えっと、ここの扉、建付け悪くなってない? なんか、引っかかって上手く開かなく、て……」

     咄嗟に取り繕う言葉がおかしいくらいに震えている。無理だよこんなの、他の人でも多分ごまかせないのに、Pっちはこういうの絶対に気付く。
     リーリヤと同じ。今のあたしがどういう気持ちか、気付かれたくないのに。絶対に放っておいてくれないんだ。
     なにか取り繕わないと、と思うのと、目を丸くした後輩ちゃんとあたしの視線がぶつかった。本当に心底驚いていて、でもあたしの気持ちには本気で気付いていないなってわかる、真っ直ぐな目。

    「清夏先輩?」
    「……ごめん、今日調子悪いから帰るね」
    「清夏さん!」

     見ていられなかった。見られたくなかった。見れたもんじゃなかった。見たくなかった。
     切羽詰まった、ギスギスして、錆びた刃物みたいなざらついたもの。今のでわかった。やっと言葉になった。違う、多分最初からわかってて、でももう今ので言い逃れの余地が無くなった。向こうの目に無くて、あたしにあるもの。
     リーリヤと後輩ちゃんが話していた時にも同じ気持ちだった。今はその時の何倍も強く、思う。
     ――やめてよ、取らないで、この人はあたしのなんだよ。つまり嫉妬だ。
     それ以上何も言えなくて、逃げるように背を向けて。廊下の角を曲がって、少しだけ走ったところで結局捕まった。
     手首を強く、でも多分痛くないように加減しながら握る手の大きさで、あたしに追いついたのがまだ見ていられるほうだってわかって、そこで深呼吸。

    「……ごめんPっち。今、あんまり追いかけられると困っちゃう」
    「だとしても、そんな状態の担当アイドルをそのままにしておくほど薄情ではありませんよ」

     振り返ることをしないまま、背中越しにその声を聞く。
     ああ、これはこれで悪くないかも。こんなに切羽詰まった声で、必死になって追いかけてきてくれるんだ。なんて、そんなふうに考えてしまうあたしは、やっぱりちょっと変なんだと思う。
     そんな変なところがあるから、それを自制するための気持ちが揺らいでるから。だから多分口走っちゃったんだ。

    「あのさっ、Pっち……やっぱりさ、担当アイドル増やすの、やめない? あたしだけに、しない?」

     最低の、醜い想いを。

  • 17テルテルボウズ25/06/25(水) 18:30:46

    ***

     足がもう動かない、息ももう全然続かないって所まで走って、ようやく落ち着いた。どこまで走ったんだかよく分からないけど、空は赤色を通り過ぎてもうほとんど紺色になっていた。
     周りを見渡すと、見慣れない建物ばかりが並ぶ。
     さすがに咲季っちや佑芽っちみたいなトンデモ体力じゃないから、例えば天川市から出るほどの距離じゃ無いはずだけど、それでも一度も来たことがないような所まで来てしまったらしい。
     たまにリーリヤと買い物に出かけるような人通りの多い場所じゃない。人気は少なくて、薄暗くて、ちょっとだけ怖い道。かろうじて少し離れたところにコンビニはあるけど、それも入口前にちょっと雰囲気の怖そうな人が座っていて近寄りづらい。なんか、こっちを見てニヤニヤしながら話してるし。
     その薄暗さと雰囲気が、ようやくあたしの真っ白になっていた頭を落ち着かせた。

    「帰らないと」

     呟いて、踵を返す。
     その手を後ろから掴まれた。

    「なあオネーサン、めっちゃ美人だね」
    「こんな所来たら危ないよーって、もう遅いか」
    「あれ、この子の制服あれじゃね? ほらアイドルの卵が沢山いる学校」

     血の気が引いた。コンビニ前にいてあたしを見ていた人達だ。
     振り返ることも怖くてできない。あたしに話しかけてるくせに、返事なんかなくてもお構い無しの男の声が三人分。掴んでくる手首は強く握られて痛い。さっきあたしを引き留めようとしたPっちとは雲泥の差の、酷い握り方。

    「や、やめ……離して」
    「連れないこと言わないでよ、なあ」
    「どこ行くの、送ってあげようか? あ、でもちょっと寄り道するけどいい?」

     絶対やだ。この人たちは怖い。逃げたいのに逃げられない。手首を握る力が強すぎて、手のひらなんかもう血が巡らなくて痺れてきて、涙がぽろぽろと。
     助けて、と。声を出したつもりが全然出てなくて。もう耐えきれなくてぎゅっと目を閉じた瞬間だった。

