【閲覧注意】広「完成した」【俺なら見ない】をハピエンに繋げたい

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 05:55:10

    いやぁ、すごいいいものを読ませてもらった、読ませてもらったんですよ。でも、タイムリープものってなると、バッドエンドもいいけど、そこからやり直してのハッピーエンドもいけるんじゃないかってことでね、誠勝手ながら別人ではありますが、ハッピーエンド目指して続きを書かせていただく所存にございます。

    駄文、誤字脱字、元のSSとの設定の乖離、解釈違い等々あるとは思いますが、P広が笑っておわれるエンディング目指して、書かせて頂こうと思います。

  • 2二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 05:56:10
  • 3二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 05:58:45

     広は、その場から動くことが出来なかった。
    目の前の光景を、脳が理解することを拒んた。

     目の前に転がる真っ赤に染った物体が、プロデューサーであるなどと、悲しむ暇さえ捨てて、誓った趣味さえ捨てて、救おうとした最愛の人であるなどと、ましてやその命を奪うことにの自分自身が関与していたなど、一体誰が予想できようか。

     タイムマシンの研究をする中で、タイムパラドックスについて考証を行わなかった訳ではない。
     プロデューサーの死が、既にタイムマシンによる干渉を受けることを前提として成り立っているということを考えないほど、篠澤広は愚かではなかった。

     ただ、それでも研究を続けたのは、過去へ飛んだのは、恋ゆえの盲目、愛ゆえの狂気と言うほかなかった。この方法しか、救う道を見いだせなかったのだ。
     そんな広にとって、あまりにこの真実は残酷であった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:03:11

    遠くから誰が呼んだか、パトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
     人に注意を促すその音は、広の思考を無理やり引き戻した。

    (まずい、タイムマシンまで、逃げなきゃ)
     焦りが帰って冷静でいさせてくれた。今の広は、未来から来たこの世に存在しない人物、公権力に見つかるのは非常に都合が悪いのだ。
     幸いタイムマシンは現場からそう遠くない場所に隠してある。
     隠してあると言っても空き地に置いてあるだけなのだが、周囲の景色に合わせたホログラムにより、姿を完全に隠すことができるのだ。

     何とか辿り着き、周囲の人影を警戒してからタイムマシンへと乗り込む。

    (過去は、変えられなかった。それだけじゃくて、私が、私がプロデューサーを…)
    「ぷろでゅ…ご、ごめんなさ、違うの、わたしは……あぁ…ああぁぁあああ!!!!」
     遅れた理解が追いつき始めてきた。あの日に置いてきたはずの悲しみと共に広を責め立てる。
     久々に出せた感情表現は、やっとまともに出すことが出来た涙は、歓喜ではなく悲哀のもので、ただただこの狭い機会の中で泣き叫ぶことしか出来なかった。

  • 5二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:08:00

    どのくらいの時間がたっただろうか。広の涙も声も尽き果てた頃、広は再度思考をめぐらせる。
    (過去は、やっぱり変えられないのかな。)
     ここに来ても、やはり彼女は研究者であった。失敗に対して考察を行う。
    (プロデューサーが、事故に遭う日は確かに今日、この日だった。)
     再度、あの光景を思い出し吐き気を覚えるも、当時の資料を持ち出し、相違点がないか探してみる。

    (確かに、私はあの時、見間違いじゃなければ、私の事故が起こった時にはプロデューサーが事故が起こらないように、時間は稼げたはず。だったら…
     !やっぱり、事故を起こした車が、前は黒だったのに今回は白だった。)

     たかが車の色、されど車の色、確かに過去は変わっていた。過去は不変ではなく可変である。つまり、
    (可能性はゼロじゃない。今回は無理だっかもしれないけど、いつかプロデューサーを救える、いいや、絶対に救う。)

     広の目に光が再度灯った。慣れた手つきでタイムマシンへと数値を打ち込む。
     戻る先はもちろん数時間前。
     マシンが唸り声を上げ、視界が光に包まれる、時間跳躍の前兆だ。
    (プロデューサー、待ってて)
     ぎゅっと拳を握る力を強くする。そうして広は2度目の時間跳躍を行った。

  • 6二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:24:48

    目を開いて、タイムマシンの外に出る。と言っても景色が変わっている訳では無いので、1回目ほどの感動はない。
     時間を確認するためコンビニの中の時計を確認。
     確かに数時間前へと遡っていた。

     再度目指す、あの場所へ。
     恐怖で震える膝に、今度こそと鞭打って。

    「──見つけた」

     先程と変わらぬ場所に、その人は立っていた。
     先刻の姿とは違う、元気な姿で。
     得も言われぬ恐怖と衝動が、お腹の底から胸へ込み上げて、それは吐き気となって溢れてきそうになる。
     今度こそ上手くやれる。そうすれば、また話ができる。またあなたと、一緒に歩くことができる──、そう信じて。

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:26:22

    服の袖で口元を拭った。
     吐きそうな成人女性に声をかけられるなんて救急案件だ。落ち込んでる場合じゃない。ちゃんと話をするために、笑っていないといけない。
     だから、今なお止めどなく湧き上がる感情をグッと抑え込んで、広は前を向いた。
     しかし、足が震えて、うまく歩けない。

    「ね、そこのお兄さん」

     振り返った彼の顔を見て、広はまた泣きそうになった。
     大好きな人が、また、そこに立っていた。

    「はい?俺ですか?」
     同じ反応を返す彼に、広もまた
    「うん、あなた。こんなところでなにしてるの?」
    と、返す。数年ぶりのプロデューサーの会話だ。一言一句違わず、広は暗記していた。