  • 18テルテルボウズ25/06/25(水) 18:36:53

    「……お待たせしました。すみません、少し遅れてしまって」

     聞き慣れた、今まさに思い浮かべていた声がして、まずあたしは耳を疑った。
     だってそんな都合のいいことある? 少女漫画でしかないでしょ、そんなの。
     でも確かに、目を開けるとそこには肩で息をしながら、汗でズレた眼鏡を指で戻しつつ、あたしを――あたしの手を握ってる後ろの人たちを睨みつけている、あたしのプロデューサーがいたんだ。

    「さて、それじゃあ行きましょうか」
    「え、あ、うん」

     呆気にとられるあたしの、ちょうど後ろから掴まれている方の手を取って、さっきまで握っていた方の手をかなり乱暴に引き剥がして。

    「彼女を見つけてくれてありがとうございます。ご協力感謝します。でもこれ以上着いてきたら警察を呼びますので悪しからず。それでっ……ごほん、それでは失礼します」

     ものすっごい早口でまくし立てて、なんなら最後盛大に噛んで、そんなことなかったみたいな振る舞いであたしを引っ張るようにしてPっちはその場から小走りに、逃げた。
     あんまりにも驚いたあたしはただ、振り返った先にいた三人の男の人とPっちを見比べて、ああやっぱPっち身長だけじゃなくてガタイもそこそこいいんだなあ、なんて間の抜けたことを考えていて。
     多分三人組も同じように呆気にとられていたのかもしれない。なにか凄い脅しをかけたとか、格好よく撃退したとかじゃなくて、嵐のようにやってきてほぼノンストップであたしを連れ去るPっちを、ぽかーんとしたまま見送るだけだった。
     ――なんだ、今の。さあ、わかんね。
     そんな感じの呟きが聞こえたけど、毒気でも抜かれちゃったみたいな様子で、結局追いかけてきたりはしないみたいだった。

    「こ……こういう時は、自分の身長に感謝しますね。ちゃんとした格好で堂々としているだけで、少なくともいきなり殴られたりしないので」

     Pっちが口を開いたのは、そこからもうしばらく小走りで逃げたあとだった。
     ――あ、ちょっと声震えてる。よくよく落ち着いて見ればあたしの手を握る手も汗がすごい。そのことに気付いて、何故か少し、ほっとする。
     Pっちも多分怖かったんだなって。怖いと思いながら助けてくれたんだなって。ちょっと方法は、格好良いかっていうと怪しいところだけど。

  • 19テルテルボウズ25/06/25(水) 18:44:05

    「どうして助けに来れたの? ってかよく見つけられたね? 走ってきたくせにあれだけど、あたし走りすぎてここどこかわからないよ?」
    「最初から死に物狂いで追いかけていたからですよ。帰り道も一応把握しています」
    「うそ、追いかけられてたの全然気づかなかったんだけど」
    「でしょうね。後ろから声をかけたのに全く足を止めてくれないので、途中で何度か見失うかと思いましたよ。実際最後は少し見失っていました。あちこち必死に駆け回って偶然出くわしたからよかったものの、肝が冷えましたよ」

     Pっちの歩幅が少し落ち着いたところで、さっき呆気にとられる前にも思った事をようやく尋ねる。そうすると思いのほか根性論な答えが返ってきて少し笑ってしまった。走りながら、どうしてこんなことになったんだっけなんて必死に思い出しているあたしの後ろで、そんなことになってたなんて。

    「Pっちってめちゃくちゃ頭良さそうに見えて、時々わりととんでもない事言うよね」
    「とんでもないメンタルになりながら何も言わない担当アイドルよりはマシです」
    「……ごめん」

     予想の倍くらいきつい切り返しが飛んできて、まだ軽口で誤魔化そうとしていた気持ちが一気に萎む。まあ怒るよね、確かに。どれだけ心配かけたんだって感じだし。
     謝って、けれどそれに対する返事はなくて、ものすごく気まずい沈黙。怒られることより、正直これが一番堪えた。いっそ大声で怒鳴りつけてくれた方がまだ気持ちは楽だったかもしれないとも思う。