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:38:36

    「マズい。もうこんな時間だ。すみません、俺もう行きます」
     腕時計をチラっと見た、彼がそう切り出す。
     先程は欲を出して引き止めてしまったために事故が起こった。だから、
    「うん、ごめんね、呼び止めて。その娘は幸せにするだ、よ?」
    今回はそう言い残して踵を返す。これで彼は救われるはずだ。

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:48:52

    「ちょっと待ってください。」
    そう、後ろから呼びかけられ、振り向いた。
    その時、振り回された左手に、確かな引っ掛かりを覚えた。

    「あ​───」
    それは、彼の引き止める力と、私に残っていた進む力に引っ張られ、プツリと千切れた。

     嫌な予感がして彼の方へと視線を向けると、その後ろに大きな影が見えた。そんなはずは無い。ここは歩道だ。
     だが、そんな予想と裏腹にその大きな鉄の塊はゆっくり、ゆっくりと彼の方へと近づいている。
     クラクションの音が響く。
     誰かが悲鳴をあげた。
     何かに強い衝撃が加わって潰れるような音が聞こえた。
     目の前が、赤くなった

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 06:57:30

    2度目ということもあり、今度はすぐに逃げ出した。
    (なんで?どうして?あの場所に車が突っ込むような事故はなかったはず!それとも、プロデューサーの事故がなかったら本当は起こるはずだったもの?わからない、わからない、わからない、わからない!)
     だとしても、過去が変わったのは事実、だから、広にできることは、ひとつしか無かった。

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 07:20:36

    目を開き、タイムマシンから出る。
    太陽の高さが同じだ。また戻ってきたと確信する。
     足早に、今度はさっきよりも早いタイミングでプロデューサーを探す。
    (いた)
     先程の場所からそう離れていない場所に、彼を発見する。

    「ね、そこのお兄さん」
    「はい?俺ですか?」
    「うん、あなた。良かったら少し話をしない、あそこの公園とかどう、かな?」
    「あいにく忙しいので、と言いたいところですが……あなたからは、何か不思議なものを感じます。俺の、一番大切な人と、よく似たなにかを」
    「うん、そうだね。」
    (あの場所さえ離せばきっと)

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 07:32:08

    公園のベンチで並んで座って、同じような会話を楽しんだ。
    「って、マズい。もうこんな時間だ。すみません、俺もう行きます。」
    チラっと腕時計を見た彼がまたそう言う。
     せっかく場所を移したのだ。
     また同じ経路を通られてはなんの意味もない。

    「じゃあ、私も着いていく。目的地のすぐ手前まででいい。どう?」
     だから、一緒に行動してあの場所さえ避ければ…
    「いや、篠澤さんか……でも、わかりました。本当に手前で解散しますよ。ほら早くたってください時間がおしているので。」

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 07:36:43

    このレスは削除されています

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 07:39:58

     そう急かされるがまま立ち上がると、緊張がとけていたのか膝から力が抜け、崩れ落ちる。
    「危ない!」
    プロデューサーが素早く滑り込み、広を受け止める。が、その時、今度は広の右手に引っ掛かりを覚え、プツリと音がした。

     恐る恐る目を見開く。その右手には、千切れたミサンガが引っかかっていた。
     息が詰まる、いやそんなはずは無い。ここは公園だ、こんな所まで車が入ってくるわけが無い。大丈夫、この2回は偶然だ、ミサンガなんて非科学的なものに因果関係があるわけがない。だから、

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 08:20:02

    頑張れ

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 08:24:50

    みてるぞ

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:20:56

    「うぐっ」
     突然、プロデューサーが呻き声をあげる。ハッとして顔を上げると、プロデューサーの背中に人影が見えた。

    「クソが!真昼間から!公園で!イチャつきやがって!俺なんか!俺なんかなぁ!」
     人影が、叫びながら両手をプロデューサーに振り下ろし、振り下ろされる度、プロデューサーのからだから力が抜けていくのがいやでもわかった。
     その両手の先はなにか光るものが持たれていた。そして、先程から聞こえる鈍い音、人影は刃物を持っていた。

     ヤケになり人影に体当たりすると、反撃されると思っていなかったのか、広でも体制を崩し転ばせることが出来た。

    同時に手放した刃物へと飛びつく。どこにでもあるような包丁だった。通り魔と言うやつなのだろうと今合点が行く。

    「な、なんだよ、武器を奪ったからっていい気になりやがって!覚えてやがれ!」
     獲物を失った通り魔は、その場からしっぽを巻いて逃げだした。慌てて広はプロデューサーへと駆け寄る。

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:23:27

    「プロデューサー!?プロデューサー!?」
     そう呼びかけるも返事どころかなんの反応もない。恐る恐る首筋に手をやる。治験を行うこともあった。脈の測り方はわかっている。だから、わかってしまった。

    「まただ………また、なんだね………」

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:24:28

    以下に、考察と対策のため、タイムトラベルの記録を残す。

    4回目

     立ち上がる時に躓かず、公園から一緒に歩くことに成功する。
     しかし、並行して歩いている際、車道側を歩くプロデューサーの手にあたり、ミサンガが千切れる。
     トラックからはみ出していた木材で頭部を強打し、死亡。
     以降車道近くを共に歩くのは危険なため避けるよう注意。


    6回目

     二人でカフェに入ることに成功。時間になっても無理を言って引き伸ばすことで脅威から遠ざけようとしたが、問答中にミサンガに手が当たり千切れる。
     隣の客がこぼしたドリンクの氷で足を滑らせ、机の角で頭部強打。頸椎骨折により死亡。
     タイムリミットを無理矢理伸ばすことは困難であるだろう。より強い理由を見つける等できるまでは、プロデューサーの次の予定を邪魔することは避けるよう。

  • 20二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:25:37

    10回目

     逆に次の予定に向かわせることにしてみる。行き先は初星学園であり、立ち話をしなければ、タイムリミットまでに到着することができるようだ。
     しかし、別れ際にまたしても呼び止められ、その際にミサンガが千切れる。
     初星学園の公用車が暴走。プロデューサーは引かれて死亡。
     次の予定とは過去の私とのレッスン、次回以降に行かせるかもしれない。


    57回目

     より過去に遡ってプロデューサーの行動を変えることを始めた。
     バスに乗って市外へ出ることを試みた。
     しかし、途中でバスが揺れた際、ミサンガに引っ掛かり、ミサンガが切れる。
     バスが信号無視した車に突っ込まれ、プロデューサーの乗っていた部分が潰される。私は衝撃で吹き飛ばされて怪我はなかったが、プロデューサーは死亡。
     この路線は危険と判断、以降避けるように。

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:26:42

    256回目

     そもそもプロデューサーに接触しないようにしてみたが、気づいたら後ろにいてぶつかった。
     その時にミサンガが切れた。
     そうしたら近くの工事現場から、鉄柱が降ってきてプロデューサーを貫いた。プロデューサーは死んだ。
     会わないとどこから来るか分からない。制御のために合わないという選択肢はないと思う。


    753回目
     地下鉄で逃げてみた。
     待ってる時に列の人に押されて、ミサンガを千切ってしまった。
     プロデューサーが線路に落ちて引かれた。

    1570回目
     またミサンガを千切った。
     プロデューサーが死んだ。

    2698回目
     千切った。
     死んだ。

  • 22二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:29:45

    3856回目
     ダメだった。
     誰もいない何も無い場所だった。プロデューサーは何も出来ないように縛った。ほんの些細なミスだった。ミサンガは千切ってしまった。
     今度は心臓発作だった。今までの死因は全て外的要因だった。病気など、ましてや心臓発作など防げるはずがない。
     どうして救えない、どうしてミサンガをちぎってしまう、どうしてどこからでも死因が現れてくる。どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!どうして!

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:30:52

     このトラベルをもって、篠澤広の心は完全に砕けた。いや、とうに砕けていて、惰性がついに消えただけかもしれない。
     だが、ずっと付きまとっていた疑惑、『過去は、多少の差はあれど同じ結果に収束する』それが、確信へと変わってしまったのだ。

    (ごめん、プロデューサー。私には、救えないみたい。
     趣味なんかに逃げずに、ずっと研究してたら、救えたのかな。
     でもそうしたら、会えないね。あぁ、でもそうしたら死ななくて済むのかな。もうわかんないね。)
     過去に残る訳にもいかないため、元の時代に戻るタイムマシンの中で、広は感傷に浸る。不思議と涙は出なかった。幾重にもトラベルを繰り返すうち、原動力であった悲しみも枯れ果ててしまっていた。

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:32:10

    なんか懐かしさを感じると思ったら、カゲロウデイズとか人生リセットボタンが頭をよぎるんだ

    頑張ってくれ広…

  • 25二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:34:22

    ちょっと前に見たスレを思い出すね。
    どう足掻いてもプロデューサーが死ぬから安価で未来を確定させていくやつ

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:35:28

    >>24

    まさにその通りで、脳内ずっとカゲロウデイズが流れてます。

    あとたまにAmadeus

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:40:34

    (戻ってきた。けど、プロデューサーもいない、研究も意味が無い。この世界になんの意味があるんだろうね。もう、終わりにしよう。)
     広は散らかった自室に入ると、棚の中から薬瓶をひとつ取り出す。いつぞや自暴自棄になって購入した安楽死用の毒薬。それを手に数粒取り出す。飲み込めば眠るようにこの生を終わらせることが出来るのだとか。
    「プロデューサー、今会いに行くね。」
    そう、机の上の写真立てに語りかける。

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 12:43:23

    その時、ふと隣に置いてあった、デジタル時計の日付が目に止まる。20YY年X月X日
    (そっか、今日ってプロデューサーの命日だったんだ。)
     今までは、広にとって重要なのは、プロデューサーが死んだ日のみであったために、命日やその日の日付などどうでも良いことだったのだ。しかし、それも学Pを生き返らせると決めていた時の話
    (最後くらい参っておかないと、向こうで怒られちゃう、ね。)
     こうして広は、日本へと舞い戻るのだった。

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 14:33:01

    このレスは削除されています

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:21:49

    「ふふ、水入バケツが重くて持てない。まあ、なしでいいか許してくれるよねそれくらい。」
     広はプロデューサーの墓のある寺へと辿り着いた。辿り着いたと言っても場所を知らなかった訳ではない。プロデューサーの一族の眠る墓の場所は、生前に聞いていた。ただ、空港から迎える体力がなかっただけである。
    最後の力を振り絞って墓地を進んだ先に、プロデューサーとその祖先の眠る墓石を見つけた。

    「あった、ここにプロデューサーがいるんだ、ね。
    プロデューサー、ごめんね一度も、顔見せなくて。
     タイムマシンで生き返らせればいいやって、思って、頑張ってみたけど、無理だった。
     もしかしたら、これが原因でプロデューサーが事故にあったかもしれないって言ったら、本当に捨てられちゃう、かな。
     それだけは嫌、だな。私、頑張ったから、褒めて、欲しい、な。
     ねぇ、私どうしたら、良かったのかな。
     でもね、今からそっちに行くよ。海を隔ててるより、ここで死んだ方が、なんだか会えそうな、気がするね。」
     それだ言い残して、広はポケットから錠剤を取り出した。