  • 20テルテルボウズ25/06/25(水) 18:50:50

    「……ねえ、Pっち。あたしが走り出した時、後輩ちゃんいたよね。置いてきちゃったの?」
    「今日の打ち合わせはもうほぼ終わっていたので、寮へ戻るように指示してきました」
    「そ……そっか。いやあ、困らせちゃったよね。帰ってから、ちゃんと謝らなきゃ」
    「今日のところはかなり混乱していたので、連絡するなら明日にしましょう。彼女からも清夏さんのケアを優先でと頼まれましたし、元々そのつもりです」
    「あはは……あの状況で、まだあたしのケアをーとか言えちゃうんだ、ほんとにいい子だね。うん、本当に……あたしよりも……あたしなんかよりもずっと」
    「あの、清夏さん」

     なんとか会話をつなごうとして、そうすると困ったことにちょうど自然に出せる話題が今は置いてきた後輩ちゃんのことばかりになる。
     口にしながら、少しずつ自分の胸の奥に刺さる針みたいな痛みが増えていくのを、俯いて耐えようとした時だった。
     ぐい、と掴まれたままの手が一瞬だけ強く引かれて、引っ張られるままに大通りから一本外れた細い路地に入る。何事だと目を白黒させるあたしを、次の瞬間にはPっちの両腕が包み込んでいた。
     ――え待って、あたし抱きしめられてるの? Pっちに?
     それはとても、とても嬉しいのを否定はしないけど、あたしアイドルで、人目が、ああだからちょっと細めの路地に入ったんだなってそんなふうに納得しかけるけどそれもおかしいと気付いて振りほどこうと。

    「すみませんでした」

     耳元で囁くようにそう謝られて、あたしの手から力が抜けた。
     なんで謝るの。心配かけたのも、勝手に嫌な気持ちになったのもあたしの方なのに。

  • 21テルテルボウズ25/06/25(水) 18:53:51

    「不安にさせたと思います。清夏さんの気持ちをきちんと考えられていなかったかもしれません。違和感には気づいていたのに、自分の経験になるからと少しだけ欲を出してしまいました」
    「いやいや、それはほら、あたしも納得の話だったし? Pっちが謝るようなことは――」
    「怖くなったんです。さっき、ガラの悪い人達に捕まっていた姿を見て。間に合ったからよかったものの、もし一歩間違えばどうなっていたか。あなたの心に負担をかけて、それで逃げられてしまって、もし最悪の事態になっていたら……清夏さんが俺の傍からいなくなってしまったらと思うと」

     とてつもなく怖くなりました。抱きしめられながら、耳元で、それは言葉にするのも怖いと思ってるような、小さな声だった。
     大袈裟でしょ、と言えない。そんなに心配しなくても、と言えない。嫌な気持ちを抱えたあたしなんかいなくなっても、なんてこんなふうに声を絞り出している人に絶対言えない。
     ただ、そっとPっちの背中に手を添えてあげることしか、できることはなかった。
     そうしてあたしより大人なはずの彼の背中を、落ち着くまでゆっくりと撫でながら、あたし自身の抱え込んでいた嫌な気持ちもゆっくり溶けていくのを。溶けたものが全部熱い雫になって、目から流れていくのを感じていた。

  • 22テルテルボウズ25/06/25(水) 19:23:16

     そうしてどれくらい時間が経ったのかは、正直分からないけど。多分かなり短かったと思う。すみません落ち着きました、なんて冷静っぽく、けどあたしには動揺がわかる程度の早口が、その時間の終わりの合図だった。

    「そろそろ帰ろっか、Pっち」

     一応人通りがないかはちらちら横目で確認して、大丈夫っぽいとは思っていたけど、いつまでも抱き合ってたらさすがにアイドルとしてかなりよろしくない。
     そうですね、と頷くのを見てから離れようとして、なんでか逆にもう一度強く抱きしめられた。

    「ちょ、あの、Pっち?」
    「すみません、あと一つだけ。抱きしめついでに伝えておきます。聞いてもらえますか」
    「う、うん。……はい」
    「清夏さん。あなたは自分で思ってるよりずっと、隠せていません。俺だって別に物語によくあるような鈍感朴念仁というわけではありません。……ちゃんと気付いていますし、俺も同じ気持ちです」
    「……なっ」

     何を言い出すのかと思えばとんでもないことを。顔が瞬間湯沸かし器みたいになってるのが嫌でもわかる。でも、じゃあ。

    「後輩ちゃんと、くっついてたのは……?」
    「彼女の性格は清夏さんも知ってるでしょう。素で距離が近いんですよ彼女は。俺は別の席を勧めようとしたんですが間に合わなくて」
    「で、でもほら、あんな子に隣でくっつかれたんだよ? 変な気持ちになったりしないの?」
    「なりません。いつも真正面に、もっと魅力的な人がいますから」