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:22:58

    「あ゙ー゙ー゙ー゙ー゙あ゙れ゙っ゙でびろ゙ぢゃ゙ん゙し゛ゃ゙な゙い゙!゙?゙」
     遠くから、耳をつんざくような大声が聞こえた。
    「は、花海さん!声が大きいですわー!」
     続いて別の負けず劣らず大きな声が。
     どちらの声も広にはとても懐かしい声だった。
    「佑芽と、千奈?」
    「わー!やっぱり広ちゃんだー!何年も会ってないけど、全然変わってないね!」
    「し、篠澤さん!ずぅぅぅっと会いたいと思っておりましたの!お待ちしておりましたわー!」
     それは、かつての旧友であり、ライバルの花海佑芽と倉本千奈であった。

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:24:26

    「ひ、久しぶり。なんで、ここにいるの」
    「えー、だって今日は広ちゃんのプロデューサーさんの命日でしょ!?だから、お墓に行けばあえると思って!」
    「実は、毎年来ていましたのよ。たまたま会えたのは今年が初めてでしたが。」
    「そ、そうなんだ。ごめん、私、今日初めて来た。だから、出会えなくて当然。」
    「そ、そうでしたの。篠澤さん、プロデューサー様が亡くなられてすぐ、退学なされて、足取りがつかめなくなっておりましたから、皆、心配していましたのよ。」
    「でも、元気そうって言うには元気ないけど、まあそれがいつもの広ちゃんだよね!」
    「ごめん、2人には悪いとは思ってたけど、でもどうしてもやりたい、やらなきゃならないことがあって…」
    「ご安心なさってくださいまし、皆さん篠澤さんが何もなしに、あのようなことをする方ではないとわかっていますわ。」
    「きっと、私たちに言えないなんかすっごいことしてたんだよね。でも、友達なんだから、頼って欲しくはあったかな!」
    「本当に、ごめん。でも、これは私が自分の手でやりたいことだったから。」
    「わかりましたわ。そこまで言うのでしたら、これ以上私たちは何も聞きません。ですので、これから一緒にお食事に行きましょう。」
    「広ちゃんを連れていきたいところもあるしね!あ、もちろんプロデューサーさんにお参りしてからだよ!」
    (プロデューサー、最後にちょっとくらいいい、よね?)
    心の中で呟いて、握りしてた錠剤を再びポケットへと押し込んだ

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:25:33

    昼食は、倉本邸で行われ、広は久々にまともな食事を口にした。食事中の会話は、広を気遣ってか2人の近況報告や、初星学園当時の話が多かった。広には、それがありがたく、暖かかった。
     そうして今、食事を終え、言われるがまま連れていかれている最中である。
    「それで、連れていきたい場所って?」
    「ふっふーん、それは着いてからのお楽しみだよ」
    「でもきっと、篠澤さんにとって悪い場所ではないと思いますわ。」
    その後もはぐらかされ、やっと車が停止した場所は、初星学園、プロデューサー寮。
    「千奈、もしかして…」
    「ええ、そのまさかですわ。」
    誘導された先、その部屋番号に広は見覚えがあった。むしろ見覚えしか無かった。だってそこは、プロデューサー寮で篠澤広が唯一住人を知っていた部屋
    「プロデューサーの、部屋……」
    「千奈ちゃんがね、広ちゃんあんなにプロデューサーさんのこと好きだったのに、広ちゃんが何も知らないまま全部捨てられちゃうのは可哀想だって、私たちで、学園長に頼んでこの一部屋は、次の人が入らないように交渉したんだ。」
    「中は、定期的にメイドたちに掃除させていますが、ほぼ、プロデューサー様が亡くなられた当時のものですわ。私たちは外で待っていますから、お好きになさってください。それでは。」
    そう言い残して、千奈と佑芽は寮の外へと姿を消した。

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:26:50

     広はプロデューサーの部屋の前で立ちすくんでいた。
     この先に待つのは、かつてはあれほど焦がれたプロデューサーの自室。
     だが、今は、扉を開けるために手を伸ばしたいのに、鉛のように腕が動かない。
    (怖い、ね。これを開けると、ほんとにプロデューサーが死んじゃったんだって、分からせられる気がする。
     何度も何度も見てるのに、やっぱり怖い。まだ、プロデューサーの死を受け止めきれてない私がいるんだね。
     でも、千奈や佑芽の気持ちも無駄にしたくないし、何より、私自身受け入れなきゃ、死んでも会えるわけないか。)
     すぅ、と小さく息を吸い、意を決して扉に手をかける。
     扉はその重厚な見た目と広の決心に対し、いとも簡単に広を迎え入れた。

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:27:53

    「プロデューサーの部屋、何も変わってない、ね。」
     いつぞやに無理やり入った時の記憶と照らし合わせる。
     一部参考書や資料などが増えている気もするが、そのほかで変わったような場所は見つけられない。
     いつ見ても味気ない部屋だ。
    (もう少し、私色に染めるつもりだったのになぁ)
     そんな後悔をしながら、部屋を散策する。

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:28:54

    作業机の本棚の見えるところに、レポートが置いてあった。
    レポートのアイドルは篠澤広、つまり自分についてのレポートだ。
    (プロデューサー、私の事、どう書いてあったんだろう。)
    そんな好奇心から、レポートをめくる。
    (ふふ、私の能力、低すぎる
     なぜプロデュースを引き受けてしまったのかって、プロデューサーが私にひとめぼれしたのに。レポートでも素直じゃない。
     わ、この時から昔のこと使わないつもりだったんだ、プロデューサー私のことわかってる。
     うん、この時のライブ、凄かった)
     そんな風に、レポートを読み返しながら思い出を振り返る。
    (やっぱり、もっとアイドルやってたかったなぁ。プロデューサーの夢、一緒に叶えたかった……)
    「プロデューサー………」
     視界が歪む、これは泣いているのだと、すぐには気づけなかった。涙などとうに枯れて泣くことなど忘れたものだと思っていた。
    (悔しいな、私まだ泣けるんだ。プロデューサーのこと、やっぱり諦められないや。)

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:30:44

    その後いくらか探索したあと、広は寮を後にした。
     寮の前に停められた車の中で眠っている千奈に声をかける。
    「千奈、ただいま。」
    「し、篠澤さん!?失礼いたしました。つい陽射しが暖かくて。もう、大丈夫ですの?」
    「うん、もう大丈夫。ありがとう千奈。」
    「いえ、友達のためですもの。それと、よろしければこちらを。辛いものになるのはわかっているのですが…」
     千奈が取りだしたのは3色のミサンガ
    「これ……」
    「はい、篠澤さんが、プロデューサー様にプレゼントしたミサンガですわ。当時着ていた服などは、ご両親の元に行くことになったのですが、こちらだけは、篠澤さんにと思い、無茶を聞いてもらいましたの。」
    「そう、なんだ。何から何まで、ありがとうね千奈。」
    「何度も申し上げますが、友達のため当然ですわ。」
    「…は!もちろん私も友達だから何でもするよ広ちゃん!」
    唐突に目覚めた佑芽も続ける。
    「うん、2人ともありがとう。今日は2人のおかげでやるべきことが見えた気がする。ありがとう。じゃあ、私海外のラボにやることできたからもう行くね」
    「ええ、篠澤さんまた、お会いしましょう」
    「広ちゃんまたねー!」
    「さよなら、千奈、佑芽」

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:32:09

    広は再びタイムマシンへと乗り込んでいた。もちろん目指す日付は20XX年XX月XX日
    (プロデューサーを救うために、試せることがまだひとつ残ってた。
     もし、あの日に決まっている運命がプロデューサーが死ぬのではなく、あくまで誰か一人が死ぬということになっているなら。
     だとするなら、私がプロデューサーの身代わりにして、プロデューサーが生きてる世界にすることができる。
     ずっとプロデューサーが、生きてさえいればいいと思ってた。
     でも違う、私はプロデューサーとアイドルとしてプロデューサーの夢を一緒に叶えたい。
    そのためなら、今の私はいなくてもいい。悔しいけど、その役目はきっと過去の私が果たしてくれる。だから………)
    だから、覚悟を決めて、タイムマシンを作動させる。
    機械がうねり声を上げ視界がが光に……

    ビービービー

    唐突にブザーが鳴り響く。
    「な、システムエラー!?なんでこんな時に。まさか、大量のトラベルの後に年単位で飛んだからその時にどこかに不具合が……まずい、止まらな……」
    広の言葉をさえぎって、タイムマシンは強行でトラベルを敢行するのだった。

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:34:16

    次に目を覚ました時、そこはベッドの上だった。
    「どこだっけここ、すごく見覚えが……」
    「俺の部屋ですよ、篠澤さん」
    横から声がする。
    「なるほど、私は常連だったもんねって、プロデューサー……!?」
     広は目を見開いた。理由も何も今話しかけられたのは、救うためにずっと奔走してきたプロデューサーその人であり、自分が篠澤であると認識されているのである。
     バッと自分の体を確認してもエラーの代償で縮んでいたりする様子もない。少し成長した姿のままだ。
    「どうしてわかったのかって顔ですね。ということはやはり篠澤さんなんですね。あなたも。」
    「どういう、こと。」
    「それを聞きたいのは俺の方です。歩いていたら目の前に妙な機会が突然落ちてき来て、中にあなたがいたんですよ。
    最初は、何となく雰囲気の似た人くらいの気持ちでしたが、これを見て確信しました。」
     そう言う彼の手には、3色のミサンガが握られていた。
    「あなたの手に握られてました。1度結んで千切れてはいますが、俺はこのミサンガをよく知っています。」
     そう言って左手を掲げ、その手首のマーキング見せびらかす。
    「これは確かに、今日俺が篠澤さんから貰ったものです。見間違えるわけが無い。ですから、信じられないことですが、あなたも篠澤さん、なんですね?」

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:35:18

    「同じようなミサンガってだけなのに、すごい自信。さすがプロデューサー、私のこと大好き。」
    「やはり、そうでしたか。篠澤さん、あなたには本当に驚かされる。で、あなたはどういう存在なんですか?」
    「私は、未来から来た篠澤広。変な機械、あれはタイムマシン。私が発明してこの時代にタイムトラベルしてきた。」
    「信じられないですが、あなたならできるのでしょうね。どうしてこの時間に。」
    「私より年下のプロデューサーに会いに来た。日付が今日なのはたまたま。良かったら広お姉さんって呼んでもいい、よ?」
    「呼びません!はぁ、ありえなくもないとは思っていたとはいえ、タイムマシン…ですか。あなたを回収した後、一応回収して、普段使われていない倉庫に隠しておきましたが、」
    「うん、さすがプロデューサー」
    「はぁ、満足したら帰ってくださいね。未来人間なんて、面倒事の種でしかない。」
    「うん、わかってる。そんなに長くはいないつもりだよ。」