     待って待って、今日のPっちおかしい。いやおかしくしたの多分あたしだけど。どんだけ攻めの姿勢なのさ。小さく呟いたつもりのそんな言葉は、そもそも抱きしめられてるんだから当然のように筒抜けで。

    「今日だけは全力で攻めもします。アイドルを引退する日が来たら伝えようと思っていましたが、今回みたいなことが二度あっては困ります。いっそ今のうちに言えるだけ言ってしまえば、二度とこんな誤解は起きないかなと」

     まさか今ので伝わらないとか言わないでくださいね。逃げ場を潰すようにそう付け足した後、Pっちはまたあたしの手を優しく握ってまた帰り道を歩き出した。
     そのまま学園に着くまで――多分バスに乗るとかタクシー呼ぶとか選択肢は沢山あったはずなのに、ゆっくりと歩いて到着するまでずっと、その手を離そうとはしなかった。

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:27:02

    つよつよ攻め攻め清夏Pはいずれ万病に効くようになると思う

  • 24テルテルボウズ25/06/25(水) 19:28:36

    ***

     その後はまあ、特にトラブルもなくて。
     門限なんかとっくの昔に過ぎていたから、寮に戻るとまずまおっち先輩に結構本気のお説教を受けてちょっと泣きそうになって、部屋に戻ると今度はリーリヤからマジで怒られて二人して泣いちゃって。
     ようやく落ち着いてスマホを見たらまあすごい数の着信とメッセージの数に驚いた。半分はリーリヤだったけど、もう半分のほとんどは後輩ちゃんからだった。
     あの子Pっちにあたしのケアを優先してとか言ったんじゃなかったっけ? とも思ったけど、短い期間でもあの子に懐かれてたからわかる。そうは言ってもただ待ってられなくって連絡しちゃう子だ、あの子は。

    「ずみがぜんばいぃ……ごめんなざいぃ……」
    「ちょ、なんで謝るの? あたしの方が酷かったんだよ? 謝るならあたしの方――」
    「だって、だってあだじ、先輩に嫌われるのやだぁ……! あだじがずぎなのはっぜんばいなのにぃ……!」
    「あー……ちょい待ちちょい待ち。とりあえず一旦深呼吸しな。そんで鼻も、なんとかしなさい。もうなんか電話越しでもアイドルが出しちゃいけない音出まくってるから」

     Pっちは明日にしなさいって言ってたけどさすがに放置もできなくて、電話をかけてみたらこの調子。こっちが謝りたかったのに、結局気が付いたら宥めて落ち着かせて、ごめんを言う暇もなかった。それでも落ち着かせた後、こっちも泣きそうになりながら何度も、何度もごめんねを言った。この子に非なんかないのに、あたしの勝手な気持ちの暴走なのに、泣かせて、ごめんなさいなんて言わせて。

  • 25テルテルボウズ25/06/25(水) 19:30:07

     そして落ち着かせながら話を聞いてみればもう、なんというか。
     まず後輩ちゃんに、Pっちのことをどうこうしようなんて気持ちもそういう狙いも微塵もなかった。Pっちの言っていたそのまんま、元々他人との距離が近い子だから、それが当然だと思ってる子だった。多分嘘とかじゃない……はず。疑っちゃうのはもう、どうしても不可抗力ってことで許して欲しい。
     一応、そんな誤解されるような事ばっかりしてたら意識せずに敵作るよって、さすがにちょっと気をつけるように言ったし、今回のあたしの態度でそれはもう泣くほど思い知ったとかで、気を付けていくつもりは本人にもあるらしいけど。
     それからあたしの友達、特にリーリヤとめちゃくちゃ仲良くなってた時の話も聞けた。二言目にはあたしの話が飛び出てくるもんだから、リーリヤとはそこで意気投合してたみたい。
     ほかのクラスメイトにもあとから確認したけど、だいたい皆後輩ちゃんの名前を出すと「あー、あの清夏大好きっ子ね」みたいな言葉を返してきたからこっちも嘘じゃないんだと思う。
     なんてことはない。要するに全部あたしの、滑稽な独り相撲だったってやつ。そうとわかって、またごめんねの回数が増えた。