  • 41二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:36:23

    「それと、これはお返しします。手、出してください。」
     言われるがままに左手を差し出すと、学Pが近づいてきて、先程まで手を持っていたミサンガを手首に結んだ。
    「一度千切れたミサンガのようなので、縁起はないとは思いますが、あなたの場合落としたりしそうですからね、付けていてください。」
    「ふふ、自分とお揃いにしたいなんて、プロデューサーも可愛いところある…ね。」
    「違います、無くさないためです。」
    「だったら右手でも良かった。」
    「それは…篠澤さんが差し出したので」
    「だから、広お姉さんって」
    「呼びません!」
     
     懐かしい雰囲気、ここに来た目的なんて忘れて、ずっとこのまま二人でいれたらいいのに、とさえ願ってしまうほどであった。
     しかし、それが叶わないことは、もう既に思い知らされている。
     (最後を覚悟してきたのに、この展開は、本当に世の中はままならない)

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:37:53

    このレスは削除されています

  • 43二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:39:37

    「プロデューサー、タイムマシンの状態がみたい。」
    「あなた、今自分の立場わかってますか?」
    「大丈夫、プロデューサーが想像してるようなことは、このくらいじゃ起こらない。」
    「ですが…」
    「むしろ今の状況の方が問題。未来の篠澤広とはいえ、担当アイドル以外の女性を部屋に連れ込んでる。これがバレる方が一大事。」
    「くっ、それは……確かに……」
    「じゃあ、直ぐに向かおう。場合によってパーツを買わなくちゃいけない。」 
    「はぁ、そうですねわかりました。行きましょうか。」

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:41:32

    他愛のない会話をしながら、タイムマシンの隠し場所を教えてもらう。軽く動作確認をするが、不具合を出しながらのトラベルと、不時着の影響で完全に壊れていた。この時代での修復は不可能だろう。
    「どうですか、篠澤さん。」
    「うん、今は少し壊れてるけど、この時代の部品で直せる。帰ろうと思えばいつでも帰れる…よ。じゃあ、その部品を探すためにも、買い物に行こう。」
    「だからあなたが出歩くのは」
    「大丈夫、そこまで貴重なものじゃないし、アテはついてるついてきて欲しい。」
    「はぁ、わかりました」
     タイムマシンはもう使えない。つまり今までのようにミスをしても、やり直せない。今回は一発勝負だ。だから、絶対に、確実に、プロデューサーの代わりになって死ななければならない。
    「こっちの方だよ。」
     私が目指す場所は、最も多くのパターンを試した場所、最初の道へ歩みを進めた。

  • 45二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:42:34

    ああ、あの場所があの時間が近づくのを感じる。こっちに来る前に覚悟は決めてきたのにな。ずるいよ、『アイドル、篠澤広のプロデューサー』は、過去の自分に譲ったつもりだったのに。
     ね、もう少し話そうよ。もう少しだけ。
     だからといって、時間が短くなることはない。時は残酷なまでに平等だ。
    「って、マズい。もうこんな時間だ。すみません、俺もう行かなきゃ行けない場所が」
     うん、そうだね。プロデューサーがそう言う。そして、
    「仕方ない、よ。私は1人でも大丈夫だから、今の私をよろしく、ね?」
    私が引き止めず、踵を返す。
    「ちょっと、待ってください」
    するとなにか伝えたいことがあるのか、彼は引き留めようとする。

    そして、トラックが突っ込んでくる……

  • 46二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:43:51

    やることは至って簡単だ。私が変わりになるだけ。火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、全力をもって振り返ってプロデューサーを突き飛ばすと、プロデューサーの体は、トラックの前から吹き飛んだ。
     対して私の体はトラックの進行方向目の前。
     あぁ、やった。やっぱり、この仮説は間違いじゃなかった。これでプロデューサーは生き残る。
    (プロデューサー、ずっと、『私』の隣にいてね。)
     ミサンガにそう、願いを込めて。そっと目を瞑った。

  • 47二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:46:24

    (トラックがゆっくりと迫ってくるのがわかる。痛いのかな、それとも何も感じないのかな。でもやっぱり死ぬのは怖いな。)
     が、何かに手を包まれた感触に、またすぐ目を開くことになる。
     目線の先、突き飛ばすために伸ばした私の手がプロデューサーに掴まれていた。
    (まさか、助けようとしてる?無理だよ。今日この日この時間この場所で、誰がが死ぬ運命。だから私はここで……)
     違和感に気づく、動く方向がおかしい。普通に助けようとするならば、この体は、まっすぐと、プロデューサーの方に引き寄せられていくはずだ。
    だが、今私はどちらに動こうとしている?少しずつ少しずつ、繋いだ手を軸に回転が始まろうとしている。
    (待って!プロデューサー!それじゃ、意味が無い!私は、死んでもいい、どうなってもいいから、それだけは!)
     そう願うも広の軽い体はあっという間に半回転し、プロデューサーと広の位置関係が入れ替わった

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:47:25

    また、変わらなかった。
     彼の体に、スローモーションのように車が近づく、ゆっくり、ゆっくり。
     彼が手を離した、私の握力では掴んでいることが出来なかった。
     離した彼の指先がなにかに引っかかる。それは、私の倒れる勢いに引っ張られるようにプツリと切れた。
     クラクションの音が響く。
     誰かが悲鳴をあげた。
     何かに強い衝撃が加わって潰れるような音が聞こえた。

     私はそのまま倒れ込んで、手の甲にはらりと落ちた、私の手首にあった千切れたミサンガをみて、立ち上がることが出来なかった。
     もう、やり直すことは出来ない。ここで死ぬべきは私だったのに。
    今度こそ、彼を私は────。

  • 49二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:55:12

    「ごめんなさい、ごめんなさいぷろでゅーさー、私がかわりに、代わりに死ぬつもりだったのに…」
    「すみません…勝手に殺さないで貰えますか?」
    聞こえた声にハッと顔を上げる
    「アイドルを守るのもプロデューサの役目です…それを代わりになんて絶対言わないでください。」
    「プロデューサ!!な、なんで、なんで生きて…」
    「なんでって、死んだ方が良かったですか?」
    「そうじゃ、ない…けど」
    「大丈夫、わかってますよ。ただ、このままだと本当に死にそうなんで、救急車、読んで貰ってもいいですか?ポケット懐にスマホが入ってます。」
    「あ、えと、なん、なんていえば…」
    「わかりました、だったら電話だけ繋げて頭の近くに置いてください。俺が話しますんで。体は痛くて動きませんが、意識はちゃんとしていますから。」

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:56:50

    ガラリ、と音を立てて扉を開いた。
    「来ましたか、篠澤さん。」
    ベットの上で横たわるプロデューサーが呼びかけてくる。
    「怪我はどう…だった?」
    「色んなところの骨が折れてるみたいで、寝たきりから戻るのに2、3ヶ月、そこからリハビリも挟むそうです。」
    「その、ごめんなさい。私のせいで」
    「あれはただの事故です。篠澤さんが気に病むことではありません。と言いたいのですが、そうでも無いのでしょう?あなたさえ良ければ話して貰えませんか?」
    たどたどしくも、広は話し始める。これまで自ら辿ってきた足取りを、後悔を、懺悔を。
    「辛い道のりでしたね、なんて在り来りな言葉しか、俺には言うことができません。ですが、これだけは言わないといけないということは分かります。お疲れ様でした。そして、ありがとう。」

  • 51二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:57:57

    「ッッッ……プロデューサー、私できたの?プロデューサーを助けられたの?……」
    「ははは、今更でしょう。さっきからずっと話してるんですから。」
    「でも、でも、何故かやっと、助けられたんだって。」
    「でしたらほら」
    プロデューサーが左手を差し出す。
     幸い怪我が少なく、包帯もあまり巻かれていない部分だ。
     差し出された手を、広はゆっくりと両手で包む。
    「うん、プロデューサーの温もりがする。本当に生きてる。ごめん、プロデューサー…あのね、」
    「いいですよ、そこまでデリカシーのないつもりではありませんので。」
     その言葉を皮切りに、広はわっと泣き出した。この感情は、言葉で表せるようなものではなかった。
     ただ、目の前に映るその姿が、聞こえるその声が、鼻腔をくすぐる香りが、肌を伝わる温もりが、その全てがこの感情を掻き立てるのだけは確かだった。

  • 52二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 15:58:57

    「落ち着きましたか?」
    「うん、ごめんね。恥ずかしいとこ見られちゃった。お嫁に行けない、ね。」
    「今更でしょう。あなたの醜態など。」
    「酷い、女の子が気にしてるのに。イタッ」
    唐突にプロデューサーがデコピンをする
    「いきなりデコピンなんて、プロデューサーもわかってきたね。」
    「違いますよ、そういうのではありません。
     助けて貰って言える義理ではありませんが、最後の、自分を犠牲にするのだけは、それだけは許せません。
     だからお仕置です。
     そんなこと、いえ考えることすら、二度としないでください。
     あなたを犠牲にして生きるなんて、俺には耐えられませんから…」
    「やっぱり、プロデューサーは私のこと大好きだね」
    「そうですよ、忘れないでくださいね。」
    「えぇ⋯⋯ぇえぇ⋯⋯ぇ⋯⋯⋯⋯っ」
    「なんですか?いつも自分で言っていることでしょう?」
    「き、今日のプロデューサーはやけに素直。いつもなら『は?俺が、あなたを?冗談でしょう』って言うところなのに」
    「その程度では、あなたは自分が犠牲になってもいいと思ってしまうようですので、少しは素直に伝えようと思いまして。」
    「うぅ、もうしないから控えて欲しい。心臓に悪い。」
    「まあ、少しは努力します。」
    「むぅ……」

  • 53二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:00:00

    「そーいえば、未来へどうやって帰るんですか?タイムマシン、壊れて直せないんでしょう?このままだとこの時代に篠澤さんが二人いることになりますが。」
    「うん、それなんだけどね、多分大丈夫だと思う。プロデューサーが生きてるから、私が過去に行く理由がなくなって、そもそも私が来ないようになるから、居なくなる…はずだよ。」
    「はずって、でも実際、あなたは居なくならずにここに居るじゃないですか。」
    「そうなんだけどね、なんだかそんな確信がある。それも、もう少ししか無さそう。」
    「なっ、だからそういうことは早く」
    「ごめん、ね。でも、今そう感じたの。」
    「はぁ〜、わかりました。ですが、居なくなるというのは、あなたは消えてしまうのですか?結局俺の代わりという形で。」
    「違う、と思う。私はただ、元いた場所に戻るだけ。だから、きっとまた会える、よ。プロデューサーが私を見捨てるなら、また別だけど。」
    「するはずがないでしょう。まだ足りませんでしたか。」
    「ううん、ただ、これから来る『私』にイタズラしたいだけ。だからこの答えは『私』ね。」
    「全く、あなたという人は、成長しても変わらないのですね。」
    「ふふふ、そうだよ。じゃあね、また未来でプロデ…「プロデューサー!」