    「あの、清夏先輩。私やっぱり、プロデューサーさんの担当、やめたほうがいいっすか」
    「……その聞き方ズルいよ。そこで頷くのサイテーな奴じゃん」
    「ごめんなさい。でも本当に、私は清夏先輩がどう思ってくれるかの方が大事なんすよ。そんな誤解されるくらいなら、ズルいこと聞いてでも先輩の事大事にしたいっす」
    「アイドルとしてどうなのさ、それは……まあいいや、それじゃあ言っちゃうけどさ――」

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:32:11

    後輩ちゃん良い子過ぎる…

  • 27テルテルボウズ25/06/25(水) 19:35:34

    ――――――
    ――――
    ――

    「清夏先輩っ、ユニットに向けたレッスンの時間近いんで、お迎えに来たっす! プロデューサーさんも一緒っすよ!」
    「はーい、じゃあごめんリーリヤ、あたしそろそろ行かないと」
    「うん、それはいいんだけど……清夏ちゃん、最近あれだよね」
    「……? あれって、どれ?」
    「後輩ちゃんと距離、近くないかなって」
    「……えー、そうかな?」
    「絶対そうだよ! 今日みたいに一緒にレッスン行く日は腕組むくらいくっついていくし、お昼休みなんかも必ず一緒にご飯食べてるし、清夏ちゃんの方からも頻繁に頭撫でに行ったりしてるし!」
    「あー……言われてみるとそうなんだけど、やばいなこれ。当たり前になり過ぎて指摘されるまで全然意識してなかった。むしろそれが自然みたいな感じになってたかも……一応、他の人にやたらくっつくのは辞めたっぽいから油断してたわ」
    「葛城さんの言う通りですよ。最近は事務所にいてもずっとくっついていますからね、俺は蚊帳の外ですよ」
    「プロデューサーさんも、ですか……分かります、清夏ちゃんを取られちゃったみたいな気持ちになりますよね」
    「全くです。何度か指摘してるんですが全く直らなくて、妬けますね」
    「はい。妬けます」
    「二人揃って何言ってんの……? ちょっと目が怖いんだけど! ……あーもう、二人とも並んで! 後輩ちゃんは今日先に行ってて!」
    「了解っす! いつものやつっすね!」
    「……よーし。リーリヤも、Pっちも、散々言ってくれたぶんカクゴしなよ? あたしがどんだけ二人のこと大好きか、どんだけ想ってるか! やめろって頼まれても全部言ってやるから!」

  • 28テルテルボウズ25/06/25(水) 19:39:35

    以上になります。


    今回も書きたいように書かせていただきました。

    ちょっと色々な書き方を試したくて、そういう意味では前回より慣れてない書き方だったかもしれません。

    それでも読んでくださった方々のお口に合えば幸い、合わなかったらごめんなさい。


    ちょっと次も間が空いてしまうかもしれませんが、またこの名前で書かせていただければと思います。


    >>13

    自分の名前を、その不安の答えにしていただければ幸いです。

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:40:54

    おつです。
    相変わらずよかった。

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:41:42

    >>28

    すまねぇ、そのコテハンそういう意味だったんだな

    てっきり、毛髪にコンプスレックスがあるのかと

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:41:54

    凄いしっかりしててとても良かった
    怖がりながらも助けに現れるの本当にヒーローだよPっち

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:45:16

    >>30

    スレ主の凄い詩的な返答で感心してたのにカスの憶測打ち返してて笑ってしまった

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:45:39

    っぱ我慢できなくなるPっちは最高やな!

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:46:06

    胃に優しいssをありがとう

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:46:44

    スレ主は創作関係の勉強とかそこそこされてるんですかね、あくまでスレ立てるのが2回目ってだけで。モノローグが丁寧でとても惹き込まれる。俺もSS書いてるけど、正直参考にしたい。

  • 36テルテルボウズ25/06/25(水) 19:47:01

    >>30

    うるせえそれもあるよ畜生


    でももう一つの理由も本音なのでそちらで覚えてくださいね

    そちらで、覚えて、くださいね

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:55:53

    >>36

    いや、マジでこれはすまんかった。

    でもホンマにええもん読ませてもろたやで。

    こう、指先まで震えるくらいの感動は久しぶりや。

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:57:09

    ハゲは文豪

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:57:33

    ハゲは胃に優しい

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:58:14

    結局ハゲハゲ言われてて草

  • 41二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 20:33:32

    >>35

    そう言って貰えると嬉しいです。


    勉強と言えるほどのことではありませんが、昔はよく本を読んでおりました。最近はちょっと減りました。

    モノローグ系はそういうのが上手い作家さんの作品を読むと書く時にイメージしやすいと思います。

スレッドは6/26 06:33頃に落ちます

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