  • 54二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:01:10

    篠澤広の言葉を遮って、プロデューサーの名前を叫びながらドアを開けたのは、彼の担当アイドル『篠澤広』であった。
    「おや、篠澤さんよく倒れずに来れましたね。」
    「今は…冗談言ってる場合じゃない。プロデューサー、轢かれたって聞いて、私…私…」
    「ほらこの通り生きてますから、落ち着いてください。」
    「う、うん。プロデューサー、無事で良かった、よ。」
    「ええ、俺も篠澤さんに体力が少しはついたようで嬉しいです。」
    「だから、冗談は⋯⋯あれ?いるのプロデューサーだけ?入口で話し声がした、よ?…」
    「いえ、『篠澤さん』以外来ていませんよこの部屋には。聞き間違いでしょう」
    「納得いかないけど、他に人は居なさそうだし、そうなのかな。」

  • 55二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:02:24

    「あれ?プロデューサー、ミサンガどうしたの左手に付いてない。」
    「あれ、事故の時に千切れたんですかね。」
    「あ、ベッドの下に落ちてる。ってことは、ここに来てから自然に切れたんだね。まさか1日で自然に切れるなんて。ミサンガ、ままならないね。」
    「ミサンガで喜ばないでください。それにちぎれた方が縁起が良いものでしょうこれは。」
    「そうだったね。プロデューサー、『ずっとあなたの隣にいられますように』だっけ、かきっと叶うね。」
    「そうですね、たしかにずっと『篠澤さん』の隣だ。ハハハ」
    「?何かおかしいこと言った?もしかしてもうすぐ捨てられるのにこの女は、とか思ってる?」
    「いいえ、俺は絶対にあなたを捨てません、俺はあなたと一緒に最後まで、趣味を生きると決めましたから。」
    「き、今日のプロデューサー……グイグイくる、ね?」
    「イタズラですよ」
    「じゃあやっぱり私捨てられる?」
    「それは断じて違います。イタズラでも絶対にあなたを悲しませるようなことはしません。」
    「〜〜~////やっぱり今日のプロデューサー、何か変。なにか後遺症が残ってる。検査した方がいい。」
    「そんなことはありません、体以外は至って健常ですよ。」
    「か、からかうなら帰っちゃう、よ?」
    「そうなったら、ミサンガのお願いが叶わないことになってしまいますね。ずっと隣にいてくれるんでしょう?」
    「ッ~~~き、今日は帰る!ミサンガのは明日からだ、よ!」
    そそくさと広は病室を後にする。
    「ハハ、ちょっとイタズラがすぎたかな。」

  • 56二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:03:32

    ちょっとオマケ

    ゆっくりと瞼を開ける。隙間から入る光が眩しい。ここは一体どこだろう。段々と光が馴染んできて輪郭がはっきりとしてくる。
     目の前には、見たことの無い部屋が拡がっていた。
    「どこだろう、ここ」
    (確かプロデューサーの病室で別れを告げて、それで⋯)
    「広、やっと起きたか」
    ぼーっと考えていると後ろから声が呼ばれる。
    振り向いて顔を見てみると、見たことある、それでいて少し渋みをました顔があった。
    「もしかして、プロデューサー…であってる?」
    「おいおい、ボケるのはまだ早いぞ。ほら、早くしないと遅れるから、着替えてご飯っておっと」
    「プロデューサー、プロデューサーだぁ…」
    「どうしたんだよいきなり抱きついて。」
    「ちょっとね、怖い夢を見てたみたい。だから、少しだけこうさせて」
    「全く、今更だろ?遠慮せず好きなだけ抱きついていいぞ。」

  • 57二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:09:47

    あとがき
    なんか、もっとコンパクトにまとめるつもりだったのに、冗長になってしまった。読みにくかったら本当にすみません。
    話の大まかな流れとしては、ミサンガが切れる、事故が起こる、この事象に終結した上で、学Pの死という結果を変えるにはどうするか、と考えた時に、ミサンガが切れたことによる反転で学Pが死ぬ未来になってきさいるので、ミサンガは切れてしまうけど、それは未来で1度切れたミサンガで、効力はないものだったとすることで、ゴリ押しで学Pを生かした形になります。
    もっと解説とか上手いこと入れたかったんだけど、本当に駄文でね。上手いこと入れられなかったんです。
    晴らしたいとか言っときながらほとんど曇らせに使ってるしね。
    お付き合いいただきありがとうございました。

  • 58二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:13:11

    あーー。確定していた運命は「誰か死ぬ」ではなく「ミサンガが切れる」だったのか。
    だから未来広ではなく、意味のないミサンガを身代わりにするのが最適解だったと。

    お疲れ様でした。広さんが幸せになれて良かった!!

  • 59二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:16:30

    >>58

    ですです、元スレの方に、ミサンガが自然じゃない切れかたすると、願いとは反対のことが怒っちゃうと書いてあったので、学Pの死を勝手にミサンガのせいにさせていただいて、って感じですね

  • 60二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:27:08

    このレスは削除されています

  • 61二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 16:28:19

    元スレの1です。
    一言だけいいですか……。

    ありがとうございます涙。

    なんか昨日今日謎に肩身狭かった僕の心まで晴れました。


    ありがとうございます涙。

  • 62二次元好きの匿名さん25/06/27(金) 17:24:44

    >>61

    なんか、肩身狭くさせてしまってすみません

    ホンマにええ舞台設定で、勝手に広げてしまって

    気に入って貰えたみたいで良かったです。

スレッドは6/28 03:24頃に落ちます

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